(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基板と、該透明基板の少なくとも一方の主面側に設けられた1以上の赤外線吸収層と、前記透明基板の少なくとも一方の主面側に設けられた1以上の近赤外線吸収層とを有し、
前記赤外線吸収層は、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を1〜10モル%含むポリエステル樹脂を含む透明樹脂中にジイモニウム系化合物からなる有機色素を含む層であり、
前記透明基板と前記1以上の赤外線吸収層との積層体について測定される波長1200nmにおける透過率が10%以下で、波長400〜630nmにおける透過率が50%以上であり、
前記近赤外線吸収層は、波長680〜730nmに極大吸収ピークを有する近赤外線吸収色素を含むことを特徴とする赤外線遮蔽フィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。説明には図面を用いるが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に何ら限定されない。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、厚みの比率等は実際のものとは異なることに留意されたい。さらに、以下の説明において、同一もしくは略同一の機能および構成を有する構成用途については、同一符号を付し、重複する説明は省略する。
本明細書において、特に他に明示がなければ、「赤外波長域(もしくは赤外領域)の光」は波長800nm以上の光をいい、「近赤外波長域(もしくは近赤外領域)の光」は波長670nm以上800nm未満の光をいい、「可視波長域(もしくは可視領域)の光」は波長300nm以上670nm未満の光をいう。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の赤外線遮蔽フィルタ(以下、本フィルタという)100は、透明基板10と、透明基板10の少なくとも一方の主面側に形成された赤外線吸収層20とを具える。赤外線吸収層20は、透明基板10の一方の主面側に形成されていれば、透明基板10と接してもよく、透明基板10と赤外線吸収層20との間に他の層を有してもよい。他の層としては、後述するとおり、誘電体多層膜等のような光学的機能を有する層が挙げられる。
【0014】
本フィルタにおいて、透明基板と赤外線吸収層とを積層して得られる積層体の、波長1200nmにおける透過率は10%以下である。赤外線遮蔽フィルタに含まれる透明基板と赤外線吸収層との積層体の分光特性が上記特性を有すれば、赤外線遮蔽フィルタ全体として十分な赤外線遮蔽能を達成できる。これにより、固体撮像素子の分光感度を人の視感度に補正できる。なお、本フィルタにおいて、透明基板と赤外線吸収層とが隣接していない場合には、透明基板と赤外線吸収層をそれぞれ取り出し、積層して得られる積層体の分光特性を評価する。透過率は、実施例に記載の測定方法で行った値をいう。
【0015】
[透明基板]
透明基板は、可視域における光透過率が高ければ、特に限定されない。透明基板としては、樹脂基板やガラス基板が挙げられる。樹脂基板の樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。ガラス基板としては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、銅を含有する燐酸塩ガラス、および銅を含有する弗燐酸塩ガラスが挙げられる(以下、本明細書において、銅を含有する燐酸塩ガラスと銅を含有する弗燐酸塩ガラスを合わせて銅含有ガラスと略す。)。「燐酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO
2から構成される珪燐酸塩ガラスも含まれるものとする。
【0016】
透明基板の形状は、特に限定されず、透明基板の厚さ方向の断面が、矩形、正方形、および一部が曲線を有する形状等が挙げられる。断面が、矩形および正方形の形状の例としては、カメラの窓材の透明基板等が挙げられる。断面が、一部が曲線を有する形状の例としては、凸レンズや凹レンズ等の球面および非球面レンズ等が挙げられる。
【0017】
透明基板10は、赤外線遮蔽層の加工性の観点および可視域の透過率に優れるため、ガラス基板が好ましい。ガラス基板の中でも、銅含有ガラスが好ましい。銅含有ガラスは、可視光に対し高い透過率を有し、近赤外領域と赤外領域における透過率が低い。そのため、ガラス基板自体も赤外線遮蔽効果を有しており、赤外線遮蔽フィルタにおいては、赤外線遮蔽効果が向上するため好ましい。
【0018】
銅含有ガラスとしては、例えば、以下の組成のものが挙げられる。
【0019】
(1)質量%で、P
2O
5 46〜70%、AlF
3 0.2〜20%、ΣRF(R=Li、Na、K)0〜25%、ΣR’F
2(R’=Mg、Ca、Sr、Ba、Pb) 1〜50%からなり、F 0.5〜32%、O 26〜54%を含む基礎ガラス100質量部に対し、外掛け表示でCuO:0.5〜7質量部を含むガラス。
【0020】
(2)質量%で、P
2O
5 25〜60%、Al
2O
3 1〜13%、MgO 1〜10%、CaO 1〜16%、BaO 1〜26%、SrO 0〜16%、ZnO 0〜16%、Li
2O 0〜13%、Na
2O 0〜10%、K
2O 0〜11%、CuO 1〜7%、ΣRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba) 15〜40%、ΣR’
2O(R’=Li、Na、K) 3〜18%(ただし、39%モル量までのO
2−イオンがFで置換されている)からなるガラス。
【0021】
(3)質量%で、P
2O
5 5〜45%、AlF
3 1〜35%、ΣRF(R=Li、Na、K) 0〜40%、ΣR’F
2(R’=Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 10〜75%、R”F
m(R”=La、Y、Cd、Si、B、Zr、Ta、mはR”の原子価に相当する数) 0〜15%(ただし、弗化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)、およびCuO 0.2〜15%を含むガラス。
【0022】
(4)カチオン%で、P
5+ 11〜43%、Al
3+ 1〜29%、ΣRカチオン(R=Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 14〜50%、ΣR’カチオン(R’=Li、Na、K) 0〜43%、ΣR”カチオン(R”=La、Y、Gd、Si、B、Zr、Ta) 0〜8%、およびCu
2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオン%でF
− 17〜80%含有するガラス。
【0023】
(5)カチオン%で、P
5+ 23〜41%、Al
3+ 4〜16%、Li
+ 11〜40%、Na
+ 3〜13%、ΣRカチオン(R=Mg、Ca、Sr、Ba、Zn) 12〜53%、およびCu
2+ 2.6〜4.7%を含み、さらにアニオン%でF
− 25〜48%、およびO
2− 52〜75%を含むガラス。
【0024】
(6)質量%で、P
2O
5 70〜85%、Al
2O
3 8〜17%、B
2O
3 1〜10%、Li
2O 0〜3%、Na
2O 0〜5%、K
2O 0〜5%、ただし、ΣR
2O(R=Li、Na、K) 0.1〜5%、SiO
2 0〜3%からなる基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuOを0.1〜5質量部含むガラス。
【0025】
上記した銅含有ガラスの市販品を例示すると、NF−50(AGCテクノグラス(株)製 商品名)、BG−60、BG−61(以上、ショット社製 商品名)、CD5000(HOYA(株)製 商品名)等が挙げられる。
【0026】
また、上記した銅含有ガラスに、所定の金属酸化物、例えば、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3、CeO
2、Sb
2O
3、V
2O
5等の1種または2種以上を含有させることによって、紫外線吸収特性を付与したガラスも使用できる。具体的には、上記銅含有ガラス100質量部に対して、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3およびCeO
2からなる群から選択される少なくとも1種を、Fe
2O
3 0.6〜5質量部、MoO
3 0.5〜5質量部、WO
3 1〜6質量部、CeO
2 2.5〜6質量部、またはFe
2O
3とSb
2O
3の2種をFe
2O
3 0.6〜5質量部+Sb
2O
3 0.1〜5質量部、もしくはV
2O
5とCeO
2の2種をV
2O
5 0.01〜0.5質量部+CeO
2 1〜6質量部を含有させたものが使用される。
【0027】
[赤外線吸収層]
赤外線吸収層は、赤外線吸収化合物を含有する層である。透明基板と赤外線吸収層からなる積層体は、1200nm以上の透過率を低減でき、この積層体を有する赤外線遮蔽フィルタは、優れた赤外線遮蔽効果を発揮できる。
赤外線吸収層としては、樹脂中に赤外線吸収化合物が分散されている態様(以下、態様1という)、赤外線吸収化合物からなる態様(以下、態様2という)等の態様が挙げられる。なお、赤外線吸収層は、態様1または態様2のいずれかの単層でもよく、態様1および態様2の複層でもよい。
【0028】
本フィルタは、固体撮像素子の可視域の感度を高めるため、波長400〜630nmの範囲の光の平均透過率は、50%以上が好ましい。
本フィルタは、近赤外領域の光を遮蔽し、固体撮像素子の分光感度を高めるため、波長750nmの光の透過率は、80%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
本フィルタは、赤外領域の光を遮蔽し、固体撮像素子の分光感度を高めるため、波長1000nm光の透過率は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
本フィルタは、赤外領域の光を遮蔽し、固体撮像素子の分光感度を高めるため、波長1200nm光の透過率は、10%以下であり、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
このような分光特性を有することで、赤外線遮蔽フィルタとして好適に使用できる。
【0029】
(赤外線吸収化合物)
赤外線吸収化合物としては、赤外領域の光、特に、少なくとも波長1200nmの光を吸収する化合物で、有機色素および無機粒子が挙げられる。赤外線吸収化合物は、有機色素および無機粒子から選ばれる1種を単独でまたは2種以上を混合して使用できる。2種以上を使用する場合、無機粒子および有機色素を併用してもよく、無機粒子または有機色素の中で異なる2種以上を使用してもよい。
【0030】
有機色素としては、ジイモニウム系化合物、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジチオレン金属錯体系化合物、メルカプトフェノール金属錯体系化合物、メルカプトナフトール金属錯体系化合物、アゾ系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、ピリリウム系化合物、チオピリリウム系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、テトラデヒドオコリン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、アミニウム系化合物等の色素が挙げられる。
【0031】
有機色素は、可視光に対して高い透過性を示す点で好ましい。さらに、有機色素は、波長800〜1300nm、好ましくは900〜1250nmに極大吸収ピークを有するものが好ましい。このような有機系色素としては、ジイモニウム系化合物、スクアリリウム系化合物、ジチオレン金属錯体系化合物、メルカプトフェノール金属錯体系化合物、メルカプトナフトール金属錯体系化合物、アミニウム系化合物、等が挙げられる。これらの中でも、ジイモニウム系化合物は、可視光に対する透過率が高く、耐候性等にも優れることからより好ましい。したがって、本発明においては、ジイモニウム系化合物、スクアリリウム系化合物、ジチオレン金属錯体系化合物、メルカプトフェノール金属錯体系化合物、メルカプトナフトール金属錯体系化合物、アミニウム系化合物の少なくとも1種を含有することが好ましく、ジイモニウム系化合物を含有することがより好ましい。
【0032】
ジイモニウム系化合物の好ましい例としては、例えば、下記一般式[1]で表される塩化合物が挙げられる。
【化1】
【0033】
式[1]中、X
−は陰イオンを表し、例えば、Cl
−、Br
−、I
−、F
−、ClO
4−、BF
4−、PF
6−、SbF
6−、CF
3SO
3−、CH
3C
6H
4SO
3−、(R
fSO
2)
2N
−、(R
fSO
2)
3C
−等を挙げられる。これらのなかでも、(R
fSO
2)
2N
−、(R
fSO
2)
3C
−が好ましく、(R
fSO
2)
2N
−がより好ましい。
【0034】
ここで、R
fは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基であり、炭素数1〜2のフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数1のフルオロアルキル基であることがより好ましい。炭素数が上記範囲内であると、耐熱性、耐湿性等の耐久性、および後述する有機溶媒への溶解性が良好である。このようなR
fとしては、例えば、−CF
3、−C
2F
5、−C
3F
7、−C
4F
9等のパーフルオロアルキル基、−C
2F
4H、−C
3F
6H、−C
2F
8H等が挙げられる。
【0035】
耐湿性の観点からは、上記フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であることが好ましく、トリフルオロメチル基であることがより好ましい。
【0036】
式[1]中、R
1〜R
8は、水素原子、アルキル基、アリ−ル基、アルケニル基、またはアルキニル基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。また、R
9〜R
12は、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、またはアルコキシ基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0037】
R
1〜R
8の具体例としては、アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、iso−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、t−ペンチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、t−オクチル基等が挙げられる。
これらのアルキル基は、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、スルホ基、カルボキシル基、シアノ基等の置換基を有していてもよい。置換基を有する場合のR
1〜R
8の具体例としては、2−ヒドロキシエチル基、2−シアノエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−シアノプロピル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基等が挙げられる。
【0038】
アリール基としては、例えば、フェニル基、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、トリル基、ジエチルアミノフェニル基、ナフチル基、ベンジル基、p−クロロベンジル基、p−フロロベンジル基、p−メチルベンジル基、2−フェニルメチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、α−ナフチルメチル基、β−ナフチルエチル基等が挙げられる。これらのアリール基は、ヒドロキシル基、カルボキシ基等の置換基を有してもよい。
【0039】
アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられる。これらのアルケニル基は、ヒドロキシル基、カルボキシ基等の置換基を有してもよい。
【0040】
アルキニル基としては、例えば、プロピニル基、ブチニル基、2−クロロブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。これらのアルキニル基は、ヒドロキシル基、カルボキシ基等の置換基を有してもよい。
【0041】
これらの中でも、炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましい。炭素数4以上とすることにより、有機溶媒に対する溶解性が良好になり、炭素数6以下とすることにより耐熱性が向上する。耐熱性が向上する理由としては、このジイモニウム系色素の融点が上昇するからと考えられる。
【0042】
R
9〜R
12の具体例としては、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ジエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。
【0043】
上記一般式[1]で表されるジイモニウム系化合物の市販品を例示すると、例えば、日本化薬(株)製のKayasorbIRG−022、同IRG−023、同IRG−024、同IRG−068、同IRG−069、同IRG−079、日本カーリット(株)製のCIR−1081、CIR−1083、CIR−1085、CIR−RL(以上、いずれも商品名)等が挙げられる。
【0044】
本発明において使用するジイモニウム系化合物は、これを含有する赤外線吸収層20が赤外光を十分に吸収するためには、特に、下記の測定方法により測定される1000nm付近のモル吸光係数ε
mが約0.8×10
4〜1.5×10
6であることが好ましい。
【0045】
<モル吸光係数(ε
m)の測定方法>
ジイモニウム系化合物を、試料濃度が20mg/Lとなるようにクロロホルムで希釈し、試料溶液を作製する。この試料溶液の吸収スペクトルを、分光光度計を用いて、300〜1300nmの範囲で測定し、その最大吸収波長(λ
max)を読み取り、該最大吸収波長(λ
max)におけるモル吸光係数(ε
m)を下記式から算出する。
ε=−log(I/I
0)
(ε:吸光係数、I
0:入射前の光強度、I:入射後の光強度)
ε
m=ε/(c・d)
(ε
m:吸光係数、c:試料濃度(mol/L)、d:セル長)
【0046】
ジイモニウム系化合物は、耐久性を高める観点からは、98%以上の純度を有するか、または210℃以上の融点を有することが好ましく、98%以上の純度を有し、かつ210℃以上の融点を有することがより好ましい。
【0047】
赤外線吸収化合物として使用できる無機粒子としては、ITO(In
2O
3−SnO
2系)、ATO(Sb
2O
3−SnO
2系)、ホウ化ランタン、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸ルビジウム、タングステン酸セシウム等の粒子が挙げられる。無機粒子は、熱安定性に優れる点で好ましい。
可視光透過率が高く、赤外領域における光の吸収に優れるため、無機粒子としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸ルビジウム、およびタングステン酸セシウムからなる群から選ばれる1種以上の粒子がより好ましい。中でも、赤外領域における光の吸収に優れるため、タングステン酸セシウムの粒子が特に好ましい。
【0048】
無機粒子は、一次粒子、または一次粒子が凝集して得られる二次粒子と一次粒子の混合物として使用できる。二次粒子の平均二次粒子径は、20〜250nmが好ましい。この範囲であれば、赤外線吸収層とした場合において、1200nmの光を十分に吸収できる。さらに、無機粒子を樹脂中に分散させた場合に、赤外線吸収層のヘイズを小さくできる。平均二次粒子径は、20〜200nmがより好ましく、20〜150nmがさらに好ましい。
【0049】
本明細書において、「平均二次粒子径」は、動的光散乱式粒度分布測定法により算出される数平均凝集粒子径をいう。平均粒子径は、無機粒子を分散媒に分散させた分散液を使用し、動的光散乱式粒度分布測定装置を使用して測定する。分散媒としては、水またはアルコールを使用できる。また、分散液の固形分濃度は質量比で5%として測定する。
【0050】
無機粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、5〜100nmが好ましい。平均一次粒子径が上記範囲にある無機粒子は、赤外光の吸収特性に優れる。
本明細書において、「平均一次粒子径」とは、検体微粒子の透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡による観察画像から、無作為に抽出した100個の微粒子の粒子径を測定し平均した値をいう。
無機粒子の一次粒子および二次粒子の形状は、球状や板状等が挙げられる。樹脂膜の成膜時に取扱いの容易性の観点から、球状が好ましい。
【0051】
(態様1)
赤外線吸収層の態様1を説明する。この態様では、透明樹脂中に赤外線吸収化合物が分散されているため、赤外線吸収層の膜厚の調整および分光特性の調整が容易である。態様1では、赤外線吸収化合物は前記した有機色素および無機粒子の両方を使用できる。
【0052】
態様1では、赤外線吸収層の厚さ(赤外線吸収層20が2層以上の場合は、各層の厚さの合計)は、平均膜厚で0.03〜50μmが好ましい。赤外線吸収層20の厚さを0.03μm以上とすることで、赤外線吸収能を十分に発揮することができ、50μm以下とすることで、均一な膜厚の(各)赤外線吸収層20を形成できる。さらに、これらの観点から、赤外線吸収層の厚さは0.5〜20μmがより好ましい。
【0053】
本明細書において、「平均膜厚」は、膜付き基板を試料として基板上の膜の一部を除去して得られる膜断面について接触式膜厚測定装置を用いて測定される基板表面と膜表面との平均段差をいい、ISO 5436−1に基づき、試料の設置誤差を取り除くために傾き補正を行い、走査線ごとに段差底面と上面それぞれに対して傾きの等しい最小二乗直線をあてはめ、2直線間の距離を最小二乗段差としたものである。
【0054】
(透明樹脂)
透明樹脂としては、種々の合成樹脂を使用できる。合成樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましい。透明樹脂として使用される樹脂の市販品を例示すると、例えば、東洋紡績(株)製のVYLON(ポリエステル樹脂の商品名)、カネボウ(株)製のO−PET(ポリエステル樹脂の商品名)、JSR(株)製のARTON(ポリオレフィン樹脂の商品名)、日本ゼオン(株)製のゼオネックス(ポリシクロオレフィン樹脂の商品名)、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製のユーピロン(ポリカーボネート樹脂の商品名)、帝人化成(株)製のPC−N1(ポリカーボネート樹脂の商品名)、日本触媒(株)製のハルスハイブリッドIR−G204(アクリル樹脂の商品名)等が挙げられる。
態様1で使用する樹脂は、透明樹脂の膜厚を10μmの薄膜とした場合に、波長380〜780nmの分光透過率の平均値が95%以上を示すものが好ましい。
【0055】
透明樹脂としては、ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂は、可視光における透過率が高く、耐候性に優れ、各種溶媒への溶解性が良く、溶媒へ溶解させた後ウェットコーティングの手法で塗工することで、透明基板上に簡便に樹脂膜を作製できる等の利点を有する。
【0056】
ポリエステル樹脂の中でも、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を1〜10モル%、好ましくは2〜10モル%含有するものが、耐候性の向上を図れることからより好ましい。耐候性が向上する理由は必ずしも明白ではないが、透明樹脂中に分散する赤外線吸収化合物と上記構造単位の間で何らかの相互作用(例えば、CH/π相互作用)が働くと色素が透明樹脂内に安定的に存在できるためと考えられる。脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位が1モル%未満では、有機系色素と上記構造単位の間で働く何らかの相互作用が不十分となり、耐候性評価により色素がブリードアウトすることが懸念される。また10モル%を超えると透明樹脂の構造自体が大きく変化し、分子量やガラス転移温度などの樹脂物性値が変化する。
【0057】
上記のような赤外線吸収化合物と脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位間の相互作用による効果は、有機色素を使用した場合により顕著であり、有機色素としてジイモニウム系色素を使用した場合にさらに顕著であり、前述した一般式[1]で示されるジイモニウム系色素を使用した場合に特に顕著である。上記のような条件を満たす樹脂の市販品を例示すると、例えば、東洋紡績(株)製のVYLON 103(商品名)等が挙げられる。
【0058】
赤外線吸収層の態様1は、例えば、赤外線吸収化合物と、透明樹脂と、必要に応じて配合される各成分とを、媒体に溶解または分散させて塗工液(以下、塗工液Iと記す)を調製し、これを透明基板に塗工し、乾燥させることにより形成できる。
【0059】
赤外線吸収化合物と透明樹脂等を溶解または分散するための媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、トリデシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等のグリコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロルエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族、またはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサノリグロイン等の脂肪族炭化水素類、テトラフルオロプロピルアルコール、ペンタフルオロプロピルアルコール等のフッ素系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0060】
塗工液Iは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含有することで、外観、特に、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等を改善できる。界面活性剤は、特に限定されず、カチオン系、アニオン系、ノニオン系等の公知のものを任意に使用できる。
【0061】
塗工液Iとして、媒体に透明樹脂および赤外線吸収化合物等を分散させた分散液を調製する場合には、固形分濃度は10〜60質量%が好ましい。塗工液Iとして、媒体に透明樹脂および赤外線吸収化合物等を溶解させた溶液とする場合には、溶質濃度は塗工液I全体に対して10〜60質量%が好ましい。固形分濃度および溶質濃度は、塗工液Iの塗工方法にもよるが、通常、上記範囲であれば、膜厚を均一にできる。固形分濃度および溶質濃度が低すぎると、塗工液Iの粘度が低く、赤外線吸収層20の膜厚が薄くなるため、赤外線吸収化合物の含量が少なく、1200nmの波長の光吸収が不十分な赤外線吸収層20となる。一方で、固形分濃度および溶質濃度が高すぎると、塗工液I中の固形分の分散性が悪化するため、赤外線吸収層20のヘイズが高くなるおそれがある。また、塗工液Iの粘性が上昇するため、塗工の際に均一な膜厚が得られないおそれがある。
【0062】
塗工液Iの塗工には、例えば、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、コンマコーター法、インクジェット法等のコーティング法を使用できる。
【0063】
塗工液Iの乾燥には、熱乾燥、熱風乾燥等の公知の方法を使用できる。乾燥温度は、使用する溶媒の沸点にもよるが、通常、60〜180℃、好ましくは80〜160℃であり、時間は、通常、5〜120分である。乾燥は、一度に行ってもよいし、2回以上に分けて段階的に昇温または降温してもよい。さらに、乾燥の前処理として、大気中での風乾、または減圧乾燥等を行ってもよい。
【0064】
透明基板としてガラス基板を使用する場合には、塗工液Iの塗工にあたって、ガラス基板に前処理を施すことが好ましい。これにより、ガラス基板と赤外線吸収層の密着性を向上させることができる。前処理剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を使用できる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0065】
赤外線吸収層の態様1においては、上述の赤外線吸収化合物の他にさらに、本発明の効果を損なわない範囲で、最大吸収波長が300〜800nmの範囲にある色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤等が含有されていてもよい。紫外線吸収剤としては、可視光に対する透過性の点から、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、環状イミノエステル系等の有機系紫外線吸収剤が好ましい。
【0066】
(態様2)
赤外線吸収層の態様2を説明する。この態様の赤外線吸収層は、無機粒子からなる。例えば、赤外線遮蔽フィルタが、透明基板および赤外線吸収層以外の他の樹脂層を有し、透明基板、赤外線吸収層および他の樹脂層をこの順で有する場合において、赤外線吸収層が態様2であれば、他の樹脂層と透明基板との密着性を向上できる。
態様2の層の表面粗さRaは、30〜500nmが好ましい。態様2は、透明基板上に直接有してもよく、透明基板上に形成された態様1の層の上に有してもよく、他の樹脂層の上に有してもよい。
本明細書において、「表面粗さRa」は、接触式膜厚測定装置を用いて測定されるJIS B0601(2001年)に規定される算術平均高さRaをいう。
【0067】
赤外線吸収層の態様2は、無機粒子を分散媒に分散させて得られる塗工液(以下、塗工液IIと記す)を、透明基板上に形成された態様1の層の上、または透明基板の上に直接塗工し、塗工後に乾燥させて揮発成分を除去することで形成できる。
【0068】
塗工液IIの分散媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
塗工液IIに含まれる無機粒子の量は、塗工液IIに対して0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。
塗工液IIは、態様2の赤外線吸収層20を形成する過程で分散媒と同様に除去可能な成分として、レオロジー調整剤、レベリング剤等を必要に応じて含有できる。
【0070】
塗工液IIの塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0071】
[赤外線遮蔽フィルタ]
本フィルタにおいて、赤外線吸収層は、態様1および態様2のいずれでも、容易に膜厚を均一にできる。また、本フィルタは、所望の分光特性を満たすために、誘電体多層膜の層数を低減できる。その結果、生産性の向上や製造コストを低減できる。さらに、赤外線吸収層は、樹脂層または赤外線吸収化合物からなるため、誘電体多層膜の層数を多くした場合の基板の反りを低減できる。さらに、赤外線吸収層は、赤外線を吸収することにより赤外線遮蔽効果を呈するものであるため、分光透過率の入射角依存性を低減できる。
【0072】
なお、
図1に示した赤外線遮蔽フィルタ100では、透明基板10の上に赤外線吸収層20が積層されているが、透明基板10の両主面側に赤外線吸収層20が積層されてもよく、透明基板10と赤外線吸収層20との間に誘電体多層膜のような他の光学的機能を有する層を設けるようにしてもよい。このような他の光学的機能を有する層は、透明基板10の他方の主面(赤外線吸収層20形成側と反対側の面)に設けてもよく、透明基板10の両主面側に設けてもよい。
【0073】
図2は、他の光学的機能を有する層を具える赤外線遮蔽フィルタの例を示したものである。この例の赤外線遮蔽フィルタ200では、透明基板10の両主面上に、光学的機能を有する層として、誘電体多層膜30が設けられている。
【0074】
誘電体多層膜30は、低屈折率誘電体層31と高屈折率誘電体層32が交互に積層されたものであり、赤外線反射膜として機能する。低屈折率誘電体層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下、好ましくは1.2〜1.6の材料が使用される。具体的には、シリカ(SiO
2)、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が使用される。高屈折率誘電体層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上、好ましくは1.7〜2.5の材料が使用される。具体的には、チタニア(TiO
2)、ジルコニア、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、イットリア、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が使用される。屈折率は、波長550nmの光に対する屈折率をいう。
【0075】
低屈折率誘電体層および高屈折率誘電体層には、各層の屈折率を調整する目的で、各誘電体層の主成分と異なる成分を含有させることもできる。このような成分としては、SiO
2、Al
2O
3、CeO
2、FeO、Fe
2O
3、HfO
2、In
2O
3、MgF
2、Nb
2O
3、SnO
2、Ta
2O
3、TiO
2、Y
2O
3、ZnO、ZrO
2、NiO、ITO、ATO、MgO等が挙げられる。
【0076】
上記添加剤を含有させることによる屈折率の増減は、添加剤の種類と添加すべき層の材料組成とに起因する。例えば、層の屈折率よりも小さい屈折率の添加剤を含有させた場合は、層全体の屈折率は低下し、層の屈折率よりも大きい屈折率の添加剤を含有させた場合は、層全体の屈折率は増大する。
【0077】
このような添加剤を含有させることによって層の屈折率は変化するようになるが、誘電体多層膜では、上記添加剤を低屈折率誘電体層および高屈折率誘電体層間の屈折率差が増大するように添加する。
【0078】
誘電体多層膜は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法等によって形成できる。これらの方法によれば、誘電体多層膜の積層数が比較的多い場合でも、厚さを高精度に制御しながら、比較的容易に形成できる。また、スパッタリング法やイオンプレーティング法はいわゆるプラズマ雰囲気処理であることから、誘電体多層膜の銅含有ガラス基板への密着性を高めることができる。
【0079】
赤外線遮蔽フィルタにおいて、透明基板の両主面側に設けられている誘電体多層膜は、同一構成であっても異なる構成であってもよい。すなわち、赤外線吸収層側の誘電体多層膜と、その反対側の誘電体多層膜は、積層数、層厚、材料等において同じであっても異なっていてもよい。
【0080】
図示は省略したが、本発明においては上記のような誘電体多層膜に代えて、あるいは、誘電体多層膜とともに、赤外線吸収膜と誘電体膜とを交互に積層することにより、赤外光の吸収機能と反射機能を併せ持つように構成された複合多層膜を設けることもできる。誘電体多層膜とともに設ける場合、透明基板の一方の主面側にのみ複合多層膜と誘電体多層膜を重ねて設けてもよく、透明基板の両主面側にそれぞれ複合多層膜と誘電体多層膜を重ねて設けてもよく、あるいは、一方の主面側に複合多層膜を設け、他方の主面側に誘電体多層膜を設けるようにしてもよい。積層する場合、複合多層膜、誘電体多層膜の順に設けてもよく、その逆であってもよい。
【0081】
ここでいう赤外線吸収膜は、無機粒子からなる態様2の赤外線吸収層とは相違する。赤外線吸収膜を構成する材料としては、インジウム、インジウム系複合酸化物、錫、錫系複合酸化物、亜鉛、亜鉛系複合酸化物等が挙げられる。具体的には、In
2O
3やITO(酸化インジウム錫)、Sn
2O
4、ZnO、AZO(酸化アルミニウム亜鉛)、GZO(GaドープのZnO)等が例示できる。一方、誘電体膜を構成する材料としては、誘電体多層膜で例示したものと同様のものが挙げられる。すなわち、シリカやチタニア等が使用される。赤外線吸収膜としてITO等を使用する場合、誘電体膜としてシリカ等の比較的屈折率の低いものにより構成することが好ましい。これによって、複合多層膜全体として、赤外光に対して高い反射機能を有するようになる。
【0082】
なお、複合多層膜においても、各層の屈折率を調整する目的で添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、誘電体多層膜で例示したものと同様のものが挙げられる。また、複合多層膜は、誘電体多層膜と同様、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法等によって形成できる。このような方法によって、複合多層膜の積層数が比較的多い場合でも、厚さを高精度に制御しながら、比較的容易に形成できる。また、スパッタリング法やイオンプレーティング法はいわゆるプラズマ雰囲気処理であることから、複合多層膜の透明基板への密着性を高めることができる。さらに、複合多層膜が透明基板の両主面側に設けられている場合、それらは同一構成であっても異なる構成であってもよい。
【0083】
本発明においては、上記のような誘電体多層膜や複合多層膜を設けることにより、赤外線に対する遮蔽機能をより高めたり、あるいは赤外線遮蔽フィルタ内に入射する可視光量を増大させ、ひいては可視光の透過率を増大させたりすることができる。なお、誘電体多層膜や複合多層膜を設けることにより、基板の反り、生産性および歩留まりの低下、それに伴う製造コストの上昇等の問題の発生が懸念される。しかしながら、本フィルタにおいては、赤外線吸収層を具えているため、誘電体多層膜や複合多層膜の層数を、それら単独で設けた場合に比べ、大幅に低減できる。したがって、基板の反り、生産性および歩留まりの低下、それに伴う製造コストの上昇等の問題の発生を回避、ないし抑制できる。
【0084】
本発明においては、さらに、透明基板の上の赤外線吸収層の上、または赤外線吸収層を形成している主面と反対側の主面上に、反射防止膜を形成できる。
図3は、そのような例を示したもので、この例の赤外線遮蔽フィルタ300では、透明基板10の一方の主面側に誘電体多層膜30を介して赤外線吸収層20が設けられ、他方の主面に反射防止膜40が設けられている。
【0085】
反射防止膜は、赤外線遮蔽フィルタに入射した光の反射を防止することにより透過率を向上させ、効率良く入射光を利用する機能を有するもので、従来知られる材料および方法により形成できる。具体的には、反射防止膜は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法等により形成したシリカ、チタニア、五酸化タンタル、フッ化マグネシウム、ジルコニア、アルミナ等の1層以上の膜や、ゾルゲル法、塗布法等により形成したシリカケート系、シリコーン系、フッ化メタクリレート系等から構成される。
【0086】
上記以外の他の光学的機能を有する層としては、近赤外領域の光を吸収する近赤外線吸収層が挙げられる。近赤外線吸収層は、近赤外線吸収色素を有する樹脂層である。近赤外線吸収色素としては、波長680〜730nmに極大吸収ピークを有する化合物が好ましい。近赤外線吸収層を有する赤外線遮蔽フィルタは、赤外線遮蔽特性に加えて良好な近赤外線遮蔽特性を有するため好ましい。
【0087】
近赤外線吸収色素としては、例えば、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、なフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフタキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等が挙げられる。吸収ピークが急峻な傾きを有するため、スクアリリウム系化合物が中でも好ましい。
【0088】
また、このような近赤外線吸収色素を含有させる樹脂としては、赤外線吸収層の態様1で例示した樹脂が好ましく使用できる。
【0089】
近赤外線吸収層に含有させる近赤外線吸収色素の量は、樹脂100質量部に対して0.1〜15質量部が好ましく、0.3〜10質量部がより好ましい。
【0090】
なお、赤外線吸収層の態様1の厚さやその形成方法についての説明、好ましい範囲等は、この近赤外線吸収層の厚さや形成方法にも適用される。すなわち、近赤外線吸収層の厚さは、赤外線吸収層の態様1の厚さと同様の厚さが好ましく、また、近赤外線吸収層の形成方法は、赤外線吸収層の態様1の形成方法と同様の方法を使用できる。
【0091】
本フィルタは、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等のNIRフィルタ、PDP用のNIRフィルタ等として使用できる。本フィルタは、特に上記撮像装置において好適に用いられ、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間、撮像レンズとカメラの窓材との間、またはその両方に配置できる。また、前述のとおり、本フィルタは、撮像レンズ、カメラの窓材等を透明基板10として、その一方の主面側に赤外線吸収層を有してもよい。
【0092】
さらに、本フィルタは、上記撮像装置の固体撮像素子、自動露出計の受光素子、撮像レンズ、PDP等に粘着剤層を介して直接貼着して使用することもできる。同様に、車両(自動車等)のガラス窓やランプにも粘着剤層を介して直接貼着して使用できる。
【0093】
以上、本発明の一実施形態およびその変形例について説明してきたが、本発明は、以上説明した実施の形態の記載内容に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0094】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されて解釈されない。例1−8、例10−15は本発明の実施例であり、例9、16、17は比較例である。
【0095】
(例1)
ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製 商品名:VYRON103、ポリエステル(A)と表記)0.75g、およびジイモニウム系化合物(日本化薬(株)製 商品名IRG−069;ジクロロメタン溶媒中におけるλ
max1108nm、モル吸光係数ε1.05×10
5;ジイモニウム(A)と表記)0.0145gを、シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(1)を調製した。
この塗工液(1)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板として、厚さ0.3mmの、銅含有弗燐酸塩ガラス(AGCテクノグラス(株)製、商品名:NF−50;銅含有ガラスと表記)からなる基板を用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は、5.0μmであった。
【0096】
(例2)
ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製 商品名:VYRON280、ポリエステル(B)と表記)0.75g、およびジイモニウム(A)0.0250gを、シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(2)を調製した。
この塗工液(2)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。ガラス基板には、例1と同様のものを用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は、5.0μmであった。
【0097】
(例3)
ポリエステル(A)0.75g、およびジイモニウム系色素(日本化薬(株)製 商品名:IRG−079;ジクロロメタン溶媒中におけるλ
max1103nm、モル吸光係数ε1.05×10
5;ジイモニウム(B)と表記)0.0122gを、シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(3)を調製した。
この塗工液(3)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板には、例1と同様のものを用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は、5.0μmであった。
【0098】
(例4)
ポリエステル(A)0.75g、タングステン酸セシウム(CWO、住友金属鉱山社製 商品名:YMF−02A、平均一次粒子径13nm)0.075g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM−503)0.025g、およびシクロヘキサン4.25gを混合して混合液を得た。この混合液100質量部に直径0.5mmのジルコニアボール40質量部を添加し、ボールミルにて2時間湿式粉砕を行った。その後、ジルコニアボールを除去して、塗工液(4)を得た。
この塗工液(4)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板には、例1と同様のものを用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は、11μmであった。
【0099】
(例5)
ポリエステル(A)0.75g、錫ドープ酸化インジウム(ITO、平均一次粒子径13nm)0.075g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM−503)0.025g、およびシクロヘキサン4.25gを混合して混合液を得た。この混合液を例4と同様の方法で処理し、塗工液(5)を得た。
この塗工液(5)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板には、例1と同様のものを用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は、11μmであった。
【0100】
(例6)
ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製 商品名:Panlite TS−2020)0.75g、およびジイモニウム(A)0.0692gを、シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(6)を調整した。
この塗工液(6)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板には、例1と同様のものを用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は5.0μmであった。
【0101】
(例7)
ポリエステル(A)0.75g、およびジチオレン金属錯体系色素(ORGANICA社製 商品名:17300;ジクロロメタン溶媒中におけるλ
max1069nm、モル吸光係数ε3.07×10
4;ジチオレン金属錯体と表記)0.0724gを、シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(7)を調整した。
この塗工液(7)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板には、例1と同様のものを用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は15.0μmであった。
【0102】
(例8)
ポリエステル(A)0.75g、およびジイモニウム(A)0.0145gを、シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(8)を調製した。
この塗工液(8)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して、赤外線吸収層を形成し、赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板として、厚さ0.3mmの、無アルカリガラス(AGCテクノグラス(株)製、商品名:AF45)からなる基板を用いた。
赤外線吸収層の平均膜厚は、5.0μmであった。
【0103】
(例9)
赤外線吸収層を形成せず、例1と同様のガラス基板のみからなる赤外線遮蔽フィルタを得た。
【0104】
(例10)
例1と同様に作製した赤外線遮蔽フィルタの両主面(ガラス基板の赤外線吸収層が形成されていない面と赤外線吸収層上)にそれぞれ、スパッタリング法により、シリカ(SiO
2;屈折率1.45(波長550nm))層とチタニア(TiO
2;屈折率2.32(波長550nm))層とを交互に積層して、表1に示すような構成からなる誘電体多層膜(34層)を形成した。これにより誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
【0105】
【表1】
【0106】
(例11)
例4と同様に作製した赤外線遮蔽フィルタの両主面にそれぞれ、例10と同様にして誘電体多層膜(34層)を形成し、誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
【0107】
(例12)
例4と同様に作製した赤外線遮蔽フィルタの両主面にそれぞれ、例10と同様にして誘電体多層膜(34層)を形成し、誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
【0108】
(例13)
ポリエステル(A)0.75g、および下記式[2]で表されるスクアリリウム色素(アセトン溶媒中におけるλ
max695nm)0.0122gを、シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(13)を調製した。
この塗工液(13)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して近赤外線吸収層を形成し、さらにその上に塗工液(1)をスピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して赤外線吸収層を形成した。
次に、ガラス基板の赤外線吸収層等が形成されていない面と、赤外線吸収層上とにそれぞれ、例10と同様にして誘電体多層膜(34層)を形成した。これにより、誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板として、厚さ0.3mmの無アルカリガラス(AF45)からなる基板を用いた。
近赤外線吸収層および赤外線吸収層の平均膜厚は、それぞれ2.3μmおよび5.0μmであった。
【化2】
【0109】
(例14)
塗工液(1)に代えて塗工液(4)を使用した以外は例13と同様にして、誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
近赤外線吸収層および赤外線吸収層の平均膜厚は、それぞれ2.3μmおよび11μmであった。
【0110】
(例15)
塗工液(1)に代えて塗工液(5)を使用した以外は例13と同様にして、誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
近赤外線吸収層および赤外線吸収層の平均膜厚は、それぞれ2.3μmおよび11μmであった。
【0111】
(例16)
ガラス基板の両主面にそれぞれ、例10と同様にして誘電体多層膜(34層)を形成した。これにより、誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板として、厚さ0.3mmの、銅含有弗燐酸塩ガラス(NF−50T)からなる基板を用いた。
【0112】
(例17)
塗工液(13)をガラス基板の一方の主面側に、スピンコート法により塗布し、150℃で30分間加熱して近赤外線吸収層を形成した。次に、その両主面にそれぞれ、例10と同様にして誘電体多層膜(34層)を形成した。これにより、誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。
ガラス基板として、厚さ0.3mmの無アルカリガラス(AF45)からなる基板を用いた。
近赤外線吸収層の平均膜厚は、2.3μmであった。
【0113】
例1〜17で得られた赤外線遮蔽フィルタについて、以下に示す方法で、分光特性(光透過率)および耐候性の評価を行った。結果を、表2および表3に示す。なお、表2は、例1〜17の赤外線遮蔽フィルタにおけるガラス基板と赤外線吸収層との積層体(例9、16、17はガラス基板のみ)の分光特性、および耐候性の評価結果を示し、表3は、例10〜17の赤外線遮蔽フィルタ全体の分光特性の評価結果を示す。
【0114】
[光透過率]
400〜630mmの波長域における平均の光透過率、さらに750nm、1000nm及び1200nmの各波長の光透過率を、分光光度計((株)日立製作所製 日立分光光度計U−4100)を用いて測定した。
測定は、測定面に対して垂直な方向から入射した光(入射角0°)と、測定面に対して垂直な方向から26°傾けた方向から入射した光(入射角26°)について行った。
【0115】
[耐候性]
150℃に24時間、暴露前後のヘイズ値を、ヘイズメーター(BYK Gardner社製 haze−gard plus)を用いて測定し、その変化量を次式より算出した。
ヘイズ値変化量 = H
1−H
0
(但し、H
1は暴露後のへイズ値、H
0は暴露前のへイズ値である。)
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
表2、3から明らかなように、透明基板と該透明基板の少なくとも一方の主面側に赤外線吸収化合物を含有する1以上の赤外線吸収層を有し、透明基板と1以上の赤外線吸収層との積層体の波長1200nmにおける透過率が10%以下である例1〜8、10〜15の各赤外線遮蔽フィルタは、可視光に対する高い透過率を維持しながら、1200nm以上の長波長域の赤外光も十分に効果的に遮蔽できる。このため、この光学フィルタを使用した固体撮像素子は赤外光を遮蔽することで分光感度を人の通常の視感度に補正することが可能となり、良好な色再現性を得ることができる。