(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a)、及び前記フィルム(a)の少なくとも一方の面上に直接設けられた、1層以上の無機バリア層(a)を備えるガスバリア積層体(A)と、
前記フィルム(a)の厚さ以下の厚さを有する脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(b)と、
前記無機バリア層(a)及び前記フィルム(b)の間に介在し、前記無機バリア層及び前記フィルム(b)を貼合する熱溶融層とを備え、
前記熱溶融層のガラス転移温度TgAと、前記フィルム(a)及び前記フィルム(b)を構成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度TgBとの差(TgB−TgA)が、25℃以上である有機エレクトロルミネッセンス発光素子用の複合ガスバリア積層体。
前記フィルム(a)及び前記フィルム(b)のいずれか一方の、波長550nmにおける面内方向のリターデーションが115〜160nmであって、もう一方の波長550nmにおける面内方向のリターデーションが0〜25nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合ガスバリア積層体。
前記フィルム(b)の厚さが30μm以下であり、前記複合ガスバリア積層体の厚さが100μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合ガスバリア積層体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、フィルムが「長尺」とは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。幅に対する長さの倍率の上限は、特に限定されないが、通常5000倍以下としうる。
【0014】
以下の説明において、「偏光板」及び「1/4波長板」とは、別に断らない限り、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0015】
以下の説明において、ある膜の面内リターデーションは、(nx−ny)×dで表される値である。ここで、nxは、その膜の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって、最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。また、nyは、その膜の前記面内方向であって、nxの方向に直交する方向の屈折率を表す。さらに、dは、その膜の厚みを表す。このリターデーションは、市販の分光エリプソメーター(例えば、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社 M−2000U)などを用いて測定しうる。面内リターデーションの測定波長は、別に断らない限り、550nmである。
【0016】
[1.複合ガスバリア積層体の概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る複合ガスバリア積層体100をその主面に垂直な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図1に示す例では、複合ガスバリア積層体100は、フィルム(a)11及び無機バリア層(a)12を備えるガスバリア積層体(A)10と、フィルム(b)21とが、無機バリア層(a)12とフィルム(b)21とが対向するように熱溶融層30を介して加熱圧着された積層体である。したがって、複合ガスバリア積層体100は、フィルム(a)11、無機バリア層(a)12、熱溶融層30、及びフィルム(b)21を、この順に備える。
【0017】
[2.ガスバリア積層体(A)]
本発明の複合ガスバリア積層体は、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a)、及びフィルム(a)の少なくとも一方の面上に直接設けられた、1層以上の無機バリア層(a)を備えるガスバリア積層体(A)を備える。
図1に示す例では、ガスバリア積層体(A)10は、フィルム(a)11と、フィルム(a)11の一方の面11Dに形成された無機バリア層(a)12とを備え、フィルム(a)11と無機バリア層(a)12とは、直接に接している。
【0018】
[2.1.フィルム(a)]
フィルム(a)は、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムである。ここで、脂環式ポリオレフィン樹脂とは、脂環式オレフィン重合体と、必要に応じてその他の任意の成分とを含有する樹脂である。脂環式ポリオレフェン樹脂は、水蒸気透過率が低く、且つ、アウトガスの発生が少ない。従って、無機バリア層(a)を形成する、系内の減圧を含む工程(例えば、蒸着、スパッタリング等)における、フィルムから減圧系内へのアウトガスの放出量が少ない。そのため、フィルム(a)として脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムを採用することにより、良好な無機バリア層(a)を形成することができ、その結果、複合ガスバリア積層体のガスバリア性を高めることができる。また、本発明の複合ガスバリア積層体を素子の製造に用いる際の減圧に際してのアウトガスの放出量も少なく、且つ、素子の使用に際しての素子内へのアウトガスの放出量も少ないため、高品質な素子を、容易に製造することができる。さらに、脂環式ポリオレフィン樹脂を溶融押し出しして製造したフィルムは、表面の平滑性が良好で、無機層のクラックの原因となる表面の凸が小さいため、結果として表面平滑性の悪いフィルムに比べて薄い無機層で水蒸気透過率を小さくすることができるため、生産性および可撓性に優れている。また、フィルム(a)は、通常、無機バリア層(a)を支持する基材となり、ガスバリア積層体(A)の強度を維持する効果も奏する。
【0019】
脂環式オレフィン重合体は、主鎖及び/又は側鎖に脂環構造を有する非晶性の熱可塑性重合体である。脂環式オレフィン重合体中の脂環構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。脂環構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4個以上、好ましくは5個以上であり、また、通常30個以下、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0020】
脂環式オレフィン重合体において、脂環構造を有する構造単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式オレフィン重合体において脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0021】
脂環式オレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0022】
ノルボルネン重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物等が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0023】
脂環式オレフィン重合体としては、これらの重合体のうち1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、フィルム(a)は、複数種類の脂環式オレフィン樹脂のそれぞれが層をなした構成であってもよい。
【0024】
脂環式オレフィン樹脂に含まれる脂環式オレフィン重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサンを用いて(但し、重合体がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは20,000以上であり、通常100,000以下、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあることにより、フィルム(a)の機械的強度及び成型加工性などが高度にバランスされるため、好ましい。
【0025】
脂環式ポリオレフィン樹脂が含有しうる任意の成分としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、強化剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、抗菌剤やその他の樹脂、熱可塑性エラストマーなどの添加剤を挙げることができる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。さらに、任意の成分の量は、脂環式ポリオレフィン樹脂に含まれる重合体100重量部に対して、通常0〜50重量部、好ましくは0〜30重量部である。
【0026】
脂環式ポリオレフィン樹脂は、高い透明性を有するものに必ずしも限られない。ただし、複合ガスバリア積層体を有機EL素子において光を透過することが求められる部分に用いうる有用なものとするという観点から、脂環式ポリオレフィン樹脂は、高い透明性を有するものが好ましい。例えば、脂環式ポリオレフィン樹脂を厚み1mmの試験片として測定した全光線透過率が、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であるものが好ましい。
【0027】
フィルム(a)の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。フィルム(a)の厚みは、接触式膜厚計により測定しうる。具体的には、TD方向に平行な線状において等間隔で厚みを10点測定し、その平均値を求め、これを厚みの測定値としうる。
【0028】
フィルム(a)は、熱膨張率が、70ppm/K以下であることが好ましく、50ppm/K以下であることがより好ましく、40ppm/K以下であることが更に好ましい。かかる熱膨張率は、フィルム(a)を20mm×5mmの試料片とし、荷重5.0g、窒素100cc/分、昇温速度0.5℃/分の条件で、30℃から130℃にわたり昇温した際の試料片の長さの伸びを測定することにより測定しうる。
また、フィルム(a)は、湿度膨張率が、30ppm/%RH以下であることが好ましく、10ppm/%RH以下であることがより好ましく、1.0ppm/%RH以下であることが更に好ましい。かかる湿度膨張率は、フィルムを20mm×5mmの試料片とし、荷重5.0g、窒素100cc/分、温度25℃、速度5.0%RH/分の条件で、30%RHから80%RHにわたり湿度を上昇した際の試料片の長さの伸びを測定することにより測定しうる。
また、フィルム(a)のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることが特に好ましい。高いガラス転移温度を有することにより、高温環境などの熱履歴前後におけるフィルム(a)の熱収縮を抑えることができる。また、高いガラス転移温度を有することにより、複合ガスバリア積層体の製造において、Reの不所望の変動を伴わずに加熱圧着を行なうことができる。
かかる好ましい熱膨張率、湿度膨張率及びガラス転移温度を得ることにより、高温高湿の環境下におけるガスバリア性の低下が抑制された複合ガスバリア積層体を得ることができる。
【0029】
また、フィルム(a)の無機バリア層(a)とは反対側の表面(
図1では、面11U)には、凹凸構造を形成してもよい。凹凸構造を有することにより、フィルム(a)はブロッキングを生じにくくなる。そのため、例えば長尺のフィルム(a)を用いてロールトゥロール法により複合ガスバリア積層体を製造する場合に、フィルム(a)をロールから容易に引き出すことができるようになるので、製造を容易にすることができる。また、フィルム(a)の無機バリア層(a)とは反対側の表面は、通常、複合ガスバリア積層体の最表面となる。そのため、フィルム(a)の無機バリア層(a)とは反対側の表面に凹凸構造を形成すると、複合ガスバリア積層体の最表面が凹凸構造を有することになるので、複合ガスバリア積層体のブロッキングを抑制することも可能になる。また、フィルム(a)の当該表面に代えて、あるいはフィルム(a)の当該表面に加えて、フィルム(b)の反対側の表面(
図1では、面21D)に凹凸構造を形成してもよい。
【0030】
凹凸構造を形成した表面の算術平均粗さRa(JIS B601−2001)は、好ましくは0.02μm以上、より好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは3μm以上である。算術平均粗さRaを前記範囲の下限値以上にすることにより、凹凸構造を形成された表面の滑り性を良好にして、ブロッキングを安定して防止できる。また、前記算術平均粗さの上限値に特に制限は無いが、好ましくは50μm以下、より好ましくは25μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0031】
フィルム(a)の製造方法に特に制限は無く、例えば、溶融成形法、溶液流延法のいずれを用いてもよい。溶融成形法は、さらに詳細には、例えば、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの方法の中でも、機械強度、表面精度等に優れたフィルム(a)を得るために、押出成形法、インフレーション成形法又はプレス成形法が好ましく、中でも効率よく簡単にフィルム(a)を製造できる観点から、押出成形法が特に好ましい。
【0032】
さらに、フィルム(a)の製造方法においては、フィルムを延伸する延伸工程などを行ってもよい。これにより、フィルム(a)として延伸フィルムを得ることができる。フィルム(a)として延伸フィルムを用いた場合には、フィルム(a)の熱膨張率を抑制することができ、高温高湿の環境下におけるガスバリア性能の劣化を更に低減することができる。かかる延伸フィルムは、例えば、上述した方法により脂環式ポリオレフィン樹脂を原反フィルムに成形し、かかる原反フィルムを延伸することにより得ることができる。
【0033】
原反フィルムの形状は、所望の延伸倍率により所望の寸法のフィルム(a)が得られるよう、適宜、設定しうる。好ましくは、長尺のフィルム状の形状とする。ここで「長尺」とは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬されうる程度の長さを有するものをいう。
【0034】
延伸の態様は、好ましくは二軸延伸としうる。かかる二軸延伸は、原反フィルムを、その面に平行であって且つ互いに垂直な2つの方向に延伸することにより行ってもよい。ここで、「垂直な」方向とは、90°の角度をなすことが好ましいが、加えて、±10°程度の誤差を含む場合をも含みうる。
通常、垂直な2つの方向は、それぞれ、長尺の原反フィルムのMD方向(原反フィルムの流れ方向、即ち長尺の原反フィルムの長さ方向)及びTD方向(MD方向に垂直な、原反フィルムの幅方向)とされるが、これに限られず、MD方向及びTD方向に対して斜めの、互いに垂直な2方向であってもよい。
【0035】
二軸延伸の態様は、逐次二軸延伸(2方向の延伸のそれぞれを別々の工程として行う延伸)であってもよく、同時二軸延伸(2方向の延伸の工程の少なくとも一部を同時に行う延伸)であってもよい。製造の効率の点からは同時二軸延伸が好ましいが、フィルム(a)の位相差の値をなるべく少ない値とすることが求められる場合など、2方向の延伸を独立して精密に制御したい場合には、かかる制御が容易という点から、逐次二軸延伸が好ましい場合もある。
【0036】
二軸延伸における延伸倍率は、2方向それぞれにおいて、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.5倍以上であり、好ましくは4.5倍以下、より好ましくは3.5倍以下である。また、2方向の倍率の比は、1:1〜2:1の範囲内であることが、高温高湿環境下での透湿度変化を最小とするため、及び複合ガスバリア積層体を透過する光を均質なものとするために、好ましい。
【0037】
二軸延伸を行う際の温度は、原反フィルムを形成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度Tgを基準に設定しうる。二軸延伸の際の温度範囲は、例えば、好ましくはTg以上であり、好ましくはTg+30℃以下、より好ましくはTg+20℃以下である。ここで、原反フィルムが複数種類の異なるガラス転移温度を有する脂環式ポリオレフィン樹脂の層を有する場合は、それらの脂環式ポリオレフィン樹脂のうち最も低いガラス転移温度を基準として、二軸延伸の際の温度範囲を設定しうる。
【0038】
二軸延伸を行うのに用いる装置として、例えば、テンター延伸機、及びその他の、ガイドレールと当該ガイドレールに沿って移動する把持子を有する延伸機を好ましく挙げることができる。またその他に、縦一軸延伸機、バブル延伸機、ローラ延伸機等の任意延伸機を使用してもよい。
【0039】
さらに、フィルム(a)の表面に凹凸構造を形成する場合、凹凸構造の形成方法に制限は無い。凹凸構造の形成方法としては、例えば、表面に凹凸構造を有する賦型ロールを用いてフィルム(a)を押圧することにより、フィルム(a)の表面に凹凸構造を転写するニップ成形法;表面に凹凸構造を有する離型フィルムでフィルム(a)を挟圧して、離型フィルムの凹凸構造をフィルム(a)に転写した後、フィルム(a)から離型フィルムを剥離する方法;フィルム(a)の表面に粒子を噴射してフィルム(a)の表面を切削する方法;フィルム(a)の表面に電子線硬化型樹脂を配置し硬化させることで凹凸構造を形成する方法;などが挙げられる。さらに、フィルム(a)の組成を調整することで凹凸構造を形成することも可能である。例えば、フィルム(a)を形成する脂環式ポリオレフィン樹脂に所定の粒径の粒子を含有させて凹凸構造を形成させる方法;フィルム(a)を形成する脂環式ポリオレフィン樹脂に含まれる成分の配合比を調整して凹凸構造を形成させる方法;などが挙げられる。
【0040】
通常、フィルム(a)のブロッキングはフィルム(a)の表面に無機バリア層(a)を形成するよりも前の時点で生じやすい。そのため、ブロッキングを防止する観点では、フィルム(a)の表面に凹凸構造を形成する工程は、フィルム(a)の表面に無機バリア層(a)を形成する工程よりも前に行うことが好ましい。
【0041】
[2.2.無機バリア層(a)]
無機バリア層(a)は、無機材料で形成された層であり、例えば水分及び酸素等の、外気中に存在する成分であって表示装置及び発光装置等の装置の内部の構成要素(例えば、有機EL素子の発光層等)を劣化させうる成分をバリアする能力を有する層である。この無機バリア層(a)は、ガスバリア積層体(A)の表裏の一方の面から他方の面への、水分及び酸素等の成分の透過をバリアする効果を発揮する。
【0042】
また、複合ガスバリア積層体において、無機バリア層(a)はフィルム(a)の内側に位置するので、外力による無機バリア層(a)の傷付きは防止される。したがって、無機バリア層(a)にはクラックが発生し難く、ガスバリア性が損なわれ難い。
【0043】
さらに、一般に、脂環式ポリオレフィン樹脂は他の材料との親和性が低いことが多いところ、無機バリア層(a)は脂環式ポリオレフィン樹脂とも熱溶融層(特にスチレン系の熱可塑性エラストマー、とりわけスチレン−共役ジエンブロック共重合体水素化物を含むもの)とも高い親和性を有しうる。そのため、無機バリア層(a)が脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a)と熱溶融層との間に設けられることにより、フィルム(a)と熱溶融層との密着性を良好にできる。
【0044】
無機層を形成しうる無機材料の好ましい例を挙げると、金属;珪素の酸化物、窒化物、窒化酸化物;アルミニウムの酸化物、窒化物、窒化酸化物;DLC(ダイヤモンドライクカーボン);及びこれらの2以上が混合した材料などが挙げられる。中でも、透明性の点では、珪素の酸化物又は窒化酸化物等の、少なくとも珪素を含有する材料が特に好ましい。また、フィルム(a)の材料である脂環式ポリオレフィン樹脂との親和性の点では、DLCが特に好ましい。
【0045】
珪素の酸化物としては、例えば、SiO
xが挙げられる。ここでxは、無機バリア層(a)の透明性及び水蒸気バリア性を両立させる観点から、1.4<x<2.0が好ましい。また、珪素の酸化物としては、SiOCも挙げることができる。
珪素の窒化物としては、例えば、SiN
yが挙げられる。ここでyは、無機バリア層(a)の透明性及び水蒸気バリア性を両立させる観点から、0.5<y<1.5が好ましい。
珪素の窒化酸化物としては、例えば、SiO
pN
qが挙げられる。ここで、無機バリア層(a)の密着性の向上を重視する場合には、1<p<2.0、0<q<1.0として、無機バリア層(a)を酸素リッチの膜とすることが好ましい。また、無機バリア層(a)の水蒸気バリア性の向上を重視する場合には、0<p<0.8、0.8<q<1.3として、無機バリア層(a)を窒素リッチの膜とすることが好ましい。
【0046】
アルミニウムの酸化物、窒化物及び窒化酸化物としては、例えば、AlO
x、AiN
y、及びAlO
pN
qを挙げることができる。
中でも、無機バリア性の観点からは、SiO
pN
q及びAlO
x、並びにそれらの混合物を、より好ましい材料として用いることができる。
【0047】
無機バリア層(a)の厚みは、好ましくは100nm以上、より好ましくは300nm以上、特に好ましくは500nm以上であり、好ましくは2500nm以下、より好ましくは2000nm以下、特に好ましくは1500nm以下である。無機バリア層(a)の厚みを前記範囲の下限値以上とすることにより、良好なガスバリア性を得ることができる。また、上限値以下とすることにより、十分なガスバリア性を維持しながら複合ガスバリア積層体が黄色等の色に着色されるのを抑えることができる。
【0048】
無機バリア層(a)を形成したフィルム(a)、すなわちガスバリア積層体(A)の水蒸気透過率は、5×10
−2g/m
2・day以下であることが好ましく、2×10
−2g/m
2・day以下であることがより好ましい。一方、水蒸気透過率の下限は、0g/m
2・dayであることが望ましいが、それ以上の値であっても、上記上限以下の範囲内であれば好適に使用しうる。
【0049】
無機バリア層(a)は、例えば、基材となるフィルム(a)の表面に、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法、アーク放電プラズマ蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法等の成膜方法により形成しうる。中でも、熱CVD法、プラズマCVD法等の化学気相成長法を用いることが好ましい。化学気相成長法によれば、製膜に用いるガス成分を調整することにより可撓性のある無機バリア層(a)を形成できる。また、可撓性のある無機バリア層(a)を得ることで、フィルム(a)の変形や高温高湿環境化でのフィルム(a)の寸法変化に無機バリア層(a)が追随することが可能になり、低い真空度の環境で高い製膜レートで製膜可能であり、良好なガスバリア性を実現できる。無機バリア層(a)が、このように化学気相成長法によって形成される場合、厚み下限は300nm以上であることが好ましく、より好ましくは500nm以上であり、上限は2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましい。
【0050】
ガスバリア積層体(A)において、無機バリア層(a)は、フィルム(a)の少なくとも一方の面上に、1層以上が直接設けられる。無機バリア層(a)は、フィルム(a)のおもて面及び裏面の両方の面上に設けられてもよいが、通常は一方の面上に設けられる。また、無機バリア層(a)は、フィルム(a)の一方の面上に、1層のみ設けてもよく、2層以上設けてもよい。2つの無機バリア層の間に別の薄膜有機層があってもよい。製造コスト及び可撓性の確保などの観点からは通常1層のみを設けることが好ましいが、無機バリア層(a)を2層以上設けて、よりガスバリア性能を高めることもできる。無機バリア層(a)を2層以上重ねて設ける場合は、そのうち最もフィルム(a)に近いもののみが、フィルム(a)に直接設けられる。無機バリア層(a)を2層以上重ねて設ける場合は、それらの合計の厚みが前記好ましい厚みの範囲内であることが好ましい。
【0051】
[3.フィルム(b)]
本発明の複合ガスバリア積層体は、フィルム(a)の厚さ以下の厚さを有する脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(b)を備える。
フィルム(b)は、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムである。フィルム(b)を構成する材料の例としては、フィルム(a)を構成する材料の例として挙げたものと同様のものが挙げられる。従って、フィルム(b)の好ましい物性(透明性、ある厚みにおける熱膨張率及び湿度膨張率、並びにガラス転移温度等)の範囲も、フィルム(a)の好ましい物性の範囲と同様としうる。また、フィルム(b)の製造方法の好ましい例としては、フィルム(a)の製造方法の好ましい例と同様のものが挙げられる。
【0052】
フィルム(b)は、フィルム(a)の厚さ以下の厚さを有するフィルムである。フィルム(b)が、フィルム(a)の厚さ以下の厚さを有するフィルムであることにより、複合ガスバリア積層体における、無機バリア層(a)よりフィルム(a)側の厚み領域(以下において「領域A」という場合がある)と、無機バリア層(a)よりフィルム(b)側の、フィルム(b)及び熱溶融層を含む厚み領域(以下において「領域B」という場合がある)との厚みを、均等に近い状態とすることができる。
図1の例で説明すると、領域Aは、フィルム(a)11の、無機バリア層(a)12側の表面11Dから、その反対側の表面11Uまでの領域であり、
図1において矢印Aで示される領域である。一方、領域Bは、熱溶融層30の、無機バリア層(a)側の表面30Uから、フィルム(b)21の、熱溶融層30とは反対側の表面21Dまでの領域であり、
図1において矢印Bで示される領域である。
このように、フィルム(b)がフィルム(a)の厚さ以下の厚さを有するフィルムであり、それにより領域A及び領域Bの厚みが均等に近い状態となることにより、複合ガスバリア積層体が様々な方向に曲げられたときに、無機バリア層(a)にかかる負荷を低減することができ、ひいては、無機バリア層の割れを低減し、ガスバリア性能の低下を抑制することができる。また、領域Aのカールを生じさせる応力と、領域Bのカールを生じさせる応力とが互いに打ち消されるため、複合ガスバリア積層体のカールを安定して防止することができる。
【0053】
フィルム(b)の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。フィルム(b)の厚みは、フィルム(a)の厚みと同様に測定しうる。
【0054】
領域Aの厚みと領域Bの厚みの比は、1:2〜4:1であることが好ましく、2:3〜2:1であることがより好ましい。領域Aの厚みと領域Bの厚みの比を前記範囲内とすることにより、上に述べたガスバリア性能の低下の抑制の効果、及びカールの防止の効果を、特に良好に発現することができる。また、熱溶融層がスチレン系の熱可塑性エラストマー樹脂の層である場合、特にスチレン−共役ジエンブロック共重合体水素化物を含む熱可塑性エラストマー樹脂の層である場合において、領域Aの厚みと領域Bの厚みの比を前記範囲内とすることにより、上に述べたガスバリア性能の低下の抑制の効果、及びカールの防止の効果を、さらに良好に発現することができる。
【0055】
さらに、フィルム(a)とフィルム(b)の厚みの比は、1:1〜5:1であることが好ましく、10:9〜3:1であることがより好ましい。領域Aの厚みと領域Bの厚みの比を前記範囲内とすることにより、上に述べたガスバリア性能の低下の抑制の効果、及びカールの防止の効果を、特に良好に発現することができる。また、熱溶融層がスチレン系の熱可塑性エラストマー樹脂の層である場合、特にスチレン−共役ジエンブロック共重合体水素化物を含む熱可塑性エラストマー樹脂の層である場合において、フィルム(a)の厚みとフィルム(b)の厚みの比を前記範囲内とすることにより、上に述べたガスバリア性能の低下の抑制の効果、及びカールの防止の効果を、さらに良好に発現することができる。
【0056】
本発明の複合ガスバリア積層体は、その好ましい態様として、ガスバリアの機能に加えて、1/4λ波長板としての機能を有するものとしうる。当該態様においては、フィルム(a)及びフィルム(b)として、1/4λ波長板としての機能を発現しうる面内方向のリターデーションを有するものを用いうる。即ち、可視光線の波長範囲の中心である550nmにおける面内方向のリターデーション(以下において、単に「Re」という場合がある。)が、フィルム(a)及びフィルム(b)の合計で115〜160nmであるものを用いうる。当該態様において、フィルム(a)とフィルム(b)のReの比は、特に限定されないが、製造の容易さ、光学設計の容易さ等の観点から、フィルム(a)及びフィルム(b)の一方のReが1/4λ波長板として機能しうる値であり、他方が等方に近いものであることが好ましい。具体的には、フィルム(a)及びフィルム(b)の一方のReが115〜160nmであって、もう一方がのRe(550nm)が0〜25nmであることが好ましい。このようなリターデーションを有するフィルム(a)及び(b)は、例えば、フィルムの製造において、延伸の条件を適宜調節することにより製造しうる。
【0057】
[4.熱溶融層]
本発明の複合ガスバリア積層体は、無機バリア層(a)及びフィルム(b)の間に介在し、無機バリア層及びフィルム(b)を貼合する熱溶融層を備える。
図1に示す例では、複合ガスバリア積層体100においては、ガスバリア積層体(A)10とフィルム(b)21とが、無機バリア層(a)12とフィルム(b)21とが対向するように、熱溶融層30を介して加熱圧着されている。フィルム(b)21及び熱溶融層30を含む領域Bと、フィルム(a)を含む領域Aとが、無機バリア層(a)12が両側に存在し、これらの厚みが均等に近い状態になるため、ガスバリア性能の低下の抑制、及びカールの防止の効果を得ることができる。
【0058】
熱溶融層とは、加熱することにより、柔軟性が増し、大きな接着性を生じ、加熱圧着により他の層と接着し、冷却後もその接着力を維持する層であり、通常そのような特性を有する樹脂の層である。
【0059】
通常、熱溶融層は、応力を与えられた場合にその応力に応じて変形しうる。したがって、例えば複合ガスバリア積層体100を折り曲げた場合又はヒートショックが与えられた場合などのように、ガスバリア積層体(A)10又はフィルム(b)21に応力が生じた場合でも、熱溶融層30は変形によりその応力を吸収できる。したがって、無機バリア層(a)12の一部に大きな応力が集中することを抑制できるので、無機バリア層(a)12のクラックの発生を防止できる。そのため、複合ガスバリア積層体100のガスバリア性を良好に維持することができる。これは、例えばUV硬化樹脂を接着剤として用いて接着を行った場合には、硬化後のUV硬化樹脂の硬度が高く応力により変形できないので、無機バリア層(a)のクラックが容易に生じることに比べ、優れた効果である。
【0060】
また、熱溶融層は一般に、残留溶媒を含まないか、含むとしても一般的な粘着剤に比べてその量は少ないので、アウトガスが少ない。したがって、熱溶融層は、低圧環境下においてガスを発生し難いので、複合ガスバリア積層体自体がガスの発生源となってガスバリア性が損なわれることが少ない。これは、例えば粘着剤を用いてガスバリア積層体(A)とフィルム(b)とを貼り合わせた場合には、粘着剤が溶媒を含むためにアウトガスの量が多くなることに比べ、優れた効果である。
【0061】
前記の利点は、複合ガスバリア積層体を有機EL素子に設ける場合に、特に有用である。例えば有機EL素子を製造する場合には、複合ガスバリア積層体を基材として用い、この基材上に有機材料の層を形成する工程を行うことがある。ここで、有機材料の層を形成する工程では、大きな温度変化を生じたり、基材を低圧環境に置いたりすることがある。この際、熱溶融層によりガスバリア積層体(A)とフィルム(b)とを加熱圧着すれば、クラック及びアウトガスの発生を抑制して、ガスバリア性を高く維持することができる。
【0062】
熱溶融層としては、スチレン系熱可塑性エレストマー樹脂、オレフィン系熱可塑性エレストマー樹脂、塩化ビニル系熱可塑性エレストマー樹脂、ポリエステル系熱可塑性エレストマー樹脂、ウレタン系熱可塑性エレストマー樹脂などの層が挙げられる。特に好ましくは、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の層である。スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂とは、スチレン系熱可塑性エラストマーと、必要に応じてその他の任意の成分とを含有する樹脂である。また、スチレン系熱可塑性エラストマーとは、その分子の構造単位として、芳香族ビニル化合物単位を有する熱可塑性エラストマーである。ここで芳香族ビニル化合物単位とは、スチレン等の芳香族ビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。また、熱可塑性エラストマーとは、加硫処理をしなくても室温でゴム弾性を有する重合体であり、高温では通常の熱可塑性樹脂と同じく、既存の成形機を使用して成形可能な重合体である。熱可塑性エラストマーは、一般に、分子中に弾性を有するゴム成分(即ちソフトセグメント)と、塑性変形を防止するための分子拘束成分(即ちハードセグメント)とを有している。スチレン系熱可塑性エラストマーは、通常、ハードセグメントとして前記の芳香族ビニル化合物単位を有している。
【0063】
スチレン系熱可塑性エラストマーの好ましい例としては、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体及びその水素化物が挙げられる。ここで、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物単位を含む重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物単位を含む重合体ブロック[B]とからなるブロック共重合体のことをいう。また、鎖状共役ジエン化合物単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。これらのブロック共重合体及びその水素化物は、例えばアルコキシシラン、カルボン酸、カルボン酸無水物等で変性されていていてもよい。中でも、芳香族ビニル化合物としてスチレンを用いた芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体(以下、適宜「スチレン−共役ジエンブロック共重合体」ということがある。)及びその水素化物が好ましく、スチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素化物が特に好ましい。以下、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体及びその水素化物について、具体的に説明する。
【0064】
前記の通り、重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位を含む。この芳香族ビニル化合物単位に対応する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、4−モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、4−モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレンなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、吸湿性の面で極性基を含有しないものが好ましい。更に、工業的入手のし易さ、耐衝撃性の観点から、スチレンが特に好ましい。
【0065】
重合体ブロック[A]において、芳香族ビニル化合物単位は通常は主成分となっている。具体的には、重合体ブロック[A]における芳香族ビニル化合物単位の含有率は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック[A]において芳香族ビニル化合物単位の量を前記のように多くすることにより、複合ガスバリア積層体の耐熱性を高めることができる。
【0066】
また、重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位以外の成分を含んでいてもよい。芳香族ビニル化合物単位以外の成分としては、例えば、鎖状共役ジエン化合物単位、芳香族ビニル化合物以外のビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位、などが挙げられる。
【0067】
鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、吸湿性の面で極性基を含有しないものが好ましく、具体的には1,3−ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0068】
芳香族ビニル化合物以外のビニル化合物としては、例えば、鎖状ビニル化合物;環状ビニル化合物;ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、又はハロゲン基を有するビニル化合物;不飽和の環状酸無水物;不飽和イミド化合物などが挙げられる。好ましい例を挙げると、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、4,6−ジメチル−1−ヘプテン等の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン等の環状オレフィン;などの、極性基を含有しないものが吸湿性の面で好ましい。中でも、鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
重合体ブロック[A]における芳香族ビニル化合物単位以外の成分の含有率は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
【0070】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体における重合体ブロック[A]の数は、通常2個以上であり、通常5個以下、好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下である。複数個ある重合体ブロック[A]は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0071】
前記の通り、重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位を含む。この鎖状共役ジエン化合物単位としては、例えば、重合体ブロック[A]に含まれていてもよいものとして例示したものが、同様に挙げられる。
【0072】
重合体ブロック[B]において、鎖状共役ジエン化合物単位は通常は主成分となっている。具体的には、重合体ブロック[B]における鎖状共役ジエン化合物単位の含有率は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。重合体ブロック[B]において鎖状共役ジエン化合物単位の量を前記のように多くすることにより、複合ガスバリア積層体の低温での耐衝撃性を向上させることができる。
【0073】
また、重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位以外の成分を含んでいてもよい。鎖状共役ジエン化合物単位以外の成分としては、例えば、芳香族ビニル化合物単位、並びに、芳香族ビニル化合物以外のビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位などが挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物単位、並びに、芳香族ビニル化合物以外のビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位は、例えば、重合体ブロック[A]に含まれていてもよいものとして例示したものが、同様に挙げられる。
【0074】
重合体ブロック[B]における鎖状共役ジエン化合物単位以外の成分の含有率は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。特に、重合体ブロック[B]における芳香族ビニル化合物単位の含有率を低くすることにより、熱溶融層の低温での柔軟性を向上させて、複合ガスバリア積層体の低温での耐衝撃性を向上させることができる。
【0075】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体における重合体ブロック[B]の数は、通常1個以上であるが、2個以上であってもよい。芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体における重合体ブロック[B]の数が2個以上である場合、重合体ブロック[B]は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0076】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもよく、ラジアル型ブロックでもよい。中でも、鎖状型ブロックが、機械的強度に優れ、好ましい。芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の特に好ましい形態は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体;重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に、該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体である。
【0077】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体において、全重合体ブロック[A]が芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]が芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとする。このとき、wAとwBとの比(wA/wB)は、好ましくは20/80以上、より好ましくは35/65以上、特に好ましくは40/60以上であり、好ましくは80/20以下、より好ましくは65/35以下、特に好ましくは60/40以下である。wA/wBを前記範囲の下限値以上とすることにより、複合ガスバリア積層体の耐熱性を向上させることができる。また、上限値以下とすることにより、熱溶融層の柔軟性を高めて、複合ガスバリア積層体100のガスバリア性を安定して良好に維持することができる。
【0078】
重合体ブロック[A]又は重合体ブロック[B]が複数存在する場合、重合体ブロック[A]の中で重量平均分子量が最大の重合体ブロック及び最少の重合体ブロックの重量平均分子量をそれぞれMw(A1)及びMw(A2)とし、重合体ブロック[B]の中で重量平均分子量が最大の重合体ブロック及び最少の重合体ブロックの重量平均分子量をそれぞれMw(B1)及びMw(B2)とする。このとき、Mw(A1)とMw(A2)との比「Mw(A1)/Mw(A2)」、及び、Mw(B1)とMw(B2)との比「Mw(B1)/Mw(B2)」は、それぞれ、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下である。これにより、各種物性値のばらつきを小さく抑えることができる。
【0079】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常30,000以上、好ましくは40,000以上、より好ましくは50,000以上であり、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。また、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。
【0080】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の製造方法は、例えば3つの重合体ブロックを有するブロック共重合体を製造する場合、重合体ブロック[A]を形成させるモノマー成分として、芳香族ビニル化合物を含有するモノマー混合物(a1)を重合させる第1工程と、重合体ブロック[B]を形成させるモノマー成分として、鎖状共役ジエン化合物を含有するモノマー混合物(b1)を重合させる第2工程と、重合体ブロック[A]を形成させるモノマー成分として、芳香族ビニル化合物を含有するモノマー混合物(a2)(ただし、モノマー混合物(a1)とモノマー混合物(a2)は同一でも異なっていてもよい。)を重合させる第3工程とを有する方法;重合体ブロック[A]を形成させるモノマー成分として、芳香族ビニル化合物を含有するモノマー混合物(a1)を重合させる第1工程と、重合体ブロック[B]を形成させるモノマー成分として、鎖状共役ジエン化合物を含有するモノマー混合物(b1)を重合させる第2工程と、重合体ブロック[B]の末端同士を、カップリング剤によりカップリングさせる方法;などがある。
【0081】
上記モノマー混合物を重合してそれぞれの重合体ブロックを得る方法としては、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位アニオン重合、配位カチオン重合などを用いうる。重合操作及び後工程での水素化反応を容易にする観点では、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などを、リビング重合により行う方法が好ましく、リビングアニオン重合により行う方法が特に好ましい。
【0082】
前記のモノマー混合物の重合は、重合開始剤の存在下で、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下の温度範囲において行う。
リビングアニオン重合の場合は、重合開始剤として、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム等のモノ有機リチウム;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン等の多官能性有機リチウム化合物;などが使用可能である。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0083】
重合反応の形態は、溶液重合、スラリー重合などのいずれでも構わない。中でも、溶液重合を用いると、反応熱の除去が容易である。
溶液重合を行う場合、溶媒としては、各工程で得られる重合体が溶解しうる不活性溶媒を用いる。不活性溶媒としては、例えば、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、溶媒として脂環式炭化水素類を用いると、水素化反応にも不活性な溶媒としてそのまま使用でき、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の溶解性も良好であるため、好ましい。溶媒の使用量は、全使用モノマー100重量部に対して、通常200重量部〜2000重量部である。
【0084】
それぞれのモノマー混合物が2種以上のモノマーを含む場合、ある1成分の連鎖だけが長くなるのを防止するために、例えばランダマイザーを使用しうる。特に重合反応をアニオン重合により行う場合には、例えばルイス塩基化合物等をランダマイザーとして使用することが好ましい。ルイス塩基化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の第3級アミン化合物;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシド等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0085】
前記の芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体は、水素化して使用することが、好ましい。芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物を熱溶融層を構成する樹脂として用いることにより、熱溶融層からのアウトガスの発生量を更に小さくできる。
【0086】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合、並びに芳香環の炭素−炭素不飽和結合を水素化したものである。その水素化率は、通常90%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上である。水素化率が高いほど、熱溶融層の耐熱性及び耐光性を良好にできる。ここで、水素化物の水素化率は、
1H−NMRによる測定により求めることができる。
【0087】
特に、主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。主鎖及び側鎖の炭素−炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、熱溶融層の耐光性及び耐酸化性を更に高くできる。
また、芳香環の炭素−炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香環の炭素−炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、重合体ブロック[A]を水素化して得られる重合体ブロックのガラス転移温度が高くなるので、複合ガスバリア積層体の耐熱性を効果的に高めることができる。
【0088】
具体的な水素化方法は、所望の水素化物が得られる限り制限は無いが、水素化率を高くでき、ブロック共重合体の鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような好ましい水素化方法としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む水素化触媒を用いて行う方法が挙げられる。水素化触媒は、不均一系触媒、均一系触媒のいずれも使用可能である。また、水素化反応は、有機溶媒中で行うのが好ましい。
【0089】
不均一系触媒は、例えば、金属又は金属化合物のままで用いてもよく、適切な担体に担持して用いてもよい。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ケイソウ土、炭化珪素、フッ化カルシウムなどが挙げられる。触媒の担持量は、触媒及び担体の合計量に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、通常60重量%以下、好ましくは50重量%以下である。また、担持型触媒の比表面積は、好ましくは100m
2/g〜500m
2/gである。さらに、担持型触媒の平均細孔径は、好ましくは100Å以上、より好ましくは200Å以上であり、好ましくは1000Å以下、好ましくは500Å以下である。ここで、比表面積は、窒素吸着量を測定しBET式を用いて求められる。また、平均細孔径は、水銀圧入法により測定しうる。
【0090】
均一系触媒としては、例えば、ニッケル、コバルト、チタン又は鉄の化合物と有機金属化合物とを組み合わせた触媒;ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウム等の有機金属錯体触媒;などを用いることができる。
ニッケル、コバルト、チタン又は鉄の化合物としては、例えば、各金属のアセチルアセトナト化合物、カルボン酸塩、シクロペンタジエニル化合物等が挙げられる。
また、有機金属化合物としては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等のハロゲン化アルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素化アルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物;並びに有機リチウム化合物などが挙げられる。
有機金属錯体触媒としては、例えば、ジヒドリド−テトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドリド−テトラキス(トリフェニルホスフィン)鉄、ビス(シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル等の遷移金属錯体が挙げられる。
【0091】
これらの水素化触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
水素化触媒の使用量は、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、通常100重量部以下、好ましくは50重量部以下、より好ましくは30重量部以下である。
【0092】
水素化反応の温度は、通常10℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下であるときに、水素化率が高くなり、分子切断も減少する。また、水素化反応時の水素圧力は、通常0.1MPa以上、好ましくは1MPa以上、より好ましくは2MPa以上であり、通常30MPa以下、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下であるときに、水素化率が高くなり、分子鎖切断も減少し、操作性にも優れる。
【0093】
上記した方法で得られる芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物は、水素化触媒及び重合触媒を、水素化物を含む反応溶液から例えば濾過、遠心分離などの方法により除去した後、反応溶液から回収される。反応溶液から水素化物を回収する方法としては、例えば、水素化物が溶解した溶液からスチームストリッピングにより溶媒を除去するスチーム凝固法;減圧加熱下で溶媒を除去する直接脱溶媒法;水素化物の貧溶媒中に溶液を注いで析出及び凝固させる凝固法などが挙げられる。
【0094】
回収された芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物の形態は限定されるものではないが、その後の成形加工又は変性反応に供し易いように、ペレット形状とするのが通常である。直接脱溶媒法により反応溶液から水素化物を回収した場合、例えば、溶融状態の水素化物をダイスからストランド状に押し出し、冷却後、ペレタイザーでカッティングしてペレット状にして、各種の成形に供してもよい。また、凝固法を用いる場合は、例えば、得られた凝固物を乾燥した後、押出機により溶融状態で押し出し、上記と同様にペレット状にして各種の成形又は変性反応に供してもよい。
【0095】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物の分子量は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常30,000以上、好ましくは40,000以上、より好ましくは45,000以上であり、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。また、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。水素化物の分子量及び分子量分布を前記の範囲に収めることにより、複合ガスバリア積層体の機械強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0096】
芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物は、アルコキシシリル基を有するものとしうる。かかるアルコキシシリル基を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物は、ブロック共重合体の水素化反応の後、反応生成物に対し、必要に応じてアルコキシシランによる変性の操作を行ない、アルコキシシリル基を導入することにより製造することができる。
アルコキシシリル基は、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物に直接結合していても、アルキレン基などの2価の有機基を介して結合していても良い。アルコキシシリル基の導入方法としては、通常、上記の芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物とエチレン性不飽和シラン化合物とを過酸化物の存在下で反応させる方法を採用しうる。アルコキシシリル基の導入量が多すぎると、微量の水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が高くなり、封止対象との接着性が低下し易くなるという問題を生じる。この観点から、アルコキシシリル基を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物を芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物として用いる場合、アルコキシシリル基の導入量は、かかる基の導入前の芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物の重量に対し、通常0.1〜10g/100g、好ましくは0.2〜5g/100g、より好ましくは0.3〜3g/100gである。アルコキシシリル基の導入量は、
1H−NMRスペクトル(導入量が少ない場合は積算回数を増やす)にて算出される。
【0097】
エチレン性不飽和シラン化合物としては、特に限定されず、上記の芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物とグラフト重合し、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物にアルコキシシリル基を導入しうるものを適宜選択しうる。エチレン性不飽和シラン化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及び2−ノルボルネン−5−イルトリメトキシシランなどのエチレン性不飽和シラン化合物から選択される少なくとも1種類を挙げることができる。本発明においては、中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p−スチリルトリメトキシシランが好適に用いられる。
【0098】
これらのエチレン性不飽和シラン化合物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。エチレン性不飽和シラン化合物の使用量は、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.3〜3重量部である。
【0099】
過酸化物としては、例えば、ジベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシヘキサン)、ジ−t−ブチルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、p−メンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物から選択される1種類以上を用いることができる。本発明においては、中でも、1分間半減期温度が170〜190℃のものが好ましく使用され、例えば、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシヘキサン)、ジ−t−ブチルパーオキシドなどが好適に用いられる。
【0100】
これらの過酸化物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。過酸化物の使用量は、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.2〜3重量部、より好ましくは0.3〜2重量部である。
【0101】
上記の芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物とエチレン性不飽和シラン化合物とを過酸化物の存在下で反応させる方法は、過熱混練機や反応器を用いて行うことができる。例えば、芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物とエチレン性不飽和シラン化合物と過酸化物との混合物を、二軸混練機にてブロック共重合体の溶融温度以上で加熱溶融させて、所望の時間混練することにより変性することができる。本発明のブロック共重合体では、その温度は、通常180〜240℃、好ましくは190〜230℃、より好ましくは200〜220℃である。加熱混練時間は、通常0.1〜15分、好ましくは0.2〜10分、より好ましくは0.3〜5分程度である。二軸混練機、短軸押出し機などの連続混練設備を使用する場合は、滞留時間が上記範囲になるようにして、連続的に混練、押出しを行いうる。
【0102】
アルコキシシリル基を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物の分子量は、導入されるアルコキシシリル基の量が少ないため、アルコキシシリル基導入前の芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物の分子量から大きく変化しない。但し、過酸化物の存在下で変性反応させるため、重合体の架橋反応、切断反応も併発し、分子量分布は大きくなる。アルコキシシリル基を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体の水素化物の分子量は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常(30,000〜200,000)、好ましくは(40,000〜150,000)、より好ましくは(50,000〜120,000)、分子量分布(Mw/Mn)は、通常3.5以下、好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。MwおよびMw/Mnがこの範囲であると、本発明の複合ガスバリア積層体の良好な機械強度や引張り伸びが維持される。本願において、分子量は例えば以下のGPCの測定条件により測定されうる。GPCにより重量平均分子量を測定する場合のカラムとしてはTSKgroundColumn Super H−H、TSKgel Super H5000、TSKgel Super H4000、又はTSKgel Super H2000(いずれも東ソー株式会社製)を用い、測定時のカラム恒温槽温度は40℃としうる。上記のようにして得られた変性重合体は、他の層との接着性が改善され、本発明の複合ガスバリア積層体の強度を向上させうる。
【0103】
スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が含有しうる任意の成分としては、例えば、耐候性や耐熱性などを向上させるための光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、無機フィラーなどが挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0104】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく、構造中に例えば3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジル基、又は、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル基などを有している化合物が特に好ましい。
【0105】
光安定剤の具体例としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物、1,6−ヘキサンジアミン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸−ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸−ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、4−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−1−(2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(1−ベンジル−2−フェニルエチル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(2−(1−ピロリジル)エチル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(2−(4−モルホリニル)エチル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−(2−(4−モルホリニル)エチル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(2−(ジイソプロピルアミノ)エチル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(2,4,6−トリメチルベンジル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(3−(2−エチルヘキソキシ)プロピル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(3,4−(メチレンジオキシ)ベンジル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−(ビシクロ〔2.2.1〕ヘプチル)−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−1,2,2−トリメチルプロピル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−1、3−ジメチルブチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−1−ベンジルエチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−2,2−ジメチルプロピル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−2−エチルヘキシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−3−メチルブチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−4−ヒドロキシブチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−4−ヒドロキシブチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−i−プロピル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−i−プロピル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−t−ブチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−イソプロピルベンジル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−エトキシエチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−エトキシプロピル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−オクタデシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−オクチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−オクチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−クロロベンジル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−ジエチルアミノエチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−シクロドデシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−シクロヘキシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルカルボニルピペリジン、4−(N−シクロヘキシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピリジン、4−(N−シクロヘキシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピリジン、4−(N−シクロペンチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−シクロペンチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−ジメチルアミノプロピル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−デシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−デシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−ドデシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−ピリジニルメチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−フェニルエチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピリジン、4−(N−フェニルエチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピリジン、4−(N−ブチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−ブチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−フルオロベンジル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−ヘキシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−ヘキシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−ペンチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(N−ペンチル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−メチルシクロヘキシル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピリジン、4−(N−メチルベンジル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(N−メトキシベンジル−N−ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、4−(ホルミルアミノ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、
【0106】
4−〔N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N−ホルミルアミノ〕−2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピリジン、4−〔N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N−ホルミルアミノ〕−2,2,6,6−テトラメチルピリジン、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−アミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4ーN−メチルピペリジル)−N,N’−ジホルミル−1,4−キシリレンジアミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−N−メチルピペリジル)−N,N’−ジホルミル−トリメチレンジアミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4ーN−メチルピペリジル)−N,N’−ジホルミル−ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−N−メチルピペリジル)−N,N’−ジホルミル−エチレンジアミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ジホルミル−1,4−キシリレンジアミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ジホルミルエチレンジアミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ジホルミル−トリメチレンジアミン、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ジホルミルヘキサメチレンジアミン、
【0107】
N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンアクリル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンアラキン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンアンゲリカ酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンウンデシル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンウンデシレン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンオレイン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンガドレイン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンカプリル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンカプリン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンカプロン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンクロトン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンシトロネル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンステアリン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンゾマーリン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレントリデシル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンノナデシル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンパルチミン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンブレンツテレビン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンプロピオン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンヘプタン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンベヘン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンペラルゴン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンペンタデシル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンマルガリン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンミリスチン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンラウリン酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレンリンデル酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレン吉草酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレン酢酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレン抹香酸アミド、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスヘキサメチレン酪酸アミド、
【0108】
コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ポリ〔(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、ポリ〔{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,6−ヘキサンジアミンと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重合体とN−ブチル−1−ブタンアミンとN−ブチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジンアミンとの反応生成物などが挙げられる。
【0109】
これらの中でも、耐候性に優れる点で、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−N−メチルピペリジル)−N,N’−ジホルミル−アルキレンジアミン類、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ジホルミルアルキレンジアミン類、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ビスアルキレン脂肪酸アミド類、ポリ〔{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕が好ましく、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ジホルミルアルキレンジアミン類、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,6−ヘキサンジアミンと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重合体とN−ブチル−1−ブタンアミンとN−ブチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジンアミンとの反応生成物が特に好ましい。
【0110】
光安定剤の量は、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.02重量部以上、より好ましくは0.03重量部以上であり、通常5重量部以下、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1重量部以下である。光安定剤の量を前記範囲の下限値以上とすることにより耐候性を高くできる。また、上限値以下とすることにより、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂をフィルム状に成形する溶融成形加工時に、押出し機のTダイや冷却ロールの汚れを防止でき、加工性を高めることができる。
【0111】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸3水和物、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、4−ドデカロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0112】
また、サリチル酸系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサルチレート、4−t−ブチルフェニル−2−ヒドロキシベンゾエート、フェニル−2−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
【0113】
また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタリミジルメチル)フェノール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]]などが挙げられる。
【0114】
紫外線吸収剤の量は、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.02重量部以上、より好ましくは0.04重量部以上であり、通常1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。紫外線吸収剤を前記範囲の下限値以上用いることにより耐光性を改善することができるが、上限を超えて過剰に用いても、更なる改善は得られ難い。
【0115】
酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、フェノ−ル系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられ、着色がより少ないリン系酸化防止剤が好ましい。
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物;6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン、6−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンなどの化合物を挙げることができる。
【0116】
フェノ−ル系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなど化合物を挙げることができる。
【0117】
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどなど化合物を挙げることができる。
【0118】
酸化防止剤の量は、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、通常1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。酸化防止剤を前記範囲の下限値以上用いることにより熱安定性を改善することができるが、上限を超えて過剰に用いても、更なる改善は得られ難い。
【0119】
スチレン系熱可塑性エラストマーと前記任意の成分とを混合する方法は、例えば、任意の成分を適切な溶媒に溶解してスチレン系熱可塑性エラストマーの溶液と混合した後、溶媒を除去して任意の成分を含むスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を回収する方法;例えば二軸混錬機、ロール、ブラベンダー、押出機などでスチレン系熱可塑性エラストマーを溶融状態にして任意の成分を混練する方法;などが挙げられる。
【0120】
スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は、高い透明性を有するものに必ずしも限られない。ただし、複合ガスバリア積層体を有機EL素子において光を透過することが求められる部分に用いうる有用なものとするという観点から、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は、高い透明性を有するものが好ましい。例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を厚み1mmの試験片として測定した全光線透過率が、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であるものが好ましい。
【0121】
熱溶融層の厚みは、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、特に好ましくは10μm以上であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。熱溶融層の厚みを前記範囲の下限値以上とするとことにより、押出成形法による熱溶融樹脂のフィルムの製造が可能となる。また、この程度の厚みがあれば、仮に熱溶融層に小さい異物が混入しても、その異物により熱溶融層の厚みが不均一となることを防止できる。また、上限値以下とすることにより、貼り合せ後の撓みが抑えられて均一な複合ガスバリア積層体が形成でき、また、複合ガスバリア積層体の厚みを薄くできる。
【0122】
熱溶融層のガラス転移温度、即ち熱溶融層を構成する熱溶融樹脂のガラス転移温度は、フィルム(a)及びフィルム(b)を構成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度より低い。具体的には、熱溶融層を構成する熱溶融樹脂のガラス転移温度をTgA、フィルム(a)及びフィルム(b)を構成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度をTgBとすると、TgB−TgAは、25℃以上であり、好ましくは40℃以上である。TgB−TgAの値の上限は、特に限定されないが、例えば120℃以下としうる。フィルム(a)およびフィルム(b)のガラス転移温度(Tg)は示差走査熱量測定 (DSC)によって測定しうる。また熱溶融層のガラス転移温度は、レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製粘弾性測定装置ARES−2KFRTN1E−FCO−SG−STDを用いてJIS K7121に基づいて測定しうる。熱溶融樹脂としてブロック共重合体を含む樹脂を用いた場合には、その樹脂が複数のガラス転移温度を有する場合があり得る。その場合は、樹脂の最も高いガラス転移温度をTgAとした場合に前記好ましい条件を満たすことが好ましい。また、フィルム(a)を構成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度とフィルム(b)を構成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度とが異なる場合は、これらのうちの低い方をTgBとした場合に前記好ましい条件を満たすことが好ましい。熱溶融樹脂のガラス転移温度と、フィルム(a)及びフィルム(b)を構成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度とが、前記好ましい条件を満たすことにより、複合ガスバリア積層体の製造における加熱圧着の工程において、フィルム(a)及びフィルム(b)の光学的特性(Re等)の変動が発生することを容易に低減することができ、高品質な複合ガスバリア積層体を容易に製造することが可能となる。
【0123】
熱溶融層は、長尺のフィルムとして用意し、このフィルムを用いて複合ガスバリア積層体の製造を行ないうる。熱溶融樹脂のフィルムの製造方法に特に制限は無く、例えば、溶融成形法、溶液流延法のいずれを用いてもよい。溶融成形法は、さらに詳細に、押出成形法、例えばプレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの方法の中でも、機械強度、表面精度等に優れたフィルムを得るために、押出成形法、インフレーション成形法又はプレス成形法が好ましく、中でも効率よく簡単にフィルムを製造できる観点から、押出成形法が特に好ましい。また押出成型直後に、ガスバリア積層体(A)またはフィルム(b)とニップしながらラミネートすることで薄い熱溶融層を形成することができる。
【0124】
[5.任意の層]
複合ガスバリア積層体は、上述した以外にも、必要に応じて任意の構成要素を備えていてもよい。
例えば、複合ガスバリア積層体の一方の外側の面に、ブロッキング防止層が形成されていてもよい。ブロッキング防止層を形成することにより、複合ガスバリア積層体のブロッキングを防止することができる。また、複合ガスバリア積層体の保存時及び運搬時に、複合ガスバリア積層体の表面を保護することもできる。ブロッキング防止層は、例えば、シリコーン系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤、フッ素系剥離剤、硫化モリブデン等の剥離剤をコートする方法;不活性粒子等の滑剤を含む樹脂層を形成する方法;などにより、形成しうる。
【0125】
複合ガスバリア積層体の外側の面は、通常、フィルム(a)の無機バリア層(a)とは反対側の表面、及びフィルム(b)の、熱溶融層とは反対側の表面に相当する。そのため、ブロッキング防止層は、通常、前記のフィルム(a)の無機バリア層(a)とは反対側の表面又はフィルム(b)の熱溶融層とは反対側の表面に形成する。ここで、ブロッキングはフィルム(a)又はフィルム(b)の表面に他の層を形成するよりも前の時点で生じやすいので、ブロッキング防止層は、フィルム(a)又はフィルム(b)の表面に無機バリア層(a)又は熱溶融層を設ける工程よりも前に行うことが好ましい。
【0126】
また、複合ガスバリア積層体は、例えば、帯電防止層、ハードコート層、導電性付与層、汚染防止層、凹凸構造層などを備えていてもよい。このうち導電性付与層は、印刷あるいはエッチングによりパターニングされたものであってもよい。かかる任意の層は、例えば、フィルム(a)又はフィルム(b)上にかかる任意の層の材料を塗布し硬化させる方法;熱圧着により貼り付けする方法により形成しうる。
【0127】
[6.複合ガスバリア積層体の物性]
複合ガスバリア積層体の全体としての水蒸気透過率は、好ましくは5×10
−2g/m
2・day以下であり、より好ましくは2×10
−3g/m
2以下である。また、下限は理想的にはゼロであるが、現実的には1×10
−6g/m
2・day以上である。このような水蒸気透過率は、無機層及びその他の層の材質及び厚みを適切に選択することにより、達成しうる。
【0128】
複合ガスバリア積層体は、柔軟で可撓性に優れる。そのため、複合ガスバリア積層体を折り曲げても、容易には亀裂を生じない。したがって、外力によるガスバリア性の低下を生じ難い。特に、複合ガスバリア積層体は、多くの回数屈曲された後でも、そのガスバリア性が損なわれ難い。具体的には、曲げ直径25.4mmΦで250回屈曲させる屈曲試験を行った後であっても、通常、その水蒸気透過率を前記のように低い範囲に収めることができる。さらに、複合ガスバリア積層体は、通常、低圧環境に置いた場合でもアウトガスの発生量が少ない。このように、複合ガスバリア積層体は、高いガスバリア性を有し、高温又は低圧の環境においてもそのガスバリア性を良好に維持することができるので、優れた耐候性を有する。
【0129】
複合ガスバリア積層体は、カールを生じ難い。そのため、下記の測定方法により求められるカール量を、通常1mm以下と小さくすることができる。
ここで、カール量は、次の方法により測定しうる。まず、サンプルを5cm角に打ち抜く。打ち抜かれたサンプル片を水平な台の上に配置する。この際、鉛直上方に凹状のカールが生じる向きで、サンプル片を配置する。配置されたサンプル片のコーナー部4点の、台からの距離を測定する。測定された4点における距離の平均値を計算し、この平均値をカール量とする。
【0130】
複合ガスバリア積層体において、ガスバリア積層体(A)とフィルム(b)との接着力は、作製直後の接着力で、好ましくは1.0N/cm以上、より好ましくは2.0N/cm以上である。
【0131】
複合ガスバリア積層体の透明性は、特に限定されない。ただし、複合ガスバリア積層体を有機EL素子において光を透過することが求められる部分に用いうる有用なものとするという観点から、複合ガスバリア積層体の全光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
【0132】
複合ガスバリア積層体全体のヘイズは、特に限定されないが、光を拡散させることを特段意図しない光学的用途に用いる場合、ヘイズは一般的には低い方が好ましく、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。
【0133】
本発明の複合ガスバリア積層体全体の厚さは、好ましくは20μm以上、より好ましくは50μm以上であり、一方好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下である。特にフィルム(b)の厚さが30μm以下であり、複合ガスバリア積層体全体の厚さが100μm以下といった薄い積層体とした場合、可撓性に優れ、曲げられた際のガスバリア性能の低下が少ないという本願の効果をより良好に得ることができる。
【0134】
[7.複合ガスバリア積層体の製造方法]
複合ガスバリア積層体は、任意の方法で製造しうる。通常、複合ガスバリア積層体は、ガスバリア積層体(A)及びフィルム(b)を調製した後に、これを、熱溶融樹脂を介して一体化させることにより製造しうる。具体的には、下記製造方法(i)、製造方法(ii)及び製造方法(iii)が挙げられる。製造方法(ii)は熱溶融樹脂のフィルム(C)を押出成形法で形成し、製造方法(i)の加熱圧着させる工程を2段階に分ける方法であり、薄い熱溶融樹脂を形成できる。
製造方法(i):フィルム(a)の少なくとも一方の面上に、無機バリア層(a)を直接形成して、ガスバリア積層体(A)を得る工程と、
ガスバリア積層体(A)、フィルム(b)、及び熱溶融樹脂のフィルム(c)を、フィルム(a)、無機バリア層(a)、フィルム(c)、及びフィルム(b)がこの順になるように重ね、加熱圧着させる工程と
を含む製造方法。
製造方法(ii):フィルム(a)の少なくとも一方の面上に、無機バリア層(a)を直接形成して、ガスバリア積層体(A)を得る工程と、
熱溶融樹脂が押出成形された直後のニップロールで、前記熱溶融樹脂層とガスバリア積層体(A)の無機バリア層(a)側の面またはフィルム(b)を加熱圧着する工程と、
前記熱溶融層を加熱圧着したガスバリア積層体(A)またはフィルム(b)と、熱溶融層を形成していないフィルム(b)またはガスバリア積層体(A)またはフィルム(b)を、フィルム(a)、無機バリア層(a)、熱溶融層、及びフィルム(b)がこの順になるように重ね、加熱圧着させる工程とを含む製造方法。
製造方法(iii):フィルム(a)の少なくとも一方の面上に、無機バリア層(a)を直接形成して、ガスバリア積層体(A)を得る工程と、
ガスバリア積層体(A)の無機バリア層(a)側の面、フィルム(b)の一方の面、又はこれらの面の両方に、液体状の熱溶融樹脂を塗布し、必要に応じて乾燥させ、熱溶融層を形成する工程と、
ガスバリア積層体(A)及びフィルム(b)(その一方又は両方が、熱溶融層をさらに有する)を、フィルム(a)、無機バリア層(a)、熱溶融層、及びフィルム(b)がこの順になるように重ね、加熱圧着させる工程と
を含む製造方法。
【0135】
以下の製造方法の説明においては、前記製造方法(i)を、本発明の製造方法として説明する。
【0136】
製造方法(i)によれば、ガスバリア積層体(A)とフィルム(b)とを、熱溶融樹脂のフィルム(c)で接着するので、貼り合せが容易である。例えば、ガスバリア積層体(A)とフィルム(b)とを流体状の接着剤で接着する場合、ガスバリア積層体(A)及びフィルム(b)はそれぞれ単独ではカールを生じ易いので、均一な貼り合せが難しい。これに対し、フィルム状に成形した熱溶融樹脂のフィルムで接着を行えば、前記の貼り合せが容易になり、複合ガスバリア積層体の安定した製造が可能となる。
【0137】
フィルム(a)の表面に無機バリア層(a)を形成する方法は、無機バリア層(a)の項において説明した通りである。通常、得られるガスバリア積層体(A)は長尺のフィルムとして得られ、これらはロール状に巻回されて次の工程に供される。
【0138】
図2は、本発明の一実施形態に係る複合ガスバリア積層体100の製造方法において、ガスバリア積層体(A)10、フィルム(b)21及び熱溶融樹脂のフィルム(c)を加熱圧着させる工程を模式的に示す側面図である。ここで、熱溶融樹脂のフィルム(c)は、前記の熱溶融層30と同じ部材に当たるので、同じ符号「30」を付して説明する。
【0139】
図2に示す通り、ガスバリア積層体(A)10、フィルム(b)21及び熱溶融樹脂のフィルム(c)30は、それぞれロールから引き出され、例えば温度制御可能な加圧ロール210,220等により、加熱圧着される。この際、ガスバリア積層体(A)10は、無機バリア層(a)側の面がフィルム(c)30に対向するような向きにする。熱溶融樹脂が接着剤となることにより、ガスバリア積層体(A)10とフィルム(b)21とが接着されて、複合ガスバリア積層体100が得られる。得られた複合ガスバリア積層体100は巻き取られ、ロールの状態で保存される。このように、複合ガスバリア積層体100をロールトゥロール法により製造すれば、生産性を更に高めることができる。
【0140】
加熱圧着を行う際の温度は、熱溶融樹脂のフィルム(c)が流動性を示す温度によるが、通常70℃以上、好ましくは80℃以上である。これにより、ガスバリア積層体(A)とフィルム(b)とを安定して接着することができる。また、温度の上限は、通常250℃以下、好ましくは、フィルム(a)及びフィルム(b)を形成する脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度Tg℃以下である。特に、前記熱溶融樹脂のフィルム(c)が流動性を示す温度を、脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度Tg以下とし、Tg以下の温度で加熱圧着を行うことで、フィルム(a)及びフィルム(b)の熱による変形、加圧圧着プロセス前後の熱収縮、劣化を防止できる。
【0141】
加熱圧着を行う際に加圧ロールから加える圧力は、通常0.1MPa以上である。これにより、ガスバリア積層体(A)とフィルム(b)とを安定して接着することができる。また、圧力の上限は、通常1.5MPa以下、好ましくは1.0MPa以下である。これにより、過剰な圧力により無機バリア層(a)にクラックが生じることを防止できる。
【0142】
ガスバリア積層体(A)、フィルム(b)及び熱溶融樹脂のフィルム(c)を長尺のフィルムとして用意し、これらの長尺のフィルムをラインで搬送しながら加熱圧着を行う場合、搬送時のラインスピードは、通常0.1m/分以上、好ましくは0.2m/分以上、より好ましくは0.3m/分以上であり、5m/分以下、好ましくは3m/分以下、より好ましくは2m/分以下である。ラインスピードを前記範囲の下限以上とすることにより、効率的な製造が可能となる。また、上限以下とすることにより、ガスバリア積層体(A)とフィルム(b)との接着を安定して行うことができる。
【0143】
[8.複合ガスバリア積層体の用途]
本発明の複合ガスバリア積層体は、有機EL素子の構成要素として用いられる。具体的には、有機EL素子を構成する他の構成要素を、水分及び酸素から保護するために封止するためのフィルムとして用いうる。さらに、複合ガスバリア積層体が、ガスバリアの機能に加えて、1/4λ波長板としての機能を有するものである場合、有機EL素子において、1/4λ波長板としての複合ガスバリア積層体と、他の光学部材とを組み合わせて、光学的な機能を発現する層を構成してもよい。例えば、1/4λ波長板としての複合ガスバリア積層体と、直線偏光板とを組み合わせて、反射防止フィルムを構成することができる。
【0144】
図3は、本発明の一実施形態に係る複合ガスバリア積層体を用いた反射防止フィルムを、その主面に垂直な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図3に示す通り、反射防止フィルム300は、複合ガスバリア積層体100と、複合ガスバリア積層体100の一方の外側の面11Uに形成された直線偏光板40とを備える。また、
図3において、
図1に示したものと同様の部位については、
図1と同様の符号で示す。
【0145】
このように、複合ガスバリア積層体100を直線偏光板40と組み合わせた反射防止フィルム300は、有機EL素子の出光面に、直線偏光板を出光面側に向けて設けた場合、出光面への外光の写り込みを防止することができる。即ち、このような構成を有する反射防止フィルムが設けられた有機EL表示装置に非偏光である自然光が入射すると、直線偏光板の透過軸と平行な振動方向を有する直線偏光成分の光は直線偏光板40を透過し、それ以外の光は直線偏光板40で吸収される。また、直線偏光板40を透過した光は、1/4波長板として機能する複合ガスバリア積層体100を透過することにより直線偏光から円偏光に変換され、有機EL素子の他の層において反射し、再び1/4複合ガスバリア積層体100を透過することにより直線偏光に変換されて、直線偏光板40に入射する。この際、この光は、直線偏光板40の透過軸と平行な振動方向を有する直線偏光が少ない状態で直線偏光板40に入射するので、その大部分が直線偏光板40で吸収される。したがって、反射防止フィルム300による外光の反射の防止が可能である。加えて、複合ガスバリア積層体100による封止の機能も発現しうるので、反射防止フィルム300は、反射防止の機能と、封止の機能を併せ持つ部材として用いうる。
【実施例】
【0146】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0147】
[測定方法]
(1.カール量の測定方法)
サンプルを5cm角に打ち抜いた。打ち抜かれたサンプル片を水平な台の上に配置した。この際、鉛直上方に凹状のカールが生じる向きで、サンプル片を配置した。配置されたサンプル片のコーナー部4点の、台からの距離を測定した。測定された4点における距離の平均値を計算し、この平均値をカール量とした。
【0148】
(2.水蒸気透過率の測定方法)
8cm直径の円形の測定領域を有する差圧式測定装置を用い、40℃90%RH相当の水蒸気による圧力をサンプルの両側で形成して、水蒸気透過率を測定した。
【0149】
<実施例1>
(1−1.積層体(A1)及びフィルム(b1))
ロール状の脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a1)(ノルボルネン重合体を含むフィルム、日本ゼオン社製ゼオノアフィルムZF16、厚み100μm、Re=5nm、Tg163℃)を引き出し、その一方の表面に、プラズマCVD装置にて、厚み1μmのSiOC膜を形成し、ガスバリア積層体(A1)を得た。得られたガスバリア積層体(A1)は、カール量14mmのカールを有していた。
別途、ロール状のフィルム(b1)(ノルボルネン重合体を含むフィルム、日本ゼオン社製ゼオノアフィルムZD16、厚み40μm、Re=140nm、Tg163℃)を用意した。
【0150】
(1−2.熱溶融樹脂のフィルム(c))
また、厚み50μmのスチレンイソプレンスチレン共重合体からなるTg120℃のフィルムを、熱溶融樹脂のフィルム(c)として用意した。
前記のスチレンイソプレンスチレン共重合体は、芳香族ビニル化合物としてスチレンを用い、鎖状共役ジエン化合物としてイソプレンを用いて製造した芳香族ビニル化合物−共役ジエンブロック共重合体を水素化し、更にビニルトリメトキシシランで変性した重合体であり、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック構造を有する。また、このスチレンイソプレンスチレン共重合体は、重量平均分子量(Mw)が48,000であり、重合体ブロックの重量分率の比「wA/wB」が50/50であり、重合体ブロック[A]の重量平均分子量の比「Mw(A1)/Mw(A2)」が1.1であり、水素化率が99.9%であった。
【0151】
(1−3.加熱圧着)
工程(1−1)で得たガスバリア積層体(A1)及びフィルム(b1)を、SiOC膜がフィルム(b1)側を向いて対向するように配置し、その間隙に、工程(1−2)で得た熱溶融樹脂のフィルム(c)を挟持させた。こうして重なったガスバリア積層体(A1)、フィルム(c)及びフィルム(b1)を、対向した一対の樹脂ロールで両側から加圧しながら長尺方向に搬送した。この際、樹脂ロールの温度は140℃に調節した。また、搬送時のラインスピードは0.3m/minにした。また、樹脂ロールによる加圧の強さは0.1MPaにした。これにより、ガスバリア積層体(A1)、フィルム(c)及びフィルム(b1)は加熱圧着されて、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a1)−SiOC膜−熱溶融層−脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(b1)の層構成を有する複合ガスバリア積層体が得られた。
【0152】
(1−4.複合ガスバリア積層体の評価)
工程(1−3)で得られた複合ガスバリア積層体のカール量及び水蒸気透過率を測定したところ、カール量は1mm以下、水蒸気透過率は1.1×10
−2g/m
2・dayであった。
また、複合ガスバリア積層体を曲げ直径25.4mmΦで折り曲げ、曲げた箇所の状態を目視で観察したところ、亀裂の発生等は観察されなかった。
さらに、得られた複合ガスバリア積層体を容積100cm
3のチャンバ中に配置し、真空ポンプ(ULVAC社製「GHD−030」)によりチャンバから空気を排気したところ、約18時間後にはチャンバ内圧力が1×10
−4torrに到達した。
さらに、得られた複合ガスバリア積層体に、曲げ直径25.4mmΦで250回屈曲させる屈曲試験を行った後水蒸気透過率を測定したところ、水溶気透過率は1.3×10
−2g/m
2・dayであり、屈曲試験前と大きく変化しなかった。
さらに、Reを観察したところ全体に均一であった。
【0153】
<実施例2>
(2−1.積層体(A2)及びフィルム(b2))
ロール状の脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a2)(ノルボルネン重合体を含むフィルム、日本ゼオン社製ゼオノアフィルムZD16、厚み40μm、Re=140nm、Tg163℃)を引き出し、その一方の表面に、プラズマCVD装置にて、厚み1μmのSiOC膜を形成し、ガスバリア積層体(A2)を得た。得られたガスバリア積層体(A2)は、カール量16mmのカールを有していた。
別途、ロール状のフィルム(b2)(ノルボルネン重合体を含むフィルム、日本ゼオン社製ゼオノアフィルムZF16、厚み25μm、Re=20nm、Tg163℃)を用意した。
【0154】
(2−2.熱溶融樹脂のフィルム(c))
実施例1の工程(1−2)と同様にして、厚み35μmスチレンイソプレンスチレン共重合体からなるTg120℃のフィルムを、熱溶融のフィルム(c)として用意した。
【0155】
(2−3.加熱圧着)
工程(1−1)で得たガスバリア積層体(A2)及びフィルム(b2)を、SiOC膜がフィルム(b2)側を向いて対向するように配置し、その間隙に、工程(2−2)で得た熱溶融樹脂のフィルム(c)を挟持させた。こうして重なったガスバリア積層体(A2)、フィルム(c)及びフィルム(b2)を、実施例1の工程(1−3)の加熱圧着の条件と同様の条件で、対向した一対の樹脂ロールで両側から加圧しながら長尺方向に搬送した。これにより、ガスバリア積層体(A2)、フィルム(c)、及びフィルム(b2)は加熱圧着されて、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a2)−SiOC膜−熱溶融層−脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(b2)の層構成を有する複合ガスバリア積層体が得られた。
【0156】
(2−4.複合ガスバリア積層体の評価)
工程(2−3)で得られた複合ガスバリア積層体のカール量及び水蒸気透過率を測定したところ、カール量は1mm以下、水蒸気透過率は1.0×10
−2g/m
2・dayであった。
また、実施例1の工程(1−4)で行なったのと同様に曲げ直径25.4mmΦで複合ガスバリア積層体を折り曲げたところ、実施例1よりも容易に折り曲げることができ、高い可撓性が確認できた。また曲げた箇所の状態を目視で観察したところ、亀裂の発生等は観察されなかった。
さらに、得られた複合ガスバリア積層体を容積100cm
3のチャンバ中に配置し、真空ポンプ(ULVAC社製「GHD−030」)によりチャンバから空気を排気したところ、約18時間後にはチャンバ内圧力が1×10
−4torrに到達した。
さらに、得られた複合ガスバリア積層体に、曲げ直径25.4mmΦで250回屈曲させる屈曲試験を行った後水蒸気透過率を測定したところ、水溶気透過率は1.3g/m
2・dayであり、屈曲試験前と大きく変化しなかった。
さらに、Reを観察したところ全体に均一であった。
【0157】
<比較例1>
実施例1の工程(1−1)で用意したものと同じフィルム(b1)の一方の面に、無溶媒のアクリル系UV硬化樹脂(大同化成社製、商品名「ダイオレットPS3A」)を塗布し、UV硬化樹脂の層を50μm形成した。これに、実施例1の工程(1−1)で用意したものと同じガスバリア積層体(A1)を、SiOC膜がUV硬化樹脂の層側を向いて対向するように重ね合わせた。こうして重なったガスバリア積層体(A1)、UV硬化樹脂の層及びフィルム(b1)に紫外線を500mJ照射することにより、ガスバリア積層体(A1)、UV硬化樹脂の層、及びフィルム(b1)は接着され、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a1)−SiOC膜−UV硬化樹脂の層−脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(b1)の層構成を有する複合ガスバリア積層体が得られた。得られた複合ガスバリア積層体を、実施例1と同様に曲げ直径25.4mmΦで折り曲げたところ、容易に亀裂が生じた。
【0158】
<比較例2>
実施例1の工程(1−1)で用意したものと同じフィルム(b1)の一方の面に、アクリル系粘着剤のシート(日東電工社製「CS9621」、厚み25μm)を貼付する操作を2回行い、厚さ50μmの粘着シートの層を形成した。これに、実施例1の工程(1−1)で用意したものと同じガスバリア積層体(A1)を、SiOC膜が粘着シートの層側を向いて対向するように重ね合わせた。こうして重なったガスバリア積層体(A1)、粘着シートの層及びフィルム(b1)を、実施例1の工程(1−3)の加熱圧着の条件と同様の条件で、対向した一対の樹脂ロールで両側から加圧しながら長尺方向に搬送した。これにより、ガスバリア積層体(A1)、粘着シートの層、及びフィルム(b1)は加熱圧着されて、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a1)−SiOC膜−粘着シートの層−脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(b1)の層構成を有する複合ガスバリア積層体が得られた。
得られた複合ガスバリア積層体のカール量及び水蒸気透過率を測定したところ、カール量は1mm以下、水蒸気透過率は1.1×10
−2g/m
2・dayであった。しかし、この複合ガスバリア積層体について、実施例1の工程(1−4)で行なった操作と同様に、チャンバ中に配置し真空ポンプによりチャンバから空気を排気したところ、約18時間後でもチャンバ内圧力は3×10
−4torrであり、真空排気に時間がかかった。
【0159】
<比較例3>
工程(1−1)において、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルム(a1)としてTgが136℃のフィルム(ノルボルネン重合体を含むフィルム、日本ゼオン社製ゼオノアフィルムZF14、厚み100μm、Re=3nm)を用い、フィルム(b1)としてTgが136℃のフィルム(ノルボルネン重合体を含むフィルム、日本ゼオン社製ゼオノアフィルムZD14、厚み40μm、Re=140nm)を用いた他は、実施例1の工程(1−1)〜(1−3)と同様にして、複合ガスバリア積層体を製造した。
出来上がった複合ガスバリア積層体のReを観察したところ、工程(1−3)で加熱圧着する際にReのムラが発生した。ムラの部分のReを測定したところ、値が3nm以上低下していた。
【0160】
<比較例4>
工程(1−3)において、樹脂ロールの設定温度を120℃にした以外は比較例3と同様にして、複合ガスバリア積層体を製造した。
得られた複合ガスバリア積層体を観察したところ、SiOC層と熱溶融層、およびフィルム(b)と熱溶融層の間の密着が不十分で白濁した状態となっていた。
【0161】
<検討>
実施例1及び2で得られた複合ガスバリア積層体は、カール量が小さい。また実施例2は可撓性に優れている。このことから、本発明により、カールを生じ難い複合ガスバリア積層体を実現できることが分かる。
比較例1は、折り曲げにより容易にクラックが生じてガスバリア性が損なわれた。また、比較例2では、低圧環境においては複合ガスバリア積層体からガスが生じ、結果的にガスバリア性が低くなった。また比較例3及び4ではReの値が変わったり密着性が損なわれたりした。これに対し、実施例1及び2で得られた複合ガスバリア積層体は、高温環境でのガスバリア性の低下、折り曲げによるクラックの発生、及び複合ガスバリア積層体自体からのガスの発生が抑制されている。このことから、本発明により、柔軟で可撓性に優れ、ガスバリア性を良好に維持し易い複合ガスバリア積層体を実現できることが分かる。