特許第6443350号(P6443350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443350
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ガラス積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/10 20060101AFI20181217BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20181217BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20181217BHJP
   C03C 27/10 20060101ALI20181217BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   B32B17/10
   B32B27/00 101
   C03C17/30 B
   C03C27/10 D
   C09J183/04
【請求項の数】11
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-561032(P2015-561032)
(86)(22)【出願日】2015年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2015053286
(87)【国際公開番号】WO2015119210
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2017年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-22697(P2014-22697)
(32)【優先日】2014年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山本 今日子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】下坂 鷹典
(72)【発明者】
【氏名】閔 庚薫
(72)【発明者】
【氏名】内田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 達也
(72)【発明者】
【氏名】石川 有希
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/058217(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/024775(WO,A1)
【文献】 特開2008−273783(JP,A)
【文献】 特開2001−240800(JP,A)
【文献】 特開平03−070782(JP,A)
【文献】 特表2010−513210(JP,A)
【文献】 特表2011−529847(JP,A)
【文献】 特開2015−147376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C03C 15/00−23/00
27/00−29/00
C09J 1/00−5/10
9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材の層とシリコーン樹脂層とガラス基板の層とをこの順で備え、
前記シリコーン樹脂層中のシリコーン樹脂が、下記T3で表されるオルガノシロキシ単位を有し、全オルガノシロキシ単位に対する下記T3で表されるオルガノシロキシ単位の合計割合が80〜100モル%であり、
下記T3中のRがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−1)と、下記T3中のRがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−1)とのモル比((A−1)/(B−1))が80/20〜20/80であり、
前記シリコーン樹脂層の前記ガラス基板の層に対する界面の剥離強度と前記シリコーン樹脂層の前記支持基材の層に対する界面の剥離強度とが異なる、ガラス積層体。
T3:R−SiO3/2
(式中、Rは、フェニル基またはメチル基を表す。)
【請求項2】
前記シリコーン樹脂が、さらに、下記Qで表されるオルガノシロキシ単位を有する、請求項1に記載のガラス積層体。
Q:SiO4/2
【請求項3】
前記シリコーン樹脂を、硬化性オルガノポリシロキサンを硬化させて得る、請求項1または2に記載のガラス積層体の製造方法であって、
前記硬化性オルガノポリシロキサンが、下記T1〜T3で表されるオルガノシロキシ単位を、前記単位の個数の割合(モル量)で、T1:T2:T3=0〜5:20〜50:50〜80(ただし、T1+T2+T3=100の関係を満たす)の割合で含むオルガノポリシロキサンである、ガラス積層体の製造方法
T1:R−Si(−OX)21/2
T2:R−Si(−OX)O2/2
T3:R−SiO3/2
(式中、Rは、フェニル基またはメチル基を表す。Xは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項4】
前記硬化性オルガノポリシロキサンの数平均分子量が500〜2000である、請求項3に記載のガラス積層体の製造方法
【請求項5】
前記硬化性オルガノポリシロキサンの質量平均分子量/数平均分子量が1.00〜2.00である、請求項3または4に記載のガラス積層体の製造方法
【請求項6】
動的光散乱法により測定した前記硬化性オルガノポリシロキサンの粒子径が0.5〜100nmである、請求項3〜5のいずれか1項に記載のガラス積層体の製造方法
【請求項7】
前記硬化性オルガノポリシロキサンが、フェニルトリクロロシランおよびメチルトリクロロシランを共加水分解縮合することにより得られるオルガノポリシロキサンである、請求項3〜6のいずれか1項に記載のガラス積層体の製造方法
【請求項8】
前記シリコーン樹脂層の厚みが0.1〜30μmである、請求項1または2に記載にガラス積層体。
【請求項9】
前記支持基材がガラス板である、請求項1、2および8のいずれか1項に記載のガラス積層体。
【請求項10】
前記シリコーン樹脂層の前記ガラス基板の層に対する界面の剥離強度が、前記シリコーン樹脂層の前記支持基材の層に対する界面の剥離強度よりも低い、請求項1、2、8および9のいずれか1項に記載のガラス積層体。
【請求項11】
前記シリコーン樹脂層の前記ガラス基板の層に対する界面の剥離強度が、前記シリコーン樹脂層の前記支持基材の層に対する界面の剥離強度よりも高い、請求項1、2、8および9のいずれか1項に記載のガラス積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス積層体に係り、特に、所定のシリコーン樹脂層を備えるガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池(PV)、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)などのデバイス(電子機器)の薄型化、軽量化が進行しており、これらのデバイスに用いるガラス基板の薄板化が進行している。薄板化によりガラス基板の強度が不足すると、デバイスの製造工程において、ガラス基板のハンドリング性が低下する。
最近では、上記の課題に対応するため、薄板ガラス基板と補強板とを積層したガラス積層体を用意し、ガラス積層体の薄板ガラス基板上に表示装置などの電子デバイス用部材を形成した後、薄板ガラス基板から支持板を分離する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。補強板は、支持板と、該支持板上に固定されたシリコーン樹脂層とを有し、シリコーン樹脂層と薄板ガラス基板とが剥離可能に密着される。ガラス積層体のシリコーン樹脂層と薄板ガラス基板の界面が剥離され、薄板ガラス基板から分離された補強板は、新たな薄板ガラス基板と積層され、ガラス積層体として再利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/018028号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のガラス積層体に関して、近年さらに高い耐熱性が要求されるようになってきた。ガラス積層体のガラス基板上に形成される電子デバイス用部材の高機能化や複雑化に伴い、電子デバイス用部材を形成する際の温度がさらに高温になると共に、その高温に曝される時間も長時間を要する場合が少なくない。
特許文献1に記載のガラス積層体は大気中300℃、1時間の処理に耐えうる。しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載のガラス積層体に対して450℃、1時間の処理を行った場合、ガラス基板と支持基板とを分離しようとする際に、ガラス基板がシリコーン樹脂層表面から剥がれず、無理に剥がそうとするとガラス基板の一部が破壊され、結果として電子デバイスの生産性の低下を招く場合があった。
また、特許文献1に記載のガラス積層体中のシリコーン樹脂層は、450℃においては短時間のうちに分解が起こり、多量のアウトガスが発生する。このようなアウトガスの発生は、ガラス基板上に形成される電子デバイス用部材を汚染し、結果として電子デバイスの生産性を低下させる原因となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、高温加熱処理後でもガラス基板を容易に剥離することができ、シリコーン樹脂層の分解も抑制されたガラス積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、支持基材の層とシリコーン樹脂層とガラス基板の層とをこの順で備え、シリコーン樹脂層中のシリコーン樹脂が、後述するT3で表されるオルガノシロキシ単位を有し、全オルガノシロキシ単位に対するT3で表されるオルガノシロキシ単位の合計割合が80〜100モル%であり、T3中のRがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−1)と、T3中のRがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−1)とのモル比((A−1)/(B−1))が80/20〜20/80であり、シリコーン樹脂層のガラス基板の層に対する界面の剥離強度とシリコーン樹脂層の支持基材の層に対する界面の剥離強度とが異なる、ガラス積層体である。
本発明において、シリコーン樹脂が、さらに、後述するQで表されるオルガノシロキシ単位を有することが好ましい。
本発明において、シリコーン樹脂が硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物であり、該硬化性オルガノポリシロキサンが、後述するT1〜T3で表されるオルガノシロキシ単位を、単位の個数の割合(モル量)で、T1:T2:T3=0〜5:20〜50:50〜80(ただし、T1+T2+T3=100の関係を満たす)の割合で含むオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
本発明において、硬化性オルガノポリシロキサンの数平均分子量が500〜2000であることが好ましい。
本発明において、硬化性オルガノポリシロキサンの質量平均分子量/数平均分子量が1.00〜2.00であることが好ましい。
本発明において、動的光散乱法により測定した硬化性オルガノポリシロキサンの粒子径が0.5〜100nmであることが好ましい。
本発明において、硬化性オルガノポリシロキサンが、フェニルトリクロロシランおよびメチルトリクロロシランを、加水分解することにより得られるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
本発明において、シリコーン樹脂層の厚みが0.1〜30μmであることが好ましい。
本発明において、支持基材がガラス板であることが好ましい。
本発明において、シリコーン樹脂層のガラス基板の層に対する界面の剥離強度が、シリコーン樹脂層の支持基材の層に対する界面の剥離強度よりも低いことが好ましい。この態様の本発明を、以下、第1の態様ともいう。
また、本発明において、シリコーン樹脂層のガラス基板の層に対する界面の剥離強度が、シリコーン樹脂層の支持基材の層に対する界面の剥離強度よりも高いことが好ましい。この態様の本発明を、以下、第2の態様ともいう。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温加熱処理後でもガラス基板を容易に剥離することができ、シリコーン樹脂層の分解も抑制されたガラス積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るガラス積層体の第1の実施態様の模式的断面図である。
図2】本発明に係る部材付きガラス基板の製造方法の一実施形態を工程順に示す模式的断面図である。
図3】本発明に係るガラス積層体の第2の実施態様の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、以下の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0010】
本発明のガラス積層体の特徴点としては、シリコーン樹脂層中のシリコーン樹脂が、後述するT3で表されるオルガノシロキシ単位を所定量含むと共に、T3中のRがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−1)と、T3中のRがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−1)とのモル比((A−1)/(B−1))が所定の範囲である点が挙げられる。より具体的には、シリコーン樹脂がT3で表されるオルガノシロキシ単位を所定量含むことにより、シリコーン樹脂層の耐熱性が向上する。
また、本発明者らは、高温加熱処理後のガラス積層体においてガラス基板と支持基板とが分離しづらくなる理由について検討を行ったところ、シリコーン樹脂層表面上に含まれる官能基が影響していることを見出した。例えば、シリコーン樹脂層表面にSi−Me基が含まれている場合、該基は250℃以上の高温加熱処理後に比較的Si−OH基になりやすい。そのため、シリコーン樹脂層中に含まれるSi−Me基の量が多すぎると、高温加熱処理後に多くのSi−OH基がシリコーン樹脂層表面に現れ、隣接する基板(例えば、ガラス基板)との結合力が増加し、結果としてシリコーン樹脂層と該シリコーン樹脂層に隣接する基板との剥離がしづらくなる。一方、Si−Ph基は比較的Si−OH基への変換が起こりにくい。しかし、Si−Ph基が多すぎると、置換基の立体障害のため、硬化性オルガノポリシロキサンの架橋硬化が十分に進行しづらく、シリコーン樹脂層の架橋度が低下する。そのため、シリコーン樹脂層の機械的強度が低下したり、シリコーン樹脂層の表面にオルガノポリシロキサン由来の未反応Si−OH基が残存したりするので、結果としてガラス基板の剥離性が劣る。本発明者は、上記のような知見をもとに、上記モル比((A−1)/(B−1))を調整することにより、高温加熱処理後もガラス基板が剥離しやすいシリコーン樹脂層の組成を見出している。
【0011】
また、ガラス積層体において、シリコーン樹脂層のガラス基板の層に対する界面の剥離強度と、シリコーン樹脂層の支持基材の層に対する界面の剥離強度は、異なることを特徴とする。例えば、第1の実施態様においては、シリコーン樹脂層のガラス基板の層に対する界面の剥離強度がシリコーン樹脂層の支持基材の層に対する界面の剥離強度より低く、シリコーン樹脂層とガラス基板の層とが剥離し、シリコーン樹脂層と支持基材との積層体と、ガラス基板とに分離する。また、第2の実施態様においては、シリコーン樹脂層のガラス基板の層に対する界面の剥離強度がシリコーン樹脂層の支持基材の層に対する界面の剥離強度より高く、シリコーン樹脂層と支持基材の層とが剥離し、ガラス基板とシリコーン樹脂層との積層体と、支持基材とに分離する。
以下では、第1の実施態様および第2の実施態様に分けて、説明する。
【0012】
<第1の実施態様>
図1は、本発明に係るガラス積層体の第1の実施態様の模式的断面図である。
図1に示すように、ガラス積層体10は、支持基材12の層とガラス基板16の層とそれらの間にシリコーン樹脂層14が存在する積層体である。シリコーン樹脂層14は、その一方の面が支持基材12の層に接すると共に、その他方の面がガラス基板16の第1主面16aに接している。
支持基材12の層およびシリコーン樹脂層14からなる2層部分は、液晶パネルなどの電子デバイス用部材を製造する部材形成工程において、ガラス基板16を補強する。なお、ガラス積層体10の製造のためにあらかじめ製造される支持基材12の層およびシリコーン樹脂層14からなる2層部分を樹脂層付き支持基材18という。
【0013】
このガラス積層体10は、後述する部材形成工程まで使用される。即ち、このガラス積層体10は、そのガラス基板16の第2主面16b表面上に液晶表示装置などの電子デバイス用部材が形成されるまで使用される。その後、電子デバイス用部材が形成されたガラス積層体は、支持基材12と部材付きガラス基板に分離され、樹脂層付き支持基材18は電子デバイスを構成する部分とはならない。樹脂層付き支持基材18は、新たなガラス基板16と積層され、新たなガラス積層体10として再利用することができる。
【0014】
支持基材12とシリコーン樹脂層14の界面は剥離強度(x)を有し、支持基材12とシリコーン樹脂層14との界面に剥離強度(x)を越える引き剥がし方向の応力が加えられると、支持基材12とシリコーン樹脂層14との界面が剥離する。シリコーン樹脂層14とガラス基板16との界面は剥離強度(y)を有し、シリコーン樹脂層14とガラス基板16との界面に剥離強度(y)を越える引き剥がし方向の応力が加えられると、シリコーン樹脂層14とガラス基板16との界面が剥離する。
ガラス積層体10においては、上記剥離強度(x)は上記剥離強度(y)よりも高い。したがって、ガラス積層体10に支持基材12とガラス基板16とを引き剥がす方向の応力が加えられると、ガラス積層体10は、シリコーン樹脂層14とガラス基板16との界面で剥離して、ガラス基板16と樹脂層付き支持基材18とに分離する。
【0015】
剥離強度(x)は、剥離強度(y)と比較して、充分高いことが好ましい。剥離強度(x)を高めることは、支持基材12に対する第1シリコーン樹脂層14の付着力を高め、かつ加熱処理後においてガラス基板16に対してよりも相対的に高い付着力を維持できることを意味する。
支持基材12に対するシリコーン樹脂層14の付着力を高めるためには、後述する硬化性オルガノポリシロキサンを支持基材12上で架橋硬化させてシリコーン樹脂層を形成することが好ましい。架橋硬化の際の接着力で、支持基材12に対して高い結合力で結合したシリコーン樹脂層14を形成することができる。
一方、架橋硬化後のシリコーン樹脂のガラス基板16に対する結合力は、上記架橋硬化時に生じる結合力よりも低いのが通例である。したがって、支持基材12上でシリコーン樹脂層14を形成し、その後シリコーン樹脂層14の面にガラス基板16を積層することにより、ガラス積層体10を製造することができる。
【0016】
以下で、まず、ガラス積層体10を構成する各層(支持基材12、ガラス基板16、シリコーン樹脂層14)について詳述し、その後、ガラス積層体の製造方法について詳述する。
【0017】
[支持基材]
支持基材12は、ガラス基板16を支持して補強し、後述する部材形成工程(電子デバイス用部材を製造する工程)において電子デバイス用部材の製造の際にガラス基板16の変形、傷付き、破損などを防止する。
支持基材12としては、例えば、ガラス板、プラスチック板、SUS板などの金属板などが用いられる。通常、部材形成工程が熱処理を伴うため、支持基材12はガラス基板16との線膨張係数の差の小さい材料で形成されることが好ましく、ガラス基板16と同一材料で形成されることがより好ましく、支持基材12はガラス板であることが好ましい。特に、支持基材12は、ガラス基板16と同じガラス材料からなるガラス板であることが好ましい。
なお、後述するように支持基材12は、2種以上の層からなる積層体であってもよい。
【0018】
支持基材12の厚さは、ガラス基板16よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。好ましくは、ガラス基板16の厚さ、シリコーン樹脂層14の厚さ、およびガラス積層体10の厚さに基づいて、支持基材12の厚さが選択される。例えば、現行の部材形成工程が厚さ0.5mmの基板を処理するように設計されたものであって、ガラス基板16の厚さとシリコーン樹脂層14の厚さとの和が0.1mmの場合、支持基材12の厚さを0.4mmとする。支持基材12の厚さは、通常の場合、0.2〜5.0mmであることが好ましい。
【0019】
支持基材12がガラス板の場合、ガラス板の厚さは、扱いやすく、割れにくいなどの理由から、0.08mm以上であることが好ましい。また、ガラス板の厚さは、電子デバイス用部材形成後に剥離する際に、割れずに適度に撓むような剛性が望まれる理由から、1.0mm以下であることが好ましい。
【0020】
支持基材12とガラス基板16との25〜300℃における平均線膨張係数の差は、好ましくは500×10-7/℃以下であり、より好ましくは300×10-7/℃以下であり、さらに好ましくは200×10-7/℃以下である。差が大き過ぎると、部材形成工程における加熱冷却時に、ガラス積層体10が激しく反ったり、支持基材12とガラス基板16とが剥離したりする可能性がある。支持基材12の材料がガラス基板16の材料と同じ場合、このような問題が生じるのを抑制することができる。
【0021】
[ガラス基板]
ガラス基板16は、第1主面16aがシリコーン樹脂層14と接し、シリコーン樹脂層14側とは反対側の第2主面16bに電子デバイス用部材が設けられる。
ガラス基板16の種類は、一般的なものであってよく、例えば、LCD、OLEDといった表示装置用のガラス基板などが挙げられる。ガラス基板16は耐薬品性、耐透湿性に優れ、且つ、熱収縮率が低い。熱収縮率の指標としては、JIS R 3102(1995年改正)に規定されている線膨張係数が用いられる。
【0022】
ガラス基板16の線膨張係数が大きいと、部材形成工程は加熱処理を伴うことが多いので、様々な不都合が生じやすい。例えば、ガラス基板16上にTFTを形成する場合、加熱下でTFTが形成されたガラス基板16を冷却すると、ガラス基板16の熱収縮によって、TFTの位置ずれが過大になるおそれがある。
【0023】
ガラス基板16は、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを板状に成形して得られる。このような成形方法は、一般的なものであってよく、例えば、フロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法、フルコール法、ラバース法などが用いられる。また、特に厚さが薄いガラス基板16は、いったん板状に成形したガラスを成形可能温度に加熱し、延伸などの手段で引き伸ばして薄くする方法(リドロー法)で成形して得られる。
【0024】
ガラス基板16のガラスの種類は特に限定されないが、無アルカリホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスが好ましい。酸化物系ガラスとしては、酸化物換算による酸化ケイ素の含有量が40〜90質量%のガラスが好ましい。
【0025】
ガラス基板16のガラスとしては、電子デバイス用部材の種類やその製造工程に適したガラスが採用される。例えば、液晶パネル用のガラス基板は、アルカリ金属成分の溶出が液晶に影響を与えやすいことから、アルカリ金属成分を実質的に含まないガラス(無アルカリガラス)からなる(ただし、通常アルカリ土類金属成分は含まれる)。このように、ガラス基板16のガラスは、適用されるデバイスの種類およびその製造工程に基づいて適宜選択される。
【0026】
ガラス基板16の厚さは、ガラス基板16の薄型化および/または軽量化の観点から、0.3mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15mm以下である。0.3mm以下の場合、ガラス基板16に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、ガラス基板16をロール状に巻き取ることが可能である。
また、ガラス基板16の厚さは、ガラス基板16の製造が容易であること、ガラス基板16の取り扱いが容易であることなどの理由から、0.03mm以上であることが好ましい。
【0027】
なお、ガラス基板16は2層以上からなっていてもよく、この場合、各々の層を形成する材料は同種材料であってもよいし、異種材料であってもよい。また、この場合、「ガラス基板16の厚さ」は全ての層の合計の厚さを意味するものとする。
【0028】
[シリコーン樹脂層]
シリコーン樹脂層14は、ガラス基板16と支持基材12とを分離する操作が行われるまでガラス基板16の位置ずれを防止すると共に、ガラス基板16などが分離操作によって破損するのを防止する。シリコーン樹脂層14のガラス基板16と接する表面14aは、ガラス基板16の第1主面16aに密着する。シリコーン樹脂層14はガラス基板16の第1主面16aに弱い結合力で結合しており、その界面の剥離強度(y)は、シリコーン樹脂層14と支持基材12との間の界面の剥離強度(x)よりも低い。シリコーン樹脂層14とガラス基板16の界面の結合力は、ガラス積層体10のガラス基板16の面(第2主面16b)上に電子デバイス用部材を形成する前後に変化してもよい。しかし、電子デバイス用部材を形成した後であっても、剥離強度(y)は、剥離強度(x)よりも低いことが好ましい。
【0029】
シリコーン樹脂層14とガラス基板16の層とは、弱い接着力やファンデルワールス力に起因する結合力で結合していると考えられる。シリコーン樹脂層14を形成した後その表面にガラス基板16を積層する場合、シリコーン樹脂層14のシリコーン樹脂が接着力を示さないほど充分に架橋している場合はファンデルワールス力に起因する結合力で結合していると考えられる。しかし、シリコーン樹脂層14のシリコーン樹脂は、ある程度の弱い接着力を有することが少なくない。たとえ接着性が極めて低い場合であっても、ガラス積層体10製造後そのガラス積層体10上に電子デバイス用部材を形成する際には、加熱操作などにより、シリコーン樹脂層14のシリコーン樹脂はガラス基板16面に接着し、シリコーン樹脂層14とガラス基板16の層との間の結合力は上昇すると考えられる。
場合により、積層前のシリコーン樹脂層14の表面や積層前のガラス基板16の第1主面16aに両者間の結合力を弱める処理を行って積層することもできる。積層する面に非接着性処理などを行い、その後積層することにより、シリコーン樹脂層14とガラス基板16の層の界面の結合力を弱め、剥離強度(y)を低くすることができる。
【0030】
シリコーン樹脂層14は、接着力や粘着力などの強い結合力で支持基材12表面に結合されており、両者の密着性を高める方法としては、公知の方法を採用できる。例えば、後述するように、シリコーン樹脂層14を支持基材12表面上で形成する(より具体的には、所定のシリコーン樹脂を形成し得る硬化性オルガノポリシロキサンを支持基材12上で架橋硬化させる)ことにより、シリコーン樹脂層14中のシリコーン樹脂を支持基材12表面に接着させ、高い結合力を得ることができる。また、支持基材12表面とシリコーン樹脂層14との間に強い結合力を生じさせる処理(例えば、カップリング剤を使用した処理)を施して支持基材12表面とシリコーン樹脂層14との間の結合力を高めることができる。
シリコーン樹脂層14と支持基材12の層とが高い結合力で結合していることは、両者の界面の剥離強度(x)が高いことを意味する。
【0031】
シリコーン樹脂層14の厚さは特に限定されないが、上限は30μm(つまり、30μm以下)であることが好ましく、20μmであることがより好ましく、8μmであることがさらに好ましい。下限は剥離可能な厚さであれば、特に限定しないが、0.1μm以上の場合が多い。シリコーン樹脂層14の厚さがこのような範囲であると、シリコーン樹脂層14にクラックが生じにくく、シリコーン樹脂層14とガラス基板16との間に気泡や異物が介在することがあっても、ガラス基板16のゆがみ欠陥の発生を抑制することができる。
上記厚さは平均厚さを意図し、5点以上の任意の位置におけるシリコーン樹脂層14の厚みを接触式膜厚測定装置で測定し、それらを算術平均したものである。
シリコーン樹脂層14のガラス基板16側の表面の表面粗さRaは特に制限されないが、ガラス基板16の積層性および剥離性がより優れる点より、0.1〜20nmが好ましく、0.1〜10nmがより好ましい。
なお、表面粗さRaの測定方法としては、JIS B 0601−2001に準じて行われ、任意の5箇所以上の点において測定されたRaを、算術平均した値が上記表面粗さRaに該当する。
なお、シリコーン樹脂層14は2層以上からなっていてもよい。この場合「シリコーン樹脂層14の厚さ」は全てのシリコーン樹脂層の合計の厚さを意味するものとする。
【0032】
通常、基材上に塗布された硬化性オルガノポリシロキサンは、常温〜基材の熱変形温度未満の温度条件下で材料中に含まれる溶媒を乾燥、除去した後、加熱することによって熱硬化し、シリコーン樹脂となる。かかる熱硬化の過程で、硬化性オルガノポリシロキサンに含まれるシラノール基(−Si−OH)同士が脱水縮合反応を起こしてシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成し、架橋するとともに硬化してシリコーン樹脂となる。昇温過程で、溶媒の蒸発により発生する毛管力と膜中で進行する脱水縮合反応によってゲル膜はち密化し、膜の体積減少率は数十%に達する。ゲル膜は完全弾牲体ではないが、これを弾性体であると近似すると、基材によって面内方向に拘束された状態で膜が収縮する際、膜の面内方向にはひずみが蓄積されることになる。その結果、膜の面内方向には引張応力(以下、“収縮応力”ともいう)が発生する。
【0033】
本発明におけるシリコーン樹脂層の収縮応力とは、周囲温度25℃で、薄膜応力測定装置によって測定された、該シリコーン樹脂層形成前後のシリコンウエハの曲率半径の値と、該シリコーン樹脂層の膜厚の値を用いて下式(1)で表される式によって算出されるシリコーン樹脂層の面内方向に働く引張応力値である。なお、測定手順は実施例に詳述する。
【0034】
【数1】
【0035】
式中、E/(1−ν)は、シリコンウエハの二軸弾性係数(結晶面(100):1.805×1011Pa)であり、hは、シリコンウエハの厚さ[m]であり、tは、シリコーン樹脂層の厚さ[m]であり、Rは、シリコーン樹脂層を形成する前のシリコンウエハの曲率半径と、シリコーン樹脂層を形成した後のシリコンウエハの曲率半径との差[m]である。
【0036】
そして、シリコーン樹脂層を形成する前後のシリコンウエハの曲率半径の差Rは、シリコンウエハの厚さh、シリコンウエハの弾性率E、シリコンウエハのポアソン比ν、膜厚t、引張応力σによって決まる。シリコンウエハの片面に形成された膜の面内方向に引張応力σが発生すれば、上記式(1)から読み取れるように、膜の面内方向に発生する応力σが大きいほど、上記曲率半径の差Rは大きくなる、つまりシリコンウエハの反りが大きくなる。
【0037】
よって、シリコーン樹脂層を形成する前後のシリコンウエハの曲率半径Rと、シリコーン樹脂層の膜厚tを調べれば、シリコーン樹脂層の収縮応力が求められる。なお、曲率半径Rは、単結晶シリコンウエハの片面にシリコーン樹脂層を形成し、薄膜応力測定装置を使用して、シリコーン樹脂層が形成されたシリコンウエハ表面上をレーザー光で走査し、反射光の方向からRを読み取ることによって求めることができる。
【0038】
シリコーン樹脂層14の収縮応力の大きさは特に制限されないが、硬化性オルガノポリシロキサンを架橋硬化させてシリコーン樹脂層14を形成するプロセス後、冷却する過程でクラックが入るのを防止でき、作製されたガラス積層体10の反りをより抑制できる点から、50MPa以下が好ましく、45MPa以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、通常、15MPa以上の場合が多い。
【0039】
シリコーン樹脂層14は、所定のオルガノシロキシ単位を含むシリコーン樹脂からなる。また、シリコーン樹脂は、通常、硬化処理により該シリコーン樹脂となり得る硬化性オルガノポリシロキサンを架橋硬化して得られる。
本発明における硬化性オルガノポリシロキサンは、モノマーである加水分解性オルガノシラン化合物の混合物(モノマー混合物)を部分加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)である。また、部分加水分解縮合物は未反応のモノマーを含有していてもよい。
硬化性オルガノポリシロキサンを架橋硬化させるためには、通常加熱により架橋反応を進めて硬化させる(すなわち、熱硬化させる)。そして、硬化性オルガノポリシロキサンを熱硬化させることにより、シリコーン樹脂が得られる。ただし、硬化に必ずしも加熱を必要としない場合もあり、室温硬化させることもできる。
【0040】
一般的なシリコーン樹脂(オルガノポリシロキサン)は、M単位と呼ばれる1官能オルガノシロキシ単位や、D単位と呼ばれる2官能オルガノシロキシ単位や、T単位と呼ばれる3官能オルガノシロキシ単位や、Q単位と呼ばれる4官能オルガノシロキシ単位から構成されている。なお、Q単位はケイ素原子に結合した有機基(ケイ素原子に結合した炭素原子を有する有機基)を有しない単位であるが、本発明においてはオルガノシロキシ単位(含ケイ素結合単位)とみなす。T単位を形成するモノマーを以下Tモノマーという。M単位、D単位、Q単位を形成するモノマーも同様にMモノマー、Dモノマー、Qモノマーという。
【0041】
オルガノシロキシ単位において、シロキサン結合は2個のケイ素原子が1個の酸素原子を介して結合した結合であることより、シロキサン結合におけるケイ素原子1個当たりの酸素原子は1/2個とみなし、式中O1/2と表現される。より具体的には、例えば、1つのD単位においては、その1個のケイ素原子は2個の酸素原子と結合し、それぞれの酸素原子は他の単位のケイ素原子と結合していることより、その式は−O1/2−(R)Si−O1/2−となる。O1/2が2個存在することより、D単位は(R)SiO2/2と表現されるのが通常である。
なお、以下の説明において、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oは、2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であり、Si−O−Siで表される結合中の酸素原子を意図する。したがって、Oは、2つのオルガノシロキシ単位のケイ素原子間に1個存在する。
【0042】
一般的に、T単位とは、R−SiO3/2(Rは、水素原子または有機基を表す)で表されるオルガノシロキシ単位を意図する。つまり、T単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した1個の水素原子または1価の有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oを3個有する単位である。
しかし、本明細書においては、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oの一部または全部の代わりに、他のケイ素原子に結合できる官能基を有する場合もT単位とみなす。他のケイ素原子に結合できる官能基は、水酸基または加水分解により水酸基となる基(以下、加水分解性基という)である。より具体的には、本明細書において、T単位は、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oと他のケイ素原子に結合できる官能基との合計が3個であり、他のケイ素原子に結合した酸素原子Oと他のケイ素原子に結合できる官能基の数の違いにより、T単位はT1単位、T2単位、T3単位と呼ばれる3種の単位に分類される。T1単位は他のケイ素原子に結合した酸素原子Oの数が1個、T2単位はその酸素原子Oの数が2個、T3単位はその酸素原子Oの数が3個である。なお、本明細書においては、他のケイ素原子に結合できる1価の官能基をZで表す。
【0043】
モノマー(加水分解性オルガノシラン化合物)は、通常、(R’−)Si(−Z)4−aで表される。ただし、aは0〜3の整数、R’は水素原子または1価の有機基、Zは水酸基または加水分解性基を表す。この化学式において、a=3の化合物がMモノマー、a=2の化合物がDモノマー、a=1の化合物がTモノマー、a=0の化合物がQモノマーである。モノマーにおいて、Z基は通常加水分解性基である。また、R’が2または3個存在する場合(aが2または3の場合)、複数のR’は異なっていてもよい。
【0044】
部分加水分解縮合物である硬化性オルガノポリシロキサンは、モノマーのZ基の一部を酸素原子Oに変換する反応により得られる。モノマーのZ基が加水分解性基の場合、Z基は加水分解反応により水酸基に変換され、次いで別々のケイ素原子に結合した2個の水酸基の間における脱水縮合反応により、2個のケイ素原子が酸素原子Oを介して結合する。硬化性オルガノポリシロキサン中には水酸基(または加水分解しなかったZ基)が残存し、硬化性オルガノポリシロキサンの硬化の際にこれら水酸基やZ基が上記と同様に反応して硬化する。硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は、通常、3次元的に架橋したポリマー(シリコーン樹脂)となる。硬化の際、硬化性オルガノポリシロキサンのZ基がOに変換されるが、Z基(特に水酸基)の一部は残存し、水酸基を有する硬化物となると考えられる。硬化性オルガノポリシロキサンを高温で硬化させた場合は水酸基がほとんど残存しない硬化物となることもある。
【0045】
モノマーのZ基が加水分解性基である場合、そのZ基としては、アルコキシ基、塩素原子、アシルオキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。多くの場合、モノマーとしてはZ基がアルコキシ基のモノマーが使用される。アルコキシ基は塩素原子などと比較すると反応性の比較的低い加水分解性基であり、Z基がアルコキシ基であるモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中にはZ基として水酸基とともに未反応のアルコキシ基が存在することが多い。モノマーのZ基が反応性の比較的高い加水分解性基(例えば塩素原子)の場合、そのモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中のZ基はそのほとんどが水酸基となる。したがって、通常の硬化性オルガノポリシロキサンにおいては、それを構成する各単位におけるZ基は、水酸基からなるかまたは水酸基とアルコキシ基からなることが多い。
【0046】
(シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂層14を構成するシリコーン樹脂は、T3で表されるオルガノシロキシ単位(以後、単にT3単位とも称する)を有し、全オルガノシロキシ単位に対するT3で表されるオルガノシロキシ単位の合計割合が80〜100モル%であり、得られるシリコーン樹脂層14の耐熱性が優れ、ガラス基板16の剥離がより容易に進行する点で、82〜100モル%が好ましく、85〜100モル%がより好ましい。つまり、シリコーン樹脂は、T3で表されるオルガノシロキシ単位を主成分として含む。
T3:R−SiO3/2
式中、Rは、フェニル基またはメチル基を表す。
【0047】
なお、T3で表されるオルガノシロキシ単位は、上述したT単位の一つに該当する。シリコーン樹脂は、T3で表されるオルガノシロキシ単位以外に他の単位を含んでいてもよく、他の単位としてはM単位、D単位、T1単位、T2単位、および、Q単位が挙げられる。
なかでも、剥離時にシリコーン樹脂層14の凝集破壊がなく、シリコーン樹脂層14の機械的強度に優れ、ガラス基板16の剥離性がより優れる点で、下記のQで表されるオルガノシロキシ単位(いわゆる、Q単位)を含むことが好ましい。Q単位の含有量は特に制限されないが、全オルガノシロキシ単位に対して、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、架橋度が増すことでシリコーン樹脂層14の脆性が低下し、シリコーン樹脂層14が剥離時に凝集破壊を伴って起こすおそれがある点、また、硬化収縮に伴う収縮応力の増大によるガラス複合体の反りが引き起こされるおそれがある点で、20モル%以下が好ましい。
Q:SiO4/2
なお、上記全オルガノシロキシ単位とは、シリコーン樹脂中に含まれるM単位、D単位、T単位、および、Q単位の合計を意図する。M単位、D単位、T単位(T1〜T3単位)、Q単位の数(モル量)の割合は、29Si−NMRによるピーク面積比の値から計算できる。
【0048】
シリコーン樹脂層14中のシリコーン樹脂においては、T3中のRがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−1)と、T3中のRがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−1)とのモル比((A−1)/(B−1))が80/20〜20/80である(なお、(A−1)+(B−1)=100の関係を満たす)。なかでも、ガラス基板をより容易に剥離できる点で、モル比((A−1)/(B−1))は、75/25〜20/80が好ましく、70/30〜20/80がより好ましい。
Rがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−1)とは、以下P−T3で表されるオルガノシロキシ単位を意図する。Phはフェニル基を表す。
P−T3:Ph−SiO3/2
また、Rがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−1)とは、以下M−T3で表されるオルガノシロキシ単位を意図する。
M−T3:Me−SiO3/2
【0049】
上記シリコーン樹脂は、公知の材料を用いて製造することができる。
上述したように、硬化処理により上記シリコーン樹脂となり得る硬化性オルガノポリシロキサンとしては、例えば、モノマーである加水分解性オルガノシラン化合物の混合物を部分加水分解縮合反応させて得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)が使用される。該モノマーとしては、より具体的には、(Me−)Si(−Z)で表される加水分解性オルガノシラン化合物と、(Ph−)Si(−Z)で表される加水分解性オルガノシラン化合物とが使用される。なお、Z基は水酸基または加水分解性基を示し、例えば、加水分解性基としては、塩素原子などのハロゲン原子、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、アルコキシアルコキシ基などが挙げられる。
なお、加水分解縮合反応はTモノマーからT1単位が生成し、T1単位からT2単位が生成し、T2単位からT3単位が生成する反応である。加水分解性基の1個以上が水酸基に変換されたTモノマーからT1単位が生成する縮合反応、T1単位からT2単位が生成する縮合反応、T2単位からT3単位が生成する縮合反応、の反応速度はこの順に遅くなると考えられる。加水分解性基の加水分解反応を考慮しても、反応が進むにしたがって各単位の存在量のピークはTモノマーからT3単位へ移動していくと考えられる。反応条件が比較的温和である場合には存在量のピークの移動は比較的整然と進行すると考えられる。
【0050】
上記シリコーン樹脂となり得る硬化性オルガノポリシロキサンとしては、上述したように、反応の制御や取り扱いなどの面から、加水分解性オルガノシラン化合物の混合物から得られる部分加水分解縮合物(オルガノポリシロキサン)が用いられる。部分加水分解縮合物は、加水分解性オルガノシラン化合物を上記各オルガノシロキシ単位の割合となるように混合したモノマー混合物を部分的に加水分解縮合させて得られる。部分的に加水分解縮合させる方法は、特に限定されない。通常は、加水分解性オルガノシラン化合物の混合物を溶媒中、触媒存在下で反応させて製造される。触媒としては、酸触媒やアルカリ触媒が使用しうる。また、加水分解反応には通常、水を使用することが好ましい。本発明に使用する部分加水分解縮合物は、溶媒中で加水分解性オルガノシラン化合物の混合物を酸またはアルカリ水溶液の存在下で反応させて製造された物が好ましい。
使用される加水分解性オルガノシラン化合物としては、上述した(Me−)Si(−Z)で表される加水分解性オルガノシラン化合物と、(Ph−)Si(−Z)で表される加水分解性オルガノシラン化合物とが挙げられるが、なかでも、得られる硬化性オルガノポリシロキサンの取扱い性に優れ、耐熱性が高く、ガラス基板16をより容易に剥離できる点で、フェニルトリクロロシラン(下記式(1)で表わされる化合物)およびメチルトリクロロシラン(下記式(2)で表わされる化合物)を使用することが好ましい。なお、式(1)中のPhはフェニル基を表す。
【0051】
【化1】
【0052】
なお、後述するように、硬化性オルガノポリシロキサンの層を形成する際には、硬化性オルガノポリシロキサンを含む組成物が使用されるが、組成物中での硬化性オルガノポリシロキサンの安定性をより高める点では、硬化シリコーンの末端をキャップ化することもできる。より具体的には、硬化性オルガノポリシロキサン中の末端Si−OHを、酸触媒下(例えば、酢酸存在下)で、アルコールと反応させ、水を除去しながらSi−OHを保護キャップすることができる。例えば、メタノールを使用した場合、Si−OMe基が形成される。なお、使用されるアルコールの種類は特に制限されず、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール等の低沸点アルコールが挙げられる。これらのうち、Si−OH基との反応性と、硬化性オルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点から、メタノール、エタノールが好ましい。
【0053】
(硬化性オルガノポリシロキサンの好適態様)
上記硬化性オルガノポリシロキサンの好適態様の一つとしては、下記T1〜T3で表されるオルガノシロキシ単位の少なくともいずれか1つを有し、全オルガノシロキシ単位に対する下記T1〜T3で表されるオルガノシロキシ単位の合計割合が80〜100モル%であり、下記T1〜T3中のRがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−2)と、下記T1〜T3中のRがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−2)とのモル比((A−2)/(B−2))が80/20〜20/80であるオルガノポリシロキサン(以後、オルガノポリシロキサンXとも称する)が挙げられる。該オルガノポリシロキサンであれば、容易に所望のシリコーン樹脂が得られる。
T1:R−Si(−OX)1/2
T2:R−Si(−OX)O2/2
T3:R−SiO3/2
なお、式中、Rは、フェニル基またはメチル基を表す。Xは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。
上記式におけるRは1種に限定されず、T1、T2、T3はそれぞれRが異なっていてもよい。
また、−OXはT1単位およびT2単位の間で同一であっても異なっていてもよい。T1単位における2つの−OXは異なっていてもよく、例えば、一方が水酸基で他方がアルコキシ基であってもよい。また、2つの−OXがいずれもアルコキシ基である場合、それらのアルコキシ基は異なるアルコキシ基であってもよい。
【0054】
2個のケイ素原子を結合する酸素原子(O)を有しない、−OXのみを3個有するT単位を以下T0という。T0は、実際には、未反応のTモノマーに相当し、オルガノシロキシ単位(含ケイ素結合単位)ではない。このT0は、T1〜T3の単位の解析においてT1〜T3と同様に測定される。
オルガノポリシロキサンX中のT1〜T3の単位は、核磁気共鳴分析(29Si−NMR)によりケイ素原子の結合状態を測定して解析できる。T0〜T3の単位の数(モル量)の比は、29Si−NMRのピーク面積比から求める。
なお、オルガノポリシロキサンXの質量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および分散度Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値をいう。このようなオルガノポリシロキサンXの特性は、分子1個の特性をいうものではなく、各分子の平均の特性として求められるものである。
【0055】
オルガノポリシロキサンX中における上記T1〜T3で表されるオルガノシロキシ単位の合計割合は、上述したように、全オルガノシロキシ単位に対して、80〜100モル%であることが好ましく、得られるシリコーン樹脂層14の耐熱性が優れ、ガラス基板16の剥離がより容易に進行する点で、82〜100モル%が好ましく、85〜100モル%がより好ましい。
なお、オルガノポリシロキサンXにおいては、取扱い性の点から、上記T3単位が少なくとも含まれることが好ましく、上記T2単位およびT3単位が少なくとも含まれることがより好ましい。種々検討の結果、Ph基(フェニル基)が多くなると、T1単位の割合が多くなることが分かっている。T1単位が多くなると、シリコーン樹脂層作製過程における硬化時に収縮応力が大きくため、T1単位が少ないほうが、収縮応力が低下でき、より好ましい。
また、オルガノポリシロキサンXは、上記T1〜T3で表されるオルガノシロキシ単位以外に他の単位を含んでいてもよく、他の単位としてはM単位、D単位、および、Q単位が挙げられる。
T体の硬化性オルガノポリシロキサンとしては、一般的にポリフェニルポリシロキサン、ポリメチルポリシロキサンなどが知られているが、シラノール末端ポリフェニルポリシロキサンはPhSiCl3を加水分解した時に、分子量数百〜数千程度のオリゴマーとして得られる。このオリゴマーを用いて0.1mm厚以上の硬化物を作製すると、非常に脆弱であり使用に耐えない。しかしながら、耐熱性に優れたシリコーン樹脂となる。
一方、ケイ素原子上の置換基がメチル基などの脂肪族炭化水素基の場合には、シラノール末端を与えるRSiZタイプのモノマーの反応性が高く、得られる加水分解−縮合物の分子量はほとんどの場合1万以上となってしまう。そのため溶媒への溶解性が悪く、該縮合物を溶解させるには大量の溶媒が必要であり、コーティング用途などの薄膜は得られるが、ある程度厚みを持った硬化物はクラックの発生等のため得ることは困難である。
そこで、耐熱性と反応性を両立させ、溶解性を向上させた、上記硬化性オルガノポリシロキサンXの使用が好ましい。
【0056】
硬化性オルガノポリシロキサンXにおいては、T1〜T3中のRがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−2)と、T1〜T3中のRがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−2)とのモル比((A−2)/(B−2))が80/20〜20/80であることが好ましい(なお、(A−2)+(B−2)=100の関係を満たす)。なかでも、当該硬化性オルガノポリシロキサンの溶解性に優れ、洗浄されたガラス基板に対して適度な表面張力を有する(つまり塗れ性のよい)塗工液を調製でき、硬化時の収縮応力が低減できる点で、モル比((A−2)/(B−2))は、75/25〜20/80が好ましく、70/30〜20/80がより好ましい。
Rがフェニル基であるオルガノシロキシ単位(A−2)とは、Rがフェニル基であるT1単位(以下のP−T1)、Rがフェニル基であるT2単位(以下のP−T2)、および、Rがフェニル基であるT3単位(以下のP−T3)を含む概念を意図する。以下、式P−T1〜P−T3中、Phはフェニル基を表す。
P−T1:Ph−Si(−OX)1/2
P−T2:Ph−Si(−OX)O2/2
P−T3:Ph−SiO3/2
従って、上記オルガノシロキシ単位(A−2)の含有量は、上記P−T1で表される単位の含有量、上記P−T2で表される単位の含有量、および、上記P−T3で表される単位の含有量の合計量を意図する。
また、Rがメチル基であるオルガノシロキシ単位(B−2)とは、Rがメチル基であるT1単位(以下のM−T1)、Rがメチル基であるT2単位(以下のM−T2)、および、Rがメチル基であるT3単位(以下のM−T3)を含む概念を意図する。以下、式M−T1〜M−T3中、Meはメチル基を表す。
M−T1:Me−Si(−OX)1/2
M−T2:Me−Si(−OX)O2/2
M−T3:Me−SiO3/2
従って、上記オルガノシロキシ単位(B−2)の含有量は、上記M−T1で表される単位の含有量、上記M−T2で表される単位の含有量、および、上記M−T3で表される単位の含有量の合計量を意図する。
【0057】
硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)は、上記T1〜T3で表されるオルガノシロキシ単位を、単位の個数の割合(モル量)で、T1:T2:T3=0〜5:20〜50:50〜80(なおT1+T2+T3=100の関係を満たす。)の割合で含むことが好ましい。上記範囲であれば、ガラス基板16をより容易に剥離することができる。上記T1:T2:T3の比は、言い換えると、T1単位の割合が0〜5モル%で、T2単位の割合が20〜50モル%で、T3単位の割合が50〜80モル%であるともいえる。
【0058】
ガラス基板16を容易に剥離でき、ガラス積層体10の反りが小さくできる点で、硬化性オルガノポリシロキサンXにおける(A−2)単位と(B−2)単位の比((A−2)/(B−2))が80/20〜20/80であり、かつ、T1〜T3単位の個数の割合(モル量)でT1:T2:T3=0〜5:20〜50:50〜80であることが好ましい。
【0059】
なお、硬化性オルガノポリシロキサンXを用いてシリコーン樹脂層を形成する際に、硬化条件によって、T1〜T3中のメチル基やフェニル基が脱離して、Q単位が形成される場合がある。
【0060】
硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)の数平均分子量は、硬化性オルガノポリシロキサンの溶解性に優れ、異物欠陥の少ないシリコーン樹脂層14が作製できる、または、ガラス基板16をより容易に剥離できる点で、そのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による、ポリスチレン換算の数平均分子量は、500〜2000であることが好ましく、600〜2000であることがより好ましく、800〜1800がさらに好ましい。
また、硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)の質量平均分子量/数平均分子量は、硬化性オルガノポリシロキサンの溶解性に優れ、異物欠陥の少ないシリコーン樹脂層14が作製できる、または、ガラス基板16をより容易に剥離できる点で、1.00〜2.00が好ましく、1.00〜1.70がより好ましく、1.00〜1.50がさらに好ましい。
硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)の分子量の調節は、反応条件を制御することにより行うことができる。例えば、硬化性オリゴマーを製造する際の溶媒量を調節し、加水分解性オルガノシラン化合物の濃度を高くすると高分子量物が得られ、濃度を低くすると低分子量物が得られる。
【0061】
硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)の形状は特に制限されず、粒状であってもよい。つまり、硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)を溶媒中に加えた場合、微粒子として存在していてもよい。
この場合、動的光散乱法により測定した硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)の粒子径は特に制限されないが、異物欠陥の少ない当該シリコーン樹脂層が作製できる、または、ガラス基板16をより容易に剥離できる点で、0.5〜100nmが好ましく、0.5nm以上40nm未満がより好ましい。
なお、上記動的光散乱法の測定方法としては、硬化性オルガノポリシロキサン(特に、上記硬化性オルガノポリシロキサンX)をPEGMEA溶液(プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセタート)に20質量%となるように調整してサンプルを作製し、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子社製、FPAR−1000)を用いて、ヒストグラム平均粒子径(D50)を求め、粒子径とする。
【0062】
上述したシリコーン樹脂層14の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。シリコーン樹脂層14の製造方法としては、後述するように、支持基材12上に上記シリコーン樹脂となる硬化性オルガノポリシロキサンの層を形成し、その硬化性オルガノポリシロキサンを架橋硬化させてシリコーン樹脂層14とすることが好ましい。支持基材12上に硬化性オルガノポリシロキサンの層を形成するためには、硬化性オルガノポリシロキサンを溶媒に溶解させた溶液(硬化性オルガノポリシロキサンを含む組成物)を使用し、この溶液を支持基材12上に塗布して溶液の層を形成し、次いで溶媒を除去して硬化性オルガノポリシロキサンの層とすることが好ましい。溶液の濃度の調整などにより硬化性オルガノポリシロキサンの層の厚さを制御することができる。なかでも、取扱い性に優れ、シリコーン樹脂層14の膜厚の制御がより容易である点から、硬化性オルガノポリシロキサンを含む組成物中における硬化性オルガノポリシロキサンの含有量は、組成物全質量に対して、1〜100質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましい。
【0063】
溶媒としては、作業環境下で硬化性オルガノポリシロキサンを容易に溶解でき、かつ、容易に揮発除去できる溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、酢酸ブチル、2−ヘプタノン、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート等を例示できる。
【0064】
また、組成物中での硬化性オルガノポリシロキサンの安定性をより高める点で、組成物中のpHを制御することが好ましい。一般的にシラノール基が安定に存在できるpHにはある範囲があり、中性付近では、ゲル化が進行しやすく、酸性側(pH2〜4)あるいは塩基性側(pH11〜14)でより安定に存在することが知られている。硬化性オルガノポリシロキサンの安定性をより高め、かつ硬化性オルガノポリシロキサンが硬化する際の硬化触媒として作用する点で、pH制御には酸が好ましく用いられる。添加酸として、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、酢酸が好ましい。酸の使用量は、硬化性オルガノポリシロキサン組成物100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。
【0065】
さらに、組成物中での硬化性オルガノポリシロキサンの安定性をより高める点で、塗工溶媒よりも高沸点のアルコールを添加することもできる。使用されるアルコールの種類は特に制限されず、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、ジアセトンアルコール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール等が挙げられる。これらのうち、硬化性オルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点から、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノールが好ましい。
【0066】
また、基材への塗工性向上の目的で、消泡剤、粘性調整剤を含んでいてもよく、基材への密着性向上の目的で密着性付与剤等の添加剤をさらに含んでもよく、塗工性および得られる塗膜の平滑性を向上させる目的でレベリング剤を配合してもよい。これらの添加剤の配合量は硬化性オルガノポリシロキサン100質量部に対して各成分それぞれ0.01〜2質量部となる量が好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲でフィラーなどを添加してもよい。
なお、硬化性オルガノポリシロキサンを用いてシリコーン樹脂層を形成する手順に関しては、後段において詳述する。
【0067】
[ガラス積層体およびその製造方法]
本発明のガラス積層体10は、上述したように、支持基材12とガラス基板16とそれらの間にシリコーン樹脂層14が存在する積層体である。
本発明のガラス積層体10の製造方法は特に制限されないが、剥離強度(x)が剥離強度(y)よりも高い積層体を得るために、支持基材12表面上でシリコーン樹脂層14を形成する方法が好ましい。なかでも、硬化性オルガノポリシロキサンを支持基材12の表面に塗布し、支持基材12表面上でシリコーン樹脂層14を形成し、次いで、シリコーン樹脂層14のシリコーン樹脂面にガラス基板16を積層して、ガラス積層体10を製造する方法が好ましい。
硬化性オルガノポリシロキサンを支持基材12表面で硬化させると、硬化反応時の支持基材12表面との相互作用により接着し、シリコーン樹脂と支持基材12表面との剥離強度は高くなると考えられる。したがって、ガラス基板16と支持基材12とが同じ材質からなるものであっても、シリコーン樹脂層14と両者間の剥離強度に差を設けることができる。
以下、硬化性オルガノポリシロキサンの層を支持基材12の表面に形成し、支持基材12表面上でシリコーン樹脂層14を形成する工程を樹脂層形成工程、シリコーン樹脂層14のシリコーン樹脂面にガラス基板16を積層してガラス積層体10とする工程を積層工程といい、各工程の手順について詳述する。
【0068】
(樹脂層形成工程)
樹脂層形成工程では、硬化性オルガノポリシロキサンの層を支持基材12の表面に形成し、支持基材12表面上でシリコーン樹脂層14を形成する。
支持基材12上に硬化性オルガノポリシロキサンの層を形成するためには、硬化性オルガノポリシロキサンを溶媒に溶解させたコーティング用組成物(上記硬化性オルガノポリシロキサンを含む組成物に該当)を使用し、この組成物を支持基材12上に塗布して溶液の層を形成し、次いで硬化処理を施してシリコーン樹脂層14とすることが好ましい。
【0069】
支持基材12表面上に硬化性オルガノポリシロキサンを含む組成物を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。例えば、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法などが挙げられる。
【0070】
次いで、支持基材12上の硬化性オルガノポリシロキサンを硬化させて、シリコーン樹脂層14を形成する。より具体的には、図2(A)に示すように、該工程では支持基材12の少なくとも片面の表面上にシリコーン樹脂層14が形成される。
硬化の方法は特に制限されないが、通常、熱硬化処理により行われる。
熱硬化させる温度条件は、シリコーン樹脂層14の耐熱性を向上し、ガラス基板16と積層後の剥離強度(y)を上記のように制御しうる範囲内で特に制限されないが、150〜550℃が好ましく、200〜450℃がより好ましい。また、加熱時間は、通常、10〜300分が好ましく、20〜120分がより好ましい。なお、加熱条件は、温度条件を変えて段階的に実施してもよい。
上記温度範囲および、加熱時間の範囲とすることにより、T1単位、T2単位およびT3単位、さらに250℃以上の加熱によって生成しやすいQ単位の生成割合を制御することができる。
【0071】
なお、熱硬化処理においては、プレキュア(予備硬化)を行った後硬化(本硬化)を行って硬化させることが好ましい。プレキュアを行うことにより耐熱性に優れたシリコーン樹脂層14を得ることができる。プレキュアは溶媒の除去に引き続き行うことが好ましく、その場合、層から溶媒を除去して架橋物の層を形成する工程とプレキュアを行う工程とは特に区別されない。溶媒の除去は100℃以上に加熱して行うことが好ましく、150℃以上に加熱することにより引き続きプレキュアを行うことができる。溶媒の除去とプレキュアを行う温度および加熱時間は、100〜420℃、5〜60分が好ましく、150〜300℃、10〜30分がより好ましい。420℃以下であると剥離容易なシリコーン樹脂層が得られる。
【0072】
(積層工程)
積層工程は、上記の樹脂層形成工程で得られたシリコーン樹脂層14のシリコーン樹脂面上にガラス基板16を積層し、支持基材12の層とシリコーン樹脂層14とガラス基板16の層とをこの順で備えるガラス積層体10を得る工程である。より具体的には、図2(B)に示すように、シリコーン樹脂層14の支持基材12側とは反対側の表面14aと、第1主面16aおよび第2主面16bを有するガラス基板16の第1主面16aとを積層面として、シリコーン樹脂層14とガラス基板16とを積層し、ガラス積層体10を得る。
【0073】
ガラス基板16をシリコーン樹脂層14上に積層する方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
例えば、常圧環境下でシリコーン樹脂層14の表面上にガラス基板16を重ねる方法が挙げられる。なお、必要に応じて、シリコーン樹脂層14の表面上にガラス基板16を重ねた後、ロールやプレスを用いてシリコーン樹脂層14にガラス基板16を圧着させてもよい。ロールまたはプレスによる圧着により、シリコーン樹脂層14とガラス基板16の層との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。
【0074】
真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると、気泡の混入の抑制や良好な密着の確保が行われるのでより好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱により気泡が成長することがなく、ガラス基板16のゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。
【0075】
ガラス基板16を積層する際には、シリコーン樹脂層14に接触するガラス基板16の表面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。クリーン度が高いほど、ガラス基板16の平坦性は良好となるので好ましい。
【0076】
なお、ガラス基板16を積層した後、必要に応じて、プレアニール処理(加熱処理)を行ってもよい。該プレアニール処理を行うことにより、積層されたガラス基板16のシリコーン樹脂層14に対する密着性が向上し、適切な剥離強度(y)とすることができ、後述する部材形成工程の際に電子デバイス用部材の位置ずれなどが生じにくくなり、電子デバイスの生産性が向上する。
プレアニール処理の条件は使用されるシリコーン樹脂層14の種類に応じて適宜最適な条件が選択されるが、ガラス基板16とシリコーン樹脂層14の間の剥離強度(y)をより適切なものとする点から、300℃以上(好ましくは、300〜400℃)で5分間以上(好ましく、5〜30分間)加熱処理を行うことが好ましい。
【0077】
なお、ガラス基板16の第1主面に対する剥離強度と支持基材12の第1主面に対する剥離強度に差を設けたシリコーン樹脂層14の形成は、上記方法に限られるものではない。
例えば、シリコーン樹脂層14表面に対する密着性がガラス基板16よりも高い材質の支持基材12を用いる場合には、上記硬化性オルガノポリシロキサンを何らかの剥離性表面上で硬化してシリコーン樹脂のフィルムを製造し、このフィルムをガラス基板16と支持基材12との間に介在させ同時に積層することができる。
また、硬化性オルガノポリシロキサンの硬化による接着性がガラス基板16に対して充分低くかつその接着性が支持基材12に対して充分高い場合は、ガラス基板16と支持基材12の間で架橋物を硬化させてシリコーン樹脂層14を形成することができる。
さらに、支持基材12がガラス基板16と同様のガラス材料からなる場合であっても、支持基材12表面の接着性を高める処理を施してシリコーン樹脂層14に対する剥離強度を高めることもできる。例えば、シランカップリング剤のような化学的に固定力を向上させる化学的方法(プライマー処理)や、フレーム(火炎)処理のように表面活性基を増加させる物理的方法、サンドブラスト処理のように表面の粗度を増加させることにより引っかかりを増加させる機械的処理方法などが例示される。
【0078】
(ガラス積層体)
本発明の第1の態様であるガラス積層体10は、種々の用途に使用することができ、例えば、後述する表示装置用パネル、PV、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品を製造する用途などが挙げられる。なお、該用途では、ガラス積層体10が高温条件(例えば、450℃以上)で曝される(例えば、1時間以上)場合が多い。
ここで、表示装置用パネルとは、LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル、量子ドットLEDパネル、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)シャッターパネル等が含まれる。
【0079】
<第2の実施態様>
図3は、本発明に係るガラス積層体の第2の実施態様の模式的断面図である。
図3に示すように、ガラス積層体100は、支持基材12の層とガラス基板16の層とそれらの間にシリコーン樹脂層14が存在する積層体である。
図3に示すガラス積層体100においては、上述した図1に示すガラス積層体10とは異なり、シリコーン樹脂層14はガラス基板16上に固定されており、樹脂層付きガラス基板20は、樹脂層付きガラス基板20中のシリコーン樹脂層14が支持基材12に直接接するように、支持基材12上に剥離可能に積層(密着)する。該固定と剥離可能な密着は剥離強度(すなわち、剥離に要する応力)に違いがあり、固定は密着に対し剥離強度が高いことを意味する。つまり、ガラス積層体100においては、シリコーン樹脂層14とガラス基板16との界面の剥離強度が、シリコーン樹脂層14と支持基材12との界面の剥離強度よりも高い。
【0080】
より具体的には、ガラス基板16とシリコーン樹脂層14との界面は剥離強度(z)を有し、ガラス基板16とシリコーン樹脂層14との界面に剥離強度(z)を越える引き剥がし方向の応力が加えられると、ガラス基板16と第1シリコーン樹脂層14との界面が剥離する。シリコーン樹脂層14と支持基材12との界面は剥離強度(w)を有し、シリコーン樹脂層14と支持基材12との界面に剥離強度(w)を越える引き剥がし方向の応力が加えられると、シリコーン樹脂層14と支持基材12との界面が剥離する。
ガラス積層体100においては、上記剥離強度(z)は上記剥離強度(w)よりも高い。したがって、ガラス積層体100に支持基材12とガラス基板16とを引き剥がす方向の応力が加えられると、本発明のガラス積層体100は、シリコーン樹脂層14と支持基材12との界面で剥離して、樹脂層付きガラス基板20と支持基材12とに分離する。
【0081】
剥離強度(z)は、剥離強度(w)と比較して、充分高いことが好ましい。剥離強度(z)を高めることは、ガラス基板16に対するシリコーン樹脂層14の付着力を高め、かつ加熱処理後において支持基材12に対してよりも相対的に高い付着力を維持できることを意味する。
ガラス基板16に対するシリコーン樹脂層14の付着力を高めるためには、上述した硬化性オルガノポリシロキサンをガラス基板16上で架橋硬化させてシリコーン樹脂層14を形成することが好ましい。架橋硬化の際の接着力で、ガラス基板16に対して高い結合力で結合したシリコーン樹脂層14を形成することができる。
一方、架橋硬化後のシリコーン樹脂の支持基材12に対する結合力は、上記架橋硬化時に生じる結合力よりも低いのが通例である。したがって、ガラス基板16上でシリコーン樹脂層14を形成し、その後シリコーン樹脂層14の面に支持基材12を積層することにより、ガラス積層体100を製造することができる。
【0082】
ガラス積層体100を構成する各層(支持基材12、ガラス基板16、シリコーン樹脂層14)は、上述したガラス積層体10を構成する各層と同義であり、ここでは説明は省略する。
ただし、シリコーン樹脂層14の支持基材12側の表面の表面粗さRaは特に制限されないが、ガラス基板16の積層性および剥離性がより優れる点より、0.1〜20nmが好ましく、0.1〜10nmがより好ましい。
なお、表面粗さRaの測定方法としては、JIS B 0601−2001に準じて行われ、任意の5箇所以上の点において測定されたRaを、算術平均した値が上記表面粗さRaに該当する。
【0083】
ガラス積層体100の製造方法は特に制限されないが、上述した、ガラス積層体10の製造方法において、支持基材12の代わりにガラス基板16を用い、ガラス基板16の代わりに支持基材12を用いることにより、所望のガラス積層体100を製造することができる。より具体的には、ガラス基板16上でシリコーン樹脂層14を形成し、次いで、シリコーン樹脂層14上に支持基材12を積層して、ガラス積層体100を製造することができる。
【0084】
[部材付きガラス基板およびその製造方法]
本発明においては、上述したガラス積層体(ガラス積層体10、または、ガラス積層体100)を用いて、電子デバイスを製造することができる。
以下では、上述したガラス積層体10を用いた態様について詳述する。
ガラス積層体10を用いることにより、ガラス基板と電子デバイス用部材とを含む部材付きガラス基板(電子デバイス用部材付きガラス基板)が製造される。
該部材付きガラス基板の製造方法は特に限定されないが、電子デバイスの生産性に優れる点から、上記ガラス積層体中のガラス基板上に電子デバイス用部材を形成して電子デバイス用部材付き積層体を製造し、得られた電子デバイス用部材付き積層体からシリコーン樹脂層のガラス基板側界面または樹脂層内部を剥離面として部材付きガラス基板と樹脂層付き支持基材とに分離する方法が好ましい。なお、必要に応じて、次いで、部材付きガラス基板の剥離面を清浄化することがより好ましい。
以下、上記ガラス積層体中のガラス基板上に電子デバイス用部材を形成して電子デバイス用部材付き積層体を製造する工程を部材形成工程、電子デバイス用部材付き積層体からシリコーン樹脂層のガラス基板側界面を剥離面として部材付きガラス基板と樹脂層付き支持基材とに分離する工程を分離工程、部材付きガラス基板の剥離面を清浄化する工程を清浄化処理工程という。なお、上述したように、清浄化処理工程は、必要に応じて実施される任意の工程である。
以下に、各工程で使用される材料および手順について詳述する。
【0085】
(部材形成工程)
部材形成工程は、上記積層工程において得られたガラス積層体10中のガラス基板16上に電子デバイス用部材を形成する工程である。より具体的には、図2(C)に示すように、ガラス基板16の第2主面16b(露出表面)上に電子デバイス用部材22を形成し、電子デバイス用部材付き積層体24を得る。
まず、本工程で使用される電子デバイス用部材22について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0086】
(電子デバイス用部材(機能性素子))
電子デバイス用部材22は、ガラス積層体10中のガラス基板16上に形成され電子デバイスの少なくとも一部を構成する部材である。より具体的には、電子デバイス用部材22としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、または、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品などに用いられる部材(例えば、表示装置用部材、太陽電池用部材、薄膜2次電池用部材、電子部品用回路)が挙げられる。
【0087】
例えば、太陽電池用部材としては、シリコン型では、正極の酸化スズなど透明電極、p層/i層/n層で表されるシリコン層、および負極の金属等が挙げられ、その他に、化合物型、色素増感型、量子ドット型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、薄膜2次電池用部材としては、リチウムイオン型では、正極および負極の金属または金属酸化物等の透明電極、電解質層のリチウム化合物、集電層の金属、封止層としての樹脂等が挙げられ、その他に、ニッケル水素型、ポリマー型、セラミックス電解質型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、電子部品用回路としては、CCDやCMOSでは、導電部の金属、絶縁部の酸化ケイ素や窒化珪素等が挙げられ、その他に圧力センサ・加速度センサなど各種センサやリジッドプリント基板、フレキシブルプリント基板、リジッドフレキシブルプリント基板などに対応する各種部材等を挙げることができる。
【0088】
(工程の手順)
上述した電子デバイス用部材付き積層体24の製造方法は特に限定されず、電子デバイス用部材の構成部材の種類に応じて従来公知の方法にて、ガラス積層体10のガラス基板16の第2主面16b表面上に、電子デバイス用部材22を形成する。
なお、電子デバイス用部材22は、ガラス基板16の第2主面16bに最終的に形成される部材の全部(以下、「全部材」という)ではなく、全部材の一部(以下、「部分部材」という)であってもよい。シリコーン樹脂層14から剥離された部分部材付きガラス基板を、その後の工程で全部材付きガラス基板(後述する電子デバイスに相当)とすることもできる。
また、シリコーン樹脂層14から剥離された、全部材付きガラス基板には、その剥離面(第1主面16a)に他の電子デバイス用部材が形成されてもよい。また、全部材付き積層体を組み立て、その後、全部材付き積層体から支持基材12を剥離して、電子デバイスを製造することもできる。さらに、全部材付き積層体を2枚用いて組み立て、その後、全部材付き積層体から2枚の支持基材12を剥離して、2枚のガラス基板を有する部材付きガラス基板を製造することもできる。
【0089】
例えば、OLEDを製造する場合を例にとると、ガラス積層体10のガラス基板16のシリコーン樹脂層14側とは反対側の表面上(ガラス基板16の第2主面16bに該当)に有機EL構造体を形成するために、透明電極を形成する、さらに透明電極を形成した面上にホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する、裏面電極を形成する、封止板を用いて封止する、等の各種の層形成や処理が行われる。これらの層形成や処理として、具体的には、例えば、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理等が挙げられる。
【0090】
また、例えば、TFT−LCDを製造する場合は、ガラス積層体10のガラス基板16の第2主面16b上に、レジスト液を用いて、CVD法およびスパッター法など、一般的な成膜法により形成される金属膜および金属酸化膜等にパターン形成して薄膜トランジスタ(TFT)を形成するTFT形成工程と、別のガラス積層体10のガラス基板16の第2主面16b上に、レジスト液をパターン形成に用いてカラーフィルタ(CF)を形成するCF形成工程と、TFT形成工程で得られたTFT付き積層体とCF形成工程で得られたCF付き積層体とを積層する貼合わせ工程等の各種工程を有する。
【0091】
TFT形成工程やCF形成工程では、周知のフォトリソグラフィ技術やエッチング技術等を用いて、ガラス基板16の第2主面16bにTFTやCFを形成する。この際、パターン形成用のコーティング液としてレジスト液が用いられる。
なお、TFTやCFを形成する前に、必要に応じて、ガラス基板16の第2主面16bを洗浄してもよい。洗浄方法としては、周知のドライ洗浄やウェット洗浄を用いることができる。
【0092】
貼合わせ工程では、TFT付き積層体の薄膜トランジスタ形成面と、CF付き積層体のカラーフィルタ形成面とを対向させて、シール剤(例えば、セル形成用紫外線硬化型シール剤)を用いて貼り合わせる。その後、TFT付き積層体とCF付き積層体とで形成されたセル内に、液晶材を注入する。液晶材を注入する方法としては、例えば、減圧注入法、滴下注入法がある。
【0093】
(分離工程)
分離工程は、上記部材形成工程で得られた電子デバイス用部材付き積層体24から、シリコーン樹脂層14とガラス基板16との界面を剥離面として、電子デバイス用部材22が積層したガラス基板16(部材付きガラス基板)と、シリコーン樹脂層14および支持基材12とに分離して、電子デバイス用部材22およびガラス基板16を含む部材付きガラス基板26を得る工程である。
剥離時のガラス基板16上の電子デバイス用部材22が必要な全構成部材の形成の一部である場合には、分離後、残りの構成部材をガラス基板16上に形成することもできる。
【0094】
部材付きガラス基板26と樹脂層付き支持基材18とを剥離する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、ガラス基板16とシリコーン樹脂層14との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。好ましくは、電子デバイス用部材付き積層体24の支持基材12が上側、電子デバイス用部材22側が下側となるように定盤上に設置し、電子デバイス用部材22側を定盤上に真空吸着し(両面に支持基材が積層されている場合は順次行う)、この状態でまず刃物をガラス基板16−シリコーン樹脂層14界面に刃物を侵入させる。そして、その後に支持基材12側を複数の真空吸着パッドで吸着し、刃物を差し込んだ箇所付近から順に真空吸着パッドを上昇させる。そうするとシリコーン樹脂層14とガラス基板16との界面へ空気層が形成され、その空気層が界面全面に広がり、樹脂層付き支持基材18を容易に剥離することができる。
また、樹脂層付き支持基材18は、新たなガラス基板と積層して、本発明のガラス積層体10を製造することができる。
【0095】
なお、電子デバイス用部材付き積層体24から部材付きガラス基板26を分離する際においては、イオナイザによる吹き付けや湿度を制御することにより、シリコーン樹脂層14の欠片が部材付きガラス基板26に静電吸着することをより抑制することができる。
【0096】
[清浄化処理工程]
清浄化処理工程は、上記分離工程で得られた部材付きガラス基板26中のガラス基板16の剥離面(第1主面16a)に清浄化処理を施す工程である。該工程を実施することにより、剥離面に付着したシリコーン樹脂やシリコーン樹脂層、剥離面に付着した上記部材形成工程で発生する金属片やホコリなどの不純物を除去することができ、剥離面の清浄性を維持することができる。結果として、ガラス基板16の剥離面に貼り付けられる位相差フィルムや偏光フィルムなどの粘着性が向上する。
【0097】
清浄化処理の方法は、剥離面に付着した樹脂やホコリなどを除去することができれば、特にその方法は制限されない。例えば、付着物を熱的に分解する方法や、プラズマ照射または光照射(例えば、UV照射処理)によって剥離面上の不純物を除去する方法や、溶媒を用いて洗浄処理する方法などが挙げられる。
【0098】
上述した部材付きガラス基板26の製造方法は、携帯電話やPDAのようなモバイル端末に使用される小型の表示装置の製造に好適である。表示装置は主としてLCDまたはOLEDであり、LCDとしては、TN型、STN型、FE型、TFT型、MIM型、IPS型、VA型等を含む。基本的にパッシブ駆動型、アクティブ駆動型のいずれの表示装置の場合でも適用することができる。
【0099】
上記方法で製造された部材付きガラス基板26としては、ガラス基板と表示装置用部材を有する表示装置用パネル、ガラス基板と太陽電池用部材を有する太陽電池、ガラス基板と薄膜2次電池用部材を有する薄膜2次電池、ガラス基板と電子デバイス用部材を有する電子部品などが挙げられる。表示装置用パネルとしては、液晶パネル、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネルなどを含む。
【0100】
上記においては、ガラス積層体10を用いた態様について詳述したが、ガラス積層体100を用いて上記と同様手順に従って電子デバイスを製造することもできる。
なお、ガラス積層体100を使用した場合は、上記分離工程の際に、支持基材12とシリコーン樹脂層14との界面を剥離面として、支持基材12と、シリコーン樹脂層14、ガラス基板16、および、電子デバイス用部材22を含む電子デバイスとに分離される。
【実施例】
【0101】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。また、本製造例においては、硬化性オルガノポリシロキサンの評価を以下に示す項目および方法によって行った。
(1)硬化性オルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態の解析(T単位の割合)
核磁気共鳴分析装置(溶液29Si−NMR:JEOL RESONANCE株式会社製、ECP400)を用いてT1〜T3の比を求めた。
【0102】
T1〜T3の比は、溶液29Si−NMRのピーク面積比からそれぞれ求めた。測定条件は、パルス幅20μsec、パルス繰り返しの待ち時間30sec、積算回数256scanとした。溶媒にはトルエンを用い、濃度30wt%に調製したものに緩和試薬として、Cr(acac)を0.1wt%添加した。化学シフトの基準はTMS由来のピークを0ppmとした。
【0103】
各構造の積分算出範囲は以下のとおりである。
T1(Me基):−44〜−49ppm、T1(Ph基):−60〜−61ppm
T2(Me基):−50〜−60ppm、T2(Ph基):−67〜−74ppm
T3(Me基):−61〜−67ppm、T3(Ph基):−74〜−83ppm
(2)硬化性オルガノポリシロキサン中のフェニル基モル%/メチル基モル%(上記(A−2)/(B−2)組成比の解析
核磁気共鳴分析装置(溶液H−NMR:JEOL RESONANCE株式会社製、ECP400)を用いてフェニル基モル%/メチル基モル%(上記(A−2)/(B−2)組成比を求めた。
【0104】
フェニル基モル%/メチル基モル%(上記(A−2)/(B−2))組成比は、H−NMRのピーク面積からそれぞれ求めた。測定条件はパルス幅6.7μsec、パルス繰り返しの待ち時間5sec、積算回数16scanとした。溶媒には重水素化クロロホルムを用い、濃度1wt%に調製した。化学シフトの基準はクロロホルム由来のピークを7.26ppmとした。また、各構造に由来するH−NMRの化学シフトは、以下のとおりである。
A−2(Ph基):8.2〜6.4ppm
B−2(Me基):0.6〜−0.7ppm
【0105】
(3)数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw、および分散度Mw/Mnの評価
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー社製のHLC8220、RI検出、カラム:TSK−GEL SuperHZ、溶離液:テトラヒドロフラン)によって求めた。
【0106】
(4)動的光散乱法による粒子径の評価
硬化性オルガノポリシロキサンを20質量%のPGMEA(プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセタート)溶液とし、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子社製、FPAR−1000)を用いて、ヒストグラム平均粒子径(D50)を求め、粒子径とした。
【0107】
以下の実施例1〜10、比較例1、2では、ガラス基板として、無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦274mm、横274mm、板厚0.2mm、線膨張係数38×10-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。また、支持板としては、同じく無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦274mm、横274mm、板厚0.4mm、線膨張係数38×10-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。
【0108】
<製造例1:硬化性オルガノポリシロキサンの製造>
還流冷却管、滴下ロート、および攪拌機を備えた反応容器に、炭酸ナトリウム(12.7g、0.12モル)と水(80mL)を入れて撹拌し、その後さらにメチルイソブチルケトン(80mL)を加えて、反応溶液を得た。次いで、メチルトリクロロシラン(7.5g、0.05モル)およびフェニルトリクロロシラン(10.6g、0.05モル)を滴下ロートから30分かけて反応溶液に滴下した。この際、反応溶液の温度を40℃まで上昇させた。次に、滴下終了後、60℃の油浴に反応容器を浸漬し、24時間加熱撹拌した。反応終了後、有機相を洗浄水が中性となるまで洗浄し、次いで、乾燥剤を用いて有機相を乾燥した。次に、乾燥剤を除去した後、溶媒を減圧で留去し、さらに一夜真空乾燥を行い、白色の固体(硬化性オルガノポリシロキサン(U1))を得た。
【0109】
<製造例2〜8>
硬化性オルガノポリシロキサン(U2)〜(U8)について、製造例1と同様にして、表1に示す組成比で製造した。なお、(U4)に関しては反応時間を24時間から1時間に、(U6)に関しては反応時間を24時間から3時間に調整した以外は、製造例1と同様の手順で製造した。さらに(U5)は、(U4)を製造したのち、50質量%のメタノール溶液とし、固形分に対して2質量%の酢酸を加えた後、再度溶媒を減圧で留去し、白色の固体として得たものである。
【0110】
なお、以下の表1中、「フェニル基モル%/メチル基モル%」欄は、得られた硬化性オルガノポリシロキサン中における、T1〜T3中のRがフェニル基であるオルガノシロキシ単位と、T1〜T3中のRがメチル基であるオルガノシロキシ単位とのモル比を表す。
また、「T単位の割合」欄では、得られた硬化性オルガノポリシロキサン中における、T1〜T3の各単位の個数の割合(モル%)を示し、T1〜T3各単位の個数の割合の合計が100となるように示す。
「粒子径」欄は、上述した動的光散乱法により測定した硬化性オルガノポリシロキサンの粒径であり、「<40」とは粒径が40nm未満であったことを意図し、「>100」とは粒径が100nm超であったことを意図する。
なお、上記各単位の含有量は、29Si−NMRやH−NMRより算出した。
【0111】
【表1】
【0112】
<実施例1>
得られた硬化性オルガノポリシロキサン(U1)をPEGMEAに溶解させて硬化性オルガノポリシロキサン(U1)を含む液状物(固形分濃度:40質量%)を作製した(なお、硬化性オルガノポリシロキサンは表1に示す粒子径の微粒子として液状物中に存在した。)。
支持基材を純水洗浄した後、さらにUV洗浄して清浄化した。
次に、支持基材の第1主面上に縦278mmおよび横278mmの大きさで、硬化性オルガノポリシロキサン(U1)を含む液状物を、スピンコータにて塗工した(塗工量30g/m2)。
次に、これを350℃にて30分間大気中で加熱硬化して、支持基材の第1主面に厚さ2.8μmのシリコーン樹脂層を形成し、支持体A(樹脂層付き支持基材)を得た。
次に、支持体Aのシリコーン樹脂層の剥離性表面と、該シリコーン樹脂層と同じサイズで厚さ0.2mmのガラス基板(「AN100」。旭硝子株式会社製)の第1主面とを対向させて、室温下、大気圧下、積層装置にて両基板の重心が重なるように両基板を重ね合わせ、ガラス積層体S1を得た。
【0113】
なお、得られたガラス積層体S1は上述した図1のガラス積層体10に該当し、ガラス積層体S1においては、支持基材の層とシリコーン樹脂層の界面の剥離強度(x)が、シリコーン樹脂層とガラス基板の界面の剥離強度(y)よりも高かった。
次に、得られたガラス積層体S1を用いた、以下の測定を実施した。以下の評価結果は、後述する表1にまとめて示す。
【0114】
[剥離性評価]
ガラス積層体S1から50mm角のサンプルを切り出し、このサンプルを450℃(窒素雰囲気下)に加熱した熱風オーブン内に載置し、60分の放置後、取り出した。次いで、ガラス積層体S1のガラス基板の第2主面を定盤に真空吸着させたうえで、ガラス積層体S1の1つのコーナー部のガラス基板とシリコーン樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、上記ガラス基板の第1主面と上記シリコーン樹脂層の剥離性表面との間に剥離のきっかけを与えた。そして、ガラス積層体S1の支持基材の第2主面を90mmピッチで複数の真空吸着パッドで吸着した上で、上記コーナー部に近い吸着パッドから順に上昇させることにより、ガラス基板の第1主面とシリコーン樹脂層の剥離性表面とを剥離した。
上記結果より、高温加熱処理後もガラス基板が剥離できることが確認された。
なお、シリコーン樹脂層の主要部は支持基材と共にガラス基板から分離され、該結果より、支持基材の層と樹脂層の界面の剥離強度(x)が、シリコーン樹脂層とガラス基板の界面の剥離強度(y)よりも高いことが確認された。
【0115】
[耐熱性評価]
ガラス積層体S1から50mm角のサンプルを切り出し、このサンプルを450℃(窒素雰囲気下)に加熱した熱風オーブン内に載置し、60分の放置後、取り出してサンプル内に発泡または着色が確認されたかどうか評価した。
【0116】
<実施例2〜10>
硬化性オルガノポリシロキサン(U1)を含む液状物の代わりに、下記表2に示す硬化性オルガノポリシロキサン(U2)〜(U6)を含む液状物をそれぞれ使用し、熱硬化処理条件を変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体S2〜S10を製造した。
下記表2では、液状物を製造する際に使用した、溶媒の種類、および、固形分濃度などを示す。また、実施例7および8に関しては、加熱硬化の際の熱硬化処理条件を「350℃、30分」から、「150℃にて30分間大気中で加熱硬化して、その後さらに350℃にて60分間大気中で加熱硬化」に変更した。さらに、実施例9に関しては、加熱硬化の際の熱硬化処理条件を「350℃、30分」から、「150℃にて30分間大気中で加熱硬化して、その後さらに350℃にて60分間大気中で加熱硬化して、さらに500℃にて60分間大気中で加熱硬化」に変更した。
なお、得られたガラス積層体S2〜S10は上述した図1のガラス積層体10に該当し、ガラス積層体S2〜S10においては、支持基材の層とシリコーン樹脂層の界面の剥離強度(x)が、シリコーン樹脂層とガラス基板の界面の剥離強度(y)よりも高かった。
また、得られたガラス積層体S2〜S10を用いて、上記[剥離性評価]および[耐熱性評価]を実施した。結果を表2にまとめて示す。
【0117】
<比較例1>
硬化性オルガノポリシロキサン(U1)を含む液状物の代わりに、下記表2に示す硬化性オルガノポリシロキサン(U8)を含む液状物を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体C1の製造を行った。得られたガラス積層体C1を用いて、上記[剥離性評価]および[耐熱性評価]を実施した。結果を表2にまとめて示す。
【0118】
<比較例2>
硬化性オルガノポリシロキサン(U1)を含む液状物の代わりに、無溶媒付加反応型剥離紙用シリコーン(信越シリコーン社製 商品名 KNS-320A)100質量部と白金系触媒(信越シリコーン社製 商品名 CAT−PL−56)2質量部の混合物(U9)を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体C2を製造した。得られたガラス積層体C2を用いて、上記[剥離性評価]および[耐熱性評価]を実施した。結果を表2にまとめて示す。
なお、上記ガラス積層体C2の態様は、特許文献1に記載される態様に該当する。
【0119】
表2中、「塗布性評価」欄は、硬化性オルガノポリシロキサンを含む液状物を塗布して、シリコーン樹脂層が形成できた場合を「○」、シリコーン樹脂層が形成できなかった場合を「×」とした。
また、「剥離性評価」欄において、ガラス基板とシリコーン樹脂層との界面にステンレス製刃物を差し込み、剥離のきっかけを与えた時点でガラス基板とシリコーン樹脂層との大部分が剥離し、ガラス基板を容易に剥離できた場合を「◎」、剥離のきっかけだけではガラス基板は剥離しないが、ガラス基板を剥離できる場合を「○」、ガラス基板を剥離できない、または、ガラス基板が破損する場合を「×」として示す。
さらに、「耐熱性評価」欄において、「着色」「発泡」がない場合は「なし」、ある場合は「有り」と示す。
また、表2中、「シリコーン樹脂層」欄においては、29Si−NMRによるピーク面積比より算出したT3単位およびQ単位のモル%を示す。
【0120】
なお、本製造例および比較例においては、シリコーン樹脂層の解析を以下に示す項目および方法によって行った。
(1)シリコーン樹脂層のケイ素原子の結合状態の解析
核磁気共鳴分析装置(固体29Si−NMR:JEOL RESONANCE株式会社製、ECP600)を用いてT3単位およびQ単位の含有量(モル%)を求めた。
【0121】
T3単位およびQ単位の含有量(モル%)は、固体29Si−NMRのピーク面積比からそれぞれ求めた。シリコーン樹脂層は、ガラス基材上に各実施例および比較例で使用する硬化性オルガノポリシロキサンを含む液状物を、スピンコータにて塗工し、各実施例および比較例の加熱条件にて加熱硬化して、ガラス基材にシリコーン樹脂層を形成後、該シリコーン樹脂層をカミソリ刃で削りとった固体サンプルを使用した。測定法はDDMAS法とし、測定条件はパルス幅1.9μsec、パルス繰り返しの待ち時間300sec、積算回数300scan以上、MAS回転速度10KHzとした。化学シフトの基準はジメチルシリコーン由来のピークを−22ppmとした。また、各構造に由来する固体29Si−NMRの化学シフトは、以下のとおりである。
T3:−48〜−88ppm
Q:−96〜−116ppm
【0122】
(2)シリコーン樹脂層の(A−1)/(B−1)比の解析
核磁気共鳴分析装置(固体H−NMR:JEOL RESONANCE株式会社製、ECP600)を用いてPh基およびMe基に由来するピーク面積比から求めた。シリコーン樹脂層は、ガラス基材上に各実施例および比較例で使用する硬化性オルガノポリシロキサンを含む液状物を、スピンコータにて塗工し、各実施例および比較例の加熱条件にて加熱硬化して、ガラス基材にシリコーン樹脂層を形成後、該シリコーン樹脂層をカミソリ刃で削りとった固体サンプルを使用した。測定法にはDepth2を用い、測定条件はパルス幅2.3μsec、パルス繰り返しの待ち時間15sec、積算回数16scan、MAS回転速度22KHzとした。化学シフトの基準はアダマンタン由来のピークを1.7ppmとした。また、各構造に由来する固体H−NMRの化学シフトは、以下のとおりである。
A−1(Ph基):18〜4ppm
B−1(Me基):4〜−10ppm
【0123】
(3)シリコーン樹脂層の膜厚
シリコーン樹脂層の膜厚は接触式膜圧装置の表面粗さ・輪郭形状測定機(東京精密社製 サーフコム1400G−12)を用いて測定した。
(4)シリコーン樹脂層の収縮応力
外径が4インチ、厚さが525±25μmのシリコンウエハのオリエンテーションフラットを基準とし、薄膜応力測定装置FLX−2320(KLA Tencor社製)内の所定位置に収容した後、周囲温度25℃で、シリコンウエハの曲率半径を計測した。
次に、シリコンウエハを取り出し、スピンコート法を用いて、シリコンウエハ上に各実施例および比較例で使用する硬化性オルガノポリシロキサンを含む液状物を塗布した後、各実施例および比較例の加熱条件にて加熱硬化して、シリコーン樹脂層を形成した。シリコーン系硬化被膜を形成する前と同様にして、周囲温度25℃で、シリコーン樹脂層が形成されたシリコンウエハの曲率半径を計測した。
【0124】
【数2】
【0125】
(式中、E/(1−ν)は、シリコンウエハの二軸弾性係数(結晶面(100):1.805×1011Pa)であり、hは、シリコンウエハの厚さ[m]であり、tは、シリコーン樹脂層の厚さ[m]であり、Rは、シリコーン樹脂層を形成する前のシリコンウエハの曲率半径とシリコーン樹脂層を形成した後のシリコンウエハとの曲率半径の差[m]である。)から、シリコーン樹脂層の25℃における収縮応力を算出した。
なお、ガラス複合体S1〜S9中のシリコーン樹脂層のオルガノシロキシ単位は、Q単位とT3単位とで構成されていた。上述した実施例10および比較例1においては、Q単位は検出されなかった(測定限界以下であった)。
【0126】
【表2】
【0127】
上記表2に示すように、本発明のガラス積層体においては、シリコーン樹脂層は優れた耐熱性を示すと共に、ガラス基板の剥離性(分離性)にも優れていた。特に、Q単位を含む実施例1〜9においては、剥離性がより優れていた。
一方、比較例1、2に示すように、所定の組成比のシリコーン樹脂層を用いていない場合は、所望の効果が得られなかった。
【0128】
<実施例11>
本例では、実施例1で得たガラス積層体S1を用いてOLEDを製造する。
まず、ガラス積層体S1におけるガラス基板の第2主面上に、プラズマCVD法により窒化シリコン、酸化シリコン、アモルファスシリコンの順に成膜する。次に、イオンドーピング装置により低濃度のホウ素をアモルファスシリコン層に注入し、加熱処理し脱水素処理をおこなう。次に、レーザアニール装置によりアモルファスシリコン層の結晶化処理をおこなう。次に、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングおよびイオンドーピング装置より、低濃度のリンをアモルファスシリコン層に注入し、N型およびP型のTFTエリアを形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、プラズマCVD法により酸化シリコン膜を成膜してゲート絶縁膜を形成した後に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成する。次に、フォトリソグラフィ法とイオンドーピング装置により、高濃度のホウ素とリンをN型、P型それぞれの所望のエリアに注入し、ソースエリアおよびドレインエリアを形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、プラズマCVD法による酸化シリコンの成膜で層間絶縁膜を、スパッタリング法によりアルミニウムの成膜およびフォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりTFT電極を形成する。次に、水素雰囲気下、加熱処理し水素化処理をおこなった後に、プラズマCVD法による窒素シリコンの成膜で、パッシベーション層を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、紫外線硬化性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィ法により平坦化層およびコンタクトホールを形成する。次に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより画素電極を形成する。
続いて、蒸着法により、ガラス基板の第2主面側に、正孔注入層として4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、正孔輸送層としてビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン、発光層として8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)に2,6−ビス[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニル]アミノスチリル]ナフタレン−1,5−ジカルボニトリル(BSN−BCN)を40体積%混合したもの、電子輸送層としてAlq3をこの順に成膜する。次に、スパッタリング法によりアルミニウムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより対向電極を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、紫外線硬化型の接着層を介してもう一枚のガラス基板を貼り合わせて封止する。上記手順によって、ガラス基板上に有機EL構造体を形成する。ガラス基板上に有機EL構造体を有するガラス積層体S1(以下、パネルAという。)が、本発明の電子デバイス用部材付き積層体である。
続いて、パネルAの封止体側を定盤に真空吸着させたうえで、パネルAのコーナー部のガラス基板と樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、ガラス基板と樹脂層の界面に剥離のきっかけを与える。そして、パネルAの支持基材表面を真空吸着パッドで吸着した上で、吸着パッドを上昇させる。ここで刃物の差し込みは、イオナイザ(キーエンス社製)から除電性流体を当該界面に吹き付けながら行う。次に、形成した空隙へ向けてイオナイザからは引き続き除電性流体を吹き付けながら、かつ、水を剥離前線に差しながら真空吸着パッドを引き上げる。その結果、定盤上に有機EL構造体が形成されたガラス基板のみを残し、樹脂層付き支持基材を剥離することができる。
続いて、分離されたガラス基板をレーザーカッタまたはスクライブ−ブレイク法を用いて切断し、複数のセルに分断した後、有機EL構造体が形成されたガラス基板と対向基板とを組み立てて、モジュール形成工程を実施してOLEDを作製する。こうして得られるOLEDは、特性上問題は生じない。
【0129】
<実施例12>
本例では、実施例1で得たガラス積層体S1を用いてLCDを製造する。
まず、2枚のガラス積層体S1を準備して、片方のガラス積層体S1−1におけるガラス基板の第2主面上に、プラズマCVD法により窒化シリコン、酸化シリコン、アモルファスシリコンの順に成膜する。次に、イオンドーピング装置により低濃度のホウ素をアモルファスシリコン層に注入し、窒素雰囲気下、加熱処理し脱水素処理をおこなう。次に、レーザアニール装置によりアモルファスシリコン層の結晶化処理をおこなう。次に、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングおよびイオンドーピング装置より、低濃度のリンをアモルファスシリコン層に注入し、N型およびP型のTFTエリアを形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、プラズマCVD法により酸化シリコン膜を成膜しゲート絶縁膜を形成した後に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成する。次に、フォトリソグラフィ法とイオンドーピング装置により、高濃度のホウ素とリンをN型、P型それぞれの所望のエリアに注入し、ソースエリアおよびドレインエリアを形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、プラズマCVD法による酸化シリコンの成膜で層間絶縁膜を、スパッタリング法によりアルミニウムの成膜およびフォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりTFT電極を形成する。次に、水素雰囲気下、加熱処理し水素化処理をおこなった後に、プラズマCVD法による窒素シリコンの成膜で、パッシベーション層を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、紫外線硬化性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィ法により平坦化層およびコンタクトホールを形成する。次に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより画素電極を形成する。
次に、もう片方のガラス積層体S1−2を大気雰囲気下、加熱処理する。次に、ガラス積層体S1におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりクロムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより遮光層を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、ダイコート法によりカラーレジストを塗布し、フォトリソグラフィ法および熱硬化によりカラーフィルタ層を形成する。次に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、対向電極を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、ダイコート法により紫外線硬化樹脂液を塗布し、フォトリソグラフィ法および熱硬化により柱状スペーサを形成する。次に、ロールコート法によりポリイミド樹脂液を塗布し、熱硬化により配向層を形成し、ラビングをおこなう。
次に、ディスペンサ法によりシール用樹脂液を枠状に描画し、枠内にディスペンサ法により液晶を滴下した後に、上記で画素電極が形成されたガラス積層体S1−1を用いて、2枚のガラス積層体S1のガラス基板の第2主面側同士を貼り合わせ、紫外線硬化および熱硬化によりLCDパネルを得る。
【0130】
続いて、ガラス積層体S1−1の支持基材の第2主面を定盤に真空吸着させ、ガラス積層体S1−2のコーナー部のガラス基板と樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、ガラス基板の第1主面と樹脂層の剥離性表面との剥離のきっかけを与える。ここで刃物の差し込みは、イオナイザ(キーエンス社製)から除電性流体を当該界面に吹き付けながら行う。次に、形成した空隙へ向けてイオナイザからは引き続き除電性流体を吹き付けながら、水を剥離前線に差しながら真空吸着パッドを引き上げる。そして、ガラス積層体S1−2の支持基材の第2主面を真空吸着パッドで吸着した上で、吸着パッドを上昇させる。その結果、定盤上に、ガラス積層体S1−1の支持基材が付いたLCDの空セルのみを残し、樹脂層付き支持基材を剥離することができる。
【0131】
次に、第1主面にカラーフィルタが形成されたガラス基板の第2主面を定盤に真空吸着させ、ガラス積層体S1−1のコーナー部のガラス基板と樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、ガラス基板の第1主面と樹脂層の剥離性表面との剥離のきっかけを与える。そして、ガラス積層体S1−1の支持基材の第2主面を真空吸着パッドで吸着した上で、ガラス基板と樹脂層との間に水を吹き付けながら、吸着パッドを上昇させる。その結果、定盤上にLCDセルのみを残し、樹脂層が固定された支持基材を剥離することができる。こうして、厚さ0.1mmのガラス基板で構成される複数のLCDのセルが得られる。
【0132】
続いて、切断する工程により、複数のLCDのセルに分断する。完成された各々のLCDセルに偏光板を貼付する工程を実施し、続いてモジュール形成工程を実施してLCDを得る。こうして得られるLCDは、特性上問題は生じない。
【0133】
<実施例13>
本例では、実施例1で得たガラス積層体S1を用いてOLEDを製造する。
まず、ガラス積層体S1におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成した。次に、スパッタリング法により、ガラス基板の第2主面側にさらに酸化アルミニウムを成膜してゲート絶縁膜を形成し、続いてスパッタリング法により酸化インジウムガリウム亜鉛を成膜してフォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより酸化物半導体層を形成した。次に、スパッタリング法により、ガラス基板の第2主面側にさらに酸化アルミニウムを成膜してチャネル保護層を形成し、続いてスパッタリング法によりモリブデンを成膜してフォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりソース電極およびドレイン電極を形成した。
次に、大気中で加熱処理を行う。次に、ガラス基板の第2主面側にさらにスパッタリング法により酸化アルミニウムを成膜してパッシベーション層を形成し、続いてスパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜してフォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、画素電極を形成する。
続いて、蒸着法により、ガラス基板の第2主面側に、正孔注入層として4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、正孔輸送層としてビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン、発光層として8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)に2,6−ビス[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニル]アミノスチリル]ナフタレン−1,5−ジカルボニトリル(BSN−BCN)を40体積%混合したもの、電子輸送層としてAlq3をこの順に成膜する。次に、スパッタリング法によりアルミニウムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより対向電極を形成する。次に、ガラス基板の第2主面側に、紫外線硬化型の接着層を介してもう一枚のガラス基板を貼り合わせて封止する。上記手順によって、ガラス基板上に有機EL構造体を形成する。ガラス基板上に有機EL構造体を有するガラス積層体S1(以下、パネルBという。)が、本発明の電子デバイス用部材付き積層体(支持基材付き表示装置用パネル)である。
続いて、パネルBの封止体側を定盤に真空吸着させたうえで、パネルBのコーナー部のガラス基板と樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、ガラス基板と樹脂層の界面に剥離のきっかけを与える。そして、パネルBの支持基材表面を真空吸着パッドで吸着した上で、吸着パッドを上昇させる。ここで刃物の差し込みは、イオナイザ(キーエンス社製)から除電性流体を当該界面に吹き付けながら行う。次に、形成した空隙へ向けてイオナイザからは引き続き除電性流体を吹き付けながら、かつ、水を剥離前線に差しながら真空吸着パッドを引き上げる。その結果、定盤上に有機EL構造体が形成されたガラス基板のみを残し、樹脂層付き支持基材を剥離することができる。
続いて、分離されたガラス基板をレーザーカッタまたはスクライブ−ブレイク法を用いて切断し、複数のセルに分断した後、有機EL構造体が形成されたガラス基板と対向基板とを組み立てて、モジュール形成工程を実施してOLEDを作製する。こうして得られるOLEDは、特性上問題は生じない。
なお、2014年2月7日に出願された日本特許出願2014−022697号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0134】
10,100,200 ガラス積層体
12 支持基材
14 シリコーン樹脂層
16 ガラス基板
18 樹脂層付き支持基材
20 樹脂層付きガラス基板
22 電子デバイス用部材
24 電子デバイス用部材付き積層体
26 部材付きガラス基板
図1
図2
図3