【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(実施例)
キャリア母材として、純チタンから成り、表面に約2μmのDLCコーティング処理を施して、コーティング後の厚みが約776μmのものを準備した。また、インサート材として、事前にラップ及び研磨加工を施した厚みが790〜800μmのガラス繊維強化エポキシ樹脂(EG)のものを準備した(準備工程)。
【0055】
インサート材がキャリア母材の表面側及び裏面側の両面から突出するように、インサート材を保持孔に嵌め込んだ(嵌め込み工程)。
【0056】
キャリア母材の表面側から突出したインサート材の表面側突出量及び、キャリア母材の裏面側から突出したインサート材の裏面側突出量をそれぞれ測定した(測定工程)。表面側突出量及び裏面側突出量の測定は、ミツトヨ製サーフテストSJ−400を用いて行った。このときの結果を後述する立上研磨後の測定結果と共に、
図5及び
図6に示した。
【0057】
その結果、
図6に示したように、立上研磨前における表面側突出量は14.22μm、裏面側突出量は7.82μmであった。すなわち、立上研磨前における表面側突出量と裏面側突出量の差は、6.4μm、比率は1.82であった。
【0058】
表面側突出量と裏面側突出量の差が小さくなるように、キャリアを立上研磨する際の上定盤及び下定盤の回転数を設定し(設定工程)、この設定した上定盤及び下定盤のそれぞれの回転数でキャリアの立上研磨を行った(立上研磨工程)。
【0059】
そして、立上研磨工程後に再び測定工程を行い、この測定工程において測定される表面側突出量と裏面側突出量の差が1μm以下となるまで設定工程、立上研磨工程及び測定工程を繰り返し行った。
【0060】
設定工程では、下記の表1に示すように、キャリアを立上研磨する際のキャリアに対する上定盤及び下定盤の相対的な回転数について、上定盤の相対的な回転数が、下定盤の相対的な回転数に対して立上研磨(1回目)では2倍、立上研磨(2回目)では1.5倍となるように、回転数を設定した。また、立上研磨の時間は、立上研磨(1回目)を60分、立上研磨(2回目)を120分とした。
【0061】
【表1】
【0062】
キャリアの立上研磨では、不二越機械工業製の両面研磨装置DPS−20Bの上下定盤に、研磨布としてショアA硬度90の発泡ウレタンパッドであるフジボウ愛媛製のSF5000を貼付した両面研磨装置を用いた。キャリアの立上研磨においてスラリーとして、フジミインコーポレーテッド製の平均砥粒径が77nmのCOMPOL80である研磨剤を、溶媒により3倍で希釈して砥粒濃度13.5wt%とした、pH10.5のKOHベースのアルカリ水溶液を使用した。
【0063】
図6に示したように、キャリアの立上研磨(1回目)後の表面側突出量は3.50μm、裏面側突出量は1.96μmであった。すなわち、キャリアの立上研磨(1回目)後における表面側突出量と裏面側突出量の差は、1.54μmであった。
【0064】
また、キャリアの立上研磨(2回目)後の表面側突出量は1.48μm、裏面側突出量は0.78μmであった。すなわち、キャリアの立上研磨(2回目)後における表面側突出量と裏面側突出量の差は、0.7μmであった。
【0065】
このように、キャリアの立上研磨(2回目)後に、表面側突出量と裏面側突出量の差が1μm以下となったので、この時点でキャリアの立上研磨を完了とした。
【0066】
(比較例)
実施例と同様の両面研磨装置を用いて、
図7に示す工程図に従って、両面研磨装置用のキャリアの製造を行った。
【0067】
まず、実施例と同様のキャリア母材と、事前にラップ及び研磨加工を施した厚み780〜790μmのインサート材を準備し(
図7のSP101)、通常の嵌め込みを行った(SP102)。その後、キャリア母材の表面側及び裏面側における変位を実施例と同様にして測定した(
図7のSP103)。このときの結果を後述する立上研磨後の測定結果と共に、
図8及び
図9に示した。
【0068】
その結果、
図8及び
図9に示したように、比較例では、インサート材の嵌め込み時点で表面側へインサート材が大きくズレていた。立上研磨前における表面側突出量は23.29μmで、裏面側突出量は−13.45μmであった。
【0069】
その後、通常のキャリアの立上研磨(
図7のSP104)を行った後、その後に再び測定工程(
図7のSP105)を行い、この測定工程において測定される表面側突出量が5μm以下となるまで立上研磨工程及び測定工程を繰り返し行った(
図7のSP106)。
【0070】
立上研磨は、下記の表2に示すように、キャリアを立上研磨する際のキャリアに対する上定盤及び下定盤の相対的な回転数について、通常のウェーハの両面研磨と同様に、上定盤の相対的な回転数と、下定盤の相対的な回転数を同等とした。また、立上研磨の時間は、立上研磨(1回目)を60分、立上研磨(2回目)を150分で行った。
【0071】
【表2】
【0072】
図9に示すように、比較例におけるキャリアの立上研磨(1回目)後の表面側突出量は6.59μm、キャリアの立上研磨(2回目)後の表面側突出量は4.95μmであった。そのため、キャリアの立上研磨(2回目)後に、表面側突出量が、5μm以下となったので、この時点でキャリアの立上研磨を完了とした。
【0073】
しかしながら、
図8、
図9に示したように、比較例において製造したキャリアは、インサート材の嵌め込み時点で表面側へインサート材が大きくズレており、通常の立上研磨を行っても、この突出量は修正できずに、キャリア母材の表面と裏面における対称性が悪い状態となっている。
【0074】
一方実施例では、インサート材の嵌め込み時点では表面へインサート材がズレて固定されているが、インサート材は両面に突出している。立上研磨前の段差測定結果から、表面側の突出量の方が大きいため、上定盤とキャリアの相対速度を下定盤との相対速度よりも大きく設定して立上研磨を行った。その結果、実施例では立上研磨後のキャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性が、比較例に比べて良好なキャリアを製造することができた。
【0075】
同様にして実施例及び比較例において、複数枚のキャリアをそれぞれ製造した。そして、製造したこれらのキャリアを用いて、直径300mmのシリコンウェーハの両面研磨を、合計5バッチ行った。
【0076】
ウェーハの両面研磨では、キャリアの立上研磨と同様に、不二越機械工業製の両面研磨装置DPS−20Bの上下定盤に、研磨布としてショアA硬度90の発泡ウレタンパッドであるフジボウ愛媛製のSF5000を貼付した両面研磨装置を用いた。
【0077】
またウェーハの両面研磨においてスラリーとして、シリカ系砥粒であるフジミインコーポレーテッド製のRDS−H11201とRDS−H11202(平均粒径74nmおよび89nm)を混合比1:1で砥粒濃度2.4wt%とし、pH10.5のKOHベースのアルカリ性水溶液を用いた。
【0078】
そして、両面研磨後のウェーハのエッジ部におけるフラットネスの測定を行った。フラットネスの測定は、KLA Tencor社製のWaferSight2を用いた。そして、両面研磨後のウェーハの表面側のフラットネスの測定結果(ESFQR
max)を
図10に、両面研磨後のウェーハの裏面側のフラットネスの測定結果(Back−ZDD)を
図11に示した。
【0079】
その結果、ESFQR
maxの平均値は、比較例では17.1nmであった。これに対して、実施例では、ESFQR
maxの平均値が13.5nmへと向上した。また、Back−ZDDの平均値は、比較例では8.6nm/mm
2であった。これに対して、実施例では、Back−ZDDの平均値が4.2nm/mm
2へと向上した。このように、従来では、比較例のようにBack−ZDDが悪化しやすかったが、実施例ではBack−ZDDを大幅に向上することができた。
【0080】
このように、本発明のキャリアの製造方法により、キャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性を向上させることができたので、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができた。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。