特許第6443370号(P6443370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6443370両面研磨装置用のキャリアの製造方法およびウェーハの両面研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443370
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】両面研磨装置用のキャリアの製造方法およびウェーハの両面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/28 20120101AFI20181217BHJP
   B24B 37/08 20120101ALI20181217BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   B24B37/28
   B24B37/08
   H01L21/304 621A
   H01L21/304 622G
   H01L21/304 622R
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-56089(P2016-56089)
(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公開番号】特開2017-170536(P2017-170536A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】北爪 大地
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑宜
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−202259(JP,A)
【文献】 特開2014−176954(JP,A)
【文献】 特開2015−174168(JP,A)
【文献】 特開2016−198864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00−37/34
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨布が貼付された上定盤及び下定盤を有する両面研磨装置で用いられ、ウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア母材と、前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの外周部と接する内周部が形成されたインサート材とを有する両面研磨装置用のキャリアの製造方法であって、
前記キャリア母材と、該キャリア母材よりも厚い前記インサート材を準備する準備工程と、前記インサート材が前記キャリア母材の表面側及び裏面側の両面から突出するように、前記インサート材を前記保持孔に嵌め込む工程と、前記キャリア母材の表面側から突出した前記インサート材の表面側突出量及び、前記キャリア母材の裏面側から突出した前記インサート材の裏面側突出量をそれぞれ測定する測定工程と、前記表面側突出量と前記裏面側突出量の差が小さくなるように、前記キャリアを立上研磨する際の前記上定盤及び前記下定盤の回転数を設定する設定工程と、該設定された前記上定盤及び前記下定盤のそれぞれの回転数で前記キャリアを立上研磨する立上研磨工程とを有することを特徴とする両面研磨装置用のキャリアの製造方法。
【請求項2】
前記準備工程において、
前記キャリア母材の厚さよりも、10μm以上40μm以下厚い前記インサート材を準備することを特徴とする請求項1に記載の両面研磨装置用のキャリアの製造方法。
【請求項3】
前記設定工程において、
前記キャリアを立上研磨する際の前記キャリアに対する前記上定盤及び前記下定盤の相対的な回転数について、一方の前記相対的な回転数に対して、もう一方の前記相対的な回転数が1.5倍以上となるように、前記上定盤及び前記下定盤の回転数を設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の両面研磨装置用のキャリアの製造方法。
【請求項4】
前記設定工程において、
前記キャリアを立上研磨する際の前記キャリアに対する前記上定盤及び前記下定盤の相対的な回転数が、それぞれ0rpm以上30rpm以下となるように、前記上定盤及び前記下定盤の回転数を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の両面研磨装置用のキャリアの製造方法。
【請求項5】
前記立上研磨工程において、
平均砥粒径60nm以上の研磨剤を溶媒により2〜5倍で希釈したアルカリ性水溶液を使用することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の両面研磨装置用のキャリアの製造方法。
【請求項6】
前記立上研磨工程後に再び前記測定工程を行い、該測定工程において測定される前記表面側突出量と前記裏面側突出量の差が5μm以下となるまで、前記設定工程、前記立上研磨工程及び前記測定工程を繰り返し行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の両面研磨装置用のキャリアの製造方法。
【請求項7】
ウェーハを両面研磨する方法であって、
研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の製造方法により製造した前記キャリアを配置し、該キャリアに形成された前記保持孔に前記ウェーハを保持して両面研磨することを特徴とするウェーハの両面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面研磨装置用のキャリアの製造方法およびウェーハの両面研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両面研磨装置は1バッチ当り5枚程度のウェーハの両面を同時に研磨するため、ウェーハ枚数と同数の保持孔を有する両面研磨装置用のキャリアを定盤上に設置する。キャリアの保持孔によりウェーハが保持され、上下定盤に設けられた研磨布により両面からウェーハが挟み込まれ、研磨面に研磨剤を供給しながら研磨が行われる。
【0003】
両面研磨装置用のキャリアは、ウェーハよりも薄い厚みに形成され、例えばステンレスやチタン等の金属、またはガラスエポキシ等の硬質樹脂で構成されている。ここで、金属製のキャリアは、ウェーハ保持孔の内周部がウェーハの外周部と接して破損させることを防ぐために、ウェーハ保持孔の内側に樹脂製のインサート材を有している。このインサート材は嵌め込みか射出成型により形成される。
【0004】
インサート材を保持孔に嵌め込む場合、例えば特許文献1に記載のように、ラップ加工および研磨加工を施したインサート材をキャリア母材に嵌合し、インサート材に垂直な荷重を掛けながら接着および乾燥を行う手法が挙げられる。
【0005】
ここで、インサート材の内周部はウェーハの外周部と接するため、ウェーハのエッジ形状を作り込む上で重要となる。このインサート材はキャリア母材の高さと同等であることが望まれるため、厚めのインサートを嵌め込んだ後に飛び出した部分をキャリア立上研磨によって加工する必要がある。
【0006】
このインサート材がキャリア母材の高さと同等であることが望まれるのは、インサート材の高さによってウェーハのエッジ部に働くリテーナー効果が異なってくるためである。リテーナー効果にはウェーハのエッジ部が大きくダレてしまうことを防ぐ作用がある。そのため、インサート材の高さとウェーハの厚みによってエッジ部のハネ・ダレの形状が左右される。
【0007】
現在、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスについて、表面と裏面でバラツキが生じている。この要因としてはインサート材とキャリア母材の厚みバラツキが挙げられる。従来、厚みバラツキを抑えるために、事前にインサート樹脂を研磨により均一の厚みに整えてからキャリアに嵌め込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−176954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、インサート材をキャリア母材に嵌め込む時点で、表面と裏面で対称に嵌め込むことが困難であり、インサート材が表側又は裏側にずれた状態で固定されてしまい、表面と裏面でキャリア母材とインサート材の段差量に差が生じてしまう。
【0010】
この段差量の差は通常のキャリアの立上研磨で多少緩和されるが、表面と裏面でインサート材の取り代を制御することができず、依然として表面と裏面の対称性が悪いままとなってしまっている。そのため、このようなキャリアを用いてウェーハの両面研磨を行った場合、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスが悪化してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができる両面研磨装置用のキャリアの製造方法及び、ウェーハの両面研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、研磨布が貼付された上定盤及び下定盤を有する両面研磨装置で用いられ、ウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア母材と、前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの外周部と接する内周部が形成されたインサート材とを有する両面研磨装置用のキャリアの製造方法であって、
前記キャリア母材と、該キャリア母材よりも厚い前記インサート材を準備する準備工程と、前記インサート材が前記キャリア母材の表面側及び裏面側の両面から突出するように、前記インサート材を前記保持孔に嵌め込む工程と、前記キャリア母材の表面側から突出した前記インサート材の表面側突出量及び、前記キャリア母材の裏面側から突出した前記インサート材の裏面側突出量をそれぞれ測定する測定工程と、前記表面側突出量と前記裏面側突出量の差が小さくなるように、前記キャリアを立上研磨する際の前記上定盤及び前記下定盤の回転数を設定する設定工程と、該設定された前記上定盤及び前記下定盤のそれぞれの回転数で前記キャリアを立上研磨する立上研磨工程とを有することを特徴とする両面研磨装置用のキャリアの製造方法を提供する。
【0013】
このようにすれば、キャリア母材からのインサート材の表面側突出量と裏面側突出量の差を小さくすることができるため、キャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性を向上させることができる。これにより、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができる両面研磨装置用のキャリアを製造することができる。
【0014】
このとき、前記準備工程において、
前記キャリア母材の厚さよりも、10μm以上40μm以下厚い前記インサート材を準備することが好ましい。
【0015】
このようにすれば、嵌め込み工程におけるインサート材の保持孔への嵌め込みをスムーズに行うことができ、かつ立上研磨工程が長時間化することを防止することができる。
【0016】
またこのとき、前記設定工程において、
前記キャリアを立上研磨する際の前記キャリアに対する前記上定盤及び前記下定盤の相対的な回転数について、一方の前記相対的な回転数に対して、もう一方の前記相対的な回転数が1.5倍以上となるように、前記上定盤及び前記下定盤の回転数を設定することが好ましい。
【0017】
このようにすれば、十分に突出量の差を小さくすることができるとともに、キャリアの立上研磨をより効率よく行うような回転数を設定することができる。
【0018】
またこのとき、前記設定工程において、
前記キャリアを立上研磨する際の前記キャリアに対する前記上定盤及び前記下定盤の相対的な回転数が、それぞれ0rpm以上30rpm以下となるように、前記上定盤及び前記下定盤の回転数を設定することが好ましい。
【0019】
このようにすれば、キャリアの立上研磨をより効率よく行うことができる回転数を設定することができる。
【0020】
またこのとき、前記立上研磨工程において、
平均砥粒径60nm以上の研磨剤を溶媒により2〜5倍で希釈したアルカリ性水溶液を使用することが好ましい。
【0021】
このようにすれば、立上研磨を効率よく行うことができる。
【0022】
またこのとき、前記立上研磨工程後に再び前記測定工程を行い、該測定工程において測定される前記表面側突出量と前記裏面側突出量の差が5μm以下となるまで、前記設定工程、前記立上研磨工程及び前記測定工程を繰り返し行うことが好ましい。
【0023】
このようにすれば、キャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性を確実に向上させることができる。
【0024】
また、本発明によれば、ウェーハを両面研磨する方法であって、
研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に、上記した本発明の両面研磨装置用のキャリアの製造方法により製造した前記キャリアを配置し、該キャリアに形成された前記保持孔に前記ウェーハを保持して両面研磨することを特徴とするウェーハの両面研磨方法を提供する。
【0025】
このようにすれば、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを確実に向上することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の両面研磨装置用のキャリアの製造方法であれば、キャリア母材からのインサート材の表面側突出量と裏面側突出量の差を小さくすることができるため、キャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性を向上させることができ、これにより、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明のキャリアの製造方法の一例を示した工程図である。
図2】本発明の製造方法で製造される両面研磨装置用のキャリアの一例を示した概略図である。
図3】本発明の両面研磨装置用のキャリアの製造方法で用いることができる両面研磨装置の一例を示した概略図である。
図4】本発明のキャリアの製造方法の他の一例を示した工程図である。
図5】実施例において測定した表面側突出量及び裏面側突出量のプロファイルを示したグラフである。
図6】実施例において測定した表面側突出量及び裏面側突出量を示したグラフである。
図7】比較例におけるキャリアの製造方法を示した工程図である。
図8】比較例において測定した表面側突出量及び裏面側突出量のプロファイルを示したグラフである。
図9】比較例において測定した表面側突出量及び裏面側突出量を示したグラフである。
図10】実施例及び比較例における両面研磨後のウェーハのESFQRmaxの測定結果を示したグラフである。
図11】実施例及び比較例における両面研磨後のウェーハのBack−ZDDの測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上述したように、インサート材をキャリア母材に嵌め込む際に、インサート材が表側(又は裏側)にずれた状態で固定されてしまい、このようなキャリアを用いてウェーハの両面研磨を行った場合、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスが悪化してしまうという問題があった。
【0029】
そこで、本発明者らはこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、キャリア母材から突出したインサート材の表面側突出量及び裏面側突出量をそれぞれ測定し、表面側突出量と裏面側突出量の差が小さくなるように、キャリアを立上研磨する際の上定盤及び下定盤の回転数を設定し、この設定された上定盤及び下定盤のそれぞれの回転数でキャリアを立上研磨することを見出した。このようにすれば、キャリア母材からのインサート材の表面側突出量と裏面側突出量の差を小さくすることができるため、キャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性を向上させることができ、これにより、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができることに想到した。そして、これらを実施するための最良の形態について精査し、本発明を完成させた。
【0030】
図2に、両面研磨装置用のキャリアの一例を示す。キャリア1はウェーハを保持するための保持孔2が形成されたキャリア母材3と、そのキャリア母材3の保持孔2の内周に沿って配置され、ウェーハの外周部と接する内周部が形成されたインサート材4とを有している。インサート材4によりウェーハの面取り部を保護することができる。
【0031】
このようなキャリア1は、例えば、図3に示すような4way式の両面研磨装置10においてウェーハWを両面研磨する際に用いられる。両面研磨装置10は、上下に相対向して設けられた上定盤11と下定盤12を備えている。上下定盤11、12には、それぞれ研磨布13が貼付されている。上定盤11と下定盤12の間の中心部にはサンギア14が、周縁部にはインターナルギア15が設けられている。
【0032】
そして、サンギア14及びインターナルギア15の各歯部にはキャリア1の外周歯が噛合しており、上定盤11及び下定盤12が不図示の駆動源によって回転されるのに伴い、キャリア1は自転しつつサンギア14の周りを公転する。このとき、キャリア1の保持孔2で保持されたウェーハWの両面は、上下の研磨布13により同時に研磨される。ウェーハWの研磨時には、スラリー供給装置16からスラリー17がウェーハWの研磨面に供給される。
【0033】
以下、図1図3を参照して本発明の両面研磨装置用のキャリアの製造方法について説明する。
【0034】
まず、図2に示すようなキャリア母材3と、キャリア母材3よりも厚いインサート材4を準備する準備工程を行う(図1のSP1)。ここでは、保持孔2が1つのキャリア母材3を例示しているが、もちろんこれに限定されることはなく、複数の保持孔を有するものとしてもよい。
【0035】
このとき、キャリア母材3の厚さよりも、10μm以上40μm以下厚いインサート材4、より好ましくは15μm以上25μm以下厚いインサート材4を準備することが好ましい。このようにすれば、後述する嵌め込み工程におけるインサート材の保持孔への嵌め込みをスムーズに行うことができ、かつ後述する立上研磨工程が長時間化することを防止することができる。
【0036】
インサート材4は、例えば、材質が硬質樹脂製のものを準備することが好ましい。キャリア母材3は、例えば、材質がステンレスやチタンなどの金属製であるか、これに表面硬化処理を施したものを準備することが好ましい。しかし、本発明はこれらの材質に特に限定されることはない。
【0037】
次に、インサート材4がキャリア母材3の表面側及び裏面側の両面から突出するように、インサート材4を保持孔2に嵌め込む工程を行う(図1のSP2)。
【0038】
次に、キャリア母材3の表面側から突出したインサート材4の表面側突出量及び、キャリア母材の裏面側から突出したインサート材4の裏面側突出量をそれぞれ測定する測定工程を行う(図1のSP3)。
【0039】
このとき、これらの表面側突出量及び裏面側突出量(段差量)は、例えば、接触式の段差測定器を用いて測定することができる。
【0040】
次に、表面側突出量と裏面側突出量の差が小さくなるように、キャリア1を立上研磨する際の上定盤11及び下定盤12の回転数を設定する設定工程を行う(図1のSP4)。
【0041】
具体的には、例えば、インサート材4の突出量が大きい面側の定盤の相対的な回転数を大きくする、又はインサート材4の突出量が小さい面側の定盤の相対的な回転数を小さくすることで、表面と裏面のインサート材4の取り代を制御できる。例えば、表面側突出量と裏面側突出量の比率を参考にして相対的回転数を設定すればよい。この場合、突出量の比率と回転数の比率の絶対値は必ずしも一致させる必要はない。予め、インサート材の研磨速度と定盤回転数との関係を求めておけば、簡単に、相対的回転数を設定できる。
【0042】
このとき、キャリア1を立上研磨する際のキャリア1に対する上定盤及び下定盤の相対的な回転数について、一方の相対的な回転数に対して、もう一方の相対的な回転数が1.5倍以上となるように、上定盤11及び下定盤12の回転数を設定することが好ましい。このようにすれば、十分に突出量の差を小さくすることができるとともに、キャリア1の立上研磨をより効率よく行うような回転数を設定することができる。
【0043】
またこのとき、キャリア1を立上研磨する際のキャリア1に対する上定盤11及び下定盤12の相対的な回転数が、それぞれ0rpm以上30rpm以下となるように、上定盤11及び下定盤12の回転数を設定することが好ましい。このようにすれば、キャリア1の立上研磨をより効率よく行うことができる回転数を設定することができる。
【0044】
上記の設定工程で設定された上定盤11及び下定盤12のそれぞれの回転数でキャリア1を立上研磨する立上研磨工程を行う(図1のSP5)。
【0045】
このとき、平均砥粒径60nm以上の研磨剤を溶媒により2〜5倍で希釈したアルカリ性水溶液を使用することが好ましい。このようにすれば、立上研磨を効率よく行うことができる。
【0046】
また、研磨布13には、ショアA硬度85−95の発泡ウレタンパッドを用いることが好ましい。
【0047】
このとき図4に示すように、立上研磨工程(SP5)後に再び測定工程(SP6)を行い、この測定工程(SP6)において測定される表面側突出量と裏面側突出量の差が5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μmとなるまで設定工程(SP4)、立上研磨工程(SP5)及び測定工程(SP6)を繰り返し行うことが好ましい。このようにすれば、キャリア母材3の表面と裏面におけるインサート材4の対称性をより確実に向上させることができる。
【0048】
具体的には、例えば、測定工程(SP6)後に、表面側突出量と裏面側突出量の差が所望の値以下かどうか判断する工程(SP7)を行うことが好ましい。これにより、表面側突出量と裏面側突出量の差が所望の値より大きい場合には再び設定工程(SP4)を行い、表面側突出量と裏面側突出量の差が所望の値以下の場合には立上研磨完了(SP8)とすることを判断できる。
【0049】
以上説明したような、本発明の両面研磨装置用のキャリアを製造方法であれば、キャリア母材からのインサート材の表面側突出量と裏面側突出量の差を小さくすることができるため、キャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性を向上させることができ、これにより、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができる。
【0050】
また、本発明のウェーハの両面研磨方法では、研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に、上記した本発明の両面研磨装置用のキャリアの製造方法により製造したキャリアを配置し、該キャリアに形成された保持孔にウェーハを保持して両面研磨する。このようにすれば、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができる。
【0051】
具体的には例えば、図3に示すように、キャリア1の保持孔2内にウェーハWを保持する。次に、両面研磨装置10の上下定盤11、12間にウェーハWを保持したキャリア1を挿入する。そして、スラリー供給装置16でスラリー17を研磨面に供給しつつ、上下定盤11、12を回転させながらキャリア1を自転及び公転させる。このようにしてウェーハWの両面を研磨布13に摺接させることで、ウェーハWの両面研磨をすることができる。
【0052】
上記実施形態では、キャリアとして図2に示すような、保持孔が1つのみ設けられているものを示している。しかし本発明はこれに限定されず、1つのキャリアに複数の保持孔およびこれに対応するインサート材を設けたものに対しても本発明を適用できる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(実施例)
キャリア母材として、純チタンから成り、表面に約2μmのDLCコーティング処理を施して、コーティング後の厚みが約776μmのものを準備した。また、インサート材として、事前にラップ及び研磨加工を施した厚みが790〜800μmのガラス繊維強化エポキシ樹脂(EG)のものを準備した(準備工程)。
【0055】
インサート材がキャリア母材の表面側及び裏面側の両面から突出するように、インサート材を保持孔に嵌め込んだ(嵌め込み工程)。
【0056】
キャリア母材の表面側から突出したインサート材の表面側突出量及び、キャリア母材の裏面側から突出したインサート材の裏面側突出量をそれぞれ測定した(測定工程)。表面側突出量及び裏面側突出量の測定は、ミツトヨ製サーフテストSJ−400を用いて行った。このときの結果を後述する立上研磨後の測定結果と共に、図5及び図6に示した。
【0057】
その結果、図6に示したように、立上研磨前における表面側突出量は14.22μm、裏面側突出量は7.82μmであった。すなわち、立上研磨前における表面側突出量と裏面側突出量の差は、6.4μm、比率は1.82であった。
【0058】
表面側突出量と裏面側突出量の差が小さくなるように、キャリアを立上研磨する際の上定盤及び下定盤の回転数を設定し(設定工程)、この設定した上定盤及び下定盤のそれぞれの回転数でキャリアの立上研磨を行った(立上研磨工程)。
【0059】
そして、立上研磨工程後に再び測定工程を行い、この測定工程において測定される表面側突出量と裏面側突出量の差が1μm以下となるまで設定工程、立上研磨工程及び測定工程を繰り返し行った。
【0060】
設定工程では、下記の表1に示すように、キャリアを立上研磨する際のキャリアに対する上定盤及び下定盤の相対的な回転数について、上定盤の相対的な回転数が、下定盤の相対的な回転数に対して立上研磨(1回目)では2倍、立上研磨(2回目)では1.5倍となるように、回転数を設定した。また、立上研磨の時間は、立上研磨(1回目)を60分、立上研磨(2回目)を120分とした。
【0061】
【表1】
【0062】
キャリアの立上研磨では、不二越機械工業製の両面研磨装置DPS−20Bの上下定盤に、研磨布としてショアA硬度90の発泡ウレタンパッドであるフジボウ愛媛製のSF5000を貼付した両面研磨装置を用いた。キャリアの立上研磨においてスラリーとして、フジミインコーポレーテッド製の平均砥粒径が77nmのCOMPOL80である研磨剤を、溶媒により3倍で希釈して砥粒濃度13.5wt%とした、pH10.5のKOHベースのアルカリ水溶液を使用した。
【0063】
図6に示したように、キャリアの立上研磨(1回目)後の表面側突出量は3.50μm、裏面側突出量は1.96μmであった。すなわち、キャリアの立上研磨(1回目)後における表面側突出量と裏面側突出量の差は、1.54μmであった。
【0064】
また、キャリアの立上研磨(2回目)後の表面側突出量は1.48μm、裏面側突出量は0.78μmであった。すなわち、キャリアの立上研磨(2回目)後における表面側突出量と裏面側突出量の差は、0.7μmであった。
【0065】
このように、キャリアの立上研磨(2回目)後に、表面側突出量と裏面側突出量の差が1μm以下となったので、この時点でキャリアの立上研磨を完了とした。
【0066】
(比較例)
実施例と同様の両面研磨装置を用いて、図7に示す工程図に従って、両面研磨装置用のキャリアの製造を行った。
【0067】
まず、実施例と同様のキャリア母材と、事前にラップ及び研磨加工を施した厚み780〜790μmのインサート材を準備し(図7のSP101)、通常の嵌め込みを行った(SP102)。その後、キャリア母材の表面側及び裏面側における変位を実施例と同様にして測定した(図7のSP103)。このときの結果を後述する立上研磨後の測定結果と共に、図8及び図9に示した。
【0068】
その結果、図8及び図9に示したように、比較例では、インサート材の嵌め込み時点で表面側へインサート材が大きくズレていた。立上研磨前における表面側突出量は23.29μmで、裏面側突出量は−13.45μmであった。
【0069】
その後、通常のキャリアの立上研磨(図7のSP104)を行った後、その後に再び測定工程(図7のSP105)を行い、この測定工程において測定される表面側突出量が5μm以下となるまで立上研磨工程及び測定工程を繰り返し行った(図7のSP106)。
【0070】
立上研磨は、下記の表2に示すように、キャリアを立上研磨する際のキャリアに対する上定盤及び下定盤の相対的な回転数について、通常のウェーハの両面研磨と同様に、上定盤の相対的な回転数と、下定盤の相対的な回転数を同等とした。また、立上研磨の時間は、立上研磨(1回目)を60分、立上研磨(2回目)を150分で行った。
【0071】
【表2】
【0072】
図9に示すように、比較例におけるキャリアの立上研磨(1回目)後の表面側突出量は6.59μm、キャリアの立上研磨(2回目)後の表面側突出量は4.95μmであった。そのため、キャリアの立上研磨(2回目)後に、表面側突出量が、5μm以下となったので、この時点でキャリアの立上研磨を完了とした。
【0073】
しかしながら、図8図9に示したように、比較例において製造したキャリアは、インサート材の嵌め込み時点で表面側へインサート材が大きくズレており、通常の立上研磨を行っても、この突出量は修正できずに、キャリア母材の表面と裏面における対称性が悪い状態となっている。
【0074】
一方実施例では、インサート材の嵌め込み時点では表面へインサート材がズレて固定されているが、インサート材は両面に突出している。立上研磨前の段差測定結果から、表面側の突出量の方が大きいため、上定盤とキャリアの相対速度を下定盤との相対速度よりも大きく設定して立上研磨を行った。その結果、実施例では立上研磨後のキャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性が、比較例に比べて良好なキャリアを製造することができた。
【0075】
同様にして実施例及び比較例において、複数枚のキャリアをそれぞれ製造した。そして、製造したこれらのキャリアを用いて、直径300mmのシリコンウェーハの両面研磨を、合計5バッチ行った。
【0076】
ウェーハの両面研磨では、キャリアの立上研磨と同様に、不二越機械工業製の両面研磨装置DPS−20Bの上下定盤に、研磨布としてショアA硬度90の発泡ウレタンパッドであるフジボウ愛媛製のSF5000を貼付した両面研磨装置を用いた。
【0077】
またウェーハの両面研磨においてスラリーとして、シリカ系砥粒であるフジミインコーポレーテッド製のRDS−H11201とRDS−H11202(平均粒径74nmおよび89nm)を混合比1:1で砥粒濃度2.4wt%とし、pH10.5のKOHベースのアルカリ性水溶液を用いた。
【0078】
そして、両面研磨後のウェーハのエッジ部におけるフラットネスの測定を行った。フラットネスの測定は、KLA Tencor社製のWaferSight2を用いた。そして、両面研磨後のウェーハの表面側のフラットネスの測定結果(ESFQRmax)を図10に、両面研磨後のウェーハの裏面側のフラットネスの測定結果(Back−ZDD)を図11に示した。
【0079】
その結果、ESFQRmaxの平均値は、比較例では17.1nmであった。これに対して、実施例では、ESFQRmaxの平均値が13.5nmへと向上した。また、Back−ZDDの平均値は、比較例では8.6nm/mmであった。これに対して、実施例では、Back−ZDDの平均値が4.2nm/mmへと向上した。このように、従来では、比較例のようにBack−ZDDが悪化しやすかったが、実施例ではBack−ZDDを大幅に向上することができた。
【0080】
このように、本発明のキャリアの製造方法により、キャリア母材の表面と裏面におけるインサート材の対称性を向上させることができたので、両面研磨後のウェーハのエッジ部のフラットネスを向上することができた。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0082】
1…キャリア、 2…保持孔、 3…キャリア母材、 4…インサート材、
10…両面研磨装置、 11…上定盤、 12…下定盤、 13…研磨布、
14…サンギア、 15…インターナルギア、 16…スラリー供給装置、
17…スラリー、 W…ウェーハ。
図1
図2
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図5
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図7
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図9
図10
図11