特許第6443417号(P6443417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6443417窒化物蛍光体の製造方法、窒化物蛍光体及び発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443417
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体の製造方法、窒化物蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20181217BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20181217BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20181217BHJP
【FI】
   C09K11/08 A
   C09K11/64
   C09K11/08 G
   H01L33/50
【請求項の数】2
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-193960(P2016-193960)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-155209(P2017-155209A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-37616(P2016-37616)
(32)【優先日】2016年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】涌井 貞一
(72)【発明者】
【氏名】柳原 淳良
(72)【発明者】
【氏名】細川 昌治
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−526532(JP,A)
【文献】 特開2009−132916(JP,A)
【文献】 特開平10−259374(JP,A)
【文献】 特表2002−527570(JP,A)
【文献】 再公表特許第2012/070565(JP,A1)
【文献】 特表2002−539925(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070565(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0054634(US,A1)
【文献】 米国特許第06346326(US,B1)
【文献】 米国特許第06242043(US,B1)
【文献】 特開2001−200249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
C09K 11/64
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される組成を有する焼成物を準備し、
前記焼成物を、不活性ガス雰囲気中でフッ素ガスと接触させ、不活性ガス雰囲気中で200℃以上350℃以下の温度で熱処理することを含む、窒化物蛍光体の製造方法。
Al3−ySi (I)
(式中、Mは、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、y及びzは、それぞれ0.80≦v≦1.05、0.80≦w≦1.05、0.001<x≦0.1、0≦y≦0.5、3.0≦z≦5.0を満たす数である。)
【請求項2】
前記不活性ガス雰囲気が、フッ素ガスを2体積%以上20体積%以下含み、窒素ガスを80体積%以上含む、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体の製造方法、窒化物蛍光体及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light emitting diode:以下、「LED」と称する。)と蛍光体とを組み合わせて形成した発光装置は、照明装置、液晶表示装置のバックライト等に盛んに用いられており、普及が進んでいる。例えば、発光装置を液晶表示装置に用いる場合、色再現範囲を大きくするために、半値幅の狭い蛍光体を用いることが望まれている。
【0003】
このような蛍光体として赤色に発光し、組成がSrLiAl:Euで表される窒化物蛍光体(以下、「SLAN蛍光体」と呼ぶことがある。)があり、例えば、特許文献1や非特許文献1(Philipp Pust et al. “Narrow-band red-emitting Sr[LiAl3N4]:Eu2+as a next-generation LED-phosphor material” Nature Materials, NMAT4012, VOL13 September 2014)は、半値幅が70nm以下と狭く、発光ピーク波長が650nm付近であるSLAN蛍光体を開示している。
【0004】
このSLAN蛍光体は、例えば、非特許文献1では、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH)、窒化アルミニウム(AlN)、水素化ストロンチウム(SrH)及びフッ化ユウロピウム(EuF)を含む原料粉体をEuが0.4mol%となるような化学量論比で計量、混合した後ルツボに入れ、水素と窒素の混合ガス雰囲気の大気圧下で温度を1000℃、焼成時間を2時間として、焼成することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015−526532号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Philipp Pust et al. “Narrow-band red-emitting Sr[LiAl3N4]:Eu2+ as a next-generation LED-phosphor material” Nature Materials, NMAT4012, VOL13 September 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、SLAN蛍光体は、酸素、熱、水分等により劣化しやすいことが知られており、このようなSLAN蛍光体を使った発光装置の耐久性の更なる改善が求められていた。
そこで、本発明の一実施形態は、耐久性に優れた発光装置とすることができる窒化物蛍光体の製造方法、窒化物蛍光体及び発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の実施形態を包含する。
本発明の第一の実施形態は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Alと、Nとを含む組成を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、前記組成を有する焼成物を準備し、前記焼成物とフッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下の温度で熱処理することを含む、窒化物蛍光体の製造方法である。
【0009】
本発明の第二の実施形態は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Alと、Nとを含み、必要に応じてSiを含む組成を有する蛍光体コアの表面に、フッ素を含む化合物の層を有する、窒化物蛍光体である。
【0010】
本発明の第三の実施形態は、前記窒化物蛍光体と、励起光源とを含む発光装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、耐久性に優れた窒化物蛍光体の製造方法、窒化物蛍光体及び発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、発光装置の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の実施例及び比較例の窒化物蛍光体と、参考例(SrF、LiSrAlF)の化合物のそれぞれのX線回折パターンを比較した図である。
図3図3は、本発明の実施例及び比較例の窒化物蛍光体について、波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示した図である。
図4図4は、実施例1に係る窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真である。
図5図5は、比較例1に係る窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真である。
図6図6は、実施例5に係る窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真である。
図7図7は、実施例5に係る窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真である。
図8図8は、比較例3に係る窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真である。
図9図9は、比較例3に係る窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に係る窒化物蛍光体の製造方法、窒化物蛍光体及び発光装置の実施の形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、窒化物蛍光体の製造方法を例示するものであって、本発明は、以下の窒化物蛍光体の製造方法に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
(窒化物蛍光体の製造方法)
本発明の実施形態に係る窒化物蛍光体の製造方法は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Alと、Nとを含む組成を有する窒化物蛍光体の製造方法であって、前記組成を有する焼成物を準備し、前記焼成物とフッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下の温度で熱処理することを含む。
【0015】
[焼成物を準備する工程]
本実施形態の製造方法において準備する焼成物は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Alと、Nとを含む組成を有するものであれば、特に限定されない。焼成物の組成は、Alの一部にSiを含んでいてもよく、表面の酸化によりOを含んでいてもよく、Nの一部がOに置き換わってもよい。
【0016】
焼成物は、以下の一般式(I)で表される組成を有することが好ましい。また、下記一般式(I)で表される組成中、表面の酸化により、Nの一部はOに置き換わってもよい。
Al3−ySi (I)
(式中、Mは、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、y及びzは、それぞれ0.80≦v≦1.05、0.80≦w≦1.05、0.001<x≦0.1、0≦y≦0.5、3.0≦z≦5.0を満たす数である。)
【0017】
式(I)において、Mは、高い発光強度を得る観点から、Ca及びSrの少なくとも一方を含むことが好ましい。MがCa及びSrの少なくとも一方を含む場合、Mに含まれるCa及びSrの総モル比率は、例えば85モル%以上であり、90モル%以上が好ましい。
またMは、結晶構造の安定性の観点から、少なくともLiを含むことが好ましい。MがLiを含む場合、Mに含まれるLiのモル比率は、例えば80モル%以上であり、90モル%以上が好ましい。
【0018】
式(I)におけるv、w、x、y及びzは、それぞれ前記数値範囲を満たす限り特に制限されない。vは、結晶構造の安定性の観点から、0.80以上1.05以下が好ましく、0.90以上1.03以下がより好ましい。xは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の賦活量であり、所望の特性を達成できるように適宜選択すればよい。xは、0.001<x≦0.020を満たすことがより好ましく、0.002≦x≦0.015を満たすことがさらに好ましい。
【0019】
焼成物は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素(M元素)と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素(M元素)と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素(M元素)と、Alと、Nとを含み、必要に応じてSiを含む組成を示すように原料を混合し、得られた原料混合物を、例えば、温度が1000℃以上1300℃以下、圧力が0.2MPa以上200MPa以下の窒素ガスを含む雰囲気中で焼成することによって得ることができる。
窒素ガスを含む加圧雰囲気下、所定の温度で原料混合物を焼成することで、所望の組成を有し、発光強度に優れる窒化物蛍光体に用いる焼成物を効率よく製造することができる。
【0020】
焼成物に用いられる原料混合物は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Alと、Nとを含み、必要に応じてSiを含む組成を有する焼成物を得ることができれば、その原料混合物に含まれる材料は特に制限されない。例えば、原料混合物は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Alと、Nとを含み、必要に応じてSiを含む組成を構成する金属元素の単体及びそれらの金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。このような金属化合物としては、水素化物、窒化物、フッ化物、酸化物、炭酸塩、塩化物等を挙げることができ、発光特性を向上させる観点から、水素化物、窒化物及びフッ化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。原料混合物が金属化合物として、酸化物、炭酸塩、塩化物等を含む場合、それらの含有量は原料混合物中に5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。これらの含有量が所定値を超えると、結晶中に欠陥が生じる傾向があり、発光強度の低下や発光スペクトルの半値幅が大きくなる虞がある。
【0021】
原料混合物は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群から選択される金属元素を含む金属化合物、Li、Na及びKからなる群から選択される金属元素を含む金属化合物、Alを含む金属化合物及びEuを含む金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物を含むことが好ましい。また、原料混合物は、必要に応じてSiを含む金属化合物を含んでいてもよい。
【0022】
Ca、Sr、Ba及びMgからなる群から選択される金属元素(式(I)においてM元素)を含む金属化合物(以下、「第一の金属化合物」ともいう)として具体的には、SrN、SrN、Sr、SrH、SrF、Ca、CaH、CaF等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0023】
第一の金属化合物は、Ca及びSrの少なくとも一方を含むことが好ましい。第一の金属化合物がSrを含む場合、Srの一部がCa、Mg、Ba等で置換されていてもよい。また第一の金属化合物がCaを含む場合、Caの一部がSr、Mg、Ba等で置換されていてもよい。これにより、窒化物蛍光体の発光ピーク波長を調整することができる。第一の金属化合物がCaを含む場合、Li、Na、K、B、Al等をさらに含有していてもよい。
【0024】
第一の金属化合物は、単体を使用することが好ましいが、イミド化合物、アミド化合物等の化合物を使用することもできる。第一の金属化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0025】
Li、Na及びKからなる群から選択される金属元素(式(I)においてM元素)を含む金属化合物(以下、「第二の金属化合物」ともいう)は、少なくともLiを含むことが好ましく、Liの窒化物及び水素化物の少なくとも1種であることがより好ましい。第二の金属化合物がLiを含む場合、Liの一部がNa、K等で置換されていてもよく、窒化物蛍光体を構成する他の金属元素を含んでいてもよい。
Liを含む第二の金属化合物として具体的には、LiN、LiN、LiH、LiAlH等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。第二の金属化合物は1種単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0026】
Alを含む金属化合物(以下、「第三の金属化合物」ともいう)は、金属元素として実質的にAlのみを含む金属化合物であってもよく、Alの一部が第13族元素のGa及びIn、並びに第4周期の遷移元素のV、Cr及びCo等からなる群から選択された金属元素で置換された金属化合物であってもよく、Alに加えてLi等の窒化物蛍光体を構成する他の金属元素を含む金属化合物であってもよい。
第三の金属化合物として具体的には、AlN、AlH、AlF、LiAlH等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
第三の金属化合物は1種単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
焼成物の組成中に、Alの一部にSiを含む場合には、金属元素としてSiを含む金属化合物を用いることが好ましい。Siを含む金属化合物としては、SiO、Si、SiC、SiCl等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。Siを含む金属化合物は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
Eu、Ce、Tb及びMnからなる群から選択される金属元素(式(I)においてM元素)を含む金属化合物(以下、「第四の金属化合物」ともいう)は、賦活剤としてのEu、Ce、Tb及びMnを含む。
第四の金属化合物がEuの場合、Euの一部がSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等で置換されていてもよい。Euの一部を他の元素で置換することにより、他の元素は例えば共賦活剤として作用すると考えられる。窒化物蛍光体を共賦活とすることにより、発光特性の調整を行うことができる。Euを必須とする混合物を窒化物蛍光体として使用する場合、所望により配合比を変えることができる。ユウロピウムは、主に2価と3価のエネルギー準位を持つが、本実施形態に係る窒化物蛍光体に用いる焼成物は、少なくともEu2+を賦活剤として用いる。
【0028】
第四の金属化合物として具体的には、Eu、EuN、EuF等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。本実施形態の製造方法に用いる焼成物は、発光の中心として2価のEuを含むが、2価のEuは酸化されやすく、3価のEuを含む金属化合物を用いて原料混合物を構成することができる。
【0029】
原料混合物は、前記金属元素単体及び金属化合物に加えて、必要に応じてそれら以外の他の金属元素を含んでいてもよい。他の金属元素は、通常、酸化物、水酸化物等として原料混合物を構成することができるが、これらに限定されるものではなく、金属単体、窒化物、イミド、アミド、その他の無機塩等であってもよく、また予め既述の原料混合物に含まれている状態であってもよい。
【0030】
原料混合物は、フラックスを含んでいてもよい。原料混合物がフラックスを含むことで、原料どうしの反応がより促進され、さらには固相反応がより均一に進行するために粒径が大きく、発光特性により優れた窒化物蛍光体を得るために用いる焼成物を製造することができる。これは例えば、焼成物を得るための熱処理が1000℃以上1300℃以下で行われ、この温度がフラックスであるハロゲン化物等の液相の生成温度とほぼ同じであるためと考えられる。ハロゲン化物としては、希土類金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の塩化物、フッ化物等を利用できる。フラックスとしては、陽イオンの元素比率を得られる焼成物の目的物組成になるような化合物として加えることもできる。また、フラックスは、得られる焼成物の目的組成になるように各原料を混合した原料混合物に更にフラックスを添加する形で加えることもできる。
【0031】
原料混合物がフラックスを含む場合、フラックスの成分は原料混合物中の原料どうしの反応性を促進するが、多すぎると得られる焼成物を用いた蛍光体の発光強度の低下につながるため、その含有量は原料混合物中に例えば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0032】
次に、一般式(I)で表される組成を有する焼成物の内、設計組成としてSr0.993Eu0.007LiAlの組成を有する焼成物の製造方法について具体的に説明するが、窒化物蛍光体に用いる焼成物の製造方法は、これに限定されない。
【0033】
原料混合物を構成する金属化合物として、SrN(u=2/3相当、SrNとSrNの混合物)、LiAlH、AlN、EuFの各粉末を用い、それをSr:Li:Eu:Alの比が0.9925:1.2000:0.0075:3.0000になるように、不活性雰囲気のグローブボックス内で計量した後、混合して原料混合物を得る。ここでLiは焼成時に飛散しやすいため、目的組成より多めに配合している。なお、本実施形態はこの組成比に限定されない。原料としてフッ素を含有する金属化合物を用いる場合は、最終的に焼成物中のフッ素の含有量が5質量%以下であることが好ましい。フッ素の含有量が5質量%より大きいと、焼成後に粉砕が必要となり、粉砕することで焼成物の粒子形状が悪化するためである。
【0034】
前記の原料混合物を窒素雰囲気中で焼成する。焼成は、例えば、ガス加圧電気炉を使用することができる。焼成温度は、1000℃以上1400℃以下の範囲で行うことができるが、1000℃以上1300℃以下が好ましく、1100℃以上1300℃以下がより好ましい。焼成温度が低いと、目的とする蛍光体化合物が形成されにくく、また焼成温度が高いと蛍光体化合物が分解し、発光特性を損なうからである。
【0035】
また、焼成は、800℃以上1000℃以下で一段階目の焼成を行い、徐々に昇温して1000℃以上1400℃以下で二段階目の焼成を行う二段階焼成(多段階焼成)を行うこともできる。原料混合物の焼成には、黒鉛等の炭素材質、窒化ホウ素(BN)材質、アルミナ(Al)、W、Mo材質等のルツボ、ボート等を使用することができる。
【0036】
焼成雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気であればよく、窒素ガスに加えて水素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、アンモニア等からなる群から選択される少なくとも1種を含む雰囲気とすることもできる。焼成雰囲気における窒素ガスの比率は、70体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましい。
【0037】
焼成は、0.2MPa以上200MPa以下の加圧雰囲気で行う。目的とする窒化物蛍光体は高温になるほど分解し易くなるが、加圧雰囲気にすることにより、分解が抑えられて、より優れた発光特性を達成することができる。加圧雰囲気はゲージ圧として、0.2MPa以上1.0MPa以下が好ましく、0.8MPa以上1.0MPa以下がより好ましい。焼成時に雰囲気ガスの圧力を高くすることで、蛍光体化合物が焼成時の分解が抑えられ、特性の高い蛍光体を得ることができる。
【0038】
焼成の時間は、焼成温度、ガス圧力等に応じて適宜選択すればよい。焼成の時間は、例えば0.5時間以上20時間以下であり、1時間以上10時間以下が好ましい。
【0039】
焼成により、Sr0.993Eu0.007LiAlで表される組成を有する焼成物を得ることができる。ただし、この組成は、原料混合物の配合比率より推定される理論組成であり、各元素の係数や、一部が焼成中に飛散するFのような成分は組成式から除いている。上述したように、実際の組成は原料等に由来の酸素や工程で生じる酸化により一定量の酸素分が含まれる。またフラックス成分としても効果のあるフッ化物を原料として用いることで、一定量のフッ素分が含まれる。焼成時の分解、飛散等が生じたりするため、仕込みの組成は、Alの仕込み組成比を3とした場合、Sr、Eu、Liが理論組成より少ない場合もある。また、各原料の配合比率を変更することにより、目的とする焼成物の組成を変更することができる。
【0040】
また焼成物の製造方法は、上述した製造方法に限定されない。例えば、各元素の金属単体を所定の組成比になるように計量した後に溶融させて合金を形成した後、その合金を粉砕し、窒素ガス雰囲気中でガス加圧焼結炉、熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing:HIP)を利用したHIP炉等により、目的組成となる焼成物を製造してもよい。
【0041】
焼成物は、少なくとも一部に結晶性が高い構造を有していることが好ましい。例えばガラス体(非晶質)は構造が不規則であり結晶性が低いため、その生産工程における反応条件が厳密に一様になるよう管理できなければ、色度ムラ等を生じる傾向がある。本実施形態に係る方法に用いる焼成物は、少なくとも一部に結晶性が高い構造を有している粉体ないし粒体であることが好ましい。少なくとも一部に結晶性が高い構造を有している焼成物は、製造及び加工し易くなる傾向がある。また、少なくとも一部に結晶性高い構造を有している焼成物を用いて製造された窒化物蛍光体は、樹脂に均一に分散することが容易であるため、発光性プラスチック、ポリマー薄膜材料等を調製することが容易にできる。具体的に、窒化物蛍光体に用いる焼成物は、例えば50質量%以上、より好ましくは80質量%以上が結晶性を有する構造である。これは、焼成物を用いて製造された窒化物蛍光体の発光性を有する結晶相の割合を示し、焼成物が50質量%以上の結晶相を有しておれば、実用に耐え得る発光が得られる窒化物蛍光体を製造することができるため好ましい。ゆえに焼成物の結晶相が多いほど発光強度に優れる窒化物蛍光体を製造することができる。これにより、窒化物蛍光体の発光輝度をより高くすることができ、かつ加工し易くできる。
【0042】
[焼成物を熱処理する工程]
本発明の実施形態に係る窒化物蛍光体の製造方法は、前記焼成物とフッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下で熱処理することを含む。前記焼成物は主として窒化物蛍光体の蛍光体コアを構成する。
【0043】
本実施形態に係る方法によって製造された窒化物蛍光体は、焼成物とフッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下で熱処理することによって、焼成物の表面又は表面近傍にフッ素を含む化合物が形成され、このフッ素を含む化合物が保護膜となっていると推測される。このような窒化物蛍光体を用いることにより、温度や湿度が比較的高い環境下においても色度の変化が少なく、耐久性に優れた発光装置が製造できる。
【0044】
フッ素含有物質としては、フッ素を含む物質であれば特に限定されず、フッ素ガス(F)やフッ素化合物が挙げられる。フッ素化合物としては、CF、CHF、NHHF、NHF、SiF、KrF、XeF、NF等が挙げられる。
フッ素含有物質は、F、CHF、CF、NH、NHF、SiF、KrF、XeF、XeF、及びNFからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
フッ素含有物質は、より好ましくはフッ素ガス(F)又はフッ化アンモニウム(NHF)である。
【0045】
焼成物と常温で固体状態又は液体状態のフッ素含有物質とを接触させる環境の温度は、室温(20℃±5℃)から熱処理温度よりも低い温度でもよく、熱処理温度でもよい。具体的には、20℃以上200℃未満の温度でもよく、20℃以上500℃以下の温度でもよい。焼成物と常温で固体状態のフッ素含有物質とを接触させる環境の温度が20℃以上200℃未満の場合は、焼成物とフッ素含有物質とを接触させた後、200℃以上500℃以下の熱処理を行なう。
【0046】
フッ素含有物質が、常温で固体状態又は液体状態のものである場合は、焼成物とフッ素含有物質の合計量100質量%に対して1質量%以上10質量%以下のフッ素含有物質を、焼成物に接触させることが好ましい。焼成物とフッ素含有物質の合計量100質量%に対して、焼成物に接触させるフッ素含有物質は、好ましくは2質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上7質量%以下である。これにより、焼成物の表面又は表面近傍にフッ素を含む化合物の層が形成されやすくなると推測される。本形態の窒化物蛍光体は、この層が保護膜として機能するので、発光装置に備えられたとき、窒化物蛍光体の内部が外部環境の影響を受けにくくなり、発光装置の耐久性を向上することができる。
【0047】
また、フッ素含有物質が気体である場合には、フッ素含有物質を含む雰囲気中に焼成物を配置して接触させてもよい。フッ素含有物質が気体である場合には、フッ素含有物質を含む雰囲気中に焼成物を配置し、フッ素含有物質を含む雰囲気中で、焼成物を200℃以上500℃以下で熱処理を行なう。フッ素含有物質がF(フッ素ガス)であり、Fを含む雰囲気中で焼成物を200℃以上500℃以下で熱処理する場合には、雰囲気中のF濃度は、好ましくは2体積%以上25体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上20体積%以下である。雰囲気中のF濃度が所定量以下であると、所望の耐久性が得られない虞がある。一方、F濃度が所定量以上であると、蛍光体の母体までフッ素化されることにより発光強度が大きく低下する虞があるためである。
【0048】
熱処理は、不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。不活性ガス雰囲気とは、アルゴン、ヘリウム、窒素等を雰囲気中の主成分とする雰囲気を意味する。不活性ガス雰囲気は、不可避的不純物として酸素を含むことがあるが、ここでは、雰囲気中に含まれる酸素の濃度が15体積%以下であれば不活性ガス雰囲気とする。不活性ガス雰囲気中の酸素の濃度は、好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下である。酸素濃度が所定値以上であると、蛍光体の粒子が酸化され過ぎる虞があるからである。フッ素含有物質が気体の場合は、熱処理は、フッ素含有物質単独の雰囲気中で行うよりも、安全性を考慮して、不活性ガスとフッ素含有物質とを含む雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0049】
前記焼成物とフッ素含有物質とを接触させて熱処理する温度は、200℃以上500℃以下である。熱処理する温度は、より好ましくは250℃以上450℃以下であり、さらに好ましくは250℃以上400℃以下であり、さらにより好ましくは250℃以上350℃以下である。
熱処理する温度が所定の温度未満であると、焼成物の表面又は表面近傍にフッ素を含む化合物が形成されにくく、耐久性を有する窒化物蛍光体を製造することができない。一方、熱処理する温度が所定の温度を超えると、焼成物の結晶構造が破壊されやすくなると考えられるので、耐久性が高い窒化物蛍光体を製造することができない。
【0050】
熱処理を行なう時間は、特に制限されないが、好ましくは1時間以上10時間以下、より好ましくは2時間以上8時間以下である。熱処理を行なう時間が1時間以上10時間以下であれば、焼成物とフッ素含有物質とを接触させて熱処理することにより、焼成物の表面又は表面近傍にフッ素を含む化合物の層が形成されると推測され、この層が保護膜として機能するため、発光装置としたときの耐久性を向上することができる。
【0051】
[後処理工程]
本実施形態に係る窒化物蛍光体の製造方法は、熱処理後に、得られた窒化物蛍光体の解砕処理、粉砕処理、分級処理等を行う後処理工程を含んでいてもよい。
【0052】
(窒化物蛍光体)
本発明の実施形態に係る窒化物蛍光体は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Alと、Nとを含み、必要に応じてSiとを含む組成を有する蛍光体コアの表面に、フッ素を含む化合物の層を有する。本実施形態の窒化物蛍光体は、Alの一部にSiを含んでいてもよく、表面の酸化によりOを含んでいてもよく、Nの一部がOに置き換わってもよく、Nの一部がFに置き換わってもよく、Nの一部がOとFの両方で置き換わっていてもよい。
本実施形態の窒化物蛍光体は、本発明の実施形態に係る製造方法によって製造されたものであることが好ましい。本実施形態の窒化物蛍光体は、上記の組成を有し、好ましくは一般式(I)で表される組成を有する焼成物とフッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下の温度で熱処理することによって、焼成物の表面又は表面に近い部分にフッ素を含む化合物の層が形成されている。このフッ素を含む化合物の層が保護膜となり、窒化物蛍光体の内部が外部環境の影響を受け難くなる。本実施形態の窒化物蛍光体は、表面に存在するフッ素を含む化合物の層によって、温度や湿度が比較的高い環境下においても、二酸化炭素や水分等と、窒化物蛍光体の結晶構造を形成する元素とが反応し難くなり、耐久性に優れる。そのため、本発明の実施形態に係る窒化物蛍光体を用いた発光装置は、温度や湿度が比較的高い環境下においても耐久性に優れ、色度の変化を少なくすることができる。
【0053】
本実施形態の窒化物蛍光体は、以下の一般式(I)で表される組成を有する蛍光体コアと、以下の一般式(I)には表されていないフッ素を含む化合物の層を表面に有する。下記一般式(I)で表される組成中、表面の酸化により、Nの一部はOに置き換わっていてもよく、Nの一部がFに置き換わっていてもよく、Nの一部がOとFの両方に置き換わっていてもよい。
Al3−ySi (I)
(式中、Mは、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、y及びzは、それぞれ0.80≦v≦1.05、0.80≦w≦1.05、0.001<x≦0.1、0≦y≦0.5、3.0≦z≦5.0を満たす数である。)
【0054】
式(I)において、Mは、高い発光強度を得る観点から、Ca及びSrの少なくとも一方を含むことが好ましい。MがCa及びSrの少なくとも一方を含む場合、Mに含まれるCa及びSrの総モル比率は、例えば85モル%以上であり、90モル%が好ましい。
またMは、結晶構造安定性の観点から、少なくともLiを含むことが好ましい。MがLiを含む場合、Mに含まれるLiのモル比率は、例えば80モル%以上であり、90モル%が好ましい。
【0055】
式(I)におけるv、w、x、y及びzは、それぞれ前記数値範囲を満たす限り特に制限されない。結晶構造安定性の観点から、vは、0.80以上1.05以下が好ましく、0.90以上1.03以下がより好ましい。xは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の賦活量であり、所望の特性を達成できるように適宜選択すればよい。xは、0.001<x≦0.020を満たすことが好ましく、0.002≦x≦0.015を満たすことがより好ましい。
【0056】
本実施形態の窒化物蛍光体は、窒化物蛍光体中のフッ素(F)の含有量が、好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以上8.0質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上7.5質量%未満である。
本実施形態の窒化物蛍光体は、蛍光体コアの表面又は表面に近い部分に、フッ素を含む化合物の層が存在する。本実施形態の窒化物蛍光体は、窒化物蛍光体の表面又は表面近傍に存在するフッ素を含む化合物の層中にフッ素が存在するだけではなく、窒化物蛍光体コアの結晶構造中にもフッ素が存在する可能性が考えられる。窒化物蛍光体コアの結晶構造中に存在するフッ素は、例えば、窒化物蛍光体が酸化されることによって混入する酸素と、窒化物蛍光体の結晶構造に含まれるCa、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素(M元素)及びAl元素とともに、M元素、Alと、酸素(O)と、フッ素(F)とを含有する化合物を構成する場合がある。
【0057】
本実施形態の窒化物蛍光体は、蛍光体コアの表面又は表面に近い部分に、フッ素を含む化合物の層を有し、このフッ素を含む化合物の層は、第一の層と、前記第一の層とは組成の異なる第二の層を有することが好ましい。
本実施形態の窒化物蛍光体は、上記の組成を有し、好ましくは一般式(I)で表される組成を有する焼成物と、フッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下の温度で熱処理することにより、前記焼成物の表面又は表面近傍にフッ素を含む化合物の層が形成される。
本実施形態の窒化物蛍光体において、フッ素を含む化合物の層である第一の層及び第二の層は、後述する実施例において説明するように、窒化物蛍光体をエポキシ樹脂に埋設し、エポキシ樹脂を硬化後、窒化物蛍光体の断面が露出するように切削し、その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することによって確認することができる。後述する実施例において説明する図7に示すように、窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真において、窒化物蛍光体を構成する蛍光体コアの表面又は表面近傍に、蛍光体コアとは別に、コントラストに濃淡の差を有する二つの層を確認することができる。
【0058】
本実施形態の窒化物蛍光体において、フッ素を含む化合物の層の第一の層は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素とフッ素とを含み、第二の層は、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素とAlとフッ素とを含むことが好ましい。
本実施形態の窒化物蛍光体において、第一の層及び第二の層が形成されるメカニズムは明らかではないが、上記の組成を有し、好ましくは一般式(I)で表される組成を有する焼成物と、フッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下の温度で熱処理することにより、窒化物蛍光体の結晶構造の骨格を構成するCa、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素とフッ素とが反応し、安定なフッ化物を含む第一の層が、窒化物蛍光体の表面に形成されると考えられる。さらに、前記熱処理によって、窒化物蛍光体の表面の酸化の状態や、窒化物蛍光体を構成する結晶構造の状態、例えば、格子欠陥等の存在やその量によって、窒化物蛍光体を構成する焼成物と接触させたフッ素含有物質中のフッ素が窒化物蛍光体の結晶構造内で反応し、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素とAlとフッ素とを含む第二の層が形成されると考えられる。
第二の層には、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素とAlとフッ素(F)の他に、窒化物蛍光体の結晶構造を構成する元素である窒素(N)が含まれていてもよい。
【0059】
本実施形態の窒化物蛍光体は、前記の第一の層を表面に有し、前記の第二の層を前記第一の層よりも内側に有することが好ましい。
本実施形態の窒化物蛍光体は、上記の組成を有し、好ましくは一般式(I)で表される組成を有する焼成物と、フッ素含有物質とを接触させ、200℃以上500℃以下の温度で熱処理することにより、表面側にフッ化物を含む第一の層が形成され、第一の層よりも内側に第二の層が形成される。
本実施形態の窒化物蛍光体は、空気と接触する界面となる表面側に、窒化物蛍光体の結晶構造の骨格を形成するCa、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素とフッ素とを含む安定な構造を有するフッ化物を含む第一の層を有することが好ましい。本実施形態の窒化物蛍光体は、安定な構造を有するフッ化物を含む第一の層が表面に形成されていることによって、温度や湿度が比較的高い環境下においても耐久性に優れる。
また、本実施形態の窒化物蛍光体は、表面側に形成された第一の層よりも内側に第一の層とは組成の異なる第二の層を有し、この第二の層が窒化物蛍光体の結晶構造の骨格を形成するCa、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素とAlとフッ素とを含む化合物から形成されていることが好ましい。本実施形態の窒化物蛍光体は、第一の層よりも内側に第二の層を有し、この第二の層が、窒化物蛍光体の結晶構造を構成するAlも含まれる組成を有する化合物を含むことによって、第二の層が、表面のフッ化物を含む第一の層と、窒化物蛍光体を構成する結晶構造との結合層となり、窒化物蛍光体の表面の第一の層がより強固に結合されると考えられる。
本実施形態の窒化物蛍光体は、表面側に安定な第一の層を有し、この第一の層をよりも内側に第二の層を有することにより、窒化物蛍光体の内部が外部環境の影響を受け難くなり、温度や湿度が比較的高い環境下においても耐久性に優れる。
【0060】
例えば、設計組成として、Sr0.993Eu0.007LiAlの組成を有する焼成物を用いて、本実施形態の窒化物蛍光体を製造した場合は、フッ素を含む化合物の層は、窒化物蛍光体の結晶構造を構成する元素であるSr元素とフッ素とを含む化合物によって形成されていることが好ましい。
また、設計組成として、Sr0.993Eu0.007LiAlの組成を有する焼成物を用いた場合、本実施形態の窒化物蛍光体は、第一の層として、Sr元素とフッ素(F)とを含む化合物によって形成されていることが好ましく、第二の層として、Sr元素とフッ素(F)と、さらに窒化物蛍光体の結晶構造を構成するAl元素とを含む化合物によって形成されていることが好ましい。第二の層は、Sr元素とAl元素とF元素の他に窒化物蛍光体の結晶構造を構成するN元素とを含む化合物を含んでいてもよい。
【0061】
本実施形態に係る蛍光体のフッ素を含む化合物の層は、その厚みが0.05μm以上0.8μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上0.6μm以下である。
窒化物蛍光体のフッ素を含む化合物の層が第一の層と第二の層とを有する場合には、第一の層と第二の層とを合計した厚みが、0.05μm以上0.8μm以下であることが好ましい。
窒化物蛍光体のフッ素を含む化合物の層の厚みが0.05μm未満であると、厚さが小さいため、フッ素を含む化合物の層が存在する場合であっても、保護膜としての機能が小さく、温度や湿度等の外部環境の影響を受けやすく、フッ素を含む化合物の層の厚みが0.05μm以上の窒化物蛍光体よりも耐久性が低下する場合がある。
本実施形態に係る窒化物蛍光体のフッ素を含む化合物の層の厚みが0.8μmを超える場合には、フッ素を含む化合物の層の厚みが大きくなり、光の反射等が大きくなり、窒化物蛍光体を発光装置に用いる場合に、所望の発光強度を得られない場合がある。
本実施形態に係る窒化物蛍光体において、フッ素を含む化合物の層の厚みは、後述する実施例において説明するように、窒化物蛍光体をエポキシ樹脂に埋設し、エポキシ樹脂を硬化後、窒化物蛍光体の断面が露出するように切削し、その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、得られた画像からフッ素を含む化合物の層の厚みの寸法を測定することができる。後述する実施例において説明する図7に示すように、窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真において、フッ素を含む化合物の層は、平均厚みが0.1μm前後である。
本実施形態に係る窒化物蛍光体において、フッ素を含む化合物の層の平均厚みは、0.05μm以上0.3μm以下である。
【0062】
本実施形態の窒化物蛍光体は、紫外線から可視光の短波長側領域である400nm以上570nm以下の波長範囲の光を吸収して、発光ピーク波長が630nm以上670nm以下の波長範囲にある蛍光を発するものであることが好ましい。
【0063】
窒化物蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が630nm以上670nm以下の範囲にあるが、640nm以上660nm以下の範囲にあることが好ましい。また発光スペクトルの半値幅は、例えば65nm以下であり、60nm以下が好ましい。半値幅の下限は、例えば45nm以上である。
【0064】
本実施形態の窒化物蛍光体は、希土類であるユウロピウム(Eu)、Ce、Tb、又は、第7族のMnが発光中心となる。ただし、本実施形態の窒化物蛍光体の発光中心は、Eu、Ce、Tb又はMnに限定されず、例えば、Euを含む場合には、Euの一部に他の希土類金属やアルカリ土類金属に置き換えて、Euと共賦活させたものも使用できる。例えば、2価の希土類イオンであるEu2+は適切な母体を選ぶことにより安定に存在し、発光する。
【0065】
本実施形態の窒化物蛍光体の平均粒径は、発光強度の観点から、例えば4.0μm以上であり、4.5μm以上が好ましく、5.0μm以上がより好ましい。また平均粒径は、例えば20μm以下であり、18μm以下が好ましい。本実施形態の窒化物蛍光体の平均粒径は、フッ素を含む化合物の層を含んだ平均粒径である。
【0066】
平均粒径を所定値以上とすることにより、窒化物蛍光体への励起光の吸収率及び発光強度がより高くなる傾向がある。このように、発光特性に優れた窒化物蛍光体を後述する発光装置に含有させることにより、発光装置の発光効率が高くなる。また、平均粒径を所定値以下とすることにより、発光装置の製造工程における作業性を向上させることができる。
【0067】
本明細書において窒化物蛍光体の平均粒径及びそれ以外の蛍光体の平均粒径は、体積平均粒径、レーザー回折式粒度分布測定装置(製品名:MASTER SIZER(マスターサイザー)2000、MALVERN(マルバーン)社製)により測定される粒径(メジアン径)である。
【0068】
(発光装置)
次に、本実施形態の窒化物蛍光体を波長変換部材の構成要素として利用した発光装置について説明する。
本発明の実施形態に係る発光装置は、本発明の実施形態に係る窒化物蛍光体と、励起光源とを備える。
【0069】
本実施形態に係る発光装置に用いる励起光源は、400nm以上570nm以下の波長範囲の光を発する励起光源であることが好ましい。当該波長範囲の励起光源を用いることにより、発光強度の高い蛍光体を提供することができる。特に、420nm以上500nm以下に主発光ピーク波長を有する励起光源を用いることがより好ましく、420nm以上460nm以下に主発光ピーク波長を有する励起光源を用いることがさらに好ましい。前記発光ピーク波長を有する発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。
【0070】
発光素子の発光スペクトルの半値幅は、例えば、30nm以下とすることができる。
発光素子には半導体発光素子を用いることが好ましい。光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
半導体発光素子としては、例えば、窒化物系半導体(InAlGa1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いた半導体発光素子を用いることができる。
【0071】
発光装置は、少なくとも本実施形態に係る窒化物蛍光体を含む。窒化物蛍光体は、式(I)で示される組成を有し、400nm以上570nm以下の波長範囲の光で励起され、発光ピーク波長が630nm以上670nm以下の波長範囲にあり、650nmにおける反射率と、460nmにおける反射率の比が2以上であることが好ましい。窒化物蛍光体の詳細は既述の通りであり、好ましい形態も同様である。発光装置は、前記窒化物蛍光体を含む第一の蛍光体と、第二の蛍光体を含むことが好ましい。
【0072】
第一の蛍光体は、例えば、励起光源を覆う封止部材に含有されて発光装置を構成することができる。励起光源が第一の蛍光体を含有する封止部材で覆われた発光装置では、励起光源から出射された光の一部が第一の蛍光体に吸収されて、赤色光として放射される。400nm以上570nm以下の波長範囲の光を発する励起光源を用いることで、放射される光をより有効に利用することができる。
【0073】
発光装置に含まれる第一の蛍光体の含有量は特に制限されず、最終的に得たい色等に応じて適宜選択することができる。例えば第一の蛍光体の含有量は、樹脂に対して1質量%以上50質量%以下とすることができ、2質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0074】
発光装置は第一の蛍光体とは発光ピーク波長が異なる第二の蛍光体を含んでいてもよい。例えば、発光装置は、青色光を放出する発光素子と、これに励起される第一の蛍光体及び第二の蛍光体を適宜備えることにより、広い色再現範囲や高い演色性を有することができる。
【0075】
第二の蛍光体としては、例えば、下記式(IIa)から(IIi)のいずれかで示される組成を有する蛍光体を挙げることができ、これらからなる群から選択される式で示される組成を有する蛍光体の少なくとも1種を含むことが好ましい。例えば、広い色再現範囲が得られる点で、式(IIc)、(IIe)又は(IIi)で示される組成を有する蛍光体の少なくとも1種を含むことがより好ましい。また、高い演色性が得られる点で、式(IIa)、(IId)、(IIf)又は(IIg)で示される組成を有する蛍光体の少なくとも1種を含むことがより好ましい。
(Y,Gd,Tb,Lu)(Al,Ga)12:Ce (IIa)
(Ba,Sr,Ca)SiO:Eu (IIb)
Si6−pAl8−p:Eu(0<p≦4.2) (IIc)
(Ca,Sr)MgSi16(Cl,F,Br):Eu (IId)
(Ba,Sr,Ca)Ga:Eu (IIe)
(Ba,Sr,Ca)Si:Eu (IIf)
(Sr,Ca)AlSiN:Eu (IIg)
(Si,Ge,Ti)F:Mn (IIh)
(Ba,Sr)MgAl1017:Mn (IIi)
【0076】
第二の蛍光体の平均粒径は、2μm以上35μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましい。平均粒径を所定値以上とすることにより発光強度を大きくすることができる。平均粒径を所定値以下とすることにより、発光装置の製造工程における作業性を向上させることができる。
【0077】
第二の蛍光体の含有量は、例えば、樹脂に対して1質量%以上200質量%以下とすることができ、2質量%以上180質量%以下であることが好ましい。
【0078】
第一の蛍光体と第二の蛍光体の含有比(第一の蛍光体/第二の蛍光体)は、例えば、質量比として0.01以上5.00以下とすることができ、0.05以上3.00以下が好ましい。
【0079】
第一の蛍光体及び第二の蛍光体(以下、併せて単に「蛍光体」ともいう。)は、樹脂とともに発光素子を被覆する封止部材を構成することができる。封止部材を構成する樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0080】
封止材料中の蛍光体の総含有量は、例えば、樹脂に対して5質量%以上300質量%以下とすることができ、10質量%以上250質量%以下が好ましく、15質量%以上230質量%以下がより好ましく、15質量%以上200質量%以下がさらに好ましい。封止材料中の蛍光体の含有量が上記範囲内であると、発光素子から発光した光を蛍光体で効率よく波長変換することができる。
【0081】
封止部材は、樹脂及び蛍光体に加えて、フィラー、光拡散材等を更に含んでいてもよい。例えば、光拡散材を含むことで、発光素子からの指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。フィラーとしては例えば、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、アルミナ等を挙げることができる。封止部材がフィラーを含む場合、その含有量は目的等に応じて適宜選択することができる。フィラーの含有量は例えば、樹脂に対して1質量%以上20質量%以下とすることができる。
【0082】
本実施形態に係る発光装置の一例を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。
【0083】
発光装置100は、リード電極20、30と成形体40により形成された凹部を有するパッケージと、発光素子10と、発光素子10を被覆する蛍光部材50とを備える。発光素子10は、パッケージの凹部内に配置されており、成形体40に備えられた正負一対のリード電極20、30に導電性ワイヤ60によって電気的に接続されている。蛍光部材50は、凹部内に充填されており、発光素子10を被覆し、パッケージの凹部を封止している。蛍光部材50は、例えば、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70と樹脂を含む。さらに蛍光体70は、第一の蛍光体71と第二の蛍光体72とを含む。正負一対のリード電極20、30は、その一部がパッケージの外側面に露出されている。これらのリード電極20、30を介して、外部から電力の供給を受けて発光装置100が発光する。
【0084】
蛍光部材50は、樹脂と蛍光体とを含み、発光装置100の凹部内に載置された発光素子10を覆うように形成される。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0086】
(焼成物の作製)
Sr、Li、Eu、Al、及びNを含む組成を有する蛍光体を製造した。
具体的には、一般式(I)のMAl3−ySiで表される組成を有する蛍光体として、MがSr、MがLi、MがEuとし、SrN(u=2/3相当、SrNとSrNの混合物)、SrF、LiAlH、AlN、EuFを各原料として用いた。本例において、一般式(I)中のyは0である。前述の原料を仕込み量比としてのモル比が、Sr:Li:Eu:Al=0.9925:1.2000:0.0075:3.0000になるように、不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で計量した後、混合して原料混合物を得た。ここでSrNとSrFの質量比は94:6とした。また、Li(リチウム)は焼成時に飛散しやすいため、理論値より多めに配合した。原料混合物をルツボに充填し、窒素ガス雰囲気で、ガス圧力をゲージ圧として0.92MPa(絶対圧力では1.02MPa)として、温度が1100℃で、熱処理を3時間行い、Sr0.9925LiEu0.0075Alで表される組成を有する焼成物を得た。その後、この焼成物を分散、分級処理を行い、焼成物1を得た。
【0087】
(実施例1)
焼成物1をフッ素ガス(F)と窒素ガス(N)とを含み、フッ素ガス濃度が20体積%、窒素ガス濃度が80体積%以上である雰囲気中、温度を300℃、処理時間を8時間として熱処理を行い、実施例1の窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0088】
(比較例1)
焼成物1を比較例1の窒化物蛍光体とした。
【0089】
(実施例2)
温度を250℃にする以外は、実施例1と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0090】
(実施例3)
フッ素ガス濃度を10体積%にする以外は、実施例1と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0091】
(実施例4)
フッ素ガス濃度を5体積%にする以外は、実施例1と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0092】
(実施例5)
温度を350℃にする以外は、実施例1と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0093】
(比較例2)
温度を30℃にする以外は、実施例1と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0094】
(比較例3)
温度を150℃にする以外は、実施例1と同様の条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0095】
参考例6)
比較例2で得た蛍光体を大気中で、温度を300℃、処理時間を10時間として熱処理を行い、窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0096】
参考例7)
比較例3で得た蛍光体を大気中で、温度を300℃、処理時間を10時間として熱処理を行い、窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0097】
参考例8)
焼成物1とフッ化アンモニウムの合計量100質量%に対して、フッ化アンモニウム(NHF)が5質量%となるようにフッ化アンモニウムを加え、窒素ガス(N)を90体積%以上含む雰囲気中、温度を200℃、処理時間を2時間として熱処理を行い、窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0098】
参考例9)
温度を300℃にする以外は、参考例8と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0099】
参考例10)
雰囲気を大気にする以外は、参考例9と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0100】
(比較例4)
温度を150℃にする以外は、実施例8と同じ条件で窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0101】
<評価>
(X線回折スペクトル)
得られた窒化物蛍光体について、X線回折スペクトル(XRD)を測定した。測定は、試料水平型多目的X線回折装置(製品名:UltimaIV、株式会社リガク)を用い、CuKα線を用いて行った。得られたXRDパターンの例を図2に示す。図2は、上から順に、比較例1〜3、実施例1、実施例5の窒化物蛍光体のXRDパターンを示し、参考例として、SrF、LiSrAlFで表される化合物のXRDパターンを示す。
【0102】
(発光特性)
得られた窒化物蛍光体について、発光特性を測定した。窒化物蛍光体の発光特性は分光蛍光光度計(製品名:QE−2000、大塚電子株式会社製)で励起光の波長を450nmとして測定した。得られた発光スペクトルのエネルギー(相対発光強度:%)を求めた。結果を表1に示す。なお、相対発光強度は、比較例1の窒化物蛍光体を100%として算出した。発光ピーク波長は、比較例1〜4、実施例1〜5、参考例6〜10のいずれも650〜660nmであった。また、図3は、比較例1、実施例1、3〜5、参考例7の窒化物蛍光体の波長に対する相対発光強度の発光スペクトルを示す。
【0103】
(組成分析)
得られた窒化物蛍光体について、誘導結合プラズマ発光分析装置(Perkin Elmer(パーキンエルマー)社製)を用いて、ICP発光分析法により、組成分析を行なった。フッ素(F)については含有量が1.0質量%未満の場合はイオンクロマトグラフィー法によりイオンクロマトグラフ(DIONEX社製ICS−1500)を用いて定量分析を行い、フッ素(F)の含有量が1.0質量%以上の場合はUV−VIS法によりダブルビーム分光光度計(HITACHI社製U−2900)を用いて定量分析を行った。窒化物蛍光体中のフッ素元素の含有量を求め、その結果を表1に示す。
【0104】
(保管試験)
得られた窒化物蛍光体を用いて発光装置をそれぞれ作製した。各実施例及び比較例の窒化物蛍光体を第一の蛍光体とし、緑色蛍光体であるβサイアロンを第二の蛍光体として、シリコーン樹脂に分散した封止材料で、主波長451nmの窒化物系半導体発光素子を封止して、色度(x,y)=(0.25,0.22)付近となる表面実装型発光装置を作製した。この発光装置を温度が85℃、相対湿度が85%で100時間保管した後、色度xを測定し、保管試験前の色度xに対する変化量(絶対値)として求めた。
【0105】
(SEM画像−2次電子像)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、比較例1及び3の窒化物蛍光体と実施例1及び5の窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真を得た。図4は、実施例1の窒化物蛍光体のSEM写真であり、図5は、比較例1の窒化物蛍光体のSEM写真であり、図6は、実施例5の窒化物蛍光体のSEM写真であり、図8は、比較例3の窒化物蛍光体のSEM写真である。
【0106】
(SEM画像−反射電子像)
得られた窒化物蛍光体をエポキシ樹脂に包埋し、樹脂を硬化させた後に、窒化物蛍光体の断面が露出するように切削し、表面を紙やすりで研磨した後、クロスセクションポリッシャー(CP)で表面を仕上げ、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、実施例5及び比較例3の窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真を得た。図7は、実施例5の窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真であり、図9は、比較例3の窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真である。
【0107】
(平均粒径)
得られた窒化物蛍光体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(製品名:MASTER SIZER(マスターサイザー)2000、MALVERN(マルバーン)社製)により測定した体積平均粒径(メジアン径)を平均粒径とした。
【0108】
表1に実施例及び比較例の焼成物とフッ素含有物質との接触条件及び熱処理条件を記載した。表1において、比較例2、3、実施例1〜5、比較例4、参考例8、9は、接触条件と熱処理条件が共通する。参考例6、7は、焼成物とフッ素含有物質の接触条件と、それとは別の付加的な熱処理の両方を行っており、表1中にその条件を記載した。
【0109】
【表1】
【0110】
実施例1〜5は、焼成物をフッ素ガスと接触させ、フッ素ガスを含む不活性ガス雰囲気中で熱処理した場合である。また、参考例6、7は、焼成物とフッ素ガスとを接触させ、付加的に大気中で熱処理した場合である。また、参考例8〜10は、常温で固体状態のフッ化アンモニウムと接触させ、その後大気中で熱処理した場合である。これらのいずれの実施例とも、表1に示すように比較例1〜4に比べて上記環境下で保管後の色度xの変化が少なく、耐久性が改善されていることが確認できた。
【0111】
図2のX線回折スペクトルに示すように、比較例1〜3、実施例1、5の化合物は、いずれも組成が比較例1のSr0.9925LiEu0.0075Alで表される化合物であることを確認できた。実施例1と実施例5では、2θが25°〜27°の付近において、SrF、LiSrAlFで表される化合物が示すピークと同じピークが現れており、この結果からフッ素元素が含まれていることが確認できる。実施例の発光装置では、窒化物蛍光体の蛍光体コアを構成する焼成物の表面又は表面近傍に形成されたフッ素を含む化合物の層が保護膜として機能していると考えられ、上記環境下においても色度xの変化が少なく、耐久性に優れる。
【0112】
図3に示すように、実施例1、3〜5、参考例7の窒化物蛍光体の波長に対する相対発光強度の発光スペクトルは、比較例1の窒化物蛍光体の発光スペクトルとほぼ同等の発光強度を維持し、また実施例の発光スペクトルのピーク形状もほぼ比較例1と変わらないことから、熱処理によっても結晶構造が変化せず、結晶構造は安定していると推測される。
【0113】
図4に示される実施例1の窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真と、図5に示される比較例1の窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真とは、2つのSEM写真に示される窒化物蛍光体の外観上の相違はないことが確認できる。
【0114】
図6に示される実施例5の窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真は、図4に示される実施例1の窒化物蛍光体のSEM写真と外観上の相違は少ない。
図7に示される実施例5の窒化物蛍光体の断面の反射電子像に示されるように、実施例5の窒化物蛍光体の表面には、フッ素を含む化合物を含む層が形成されている。
図7に示される窒化物蛍光体の断面のSEM写真において、窒化物蛍光体を構成する蛍光体コア3の表面又は表面近傍に、蛍光体コア3とは別に、コントラストに濃淡の差を有する二つの層を確認することができる。組成分析の結果、窒化物蛍光体の表面に形成されている第一の層1は、窒化物蛍光体の結晶構造を形成するSrと、Fとを含む化合物により形成された層であり、第一の層1よりも内側に存在する第二の層2は、窒化物蛍光体の結晶構造に含まれるSr及びAlと、Fとを含む化合物を含む層であった。第二の層2を構成する化合物は、Srと、Alと、Fの他に、Nが含まれていた。
図7に示される窒化物蛍光体は、フッ素を含む化合物を含む第一の層1及び第二の層2によって、これらの層が保護膜として機能し、窒化物蛍光体の表面近傍において、窒化物蛍光体を構成するアルカリ土類金属元素(例えば、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される元素)又はアルカリ金属元素(例えば、Li、Na及びKからなる群より選択される元素)が二酸化炭素、水分等と反応し難くなっており、耐久性が向上されていると考えられる。
【0115】
図7に示される窒化物蛍光体の断面の電子反射像のSEM写真から、第一の層1及び第二の層2の合計の厚みを求めると、フッ素を含む化合物の層の平均厚みは0.1μm程度であり、最も薄い部分の層の厚みが0.05μm程度であり、最も厚い部分の層の厚みが0.6μmから0.7μm程度である。
【0116】
表1に示すように、比較例1の窒化物蛍光体は、原料に含まれるフッ素化合物の影響によりフッ素元素を0.6質量%含んでいるが、焼成物とフッ素含有物質とを接触させておらず、熱処理をしていないため、温度が85℃、相対湿度が85%の環境下で保管後の色度xの変化が、実施例に比べて大きく、耐久性が改善されていない。
比較例2の窒化物蛍光体は、焼成物とフッ素含有物質を接触させているが、熱処理をしていないため、焼成物の表面又は表面近傍にフッ素を含む化合物の層が形成されていないと考えられ、上記環境下で保管後の色度xの変化が実施例に比べて大きい。
比較例3、4の窒化物蛍光体は、焼成物とフッ素含有物質を接触させ、熱処理をしているが、熱処理の温度が150℃と実施例に比べて低いため、フッ素を含む化合物の保護膜が十分に形成されていないと考えられる。比較例3の窒化物蛍光体においては、後述するように断面の反射電子像により、フッ素を含む化合物の層が形成されていないことを確認した。
【0117】
図8に示される比較例3の窒化物蛍光体の2次電子像のSEM写真は、図4に示される実施例1の窒化物蛍光体のSEM写真、図5に示される比較例1の窒化物蛍光体のSEM写真、図6に示される実施例5の窒化物蛍光体のSEM写真と外観上の相違は少ない。
しかしながら、図9に示される比較例3の窒化物蛍光体の断面の反射電子像に示されるように、比較例3の窒化物蛍光体の表面には、蛍光体コア3の表面又は表面近傍にフッ素を含む化合物を含む層は確認できない。
図9に示される比較例3には、窒化物蛍光体の粒子中に、蛍光体コア3とは異なる、窒化物蛍光体を構成する元素、例えば、Srとフッ素(F)とを含む第一の化合物5が形成されている。
また、図9に示すように、窒化物蛍光体には、蛍光体コア3の他に、窒化アルミニウムの化合物4が含まれる場合がある。
図9中、符号6は、蛍光体コア3とは構造が異なり、組成分析の結果、Srとフッ素(F)とを含み、さらにAlと酸素(O)を含む第二の化合物である。
【0118】
表1に示す結果から、本実施形態に係る窒化物蛍光体は、高い発光強度が維持されており、上記環境下で保管した後も色度の変化が抑制されている。このように、本実施形態に係る方法によって製造された窒化物蛍光体は、耐久性に優れるため、この窒化物蛍光体を用いることにより、信頼性の高い発光装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示の製造方法によって耐久性の高い窒化物蛍光体を得ることができる。本実施形態の窒化物蛍光体は、発光装置に用いることができ、本実施形態の発光装置は、照明用の光源等として好適に利用できる。特に発光ダイオードを励起光源とする発光特性に極めて優れた照明用光源、LEDディスプレイ、液晶用バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0120】
1:第一の層、2:第二の層、3:蛍光体コア、4:AlN系化合物、5:第一の化合物、6:第二の化合物、10:発光素子、40:成形体、50:封止部材、71:第一の蛍光体、72:第二の蛍光体、100:発光装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9