特許第6443489号(P6443489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6443489ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法及び非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443489
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法及び非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20181217BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20181217BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20181217BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/525
   H01M4/505
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-88613(P2017-88613)
(22)【出願日】2017年4月27日
(65)【公開番号】特開2017-202971(P2017-202971A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-93544(P2016-93544)
(32)【優先日】2016年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】園尾 将人
(72)【発明者】
【氏名】北川 卓弘
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/012284(WO,A1)
【文献】 特開2012−252964(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/017783(WO,A1)
【文献】 特開2011−184220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルイオン及びコバルトイオンを含む第一溶液を準備することと、
タングステンイオンを含み、pHが10以上の第二溶液を準備することと、
錯イオン形成因子を含む第三溶液を準備することと、
pHが10以上13.5以下の範囲にある液媒体を準備することと、
前記液媒体に、前記第一溶液、第二溶液及び第三溶液を別々に且つ同時に供給して、pHが10以上13.5以下の範囲に維持される反応溶液を得ることと、
前記反応溶液からニッケル、コバルト及びタングステンを含む複合水酸化物を得ることと、を含み、
前記第一溶液を供給する時間が、12時間以上60時間以下であるニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記反応溶液中のニッケルイオンの濃度が、10ppm以上1000ppm以下の範囲に維持される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ニッケルイオン及びコバルトイオンを含む第一溶液を準備することと、
タングステンイオンを含み、pHが10以上の第二溶液を準備することと、
錯イオン形成因子を含む第三溶液を準備することと、
pHが10以上13.5以下の範囲にある液媒体を準備することと、
前記液媒体に、前記第一溶液、第二溶液及び第三溶液を別々に且つ同時に供給して、pHが10以上13.5以下の範囲に維持される反応溶液を得ることと、
前記反応溶液からニッケル、コバルト及びタングステンを含む複合水酸化物を得ることと、を含み、
前記反応溶液中のニッケルイオンの濃度が、10ppm以上1000ppm以下の範囲に維持されるニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法
【請求項4】
前記第一溶液を供給する時間が、12時間以上60時間以下である請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記液媒体は、ニッケル及びコバルトを含む複合水酸化物を含む種溶液である、請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケルコバルト複合水酸化物は下記式(1)で表される組成を有する請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
Ni1−x−yCo(OH)2+p (1)
(式(1)中、Mは、Mn、Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、FeCu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd及びLuからなる群より選択される少なくとも一種の元素であって、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0<z≦0.05、0≦p≦0.5を満たす)
【請求項7】
前記式(1)中のMが、Mn及びAlの少なくとも一方である請求項に記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法により得られるニッケルコバルト複合水酸化物を酸素存在下で熱処理して熱処理物を得ることと、
前記熱処理物とリチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得ることと、
前記リチウム混合物を熱処理して、ニッケル及びコバルトを含み層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を得ることと、を含む非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム遷移金属複合酸化物が下記式(2)で表される組成を有する請求項に記載の製造方法。
LiNi1−x−yCo (2)
(式(2)中、Mは、Mn、Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、FeCu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd及びLuからなる群より選択される一種以上の元素であって、0.95≦p≦1.2、0.10≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0<z≦0.05を満たす。)
【請求項10】
前記式(2)中のMが、Mn及びAlの少なくとも一方である請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法及び非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やVTRなどの電子機器の小型化と需要の増大に伴い、これら電子機器の電源である二次電池に対する高エネルギー化が要求されている。このような二次電池として、リチウムイオン二次電池のような非水系電解質二次電池が期待されている。リチウムイオン二次電池の正極活物質には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム等の層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。
【0003】
上記リチウム遷移金属複合酸化物の原料であるニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法として共沈法がある。
特許文献1においては、ニッケル、コバルト、マンガン及び添加元素を含む溶液を用いて、添加元素をニッケル、コバルト、マンガンと共沈させ、ニッケルコバルト複合水酸化物の二次粒子内部において添加元素を均一に存在させる製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−116580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施形態は、一次粒子内部及び表面においてタングステンを均質に含むニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法及びその方法により得られるニッケルコバルト複合水酸化物を用いた非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法は、ニッケルイオン及びコバルトイオンを含む第一溶液を準備することと、タングステンイオンを含み、pHが10以上の第二溶液を準備することと、錯イオン形成因子を含む第三溶液を準備することと、pHが10以上13.5以下の範囲にある液媒体を準備することと、前記液媒体に、前記第一溶液、第二溶液及び第三溶液を別々に且つ同時に供給して、pHが10以上13.5以下の範囲に維持される反応溶液を得ることと、前記反応溶液からニッケル、コバルト及びタングステンを含む複合水酸化物を得ることと、を含む。
【0007】
第二態様の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、前記ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法により得られるニッケルコバルト複合水酸化物を酸素存在下で熱処理して熱処理物を得ることと、前記熱処理物とリチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得ることと、前記リチウム混合物を熱処理して、ニッケル及びコバルトを含み層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を得ることと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、一次粒子内部及び表面においてタングステンを均質に含むニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法及びその方法により得られるニッケルコバルト複合水酸化物を用いた非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態の正極活物質を製造する工程の概略フローチャートである。
図2】他の実施形態の正極活物質を製造する工程の概略フローチャートである。
図3】実施例1の水酸化物のHAADF像を示す図である。
図4】実施例1の水酸化物のTEM−EDX像を示す図である。
図5】実施例1のリチウム遷移金属複合酸化物のHAADF像を示す図である。
図6】実施例1のリチウム遷移金属複合酸化物のTEM−EDX像を示す図である。
図7】比較例1のHAADF像を示す図である。
図8】比較例1のTEM−EDX像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
<非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法>
図1は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法を説明するためのものである。図1を参照してニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法及び非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。
まず、ニッケル及びコバルトを含む第一溶液(以下「混合溶液」ともいう)と、25℃におけるpH(以下、pHについては液温25℃にて測定した場合の値とする。)が10以上のタングステンを含む第二溶液(以下「W溶液」ともいう)と、錯イオン形成因子を含む第三溶液(以下、「錯イオン形成溶液」ともいう)と、pHが10以上13.5以下である液媒体(以下「反応前溶液」ともいう)と、を準備する。次に、晶析工程として、反応前溶液に対して、混合溶液と、W溶液と、錯イオン形成溶液と、を別々に且つ同時に供給して反応溶液を形成する。このとき反応溶液のpHを10以上13.5以下の範囲に維持する。反応溶液からニッケル、コバルト及びタングステンを含む複合水酸化物を得る。以上により一次粒子が凝集してなる二次粒子からなるニッケルコバルト複合水酸化物が製造される。次に、熱処理工程において、このようにして得られるニッケル、コバルト及びタングステンを含む複合水酸化物を熱処理して熱処理物を得る。次に、混合工程として、熱処理物とリチウム化合物とを混合してリチウム混合物を得る。次に、焼成工程として、リチウム混合物を焼成することにより、ニッケル及びコバルトを含む層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を得る。以上により非水系電解質二次電池用正極活物質が製造される。
【0012】
本実施形態では、晶析工程において、反応前溶液に対して、形成される反応溶液のpHを10以上13.5以下の範囲に維持しつつ、混合溶液と、W溶液と、錯イオン形成溶液と、を別々に且つ同時に供給することにより、タングステンがより均一に存在するニッケル、コバルト及びタングステンを含む複合水酸化物を生成することができる。係る複合水酸化物ではタングステンが均一に分布し正極活物質の製造に好適に用いられる。以下、この点について説明する。
【0013】
タングステンは、塩基性条件下においてタングステンの水酸化物として析出せず、混合溶液に含まれる金属元素(以下では、この金属元素がニッケルである場合を一例として説明する)と一緒にタングステンの化合物(例えばNiWO)として析出し、複合水酸化物からなる一次粒子の内部及び表面に取り込まれる。したがって、仮に、混合溶液とW溶液とをあらかじめ混合したものを反応前溶液に対して供給する場合は、タングステンイオン周辺のニッケルイオンの濃度が高いことから、タングステンの化合物の析出速度が速くなり、一次粒子の内部及び表面においてタングステンの偏析が起こりやすい。しかし、本実施形態のように、反応前溶液に対して混合溶液とW溶液を別々に供給した場合は、混合溶液が供給された領域においてはタングステンイオンの存在とは関係なくニッケル水酸化物が析出する。これにより、反応溶液中においてニッケルイオンが高濃度には存在せず、ニッケルを含むタングステン化合物の析出はほとんど起こらない。一方、析出したニッケル水酸化物は錯イオン形成溶液に含まれる錯イオン形成因子と反応することにより、ニッケル錯イオンとして徐々に再溶出する。そして、再溶出したニッケル錯イオンとタングステンが反応することにより、タングステン化合物が析出する。再溶出したニッケル錯イオンの濃度は比較的低いため、タングステン化合物の析出速度を遅くすることができる。以上の理由により、混合溶液とW溶液を別々に反応前溶液に供給して反応液を形成することで、複合水酸化物の一次粒子の内部及び表面に、より均質にタングステンを存在させることができると考えられる。
【0014】
仮にW溶液のpHが10よりも低い場合、W溶液が供給される箇所において反応溶液のpHが局所的に低くなり、その領域において一旦析出したニッケル水酸化物が再度溶解することがある。そうなると、反応溶液のpHが局所的に低くなった領域において、タングステン周辺のニッケル濃度が高くなり、タングステン化合物の析出速度が速くなる。これにより、一次粒子の内部及び表面においてタングステンの偏析が起こりやすくなると考えられる。以上の理由により、W溶液のpHを10より高く調整することで、タングステンの化合物の析出速度を遅くなり、一次粒子においてより均質にタングステンを分布させることができると考えられる。
【0015】
以下各工程について説明する。
【0016】
[混合溶液の準備]
混合溶液は、目的のリチウム遷移金属酸化物の組成に応じてタングステンを除く各金属を含む塩を所定量水に溶解して調製される。塩の種類としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などが挙げられる。また、混合溶液を調製する際に、各金属を含む塩を溶解しやすくするために、水に酸性溶液(例えば硫酸水溶液)を加えてもよい。この場合、塩基性溶液をさらに加えてpH調整を行ってもよい。また混合溶液におけるニッケル等の金属元素の合計モル数は、目的とするリチウム遷移金属酸化物の平均粒径に応じて適宜設定できる。ここで金属元素の合計モル数は、混合溶液が、ニッケル及びコバルトを含む場合はニッケル及びコバルトの合計モル数であり、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む場合はニッケル、コバルト及びマンガンの合計モル数を意味する。
【0017】
混合溶液のニッケル等の金属イオンの濃度は、各金属イオンの合計で1.0mol/L以上2.6mol/L以下、好ましくは1.5mol/L以上2.2mol/L以下とする。混合溶液の濃度が1.0mol/L以上であると、反応槽当たりの晶析物量が充分に得られるために生産性が向上する。一方、混合溶液の濃度が2.6mol/L以下であると、常温での金属塩の飽和濃度を超えることがなく、結晶が再析出による溶液中の金属イオン濃度の減少が抑制される。
【0018】
混合溶液は、実質的にタングステンイオンを含まない。実質的に含まないとは、混合溶液に不可避的に混入するタングステンイオンの存在を排除しないことを意味する。混合溶液におけるタングステンイオンの存在量は、例えば500ppm以下であり、50ppm以下が好ましい。
【0019】
[W溶液の準備]
W溶液は、実質的に金属イオンとしてタングステンイオンのみを含む溶液とする。W溶液は、目的の組成に応じてタングステン化合物を塩基性溶液に溶解してpHが10以上になるように調製される。タングステン化合物としては、パラタングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムが挙げられる。W溶液におけるタングステンのモル数は、目的とする正極活物質の組成と混合溶液におけるニッケル等の合計モル数に応じて適宜調整する。実質的に金属イオンとしてタングステンイオンのみを含むとは、不可避的に混入する他の金属イオンの存在を許容することを意味する。W溶液における他の金属イオンの存在量は、タングステンイオンに対して例えば500ppm以下であり、50ppm以下が好ましい。W溶液におけるタングステンイオン濃度は、例えば0.04mol/L以上1.2mol/L以下、好ましくは0.6mol/L以上1.0mol/L以下である。
【0020】
[錯イオン形成溶液の準備]
錯イオン形成溶液は、混合溶液に含まれる金属元素と錯イオンを形成する錯イオン形成因子を含むものである。例えば錯イオン形成因子がアンモニアである場合、錯イオン形成溶液にはアンモニア水溶液を用いることができ、アンモニア水溶液中に含まれるアンモニアの含量は、例えば5重量%以上25重量%以下、好ましくは10重量%以上20重量%以下である。
【0021】
[反応前溶液の準備]
反応前溶液は、pH10以上13.5以下の液媒体であり、例えば、反応容器に、所定量の水と、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性溶液を用いてpH10以上13.5以下の溶液として調整される。溶液のpHを10以上13.5以下に調整することで、反応初期における反応溶液のpH変動を抑制することができる。
【0022】
[晶析工程]
反応前溶液に対して、形成される反応溶液のpHを10以上13.5以下の範囲に維持しつつ、混合溶液と、W溶液と、錯イオン形成溶液とを別々に且つ同時に供給することにより、反応溶液からニッケル、コバルト及びタングステンを含む複合水酸化物粒子を得ることができる。反応前溶液には、混合溶液、W溶液及び錯イオン形成溶液に加えて、塩基性溶液を同時に供給してもよい。これにより反応溶液のpHを10以上13.5以下の範囲に容易に維持することができる。
【0023】
晶析工程では、反応溶液のpHが10以上13.5以下の範囲を維持するように各溶液を供給することが好ましい。例えば混合溶液の供給量に応じて、塩基性溶液の供給量を調整することで反応溶液のpHを10以上13.5以下の範囲に維持することができる。反応溶液のpHが10より低い場合は、得られる複合水酸化物に含まれる不純物(例えば、混合溶液に含まれる金属以外の硫酸分や硝酸分)の量が多くなり、最終生産物である二次電池の容量の低下をまねく場合がある。また、pHが13.5より高い場合は、微小の二次粒子が多く生成し、得られる複合水酸化物のハンドリング性が悪くなる場合がある。また反応溶液の温度は、例えば25℃以上80℃以下の範囲になるように制御する。
【0024】
晶析工程では、反応溶液中のニッケルイオンの濃度を10ppm以上1000ppm以下の範囲になるように維持することが好ましい。ニッケルイオンの濃度が10ppm以上の場合は、タングステン化合物が充分に析出する。ニッケルイオンの濃度が1000ppm以下の場合は、溶出するニッケル量が少ないため、目的の組成からずれることが抑制される。ニッケルイオン濃度は、例えば錯イオン形成溶液にアンモニア水溶液を用いた場合、反応溶液中のアンモニウムイオン濃度が、1000ppm以上15000ppm以下となるように、錯イオン形成溶液を供給することで、調整することができる。
【0025】
混合溶液を供給する時間は、12時間以上60時間以下とすることが好ましい。12時間以上とすることにより、タングステン化合物の析出速度が遅くなるため、より均質にタングステンを存在させることができる。また60時間以下とすることにより、生産性を向上することができる。
【0026】
晶析工程全体をとおして供給される混合溶液のニッケル等の合計モル数を分母とし、一時間あたりに供給される混合溶液のニッケル等の合計モル数を分子とした値を、0.015以上0.085以下とするのが好ましい。0.015以上とすることで、生産性を向上することができる。0.085以下とすることで、タングステンの化合物の析出速度が遅くなるため、より均質にタングステンを存在させることができる。W溶液の供給速度は、混合溶液の供給速度と目的の組成中のタングステンのモル比により適宜調整する。
【0027】
反応終了後、生成する沈殿物を水洗し、濾過し、乾燥させることにより、ニッケルコバルト複合水酸化物を得ることができる。得られるニッケルコバルト複合水酸化物における金属元素の組成比は、これらを原料として得られるリチウム遷移金属複合酸化物の金属元素の組成比とほぼ一致する。
【0028】
本実施形態のニッケルコバルト複合水酸化物は、例えば下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
Ni1−x−yCo(OH)2+p (1)
【0029】
式(1)中、Mは、Mn、Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe,Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd及びLuからなる群より選択される少なくとも一種であって、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0<z≦0.05、0≦p≦0.5を満たす。式(1)において、Mは、Mn及びAlの少なくとも一方であることが好ましい。また0<y≦0.35であることが好ましい。
【0030】
[種生成工程]
ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法においては、図2に示すように晶析工程の前に種生成工程を有することが好ましい。反応前溶液に対して、混合溶液の一部を供給することによりニッケル及びコバルトを含む複合水酸化物粒子を種晶として含む種溶液を得ることができる。すなわち、晶析工程に供する液媒体は、ニッケル及びコバルトを含む複合水酸化物を含む種溶液であることが好ましい。種生成工程にて得られるニッケル及びコバルトを含む複合水酸化物の粒子一個が、晶析工程後に得られる複合水酸化物の粒子一個を構成する種晶となることから、種生成工程において得られる種晶の数によって、晶析工程後に得られる水酸化物の二次粒子の総数を制御することができる。例えば、種生成工程において混合溶液を多く供給すると生成する種晶の数が多くなるので、晶析工程後の複合水酸化物の二次粒子の平均粒径が小さくなる傾向がある。また、例えば、種生成工程のpHを晶析工程のpHより高くする場合は、生成する種晶の成長よりも種晶の生成が優先されることで、より均質な粒径を有する種晶が生成し、粒度分布の狭い種溶液を得ることができる。これにより粒度分布の狭い複合水酸化物を得ることができる。種生成工程後、種溶液に対して、反応溶液のpHを10以上13.5以下の範囲に維持しつつ、混合溶液と、W溶液と、錯イオン形成溶液と、を別々に且つ同時に供給することで上述の晶析工程を行う。
【0031】
種生成工程において、混合溶液とW溶液とを同時に供給することも可能ではあるが、混合溶液のみを供給することが好ましい。タングステンは、上述のとおり、混合溶液に含まれる金属元素と一緒にタングステン化合物として析出する。混合溶液とW溶液を供給する場合は、混合溶液によって供給される金属元素のモル数だけでなく、タングステン化合物の析出量にも依存して種晶の数が決まることになる。それに対して、W溶液を用いずに混合溶液のみを供給して種生成をする場合は、混合溶液で供給される金属源のモル数により種晶の数が決まり、タングステン化合物の析出に依存しない分、製造LOTごとの種晶の数の変動を抑制できると考えられる。
【0032】
種生成工程において供給する混合溶液に含まれるニッケル等の合計モル数は、例えば、晶析工程において供給する混合溶液に含まれるニッケル等の合計モル数の1.5%以下とする。混合溶液の供給は、得られる種溶液のpHが10以上13.5以下の範囲を維持するように、塩基性溶液の供給と同時に行ってもよいし、所定量の混合溶液を供給した後の反応溶液のpHが10以上13.5以下の範囲になるように、反応前溶液にあらかじめ塩基性溶液を供給した後に行ってもよい。
【0033】
[熱処理工程]
熱処理工程では、上述のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法で得られるニッケルコバルト複合水酸化物を大気雰囲気下、熱処理することにより含有する水分を除去して熱処理物を得る。得られる熱処理物にはニッケルコバルト遷移金属酸化物が含まれる。
熱処理の温度は例えば、105℃以上900℃以下とし、熱処理時間は5時間以上30時間以下とする。
【0034】
[混合工程]
混合工程は、ニッケルコバルト遷移金属酸化物を含む熱処理物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0035】
混合方法には、例えば、出発原料である熱処理物とリチウム化合物とを撹拌混合機等で乾式混合する方法、又は出発原料のスラリーを調製し、ボールミル等の混合機で湿式混合する方法が挙げられる。リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、もしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0036】
リチウム混合物におけるリチウム以外の金属元素の合計モル数とリチウムのモル数との比は、0.90以上1.30以下であることが好ましい。0.90以上であると副生成物の生成が抑制される傾向がある。また1.30以下であるとリチウム混合物の表面に存在するアルカリ成分量が増加することが抑制され、アルカリ成分の潮解性による水分吸着が抑制されて、ハンドリング性が向上する傾向がある。
【0037】
[焼成工程]
焼成工程は、混合工程で得られるリチウム混合物を熱処理して、リチウム遷移金属複合酸化物を得る工程である。焼成工程において、リチウム化合物に含まれるリチウムがニッケルコバルト遷移金属酸化物中に拡散することにより、リチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【0038】
焼成温度は、650℃以上990℃以下が好ましい。焼成温度が650℃以上であると未反応リチウム分の増加が抑制される傾向がある。990℃以下であるとタングステンの偏析が抑制される傾向がある。焼成時間は最高温度を保持する時間として例えば10時間以上あれば十分である。
【0039】
焼成工程の雰囲気は、酸素存在下が好ましく、10容量%以上100容量%以下の酸素を含有する雰囲気がより好ましい。
【0040】
焼成後、必要に応じてリチウム遷移金属酸化物を粗砕、粉砕、乾式篩い等の処理を行い、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0041】
[非水系電解質二次電池用正極活物質]
本実施形態の正極活物質は、式(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む。リチウム遷移金属複合酸化物は、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するものである。
LiNi1−x−yCo (2)
【0042】
式(2)中、Mは、Mn、Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe,Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd、及びLuからなる群より選択される一種以上の元素であって、0.95≦p≦1.2、0.10≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0<z≦0.05を満たす。
【0043】
式(2)におけるMは、これら正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における安全性の点で、Mn及びAlの少なくとも一方から選択されることが好ましい。
【0044】
式(2)におけるpが0.95以上の場合、得られるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極表面と電解質との界面で発生する界面抵抗が抑制されるため、電池の出力が向上する傾向がある。一方、pが1.2以下の場合、上記正極活物質を非水系電解質二次電池の正極に用いる場合の初期放電容量が向上する傾向がある。
【0045】
式(2)におけるx、y、zの範囲は、得られたリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における、充放電容量やサイクル特性、安全性などを考慮して決定される。xの値は、0.10以上0.35以下とする。yの値は、0以上0.35以下、好ましくは0.10以上0.35以下とする。zの値は0.05以下、好ましくは0.02以下とする。
【0046】
以下、実施例にてより具体的な例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0047】
[実施例1]
(各溶液の準備)
硫酸ニッケル溶液と、硫酸コバルト溶液と、硫酸マンガン溶液と、をそれぞれ金属元素のモル比で1:1:1になるように水に溶解して混合した混合溶液(ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオンを合わせた濃度で1.7モル/L)を準備した。混合溶液中の金属元素の総モル数を474モルとした。
パラタングステン酸アンモニウム4.7モル分を水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて液温25℃におけるpHが12.3であるW溶液(濃度1.5モル/L)を準備した。
塩基性水溶液として、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
錯イオン形成溶液として、12.5重量%のアンモニア水溶液を準備した。
【0048】
(反応前溶液の準備)
反応容器に水40リットルを準備し、水酸化ナトリウム水溶液をpHが12.5になるように加えた。窒素ガスを導入し反応容器内を窒素で置換して反応前溶液を準備した。
【0049】
(種生成工程)
反応溶液を撹拌しながら、反応前溶液に対して混合溶液をニッケル等の総モル数として4モル分加えて、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む複合水酸化物を析出させた。
【0050】
(晶析工程)
残りの混合溶液470モル分と、W溶液4.7モル分と、水酸化ナトリウム水溶液と、アンモニア水溶液を、塩基性(pH11.3)条件下、反応溶液中においてニッケル濃度が約300ppmであり、アンモニウム濃度が約10000ppmとなるように、それぞれを別々に且つ同時に反応溶液を撹拌しながら供給して、ニッケル、コバルト、マンガン及びタングステンを含む複合水酸化物粒子を析出させた。混合溶液の供給時間は18時間であった。
反応溶液の温度は、約50℃になるように制御した。
【0051】
続いて水洗、濾過、乾燥を行いニッケル、コバルト、マンガン及びタングステンを含む複合水酸化物(以下、「ニッケルコバルト複合水酸化物」ともいう)を得た。得られたニッケルコバルト複合水酸化物を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成はNi0.33Co0.33Mn0.330.01(OH)2+a(0≦a≦0.5)であった。
【0052】
続いてニッケルコバルト複合水酸化物粒子をエポキシ樹脂に分散させ固化した後、クロスセクションポリッシャにて二次粒子の断面出しを行い、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置(JEOL社製)にてHAADF像及びTEM−EDX像(加速電圧200kV)を測定した。
実施例1のニッケルコバルト複合水酸化物の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)像(以下、HAADF像)を図3に、TEM−EDX像を図4に示す。図3ではニッケルコバルト複合水酸化物粒子は、複数の一次粒子からなる二次粒子を形成している。図3において、一次粒子内部1は、例えば×で示される部位であり、一次粒子粒界2は、例えば実線で示される部位である。実施例1のニッケルコバルト複合水酸化物のTEM−EDX分析による一次粒子内部及び粒界におけるタングステン元素の組成比率(at%)を表1に示す。
平均組成(%)は各点(表1における1から4)の平均値とし、ばらつきは各点の標準偏差とし、変動係数は平均組成に対するばらつきの比の値である。
【0053】
【表1】
【0054】
(正極活物質の製造)
ニッケルコバルト複合水酸化物を、大気雰囲気下、300℃で20時間の熱処理を行い、ニッケル、コバルト、マンガン及びタングステンを含む遷移金属複合酸化物(以下、「ニッケルコバルト遷移金属複合酸化物」ともいう)として回収した。次にニッケルコバルト遷移金属複合酸化物に対する炭酸リチウムのモル比が1.15倍となるように両者を乾式混合し、大気雰囲気中930℃で15時間焼成した。その後、分散処理してリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
得られたリチウム遷移金属複合酸化物を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成はLi1.15Ni0.33Co0.33Mn0.330.01であった。
【0055】
続いてニッケルコバルト複合水酸化物粒子と同様にして、リチウム遷移金属酸化物粒子をエポキシ樹脂に分散させ固化した後、クロスセクションポリッシャにて二次粒子の断面出しを行い、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置(JEOL社製)にてHAADF像及びTEM−EDX像を、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置(日立ハイテクノロジーズ社製)にてSEM―EDX(加速電圧5kV)を測定した。
実施例1のリチウム遷移金属複合酸化物のHAADF像を図5に、TEM−EDX像を図6に示す。実施例1のリチウム遷移金属複合酸化物のTEM−EDX分析による一次粒子内部及び粒界におけるタングステン元素の組成比率(at%)を表2に、SEM−EDX分析による一次粒子内部及び粒界におけるタングステン元素の組成比率(at%)を表3に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
[比較例1]
W溶液を用いない以外は、実施例1と同様の条件にてニッケルコバルト遷移金属複合酸化物を得た。得られたニッケルコバルト遷移金属複合酸化物と炭酸リチウムと酸化タングステン(組成比で0.01モル分)を所定量乾式混合した以外は、実施例1と同様の条件にてリチウム遷移金属酸化物を得た。
得られたリチウム遷移金属複合酸化物を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成はLi1.15Ni0.33Co0.33Mn0.330.01であった。
続いて実施例1と同じ条件にて、HAADF像とTEM−EDX像を測定した。
比較例1のリチウム遷移金属複合酸化物のHAADF像を図7に、TEM−EDX像を図8に示す。比較例1の正極活物質のTEM−EDX分析による一次粒子内部及び粒界におけるタングステン元素の組成比率(at%)を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
[比較例2]
(各溶液の準備)
硫酸ニッケル溶液と、硫酸コバルト溶液と、硫酸マンガン溶液の混合溶液(ニッケル、コバルト及びマンガンを合わせた濃度で1.7モル/L)に、さらにパラタングステン酸アンモニウム4.7モル分を溶解させたこと以外は実施例1と同じ手順にてリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
得られたリチウム遷移金属複合酸化物を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成はLi1.15Ni0.33Co0.33Mn0.330.01であった。
続いて実施例1と同じ条件にて、SEM−EDX像を測定した。
比較例2の正極活物質のSEM−EDX分析による一次粒子内部及び粒界におけるタングステン元素の組成比率(at%)を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
表1から5より、実施例1におけるニッケルコバルト複合水酸化物及びリチウム遷移金属複合酸化物の変動係数が、比較例1及び2におけるリチウム遷移金属複合酸化物の変動係数と比較して小さいことが理解できる。つまり、本実施例の製造方法により得られるニッケルコバルト複合水酸化物及びリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面及び内部においてタングステンがより均質に存在することを確認できた。
(二次電池の作製)
【0063】
以下の要領で実施例1、比較例1及び2で得られた正極活物質を用いて評価用二次電池を作製した。
【0064】
(非水系電解液二次電池)
以下の手順で非水系電解液二次電池を作製した。
【0065】
(正極の作製)
上記で得られた正極活物質85重量部、アセチレンブラック10重量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)5.0重量部を、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)に分散させて正極スラリーを調製した。得られた正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して正極板を得た。
【0066】
(負極の作製)
人造黒鉛97.5重量部、CMC(カルボキシメチルセルロース)1.5重量部、及びSBR(スチレンブタジエンゴム)1.0重量部を水に分散させて負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーを銅箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して負極板を得た。
【0067】
(非水電解液の作製)
EC(エチレンカーボネイト)とMEC(メチルエチルカーボネイト)を体積比率3:7で混合し、溶媒とした。得られる混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)をその濃度が、1mol/Lになるように溶解させて、非水電解液を得た。
【0068】
(評価用電池の組み立て)
正極板のアルミニウム箔と負極板の銅箔に、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極との間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に、先述の非水電解液を注入、封止し、ラミネートタイプの非水系電解液二次電池を得た。
【0069】
(固体電解質二次電池)
以下の手順で固体電解質二次電池を作製した。
【0070】
(固体電解質の作製)
アルゴン雰囲気下で硫化リチウム及び五硫化リンを、そのモル比が7:3となるように秤量した。秤量物をメノウ乳鉢で粉砕混合し、硫化物ガラスを得た。これを固体電解質として用いた。
【0071】
(正極の作製)
正極活物質60重量部、固体電解質36重量部及びVGCF(気相法炭素繊維)4重量部を混合し、正極合材を得た。
【0072】
(負極の作製)
厚さ0.05mmのインジウム箔を直径11.00mmの円形にくり抜き、負極とした。
【0073】
(評価用電池の組み立て)
内径11.00mmの円筒状外型に外径11.00mmの円柱状下型を、外型下部から挿入した。下型の上端は外型の中間の位置に固定した。この状態で外型の上部から下型の上端に固体電解質80mgを投入した。投入後、外径11.00mmの円柱状上型を外型の上部から挿入した。挿入後、上型の上方から90MPaの圧力をかけて、固体電解質を成形し、固体電解質層とした。成形後上型を外型の上部から引き抜き、外型の上部から固体電解質層の上部に正極合材20mgを投入した。投入後、再度上型を挿入し、今度は360MPaの圧力をかけて正極合材を成形し、正極層とした。成形後上型を固定し、下型の固定を解除して外型の下部から引き抜き、下型の下部から固体電解質層の下部に負極を投入した。投入後、再度下型を挿入し、外型の下方から150MPaの圧力をかけて負極を成形し、負極層とした。圧力をかけた状態で下型を固定し、上型に正極端子、下型に負極端子を取り付け、全固体二次電池を得た。
【0074】
(電池特性の評価)
上記の評価用二次電池を用い以下の要領で電池特性の評価を行った。
【0075】
(非水系電解液二次電池)
(初期放電容量)
充電電位4.3V、放電電位2.75V、放電負荷0.2C(なお、1Cは、1時間で放電が終了する電流負荷である。)の条件で、上記試験用二次電池を放電させた。このときの放電容量を初期放電容量Qd(mAh/g)とした。
【0076】
(初期効率)
充電電位4.3Vの条件で、上記試験用二次電池を充電させた。このときの充電容量を初期充電容量とした。初期放電容量の値を初期充電容量の値で除して、初期効率Qe(%)を求め、初期特性を評価した。初期効率が高いほど、初期特性が優れることになる。
【0077】
(高温高電圧保存特性)
評価用電池を25℃の恒温槽に入れ、満充電電圧4.5V、充電レート0.2C、充電時間10時間の条件で定電流定電圧充電を行った。充電後、放電電圧2.75V、放電レート0.2Cで定電流定電圧放電を行った。放電後、再充電し、評価用電池を60℃の恒温槽に移した。恒温槽において、充電電圧4.5V、充電レート0.2Cでトリクル充電しながら、50時間保存した。保存後、トリクル充電をやめ、25℃の恒温槽に戻し、放冷した。十分放冷した後、放電電圧2.75V、放電レート0.2Cで定電流定電圧放電を行い、放電容量Qs(mAh/g)を測定した。Qsが高いことは、高温保存特性が優れていることを意味する。
【0078】
【表6】
【0079】
表6より、実施例1は、比較例1及び2に対して初期放電容量に優れる事を確認でき、また比較例1に対して初期効率、高温高電圧保存特性に優れる事を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
このようにして得られたリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を正極に用いた非水系電解液二次電池は、電気工具、電気自動車等の動力源として好適に利用可能である。また、このようにして得られたリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を正極に用いた固体電解質二次電池は非水電解液を用いないので、発電所の予備電源等、熱的、機械的に過酷な環境で大出力が求められる電気機器の動力源として好適に利用可能である
【符号の説明】
【0081】
1 一次粒子内部
2 一次粒子粒界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8