特許第6443523号(P6443523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6443523-圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心 図000006
  • 特許6443523-圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心 図000007
  • 特許6443523-圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443523
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法および圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20181217BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20181217BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20181217BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20181217BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20181217BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20181217BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20181217BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01F41/02 C
   H01F27/25
   H01F1/153 108
   H01F1/153 175
   B22F3/00 E
   B22F1/02 G
   B22F1/00 B
   C22C45/02 A
   C21D6/00 C
   H01F1/153 133
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-201200(P2017-201200)
(22)【出願日】2017年10月17日
(62)【分割の表示】特願2013-554285(P2013-554285)の分割
【原出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2018-50053(P2018-50053A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-7880(P2012-7880)
(32)【優先日】2012年1月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-202619(P2012-202619)
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
(72)【発明者】
【氏名】西村 和則
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−280907(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139368(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/084812(WO,A1)
【文献】 特開2002−343618(JP,A)
【文献】 特表2004−520486(JP,A)
【文献】 特開2006−210847(JP,A)
【文献】 特開2008−294411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
C21D 6/00
C22C 45/02
H01F 1/153
H01F 27/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基軟磁性材料粉とCu粉とがバインダーで結着した圧粉磁心を製造する方法であって、
厚さが10μm以上50μm以下の平板状の粉砕粉であるFe基軟磁性材料粉と、メジアン径D50が2μm以上で前記粉砕粉の厚さの50%以下である粒状のCu粉と、バインダーとの混合粉を加圧成形する成形工程を有する
ことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記Fe基軟磁性材料粉はアモルファス合金薄帯の粉砕粉であり、
前記成形工程の後に、アモルファス合金の結晶化温度以下の温度であって、350℃以上420℃以下の温度範囲で前記粉砕粉の歪を緩和する熱処理を行なう
ことを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記アモルファス合金薄帯は、320℃以上380℃未満の温度で脆化のための熱処理が施されていることを特徴とする請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項4】
前記Fe基軟磁性材料粉は熱処理によってナノ結晶組織を発現する合金薄帯の粉砕粉であり、
前記成形工程の後に、前記熱処理を390℃以上480℃以下の温度範囲で行なう
ことを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記バインダーは、前記成形工程で粉体同士を結着し、その後の熱処理で熱分解する有機バインダーと、前記熱処理の後、粉体同士を結着する高温用バインダーとを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記有機バインダーはアクリル系樹脂、又はポリビニルアルコールであり、
前記高温用バインダーは低融点ガラス、又はシリコーンレジンである
ことを特徴とする請求項5に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
軟磁性材料粉を用いて構成された圧粉磁心であって、
前記軟磁性材料粉は、厚さが10μm以上50μm以下の平板状の粉砕粉であり、
前記粉砕粉の間にCu粉が分散しており、
圧粉磁心の破面において観察される前記Cu粉の粒径が2μm以上15μm以下である
ことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項8】
前記粉砕粉の表面に、50nm以上500nm以下の厚さのシリコン酸化物被膜を有することを特徴とする請求項7に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、テレビやエアコンなど家電機器で採用されているPFC回路や、太陽光発電やハイブリッド車・電気自動車などの電源回路等に使用される圧粉磁心を製造する方法、および圧粉磁心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電機器の電源回路の初段部は、AC(交流)電圧からDC(直流)電圧に変換するAC/DCコンバータ回路で構成されている。このコンバータ回路内での入力電流の波形と電圧波形との間で位相のずれが生じたり、電流波形自体が正弦波にならない現象が発生することが一般に知られている。このため、いわゆる力率が低下して無効電力が大きくなり、また高調波ノイズを発生させることになる。PFC回路は、このようなAC入力電流の波形を、AC入力電圧と同様な位相や波形に整形するように制御することで、無効電力及び高調波ノイズを低減するための回路である。近年、標準化団体であるIEC(International Electro−technical Commission:国際電気標準会議)の主導で、各種機器はPFC制御の電源回路を搭載することが法令により必須となる状況になりつつある。前記PFC回路で使用されるチョークを小型化・低背化等するために、それに用いられる磁心には、高飽和磁束密度、低コアロス、優れた直流重畳特性が要求されている。
【0003】
また、近年、急速に普及しはじめたハイブリッド車や電気自動車等のモータ駆動の車両や太陽光発電装置などに搭載されている電源装置では、大電流に耐えるリアクトルが用いられている。かかるリアクトル用の磁心においても、同様に高飽和磁束密度、低コアロスが要求されている。
【0004】
上記要求に応えるものとして、高飽和磁束密度と低コアロスのバランスに優れる圧粉磁心が採用されている。圧粉磁心は、Fe−Si−Al系やFe−Si系などの磁性粉末の表面を絶縁処理したのち成形して得られるもので、絶縁処理により電気抵抗が高められ、渦電流損失が抑制されている。これに関連する技術として、特許文献1には、更なるコアロスPcvの低減のために、第一の磁性体としてFe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉と、第二の磁性体としてCrを含むFe基アモルファス合金アトマイズ粉とを主成分とする圧粉磁心が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2009/139368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の構成によれば、Fe−Si−Al系やFe−Si系など金属磁性粉末の圧粉磁心に比べて低いコアロスPcvが得られている。しかしながら各種電源装置の高効率化の要請が強く、圧粉磁心においてもさらなるコアロスの低減が必要とされていた。
【0007】
そこで、上記問題点に鑑み、本発明は、コアロスの低減に好適な構成を有する圧粉磁心を製造する方法、および圧粉磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る圧粉磁心の製造方法は、Fe基軟磁性材料粉とCu粉とがバインダーで結着した圧粉磁心を製造する方法であって、厚さが10μm以上50μm以下の平板状の粉砕粉であるFe基軟磁性材料粉と、メジアン径D50が2μm以上で前記粉砕粉の厚さの50%以下である粒状のCu粉と、バインダーとの混合粉を加圧成形する成形工程を有することを特徴とする。
【0009】
前記圧粉磁心の製造方法にあって、前記Fe基軟磁性材料粉はアモルファス合金薄帯の粉砕粉であり、前記成形工程の後に、アモルファス合金の結晶化温度以下の温度であって、350℃以上420℃以下の温度範囲で前記粉砕粉の歪を緩和する熱処理を行なうことが好ましい。
【0010】
前記圧粉磁心の製造方法にあって、前記アモルファス合金薄帯は、320℃以上380℃未満の温度で脆化のための熱処理が施されていることが好ましい。
【0011】
前記圧粉磁心の製造方法にあって、前記Fe基軟磁性材料粉は熱処理によってナノ結晶組織を発現する合金薄帯の粉砕粉であり、前記成形工程の後に、前記熱処理を390℃以上480℃以下の温度範囲で行なうことが好ましい。
【0012】
前記圧粉磁心の製造方法にあって、前記バインダーは、前記成形工程で粉体同士を結着し、その後の熱処理で熱分解する有機バインダーと、前記熱処理の後、粉体同士を結着する高温用バインダーとを含むことが好ましい。
【0013】
前記圧粉磁心の製造方法にあって、前記有機バインダーはアクリル系樹脂、又はポリビニルアルコールであり、前記高温用バインダーは低融点ガラス、又はシリコーンレジンであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る圧粉磁心は、軟磁性材料粉を用いて構成された圧粉磁心であって、前記軟磁性材料粉は、厚さが10μm以上50μm以下の平板状の粉砕粉であり、前記粉砕粉の間にCu粉が分散しており、圧粉磁心の破面において観察される前記Cu粉の粒径が2μm以上15μm以下であることを特徴とする。
【0015】
前記圧粉磁心にあって、前記粉砕粉の表面に、50nm以上500nm以下の厚さのシリコン酸化物被膜を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Cuを軟磁性材料粉の間に分散させるという構成を採用したコアロスの低減が可能な圧粉磁心を提供できる。本発明の圧粉磁心を用いれば損失の少ないコイル部品が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る圧粉磁心の概念を示すための、圧粉磁心断面の模式図である。
図2】Fe基アモルファス合金薄帯粉砕粉の形状と寸法を説明するための模式図である。
図3】実施例に示した圧粉磁心の破面のSEM観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る圧粉磁心およびコイル部品の実施形態を、具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
図1は本発明に係る圧粉磁心の断面を示す模式図である。圧粉磁心100は、軟磁性材料粉を用いて構成されている。図1に示す実施形態では、軟磁性材料粉として、軟磁性合金薄帯の粉砕粉1(以下、単に粉砕粉ともいう)を用いている。
尚、本発明においては、軟磁性材料粉を特に限定するものではない。
しかし、軟磁性合金薄帯の粉砕粉は、アトマイズ粉などに比べてコスト的に有利である。また、軟磁性合金薄帯から得られるアモルファス合金やナノ結晶合金の粉砕粉は損失を低くすることができる。
【0020】
図1における圧粉磁心100は、薄板状の粉砕粉1の間にCu(金属銅)2が分散している。かかる構成は、粉砕粉とCu粉との混合粉を圧密化することで得ることができる。混合されたCu粉は、軟磁性合金薄帯の粉砕粉1の間に介在している。なお、以下の説明では、圧粉磁心中で軟磁性合金薄帯の粉砕粉1の間に介在しているCuも便宜上Cu粉と称する場合がある。
本発明に適用する軟磁性合金薄帯は、例えば、Fe基、Co基等のアモルファス合金薄帯やナノ結晶合金薄帯であるが、とりわけ飽和磁束密度が高いFe基アモルファス合金薄帯、Fe基ナノ結晶合金薄帯が好適である。かかる軟磁性合金薄帯についての詳細は後述する。軟磁性合金薄帯の粉砕粉1は板状であるため、粉砕粉のみでは、粉体の流動性が悪く、圧粉磁心の高密度化が困難である。そこで、軟磁性合金薄帯の粉砕粉よりも小さいCu粉を混ぜて、薄板状の軟磁性合金薄帯の粉砕粉1の間にCu2が分散している構成を採用する。
【0021】
通常Cuは軟磁性合金薄帯よりも柔らかいため圧密化の際に塑性変形しやすく、かかる点において密度向上に寄与する。また、かかる塑性変形によって、粉砕粉への応力が緩和される効果も期待できる。また、軟磁性材料粉の間にCuを分散させるために、製造工程中にCu粉を添加する方法を採用することができる。このときCu粉は球状に代表される粒状であるため、かかるCu粉が含有されることによって、加圧成形する際、粉体の流動性が改善され、圧粉磁心の密度も向上する。
この点において、軟磁性合金薄帯の粉砕粉以外の軟磁性材料粉でも同様な効果が期待できる。
【0022】
また、本発明においては、軟磁性合金薄帯の粉砕粉に加えて、それ以外の磁性粉(例えば、アトマイズ粉など)を含むことも可能である。
しかし、Cu粉の効果を最大限に発揮させるためには、磁性粉は軟磁性合金薄帯の粉砕粉のみで構成することがより好ましい。
また、本発明においては、Cu粉以外の非磁性金属粉を含むことも可能である。しかし、Cu粉の効果を最大限に発揮させるためには、非磁性金属粉はCu粉のみであることがより好ましい。
【0023】
ここで、本発明の重要な特徴について、説明する。
本発明者らは、特許文献1のように球状の粉末としてアモルファスアトマイズ粉を複合的に用いる場合などとは異なる、Cu粉の添加による特有の顕著な効果を見出し、本発明に至ったものである。すなわち、Cu粉の添加により、軟磁性材料粉の間にCuを分散させることは高密度化のみならず、低ロス化にも特に顕著な効果を示すのである。
典型的には、軟磁性合金薄帯の粉砕粉の主面よりも小さいCu粉を用いることで、薄板状の粉砕粉1の間にCu2を分散させる。かかる構成によって、Cu粉を含まない、すなわちCuが分散していない場合に比べてコアロスが低下する。Cuはごく微量でも顕著なコアロス低減の効果を発揮するため、その使用量も少なく抑えることができる。逆に使用量を多くすれば、大幅なコアロス低減の効果が得られる。したがって、Cu粉を含有し、粉砕粉の間にCuを分散させる構成は、コアロスの低減に好適な構成であると言える。
【0024】
本発明において、軟磁性材料粉の間にCuが分散している、とは、必ずしも全ての軟磁性材料粉同士の間隙にCuが介在している必要はなく、少なくとも一部の軟磁性材料粉同士の間隙においてCuが介在していればよいという趣旨である。また、分散しているCuが多いほどコアロスが低減するため、コアロス低減の観点からはCuの含有量を規定するものではない。ただし、Cu自体は非磁性体であるため、磁性コアとしての機能を考慮すれば、Cu(Cu粉)の含有量は軟磁性材料粉とCu(Cu粉)の合計質量に対して、例えば20%以下が実用的な範囲である。Cuは微量でも十分な低ロス化の効果を発揮する一方、Cuの含有量が多くなりすぎると初透磁率が減少する。
【0025】
本発明において、軟磁性合金薄帯としてFe基アモルファス合金薄帯を適用する場合、Cu(Cu粉)の含有量が、粉砕粉とCu(Cu粉)の合計質量に対して0.1〜7%であることが好ましい。また、同様にFe基ナノ結晶合金薄帯またはFe基ナノ結晶組織を発現するFe基合金薄帯の場合、Cu(Cu粉)の含有量が、粉砕粉とCu(Cu粉)の合計質量に対して0.1〜10%であることが好ましい。かかる構成によれば、低ロス化の効果を高めつつ、Cuを含有しない場合に対して初透磁率の減少を5%以内に抑えることが可能である。さらに、Cu(Cu粉)の含有量が、粉砕粉とCu(Cu粉)の合計質量に対して0.1〜1.5%であることが好ましい。かかる範囲であれば、Cu粉の含有量に対して初透磁率が増加傾向を示す。また、かかる範囲のように微量なCuを含有する場合でも顕著なコアロス低減の効果を発揮するため、かかる範囲であれば、Cuの使用量を少なく抑えることができて、コストの低減化を図れる。
【0026】
本発明においては、特に扁平な軟磁性合金薄帯の粉砕粉にCuを分散させることによって、コアロスのうち、主にヒステリシス損失を低減することができる。従来、扁平な軟磁性合金薄帯の粉砕粉を用いた圧粉磁心では、加圧成形時に高圧を必要とするため加圧成形時の応力の影響が大きく、それに起因するヒステリシス損失の低減が困難であった。また、渦電流損失を低減するためには、軟磁性合金薄帯を薄くしたり、絶縁被膜の比率を高めることになるため、製造上の困難や他の特性の犠牲を伴うものであった。これに対して、Cuを分散させて、ヒステリシス損失の割合を低減することで、かかる困難等を回避しつつ、コアロスの低減が可能である。
【0027】
例えば、周波数20kHz、印加磁束密度150mTの測定条件におけるヒステリシス損失を、Fe基アモルファス合金薄帯の場合であれば180kW/m3 以下、Fe基ナノ結晶合金薄帯の場合であれば160kW/m以下にして、コアロス全体を低減することが可能である。コアロスが低減されることで、それを用いたコイル部品や装置の高効率化や小型化が可能である。一方で、大電流用途用として大型の圧粉磁心が必要な場合であっても、単位体積当たりの発熱量が低減されているので、全体の発熱量を抑えることができる。すなわち、大電流・大型の用途にも容易に適用が可能である。
【0028】
分散するCuの形態は特に限定されるものではない。また、分散するCuの原料とすることができるCu粉の形態も、これを限定するものではない。しかし、加圧形成時の流動性向上の観点からは、Cu粉は、粒状、特に球状であることがより好ましい。かかるCu粉は、例えばアトマイズ法によって得られるが、これに限定するものではない。
Cu粉の粒径は、薄板状の軟磁性合金薄帯の粉砕粉の間に分散させることができる程度の大きさであればよい。たとえば、粉砕粉のみの場合ではプレス成形によっても充填され難いのに対して、粉砕粉の厚さ未満の球状粉が粉砕粉間に入り込むことにより充填密度の向上がより促進される。
【0029】
Cu粉のように軟磁性合金よりも柔らかい粒状粉は、軟磁性材料粉の流動性を高めるとともに、圧密化の際に塑性変形し、それによって軟磁性材料粉間の空隙は減少する。たとえば、軟磁性合金薄帯の粉砕粉間における空隙をより確実に低減するためには、Cu粉の粒径は、Fe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉などの軟磁性合金薄帯の粉砕粉の厚さの50%以下がより好ましい。より具体的には粉砕粉の厚さが25μm以下であれば、Cu粉の粒径は12.5μm以下が好ましい。通常のアモルファス合金薄帯やナノ結晶合金薄帯の厚さを考慮すると、8μm以下のCu粉が、汎用性が高くより好ましい。粒径が小さくなりすぎると、粉同士の凝集力が大きくなり、分散が困難となるため、Cu粉の粒径は2μm以上がより好ましい。なお、コストの観点から6μm以上の粒径のCu粉を用いることもできる。
【0030】
原料として使用するCu粉の粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定されたメジアン径D50(累積50体積%に相当する粒子径)として評価できる。原料としてのCu粉のメジアン径D50は、圧密化後の圧粉磁心をSEMによって観察し、測定したCu粉の粒径の数値と概ね一致するものである。但し、粉砕粉の間に分散して塑性変形したCu粒子の径は、上記粉体の状態でのCu粉の粒径よりもやや大きくなる。圧粉磁心内に分散するCu粉の粒径評価は、圧粉磁心の破面をSEM観察し、観察されるCu粒子の最大径と最小径の平均を粒径とし、5個以上のCu粒子の粒径を平均して、Cu粉末の粒径として評価することができる。粉砕粉の間に分散して塑性変形したCu粒子の径は、2μm〜15μmの範囲が好ましい。
【0031】
軟磁性合金薄帯は、例えば、単ロール法のように合金溶湯を急冷することによって得られる。合金組成はこれを特に限定するものではなく、必要とされる特性に応じて選定することができる。アモルファス合金薄帯であれば、1.4T以上の高い飽和磁束密度Bsを有するFe基アモルファス合金薄帯を用いることが好ましい。例えば、Metglas(登録商標)2605SA1材に代表されるFe−Si−B系等のFe基アモルファス合金薄帯を用いることができる。
【0032】
一方、ナノ結晶合金薄帯であれば、1.2T以上の高い飽和磁束密度Bsを有するFe基ナノ結晶合金薄帯を用いることが好ましい。ナノ結晶合金薄帯は、粒径が100nm以下の微結晶組織を有する、従来から知られている軟磁性合金薄帯を用いることができる。具体的には、例えば、Fe−Si−B−Cu−Nb系、Fe−Cu−Si−B系、Fe−Cu−B系、Fe−Ni−Cu−Si−B系等のFe基ナノ結晶合金薄帯を用いることができる。また、これらの元素の一部を置換した系および他の元素を添加した系を用いてもよい。このように磁性体にFe基ナノ結晶合金を用いる場合、最終的に得られる圧粉磁心において粉砕粉がナノ結晶組織を有していればよい。したがって、粉砕に供する時点では、軟磁性合金薄帯がFe基ナノ結晶合金薄帯でもよいし、Fe基ナノ結晶組織を発現するFe基合金薄帯でもよい。Fe基ナノ結晶組織を発現する合金薄帯とは、粉砕時にはアモルファス合金の状態であっても、結晶化処理を経た最終的な圧粉磁心において粉砕粉がFe基ナノ結晶組織を有しているものをいう。例えば、結晶化熱処理を粉砕後または成形後に行う場合などが、これに該当する。
【0033】
尚、日立金属株式会社製ファインメット(登録商標)に代表されるFe−Si−B−Cu−Nb系のナノ結晶合金は、Cu分散による高密度化の効果は確認できるものの、元々保磁力、磁歪定数が小さく、損失自体が非常に低いため、コアロス低減の効果は確認しにくい。したがって、Cu分散に係る構成を、例えばFe−Cu−Si−B系のように、磁歪定数が5×10-6以上で、より損失の大きいナノ結晶合金薄帯に適用することで、Cu分散によるコアロス低減の効果をより明確に享受することができる。
【0034】
具体的には、例えば、高い飽和磁束密度を有するFe基アモルファス合金薄帯としては、Fea Sibcd で表され、原子%で76≦a<84、0<b≦12、8≦c≦18、d≦3および不可避不純物からなる合金組成が好ましい。
Fe量aは76原子%より少ないと磁性材料として高い飽和磁束密度Bsが得ることが困難になる。また84原子%以上では熱安定性が低下し、安定してアモルファス合金薄帯を製造することが困難になる。高いBsを備え、安定製造するためには、79原子%以上、かつ83原子%以下がより好ましい。
Siはアモルファス相形成能に寄与する元素である。Bsを向上させるために、Si量bは12原子%以下とする必要があり、より好ましくは5原子%以下である。
【0035】
Bはアモルファス相形成能に最も寄与する元素である。B量cが8原子%未満では熱安定性が低下してしまい、18原子%を超えるとアモルファス相形成能は飽和してしまう。高いBsとアモルファス相形成能の両立のためには、B量は10原子%以上、かつ17原子%以下がより好ましい。
Cは磁性材料の角形性およびBsを向上させる効果がある元素であるが、必須では無い。C量dは3原子%より多くすると脆化が著しくなり、また熱安定性が低下する。
尚、Fe量aについて、10原子%以下をCoで置換するとBsを向上させることが可能である。また、Cr、Mo、Zr、Hf、Nbの少なくとも1種以上の元素を0.01〜5原子%含んでもよく、不可避な不純物としてS、P、Sn、Cu、Al、Tiから少なくとも1種以上の元素を0.5原子%以下含有してもよい。
【0036】
Fe基アモルファス合金薄帯などの軟磁性合金薄帯の粉砕粉の形態を図2に示す。軟磁性合金薄帯は通常数十μm程度と薄いため、主面のアスペクト比が大きい粒子はアスペクト比が小さくなるように割れやすい。そのため、各粒子の主面(厚さ方向に垂直な一対の面)は異形ではあるものの、主面の面内方向の最小値dと最大値mとの差は小さくなり、棒状の粉砕粉は生じにくい。軟磁性合金薄帯の厚さtは、10μmから50μmの範囲が好ましい。10μm未満では、合金薄帯自体の機械的強度が低いため、安定に長尺の合金薄帯を鋳造することが困難である。また、50μmを超えると合金の一部が結晶化しやすくなり、その場合には特性が劣化する。かかる厚さは、より好ましくは13〜30μmである。
【0037】
また、軟磁性合金薄帯の粉砕粉の粒径を小さくすることは、それだけ粉砕によって導入される加工歪が大きくなることを意味し、コアロス増加の原因になる。一方、粒径が大きいと流動性が低下して、高密度化しにくくなる。そこで、軟磁性合金薄帯の粉砕粉の、厚さ方向に垂直な方向(主面の面内方向)での粒径は、合金薄帯の厚さの2倍超から6倍以下が好ましい。ここで、圧粉磁心における粉砕粉のかかる粒径は、薄帯の厚さ方向の断面が優勢に露出する断面(圧粉磁心の加圧方向に垂直な方向から見た断面)を研磨し、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記載する)等を用いて観察して評価する。具体的には、研磨した断面の写真を撮り、0.2mm2 の視野内に存する扁平な粉砕粉の長手方向の寸法を平均して粉砕粉の粒径とする。軟磁性合金薄帯の粉砕粉においては、SEM観察において、厚さ方向に垂直な、平行な二つの主面には粉砕加工された形態がほとんど認められず、主面の端部のエッジが明瞭に確認できる。
【0038】
圧粉磁心においては、軟磁性合金薄帯の粉砕粉間の絶縁のための手段をとることにより、渦電流損失を抑制し、低いコアロスを実現することができる。そのため、粉砕粉の表面に薄い絶縁被膜を設けることが好ましい。粉砕粉自体を酸化させて表面に酸化被膜を形成することも可能である。しかし、かかる方法で粉砕粉へのダメージを抑えながら、均一かつ信頼性の高い酸化被膜を形成することは必ずしも容易ではないため、粉砕粉の合金成分の酸化物とは別の酸化物からなる被膜を設けることが好ましい。
この点、軟磁性合金薄帯の粉砕粉の表面に、シリコン酸化物被膜が設けられている構成が好ましい。シリコン酸化物は絶縁性に優れるとともに、後述する方法によって均質な被膜を形成するのが容易である。絶縁を確実にするためには、シリコン酸化物被膜の厚さは50nm以上が好ましい。一方、シリコン酸化物被膜が厚くなりすぎると圧粉磁心の占積率が低下し、軟磁性合金薄帯の粉砕粉間の距離が大きくなり、初透磁率が低下するため、かかる被膜は500nm以下が好ましい。
【0039】
次に、Cuを分散する圧粉磁心の製造工程について説明する。本発明の製造方法は、軟磁性材料粉を用いて構成された圧粉磁心の製造方法であって、前記軟磁性材料粉が軟磁性合金薄帯の粉砕粉であり、軟磁性合金薄帯の粉砕粉とCu粉を混合する第1の工程と、前記第1の工程で得られた混合粉を加圧成形する第2の工程とを有する。かかる第1の工程と第2の工程を経て、前記軟磁性合金薄帯の粉砕粉の間にCuが分散している圧粉磁心を得る。第1の工程と第2の工程以外の部分は従来から知られている圧粉磁心の製造方法に係る構成を、必要に応じて適宜適用すればよい。
【0040】
まず、前記第1の工程に供する軟磁性合金薄帯の粉砕粉の作製方法の例について説明する。軟磁性合金薄帯の粉砕をするにあたって、あらかじめ脆化処理を行うことで粉砕性を高めることができる。例えば、Fe基アモルファス合金薄帯は300℃以上の熱処理により脆化が起こり、粉砕しやすくなる性質を持っている。かかる熱処理の温度を上げると、より脆化し、粉砕しやすくなる。ただし、380℃を超えるとコアロスPcvが増加する。好ましい脆化熱処理温度は、320℃以上380℃未満である。脆化処理は薄帯を巻回したスプールの状態で行うこともできるし、巻回されていない状態の薄帯を所定形状にプレスして得られた、整形された塊の状態で行うこともできる。但し、かかる脆化処理は必須ではない。例えば、そのままでも脆いナノ結晶合金薄帯あるいはナノ結晶組織を発現する合金薄帯の場合は、脆化処理を省略してもよい。
【0041】
尚、一回の粉砕だけで粉砕粉を得ることも可能であるが、所望の粒径にするために、粉砕工程は、粗粉砕後に微粉砕を行うように、少なくとも2工程に分けて行い、段階的に粒径を落とすことが、粉砕能力及び粒径の均一性の点で好ましい。粗粉砕、中粉砕、微粉砕の3工程で行うことがより好ましい。
【0042】
最後の粉砕工程を経た粉砕粉は粒径をそろえるために分級することが好ましい。分級の方法はこれを特に限定するものではないが、篩による方法が簡易であり、好適である。
かかる篩を用いた方法について説明する。目開きの異なる2種類の篩を用い、目開きの大きい篩を通過するとともに、目開きの小さい篩を通過しなかった粉砕粉を圧粉磁心用の原料粉末とする。この場合、分級後の粉砕粉の各粒子の最小径dは、目開きの大きい方の篩の目開き寸法に1.4を掛けた数値(目開きの対角寸法。以下上限値ともいう)以下となる。
また、かかる最小径は、分級が精度よく行われたとすれば、目開きの小さい方の篩の目開き寸法に1.4を掛けた数値(目開きの対角寸法。以下下限値ともいう)よりも大きいものとみなせる。したがって、上記の分級を経た粉砕粉では、各粒子の最小径dは、篩の目開きから計算される上限値と下限値の範囲内の値を示す。また、かかる範囲はSEMによって観察、測定した主面の面方向の最小径の範囲とも概ね一致するものである。
【0043】
分級を経た、加圧成形前の粉砕粉の粒径はこの最小径dの下限値と上限値で管理することができる。上述のように、粒径が小さい粒子は、それだけ粉砕によって導入された加工歪が大きいことを意味する。
流動性等確保の観点から粗い粒子だけを除去して用いることも可能であるが、上述のように細かい粒子も除去することがより好ましい。低コアロスの観点からは、かかる最小径dの下限値を、軟磁性合金薄帯の厚さの2倍を超えるようにしておくことが好ましい。また、最小径dの上限値を軟磁性合金薄帯の厚さの6倍以下にしておくことで、加圧成形時の流動性を確保でき、成形密度をより高めることができる。
上記最小径dの上限値、下限値を管理することによって、上述した圧粉磁心における粉砕粉の粒径の好ましい範囲を実現することが可能である。
【0044】
次に粉砕工程を経た粉砕粉に対して、損失を低減するために絶縁被膜を形成することが好ましい。その形成方法を以下に説明する。例えば、Fe基の軟磁性合金粉を使用する場合、湿潤雰囲気において100℃以上で熱処理することにより、軟磁性合金粉の表面のFeが酸化または水酸化され、酸化鉄または水酸化鉄の絶縁被膜を形成することができる。
また、軟磁性合金粉をTEOS(テトラエトキシシラン)、エタノール、アンモニア水の混合溶液に含浸、撹拌後、乾燥することで、粉砕粉の表面に、シリコン酸化物被膜を形成することもできる。この方法によれば、軟磁性合金粉の表面自体の酸化等の化学反応を必要とせず、しかもシリコンと酸素が結合し、軟磁性合金粉の表面に平面状かつネットワーク状にシリコン酸化被膜が形成されるため、軟磁性合金粉の表面に均一な厚さの絶縁被膜を形成できる。
【0045】
次に、軟磁性合金薄帯の粉砕粉とCu粉を混合する第1の工程について説明する。軟磁性合金薄帯の粉砕粉とCu粉との混合方法はこれを特に限定するものではないが、例えば乾式撹拌混合機を用いることができる。さらに、第1の工程において、以下の有機バインダー等を混合する。軟磁性合金薄帯の粉砕粉、Cu粉、有機バインダー等を同時に混合することができる。但し、軟磁性合金薄帯の粉砕粉とCu粉とを均一に、かつ効率よく混合する観点からは、第1の工程では、軟磁性合金薄帯の粉砕粉とCu粉とが先に混合され、その後に、バインダーを加えてさらに混合されることがより好ましい。こうすることで、より短時間で均一な混合が可能となり、混合時間の短縮化が図られる。
【0046】
粉砕粉とCu粉の混合粉を、プレスで成形する際、室温で粉体同士を結着させるために有機バインダーを用いることができる。一方、粉砕や成形の加工歪を除去するために、後述する成形後熱処理の適用が有効である。該熱処理を適用する場合、有機バインダーは熱分解によって概ね消失してしまう。したがって、有機バインダーのみの場合、熱処理後に粉砕粉及びCu粉の各粉末同士の結着力が失われ、成形体強度が維持できなくなる場合がある。そこで、かかる熱処理後においても各粉末同士を結着させるために、高温用バインダーを有機バインダーと共に添加することが有効である。無機バインダーに代表される高温用バインダーは、有機バインダーが熱分解する温度領域で流動性を発現し始め、粉末表面に濡れ広がり、粉末同士を結着させるものが好ましい。高温用バインダーの適用により、室温に冷却後も粘着力を保持することが可能である。
【0047】
有機バインダーは、成形工程および熱処理前のハンドリングで、成形体に欠けやクラックが発生することがないように粉体間の結着力を維持し、かつ、成形後の熱処理で容易に熱分解するものが好ましい。成形後熱処理で熱分解が概ね終了するバインダーとしてはアクリル系樹脂や、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0048】
高温用バインダーとしては、比較的低温で流動性が得られる低融点ガラスや、耐熱性、絶縁性に優れるシリコーンレジンが好ましい。シリコーンレジンとしては、メチルシリコーンレジンやフェニルメチルシリコーンレジンがより好ましい。添加する量は、高温用バインダーの流動性や粉末表面との濡れ性や接着力、金属粉末の表面積と熱処理後のコアに求められる機械的強度、更には求められるコアロスPcvにより決定される。高温用バインダーの添加量を増やすと、コアの機械的強度は増加するが、軟磁性合金粉への応力も同時に増加する。このため、コアロスPcvも増加する。よって、低いコアロスPcvと高い機械的強度はトレードオフの関係となっている。要求されるコアロスPcvと機械的強度に鑑み、添加量は適正化される。
【0049】
さらに、加圧成形時の粉末と金型との摩擦を低減させるために、ステリアン酸、またはステアリン酸亜鉛等のステリアン酸塩を、軟磁性合金薄帯の粉砕粉とCu粉、有機バインダー、高温用バインダーの合計質量に対して0.5〜2.0質量%添加するのが好ましい。有機バインダーが混合された状態では、有機バインダーの結着作用により、混合粉は広い粒度分布をもった凝集粉となっている。振動篩等を用いて、篩に通すことによって、造粒粉が得られる。
【0050】
第1の工程で得られた混合粉は上述のように造粒されて、加圧成形する第2の工程に供される。造粒された混合粉は、成形金型を用いて、トロイダル形状、直方体形状等の所定形状に加圧成形される。典型的には1GPa以上、かつ3GPa以下の圧力で、数秒程度の保持時間で成形できる。前記有機バインダーの含有量や必要な成形体強度によって圧力及び保持時間は適正化される。圧粉磁心は、強度・特性の観点から、実用的には5.3×10kg3 /m3 以上に圧密化しておくことが好ましい。
【0051】
良好な磁気特性を得るためには、前述の粉砕工程及び成形に係る第2の工程での応力歪を緩和することが好ましい。Fe基アモルファス合金薄帯の場合であれば、350℃以上、かつ結晶化温度以下(典型的に420℃以下)の温度範囲で熱処理すると応力歪の緩和の効果が大きく、低いコアロスPcvを得ることができる。350℃未満では応力緩和が不十分であり、結晶化温度を超えると軟磁性合金薄帯の粉砕粉の一部が粗大な結晶粒として析出するため、コアロスPcvが著しく増加する。更に、安定して低いコアロスPcvを得るためには380℃以上、かつ410℃以下がより好ましい。保持時間は、圧粉磁心の大きさ、処理量、特性ばらつきの許容範囲などによって適宜設定されるものであるが、0.5〜3時間が好ましい。
【0052】
ここで、結晶化温度について述べる。結晶化温度は示差走査熱量計(DSC)で発熱挙動を測定することで決定できる。後述の実施例ではFe基アモルファス合金薄帯として日立金属株式会社製Metglas(登録商標)2605SA1を使用している。合金薄帯での結晶化温度は510℃であり、粉砕粉での結晶化温度420℃に比べて高い。この原因として、粉砕粉では粉砕時の応力により、合金薄帯本来の結晶化温度よりも低い温度で結晶化が開始していると推定できる。
【0053】
一方、軟磁性合金薄帯がナノ結晶合金薄帯またはFe基ナノ結晶組織を発現する合金薄帯の場合、工程のいずれかの段階で結晶化処理を行い、粉砕粉をナノ結晶組織を有するものとする。つまり、粉砕前に結晶化処理してもよいし、粉砕後に結晶化処理してもよい。なお、結晶化処理には、ナノ結晶組織の比率を上げる、結晶化促進のための熱処理も含む。結晶化処理は加圧成形後の歪緩和の熱処理を兼ねてもよいし、歪緩和の熱処理とは別工程として行うこともできる。ただし、製造工程の簡略化の観点からは、結晶化処理が加圧成形後の歪緩和の熱処理を兼ねることが好ましい。例えば、Fe基ナノ結晶組織を発現する合金薄帯の場合であれば、結晶化処理を兼ねた、加圧成形後の熱処理は、390℃〜480℃の範囲で行えばよい。
【0054】
本発明のコイル部品は、上記のようにして得られた圧粉磁心と、前記圧粉磁心の周囲に巻装されたコイルとを有する。コイルは導線を圧粉磁心に巻回して構成してもよいし、ボビンに巻回して構成してもよい。コイル部品は、例えばチョーク、インダクタ、リアクトル、トランス等である。例えば、該コイル部品は、テレビやエアコンなど家電機器で採用されているPFC回路や、太陽光発電やハイブリッド車・電気自動車などの電源回路等に使用され、これらの機器、装置における低損失、高効率化に寄与する。
【実施例】
【0055】
[アモルファス合金薄帯を用いた実施例]
(アモルファス合金薄帯粉砕粉の作製)
Fe基アモルファス合金薄帯として、平均厚さ25μmの日立金属株式会社製Metglas(登録商標)2605SA1材を用いた。該2605SA1材は、Fe−Si−B系材料である。このFe基アモルファス合金薄帯を空芯で巻いて10kgとした。前記Fe基アモルファス合金薄帯を、乾燥した大気雰囲気のオーブンで360℃、2時間加熱し、脆化させた。オーブンから取り出した巻き体を冷却後、粗粉砕、中粉砕、微粉砕を異なる粉砕機により順次行った。得られた合金薄帯粉砕粉を目開き106μm(対角150μm)の篩に通した。このとき約80質量%が篩を通過した。更に、目開き35μm(対角49μm)の篩により通過する合金薄帯粉砕粉を除去した。目開き106μmの篩に通過し、目開き35μmの篩を通過しなかった合金薄帯粉砕粉をSEMで観察した。篩を通過した粉は、金属薄帯の二主面の形状は図2に例示するような不定形であって、最小径の範囲は、50μmから150μmであった。また、二主面には粉砕加工された形態がほとんど認められず、二主面の端部のエッジが明瞭に確認できた。
【0056】
(アモルファス合金薄帯粉砕粉表面へのシリコン酸化物被膜形成)
前記アモルファス合金薄帯粉砕粉5kgと、TEOS(テトラエトキシシラン、Si(OC254 )200gと、アンモニア水溶液(アンモニア含有量28〜30容量%)200gと、エタノール800gを混合し、3時間撹拌した。次に、ろ過することで、合金薄帯粉砕粉を分離し、100℃のオーブンで乾燥した。乾燥後、アモルファス合金薄帯の粉砕粉の断面をSEMで観察したところ、粉砕粉の表面にはシリコン酸化物被膜が形成され、その厚さは80〜150nmであった。
【0057】
(第1の工程(粉砕粉とCu粉の混合))
Cu粉には、平均粒径4.8μmの球状粉を使用した。表1に示すようなアモルファス合金薄帯の粉砕粉とCu粉の質量比率になるように秤量した粉砕粉とCu粉合計5kg、高温用バインダーとしてフェニルメチルシリコーン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製SILRES H44)60g、有機バインダーとしてアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP−604)100gとを混合した後、120℃で10時間乾燥し混合粉とした。
【0058】
尚、比較のため、Cu粉の代わりに同様に約5μmの平均粒径を有する他の粉末についても検討した。このときの比較例としては、Cu粉の代わりに平均粒径5μmのFe基アモルファス合金アトマイズ球状粉(組成式:Fe7411Si112 Cr2 )を使用して他は本発明例と同様に作製した混合粉(No12)と、Cu粉の代わりに平均粒径5μmのAl粉を使用して他は本発明例と同様に作製した混合粉(No13)とを準備した。
【0059】
(第2の工程(加圧成形)及び熱処理)
第1の工程により得られたそれぞれの混合粉を目開き425μmの篩を通して造粒粉を得た。目開き425μmの篩を通すことで、約600μm以下の粒径の造粒粉が得られる。この造粒粉にステアリン酸亜鉛40gを混合した後、プレス機を使用して、外径14mm、内径8mm、高さ6mmのトロイダル形状になるように、圧力2GPa、保持時間2秒でプレス成形した。得られた成形体に、オーブンにて、大気雰囲気中、400℃、1時間の熱処理を施した。
【0060】
(磁気特性の測定)
以上の工程により作製したトロイダル形状の圧粉磁心に直径0.25mmの絶縁被覆導線を用いて、一次側と二次側それぞれ29ターンの巻線を施した。岩通計測株式会社製B−HアナライザーSY−8232により、最大磁束密度150mT、周波数20kHzの条件でコアロスPcvを測定した。
また、初透磁率μiは、前記トロイダル形状の圧粉磁心に直径0.5mmの絶縁被覆導線を30回巻回し、ヒューレット・パッカード社製4284Aにより、周波数100kHzで測定した。結果を表1に示す。
【0061】
また、一部の圧粉磁心については、前記コアロス測定とは別に、周波数fを10kHz〜100kHzの間で変化させたときの、コアロスの周波数依存性を測定し、周波数fに比例する部分a×fをヒステリシス損失Phv、周波数fの二乗f2 に比例する部分b×f2 を渦電流損失Pevとして、ヒステリシス損失と渦電流損失を分離、評価した。かかる評価をもとに、周波数20kHz、印加磁束密度150mTの測定条件における渦電流損失Pevとヒステリシス損失Phvとの合計に対するヒステリシス損失Phvを算出した。圧粉磁心の密度とともに結果を表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1のNo1の試料はCu粉を含んでいない比較例の圧粉磁心であり、コアロスPcvは261kW/m3 と大きいものであった。No.2の試料はCu(Cu粉)を0.1質量%含む本発明例の圧粉磁心であり、コアロスPcvは215kW/m3 となり、Cuを添加しない場合に比べて損失が約18%低減されている。また、初透磁率μiについては、これらは同等であった。すなわち、ごく微量でもCu粉を含有することで、初透磁率を維持したまま、コアロスが劇的に減少することがわかる。
【0065】
表1のNo2〜11は、本発明例においてCu粉の含有量を0.1質量%から10.0質量%まで増やした場合の磁心のコアロスPcv等を示している。表1のNo2〜11の、Cu粉を含む圧粉磁心のコアロスは、いずれも、Cu粉を含まないNo1の圧粉磁心のそれに比べて15%以上減少しているとともに、Cu粉を増やすことでコアロスPcvを低減できることが分かる。また、Cu粉の含有量の増加に伴い、圧粉磁心の密度も向上し、5.42×103 kg/m3 以上に圧密化されていることがわかる(表2)。
一方、初透磁率は、Cu粉の含有量が0.1質量%〜7.0質量%の範囲(No2〜9)ではほとんど変化せず、43以上が確保されていた。Cuが非磁性体であるにもかかわらず、その含有量が増えても初透磁率の低下が抑えられているのは、Cuの含有による上述の圧粉磁心の密度向上の効果が寄与していると考えられる。
【0066】
また、Cuの含有量が7.0質量%を超えるNo10およびNo11では、コアロスPcvの低減効果は得られるものの、初透磁率は、Cu粉を含有しない場合(No1)に比べて、それぞれ16%、20%低下した。このことから、Cu粉の含有量を7.0質量%以下の範囲にすることで、Cu粉を含有しない場合に対して初透磁率の減少を5%以内に抑えることが可能であることがわかる。さらにCu粉の含有量が3%以下では実質的に初透磁率を減少させずにコアロスを低減することが可能であった。
【0067】
また、Cu粉の含有量が2%以上(No6〜11)ではコアロスは200kW/m3 以下の非常に低いコアロスが得られた。表1に示された、周波数20kHz、磁束密度150mTにおけるコアロスPcvが215kW/m3 以下で、かつ、周波数100kHzにおける初透磁率μiが43以上の圧粉磁心を用いることで、コイル部品やそれを用いた装置の高効率化、小型化に寄与する。かかる観点からは前記コアロスが200kW/m3 以下の圧粉磁心を用いることがより好ましい。
【0068】
表2から明らかなように、Cu粉の含有量によらず、渦電流損失Pevは28〜36kW/m3 の範囲でほとんど変化していなかった。すなわち、Cu粉を含有することによるコアロス低減の効果は、主にヒステリシス損失の低減によってもたらされていることがわかる。ヒステリシス損失Phvを180kW/m3 以下にすることで、コアロス全体を220kW/m3 以下にすることが可能である。ヒステリシス損失Phvが減少することで、周波数20kHz、印加磁束密度150mTの測定条件における渦電流損失Pevとヒステリシス損失Phvとの合計に対するヒステリシス損失Phvの割合を84.0%以下、さらには80.0%以下に低減することが可能であることがわかる。
【0069】
一方、No12は、Cu粉の代わりにFe基アモルファス合金アトマイズ球状粉を3.0質量%含む比較例の圧粉磁心である。そのコアロスPcvは236kW/m3 であり、アモルファス合金薄帯の粉砕粉だけで構成したNo1に対して顕著なコアロス低減効果は見られなかった。また、そのコアロスは、同質量(3.0質量%)のCu粉を含む圧粉磁心(No7)のコアロス164kW/m3 に比べて約44%、ごく微量の0.1質量%のCu粉を含む圧粉磁心(No2)のコアロス215kW/m3 に比べても約10%も大きくなった。すなわち、Cu粉を用いる構成は、粉末としての使用量がわずかで済むため、コスト面においても極めて有利であることがわかる。
【0070】
また、Cu粉の代わりに、Cu粉と同様に塑性変形しやすいと考えられるAl粉を2.0質量%含む圧粉磁心(No13)のコアロスは254kW/m3 であり、アモルファス合金薄帯の粉砕粉だけで構成したNo1に対して有意差はなかった。すなわち、Cu粉の含有が、他の粉末の含有では得られない顕著な効果を発揮することが明らかとなった。
【0071】
また、平均粒径2.5μm、8μmのCu粉をそれぞれ用い、その他の条件はNo7と同様にして圧粉磁心を作製したところ、コアロスはそれぞれ177kW/m3 、182kW/m3 であり、No7等と同様に顕著なコアロス低下の効果が確認された。
【0072】
No7の圧粉磁心の破面のSEM写真を図3に示す。SEM観察と同時にEDXによる元素マッピングも行い、Cu(Cu粉)の同定も行った。平板状の粉砕粉3の主面上に、粉砕粉の厚さや主面の大きさよりもはるかに小さいCuが存在しており、圧粉磁心において軟磁性合金薄帯の粉砕粉の間にCuが分散していることが確認された。Cu粉は、球状から押しつぶされた形状(扁平形状)に変化しており、粉砕粉の主面の間で塑性変形したことがうかがえる。破面の観察から評価したCu粉末の粒径は5.0μmであった。尚、圧粉磁心の薄帯の厚さ方向の断面が優勢に露出する断面(圧粉磁心の加圧方向に垂直な方向から見た断面)を研磨し、SEM観察して、0.2mm2 の視野内に存する扁平な粉砕粉の長手方向の寸法を平均して粉砕粉の粒径を評価したところ、92μmであった。
【0073】
[ナノ結晶合金を用いた実施例]
Fe基ナノ結晶合金薄帯として、平均厚さ18μmのFe−Ni−Cu−Si−B系材料を用いた。具体的な組成は、原子%でFebal.−Ni1%−Si4%−B14%−Cu1.4%である。かかる組成の急冷薄帯を、脆化のための熱処理は行わずに粉砕した。粉砕から加圧成形までの条件は上記アモルファス合金薄帯の実施例および比較例と同様とし、本発明例においては、上記アモルファス合金薄帯の実施例と同様にCu粉の含有量を変えて成形体を作製した。加圧成形で得られた成形体に、歪取と結晶化処理を兼ねて、オーブンにて、昇温速度を10℃/minとし、大気中、420℃、0.5時間の熱処理を施し、圧粉磁心を得た。
【0074】
コアロス等の特性を上記アモルファス合金薄帯の実施例および比較例と同様にして評価した結果を表3に示す。また、一部の圧粉磁心については、上記アモルファス合金薄帯の実施例と同様にして、渦電流損失Pevとヒステリシス損失Phvとの合計に対するヒステリシス損失Phvを算出した。圧粉磁心の密度とともに結果を表4に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
上記アモルファス合金薄帯を用いた場合と同様に、Cu粉を含んでいない比較例であるNo14の圧粉磁心のコアロスPcvが182kW/m3 であったのに対して、Cu粉を0.1質量%含む本発明のNo15の圧粉磁心のコアロスPcvは175kW/m3 に低下した。もともとアモルファス合金薄帯に比べて損失の低いナノ結晶合金薄帯を用いている場合でも、Cu粉の含有により、さらに損失が約4%も低減されていることがわかる。また、初透磁率μiはCu粉を含有していないNo14の圧粉磁心に比べて上昇した。これらのことから、ナノ結晶合金を用いた場合、ごく微量でもCu粉を含有することで、初透磁率を維持したまま、コアロスが減少することがわかる。また、表1のNo15〜24のCu粉を含む圧粉磁心のコアロスは、いずれも、Cu粉を含まないNo14の圧粉磁心のそれに比べて3%以上減少していた。
【0078】
表3から明らかなように、アモルファス合金薄帯を用いた場合と同様に、Cu粉を増やすことでコアロスPcvを低減できることが分かる。また、Cu粉の含有量の増加に伴い、圧粉磁心の密度も向上し、5.66×103 kg/m3 以上に圧密化されていることがわかる(表4)。一方、初透磁率は、Cu粉の含有量が増えるにしたがい高くなり、3.0質量%でのピークを経たのち徐々に低下した。表3に示した0.1質量%〜10.0質量%の範囲(No15〜24)では初透磁率μiはほとんど変化せず、Cu粉を含有しない場合(No14)に対して初透磁率の減少を5%以内に抑えられ、45以上の初透磁率が確保されていた。
【0079】
表3に示すようにCu粉の含有量を7質量%以下にすることで、Cu粉を含有しないNo14の初透磁率以上を確保できることがわかる。Cuが非磁性体であるにもかかわらず、その含有量が増えても初透磁率の低下が抑えられているのは、上記アモルファス合金薄帯の場合と同様にCuの含有による上述の圧粉磁心の密度向上の効果が寄与していると考えられるが、ナノ結晶合金薄帯の場合は、アモルファス合金薄帯の場合とはさらに異なる効果があることが明らかとなった。
【0080】
また、Cu粉の含有量が0.3質量%以上(No16〜24)では、Cu粉を含有しないNo14の圧粉磁心に比べて10%以上のコアロスの低減が可能であることがわかる。さらに、Cu粉の含有量が3.0質量%以上(No20〜24)では、15%以上のコアロスの低減が可能であることがわかる。表3に示された、周波数20kHz、磁束密度150mTにおけるコアロスPcvが175kW/m3 以下で、かつ、周波数100kHzにおける初透磁率μiが45以上の圧粉磁心を用いることで、コイル部品やそれを用いた装置の高効率化、小型化に寄与する。かかる観点からは前記コアロスが165kW/m3 以下の圧粉磁心を用いることが好ましい。
【0081】
表4から明らかなように、Cu粉の含有量によらず、渦電流損失Pevは27〜30kW/m3 の範囲でほとんど変化していなかった。すなわち、ここでも、Cu粉を含有することによるコアロス低減の効果は、主にヒステリシス損失の低減によってもたらされていることがわかる。ヒステリシス損失Phvを160kW/m3 以下にすることで、コアロス全体を180kW/m3 以下にすることが可能である。ヒステリシス損失Phvが減少することで、周波数20kHz、印加磁束密度150mTの測定条件における渦電流損失Pevとヒステリシス損失Phvとの合計に対するヒステリシス損失Phvの割合を84.0%以下、さらには80.0%以下に低減することが可能であることがわかる。
【0082】
一方、Cu粉の代わりにFe基アモルファス合金アトマイズ球状粉を3.0質量%含む圧粉磁心(No25)のコアロスPcvは188kW/m3 であり、ナノ結晶合金薄帯の粉砕粉だけで構成したNo14よりもコアロスが大きくなり、Cu粉を含有する場合に見られるようなコアロスの低減効果は見られなかった。
【符号の説明】
【0083】
1:軟磁性合金薄帯の粉砕粉
2:Cu(Cu粉)
3:軟磁性合金薄帯の粉砕粉
4:Cu(Cu粉)
図1
図2
図3