特許第6443575号(P6443575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6443575リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6443575
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20181217BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20181217BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20181217BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20181217BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 E
   H01M4/36 C
   !H01M4/505
   !H01M4/525
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-64555(P2018-64555)
(22)【出願日】2018年3月29日
【審査請求日】2018年6月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
(72)【発明者】
【氏名】山屋 竜太
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−113783(JP,A)
【文献】 特開2017−069032(JP,A)
【文献】 特開2011−044245(JP,A)
【文献】 特開2015−210917(JP,A)
【文献】 特開2009−187807(JP,A)
【文献】 特開2018−041719(JP,A)
【文献】 特許第6288341(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36−4/60
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされるオリビン系電極活物質および該オリビン系電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体と、酸化物系電極活物質とが混合されてなるリチウムイオン二次電池用電極材料であって、
前記一次粒子径の平均粒子径が30nm以上かつ500nm以下、前記造粒体の平均粒子径が0.5μm以上かつ60μm以下であり、
前記造粒体の引張強さσが4MPa以上、前記造粒体の引張強さσと前記造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される前記造粒体の脆弱性が0.2以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項2】
前記造粒体の平均粒子径(d1)と前記酸化物系電極活物質の平均二次粒子径(d2)の比(d2/d1)が、0.8以上かつ3.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項3】
前記一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上かつ2.5質量%以下、前記一次粒子における前記炭素質被膜の被覆率が80%以上、前記炭素質被膜の膜厚が0.8nm以上かつ5.0nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項4】
前記造粒体のN−メチル−2−ピロリドンを用いた吸油量が50ml/100g以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【請求項5】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極であって、
前記電極合剤層は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極として、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用電極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液系の二次電池であるリチウムイオン二次電池は、小型化、軽量化、高容量化が可能であり、しかも、高出力、高エネルギー密度であるという優れた特性を有していることから、電気自動車を始め、電動工具等の高出力電源としても商品化されており、次世代のリチウムイオン二次電池用材料の開発が世界中で活発化している。
【0003】
ところで、現在実用化されているリチウムイオン二次電池の電極活物質としては、LiCoO、LiMnOが一般的である。しかしながら、Coは地球上に偏在し、かつ稀少な資源であること、電極材料として大量に必要になること等を考慮すると、製品とした場合の製造コストが高くなり、かつ安定供給が難しいという懸念がある。そこで、LiCoOに代わる電極活物質として、スピネル系の結晶構造を有するLiMn、三元系の材料組成のLiNi1/3Mn1/3Co1/3(NMC)、鉄系化合物である鉄酸リチウム(LiFeO)、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO)やリン酸マンガンリチウム(LiMnPO)等の電極活物質の研究開発が盛んに進められている。
【0004】
三元系の電極活物質(NMC)は、その粒径の大きさから、電極材料ペースト調製時にムラが生じ、電池特性に悪影響を与えてしまう。電極作製時のムラを低減するために、粒径が異なるNMCを用いた場合、電池の安定性が低下し、発火することがある。電池の安定性を向上する方法としては、例えば、NMCにリン酸鉄リチウムを添加する方法が知られている。この方法では、リン酸鉄リチウムの粒径を、NMCの粒径よりも小さくすることにより、電極作製時のムラを低減することを可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/139957号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、NMCにリン酸鉄リチウムのナノ粒子が分散した組成では、NMCとリン酸鉄リチウムは粒径と比重が大きく異なるため、電極内でNMCとリン酸鉄リチウムが相分離する。そのため、そのような電極を備えたリチウムイオン二次電池は高レートでの充放電特性が劣化する。また、NMCに粒径がミクロンサイズのリン酸鉄リチウムのナノ粒子が分散した組成では、粒子の表面積が小さいため、このような組成の電極材料からなる電極を備えたリチウムイオン二次電池は高レートでの充放電特性が得られない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、組成のムラがない電極を作製することができるリチウムイオン二次電池用電極材料、そのリチウムイオン二次電池用電極材料を含有するリチウムイオン二次電池用電極、および、そのリチウムイオン二次電池用電極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされるオリビン系電極活物質およびそのオリビン系電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体と、酸化物系電極活物質とが混合されてなるリチウムイオン二次電池用電極材料であって、一次粒子径の平均粒子径が30nm以上かつ500nm以下、造粒体の平均粒子径が0.5μm以上かつ60μm以下であり、造粒体の引張強さσを4MPa以上、造粒体の引張強さσと造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される造粒体の脆弱性を0.2以上とすることにより、オリビン系電極活物質を含む造粒体の機械的強度が向上し、オリビン系電極活物質を含む造粒体と酸化物系電極活物質粒子が均一に分散した電極材料ペーストを調製することが可能となり、組成のムラがない電極を作製することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされるオリビン系電極活物質および該オリビン系電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体と、酸化物系電極活物質とが混合されてなるリチウムイオン二次電池用電極材料であって、前記一次粒子径の平均粒子径が30nm以上かつ500nm以下、前記造粒体の平均粒子径が0.5μm以上かつ60μm以下であり、前記造粒体の引張強さσが4MPa以上、前記造粒体の引張強さσと前記造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される前記造粒体の脆弱性が0.2以上である。
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用電極であって、前記電極合剤層は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有する。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、前記電極として、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料によれば、組成のムラがない電極を作製することができるリチウムイオン二次電池用電極材料を提供できる。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有しているため、組成のムラがないリチウムイオン二次電池用電極を提供することができる。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えているため、高レートでの充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
[リチウムイオン二次電池用電極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされるオリビン系電極活物質および該オリビン系電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体と、酸化物系電極活物質とが混合されてなるリチウムイオン二次電池用電極材料であって、一次粒子径の平均粒子径が30nm以上かつ500nm以下、造粒体の平均粒子径が0.5μm以上かつ60μm以下であり、造粒体の引張強さσが4MPa以上、造粒体の引張強さσと造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される造粒体の脆弱性が0.2以上である。
【0017】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、LiPOで表わされるオリビン系電極活物質(一次粒子)、および、その表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体を含む。以下、LiPOで表わされるオリビン系電極活物質(一次粒子)、および、その表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子を、炭素質被覆電極活物質の一次粒子と言うこともある。
【0018】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径が、30nm以上かつ500nm以下であり、50nm以上かつ400nm以下であることが好ましく、50nm以上かつ300nm以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径を上記の範囲とした理由は、次の通りである。平均一次粒子径が30nm以上であると、比表面積が大きくなり過ぎることによる、炭素量の増加を抑制することができる。一方、平均一次粒子径が500nm以下であると、比表面積の大きさから電子伝導性とイオン拡散性が向上することができる。
【0019】
炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、無作為に測定した200個以上の一次粒子の粒子径を個数平均することで求められる。
【0020】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で造粒された造粒体の平均粒子径が、0.5μm以上かつ60μm以下であり、1μm以上かつ20μm以下であることが好ましく、1μm以上かつ10μm以下であることがより好ましい。
ここで、造粒体の平均粒子径を上記の範囲とした理由は、次の通りである。造粒体の平均粒子径が0.5μm以上であると、電極材料、導電助剤、バインダー樹脂(結着剤)および溶剤を混合して、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する際の導電助剤および結着剤の配合量を抑えることができ、リチウムイオン二次電池用正極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、造粒体の平均粒子径が60μm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極合剤層に含まれる導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0021】
造粒体の平均粒子径は、ポリビニルピロリドン0.1質量%を水に溶解した分散媒に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を懸濁させて、レーザー回折式粒度分析装置を用いて測定される。
【0022】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、造粒体の引張強さσが4MPa以上であり、4.2MPa以上であることが好ましく、4.5MPa以上であることがより好ましい。また、造粒体の引張強さσの上限は、20MPa以下であってもよく、15MPa以下であってもよく、10MPa以下であってもよい。
ここで、造粒体の引張強さσを上記の範囲とした理由は、次の通りである。造粒体の引張強さσが4MPa未満では、造粒体を含有する電極材料ペーストを集電体に塗布した後、電極材料と集電体の密着性を向上するために、電極材料を加圧した際に、加えられる力で造粒体が崩壊する。
【0023】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、造粒体の引張強さの測定方法は、次の通りである。
微小圧縮試験機(商品名:MCT510、株式会社島津製作所製)を用いて、マイクロスコープにて電極材料の粒子径を測定した後、圧縮試験モードにて、圧子の種類:FLAT50、負荷速度:0.0446mN/sec、試験力:9.8mNの条件で破壊歪を測定する。なお、測定において、無作為に5検体の造粒体を選択し、5検体各々の粒子径と、造粒体が破壊した時の粒子径の変異とから、歪の平均値を算出し、得られた値を破壊歪とする。
造粒体3gを金型(平面視した場合、直径2cmの円形状の凹部)に投入して、0.5MPa毎の圧力を加えていき、合計3MPaまでに加えた圧力と電極材料の体積変化を測定する。すなわち、0MPa、0.5MPa、1.0MPa、1.5MPa、2.0MPa、2.5MPa、3.0MPaというように0.5MPaずつ加える圧力を増していき、それぞれの圧力における体積を測定する。そこから、下記の式(1)〜(3)を用いて、造粒体の引張強さと脆弱性を算出する。
下記の式(1)〜(3)において、V0は圧縮前の電極材料の体積(m)、Vは圧縮中の電極材料の体積(m)、Vmは電極材料自体の体積(空隙率0の時の体積で真比重と同等)(m)、Pは圧縮圧力(MPa)、ycは造粒体の破壊歪、ε0は圧縮前空隙率(ε0=1−Vm/V0)、εは圧縮時空隙率(ε=1−Vm/V)、εcは造粒体破壊時の空隙率(εc=1−1/(1−yc)×(1−ε0))、σは引張強さ(MPa)、bは圧縮定数(MPa)、Cは脆弱性(C=σ/b)を示す。
Xa=(ε0−ε)/(ε0−εc)・・・(1)
Xb=(V0−V)/Vm・・・(2)
Y=P×(V−Vm)/Vm・・・(3)
横軸にXa、縦軸にYをプロットした場合の傾き=σ/0.9であり、横軸にXb、縦軸にYをプロットした場合の傾き=bである。
【0024】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、造粒体の圧縮定数bが8MPa以上であることが好ましく、12MPa以上であることがより好ましく、16MPa以上であることがさらに好ましい。
造粒体の圧縮定数bが8MPa未満では、集電体に電極材料ペーストを塗布した場合に変形によって造粒体と導電助剤や結着剤の間に空隙が生じ、電極の抵抗が高くなり、電池特性が低下する。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、造粒体の圧縮定数とは、造粒体の破壊時の空隙率εc=0、すなわち、空隙がなくなるまで造粒体が破壊されないと仮定した場合の引張強さσmに対して、σm=0.9bとなる数値である。したがって、圧縮定数bの上限は引張強さによって変化する。
【0026】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、造粒体の引張強さσと造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される造粒体の脆弱性が0.2以上であり、0.21以上であることが好ましく、0.22以上であることがより好ましい。また、造粒体の脆弱性の上限は、0.90以下であってもよく、0.52以下であってもよく、0.30以下であってもよい。
ここで、造粒体の脆弱性を上記の範囲とした理由は、次の通りである。造粒体の脆弱性が0.2未満では、造粒体に衝撃が加わった際に、表層部が割れ易くなるという不具合が起きやすい。それによって発生した破片により、炭素質被膜が剥離し、電極特性が低下する。
【0027】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、造粒体の脆弱性を、造粒体の引張強さσと造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義した理由は、圧縮定数bは、造粒体が変形によって破壊されないと仮定した場合の引張強さσmに相関のある数値であり、測定により算出した引張強さσと圧縮定数bの比が0.9に近いほど造粒体に変形や衝撃を加えた場合に割れ難いということを示すためである。
【0028】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、酸化物系電極活物質の平均二次粒子径が、0.5μm以上かつ180μm以下であることが好ましく、1μm以上かつ60μm以下であることがより好ましく、1μm以上かつ30μm以下であることがさらに好ましい。
ここで、酸化物系電極活物質の平均二次粒子径を上記の範囲とした理由は、次の通りである。酸化物系電極活物質の平均二次粒子径が0.5μm未満では、安定性が低く、充放電時に酸素を放出し易くなり、安全性が確保できなくなる。一方、酸化物系電極活物質の平均二次粒子径が180μmを超えると、比表面積が小さくなり過ぎてしまい、エネルギー密度が低下する。
【0029】
酸化物系電極活物質の平均二粒子径は、ポリビニルピロリドン0.1質量%を水に溶解した分散媒に、酸化物系電極活物質を懸濁させて、レーザー回折式粒度分析装置を用いて測定される。
【0030】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、造粒体の平均粒子径(d1)と酸化物系電極活物質の平均二次粒子径(d2)の比(d2/d1)が、0.8以上かつ3.0以下であることが好ましく、0.9以上かつ2.5以下であることがより好ましく、1以上かつ2以下であることがさらに好ましい。
ここで、造粒体の平均粒子径(d1)と酸化物系電極活物質の平均二次粒子径(d2)の比(d2/d1)を上記の範囲とした理由は、次の通りである。前記の比(d2/d1)が0.8以上であれば、酸化物系電極活物質の隙間に造粒体が入ることで緻密化が進み、エネルギー密度の向上を図ることができる。一方、前記の比(d2/d1)が3.0以下であれば、電極材料ペースト混錬時に、粒子径と比重の差が小さくなることで相分離を起こし難く、集電体に塗布時にムラが生じ難くすることができ、局所的な抵抗の増加を抑えることができ、電池の安定性が向上する。
【0031】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上かつ2.5質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以上かつ1.3質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以上かつ1.2質量%以下であることがさらに好ましい。
ここで、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素含有量を上記の範囲とした理由は、次の通りである。一次粒子における炭素含有量が0.5質量%以上であれば、電子伝導性を十分に高めることができる。一方、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素含有量が2.5質量%以下であれば、電極密度を高めることができる。
【0032】
炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素含有量は、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて、測定される。
【0033】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
ここで、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率を上記の範囲とした理由は、次の通りである。炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率が80%以上であれば、炭素質被覆の被覆効果が充分に得られる。
【0034】
炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0035】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の膜厚が0.8nm以上かつ5.0nm以下であることが好ましく、0.9nm以上かつ4.5nm以下であることがより好ましく、0.8nm以上かつ4.0nm以下であることがさらに好ましい。
ここで、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の膜厚を上記の範囲とした理由は、次の通りである。一次粒子における炭素質被膜の膜厚が0.8nm以上であれば、炭素質被膜の厚みが薄過ぎるために、所望の抵抗値を有する炭素質被膜を形成することができなくなることを抑制できる。一方、炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の膜厚が5.0nm以下であれば、電極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
【0036】
炭素質被覆電極活物質の一次粒子における炭素質被膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0037】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、上記の造粒体のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた吸油量が50ml/100g以下であることが好ましく、48ml/100g以下であることがより好ましく、45ml/100g以下であることがさらに好ましい。
ここで、造粒体のN−メチル−2−ピロリドンを用いた吸油量を上記の範囲とした理由は、次の通りである。造粒体のN−メチル−2−ピロリドンを用いた吸油量が50ml/100g以下であれば、電極材料ペーストの増粘を抑制でき、かつ導電助剤や結着剤の分散が容易となる。
【0038】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料において、造粒体のN−メチル−2−ピロリドンを用いた吸油量は、日本工業規格 JIS 5101−13−1:2004「顔料試験方法−第13部:吸油量−第1節:精製あまに油法」に準拠した方法により測定される。
【0039】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料における上記の造粒体の含有量は、10質量%以上かつ60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上かつ50質量%以下であることがより好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料における上記の造粒体の含有量を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。
造粒体の含有量が10質量%以上であれば、造粒体の高抵抗から、安定性が向上し、電池の安全性が向上する。一方、造粒体の含有量が60質量%以下であれば、酸化物系電極活物質の高いエネルギーを保持することができる。
【0040】
なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料は、上記の造粒体と酸化物系電極活物質の混合物であるが、これら以外の成分を含んでいてもよい。造粒体と酸化物系電極活物質以外の成分としては、例えば、バインダー樹脂からなる結着剤、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤等が挙げられる。
【0041】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の上記の造粒体の比表面積は、6m/g以上かつ30m/g以下であることが好ましく、10m/g以上かつ20m/g以下であることがより好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の比表面積を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。比表面積が6m/g以上であれば、電極材料内のリチウムイオンの拡散速度を高くすることができ、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、比表面積が30m/gを以下であれば、電子伝導性を高めることができる。
【0042】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の比表面積は、比表面積計を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により測定される。
【0043】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の圧粉体抵抗は、1MΩ・cm以下であることが好ましく、3kΩ・cm以下であることがより好ましい。
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の圧粉体抵抗を上記の範囲に限定した理由は、次の通りである。圧粉体抵抗が1MΩ・cm以下であれば、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を高めることができる。
【0044】
「オリビン系電極活物質」
オリビン系電極活物質は、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる化合物からなる。
【0045】
LiPOにおいて、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1を満たす電極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度の観点から好ましい。
【0046】
Aについては、Co、Mn、Ni、Feが、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる点から好ましい。
ここで、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの15元素のことである。
【0047】
オリビン系電極活物質の結晶子径が、30nm以上かつ150nm以下であることが好ましく、50nm以上かつ120nm以下であることがより好ましい。
オリビン系電極活物質の結晶子径が30nm未満であると、電極活物質の表面を炭素質被膜で充分に被覆するためには多くの炭素を必要とし、また、大量の結着剤が必要となるために、電極中の電極活物質量が低下し、電池の容量が低下することがある。同様に、結着力不足により炭素質被膜が剥離することがある。一方、オリビン系電極活物質の結晶子径が150nmを超えると、電極活物質の内部抵抗が大きくなり、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を低下させることがある。
【0048】
オリビン系電極活物質の結晶子径は、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、および回折角(2θ)を用いて、シェラーの式により算出される。
【0049】
「炭素質被膜」
炭素質被膜は、原料となる有機化合物が炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。炭素質被膜の原料となる炭素源は、炭素の純度が42.00%以上かつ60.00%以下の有機化合物由来であることが好ましい。
【0050】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料における炭素質被膜の原料となる炭素源の「炭素の純度」の算出方法としては、複数種類の有機化合物を用いる場合、各有機化合物の配合量(質量%)と既知の炭素の純度(%)から、各有機化合物の配合量中の炭素量(質量%)を算出、合算し、その有機化合物の総配合量(質量%)と総炭素量(質量%)から、下記の式(4)に従って算出する方法が用いられる。
炭素の純度(%)=総炭素量(質量%)/総配合量(質量%)×100・・・(4)
【0051】
「酸化物系電極活物質」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料における酸化物系電極活物質としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、NMC系、NCA系等が挙げられる。これらの中でも、電池の安全性、エネルギー密度の点から、NMC系、NCA系が好ましい。
【0052】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料によれば、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされるオリビン系電極活物質およびそのオリビン系電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体と、酸化物系電極活物質とが混合されてなるリチウムイオン二次電池用電極材料であって、一次粒子径の平均粒子径が30nm以上かつ500nm以下、造粒体の平均粒子径が0.5μm以上かつ60μm以下であり、造粒体の引張強さσを4MPa以上、造粒体の引張強さσと造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される造粒体の脆弱性を0.2以上とすることにより、オリビン系電極活物質を含む造粒体の機械的強度が向上し、オリビン系電極活物質を含む造粒体と酸化物系電極活物質粒子が均一に分散した電極材料ペーストを調製することが可能となり、組成のムラがない電極を作製することが可能となる。
【0053】
なお、組成のムラがない電極とは、集電体の表面に、電極材料ペーストを塗布した場合に、一様な厚さの電極合剤層が形成されている電極のことである。電極における組成のムラの有無は、光学顕微鏡を用いた表面の凹凸を確認することによって確認できる。
【0054】
[リチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、LiPO粒子と、有機化合物とを混合して分散処理して分散体を作製する工程と、この分散体を乾燥して乾燥造粒体とする工程と、この乾燥造粒体を非酸化性雰囲気下で焼成し、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で造粒された造粒体を得る工程と、得られた造粒体と酸化物系電極活物質を混合する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0055】
LiPO粒子は特に限定されないが、例えば、Li源、A源、D源、およびPO源を、これらのモル比がx:y+z=1:1となるように水に投入し、撹拌してLiPOの前駆体溶液とし、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、120℃以上かつ250℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ24時間以下、水熱処理を行うことにより得られた粒子が好ましい。
この場合、水熱処理時の温度、圧力および時間を調整することにより、LiPO粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0056】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(LiPO)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩の群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
これらの中でも、塩化リチウムと酢酸リチウムは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0057】
ここで、A源としては、コバルト化合物からなるCo源、マンガン化合物からなるMn源、ニッケル化合物からなるNi源、鉄化合物からなるFe源、銅化合物からなるCu源、クロム化合物からなるCr源の群から選択される少なくとも1種が好ましい。また、D源としては、マグネシウム化合物からなるMg源、カルシウム化合物からなるCa源、ストロンチウム化合物からなるSr源、バリウム化合物からなるBa源、チタン化合物からなるTi源、亜鉛化合物からなるZn源、ホウ素化合物からなるB源、アルミニウム化合物からなるAl源、ガリウム化合物からなるGa源、インジウム化合物からなるIn源、ケイ素化合物からなるSi源、ゲルマニウム化合物からなるGe源、スカンジウムム化合物からなるSc源、イットリウム化合物からなるY源、希土類元素の化合物からなる希土類元素源の群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0058】
Co源としてはCo塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0059】
Mn源としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl)、硫酸マンガン(II)(MnSO)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。これらの中でも、硫酸マンガンは、均一な溶液相が得られやすいため好ましい。
【0060】
Ni源としてはNi塩が好ましく、例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0061】
Fe源としては、例えば、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の2価の鉄化合物またはその水和物や、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の3価の鉄化合物や、リン酸鉄リチウム等が用いられる。
【0062】
Cu源としては、例えば、塩化銅(II)(CuCl)、硫酸銅(II)(CuSO)、硝酸銅(II)(Cu(NO)、酢酸銅(II)(Cu(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0063】
Cr源としては、例えば、塩化クロム(II)(CrCl)、硫酸クロム(III)(Cr(SO)、硝酸クロム(II)(Cr(NO)、酢酸クロム(II)(Cr(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0064】
Mg源としては、例えば、塩化マグネシウム(II)(MgCl)、硫酸マグネシウム(II)(MgSO)、硝酸マグネシウム(II)(Mg(NO)、酢酸マグネシウム(II)(Mg(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0065】
Ca源としては、例えば、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0066】
Sr源としては、例えば、炭酸ストロンチウム(SrCo)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0067】
Ba源としては、例えば、塩化バリウム(II)(BaCl)、硫酸バリウム(II)(BaSO)、硝酸バリウム(II)(Ba(NO)、酢酸バリウム(II)(Ba(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0068】
Ti源としては、例えば、塩化チタン(TiCl、TiCl、TiCl)、酸化チタン(TiO)、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0069】
Zn源としては、Zn塩が好ましく、例えば、塩化亜鉛(II)(ZnCl)、硫酸亜鉛(II)(ZnSO)、硝酸亜鉛(II)(Zn(NO)、酢酸亜鉛(II)(Zn(CHCOO))、および、これらの水和物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0070】
B源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のホウ素化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0071】
Al源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のアルミニウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0072】
Ga源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のガリウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0073】
In源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物等のインジウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0074】
Si源としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、四塩化珪素(SiCl)、ケイ酸塩、有機ケイ素化合物等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0075】
Ge源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のゲルマニウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0076】
Sc源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のスカンジウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0077】
Y源としては、例えば、塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等のイットリウム化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0078】
希土類元素源としては、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物、酸化物等の希土類元素の化合物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0079】
PO源としては、例えば、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)およびこれらの水和物の中から選択される少なくとも1種が好ましい。特に、オルトリン酸は、均一な溶液相を形成しやすいので好ましい。
【0080】
LiFePO前駆体粒子とは、Li源、Fe源、PO源および水が含有された混合液が、LiFePO粒子にはならない低い温度で熱処理された状態を意味する。
このようなLiFePO前駆体粒子は、Li源、Fe源、およびPO源を、これらのモル比が1:1:1となるように水に投入し、撹拌してLiFePO粒子の前駆体溶液とし、この前駆体溶液を60℃以上かつ90℃以下で、1時間以上かつ24時間以下、加熱処理されることにより得られる。
【0081】
このようなLiFePO前駆体粒子を作製することが好ましい理由は、次に述べる通りである。
熱処理を行わない状態でLiPO粒子と混合してしまうと、Li源、Fe源、PO源が、粒子表面に均一に存在するため、炭素質被膜が均一に形成されやすくなってしまうからである。
一方で、LiFePO粒子が形成されるほどの高温で熱処理すると、LiFePO粒子の状態では、LiPO粒子にFeが付着しづらくなるため、所望量のFeをLiPO粒子の表面に存在させることができなくなるからである。
【0082】
有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン等が挙げられる。
【0083】
有機化合物は、有機化合物中の炭素が、LiPO粒子100質量部に対して0.5質量部以上かつ2.5質量部以下となるように混合すればよい。
【0084】
次いで、得られた混合液を分散して分散体とする。
分散方法は、特に限定されないが、LiPO粒子の凝集状態をほぐして、LiFePO前駆体粒子が、LiPO粒子個々の表面に散在して付着しやすくなる程度の分散エネルギーを付与できる装置を用いることが好ましい。このような分散装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー等が挙げられる。
【0085】
次いで、上記の分散体を乾燥して乾燥体とする。
本工程では、分散体から溶媒(水)を散逸させることができれば乾燥方法は特に限定されない。
なお、凝集粒子を作製する場合には、噴霧分解法を用いて乾燥すればよい。例えば、分散体を50℃以上かつ300℃以下の雰囲気中に噴霧し、乾燥させ、粒子状乾燥体または造粒状乾燥体とする方法が挙げられる。
【0086】
次いで、上記乾燥体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上かつ1000℃以下、好ましくは800℃以上かつ900℃以下の範囲内の温度にて焼成する。
この非酸化性雰囲気としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。
【0087】
ここで、乾燥体の焼成温度を700℃以上かつ1000℃以下とした理由は、焼成温度が700℃未満では、乾燥体に含まれる有機化合物の分解・反応が充分に進行せず、有機化合物の炭化が不充分なものとなり、生成する分解・反応物が高抵抗の有機物分解物となるので好ましくないからである。一方、焼成温度が1000℃を超えると、乾燥体を構成する成分、例えば、リチウム(Li)が蒸発して組成にずれが生じるだけでなく、この乾燥体にて粒成長が促進し、高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となるので好ましくないからである。
【0088】
焼成時間は、有機化合物が充分に炭化される時間であればよく、特に制限されないが、0.1時間以上かつ10時間以下とする。
【0089】
この焼成により、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で造粒された造粒体が得られる。
【0090】
次いで、得られた造粒体と酸化物系電極活物質を所定の比率で混合し、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を得る。
【0091】
造粒体と酸化物系電極活物質の混合方法は、特に限定されないが、造粒体と酸化物系電極活物質を均一に混合できる装置を用いることが好ましい。このような装置としては、例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー等が挙げられる。
【0092】
[リチウムイオン二次電池用電極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、その電極集電体上に形成された電極合剤層(電極)と、を備え、電極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有するものである。
すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いて、電極集電体の一主面に電極合剤層が形成されてなるものである。
【0093】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を用いて、電極集電体の一主面に電極を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合してなる、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを調製する。
【0094】
「結着剤」
結着剤としては、水系で使用できれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、酢酸ビニル共重合体や、スチレン・ブタジエン系ラテックス、アクリル系ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス、フッ素系ラテックス、シリコン系ラテックス等の群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0095】
リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストにおける結着剤の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上かつ6質量%以下であることがより好ましい。
【0096】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素の群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0097】
リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストにおける導電助剤の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と結着剤と導電助剤の合計質量を100質量%とした場合に、1質量%以上かつ15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上かつ10質量%以下であることがより好ましい。
【0098】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を含むリチウムイオン二次電池用電極材料ペーストでは、集電体等の被塗布物に対して塗布し易くするために、溶媒を適宜添加してもよい。
主な溶媒は水であるが、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料の特性を失わない範囲内で、アルコール類やグリコール類、エーテル類等の水系溶媒が含有されていてもよい。
【0099】
リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量部とした場合に、60質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、80質量部以上かつ300質量部以下であることがより好ましい。
上記の範囲で溶媒が含有されることにより、電極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを得ることができる。
【0100】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等の混錬機を用いた方法が挙げられる。
【0101】
次いで、リチウムイオン二次電池用電極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、この塗膜を乾燥し、次いで、加圧圧着することにより、電極集電体の一主面に電極合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。
【0102】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極によれば、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極材料を含有しているため、組成のムラがないリチウムイオン二次電池用電極を提供することができる。
【0103】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極からなる正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備えてなる。
【0104】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、電解液、セパレータ等は特に限定されない。
負極としては、例えば、金属Li、炭素材料、Li合金、LiTi12等の負極材料を用いることができる。
また、電解液とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0105】
電解液は、例えば、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解することで作製することができる。
セパレータとしては、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
【0106】
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を用いたため、高レートでの充放電特性に優れる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
[製造例1]
「電極活物質(LiFePO)の製造」
Li源として水酸化リチウム(LiOH)、P源としてリン酸二水素アンモニウム(NHPO)、Fe源(A源)として硫酸鉄(II)七水和物(FeSO・7HO)を用いた。
水に、水酸化リチウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸鉄(II)七水和物を、質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように、かつ全体量が200mLになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に収容し、170℃にて12時間、水熱合成を行った。
この反応後、反応液を室温(25℃)になるまで冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物(反応生成物)を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように純水を添加しつつ、含水率を30%に保持し、ケーキ状物質とした。
このケーキ状物質を若干量採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて得られた粉末を、X線回折測定(X線回折装置:RINT2000、RIGAKU社製)により分析したところ、単相のLiFePOが形成されていることが確認された。
【0109】
[製造例2]
「電極活物質(LiMnPO)の製造」
A源として、硫酸鉄(II)七水和物(FeSO・7HO)の代わりに硫酸マンガン(II)一水和物(MnSO・HO)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、LiMnPOを合成した。
【0110】
[製造例3]
「電極活物質(Li[Fe0.25Mn0.75]PO)の製造」
A源として、FeSO・7HOとMnSO・HOの混合物(FeSO・7HOとMnSO・HO=25:75(質量比))を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、Li[Fe0.25Mn0.75]POを合成した。
【0111】
[製造例4]
「電極活物質(LiNi0.5Co0.3Mn0.2)の製造」
Li源として水酸化リチウム(LiOH)、Mn源として硫酸マンガン(II)一水和物(MnSO・HO)、Ni源として酢酸ニッケル(II)四水和物(Ni(CHCOO)・4HO)、Co源として酢酸コバルト(II)四水和物(Co(CHCOO)・4HO)を用いた。
水に、水酸化リチウム、硫酸マンガン(II)一水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物、酢酸コバルト(II)四水和物、グリコール酸を、LiNi0.5Co0.3Mn0.2を形成するために適した所定の比率となるように、かつ全体量が200mLになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を酢酸によりpH1.8に調整した後、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に収容した。
次いで、混合物を収容した耐圧密閉容器をオイルバスに浸漬し、80℃にて5時間かけて水を蒸発させた。
次いで、600℃にて5時間、混合物を焼成した後、乳鉢にて焼成物を粉砕し、さらに、900℃にて5時間、焼成物を焼成し、LiNi0.5Co0.3Mn0.2を得た。
【0112】
[製造例5]
「電極活物質(LiNiO)の製造
Li源として水酸化リチウム(LiOH)、Ni源として水酸化ニッケル(I)(NiOH)を用いた。
水酸化リチウム、水酸化ニッケル(I)を、LiNiOを形成するために適した所定の比率となるように混合した。
次いで、この混合物を600℃にて5時間焼成した後、乳鉢にて焼成物を粉砕し、さらに、750℃にて5時間、焼成物を焼成し、LiNiOを得た。
【0113】
[実施例1]
製造例1で得られたLiFePO(電極活物質)20gと、有機化合物としてのポリエチレングリコール0.6gと、純水と、媒体粒子としての直径0.1mmのジルコニアボールとを加えて、サンドミルにて分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。この際、スラリー質量を分母とし、電極活物質の質量を分子とした場合の割合が0.5となるように純水量を調整した。また、サンドミルによる分散処理後のスラリーの粒度分布におけるメディアン径を100nmに調整し、サンドミルによる分散処理前の結晶子径91nmから算出されるメディアン径(nm)/結晶子径(nm)が1.10となる点をサンドミル分散の終点とした。
次いで、得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて、乾燥出口温度が60℃となる温度で乾燥し、造粒した。
その後、得られた造粒体を、窒素(N)雰囲気下、昇温速度20℃/分で昇温し、温度770℃にて4時間、熱処理し、炭素質被覆電極活物質の一次粒子で造粒された造粒体を得た。
次いで、この造粒体3gに、製造例4で得られたLiNi0.5Co0.3Mn0.27gを加えて、攪拌混合することにより、実施例1の電極材料を得た。
【0114】
[実施例2]
実施例1の造粒体1gに、LiNi0.5Co0.3Mn0.29gを加えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電極材料を得た。
【0115】
[実施例3]
実施例1の造粒体3gに、LiNi0.5Co0.3Mn0.2の替わりに、LiNiO7gを加えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の電極材料を得た。
【0116】
[実施例4]
ポリエチレングリコールの替わりに、グルコース1.2gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の造粒体を得た。
この造粒体4gに、製造例4で得られたLiNi0.5Co0.3Mn0.26gを加えて、攪拌混合することにより、実施例4の電極材料を得た。
【0117】
[実施例5]
LiFePOの替わりに、製造例2で得られたLiMnPO19gと、炭化触媒として、LiFePO1gに相当する炭酸Li−酢酸鉄(II)−リン酸(Li:Fe:P=1:1:1(質量比))混合溶液とを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の電極材料を得た。
【0118】
[実施例6]
LiFePOの替わりに、製造例3で得られたLi[Fe0.25Mn0.75]POを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例6の電極材料を得た。
【0119】
[比較例1]
ポリエチレングリコール量を2.19gとし、造粒体の熱処理温度を850℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の電極材料を得た。
【0120】
[比較例2]
製造例4で得られたLiNi0.5Co0.3Mn0.2を、比較例2の電極材料とした。
【0121】
[比較例3]
スプレードライヤーの乾燥出口温度を120℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の電極材料を得た。
【0122】
[比較例4]
有機化合物を、スプレードライヤーの乾燥後に粉末として攪拌しながら加えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の電極材料を得た。
【0123】
[比較例5]
ポリエチレングリコール量を0.25gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の電極材料を得た。
【0124】
[リチウムイオン電池の作製]
N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例5で得られた電極材料と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、電極材料:AB:PVdF=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
次いで、この正極材料ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した後、所定の密度となるように正極合剤層を圧着して正極用電極板とした。この際、肉眼で電極板表面のムラの有無を確認した。
得られた電極板を、成形機を用いて、縦3cm×横3cmの正方形状(電極面積9cm)の正極合剤層とタブしろからなる板状に打ち抜いた。
次いで、その電極板のタブしろに電極タブを溶接して、試験電極(正極)を作製した。
【0125】
純水に、負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンラテックス(SBR)と、粘度調整材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、ペーストの質量比で、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1となるように加えて、これらを混合し、負極材料ペースト(負極用)を調製した。
次いで、この負極材料ペースト(負極用)を、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に負極合剤層を形成した。負極合剤層の目付量が4.4mg/cmとなるよう塗布厚を調整した。
得られた電極板を、成形機を用いて、縦3cm×横3cmの正方形状(電極面積9cm)の負極合剤層とタブしろからなる板状に打ち抜いた。
次いで、その電極板のタブしろに電極タブを溶接して、試験電極(負極)を作製した。
【0126】
作製した正極と負極とを、多孔質ポリプロピレンからなる厚さ20μmのセパレータを介して対向させ、非水電解液(非水電解質溶液)としての1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)溶液0.5mLに浸漬した後、ラミネートフィルムにて封止して、リチウムイオン二次電池を作製した。
LiPF溶液としては、炭酸エチレンと、炭酸エチルメチルとを、体積比で1:1となるように混合し、添加剤として炭酸ビニレン2%を加えたものを用いた。
【0127】
[電極材料の評価]
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例5で得られた電極材料、並びに、これらの電極材料が含む成分について評価した。評価方法は、以下の通りである。結果を表1に示す。
【0128】
(1)電極活物質の結晶子径
電極活物質の結晶子径を、X線回折測定(X線回折装置:RINT2000(商品名)、RIGAKU製)により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、および回折角(2θ)を用いて、シェラーの式により算出した。
【0129】
(2)炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径
炭素質被覆電極活物質の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、無作為に測定した200個以上の一次粒子の粒子径を個数平均することで求めた。
【0130】
(3)電極材料の炭素含有量
炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて、電極材料の炭素量(質量%)を測定した。
【0131】
(4)電極材料の比表面積
比表面積計(商品名:BELSORP−mini、マイクロトラック・ベル社製)を用いて、電極材料の比表面積を、窒素(N)吸着によるBET法により測定した。
【0132】
(5)電極材料のNMP吸油量
あまに油の代わりにN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用いた点を除いて、日本工業規格 JIS 5101−13−1:2004「顔料試験方法−第13部:吸油量−第1節:精製あまに油法」に準拠して、電極材料のNMP吸油量を測定した。
【0133】
(6)電極材料の圧粉体抵抗
電極材料を金型に投入して50MPaの圧力にて成形し、試料を作製した。低抵抗率計(三菱化学株式会社製、商品名:Loresta−GP)を用いて、25℃にて四端子法により、試料の粉体抵抗値(Ω・cm)を測定した。
【0134】
(7)造粒体(二次粒子)の平均粒子径
ポリビニルピロリドン0.1質量%を水に溶解した分散媒に、電極材料を懸濁させて、レーザー回折式粒度分析装置(商品名:LA−950V2、堀場製作所社製)を用いて、造粒体(二次粒子)の平均粒子径を測定した。
【0135】
[電極およびリチウムイオン二次電池の評価]
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例5で得られたリチウムイオン二次電池を用いて、放電容量と充放電の直流抵抗(DCR)を測定した。評価方法は、以下の通りである。結果を表1に示す。
【0136】
(1)放電容量
環境温度25℃にて、カットオフ電圧を2.5V〜4.6Vとし、充電電流を1C、放電電流を3Cとして、定電流充放電により、リチウムイオン二次電池の放電容量を測定した。
【0137】
(2)充放電の直流抵抗(DCR)
リチウムイオン二次電池について、環境温度0℃にて0.1Cの電流で5時間充電し、充電深度を調整した(充電率(SOC)50%)。SOC50%に調整した電池に、第1サイクルとして「1C充電を10秒→休止10分→1C放電を10秒→休止10分」、第2サイクルとして「3C充電を10秒→休止10分→3C放電を10秒→休止10分」、第3サイクルとして「5C充電を10秒→休止10分→5C放電を10秒→休止10分」、第4サイクルとして「10C充電を10秒→休止10分→10C放電を10秒→休止10分」を、この順で実施し、その際の各充電、放電時10秒後の電圧を測定した。各電流値を横軸に、10秒後の電圧を縦軸にプロットして近似直線を描き、近似直線における傾きをそれぞれ充電時の直流抵抗(充電DCR)、放電時の直流抵抗(放電DCR)とした。
【0138】
(3)電極の状態
電極をデジタルマイクロスコープ(商品名:VHX−6000、キーエンス社製)を用いて観察を行った。電極に塗布されている膜に対し、膜厚の20%以上の凹凸がある膜を×、凹凸が膜厚の20%未満の膜を〇と評価した。
【0139】
【表1】
【0140】
表1の結果から、実施例1〜実施例6のリチウムイオン二次電池は、電極ムラが少なく、充放電の直流抵抗が低く、放電容量が大きいことが確認された。また、実施例1〜実施例6で得られた正極は、初期特性に優れ、かつムラの少なさから、充放電を繰り返しても、安全性に優れることが確認された。
一方、表1の結果から、比較例1〜比較例5のリチウムイオン二次電池は、充放電の直流抵抗が高く、放電容量が小さいことが確認された。また、比較例1〜比較例5で得られた正極は、充放電を繰り返すと、ムラがある状態であるため、局所的な負荷が生じやすく、安全性が劣化することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Yおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされるオリビン系電極活物質および該オリビン系電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体と、酸化物系電極活物質とが混合されてなるリチウムイオン二次電池用電極材料であって、一次粒子径の平均粒子径が30nm以上かつ500nm以下、造粒体の平均粒子径が0.5μm以上かつ60μm以下であり、造粒体の引張強さσが4MPa以上、造粒体の引張強さσと造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される造粒体の脆弱性が0.2以上であるため、このリチウムイオン二次電池用電極材料を用いて作製したリチウムイオン二次電池用電極は、組成のムラがない。したがって、このリチウムイオン二次電池用電極を備えたリチウムイオン二次電池は、充放電の直流抵抗が低く、放電容量が大きくなるため、より高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性および高速充放電特性が期待される次世代の二次電池に対しても適用することが可能であり、次世代の二次電池の場合、その効果は非常に大きなものである。
【要約】
【課題】組成のムラがない電極を作製することができるリチウムイオン二次電池用電極材料、そのリチウムイオン二次電池用電極材料を含有するリチウムイオン二次電池用電極およびそのリチウムイオン二次電池用電極を備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、一般式LiPOで表わされるオリビン系電極活物質および該オリビン系電極活物質の表面を被覆する炭素質被膜を含む一次粒子で造粒された造粒体と、酸化物系電極活物質とが混合されてなるリチウムイオン二次電池用電極材料であって、一次粒子径の平均粒子径が30nm以上かつ500nm以下、造粒体の平均粒子径が0.5μm以上かつ60μm以下であり、造粒体の引張強さσが4MPa以上、造粒体の引張強さσと造粒体の圧縮定数bの比(σ/b)で定義される造粒体の脆弱性が0.2以上である。
【選択図】なし