特許第6443584号(P6443584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443584
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20181217BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20181217BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20181217BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20181217BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20181217BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20181217BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20181217BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/057 170
   C22C28/00 A
   C22C38/00 303D
   B22F1/00 B
   B22F1/00 Y
   B22F3/00 F
   B22F3/02 Z
   B22F3/24 K
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-511502(P2018-511502)
(86)(22)【出願日】2017年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2017034730
(87)【国際公開番号】WO2018062174
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2018年3月1日
(31)【優先権主張番号】特願2016-190669(P2016-190669)
(32)【優先日】2016年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
(72)【発明者】
【氏名】三野 修嗣
【審査官】 森 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−234971(JP,A)
【文献】 特開2016−129217(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/133071(WO,A1)
【文献】 特開2004−027313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F41/02
H01F1/057
B22F1/00
B22F3/00
B22F3/02
B22F3/24
C22C28/00
C22C38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−T−B系焼結磁石素材(Rは希土類元素、TはFe又はFeとCo)を用意する工程と、
Pr−Ga(PrがPr−Ga合金全体の65〜97質量%であり、Prの20質量%以下をNdで置換することができ、Prの30質量%以下をDy及び/又はTbで置換することができる。GaはPr−Ga合金全体の3質量%〜35質量%であり、Gaの50質量%以下をCuで置換することができる。不可避的不純物を含んでいても良い。)合金の粉末から形成した拡散源粉末を用意する工程と、
前記R−T−B系焼結磁石素材の表面の塗布領域に粘着剤を塗布する塗布工程と、
前記粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材の表面の前記塗布領域に前記拡散源粉末を付着させる付着工程と、
前記拡散源粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材を、前記R−T−B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で熱処理して、前記拡散源粉末に含まれるGaを前記R−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散する拡散工程と、
を含み、
前記粘着剤の層の厚さは、10μm以上100μm以下であり、
前記付着工程において、前記拡散源粉末に含まれるGaの量が前記R−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.1〜1.0%の範囲内になるように前記拡散源粉末を前記塗布領域に付着させ、前記塗布領域に付着した前記拡散源粉末は、(1)前記粘着剤の表面に接触している複数の粒子と、(2)前記R−T−B系焼結磁石素材の表面に前記粘着剤のみを介して付着している複数の粒子と、(3)粘着性を有する材料を介さずに前記複数の粒子のうちの1個又は複数個の粒子に結合している他の粒子とによって構成されている、R−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R−T−B系焼結磁石素材は、
R:27.5〜35.0質量%(Rは希土類元素うちの少なくとも一種であり、Ndを必ず含む)、
B:0.80〜0.99質量%、
Ga:0〜0.8質量%、
M:0〜2質量%(MはCu、Al、Nb、Zrの少なくとも一種)、
を含有し、
残部T(TはFe又はFeとCo)及び不可避的不純物からなり、かつ、[T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量であるするとき、
[T]/55.85>14[B]/10.8
の不等式を満足する組成を有する、請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記Pr−Ga合金のNd含有量は不可避的不純物含有量以下である、請求項1又は2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記付着工程は、前記R−T−B系焼結磁石素材の表面において法線方向が異なる複数の領域に対して、前記拡散源粉末を付着させる工程である、請求項1から3のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程は、真空又は不活性ガス雰囲気中、600℃超950℃以下の温度で第一の熱処理を実施する工程と、前記第一の熱処理が実施されたR−T−B系焼結磁石素材に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、前記第一の熱処理を実施する工程で実施した温度よりも低い温度でかつ、450℃以上750℃以下の温度で第二の熱処理を実施する工程と、を含む、請求項1から4のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFe又はFeとCo)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
214B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、主としてR214B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR214B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持ち、R−T−B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
高温では、R−T−B系焼結磁石の保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR−T−B系焼結磁石では、高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R−T−B系焼結磁石において、R214B化合物中のRに含まれる軽希土類元素RL(例えば、NdやPr)の一部を重希土類元素RH(例えば、DyやTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。RHの置換量の増加に伴い、HcJは向上する。
【0006】
しかし、R214B化合物中のRLをRHで置換すると、R−T−B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)が低下する。また、特にTb、DyなどのRHは、資源存在量が少ないうえ、産出地が限定されているなどの理由から、供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、RHをできるだけ使用することなく、HcJを向上させることが求められている。
【0007】
一方、Brを低下させないように、より少ない重希土類元素RHによってR−T−B系焼結磁石のHcJを向上させることが検討されている。例えば、重希土類元素RHのフッ化物又は酸化物や、各種の金属M又はM合金をそれぞれ単独、又は混合して焼結磁石の表面に存在させ、その状態で熱処理することにより、HcJ向上に寄与する重希土類元素RHを磁石内に拡散させることが提案されている。例えば、特許文献1は、R酸化物、Rフッ化物、R酸フッ化物の粉末をR−T−B系焼結磁石の表面に接触させて熱処理を行うことによりそれらを磁石内に拡散させる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/043348号
【特許文献2】国際公開第2016/133071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、RH化合物の粉末を含む混合粉末を磁石表面の全体(磁石全面)に存在させて熱処理を行う方法が開示されている。この方法の具体例によると、上記粉末を水又は有機溶媒に分散させたスラリーに磁石を浸漬して引き上げている(浸漬引上げ法)。浸漬引上げ法の場合、スラリーから引き上げられた磁石に対して熱風乾燥又は自然乾燥が行われる。スラリーに磁石を浸漬する代わりに、スラリーを磁石にスプレー塗布することも開示されている(スプレー塗布法)。
【0010】
これらの方法では、磁石全面にスラリーを塗布できる。このため、磁石全面から重希土類元素RHを磁石内に導入することが可能であり、熱処理後のHcJをより大きく向上させることができる。しかしながら、浸漬引上げ法では、どうしても重力によってスラリーが磁石下部に偏ってしまう。また、スプレー塗布法では、表面張力によって磁石端部の塗布厚さが厚くなる。いずれの方法もRH化合物を磁石表面に均一に存在させるのが困難である。
【0011】
粘度の低いスラリーを用いて塗布層を薄くすると、塗布層の厚さの不均一性をある程度改善することができる。しかし、スラリーの塗布量が少なくなるため、熱処理後のHcJを大きく向上させることができなくなってしまう。スラリーの塗布量を多くするために複数回の塗布を行うと、生産効率が非常に低下してしまう。特にスプレー塗布法を採用した場合、スプレー塗布装置の内壁面にもスラリーが塗布されてしまい、スラリーの利用歩留まりが低くなる。その結果、希少資源である重希土類元素RHを無駄に消費してしまうという問題がある。
【0012】
さらに、特許文献2には、RHを使用することなくHcJを向上させる方法として、R−T−B系焼結磁石の表面にPr−Ga合金の粉末を接触させて熱処理を行うことによりそれらを磁石内に拡散させる方法が開示されている。この方法によれば、RHを使用することなく、R−T−B系焼結磁石のHcJを向上させることができる。しかしながら、これらの粉末をR−T−B系焼結磁石表面に均一に存在させる方法については十分に確立されているとは言い難い。
【0013】
本開示は、R−T−B系焼結磁石にPr−Ga合金中の元素を拡散させてHcJを向上させるためにPr−Ga合金を含む粉末粒子の層を磁石表面に形成するとき、これらの粉末粒子をR−T−B系焼結磁石の表面に均一に無駄なく効率的に塗布することができ、磁石表面からPr−Ga合金を内部に拡散させてHcJを大きく向上させることができる新しい方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、実施形態において、R−T−B系焼結磁石素材(Rは希土類元素、TはFe又はFeとCo)を用意する工程と、Pr−Ga(PrがPr−Ga合金全体の65〜97質量%であり、Prの20質量%以下をNdで置換することができ、Prの30質量%以下をDy及び/又はTbで置換することができる。GaはPr−Ga合金全体の3質量%〜35質量%であり、Gaの50質量%以下をCuで置換することができる。不可避的不純物を含んでいても良い。)合金の粉末から形成した粒度調整粉末を用意する工程と、前記R−T−B系焼結磁石素材の表面の塗布領域に粘着剤を塗布する塗布工程と、前記粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材の表面の前記塗布領域に前記粒度調整粉末を付着させる付着工程と、前記粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材を、前記R−T−B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で熱処理する熱処理工程とを含み、前記付着工程は、前記R−T−B系焼結磁石素材の表面に前記粒度調整粉末を1層以上3層以下付着させる工程であり、前記R−T−B系焼結磁石素材の前記表面に付着した前記粒度調整粉末に含まれるGaの量を前記R−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.10〜1.0%の範囲内にする。
【0015】
ある実施形態において、前記R−T−B系焼結磁石素材は、
R:27.5〜35.0質量%(Rは希土類元素うちの少なくとも一種であり、Ndを必ず含む)、
B:0.80〜0.99質量%、
Ga:0〜0.8質量%、
M:0〜2質量%(MはCu、Al、Nb、Zrの少なくとも一種)、
を含有し、
残部T(TはFe又はFeとCo)及び不可避的不純物からなり、かつ、[T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量であるするとき、
[T]/55.85>14[B]/10.8
の不等式を満足する組成を有する。
【0016】
ある実施形態において、前記Pr−Ga合金のNd含有量は不可避的不純物含有量以下である。
【0017】
ある実施形態において、前記粒度調整粉末は、バインダと共に造粒された粒度調整粉末である。
【0018】
ある実施形態において、前記付着工程は、前記R−T−B系焼結磁石素材の表面において法線方向が異なる複数の領域に対して、前記粒度調整粉末を付着させる工程である。
【0019】
ある実施形態において、前記熱処理工程は、真空又は不活性ガス雰囲気中、600℃超950℃以下の温度で第一の熱処理を実施する工程と、前記第一の熱処理が実施されたR−T−B系焼結磁石素材に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、前記第一の熱処理を実施する工程で実施した温度よりも低い温度でかつ、450℃以上750℃以下の温度で第二の熱処理を実施する工程と、を含む。
【0020】
本開示のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、実施形態において、R−T−B系焼結磁石素材(Rは希土類元素、TはFe又はFeとCo)を用意する工程と、Pr−Ga(PrがPr−Ga合金全体の65〜97質量%であり、Prの20質量%以下をNdで置換することができ、Prの30質量%以下をDy及び/又はTbで置換することができる。GaはPr−Ga合金全体の3質量%〜35質量%であり、Gaの50質量%以下をCuで置換することができる。不可避的不純物を含んでいても良い。)合金の粉末から形成した拡散源粉末を用意する工程と、前記R−T−B系焼結磁石素材の表面の塗布領域に粘着剤を塗布する塗布工程と、前記粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材の表面の前記塗布領域に前記拡散源粉末を付着させる付着工程と、前記拡散源粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材を、前記R−T−B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で熱処理して、前記拡散源粉末に含まれるGaを前記R−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散する拡散工程とを含み、前記付着工程において、前記塗布領域に付着した前記拡散源粉末は、(1)前記粘着剤の表面に接触している複数の粒子と、(2)前記R−T−B系焼結磁石素材の表面に前記粘着剤のみを介して付着している複数の粒子と、(3)粘着性を有する材料を介さずに前記複数の粒子のうちの1個又は複数個の粒子に結合している他の粒子とによって構成されている。
【0021】
ある実施形態において前記付着工程において、前記拡散源粉末に含まれるGaの量が前記R−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.1〜1.0%の範囲内になるように前記拡散源粉末を前記塗布領域に付着させる。
【0022】
ある実施形態において前記粘着層の厚さは、10μm以上100μm以下である。
【発明の効果】
【0023】
本開示の実施形態によれば、R−T−B系焼結磁石素材にPr−Ga合金中の元素を拡散させてHcJを向上させるために、Pr−Ga合金を含む粉末粒子の層をR−T−B系焼結磁石素材の表面に均一に無駄なく効率的に塗布することができる。また、希少資源である重希土類元素RHの使用量を極力少なくして、R−T−B系焼結磁石のHcJを向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】用意されたR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。
図1B】磁石表面の一部に粘着層20が形成された状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。
図1C】粒度調整粉末が付着された状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。
図1D】本発明における(1)〜(3)の構成を例示的に示す説明図である。
図1E】比較例として(1)〜(3)以外の構成を含む場合を例示的に示す説明図である。
図2】(a)は粒度調整粉末が付着した状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図であり、(b)は粒度調整粉末が付着した状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部の表面を上から見た図である。
図3】(a)は粒度調整粉末が付着した状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図であり、(b)は粒度調整粉末が付着した状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部の表面を上から見た図である。
図4】R−T−B系焼結磁石素材100上における粒度調整粉末の層厚を測定した位置を示す斜視図である。
図5】流動浸漬法を行う処理容器を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示によるR−T−B系焼結磁石の製造方法の例示的な実施形態は、
1.R−T−B系焼結磁石素材(Rは希土類元素、TはFe又はFeとCo)を用意する工程、
2.Pr−Ga(PrがPr−Ga合金全体の65〜97質量%であり、Prの20質量%以下をNdで置換することができ、Prの30質量%以下をDy及び/又はTbで置換することができる。GaはPr−Ga合金全体の3質量%〜35質量%であり、Gaの50質量%以下をCuで置換することができる。不可避的不純物を含んでいても良い。)の粉末から形成した拡散源粉末(以下、「粒度調整粉末」と記載する場合がある)を用意する工程、
3.R−T−B系焼結磁石素材の表面の塗布領域(磁石表面の全体である必要は無い)に粘着剤を塗布する塗布工程、
4.粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材の表面の塗布領域に粒度調整粉末を付着させる付着工程、及び
5.粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材を、R−T−B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で熱処理して、粒度調整粉末に含まれるPr−Ga合金をR−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散する拡散工程を含む。
【0026】
また、前記付着工程は、R−T−B系焼結磁石素材の表面に粒度調整粉末を1層以上3層以下付着させる工程であり、R−T−B系焼結磁石素材の表面に付着した粒度調整粉末に含まれるGaの量をR−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.10〜1.0%の範囲内にする。
【0027】
図1Aは、本開示によるR−T−B系焼結磁石の製造方法で使用され得るR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。図面には、R−T−B系焼結磁石素材100の上面100a、及び側面100b、100cが示されている。本開示の製造方法に用いられるR−T−B系焼結磁石素材の形状及びサイズは、図示されているR−T−B系焼結磁石素材100の形状及びサイズに限定されない。図示されているR−T−B系焼結磁石素材100の上面100a、及び側面100b、100cは平坦であるが、R−T−B系焼結磁石素材100の表面は凹凸又は段差を有していても良いし、湾曲していてもよい。
【0028】
図1Bは、R−T−B系焼結磁石素材100の表面の一部(塗布領域)に粘着層20が形成された状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。粘着層20は、R−T−B系焼結磁石素材100の表面の全体に形成されても良い。
【0029】
図1Cは、粒度調整粉末が付着された状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。R−T−B系焼結磁石素材100の表面に位置する粒度調整粉末を構成する粉末粒子30は、塗布領域を覆うように付着されて、粒度調整粉末の層を形成している。本開示のR−T−B系焼結磁石の製造方法によれば、R−T−B系焼結磁石素材100の表面において法線方向が異なる複数の領域(例えば上面100aと側面100b)に対しても、粒度調整粉末を、R−T−B系焼結磁石素材100の向きを変えることなく、一つの塗布工程で簡単に付着させることができる。粒度調整粉末を、R−T−B系焼結磁石素材100の全面に均一に付着させることも容易である。
【0030】
図1Cに示される例において、R−T−B系焼結磁石素材100の表面に付着した粒度調整粉末の層厚は、粒度調整粉末を構成する粉末粒子の粒度程度である。このような粒度調整粉末が付着した状態のR−T−B系焼結磁石素材100に対して拡散熱処理を行うと、粒度調整粉末に含まれるPr−Ga合金をR−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に無駄なく効率的に拡散することができる。
【0031】
本開示の実施形態によれば、付着工程において塗布領域に付着した粒度調整粉末(拡散源粉末)は、(1)粘着層20の表面に接触している複数の粒子と、(2)R−T−B系焼結磁石素材100の表面に粘着層20のみを介して付着している複数の粒子と、(3)粘着性を有する材料を介さずに前記複数の粒子のうちの1個又は複数個の粒子に結合している他の粒子とによって構成される。なお、前記(1)〜(3)の全てが不可欠ではなく、塗布領域に付着した粒度調整粉末は、(1)及び(2)のみ又は(2)のみで構成されていてもよい。
【0032】
粒度調整粉末の前記(1)〜(3)によって構成される領域は、塗布領域の全体を占める必要はなく、塗布領域全体の80%以上が前記(1)〜(3)によって構成されていればよい。より均一に粒度調整粉末をR−T−B系焼結磁石素材に付着させるには、粒度調整粉末が前記(1)〜(3)によって構成される塗布領域は塗布領域全体の90%以上であることが好ましく、最も好ましくは、塗布領域全体が前記(1)〜(3)によって構成される。
【0033】
図1Dは、本発明における前記(1)〜(3)の構成を例示的に示す説明図である。図1Dにおいて、(1)粘着層20の表面に接触している粉末粒子を「二重丸」((1)の構成のみに該当する場合)で表した粉末粒子で示し、(2)R−T−B系焼結磁石素材100の表面に粘着層20のみを介して付着している粉末粒子を「黒丸」で表した粉末粒子で示し、(3)粘着性を有する材料を介さずに複数の粒子のうちの1個又は複数個の粒子に結合しているその他の粉末粒子を「星印が入った丸」で表した粉末粒子で示し、(1)及び(2)の両方に該当する粉末粒子を「白丸」で表した粉末粒子で示す。(1)は、粉末粒子30の一部が粘着層20の表面に接していれば該当し、(2)は粉末粒子30とR−T−B系焼結磁石素材表面との間に粘着剤以外の他の粉末粒子等が存在しなければ該当し、(3)は粉末粒子30に粘着層20が接していなければ該当する。図1Dに示すように、付着工程において塗布領域に付着した粒度調整粉末を(1)〜(3)によって構成することにより、R−T−B系焼結磁石素材表面に1層程度(1層以上3層以下)付着させることができる。
【0034】
これに対し、図1Eは、比較例として前記(1)〜(3)以外の構成を含む場合を例示的に示す説明図である。(1)〜(3)のいずれも該当しない粉末粒子を「×」で表した粉末粒子に示す。図1Eに示すように、(1)〜(3)以外の構成を含むことにより、粒度調整粉末がR−T−B系焼結磁石素材表面に何層も形成されている。
【0035】
本開示の実施形態によれば、再現性良く、同じ量の粉末を磁石表面に付着することができる。すなわち、図1C及び図1Dに示される状態で粒度調整粉末が磁石表面に付着された後は、粒度調整粉末を更に磁石表面の塗布領域に供給して続けたとしても、粒度調整粉末を構成する粒子は、塗布領域にほとんど付着しない。このため、粒度調整粉末の付着量、ひいては元素の拡散量を制御しやすい。
【0036】
本開示の実施形態によれば、粘着層20の厚さは、10μm以上100μm以下である。
【0037】
本開示のR−T−B系焼結磁石の製造方法において重要な点の一つは、粒度調整粉末の粒度を制御することによってR−T−B系焼結磁石素材に拡散させるGaのR−T−B系焼結磁石素材に対する質量比率(以下、単に「Ga量」と称する)を制御することにある。この粒度は、粒度調整粉末を構成する粉末粒子がR−T−B系焼結磁石素材の表面の全体に配置されて1層以上3層以下の粒子層を形成したときに、磁石表面上の粒度調整粉末に含まれるGaの量がR−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.1〜1.0%の範囲内になるように設定される。ここで「1層の粒子層」とは、R−T−B系焼結磁石素材の表面に隙間なく1層付着した(最密充填で付着した)と仮定し、各粉末粒子の間、及び各粉末粒子と磁石表面との間に存在する微小な隙間は無視して考える。
【0038】
図2及び図3を参照しながら、粒度調整粉末の粒度制御によってGa量を制御できるということについて説明する。図2(a)及び図3(a)は、両方とも、粒度調整粉末が付着した状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部を模式的に示す断面図である。図2(b)及び図3(b)も、両方とも粒度調整粉末が付着した状態のR−T−B系焼結磁石素材100の一部の表面を上から見た図である。図示されている粒度調整粉末は、粒度が相対的に小さな粉末粒子31、又は粒度が相対的に大きな粉末粒子32によって構成されている。
【0039】
簡単化のため、磁石表面に付着している粉末の粒度はそれぞれ同じとする。また、粉末粒子31と粉末粒子32の単位体積当たりに含まれるGaの量(Ga濃度)は同じである。粉末粒子31及び粉末粒子32は、それぞれ、R−T−B系焼結磁石素材の表面に隙間なく1層付着した(最密充填で付着した)と仮定するが、各粉末粒子の間、及び各粉末粒子と磁石表面との間に存在する微小な隙間は無視して考える。
【0040】
図3の粉末粒子32の粒度は図2の粉末粒子31の粒度のちょうど2倍とする。したがって、1個の粉末粒子31のR−T−B系焼結磁石素材の表面における占有面積をSとすると、1個の粉末粒子32のR−T−B系焼結磁石素材の表面における占有面積は22S=4Sとなる。また、粉末粒子31に含まれるGaの量がxであれば、粉末粒子32に含まれるGaの量は23x=8xとなる。粉末粒子31のR−T−B系焼結磁石素材の表面の単位面積当たりの個数は1/S個であり、粉末粒子32の単位面積当たりの個数は1/4S個である。したがって、R−T−B系焼結磁石素材の表面の単位面積当たりのGaの量は、粉末粒子31の場合、x×1/S=x/Sであり、粉末粒子32の場合、8x×1/4S=2x/Sである。粉末粒子32を隙間なく1層だけ磁石表面に付着させることにより、R−T−B系焼結磁石素材の表面に存在するGaの量は、粉末粒子31の場合の2倍になる。
【0041】
上記の例では、粒度を2倍にすることにより、R−T−B系焼結磁石素材の表面に存在するGaの量を2倍にすることができる。この簡単化した例からわかるように、粒度調整粉末の粒度を制御することにより、R−T−B系焼結磁石素材の表面に存在するGaの量を制御できる。
【0042】
実際の粒度調整粉末の粒子の形状は完全な球形でなく、また、粒度も幅を持っている。さらに、R−T−B系焼結磁石素材の表面に付着させる粒度調整粉末の層は厳密に1層でなくてもよい。しかし、粒度調整粉末の粒度を調整することにより、R−T−B系焼結磁石素材の表面に存在するGaの量を制御できるということに変わりはない。その結果、拡散熱処理工程により、磁石表面から磁石内部に拡散するGaの量を磁石特性改善に必要な所望の範囲内に歩留まり良く制御できる。
【0043】
粒度調整粉末を構成する粉末粒子がR−T−B系焼結磁石素材の表面の全体に配置されて粒子層を形成したときに、磁石表面上の粒度調整粉末に含まれるGaの量、具体的にはGa量をR−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.10〜1.0%の範囲内になる粒度(粒度の仕様)は、実験及び/又は計算によって求めればよい。実験によって求めるには、粒度調整粉末の粒度とGa量の関係を実験によって求め、そこから所望のGa量となる粒度調整粉末の粒度(例えば、300μm以下)を求めればよい。また上述の通り、R−T−B系焼結磁石素材100の表面に付着した粒度調整粉末の層厚は、粒度調整粉末を構成する粉末粒子の粒度程度である。粒度調整粉末の組成に応じて、粒度と同じ程度の厚さの層を形成した場合に対する、粒度調整粉末を1層付着させた場合の磁石表面に存在するGaの量の割合は、実験によって求められ得る。その実験結果に基づいて、所望のGa量を有する粒度調整粉末の粒度を計算によって求めることもできる。このように実験によって得たデータに基づく計算によって粒度調整粉末の粒度を求めることができる。また、上述の図2及び図3の例について説明したような簡単化した条件のもと、計算だけで粒度を決定しても磁石表面上の粒度調整粉末に含まれるGaの量を所望の範囲に設定することも可能である。
【0044】
なお、上記の説明では、Pr−Ga合金中のGaの量に言及しているが、Prの量についても同様のことが成立する。すなわち、粒度調整粉末の粒度及び付着層の厚さ(層数)を調整することにより、磁石表面における付着層に含まれるPrの量及びGaの量の両方を制御できる。このことは、R−T−B系焼結磁石素材の内部に導入されるPrの量及びGaの量の両方を適切な範囲に制御することを可能にする。Pr−Ga合金中のPrの量は例えばR−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.5〜9.5%の範囲内にある。
【0045】
粒度調整粉末に含まれるPr及びGaの量は、粒度調整粉末の粒度だけでなく、粒度調整粉末のPr−Ga合金の組成にも依存する。従って、粒度を一定にしたまま、粒度調整粉末のPr−Ga合金の組成を変えることによっても粒度調整粉末に含まれるPr及びGaの量を調整することが可能である。しかしながら、Pr−Ga合金の組成そのものには、後述の通り効率よくHcJを向上させることのできる範囲がある。このため、本開示の方法では、粒度を調整して粒度調整粉末に含まれるGaの量を制御している。また、R−T−B系焼結磁石素材の大きさに応じて磁石表面に存在させたいPr及びGaの量も変わるが、本開示の方法によれば、その場合も粒度調整粉末の粒度を調整することによってPr及びGaの量を制御することができる。
【0046】
このように粒度が調整された粒度調整粉末によれば、後述するように、最も効率よくHcJを向上させることができる。また、粒度の管理によって再現性良くHcJの向上をはかることができる。
【0047】
好ましい実施形態では、粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材の表面の全体(磁石全面)に前記粒度調整粉末を付着させ、前記粒度調整粉末に含まれるGa量を前記R−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.10〜1.0%の範囲内にする。
【0048】
1.R−T−B系焼結磁石素材の準備
Pr−Ga合金の拡散の対象とするR−T−B系焼結磁石素材を準備する。このR−T−B系焼結磁石素材は公知のものが使用できるが、以下の組成を有するものが好ましい。
希土類元素R:27.5〜35.0質量%
B(B(ボロン)の一部はC(カーボン)で置換されていてもよい):0.80〜0.99質量%
Ga:0〜0.8質量%、
添加元素M(Al、Cu、Zr、Nbからなる群から選択された少なくとも1種):0〜2質量%
T(Feを主とする遷移金属元素であって、Coを含んでもよい)及び不可避不純物:残部
ただし、下記不等式(1)を満足する
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)
ここで、希土類元素Rは、主として軽希土類元素RL(Nd、Prから選択される少なくとも1種の元素)であるが、重希土類元素を含有していてもよい。なお、重希土類元素を含有する場合は、Dy及びTbの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0049】
また、Gaの含有量が0.8質量%を超えると、主相中のGaが増加することで主相の磁化が低下し、高いBrを得ることができない可能性がある。Gaの含有量は0.5質量%以下がより好ましい。
【0050】
上記組成のR−T−B系焼結磁石素材は、公知の任意の製造方法によって製造される。R−T−B系焼結磁石素材は焼結上がりでもよいし、切削加工や研磨加工が施されていてもよい。
【0051】
2.粒度調整粉末の準備
[拡散剤]
粒度調整粉末は、Pr−Ga合金の粉末から形成される。Pr−Ga合金の粉末は、拡散剤として機能する。
【0052】
Pr−Ga合金は、PrがPr−Ga合金全体の65〜97質量%であり、Prの20質量%以下をNdで置換することができ、Prの30質量%以下をDy及び/又はTbで置換することができる。GaはPr−Ga合金全体の3質量%〜35質量%であり、Gaの50質量%以下をCuで置換することができる。不可避的不純物を含んでいても良い。なお、本開示における「Prの20%以下をNdで置換することができ」とは、Pr−Ga合金中のPrの含有量(質量%)を100%とし、そのうち20%をNdで置換できることを意味する。例えば、Pr−Ga合金中のPrが65質量%(Gaが35質量%)であれば、Ndを13質量%まで置換することができる。すなわち、Prが52質量%、Ndが13質量%となる。Dy、Tb、Cuの場合も同様である。Pr及びGaを上記範囲内としたPr−Ga合金を本開示の組成範囲のR−T−B系焼結磁石素材に対して後述する第一の熱処理を行うことにより、Gaを、粒界を通じて磁石内部の奥深くまで拡散させることができる。本開示は、Prを主成分とするGaを含む合金を用いることを特徴とする。Prは、Nd、Dy及び/又はTbと置換することができるが、それぞれの置換量が上記範囲を超えるとPrが少なすぎるため、高いBrと高いHcJを得ることができない。好ましくは、前記Pr−Ga合金のNd含有量は不可避的不純物含有量以下(1質量%以下)である。Gaは、50%以下をCuで置換することができるが、Cuの置換量が50%を超えるとHcJが低下する可能性がある。
【0053】
Pr−Ga合金粉末の作製方法は、特に限定されない。ロール急冷法によって合金薄帯を作製し、この合金薄帯を粉砕する方法で作製してもよいし、遠心アトマイズ法、回転電極法、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法などの公知のアトマイズ法で作製してもよい。Pr−Ga合金粉末の粒度は、例えば500μm以下であり、小さいものは10μm程度である。
【0054】
発明者の検討によると、Prの代わりにNdを用いた場合はPrを用いた場合と比べて高いBrと高いHcJを得ることができない。これは、本開示の特定組成においては、PrがNdに比べて粒界相に拡散され易いからだと考えられる。言い換えると、PrはNdに比べて粒界相中への浸透力が大きいと考えられる。Ndは主相中にも浸透しやすいため、Nd−Ga合金を用いた場合はGaの一部が主相中にも拡散されると考えられる。Pr−Ga合金を用いた場合、合金段階や合金粉末の段階でGaを添加する場合に比べて、主相に拡散されるGaの量は少ないので、Brをほとんど低下させることなくHcJを向上させることができる。
【0055】
Pr−Ga合金の粉末をR−T−B系焼結磁石素材に付着させた状態で熱処理を行うことにより、Pr及びGaを主相にはほとんど拡散させずに粒界を通じて拡散させることができる。Prの存在が粒界拡散を促進する結果、磁石内部の奥深くまでPrとGaを拡散させることができる。これにより、RHの含有量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを得ることができる。
【0056】
[粒度調整]
粒度は、粒度調整粉末を構成する粉末粒子がR−T−B系焼結磁石素材の表面の全体に配置されて粒子層を形成したときに、粒度調整粉末に含まれるGaの量がR−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.10〜1.0%の範囲内になるように設定される。粒度は、上述の通り、実験によって決定すればよい。粒度を決定するための実験は、実際の製造方法に準じて行うことが好ましい。
【0057】
R−T−B系焼結磁石素材に拡散させるGaのR−T−B系焼結磁石素材に対する質量比率がゼロから増加するにつれてHcJの増加幅は大きくなる。しかし、別途行った実験から、熱処理条件など、Ga量以外の条件が同じ場合、Ga量が1.0質量%付近でHcJは飽和し、Ga量を1.0質量%よりも増加させてもHcJの増加幅は大きくならないことがわかった。すなわち、Ga量がR−T−B系焼結磁石素材の0.10〜1.0質量%となる量のPr−Ga合金をR−T−B系焼結磁石素材の表面の全体に付着させたとき、最も効率よくHcJを向上させることができる。
【0058】
R−T−B系焼結磁石素材の表面に1層程度(1層以上3層以下)付着したときに、Ga量が上記範囲になるようにすると、粒度調整によってGa量、もしくはHcJ向上度を管理できるという利点がある。最適な粒度は、粒度調整粉末に含まれるGa量にもよるが、例えば、38μm超、500μm以下である。
【0059】
好ましくは、粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材の表面の全体に粒度調整粉末を付着させる。より効率よく保磁力を向上させることができるからである。
【0060】
粒度調整粉末の粒度は篩わけすることによって調整すればよい。また、篩わけで排除される粒度調整粉末が10質量%以内であれば、その影響は少ないので、篩わけせずに用いてもよい。すなわち、粒度調整粉末の粒度は、90質量%以上が上記範囲内であることが好ましい。
【0061】
Pr−Ga合金の粉末は例えば造粒などを行うことなく単独で粒度調整が可能である。例えば、粉末粒子の形状が等軸的又は球形であれば、付着させるPr−Ga合金粉末のGa量がR−T−B系焼結磁石素材に対して質量比で0.10〜1.0%となるように粒度を調整することによって、造粒せずにそのまま用いることもできる。
【0062】
Pr−Ga合金の粉末はバインダと共に造粒することもできる。バインダと共に造粒することによって、後に説明する後加熱工程においてバインダが溶融し、粉末粒子同士が溶融したバインダによって一体化され、落ちにくくなりハンドリングしやすくなるという利点がある。
【0063】
バインダとしては、乾燥、又は混合した溶剤が除去されたときに粘着、凝集することなく、粒度調整粉末がさらさらと流動性を持てるものが好ましい。バインダの例としては、PVA(ポリビニルアルコール)などがあげられる。適宜、水などの水系溶剤や、NMP(n−メチルピロリドン)などの有機溶剤を用いて混合してもよい。溶剤は、後述する造粒の過程で蒸発し除去される。
【0064】
バインダと共に造粒する方法はどのようなものであってもよい。例えば、転動造粒法、流動層造粒法、振動造粒法、高速気流中衝撃法(ハイブリダイゼーション)、粉末とバインダを混合し、固化後解砕する方法、などがあげられる。
【0065】
本開示の実施形態において、Pr−Ga合金粉末以外の粉末(第二の粉末)がR−T−B系焼結磁石素材の表面に存在することを必ずしも排除しないが、第二の粉末がPr−Ga合金をR−T−B系焼結磁石素材の内部に拡散することを阻害しないように留意する必要がある。R−T−B系焼結磁石素材の表面に存在する粉末全体に占める「Pr−Ga合金」の粉末の質量比率は、70%以上であることが望ましい。
【0066】
このように粒度が調整された粉末を用いることにより、粒度調整粉末を構成する粉末粒子をR−T−B系焼結磁石素材の全面に均一に無駄なく効率的に付着させることができる。本開示の方法によれば、従来技術の浸漬法又はスプレー法のように、塗布膜の厚さが重力で偏ったり、表面張力で偏ったりすることがない。
【0067】
粒度調整粉末を構成する粉末粒子を、R−T−B系焼結磁石素材の表面に、より均一に存在させるためには、粉末粒子を1層程度、具体的には1層以上3層以下でR−T−B系焼結磁石素材の表面に配置することが好ましい。複数種の粉末を造粒して用いる場合は、造粒した粒度調整粉末の粒子を1層以上3層以下で存在させる。ここで「3層以下」とは、粒子が連続して3層付着するということではなく、粘着剤の厚さや個々の粒子の大きさによって部分的に3層まで粒子が付着することが許容される、ということをあらわす。粒度によってPr−Ga合金粉末の付着量をより正確に管理するためには、塗布層の厚さを粉末粒子層の1層以上2層未満にする(層厚を粒度の大きさ(最低粒度)以上、粒度の大きさ(最低粒度)の2倍未満にする)こと、すなわち、粒度調整粉末同士が粒度調整粉末中のバインダによって接着されて2層以上に積層されないことが好ましい。最低粒度とは、篩いわけをした場合(例えば、38μm超、300μm以下)における個々の粒子の最も小さい粒度(例えば、38μm)のことである。なお、上述したように、篩わけで排除される粒度調整粉末が10質量%以内であれば、その影響は少ないので、篩わけせずに用いてもよいが、その場合も塗布層の厚さは、篩い分けをする場合(篩いわけで排除される粒度調整粉が10質量%超になったと仮定した場合)における最低粒度(例えば、38μm)以上、最低粒度の2倍(例えば、76μm)以下にすることが好ましい。
【0068】
3.粘着剤塗布工程
粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、PVP(ポリビニルピロリドン)などがあげられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR−T−B系焼結磁石素材を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60〜100℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。
【0069】
R−T−B系焼結磁石素材表面に粘着剤を塗布する方法は、どのようなものでも良い。塗布の具体例としては、スプレー法、浸漬法、ディスペンサーによる塗布などがあげられる。
【0070】
R−T−B系焼結磁石素材の表面に粒度調整粉末1層程度付着させるために、粘着剤の塗布量は1.02×10-5〜5.10×10-5g/mm2であることが好ましい。
【0071】
4.R−T−B系焼結磁石素材の表面に粒度調整粉末を付着させる工程
ある好ましい態様では、R−T−B系焼結磁石素材の表面全体(全面)に粘着剤が塗布されている。R−T−B系焼結磁石素材の表面全体ではなく、一部に付着させてもよい。特にR−T−B系焼結磁石素材の厚さが薄い(例えば2mm程度)場合は、R−T−B系焼結磁石素材の表面のうち、一番面積の広い一つの表面に粒度調整粉末を付着させるだけで磁石全体にPr及びGaを拡散させることができ、HcJを向上させることができる場合がある。
【0072】
本開示の製造方法によれば、R−T−B系焼結磁石素材の表面において法線方向が異なる複数の領域に対して、一度の工程で粒度調整粉末を1層以上3層以下付着させることができる。
【0073】
本発明は、粒度調整粉末を1層程度(1層以上3層以下)付着させたいため、粘着層の厚さは、粒度調整粉末の最低粒径程度が好ましい。具体的には、粘着層の厚さは、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0074】
R−T−B系焼結磁石素材に粒度調整粉末を付着させる方法は、どのようなものでも良い。付着方法には、例えば、後述する流動浸漬法を用いることで粒度調整粉末を粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材に付着させる方法、粒度調整粉末を収容した処理容器内に粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材をディッピングする方法、粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材に粒度調整粉末を振り掛ける方法、などがあげられる。この際、粒度調整粉末を収容した処理容器に振動を与えたり、粒度調整粉末を流動させて、粒度調整粉末がR−T−B系焼結磁石素材表面に付着しやすくしてもよい。ただし、本開示では、粒度調整粉末を1層程度付着させたいため、付着は実質的に粘着剤の粘着力のみによることが好ましい。例えば、処理容器内に付着させたい粉末をインパクトメディアと共に入れて衝撃を与えてR−T−B系焼結磁石素材表面に付着させたり、さらに粉末同士をインパクトメディアの衝撃力によって結合させて膜を成長させたりする方法だと、1層程度でなく何層も形成されてしまうため好ましくない。
【0075】
付着方法として例えば、流動させた粒度調整粉末の中に粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材を浸漬させる方法いわゆる流動浸漬法(fulidized bed coating process)を用いてもよい。以下、流動浸漬法を応用する例について説明する。流動浸漬法は、従来、粉体塗装の分野で広く行われている方法であり、流動させた熱可塑性の粉体塗料の中に加熱した被塗物を浸漬し被塗物表面の熱によって塗料を融着させる方法である。この例では流動浸漬法を磁石に応用するために、熱可塑性の粉体塗料の代わりに上述の粒度調整粉末を用い、加熱した塗布物の代わりに粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材を用いる。
【0076】
粒度調整粉末を流動させる方法はどのような方法でも良い。例えば、1つの具体例として、下部に多孔質の隔壁を設けた容器を用いる方法を説明する。この例では、容器内に粒度調整粉末を入れ、隔壁の下部から大気又は不活性ガスなどの気体に圧力をかけて容器内に注入し、その圧力又は気流で隔壁上方の粒度調整粉末を浮かせて流動させることができる。
【0077】
容器の内部で流動する粒度調整粉末に粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材を浸漬させる(あるいは配置する又は通過させる)ことで粒度調整粉末をR−T−B系焼結磁石素材に付着させる。粘着剤が塗布されたR−T−B系焼結磁石素材を浸漬する時間は、例えば0.5〜5.0秒程度である。流動浸漬法を用いることで、容器内に粒度調整粉末が流動(撹拌)されるため、比較的大きい粉末粒子が偏って磁石表面に付着したり、逆に比較的小さい粉末粒子が隔たって磁石表面に付着したりすることが抑制される。そのため、より均一にR−T−B系焼結磁石素材に粒度調整粉末を付着させることができる。
【0078】
ある好ましい実施形態において、粒度調整粉末をR−T−B系焼結磁石素材表面に固着させるための熱処理(後熱処理)を行う。加熱温度は150〜200℃に設定され得る。粒度調整粉末がバインダで造粒されたものであれば、バインダが溶融固着することによって、粒度調整粉末が固着される。
【0079】
5.粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材を熱処理する拡散工程
(第一の熱処理を実施する工程)
上記の組成を有するPr−Ga合金の粉末層が付着したR−T−B系焼結磁石素材を、真空又は不活性ガス雰囲気中、600℃超950℃以下の温度で熱処理をする。本明細書において、この熱処理を第一の熱処理という。これにより、Pr−Ga合金からPrやGaを含む液相が生成し、その液相がR−T−B系焼結磁石素材中の粒界を経由して焼結素材表面から内部に拡散導入される。これにより、Prと共にGaを、粒界を通じてR−T−B系焼結磁石素材の奥深くまで拡散させることができる。第一の熱処理温度が600℃以下であると、PrやGaを含む液相量が少なすぎて高いHcJを得ることが出来ない可能性があり、950℃を超えるとHcJが低下する可能性がある。また、好ましくは、第一の熱処理(600℃超940℃以下)が実施されたR−T−B系焼結磁石素材を前記第一の熱処理を実施した温度から5℃/分以上の冷却速度で300℃まで冷却した方が好ましい。より高いHcJを得ることができる。さらに好ましくは、300℃までの冷却速度は15℃/分以上である。
【0080】
(第二の熱処理を実施する工程)
第一の熱処理が実施されたR−T−B系焼結磁石素材に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、前記第一の熱処理を実施する工程で実施した温度よりも低い温度で且つ、450℃以上750℃以下の温度で熱処理を行う。本明細書において、この熱処理を第二の熱処理という。第二の熱処理を行うことにより、粒界相にR−T−Ga相が生成され、高いHcJを得ることができる。第二の熱処理が第一の熱処理よりも高い温度であったり、第二の熱処理の温度が450℃未満及び750℃を超える場合は、R−T−Ga相の生成量が少なすぎて高いHcJを得ることができない。
【実施例】
【0081】
(実験例1)
まず公知の方法で、組成比Nd=30.0、B=0.89、Al=0.1、Cu=0.1、Co=1.1、残部Fe(質量%)のR−T−B系焼結磁石素材を作製した。これを機械加工することにより、大きさが厚さ4.9mm×幅7.5mm×長さ40mmのR−T−B系焼結磁石素材を得た。
【0082】
次に、Pr−Ga合金の粒度調整粉末を作製した。組成比Pr=89、Ga=11となるように各元素の原料を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボン又はフレーク状の合金を得た。得られた合金を、乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した。粉砕したPr−Ga合金粉末を篩で分級して粒度106μm以下とした。バインダとしてPVA(ポリビニルアルコール)、溶媒として水を用い、Pr−Ga合金粉末:PVA:水=90:5:5(質量比)で混合したペーストを熱風乾燥して溶媒を蒸発させ、Ar雰囲気中で粉砕した。粉砕した造粒粉末を篩で分級して、粒度が38μm以下、38μm超300μm以下、300μm超500μm以下、106μm超212μm以下の4種類に分けた。
【0083】
次に、R−T−B系焼結磁石素材に粘着剤を塗布した。R−T−B系焼結磁石素材をホットプレート上で60℃に加熱後、スプレー法でR−T−B系焼結磁石素材全面に粘着剤を塗布した。粘着剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)を用いた。
【0084】
次に、粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材に粒度調整粉末を付着させた。処理容器に粒度調整粉末を広げ、粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材を常温まで降温させた後、処理容器内で粒度調整粉末をR−T−B系焼結磁石素材全面にまぶすように付着させた。
【0085】
粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材を実体顕微鏡で観察したところ、R−T−B系焼結磁石素材の表面に粒度調整粉末がほぼ隙間なく1層均一に付着しているのが観察された。また、粒度調整粉末は、本開示の「(1)粘着層20の表面に接触している複数の粒子と、(2)R−T−B系焼結磁石素材100の表面に粘着層20のみを介して付着している複数の粒子と、(3)粘着性を有する材料を介さずに前記複数の粒子のうちの1個または複数個の粒子に結合している他の粒子によって構成されている」を満足していることを確認した。また、粒度調整粉末の粒度が106μm超212μm以下のサンプルについて、粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材の4.9mm方向の厚さを測定した。それぞれのR−T−B系焼結磁石素材について、図4に示す位置1、2、3の3カ所で測定を行った(N=各25)。粒度調整粉末が付着する前のR−T−B系焼結磁石素材より増加した値(両面の増加分の値)を表1に示す。3カ所とも、ほぼ同じ値であり、測定箇所による厚さのバラツキはほとんどなかった。
【0086】
【表1】
【0087】
さらに、粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材の重量から粒度調整粉末が付着する前のR−T−B系焼結磁石素材の重量を引いたものを粒度調整粉末の重量とし、その値から磁石重量に対する付着したGa量(質量%)を計算した。
【0088】
計算したGa付着量の値を表2に示す。表2の結果から、粒度が38μm超300μm以下の粒度調整粉末は、Ga付着量が質量比で0.10〜1.0%の範囲に入っており、最も効率的にPr−Ga合金を付着させることができる。粒度が38μm以下の粒度調整粉末は、粒径が小さすぎて、1層程度付着させただけではGaの付着量が足りない。また300μm超500μmの粒度調整粉末では、付着量が多すぎて、Pr−Ga合金が無駄に消費される。
【0089】
以上の実験から、粒度調整粉末の粒度をコントロールすることにより、効率的、かつ、均一にGa含有粉末を磁石表面に付着させることができることがわかった。
【0090】
【表2】
【0091】
(実験例2)
実験例1で用いた粒度106μm超212μm以下の粉末に10質量%の38μm以下の粉末、又は、10質量%の300μm超の粉末を混合し、実験例1と同様の方法で、粒度調整粉末をR−T−B系焼結磁石素材表面に付着させた。付着した粒度調整粉末の量からGa付着量を計算したところ、双方ともGa付着量は質量比で0.10〜1.0%の範囲に入っていた。所望の粒度を外れる粉末が10質量%混合されていても影響がないことがわかった。
【0092】
(実験例3)
表3に示す組成で、大きさが7.4mm×7.4mm×7.4mmのR−T−B系焼結磁石素材を用意した。表4に示すPr−Ga合金と、バインダとしてのPVA(ポリビニルアルコール)と、溶媒としての水とを用いて実験例1と同じ方法で粒度106μm超212μm以下の粒度調整粉末を作製した。作製した粒度調整粉末を表5に示す組み合わせで実験例1と同じR−T−B系焼結磁石素材に付着させた。さらに、これらを表5に示す熱処理温度で熱処理した。熱処理後のR−T−B系焼結磁石素材に対して、表面研削盤を用いて各サンプルの全面を0.2mmずつ切削加工し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体を切り出し、磁気特性を測定した。測定した磁気特性の値を表5に示す。これらすべてのR−T−B系焼結磁石素材について、Br≧1.30T、HCJ≧1490kA/mの高い磁気特性が得られており、Brをほとんど低下させることなく、HCJがそれぞれ160kA/m以上向上していることが確認された。
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
(実験例4)
実験例3と同様の方法で、実験例3のNo.AのR−T−B系焼結磁石素材を作製した。これを機械加工することにより、大きさが厚さ4.9mm×幅7.5mm×長さ40mmのR−T−B系焼結磁石素材を得た。
【0097】
次に、Pr89Ga11合金(質量%)をアトマイズ法により作製して粒度調整粉末を準備した。前記粒度調整粉末は、球状粉末であった。前記粒度調整粉末を篩で分級して、粒度が300μm以下、38〜300μmの2種類に分けた。
【0098】
次に、R−T−B系焼結磁石素材に実験例1と同様の方法で粘着剤を塗布した。
【0099】
次に、粘着剤を塗布したR−T−B系焼結磁石素材に粒度調整粉末を付着させた。付着法方法として流動浸漬法を用いた。流動浸漬法を行う処理容器50を図5に模式的に示す。この処理容器は、上方が解放された概略的に円筒形状を持ち、底部に多孔質の隔壁55を有している。実験で使用した処理容器50の内径は78mm、高さは200mmであり、隔壁55の平均気孔径は15μm、空孔率40%であった。この処理容器50の内部に粒度調整粉末を深さ50mm程度まで入れた。多孔質の隔壁55の下方から大気を処理容器50の内部に2リットル/minの流量で注入することによって粒度調整粉末を流動させた。流動する粉末の高さは約70mmであった。粘着剤が付着されたR−T−B系焼結磁石素材100を不図示のクランプ治具で固定し、流動する粒度調整粉末(Pr89Ga11合金粉末)内に1秒浸漬させて引き上げ、R−T−B系焼結磁石素材100に粒度調整粉末を付着させた。なお、治具は磁石の4.9mm×40mmの面の両側2点接触で固定し、4.9mm×7.5mmの最も面積の狭い面を上下面として浸漬した。
【0100】
また、粒度調整粉末の粒度が38〜300μmのサンプルについて、粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材の4.9mm方向の厚さを測定した。測定位置は実験例1と同じで、図4に示す位置1、2、3の3カ所で測定を行った(N=各25)。粒度調整粉末が付着する前のR−T−B系焼結磁石素材より増加した値(両面の増加分の値)を表6に示す。3カ所とも、ほぼ同じ値であり、測定箇所による厚さのバラツキはほとんどなかった。また、粒度調整粉末の粒度が300μm以下のサンプルについても同様に測定したところ、3カ所とも、ほぼ同じ値であり、測定箇所による厚さのバラツキはほとんどなかった。これは、付着方法として流動浸漬法を用いたことにより、微粉が先にR−T−B系焼結磁石素材に付着することなく、均一にR−T−B系焼結磁石素材に粒度調整粉末を付着させることができたからである。
【0101】
粒度調整粉末の粒度が38〜300μm及び300μm以下のサンプルについて、粒度調整粉末が付着したR−T−B系焼結磁石素材を実体顕微鏡で観察したところ、実験例1の38〜300μmのサンプルと同様に、R−T−B系焼結磁石素材の表面に粒度調整粉末が1層均一に付着しており、粒度調整粉末を構成する粒子30が1つの層(粒子層)を形成するように密に付着していた。また、粒度が38〜300μm及び300μm以下のサンプルにおける粒度調整粉末は、本開示の「(1)粘着層20の表面に接触している複数の粒子と、(2)R−T−B系焼結磁石素材100の表面に粘着層20のみを介して付着している複数の粒子と、(3)粘着性を有する材料を介さずに前記複数の粒子のうちの1個または複数個の粒子に結合している他の粒子によって構成されている」を満足していることを確認した。
【0102】
【表6】
【0103】
(実験例5)
実験例4と同様の方法でR−T−B系焼結磁石素材を作製した。これを機械加工することにより、大きさが厚さ4.9mm×幅7.5mm×長さ40mmのR−T−B系焼結磁石素材を得た。更に実験例4と同様に粒度調整粉末(Pr89Ga11)を作成した。更に、これらを実験例4と同様の方法で表7に示す熱処理温度、時間で熱処理し、拡散源中の元素をR−T−B系焼結磁石素材中に拡散させた。なお、前記粒度調整粉末の粒度は、表7に示すGa付着量とそれぞれなるように適宜調整した。熱処理後のR−T−B系焼結磁石素材の中央部分から厚さ4.5mm×幅7.0mm×長さ7.0mmの立方体を切り出し、保磁力を測定した。測定した保磁力からR−T−B系焼結磁石素材の保磁力を引いた△HcJの値を表7に示す。表7に示すようにRH付着量が0.1〜1.0の範囲であると保磁力が大きく向上していることが確認された。
【0104】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示の実施形態は、より少ないPr−Ga合金によってR−T−B系焼結磁石素材のHcJを向上させることができるため、高いHcJが求められる希土類焼結磁石の製造に使用され得る。
【符号の説明】
【0106】
20 粘着層
30 粒度調整粉末を構成する粉末粒子
100 R−T−B系焼結磁石素材
100a R−T−B系焼結磁石素材の上面
100b R−T−B系焼結磁石素材の側面
100c R−T−B系焼結磁石素材の側面
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4
図5