【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラム事業「miRNAを利用した尿路上皮癌、腎癌の診断・治療薬の創製」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
HWANG T. I-S. et al.,Dysregulated microRNA expression in bladder cancer by microRNA microarray,Int. J. Urol.,2010年,vol.17, Suppl 1.,p.A164
【文献】
LIU Y. et al.,Synthetic miRNA-Mowers Targeting miR-183-96-182 Cluster or miR-210 Inhibit Growth and Migration and,PLOS One,2012年,vol.7, no.12,p.e52280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するため、または表在性尿路上皮癌が浸潤性尿路上皮癌に移行するか否かを判定するための検査試薬。
miR-130bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーをさらに含む、請求項7に記載の検査試薬。
尿路上皮癌の被験者から治療の前に採取された試料における、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベルを測定する工程を含む、該被験者における尿路上皮癌の治療方針の決定のための検査方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するための被験者由来試料の検査方法
本発明は、尿路上皮癌が表在性または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するための被験者由来試料の検査方法であって、
(1)被験者由来試料中のmiR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベルを測定する工程;並びに
(2)測定した発現レベルと表在性または浸潤性尿路上皮癌の発現レベルを比較する工程を含む、方法(以下、本発明の検査方法Iともいう)を提供するものである。
【0011】
本発明において尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するとは、尿路上皮癌を発症していると臨床的に判断されている被験者が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれを発症しているのかを判定することを意味する。本発明の検査方法Iは、浸潤性尿路上皮癌患者においてmiR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210、好ましくはmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bの発現レベルが、表在性尿路上皮癌患者の前記miRNAの発現レベルよりも有意に高いことを見出したことに基づいており、被験者由来の試料を検査することにより、被験者が患う尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを高精度で判定することができる。本発明の検査方法Iの対象となる尿路上皮癌としては、尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)に発生する癌であれば特に限定されないが、好ましくは膀胱癌、腎盂尿管癌が挙げられる。また、尿路上皮癌は、表在性癌または浸潤性癌に分類され、本発明の検査方法Iによって判定することができる。ここで、腎盂尿管癌の表在性癌とはステージpTa, pT1であり、浸潤性癌とはステージpT2以上である。膀胱癌においては、表在性癌はステージpTaであり、浸潤性癌は粘膜下結合組織に浸潤が認められたもの(ステージpT1)以上として評価した。
【0012】
本発明における被験者は、任意の哺乳動物であってよいが、尿路上皮癌に罹患している哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類及びウサギ等の実験動物、イヌ及びネコ等のペット、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ及びヒツジ等の家畜、ヒト、サル、オランウータン及びチンパンジー等の霊長類等が挙げられ、特にヒトが好ましい。被験者は、尿路上皮癌に対する治療を受けていても受けていなくてもよい。また、本発明の検査方法Iの対象となる尿路上皮癌としては、尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)に発生する癌であれば特に限定されないが、好ましくは膀胱癌、腎盂尿管癌が挙げられる。また、尿路上皮癌は、表在性癌または浸潤性癌に分類され、本発明の検査方法Iによって判定することができる。
【0013】
被験者由来の試料としては、被験者である上記哺乳動物から採取されるものであって、検出対象であるmiRNAを含有するものであれば特に制限されない。例えば、全血、血球成分、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液、精液、尿、汗、唾液、関節液等の体液もしくはそのフラクション、粘膜、生検により得られる細胞もしくは組織標本などが挙げられる。通常、生検によって得られる被験者の尿路上皮癌組織からの細胞または組織標本が本発明における試料として好ましいが、迅速且つ簡便に採取することができ、被験者への侵襲が少ないなどの点から、血液(例:末梢血)、リンパ球、血清、尿等もまた好ましい。被験者由来の試料は、生検または採血から検査まで時間がかかる場合は、試料を凍結保存(例えば-20℃)しておくことも可能である。
【0014】
本発明の検査方法Iにおいては、工程(1)において、被験者由来試料中のmiR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル、好ましくはmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベルを測定する。これらのmiRNAは、既に公知の分子であり、生物種毎に対応する分子が存在する。配列情報は、miRBase(http://www.mirbase.org/)等のデータベースから入手可能である。本明細書中miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210は、被験者の生物種において天然に存在している分子を意味する。例えば、本発明における被験者がヒトである場合、miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210は、それぞれhsa-miR-130b(配列番号:1で表されるヌクレオチド配列からなり、miRBaseにAccession No. MIMAT0000691として登録されている(hsa-miR-130b-3pとも呼ばれる))、hsa-miR-301a(配列番号:2で表されるヌクレオチド配列からなり、miRBaseにAccession No. MIMAT0000688として登録されている(hsa-miR-301a-3pとも呼ばれる))、hsa-miR-301b(配列番号:3で表されるヌクレオチド配列からなり、miRBaseにAccession No. MIMAT0004958として登録されている)、hsa-miR-210(配列番号:4で表されるヌクレオチド配列からなり、miRBaseにAccession No. MIMAT0000267として登録されている(hsa-miR-210-3pとも呼ばれる))を意味する。
【0015】
miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210の各miRNAは、天然で生じる多型、突然変異等による変異(ヌクレオチドの置換、欠失、挿入又は付加)を含んでもよく、従って、工程(1)においては、そのような変異を含むmiRNAの発現レベルが測定されてもよい。
【0016】
miRNAの発現レベルは、各miRNA又はその相補的核酸(cRNA又はcDNA)を特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、miRNAアレイ、ノザンブロッティング、定量PCR(リアルタイムPCR等)等を挙げることができる。
【0017】
miRNAの発現レベルの測定は、被験者由来の試料から抽出したmiRNAを対象として行なう。miRNAを抽出する方法は、被験者由来の試料から、miRNAを含むRNA(例えば、total RNA)を抽出する方法である限り特に限定されず、例えば、市販の試薬(例えば、QIAZOL(Qiagen))やキット(例えば、フェノールベース試薬Tripure Isolation Reagent(Roche Applied Science)、液体試料用フェノールベース試薬ISOGEN-LS(ニッポンジーン)、miRNeasy Mini Kit(Qiagen)、RNeasy MinElute Cleanup Kit(Qiagen)等)を添付のプロトコールに従って用いることによって、miRNAを含むRNAを抽出することができる。
【0018】
また被験者由来の試料からmiRNAを含むRNAを抽出した後、更にmiRNAを単離してもよい。miRNAの単離は、自体公知の方法により行なうことができ、例えば、市販の試薬やキット(例えば、RNeasy Mini Column(Qiagen)、High Pure miRNA Isolation Kit(Roche Applied Science)等)を添付のプロトコールに従って用いることによって実施することができる。ここで「miRNAの単離」とは、miRNA以外の成分を除去する操作がなされていることを意味する。
【0019】
miRNAの発現レベルの測定においては、上記miRNAの抽出及び単離に起因する試料間のばらつきを補正するために、適切な内部標準でmiRNAの発現レベルを補正することが好ましい。内部標準は、被験者由来の試料に天然に含まれており、且つ表在性尿路上皮癌と浸潤性尿路上皮癌とで統計学上有意な差を示さないことが公知の任意の成分であれば特に限定されない。例えば、後述する実施例の通り、被験者がヒトの場合、U6 snRNAを内部標準とすることができる。
【0020】
本明細書において、核酸プローブが「miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る」とは、核酸プローブがmiRNA又はその相補的核酸に対して、当該miRNA又はその相補的核酸以外の核酸に対するよりも高いアフィニティーを有することにより、適切なハイブリダイゼーション条件下で当該miRNA又はその相補的核酸にはハイブリダイズするが、その他の核酸へはハイブリダイズしないことを意味する。
【0021】
このようなハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件として、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC、0.1%SDSである。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度等の複数の要素があり、当業者はこれらの要素を適宜選択することで、同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0022】
miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブとしては、例えば、当該miRNAのヌクレオチド配列の一部又は全部に相補的な約10塩基以上(例えば、10〜24塩基、好ましくは15〜24塩基の連続したヌクレオチド配列又はその相補配列を含み、当該miRNA又はその相補的核酸にハイブリダイズすることが可能なポリヌクレオチドを挙げることができる。そのような核酸プローブは、本明細書に記載されたヌクレオチド配列の情報等に基づいて、自体公知の方法により適宜設計することができる。例えば、配列番号:1〜4で表される各ヌクレオチド配列からなるmiRNA又はその相補的核酸は、それぞれ配列番号:5〜8で表される各ヌクレオチド配列又はその相補配列を含むポリヌクレオチドを核酸プローブとして検出することができる。
【0023】
本明細書において、核酸プライマーが「miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る」とは、核酸プライマーが、適切なPCR反応条件下において、当該miRNA又はその相補的核酸を鋳型として、その全部又は一部の領域をPCR増幅するが、当該miRNA又はその相補的核酸以外の核酸を鋳型として、その全部又は一部の領域をPCR増幅しないことを意味する。
【0024】
miRNAを特異的に検出し得る核酸プライマーは、当該miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列の一部又は全部の領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。PCRによるmiRNAの定量は、通常、ポリ(A)ポリメラーゼにより3'末端にポリ(A)配列を付加し、オリゴ(dT)プライマーを用いた逆転写反応によりcDNAを合成した後、当該cDNAを定量することにより行なう。この場合、各miRNAの相補的核酸(cDNA)のヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズする、約10塩基以上(例えば、10〜24塩基、好ましくは15〜24塩基)のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(フォワードプライマー)と、このハイブリダイゼーション部位より3’側の当該cDNA配列の相補配列の一部にハイブリダイズする、約10塩基以上(例えば、10〜24塩基、好ましくは15〜24塩基)のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(リバースプライマー)との組み合わせにより、各miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列の一部又は全部の領域を特異的に増幅し得る。フォワードプライマー及びリバースプライマーは、各miRNA又はその相補的核酸のヌクレオチド配列、前記逆転写反応の際に使用するプライマーの配列等の情報に基づき、自体公知の方法により適宜設計することができる。例えば、配列番号:1〜4で表される各ヌクレオチド配列からなるmiRNAの相補的核酸の特異的な増幅には、それぞれ配列番号:9〜12で表される各ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドをフォワードプライマーとして使用することができる。また、リバースプライマーとしては、逆転写反応に用いたアダプタープライマー(例:オリゴ(dT)プライマー)を用いてもよいし、新たに各miRNAの相補的核酸(cDNA)配列の相補配列の一部にハイブリダイズするポリヌクレオチドを用いてもよい。
【0025】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0026】
また、核酸プローブ及び核酸プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:
125I、
131I、
3H、
14C、
32P、
33P、
35S等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、ビオチン等で標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0027】
核酸プローブ及び核酸プライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、またDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また核酸プローブ及び核酸プライマーは、一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、通常一本鎖である。なお、本発明において、核酸プローブ及び核酸プライマーがRNAである場合は、核酸プローブ及び核酸プライマーの塩基配列のうち、チミン(T)はウラシル(U)と読み替えてもよい。
核酸プローブ及び核酸プライマーは、人工的な修飾を有する核酸の誘導体であってもよい。人工的な修飾を有する核酸の誘導体としては、例えば、ホスホロチオエート型、ボラノフォスフェート型DNA/RNA等のリン酸骨格を修飾したもの;2'-OMe修飾RNA、2'-F修飾RNA等の2'修飾ヌクレオチド;LNA(Locked Nucleic Acid)やENA(2'-O,4'-C-Ethylene-bridged nucleic acids)等のヌクレオチドの糖分子を架橋した修飾ヌクレオチド;PNA(ペプチド核酸)、モルフォリノヌクレオチド等の基本骨格が異なる修飾ヌクレオチド;5-フルオロウリジン、5-プロピルウリジン等の塩基修飾型ヌクレオチド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
上記核酸プローブ及び核酸プライマーは、例えば、本明細書に記載されたヌクレオチド配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0029】
測定対象のmiRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブを、適切な支持体の上に結合して、核酸アレイとして提供してもよい。支持体としては、当該分野で通常用いられている支持体であれば特に限定されず、例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ビーズ、ガラス、プラスチック、金属等が挙げられる。
【0030】
本発明の検査方法Iにおける、工程(2)では、工程(1)において測定した被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルと表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌の前記miRNA発現レベルを比較する。
被験者由来の試料中のmiRNAの発現レベルと表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌の前記miRNA発現レベルの比較は、通常、工程(1)において測定した被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルと表在性尿路上皮癌患者から得られた前記miRNAの発現レベルとの比較、または該被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルと浸潤性尿路上皮癌患者から得られた前記miRNAの発現レベルとの比較により行なう。
【0031】
さらに、比較した結果、測定した被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルと表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌の前記miRNA発現レベルの有意差の有無に基づいて、被験者が表在性尿路上皮癌であるか浸潤性尿路上皮癌であるかを判定することができる。具体的には、被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルが、表在性尿路上皮癌患者から得られた前記miRNAの発現レベルと統計学的に有意差(通常、p<0.05、好ましくは、p<0.01)を示さなければ、被験者を表在性尿路上皮癌であると判定することができる。また、被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルが、表在性尿路上皮癌患者から得られた前記miRNAの発現レベルと統計学的に有意差(通常、p<0.05、好ましくは、p<0.01)を示せば(有意に高ければ)、被験者を浸潤性尿路上皮癌であると判定することができる。あるいは、被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルが、浸潤性尿路上皮癌患者から得られた前記miRNAの発現レベルと統計学的に有意差(通常、p<0.05、好ましくは、p<0.01)を示さなければ、被験者を浸潤性尿路上皮癌であると判定することができる。また、被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルが、浸潤性尿路上皮癌患者から得られた前記miRNAの発現レベルと統計学的に有意差(通常、p<0.05、好ましくは、p<0.01)を示せば(有意に低ければ)、被験者を表在性尿路上皮癌であると判定することができる。
【0032】
後述の実施例に示すように、miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210の発現レベルは、浸潤性腎盂尿管癌患者において表在性腎盂尿管癌患者よりも高かった。さらに、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bの発現レベルは、浸潤性腎盂尿管癌患者において表在性腎盂尿管癌患者よりも有意に高かった。また、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bの発現レベルは、浸潤性膀胱癌患者において表在性膀胱癌患者よりも高かった。さらに、miR-130bおよびmiR-301bの発現レベルは、浸潤性膀胱癌患者において表在性膀胱癌患者よりも有意に高かった。
即ち、被験者由来の試料中の、miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル(好ましくは、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル)が、表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌の前記miRNA発現レベルと比較して統計学上の有意差(通常、p<0.05、好ましくは、p<0.01)の有無に基づいて、被験者が表在性尿路上皮癌であるか浸潤性尿路上皮癌であるかを判定することができる。
より具体的には、被験者由来の試料中の、miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル(好ましくは、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル)が、表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌の前記miRNA発現レベルと比較して統計学上の有意差(通常、p<0.05、好ましくは、p<0.01)の有無に基づいて、被験者が表在性腎盂尿管癌であるか浸潤性腎盂尿管癌であるかを判定することができる。また、被験者由来の試料中の、miR-130b、miR-301a、miR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル(好ましくは、miR-130bおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル)が、表在性膀胱癌または浸潤性膀胱癌の前記miRNA発現レベルと比較して統計学上の有意差(通常、p<0.05、好ましくは、p<0.01)の有無に基づいて、被験者が表在性膀胱癌であるか浸潤性膀胱癌であるかを判定することができる。
【0033】
上記の比較は、測定した被験者由来の試料中のmiR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210の発現レベルを、あらかじめ求めておいた、表在性尿路上皮癌を発症した多数の患者又は浸潤性尿路上皮癌を発症した多数の患者についての当該miRNAの発現レベルの平均値と比較してもよい。
【0034】
また試料中のmiR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210の発現レベルの表在性尿路上皮癌および浸潤性尿路上皮癌に関するカットオフ値をあらかじめ設定しておき、被験者のmiRNAの発現レベルとこのカットオフ値とを比較してもよい。例えば、被験者由来の試料中の当該miRNAの発現レベルが浸潤性尿路上皮癌に関するカットオフ値以上である場合には、被験者が浸潤性尿路上皮癌を患っていると判定することができ、当該miRNAの発現レベルが表在性尿路上皮癌に関するカットオフ値以上であり、かつ浸潤性尿路上皮癌に関するカットオフ値未満である場合には、被験者が表在性尿路上皮癌を患っていると判定することができる。
【0035】
カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。例えば、表在性尿路上皮癌を発症した個体及び浸潤性尿路上皮癌を発症した個体における試料中のmiR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210の発現レベルを測定し、測定された値における診断感度及び診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。
【0036】
尚、本発明の検査方法Iにおいては、被験者由来の試料中のmiR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル(好ましくは、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベル)の発現レベルを測定すれば足りるが、これらのmiRNAのうちの複数(例えば2以上、好ましくは3以上、より好ましくは全て)の発現レベルを測定し、表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌の前記miRNA発現レベルを比較することにより、より高い精度で被験者が表在性尿路上皮癌であるか浸潤性尿路上皮癌であるかを判定することができる。
【0037】
2.表在性尿路上皮癌の予後の良否を判定するための被験者由来試料の検査方法
また、本発明は表在性尿路上皮癌の予後の良否を判定するための被験者由来試料の検査方法であって、
(1)表在性尿路上皮癌である被験者由来試料中のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベルを測定する工程;並びに
(2)測定した該miRNA発現レベルと正常尿路上皮の該miRNA発現レベルを比較する工程を含む、方法(以下、本発明の検査方法IIともいう)を提供するものである。
【0038】
本発明において表在性尿路上皮癌の予後の良否を判定するとは、表在性尿路上皮癌を発症していると臨床的に判断されている被験者が将来的に浸潤性尿路上皮癌を発症する可能性が高いか否かを判定することを意味する。本発明の検査方法IIは、被験者が発症している表在性尿路上皮癌を、細胞異型と構造異型を含めた異型度(grade)が低度な表在性尿路上皮癌(low grade)と高度な表在性尿路上皮癌(high grade)に分類した場合、異型度が高度な表在性尿路上皮癌(high grade)患者由来の試料はmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bの発現レベルが正常尿路上皮の前記miRNAの発現レベルと有意な差があることを見出したことに基づいており、表在性尿路上皮癌の被験者由来の試料を検査することにより、被験者が患う表在性尿路上皮癌が浸潤性尿路上皮癌へと悪性化する可能性が高いか否かを判定することができる。
【0039】
本発明の検査方法IIにおける、表在性尿路上皮癌、被験者、試料、測定対象となるmiRNA、miRNAの発現レベルの測定方法等は、本発明の検査方法Iに記載の通りである。
【0040】
本発明の検査方法IIにおける、工程(2)では、本発明の検査方法IIの工程(1)において測定した表在性尿路上皮癌の被験者由来の試料中のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベルと正常尿路上皮の前記miRNA発現レベルを比較する。
【0041】
さらに、比較した結果、測定した被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルと正常尿路上皮の前記miRNA発現レベルの有意差の有無に基づいて、被験者の表在性尿路上皮癌の予後の良否を判定することができる。具体的には、被験者由来の試料中の前記miRNAの発現レベルが、正常尿路上皮から得られた前記miRNAの発現レベルと統計学的に有意差(通常p<0.05、好ましくはp<0.01、より好ましくは、p<0.001)を示せば、被験者の表在性尿路上皮癌予後が不良であると判定することができる。ここで、予後が不良であるとは、表在性尿路上皮癌が浸潤性尿路上皮癌へ悪性化することをいう。
【0042】
上記の比較は、測定した被験者由来の試料中のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bの発現レベルを、あらかじめ求めておいた、多数の正常尿管上皮についての当該miRNAの発現レベルの平均値と比較してもよい。
【0043】
また試料中のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bの発現レベルの表在性尿路上皮癌の予後の良否に関するカットオフ値をあらかじめ設定しておき、被験者のmiRNAの発現レベルとこのカットオフ値とを比較してもよい。例えば、被験者由来の試料中の当該miRNAの発現レベルが表在性尿路上皮癌の予後の良否に関するカットオフ値以上である場合には、被験者の表在性尿路上皮癌予後が不良であると判定することができる。
【0044】
3.尿路上皮癌の治療方針の決定方法及び治療効果の評価方法
また、本発明の検査方法を、尿路上皮癌の被験者から治療の前に採取された試料において実施し、該被験者における尿路上皮癌の治療方針の決定に用いることができる。即ち、当該試料におけるmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベルを測定し、得られた発現レベルと正常尿路上皮における該miRNAの発現レベルとを比較し、いずれかのmiRNAの発現レベルが正常尿路上皮での発現レベルに比べて有意に高い場合に、後述する尿路上皮癌の治療剤IまたはIIによる治療が有効であると判断することができる。
あるいは、本発明の検査方法を、尿路上皮癌を発症し、1回以上の治療を受けた被験者から治療前と治療後にそれぞれ採取された試料において実施し、それらの試料におけるmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現レベルを比較することで、該被験者における尿路上皮癌の治療効果を評価することができる。すなわち、治療前と比較して治療後の該miRNAの発現レベルの増加が抑制される傾向(あるいは発現低下)を示せば、治療効果が認められると判定することができる。
【0045】
4.尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するための検査試薬
本発明は、miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー含む、尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するための検査試薬を提供するものである。本発明の検査試薬を用いれば、上記本発明の検査方法を容易に実施することができ、迅速且つ高精度で表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌を判定することが可能となる。
【0046】
本発明の検査試薬に含まれる核酸プローブ又は核酸プライマーの詳細は、「1.尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するための被験者由来試料の検査方法」に記載の通りである。より具体的には、本発明の検査試薬は、miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー、好ましくは、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む。特に、尿路上皮癌が腎盂尿管癌の場合は、該検査試薬は、miR-130b、miR-301a、miR-301bおよびmiR-210からなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー、好ましくは、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む。また、尿路上皮癌が膀胱癌の場合は、該検査試薬は、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマー、好ましくは、miR-130bおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを含む。
【0047】
本発明の検査試薬は、測定対象の各miRNA又はその相補的核酸を特異的に検出し得る核酸プローブを、適切な支持体の上に結合して、核酸アレイとして提供してもよい。支持体としては、当該分野で通常用いられている支持体であれば特に限定されず、例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ビーズ、ガラス、プラスチック、金属等が挙げられる。
【0048】
本発明の検査試薬に含まれる各構成要素は、各々別個に(或いは可能であれば混合した状態で)水又は適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBS等)中に適当な濃度となるように溶解されるか、或いは凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容される。
【0049】
本発明の検査試薬は、miRNAの発現レベルの測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成として更に含んでもよい。本発明の検査試薬により、例えば、miRNAアレイ、ノザンブロッティング、定量PCR(リアルタイムPCR等)等によりmiRNAの発現レベルを測定することにより、尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定することができる。リアルタイムPCRを測定に用いる場合には、本発明の検査試薬は、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl
2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5 U/μL)、逆転写酵素等を更に含むことができる。miRNAアレイやノザンブロッティングを測定に用いる場合には、本発明の検査試薬は、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等を更に含むことができる。
【0050】
5.尿路上皮癌の治療剤I
後述する実施例の通り、miR-130b、miR-301aまたはmiR-301bに対する阻害分子が、尿路上皮癌細胞の遊走・浸潤を抑制する効果があることが確認された。従って、本発明はまた、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸またはアンチセンス核酸アナログを含む、尿路上皮癌の治療剤(以下、本発明の治療剤I)を提供する。
【0051】
本発明の治療剤Iにおいて治療することができる尿路上皮癌とは、「1.尿路上皮癌が表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌のいずれであるかを判定するための被験者由来試料の検査方法」に記載の通り、尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)に発生する癌であれば特に限定されないが、好ましくは膀胱癌、腎盂尿管癌が挙げられる。また、尿路上皮癌は、表在性尿路上皮癌または浸潤性尿路上皮癌にであっても、治療の対象とすることができる。また、本発明において治療とは、尿路上皮癌の消失、増殖抑制のみならず、転移抑制、浸潤抑制をも含む。
【0052】
本発明における、miR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸(またはアンチセンス核酸アナログ)とは、該miRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含む核酸(または核酸アナログ)であって、標的miRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、該miRNAの機能(標的mRNAに対する結合能、転写抑制能、翻訳阻害能)を抑制する効果を有するものである。ここで「実質的に相補的である」とは、塩基配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相補性を有することをいう。1つの好ましい態様においては、本発明におけるmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸(またはアンチセンス核酸アナログ)は、配列番号:5〜7のいずれかで表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドから少なくとも1つ選択されるポリヌクレオチドであり、好ましくは、ATTGCACTで表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであり、より好ましくは、ATTGCACTで表されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである。
【0053】
アンチセンス核酸に用いられる核酸(またはアンチセンス核酸アナログ)としては、ヌクレオチドまたは該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子であればいかなるものでもよい。ヌクレオチド重合体としては、例えばリボヌクレオチドの重合体であるRNA、デオキシリボヌクレオチドの重合体であるDNA、リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドが混合した重合体が、該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子としては、例えばヌクレオチド類似体を含むヌクレオチド重合体が、それぞれあげられる。該核酸としては、RNAが好適に用いられる。
【0054】
ヌクレオチド類似体としては、例えばRNAまたはDNAと比較して、ヌクレオチド重合体のヌクレアーゼ耐性の向上または安定化させるため、相補鎖核酸とのアフィニティーをあげるため、細胞透過性をあげるため、あるいは可視化させるために、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、RNAまたはDNAに修飾を施した分子であればいかなる分子でもよい。例えば、糖部修飾ヌクレオチド類似体やリン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド類似体等があげられる。
【0055】
糖部修飾ヌクレオチド類似体としては、ヌクレオチドの糖の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の化学構造物質を付加あるいは置換したものであればいかなるものでもよく、例えば、2’−O−メチルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−プロピルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−メトキシエトキシリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−メトキシエチルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−[2−(グアニジウム)エチル]リボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−フルオロリボースで置換されたヌクレオチド類似体、糖部に架橋構造を導入することにより2つの環状構造を有する架橋構造型人工核酸(Bridged Nucleic Acid)(BNA)、より具体的には、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋したロックト人工核酸(Locked Nucleic Acid)(LNA)、およびエチレン架橋構造型人工核酸(Ethylene bridged nucleic acid)(ENA)[Nucleic Acid Research, 32, e175 (2004)]またはその誘導体があげられる。LNAやENAの誘導体としては、例えば、糖部の4’位の炭素原子と2’位の炭素原子間に導入される架橋構造が、アミドを含むものが挙げられる。より具体的には、LNAやENAの誘導体は、糖部の4’位の炭素原子と2’位の炭素原子間に導入される架橋構造が、下式(I)または(II):
【0058】
[式中、mは0〜2の整数であり;
nは0〜1の整数であり;
Xは、酸素原子、硫黄原子、アミノ基、またはメチレン基を表し;
Rは水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、または核酸合成のアミノ基の保護基を表し、ここで、該α群は、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1から6の直鎖アルキル基、炭素数1から6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、およびハロゲン原子からなる]で表される誘導体である。そのようなLNAやENAの誘導体は、国際公開公報WO2011/052436A1に詳細に開示されている。あるいは、糖部修飾ヌクレオチド類似体としては、ペプチド核酸(PNA)[Acc. Chem. Res., 32, 624 (1999)]、オキシペプチド核酸(OPNA)[J. Am. Chem. Soc., 123, 4653 (2001)]、およびペプチドリボ核酸(PRNA)[J. Am. Chem. Soc., 122, 6900 (2000)]等もあげることができる。本発明のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸アナログとしては、好ましくは架橋構造型人工核酸、より好ましくはLNAまたはENAやその誘導体が挙げられる。
【0059】
リン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド類似体としては、ヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の化学物質を付加あるいは置換したものであればいかなるものでもよく、例えば、ホスホロチオエート結合に置換されたヌクレオチド類似体、N3’-P5’ホスホアミデート結合に置換されたヌクレオチド類似体等をあげることができる[細胞工学, 16, 1463-1473 (1997)][RNAi法とアンチセンス法、講談社(2005)]。
【0060】
ヌクレオチド類似体としては、その他に、核酸の塩基部分、リボース部分、リン酸ジエステル結合部分等の原子(例えば、水素原子、酸素原子)もしくは官能基(例えば、水酸基、アミノ基)が他の原子(例えば、水素原子、硫黄原子)、官能基(例えば、アミノ基)、もしくは炭素数1〜6のアルキル基で置換されたものまたは保護基(例えばメチル基またはアシル基)で保護されたもの、核酸に、例えば脂質、リン脂質、フェナジン、フォレート、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、色素など、別の化学物質を付加した分子等を用いてもよい。
核酸に別の化学物質を付加した分子としては、例えば、5’−ポリアミン付加誘導体、コレステロール付加誘導体、ステロイド付加誘導体、胆汁酸付加誘導体、ビタミン付加誘導体、Cy5付加誘導体、Cy3付加誘導体、6−FAM付加誘導体、およびビオチン付加誘導体等をあげることができる。
【0061】
本発明のアンチセンス核酸またはアンチセンス核酸アナログは、標的miRNAの塩基配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。また、上記した各種修飾を含むアンチセンス核酸も、いずれも自体公知の手法により、化学的に合成することができる。
【0062】
本発明の治療剤Iは、上述のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸を発現し得る発現ベクターを有効成分とすることもできる。1つの好ましい態様においては、本発明におけるmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸を生成し得る発現ベクターは、配列番号:5〜7のいずれかで表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターである。
当該発現ベクターにおいては、上述のポリヌクレオチド又はそれをコードする核酸(好ましくはDNA)が、投与対象である個体(好ましくはヒト)の細胞(例えば、尿路上皮癌細胞)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0063】
使用されるプロモーターは、投与対象である個体の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0064】
本発明の発現ベクターは、好ましくは上述のポリヌクレオチド又はそれをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0065】
本発明において発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0066】
本発明のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸またはアンチセンス核酸アナログは、リポソーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療に適用されたり、付加された形態で与えられることができうる。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端または5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端または5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0067】
本発明のmiR-130b、miR-301aおよびmiR-301bからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAに対するアンチセンス核酸またはアンチセンス核酸アナログ(本発明のアンチセンス核酸等)を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の哺乳動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
【0068】
本発明のアンチセンス核酸等を尿路上皮癌の治療剤などの医薬として使用する場合、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。即ち、本発明の治療剤Iを、単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどの適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
【0069】
本発明のアンチセンス核酸等を含有する医薬は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明のアンチセンス核酸等と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
【0070】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明のアンチセンス核酸等を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記アンチセンス核酸等を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
【0071】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0072】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。本発明のアンチセンス核酸等は、例えば、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mg含有されていることが好ましい。
【0073】
本発明のアンチセンス核酸等を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人の尿路上皮癌患者の場合、本発明のアンチセンス核酸を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の経尿道的投与等の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0074】
6.尿路上皮癌の治療剤II
後述する実施例の通り、miR-130b、miR-301aまたはmiR-301bに対する阻害分子が、miR-130b、miR-301aまたはmiR-301bのSARA(Smad Anchor for Receptor Activation)の3’非翻訳領域への結合を阻害したことから、SARAが尿路上皮癌の治療標的であることが示唆された。従って、本発明はまた、SARAまたはSARAをコードする核酸を含む、尿路上皮癌の治療剤(以下、本発明の治療剤II)を提供する。本発明の治療剤IIにおいて治療することができる尿路上皮癌とは、本発明の治療剤Iに記載されたものと同様である。
【0075】
本発明におけるSARAは、配列番号:14で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質である。
配列番号:14で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号:14で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。より好ましくは、配列番号:14で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:14で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0076】
配列番号:14で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、例えば、前記の配列番号:14で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号:14で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質などが好ましい。ここで「活性」とは、例えば、TGF-βシグナル伝達制御、上皮間葉転換の抑制作用などをいう。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、生理学的または薬理学的)に同じであることを示す。したがって、前記活性は同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例えば、約0.1〜約10培、好ましくは約0.5〜約2倍)や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
前記活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができる。
【0077】
また、本発明のSARAには、例えば、配列番号:14で表されるアミノ酸配列のうち1〜数(2、3、4もしくは5)個のアミノ酸が欠失し、付加し、挿入され、または置換されたアミノ酸配列なども含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、蛋白質の活性が保持される限り特に限定されない。
【0078】
SARAは、ヒト細胞から自体公知の蛋白質の精製方法によって製造することができる。具体的には、ヒト細胞をホモジナイズし、低速遠心により細胞デブリスを除去した後、上清を高速遠心して細胞膜含有画分を沈澱させ、該上清を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー等に付すことによりSARAを調製することができる。
【0079】
SARAは、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。SARAを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする蛋白質を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1)M.BodanszkyおよびM.A.Ondetti,Peptide Synthesis,Interscience Publishers,New York (1966年)
(2)SchroederおよびLuebke,The Peptide,Academic Press,New York(1965年)
【0080】
このようにして得られたSARAは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られるSARAが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にSARAが塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0081】
さらに、SARAは、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物からSARAを分離精製することによって製造することもできる。
例えば、SARAを培養菌体あるいは細胞の細胞質から抽出する場合、培養物から公知の方法で集めた菌体あるいは細胞を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性蛋白質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX-100
TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい。また、SARAが菌体(細胞)外に分泌される場合には、培養物から遠心分離またはろ過等により培養上清を分取するなどの方法が用いられる。
このようにして得られた可溶性画分、培養上清中に含まれるSARAの単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0082】
また、本発明におけるSARAをコードする核酸は、配列番号:13で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含む核酸である。
配列番号:13で表される塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含む核酸としては、例えば、配列番号:13で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、前記したSARAと実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードする核酸などが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0083】
SARAをコードする核酸は、好ましくは配列番号:13で表される塩基配列で示されるヒトSARA蛋白質をコードする塩基配列を含む核酸である。
【0084】
SARAをコードする核酸は、該SARAをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、SARAの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J.Sambrook et al.,Cold Spring HarborLab.Press,1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1%SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0085】
また、SARAをコードする核酸は、該核酸を含む発現ベクターであってもよい。例えば、SARAをコードする核酸から目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。該発現ベクターにおいては、SARAをコードする核酸(好ましくはDNA)は、投与対象である個体(好ましくはヒト)の細胞(例えば、尿路上皮癌細胞)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。また、該発現ベクターの種類、該発現ベクターに含まれうるプロモーター、ターミネーター領域、選択マーカー遺伝子は、本発明の治療剤Iに記載されたものと同様である。
【0086】
以上の通りにして得られるSARAまたはSARAをコードする塩基配列を含む核酸は、尿路上皮癌の治療剤IIとして提供することができる。SARAまたはSARAをコードする塩基配列を含む核酸は、低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の哺乳動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与、経尿道投与など)に投与することができる。その製剤化の方法、投与経路、薬理学的に許容され得る担体、投与量などは本発明の治療剤Iに記載されたものと同様である。
【0087】
7.尿路上皮癌の治療剤III
後述する実施例の通り、miR-130b、miR-301aまたはmiR-301bに対する阻害分子が、miR-130b、miR-301aまたはmiR-301bのPTEN(Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10)の3’非翻訳領域への結合を阻害したことから、PTENが尿路上皮癌の治療標的であることが示唆された。従って、本発明はまた、PTENまたはPTENをコードする核酸を含む、尿路上皮癌の治療剤(以下、本発明の治療剤III)を提供する。本発明の治療剤IIIにおいて治療することができる尿路上皮癌とは、本発明の治療剤IまたはIIに記載されたものと同様である。
【0088】
本発明におけるPTENは、配列番号:16で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質である。
配列番号:16で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号:16で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。より好ましくは、配列番号:16で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:16で表されるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0089】
配列番号:16で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、例えば、前記の配列番号:16で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号:16で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質などが好ましい。ここで「活性」とは、例えば、ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(PtdIns(3,4,5)P
3)を基質とした脱リン酸化、癌抑制作用などをいう。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、生理学的または薬理学的)に同じであることを示す。したがって、前記活性は同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例えば、約0.1〜約10倍、好ましくは約0.5〜約2倍)や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
前記活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができる。
【0090】
また、本発明のPTENには、例えば、配列番号:16で表されるアミノ酸配列のうち1〜数(2、3、4もしくは5)個のアミノ酸が欠失し、付加し、挿入され、または置換されたアミノ酸配列なども含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、蛋白質の活性が保持される限り特に限定されない。
【0091】
PTENは、本発明の治療剤IIにおいて記載した方法と同様の方法で製造し、精製することができる。
【0092】
また、本発明におけるPTENをコードする核酸は、配列番号:15で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含む核酸である。
配列番号:15で表される塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含む核酸としては、例えば、配列番号:15で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、前記したPTENと実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードする核酸などが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0093】
PTENをコードする核酸は、好ましくは配列番号:15で表される塩基配列で示されるヒトPTEN蛋白質をコードする塩基配列を含む核酸である。
【0094】
PTENをコードする核酸または該核酸を含む発現ベクターは、本発明の治療剤IIにおいて記載した方法と同様の方法でクローニングまたは製造することができる。該発現ベクターの種類、該発現ベクターに含まれうるプロモーター、ターミネーター領域、選択マーカー遺伝子は、本発明の治療剤IまたはIIに記載されたものと同様である。
【0095】
以上の通りにして得られるPTENまたはPTENをコードする塩基配列を含む核酸は、尿路上皮癌の治療剤IIIとして提供することができる。PTENまたはPTENをコードする塩基配列を含む核酸は、低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の哺乳動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与、経尿道投与など)に投与することができる。その製剤化の方法、投与経路、薬理学的に許容され得る担体、投与量などは本発明の治療剤IまたはIIに記載されたものと同様である。
【0096】
本発明の治療剤IIおよびIIIは、本発明の治療剤Iと併用してもよい。その場合、本発明の治療剤IIおよびIIIは、本発明の治療剤Iにさらに含まれていてよく、三者は同時または異なった時間に、患者に投与すればよい。
【実施例】
【0097】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0098】
実施例1 腎盂尿管癌手術検体を用いたmiRNA発現の網羅的解析により浸潤・転移に関わる標的miRNAの同定
(方法)
1.手術検体からのRNA抽出
腎盂尿管癌の凍結手術組織をRNA later ICE Frozen Tissue Transition Solution (Ambion) 内で-20℃、16時間以上保存してRNAを安定化させた。その後、組織片をQIAZOL (QIAGEN) 700 μLと破砕用φ5mmジルコニアビーズ1個が入ったサンプルチューブに入れ、 Micro smash MS-100 (TOMY) にて4800 rpm、30秒を2回、途中1分間氷上放置を入れて破砕した。組織ホモジネートに、クロロホルム140 μLを添加し、混和した後12000 gで15分間遠心し、得られた水層をRNA抽出に用いた。miRNeasy Mini Kit (QIAGEN)およびRNeasy MinElute Cleanup Kit (QIAGEN)を用いて添付のプロトコールに従い、200 nt以上、200 nt以下の分画に分けてRNA抽出を行った。抽出RNAの濃度は極微量分光光度計Nano Drop1000(NanoDrop Technologies)を用いて測定した。RNA純度の確認には、Experion RNA StdSens Analysis Kit (BIO-RAD)を用いた。抽出したRNA 1 μLをRNA StdSens chip(Bio-Rad)にアプライし、全自動チップ電気泳動システムExperion Automated Electrophoresis station(Bio-Rad)にて解析した。なおRNA純度は、RQI(RNA Quality Indicator)を指標とし、完全性を1(分解度が極めて高い)から10(分解していない)の間の数値で評価した。アレイ解析にはRQI7以上を検体として用いた。
2.miRNAアレイ方法
miRNAを含む200 nt以下のRNA 200 ngを用いて、FlashTag
Biotin HSR (Genisphere) を用いてビオチンラベルを行った。ビオチン化されたRNAをもとにGeneChip Eukaryotic Hybridization Control Kit (Affymetrix) を用いてHybridization Cocktail を作成後、GeneChip miRNA 2.0 Array (Affymetrix)に注入し、48℃、60 rpm、16時間hybridizationを行った。Hybridization終了後、GeneChip(登録商標) Fluidics Station 450 (Affymetrix)を使用してGeneChip Hybridization Wash and Stain Kit (Affymetrix)によりarrayの自動洗浄・染色を行い、GeneChip Scanner 3000 (Affymetrix)によりスキャンした。データ解析は、Partek Genomics Suite
TM (Partek)とGeneSpring GX(Agilent Technologies)を用いた。
(結果)
腎盂尿管癌(21例)を表在型(7例)と浸潤型(14例)で比較解析したところ、p<0.05かつfold changeの絶対値で2倍以上の条件を満たすmiRNAは次の71種であった。
let-7c-star、miR-1、miR-93、miR-934、miR-93-star、miR-96、miR-99a、miR-99a-star、miR-100、miR-106a、miR-106b、miR-106b-star、miR-10b、miR-10b-star、miR-25、miR-27b-star、miR-28-3p、miR-125b、miR-125b-1-star、miR-125b-2-star、miR-127-3p、miR-133a、miR-133b、miR-139-3p、miR-139-5p、miR-140-3p、miR-141、miR-141-star、miR-143、miR-143-star、miR-145、miR-152、miR-15a、miR-17、miR-182、miR-183、miR-183-star、miR-18a、miR-18b、miR-1912、miR-195、miR-199a-5p、miR-200a、miR-200a-star、miR-200b、miR-200b-star、miR-200c、miR-200c-star、miR-205、miR-20a、miR-20b、miR-210、miR-214、miR-214-star、miR-3065-5p、miR-342-3p、miR-381、miR-425、miR-425-star、miR-4269、miR-429、miR-4306、miR-4324、miR-4329、miR-486-5p、miR-497、miR-504、miR-574-3p、miR-584、miR-629、miR-671-5p
一方、表在性癌と浸潤癌の間でp<0.05かつfold changeの絶対値で2倍以上の条件を満たすmiRNAは次の13種であった。この内、表在性癌で高発現が見られたものはmiR-100、miR-383、miR-379、miR-150、miR-10b、miR-199-5p、一方浸潤癌の方で高発現が見られたものはmiR-301a、miR-301b、miR-130b、miR-210、miR-224、miR-203、miR-3187であった。
【0099】
実施例2 尿路上皮癌の浸潤・転移診断法の確立
(方法)
miR-130b、miR-301a、miR-301b、miR-210のreal-time PCR解析
尿路上皮癌手術検体よりmiRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出精製し、Experion RNA StdSens Analysis Kit (BIO-RAD)を用いて純度確認を行ったtotal RNA各500 ngよりMir-X miRNA First-Strand Synthesis Kit(Clontech)を用いてcDNA合成を行った。20倍希釈cDNAを鋳型としてSsoAdvanced SYBR Green Supermix(BIO-RAD)を用いてCFX96 Real-Time System(BIO-RAD)にてmiR-130ファミリー(miR-130b、miR-301a、miR-301b)とmiR-210及びリファレンスとしてU6 snRNAのreal-time PCR解析を行った。Real-time PCR条件としては、denaturation 98℃30秒、その後95℃2秒→63℃5秒を40サイクル、dissociation curve作成に対し55℃から5秒間で0.5℃ずつ95℃まで上昇させた。各miRNAの発現定量にはcDNA混合溶液の2倍段階希釈検量線を用いた相対定量法を採用した。miR-130ファミリー、miR-210に対する特異的プライマーの配列を表1に示す。なおU6 snRNAに対する特異的プライマーはkit付属のものを使用した。
【0100】
【表1】
【0101】
(結果)
腎盂尿管癌手術検体21検体に関してmiR-130ファミリー、miR-210に着目したreal-time PCR解析を行い、表在性癌及び浸潤性癌における発現を比較した。その結果、表在性腎盂尿管癌に対し浸潤性腎盂尿管癌においてmiR-130b、miR-301a、miR-301b、miR-210が高発現していることが確認でき、またmiR-130b、miR-301a、miR-301bに関しては有意差も認められた(
図1)。
またこれら4種のmiRNAの発現結果を用いてROC解析を行った。その結果AUCが0.888であった。さらにPCA-ロジスティック回帰を用いた解析により、82%以上の正答率で腎盂尿管癌の表在性癌と浸潤癌を判別できることも示された。
上記結果を受け、腎盂尿管癌と同様に尿路上皮癌に含まれる膀胱癌臨床検体におけるmiR-130b,miR-301a,miR-301bの発現をreal-time PCR解析した。解析検体は正常膀胱2例、正常尿管16例、表在性癌(pTa:9例)、浸潤癌(pT1〜pT3:5例)である。その結果、miR-301b及びmiR-130bの発現は正常膀胱や正常尿管より発現上昇が見られ、さらに浸潤性膀胱癌では表在性膀胱癌に対し有意に高いことが判明した(
図2)。
さらに、表在性膀胱癌(pTa)検体を、細胞異型と構造異型を含めた異型度(grade)が低度な表在性膀胱癌検体(pTa low検体)と高度な表在性膀胱癌検体(pTa high検体)に分類し、両検体と尿路上皮細胞からなる膀胱と尿管の正常部(正常尿路上皮)検体におけるmiR-130b,miR-301a,miR-301bの発現をreal-time PCR解析した。解析検体は正常尿路上皮:21例、pTa low grade:9例、pTa high grade:4例である。その結果、正常尿路上皮やpTa low gradeに比べ、pTa high gradeでは、miR-130b,miR-301a,miR-301bの有意な上昇が認められた(
図3)。
【0102】
実施例3 miR-130b、miR-301a、miR-301bを標的とした尿路上皮癌の治療法の確立
(方法)
1.miR-130 family-targeted LNAの合成
miR-130b、miR-301a、miR-301bの配列を表2に示す。この配列内においてagugcaauの8塩基は共通している。そこでこの配列に着目し、その相補的な配列をlocked nucleic acid(LNA)を用いて合成し(GeneDesign)、miR-130 family-targeted LNAとして使用した。
【0103】
【表2】
【0104】
2.miR-130 family inhibitor及びmiR-130 family-targeted LNA トランスフェクション
96-well plateに膀胱癌細胞株5637を1.2×10
4個/ well (miR-130 family inhibitor,Thermo)、あるいは0.6×10
4個/ well(miR-130 family-targeted LNA)播種し、24時間後にmiR inhibitorとレポーターとしてpmirGLO miRNA Target Expression Vector (Promega)を導入した。導入終濃度はレポーター遺伝子が50 ng / well、miR inhibitorあるいはLNAは50 nM / well、Lipofectamin 2000 (Life Technologies)は0.4 μL / wellとした。この混合液を15分静置した後、96-well plateに50 μLずつ添加した。その4時間後に培地をウシ胎児血清(FCS)入りのRPMI-1640培地に変更した。
3.Dual-Luciferase Reporter Assay
Dual-Luciferase AssayはDual-Luciferase Reporter Assay System (Promega)を用いて添付のプロトコールに従った。ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼの発光をGloMax 20/20n Luminometer (Promega)を用いてそれぞれ10秒間の積算値として測定した。内在性microRNA活性はホタルルシフェラーゼの測定値をウミシイタケルシフェラーゼの測定値で割った値とした。
(結果)
miR-130b、miR-301a、miR-301bに対する各hairpin inhibitorは内在性のmiR-130 familyを阻害できることを確認した(
図4左)。同様にmiR-130 family-targeted LNAも内在性のmiR-130 familyを阻害できていることが明らかとなった(
図4右)。
【0105】
実施例4 miR-130 family inhibitorの膀胱癌細胞株の遊走能に対する作用
(方法)
Wound healing assay
24-well plateに膀胱癌細胞株5637を3.5×10
4個/ well (miR-130 family inhibitor)、あるいは1.6×10
4個 / well(miR-130 family-targeted LNA)播種した。miR-130 family inhibitorに関してはリバース法で播種と同時にトランスフェクトし、miR-130 family-targeted LNAは播種後24時間目にトランスフェクションした。72時間後に1 mLチップの先端で培養中の細胞に傷を付け、12時間後にhealedしてきた面積をImage Jを用いて定量して細胞遊走能を算出した。
(結果)
miR-130 family inhibitor、miR-130 family-targeted LNA共に傷を付けた領域に遊走してくる細胞数が顕著に低下しており、遊走能が有意に抑制された(
図5〜8)。
【0106】
実施例5 miR-130 family inhibitorの膀胱癌細胞株の浸潤能に対する作用
(方法)
xCELLigenceシステムを用いた細胞浸潤能評価
miR-130 family inhibitor及びmiR-130 family-targeted LNAを膀胱癌細胞株5637にトランスフェクションし、24時間後に細胞を回収した。xCELLigence リアルタイムセルアナライザーDPシステム (Roche)の浸潤能評価用プレートCIM-Plate16のアッパーチャンバーをマトリゲル (Becton, Dickinson and Company)で処理後、200 μLの10%FCS含有RPMI-1640を添加したローアーチャンバーに装着した。気泡がないことを確認した後アッパーチャンバーに30 μLのRPMI-1640を加え、xCELLigenceにセットした。インキュベーター内で1時間インキュベートした後バックグラウンドを測定した。この後に細胞懸濁液を100 μL添加し測定を開始した。アッパーチャンバーのマトリゲルを分解し、ローアーチャンバーへと到達した細胞を電気抵抗に基づき検出して浸潤能として評価した。
(結果)
miR-130 family inhibitorによるmiR-130b、miR-301a、miR-301bそれぞれ単独での阻害では浸潤能が抑制される傾向はあるものの有意差は認められなかった(
図9左)。しかしmiR-130 family-targeted LNAを用いた実験では、強力に浸潤能を阻害するという結果が得られた(
図9右)。
【0107】
実施例6 miR-130 family inhibitorの標的分子としてのSARAの評価
(方法)
miR-130 family inhibitor によるSARAの発現抑制
miR-130 familyの標的配列を持つ遺伝子のうち細胞遊走と浸潤に関与しうる因子としてSARA (Smad Anchor for Receptor Activation)に着目した。そこでSARAの3’非翻訳領域(UTR)をpmirGLOベクターにクローニングし、luciferase assayによりmiR-130 family がSARAの制御分子であるかを評価した。
(結果)
pmirGLO SARA 3’UTRベクターを5637細胞内にトランスフェクションするとluciferase活性は抑制され、その抑制作用はmiR-130 family inhibitorの存在により解除された(
図10)。つまり5637細胞においてSARAはmiR-130 familyの標的であることが明らかになった。
【0108】
実施例7 血中、尿中miR-130ファミリーの発現解析
(方法)
健常人ならびに腎盂尿管癌患者の尿を凍結融解後、2000gで遠心分離後、その上清をさらに17000gで30 分間遠心し沈殿物を得た。得られた沈殿からmiRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出精製した。Total RNA 10 ngよりUniversal cDNA synthesis kit(EXIQON)を用いてcDNA合成を行い、SYBR Green master mix, Universal RT(EXIQON)及びMicroRNA LNA PCR primer set(EXIQON)を用いCFX96 Real-Time System(BIO-RAD)にてmiR-130ファミリー(miR-130b、miR-301a、miR-301b)とmiR-210及びリファレンスとしてU6 snRNAのreal-time PCR解析を行った。
一方、膀胱癌患者の手術前後の血清0.2 mLからはmiRNeasy Serum/Plasma Kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出精製した。これらのRNAよりMir-X miRNA First-Strand Synthesis Kit(Clontech)を用いてcDNA合成を行い、SsoAdvanced SYBR Green Supermix(BIO-RAD)を用いCFX96 Real-Time System(BIO-RAD)にてmiR-130ファミリー(miR-130b、miR-301a、miR-301b、miR-210)及びリファレンスとしてmiR-92a、miR-24のreal-time PCR解析を同様に行った。データは各miRNAの手術後(after)の相対発現率から手術前(before)の相対発現率を引いた差を取り示した。
(結果)
腎盂尿管癌患者尿中の沈殿画分において、健常人あるいは表在性癌患者(Sup.)と比べ、浸潤癌患者(Inv.)において、miR-130b、miR-301a、miR-210レベルの高値が認められた(
図11)。一方、膀胱癌浸潤癌患者の術前、術後血清の比較において、miR-130b、miR-210レベルが術後に顕著に低下していた(
図12)。
【0109】
実施例8 In vivo xenograft modelによる抗腫瘍作用評価
(方法)
8週齢雌性BALB/c nu/nuマウスの左腹部皮下にヒト膀胱癌細胞5637(1x10
7 cells)をマトリゲル(Becton Dickinson and Company)と1:1混合物として200 μl移植した。移植1か月後にアテロコラーゲン(Koken)を用いてコントロールLNA(NC)とmiR-130 family-targeted LNA(LNA)を2 nmol / 匹で週1回4週間投与した。腫瘍径の計測は週2回実施し、腫瘍体積は(長径)×(短径)
2×0.5の式を用いて計算した。
(結果)
NC投与群では、腫瘍体積の増加が認められた。一方、LNA投与群では、1回目投与から顕著な抗腫瘍作用が認められ、その作用は27日目においても有意であった(
図13)。
【0110】
実施例9 miR-130 family-targeted LNAの抗腫瘍作用機序解析
(方法)
1.Dual-Luciferase Reporter Assay
実施例3と同様にしてDual-Luciferase Reporter Assayを行った。なおluciferase vector(pmir-GLO, Promega)にHomo sapiens chromosome 10, alternate assembly CHM1_1.1, whole genome shotgun sequenceの情報を用いてPTENの3’-非翻訳領域(
図14A)の90007894 bp - 90009905 bpの2012 bpを挿入したものを使用した。
2.Western blot解析
miR-130 family阻害剤あるいはmiR-130 family-targeted LNAを5637細胞にトランスフェクションし、3日後にSDS sample bufferを用いて細胞を回収し、95 ℃ で 10 分加温して細胞ライセートとして使用した。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後、Trans-Blot SD Semi-Dry Transfer Cell (BIO-RAD) もしくは Trans-Blot Turbo Transfer System (BIO-RAD) を用いてPVDFメンブラン(GE Healthcare)にトランスファーした。その後5%スキムミルク溶液を用いてブロッキングを行い、抗PTEN抗体(Sigma)を用いてwestern blotを行った。検出ではImageQuant LAS 4000mini (GE Healthcare) を用いた。
3.免疫組織化学染色
パラフィン包埋された膀胱癌臨床検体から回転式ミクロトーム用いて5 μm薄層切片を切り出し、スライドガラスにマウントした。スライドガラスを68℃オーブンで10 min処理した後、キシレンに5分間 2回浸し、エタノール(100%、2回→95%→80%→70%→50%)、蒸留水、蒸留水+Tween 20の順に浸して脱パラフィン処理を行った。次に抗原賦活液を入れたウォーターバスを用いて10分間オートクレーブ処理を行い、抗原の賦活化を行った。このスライドガラスに5分間3%過酸化水素水を処理することでブロッキングを行った。1次抗体(抗PTEN抗体、Cell Signaling Technology)は4℃一晩処理し、Tris Buffered Saline-Tween 20(TBS-T)で洗浄後に2次抗体を室温45分間処理した。これを3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド試薬で処理した後、Gill Hematoxilinを用いてカウンターステインを4分間行った。その後、蒸留水、エタノール(70%→80%→95%→100%、2回)、キシレン(2回)の順番に浸し、封入剤を滴下してカバーガラスを載せてプレパラートを作製した。
(結果)
腫瘍抑制遺伝子PTENの3’-非翻訳領域にはmiR-130ファミリー分子の標的配列が存在する。よってLNAがPTENの発現を抑制することにより抗腫瘍作用を発現することが推測された。そこで実際にPTENの発現がmiR-130ファミリー分子を高発現する膀胱癌細胞5637において抑制されるかをPTEN 3’-非翻訳領域を有するluciferase vectorを構築して検討した。その結果、mockトランスフェクションと比べ、PTEN 3’-非翻訳領域含有ベクターにおいて有意なluciferase発現レベルの低下が認められた(
図14B)。この結果は、膀胱癌細胞においてPTENがmiR-130ファミリー分子によって発現制御されていることを示唆した。そこでmiR-130ファミリー分子阻害剤あるいはLNAのトランスフェクションによりPTENの発現が回復するかをwestern blotにより解析した。その結果、miR-130ファミリー分子の阻害剤とともにLNAは顕著なPTEN発現上昇をもたらした。これらの結果よりmiR-130ファミリー分子がPTENの翻訳を抑制していることが示された(
図14C)。さらに膀胱癌臨床検体を用いたPTENの免疫組織化学的解析により、miR-130ファミリー分子の発現が低い検体ではPTENの強い染色が認められ、一方、miR-130ファミリー分子の発現が高い検体ではPTEN発現が弱いことが示された(
図15)。これらの結果より、miR-130ファミリー分子はPTENの発現制御により抗腫瘍作用を示したことが示唆される。