特許第6445227号(P6445227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6445227
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】真空ポンプおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/14 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   H02P23/14
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-552082(P2018-552082)
(86)(22)【出願日】2018年6月20日
(86)【国際出願番号】JP2018023490
【審査請求日】2018年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2017-210448(P2017-210448)
(32)【優先日】2017年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】木村 康宏
(72)【発明者】
【氏名】町家 賢二
(72)【発明者】
【氏名】徳平 真之介
(72)【発明者】
【氏名】井上 英晃
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−111793(JP,A)
【文献】 特開2001−119983(JP,A)
【文献】 特開2002−199776(JP,A)
【文献】 特表2004−522040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/00−23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、金属製のケーシング部とを有するポンプ本体と、
前記ケーシング部に取り付けられ、前記ケーシング部の温度を検出する第1の温度センサと、
永久磁石を含み前記回転軸に取り付けられたロータコアと、複数のコイルを有するステータコアと、前記ロータコアを収容するキャンと、を有するモータと、
あらかじめ設定された誘起電圧定数を基に前記モータを回転させる駆動信号を前記複数のコイルへ供給する駆動回路と、前記第1の温度センサの出力に基づいて前記誘起電圧定数を補正する補正回路とを有する制御ユニットと
を具備する真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプであって、
前記補正回路は、前記ケーシング部の温度が所定の温度範囲の場合には、前記ケーシング部の温度が高いほど前記モータの誘起電圧が低下するように前記誘起電圧定数を補正する
真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプであって、
前記補正回路は、前記ケーシング部の温度が第1の温度以上第2の温度未満の場合には、第1の温度勾配を有する第1の近似直線に従って前記誘起電圧定数を補正し、前記ケーシング部の温度が前記第2の温度以上第3の温度未満の場合には、前記第1の温度勾配とは異なる第2の温度勾配を有する第2の近似直線に従って前記誘起電圧定数を補正する
真空ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の真空ポンプであって、
前記第1の温度勾配は、前記第2の温度勾配よりも大きい
真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の真空ポンプであって、
前記制御ユニットは、前記駆動回路の温度を検出する第2の温度センサをさらに有し、
前記駆動回路は、前記駆動回路の温度が前記第3の温度以上の場合には、前記複数のコイルへの前記駆動信号の供給を停止する
真空ポンプ。
【請求項6】
永久磁石同期型のモータを備えた真空ポンプの制御方法であって、
あらかじめ設定された誘起電圧定数を基に前記モータを回転させる駆動信号を生成し、
ポンプ本体の一部を構成する金属製のケーシング部に取り付けられた温度センサの出力に基づいて、前記誘起電圧定数を補正する
真空ポンプの制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の真空ポンプの制御方法であって、
前記ケーシング部の温度が所定の温度範囲の場合には、前記ケーシング部の温度が高いほど前記モータの誘起電圧が低下するように前記誘起電圧定数を補正する
真空ポンプの制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の真空ポンプの制御方法であって、
前記ケーシング部の温度が第1の温度以上第2の温度未満の場合には、第1の温度勾配を有する第1の近似直線に従って前記誘起電圧定数を補正し、
前記ケーシング部の温度が前記第2の温度以上第3の温度未満の場合には、前記第1の温度勾配とは異なる第2の温度勾配を有する第2の近似直線に従って前記誘起電圧定数を補正する
真空ポンプの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期モータを備えた真空ポンプおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルブースタポンプは、ケーシング内部のポンプ室に配置された二つのマユ型ポンプロータを互いに反対方向に同期回転させて吸気口から排気口へ気体を移送する容積移送型の真空ポンプである。メカニカルブースタポンプは、両ポンプロータ間および各ポンプロータとケーシングとの間での接触がないため、機械的損失が非常に少なく、例えば油回転真空ポンプのような摩擦仕事の大きい真空ポンプに比べて、駆動に要するエネルギーを少なくできるという利点を有する。
メカニカルブースタポンプは、典型的には補助ポンプとともに真空排気系を構成し、補助ポンプである程度まで圧力を下げた後に運転を開始して排気速度を増幅させるために用いられる。
【0003】
この種の真空ポンプにおいては、各ポンプロータを回転させる駆動源として、キャンドモータが広く用いられている。キャンドモータは、ロータコアとステータコアとの間の隙間に挿入された円筒状のキャンを有する。ロータコアはキャンによって密封されるため、軸受部を介してロータコア内に侵入した気体の大気(外気)側への漏出が防止される。例えば特許文献1には、永久磁石同期型のキャンドモータが開示されている。
【0004】
一方、永久磁石同期モータにおいては、ロータコアに固定された永久磁石が温度特性を有するため、温度変化に伴う永久磁石の磁束量の変化がモータ制御やポンプ性能に大きな影響を与える場合がある。例えば、高負荷によりモータ温度が高温になると、永久磁石の磁束量の減少によりモータが脱調してしまい、所望とするポンプ性能が得られなくなる。
また仮に定格動力で安定する温度で発揮される磁束を想定したとしても、始動時から安定温度になる迄はポンプ性能が維持できない。
【0005】
このような問題を解消するため、例えば特許文献2には、永久磁石電動機のハウジング部に取り付けられた温度検出器でインバータ内部の温度を検出し、温度検出器により検出された温度から、永久磁石の温度を推定し、推定された温度に基づき電動機を制御するための制御定数を補正するポンプ装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−295222号公報
【特許文献2】特開2016−111793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載のポンプ装置においては、電動機のハウジング部の温度を基に永久磁石の温度を推定している。しかしながら、上記ハウジング部の温度特性がロータコアの永久磁石の温度特性と異なるため、電動機の適切な回転数制御を実現することが困難である。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、熱変動が生じたとしてもポンプ性能を安定に維持することができる真空ポンプおよびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空ポンプは、ポンプ本体と、第1の温度センサと、モータと、制御ユニットとを具備する。
上記ポンプ本体は、回転軸と、金属製のケーシング部とを有する。
上記第1の温度センサは、上記ケーシング部に取り付けられ、上記ケーシング部の温度を検出する。
上記モータは、永久磁石を含み上記回転軸に取り付けられたロータコアと、複数のコイルを有するステータコアと、上記ロータコアを収容するキャンと、を有する。
上記制御ユニットは、駆動回路と、補正回路とを有する。上記駆動回路は、あらかじめ設定された誘起電圧定数を基に上記モータを回転させる駆動信号を上記複数のコイルへ供給する。上記補正回路は、上記第1の温度センサの出力に基づいて、上記誘起電圧定数を補正する。
【0010】
上記真空ポンプによれば、第1の温度センサが、ロータコアの永久磁石と同様の熱時定数を持つように構成されたポンプ本体のケーシング部の温度を検出するように構成されているため、永久磁石の温度の推定精度が高められる。これにより、熱変動が生じたとしても、誘起電圧定数の最適化を図ることができるため、ポンプ性能を安定に維持することができる。
【0011】
上記補正回路は、典型的には、上記ケーシング部の温度が所定の温度範囲の場合には、上記ケーシング部の温度が高いほど上記モータの誘起電圧が低下するように上記誘起電圧定数を補正するように構成される。
これにより、モータ温度の上昇に伴う永久磁石の磁束量の減少によるモータの脱調を防いで、真空ポンプの高負荷連続運転を実現することができる。
【0012】
上記補正回路は、上記ケーシング部の温度が第1の温度以上第2の温度未満の場合には、第1の温度勾配を有する第1の近似直線に従って上記誘起電圧定数を補正し、上記ケーシング部の温度が上記第2の温度以上第3の温度未満の場合には、上記第1の温度勾配とは異なる第2の温度勾配を有する第2の近似直線に従って上記誘起電圧定数を補正するように構成されてもよい。
【0013】
上記制御ユニットは、上記駆動回路の温度を検出する第2の温度センサをさらに有してもよい。上記駆動回路は、上記駆動回路の温度が上記第3の温度以上の場合には、上記複数のコイルへの上記駆動信号の供給を停止する。
駆動回路の温度を検出する第2の温度センサが第1の温度センサとは別に設けられているため、駆動回路の温度を適切に検出することができる。
【0014】
本発明の一形態に係る真空ポンプの制御方法は、永久磁石同期型のモータを備えた真空ポンプの制御方法であって、あらかじめ設定された誘起電圧定数を基に上記モータを回転させる駆動信号を生成することを含む。
ポンプ本体の一部を構成する金属製のケーシング部に取り付けられた温度センサの出力に基づいて、上記誘起電圧定数が補正される。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、熱変動が生じたとしてもポンプ性能を安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る真空ポンプの一方側から見た全体斜視図である。
図2】上記真空ポンプの他方側から見た全体斜視図である。
図3】上記真空ポンプの内部構造を示す概略拡大横断面図である。
図4】上記真空ポンプの内部構造を示す概略側断面図である。
図5】上記真空ポンプにおける制御ユニットの構成を概略的に示すブロック図である。
図6】上記制御ユニットによる補正回路の内部電圧の制御例を示す図である。
図7】所定条件で運転させたときの上記真空ポンプの各部の温度変化を示す一実験結果である。
図8】上記真空ポンプにおける第1の温度センサの取り付け例を説明する斜視図である。
図9】上記第1の温度センサを用いた温度検出方法を説明する等価回路図である。
図10】上記制御ユニットにおける補正回路の作用を説明する概念図である。
図11】上記第1の温度センサに基づくモータのロータコア推定温度と入力電圧との関係を示す図である。
図12】上記制御ユニットによって実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
[全体構成]
図1は本発明の一実施形態に係る真空ポンプの一方側から見た全体斜視図、図2は上記真空ポンプの他方側から見た全体斜視図、図3は上記真空ポンプの内部構造を示す概略拡大横断面図、図4は上記真空ポンプの内部構造を示す概略側断面図である。
図においてX軸、Y軸およびZ軸は、相互に直交する3軸方向を示している。
【0019】
本実施形態の真空ポンプ100は、ポンプ本体10と、モータ20と、制御ユニット30とを有する。真空ポンプ100は、単段のメカニカルブースタポンプで構成される。
【0020】
(ポンプ本体)
ポンプ本体10は、第1のポンプロータ11と、第2のポンプロータ12と、第1及び第2のポンプロータ11,12を収容するケーシング13とを有する。
【0021】
ケーシング13は、第1のケーシング部131と、第1のケーシング部131のY軸方向の両端に配置された隔壁132,133と、隔壁133に固定された第2のケーシング部134とを有する。第1のケーシング部131および隔壁132,133は、第1及び第2のポンプロータ11,12を収容するポンプ室Pを形成する。
【0022】
第1のケーシング部131及び隔壁132,133は、例えば、鋳鉄やステンレス鋼等の鉄系金属材料で構成され、図示しないシールリングを介して相互に結合されている。第2のケーシング部134は、例えば、アルミニウム合金等の非鉄系金属材料で構成される。
【0023】
第1のケーシング部131の一方の主面にはポンプ室Pに連通する吸気口E1が形成され、その他方の主面にはポンプ室Pに連通する排気口E2が形成される。吸気口E1には、図示しない真空チャンバの内部と連絡する吸気管が接続され、排気口E2には、図示しない排気管あるいは補助ポンプの吸気口と接続される。
【0024】
第1及び第2のポンプロータ11,12は、鋳鉄等の鉄系材料からなるマユ型ロータで構成され、X軸方向に相互に対向して配置される。第1及び第2のポンプロータ11,12は、Y軸方向に平行な回転軸11s,12sをそれぞれ有する。各回転軸11s,12sの一端部11s1,12s1側は、隔壁132に固定されたベアリングB1に回転可能に支持されており、各回転軸11s,12sの他端部11s2,12s2側は、隔壁133に固定されたベアリングB2に回転可能に支持される。第1のポンプロータ11と第2のポンプロータ12との間、および、各ポンプロータ11,12とポンプ室Pの内壁面との間には所定の隙間が形成されており、各ポンプロータ11,12は相互に及びポンプ室Pの内壁面に非接触で回転するように構成される。
【0025】
第1のポンプロータ11の回転軸11sの一端部11s1には、モータ20を構成するロータコア21が固定され、ロータコア21とベアリングB1との間には第1の同期ギヤ141が固定される。第2のポンプロータ12の回転軸12sの一端部12s1には、第1の同期ギヤ141と噛み合う第2の同期ギヤ142が固定されている。モータ20の駆動により、第1及び第2のポンプロータ11,12は、同期ギヤ141,142を介して相互に逆方向に回転し、これにより吸気口E1から排気口E2へ気体が移送される。
【0026】
(モータ)
モータ20は、永久磁石同期型のキャンドモータで構成される。モータ20は、ロータコア21と、ステータコア22と、キャン23と、モータケース24とを有する。
【0027】
ロータコア21は、第1のポンプロータ11の回転軸11sの一端部11s1に固定される。ロータコア21は、電磁鋼板の積層体とその周面に取り付けられた複数の永久磁石Mとを有する。永久磁石Mは、ロータコア21の周囲に沿って極性(N極、S極)を交互に異ならせて配置される。
【0028】
本実施形態では、永久磁石材料として、ネオジム磁石やフェライト磁石等の鉄系材料が用いられる。永久磁石の配置形態は特に限定されず、ロータコア21の表面に永久磁石が配置される表面磁石型(SPM)であってもよいし、ロータコア21に永久磁石が埋め込まれる埋込磁石型(IPM)であってもよい。
【0029】
ステータコア22は、ロータコア21の周囲に配置され、モータケース24の内壁面に固定される。ステータコア22は、電磁鋼板の積層体とそれに巻回された複数のコイルCとを有する。コイルCは、U相巻線、V相巻線およびW相巻線を含む三相巻線で構成され、それぞれ制御ユニット30に電気的に接続される。
【0030】
キャン23は、ロータコア21とステータコア22との間に配置され、内部にロータコア21を収容する。キャン23は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の合成樹脂材料で構成された、ギヤ室G側の一端が開口する有底の円筒部材である。キャン23は、その開口端部側の周囲に装着されたシールリングSを介してモータケース24に固定され、ロータコア21を大気(外気)から封止する。
【0031】
モータケース24は、例えば、アルミニウム合金で構成され、ロータコア21、ステータコア22、キャン23および同期ギヤ141,142を収容する。モータケース24は、図示しないシールリングを介して隔壁132に固定されることで、ギヤ室Gを形成する。ギヤ室Gは、同期ギヤ141,142およびベアリングB1を潤滑するための潤滑油を収容する。モータケース24の外表面には、典型的には、複数の放熱フィンが設けられる。
【0032】
モータケース24の先端はカバー25で被覆されている。カバー25には外気と連通可能な通孔が設けられており、モータ20に隣接して配置された冷却ファン50を介してロータコア21やステータコア22を冷却することが可能に構成される。冷却ファン50に代えて又は加えて、モータケース24を水冷可能な構造にしてもよい。
【0033】
(制御ユニット)
図5は、制御ユニット30の構成を概略的に示すブロック図である。
【0034】
図5に示すように、制御ユニット30は、駆動回路31と、位置検出部32と、SW(スイッチング)制御部33とを有する。制御ユニット30は、モータ20の駆動を制御するためのものである。制御ユニット30は、モータケース24に設置された金属製等のケース内に収容された回路基板やその上に搭載された各種電子部品で構成される。
【0035】
駆動回路31は、モータ20を所定の回転数で回転させる駆動信号を生成する。複数の半導体スイッチング素子(トランジスタ)を有するインバータ回路で構成される。これら半導体スイッチング素子は、SW制御部33により開閉タイミングが個別に制御されることにより、ステータコア22のコイルC(U相巻線、V相巻線およびW相巻線)へ供給される駆動信号をそれぞれ生成する。
【0036】
駆動回路31は、温度センサ42(第2の温度センサ)を有する。温度センサ42は、駆動回路31の温度を検出し、これが所定温度(例えば90℃)以上の場合、駆動回路31は、コイルCへの駆動信号の供給を停止する。これにより、モータ20をフリーランの状態にしてモータ20の更なる温度上昇を防ぐことができる。
【0037】
位置検出部32は、ステータ22のコイルCと電気的に接続される。位置検出部32は、コイルCと交わる磁束(鎖交磁束)の時間的変化に起因してコイルCに発生する逆起電力の波形からロータコア21の磁極位置を間接的に検出し、それをコイルCへの通電タイミングを制御する位置検出信号としてSW制御部33へ出力する。
【0038】
SW制御部33は、誘起電圧定数(Ke)と、位置検出部32によって検出されたロータコア21の磁極位置とに基づいて、ステータコア22のコイルC(三相巻線)を励磁するための制御信号を駆動回路31へ出力する。すなわち、SW制御部33は、位置検出部32により取得されるロータコアの磁極位置からモータ20の負荷トルクを検出し、その負荷トルクに基づいてモータ20を脱調させることなく回転させる制御信号を生成し、これを駆動回路31へ出力するように構成される。誘起電圧定数は、モータの誘起電圧を制御するための制御パラメータであり、典型的には、ロータコア21(永久磁石M)の磁束の強さ、真空ポンプの仕様あるいは運転条件等に応じて決定された任意の値がSW制御部33にあらかじめ設定される。
【0039】
ここで、高負荷運転が連続すると、ポンプ本体10は機械仕事等により発熱し、モータ20もまた渦電流損失等により発熱する。ロータコア21の温度が上昇すると、永久磁石Mの磁束量が減少し(減磁)、モータ20が脱調しやすくなる。モータ20が脱調すると、目的とするポンプ性能が得られなくなる。このためモータ20の発熱時は、モータ20を脱調させずにポンプ性能を維持することができる技術が要求される。
【0040】
本実施形態の真空ポンプ100は、ロータコア21(永久磁石M)の温度を推定し、その推定された温度に基づいて、上記誘起電圧定数を補正するように構成される。つまり、モータ温度の変化によってインバータ(駆動回路31)に設定する誘起電圧定数とロータコアの永久磁石Mの磁束量とがずれてしまうことを防止するため、インバータの誘起電圧定数をモータの磁束量の変化に合わせて補正することにより、モータ20の脱調を防止する。
【0041】
ここで、モータ20の誘起電圧は、駆動回路31からコイルCへの入力電圧で制御される。入力電圧は、後述する補正回路331の内部電圧(Vout)(図9参照)によって決定される。補正回路331の内部電圧は、典型的には図6に示すように、モータ温度が高くなるほど低くなるように設定される。補正回路の内部電圧の値は、誘起電圧定数で決定される。
【0042】
本実施形態の真空ポンプ100は、ポンプ本体10の第1のケーシング部131の温度に基づいてロータコア21の温度を推定し、その推定値を基に誘起電圧定数を補正するように構成される。第1のケーシング部131は金属製材料で構成されているため、ロータコアの永久磁石と同様の熱時定数を有する。これにより、ロータコア21および永久磁石Mの温度の推定精度が高まり、高負荷運転時におけるモータの適切な駆動制御が実現可能となる。
【0043】
図7は、40℃の外気温度で2時間以上連続排気(負荷運転)した後、運転を停止させて大気解放(冷却)したときの真空ポンプ100の各部の温度変化を示す一実験結果である。同図において、ロータ温度P1はロータコア21の温度、コイル温度P2はコイルCの温度、ポンプケース温度P3は第1のケーシング部131の温度、モータケース温度P4はモータケース24の表面温度をそれぞれ示している。
【0044】
なお、P1の測定にはモータケース24の先端に設置した放射温度計の出力を参照した(測定領域の放射率の違いによる影響を抑えるため、測定領域を黒塗りして放射率を調整した)。P2〜P4の計測には各々の部位に設置したサーミスタ等の測温素子の出力を参照した。
【0045】
図7に示すように、ポンプケース温度P3は、ロータコア21(永久磁石M)と同じFe系の材料で構成された第1のケーシング部131の温度に相当し、コイル温度P2やモータケース温度P4と比較して、ロータ温度P1とほぼ同様な温度特性を有する。これは、第1のケーシング部131が運転時の昇温源の一つであるポンプ室Pに面するとともに、放冷特性がロータコア21と同等となる熱容量を有することが原因と推定される。したがって、ポンプケース温度P3を参照することでロータコア21の温度を比較的高い精度で推定することができる。
【0046】
そこで本実施形態の真空ポンプ100は、第1のケーシング部131の温度を検出する温度センサ41(第1の温度センサ)を備える。温度センサ41にはサーミスタが採用されるが、これに限られず、熱電対等の他の測温素子が採用されてもよい。温度センサ41の出力は配線ケーブル43を介してSW制御部33へ入力される。
【0047】
温度センサ41の取り付け方法は特に限定されず、例えば図8に示すように、温度センサ41は第1のケーシング部131の外面にネジ等の適宜の固定具61を用いて固定される。温度センサ41が取り付けられる第1のケーシング部131の部位も特に限定されず、第1のケーシング部131の一端側(隔壁132側)でもよいし、他端側(隔壁133側)でもよいし、それらの中間部であってもよい。
【0048】
SW制御部33は、温度センサ41の出力に基づいて、モータ20の制御パラメータである誘起電圧定数を補正する補正回路331を有する。本実施形態において補正回路331は、SW制御部33の一部として構成されるが、SW制御部33とは別回路で構成されてもよい。
【0049】
図9は、SW制御部33と補正回路331と温度センサ41との関係を示す等価回路である。温度センサ41は分圧抵抗40を介してSW制御部33へ接続され、温度センサ41と分圧抵抗40とにより構成される分圧回路の出力(Vout)が補正回路331へ入力される。分圧回路の出力(Vout)は、補正回路331の内部電圧に相当する。
【0050】
補正回路331は、第1のケーシング部131の温度が所定の温度範囲の場合には、第1のケーシング部131の温度が高いほどモータ20の誘起電圧が低下するように誘起電圧定数を補正するように構成される。これにより、モータ20の熱変動、例えば、モータ温度の上昇に伴う永久磁石Mの磁束量の減少によるモータ20の脱調を防いで、真空ポンプ100の高負荷連続運転を実現することができる。
【0051】
例えば図10は、補正回路331による誘起電圧定数の補正の一例を示す概念図であって、温度センサ41の出力を基に推定されたロータコア21の温度と誘起電圧定数との関係を示している。補正回路331は、ロータコア21の推定温度が高いほど、誘起電圧定数を小さくする。つまり、モータ温度に関係なく一定の誘起電圧定数でモータ20を駆動する比較例と異なり、温度上昇に伴う永久磁石Mの磁力減少量に見合った誘起電圧定数でモータ20を駆動する。これにより、モータ20の脱調を生じさせることなく、真空ポンプ100を安定に駆動することが可能となる。
【0052】
さらに図10の例では、0℃以上の温度範囲において、ロータコア21の推定温度に対して誘起電圧定数が直線的に変化する。この場合の誘起電圧定数の傾きは、永久磁石Mの温度係数に対応するように設定される。永久磁石Mの温度係数が非線形の場合には、誘起電圧定数の勾配も非線形となるように設定することができる。誘起電圧定数を補正する温度の下限は0℃に限られず、0℃よりも高温あるいは低温であってもよい。
【0053】
温度センサ41の出力に基づくロータコア21の温度の推定方法について説明する。
図11に温度センサ41の出力の温度特性を示す。温度センサ41には半導体部品であるサーミスタが用いられ、ロータコア21(永久磁石M)とは異なる非線形な温度特性を有する。そこで、補正回路331は、温度センサ41の出力に基づき、40℃〜90℃の温度範囲においては図中太実線で示すようにロータコア21(永久磁石M)の温度を推定する近似直線APを設定し、近似直線APに対応する温度をロータコア21の推定温度として取得する。補正回路331は、取得した推定温度を基に、誘起電圧定数を補正する(図10)。
【0054】
例えば、温度センサ41の検出温度が70℃の場合、補正回路331の内部電圧は4.5Vである(図11)。補正回路331は、その内部電圧の値に応じたロータコア21の推定温度を近似直線APから取得し(本例では80℃)、当該推定温度に対応する値に誘起電圧定数を補正する(図10参照)。
【0055】
さらに本実施形態の補正回路331は、図11に示すように、温度センサ41により検出される第1のケーシング部131の温度が第1の温度Th1(40℃)以上第2の温度Th2(70℃)未満の場合には、第1の温度勾配を有する第1の近似直線AP1に従って誘起電圧定数を補正する。
一方、温度センサ41により検出される第1のケーシング部131の温度が第2の温度Th2以上第3の温度Th3(90℃)未満の場合には、補正回路331は、上記第1の温度勾配とは異なる第2の温度勾配を有する第2の近似直線AP2に従って誘起電圧定数を補正する。
【0056】
上記第1及び第2の勾配は、40℃以上90℃以下における温度センサ41の出力の温度特性に応じて適宜設定される。本実施形態では当該温度範囲におけるロータコア21の推定温度が温度センサ41により検出される温度よりも例えば10℃程度高くなるように、第1の温度勾配が第2の勾配よりも大きく設定される。このようにロータコア推定温度を若干高めに推定することで、当該温度範囲おけるモータ20の脱調を確実に防止することができる。
【0057】
第1〜第3の温度Th1〜Th3は一例であり、モータの種類や仕様に応じて各々適宜変更可能である。第1及び第2の近似直線AP1,AP2も、温度センサ41の温度特性に応じて適宜設定可能である。近似直線は2つに限られず、1つ又は3つ以上設定されてもよい。近似式は直線に限られず、曲線であってもよい、また、近似式は連続的でなくてもよく、離散的であってもよい。
【0058】
補正回路331は、第1のケーシング部131の温度が第1の温度Th1(40℃)未満の場合、ロータコア21(永久磁石M)の温度を第1の温度Th1と推定する。一方、補正回路331は、第1のケーシング部131の温度が第3の温度Th3(90℃)以上の場合、ロータコア21(永久磁石M)の温度を第3の温度Th3と推定する。駆動回路31の温度が90℃以上になると、上述のように、温度センサ42(図5参照)の出力に基づいて駆動回路31は駆動信号の生成を停止する。
【0059】
補正回路331は、温度センサ41の配線ケーブル43の断線を検出したとき、真空ポンプ20の駆動が停止するようにモータ20を停止させ、あるいはフリーランの状態にするように駆動回路31を制御するように構成される。配線ケーブル43の断線は、分圧回路の出力(Vout)(図9参照)に基づいて検出することができる。
【0060】
[真空ポンプの動作]
次に、以上のように構成される本実施形態の真空ポンプ100の典型的な動作について説明する。
【0061】
図12は、制御ユニット30によって実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0062】
真空ポンプ100の運転が開始されると、制御ユニット30は、あらかじめ設定された(補正前の)誘起電圧定数(Ke)を基にモータ20を所定の回転数で回転させる駆動信号を生成する。モータ20の作動により第1及び第2のポンプロータ11,12が回転し、吸気口E1より吸入された図示しない真空チャンバ内の気体を排気口E2から排出する所定のポンプ作用が行われる。
【0063】
高負荷運転が連続すると、ポンプ本体10は機械仕事等により発熱し、モータ20もまた渦電流損失等により発熱する。ロータコア21の温度が上昇すると、永久磁石Mの磁束量が減少し(減磁)、モータ20が脱調しやすくなる。モータ20が脱調すると、目的とするポンプ性能が得られなくなる。
【0064】
そこで、制御ユニット30(補正回路331)は、ポンプ本体10の一部を構成する鉄系のケーシング部(第1のケーシング部131)に取り付けられた温度センサ41の出力に基づいて、モータ20の誘起電圧を制御するための誘起電圧定数を補正する。
【0065】
より詳細には、図12に示すように、補正回路331は、温度センサ41(第1の温度センサ)の出力に基づいて第1のケーシング部131の温度を取得する(ステップ101)。そして、補正回路331は、第1のケーシング部131の温度が第1の温度Th1(40℃)以上か否か判定し、第1の温度Th1未満の場合は、ロータコア21(永久磁石M)の温度を第1の温度Th1と推定し、制御定数を変更することなくモータ20の駆動を継続する(ステップ102,103)。
【0066】
一方、第1のケーシング部131の温度が第1の温度Th1以上、第2の温度Th2(70℃)未満の場合、補正回路331は、第1の近似直線AP1に従って、誘起電圧を低下させるように誘起電圧定数を補正する(図6,10,11、ステップ104,105)。
補正回路331は、第1のケーシング部131の温度が第2の温度Th2以上、第3の温度Th3(90℃)未満の場合には、第2の近似直線AP2(図11参照)に従って、誘起電圧を低下させるように誘起電圧定数を補正する(図6,10,11ステップ106,107)。
【0067】
以上のように、第1のケーシング部131の温度が高くなるほどモータ20の誘起電圧が低下するように誘起電圧定数を補正するようにしているため、モータ20の脱調を生じさせることなく、真空ポンプ100を安定に駆動することが可能となる。モータ20の誘起電圧の補正の前後において、典型的には、回転数は変化せず一定に維持される。このため、ポンプ性能は安定に維持される。
【0068】
メカニカルブースタポンプでは、さらに高負荷(大気圧近傍)において、しばしば回転数を下げてポンプを保護するトルクリミッタを使用する場合がある。その場合は、ポンプの仕事が低下して、モータロータ温度およびポンプ本体温度が低下するため、それに追従して誘電圧定数を上げて、トルクリミッタ中も安定制御を実現する。
【0069】
第1のケーシング部131の温度が第3の温度Th3以上の場合、制御ユニット30は、ロータコア21(永久磁石M)の温度を第3の温度と推定し、第3の温度に応じた誘起電圧定数で引き続きモータ20を駆動する。モータ20の温度がさらに上昇すると、駆動回路31内の温度センサ42の出力に基づき、駆動回路31による駆動信号の生成が停止し、モータ20をフリーランの状態にさせる。配線ケーブル43の断線等により温度センサ41からの出力が得られないときも同様に、モータ20をフリーランの状態にさせる。
以上の動作は、真空ポンプ100の運転停止操作が行われるまで、繰り返し実行される(ステップ109)。
【0070】
本実施形態によれば、温度センサ41が、ロータコア21の永久磁石Mと同様の熱時定数を有する材料で構成された第1のケーシング部131の温度を検出するように構成されているため、永久磁石Mの温度の推定精度が高められる。これにより、高負荷運転時におけるモータの適切な駆動制御を実現することができる。そして、高負荷(高圧力)領域でのポンプ性能を安定に維持することができるため、排気時間を短縮でき、真空処理の生産性を向上させることができる。
【0071】
本実施形態によれば、ロータコア21(永久磁石M)の温度に応じてモータ20の誘起電圧定数を補正するようにしているため、モータ20の冷却に比較的大容量の冷却構造を必要とすることなく、モータ20を脱調させずに駆動することができる。このような効果は、永久磁石同期型のキャンドモータを備えた真空ポンプの設備コストの低減に大きく貢献することができる。
【0072】
さらに本実施形態によれば、駆動回路31の温度を検出する温度センサ42を、ロータコア21の温度推定用の温度センサ41とは別に設けられているため、駆動回路31の温度を適切に検出して、駆動回路31の保護を図ることができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0074】
例えば以上の実施形態では、真空ポンプとしてメカニカルブースタポンプを例に挙げて説明したが、これに限られず、スクリューポンプや多段ルーツポンプ等の他の容積移送型真空ポンプに本発明は適用可能である。
【0075】
また、以上の実施形態では、温度センサ41がポンプ本体10の第1のケーシング部131の温度を検出するように構成されたが、これに限られず、温度センサ41は、隔壁132,133あるいは第2のケーシング部134の温度を検出するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10…ポンプ本体
11s,12s…回転軸
20…モータ
21…ロータコア
22…ステータコア
23…キャン
24…モータケース
30…制御ユニット
31…駆動回路
32…位置検出部
33…SW制御部
41…第1の温度センサ
42…第2の温度センサ
100…真空ポンプ
131…第1のケーシング部
331…補正回路
M…永久磁石
【要約】
本発明の一形態に係る真空ポンプは、ポンプ本体と、第1の温度センサと、モータと、制御ユニットとを具備する。上記ポンプ本体は、回転軸と、金属製のケーシング部とを有する。上記第1の温度センサは、上記ケーシング部に取り付けられ、上記ケーシング部の温度を検出する。上記モータは、永久磁石を含み上記回転軸に取り付けられたロータコアと、複数のコイルを有するステータコアと、上記ロータコアを収容するキャンと、を有する。上記制御ユニットは、駆動回路と、補正回路とを有する。上記駆動回路は、あらかじめ設定された誘起電圧定数を基に上記モータを回転させる駆動信号を上記複数のコイルへ供給する。上記補正回路は、上記第1の温度センサの出力に基づいて上記誘起電圧定数を補正する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12