(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のモルタルコンクリート補強用繊維は、ポリビニルアルコール繊維であり、弾性率が100cN/dtex以上、繊維末端部損傷度が5%以下である。
【0011】
本発明のポリビニルアルコール繊維の弾性率は、100cN/dtex以上、好ましくは120cN/dtex以上、より好ましくは140cN/dtex以上である。ポリビニルアルコール繊維の弾性率が上記下限値以上であると、モルタルコンクリートに対する補強性能に優れ、高い機械的強度を有するモルタルコンクリートを製造することができる。ポリビニルアルコール繊維の弾性率が100cN/dtex未満であると、繊維末端部損傷度は低くなる傾向にあるものの、モルタルコンクリートに対する補強性能が低下する。本発明のポリビニルアルコール繊維の弾性率の上限値は、特に限定されないが、例えば300cN/dtex以下である。なお、弾性率は、以下の実施例における方法によって測定することができる。
【0012】
本発明のポリビニルアルコール繊維の繊維末端部損傷度は、5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。ポリビニルアルコール繊維の繊維末端部損傷度が上記上限値以下であると、セメント成分および水を含む水硬性組成物とポリビニルアルコール繊維とを混合する際における繊維の分散性が向上し、モルタルコンクリートに対する補強性能を向上させることができる。また、ポリビニルアルコール繊維の繊維末端部損傷度が上記上限値以下であると、水硬性組成物と繊維とを混合する際に抵抗になり難く、繊維の添加による流動性の低減を効果的に抑えることができ、さらに、水硬性組成物への繊維の添加速度を上げても繊維同士の絡み合いが生じ難く、作業性が向上する。ポリビニルアルコール繊維の繊維末端部損傷度が5%を超えると、繊維の添加方法によってはファイバーボールが発生し易くなる。例えば、繊維の添加速度が速すぎるとファイバーボールが発生し易く、モルタルコンクリートの機械的強度が低下し、また水硬性組成物の流動性が低下する場合がある。なお、本発明のポリビニルアルコール繊維の繊維末端部損傷度は、通常0%以上である。
【0013】
繊維末端部損傷度は、以下の方法によって測定することができる。任意に選択した繊維100本に対して、ビデオマイクロスコープ等を用いてその両方の末端部を観察し、繊維の一方または両方の末端部において繊維長方向に長さ1mm以上の亀裂がある場合、または繊維径に対してその水平方向に20%以上の広がりを有する亀裂がある場合は、その繊維は損傷を有すると判断し、繊維100本中における損傷を有する繊維の割合を繊維末端部損傷度として表すことができる。
【0014】
本発明のポリビニルアルコール繊維の繊維長は、好ましくは6mm以上、より好ましくは8mm以上、さらに好ましくは10mm以上であり、好ましくは60mm以下、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは40mm以下である。ポリビニルアルコール繊維の繊維長が上記上限値以下であると、繊維同士の絡まり合いがさらに抑えられ、モルタルコンクリート内での分散性がさらに高くなり、またモルタルコンクリートの伸縮に対する繊維の追従性に優れるため、モルタルコンクリートに対する補強性能がさらに向上する。ポリビニルアルコール繊維の繊維長が上記下限値以上であると、繊維のモルタルコンクリートへの付着性が高くなり、モルタルコンクリートに対する補強性能にさらに優れる。
【0015】
本発明のポリビニルアルコール繊維のアスペクト比は、好ましくは20〜200、より好ましくは25〜150、さらに好ましくは30〜120である。ポリビニルアルコール繊維のアスペクト比が上記範囲内であると、繊維同士の絡まり合いが抑えられ、モルタルコンクリート内での分散性がさらに高くなるため、モルタルコンクリートに対する補強性能を高めることができる。なお、本発明においてアスペクト比とは、繊維長(L)と繊維径(D)との比(L/D)を意味している。アスペクト比は、JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法(8.5.1)」に準拠して繊維長を算出し、繊維径との比により繊維のアスペクト比を算出することができる。
【0016】
本発明のポリビニルアルコール繊維の平均繊維強度は、好ましくは4.0cN/dtex以上、より好ましくは4.5cN/dtex以上、さらに好ましくは5.0cN/dtex以上である。ポリビニルアルコール繊維の平均繊維強度が上記下限値以上であると、モルタルコンクリートに対する補強性能を高めることができる。本発明のポリビニルアルコール繊維の平均繊維強度の上限値は、繊維の種類に応じて適宜設定されるが、例えば、20cN/dtex以下である。なお、平均繊維強度は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
【0017】
本発明のポリビニルアルコール繊維は、その分子構造上、親水性に富んだ繊維であり、ポリビニルアルコール繊維中のOHとセメント成分中のCaとが結合するため、セメント成分との親和性が高く、ポリプロピレン等の他の繊維と比較して、化学的接着力が極めて大きい。そのため、繊維全体または一部を異形化せずとも、セメント成分に対する高い付着性を発揮し、モルタルコンクリートに対する高い補強性能を発揮することができる。
また、ポリビニルアルコールは分子構造上、OH基による強固な分子間水素結合を形成可能であるために高結晶性であり、そのため高強度な繊維となるので、モルタルコンクリート補強用繊維として非常に有用である。本発明においては、これらの性質から、モルタルコンクリートに対する補強性能に優れ、モルタルコンクリートの長期にわたるひび割れ幅の拡大を効果的に抑制することができる。
【0018】
本発明のポリビニルアルコール繊維は、ビニルアルコール系ポリマーを含む繊維であり、機械的強度、モルタルコンクリートに対する接着性、および耐アルカリ性等の観点から、当該繊維中におけるビニルアルコール系ポリマーの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。また、本発明のポリビニルアルコール繊維は、他のポリマーとの複合繊維や海島繊維であってもよい。ビニルアルコール系ポリマーは、ポリビニルアルコールから構成され、本発明の効果を損なわない範囲であればポリビニルアルコール以外の他のモノマーとの共重合体であってもよく、また変性されていてもよい。繊維の機械的強度および耐アルカリ性等の観点から、ビニルアルコール系ポリマー中の変性ユニットの比率は好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。また、繊維の機械的強度および耐アルカリ性等の観点から、30℃の水溶液で粘度法により求めた平均重合度は、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上であり、製造コスト等の点から、好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは3000以下である。また、耐熱性、耐久性および寸法安定性の観点から、ケン化度は好ましくは99モル%以上、より好ましくは99.8モル%以上である。
【0019】
本発明のポリビニルアルコール繊維は、例えば、次の方法によって製造することができる。上記のポリビニルアルコール系ポリマーを濃度40〜60質量%の含水チップ状とし、押出機にて加熱溶解し、脱泡する。そして、このポリビニルアルコール系ポリマー水溶液に架橋剤を添加する。架橋剤としては、硫酸アンモニウム、硫酸、リン酸アンモニウム、リン酸、塩酸、硝酸、酢酸およびシュウ酸等が挙げられるが、配管を腐食せず、悪臭がせず、また繊維を発泡させない観点より、硫酸アンモニウムが好ましい。架橋剤の添加量としては、ポリビニルアルコール系ポリマーの質量に対して0.5〜10質量%が好ましい。紡糸原液の温度は90〜140℃が好ましい。このような架橋剤を添加した紡糸原液を加圧してノズル孔から空気中に吐出して乾式紡糸する。ノズル孔は円形のものであっても、円形以外の異形、例えば偏平状、十字型、T字型、Y字型、L字型、三角型、四角型または星型等であってもよい。なお、紡糸方法は、湿式、乾湿式または乾式のいずれの方法であってもよい。
【0020】
次に、紡糸して得られたポリビニルアルコール繊維の乾燥を行う。乾燥温度は、通常100℃以下であり、ある程度まで乾燥が行われた時点で100℃以上の温度条件で乾燥を完全に行うことが好ましい。
【0021】
乾燥後には繊維の延伸を行う。延伸は、通常200〜250℃、好ましくは220〜240℃の延伸温度下で行われる。延伸倍率は、通常5倍以上、好ましくは6倍以上である。延伸時に、紡糸原液中に添加されている架橋剤がポリビニルアルコールのOH基と反応して架橋結合が生じることとなる。延伸は、熱風式延伸炉内で約20秒〜3分の時間をかけて行われる。このように延伸された繊維は、必要により定長または収縮を図るために熱処理を行う。このようにして得られた繊維に、必要により捲縮を付与してもよく、また油剤を塗布してもよい。
【0022】
その後、ポリビニルアルコール繊維を、上記の範囲の繊維長に切断する。切断方式としては、繊維末端部に損傷が生じ難ければ特に限定されず、例えば、サイドカット方式、ウォータージェット方式、レーザーカット方式、ディスクブレードカット方式、超音波カット方式、はさみカット方式等が挙げられる。なかでも、繊維末端部において損傷が特に生じ難いため、サイドカット方式、レーザーカット方式およびウォータージェット方式が好ましく、サイドカット方式がより好ましい。なお、繊維末端部損傷度を低減するには、例えば、刃と繊維との接触面積を最小にするような薄い刃を用いるが、サイドカット方式の場合、使用される刃が薄く、刃と繊維との接触面積を最小にすることができ、同時に刃にかかる衝撃やせん断力を抑えることができるため、繊維末端部における損傷を抑えることができる。レーザーカット方式およびウォータージェット方式の場合、刃を使用しないため、繊維末端部における損傷を抑えることができる。また、繊維末端部損傷度を下げるために、熱もしくは溶剤を用いて繊維末端部を溶解させながら切断してもよく、または切断後に熱および/もしくは溶剤を用いて繊維末端部を溶解させて繊維末端部の損傷を改善してもよい。
【0023】
本発明においては、セメント成分、骨材、および上記ポリビニルアルコール繊維を含むモルタルコンクリートも提供される。当該モルタルコンクリートは、ファイバーボール数が低く、高い機械的強度を有するため、壁材および屋根材等の各種建築材料として有用である。
【0024】
本発明におけるセメント成分としては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、および中庸熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、シリカセメント、ならびにフライアッシュセメントが挙げられる。これらのセメントは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明における骨材としては、必要に応じてさまざまな骨材を使用することができる。そのような骨材として、例えば、細骨材、軽量骨材および粗骨材等が挙げられる。これらの骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0026】
細骨材は、粒径が5mm以下の細骨材であってもよく、例えば、粒径が5mm以下の砂類;珪石、フライアッシュ、高炉スラグ、火山灰系シラス、各種汚泥、および岩石鉱物等の無機質材を粉末化または顆粒状化した細骨材等が挙げられる。これらの細骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。砂類としては、例えば、川砂、山砂、海砂、砕砂、珪砂、鉱滓、ガラス砂、鉄砂、灰砂、炭酸カルシウム、および人工砂等の砂類が挙げられる。これらの細骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0027】
粗骨材は、粒径5mm以上の粒子が85質量%以上含まれる骨材である。粗骨材は、粒径5mm超の粒子からなるものであってもよい。粗骨材としては、例えば、各種砂利類、人工骨材(高炉スラグ等)および再生骨材(建築廃材の再生骨材等)等が挙げられる。これらの粗骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
軽量骨材としては、例えば、火山砂利、膨張スラグおよび炭殻等の天然軽量骨材、ならびに発泡真珠岩、発泡パーライト、発泡黒よう石、バーミキュライト、シラスバルーンおよびフライアッシュマイクロバルーン等の人工軽量骨材が挙げられる。これらの軽量骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
また、本発明のモルタルコンクリートは、上記骨材に加え、機能性骨材を含んでもよい。ここで、機能性骨材とは、有色の骨材、硬質の骨材、弾性を有する骨材、および特定の形状を有する骨材等が挙げられ、具体的には、層状ケイ酸塩(例えば、マイカ、タルク、カオリン)、アルミナ、シリカ等が挙げられる。骨材に対する機能性骨材の割合は、それぞれの種類に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば、骨材と機能性骨材との質量比(骨材/機能性骨材)は、99/1〜70/30であってもよく、好ましくは98/2〜75/25であってもよく、より好ましくは97/3〜80/20であってもよい。これらの機能性骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0030】
骨材の総量(S)とセメント成分(C)の質量比(骨材(S)/セメント成分(C))は、好ましくは1/10〜5/1、より好ましくは1/8〜4/1、さらに好ましくは1/6〜3/1であってもよい。
【0031】
本発明のモルタルコンクリートにおけるポリビニルアルコール繊維の含有量は、繊維の種類、繊維長およびアスペクト比等に応じて適宜設定することができるが、平均繊維径が660μm以上の繊維を用いる場合、モルタルコンクリート全体の体積を基準として、好ましくは1〜70kg/m
3、より好ましくは2〜40kg/m
3、さらに好ましくは3〜30kg/m
3であり、平均繊維径が660μm未満の繊維を用いる場合、モルタルコンクリート全体の体積を基準として、好ましくは1〜70kg/m
3、より好ましくは2〜40kg/m
3、さらに好ましくは2〜30kg/m
3である。繊維の含有量が上記範囲内であると、ポリビニルアルコール繊維による補強効果がさらに高められ、また過剰な繊維含有量に基づく繊維同士の絡み合いが抑制でき、ポリビニルアルコール繊維による補強効果をさらに向上させることができる。
【0032】
本発明のモルタルコンクリートは、必要に応じて各種混和剤を含んでよい。混和剤としては、例えば、AE剤、流動化剤、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、保水剤、撥水剤、膨張剤、硬化促進剤、凝結遅延剤、ポリマーエマルジョン[アクリル系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、およびSBR(スチレンブタジエンゴム)系エマルジョン]等が挙げられる。混和剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて含まれていてもよい。なお、ポリマーエマルジョンは、モルタルコンクリートの脆性を強化するだけでなく、モルタルコンクリート中の成分間の接着力を強化することが可能である。さらに、ポリマーエマルジョンを組み合わせることにより、モルタルコンクリートの透水防止性を向上できるだけでなく、過度の乾燥を抑制することができる。
【0033】
本発明のモルタルコンクリートは、必要に応じて水溶性高分子物質を含んでもよい。水溶性高分子物質としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、およびリグニンスルホン酸塩等が挙げられる。これらの水溶性高分子物質は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されていてもよい。
【0034】
本発明のモルタルコンクリートに含まれるファイバーボール数は、好ましくは0〜5個、より好ましくは0〜1個である。モルタルコンクリート中のファイバーボール数が上記範囲内であると、モルタルコンクリートの機械的強度がより高くなり、曲げ強度および圧縮強度等に優れる。なお、ファイバーボールとは、水硬性組成物中における繊維とセメント成分との混和不良によって生じるものであり、繊維同士が絡み合って形成され、ボール状の形状を有するものである。ファイバーボール数は、後述する実施例に記載された方法によって測定することができる。
【0035】
本発明のモルタルコンクリートのスランプロスは、好ましくは6cm以下、より好ましくは4cm以下、さらに好ましくは2cm以下である。スランプロスが上記上限値以下であると、ポリビニルアルコール繊維とセメント成分との混和性が高いため、作業性が向上する。上記スランプロスの下限値は、特に限定されないが、通常1cm以上である。なお、スランプロスは、JIS A1101によるコンクリートのスランプ試験方法に準拠してスランプ試験を行うことによって測定できる。
【0036】
本発明のモルタルコンクリートは、水、セメント成分、骨材、および必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で各種混和剤等を含む水硬性組成物を、上記ポリビニルアルコール繊維と共に混合し、硬化させることによって得ることができる。
【0037】
水硬性組成物は、公知または慣用のミキサー等の混練手段によって混練される。また、構成される材料の混練順序についても、特に限定されることなく実施できるが、ポリビニルアルコール繊維への物理的衝撃をできるだけ小さく抑えるために、水硬性組成物の構成、水/セメント成分比(W/C)等に応じて、適宜調整される。
【0038】
水硬性組成物における水/セメント成分比(W/C)は、水硬性組成物の構成等に応じて適宜調整されるが、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは25〜45質量%、さらに好ましくは30〜40質量%である。
【0039】
水硬性組成物にポリビニルアルコール繊維を添加する際に、例えば、ポリビニルアルコール繊維の分散性を向上させるため、(i)ポリビニルアルコール繊維を定量供給してもよく、(ii)解された状態のポリビニルアルコール繊維を投入してもよく、(iii)ポリビニルアルコール繊維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、ニーダーを用いてもよい。これらの(i)〜(iii)の方法を、単独でまたは二種以上組み合わせて行ってもよい。
【0040】
ポリビニルアルコール繊維を定量供給する場合、所定の範囲で繊維を連続式に投入できる限り特に限定されない。例えば、繊維の投入量および/または投入速度を制御しながら供給する装置として、各種定量供給装置(例えば、振動フィーダー、スクリューフィーダー、またはベルトフィーダー等)を用いることができる。
【0041】
水硬性組成物に繊維を添加して分散させる場合、本発明のポリビニルアルコール繊維はファイバーボールが発生し難く分散性が高いため、比較的速い添加速度で添加することが可能である。例えば、ポリビニルアルコール繊維の添加速度は、水硬性組成物の固形分1tあたり、好ましくは0.05〜0.5kg/秒、より好ましくは0.07〜0.4kg/秒、さらに好ましくは0.1〜0.3kg/秒である。上記範囲内の添加速度で繊維を混合物に添加すると、効率的に繊維の添加を行うことができるため、作業性に優れ、同時に、繊維がファイバーボールを生成し難い。
【0042】
ポリビニルアルコール繊維を解す場合、例えば、ファイバーボールが水硬性組成物中において生成するのを抑制できる程度に、繊維凝集体を、より小さな繊維集合体単位まで、所定の解離手段等により解すことができる。なお、繊維凝集体を解す場合、繊維強度を維持する観点から、繊維のフィブリル化、繊維の粉砕が生じない範囲で行うことが好ましい。
【0043】
繊維凝集体は、通常、乾式において各種方法で解すことができる。例えば、繊維凝集体(繊維ベール、繊維ベールの粗解繊物、ショートカットファイバー束等)は、突起物を有するロールに繊維を引っかけることにより解してもよく、対向する回転ギアの間を通過させて解してもよく、溝を持つ回転ディスクのせん断力により解してもよく、エアブローの衝突力により解してもよい。これらの方法は、単独でまたは二種以上組み合わせて行ってもよい。例えば、繊維凝集体(所定の長さに切断されたショートカットファイバーの塊等)を乾式で解すことにより繊維同士を引き離し、繊維凝集体を解してもよい。
【0044】
ポリビニルアルコール繊維の分散方法は、繊維が実質的に繊維凝集体として存在していない状態で分散することができる限り、さまざまな方法により繊維の分散を行うことが可能である。例えば、撹拌性能の高いミキサー、ニーダーを用いる場合、撹拌性能の高いミキサー、ニーダーとしては、例えば、双腕ニーダー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサーまたは連続混練機等を使用することができる。
【0045】
その後、ポリビニルアルコール繊維を含む水硬性組成物は、型枠へ投入されるが、必要に応じて、振動を加えられてもよい。振動は、通常型枠を振動させることにより行われる。振動を加えることによって、水硬性組成物が型枠内部において、より均等に分布し易くなる。
【0046】
振動させる際の振動数は、好ましくは10〜1000Hz、より好ましくは20〜900Hz、さらに好ましくは30〜800Hzである。振幅は、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜18μm、さらに好ましくは1〜15μmである。
【0047】
型枠へ投入された水硬性組成物を、上面成形型やロール等を用いてプレスにより押圧してもよい。押圧時の圧力は、混練された水硬性組成物の状態、型枠の形態等によって適宜設定可能であるが、好ましくは10〜150MPa、より好ましくは20〜140MPa、さらに好ましくは30〜130MPaである。圧力が10MPa以上であると各材料の一体化が十分となり、圧力が150MPa以下であると骨材からの押圧による繊維の損傷が生じ難く、繊維強度の低下や型枠の耐久性の低下を避けることができる。
【0048】
押圧は、必要に応じて加熱を行いながら行ってもよい。加熱温度としては、好ましくは40〜90℃、より好ましくは45〜85℃、さらに好ましくは50〜80℃である。
【0049】
所定の形状に成型した後は、100℃以下の雰囲気で養生を行うことによって水硬性組成物を硬化させることにより、本発明のモルタルコンクリートを得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[繊維長、平均繊維径およびアスペクト比]
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法(8.5.1)」に準拠して繊維長を算出し、平均繊維径との比により繊維のアスペクト比を評価した。なお、平均繊維径については、無作為に繊維を100本取り出し、それぞれの繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡により測定し、その平均値を平均繊維径とした。
【0052】
[弾性率および平均繊維強度]
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法(8.5.1)」に準拠し、予め温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で5日間繊維を放置して調湿したのち、単繊維を、長さ60mm、引張速度60mm/分においてFAFEGRAPH M[Textechno製]にて繊維強力を測定し、この強力を繊維径で除して繊維強度を算出した。無作為に選んだ繊維10本以上について繊維強度を測定し、その平均値を平均繊維強度とした。
【0053】
[繊維末端部損傷度]
同一ロットにおいて任意に選択したポリビニルアルコール繊維100本に対して、ビデオマイクロスコープ等を用いてその両方の末端部を観察し、繊維の一方または両方の末端部において繊維長方向に長さ1mm以上の亀裂がある場合、または繊維径に対してその水平方向に20%以上の広がりを有する亀裂がある場合は、その繊維は損傷を有すると判断した。ポリビニルアルコール繊維100本中における損傷を有する繊維の割合を、繊維末端部損傷度とした。
【0054】
[ファイバーボール数]
強制二軸ミキサーで混練した50Lの繊維補強コンクリートを容器に排出し、全量を触手にてファイバーボールの有無を確認した。約3cm以上の容易に解れないファイバーボールを取り出し、その個数をファイバーボール数とした。
【0055】
[スランプロス]
JIS A1101「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠してスランプ試験を行い、コーン(上辺直径10cm、下辺直径20cm、高さ30cm)にフレッシュコンクリートを所定の手順で満たし、コーンを引き上げ、崩れたフレッシュコンクリートを上辺部の下がりを測定し、その数値をスランプロスとした。
【0056】
[最大耐力(MOR)および曲げ靱性係数]
JIS A1106「コンクリートの曲げ強度試験方法」に準拠して、ミキサーで混練されたモルタルを、15cm×15cm×53cmの角柱形状の型枠に流し込んだ後、20℃の室内で28日養生した後、強度試験を行った。曲げ強度試験を、最大容量2000kNの万能試験機にて行い、最大耐力(MOR:Modulus of Rupture)および曲げ靱性係数を測定した。
【0057】
実施例および比較例において、以下の成分を用いた。
(繊維)
・PVA:ポリビニルアルコール繊維(円形断面)、(株)クラレ製
・PP :ポリプロピレン繊維(円形断面)、萩原工業(株)製バルチップMK
(セメント成分)
・普通ポルトランドセメント、太平洋セメント社製
(骨材)
・岡山県倉敷市産の砕石および砕砂
(混和剤)
・BASF製レオビルドSP−8N
【0058】
[実施例1]
まず、平均繊維径660μmのPVA繊維をサイドカット方式によって切断し、繊維長30mm、アスペクト比45とした。容量50Lの二軸強制練りミキサー(メーカー:(株)マルイ製、品番:SD−55)を用いて、上記セメント成分(320質量部)、砕石(910質量部)、砕砂(770質量部)および混和剤(セメント成分に対して0.4質量%)を1分間ドライブレンドした後、水および混和剤を添加し、さらに1分間混合し、水/セメント成分比(W/C)が50質量%である水硬性組成物を得た。その後、この水硬性組成物に対して、上記繊維を添加し、1分間混練を行った。なお、繊維の添加量は、水硬性組成物1m
3に対して6kg/m
3とした。こうして得られた繊維を含む水硬性組成物を用いて、スランプ試験およびファイバーボール数の測定試験を行った。その測定結果を表1に示す。
次に、上記水硬性組成物を、15cm×15cm×53cmの角柱形状の型枠に流し込んだ後、20℃の室内で28日養生し、得られたモルタルコンクリートを用いて強度試験を行った。その測定結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2〜3および比較例1〜4]
表1に示された繊維および繊維の切断方式を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各種測定を行った。その測定結果を表1に示す。なお、繊維の添加量は、平均繊維径が660μm以上の繊維の場合(実施例2ならびに比較例1、2および4)は、水硬性組成物1m
3に対して6kg/m
3とし、平均繊維径が200μmの繊維の場合(実施例3および比較例3)は、水硬性組成物1m
3に対して2kg/m
3とした。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示されるように、繊維末端部損傷度が5%以下である実施例1〜3において得られたモルタルコンクリートは、ファイバーボール数が0個となり、モルタルコンクリート中の欠陥の発生が抑えられることが分かる。また、スランプロスが低い数値となり、本発明のポリビニルアルコール繊維は高い分散性を有し、それゆえに高い流動性をもたらしていることも分かる。さらに、同一の平均繊維径、繊維長およびアスペクト比を有し、異なる繊維末端部損傷度を有する実施例1および比較例1、ならびに実施例3および比較例3をそれぞれ比べると、本発明のモルタルコンクリートはいずれもMOR(最大耐力)および曲げ靱性係数が高いため、本発明のポリビニルアルコール繊維を用いた場合には優れた補強性能が発揮されることが明らかである。