(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現するためには、半導体デバイス表面を精度よく平坦化処理する必要がある。
【0003】
半導体デバイス表面の平坦化技術として、化学的機械研磨(CMP(Chemical
Mechanical Polishing))が知られている。CMPを行うための研磨装置は、研磨パッドが貼り付けられた研磨テーブルと、研磨対象物(例えば半導体ウエハなどの基板、又は基板の表面に形成された各種の膜)を保持するためのトップリングとを備えている。研磨装置は、研磨テーブルを回転させながら、トップリングに保持された研磨対象物を研磨パッドに押圧することによって研磨対象物を研磨する。
【0004】
研磨装置は、基板の表面に形成されたバリア膜や金属膜などの導電膜を研磨する研磨工程に広く用いられている。研磨工程の終点検知や、研磨中における研磨条件の変更は、導電膜の厚さに基づいて決定される。このため、研磨装置は、一般に、研磨中の導電膜の厚さを検出する膜厚検出器を備えている。膜厚検出器の代表的な装置として渦電流センサが挙げられる。
【0005】
渦電流センサは、研磨テーブル内に配置され、研磨テーブルの回転にともなって回転する。渦電流センサは、交流電源に接続されたコイルを備えている。渦電流センサは、研磨テーブルの回転にともなって研磨対象物の下方を通過している間に、コイルによって磁界を発生させる。これによって、研磨対象物の導電膜には渦電流が誘起される。渦電流は、導電膜の抵抗、すなわち導電膜の膜厚、に応じて大きさが変化する。渦電流センサは、導電膜に誘起された渦電流によって発生する磁界の変化から導電膜の厚さを検出するように構成されている。
【0006】
ところで、研磨対象物の研磨を行っている最中には、研磨対象物と研磨パッドとの摩擦によって熱が発生する。この熱による渦電流センサの周囲の雰囲気温度の上昇に起因して、渦電流センサの出力がドリフトする場合がある。
【0007】
そこで、第1の従来技術では、渦電流センサの周囲に温度センサを設け、温度センサによって検出された温度に応じて、渦電流センサの温度ドリフトを補正することが知られている。
【0008】
また、第2の従来技術では、渦電流センサの上方に研磨対象物が存在しない時の渦電流センサの出力信号を用いて温度ドリフトに対する補正量を求めることが知られている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本願発明の一実施形態に係る膜厚測定値の補正方法、及び、膜厚補正器を図面に基づいて説明する。
【0024】
<研磨装置>
図1は、研磨装置及び膜厚補正器の全体構成を模式的に示す図である。まず、研磨装置について説明する。
【0025】
図1に示すように、研磨装置100は、研磨対象物(例えば、半導体ウエハなどの基板、又は基板の表面に形成された各種の膜)102を研磨するための研磨パッド108を上面に取付け可能な研磨テーブル110と、研磨テーブル110を回転駆動する第1の電動モータ112と、研磨対象物102を保持可能なトップリング116と、トップリング116を回転駆動する第2の電動モータ118と、を備える。
【0026】
また、研磨装置100は、研磨パッド108の上面に研磨材を含む研磨砥液を供給するスラリーライン120を備える。また、研磨装置100は、研磨装置100に関する各種制御信号を出力する研磨装置制御部140を備える。
【0027】
研磨装置100は、研磨対象物102を研磨するときは、研磨砥粒を含む研磨スラリーをスラリーライン120から研磨パッド108の上面に供給し、第1の電動モータ112によって研磨テーブル110を回転駆動する。そして、研磨装置100は、トップリング116を、研磨テーブル110の回転軸とは偏心した回転軸回りで回転させた状態で、トップリング116に保持された研磨対象物102を研磨パッド108に押圧する。これにより、研磨対象物102は研磨スラリーを保持した研磨パッド108によって研磨され、平坦化される。
【0028】
次に、研磨終点検出装置200について説明する。
図1に示すように、研磨終点検出装置200は、渦電流センサ210と、ロータリージョイント・コネクタ160,170を介して渦電流センサ210と接続された終点検出装置本体220と、を備える。
【0029】
<渦電流センサ>
まず、渦電流センサ210について説明する。研磨テーブル110及び研磨パッド108には、渦電流センサ210を研磨テーブル110の裏面側から挿入できる穴が形成されている。渦電流センサ210は、研磨テーブル110及び研磨パッド108に形成された穴に挿入される。
【0030】
図2は、研磨テーブル110と渦電流センサ210と研磨対象物102との関係を示す平面図である。
図2に示すように、渦電流センサ210は、トップリング116に保持された研磨中の研磨対象物102の中心Cwを通過する位置に設置されている。符号C
Tは研磨テーブル110の回転中心である。例えば、渦電流センサ210は、研磨対象物102の下方を通過している間、通過軌跡(走査線)上で連続的に研磨対象物102の厚さを検出できるようになっている。
【0031】
図3は、渦電流センサ210の出力の推移を示す図である。
図3Aは渦電流センサ210の出力を示す図であり、
図3Bは、渦電流センサ210が研磨対象物102を走査(スキャン)するときの軌跡を示す図である。
図3Aにおいて、横軸は研磨時間を示しており、縦軸は渦電流センサの出力の大きさを示している。
【0032】
図3に示すように、研磨対象物102は、
図3Bに示した位置で中心Cwを軸に回転する。一方、研磨テーブル110の回転にともない、渦電流センサ210は、中心C
Tを軸に軌跡212に沿って回転する。その結果、研磨対象物102を研磨する研磨工程には、渦電流センサ210が研磨対象物102の下方を通過しておらず渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向しない第1の状態(研磨対象物外領域B)が含まれる。また、研磨工程には、渦電流センサ210が研磨対象物102の下方を通過することによって渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向する第2の状態(研磨対象物内領域A)が含まれる。第1の状態と第2の状態は、研磨テーブル110の回転にともなって交互に出現する。なお、本実施形態は、研磨テーブル110に渦電流センサ210を設置して、渦電流センサ210を回転させる例を示したが、これには限られない。研磨工程に第1の状態と第2の状態とが含まれるような態様であれば、本実施形態を適用することができる。また、本実施形態は渦電流センサ210を用いる例を示したが、これには限られない。研磨対象物102の膜厚を測定するためのセンサであれば、本実施形態を適用することができる。
【0033】
図3Aに示すように、渦電流センサ210が研磨対象物内領域Aにあるときには、渦電流センサ210から、研磨対象物102に反応した概略方形パルス状の信号が出力される。一方、渦電流センサ210が研磨対象物外領域Bにあるときには、渦電流が発生する研磨対象物が存在しないので、渦電流センサ210から、一定の低レベルの信号が出力され
る。
【0034】
図4は、渦電流センサ210の構成を示す図である。
図4Aは渦電流センサ210の構成を示すブロック図であり、
図4Bは渦電流センサ210の等価回路図である。
【0035】
図4Aに示すように、渦電流センサ210は、検出対象の金属膜等の研磨対象物102の近傍に配置されるセンサコイル260を備える。センサコイル260には、交流信号源262が接続される。ここで、検出対象の研磨対象物102は、例えば半導体ウエハ上に形成されたCu,Al,Au,Wなどの薄膜である。センサコイル260は、検出対象の研磨対象物102に対して、例えば0.5〜5.0mm程度の近傍に配置される。
【0036】
渦電流センサ210には、研磨対象物102に渦電流が生じることに起因する交流信号源262の発振周波数の変化、に基づいて導電膜を検出する周波数タイプがある。また、渦電流センサ210には、研磨対象物102に渦電流が生じることに起因する交流信号源262から見たインピーダンスの変化、に基づいて導電膜を検出するインピーダンスタイプがある。すなわち、周波数タイプでは、
図3Bに示す等価回路において、渦電流I
2が変化することによって、インピーダンスZが変化し、その結果、交流信号源(可変周波数発振器)262の発振周波数が変化する。渦電流センサ210は、検波回路264でこの発振周波数の変化を検出し、導電膜の変化を検出することができる。インピーダンスタイプでは、
図3Bに示す等価回路において、渦電流I
2が変化することによって、インピーダンスZが変化し、その結果、交流信号源(固定周波数発振器)262から見たインピーダンスZが変化する。渦電流センサ210は、検波回路264でこのインピーダンスZの変化を検出し、導電膜の変化を検出することができる。
【0037】
インピーダンスタイプの渦電流センサでは、信号出力X、Y、位相、合成インピーダンスZ、が取り出される。周波数F、またはインピーダンスX、Y等から、導電膜の測定情報が得られる。渦電流センサ210は、
図1に示すように研磨テーブル110の内部の表面付近の位置に内蔵することができ、研磨対象物102に対して研磨パッドを介して対向するように位置している間は、研磨対象物102に流れる渦電流から導電膜の変化を検出することができる。
【0038】
以下に、インピーダンスタイプの渦電流センサについて具体的に説明する。交流信号源262は、1〜50MHz程度の固定周波数の発振器であり、例えば水晶発振器が用いられる。そして、交流信号源262により供給される交流電圧により、センサコイル260に電流I
1が流れる。研磨対象物102の近傍に配置されたセンサコイル260に電流が流れることで、センサコイル260から発生する磁束が研磨対象物102と鎖交する。その結果、センサコイル260と研磨対象物102の間に相互インダクタンスMが形成され、研磨対象物102中に渦電流I
2が流れる。ここでR1はセンサコイル260を含む一次側の抵抗であり、L
1は同様にセンサコイル260を含む一次側の自己インダクタンスである。研磨対象物102側では、R2は渦電流損に相当する抵抗であり、L
2は研磨対象物102の自己インダクタンスである。交流信号源262の端子a,bからセンサコイル260側を見たインピーダンスZは、渦電流I
2によって発生する磁力線の影響で変化する。
【0039】
図5は、本発明の渦電流センサにおいて用いられているセンサコイルの構成例を示す概略図である。
図5に示すように、渦電流センサのセンサコイル260は、ボビン270に巻回された3個のコイル272,273,274を備える。コイル272は、交流信号源262に接続される励磁コイルである。励磁コイル272は、交流信号源262から供給される交流電流により励磁され、近傍に配置される研磨対象物102に渦電流を形成する。ボビン270の研磨対象物102側には、検出コイル273が配置され、研磨対象物1
02に形成される渦電流に起因して発生する磁界を検出する。励磁コイル272を挟んで検出コイル273の反対側にはバランスコイル274が配置されている。
【0040】
コイル272,273,274は、同じターン数のコイルにより形成され、検出コイル273とバランスコイル274とは互いに逆相に接続されている。研磨対象物102が検出コイル273の近傍に存在すると、研磨対象物102中に形成される渦電流によって生じる磁束が検出コイル273とバランスコイル274とに鎖交する。このとき、検出コイル273のほうが導電膜に近い位置に配置されているので、両コイル273,274に生じる誘起電圧のバランスが崩れ、これにより導電膜の渦電流によって形成される鎖交磁束を検出することができる。
【0041】
図6は、渦電流センサの詳細な構成を示す模式図である。交流信号源262は、水晶発振器などの固定周波数の発振器を有しており、例えば、1〜50MHzの固定周波数の交流電流をセンサコイル260へ供給する。交流信号源262で形成された交流電流は、バンドパスフィルタ(BPF)282を介してセンサコイル260(励磁コイル272)に供給される。一方、センサコイル260(検出コイル273及びバランスコイル274)の端子から出力された信号は、ブリッジ回路284及び高周波アンプ(RF Amp)286を経て、cos同期検波回路292及びsin同期検波回路293を含む同期検波部291に送られる。そして、同期検波部291によりインピーダンスの抵抗成分と誘導リアクタンス成分とが取り出される。
【0042】
同期検波部291から出力された抵抗成分と誘導リアクタンス成分からは、ローパスフィルタ(LPF・AF AMP)294,295により不要な高周波成分(例えば5KHz以上の高周波成分)が除去され、インピーダンスの抵抗成分としての信号Xと誘導リアクタンス成分としての信号Yとがそれぞれ出力される。LPF・AF AMP294,295から出力された信号X,信号Yは、以下に説明する膜厚補正器230による補正が行われたのち、終点検出部240へ出力される。
【0043】
終点検出部240は、膜厚補正器230から出力される信号X,Yを、回転処理、平行移動処理などで処理し、モニタリング信号としての距離Zを算出する。そして、この距離Zの変化に基づいて膜厚の変化を監視する。
【0044】
図7は、終点検出部240による処理の概略を示す図である。
図7において、横軸は信号Xの強度を示しており、縦軸は信号Yの強度を示している。点T∞は、研磨対象物102の膜厚が∞である状態を示し、点T0は、研磨対象物の102の膜厚が0である状態を示す。研磨対象物102の膜厚が減少するに従って、信号X,Yの値から位置決めされる点Tnは、円弧状の軌跡を描きながら点T0に向かって進む。XY座標系の原点Oから点Tnまでの距離Z(=(X
2+Y
2)
1/2)は、点T∞の近傍を除いて、膜厚が減少するに従って小さくなる。
【0045】
終点検出部240は、研磨対象物102の膜厚に応じて変化する距離Zを算出する。終点検出部240は、あらかじめ、経験や試験により距離Zと研磨対象物102の膜厚との関係を把握しておけば、距離Zを監視することにより、研磨中の研磨対象物102の膜厚を検出することができる。
【0046】
終点検出部240は、研磨装置100に関する各種制御を行う研磨装置制御部140と接続されている。終点検出部240は、算出した距離Zに基づいて研磨対象物102の研磨終点を検出したら、その旨を示す信号を研磨装置制御部140へ出力する。研磨装置制御部140は、終点検出部240から研磨終点を示す信号を受信したら、研磨装置100による研磨を終了させる。
【0047】
<渦電流センサ210の出力補正>
本実施形態は、渦電流センサ210から出力される信号(信号Xと信号Y)を補正するものである。すなわち、研磨対象物102の研磨を行っている最中には、研磨対象物102と研磨パッド108との摩擦によって熱が発生する。この熱による渦電流センサ210の周囲の雰囲気温度の上昇に起因して、渦電流センサ210の出力がドリフトする場合がある。
【0048】
図8は、渦電流センサの出力が周囲の雰囲気温度の影響でドリフトする例を示す模式図である。
図8Aは、渦電流センサの出力の推移を示す図であり、
図8Bは、渦電流センサの周囲の雰囲気温度の推移を示す図である。
図8Aにおいて、横軸は研磨時間を示し、縦軸は渦電流センサ出力を示している。
図8Bにおいて、横軸は研磨時間を示し、縦軸は渦電流センサの周囲の雰囲気温度を示している。
【0049】
図8A,
図8Bは、金属膜が形成されておらず渦電流が発生しない、すなわち渦電流センサ210では反応しない基板を研磨したときの渦電流センサ210の周囲の雰囲気温度及び出力を示している。
【0050】
図8Bに示すように、研磨が進むにつれて、基板を研磨することによる摩擦熱の影響で渦電流センサ210の周囲の雰囲気温度は上昇する。ここで、渦電流センサ210では反応しない基板を研磨しているので、渦電流センサ210の出力は、本来は、一定になるはずである。しかしながら、
図7Aに示すように、渦電流センサ210の出力は、渦電流センサ210の周囲の雰囲気温度に依存して変動(ドリフト)する。
【0051】
そこで、本実施形態は、以下の態様で、渦電流センサ210から出力される信号を補正する。
図1に示すように、終点検出装置本体220は、膜厚補正器230と、終点検出部240と、を備える。
【0052】
膜厚補正器230は、研磨対象物102の研磨工程が行われている最中に(in−situで)、渦電流センサ210から出力された信号を補正する。膜厚補正器230は、取得部232、算出部234、及び補正部236を備える。
【0053】
取得部232は、研磨工程が行われている最中に、渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向しない第1の状態(研磨対象物外領域B)において渦電流センサ210から出力される第1測定信号を取得する。また、取得部232は、研磨工程が行われている最中に、渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向する第2の状態(研磨対象物内領域A)において渦電流センサ210から出力される第2測定信号を取得する。
【0054】
算出部234は、取得部232によって取得された第1測定信号と、第1測定信号に対してあらかじめ設定された基準信号と、に基づいて補正値を算出する。ここで、具体的には、基準信号は、研磨工程が行われていないときに渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向しない状態において渦電流センサ210から出力された信号とすることができる。例えば、基準信号は、渦電流センサ210の較正が行われているときに渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向しない状態において渦電流センサ210から出力される信号とすることができる。また、例えば、基準信号は、研磨工程が行われていないときの雰囲気温度で渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向しない状態において渦電流センサ210から出力される信号とすることもできる。すなわち、渦電流センサ210の出力に温度ドリフトが生じていない状態で信号をあらかじめ取得しておき、第1の状態(研磨対象物外領域B)に対する基準信号とするものである。渦電流センサ210に温度ドリフトが生じていなければ基準信号とすることができるので、例えば、研磨工程が始ま
った直後のまだ雰囲気温度の上昇が生じていないときに、第1の状態(研磨対象物外領域B)において渦電流センサ210から出力される信号を基準信号とすることもできる。
【0055】
算出部234は、例えば、取得部232によって取得された第1測定信号から、あらかじめ設定された基準信号を減算することによって、補正値を算出することができる。
【0056】
補正部236は、研磨工程が行われている最中に、取得部232によって取得された第2測定信号を、算出部234によって算出された補正値に基づいて補正する。
【0057】
例えば、補正部236は、研磨工程が行われている最中に、取得部232によって取得された第2測定信号から、算出部234によって算出された補正値を減算することによって、第2測定信号を補正する。
【0058】
さらに具体的には、補正部236は、第2の状態において取得した第2測定信号を、この第2の状態の直前に出現した第1の状態において取得した第1測定信号と基準信号とに基づいて算出された補正値に基づいて補正する。
【0059】
すなわち、算出部234は、研磨工程の最中のある時相(T1)の第1の状態において、取得部232によって第1測定信号が取得されたら、取得された第1測定信号から、あらかじめ設定された基準信号を減算することによって、補正値(ΔS1)を算出する。そして、時相(T)の直後に出現した第2の状態において、補正部236は、取得部232によって第2測定信号が取得されたら、取得された第2測定信号から、時相(T1)の第1の状態において算出部234によって算出された補正値(ΔS1)を減算することによって、第2測定信号を補正する。
【0060】
同様に、算出部234は、研磨工程の最中のある時相(T2)の第1の状態において、取得部232によって第1測定信号が取得されたら、取得された第1測定信号から、あらかじめ設定された基準信号を減算することによって、補正値(ΔS2)を算出する。そして、時相(T)の直後に出現した第2の状態において、補正部236は、取得部232によって第2測定信号が取得されたら、取得された第2測定信号から、時相(T2)の第1の状態において算出部234によって算出された補正値(ΔS2)を減算することによって、第2測定信号を補正する。
【0061】
なお、上記では、膜厚補正器230は、機能ブロックとしての取得部232、算出部234、及び補正部236を備えており、コンピュータソフトウェアで実現することを想定して説明したが、これには限られない。
図6に示すように、膜厚補正器230をハードウェアで実現することもできる。
【0062】
図6に示すように、膜厚補正器230は、データラッチ302,304、較正スイッチ306、減算回路308,減算回路310を備える。
【0063】
データラッチ302,304は、LPF・AF AMP294から出力された、渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向しない第1の状態(研磨対象物外領域B)における信号X、又は較正スイッチ306から出力される基準信号を保持する。データラッチ304は、研磨テーブル110が1回転したことを検出する回転センサ114からのトリガ信号に応じて、保持した信号X、又は基準信号を減算回路308へ出力する。なお、回転センサ114は、研磨テーブル110の周囲に設置されたドグと、ドグを検出することができる、研磨テーブル110に設けられたドグセンサと、を備えることができる。ドグセンサは、研磨テーブル110が1回転するごとに、ドグを検出する。これにより、回転センサ114は、研磨テーブル110の特定の回転位置を検出することができる。
【0064】
減算回路308は、データラッチ302,304から出力された信号Xと基準信号との減算を実行する。具体的には、減算回路308は、渦電流センサ210は温度ドリフトによって出力が高めに出るという傾向があるので、信号Xから基準信号を減算して補正値を算出する。なお、使用するセンサの温度ドリフトの傾向に応じて、減算回路を加算回路とすることができる。
【0065】
減算回路310は、LPF・AF AMP294から出力された、渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向する第2の状態(研磨対象物内領域A)における信号Xと、減算回路308から出力された補正値と、の減算を実行する。具体的には、減算回路310は、渦電流センサ210は温度ドリフトによって出力が高めに出るという傾向があるので、第2の状態(研磨対象物内領域A)における信号Xから補正値を減算することによって、補正された信号Xを算出する。なお、使用するセンサの温度ドリフトの傾向に応じて、減算回路を加算回路とすることができる。
【0066】
同様に、膜厚補正器230は、データラッチ402,404、較正スイッチ406、減算回路408,減算回路410を備える。
【0067】
データラッチ402,404は、LPF・AF AMP295から出力された、渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向しない第1の状態(研磨対象物外領域B)における信号Y、又は較正スイッチ406から出力される基準信号を保持する。データラッチ404は、研磨テーブル110が1回転したことを検出する回転センサ114からのトリガ信号に応じて、保持した信号Y、又は基準信号を減算回路408へ出力する。
【0068】
減算回路408は、データラッチ402,404から出力された信号Yと基準信号との減算を実行する。具体的には、減算回路408は、渦電流センサ210は温度ドリフトによって出力が高めに出るという傾向があるので、信号Yから基準信号を減算して補正値を算出する。なお、使用するセンサの温度ドリフトの傾向に応じて、減算回路を加算回路とすることができる。
【0069】
減算回路410は、LPF・AF AMP295から出力された、渦電流センサ210と研磨対象物102とが対向する第2の状態(研磨対象物内領域A)における信号Yと、減算回路408から出力された補正値と、の減算を実行する。具体的には、減算回路410は、渦電流センサ210は温度ドリフトによって出力が高めに出るという傾向があるので、第2の状態(研磨対象物内領域A)における信号Yから補正値を減算することによって、補正された信号Yを算出する。なお、使用するセンサの温度ドリフトの傾向に応じて、減算回路を加算回路とすることができる。
【0070】
<フローチャート>
次に、本実施形態の膜厚測定値の補正方法を説明する。
図9は、本実施形態の膜厚測定値の補正方法の処理を示すフローチャートである。
【0071】
まず、研磨装置制御部140によって研磨工程が開始されたら(ステップS101)、算出部234は、基準信号(Xsd,Ysd)を取得する(ステップS102)。基準信号(Xsd,Ysd)は、例えば、渦電流センサ210の出力に温度ドリフトが生じていない状態(渦電流センサ210の較正時など)においてあらかじめ取得されメモリ等に記録された信号である。なお、渦電流センサ210に温度ドリフトが生じていなければ基準信号とすることができるので、例えば、研磨工程が始まった直後のまだ雰囲気温度の上昇が生じていないときに、第1の状態(研磨対象物外領域B)において渦電流センサ210から出力される信号を基準信号とすることもできる。
【0072】
続いて、補正部236は、補正値(ΔX,ΔY)をゼロクリアする(ステップS103)。これは、前回の研磨工程において設定された補正値(ΔX,ΔY)をリセットするためである。
【0073】
続いて、取得部232は、渦電流センサ210から信号X,信号Yを取得する(ステップS104)。
【0074】
続いて、補正部236は、信号X,信号Yを補正する(ステップS105)。具体的には、補正後の信号XをX´、補正後の信号YをY´とすると、補正部236は、X´=X−ΔX、Y´=Y−ΔYによって、補正後の信号X´、信号Y´を求める。
【0075】
続いて、終点検出部240は、補正後の信号X´,信号Y´に基づいて、研磨終点であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0076】
終点検出部240によって研磨終点ではないと判定されたら(ステップS106,No)、回転センサ114は、研磨テーブル110が特定の回転位置まで回転したか否かを判定する(ステップS107)。具体的には、渦電流センサ210が第1の状態(研磨対象物外領域B)になる研磨テーブル110の回転位置を特定の回転位置とすることができる。言い換えると、回転センサ114は、渦電流センサ210が第1の状態(研磨対象物外領域B)になったか否かを判定することになる。
【0077】
取得部232は、研磨テーブル110が特定の回転位置まで回転したと判定されたら(ステップS107,Yes)、第1の状態(研磨対象物外領域B)において渦電流センサ210から出力される第1測定信号(Xout,Yout)を取得する(ステップS108)。
【0078】
続いて、算出部234は、補正値を更新する(ステップS109)。具体的には、算出部234は、補正値をΔX,ΔYとすると、ΔX=Xout−Xsd、ΔY=Yout−Ysdによって、補正値ΔX,ΔYを算出して更新する。なお、本実施形態は、第1の状態における1箇所の第1測定信号(Xout,Yout)に基づいて補正値ΔX,ΔYを算出する例を示したが、これには限られない。例えば、第1の状態が開始された後、第2の状態に変わるまでの間に、第1の状態における第1測定信号(Xout,Yout)を複数ポイントで取得し、これら複数ポイントの第1測定信号(Xout,Yout)の平均値を求め、平均値から基準信号を減算することもできる。
【0079】
その後、ステップS104に戻って処理を繰り返す。したがって、渦電流センサ210が第2の状態(研磨対象物内領域A)になった場合において、渦電流センサ210から出力される第2測定信号(信号X,信号Y)は、この第2の状態の直前の第1の状態において更新された補正値ΔX,ΔYに基づいて、補正される。
【0080】
さらに、ステップS107において、研磨テーブル110が特定の回転位置まで回転していないと判定された場合も(ステップS107,No)、ステップS104に戻って処理を繰り返す。
【0081】
これにより、第2の状態(研磨対象物内領域A)が続いている間、第2の状態において取得された複数ポイントの第2測定信号(信号X,信号Y)は、それぞれ補正値をΔX,ΔYに基づいて補正される。
【0082】
ステップS106において、終点検出部240によって研磨終点であると判定されたら
(ステップS106,Yes)、研磨装置制御部140は、研磨を終了させる(ステップS110)。
【0083】
図10は、本実施形態の補正を行った場合の渦電流センサ210の出力を模式的に示す図である。
図10Aは、渦電流センサの出力の推移を示す図であり、
図10Bは、渦電流センサの周囲の雰囲気温度の推移を示す図である。
図10Aにおいて、横軸は研磨時間を示し、縦軸は渦電流センサ出力を示している。
図10Bにおいて、横軸は研磨時間を示し、縦軸は渦電流センサの周囲の雰囲気温度を示している。
【0084】
図10A,
図10Bは、
図8A,
図8Bと同じく、金属膜が形成されておらず渦電流が発生しない、すなわち渦電流センサ210では反応しない基板を研磨したときの渦電流センサ210の周囲の雰囲気温度及び出力を示している。
【0085】
図10Bに示すように、研磨が進むにつれて、基板を研磨することによる摩擦熱の影響で渦電流センサ210の周囲の雰囲気温度は上昇する。これに対して、本実施形態では、渦電流センサ210の出力は雰囲気温度の変化に応じて補正されているので、
図10Aに示すように、渦電流センサ210の出力は、一定になった。
【0086】
以上に、本実施形態によれば、研磨対象物102の膜厚を測定するセンサの温度ドリフトを簡易な構成で精度よく補正することができる。すなわち、本実施形態では、センサの温度ドリフトを補正するための温度センサを設けなくてもよいので、構成が簡易である。また、本実施形態では、研磨工程が行われている最中に(in−situで)、センサから出力された測定信号を補正値に基づいて補正する。したがって、本実施形態では、センサの温度ドリフトを、研磨対象物102を研磨している最中にリアルタイムで精度よく補正することができる。その結果、本実施形態では、研磨対象物102の研磨終点を高い精度で検出することができる。
【0087】
特に、本実施形態では、第2の状態において取得した第2測定信号を、この第2の状態の直前に出現した第1の状態において取得した第1測定信号と基準信号とに基づいて算出された補正値に基づいて補正する。これにより、センサの温度ドリフトが精度よく反映されるため、補正された第2測定信号の信頼性を向上させることができる。
以上説明したように、本発明は以下の形態を有する。
[形態1]
研磨対象物を研磨する研磨工程が行われている最中に、研磨対象物の膜厚を測定するためのセンサから出力された信号を補正する方法であって、
前記研磨工程は、前記センサと前記研磨対象物とが対向しない第1の状態と、前記センサと前記研磨対象物とが対向する第2の状態と、を含み、
前記第1の状態において前記センサから出力される第1測定信号を取得し、
前記取得した第1測定信号と、前記第1測定信号に対してあらかじめ設定された基準信号と、に基づいて補正値を算出し、
前記第2の状態において前記センサから出力される第2測定信号を取得し、
前記研磨工程が行われている最中に、前記取得した第2測定信号を、前記算出した補正値に基づいて補正する、
ことを特徴とする膜厚測定値の補正方法。
[形態2]
形態1の膜厚測定値の補正方法において、
前記基準信号は、前記研磨工程が行われていないときに前記センサと前記研磨対象物とが対向しない状態において前記センサから出力される信号である、
ことを特徴とする膜厚測定値の補正方法。
[形態3]
形態1又は2の膜厚測定値の補正方法において、
前記研磨工程は、研磨対象物を研磨するための研磨パッドが貼り付けられた研磨テーブルを回転させながら前記研磨対象物を前記研磨パッドに押圧することによって前記研磨対象物を研磨し、
前記センサは前記研磨テーブルに設置され、
前記第1の状態と前記第2の状態は、前記研磨テーブルの回転にともなって交互に出現し、
前記第2測定信号を補正する工程は、前記第2の状態において取得した第2測定信号を、該第2の状態の直前に出現した第1の状態において取得した第1測定信号と前記基準信号とに基づいて算出された補正値に基づいて補正する、
ことを特徴とする膜厚測定値の補正方法。
[形態4]
形態1〜3のいずれか1項の膜厚測定値の補正方法において、
前記基準信号は、前記センサの較正が行われているときに前記センサと前記研磨対象物とが対向しない状態において前記センサから出力される信号である、
ことを特徴とする膜厚測定値の補正方法。
[形態5]
形態1〜4のいずれか1項の膜厚測定値の補正方法において、
前記基準信号は、前記研磨工程が行われていないときの雰囲気温度で前記センサと前記研磨対象物とが対向しない状態において前記センサから出力される信号である、
ことを特徴とする膜厚測定値の補正方法。
[形態6]
形態1〜5のいずれか1項の膜厚測定値の補正方法において、
前記センサは、渦電流センサである、
ことを特徴とする膜厚測定値の補正方法。
[形態7]
研磨対象物を研磨する研磨工程が行われているときに研磨対象物の膜厚を測定するためのセンサから出力された信号を補正する膜厚補正器であって、
前記研磨工程は、前記センサと前記研磨対象物とが対向しない第1の状態と、前記センサと前記研磨対象物とが対向する第2の状態と、を含み、
前記第1の状態において前記センサから出力される第1測定信号、及び、前記第2の状態において前記センサから出力される第2測定信号を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された第1測定信号と、前記第1測定信号に対してあらかじめ設定された基準信号と、に基づいて補正値を算出する算出部と、
前記研磨工程が行われている最中に、前記取得部によって取得された第2測定信号を、前記算出部によって算出された補正値に基づいて補正する補正部と、を備える、
ことを特徴とする膜厚補正器。