(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいては、様々な形式のポンプおよびこれを駆動する電動モータが用いられている。例えば、様々な工程において真空技術が必要とされ、それに伴って真空ポンプが利用されている。いくつか例を挙げると、金属薄膜の形成のための真空蒸着法、レジスト除去やエッチング工程のためのプラズマエッチング法、不純物の拡散工程のためのイオン注入法、シリコン酸化膜や窒化膜形成工程のための減圧CVDやプラズマCVD法などである。これらの半導体製造プロセスは、いずれも真空(或いは減圧)環境で行われるものであり、半導体製造プロセスにおける真空が果たす役割は非常に大きい。
【0003】
半導体製造装置等に使用される真空ポンプとしては、
図8に示すような、二軸同期多段ルーツ型容積式の真空ポンプ101がある。この図に示すものは5段の真空ポンプ101である。すなわち、合計10個のポンプロータ113を備えている(但し、
図8では対応するポンプロータ同士が重なっているため、各段とも1つのポンプロータ113しか見えない)。この真空ポンプ101のポンプロータ回転軸115は、一対のタイミングギア142(タイミングギヤも重なっているため、
図8では1つしか見えない)によって互いに反対方向に同じ速度で回転する。相互に対向するポンプロータ113同士及びポンプロータ113とケーシング117は接触することがなく、わずかな隙間を保ちながら回転して、気体を吸い込んで外部に排出するようになっている。
【0004】
この
図8において、右端に設置されているのがモータ131である。このモータ131では、ポンプロータ回転軸115にモータロータ141が取り付けられ、このモータロータ141の半径方向の周囲に所定のギャップを隔ててモータステータ151が設置されている。この図に示すモータ131は、モータの耐腐食性を向上させたキャンドモータの例である。キャンドモータとは、モータロータ141を円筒状のキャン161で覆った構造のモータであり、軸シール構造を具備しなくても気密性が保たれる構造を有している。すなわち、モータロータ141とモータステータ151の間を隔離するように、円筒状のキャン161を介在させた構造である。キャン161の開口端には所定のフランジ部が形成されており、このフランジ部がポンプロータ側のポンプハウジングに固定されている。このため、モータロータ141とモータステータ151との間は完全に気密性が維持される。
【0005】
ところで、モータ131に加わる負荷は、真空ポンプ101の運転状態に応じて大きく変動する。例えば、ガス流し時、起動運転時、プロセスガス排出時などは、モータ131に加わる負荷が大きくなる場合である。一般的なモータの場合、モータの構成は最大負荷時のモータ効率が最も良くなるように設計されている。換言すると、最大負荷時に必要とされる電力に対応するように、モータロータ141及びモータステータ151が設計されている。一方、真空ポンプ101が所定時間運転され、圧力が一定以下になると、モータ131に加わる負荷は低下する。例えば、到達運転時などは軽負荷となる。軽負荷の場合に必要な電力は最大負荷時に必要な電力よりは当然に小さくなる。
【0006】
上述したように、モータ131は最大負荷時を想定して設計されているため、軽負荷時には必ずしもモータ効率が最高となる訳ではない。ここで、モータ効率を左右する要因の一つとして、鉄損がある。鉄損とは、コアに渦電流が生じることによって生じる損失であり、ヒステリシス損と渦損に分けられる。ところで、永久磁石の鉄損は高負荷時でも軽負
荷時でも基本的には変化しない。なぜなら、鉄損は永久磁石の磁束によるステータ151のコア内の鎖交磁束によって発生するものであり、永久磁石の磁束は負荷によって変動しないからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来のモータ131では、高負荷時のモータ効率を高めることを目標にしており、軽負荷時の鉄損を考慮していなかった。このため、軽負荷状態で運転されているモータの効率が鉄損によって制限されていた。この軽負荷時の鉄損を低減するためには鎖交磁束を変化させればよいが、従来のモータ131ではモータロータ141とモータステータ151の相対位置関係が固定されていたため、鎖交磁束も変化させることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、真空ポンプの運転状態に応じて、鎖交磁束を変化させることで、電動モータの鉄損を低減することが解決するべき課題である。当該課題を解決するために、第1手段は、ロータとステータとを備える電動モータであって、ロータの永久磁石の磁束によるステータコア内の鎖交磁束が変化するように、永久磁石とステータとが相対移動可能である、という構成を採っている。以上のような構成を採ることで、軽負荷時には永久磁石がステータから離間される。これにより、ステータコア内に生じる鎖交磁束が減り、鉄損が低減される。
【0009】
第2手段は、第1手段の構成に加え、ロータは固定されており、ステータが移動可能である、という構成を採っている。
【0010】
第3手段は、第1手段又は第2手段の構成に加え、ロータとステータは、電動モータの回転軸の軸線方向に沿って相対移動可能である、という構成を採っている。
【0011】
第4手段は、第1手段から第3手段の何れかの構成に加え、ロータとステータとは、相対移動機構によって相対移動する、という構成を採っている。
【0012】
第5手段は、第4手段の構成に加え、相対移動機構は、ネジ機構又はリニアモータである、という構成を採っている。
【0013】
第6手段は、第1手段から第5手段の何れかの構成に加え、電動モータは、アキシャルギャップ型モータである、という構成を採っている。
【0014】
第7手段は、第1手段から第5手段の何れかの構成に加え、電動モータは、ラジアルギャップ型モータである、という構成を採っている。
【0015】
第8手段は、第1手段から第7手段の何れかの構成に加え、ロータは、永久磁石と、この永久磁石を支持する磁石支持部材と、永久磁石と磁石支持部材の間に配置される熱変形部材とを備えている、という構成を採っている。
【0016】
第9手段は、第8手段の構成に加え、熱変形部材は、熱膨張性樹脂、形状記憶合金、バイメタル機構を備える、という構成を採っている。
【0017】
第10手段は、第1手段から第9手段の何れかの構成に加え、ロータが設けられた空間の気密状態を維持するためのキャンを備えている、という構成を採っている。
【0018】
第11手段は、第1手段から第10手段の何れかの電動モータと、この電動モータによって主軸が駆動されるポンプ本体とを備えるポンプ、という構成を採っている。
【0019】
第12手段は、第11手段の構成に加え、ポンプは二軸同期型の真空ポンプであり、磁石支持部材は、二本の主軸の回転を同期させるためのタイミングギヤを兼ねている、という構成を採っている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る電動モータ及びポンプについて説明する。なお、以下では、ロータ室とステータ室とが隔離されたキャンドモータおよび真空ポンプを具体的な例として説明する。しかしながらロータ室とステータ室とが同一空間となっているモータや、圧縮ポンプなどにも本実施形態は適用可能である。なお、以下に説明する個別の構成要素を任意に組み合わせた発明についても、本発明が対象とする技術思想に含まれるものである。
【0022】
[全体概要]
図1は、本実施形態に係るキャンドモータ31を備えた真空ポンプ1である。この真空ポンプ1は、真空ポンプ本体11と、この真空ポンプ本体11の一端部に取り付けられたキャンドモータ31からなる。キャンドモータ31はアキシャルギャップ型モータであり、ロータ41と、ステータ51と、ロータ41とステータ51の間に配置されてロータ41が存在する空間の真空を維持するキャン61とを備えている。ここで、アキシャルギャップ型モータは、ラジアルギャップ型モータと比較して、同じ定格出力を実現するのであれば、主軸方向のオーバーハング長さを低減することができる。
【0023】
[真空ポンプ本体]
真空ポンプ本体11は、複数のポンプロータ13が取り付けられた主軸15と、ポンプロータ13を収容する主ケーシング17と、主ケーシング17の一方側端面に取り付けられた第1端部ケーシング19と、主ケーシング17の他方側端面に取り付けられた第2端部ケーシング21とを備えている。このような真空ポンプ1は、二軸同期多段ルーツ型容
積式ポンプと呼ばれている。
【0024】
[主軸]
主軸15は、真空ポンプ本体11の軸線方向に沿って延設されており、その両端部において第1及び第2端部ケーシング19,21の軸受19a、21aによって回転自在に支持されている。本実施形態の主軸15には、1本当たり5個のポンプロータ13が取り付けられており、5段の真空ポンプ本体11となっている。但し、段数はあくまでも一例であって、5段以外の段数の真空ポンプ本体であってもよい。なお、
図1では5個のポンプロータ13しか図示されていないが、本実施形態の真空ポンプ1は二軸同期型であり、実際には図における奥側にもう一組主軸とポンプロータが配置されている。このため、合計で10個のポンプロータ13を備えている。
【0025】
[主ケーシング]
主ケーシング17は、各ポンプロータ13に対応したポンプ室を有し、さらに所定の隔壁を隔てて半径方向外側に気体排出路23を備えている。また、主ケーシング17には、最も上流側のポンプ室23aに気体を取り入れる気体取入口25と、最も下流側のポンプ室23bから気体を排出する気体排出口27が設けられている。気体取入口25は、真空状態が求められる半導体製造装置等に接続されている。一方、気体排出口27は、所定の排気ガス処理装置(図示略)に接続されている。気体排出口27を排気ガス処理装置に接続するのは、真空ポンプ1によって排出される気体には、腐食性のガスが含まれている場合があり、適切に無害化処理を施す必要があるからである。但し、排出される気体が無害なものであれば、気体排出口27に排気ガス処理装置を接続する必要は無い。
【0026】
[第1端部ケーシング]
第1端部ケーシング19は、主ケーシング17の一端部に取り付けられている。この主ケーシング17の一端部は開放部となっているが、第1端部ケーシング19によって封止され、最も下流側のポンプ室23bを形成している。第1端部ケーシング19の中心部には段付貫通口が形成されている。このうち、直径の小さな貫通口には主軸15が貫通しており、大きな直径の貫通口には2個の軸受19aが設けられている。そして、この軸受19aによって主軸15の一端部側を回転自在に支持している。但し、軸受の数は一例であって、1個であっても良いし、3個以上設けるようにしてもよい。なお、本実施形態では、主ケーシング17と第1端部ケーシング19を別個に形成しているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、主ケーシング17と第1端部ケーシング19とを一体的に形成してもよい。
【0027】
[第2端部ケーシング]
第2端部ケーシング21は、主ケーシング17の他端部に取り付けられている。この第2端部ケーシング21の中心部にも段付貫通口が形成されている。このうち、直径の小さな貫通口には主軸15が貫通しており、大きな直径の貫通口には1個の軸受21aが設けられている。この軸受21aによって主軸15を他端部側で回転自在に支持している。なお、本実施形態では、主ケーシング17と第2端部ケーシング21を別個に形成しているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、主ケーシング17と第2端部ケーシング21とを一体的に形成してもよい。
【0028】
第2端部ケーシング21の外側(
図1における左側)には、ケーシングカバー29が取り付けられている。このケーシングカバー29は、第2端部ケーシング21との間に所定の空間を形成して軸受を覆っている。このケーシングカバー29によって形成された空間の下部には潤滑油が貯留されており、軸受21aを潤滑できるようになっている。なお、当該ケーシングカバー29は本発明に必須な構成要素では無い。
【0029】
[キャンドモータ]
次に、本実施形態の特徴部分の一つである、キャンドモータ31について
図2に基づいて説明する。キャンドモータ31はアキシャルギャップ型モータであり、ロータ41と、ステータ51と、ロータ41とステータ51の間に配置されてロータ41が存在する空間(ロータ室43)の真空を維持するキャン61とを備えている。このように、キャン61を備えているため、ロータ室43の気密性が維持される。このとき、ロータ室43は真空ポンプ本体11のポンプ室(
図1の符号23b)に連通しているため、ロータ41は腐食性ガスに曝される。しかしながら、ステータ51はキャン61の機能によって腐食性ガスから隔離されている。
【0030】
[ロータ]
ロータ41は、主軸15の一端部(図では右端部)に取り付けられている。ロータ41は略円盤状の磁石支持部材41aと、この磁石支持部材41aに装着された永久磁石41bとからなる。永久磁石41bは、磁石支持部材41aの一方の表面において、等角度間隔に配置されている。本実施形態の永久磁石41bは、磁石支持部材41aに埋め込まれるような形態となっている。このような構成を採ることで、永久磁石41bが磁石支持部材41aから脱落するのを確実に防止できるからである。但し、本発明はこれに限定されるものでは無く、単純に磁石支持部材41aの表面に強力な接着剤で貼り付けてもよいし、ネジなどを用いて固定してもよい。
【0031】
本実施形態の磁石支持部材41aは、タイミングギヤを兼ねている。すなわち、本実施形態の真空ポンプは、上述したように二軸同期型の真空ポンプであり、2本の主軸15の回転を同期させるためのタイミングギヤが設けられている。タイミングギヤは、主軸15の一端部に設けられており、アキシャルギャップ型のキャンドモータを構成する場合に、ロータ41を構成する部材として好都合である。磁石支持部材41aは外周面に歯が形成されており、2つの磁石支持部材41a同士がその歯で噛み合っている。一方、磁石支持部材41aの表面及び裏面は特別な役割を有していないので、本実施形態のように、磁石支持部材41aの表面に永久磁石41bを装着するのは容易である。
【0032】
ロータ41は、ロータ用ケーシング(第1のケーシング)45によって周囲が囲まれている。そして、このロータ用ケーシング45は真空ポンプ1の第1端部ケーシング19に気密状態で固定される。更に、ロータ用ケーシング45のステータ側の端面にはキャン61が気密状態で取り付けられ、内部空間が上述したようにロータ室43となっている。真空ポンプが運転された場合、ロータ室43は真空ポンプ1の基本的な構造上の理由から真空状態となる。しかし、上述したようにキャン61によって真空状態が維持される。また、ロータ室43の底面付近には潤滑油が貯留されており、ロータ室43に露出している軸受19aや、磁石支持部材41aを兼ねるタイミングギヤを潤滑できるようになっている。なお、タイミングギヤには潤滑が必須であるので、当該ロータ室43の潤滑油は必須である。
【0033】
[ステータ]
次に、ステータ51について説明する。ステータ51は、ステータコア51aとコイル51bからなる。ステータコア51aは、円盤状のコア本体51a1と、コア本体51a1からロータ41に向かって突出する磁芯51a2からなる。但し、本実施形態のステータコア51aは、コア本体51a1と磁芯51a2が一体となった構造を有している。磁芯51a2は上述したロータ41の各永久磁石41bと対向するように、コア本体51a1の表面において円周方向に沿って配列されている。また、ステータコア51aの各磁芯51a2の周囲にはコイル51bが装着されており、このコイル51bに電流が供給されることで、磁界を発生させるようになっている。なお、キャンドモータが二軸一体型モータである場合には、コア本体の形状は円盤状ではなく、長方形状となる。
【0034】
ステータ51の周囲は、ステータ用ケーシング(第2のケーシング)55によって囲まれている。また、ステータ用ケーシング55の一端側(図における右側)は閉塞端となっている。このため、ステータ用ケーシング55は皿状の形状を有し、このステータ用ケーシング55の内部がステータ室53となっている。ステータ用ケーシング55の他端側(図における左側)は開放端となっているが、円盤状のキャン61と接触している。なお、キャンドモータが二軸一体型モータである場合には、キャンの形状は円盤状ではなく、長方形状となる。
【0035】
[キャン]
キャン61は、概ね円盤状(又は長方形状)の形状を有しており、上述のロータ用ケーシング45とステータ用ケーシング55との間に固定されている。このキャン61により、上述したようにロータ室43の真空状態が維持されている。本実施形態ではキャン61を超えて主軸15を延ばすことができないので、ステータ51の側に軸受を設けることはできない。また、キャン61は、薄い金属材料や樹脂材料、セラミック材料等の非導電体から構成されており、できる限りロータ41とステータ51の間に生成される磁束に影響を与えないようになっている。また、モータの効率を考慮した場合に、できる限りロータ41とステータ51を接近させたい。このため、所望の強度が確保できる場合には、できるだけ薄く構成することが望ましい。
【0036】
[相対移動機構]
また、本実施形態の真空ポンプ1には、ロータ41の永久磁石41bとステータ51とを相対移動させる機構が設けられている。
図2の例では、ロータ41はポンプ本体の主軸15に固定されており、一方ステータ51はロータ41に対して移動できるようになっている。ステータ51を移動させるのはネジ機構46である。このネジ機構46は、図示しない制御部によって制御される小型モータ47と、この小型モータ47によって回転する雄ネジ部材48と、この雄ネジ部材48に螺合する雌ネジ部材49とからなる。小型モータ47と雄ネジ部材48はロータ用ケーシング45に固定されており、雌ネジ部材49はステータ用ケーシング55に固定されている。
【0037】
キャンドモータ31が高負荷で運転されている場合、キャンドモータ31は
図2(A)に示す状態となっている。すなわち、ステータ51は可能な限りロータ41に接近するような位置に配置されている。一方、キャンドモータ31が軽負荷で運転されている場合には、キャンドモータ31は
図2(B)に示す状態となっている。これは、小型モータ47が雄ネジ部材48を回転させ、雌ネジ部材49を介してステータ51をロータ41から離間させた状態である。このように、ステータ51をロータ41から離間させることで、ロータ41の永久磁石41bの磁束によるステータ51内での鎖交磁束が低減される。これは、磁束密度が距離に反比例するからである。その結果、鉄損が大きく低減されることになる。なお、軽負荷時の鉄損を低減することで、全体のモータ効率が10%程度向上する。
【0038】
上述のネジ機構46は、ロータ41とステータ51を相対移動させるための機構の一例である。ネジ機構の他、リニアモータを用いた機構や、モータとリンク部材を用いたリンク機構、バイメタル機構であってもよい。すなわち、ロータ41の永久磁石41bとステータ51とを相対移動させることができるものであれば、どのような機構を採用してもよい。なお、以上で説明したキャンドモータ31及び真空ポンプ1は、あくまでも一実施形態に過ぎない。このため、一部の構成要素を変更した場合であっても、本発明の技術思想の範囲となる。
【0039】
図3は、第2の実施形態に係る、ラジアルギャップ型のキャンドモータ31Bを備えた
真空ポンプ1Bである。真空ポンプ本体11Bは
図1に開示した真空ポンプ本体11と同一であるので、説明を省略する。一方、キャンドモータ31Bは
図1に開示したものがアキシャルギャップ型であるのに対し、
図3のキャンドモータ31Bはラジアルギャップ型である点で異なっている。
【0040】
ロータ41Bは主軸15の一端部の周りに取り付けられている。また、ステータ51Bは、ロータ41Bの半径方向外方において、ロータ41Bを取り囲むように配置されている。すなわち、ロータ41Bとステータ51Bは半径方向(ラジアル方向)に配置されており、これらロータ41Bとステータ51Bの間にギャップが形成されている。また、ロータ41Bとステータ51Bの間には、円筒状のキャン61Bが設けられている。キャン61Bの一方の端面(右端面)は閉塞端となっており、他方の端面は開放端となっている。開放端の周囲には所定のフランジが形成されており、このフランジを介してロータ用ケーシング45に固定されている。
【0041】
また、キャンドモータ31Bには、ステータ51Bをステータ用ケーシング55Bと共に移動させるネジ機構46が設けられている。このネジ機構46は、
図1及び
図2に開示したものと同一である。すなわち、小型モータ47がロータ用ケーシング45に固定されており、雌ネジ部材49がステータ用ケーシング55Bに固定されている。そして、小型モータ47が雄ネジ部材48を回転させることで、ロータ用ケーシング45に対してステータ用ケーシング55Bを相対移動させることができる。
【0042】
図4は、
図3に開示したキャンドモータ31Bの動作を説明する図である。
図4(A)は、ロータ41Bとステータ51Bとが、主軸15の軸線方向において概ね対応する位置にある状態を示している。この図から明らかなように、主軸15に取り付けられているロータ41Bは移動しない。このため、ロータ41Bの永久磁石の位置も変化しない。一方、
図4(B)は、ステータケーシング55Bが軸線方向に沿って右に移動した状態を示している。ここで、ステータ51Bはステータ用ケーシング55Bに取り付けられている。このため、ステータ用ケーシング55Bの移動に伴って、ステータ51Bが主軸15の軸線方向に沿って移動する。
【0043】
ステータ51Bがロータ41Bから軸線方向にずれることによって、ロータ41とステータ51のオーバーラップ量が減少する。このため、ロータ41の永久磁石の磁束によるステータ51B内での鎖交磁束が減少する。この鎖交磁束の減少によって鉄損が低減され、軽負荷時のモータ全体としての効率が向上する。
【0044】
図5は、第3の実施形態に係るキャンドモータ31Cを示す図である。ここで、
図5(A)は高負荷時の状態を示し、
図5(B)は軽負荷時の状態を示している。このキャンド31Cは、
図2に開示したキャンドモータ31と類似するアキシャルギャップ型モータである。一方、
図2のキャンドモータ31と異なるのは、ロータ41Cの構造である。すなわち、本実施形態のロータ41Cは、磁石支持部材41aと永久磁石41bの間に、熱変形部材41cが配置されている点である。
【0045】
ここで言う熱変形部材41cとは、温度の変化に応じて形状や体積が変化する部材である。本実施形態の熱変形部材41cは、熱膨張性樹脂である。この熱膨張性樹脂は、高温になることで、体積が膨張する性質を有している。熱膨張性樹脂としては、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂が考えられる。ここで、真空ポンプの仕事量が大きい状態で運転されている場合、ロータ室43の温度が高温となる。このため、熱膨張性樹脂も加熱されて膨張する。この膨張によって、永久磁石41bがステータ51に向かって押されることとなる。永久磁石41bがステータ51に近接すると、永久磁石41bの磁束によってステータ51のコア51aの交鎖磁束が増大する。
【0046】
一方、キャンドモータ31Cが軽負荷状態で運転されている場合、真空ポンプの仕事量も減少するため、発熱が抑制される。このため、ロータ室43の温度は高負荷時と比較して低下する。ロータ室43の温度が低下すると、熱膨張性樹脂の温度も低下し、樹脂の膨張が抑えられる。これにより、永久磁石41bはステータ51から離れるように移動する。永久磁石41bがステータ51から離れることで、永久磁石41bの磁束によってステータ51のコア51a内の交鎖磁束が減少する。その結果、低負荷時の鉄損が抑制されることとなる。このように、永久磁石41bとステータ51との相対移動に熱変形部材を用いることで、電子的な制御が不要となる。
【0047】
なお、熱変形部材の例として、熱膨張性樹脂を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、温度の変化によって所定の物理的変形が生じるものであればどのようなものを用いてもよい。例えば、形状記憶合金やバイメタル機構などを用いるようにしてもよい。
【0048】
図6は、上記実施形態に係る真空ポンプ本体とキャンドモータを含む、ポンプシステムを示すブロック図と、制御グラフである。この
図6(A)に示すように、このポンプシステムには、上述の真空ポンプ本体11と、この真空ポンプ本体11に連結されたキャンドモータ31と、ロータに対してステータを相対移動させる相対移動機構46と、キャンドモータ31及び相対移動機構46の動作を制御する制御部62とを備えている。また、制御部62とキャンドモータ31の間には、交流電源に接続されたドライバ63が設けられている。また、キャンドモータ31の負荷は、ドライバ63を介して制御部62に送信されるようになっている。
【0049】
図6(B)は、キャンドモータ31に加わる負荷とキャンドモータのギャップの時間経過を示すグラフである。縦軸は負荷及びギャップであり、横軸は時間である。このうち、細い線がキャンドモータ31に加わる負荷を示し、太い線がキャンドモータ31のギャップを示している。この図に示すように、ギャップを変更する場合の閾値が設けられている。下側の閾値は、キャンドモータ31が高負荷状態から軽負荷状態に移行する場合の、ギャップ変更トリガである。一方、上側の閾値は、キャンドモータ31が軽負荷状態から高負荷状態に移行する場合の、ギャップ変更トリガである。
【0050】
図6(B)において、時刻0から時刻T1までは、キャンドモータ31は高負荷状態で運転されている。この場合、キャンドモータ31のギャップは最小となっている。時刻T1から時刻T3まではリニアに負荷が減少している。そして、時刻T3よりも前の時刻T2において、負荷が下側の閾値より小さくなる。このことを制御部62が検知して、相対移動機構46の小型モータを制御して、キャンドモータ31のギャップを大きくする。そして、負荷がT3において一定になると、ギャップの制御も停止されて、大きなギャップが維持される。
【0051】
次に、時刻T3から時刻T4までは負荷が一定である。このため、キャンドモータ31のギャップも一定である。そして、時刻T4から時刻T6までは負荷が上昇している。この時、時刻T6よりも前の時刻T5において、負荷が上側の閾値を超える。このため、制御部62は高負荷運転に移行したと判断し、時刻T6までギャップを低減させる。そして、時刻T6において負荷が一定となり、これに対応してギャップも小さな一定値に維持される。
【0052】
図7は、他のポンプシステムを示すブロック図と制御グラフである。この図に示すポンプシステムでは、真空ポンプ本体11に気体の吸込流量を測定する流量計65が設けられている点が異なる。
図6の例では、キャンドモータ31に加わる負荷を直接検出して制御
部62に送信していたが、
図7の例では、真空ポンプ本体11が吸い込む気体の流量でキャンドモータ31に加わる負荷を推定している。気体流量とキャンドモータ31の負荷の間に相関関係があるからである。なお、流量計65以外は
図6に示すポンプシステムと同様である。
【0053】
図7(B)は、真空ポンプ本体11における気体の流量とキャンドモータ31のギャップの時間経過を示すグラフである。縦軸は流量及びギャップであり、横軸は時間である。このうち、細い線が気体流量を示し、太い線がキャンドモータ31のギャップを示している。ギャップを変更する場合の閾値を設ける点は、
図6(B)の場合と同様である。下側の閾値は、気体流量が大流量から小流量に移行する場合の、ギャップ変更トリガである。一方、上側の閾値は、気体流量が小流量から大流量に移行する場合の、ギャップ変更トリガである。
【0054】
図7(B)において、時刻0から時刻T1までは、大流量状態で運転されている。この場合、キャンドモータ31のギャップは最小となっている。時刻T1から時刻T3まではリニアに流量が減少している。そして、時刻T3よりも前の時刻T2において、流量が下側の閾値より小さくなる。このことを制御部62が検知して、相対移動機構46の小型モータを制御して、キャンドモータ31のギャップを大きくする。そして、流量がT3において一定になると、ギャップの制御も停止されて、大きなギャップのまま維持される。
【0055】
次に、時刻T3から時刻T4までは流量が0で一定である。このため、キャンドモータ31のギャップも一定である。そして、時刻T4から時刻T6までは流量が増大している。この時、時刻T6よりも前の時刻T5において、流量が上側の閾値を超えている。このため、制御部62は高負荷運転に移行したと判断し、時刻T6までギャップを低減させる。そして、時刻T6において流量が一定となり、これに対応してギャップも一定値に維持される。上記と同様に、時刻T7において流量が下側の閾値以下になるため、これに伴って時刻T8までギャップを増大させる。そして、時刻T8からT9は流量が一定であり、ギャップも一定値に維持される。さらに、時刻T9から流量が増大し、時刻T10において流量が上側の閾値を超えるため、ギャップが低減され、時刻T11で流量が一定となるので、ギャップも一定値に維持される。また、
図7(B)から明らかなように、流量が中間値となっている場合には、ギャップも中間値となる。これは、気体流量に応じて精密にキャンドモータ31のギャップを制御できることを意味している。
以上説明したように、本発明は以下の形態を有する。
[形態1]
ロータとステータとを備える電動モータであって、前記ロータの永久磁石の磁束によるステータコア内の鎖交磁束が変化するように、前記永久磁石とステータとが相対移動可能である、電動モータ。
[形態2]
前記ロータは固定されており、前記ステータが移動可能である、請求項1に記載の電動モータ。
[形態3]
前記ロータとステータは、電動モータの回転軸の軸線方向に沿って相対移動可能である、形態1又は2に記載の電動モータ。
[形態4]
前記ロータとステータとは、相対移動機構によって相対移動する、形態1から3の何れか一項に記載の電動モータ。
[形態5]
前記相対移動機構は、ネジ機構又はリニアモータである、形態4に記載の電動モータ。[形態6]
前記電動モータは、アキシャルギャップ型モータである、形態1から5の何れか一項に記載の電動モータ。
[形態7]
前記電動モータは、ラジアルギャップ型モータである、形態1から5の何れか一項に記載の電動モータ。
[形態8]
前記ロータは、前記永久磁石と、この永久磁石を支持する磁石支持部材と、前記永久磁石と磁石支持部材の間に配置される熱変形部材とを備えている、形態1から7の何れか一項に記載の電動モータ。
[形態9]
前記熱変形部材は、熱膨張性樹脂、形状記憶合金、バイメタル機構を備える、形態8に記載の電動モータ。
[形態10]
前記ロータが設けられた空間の気密状態を維持するためのキャンを備えている、形態1から9の何れか一項に記載の電動モータ。
[形態11]
形態1から10の何れか一項に記載の電動モータと、この電動モータによって主軸が駆動されるポンプ本体と、を備えるポンプ。
[形態12]
前記ポンプは二軸同期型の真空ポンプであり、前記磁石支持部材は、二本の主軸の回転を同期させるためのタイミングギヤを兼ねている、形態11に記載の真空ポンプ。