【実施例】
【0025】
以下、実施例などにより本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
<製造例1>
[1,9−ノナンジアール(NL)および2−メチル−1,8−オクタンジアール(MOL)の混合物の製造]
特許第2857055号公報記載の方法によって、1,9−ノナンジアール(以下、NLと称する)および2−メチル−1,8−オクタンジアール(以下、MOLと称する)の混合物を製造した。該混合物におけるNLとMOLの質量比は、NL/MOL=85/15であった。
<製造例2>
[3−メチルグルタルアルデヒド(MGL)の製造]
文献(Organic Syntheses,Vol.34,p.29(1954))の方法によって3−メチルグルタルアルデヒド(以下、MGLと称する)の混合物を製造した。該化合物については安定性の観点から50質量%水溶液となるように希釈して保管した。
【0027】
<実施例1>
温度計、滴下漏斗、三方コックを備えた容量300mlの三口フラスコに、硫化鉄(和光純薬工業株式会社製)4.40g(50mmol)を入れ、滴下漏斗から20%硫酸水溶液(和光純薬工業株式会社製)50.0g(100mmol)を21℃で120分かけて滴下し、硫化水素を発生させた。
他方で、温度計および三方コックを備え内部を窒素置換した容量5Lの三口フラスコにケロシン(和光純薬工業株式会社製)500gを入れて21℃に保ち、上記で発生させた硫化水素を三方コックを通じて吹き込み、ケロシンに吸収させた。その後、三口フラスコを密閉して同温度で60分静置して硫化水素を液相間と気相間の平衡状態とした後、三口フラスコ内部の気相中の硫化水素濃度を後述する硫化水素測定方法に従い測定したところ510ppmであった。
製造例1の方法で得たNL/MOL=85/15の混合物をケロシンの質量に対して850ppmとなるように、前記硫化水素を吹き込んで吸収させ三口フラスコ内にて気相と液相の平衡状態であるケロシンに添加し、直ちに21℃、密閉下、400rpmで攪拌した。三口フラスコ内部の気相中の硫化水素濃度を、NL/MOL添加後60分、90分および120分において前記と同様にして測定した。結果を表1に示す。三口フラスコ内部の気相中の硫化水素濃度は顕著に減少していることがわかる。
【0028】
<硫化水素測定方法>
北川式ガス検知管(光明理化学工業株式会社製;硫化水素ガス検知管「120−ST」をガス採取器「AP−20」に取付けて使用)を用いてフラスコ内部の気相部を50mLサンプリングし、検知管での濃度値を気相の硫化水素濃度とした。
【0029】
【表1】
【0030】
<実施例2>
温度計、攪拌機を備えた100mLのオートクレーブに日本国内で採取された原油を30mL加え、気相部のH
2S濃度が一定になるまで攪拌した後、RX−517(理研機器製)を用いて濃度を測定したところ2,800ppmであった。次にPEG−200とNL/MOLを質量比で1:1となるように混合した組成液を原油に対して1質量%となるように添加した。このときのNL/MOLの添加量は0.6mmolであり、装置内のH
2Sの存在量は0.05mmolであった。その後、装置内を800rpmで攪拌しながら80℃に昇温し5時間反応させた。反応後に室温まで冷やし、気相部のH
2S濃度を測定したところ2ppmであり、除去効率は99.9%であった。
【0031】
<実施例3>
温度計、攪拌機を備えた100mLのオートクレーブに日本国内で採取された原油を30mL加え、気相部のH
2S濃度が一定になるまで攪拌した後、RX−517(理研機器製)を用いて濃度を測定したところ2,580ppmであった。次に50質量%MGL水溶液を原油に対して1質量%となるように添加した。このときのMGLの添加量は0.9mmolであり、装置内のH
2Sの存在量は0.05mmolであった。その後、装置内を800rpmで攪拌しながら80℃に昇温し5時間反応させた。反応後に室温まで冷やし、気相部のH
2S濃度を測定したところ70ppmであり、除去効率97.3%であった。
【0032】
<比較例1>
温度計、攪拌機を備えた100mLのオートクレーブに日本国内で採取された原油を30mL加え、気相部のH
2S濃度が一定になるまで攪拌した後、RX−517(理研機器製)を用いて濃度を測定したところ2,714ppmであった。次に50質量%グルタルアルデヒド水溶液を原油に対して1質量%となるように添加した。このときのグルタルアルデヒドの添加量は1.0mmolであり、装置内のH
2Sの存在量は0.05mmolであった。その後、装置内を800rpmで攪拌しながら80℃に昇温し5時間反応させた。反応後に室温まで冷やし、気相部のH
2S濃度を測定したところ100ppmであり、除去効率は96.3%であった。
【0033】
<比較例2>
温度計、攪拌機を備えた100mLのオートクレーブに日本国内で採取された原油を30mL加え、気相部のH
2S濃度が一定になるまで攪拌した後、RX−517(理研機器製)を用いて濃度を測定したところ2,600ppmであった。次に40質量%グリオキサール水溶液(和光純薬株式会社製)を原油に対して1質量%となるように添加した。このときのグリオキサールの添加量は1.8mmolであり、装置内のH
2Sの存在量は0.04mmolであった。その後、装置内を800rpmで攪拌しながら80℃に昇温し5時間反応させた。反応後に室温まで冷やし、気相部のH
2S濃度を測定したところ498ppmであり、除去効率は80.8%であった。
【0034】
<試験例1>
NL、MOLおよびグルタルアルデヒドについて、経口毒性の測定、藻類への毒性試験、汚泥への殺菌性試験、生分解性試験を行った。試験方法と結果は以下のとおりである。<経口毒性試験>
2%−アラビアゴム水溶液(0.5%−Tween80を含む)に乳化分散させた被験物質を、6週令の雄性CRj:CD(SD)ラットに経口ゾンデを用い1日1回14日間強制的に投与した。投与期間中の体重変動および一般状態を観察した。最終投与日より1日間絶食し(飲水は自由摂取)、最終投与の翌日に解剖、採血(各種血液検査)、主要臓器の質量測定を行った。また、肝・腎・脾臓・精巣については病理組織学的な検査(HE染色薄切切片の光学顕微鏡観察)も実施した。投与量は1000,250,60,15,0mg/kg/day(投与液量=1ml/100g-体重/day)で、各用量につき5匹を用いた。
被験物質:
(1)NL(GC純度:99.7%)
(2)グルタルアルデヒド(含水量101ppm,GC純度:99.8%)
試験の結果、NLについては最高投与量1000mg/kg/dayでも死亡例は認められなかった。NLは「劇物」には該当しない。本試験条件での最大無作用量(NOEL)を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
<藻類試験>
OECDテストガイドラインNo.201を参考に被験物質の藻類生長阻害試験を実施した。すなわち、以下の被験物質を試験培地で希釈し規定の用量とした。前培養により指数増殖期まで生長させた藻類の懸濁液を初期濃度1×10
4cells/mlとなるよう添加した。光照射型のバイオシェーカー(TAITEC製 Bio Shaker BR−180LF)で23℃にて振とう培養し、試験開始から24,48,72時間後の藻類細胞をフローサイトメーター(BECKMAN COULTER製 Cell LabQuant SC)で計数し、正常対照の生長度を100%として各試験用量の生長度を算出した。また、生長阻害率をプロットしたグラフの近似曲線の方程式よりErC
50を算出した。標準物質として二クロム酸カリウムを用いた。
藻類:Pseudokirchneriella subcapitata
被験物質:
(1)NLとMOLの混合物(GC純度:98.7%,NL/MOL=59/41)
(2)グルタルアルデヒド(含水量101ppm,GC純度:99.8%)
被験物質用量:
被験物質(1)、被験物質(2)各々について、それぞれ100,32,10,3.2,1,0.32 mg/L(公比:√10)及び0mg/L(正常対照)
標準物質:3.2,1,0.32 mg/L及び0mg/L(正常対照)
本試験における二クロム酸カリウム(標準物質)の72時間後のErC
50は1.3mg/Lであり、正常対照の72時間後の生長率は93.0%であったことから、本試験は正常に稼働したと判断した。試験結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
<汚泥への殺菌性試験>
グルコース、ペプトン、リン酸二水素一カリウム各々5gを水1リットルに溶解させ、水酸化ナトリウムでpHを7.0±1.0に調整した合成下水に、日本国岡山県倉敷市水島地区の下水処理場の汚泥を乾燥質量換算で30ppmとなるように添加して菌液を調製した。一方、24wellのマイクロプレート上で、被験物質が最終濃度で1000〜0.004ppm(公比=4)となるように蒸留水で10段階希釈したものを試験液とした。各濃度毎に2wellを使用した。比較対象としては、蒸留水+菌液を“菌液ブランク”、蒸留水のみを“ブランク”とした。
上記で調製した菌液と試験液を容量比1:1で混合し、常温(約25℃)の恒温槽内で24時間および48時間静置し、それぞれMTT法を用いて被験物質の各濃度における汚泥影響度を目視確認した。なお、MTT試薬は汚泥中微生物のミトコンドリアで変換され、フォルマザンを形成し青色を呈する。微生物が死滅した場合には同反応が起こらず、黄色を呈する。
被験物質:
(1)NLとMOLの混合物(GC純度:98.7%,NL/MOL=59/41)
(2)グルタルアルデヒド(含水量101ppm,GC純度:99.8%)
結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
<生分解性試験>
OECDテストガイドライン301C,JIS K 6950(ISO 14851)の試験方法を参考に被験物質の分解度試験を実施した。すなわち、培養ボトルに無機培地液300ml、日本国岡山県倉敷市水島地区の水島下水処理場より試験開始当日入手した活性汚泥9mg(30ppm)を入れ、被験物質は共に殺菌作用があることから汚泥への影響を加味して高濃度群:被験物質30mg(100ppm)、および低濃度群:9mg(30ppm)の2濃度で生分解性試験を実施した。
被験物質:
(1)NLとMOLの混合物(GC純度:98.7%,NL/MOL=59/41)
(2)グルタルアルデヒド(含水量101ppm,GC純度:99.8%)
クーロメーター(大倉電気3001A型)を用いて25℃で28日間培養し、被験物質の分解に消費された酸素量と被験物質の構造式より求めた理論酸素要求量を用いて生分解率を算出した。生分解標準物質としてはアニリン30mg(100ppm)を用いた。生分解率が60%以上の時、良分解性物質と判定した。被験物質の評価数はn=2とした。
【0041】
以上の条件で測定した結果、生分解標準物質であるアニリンは、試験期間中に60%以上の生分解率を示し良分解性と判定された。これにより、本試験系は正常に稼動したものと判断した。
NL/MOL高濃度群(100ppm)の28日間の生分解率はそれぞれ88.4%,86.8%(平均:87.6%)であり、『良分解性』と判断された。
NL/MOL低濃度群(30ppm)の28日間の生分解率はそれぞれ100.3%,97.3%(平均:98.8%)であり、『良分解性』と判断された。
グルタルアルデヒド高濃度群(100ppm)の28日間の生分解率はそれぞれ52.7%,52.5%(平均:52.6%)であり、『部分的な生分解性(難分解性)』と判断された。
グルタルアルデヒド低濃度群(30ppm)の28日間の生分解率はそれぞれ78.5%,77.5%(平均:78.0%)であり、『良分解性』と判断された。
【0042】
以上の結果より、NLおよび/またはMOLは、グルタルアルデヒドに比べて経口毒性が低く、藻類への毒性試験の結果も良好であるとともに、生分解性が高い。したがって、NLおよび/またはMOLは、グルタルアルデヒドに比べ、環境・労働安全上、安全性が高いことがわかる。
【0043】
<試験例2>
<熱安定性試験>
以下の試験液をそれぞれバイアル瓶に入れ、空隙部を窒素置換し、密封したものを60℃で保管し、保管開始直後の各試験液におけるNL/MOL、またはグルタルアルデヒド含有量を100%とした際の5日後、12日後、21日後の含有量の変化を、内部標準を用いたガスクロマトグラフィーによる検量線法で観察した。結果を表5に示す。
試験液1:NLおよびMOLの混合物(質量比:92/8)
試験液2:NL/MOL/水=91:7:2(質量比)の混合物
試験液3:50%グルタルアルデヒド水溶液(東京化成工業株式会社製)
[ガスクロマトグラフィー分析条件]
分析機器:GC−14A(株式会社島津製作所製)
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)
使用カラム:G−300(長さ20m、膜厚2μm、内径1.2mm)
(化学物質評価研究機構社製)
分析条件:Inject.Temp.250℃、Detect.Temp.250℃
昇温条件:80℃→(5℃/分で昇温)→230℃
内部標準物質:ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)
【0044】
【表5】
【0045】
NLおよびMOLを含む試験液1、試験液2では21日後でも98%が残存していたのに対して、グルタルアルデヒドを含む試験液3は21日後には62%の残存量であった。
したがって、NLおよび/またはMOLは、グルタルアルデヒド水溶液よりも熱安定性が高いことがわかる。
【0046】
<試験例3>
アルデヒド水溶液の金属への腐食性を評価するため、下記の水溶液を用意した。
A.1%NL/MOL水溶液:NL/MOLの混合物を蒸留水で希釈
B.1%MGL水溶液:MGLを蒸留水で希釈
C.1%グルタルアルデヒド水溶液:50%グルタルアルデヒド水溶液(和光純薬工業株式会社製)を蒸留水で希釈
D.1%グリオキサール水溶液:40%グリオキサール水溶液(東京化成工業株式会社製)を蒸留水で希釈
E.蒸留水(ブランク)
【0047】
5本の50mLスクリュー管に、SS400の試験片(20mm×20mm×2mm)および上記アルデヒド水溶液A〜D各々を25g、大気下で入れて密閉し、85℃にセットした循環型乾燥機内で9日間保存した。保存終了後、試験片を取り出し、水溶液中の鉄イオン濃度を原子吸光法にて測定した結果を表6に示す。
【0048】
<試験例4>
試験例3において、窒素下で密閉したこと以外は試験例3と同じ手順を行い、各々の水溶液中の鉄イオン濃度を測定した。結果を表6に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
試験例3および試験例4の結果より、NL/MOL水溶液、MGL水溶液ではグルタルアルデヒド水溶液やグリオキサール水溶液よりも鉄の腐食が抑制されることがわかる。