特許第6446164号(P6446164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6446164残渣廃棄方法及びトリクロロシランの製造方法
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  • 特許6446164-残渣廃棄方法及びトリクロロシランの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446164
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】残渣廃棄方法及びトリクロロシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   C01B33/107 Z
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-546257(P2018-546257)
(86)(22)【出願日】2017年10月6日
(86)【国際出願番号】JP2017036491
(87)【国際公開番号】WO2018074268
(87)【国際公開日】20180426
【審査請求日】2018年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-204660(P2016-204660)
(32)【優先日】2016年10月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山下 功
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−10648(JP,A)
【文献】 特開2006−1804(JP,A)
【文献】 特開2013−231555(JP,A)
【文献】 特開2009−271022(JP,A)
【文献】 特開2008−93523(JP,A)
【文献】 特開2005−29428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを製造する方法において反応生成ガス処理工程より排出される、塩化アルミニウムを含む残渣を廃棄する方法であって、
前記残渣中のクロロシラン化合物の含有量が10質量%以下となるように乾燥させて粉状体を得る乾燥工程を含み、
前記乾燥工程における温度が50〜130℃であることを特徴とする残渣廃棄方法。
【請求項2】
前記乾燥工程の前に、前記残渣を、塩化アルミニウムの晶析物を含んだ状態で、固形分濃度が20〜30質量%となるように濃縮する残渣濃縮工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の残渣廃棄方法。
【請求項3】
前記乾燥工程によって得られた粉状体を、露点が−70℃以下である不活性なキャリアガスによって移送して廃棄することを特徴とする請求項1または2に記載の残渣廃棄方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は縦型乾燥機によって行われることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の残渣廃棄方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の残渣廃棄方法を一工程として含むことを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残渣廃棄方法及びトリクロロシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度のトリクロロシラン(SiHCl)は、半導体及び太陽電池の材料として用いられる多結晶シリコンの製造に使用される。トリクロロシランは、例えば、以下の反応によって得られる。まず、原料のシリコン(Si)と塩化水素(HCl)とを反応させる。その場合に、主反応として、式(1)に示すようにトリクロロシランが生成されるが、副反応として式(2)に示すようにテトラクロロシラン(SiCl)が生じる。テトラクロロシランは回収後再利用され、式(3)に示すようにトリクロロシランへと転化される。また、塩化水素を用いずに、式(3)の反応によってトリクロロシランを製造する場合もある。
Si+3HCl→SiHCl+H (1)
Si+4HCl→SiCl+2H (2)
3SiCl+2H+Si → 4SiHCl (3)
上記反応により生じる反応生成ガス中には、トリクロロシランの他に、副生物である低沸シラン及びテトラクロロシラン等のクロロシラン化合物が含まれている。さらに、上記反応生成ガス中には、副生する水素と、金属シリコンに由来する不純物が含まれ得る。トリクロロシラン及び再利用されるテトラクロロシラン等を高い量回収するためには、上記反応生成ガスから不純物を極力排除する必要がある。また、不純物に含まれるアルミニウムは、クロロシラン化合物または塩化水素等と反応して塩化アルミニウム(AlCl)となる。この塩化アルミニウムは、トリクロロシランの製造工程に用いられる装置を繋ぐ配管を閉塞させる原因となる。その結果、トリクロロシランの製造効率が低下するため、配管閉塞を防ぐ目的で塩化アルミニウムを含む金属塩化物を除去する方法が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、液体のクロロシランから塩化アルミニウム及びその他の金属塩化物を取り除くための方法が開示されている。該方法とは、具体的に、液体のクロロシランから種上に塩化アルミニウム及びその他の金属塩化物を結晶化させて得られた液体及び固体の混合物のうち、固体含有量の高い液体を廃棄物濃縮デバイスへ移す方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−504452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、配管を閉塞させることなく、残渣を効率よく廃棄するという観点からは、改善の余地があった。また、上述のような従来技術は、廃棄物に含まれるクロロシラン化合物が極めて少なくなるように、クロロシラン化合物をより高い回収率にて回収するという観点からも、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、配管を閉塞させることなく、残渣を効率よく廃棄するとともに、クロロシラン化合物をより高い回収率にて回収する方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、残渣中のクロロシラン化合物の含有量が特定の値以下となるように、残渣を乾燥させることにより、配管を閉塞させることなく、残渣を効率よく廃棄するとともに、クロロシラン化合物をより高い回収率にて回収できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の一実施形態に係る残渣廃棄方法は、金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを製造する方法において、反応生成ガスの処理工程より排出される、塩化アルミニウムを含む残渣を廃棄する方法であって、前記残渣中のクロロシラン化合物の含有量が10質量%以下となるように乾燥させて粉状体を得る乾燥工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、残渣を十分に乾燥させて粉状体とすることができる。従って、スラリーとして残渣を廃棄する場合に比べ、配管を閉塞させることがない。また、例えば、キャリアガスによる気流輸送により、残渣を効率よく廃棄することができる。また、本発明では、廃棄物(粉状体)に含まれるクロロシラン化合物が極めて少なくなるように乾燥させる。すなわち、クロロシラン化合物を高い回収率にて回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】トリクロロシランの製造において生じた残渣が廃棄されるまでの工程を示す概略図である。
図2】実施例における縦型撹拌乾燥機内の温度、得られた残渣の固形分濃度及び金属シリコン重量、撹拌翼の動力、並びに攪拌機モーターの電流値の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る残渣廃棄方法は、金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを製造する方法において反応生成ガス処理工程より排出される、塩化アルミニウムを含む残渣を廃棄する方法であって、前記残渣中のクロロシラン化合物の含有量が10質量%以下となるように乾燥させて粉状体を得る乾燥工程を含む。また、本発明の一実施形態に係るトリクロロシランの製造方法は、前記残渣廃棄方法を一工程として含む。
【0013】
図1は、トリクロロシランの製造において生じた残渣が廃棄されるまでの工程を示す概略図である。以下では、まず、前記トリクロロシランの製造方法の概要を説明し、その次に、前記残渣廃棄方法を説明する。
【0014】
〔1.トリクロロシランの製造方法〕
前記トリクロロシランの製造方法は、テトラクロロシラン還元工程1と反応生成ガス処理工程2とを主に含み得る。
【0015】
<1−1.テトラクロロシラン還元工程1>
まず、原料である金属シリコンに、テトラクロロシラン及び水素を、反応装置等を用いて反応させる。本明細書においては、この反応が行われる工程をテトラクロロシラン還元工程1と称する。テトラクロロシラン還元工程1における主な反応は、下記式(3)で表される。
3SiCl+2H+Si→4SiHCl (3)
前記反応に用いられる金属シリコンとしては、冶金製金属シリコン、珪素鉄、或いはポリシリコン等の金属状態の珪素元素を含む固体物質が挙げられ、公知のものが何ら制限なく使用される。また、それら金属シリコンには鉄化合物等の不純物が含まれていてもよく、その成分及び含有量において特に制限はない。かかる金属シリコンとしては、通常、平均粒径が100〜300μm程度の微細な粉末の形態のものが使用される。
【0016】
なお、金属シリコン中のボロン含有量は、通常数ppm〜数百ppm程度のものが工業的に入手可能である。テトラクロロシラン還元工程においては、前記ボロン含有量の金属シリコンが特に制限なく使用できる。しかしながら、後述する反応生成ガスの凝縮によりクロロシラン化合物を分離する際に、クロロシラン化合物中にボロンが取り込まれる場合がある。従って、ボロン含有量が可能な限り低い金属シリコンを用いたほうが、分離後のクロロシラン化合物中に取り込まれるボロンの含有量が低下し、蒸留効率が高まるため、または蒸留装置への負荷が低減されるため、好ましい。それゆえ、用いる金属シリコン中のボロン含有量としては、数〜百ppm、さらに好ましくは数〜50ppmが好ましい。
【0017】
前記反応に用いられる水素としては、工業的に入手し得る種々の水素を使用することができ、ポリシリコンの製造過程で排出される水素等を適宜精製して使用することもできる。
【0018】
前記反応におけるテトラクロロシランとしては、金属シリコンと塩化水素とを反応させた際に、副生成物として生じるテトラクロロシラン、またはポリシリコンの製造過程で排出され、適宜回収されたテトラクロロシランを再利用して用いることができる。
【0019】
また、前記反応に際しては、反応速度を速くし、効率よく且つ高い選択率でトリクロロシランを製造するという観点から、触媒を用いることが好ましい。かかる触媒としては、この反応系で従来から使用されているものを用いてもよく、例えば、銅粉、塩化銅、銅シリサイド等の銅系触媒が使用される。かかる触媒は、銅換算で、金属シリコンに対して、0.1〜40重量%、特に0.2〜20重量%の量で使用される。また、これらの触媒に、鉄成分、または鉄成分とアルミニウム成分とを併用することも可能である。
【0020】
前記反応に用いられる反応装置は、公知の反応装置を特に制限なく用いることができる。かかる反応装置として具体的には、固定床式反応装置及び流動床式反応装置等が挙げられる。連続的に金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素を供給して、連続的にトリクロロシランを製造することが可能である点からは、前記反応装置の中でも流動床式反応装置を用いることが好ましい。
【0021】
金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素の供給量は、反応装置の種類及び能力等を勘案して適宜決定すればよい。テトラクロロシラン及び水素の比は、テトラクロロシラン1モルに対して水素1〜5モルが一般的であるが、テトラクロロシラン1モルに対して水素1〜3モルであることがより好ましい。また、その供給速度は、用いる反応装置の種類及び大きさに応じて適宜設定すればよい。例えば、流動床式反応装置を用いる場合、流動層が形成可能な流量となるような速度でテトラクロロシラン及び水素が供給される。さらに、テトラクロロシラン及び水素は反応に関与しない不活性ガス(窒素ガスまたはアルゴンガス等)により希釈して供給することもできる。
【0022】
前記反応における反応温度は、反応装置の材質及び能力、並びに用いる触媒等を勘案して適宜決定されるが、一般に、400〜700℃、特に450〜600℃の範囲に設定される。
【0023】
本明細書においては、テトラクロロシラン還元工程1によって得られる結果物を反応生成ガス7と称する。
【0024】
反応生成ガス7には、金属シリコン粒子が含まれ得る。従って、前記反応装置には、集塵装置が備えられていることが好ましい。これにより、反応生成ガスを集塵装置へ通し、金属シリコン粒子などの固形物を除去することができる。集塵装置としては、フィルター及び遠心力式集塵装置等が挙げられる。なかでも、集塵装置は、遠心力式集塵装置であることが好ましい。遠心力式集塵装置としては、例えば、サイクロン式粉体分離器が挙げられる。サイクロン式粉体分離器では、内壁に沿って気流がらせん状に降下する。これにより、除去する対象の粒子は、内壁に接触して当該サイクロン式粉体分離器の下端に集められる。サイクロン式粉体分離器は、細かい粒子を除去できること、設置及び維持管理が容易であること、並びに高圧及び高温での使用が可能であることから好ましい。
【0025】
<1−2.反応生成ガス処理工程2>
反応生成ガス7には、トリクロロシランの他に、未反応のテトラクロロシラン及び水素、その他のクロロシラン化合物、並びに集塵装置で除去できなかった金属シリコン粒子等が含まれ得る。また、上述のテトラクロロシラン還元工程1において、原料として用いられる金属シリコンには、通常0.01〜10重量%のアルミニウム等の不純物が含まれ得る。そのため、反応生成ガス7には、塩化アルミニウム等が含まれ得る。従って、トリクロロシランの製造方法は、前記反応生成ガスからトリクロロシランを精製するために、反応生成ガスを更に処理する工程を含むことが好ましい。本明細書においては、この工程を反応生成ガス処理工程2と称する。
【0026】
なお、本明細書において、クロロシラン化合物とは、塩素元素とケイ素元素とを含む化合物を意味する。クロロシラン化合物としては、トリクロロシラン及びテトラクロロシランの他に、ジクロロシラン、ペンタクロロシラン及びヘキサクロロシラン等が挙げられる。
【0027】
例えば、反応生成ガス処理工程2は、反応生成ガス7を洗浄する工程を含むことが好ましい。これにより、反応生成ガス7に含まれ得る固形分(例えば、集塵装置で除去できなかった金属シリコン)をトラップすることができる。洗浄方法としては、例えば、バブリング方式及びシャワー方式が挙げられる。バブリング方式では、反応生成ガス7をシラン液層に吹き込んでバブリングすることによって、反応生成ガス7の洗浄が行われる。シャワー方式では、反応生成ガス7をシャワー状に噴霧されたシラン液の中にくぐらせることによって、反応生成ガス7の洗浄が行われる。このような洗浄は多段で行うこともでき、例えば、バブリング方式で反応生成ガス7を洗浄した後に、シャワー方式によって反応生成ガス7の洗浄を行ってもよい。この場合、反応生成ガス7に含まれる不純物をより効果的に除去できるという点で好ましい。
【0028】
前記シラン液は、トリクロロシラン、テトラクロロシラン及びその他クロロシラン化合物等を含み得る。シラン液の温度は、洗浄を効率よく行うために40〜50℃であることが好ましい。
【0029】
また、反応生成ガス処理工程2は、反応生成ガス7を冷却し、トリクロロシランを凝縮分離する工程を含むことが好ましい。ここで、凝縮を行う為の冷却手段としては、各種のクロロシラン化合物が凝縮される温度以下に冷却することが可能であれば、特に制限なく、公知の冷却手段を用いて行うことが可能である。冷却を行う装置(例えばバッファードラム)内の温度は、−10℃以下であることが好ましく、−60〜−30℃であることがより好ましい。これにより、凝縮を効率よく行うことができる。
【0030】
さらに、反応生成ガス7から得られた凝縮液を蒸留することによってクロロシラン化合物類を単離することが好ましい。蒸留にはリボイラーを有する蒸留塔等を使用することができる。蒸留塔トレイとしては、通常使用されているものが制限なく使用でき、例えば、規則充填物または不規則充填物等を充填した充填式、バブルキャップ式、多孔板式等が挙げられる。前記凝縮液は蒸留塔のどの部分に供給することもできるが、トレイの汚れを防止するために蒸留塔の塔底部に直接供給することがより好ましい。クロロシラン化合物が蒸発するエネルギーを印加するリボイラーは、蒸留塔塔底の周囲をジャケット式にして直接加熱する方式でもよいし、蒸留塔塔底の外部に熱交換器を設置する方式でもよい。また、蒸留塔塔底の内部に熱交換器を設置する方式も採用可能である。
【0031】
熱交換器としては、一般的には伝熱面積を稼ぐためにシェルアンドチューブ方式が好適に採用されるが、蛇管式または電熱ヒーター等も採用可能である。なお、蒸留のエネルギーを印加する熱交換器には、クロロシラン液が滞留して塩化アルミニウムが高度に濃縮されるとスケーリングが生じる場合がある。そのため、熱交換器は、クロロシラン液が滞留し難い構造であることが好ましい。クロロシラン液が滞留し難い方式としては、加熱による対流を利用する方法でもよいし、ポンプなどを利用して強制的にクロロシラン液を流す方法も好適に採用できる。
【0032】
回収及び精製すべきクロロシラン化合物と分離除去すべき不純物との沸点差はかなり大きいため、蒸留は特に高度な精留を行う必要はない。即ち、蒸留操作を維持できる範囲で蒸留を行うことができ、還流比も0.1〜1程度でもよい。
【0033】
なお、後述の晶析工程で晶析する固体塩化アルミニウムの量は、塔底液中の溶解塩化アルミニウム濃度と冷却後の飽和溶解濃度との差による。それゆえ、塔底液中の溶解塩化アルミニウム濃度はできるだけ高い方が、処理循環量を少量にしながら塩化アルミニウムの除去効率を高くすることができるため好ましい。
【0034】
一方、リボイラーへの塩化アルミニウム析出及び閉塞を防止し、長期間の安定的な運転を達成するためには、塔底液中に溶解した塩化アルミニウム濃度は、その塔底液の温度における飽和溶解度未満に調整することが好ましい。例えば、塔底液の温度が50℃以上である場合、塔底液中の溶解塩化アルミニウム濃度を好ましくは0.5〜1.8重量%、より好ましくは0.8〜1.5重量%の範囲に維持する。
【0035】
なお、ここで分離されたクロロシラン化合物類に含まれるテトラクロロシランは、精製工程を経て上述のテトラクロロシラン還元工程1にて再利用され得る。また、トリクロロシランは、ポリシリコンを製造するための原料として使用され得る。また、上述の塩化アルミニウムは、クロロシラン化合物と比べて沸点が高いため、固形分として分離することができる。
【0036】
前記洗浄及び/または蒸留によって分離された固形分は、液体のクロロシラン化合物を含む残渣(スラリー)として回収される。本明細書では、前記洗浄及び/または蒸留を含む反応生成ガス処理工程2によって得られた残渣であって、後述の晶析工程に移送される前の残渣を、晶析前残渣8と称する。
【0037】
〔2.残渣廃棄方法〕
本発明の一実施形態に係る残渣廃棄方法は、金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを製造する方法において反応生成ガス処理工程より排出される、塩化アルミニウムを含む残渣を廃棄する方法であって、前記残渣中のクロロシラン化合物の含有量が10質量%以下となるように乾燥させて粉状体を得る乾燥工程を含む。また、前記トリクロロシランの製造方法は、本発明の一実施形態に係る残渣廃棄方法を一工程として含んでいることが好ましい。
【0038】
前記構成によれば、残渣を十分に乾燥させて粉状体とすることができる。従って、スラリーとして残渣を廃棄する場合に比べ、配管を閉塞させることなく、残渣を効率よく廃棄することができる。また、本方法では、廃棄物(粉状体)に含まれるクロロシランが極めて少なくなるように乾燥させる。すなわち、クロロシランを高い回収率にて回収することができる。
【0039】
<2−1.晶析工程3>
前記残渣廃棄方法または前記トリクロロシランの製造方法は、反応生成ガス処理工程2から得られた晶析前残渣8を冷却し、塩化アルミニウムの一部を晶析させる晶析工程3を含んでいてもよい。晶析工程3によって晶析された塩化アルミニウムは後の工程で加熱されても再溶解せずに固形分として安定した状態で存在する。また、晶析された塩化アルミニウムは再分散性も非常に良いため、残渣を滞らせることがなければリボイラー等に沈着して閉塞するトラブルを起こすことは殆どない。このように得られた晶析された塩化アルミニウムを含む残渣を、本明細書においては、晶析後残渣9と称する。
【0040】
なお、上述の蒸留を経ていない残渣(例えば、洗浄のみを経た残渣)と、蒸留を経た残渣とのいずれを晶析工程3へ移送してもよいが、その両方を晶析工程3へ移送することが好ましい。
【0041】
晶析工程3を行う装置としては、装置の内部または外部に冷媒を流通させる液冷却装置を用いることができる。なお、このとき、冷却された装置壁面には塩化アルミニウムが僅かに析出してスケーリングし、冷却のための熱交換能力が徐々に低下する場合もある。しかしながら、生じたスケールは極めて除去し易い。そのため、冷却される壁面にはスケールを掻き取る手段を設けることが好ましい。これにより、スケールが生じた場合でも、容易に除去することができる。上記スケールを掻き取る方法としては、パドルもしくはヘリカルリボン等を電動機で回転させる方法、またはスポンジボール等を残渣と一緒に流通させる方法などがあり、いずれも好適に採用できる。
【0042】
晶析工程3を行う装置内の温度は、10℃以下であることが好ましく、5℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましい。このように十分に低温で晶析させれば、冷却後の配管が冬場の外気等でさらに冷却された場合においても、さらに晶析が進んでスケーリングすることを防止でき、後工程で再加熱時の液中への再溶解を抑制できる。また、晶析を行う装置内の圧力は、晶析の観点からは特に限定されないが、次の工程へポンプなしで送液することができるという観点からは600〜400kPa(ゲージ圧)であってもよく、450〜550kPa(ゲージ圧)であってもよい。
【0043】
<2−2.残渣濃縮工程4>
前記残渣廃棄方法または前記トリクロロシランの製造方法は、晶析工程から得られた残渣(晶析後残渣9)を加熱して濃縮する残渣濃縮工程4を含んでいてもよい。これにより、残渣に含まれる液体を蒸発させ、固形分をさらに濃縮することができる。すなわち、利用可能なクロロシラン化合物をさらに回収したうえで、残渣を廃棄することができる。このように濃縮した残渣を、本明細書においては、濃縮後残渣10と称する。
【0044】
残渣濃縮工程4を行う装置内の温度としては、70〜90℃であることが好ましく、80〜85℃であることがより好ましい。残渣濃縮工程4を行う装置内の圧力は、80〜120kPa(ゲージ圧)であることが好ましく、90〜110kPa(ゲージ圧)であることがより好ましい。上記温度及び圧力であれば、温度差を生じ易いため、前記装置の伝熱面積を小さくすることができる。すなわち、前記装置をコンパクトにすることができる。従って、残渣をより効率的に濃縮させることができる。
【0045】
濃縮工程において用いられる加熱装置としては、濃縮工程を行うことが可能である上記温度を設定できる装置であれば、公知の装置を特に制限なく用いることができる。
【0046】
濃縮後残渣10の固形分濃度は、塩化アルミニウムの晶析物を含んだ状態で、20〜30質量%となることが好ましく、25〜30質量%となることがより好ましい。上記残渣濃縮工程によれば、塩化アルミニウムなどの金属塩化物を高濃度にて廃棄することができる。なお、従来技術では、配管の閉塞を防ぐという観点からは、このように固形分濃度が高い状態へ残渣を濃縮することはできなかった。前記残渣廃棄方法によれば、後述のように最終的に粉状体として処理するため、このように固形分濃度が高い状態へ残渣を濃縮しても、配管の閉塞を防ぐことができる。
【0047】
<2−3.乾燥工程5>
前記残渣廃棄方法または前記トリクロロシランの製造方法は、残渣中のクロロシラン化合物の含有量が10質量%以下となるように乾燥させて粉状体11を得る乾燥工程5を含む。
【0048】
本明細書において粉状体11とは、粉末状に乾燥された残渣を意味する。粉状体11におけるクロロシラン化合物の含有量は10質量%以下であり、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。これにより、クロロシラン化合物を高回収率にて回収できる。粉状体11におけるクロロシラン化合物の含有量の下限値は特に限定されないが、例えば、0質量%を超えてもよく、3質量%以上であってもよい。残渣を粉状体にすることにより、後述の廃棄工程6においてキャリアガスを介した粉状体11の輸送が可能となる。
【0049】
粉状体11の嵩密度は、600〜800kg/mであってもよく、660〜710kg/mであってもよい。また、粉状体11の安息角は40〜70°であってもよく、50〜70°であってもよい。
【0050】
なお、乾燥工程5に移送される残渣は、晶析前残渣8、晶析後残渣9または濃縮後残渣10のいずれであってもよいが、塩化アルミニウムなどの金属塩化物を高濃度にて廃棄するという観点からは、濃縮後残渣10であることがより好ましい。すなわち、前記残渣廃棄方法または前記トリクロロシランの製造方法は、乾燥工程5の前に残渣濃縮工程4を含むことが好ましい。
【0051】
乾燥工程5は、例えば、前記残渣を加熱することによって、残渣に含まれるクロロシラン化合物等を蒸発させて、乾燥させる工程であってもよいし、遠心分離またはフィルター等の固液分離によって前記残渣からクロロシラン化合物を除去する工程であってもよい。加熱を行う装置内の温度は、50℃以上であることが好ましい。また、加熱を行う装置内の温度は、130℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。130℃以下の加熱であれば、残渣を十分に乾燥させることができる。また、100℃以下の加熱であれば、塩化アルミニウムの昇華を効果的に抑制することができる。
【0052】
乾燥工程5においては、残渣を乾燥させるための加熱機構または遠心分離機構を備え、固体と液体とを分離可能な固液分離装置を用いることができる。加熱機構としては、例えば、熱媒(温水または水蒸気等)を流通させることによって加熱する機構が挙げられる。また、遠心分離機構としては、例えば、残渣に遠心力を与える回転胴を備えた機構が挙げられる。
【0053】
加熱機構におけるスチームは、(例えば、縦型撹拌乾燥機の)伝熱面積の確保および塩化アルミニウムの昇華抑制の観点から、0.2ST以下であることが好ましい。なお、0.2STとは、0.2MPa(ゲージ圧)の圧力のスチームを意味する。
【0054】
このような固液分離装置としては、例えば、加圧濾過乾燥機、振動乾燥機、縦型乾燥機、遠心デカンター等が挙げられる。加圧濾過乾燥機は、残渣を加圧するとともに濾過した後、加熱によって乾燥させるものである。振動乾燥機は、振動によって残渣を流動化させながら加熱によって乾燥させるものである。縦型乾燥機は、残渣を上側から投入し、加熱によって乾燥させ、下側から排出するものである(すなわち、重力方向へ粉状体を排出する)。遠心デカンターは、円筒型の回転胴を回転させることにより、遠心力によって残渣から液体を分離するものである。なお、加圧濾過乾燥機、振動乾燥機及び縦型撹拌乾燥機はバッチプロセスであり、遠心デカンターは連続プロセスである。
【0055】
残渣からトリクロロシランをほぼ完全に蒸発させ、トリクロロシランの回収率を上げるという観点からは、加圧濾過乾燥機、振動乾燥機または縦型乾燥機が好ましい。さらに、装置内に残存する固形分が少なく、粉状体をスムーズに排出できるという観点及び残渣を効率よく乾燥させるという観点からは、縦型乾燥機が好ましい。連続的に処理できるという観点及び加熱による塩化アルミニウムのスケーリングが生じないという観点からは遠心デカンターが好ましい。
【0056】
前記固液分離装置は、内部に攪拌翼を備えていることが好ましい。残渣が撹拌翼によって撹拌されることにより、固液分離装置内が残渣により閉塞することがない。前記固液分離装置は、撹拌翼を備えた縦型乾燥機(すなわち、縦型撹拌乾燥機)であることがより好ましい。縦型撹拌乾燥機であれば、撹拌によって装置内における固形分の残存を防ぐとともに、重力方向へ粉状体をスムーズに排出することができる。
【0057】
なお、撹拌翼を有さない固液分離装置も、撹拌翼の腐食の懸念が無いという観点及び軸シール構造が不要であるため、メンテナンスが容易であるという観点からは利点がある。
【0058】
<2−4.廃棄工程6>
前記残渣廃棄方法または前記トリクロロシランの製造方法は、粉状体11を廃棄する廃棄工程6を含んでいてもよい。廃棄工程6は、例えば、粉状体11を廃棄ピット等の設備へキャリアガスを介して移送することによって行われる。上述のように粉状体11は、クロロシラン化合物の含有量が10質量%以下となるように乾燥されているため、キャリアガスによって移送しやすい。
【0059】
粉状体11を移送するキャリアガスの種類として、特に限定されないが、粉状体11と不要な反応を生じない不活性なキャリアガスが好ましい。また、安全に且つ効率よく粉状体を廃棄することができるという観点からは、キャリアガスの温度は露点が−70℃以下であることが好ましい。このようなキャリアガスとしては、例えば、窒素等が挙げられる。
【0060】
<まとめ>
本発明の一実施形態は、以下のような構成であってもよい。
【0061】
〔1〕金属シリコン、テトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを製造する方法において、反応生成ガスの処理工程より排出される、塩化アルミニウムを含む残渣を廃棄する方法であって、前記残渣中のクロロシラン化合物の含有量が10質量%以下となるように乾燥させて粉状体を得る乾燥工程を含むことを特徴とする残渣廃棄方法。
【0062】
〔2〕前記乾燥工程の前に、前記残渣を、塩化アルミニウムの晶析物を含んだ状態で、固形分濃度が20〜30質量%となるように濃縮する残渣濃縮工程を含むことを特徴とする〔1〕に記載の残渣廃棄方法。
【0063】
〔3〕前記乾燥工程における温度が130℃以下であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の残渣廃棄方法。
【0064】
〔4〕前記乾燥工程によって得られた粉状体を、露点が−70℃以下である不活性なキャリアガスによって移送して廃棄することを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の残渣廃棄方法。
【0065】
〔5〕前記乾燥工程は縦型乾燥機によって行われることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の残渣廃棄方法。
【0066】
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の残渣廃棄方法を一工程として含むことを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【0067】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
〔1.残渣中のクロロシラン化合物の含有量について〕
残渣中のクロロシラン化合物の含有量と、残渣の流動性との関係を調べるため、以下の実験を行った。
【0070】
(1)残渣の調製
既存の晶析工程を経た残渣濃縮工程より濃縮後残渣を得た。すなわち、図1のテトラクロロシラン還元工程1から残渣濃縮工程4までを経た濃縮後残渣10を用いた。
【0071】
(2)固液分離装置
固液分離装置として、縦型撹拌乾燥機を用いた。縦型撹拌乾燥機に上述の濃縮後残渣を初期仕込み時に200kg投入した。その後、乾燥工程により内容物が蒸発し、内部液面が低下するので、液面を保持できるように、随時、上述の濃縮後残渣を追加で3〜11回、30kgずつ追加投入した。
【0072】
(3)測定項目
・温度
熱電対によって測定した。
・スラリー濃度推算値(固形分濃度)
縦型撹拌乾燥機から蒸発した液を凝縮器により凝縮させ、その凝縮液量と、仕込み量とからスラリー濃度を算出した。
・M−Si(金属シリコン)重量
あらかじめ、仕込み前の上述の残渣を蒸発乾固させ、上述の濃縮後残渣のM−Si濃度を算出した。そして、その濃度と総仕込み量とから縦型撹拌乾燥機に投入されたM−Si重量を算出した。
・動力
電流計によって測定した電流値から推算式によって算出した。
・電流値
電流計によって測定した。
【0073】
(4)結果
図2は、縦型撹拌乾燥機内の温度、得られた残渣の固形分濃度及び金属シリコン重量、撹拌翼の動力、並びに攪拌機モーターの電流値の経時変化を示した図である。
【0074】
撹拌翼の動力のピーク時(図2中のA)には、固体の粘りが強いため、残渣の流動性が悪くなっていると考えられる。このピーク後の低位安定時(図2中のB)において、残渣は乾燥された粉状体となり、流動性が確保され、キャリアガスによる移送が可能になると考えられる。図2中の、実験の終了点(換言すれば、240minの点)において、スラリー濃度換算値を100%としているが、上記点の固形分濃度の実測値は、98質量%であった。つまり、推定値と実測値との間に、2%の差が生じていた。従って、図2中の、Cの固形分濃度は94質量%程度を示しているが、Cの実際の固形分濃度は92質量%程度(クロロシラン化合物の含有量は約8質量%)であると考えられる。
【0075】
以上のことから、残渣中のクロロシラン化合物の含有量が10質量%以下とすれば、残渣は十分に乾燥された粉状体となり、キャリアガスによる移送が可能であると考えられる。
【0076】
〔2.シラン液を用いたテスト〕
(1)シラン液の調製
既存の晶析工程を経た残渣濃縮工程より得られた濃縮後残渣(すなわち、図1のテトラクロロシラン還元工程1から残渣濃縮工程4までを経た濃縮後残渣10)に原料M−Siを添加することによって、固形分濃度が50質量%であるシラン液を得た。
【0077】
(2)固液分離装置
固液分離装置として、加圧濾過乾燥機、振動乾燥機、縦型撹拌乾燥機または遠心デカンターを用いた。各装置に、上述のシラン液を仕込み量16.2kgとして投入し、以下の条件にて作動させた。
・有効容量:10L
・伝熱面積:0.25m
・ジャケット熱源:0.3ST
・容器内圧:大気圧
なお、加圧濾過乾燥機、縦型撹拌乾燥機及び遠心デカンターは攪拌翼(スクリュー)を有する。縦型撹拌乾燥機の撹拌翼の作動条件を以下に示す。
・攪拌翼形式:ダブルリボン型
・モーター動力:0.2kW
・撹拌翼回転数:85rpm
(3)測定項目
・残渣中のクロロシラン化合物の含有量
乾燥法によって測定した。
・残渣から分離した液体における固形分濃度
乾燥法によって測定した。
・塩化アルミニウムのスケーリング
各装置内における塩化アルミニウムのスケーリングを目視によって確認した。
【0078】
(4)結果
得られた結果を、各装置の性能等とともに表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1中、各装置を好ましく採用可能である場合に○、より好ましく採用可能である場合に◎、採用可能であるが改善することが好ましい場合に△とした。
【0081】
振動乾燥機及び縦型撹拌乾燥機においては、残渣中のクロロシラン化合物の含有量を極めて低くすることが可能であり、すなわち、残渣中のクロロシラン化合物をほぼ完全蒸発させることが可能であった。また、加圧濾過乾燥機においても濾過後に乾燥することにより、残渣中のクロロシラン化合物をほぼ完全蒸発させることが可能であった。遠心デカンターにおいては、固形分中にクロロシラン化合物が多少残存した。また、振動乾燥機及び縦型撹拌乾燥機においては、残渣から分離した液体中の固形分もほぼ存在せず、より好ましい結果となった。
【0082】
各装置の運転はいずれも容易であった。なお、遠心デカンターは高速回転するスクリューを有する等、構造が複雑であるが、運転条件を確立すれば、容易に運転することが可能である。装置の本体プロセスとしては、バッチプロセスである加圧濾過乾燥機、振動乾燥機及び縦型撹拌乾燥機よりも、連続プロセスである遠心デカンターのほうがより好ましい。
【0083】
また、遠心デカンターは加熱しないプロセスによるものであるため、塩化アルミニウムのスケーリングが生じない。なお、加圧濾過乾燥機及び縦型撹拌乾燥機は、撹拌翼を有するため、塩化アルミニウムのスケーリングは一定である。
【0084】
表1における「エロージョン」は、各装置の摩耗への対策を表す。加圧濾過乾燥機、縦型撹拌乾燥機及び遠心デカンターにおいては、撹拌翼またはスクリューを定期交換することにより、エロージョンに対応することができる。また、振動乾燥機は撹拌翼またはスクリューのような内部構造物がないため、エロージョンの懸念がない。
【0085】
また、残渣に含まれ得る金属シリコンを効率よく排出できるという観点からは、撹拌翼またはスクリューを有する加圧濾過乾燥機、縦型撹拌乾燥機及び遠心デカンターは、振動乾燥機に比べてさらに好ましい。
【0086】
撹拌翼またはスクリューにおいて軸シール構造を要する加圧濾過乾燥機、縦型撹拌乾燥機及び遠心デカンターに比べると、軸シール構造が不要である振動乾燥機はメンテナンスが容易である。
【0087】
以上のことを踏まえて総合的に評価すると、固液分離装置として、縦型撹拌乾燥機及び遠心デカンターがより好ましく、中でも縦型撹拌乾燥機がさらに好ましい。
【0088】
〔3.ベンチテスト〕
有効容量を100L規模としたデータを取得するため、以下のベンチテストを行った。
【0089】
(1)残渣の調製
既存の晶析工程を経た残渣濃縮工程より濃縮後残渣を得た。すなわち、図1のテトラクロロシラン還元工程1から残渣濃縮工程4までを経た濃縮後残渣10を用いた。なお、濃縮後残渣における固形物濃度(推算値)は16質量%であった。
【0090】
(2)残渣の乾燥及び移送
上記(1)のようにして得られた残渣を、仕込み量30kg/バッチにて、縦型撹拌乾燥機に投入し、以下の条件にて作動させた。
・有効容量:100L
・伝熱面積:0.94m
・攪拌翼形式:ダブルリボン型
・軸封:シングルメカニカルシール
・モーター動力:2.2kW
・ジャケット熱源:0.2ST
・コンデンサ冷媒:工業用水(IW)
・容器内圧:大気圧
・撹拌翼回転数:48rpmまたは62rpm
得られた粉状体を窒素圧送ドラムに移送した後、廃棄ピットへ排出した。
【0091】
(3)結果
熱源0.2STの場合に、粉状体におけるクロロシラン化合物の含有量は2〜8質量%であった。また、U値は、350W/mであった(定率乾燥時)。粉状体の嵩密度は、664〜707kg/mであり、安息角は40〜70°であった。以上のように、得られた粉状体を窒素によって移送して廃棄可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、トリクロロシランの製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 テトラクロロシラン還元工程
2 反応生成ガス処理工程
3 晶析工程
4 残渣濃縮工程
5 乾燥工程
6 廃棄工程
7 反応生成ガス
8 晶析前残渣
9 晶析後残渣
10 濃縮後残渣
11 粉状体
図1
図2