【実施例】
【0037】
〔モノクローナル抗体の作製〕
口蹄疫ウイルスA/IRN/1/2011株をIB−RS−2細胞に接種し、一晩回転培養した。回収した培養液を1500Gで10分間遠心した後、上清を回収した。上清を飽和硫酸アンモニウム溶液と等量混和し、一晩4℃で撹拌することによってウイルスを析出させた。析出させたウイルスを、5000Gで30分間遠沈し、上清を除去してから適量のPBSに懸濁した。再び5000Gで30分間遠心し、上清を除去し、1mLのPBSに懸濁した。スクロース密度勾配(15〜45%)ウイルスの懸濁液を添加し、20000rpmで2時間遠心を行い、目的のバンドを回収することによって、146Sの完全粒子を精製した。
【0038】
8〜12週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に、上述のように精製した口蹄疫ウイルスA/IRN/1/2011株をそれぞれ接種した。初回免疫ではフロイントコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物、追加接種ではフロイントインコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物を、連結針を用いてミセル化させた。最終免疫後にマウスの脾臓から回収したリンパ球とマウスミエローマ細胞P3U1とをポリエチレングリコール4000(メルク社製)を用いて融合させ、HAT培地(0.1mMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジン、20%FCS、および10%BM Condimed H1を含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて96ウェルプレートにおいて培養した。2週間後からはHT選択培地(0.1mMのヒポキサンチン、16μMのチミジン、および20%FCSを含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて培養した。
【0039】
上述のように培養することによって、ハイブリドーマのコロニーを形成させ、ELISA、ウイルス中和試験および口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって目的のモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマをスクリーニングした。スクリーニングの詳細は以下の通りである。
【0040】
ELISAでは、ウサギ抗口蹄疫ウイルス抗体を、固相に吸着させ、A/IRN/1/2011株ウイルスと反応させた。次いで、ウイルスを取り除いてからハイブリドーマの培養上清を加えて反応させた。そして、培養上清を取り除いてからHRP標識したマウス抗IgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させて、吸光度を測定した。
【0041】
口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色では、複数のウェルを有しているプレートにIB−SR−2細胞を播種した後に口蹄疫ウイルスを血清型に分けて接種した。感染後の適当な時間(感染細胞がはがれない程度)に培養液を捨て、冷却したアセトンを用いて感染細胞を固定した。スクリーニングの各タイムポイントにおいて使用するまで、各プレートを−80℃に保存しておいた。つまり、スクリーニング対象のハイブリドーマの1つに対して4種類の血清型(O、A、C、Asia1)に必要な分だけ感染細胞を準備した。保存しておいたプレートにスクリーニングするハイブリドーマの培養上清を加えてインキュベートした。上清を捨ててからHRP標識した抗マウスIgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させ、顕微鏡下において抗体の有無を判定した。
【0042】
培養上清に抗体が存在しているハイブリドーマをELISAによって特定し、さらに、ELISAによるスクリーニングの結果が非特異的な反応ではないことを確認するために、口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって再度スクリーニングした。
【0043】
スクリーニングによって選択したハイブリドーマを、標準的な方法に従ってクローニングすることによって、目的のモノクローナル抗体を安定して産生している1種類のハイブリドーマを確立した。このハイブリドーマを抗口蹄疫ウイルス血清型A hybridoma 2A1と名づけた。また、このハイブリドーマを独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号NITE P−01971)。このハイブリドーマによって産生されているモノクローナル抗体を、2A1と名づけた。
【0044】
ウイルス中和試験では、感染用の細胞としてIB−SR−2細胞を使用した。定法に従って、ハイブリドーマの培養上清もしくは増殖用の培地のみ、およびウイルス液の混合液をインキュベートした後に、細胞に接種した。感染後5日目に細胞変性効果を確認して、培養上清とのウイルス液の混合およびインキュベーションによって、ウイルスの増殖を抑制したか否かを評価した。
【0045】
CellTram/vario(エッペンドルフ社)を用いたマニピュレーション法により、クローニングしたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、20%FCSおよび10%BM Condimed H1(Roche社)を含むRPMI培地を用いて培養した。
【0046】
なお、血清型Aとして、A/IRN/1/2011株、A22/IRQ/24/64株、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株を用いた。血清型Oとして、O/Manisa株を用いた。血清型Asia1として、Asia1 Shamir(ISR 3/89)株を用いた。血清型Cとして、C/PHI/7/84株を用いた。血清型SAT1として、SAT1/KEN/117/2009株を用いた。血清型SAT2として、SAT2/SAU/6/2000株を用いた。血清型SAT3として、SAT3/ZIM/3/83株を用いた(http://www.wrlfmd.org/等を参照)。また、他のウイルスとの交差反応性を調べるために、豚水胞病ウイルス(swine vesicular disease virus;SVDV)を用いた。
【0047】
結果を
図1に示す。
図1に示すように、2A1抗体は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が高く、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株ならびに血清型A以外の血清型に対する反応性が低かった。1C1抗体および3H2抗体(何れも上記スクリーニングで選択されなかったハイブリドーマから産生された抗体)は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が高かったが、血清型O、Asia1およびCに対する反応性も高かった。一方、血清型Aに対する公知の抗体16C6は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が低く、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株に対する反応性は高かった。なお、上記スクリーニングで選択されなかったハイブリドーマ2H5はスクリーニングの途中で抗体産生能が脱落したが、2H5抗体は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が低く(<0.3)、また、血清型A型以外の型とは反応しなかった(図示せず)。
【0048】
このように、2A1抗体は、16C6抗体では検出感度が低い株に対する反応性が高い一方で、血清型A以外の血清型とは反応しないという有用な特性を有している。この結果から、2A1抗体は16C6抗体では検出感度が低い株の検出を補強することができ、この2つの抗体を併用することにより、血清型Aの検出に広く応用され得ることが期待された。
【0049】
〔モノクローナル抗体を用いたイムノクロマトグラフィー〕
(抗体の精製)
使用するモノクローナル抗体(2A1、16C6および1H5)をプロテインGアフィニティーカラム(MAb Trap Kit; GE Healthcare 17-1128-01)にかけて、アッセイに使用するためのIgG画分のみを精製した。
【0050】
(抗体懸濁液における緩衝液の置換)
抗体の精製によって得られたIgG画分を含んでいる抗体懸濁液における緩衝液を、Amicon ultra Centrifugal filter units(Millipore社、商品コード:UFC805024)を用いて置換した。5mMのリン酸バッファー(PB)(pH7.5)に置換したものを、2A1抗体および16C6抗体のそれぞれについて準備し、5mMのPB(pH8.0)に置換したものを1H5抗体について準備した。
【0051】
(抗体が塗布されているメンブレンの作製)
3%のエタノールを含んでいる5mMのPB(pH7.5)を用いて、2A1抗体および16C6抗体のそれぞれの濃度を約1500μg/mLに調整した。濃度を調整した2A1抗体および16C6抗体を、約1mm幅の線状として5mmの間隔をあけて、イムノライナー200(システムバイオティクス社)を用いてニトロセルロースメンブレン(Millipore社、HF135XSS)上に塗布した。上流から順に抗マウスIgGコントロール抗体、血清型Aに対するモノクローナル抗体(2A1抗体単独、2A1抗体と16C6抗体との等量混合物、16C6抗体単独)が並ぶように塗布した。また、抗体の濃度(混合物では合計)は1500μg/mL、塗布抗体量は0.8μL/cmとした。
【0052】
上記のメンブレンを50℃で30分間乾燥させた後、ブロッキングバッファー(0.5%のカゼインを含んでいる50mMのホウ酸バッファー(pH8.5))に室温で30分間浸した。次いで、洗浄バッファー(0.5%のスクロースを含んでいる50mMのTris−HCl(pH7.4))に室温で30分間浸した後、室温で風乾させた。
【0053】
(検出用ストリップの組み立て)
バッキングシート(ARcare 7815 : Adhesives Research社)を用いて、乾燥させたメンブレンの上流側にサンプルパッド(セルロースファイバーメンブレン(Millipore社、CFSP223000))を貼り付け、下流側に吸収パッド(CF6(グラスファイバーとコットンとの混合物)、Whatman社)を貼り付けた。40%以下の湿度の条件下で、シリカゲルが収められている密封容器内に検出用ストリップを保存した。
【0054】
(金コロイドによるモノクローナル抗体の標識化)
5mMのPB(pH8.0)を用いて1H5抗体の濃度を20μg/100μLに調整した。金コロイド(直径40〜50nm)(ワインレッドケミカル社、WRGH2(OD
520=12))を十分にソニケーションした後、1mMのK
2CO
3を用いてpH8.0に調整した。次にシリコンコーティングチューブ内において、1:8の割合で抗体液および金コロイド液を混合した。1%のウシ血清アルブミン(BSA)および0.05%のPEGを加えて混和した後、10000rpm、室温で30分間遠心した。遠心上清を除去し、ソニケーションした後、PBSに0.5%のBSAおよび0.05%PEGを加えた溶液(溶液A)を用いて懸濁した。再び10000rpm、室温で30分間遠心した後、遠心上清を除去し、ソニケーションによって懸濁させ、溶液Aを用いてOD
520=2.0に調整した。20%のスクロースを含んでいる15mMのTris−HCl(pH8.2)を等量加えた後、金コロイド標識した抗体を含んでいる懸濁液を100μLずつ2mLのチューブに分注した。各チューブの口をパラフィルムで覆ってからパラフィルムに数カ所の穴を空け、−80℃で1時間凍結させた。真空乾燥機を用いて一晩真空乾燥させた後、パラフィルムを剥がし、チューブのキャップを閉めて4℃で保存した。
【0055】
(ラテラルフローアッセイの評価)
口蹄疫ウイルスの血清型A(A22/IRQ/24/64株、A/IRN/1/2011株、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株)の量をPBSで10倍、100倍および400倍に希釈した。次に、凍結乾燥させた金コロイド標識1H5抗体を100μLの各ウイルス希釈液で溶解した後、ストリップを漬けて、10分間反応させた。イムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス社)を用いてmABSを測定した。
【0056】
結果を
図2に示す。
図2に示すとおり、2A1抗体と16C6抗体とを組み合わせると、A22/IRQ/24/64株、A/IRN/1/2011株、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株の何れにおいても、高感度で検出することができた。
【0057】
〔参考:7つの血清型全てと反応する抗体の取得〕
(モノクローナル抗体の作製)
口蹄疫ウイルスA22/IRQ/24/64株をIB−RS−2細胞に接種し、一晩回転培養した。回収した培養液を1500Gで10分間遠心した後、上清を回収した。上清を飽和硫酸アンモニウム溶液と等量混和し、一晩4℃で撹拌することによってウイルスを析出させた。析出させたウイルスを、5000Gで30分間遠沈し、上清を除去してから適量のPBSに懸濁した。再び5000Gで30分間遠心し、上清を除去し、1mLのPBSに懸濁した。スクロース密度勾配(15〜45%)ウイルスの懸濁液を添加し、20000rpmで2時間遠心を行い、目的のバンドを回収することによって、146Sの完全粒子を精製した。
【0058】
8〜12週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に、上述のように精製した口蹄疫ウイルスA22/IRQ/24/64株の完全粒子を接種した。初回免疫ではフロイントコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物、追加接種ではフロイントインコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物を、連結針を用いてミセル化させた。最終免疫後にマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3U1とをポリエチレングリコール4000(メルク社製)を用いて融合させ、HAT培地(0.1mMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジン、および20%FCSを含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて96ウェルプレートにおいて培養した。2週間後からはHT選択培地(0.1mMのヒポキサンチン、16μMのチミジン、および20%FCSを含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて培養した。
【0059】
上述のように培養することによって、ハイブリドーマのコロニーを形成させ、ELISAおよび口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって目的のモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマをスクリーニングした。スクリーニングの詳細は以下の通りである。
【0060】
ELISAでは、ウサギ抗口蹄疫ウイルス抗体を、固相に吸着させ、A22/IRQ/24/64株の完全粒子と反応させた。次いで、ウイルスを取り除いてからハイブリドーマの培養上清を加えて反応させた。そして、培養上清を取り除いてからHRP標識したマウス抗IgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させて、吸光度を測定した。
【0061】
口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色では、複数のウェルを有しているプレートにIB−SR−2細胞を播種した後に口蹄疫ウイルスを血清型に分けて接種した。感染後の適当な時間(感染細胞がはがれない程度)に培養液を捨て、冷却したアセトンを用いて感染細胞を固定した。スクリーニングの各タイムポイントにおいて使用するまで、各プレートを−80℃に保存しておいた。つまり、スクリーニング対象のハイブリドーマの1つに対して7種類の血清型に必要な分だけ感染細胞を準備した。保存しておいたプレートにスクリーニングするハイブリドーマの培養上清を加えてインキュベートした。上清を捨ててからHRP標識した抗マウスIgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させ、顕微鏡下において抗体の有無を判定した。
【0062】
培養上清に抗体が存在しているハイブリドーマをELISAによって特定し、さらに、ELISAによるスクリーニングの結果が非特異的な反応ではないことを確認するために、口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって再度スクリーニングした。
【0063】
スクリーニングによって選択したハイブリドーマを、標準的な方法に従ってクローニングすることによって、目的のモノクローナル抗体を安定して産生している1種類のハイブリドーマを確立した。このハイブリドーマを抗口蹄疫ウイルス hybridoma 16D6と名づけた。また、このハイブリドーマを独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号NITE P−01972)。このハイブリドーマによって産生されているモノクローナル抗体(7種類全ての血清型の口蹄疫ウイルスと反応するモノクローナル抗体)を、16D6と名づけた。
【0064】
CellTram/vario(エッペンドルフ社)を用いたマニピュレーション法により、クローニングしたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、BriClone Hybridoma Cloning Medium(キューイーディーバイオサイエンス社)を用いて培養した。
【0065】
(モノクローナル抗体の性能比較のための間接サンドイッチELISA)
モノクローナル抗体16D6の性能を確かめるために、間接サンドイッチELISAを行った。比較として、7種類全ての血清型の口蹄疫ウイルスと反応する既知のモノクローナル抗体1H5を用いた。1H5抗体については、非特許文献1を参照すればよい。
【0066】
捕捉抗体として各血清型の抗口蹄疫ウイルスウサギ抗体を0.05Mの炭酸バッファー(pH9.6)で×800に希釈し、50μLずつ96ウェルプレート(Immulon II HB Thermo)に4℃で一晩固相化した。300μL/wellの0.002M PBSで3回洗浄した後、口蹄疫ウイルス(抗原)を含むサンプルを50μLずつウェルに加え、100rpmで振とうしながら37℃で1時間反応させた。このとき、陰性検体として0.01MのPBS(pH7.4)に0.05%(v/v)のTween20を加えたA液を使用した。同様に洗浄した後、A液に5%のスキムミルクを加えB液とし、37℃で30分間ブロッキングした。B液を捨てた後、洗浄せずに、A液で1μg〜0.000064μgの5倍階段希釈を行ったモノクローナル抗体1H5および16D6をそれぞれ加えた。37℃で1時間反応させた後、B液で×3000に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリンヤギ抗体を50μLずつ加え、室温で45分間反応させた。8回洗浄した後、発色基質TMBを50μLずつ加え、暗所にて室温で15分間反応させた。50μLの1.25M 硫酸で反応を停止させ、ELISAプレートリーダーを用いて450nmの波長を測定した。
【0067】
なお、血清型OとしてO/JPN/2000株、血清型AとしてA/IRN/1/2011株およびA22/IRQ/24/64株、血清型Asia1としてAsia1 Shamir(ISR 3/89)株、血清型CとしてC/PHI/7/84株、血清型SAT1としてSAT1/KEN/117/2009株、血清型SAT2としてSAT2/SAU/6/2000株、血清型SAT3としてSAT3/ZIM/3/83株を用いた。
【0068】
結果を
図3に示す。
図3に示すように、16D6抗体では8種類の株のうち7種類の株において1H5抗体よりも反応性が高かった。特に、1H5抗体では反応性が比較的低いA/IRN/1/2011株、SAT1/KEN/117/2009株、SAT2/SAU/6/2000株、およびSAT3/ZIM/3/83株において、顕著に反応性が高くなっている。このように、16D6抗体は1H5抗体と比較して非常に優れた反応性を示すことがわかった。