特許第6446274号(P6446274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446274
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】口蹄疫ウイルスと反応する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/10 20060101AFI20181217BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20181217BHJP
   C12N 5/20 20060101ALI20181217BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C07K16/10
   C12N15/13
   C12N5/20
   G01N33/569 L
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-7239(P2015-7239)
(22)【出願日】2015年1月16日
(65)【公開番号】特開2016-132628(P2016-132628A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年11月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、農林水産省、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01971
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01972
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】森岡 一樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和生
(72)【発明者】
【氏名】菅野 徹
(72)【発明者】
【氏名】深井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】山添 麗子
(72)【発明者】
【氏名】北野 理恵
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−050356(JP,A)
【文献】 森岡 一樹,農林水産技術研究ジャーナル,Vol.35 No.5(2012),p.22-25
【文献】 MORIOKA K. et al.,PLOS ONE,Vol.9 Issue 4(2014),e94143
【文献】 FAO World Reference Laboratory for Foot-and-Mouth Disease (WRLFMD) Genotyping Report,2011年 5月24日,[Retrieved on 2018 Sep 20],"WRLFMD Ref No: IRN/1/2011"項,Retrieved from the Internet,URL,<www.wrlfmd.org/fmd_genotyping/2011/WRLFMD-2011-00010 A Iran 2011.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/10
C12N 5/20
C12N 15/13
G01N 33/569
C12N 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口蹄疫ウイルスの血清型AのA/IRN/1/2011株と反応し、口蹄疫ウイルスの血清型O、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れとも反応しない、受託番号NITE P−01971で特定されるハイブリドーマによって産生される、抗体。
【請求項2】
受託番号NITE P−01971で特定される抗体産生用ハイブリドーマ。
【請求項3】
口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、請求項に記載の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体と、請求項に記載の抗体とを含む、組成物。
【請求項4】
請求項に記載の抗体を含む口蹄疫ウイルス検出キット。
【請求項5】
口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、請求項に記載の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体をさらに含む、請求項に記載の口蹄疫ウイルス検出キット。
【請求項6】
口蹄疫ウイルスの血清型O、A、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れとも反応する抗口蹄疫ウイルス抗体をさらに含む、請求項またはに記載の口蹄疫ウイルス検出キット。
【請求項7】
請求項に記載の抗体を用いる口蹄疫ウイルスの検出方法。
【請求項8】
被験体から採取した試料と、請求項に記載の抗体とを接触させて、当該試料中の抗原と、当該抗体とを抗原抗体反応させる工程;および
抗原抗体反応物を検出する工程を含む、請求項に記載の検出方法。
【請求項9】
さらに、上記試料と、口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、請求項に記載の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体とを接触させる、請求項に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口蹄疫ウイルスと反応する抗体に関する。より詳細には、口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
口蹄疫ウイルス(foot and mouth disease virus:FMDV)は、家畜の伝染病の1つである。口蹄疫ウイルスは、鯨偶蹄目(例えばウシ、ブタ、シカ、ヒツジ、ヤギなど)に属する動物を主な宿主としており、日本ではその感染疾患が家畜伝染病予防法において家畜伝染病(旧法定伝染病)に指定されている。口蹄疫ウイルスは、周囲環境において容易に不活性化しないため伝播性が高く、感染した家畜の生産性を著しく低下させ、感染した幼獣において高い致死率を示す。特に高い伝播性に起因して、口蹄疫ウイルスに感染した家畜は、感染が確認され次第、日本内では家畜伝染病予防法に基づいて殺処分に処される。また、口蹄疫ウイルスに感染した家畜が発見された地域、国家には家畜の移動制限が加えられるため、口蹄疫ウイルスは、畜産業に非常な経済的打撃を与え得る病原体として、世界的に認識されている。
【0003】
日本では口蹄疫ウイルスに感染した個体は、2000年までおよそ1世紀にわたって確認されていなかった。しかし、2000年および2010年に、口蹄疫ウイルスに感染した個体が確認された。このため、口蹄疫の流行に対する対処法を確立することの重要性が明らかに高まっている。上記対処法として最も重要なのは、感染の疑いのある家畜が、口蹄疫ウイルスに感染しているか否かを決定することである。
【0004】
一般的な決定方法としては、RT−PCRによって口蹄疫ウイルスの遺伝子を検出する方法である。この方法では、遺伝子の増幅が認められれば、陽性(口蹄疫ウイルスに感染している)と決定されるが、迅速かつ正確に決定するという点では、単独にRT−PCRを利用する方法は好ましくない。そこで、他の抗原検出法(ELISAまたはイムノクロマトグラフィーなど)を利用(併用)して口蹄疫ウイルスの検出する方法が検討されている(例えば、本発明者らによる非特許文献1)。
【0005】
口蹄疫ウイルスは、7つの血清型(O、A、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3)に分類される。非特許文献1には、血清型Aと特異的に反応する抗体が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Morioka et al., Journal of Clinical Microbiology, Vol.47, No.11, p.3663-3668 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが調べたところ、非特許文献1に記載の血清型Aと特異的に反応する抗体は、血清型Aのウイルス株のいくつかに対する検出感度が非常に低いことが判明した。そのため、口蹄疫ウイルスの血清型Aと反応する新たな抗口蹄疫ウイルス抗体の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、口蹄疫ウイルスの血清型Aのいくつかの株を特異的に認識することができる抗口蹄疫ウイルス抗体を産生するハイブリドーマの作製に成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)を提供する。
(1)口蹄疫ウイルスの血清型AのA/IRN/1/2011株と反応し、口蹄疫ウイルスの血清型O、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れとも反応しない、抗体。
(2)受託番号NITE P−01971で特定されるハイブリドーマによって産生される、上記(1)に記載の抗体。
(3)受託番号NITE P−01971で特定される抗体産生用ハイブリドーマ。
(4)口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、上記(1)または(2)に記載の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体と、上記(1)または(2)に記載の抗体とを含む、組成物。
(5)上記(1)または(2)に記載の抗体を含む口蹄疫ウイルス検出キット。
(6)口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、上記(1)または(2)に記載の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体をさらに含む、上記(5)に記載の口蹄疫ウイルス検出キット。
(7)口蹄疫ウイルスの血清型O、A、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れとも反応する抗口蹄疫ウイルス抗体をさらに含む、上記(5)または(6)に記載の口蹄疫ウイルス検出キット。
(8)上記(1)または(2)に記載の抗体を用いる口蹄疫ウイルスの検出方法。
(9)被験体から採取した試料と、上記(1)または(2)に記載の抗体とを接触させて、当該試料中の抗原と、当該抗体とを抗原抗体反応させる工程;および抗原抗体反応物を検出する工程を含む、上記(8)に記載の検出方法。
(10)さらに、上記試料と、口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、上記(1)または(2)に記載の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体とを接触させる、上記(9)に記載の検出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る抗体は、口蹄疫ウイルスの血清型AのA/IRN/1/2011株を高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例におけるスクリーニングの結果を示す図である。
図2】本発明の実施例におけるイムノクロマトグラフィーの結果を示す図である。
図3】本発明の実施例における間接サンドイッチELISAの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔1.抗体〕
本発明に係る抗体は、口蹄疫ウイルスの血清型AのA/IRN/1/2011株(文献:http://www.wrlfmd.org/fmd_genotyping/2011/WRLFMD-2011 00010%20A%20Iran%202011.pdf)と反応し、口蹄疫ウイルスの血清型O、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れとも反応しない。なお、「反応する」とは、抗体が口蹄疫ウイルス(抗原)と抗原抗体反応することをいい、「結合する」または「認識する」と表現することもできる。
【0013】
本発明に係る抗体は、2価の抗体であってもよいし、1価の抗体であってもよい。また、本発明に係る抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。交差反応性を示すおそれの少なさという観点から、本発明に係る抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る抗体の一態様は、受託番号NITE P−01971で特定されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体(「2A1」と名付けた)である。2A1抗体は、口蹄疫ウイルスの血清型AのA22/IRQ/24/64株(文献:ARROWSMITH, A. E. M. (1975). Variation among strains of type A foot-and-mouth disease virus in the Eastern Mediterranean region 1964-1972. Journal of Hygiene 75, 387-397)およびA/IRN/1/2011株を強く認識することができ、血清型A以外の血清型とは反応しない。2A1抗体は、受託番号NITE P−01971で特定されるハイブリドーマを、例えば、10%胎児血清を含む培地中でまたは無血清培地中で、37℃、5% COの条件で培養し、産生された2A1抗体を公知の方法に従って回収・精製することによって、製造することができる。
【0015】
〔2.ハイブリドーマ〕
本発明はまた、受託番号NITE P−01971で特定される抗体産生用ハイブリドーマも提供する。本発明に係るハイブリドーマは、ウシから分離された口蹄疫ウイルスA/IRN/1/2011株を抗原として、マウスに免疫し、免疫したマウスの脾臓細胞と、マウスのミエローマ細胞由来株とを融合させて作成されたハイブリドーマ(抗口蹄疫ウイルス血清型A hybridoma 2A1(受託番号NITE P−01971))である。ハイブリドーマ2A1は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 122号室)に寄託されている。
【0016】
〔3.組成物〕
本発明はさらに、口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する(すなわち、他の血清型と反応しない)、本発明に係るに記載の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体と、本発明に係る抗体とを含む、組成物を提供する。口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、本発明に係る抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体は、モノクローナル抗体であり得る。また、そのような別の抗口蹄疫ウイルス抗体は、A/IRN/1/2011株と反応しない抗体であり得る。A/IRN/1/2011株と反応しない抗体と本発明に係る抗体とを組み合わせることにより、網羅的に血清型Aを検出することができる。また、そのような別の抗口蹄疫ウイルス抗体は、A/TAI/10/2011株と反応する抗体であり得る。A/TAI/10/2011株と反応する抗体と本発明に係る抗体とを組み合わせることにより、より網羅的に血清型Aを検出することができる。
【0017】
そのような別の抗口蹄疫ウイルス抗体としては、例えば、非特許文献1に記載された16C6抗体等が挙げられる。16C6抗体は、血清型Aに分類されるA/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株を強く認識することができる一方で、A/IRN/1/2011株を認識することができない(後述の実施例を参照)。そのため、本発明に係る抗体と16C6抗体とを組み合わせることによって、より網羅的に血清型Aを検出することができる。
【0018】
本発明に係る組成物における本発明に係る抗体と本発明に係る抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体との比は、特に限定されないが、例えば、1:1とすることができる。
【0019】
〔4.口蹄疫ウイルス検出キット〕
本発明はさらに、本発明に係る抗体を含む口蹄疫ウイルス検出キットを提供する。本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、例えば、ELISA法、イムノクロマトグラフィー法、または免疫拡散測定法等を利用したキットであり得る。
【0020】
本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、本発明に係る抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体をさらに含んでいてもよい。そのような抗口蹄疫ウイルス抗体は、モノクローナル抗体であり得る。そのような抗口蹄疫ウイルス抗体については、上記〔3.組成物〕で説明したとおりである。
【0021】
また、本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、口蹄疫ウイルスの血清型O、A、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れとも反応する抗口蹄疫ウイルス抗体を含んでいてもよい。そのような抗口蹄疫ウイルス抗体は、モノクローナル抗体であり得る。そのような抗口蹄疫ウイルス抗体としては、例えば、非特許文献1に記載された1H5抗体、および後述の実施例に記載されている16D6抗体等が挙げられる。本発明に係る抗体と7つ全ての血清型と反応する抗口蹄疫ウイルス抗体とを組み合わせる場合、ELISAにおいては、7つ全ての血清型と反応する抗口蹄疫ウイルス抗体を捕捉抗体として用いることによって、血清型毎に抗体7種類を用意する必要がない。また、エピトープが競合しないという利点もある。また、同一血清型間でも抗原性が異なる、すなわちサブタイプあるいはトポタイプがヘテロの場合、保存性の高い領域を認識している7つ全ての血清型と反応する抗口蹄疫ウイルス抗体を用いることによって、検出漏れを低減することができる。
【0022】
また、本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、口蹄疫ウイルスの血清型O、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れかと特異的に反応する抗口蹄疫ウイルス抗体を含んでいてもよい。そのような抗口蹄疫ウイルス抗体は、モノクローナル抗体であり得る。そのような抗口蹄疫ウイルス抗体としては、例えば、非特許文献1に記載された70C4抗体(血清型O特異的)、および65H6抗体(血清型O特異的)、ならびに、特開2013−49645号に記載された12C7抗体(血清型Asia1特異的)、および13F1抗体(血清型C特異的)等が挙げられる。これらの抗体と反応性を比較することで、一度の検査で、被験体の検体中に含まれる口蹄疫ウイルスの血清型を判別することができる。
【0023】
また、本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、口蹄疫ウイルスの血清型O、A、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3の何れか2つ以上と特異的に反応する抗口蹄疫ウイルス抗体を含んでいてもよい。
【0024】
上述した本発明に係る抗体以外の抗体のうちの複数が、本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットに含まれていてもよい。また、本発明に係る抗体と本発明に係る抗体以外の抗体とは、混合されて使用されてもよいし、混合されずに使用されてもよい。混合して使用した場合であっても、阻害されずに、相補的に複数の血清型または株を網羅的に検出することができる。
【0025】
また、本発明に係る抗体および/または上述の本発明に係る抗体以外の抗体は、標識に結合されていてもよい。標識としては、例えば、酵素、酵素基質、放射性同位元素、発光物質、蛍光物質、ビオチンおよび着色物質等が挙げられる。酵素の例としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼおよびグルコース−6−リン酸脱水素酵素等が挙げられる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル化合物等の架橋剤を用いる公知の方法により行うことができる。酵素基質としては、使用する酵素に応じて公知の物質を使用することができる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、OPD(オルトフェニレンジアミン)およびTMB(テトラメチルベンジジン)等を、また酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合には、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼp−トルイジニル塩(BCIP)の混合基質等を用いることができる。
【0026】
放射性同位元素としては、125I、Hまたは14C等の通常のラジオイムノアッセイで用いられているものが挙げられる。抗体への放射標識は公知の方法を用いて行うことができる。蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネートおよびフィコエリスリン等の通常の蛍光抗体法に用いられるものが挙げられる。また、発光物質としては、イソルミノール、アクリジンエステルおよびルシゲニン等が挙げられる。この際、標識の方法は、公知の方法を用いることができる。また、着色物質としては、例えば、着色ラテックス粒子および金コロイド等が挙げられる。
【0027】
また、本発明に係る抗体および/または上述の本発明に係る抗体以外の抗体は、基材に固定されていてもよい。この場合、基材も口蹄疫ウイルス検出キットの構成要素である。基材としては、ニトロセルロースメンブレン、シリカメンブレン、ガラスフィルター、ポリスチレン粒子、ポリスチレンプレート、またはシリカ磁性粒子等の公知のものを使用することができる。一例において、本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、基材に固定された本発明に係る抗体および標識された本発明に係る抗体以外の抗体を含んでいる。他の一例において、本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、基材に固定された本発明に係る抗体以外の抗体および標識された本発明に係る抗体を含んでいる。
【0028】
本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、標識を検出するための試薬をさらに含んでいてもよい。また、本発明に係る口蹄疫ウイルス検出キットは、ELISA法、イムノクロマトグラフィー法、およびウエスタンブロット法等の免疫反応を行うために必要な部材(二次抗体、発色試薬、ブロッキング試薬等)、プレート(96ウェルプレート等)およびチューブ等が含まれていてもよい。また、本発明に係る抗体を検出するための二次抗体および二次抗体に結合させた標識酵素の基質等を備えていてもよい。
【0029】
また、本発明に係る検出キットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプルおよびビンなど)を備えていてもよい。また、本発明に係る検出キットにおいて使用する検出方法について詳細が記載された使用説明書をさらに備えていてもよい。当該検出方法としては、後述する〔5.口蹄疫ウイルスの検出方法〕で説明される検出方法が挙げられる。
【0030】
〔5.口蹄疫ウイルスの検出方法〕
本発明はさらに、本発明に係る抗体を用いる口蹄疫ウイルスの検出方法を提供する。被験体としては、ウシ、ブタ、シカ、ヒツジ、ヤギ、スイギュウ、イノシシ、およびカモシカ等が挙げられる。被験体から採取した試料としては、血液、水疱液、糞、尿、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、水疱上皮乳剤、病変部拭い液、種々の組織・器官などが挙げられる。本発明に係る検出方法を用いて、試料中の口蹄疫ウイルスを検出することで、この試料が由来する被験体が口蹄疫ウイルスによる感染症に罹患しているか否かを迅速、容易かつ確実に診断できる。
【0031】
本発明に係る検出方法は、例えば、ELISA法(例えば、サンドイッチELISA法等)、イムノクロマトグラフィー法、または免疫拡散測定法等に基づくことができる。
【0032】
本発明に係る検出方法の一態様は、被験体から採取した試料と、本発明の抗体とを接触させて、当該試料中の抗原と、当該抗体とを抗原抗体反応させる工程;および抗原抗体反応物を検出する工程を含む。
【0033】
抗原抗体反応させる工程では、試料と抗体とをインキュベートすればよい。抗原抗体反応物を検出する工程は、例えば、予め標識された上記抗体を検出する等の公知の方法を用いて行うことができる。
【0034】
本発明に係る検出方法の一態様では、さらに、試料と、口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に反応する、本発明の抗体とは別の抗口蹄疫ウイルス抗体とを接触させてもよい。そのような抗口蹄疫ウイルス抗体については、上記〔3.組成物〕で説明したとおりである。本発明に係る抗体と別の抗口蹄疫ウイルス抗体とは、混合されて使用されてもよいし、混合されずに使用されてもよい。混合して使用した場合であっても、阻害されずに、口蹄疫ウイルスの血清型Aを網羅的に検出することができる。
【0035】
また、本発明に係る検出方法は、上記〔4.口蹄疫ウイルス検出キット〕に記載された、血清型A以外の血清型と反応する抗口蹄疫ウイルス抗体と、試料とを接触させる工程を含んでいてもよい。
【0036】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0037】
〔モノクローナル抗体の作製〕
口蹄疫ウイルスA/IRN/1/2011株をIB−RS−2細胞に接種し、一晩回転培養した。回収した培養液を1500Gで10分間遠心した後、上清を回収した。上清を飽和硫酸アンモニウム溶液と等量混和し、一晩4℃で撹拌することによってウイルスを析出させた。析出させたウイルスを、5000Gで30分間遠沈し、上清を除去してから適量のPBSに懸濁した。再び5000Gで30分間遠心し、上清を除去し、1mLのPBSに懸濁した。スクロース密度勾配(15〜45%)ウイルスの懸濁液を添加し、20000rpmで2時間遠心を行い、目的のバンドを回収することによって、146Sの完全粒子を精製した。
【0038】
8〜12週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に、上述のように精製した口蹄疫ウイルスA/IRN/1/2011株をそれぞれ接種した。初回免疫ではフロイントコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物、追加接種ではフロイントインコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物を、連結針を用いてミセル化させた。最終免疫後にマウスの脾臓から回収したリンパ球とマウスミエローマ細胞P3U1とをポリエチレングリコール4000(メルク社製)を用いて融合させ、HAT培地(0.1mMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジン、20%FCS、および10%BM Condimed H1を含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて96ウェルプレートにおいて培養した。2週間後からはHT選択培地(0.1mMのヒポキサンチン、16μMのチミジン、および20%FCSを含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて培養した。
【0039】
上述のように培養することによって、ハイブリドーマのコロニーを形成させ、ELISA、ウイルス中和試験および口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって目的のモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマをスクリーニングした。スクリーニングの詳細は以下の通りである。
【0040】
ELISAでは、ウサギ抗口蹄疫ウイルス抗体を、固相に吸着させ、A/IRN/1/2011株ウイルスと反応させた。次いで、ウイルスを取り除いてからハイブリドーマの培養上清を加えて反応させた。そして、培養上清を取り除いてからHRP標識したマウス抗IgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させて、吸光度を測定した。
【0041】
口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色では、複数のウェルを有しているプレートにIB−SR−2細胞を播種した後に口蹄疫ウイルスを血清型に分けて接種した。感染後の適当な時間(感染細胞がはがれない程度)に培養液を捨て、冷却したアセトンを用いて感染細胞を固定した。スクリーニングの各タイムポイントにおいて使用するまで、各プレートを−80℃に保存しておいた。つまり、スクリーニング対象のハイブリドーマの1つに対して4種類の血清型(O、A、C、Asia1)に必要な分だけ感染細胞を準備した。保存しておいたプレートにスクリーニングするハイブリドーマの培養上清を加えてインキュベートした。上清を捨ててからHRP標識した抗マウスIgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させ、顕微鏡下において抗体の有無を判定した。
【0042】
培養上清に抗体が存在しているハイブリドーマをELISAによって特定し、さらに、ELISAによるスクリーニングの結果が非特異的な反応ではないことを確認するために、口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって再度スクリーニングした。
【0043】
スクリーニングによって選択したハイブリドーマを、標準的な方法に従ってクローニングすることによって、目的のモノクローナル抗体を安定して産生している1種類のハイブリドーマを確立した。このハイブリドーマを抗口蹄疫ウイルス血清型A hybridoma 2A1と名づけた。また、このハイブリドーマを独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号NITE P−01971)。このハイブリドーマによって産生されているモノクローナル抗体を、2A1と名づけた。
【0044】
ウイルス中和試験では、感染用の細胞としてIB−SR−2細胞を使用した。定法に従って、ハイブリドーマの培養上清もしくは増殖用の培地のみ、およびウイルス液の混合液をインキュベートした後に、細胞に接種した。感染後5日目に細胞変性効果を確認して、培養上清とのウイルス液の混合およびインキュベーションによって、ウイルスの増殖を抑制したか否かを評価した。
【0045】
CellTram/vario(エッペンドルフ社)を用いたマニピュレーション法により、クローニングしたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、20%FCSおよび10%BM Condimed H1(Roche社)を含むRPMI培地を用いて培養した。
【0046】
なお、血清型Aとして、A/IRN/1/2011株、A22/IRQ/24/64株、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株を用いた。血清型Oとして、O/Manisa株を用いた。血清型Asia1として、Asia1 Shamir(ISR 3/89)株を用いた。血清型Cとして、C/PHI/7/84株を用いた。血清型SAT1として、SAT1/KEN/117/2009株を用いた。血清型SAT2として、SAT2/SAU/6/2000株を用いた。血清型SAT3として、SAT3/ZIM/3/83株を用いた(http://www.wrlfmd.org/等を参照)。また、他のウイルスとの交差反応性を調べるために、豚水胞病ウイルス(swine vesicular disease virus;SVDV)を用いた。
【0047】
結果を図1に示す。図1に示すように、2A1抗体は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が高く、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株ならびに血清型A以外の血清型に対する反応性が低かった。1C1抗体および3H2抗体(何れも上記スクリーニングで選択されなかったハイブリドーマから産生された抗体)は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が高かったが、血清型O、Asia1およびCに対する反応性も高かった。一方、血清型Aに対する公知の抗体16C6は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が低く、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株に対する反応性は高かった。なお、上記スクリーニングで選択されなかったハイブリドーマ2H5はスクリーニングの途中で抗体産生能が脱落したが、2H5抗体は、A22/IRQ/24/64株およびA/IRN/1/2011株に対する反応性が低く(<0.3)、また、血清型A型以外の型とは反応しなかった(図示せず)。
【0048】
このように、2A1抗体は、16C6抗体では検出感度が低い株に対する反応性が高い一方で、血清型A以外の血清型とは反応しないという有用な特性を有している。この結果から、2A1抗体は16C6抗体では検出感度が低い株の検出を補強することができ、この2つの抗体を併用することにより、血清型Aの検出に広く応用され得ることが期待された。
【0049】
〔モノクローナル抗体を用いたイムノクロマトグラフィー〕
(抗体の精製)
使用するモノクローナル抗体(2A1、16C6および1H5)をプロテインGアフィニティーカラム(MAb Trap Kit; GE Healthcare 17-1128-01)にかけて、アッセイに使用するためのIgG画分のみを精製した。
【0050】
(抗体懸濁液における緩衝液の置換)
抗体の精製によって得られたIgG画分を含んでいる抗体懸濁液における緩衝液を、Amicon ultra Centrifugal filter units(Millipore社、商品コード:UFC805024)を用いて置換した。5mMのリン酸バッファー(PB)(pH7.5)に置換したものを、2A1抗体および16C6抗体のそれぞれについて準備し、5mMのPB(pH8.0)に置換したものを1H5抗体について準備した。
【0051】
(抗体が塗布されているメンブレンの作製)
3%のエタノールを含んでいる5mMのPB(pH7.5)を用いて、2A1抗体および16C6抗体のそれぞれの濃度を約1500μg/mLに調整した。濃度を調整した2A1抗体および16C6抗体を、約1mm幅の線状として5mmの間隔をあけて、イムノライナー200(システムバイオティクス社)を用いてニトロセルロースメンブレン(Millipore社、HF135XSS)上に塗布した。上流から順に抗マウスIgGコントロール抗体、血清型Aに対するモノクローナル抗体(2A1抗体単独、2A1抗体と16C6抗体との等量混合物、16C6抗体単独)が並ぶように塗布した。また、抗体の濃度(混合物では合計)は1500μg/mL、塗布抗体量は0.8μL/cmとした。
【0052】
上記のメンブレンを50℃で30分間乾燥させた後、ブロッキングバッファー(0.5%のカゼインを含んでいる50mMのホウ酸バッファー(pH8.5))に室温で30分間浸した。次いで、洗浄バッファー(0.5%のスクロースを含んでいる50mMのTris−HCl(pH7.4))に室温で30分間浸した後、室温で風乾させた。
【0053】
(検出用ストリップの組み立て)
バッキングシート(ARcare 7815 : Adhesives Research社)を用いて、乾燥させたメンブレンの上流側にサンプルパッド(セルロースファイバーメンブレン(Millipore社、CFSP223000))を貼り付け、下流側に吸収パッド(CF6(グラスファイバーとコットンとの混合物)、Whatman社)を貼り付けた。40%以下の湿度の条件下で、シリカゲルが収められている密封容器内に検出用ストリップを保存した。
【0054】
(金コロイドによるモノクローナル抗体の標識化)
5mMのPB(pH8.0)を用いて1H5抗体の濃度を20μg/100μLに調整した。金コロイド(直径40〜50nm)(ワインレッドケミカル社、WRGH2(OD520=12))を十分にソニケーションした後、1mMのKCOを用いてpH8.0に調整した。次にシリコンコーティングチューブ内において、1:8の割合で抗体液および金コロイド液を混合した。1%のウシ血清アルブミン(BSA)および0.05%のPEGを加えて混和した後、10000rpm、室温で30分間遠心した。遠心上清を除去し、ソニケーションした後、PBSに0.5%のBSAおよび0.05%PEGを加えた溶液(溶液A)を用いて懸濁した。再び10000rpm、室温で30分間遠心した後、遠心上清を除去し、ソニケーションによって懸濁させ、溶液Aを用いてOD520=2.0に調整した。20%のスクロースを含んでいる15mMのTris−HCl(pH8.2)を等量加えた後、金コロイド標識した抗体を含んでいる懸濁液を100μLずつ2mLのチューブに分注した。各チューブの口をパラフィルムで覆ってからパラフィルムに数カ所の穴を空け、−80℃で1時間凍結させた。真空乾燥機を用いて一晩真空乾燥させた後、パラフィルムを剥がし、チューブのキャップを閉めて4℃で保存した。
【0055】
(ラテラルフローアッセイの評価)
口蹄疫ウイルスの血清型A(A22/IRQ/24/64株、A/IRN/1/2011株、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株)の量をPBSで10倍、100倍および400倍に希釈した。次に、凍結乾燥させた金コロイド標識1H5抗体を100μLの各ウイルス希釈液で溶解した後、ストリップを漬けて、10分間反応させた。イムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス社)を用いてmABSを測定した。
【0056】
結果を図2に示す。図2に示すとおり、2A1抗体と16C6抗体とを組み合わせると、A22/IRQ/24/64株、A/IRN/1/2011株、A/TAI/10/2011株およびA15/TAI/1/60株の何れにおいても、高感度で検出することができた。
【0057】
〔参考:7つの血清型全てと反応する抗体の取得〕
(モノクローナル抗体の作製)
口蹄疫ウイルスA22/IRQ/24/64株をIB−RS−2細胞に接種し、一晩回転培養した。回収した培養液を1500Gで10分間遠心した後、上清を回収した。上清を飽和硫酸アンモニウム溶液と等量混和し、一晩4℃で撹拌することによってウイルスを析出させた。析出させたウイルスを、5000Gで30分間遠沈し、上清を除去してから適量のPBSに懸濁した。再び5000Gで30分間遠心し、上清を除去し、1mLのPBSに懸濁した。スクロース密度勾配(15〜45%)ウイルスの懸濁液を添加し、20000rpmで2時間遠心を行い、目的のバンドを回収することによって、146Sの完全粒子を精製した。
【0058】
8〜12週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に、上述のように精製した口蹄疫ウイルスA22/IRQ/24/64株の完全粒子を接種した。初回免疫ではフロイントコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物、追加接種ではフロイントインコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)と精製したウイルス液との等量混合物を、連結針を用いてミセル化させた。最終免疫後にマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3U1とをポリエチレングリコール4000(メルク社製)を用いて融合させ、HAT培地(0.1mMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジン、および20%FCSを含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて96ウェルプレートにおいて培養した。2週間後からはHT選択培地(0.1mMのヒポキサンチン、16μMのチミジン、および20%FCSを含有するRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて培養した。
【0059】
上述のように培養することによって、ハイブリドーマのコロニーを形成させ、ELISAおよび口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって目的のモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマをスクリーニングした。スクリーニングの詳細は以下の通りである。
【0060】
ELISAでは、ウサギ抗口蹄疫ウイルス抗体を、固相に吸着させ、A22/IRQ/24/64株の完全粒子と反応させた。次いで、ウイルスを取り除いてからハイブリドーマの培養上清を加えて反応させた。そして、培養上清を取り除いてからHRP標識したマウス抗IgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させて、吸光度を測定した。
【0061】
口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色では、複数のウェルを有しているプレートにIB−SR−2細胞を播種した後に口蹄疫ウイルスを血清型に分けて接種した。感染後の適当な時間(感染細胞がはがれない程度)に培養液を捨て、冷却したアセトンを用いて感染細胞を固定した。スクリーニングの各タイムポイントにおいて使用するまで、各プレートを−80℃に保存しておいた。つまり、スクリーニング対象のハイブリドーマの1つに対して7種類の血清型に必要な分だけ感染細胞を準備した。保存しておいたプレートにスクリーニングするハイブリドーマの培養上清を加えてインキュベートした。上清を捨ててからHRP標識した抗マウスIgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させ、顕微鏡下において抗体の有無を判定した。
【0062】
培養上清に抗体が存在しているハイブリドーマをELISAによって特定し、さらに、ELISAによるスクリーニングの結果が非特異的な反応ではないことを確認するために、口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって再度スクリーニングした。
【0063】
スクリーニングによって選択したハイブリドーマを、標準的な方法に従ってクローニングすることによって、目的のモノクローナル抗体を安定して産生している1種類のハイブリドーマを確立した。このハイブリドーマを抗口蹄疫ウイルス hybridoma 16D6と名づけた。また、このハイブリドーマを独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号NITE P−01972)。このハイブリドーマによって産生されているモノクローナル抗体(7種類全ての血清型の口蹄疫ウイルスと反応するモノクローナル抗体)を、16D6と名づけた。
【0064】
CellTram/vario(エッペンドルフ社)を用いたマニピュレーション法により、クローニングしたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、BriClone Hybridoma Cloning Medium(キューイーディーバイオサイエンス社)を用いて培養した。
【0065】
(モノクローナル抗体の性能比較のための間接サンドイッチELISA)
モノクローナル抗体16D6の性能を確かめるために、間接サンドイッチELISAを行った。比較として、7種類全ての血清型の口蹄疫ウイルスと反応する既知のモノクローナル抗体1H5を用いた。1H5抗体については、非特許文献1を参照すればよい。
【0066】
捕捉抗体として各血清型の抗口蹄疫ウイルスウサギ抗体を0.05Mの炭酸バッファー(pH9.6)で×800に希釈し、50μLずつ96ウェルプレート(Immulon II HB Thermo)に4℃で一晩固相化した。300μL/wellの0.002M PBSで3回洗浄した後、口蹄疫ウイルス(抗原)を含むサンプルを50μLずつウェルに加え、100rpmで振とうしながら37℃で1時間反応させた。このとき、陰性検体として0.01MのPBS(pH7.4)に0.05%(v/v)のTween20を加えたA液を使用した。同様に洗浄した後、A液に5%のスキムミルクを加えB液とし、37℃で30分間ブロッキングした。B液を捨てた後、洗浄せずに、A液で1μg〜0.000064μgの5倍階段希釈を行ったモノクローナル抗体1H5および16D6をそれぞれ加えた。37℃で1時間反応させた後、B液で×3000に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリンヤギ抗体を50μLずつ加え、室温で45分間反応させた。8回洗浄した後、発色基質TMBを50μLずつ加え、暗所にて室温で15分間反応させた。50μLの1.25M 硫酸で反応を停止させ、ELISAプレートリーダーを用いて450nmの波長を測定した。
【0067】
なお、血清型OとしてO/JPN/2000株、血清型AとしてA/IRN/1/2011株およびA22/IRQ/24/64株、血清型Asia1としてAsia1 Shamir(ISR 3/89)株、血清型CとしてC/PHI/7/84株、血清型SAT1としてSAT1/KEN/117/2009株、血清型SAT2としてSAT2/SAU/6/2000株、血清型SAT3としてSAT3/ZIM/3/83株を用いた。
【0068】
結果を図3に示す。図3に示すように、16D6抗体では8種類の株のうち7種類の株において1H5抗体よりも反応性が高かった。特に、1H5抗体では反応性が比較的低いA/IRN/1/2011株、SAT1/KEN/117/2009株、SAT2/SAU/6/2000株、およびSAT3/ZIM/3/83株において、顕著に反応性が高くなっている。このように、16D6抗体は1H5抗体と比較して非常に優れた反応性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、口蹄疫ウイルスの検出に利用することができる。
【受託番号】
【0070】
NITE P−01971
NITE P−01972
図1
図2
図3