(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<接着剤組成物>
本発明の一実施形態に係る接着剤組成物について、
図1を参照しながら以下に詳細に説明する。
【0014】
一実施形態に係る接着剤組成物は、基板1と、基板1を支持するサポートプレート(支持体)2とを一時的に貼り付けるための接着剤組成物であって、熱可塑性樹脂と、離型剤とを含んでいる(
図1の(a))。
【0015】
上記構成によれば、接着剤組成物よって形成された接着層3の接着性を好適に調整することができる。このため、基板1に所望の処理を行なうときに、接着層3を介して基板1とサポートプレート2とを好適に貼り付けておくことができる。また、基板1に所望の処理を行なった後、基板1からサポートプレート2を容易に剥離することができる。このため、基板1とサポートプレート2を貼り付ける前に、サポートプレート2に分離層を形成しておく必要がない。つまり、一実施形態に係る接着剤組成物を用いれば、光を吸収することにより変質する分離層を形成しなくても、基板1からサポートプレート2を剥離することが可能な積層体を形成することができる。
【0016】
〔熱可塑性樹脂〕
熱可塑性樹脂は、接着剤組成物に含まれる樹脂であり、熱可塑性樹脂の接着性によって基板1とサポートプレート2とを接着する。以下、本実施形態に係る接着剤組成物が含んでいる熱可塑性樹脂の組成について説明する。
【0017】
熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル系、ノボラック系、ナフトキノン系、炭化水素系、ポリイミド系、エラストマー等の、当該分野において公知の種々の接着剤に用いられる熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、例えば、エラストマー樹脂、炭化水素樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、等又はこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0019】
接着剤組成物のガラス転移温度(Tg)は、熱可塑性樹脂の種類や分子量、及び接着剤組成物に配合される可塑剤等の種類や量によって変化する。接着剤組成物に含有される熱可塑性樹脂の種類や分子量は、基板及び支持体の種類に応じて適宜選択することができるが、接着剤組成物に使用する熱可塑性樹脂のTgは−60℃以上、200℃以下の範囲内が好ましく、−25℃以上、150℃以下の範囲内がより好ましい。接着剤組成物に使用する熱可塑性樹脂のTgが−60℃以上、200℃以下の範囲内であることによって、冷却に過剰なエネルギーを要することなく、好適に接着層3の接着力を低下させることができる。また、接着層3のTgは、適宜、可塑剤や低重合度の樹脂等を配合することによって調整してもよい。
【0020】
(エラストマー)
一実施形態に係る接着剤組成物が含んでいる熱可塑性樹脂は、エラストマーであることが好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂にエラストマーを用いることによって、耐熱性が高く、レジスト溶剤に対する耐性の高い接着剤組成物を得ることができる。
【0022】
エラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいることが好ましく、当該「スチレン単位」は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルコキシアルキル基、アセトキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。また、当該スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であることがより好ましい。さらに、エラストマーは、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であることが好ましい。
【0023】
スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であれば、後述する炭化水素系の溶剤に容易に溶解するので、より容易且つ迅速に接着層を除去することができる。また、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上記の範囲内であることにより、ウエハがレジストリソグラフィー工程に供されるときに曝されるレジスト溶剤(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等)、酸(フッ化水素酸等)、アルカリ(水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等)に対して優れた耐性を発揮する。
【0024】
なお、エラストマーには、後述する(メタ)アクリル酸エステルをさらに混合してもよい。
【0025】
また、スチレン単位の含有量は、より好ましくは17重量%以上であり、また、より好ましくは40重量%以下である。
【0026】
重量平均分子量のより好ましい範囲は20,000以上であり、また、より好ましい範囲は150,000以下である。
【0027】
エラストマーとしては、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であれば、種々のエラストマーを用いることができる。例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SBBS)、及び、これらの水添物、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEEPS)、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SeptonV9461(株式会社クラレ製)、SeptonV9475(株式会社クラレ製))、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(反応性のポリスチレン系ハードブロックを有する、SeptonV9827(株式会社クラレ製))、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレンブロックコポリマー(SEEPS−OH:末端水酸基変性)等が挙げられる。エラストマーのスチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上述の範囲内であるものを用いることができる。
【0028】
上記のエラストマーのうち、水添エラストマーがより好ましい。水添エラストマーは、熱に対する安定性が高く、分解や重合等の変質が起こりにくいからである。また、水添エラストマーは、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
【0029】
また、エラストマーは、両端がスチレンによってブロックされたブロック重合体であることがより好ましい。エラストマーは、熱安定性の高いスチレンを両末端にブロックすることでより高い耐熱性を示すからである。
【0030】
一実施形態に係る接着剤組成物が含んでいるエラストマーは、上記エラストマーのうち、水添スチレンエラストマーであることがより好ましい。
【0031】
水添スチレンエラストマーとは、スチレン及び共役ジエンのブロックコポリマーの水添物である。つまり、水添スチレンエラストマーは、水添エラストマーと同じ利点及びブロック重合体の利点を備えている。
【0032】
従って、水添スチレンエラストマーを熱可塑性樹脂として用いることによって、接着剤組成物によって形成される接着層3の熱に対する安定性をより向上することができ、接着層3が分解や重合等により変質を起こし難くすることができる。また、接着層3の耐熱性をより高くすることができる。さらに、水添スチレンエラストマーを熱可塑性樹脂として用いることは、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
【0033】
接着層3を構成する接着剤に含まれるエラストマーとして用いられ得る市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(商品名)」、株式会社クラレ製「ハイブラー(商品名)」、旭化成株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
【0034】
接着層3を構成する接着剤に含まれるエラストマーの含有量としては、例えば、接着剤組成物全量を100重量部として、50重量部以上、99重量部以下の範囲内が好ましく、60重量部以上、99重量部以下の範囲内がより好ましく、70重量部以上、95重量部以下の範囲内が最も好ましい。これら範囲内にすることにより、耐熱性を維持しつつ、ウエハと支持体とを好適に貼り合わせることができる。
【0035】
また、エラストマーは、複数の種類を混合してもよい。つまり、接着層3を構成する接着剤は複数の種類のエラストマーを含んでいてもよい。複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいればよい。また、複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内である、又は、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であれば、本発明の範疇である。また、接着層3を構成する接着剤において、複数の種類のエラストマーを含む場合、混合した結果、スチレン単位の含有量が上記の範囲内となるように調整してもよい。例えば、スチレン単位の含有量が30重量%である株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton4033と、スチレン単位の含有量が13重量%であるセプトン(商品名)のSepton2063とを重量比1対1で混合すると、接着剤に含まれるエラストマー全体に対するスチレン含有量は21〜22重量%となり、従って14重量%以上となる。また、例えば、スチレン単位が10重量%のものと60重量%のものとを重量比1対1で混合すると35重量%となり、上記の範囲内となる。本発明はこのような形態でもよい。また、接着層3を構成する接着剤に含まれる複数の種類のエラストマーは、全て上記の範囲内でスチレン単位を含み、且つ、上記の範囲内の重量平均分子量であることが最も好ましい。
【0036】
(炭化水素樹脂)
一実施形態に係る接着剤組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、炭化水素樹脂であることがより好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂として炭化水素樹脂を用いれば、耐熱性がより高い接着層3を形成することができる。
【0038】
炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂として、シクロオレフィン系ポリマー(以下、「樹脂(A)」ということがある)、並びに、テルペン樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(以下、「樹脂(B)」ということがある)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0039】
樹脂(A)としては、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を重合してなる樹脂であってもよい。具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂等が挙げられる。
【0040】
樹脂(A)を構成する単量体成分に含まれる前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエン、ヒドロキシジシクロペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、シクロペンタジエン三量体等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体、又はこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)置換体、アルケニル(ビニル等)置換体、アルキリデン(エチリデン等)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチル等)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、又はこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0041】
樹脂(A)を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、α−オレフィン等が挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0042】
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、シクロオレフィンモノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の観点から好ましい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性及び溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
【0043】
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、直鎖状又は分岐鎖状のアルケンモノマーを含有してもよい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性及び柔軟性の観点からは10〜90モル%であることが好ましく、20〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、樹脂(A)は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制する上で好ましい。
【0045】
単量体成分を重合するときの重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0046】
樹脂(A)として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」及び「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」等が挙げられる。
【0047】
樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。樹脂(A)のガラス転移温度が60℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに接着層3の軟化をさらに抑制することができる。
【0048】
樹脂(B)は、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。具体的には、テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、変性ロジン等が挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族又は芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂、クマロン・インデン石油樹脂等が挙げられる。これらの中でも、水添テルペン樹脂、水添石油樹脂がより好ましい。
【0049】
樹脂(B)の軟化点は特に限定されないが、80〜160℃であることが好ましい。樹脂(B)の軟化点が80℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに軟化することを抑制することができ、接着不良を生じない。一方、樹脂(B)の軟化点が160℃以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。
【0050】
樹脂(B)の重量平均分子量は特に限定されないが、300〜3,000であることが好ましい。樹脂(B)の重量平均分子量が300以上であると、耐熱性が十分なものとなり、高温環境下において脱ガス量が少なくなる。一方、樹脂(B)の重量平均分子量が3,000以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。なお、本実施形態における樹脂(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の分子量を意味するものである。
【0051】
なお、樹脂として、樹脂(A)と樹脂(B)とを混合したものを用いてもよい。混合することにより、耐熱性及び剥離速度が良好なものとなる。例えば、樹脂(A)と樹脂(B)との混合割合としては、(A):(B)=80:20〜55:45(質量比)であることが、剥離速度、高温環境時の熱耐性、及び柔軟性に優れるので好ましい。
【0052】
(アクリル−スチレン系樹脂)
熱可塑性樹脂としては、アクリル−スチレン系樹脂を用いてもよい。アクリル−スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン又はスチレンの誘導体と、(メタ)アクリル酸エステル等とを単量体として用いて共重合した樹脂が挙げられる。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数15〜20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステル、炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステル等が挙げられる。アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等であるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、当該アルキル基は、分岐鎖状であってもよい。
【0054】
炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、既存のアクリル系接着剤に用いられている公知のアクリル系アルキルエステルが挙げられる。例えば、アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基等からなるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。
【0055】
脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、イソボルニルメタアクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0056】
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、芳香族環としては、例えばフェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。また、芳香族環は、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよい。具体的には、フェノキシエチルアクリレートが好ましい。
【0057】
(マレイミド系樹脂)
熱可塑性樹脂としては、マレイミド系樹脂を用いてもよい。マレイミド系樹脂としては、例えば、単量体として、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−sec−ブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−へプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド等のアルキル基を有するマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、N−シクロオクチルマレイミド等の脂肪族炭化水素基を有するマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−m−メチルフェニルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミド、N−p−メチルフェニルマレイミド等のアリール基を有する芳香族マレイミド等を重合して得られた樹脂が挙げられる。
【0058】
例えば、下記化学式(1)で表される繰り返し単位及び下記化学式(2)で表される繰り返し単位の共重合体であるシクロオレフィンコポリマーを接着成分の樹脂として用いることができる。
【0060】
(化学式(2)中、nは0又は1〜3の整数である。)
このようなシクロオレフィンコポリマーとしては、APL 8008T、APL 8009T、及びAPL 6013T(全て三井化学株式会社製)等を使用することができる。
【0061】
〔離型剤〕
一実施形態に係る接着剤組成物は、離型剤を含んでいる。接着剤組成物に離型剤を配合することにより、基板1及びサポートプレート2に対する接着層3の接着性を調整することができる。これによって、基板1に所望の処理を行なった後、基板1からサポートプレート2を容易に剥離することが可能な積層体10を形成することができる接着剤組成物を得ることができる。
【0062】
離型剤としては、例えば、シリコーン(Silicone)を挙げることができる。より具体的には、シリコーンには、シリコーンオイルが挙げられ、具体的にはストレートシリコーンオイル、変性シリコーンオイル及び変性シリコーンオイルの硬化物等が挙げられる。
【0063】
(ストレートシリコーンオイル)
ストレートシリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル及びメチルハイドロジェンシリコーンオイル等を挙げることができる。これらストレートシリコーンオイルには、一例として、信越化学工業社製の商品を挙げることができ、例えば、KF96−10、KF96−100、KF96−1000、KF96H−10000、KF96H−12500及びKF96H−10000等のジメチルシリコーンオイル;KF50−100、KF54及びKF56等のメチルフェニルシリコーンオイル;KF99及びKF9901等のメチルハイドロジェンシリコーンオイルを挙げることができる。
【0064】
(変性シリコーンオイル)
変性シリコーンオイルは、ジメチルシリコーンの末端及び側鎖の少なくとも1部に官能基を導入することによって変性したシリコーンである。つまり、変性シリコーンオイルは、両末端型、片末端型、側鎖型及び側鎖両末端型の変性シリコーンのいずれかに該当する。
【0065】
変性シリコーンオイルとしては、例えば、下記化学式(3)から(6)で表される、ポリジメチルシロキサン骨格を備えた化合物を挙げることができる。
【0067】
(化学式(3)及び(4)中、mは1以上の整数であり、より好ましくは、10以上、1000以下の整数であり、さらに好ましくは20以上、500以下の整数である。また、化学式(5)及び(6)中、pは1以上の整数であり、より好ましくは10以上、1000以下の整数であり、さらに好ましくは20以上、500以下の整数である。qは1以上の整数であり、より好ましくは10以上、1000以下の整数であり、さらに好ましくは20以上、500以下の整数である。また、化学式(3)〜(6)において、Rは、カルビノール基、エポキシ基、アミノ基、アクリル基、メタクリル基、カルボキシル基、フェノール基、メルカプト基、アルキル基、アラルキル基、ジオール、シラノール基、ポリエーテル、カルボン酸無水物、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、及びメチルスチリル基を導入することができる官能基である。また、シラノール基を導入する場合、Rは水酸基であり得る。)
また、Rがポリエーテルを導入することができる官能基である場合、Rは以下の化学式(7)によって表すことができる。
【0069】
(化学式(7)中、R’は、例えば、アルキレン基等の有機基であり、R”は、水素原子、又はアリール基、若しくはシクロアルキル基で置換されてもよい直鎖状又は分枝状のアルキル基等である。また、a及びbは、aは0以上、30以下の整数であり、bは0以上、30以下の整数であり、60≧a+b≧1の条件を満たす。)
また、変性シリコーンオイルの官能基当量は、限定されるものではないが、例えば、1g/mol以上、100000g/mol以下であり、好ましくは10g/mol以上、5000g/mol以下であることが好ましい。
【0070】
また、変性シリコーンが、例えば、カルビノール基、フェノール基及びポリエーテル等の水酸基を導入することができる官能基によって変性されている場合、当該変性シリコーンの水酸基価は、20mgKOH/g以上、500mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0071】
これら変性シリコーンのオイルには、一例として、信越化学工業社製の商品を挙げることができ、例えば、X−22−4039、X−22−4015、KF6000、KF6001、KF6002、KF6003、及びX−22−170DX等のカルビノール変性シリコーンオイル;X−22−163A、X−22−163B、X−22−163C、X−22−2000、X−22−4741、KF1005及びX−22−169B、X−22−173DX等のエポキシ変性シリコーンオイル;KF393、KF865、X−22−9409、X−22−3939A及びX−22−161B等のアミノ変性シリコーンオイル;X−22−2445及びX−22−1602等のアクリル変性シリコーンオイル;X−22−164B及びKF2012等のメタクリル変性シリコーンオイル;X−22−3701E及びX−22−X−22−162C等のカルボキシル変性シリコーンオイル;KF2200等のフェノール変性シリコーンオイル;KF2001及びX−22−167B等のメルカプト変性シリコーンオイル;KF414及びKF4003等のアルキル変性シリコーンオイル;KF410及びX−22−1877等のアラルキル変性シリコーンオイル;X−22−176DX及びX−22−176GX−A等のジオール変性シリコーンオイル;X−22−4272、KF945、KF6011、KF6123及びX−22−2516等のポリエーテル変性シリコーンオイル;X−21−5841及びKF9701等のシラノール末端シリコーンオイルを挙げることができる。
【0072】
変性シリコーンオイルは、接着剤組成物に使用する熱可塑性樹脂の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂として、炭化水素樹脂及びエラストマーを用いる場合、カルビノール基、エポキシ基、アミノ基、アクリル基、メタクリル基、カルボキシル基、フェノール基、メルカプト基、シラノール基、ジオール及びポリエーテル等の極性が高い官能基を導入することによって変性されたシリコーンオイルを離型剤として用いることがより好ましい。
【0073】
炭化水素樹脂及び水添スチレンエラストマーを始めとするエラストマーは、極性が低い化学的構造を備えている。このため、極性の高い官能基を導入した変性シリコーンオイルを配合すれば、接着層3の表面に当該変性シリコーンオイルをより好適に滲み出させることができる。従って、
図1の(a)に示す積層体10における接着層3と基板1との界面、及び接着層3とサポートプレート2との界面の両方における接着性をより好適に調整することができる接着剤組成物を得ることができる。
【0074】
つまり、極性の高い官能基を導入した変性シリコーンオイルを配合すれば、炭化水素樹脂及び水添スチレンエラストマーを始めとするエラストマー等の高い耐熱性を備えた接着剤組成物の接着性を好適に調整することができる。
【0075】
また、離型剤として、ジメチルシリコーンオイル、並びに、アルキル基、フェニル基及びアラルキル基等の極性の低い官能基を導入した変性シリコーンを用いることもできる。つまり、これらジメチルシリコーンオイル及び変性シリコーンオイル等のシリコーンは、接着剤組成物に使用する熱可塑性樹脂及び可塑剤等の極性等に応じて適宜選択して用いればよい。
【0076】
一実施形態に係る接着剤組成物では、ジメチルシリコーンオイル又は変性シリコーンオイルの25℃における動粘度は、20mm
2/s以上であること好ましく、40mm
2/s以上であることがより好ましく、60mm
2/s以上であることが最も好ましい。ジメチルシリコーンオイル又は変性シリコーンオイルの25℃における動粘度が20mm
2/s以上であれば、シリコーンオイルが蒸発することを防止することができる。このため、例えば、160℃以上という高温において処理される積層体においても、一実施形態に係る接着剤組成物を用いることができる。
【0077】
また、ジメチルシリコーンオイル又は変性シリコーンオイルは、熱可塑性樹脂に混合することができればよく、限定されないが、25℃における動粘度が1,000,000mm
2/s以下のものを用いるとよい。25℃における動粘度が1,000,000mm
2/s以下のジメチルシリコーンオイル又は変性シリコーンオイルであれば、好適に熱可塑性樹脂に混合することができ、接着層の接着性を調整することができる。
【0078】
また、熱可塑性樹脂の総量に対するジメチルシリコーンオイル又は変性シリコーンオイルの配合量は、熱可塑性樹脂の種類、熱可塑性樹脂の種類及び離型剤の種類に応じて適宜調整すればよい。このため、限定されるものではないが、例えば、離型剤が、熱可塑性樹脂の総量に対して、0.01重量%以上、10重量%以下の範囲内で配合されていることが好ましく、0.1重量%以上、5重量%以下の範囲内で配合されていることがより好ましく、1重量%以上、3重量%以下の範囲内で配合されていることが最も好ましい。ジメチルシリコーンオイル又は変性シリコーンオイルが、熱可塑性樹脂の総量に対して、0.01重量%以上、10重量%以下の範囲内で配合されていれば、基板1とサポートプレート2とを好適に貼り付けることができる。また、サポートプレート2に分離層を形成しなくても、基板1からサポートプレート2を容易に剥離することが可能な積層体を形成することができる接着剤組成物を得ることができる。
【0079】
また、ジメチルシリコーンオイル及び変性シリコーンオイル等の離型剤には、熱可塑性樹脂及び溶剤の混合物の比重に近い比重を有するものを用いることがより好ましい。これによって、接着着剤組成物への離型剤の分散性を良くすることができる。
【0080】
(変性シリコーンオイルの硬化物)
離型剤には、変性シリコーンオイルの硬化物を用いてもよい。変性シリコーンオイルの硬化物を接着剤組成物に添加することによっても、接着剤組成物の接着性を好適に調整することができる。
【0081】
変性シリコーンオイルの硬化物には、変性シリコーンオイルに導入された官能基を、別の変性シリコーンオイルの官能基と反応させて得られたものを挙げることができる。例えば、アミン変性シリコーンオイル又はメルカプト変性シリコーンオイル等をエポキシ変性シリコーンオイルに反応させて得られたものを挙げることができる。
【0082】
また、変性シリコーンオイルの硬化物には、例えば、触媒硬化型又は光硬型のシリコーンオイルを反応させ得られた硬化物を挙げることができる。触媒硬化型のシリコーンオイルには、例えば、信越化学工業株式会社製のKF−705F−PS、KS−705F−PS−1及びKS−770−PL−3等をあげることができる。また、光硬型のシリコーンオイルには、例えば、信越化学工業株式会社製のKS−720及びKS744−PL3を挙げることができる。
【0083】
また、変性シリコーンオイルの硬化物には、例えば、カルビノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル等の活性水素を有する官能基を導入した変性シリコーンオイルにイソシアネートを反応させて硬化物を得た後、これを離型剤として用いてもよい。
【0084】
〔その他の成分〕
接着剤組成物は、熱可塑性樹脂及び離型剤の他に、本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤、熱重合禁止剤及び界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いることができる。また、接着剤組成物は、希釈溶剤を含んでいてもよい。
【0085】
(希釈溶剤)
希釈溶剤は、接着剤組成物を希釈するために用いられる。これにより、塗布するための条件に適した粘度に接着剤組成物を調整することができる。
【0086】
希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の直鎖状の炭化水素、炭素数4から15の分岐鎖状の炭化水素、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の環状炭化水素、p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー、d−リモネン、l−リモネン、ジペンテン等のテルペン系溶剤;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
【0087】
<積層体10>
図1の(a)を用いて、本発明の一実施形態に係る積層体10についてより詳細に説明する。
図1に示すように、積層体10は、基板1と、基板1を支持するサポートプレート2とを、本発明の一実施形態に係る接着剤組成物を用いて形成した接着層3を介して貼り付けてなる。
【0088】
積層体10の基板1には、所望の処理が行われる。基板1には、一例として、グラインダ等によって、25μm〜150μmの厚さになるように薄化処理が行われる。また、基板1を所望の厚さまで薄化した後に、フォトリソグラフィー処理等を行ない、基板1に回路素子等を形成する。つまり、一実施形態に係る積層体10は、力を加えられ、加熱されても、基板1をサポートプレート2に好適に密着させておくことができるように、離型剤を含んだ接着層3の接着性が調整されている。
【0089】
また、積層体10は分離層を備えていなくても、所望の処理の後、基板1からサポートプレート2を容易に剥離することができる。このため、分離層を備えた積層体のように、分離層の耐薬品及び密着性等を考慮することなく、基板1に所望の処理を行なうことができる。
【0090】
なお、分離層とは、積層体における支持体と接着層の間に設けられる層であり、例えば、プラズマCVD法によって形成されたフルオロカーボン膜等の有機膜又は金属膜等の無機膜からなる層のことである。分離層は、光を吸収することによって変質し、強度又は接着性を低下することで、基板から支持体を剥離する。
【0091】
〔基板1〕
基板1は、接着層3を介してサポートプレート2に貼り付けられる。基板1としては、シリコンウエハ基板に限定されず、セラミックス基板、薄いフィルム基板、フレキシブル基板等の任意の基板を使用することができる。
【0092】
〔サポートプレート2〕
サポートプレート(支持体)2は、基板1を支持する支持体であり、接着層3を介して、基板1に貼り付けられる。そのため、サポートプレート2としては、基板1の薄化、搬送、実装等のプロセス時に、基板1の破損又は変形を防ぐために必要な強度を有していればよい。以上の観点から、サポートプレート2としては、ガラス、シリコン、アクリル系樹脂からなるもの等が挙げられる。
【0093】
〔接着層3〕
基板1とサポートプレート2とを貼り付けるための層であり、本発明の一実施形態に係る接着剤組成物を用いて形成される。接着層3は、接着剤組成物の塗布方法及び接着層3の膜厚等に応じて、希釈溶剤により接着剤組成物の適宜粘度を調整して形成するとよい。
【0094】
接着層3は、例えば、スピンコート、ディッピング、ローラーブレード、スプレー塗布、スリット塗布等の方法により、接着剤組成物を基板1又はサポートプレート2に塗布することで形成することができる。
【0095】
接着層3の厚さは、貼り付けの対象となる基板1及びサポートプレート2の種類、貼り付け後の基板1に施される処理等に応じて適宜設定すればよい。ここで、接着層3の厚さは、10μm以上、150μm以下の範囲内であることが好ましく、15μm以上、100μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0096】
<第1の実施形態に係る剥離方法>
図1を用いて、一実施形態(第1の実施形態)に係る剥離方法をより詳細に説明する。本実施形態に係る剥離方法は、本発明の一実施形態に係る積層体10における接着層3の外周部の少なくとも一部を除去する予備処理工程と(
図1の(a)及び(b))、積層体10における基板1からサポートプレート2を剥離する剥離工程と(
図1の(c))を包含している。
【0097】
これによって、予備処理工程において、積層体10における接着層3を除去した部分に、剥離工程において積層体10に加える力を集中させることができる。従って、剥離工程において積層体10に過度な力を加えなくても基板1からサポートプレート2を剥離することができる。
【0098】
このため、本実施形態に係る剥離方法によれば、光を吸収することにより変質する分離層を積層体10に設ける必要がない。
【0099】
また、
図1の(d)及び(e)に示すように、本実施形態に係る剥離方法では、剥離工程の後、サポートプレート2を剥離した基板1から接着層3を剥離する接着層剥離工程を包含している。
【0100】
これによって、サポートプレート2を剥離した基板1から接着層3を好適に除去することができる。
【0101】
〔予備処理工程〕
予備処理工程は、積層体10の基板1が底面側に位置するように積層体10を固定して行なう(
図1の(a))。積層体の固定は、一例として、ポーラス部を備えたステージ(不図示)により行なうとよい。
【0102】
図1の(b)に示すように、本実施形態に係る予備処理工程では、積層体10における接着層3の外周部分の少なくとも一部に挿入部材、例えばブレード20を挿入する。これによって、サポートプレート2に接着している接着層3の一部を除去する。
【0103】
ブレード20は、
図1の(b)に示す積層体10のサポートプレート2と接着層3との界面の付近に挿入することが好ましい。また、接着層3にブレード20を挿入する深さは、限定されないが、接着層3の外周部分の端部から少なくとも2mm以上であることが好ましく、2mm以上、10mm以下であることがより好ましい。
【0104】
次に、ブレード20によって、接着層3を除去した部分に剥離溶剤Sを供給する。これによって、積層体10における接着層3の一部が除去された部分の接着性を低下させる。
【0105】
予備処理工程において、積層体10における接着層3が除去された部分に供給する剥離溶剤Sの量は、積層体の大きさ等によって適宜調整すればよく、限定されないが、少なくとも10mlの量の剥離溶剤Sを接着層3が除去された部分に供給すればよく、より好ましくは10ml以上、50ml以下の範囲内の量の剥離溶剤Sを接着層3が除去された部分に供給すればよい。少なくとも10mlの剥離溶剤Sを接着層3が除去された部分に供給することによって、接着層3の接着性をより好適に低下させることができる。なお、接着層3への剥離溶剤Sの供給は、スプレーノズル、ディスペンスノズル及び2流体ノズル等の公知の手段によって行なうことができる。
【0106】
予備処理工程では、接着層3が除去された部分の接着性を低下させることができる程度に接着層3に剥離溶剤Sを供給すればよい。つまり、基板からサポートプレートが剥離するまで積層体に剥離溶剤を供給し、接着層を溶解する必要はない。
【0107】
(剥離溶剤)
剥離溶剤は、予備処理工程において積層体10における接着層3が除去された部分に供給される溶剤であり、接着層3の接着性を低下させるために用いられる。剥離溶剤は、接着層3に含まれている熱可塑性樹脂及び離型剤の種類によって適宜選択すればよく、限定されないが、例えば、前述した希釈溶剤、または以下に挙げる溶剤を用いることができる。
【0108】
剥離溶剤には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール及び2−ブタノール等のアルコール類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン(CH)、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
【0109】
〔剥離工程〕
図1の(c)に示すように、剥離工程では、基板1が底面側に位置するように積層体10を固定し、積層体10の上面側に位置するサポートプレート2に力を加えることによって、積層体10における基板1からサポートプレート2を剥離する。
【0110】
ここで、積層体10は、予備処理工程によってサポートプレート2に接着している接着層3の一部が除去されているため、積層体10のサポートプレート2に加えられる力は、当該接着層3が除去された部分に集中する。また、予備処理工程において接着層3が除去された部分は、剥離溶剤によって接着性が低下している。このため、積層体10のサポートプレート2に加えられる力を、接着層3が除去された部分により好適に集中させることができる。また、予備処理工程において、接着層3の外周部分の端部から少なくとも2mm以上の深さまで、接着層3を除去しておけば、より好適に接着層3が除去された部分に剥離工程において加える力を集中させることができる。
【0111】
また、本実施形態に係る剥離方法は、一実施形態に係る積層体10に対して好適に行なわれる。ここで、積層体10の接着層3は離型剤を含む接着剤組成物によって形成されており、接着層3の接着性が調整されている。このため、積層体10に過度な力を加えなくても、基板1からサポートプレート2を容易に剥離することができる。
【0112】
また、積層体10は接着層3に離型剤を含んでいるため、サポートプレート2は接着層3との界面において基板1から剥離する。このため、サポートプレート2の洗浄を省略するか、又は、サポートプレート2を洗浄するための溶剤の量を低減することができる。
【0113】
(剥離装置)
本実施形態に係る剥離方法は、一般的な剥離装置を用いて行なうことができる。例えば、剥離装置は、積層体10を固定するためのステージ(不図示)、及び積層体10に力を加えるための分離プレート(不図示)を少なくとも備えていればよい。ステージは、一例として、減圧手段によって吸引することで積層体10を固定するポーラス部であり得る。また、分離プレートは、一例として、サポートプレート2を把持することができる複数のクランプを備えているとよい。また、分離プレートは、フローティングジョイントを備えていることがより好ましい。
【0114】
剥離工程では、例えば、ステージの上に、基板1が底面側に位置するように積層体10を固定し、複数のクランプを備えた分離プレートよってサポートプレート2の外周端部の面取り部分を把持し、当該分離プレートを上昇させることによって積層体10に力を加えるとよい。
【0115】
また、剥離工程では、積層体10の平面に対して平行な円状の軌道、及び、積層体10の平面に対して垂直な弧状の軌跡をとるように可動するフローティングジョイント等を介して、分離プレートから積層体10に力を加えることがより好ましい。
【0116】
フローティングジョイントを介して分離プレートから積層体10に力を加えれば、接着層3が除去された部分に力が集中したときに、フローティングジョイントが可動し、分離プレートが傾き、これに伴い、サポートプレート2が傾く。これによって、サポートプレート2及び基板1の一部に過度な力が加わることを防止することができる。従って、サポートプレート2及び基板1が過度な力によって破損することを防止しつつ、より好適に基板1からサポートプレート2を剥離することができる。
【0117】
なお、本発明の一実施形態に係る剥離方法によれば、積層体に分離層を形成する分離層形成装置が不要であることは言うまでもない。
【0118】
〔接着層剥離工程〕
図1の(d)及び(e)に示すように、一実施形態に係る剥離方法では、剥離工程の後、基板1に残留する接着層3を剥離する接着層剥離工程を包含している。
【0119】
積層体10は、接着層3に離型剤を含んでいる。このため、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも低い温度にまで接着層3を冷却すれば、フィルム形状を維持した状態で基板1から接着層3を剥離することができる(
図1の(d))。つまり、多量の溶剤によって接着層3を溶解しなくても、基板1に残る接着層3を除去することができる(
図1の(e))。従って、基板1の洗浄を省略することができるか、又は基板1の洗浄に用いる溶剤の量を低減することができる。
【0120】
その後、基板1の表面に残る接着層3の残渣を洗浄によって除去し、基板1に所望の処理を行なえばよい。例えば、サポートプレート2を分離した後、基板1を洗浄し、ダイシングにより基板1から半導体チップを製造することができる。
【0121】
本実施形態に係る剥離方法によれば、予備処理工程において、積層体10における接着層3の接着性が低下する程度に剥離溶剤を用いれば、基板1からサポートプレート2を容易に剥離することができる。また、基板1及びサポートプレート2から、フィルム状の状態で接着層3を剥離することができる。従って、本実施形態に係る剥離方法によれば、溶剤により接着層を溶解し、基板からサポートプレートを剥離する方法と比較して、溶剤の使用量を低減することができる。
【0122】
<第2の実施形態に係る剥離方法>
本発明に係る剥離方法は、上記実施形態(第1の実施形態)に限定されない。例えば、一実施形態(第2の実施形態)に係る剥離方法は、本発明の一実施形態に係る積層体11における接着層3の外周部の少なくとも一部に対して光(レーザー)を照射する光照射工程と(
図2の(a)及び(b))、積層体11における基板1からサポートプレート2aを剥離する剥離工程と(
図2の(c))を包含している。すなわち、本実施形態に係る剥離方法は、上述の予備処理工程に代えて、光照射工程を行なう。なお、光照射工程を行なった後に行なう、剥離工程(
図2の(c))及び接着層剥離工程(
図2の(d)及び(e))は、第1の実施形形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0123】
〔光照射工程〕
図2の(a)に示すように、本実施形態に係る剥離方法では、積層体11は、シリコンからなるサポートプレート2aを用いて形成されている。積層体11は、シリコンからなるサポートプレート2aを備えているため、例えば、炭酸レーザ等の赤外線を好適に透過させることができる。
【0124】
また、シリコンからなるサポートプレート2aと基板1との熱膨張率を略等しくすることができる。このため、積層体11を例えば、CVD処理などにおいて高温で処理しても、サポートプレート2aと基板1との熱膨張率の差に起因して、基板1が歪むことを好適に防止することができる。
【0125】
なお、サポートプレートにガラスを使用した場合であっても、基板1側から炭酸レーザ等の赤外線を好適に透過させることもできる。すなわち、上記赤外線を基板1側から照射することにより、サポートプレート2aとして、シリコンからなるサポートプレートの代わりにガラスからなるサポートプレートを使用することができる。
【0126】
なお、接着層3は、離型剤としてシリコーンを含んでいるため当該シリコーンのシロキサン構造に光を吸収させることができる。
【0127】
図2の(b)に示すように、光照射工程では、炭酸レーザー照射装置21を用いて、積層体11におけるサポートプレート2a側から接着層3の外周部の少なくとも一部に向かって光Lを照射する。このことにより、積層体11の外周部における、接着層3に対して、サポートプレート2aを透過させた光(赤外線)を照射することが可能となる。これにより、積層体11において接着層3に赤外線を吸収させ、そのエネルギーにより、シリコーンを含んでいる接着層3を変質させることにより、サポートプレート2aと接着層3との接着力を低下させることができる。
【0128】
なお、本明細書において、シリコーンを含んでいる接着層が「変質する」とは、シリコーンを含んでいる接着層がわずかな外力(例えば、0.1〜5Kgf程度)を受けて破壊され得る状態、又はシリコーンを含んでいる接着層と接する層との接着力が低下した状態にさせる現象を意味する。光を吸収することによって生じるシリコーンを含んでいる接着層の変質の結果として、シリコーンを含んでいる接着層は、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。つまり、光を吸収することによって、シリコーンを含んでいる接着層は脆くなる。シリコーンの含んでいる接着層の変質とは、シリコーン含んでいる接着層を構成する物質が、吸収した光のエネルギーによる分解、立体配置の変化又は官能基の解離等を生じることであり得る。シリコーンを含んでいる接着層の変質は、シリコーンが光を吸収することの結果として生じる。よって、積層体におけるシリコーンを含んでいる接着層の周端部に光を照射することにより、接着層が脆くなった当該周端部に力が集中するようにして、基板とサポートプレートとに力を加えることができる。このため、基板とサポートプレートとを好適に分離することができる。
【0129】
なお、光照射工程は、上述の予備処理工程と同様に、積層体11を固定して行うが、その固定方法及び固定装置もまた、上述の予備処理工程と同様のものが使用できる。
【0130】
(光の照射)
接着層3の少なくとも一部に照射する光を発射するレーザは、典型的には、赤外線(0.78μm以上、1000μm以下)、好ましくは遠赤外線(3μm以上、1000μm以下)、さらに好ましくは波長9μm以上、11μm以下の光が挙げられる。具体的には、CO
2レーザーである。CO
2レーザーを用いることによって、接着層3に上記CO
2レーザーを吸収させることができる。これは、接着層3には、離型剤(例えば、シリコンオイル等)が含まれており、上記離型剤が、Si−O結合を有しているため、CO
2レーザー等の赤外線を吸収することによる。このため、CO
2レーザー等の赤外線の照射により、シリコーンを含んでいる接着層3を変質させることができ、接着層3を脆くすることができる。
【0131】
光照射工程におけるレーザーの照射条件は、レーザーの平均出力値が1.0W以上、50.0W以下であることが好ましく、3.0W以上、40.0W以下であることがより好ましい。レーザーの繰り返し周波数は、20kHz以上、60kHz以下であることが好ましく、30kHz以上、50kHz以下であることがより好ましい。レーザーの走査速度は、100mm/s以上、10,000mm/s以下であることが好ましく、100mm/s以上、1000mm/s以下であることがより好ましい。これにより、接着層3の少なくとも一部を変質させるための適切な条件にレーザーの照射条件を設定することができる。また、連続光のビームスポット径及び連続光の照射ピッチは、隣接するビームスポットが重ならず、かつ接着層3の少なくとも一部を変質させることが可能なピッチであればよい。
【0132】
また、本実形態に係る剥離方法が包含している光照射工程では、サポートプレート2aにおける周縁部分端部から内側に向かって、10mm以下の範囲内に接着している接着層3に光を照射することが好ましく、5mm以下の範囲内に接着している接着層3に光を照射することがより好ましく、2mm以下の範囲内に接着している接着層3に光を照射することが、最も好ましい。これによって、基板1とサポートプレート2aとを分離するときに、積層体11の外周部における接着力が低下した接着層3の当該外周部に力を集中させることができる。また、これにより、サポートプレート2aと接着層3とを透過した光が、基板1の内側を形成された素子に対してダメージを与えることを回避できる。なお、光照射工程は、基板1側から内側に向かって、接着層3に光を照射することによっても実施することが出来る。
【0133】
<別の実施形態に係る剥離方法>
本発明に係る実施形態に係る剥離方法は、上記の実施形態に限定されない。例えば、一実施形態に係る剥離方法では、第2の実施形態に係る剥離方法が包含している光照射工程において、積層体10を用い、積層体10の外周部から接着層3に向かって、光を照射する構成である。
【0134】
上記の構成によれば、接着層3には離型剤としてシリコーンが含まれていることから、積層体10における基板1又はサポートプレート2に光を透過させることなく、接着層3の外周部に光を照射し、接着層3に光を吸収させることができる。従って、サポートプレート2と接着層3との接着力を低下させることができる。なお、同様の方法で積層体10から基板1を剥離することも可能である。
【0135】
本発明に係る剥離方法は、上記の実施形態に限定されない。例えば、一実施形態に係る剥離方法では、予備処理工程において、積層体における接着層の外周部分に剥離溶剤の供給を行わない実施形態にすることもできる。剥離溶剤の供給は、積層体を形成するための一実施形態に係る接着剤組成物の接着性に応じて、行なうか否かを決定すればよい。
【0136】
基板1からサポートプレート2を剥離するときに、例えば、1.5kgfよりも低い剥離強度を達成することができるように接着層3の接着性を調整すれば、予備処理工程において、剥離液の供給を省略することができる。
【0137】
また、さらに別の実施形態では、剥離方法は接着層剥離工程を包含しない形態であってもよい。基板及び接着剤組成物の種類等に応じて、基板1は、サポートプレート2を剥離した後、適宜、洗浄液によって接着層3を除去してもよい。
【0138】
また、さらに別の実施形態では、サポートプレート2をステージ等に固定して、基板1に力を加えてもよい。これによっても、基板1からサポートプレート2を容易に剥離することができる。
【0139】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0140】
〔接着剤組成物の調製〕
まず、実施例1〜35として、接着剤の種類、離型剤の種類及び配合量が異なる接着剤組成物を調製した。また、比較例1〜5として、離型剤を含まない接着剤組成物を調製した。
【0141】
接着剤組成物の熱可塑性樹脂として用いた樹脂は、旭化成株式会社製のタフテック(商品名)H1051(SEBS;水添スチレン系熱可塑性エラストマー;スチレン含有量42%、Mw=78,000)、株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton2002(SEPS:スチレン−イソプレン−スチレンブロック)、Septon8004(SEP:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック)、Septon V9827(反応架橋型のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー)、ポリプラスチック株式会社製のTOPAS(商品名)TM(シクロオレフィンコポリマー;エチレン−ノルボルネンのコポリマー、Mw=10,000、Mw/Mn=2.08、ノルボルネン:エチレン=50:50(重量比))、三井化学社製のAPL8008T(シクロオレフィンコポリマー、エチレン:テトラシクロドデセン=80:20のコポリマー)、および、アクリル系共重合体A1(スチレン/ジシクロペンタニルメタクリレート/ステアリルメタクリレート=20/60/20(重量比)の共重合体、分子量10000)である。
【0142】
また、熱重合禁止剤(添加剤)としては、BASF社製の「IRGANOX(商品名)1010」を用いた。また、主溶剤としては、デカヒドロナフタレンを用いた。また、添加溶剤としては、酢酸ブチルを用いた。
【0143】
[製造例1]
まず、H1051、Septon2002及びTOPAS TMを55:45:10の重量比で混合した熱可塑性樹脂をデカヒドロナフタレン:酢酸ブチルの重量比が15:1の溶剤に、濃度が28重量%になるように溶解した。次いで、熱可塑性樹脂の固形分量に対し、1重量%になるようにIRGANOX1010を添加し、接着剤組成物Aを得た。
【0144】
次いで、表1に示す離型剤の種類及び配合量に従って、接着剤組成物Aに離型剤を配合し、実施例1〜11の接着剤組成物を調製した。なお、表1に示す離型剤の配合量は、接着剤組成物Aにおける樹脂固形分の重量比で表されている。また、離型剤を含まない、接着剤組成物Aを比較例1として準備した。
【0145】
【表1】
【0146】
以下の表2に、実施例1〜11に用いた離型剤の各物性値を含む詳細を示す。なお、表2におけるKF6003からKF6123まで離型剤は、全て信越化学工業株式会社製である。
【0147】
【表2】
【0148】
[製造例2]
まず、Septon V9827、Septon S2002、TOPAS TMおよびアクリル系共重合体A1を50:20:15:15の重量比で混合した熱可塑性樹脂をデカヒドロナフタレン:酢酸ブチルの重量比が15:1の溶剤に、濃度が28重量%になるように溶解した。次いで、熱可塑性樹脂の固形分量に対し、1重量%になるようにIRGANOX1010を添加し、接着剤組成物Bを得た。
【0149】
次いで、表3に示す離型剤の種類及び配合量に従って、接着剤組成物Bに離型剤を配合し、実施例12〜17の接着剤組成物を調製した。なお、表3に示す離型剤の配合量は、接着剤組成物Bにおける樹脂固形分の重量比で表されている。また、離型剤を含まない、接着剤組成物Bを比較例2として準備した。
【0150】
【表3】
【0151】
実施例12〜17に用いた離型剤の各物性値を含む詳細は、上の表2の記載されたものと同一である。
【0152】
[製造例3]
まず、タフテックH1051、Septon S2002、TOPAS TMおよびアクリル系共重合体A1を52:26:11:11の重量比で混合した熱可塑性樹脂を、デカヒドロナフタレン:酢酸ブチルの重量比が15:1の溶剤に、濃度が28重量%になるように溶解した。次いで、熱可塑性樹脂の固形分量に対し、1重量%になるようにIRGANOX1010を添加し、接着剤組成物Cを得た。
【0153】
次いで、表4に示す離型剤の種類及び配合量に従って、接着剤組成物Cに離型剤を配合し、実施例18〜23の接着剤組成物を調製した。なお、表4に示す離型剤の配合量は、接着剤組成物Cにおける樹脂固形分の重量比で表されている。また、離型剤を含まない、接着剤組成物Cを比較例3として準備した。
【0154】
【表4】
【0155】
実施例18〜23に用いた離型剤の各物性値を含む詳細も、上の表2の記載されたものと同一である。
【0156】
[製造例4]
デカヒドロナフタレン:酢酸ブチルの重量比が15:1の溶剤に、濃度が28重量%になるように熱可塑性樹脂であるSepton8004を溶解した。次いで、熱可塑性樹脂の固形分量に対し、1重量%になるようにIRGANOX1010を添加し、接着剤組成物Dを得た。
【0157】
次いで、表5に示す離型剤の種類及び配合量に従って、接着剤組成物Dに離型剤を配合し、実施例24〜29の接着剤組成物を調製した。なお、表5に示す離型剤の配合量は、接着剤組成物Dにおける樹脂固形分の重量比で表されている。また、離型剤を含まない、接着剤組成物Dを比較例4として準備した。
【0158】
【表5】
【0159】
実施例24〜29に用いた離型剤の各物性値を含む詳細も、上の表2の記載されたものと同一である。
【0160】
[製造例5]
デカヒドロナフタレン:酢酸ブチルの重量比が15:1の溶剤に、濃度が28重量%になるように熱可塑性樹脂であるAPL8008Tを溶解した。次いで、熱可塑性樹脂の固形分量に対し、1重量%になるようにIRGANOX1010を添加し、接着剤組成物Eを得た。
【0161】
次いで、表6に示す離型剤の種類及び配合量に従って、接着剤組成物Eに離型剤を配合し、実施例30〜35の接着剤組成物を調製した。なお、表6に示す離型剤の配合量は、接着剤組成物Eにおける樹脂固形分の重量比で表されている。また、離型剤を含まない、接着剤組成物Eを比較例5として準備した。
【0162】
【表6】
【0163】
実施例30〜35に用いた離型剤の各物性値を含む詳細も、上の表2の記載されたものと同一である。
【0164】
続いて、実施例1〜35および比較例1〜5の接着剤組成物を用いて、接着剤組成物の塗布から、支持体の剥離までの各工程において、接着剤組成物の塗布性、支持体の貼付性、密着性及び剥離性を評価した。
【0165】
(接着剤組成物の塗布性の評価)
実施例1〜35および比較例1〜5の接着剤組成物を基板上に塗布し、接着層を形成した後、各塗接着剤組成物について塗布性の評価を行なった。
【0166】
まず、半導体ウエハ基板(12インチ、シリコン)に実施例1の接着剤組成物をスピン塗布し、90℃、160℃、220℃の温度で各4分間ベークし、接着層を形成した(膜厚50μm)。その後、接着層を形成した半導体ウエハ基板を1,500rpmで回転させつつ、EBRノズルによって、TZNR(登録商標)HCシンナー(東京応化工業株式会社製)を10cc/minの供給量で5〜15分間、供給することによって、半導体ウエハ基板の外周部分に形成された接着層の外周部分を、半導体ウエハ基板の端部を基準にして内側に向かって1.3mmまで接着層を除去した。また、同様の手順に従って、実施例2〜35及び比較例1〜5の接着層を基板の上に形成した。
【0167】
その後、実施例1〜35及び比較例1〜5について、塗布性の評価を行なった。塗布性は、半導体ウエハ基板上に形成された接着層の塗布時の白煙の有無により評価した。塗布性は、目視によって評価し、半導体ウエハ基板に接着剤組成物を塗布し、90℃、160℃、220℃の温度で各4分間ベークした際に、半導体ウエハ基板に形成された接着層から白煙が出ないものを「○」とし、白煙が出るものを「×」とした。なお、離型剤の耐熱性が不足している場合、ベーク時に分解し白煙として観察される。
【0168】
(積層体の作製及び貼付性の評価)
続いて、実施例1〜35及び比較例1〜5の接着剤組成物により接着層を形成した半導体ウエハ基板を用いて、積層体を作製した。その後、各積層体について貼付性の評価を行なった。
【0169】
まず、実施例1の接着剤組成物を塗布した半導体ウエハ基板について、半導体ウエハ基板、接着層及び支持体がこの順になるように重ね合わせ、真空下(5Pa)、215℃の条件において、4,000kgfの貼付圧力により2分間押圧することで支持体と半導体ウエハ基板とを貼り付けた。なお、上記支持体には、12インチの大きさを備える、ガラス支持体を使用した。また、同様の手順に従って、実施例2〜35及び比較例1〜5の積層体を作製した。
【0170】
その後、実施例1〜35及び比較例1〜5の積層体について、貼付性を評価した。貼付性は、目視によって評価し、ボイド等の未接着部分がない積層体を「○」とし、未接着部分がある積層体を「×」とした。
【0171】
(バックグラインディング処理後の密着性の評価)
続いて、実施例1〜35及び比較例1〜5の積層体における半導体ウエハ基板の裏面をDISCO社製のバックグラインド装置によって半導体ウエハ基板の厚さが50μmになるまで薄化した(バックグラインディング処理:BG処理)。その後、各積層体について、BG処理後の支持体の密着性を評価した。密着性は、目視によって評価し、支持体の剥れが認められない積層体を「○」とし、剥れが認められる積層体を「×」とした。
【0172】
(CVD処理による耐熱性の評価)
続いて、BG処理を行なった実施例1〜35及び比較例1〜5の積層体に、220℃、10分間の条件において、N
2によるプラズマCVD処理を行なった。その後、各積層体について、耐熱性の評価を行なった。耐熱性は、目視によって評価し、積層体のエッジ部における接着層のはみ出し又は積層体の間におけるボイド等の未接着部分がないものを「○」とし、はみ出し又は未接着部分がある積層体を「×」とした。
【0173】
(剥離性の評価)
続いて、プラズマCVD処理を行なった実施例1〜35及び比較例1〜5の積層体に予備処理工程及び剥離工程を行ない、剥離性の評価を行なった。
【0174】
まず、実施例1の積層体の外周部分の端部から2mmの深さまで、ブレードを挿入し、その後、積層体におけるブレードを挿入した部位に剥離溶剤としてエタノールを10ml供給することにより予備処理工程を行なった。次に、支持体分離装置としてTWR12000シリーズ(東京応化工業株式会社製)を用いて、半導体ウエハ基板側を固定し、支持体側に力を加えることにより、剥離工程を行なった。剥離性は、半導体ウエハ基板からガラス支持体が剥離できた積層体を「○」とし、剥離できなかった積層体を「×」として評価した。また、同様の手順に従って、実施例2〜35及び比較例1〜5の積層体について剥離性の評価を行なった。
【0175】
(評価結果)
実施例1〜35及び比較例1〜5における、塗布性、貼付性、密着性、耐熱性及び剥離性の評価の結果は、以下の表7〜表11に示す通りである。
【0176】
【表7】
【0177】
【表8】
【0178】
【表9】
【0179】
【表10】
【0180】
【表11】
【0181】
表7〜表11に示すように、実施例1〜35の接着剤組成物を用いた場合、離型剤を含まない比較例1〜5の接着剤組成物と同等の塗布性、貼付性、密着性及び耐熱性を得られることが確認できた。また、予備処理工程を行なうことによって、半導体ウエハ基板からガラス支持体を好適に剥離できることが確認できた。
【0182】
また、実施例24〜35の接着剤組成物を用いた場合の結果から、熱可塑性樹脂として、エラストマー樹脂、シクロオレフィン樹脂、それぞれ単体を用いた接着組成物に離型剤を含有させることにより、予備処理工程を行なうことで、基板から支持体を好適に分離することができる積層体を形成することができることが確認できた。
【0183】
〔剥離強度の評価〕
実施例1及び2、並びに比較例1の接着剤組成物を用いた積層体について、剥離強度の評価を行なった。なお、剥離強度の評価は、剥離性の評価と同様の条件によって行なった。剥離強度の評価結果を表12に示す。
【0184】
【表12】
【0185】
表12に示すように、実施例1及び2の積層体では、半導体ウエハ基板から支持体を剥離するときの剥離強度は、1.5kgfよりも低い結果となった。これに対し、比較例1の積層体では、剥離強度は3.8kgf以上の値を示し、基板及び支持体を破損することなく、基板から支持体を剥離することは不可能であった。
【0186】
これらの評価結果から、本発明の一実施形態に係る接着剤組成物を用いれば、離型剤を配合することによって、光を吸収することによって変質する分離層を設けなくても、基板から支持体を好適に分離することができる積層体を形成することができることが確認できた。
【0187】
〔シリコン支持体を用いた積層体の評価〕
実施例1〜35及び比較例1〜5の接着剤組成物を用いて、12インチのシリコンキャリア(シリコン支持体)と半導体ウエハ基板とを積層した積層体を作製し、各接着剤組成物を用いた積層体における接着剤組成物の塗布性、貼付性、密着性、耐熱性及び剥離性の評価を行なった。なお、各積層体は、シリコンキャリアを用いた以外は、ガラス支持体を用いた積層体と同じ作製条件で作製した。また、各積層体における塗布性、貼付性、密着性、密着性及び耐熱性の評価条件も、ガラス支持体を用いた積層体の評価条件と同じである。
【0188】
実施例1〜35及び比較例1〜5の接着剤組成物を用いて、12インチのシリコンキャリア(シリコン支持体)と半導体ウエハ基板とを用いて作製した積層体の場合も、ガラス支持体を用いて作製した積層体の場合と同様に、塗布性、貼付性、密着性、及び耐熱性の評価は、すべて「○」であった。
【0189】
[光照射による剥離性の評価]
実施例1〜35及び比較例1〜5の接着組成物を用い、シリコンキャリアと半導体ウエハ基板とを積層した積層体を対象として、上述の予備処理工程の代わりに光照射工程を行ない、剥離性の評価を行った。
【0190】
具体的には、光照射工程として、各積層体の外周部から内側に向かって5mmの幅に、シリコンキャリア側からCO
2レーザーを照射した後、半導体ウエハ基板側を固定し、シリコンキャリアに0.5kgfの力を加えることにより、剥離工程を行なった。
【0191】
上記CO
2レーザーの照射条件は、以下のとおりである:
レーザーの平均出力:100%、20W
レーザーの走査速度:500mm/sec。
【0192】
剥離性の評価は、0.5kgfの力を加えることにより、半導体ウエハ基板からシリコンキャリアを剥離することができたものを「○」として評価し、剥離することができなかったものを「×」として評価した。
【0193】
剥離性の評価の結果、実施例1〜35の接着剤組成物を用いた積層体については、半導体ウエハ基板から支持体が容易に剥離できた(○)。しかしながら、離型剤を含んでいない接着剤組成物を用いて作製した、比較例1〜5の積層体では、光照射工程に行った後、半導体ウエハ基板側を固定し、シリコンキャリアに0.5kgfの力を加えても、半導体ウエハ基板からシリコンキャリアを剥離することはできなかった(×)。
【0194】
(基板側からの光の照射の評価)
実施例1〜35及び比較例1〜5の接着剤組成物を用い、半導体ウエハ基板と、12インチのガラス支持体とを積層した積層体を作製した。なお、各積層体は、塗布性評価の条件に基づき接着剤組成物を塗布し、貼付性評価の条件に基づき、半導体ウエハ基板とガラス支持体とを貼り付けた。また、この条件によって作製された各積層体について、BG処理及びプラズマCVD処理を行ない、その後、各積層体の外周部から内側に向かって5mmの幅に、半導体ウエハ基板側からCO
2レーザーを照射した後、半導体ウエハ基板側を固定し、ガラス支持体に0.5kgfの力を加えることにより、剥離工程を行なった。なお、光照射工程におけるCO
2レーザーの照射条件は、シリコンキャリア側から光を照射した実施例と同じ条件である。
【0195】
剥離性の評価の結果、実施例1〜35の接着剤組成物を用いた積層体については、シリコンキャリアを用いた積層体における剥離性の評価結果と同様に、半導体ウエハ基板からガラス支持体が容易に剥離できた(○)。また、比較例1〜5の積層体では、光照射工程を行なった後、半導体ウエハ基板側を固定し、ガラス支持体に0.5kgfの力を加えても、半導体ウエハ基板からガラス支持体を剥離することはできなかった(×)。
【0196】
この結果から、本発明に係る接着剤組成物を用いることにより、上述の予備処理工程の代わりに、光照射を行うことによっても、その接着強度を低下させることができ、基板から支持体を好適に剥離することができる積層体を形成することができることが確認できた。