特許第6446476号(P6446476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446476
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】スクリュー真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/16 20060101AFI20181217BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   F04C18/16 S
   F04C25/02 M
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-568175(P2016-568175)
(86)(22)【出願日】2015年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2015006242
(87)【国際公開番号】WO2016110902
(87)【国際公開日】20160714
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-417(P2015-417)
(32)【優先日】2015年1月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】田中 智成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏生
【審査官】 原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/113984(WO,A1)
【文献】 特開昭54−091267(JP,A)
【文献】 特開2006−266234(JP,A)
【文献】 特開2012−207660(JP,A)
【文献】 特開2006−214366(JP,A)
【文献】 特開2003−254268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじれ方向が逆方向で等ピッチの螺旋歯を夫々有する一対のスクリューロータを備え、これら一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わせた状態でケーシングに格納し、両スクリューロータの同期回転によりケーシングの一端より吸気して他端より吐出するスクリュー真空ポンプであって、
螺旋歯の軸直角断面形状が、その歯底部を構成する、スクリューロータの回転中心を中心とする第1円弧と、その歯先部を構成する、スクリューロータの回転中心を中心とする第2円弧と、第1円弧と第2円弧とを夫々結ぶ第1曲線と第2曲線とで創成されるものにおいて、
スクリューロータの軸直角断面にて互いに直交する径方向の二軸方向をX軸方向及びY軸方向とし、
第1曲線は、両螺旋歯の歯面間の隙間をゼロとした場合の対をなす他方のスクリューロータの第2円弧上の点で創成される、このスクリューロータの回転中心から径方向の任意の距離における螺旋歯のピッチ角が異なるエピトロコイド曲線を基に、このエピトロコイド曲線の径方向における座標(X=2Acosθ−rcos(2θ),Y=2Asinθ−rsin(2θ)、Aは両スクリューロータの回転中心間の距離の半分、rは第2円弧の半径、θは回転角)を、当該座標と次式(数1)で算出される補正角(α)とに基づいて補正し、補正後の各座標(X=Xcosα−Ysinα,Y=Xsinα+Ycosα)を結んで描くものとしたことを特徴とするスクリュー真空ポンプ。
【数1】
(但し、Pが、螺旋歯のピッチ、Rが、スクリューロータの回転軸の中心からの径方向距離、DGが、螺旋歯の歯面間の半分の距離。)
【請求項2】
前記第2曲線は、外サイクロイド曲線とインボリュート曲線とを組み合わせて形成されることを特徴とする請求項1記載のスクリュー真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじれ方向が逆方向で等ピッチの螺旋歯を夫々有する一対のスクリューロータを備え、これら一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わせた状態でケーシングに格納し、両スクリューロータの同期回転によりケーシングの一端より吸気して他端より吐出するスクリュー真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のスクリュー真空ポンプは例えば特許文献1で知られている。この従来例のものでは、螺旋歯の軸直角断面形状が、その歯底部を構成する、スクリューロータの回転中心を中心とする第1円弧と、その歯先部を構成する、スクリューロータの回転中心を中心とする第2円弧と、第1円弧と第2円弧とを夫々結ぶ第1曲線と第2曲線とで創成されている。そして、第1曲線が、対をなす他方のスクリューロータの第2円弧上の点で創成されるエピトロコイド曲線で創成され、第2曲線が所定の曲線で構成される仮想的なラックにより創成されている。
【0003】
この種のスクリュー真空ポンプは、ケーシングの吸気口から吸気した気体をスクリューロータとケーシングとの間に閉じ込めて圧縮しながら移送し、ケーシングの吐出口から吐出する。このとき、螺旋歯相互が確実に干渉しないように両螺旋歯の歯面間の隙間を大きくすると、この隙間を通って逆流する気体の逆流量が増加し、ポンプ能力の低下を招来してしまう。このため、スクリュー真空ポンプの使用環境に応じた熱膨張や加工精度等を考慮しつつ、一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わるときの両螺旋歯の歯面間の隙間をその径方向全長に亘って同等でかつ可及的に小さくなる(例えば、0.05mm)ように設計する必要がある。
【0004】
ここで、上記従来例のように、第1円弧と第2円弧とを結ぶ第1曲線がエピトロコイド曲線で創成されていると、両スクリューロータの螺旋歯相互の隙間が、回転中心側では広く、その外周側に向かうに従い狭くなることが判明した。これは、スクリューロータの回転中心から径方向の任意の距離(R)における螺旋歯のピッチ角(θp)が異なることに起因していると考えられる。そこで、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ね、スクリューロータの回転中心からの距離(R)におけるピッチ角(θp)に応じて補正角(α)を算出し、これを基にエピトロコイド曲線の座標を補正すれば、両螺旋歯の歯面間の隙間をその径方向全長に亘って同等にできることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−189485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わるときの両螺旋歯の歯面間の隙間が同等であるスクリュー真空ポンプを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ねじれ方向が逆方向で等ピッチの螺旋歯を夫々有する一対のスクリューロータを備え、これら一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わせた状態でケージングに格納し、両スクリューロータの同期回転によりケーシングの一端より吸気して他端より吐出する本発明のスクリュー真空ポンプは、螺旋歯の軸直角断面形状が、その歯底部を構成する、スクリューロータの回転中心を中心とする第1円弧と、その歯先部を構成する、スクリューロータの回転中心を中心とする第2円弧と、第1円弧と第2円弧とを夫々結ぶ第1曲線と第2曲線とで創成され、スクリューロータの軸直角断面にて互いに直交する径方向の二軸方向をX軸方向及びY軸方向とし、第1曲線は、両螺旋歯の歯面間の隙間をゼロとした場合の対をなす他方のスクリューロータの第2円弧上の点で創成される、このスクリューロータの回転中心から径方向の任意の距離における螺旋歯のピッチ角が異なるエピトロコイド曲線を基に、このエピトロコイド曲線の径方向における座標(X=2Acosθ−rcos(2θ),Y=2Asinθ−rsin(2θ)、Aは両スクリューロータの回転中心間の距離の半分、rは第2円弧の半径、θは回転角)を、当該座標と次式(1)で算出される補正角(α)とに基づいて補正し、補正後の各座標(X=Xcosα−Ysinα,Y=Xsinα+Ycosα)を結んで描くものとしたことを特徴とする。
【数1】
(但し、Pが、螺旋歯のピッチ、Rが、スクリューロータの回転軸の中心からの径方向距離、DGが、螺旋歯の歯面間の半分の距離。)
【0008】
本発明によれば、スクリューロータの回転中心からの距離(R)におけるピッチ角(θp)に応じて補正角(α)を算出し、エピトロコイド曲線の座標を補正するため、一対のスクリューロータを非接触で互いに噛み合わるときの両螺旋歯の歯面間の隙間をその径方向全体に亘って同等でかつ可及的に小さくできる。
【0009】
本発明においては、前記第2曲線は、外サイクロイド曲線とインボリュート曲線とを組み合わせて形成されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態のスクリュー真空ポンプの構成を説明する断面図。
図2】(a)は、螺旋歯の軸断面形状を示す図、(b)は、螺旋歯の軸直角断面形状を示す図、(c)は、両螺旋歯を非接触で噛み合わせた状態で示す軸直角断面図。
図3】(a)は、一方のスクリューロータを、当該スクリューロータの螺旋歯となる内径で切断した図、(b)は、一方のスクリューロータを、他方のスクリューロータの螺旋歯となる内径で切断した図。
図4】一対のスクリューロータの螺旋歯相互の隙間が変化する理由を説明するグラフ。
図5】第1曲線の座標の補正を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、SPは、本発明の実施形態のスクリュー真空ポンプである。スクリュー真空ポンプSPは、円筒状のケーシング1を備え、ケーシング1の一側(図1中、上側)には、真空引きしようとする設備(真空チャンバ等)からの接続管(図示せず)が接続自在な吸気口11が設けられている。ケーシング1の他側(図1中、下側)には、ケーシング1内の気体を外部に吐出する吐出口12が設けられている。そして、ケーシング1内の作動空間1aには、一対のスクリューロータ2,2が、回転軸21a,21bに一体に形成されたその螺旋歯22a,22bを非接触で互いに噛み合わせた状態で格納されている。以下においては、図1に示す姿勢を基準とし、一対のスクリューロータ2,2の回転軸21a,21bがのびる方向を上下方向、これに直交する方向を左右方向とし、方向を示す用語を用いるものとする。
【0012】
ケーシング1の上面開口及び下面開口は、その内部の作動空間1aを気密保持する吸気側カバー13aと吐出側カバー13bとで閉塞されている。吸気側カバー13aと吐出側カバー13bとには、軸受3a,3bが夫々組み付けられ、左右一対のスクリューロータ2,2の回転軸21a,21bの上端部及び下端部が夫々支承されるようにしている。また、回転軸21a,21bの下端部は、吐出側カバー13bの下方まで延出され、互いに噛合う同一形態のギア4a,4bが夫々外挿されている。更に、右スクリューロータ2の回転軸21aの下端にはカップリング5aが設けられ、駆動モータ6の駆動軸61に設けたカップリング5bに連結されて駆動モータ6の動力が回転軸21aに導入されるようにしている。これにより、両スクリューロータ2,2が同期して互いに逆方向に回転し、ケーシング1の吸気口11から吸気された気体がスクリューロータ2,2とケーシング1との間に閉じ込めながら移送され、螺旋歯22a,22bの終端部分で圧縮されて吐出口12から吐出される。
【0013】
スクリューロータ2,2の各螺旋歯22a,22bは、これら螺旋歯22a,22b相互間の距離(上下方向高さ)、即ち、ピッチP(またはリード)が同等でそのねじれ方向が逆方向になるように夫々形成されている。各螺旋歯22a,22bの歯形の軸断面形状及び軸直角断面形状は、図2(a)〜(c)に示すように、その歯底部(図2(b)中、Ta−Tb間)を構成する、回転軸21a,21bの回転中心tcを中心とする、第1円弧t1と、その歯先部(図2(b)中、Tc−Td間)を構成する、スクリューロータ2,2の回転中心を中心tcとする第2円弧t2と、第1円弧t1と第2円弧t2とを夫々結ぶ第1曲線t3(図2(b)中、Tb−Tc間)と第2曲線t4(図2(b)中、Td−Ta間)とで創成されている。第2曲線t4は、例えば外サイクロイド曲線とインボリュート曲線とを組み合わせて形成される。
【0014】
ここで、一方のスクリューロータ2の各螺旋歯22aを構成する第1曲線t3が、他方のスクリューロータ2の第2円弧t2上の点で創成されるエピトロコイド曲線で創成されていると、螺旋歯22a,22b相互の隙間が、図3(a)及び(b)に示すように、回転軸21a,21bの回転中心tc側では広く、その外周側に向かうに従い狭くなることが判明した。これは、回転中心tcから径方向の任意の距離(R)における螺旋歯22a,22bのピッチ角(θp)が異なること、即ち、図4に示すように、任意の距離(R)を半径とする円の円弧の長さ(周長)を例えばA,B,Cとし、これらとピッチ高さとを結んだときのなす角度θp1,θp2,θp3が異なることに起因していると考えられる。このため、角度毎に螺旋歯22a,22b相互の隙間が一定になるようにする補正が必要である。
【0015】
本実施形態では、第1曲線t3を、両螺旋歯22a,22bの歯面間の隙間をゼロとした場合の他方のスクリューロータ2の第2円弧t2上の点で創成されるエピトロコイド曲線の径方向における座標(X=2Acosθ−rcos(2θ),Y=2Asinθ−rsin(2θ)、Aは両スクリューロータ2,2の回転中心tc間の距離の半分、rは、第2円弧t2の半径、θは回転角)を、当該座標と次式(数1)で算出される補正角(α)とに基づいて補正し、補正後の各座標(X=Xcosα−Ysinα,Y=Xsinα+Ycosα)を結んで描くものとした。
【数1】
【0016】
即ち、図5を参照して、第1曲線t3を上記エピトロコイド曲線とした場合、図5中に点線で示すような曲線を描く(X=2Acosθ−rcos(2θ),Y=2Asinθ−rsin(2θ)。そして、このときのピッチ角(θp)は、スクリューロータ2,2の回転中心tcからの距離(R)を考慮すると、次式(数2)で表すことができる。
【数2】
【0017】
次に、両螺旋歯22a,22bの歯面間の隙間がゼロとなる位置からの移動させるべき距離をijとした場合、ijは次式(数3)で表すことができ、次式(数4)のように変形することができる。この場合、Pが、螺旋歯22a,22bのピッチ、Rが、回転軸21a,21bの中心からの径方向距離、DGが、螺旋歯22a,22bの歯面間の半分の距離とする。
【数3】
【数4】
【0018】
上記各式(数2)〜式(数4)から、補正角(α)が上記式(数1)のように表すことができ、これを図5中に示すと、一点鎖線で示す線となる。なお、図5は、スクリューロータ2,2の回転中心を(X,Y)=0,0としたときの座標系を示し、図2(b)に示すものを180°回転させた状態に対応するものである。
【0019】
以上のように補正角(α)を定め、両螺旋歯22a,22bの歯面間の隙間をゼロとした場合のエピトロコイド曲線の座標(X,Y)を補正角(α)に基づいて補正すると、第1曲線t3は、図5中、実線で示す座標(X=Xcosα−Ysinα,Y=Xsinα+Ycosα)を結ぶものとなる。以上の実施形態によれば、スクリューロータ2,2の回転中心tcからの距離(R)におけるピッチ角(θp)に応じて補正角(α)を算出し、エピトロコイド曲線の座標を補正したため、一対のスクリューロータ2,2を非接触で互いに噛み合わるときの両螺旋歯22a,22bの歯面間の隙間をその径方向全体に亘って同等でかつ可及的に小さくできる。
【0020】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、第2曲線t4を外サイクロイド曲線とインボリュート曲線とを組み合わせて形成されるものを例にしたが、これに限定されるものではなく、例えば、サインカーブ、サイクロイド曲線、クロソイド曲線であってもよい。また、スクリューロータ2,2の条数は1ではなくとも2条以上であってもよい。
【符号の説明】
【0021】
1…ケーシング、2,2…スクリューロータ、21a,21b…回転軸、22a,22b…螺旋歯、t1…第1円弧、t2…第2の円弧、t3…第1曲線、t4…第2曲線。
図1
図2
図3
図4
図5