(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、固有複屈折が正であるとは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなることを意味する。また、固有複屈折が負であるとは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0014】
また、以下の説明において、ある層の面内レターデーションとは、別に断らない限り、「(nx−ny)×d」で表される値である。また、ある層の複屈折は、別に断らない限り、「nx−ny」で表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記面内方向であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、550nmである。
【0015】
また、ある層の遅相軸とは、別に断らない限り、面内の遅相軸を表す。
【0016】
また、要素の方向が「平行」、「垂直」又は「直交」とは、特に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば、通常±5°、好ましくは±2°、より好ましくは±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0017】
また、以下の説明において、「偏光板」及び「波長板」は、剛直な部材に限られるものではなく、フィルム状の可撓性を有するものを包含しうる。
【0018】
[1.実施形態]
以下、図面を示して、本発明の一実施形態に係る複層フィルムの製造方法について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る複層フィルムの製造方法に用いる、原反フィルム10の製造装置100を模式的に示す概略図である。
図1に示すように、製造装置100は、延伸装置としてテンター延伸機110、貼合装置120、及び、巻取装置としての巻き軸130を、フィルム搬送方向の上流からこの順に備える。この製造装置100は、長尺の基材フィルム20をその長手方向に連続的に搬送しながら、各工程の処理を施しうるように設けられている。また、本実施形態では、基材フィルム20として、熱可塑性樹脂からなる延伸処理を施されていないフィルムを用いた例を示して説明する。
【0019】
前記の製造装置100を用いて原反フィルム10を製造する場合、延伸処理を施されていない基材フィルム20を、テンター延伸機110に供給する。テンター延伸機110では、供給された基材フィルム20を延伸する工程(VIII)を行う。この延伸により、基材フィルム20に含まれる重合体分子が配向する。そのため、基材フィルム20の面21に、配向規制力が付与される。基材フィルム20の面21は、この後の工程においてマスキングフィルム30を貼り合わせられる面であるので、以下、適宜「マスキングフィルム30側の面」と呼ぶことがある。
【0020】
工程(VIII)での延伸方向は、液晶樹脂層に含まれる硬化液晶分子を配向させたい方向に応じて設定しうる。ここで「液晶樹脂層」とは、液晶組成物の層を硬化させて得られる層である。また、「硬化液晶分子」とは、液晶性化合物を、液晶相を呈した状態のまま固体とした際の当該化合物の分子を意味する。硬化液晶分子の例としては、重合性液晶性化合物を重合させてなる重合体が挙げられる。通常、基材フィルム20に含まれる重合体分子を、液晶樹脂層における硬化液晶分子の配向方向と略同一方向に配向させられるように、工程(VIII)での延伸方向を設定する。
【0021】
工程(VIII)における延伸は、複数の方向に行ってもよいが、一方向に行うことが好ましい。通常、一方向に延伸された基材フィルム20に含まれる重合体分子は、延伸方向と平行に配向する。したがって、工程(VIII)において基材フィルム20を一方向に延伸することにより、延伸方向によって液晶樹脂層における硬化液晶分子の配向方向を制御できるので、液晶樹脂層における配向規則性を容易に制御することができる。
基材フィルム20の具体的な延伸方向は、基材フィルム20の幅方向、長手方向及び斜め方向のいずれでもよいが、本実施形態では、斜め方向に延伸した例を示して説明する。ここで斜め方向とは、基材フィルム20の幅方向及び長手方向に平行ではなく垂直でもない方向をいう。
【0022】
工程(VIII)における延伸倍率は、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21に所望の配向規制力を付与できる範囲で、適切に設定しうる。また、工程(VIII)における延伸温度は、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21に所望の配向規制力を付与できる範囲で、適切に設定しうる。具体的な範囲は、例えば、基材フィルム20に後述する所定の複屈折Δnを付与できる範囲に設定しうる。
【0023】
延伸されることで配向規制力を付与された基材フィルム20は、テンター延伸機110から貼合装置120へと搬送される。貼合装置120は互いに押圧し合うように設けられたニップロール121及び122を備えている。貼合装置120に搬送されてきた基材フィルム20は、前記のニップロール121及び122の間に送り込まれる。
【0024】
また、貼合装置120には、長尺のマスキングフィルム30が供給されている。供給されたマスキングフィルム30は、ニップロール121及び122の間に送り込まれ、基材フィルム20の片方の面21に貼り合わせられる。これにより、延伸された基材フィルム20、及び、この基材フィルム20に接して設けられたマスキングフィルム30を備える原反フィルム10が得られる。
【0025】
こうして得られた原反フィルム10は、巻き軸130に搬送され、巻き軸130によってロール状に巻き取られる。これにより、原反フィルム10のロール11が得られる。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態に係る複層フィルム40の製造方法に用いる、複層フィルム40の製造装置200を模式的に示す概略図である。
図2に示すように、製造装置200は、原反フィルム供給源としてのロール11、剥離装置210、配向規制力修復装置としての第一オーブン220、冷却部230、塗布装置としてのダイコーター240、乾燥装置としての第二オーブン250、硬化処理装置としてのエネルギー線照射装置260、及び、回収装置としての巻き軸270を、フィルム搬送方向の上流からのこの順に備える。この製造装置200は、長尺の原反フィルム10、基材フィルム20、中間フィルム50及び複層フィルム40を、それらの長手方向に連続的に搬送しながら、各工程の処理を施しうるように設けられている。
【0027】
前記の製造装置200を用いて複層フィルム40を製造する場合、ロール11から原反フィルム10を繰り出し、剥離装置210へと搬送する。
剥離装置210は、互いに対向して設けられた、マスキングフィルム30を剥離するための剥離ロール211と、基材フィルム20を案内するための案内ロール212を備えている。剥離装置210に搬送されてきた原反フィルム10は、前記の剥離ロール211及び案内ロール212の間に送り込まれる。そして、剥離ロール211によって、原反フィルム10のマスキングフィルム30を基材フィルム20から剥離する工程(I)が行われる。
【0028】
また、基材フィルム20からマスキングフィルム30が剥離される際、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21には、剥離されるマスキングフィルム30に引っ張られることにより、応力が加わる。この応力によって、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21では、重合体分子の配向軸が乱れる。そのため、マスキングフィルム30を剥離する工程(I)と同時に、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21の配向規制力が低下する工程(II)が行われる。
【0029】
前記のようにマスキングフィルム30を剥離された基材フィルム20は、その後、案内ロール212に案内されて、第一オーブン220へと搬送される。また、基材フィルム20から剥離されたマスキングフィルム30は、基材フィルム20とは別に搬送され、回収される。
【0030】
第一オーブン220では、基材フィルム20を所定の温度に加熱する工程を行う。この工程により、基材フィルム20の面21の配向規制力を修復する工程(III)が行われる。前記のように基材フィルム20からマスキングフィルム30を剥離したことにより、マスキングフィルム30に接していた基材フィルム20の面21の重合体分子の配向軸が乱れ、配向規制力は低下した。しかし、第一オーブン220で加熱されることにより、基材フィルム20の面21の近傍において分子が配向の変化を生じやすい環境が生まれる。このような環境では、基材フィルム20の内部にある分子、及び、基材フィルム20の表面近傍において配向軸が乱れていない分子によって、原反フィルムの元の配向状態に戻ろうとして、乱れた分子の配向軸が矯正される。そのため、基材フィルム20の面21の配向規制力が修復され、高い配向規制力が得られる。
【0031】
前記の工程(III)における加熱温度は、基材フィルム20に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとして、好ましくはTg−40℃以上、より好ましくはTg−39℃以上、特に好ましくはTg−37℃以上であり、好ましくはTg−20℃以下、より好ましくはTg−22℃以下、特に好ましくはTg−25℃以下である。加熱温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、基材フィルム20の面21の配向規制力を効果的に修復できる。また、上限値以下にすることにより、基材フィルム20の熱による意図しない変形を安定して抑制できる。
【0032】
工程(III)において、基材フィルム20の加熱時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上、特に好ましくは120秒以上であり、好ましくは600秒以下、より好ましくは360秒以下、特に好ましくは240秒以下である。加熱時間を前記範囲の下限値以上にすることにより、基材フィルム20の面21の配向規制力を十分に修復できる。また、上限値以下にすることにより、製造効率を高めることができる。
【0033】
工程(III)において加熱された基材フィルム20は、その後、冷却部230に搬送される。
冷却部230は、基材フィルム20が大気に晒された状態で搬送される基材フィルム20の搬送路部分である。この冷却部230を通る際、大気に熱を奪われることで、基材フィルム20を冷却する工程(VI)が行われる。
【0034】
前記の工程(VI)における基材フィルム20の冷却温度は、基材フィルム20の面21への液晶組成物241の安定な塗布を妨げない程度の温度に設定しうる。例えば液晶組成物241が揮発性の高い溶媒を含む場合、基材フィルム20が高温であると安定した塗布が困難となりえる。これに対し、基材フィルム20を冷却すれば、液晶組成物241の安定した塗布を容易にできる。冷却された基材フィルム20の具体的な温度範囲は、好ましくは18℃以上、より好ましくは20℃以上、特に好ましくは22℃以上であり、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、特に好ましくは28℃以下である。
【0035】
工程(VI)において冷却された基材フィルム20は、その後、搬送ロール231を経てダイコーター240へと搬送される。ダイコーター240は、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21に、液晶組成物241を塗布する。本実施形態では、エネルギー線の照射により重合しうる液晶性化合物及び溶媒を含む液晶組成物241を用いた例を示して説明する。これにより、基材フィルム20の面21に、液晶組成物の層51を形成する工程(IV)が行われて、基材フィルム20及び液晶組成物の層51を備える中間フィルム50が得られる。
【0036】
中間フィルム50の液晶組成物の層51においては、通常、液晶組成物の層51に含まれていた液晶性化合物が、基材フィルム20の面21の配向規制力に従って、配向する。本実施形態に示す例では、工程(VIII)において基材フィルム20をその斜め方向に延伸したので、液晶組成物の層51に含まれる液晶性化合物は、基材フィルム20の斜め方向と略同一方向に沿ってホモジニアスに配向する。
【0037】
工程(IV)において得られた中間フィルム50は、その後、第二オーブン250へと搬送される。第二オーブン250では、中間フィルム50を所定の温度に加熱する工程を行う。この工程により、中間フィルム50の液晶組成物の層51に含まれていた溶媒を乾燥させる工程(VII)が行われる。また、工程(VII)と同時に、前記の加熱によって液晶組成物の層51に含まれていた液晶性化合物の配向を促進する工程(IX)が行われる。
【0038】
第二オーブン250での加熱温度及び加熱時間は、通常、液晶組成物241に含まれる溶媒を乾燥させることができ、また、液晶組成物の層51に含まれる液晶性化合物の配向を促進させられる範囲に設定する。具体的な範囲は、例えば、加熱温度50℃以上160℃以下、加熱時間30秒間〜5分間処理としうる。このような条件で加熱を行うことにより、通常、乾燥及び配向を効率的に進めることができる。
【0039】
その後、中間フィルム50は、第二オーブン250からエネルギー線照射装置260へと搬送される。エネルギー線照射装置260は、中間フィルム50の液晶組成物の層51に、紫外線等のエネルギー線を照射する工程を行う。この際の照射条件は、例えば紫外線を照射する場合には、温度が通常15℃以上30℃以下であり、紫外線照射強度が通常0.1mW/cm
2〜1000mW/cm
2、好ましくは0.5mW/cm
2〜600mW/cm
2の範囲である。エネルギー線の照射によって、液晶組成物241中の液晶性化合物が重合する。そのため、この工程によって、液晶組成物の層51が硬化されて液晶樹脂層41を得る工程(V)が行われ、基材フィルム20と、この基材フィルム20の面21に設けられた液晶樹脂層41とを備える複層フィルム40が得られる。
【0040】
こうして得られた複層フィルム40は、その後、巻き軸270へと搬送される。巻き軸270は、複層フィルム40をロール状に巻き取る。これにより、複層フィルム40はロール42の状態で回収される。
【0041】
このようにして製造された複層フィルム40の液晶樹脂層41は、硬化液晶分子を含む。この硬化液晶分子は、基材フィルム20の面21が有する配向規制力に従って配向している。具体的には、硬化液晶分子は、通常、基材フィルム20に含まれる重合体分子の配向方向と略同一方向に沿ったホモジニアスな配向規則性を有する。
ここで、基材フィルム20に含まれる重合体分子の配向方向は、通常、当該基材フィルム20を構成する樹脂の固有複屈折が正である場合には基材フィルム20の面内の遅相軸方向と平行な方向となり、また、基材フィルム20を構成する樹脂の固有複屈折が負である場合には基材フィルム20の面内の遅相軸方向に垂直な方向となる。
【0042】
また、「ホモジニアスな配向規則性を有する」とは、硬化液晶分子のメソゲンの長軸方向をフィルム面に投影して得られる線の平均方向が、フィルム面に水平なある一の方向に整列することをいう。そして、このように硬化液晶分子のメソゲンの長軸方向をフィルム面に投影して得られる線の平均方向が整列した方向が、その硬化液晶分子の配向方向である。
さらに、ある所定の方向に「沿った」ホモジニアス配向規則性とは、前記硬化液晶分子の配向方向が、前記所定の方向に略一致することをいう。例えば、前記所定の方向とは、基材フィルムの遅相軸方向である。
硬化液晶分子がホモジニアス配向規則性を有しているか否か、及びその配向方向は、AxoScan(Axometrics社製)に代表されるような位相差計を用いた遅相軸方向の測定と、遅相軸方向における入射角毎のリタデーション分布の測定とにより確認しうる。
【0043】
また、本実施形態で示す例のように、硬化液晶分子が液晶性化合物を重合させてなるものである場合、通常は、当該液晶性化合物のメソゲンの長軸方向が、硬化液晶分子のメソゲンの長軸方向となる。
さらに、液晶性化合物として逆波長分散液晶性化合物を用いた場合のように、液晶樹脂層41中に、長軸方向の整列方向が異なる複数種類のメソゲンが存在する場合は、それらのうち最も長い種類のメソゲンの長軸方向が整列する方向が、それら複数種類のメソゲン全体の長軸方向の整列方向となる。
【0044】
また、基材フィルム20に含まれる重合体分子の配向方向と「略」同一方向に沿った配向とは、基材フィルム20に含まれる重合体分子の配向方向と、メソゲンの長軸方向の整列方向とがなす角が、通常0°〜5°、好ましくは0°〜3°、より好ましくは0°〜1°であることをいう。
【0045】
本実施形態に係る製造方法で製造された複層フィルム40の液晶樹脂層41は、良好な配向状態を有する。具体的には、下記の方法によって測定されるクロスニコル透過率を、低くできる。通常、配向状態は、ボトムとなる波長におけるクロスニコル透過率で評価できる。ここで、「ボトムとなる波長」とは、可視領域の波長のうち、クロスニコル透過率が最も小さくなる波長のことをいう。
【0046】
〔クロスニコル透過率の測定方法〕
液晶樹脂層をガラス板に貼り付けて、2枚の直線偏光子(偏光子及び検光子)の間に置く。この際、前記の直線偏光子は、厚み方向から見て、互いの偏光透過軸が垂直になるように、向きを設定する。また、液晶樹脂層の遅相軸方向は、厚み方向から見て、直線偏光子の偏光透過軸と平行又は垂直になるように設定する。これにより、直線偏光子、液晶樹脂層、ガラス板及び直線偏光子をこの順に備えるサンプルが得られる。このサンプルを透過する光の透過率を、クロスニコル透過率として測定する。
【0047】
また、本実施形態に係る製造方法で製造された複層フィルム40の液晶樹脂層41は、配向欠陥が少ない。ここで、図面を示して、前記の配向欠陥について説明する。
図3は、マスキングフィルムを貼り合わせられていた基材フィルムの前記マスキングフィルム側の面に、従来の製造方法で製造された液晶樹脂層を、偏光顕微鏡で撮影した写真である。この
図3に示すように、従来の製造方法で製造された液晶樹脂層には、線状の配向欠陥が形成されることが多かった。
図3において、斜めに延びる黒色の線が、この配向欠陥に相当する。これに対し、本実施形態で製造された液晶樹脂層41は、前記のような欠陥が少なく、通常は線状の欠陥を無くすことができる。
【0048】
さらに、本実施形態に係る製造方法で製造された複層フィルム40の液晶樹脂層41は、通常、異物の混入が少ない。仮に基材フィルム20のマスキングフィルム30とは反対側の面22に液晶樹脂層を形成すると、マスキングフィルム30によって保護されていなかった面22にはゴミ等の異物が付着しやすい。しかし、マスキングフィルム30で保護されていた基材フィルム20の面21は、このような異物の付着を防止できるので、この面21に形成された液晶樹脂層41で異物の混入を少なくできたものと考えられる。
【0049】
また、本実施形態に係る製造方法で製造された複層フィルム40の液晶樹脂層41は、通常、輝点が少ない。ここで輝点とは、偏光顕微鏡で液晶樹脂層41を観察したときに局所的に輝いて見える点であり、配向欠陥及び異物の他、突起及び窪みなどによって生じうる。基材フィルム20のマスキングフィルム30側とは反対側の面22には、基材フィルム20を巻き取ったロール11においてマスキングフィルム30と擦れたり重力による圧力が加えられたりして、窪み又は突起が基材フィルムに転写形成されることがある。仮に基材フィルム20のマスキングフィルム30とは反対側の面22に液晶樹脂層を形成すると、前記のような面22の窪み又は突起に起因して、液晶樹脂層に輝点が生じることがある。しかし、マスキングフィルム30で保護されていた基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21は、このような突起及び窪みを防止できるので、この面21に形成された液晶樹脂層41で輝点を少なくできたものと考えられる。
【0050】
液晶樹脂層41は、面内レターデーションを有しうる。液晶樹脂層41の面内レターデーションの範囲は、当該液晶樹脂層41の用途に応じて適切に設定してもよく、例えば、1/4波長にしてもよい。ここで、1/4波長の面内レターデーションとは、具体的には、測定波長の1/4の値から、通常±65nm、好ましくは±30nm、より好ましくは±10nmの範囲、または、測定波長の3/4の値から、通常±65nm、好ましくは±30nm、より好ましくは±10nmの範囲にある面内レターデーションをいう。
【0051】
また、液晶樹脂層41は、逆波長分散性を有することが好ましい。即ち、液晶樹脂層41は、短波長より長波長の透過光について高い面内レターデーションを示すことが好ましい。液晶樹脂層41は、少なくとも可視光の帯域の一部、好ましくは全部においてそのような逆波長分散性を有することが好ましい。液晶樹脂層41が逆波長分散性を有することにより、1/4波長板又は1/2波長板といった光学用途において、広い帯域において均一に機能を発現しうる。
【0052】
また、液晶樹脂層41は、透明性に優れることが好ましい。具体的には、液晶樹脂層41の全光線透過率は、好ましくは85%以上である。また、液晶樹脂層41のヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ここで、光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定しうる。また、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値を採用しうる。
【0053】
液晶樹脂層41の厚みは、面内レターデーションなどの特性を所望の範囲とできるよう適切に調整しうる。具体的な厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下である。
【0054】
液晶樹脂層41の形状並びに長さ及び幅は、特に限定されないが、基材フィルム20と同様の長尺のフィルム状の形状としうる。また、このようなフィルム状の液晶樹脂層41を、必要に応じて所望の用途に適合した矩形などの形状に裁断してもよい。
【0055】
[2.変更例]
上述した実施形態は、更に変更して実施しうる。
例えば、上述した実施形態のように基材フィルム20を延伸してからマスキングフィルム30と貼り合わせる代わりに、基材フィルム20をマスキングフィルム30と貼り合わせてから延伸してもよい。
また、延伸方法は、上述した実施形態のようなテンター延伸機110を用いた方法だけでなく、任意の延伸方法を用いうる。
【0056】
また、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21の配向規制力が低下する工程(II)は、マスキングフィルム30の剥離と同時でない工程で進行することがあり得る。例えば、原反フィルム10のロール11を長期間保存した場合、その保存環境に応じて基材フィルム20の面21の配向規制力の低下が生じうる。また、基材フィルム20からマスキングフィルム30を剥離した後、この基材フィルム20の面21に摩擦力が加えられた場合にも、基材フィルム20の面21の配向規制力の低下が生じうる。このような場合でも、工程(III)で適切に配向規制力の修復を行うことにより、配向状態が良好で、配向欠陥の少ない液晶樹脂層を得ることができる。
【0057】
また、基材フィルム20のマスキングフィルム30側の面21の配向規制力を修復する工程(III)は、上述した実施形態のような基材フィルム20の加熱以外の方法によって行ってもよい。基材フィルム20の面21の配向規制力を修復する方法としては、例えば、基材フィルム20の面21にラビング処理を施す方法、光配向処理を行う方法などが挙げられる。
さらに、工程(III)において基材フィルム20を加熱する場合、その加熱に用いる加熱装置はオーブンに限定されず、赤外線ヒーターなどの任意の加熱装置を用いうる。
【0058】
また、基材フィルム20を冷却する工程(VI)において、冷却は、上述した実施形態のような放冷によって行ってもよいが、冷風装置などの任意の冷却装置を用いて積極的に冷却処理を行ってもよい。
さらに、得られる液晶樹脂層41の配向を良好にできる限り、工程(VI)は省略してもよい。
【0059】
また、基材フィルム20の面21に液晶組成物の層51を形成する工程(IV)において、液晶組成物の層51の形成は、上述した実施形態のようなダイコーティング法以外の方法で行ってもよい。液晶組成物の層51の形成方法としては、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、キャップコーティング法、及びディッピング法などが挙げられる。
【0060】
また、液晶組成物の層51の溶媒を乾燥させる工程(VII)において、乾燥は、上述した実施形態のような加熱以外の方法で行ってもよい。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等が挙げられる。
さらに、得られる液晶樹脂層41の配向を良好にできる限り、工程(VII)は省略してもよい。
【0061】
また、液晶組成物の層51に含まれていた液晶性化合物の配向を促進する工程(IX)は、得られる液晶樹脂層41の配向を良好にできる限り、省略してもよい。
【0062】
また、液晶組成物の層51を硬化させて液晶樹脂層41を得る工程(V)において、液晶組成物の層51を硬化させる方法は、上述した実施形態のようなエネルギー線の照射以外の方法で行ってもよい。硬化方法としては、加熱によって液晶性化合物を重合させる熱重合法などが挙げられる。
【0063】
[3.基材フィルム]
基材フィルムとしては、通常、長尺の樹脂フィルムを用いる。ここで、「長尺」とは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有する形状をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムの形状をいう。
【0064】
基材フィルムの材質としては、延伸によってその表面に配向規制力を付与しうる樹脂を用いることができ、通常は熱可塑性樹脂を用いる。樹脂の例としては、各種の重合体を含む樹脂が挙げられる。当該重合体としては、脂環式構造含有重合体、セルロースエステル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、UV透過アクリル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ重合体及びポリスチレン等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性等の観点から、脂環式構造含有重合体及びセルロースエステルが好ましく、脂環式構造含有重合体がより好ましい。
【0065】
脂環式構造含有重合体は、構造単位中に脂環式構造を有する非晶性の重合体であり、主鎖中に脂環式構造を含有する重合体及び側鎖に脂環式構造を含有する重合体のいずれも用いうる。
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造等が挙げられるが、熱安定性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。
1つの脂環式構造の構造単位を構成する炭素数に特に制限はないが、通常4個以上、好ましくは5個以上、より好ましくは6個以上であり、通常30個以下、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下である。
【0066】
脂環式構造含有重合体において脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて選択しうるが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する構造単位を前記範囲にすることにより、基材フィルムの耐熱性を高めることができる。
【0067】
脂環式構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、透明性や成形性の観点から、ノルボルネン重合体及びこれらの水素添加物がより好ましい。
【0068】
ノルボルネン重合体としては、例えば、ノルボルネンモノマーの開環重合体、ノルボルネンモノマーと開環共重合可能な任意のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物;ノルボルネンモノマーの付加重合体、ノルボルネンモノマーと共重合可能な任意のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネンモノマーの開環重合体水素添加物が特に好ましい。
上記の脂環式構造含有重合体は、例えば特開2002−321302号公報等に開示されている公知の重合体から選ばれうる。
【0069】
脂環式構造含有重合体のガラス転移温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、好ましくは250℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲にある脂環式構造含有重合体は、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。
【0070】
脂環式構造含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常10,000以上、好ましくは25,000以上、より好ましくは25,000以上であり、通常100,000以下、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下である。脂環式構造含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてシクロヘキサン(樹脂が溶解しない場合にはトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)で、ポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の値として測定しうる。脂環式構造含有重合体の重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、基材フィルムの機械的強度及び成形加工性が高度にバランスされ、好適である。
【0071】
脂環式構造含有重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは4以下、特に好ましくは3.5以下である。
【0072】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、分子量2,000以下のオリゴマー成分の含有量が、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下である。オリゴマー成分の量が前記範囲内にあると、表面における微細な凸部の発生が減少し、厚みむらが小さくなり、面精度を向上させられる。
オリゴマー成分の量を低減する方法としては、重合触媒及び水素化触媒の選択;重合、水素化等の反応条件;樹脂を成形用材料としてペレット化する工程における温度条件;等を適切に調整することが挙げられる。また、オリゴマー成分の量は、前述のGPCによって測定しうる。
【0073】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、脂環式構造含有重合体のみからなってもよいが、任意の配合剤を含んでもよい。脂環式構造含有重合体を含む樹脂中の、脂環式構造含有重合体の割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
脂環式構造含有重合体を含む樹脂の好適な具体例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア1420」を挙げうる。
【0074】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースの低級脂肪酸エステルを用いうる。ここで低級脂肪酸は、1分子あたりの炭素原子数6以下の脂肪酸を意味する。その具体例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネート等が挙げられる。また、セルロースアセテートには、トリアセチルセルロース(TAC)及びセルロースジアセテート(DAC)が含まれる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0075】
セルロースアセテートの酢化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上であり、好ましくは70%以下、特に好ましくは65%以下である。また、セルロースアセテートの重量平均分子量は、好ましくは70000以上、より好ましくは80000以上であり、好ましくは120000以下、より好ましくは100000以下である。
【0076】
前記セルロースアセテートは、上記酢化度を満足する範囲において、酢酸だけでなく、一部がプロピオン酸、酪酸等の脂肪酸でエステル化されていてもよい。また、セルロースエステルとしてセルロースアセテートとセルロースアセテート以外のセルロースエステル(セルロースプロピオネート及びセルロースブチレート等)とを組み合わせて用いる場合、これらのセルロースエステルの全体が、上記酢化度を満足することが好ましい。
【0077】
基材フィルムとしてトリアセチルセルロースを含む樹脂のフィルムを用いる場合、かかるフィルムとしては、トリアセチルセルロースを低温溶解法あるいは高温溶解法によってジクロロメタンを実質的に含まない溶剤に溶解することで調製されたトリアセチルセルロースドープを用いて製造されたトリアセチルセルロースフィルムが、環境保全の観点から特に好ましい。トリアセチルセルロースのフィルムは、例えば、共流延法により作製しうる。共流延法は、トリアセチルセルロースの原料フレークを溶媒に溶解し、これに必要に応じて任意の添加剤を混合し溶液(ドープ)を調製し、当該ドープをドープ供給手段(ダイ)から支持体上に流延し、流延物をある程度乾燥して剛性が付与された時点でフィルムとして支持体から剥離し、当該フィルムをさらに乾燥して溶媒を除去することにより行いうる。原料フレークを溶解する溶媒の例としては、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、エステル類(蟻酸メチル、酢酸メチル等)、エーテル類(ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル等)等が挙げられる。ドープに混合する添加剤の例としては、可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等が挙げられる。ドープを流延する支持体の例としては、水平式のエンドレスの金属ベルト、及び回転するドラムが挙げられる。流延に際しては、単一のドープを単層流延してもよく、複数の層を共流延してもよい。複数の層を共流延する場合、例えば、低濃度のセルロースエステルドープの層と、そのおもて面及び裏面に接して設けられた高濃度のセルロースエステルドープの層が形成されるよう、複数のドープを順次流延しうる。フィルムを乾燥して溶媒を除去する方法の例としては、フィルムを搬送して、内部を乾燥に適した条件に設定した乾燥部を通過させる方法が挙げられる。
【0078】
トリアセチルセルロースのフィルムの好ましい例としては、富士写真フィルム社製「TAC−TD80U」、及び、発明協会公開技報公技番号2001−1745号にて公開されたものなどが挙げられる。
【0079】
延伸された後の基材フィルムには、通常、延伸によって遅相軸が発現している。基材フィルムが有する遅相軸の方向は、通常、液晶樹脂層に含まれる硬化液晶分子の配向方向、及び、基材フィルムに求められる光学特性に応じて適切に設定しうる。中でも、基材フィルムは、当該基材フィルムの幅方向とは異なる方向に遅相軸を有することが好ましい。ここで、遅相軸の方向が幅方向と「異なる」とは、遅相軸の方向と幅方向とがなす角が、通常5°以上であることをいう。遅相軸の方向と幅手方向とがなす角の上限は、特に限定されないが、例えば90°以下としうる。遅相軸の方向と幅方向とがなす角は、例えば、45°±3°、又は、22.5°±3°などの角度としうる。基材フィルムがこのような方向に遅相軸を有することによって、通常は、その表面に形成される液晶樹脂層に、基材フィルムの遅相軸の方向と略同一方向又はその垂直方向に沿ったホモジニアス配向規則性を付与することができる。
【0080】
延伸された後の基材フィルムには、通常、延伸によって所定の範囲の複屈折Δnが発現している。この複屈折Δnの範囲は、好ましくは0.000050以上、より好ましくは0.000070以上であり、好ましくは0.007500以下、より好ましくは0.007000以下である。複屈折Δnを前記範囲の下限値以上にすることにより、通常、基材フィルムの面に良好な配向規制力を付与できる。また、上限値以下にすることにより、基材フィルムを液晶樹脂層から剥離しなくても、複層フィルムを位相差フィルム板等の各種の用途に用いることができる。また、基材フィルムが複層の層を備える場合、マスキングフィルムと接する層の複屈折Δnが、前記範囲に収まることが好ましい。
【0081】
また、上述した製造方法で製造された複層フィルムを光学フィルムとして用いる場合、基材フィルムは、透明性に優れることが好ましい。具体的には、基材フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上である。また、基材フィルムのヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0082】
基材フィルムの厚みは、任意である。例えば、基材フィルムが脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む場合、生産性の向上、薄型化及び軽量化を容易にする観点から、延伸後の基材フィルムの厚みは、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは30μm以上であり、通常1000μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下である。また、基材フィルムがトリアセチルセルロースを含む樹脂を含む場合、基材フィルムの厚みは、通常30μm以上、好ましくは40μm以上、より好ましくは70μm以上であり、通常150μm以下、好ましくは130μm以下、より好ましくは120μm以下である。
【0083】
[4.液晶組成物]
液晶組成物は、少なくとも液晶性化合物を含み、通常は更に溶媒を含む。
液晶性化合物としては、通常、工程(V)において液晶組成物の層を硬化させたとき、液晶相を呈した状態のまま固体となりうるものを用いる。中でも、重合性液晶性化合物を用いることが好ましい。
【0084】
重合性液晶性化合物とは、液晶相を呈した状態で液晶組成物中で重合し、液晶相における分子の配向を維持したまま重合体となりうる液晶性化合物である。さらに、以下の説明において、液晶組成物の成分であって、重合性を有する化合物(重合性液晶性化合物及びその他の重合性を有する化合物等)を総称して、単に「重合性化合物」ということがある。
【0085】
重合性液晶性化合物としては、例えば、重合性基を有する液晶性化合物、側鎖型液晶ポリマーを形成しうる化合物、円盤状液晶性化合物などが挙げられる。重合性基を有する液晶性化合物の具体例としては、特開平11−513360号公報、特開2002−030042号公報、特開2004−204190号公報、特開2005−263789号公報、特開2007−119415号公報、特開2007−186430号公報などに記載された、重合性基を有する棒状液晶性化合物などが挙げられる。また、側鎖型液晶ポリマー化合物の具体例としては、特開2003−177242号公報などに記載の側鎖型液晶ポリマー化合物などが挙げられる。好ましい重合性液晶性化合物の例を製品名で挙げると、BASF社製「LC242」等が挙げられる。円盤状液晶性化合物の具体例としては、特開平8−50206号公報、文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている円盤状液晶性化合物が挙げられる。
【0086】
また、重合性液晶性化合物の一部又は全部として、逆波長分散重合性液晶性化合物を用いうる。逆波長分散重合性液晶性化合物とは、重合性液晶性化合物のうち、重合体とした場合に当該重合体が逆波長分散性を示すものをいう。逆波長分散重合性液晶性化合物を用いることにより、逆波長分散性を有する液晶樹脂層を容易に得ることができる。
【0087】
逆波長分散重合性液晶性化合物の例としては、その分子中に主鎖メソゲンと、主鎖メソゲンに結合した側鎖メソゲンとを有する化合物が挙げられる。このような逆波長分散重合性液晶性化合物が配向した状態において、側鎖メソゲンは、主鎖メソゲンと異なる方向に配向しうる。したがって、液晶樹脂層において、主鎖メソゲン及び側鎖メソゲンは異なる方向に配向しうる。そのような配向により、液晶樹脂層が逆波長分散性を呈しうる。
【0088】
逆波長分散重合性液晶性化合物の例としては、下記式(I)で示される化合物を挙げることができる。下記式(I)で示される化合物を、以下、適宜「化合物(I)」ということがある。
【0090】
逆波長分散重合性液晶性化合物が化合物(I)である場合、通常、基−Y
5−A
4−Y
3−A
2−Y
1−A
1−Y
2−A
3−Y
4−A
5−Y
6−が主鎖メソゲンとなり、基>A
1−C(Q
1)=N−N(A
x)A
yが側鎖メソゲンとなる。また、通常、基A
1は、主鎖メソゲン及び側鎖メソゲンの両方の性質に影響する。
【0091】
式(I)中、Y
1〜Y
8は、それぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR
1−C(=O)−、−C(=O)−NR
1−、−O−C(=O)−NR
1−、−NR
1−C(=O)−O−、−NR
1−C(=O)−NR
1−、−O−NR
1−、又は、−NR
1−O−を表す。
【0092】
R
1は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
R
1の炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基等が挙げられる。
R
1としては、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0093】
Y
1〜Y
8は、それぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、又は、−O−C(=O)−O−であるのが好ましい。
【0094】
式(I)中、G
1、G
2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、炭素数1〜20の二価の脂肪族基を表す。炭素数1〜20の二価の脂肪族基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基等の鎖状構造を有する二価の脂肪族基;炭素数3〜20のシクロアルカンジイル基、炭素数4〜20のシクロアルケンジイル基、炭素数10〜30の二価の脂環式縮合環基等の二価の脂肪族基;等が挙げられる。
【0095】
G
1、G
2の二価の脂肪族基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;等が挙げられる。なかでも、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0096】
また、前記脂肪族基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR
2−C(=O)−、−C(=O)−NR
2−、−NR
2−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい。ただし、−O−又は−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。ここで、R
2は、前記R
1と同様の、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
前記脂肪族基に介在する基としては、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−C(=O)−が好ましい。
【0097】
これらの基が介在する脂肪族基の具体例としては、−CH
2−CH
2−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−S−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−O−C(=O)−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−C(=O)−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−C(=O)−O−CH
2−、−CH
2−O−C(=O)−O−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−NR
2−C(=O)−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−C(=O)−NR
2−CH
2−、−CH
2−NR
2−CH
2−CH
2−、−CH
2−C(=O)−CH
2−等が挙げられる。
【0098】
これらの中でも、液晶樹脂層に逆波長分散性を良好に発現させる観点から、G
1、G
2は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基等の鎖状構造を有する二価の脂肪族基が好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基〔−(CH
2)
10−〕等の、炭素数1〜12のアルキレン基がより好ましく、テトラメチレン基〔−(CH
2)
4−〕、ヘキサメチレン基〔−(CH
2)
6−〕、オクタメチレン基〔−(CH
2)
8−〕、及び、デカメチレン基〔−(CH
2)
10−〕が特に好ましい。
【0099】
式(I)中、Z
1、Z
2は、それぞれ独立して、無置換又はハロゲン原子で置換された炭素数2〜10のアルケニル基を表す。
該アルケニル基の炭素数としては、2〜6が好ましい。Z
1及びZ
2のアルケニル基の置換基であるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0100】
Z
1及びZ
2の炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、CH
2=CH−、CH
2=C(CH
3)−、CH
2=CH−CH
2−、CH
3−CH=CH−、CH
2=CH−CH
2−CH
2−、CH
2=C(CH
3)−CH
2−CH
2−、(CH
3)
2C=CH−CH
2−、(CH
3)
2C=CH−CH
2−CH
2−、CH
2=C(Cl)−、CH
2=C(CH
3)−CH
2−、CH
3−CH=CH−CH
2−等が挙げられる。
【0101】
なかでも、液晶樹脂層に逆波長分散性を良好に発現させる観点から、Z
1及びZ
2としては、それぞれ独立して、CH
2=CH−、CH
2=C(CH
3)−、CH
2=C(Cl)−、CH
2=CH−CH
2−、CH
2=C(CH
3)−CH
2−、又は、CH
2=C(CH
3)−CH
2−CH
2−が好ましく、CH
2=CH−、CH
2=C(CH
3)−、又は、CH
2=C(Cl)−がより好ましく、CH
2=CH−が特に好ましい。
【0102】
式(I)中、A
xは、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基を表す。ここで、「芳香環」は、Huckel則に従う広義の芳香族性を有する環状構造、及び硫黄、酸素、窒素等のヘテロ原子の孤立電子対がπ電子系に関与して芳香族性を示す化合物を意味する。ここで、Huckel則に従う広義の芳香族性を有する環状構造とは、π電子を(4n+2)個有する環状共役構造を意味する。また、ヘテロ原子の孤立電子対がπ電子系に関与して芳香族性を示す環状構造を有する化合物の例としては、チオフェン、フラン、ベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0103】
A
xの、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基は、芳香環を複数個有するものであってもよく、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を有するものであってもよい。
【0104】
前記芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。前記芳香族複素環としては、例えば、ピロール環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環等の単環の芳香族複素環;ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環、フタラジン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾピラゾール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、チアゾロピリジン環、オキサゾロピリジン環、チアゾロピラジン環、オキサゾロピラジン環、チアゾロピリダジン環、オキサゾロピリダジン環、チアゾロピリミジン環、オキサゾロピリミジン環等の縮合環の芳香族複素環;等が挙げられる。
【0105】
A
xが有する芳香環は、置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;トリフルオロメチル基等の炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;−C(=O)−R
5;−C(=O)−OR
5;−SO
2R
6;等が挙げられる。ここで、R
5は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又は、炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、R
6は後述するR
4と同様の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、フェニル基、又は、4−メチルフェニル基を表す。
【0106】
また、A
xが有する芳香環は、同一又は相異なる置換基を複数有していてもよく、隣り合った二つの置換基が一緒になって結合して環を形成していてもよい。形成される環は、単環であってもよく、縮合多環であってもよく、不飽和環であってもよく、飽和環であってもよい。
なお、A
xの炭素数2〜30の有機基の「炭素数」は、置換基の炭素原子を含まない有機基全体の総炭素数を意味する(後述するA
yにて同じである。)。
【0107】
A
xの、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基としては、芳香族炭化水素環基;芳香族複素環基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数3〜30のアルキル基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数4〜30のアルケニル基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数4〜30のアルキニル基;等が挙げられる。
【0108】
A
xの好ましい具体例を以下に示す。但し、A
xは以下に示すものに限定されるものではない。下記式中、「−」は環の任意の位置からのびる結合手を表す(以下にて同じである。)。
(1)芳香族炭化水素環基
【0114】
上記式中、Eは、NR
6a、酸素原子又は硫黄原子を表す。ここで、R
6aは、水素原子;又は、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0116】
上記式中、X、Y、Zは、それぞれ独立して、NR
7、酸素原子、硫黄原子、−SO−、又は、−SO
2−を表す(ただし、酸素原子、硫黄原子、−SO−、−SO
2−が、それぞれ隣接する場合を除く。)。R
7は、前記R
6aと同様の、水素原子;又は、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0118】
(上記式中、Xは前記と同じ意味を表す。)
(3)芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、アルキル基
【0120】
(4)芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、アルケニル基
【0122】
(5)芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、アルキニル基
【0124】
上記したA
xの中でも、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基、又は炭素数4〜30の芳香族複素環基であることが好ましく、下記に示すいずれかの基であることがより好ましく、
【0127】
下記に示すいずれかの基であることが更に好ましい。
【0129】
A
xが有する環は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;トリフルオロメチル基等の炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;−C(=O)−R
8;−C(=O)−OR
8;−SO
2R
6;等が挙げられる。ここでR
8は、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;又は、フェニル基等の炭素数6〜14のアリール基;を表す。なかでも、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、及び炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。
【0130】
また、A
xが有する環は、同一又は相異なる置換基を複数有していてもよく、隣り合った二つの置換基が一緒になって結合して環を形成していてもよい。形成される環は単環であっても、縮合多環であってもよい。
なお、A
xの炭素数2〜30の有機基の「炭素数」は、置換基の炭素原子を含まない有機基全体の総炭素数を意味する(後述するA
yにて同じである。)。
【0131】
A
yは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基、−C(=O)−R
3、−SO
2−R
4、−C(=S)NH−R
9又は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基を表す。ここで、R
3は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は、炭素数5〜12の芳香族炭化水素基を表す。また、R
4は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、フェニル基、又は、4−メチルフェニル基を表す。さらに、R
9は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数5〜20の芳香族基を表す。
【0132】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基の炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、1−メチルペンチル基、1−エチルペンチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基等が挙げられる。置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基の炭素数は、好ましくは4以上であり、また、好ましくは12以下、より好ましくは10以下である。
【0133】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基の炭素数2〜20のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基の炭素数は、2〜12であることが好ましい。
【0134】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基の炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0135】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基の炭素数2〜20のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、2−プロピニル基(プロパルギル基)、ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチニル基、2−ペンチニル基、ヘキシニル基、5−ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、2−オクチニル基、ノナニル基、デカニル基、7−デカニル基等が挙げられる。
【0136】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、及び置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の、炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された炭素数1〜12のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基;シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜8のシクロアルキルオキシ基;テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、ジオキソラニル基、ジオキサニル基等の炭素数2〜12の環状エーテル基;フェノキシ基、ナフトキシ基等の炭素数6〜14のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、−CH
2CF
3等の、少なくとも1個がフッ素原子で置換された炭素数1〜12のフルオロアルコキシ基;ベンゾフリル基;ベンゾピラニル基;ベンゾジオキソリル基;ベンゾジオキサニル基;−C(=O)−R
7a;−C(=O)−OR
7a;−SO
2R
8a;−SR
10;−SR
10で置換された炭素数1〜12のアルコキシ基;水酸基;等が挙げられる。ここで、R
7a及びR
10はそれぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を表す。また、R
8aは、前記R
4と同様の、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、フェニル基、又は、4−メチルフェニル基を表す。
【0137】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基;−C(=O)−R
7a;−C(=O)−OR
7a;−SO
2R
8a;水酸基;等が挙げられる。ここでR
7a、R
8aは前記と同じ意味を表す。
【0138】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基の置換基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、及び置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基の置換基と同様な置換基が挙げられる。
【0139】
A
yの、−C(=O)−R
3で表される基において、R
3は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は、炭素数5〜12の芳香族炭化水素基を表す。これらの具体例は、前記A
yの、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基の例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0140】
A
yの、−SO
2−R
4で表される基において、R
4は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、フェニル基、又は、4−メチルフェニル基を表す。
R
4の、炭素数1〜20のアルキル基、及び炭素数2〜20のアルケニル基の具体例は、前記A
yの、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基の例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0141】
A
yの、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基としては、前記A
xで例示したのと同様のものが挙げられる。
【0142】
これらの中でも、A
yとしては、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基、−C(=O)−R
3、−SO
2−R
4、又は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基で表される基が好ましく、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有してもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜9の芳香族複素環基、−C(=O)−R
3、−SO
2−R
4で表される基が更に好ましい。ここで、R
3、R
4は前記と同じ意味を表す。
【0143】
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基の置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された炭素数1〜12のアルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、炭素数2〜12の環状エーテル基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、水酸基、ベンゾジオキサニル基、フェニルスルホニル基、4−メチルフェニルスルホニル基、ベンゾイル基、−SR
10が好ましい。ここで、R
10は前記と同じ意味を表す。
A
yの、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜9の芳香族複素環基の置換基としては、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、シアノ基が好ましい。
【0144】
また、A
xとA
yは一緒になって、環を形成していてもよい。かかる環としては、置換基を有していてもよい、炭素数4〜30の不飽和複素環、炭素数6〜30の不飽和炭素環が挙げられる。
【0145】
前記炭素数4〜30の不飽和複素環、炭素数6〜30の不飽和炭素環としては、特に制約はなく、芳香族性を有していても有していなくてもよい。例えば、下記に示す環が挙げられる。なお、下記に示す環は、式(I)中の
【0147】
として表される部分を示すものである。
【0151】
(式中、X、Y、Zは、前記と同じ意味を表す。)
また、これらの環は置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、例えば、A
xが有する芳香環の置換基として例示したのと同様のものが挙げられる。
【0152】
A
xとA
yに含まれるπ電子の総数は、本発明の所望の効果をより良好に発現させる観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上であり、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、特に好ましくは18以下である。
【0153】
A
xとA
yの好ましい組み合わせとしては、
(α)A
xが炭素数4〜30の、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であり、A
yが水素原子、炭素数3〜8のシクロアルキル基、(ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基)を置換基として有していてもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、(ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、若しくはシアノ基)を置換基として有していてもよい炭素数3〜9の芳香族複素環基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、当該置換基が、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された炭素数1〜12のアルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、炭素数2〜12の環状エーテル基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、水酸基、ベンゾジオキサニル基、ベンゼンスルホニル基、ベンゾイル基、−SR
10のいずれかである組み合わせ、及び、
(β)A
xとA
yが一緒になって不飽和複素環又は不飽和炭素環を形成しているもの、
が挙げられる。ここで、R
10は前記と同じ意味を表す。
【0154】
A
xとA
yのより好ましい組み合わせとしては、
(γ)A
xが下記構造を有する基のいずれかであり、A
yが水素原子、炭素数3〜8のシクロアルキル基、(ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基)を置換基として有していてもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、(ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、若しくはシアノ基)を置換基として有していてもよい炭素数3〜9の芳香族複素環基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、当該置換基が、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された炭素数1〜12のアルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、炭素数2〜12の環状エーテル基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、水酸基、ベンゾジオキサニル基、ベンゼンスルホニル基、ベンゾイル基、−SR
10のいずれかである組み合わせである。ここで、R
10は前記と同じ意味を表す。
【0157】
(式中、X、Yは、前記と同じ意味を表す。)
A
xとA
yの特に好ましい組み合わせとしては、
(δ)A
xが下記構造を有する基のいずれかであり、A
yが水素原子、炭素数3〜8のシクロアルキル基、(ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、若しくは炭素数3〜8のシクロアルキル基)を置換基として有していてもよい炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、(ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、若しくはシアノ基)を置換基として有していてもよい炭素数3〜9の芳香族複素環基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、当該置換基が、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された炭素数1〜12のアルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、炭素数2〜12の環状エーテル基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、水酸基、ベンゾジオキサニル基、ベンゼンスルホニル基、ベンゾイル基、−SR
10のいずれかである組合せである。下記式中、Xは前記と同じ意味を表す。ここで、R
10は前記と同じ意味を表す。
【0159】
式(I)中、A
1は、置換基を有していてもよい三価の芳香族基を表す。三価の芳香族基としては、三価の炭素環式芳香族基であっても、三価の複素環式芳香族基であってもよい。液晶樹脂層の逆波長分散性をより良好に発現させる観点から、三価の炭素環式芳香族基が好ましく、三価のベンゼン環基又は三価のナフタレン環基がより好ましく、下記式に示す三価のベンゼン環基又は三価のナフタレン環基がさらに好ましい。
なお、下記式においては、結合状態をより明確にすべく、置換基Y
1、Y
2を便宜上記載している(Y
1、Y
2は、前記と同じ意味を表す。以下にて同じ。)。
【0161】
これらの中でも、A
1としては、下記に示す式(A11)〜(A25)で表される基がより好ましく、式(A11)、(A13)、(A15)、(A19)、(A23)で表される基がさらに好ましく、式(A11)、(A23)で表される基が特に好ましい。
【0163】
A
1の、三価の芳香族基が有していてもよい置換基としては、例えば、前記A
xが有する芳香環の置換基として例示したのと同様のものが挙げられる。A
1としては、置換基を有さないものが好ましい。
【0164】
式(I)中、A
2、A
3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数3〜30の二価の脂環式炭化水素基を表す。
炭素数3〜30の二価の脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜30のシクロアルカンジイル基、炭素数10〜30の二価の脂環式縮合環基等が挙げられる。
【0165】
炭素数3〜30のシクロアルカンジイル基としては、例えば、シクロプロパンジイル基;シクロブタン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,3−ジイル基等のシクロブタンジイル基;シクロペンタン−1,2−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基等のシクロペンタンジイル基;シクロヘキサン−1,2−ジイル基、シクロヘキサン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基等のシクロへキサンジイル基;シクロヘプタン−1,2−ジイル基、シクロヘプタン−1,3−ジイル基、シクロヘプタン−1,4−ジイル基等のシクロへプタンジイル基;シクロオクタン−1,2−ジイル基、シクロオクタン−1,3−ジイル基、シクロオクタン−1,4−ジイル基、シクロオクタン−1,5−ジイル基等のシクロオクタンジイル基;シクロデカン−1,2−ジイル基、シクロデカン−1,3−ジイル基、シクロデカン−1,4−ジイル基、シクロデカン−1,5−ジイル基等のシクロデカンジイル基;シクロドデカン−1,2−ジイル基、シクロドデカン−1,3−ジイル基、シクロドデカン−1,4−ジイル基、シクロドデカン−1,5−ジイル基等のシクロドデカンジイル基;シクロテトラデカン−1,2−ジイル基、シクロテトラデカン−1,3−ジイル基、シクロテトラデカン−1,4−ジイル基、シクロテトラデカン−1,5−ジイル基、シクロテトラデカン−1,7−ジイル基等のシクロテトラデカンジイル基;シクロエイコサン−1,2−ジイル基、シクロエイコサン−1,10−ジイル基等のシクロエイコサンジイル基;等が挙げられる。
【0166】
炭素数10〜30の二価の脂環式縮合環基としては、例えば、デカリン−2,5−ジイル基、デカリン−2,7-ジイル基等のデカリンジイル基;アダマンタン−1,2−ジイル基、アダマンタン−1,3−ジイル基等のアダマンタンジイル基;ビシクロ[2.2.1]へプタン−2,3−ジイル基、ビシクロ[2.2.1]へプタン−2,5-ジイル基、ビシクロ[2.2.1]へプタン−2,6−ジイル基等のビシクロ[2.2.1]へプタンジイル基;等が挙げられる。
【0167】
これらの二価の脂環式炭化水素基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、前記A
xが有する芳香環の置換基として例示したのと同様のものが挙げられる。
【0168】
これらの中でも、A
2、A
3としては、炭素数3〜12の二価の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3〜12のシクロアルカンジイル基がより好ましく、下記式(A31)〜(A34)
【0170】
で表される基がさらに好ましく、前記式(A32)で表される基が特に好ましい。
前記炭素数3〜30の二価の脂環式炭化水素基は、Y
1、Y
3(又はY
2、Y
4)と結合する炭素原子の立体配置の相違に基づく、シス型、トランス型の立体異性体が存在し得る。例えば、シクロヘキサン−1,4−ジイル基の場合には、下記に示すように、シス型の異性体(A32a)とトランス型の異性体(A32b)が存在し得る。
【0172】
本発明においては、シス型であってもトランス型であっても、あるいはシス型とトランス型の異性体混合物であってもよいが、配向性が良好であることから、トランス型あるいはシス型であるのが好ましく、トランス型がより好ましい。
【0173】
式(I)中、A
4、A
5は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、炭素数6〜30の二価の芳香族基を表す。
A
4、A
5の芳香族基は単環のものであっても、多環のものであってもよい。
A
4、A
5の好ましい具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0175】
上記A
4、A
5の二価の芳香族基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、−C(=O)−OR
8b基;等が挙げられる。ここでR
8bは、炭素数1〜6のアルキル基である。なかでも、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基が好ましい。また、ハロゲン原子としてはフッ素原子が、炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0176】
これらの中でも、液晶樹脂層の逆波長分散性をより良好に発現させる観点から、A
4、A
5は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、下記式(A41)、(A42)及び(A43)で表される基がより好ましく、置換基を有していてもよい式(A41)で表される基が特に好ましい。
【0178】
式(I)中、Q
1は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示す。置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、前記A
xで例示したのと同様のものが挙げられる。
これらの中でも、Q
1は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、水素原子及びメチル基がより好ましい。
【0179】
化合物(I)は、例えば、下記に示す反応により製造することができる。
【0181】
(式中、Y
1〜Y
8、G
1、G
2、Z
1、Z
2、A
x、A
y、A
1〜A
5及びQ
1は、前記と同じ意味を表す。)
すなわち、式(3)で表されるヒドラジン化合物(ヒドラジン化合物(3))を、式(4)で表されるカルボニル化合物(カルボニル化合物(4))と、〔ヒドラジン化合物(3):カルボニル化合物(4)〕のモル比で、1:2〜2:1、好ましくは1:1.5〜1.5:1の割合で反応させることにより、高選択的かつ高収率で目的とする化合物(I)を製造することができる。
【0182】
この場合、(±)−10−カンファースルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;塩酸、硫酸等の無機酸;等の酸触媒を用いて反応を行うことができる。反応系が酸触媒を含むことで反応時間が短縮され、収率が向上する場合がある。酸触媒の量は、カルボニル化合物(4)1モルに対して、通常0.001モル〜1モルである。また、酸触媒はそのまま用いてもよいし、適当な溶液に溶解させた溶液として用いてもよい。
【0183】
この反応に用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されない。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種類以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
これらの中でも、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、及びアルコール系溶媒とエーテル系溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0184】
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めることができるが、ヒドラジン化合物(3)1gに対し、通常1g〜100gである。
【0185】
反応は、−10℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。各反応の反応時間は、反応規模にもよるが、通常、数分から数時間である。
【0186】
ヒドラジン化合物(3)は、次のようにして製造することができる。
【0188】
(式中、A
x、A
yは前記と同じ意味を表す。X
aは、ハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等の脱離基を表す。)
【0189】
すなわち、式(2a)で表される化合物とヒドラジン(1)を、適当な溶媒中、(化合物(2a):ヒドラジン(1))のモル比で、1:1〜1:20、好ましくは1:2〜1:10で反応させて、対応するヒドラジン化合物(3a)を得ることができる。さらに、ヒドラジン化合物(3a)と式(2b)で表される化合物を反応させることで、ヒドラジン化合物(3)を得ることができる。
【0190】
ヒドラジン(1)としては、通常1水和物のものを用いる。ヒドラジン(1)は、市販品をそのまま使用することができる。
この反応に用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されない。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
これらの中でも、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、及びアルコール系溶媒とエーテル系溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0191】
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めることができるが、ヒドラジン1gに対し、通常1g〜100gである。
反応は、−10℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。各反応の反応時間は、反応規模にもよるが、通常、数分から数時間である。
【0192】
また、ヒドラジン化合物(3)は、次のように、従来公知の方法を用いて、ジアゾニウム塩(5)を還元することによって製造することもできる。
【0194】
式(5)中、A
x、A
yは、前記と同じ意味を表す。X
b−は、ジアゾニウムに対する対イオンである陰イオンを示す。X
b−としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン、ホウフッ化水素酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン等の無機陰イオン;ポリフルオロアルキルカルボン酸イオン、ポリフルオロアルキルスルホン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、芳香族カルボン酸イオン、芳香族スルホン酸イオン等の有機陰イオン;等が挙げられる。
【0195】
上記反応に用いる還元剤としては、金属塩還元剤が挙げられる。
金属塩還元剤とは、一般に低原子価金属を含む化合物、もしくは金属イオンとヒドリド源からなる化合物である(「有機合成実験法ハンドブック」1990年社団法人有機合成化学協会編 丸善株式会社発行810ページを参照)。
金属塩還元剤としては、例えば、NaAlH
4、NaAlH
p(Or)
q(p、qはそれぞれ独立して1〜3の整数を表し、p+q=4である。rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)、LiAlH
4、iBu
2AlH、LiBH
4、NaBH
4、SnCl
2、CrCl
2、TiCl
3等が挙げられる。
【0196】
還元反応においては公知の反応条件を採用することができる。例えば、特開2005−336103号公報、新実験化学講座 1978年 丸善株式会社発行 14巻、実験化学講座 1992年 丸善株式会社発行 20巻、等の文献に記載の条件で反応を行うことができる。
また、ジアゾニウム塩(5)は、アニリン等の化合物から常法により製造することができる。
【0197】
カルボニル化合物(4)は、典型的には、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−、−O−C(=O)−)、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)及びアミド結合(−C(=O)−NH−、−NH−C(=O)−)の形成反応を任意に組み合わせて、所望の構造を有する複数の公知化合物を適宜結合又は修飾することにより製造することができる。
【0198】
エーテル結合の形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
(i)式:D1−hal(halはハロゲン原子を表す。以下にて同じ。)で表される化合物と、式:D2−OMet(Metはアルカリ金属(主にナトリウム)を表す。以下にて同じ。)で表される化合物とを混合して縮合させる(ウイリアムソン合成)。なお、式中、D1及びD2は任意の有機基を表す(以下にて同じ。)。
(ii)式:D1−halで表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して縮合させる。
(iii)式:D1−J(Jはエポキシ基を表す。)で表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して縮合させる。
(iv)式:D1−OFN(OFNは不飽和結合を有する基を表す。)で表される化合物と、式:D2−OMetで表される化合物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して付加反応させる。
(v)式:D1−halで表される化合物と、式:D2−OMetで表される化合物とを、銅あるいは塩化第一銅存在下、混合して縮合させる(ウルマン縮合)。
【0199】
エステル結合及びアミド結合の形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
(vi)式:D1−COOHで表される化合物と、式:D2−OH又はD2−NH
2で表される化合物とを、脱水縮合剤(N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等)の存在下に脱水縮合させる。
(vii)式:D1−COOHで表される化合物にハロゲン化剤を作用させることにより、式:D1−CO−halで表される化合物を得、このものと式:D2−OH又はD2−NH
2で表される化合物とを、塩基の存在下に反応させる。
(viii)式:D1−COOHで表される化合物に酸無水物を作用させることにより、混合酸無水物を得た後、このものに、式:D2−OH又はD2−NH
2で表される化合物を反応させる。
(ix)式:D1−COOHで表される化合物と、式:D2−OH又はD2−NH
2で表される化合物とを、酸触媒あるいは塩基触媒の存在下に脱水縮合させる。
【0200】
カルボニル化合物(4)は、より具体的には、下記反応式に示す方法により製造することができる。
【0202】
(式中、Y
1〜Y
8、G
1、G
2、Z
1、Z
2、A
1〜A
5、及びQ
1は、前記と同じ意味を表す。L
1、L
2は、水酸基、ハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等の脱離基を表す。−Y
1aは、−L
1と反応して、−Y
1−となる基を表し、−Y
2aは、−L
2と反応して、−Y
2−となる基を表す。)
【0203】
すなわち、従来公知の、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−、−O−C(=O)−)、又は、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)の形成反応を用いることにより、式(6d)で表される化合物に、式(7a)で表される化合物、次いで、式(7b)で表される化合物を反応させて、カルボニル化合物(4)を製造することができる。
【0204】
より具体的に、Y
1が、Y
11−C(=O)−O−で表される基であり、式:Z
2−Y
8−G
2−Y
6−A
5−Y
4−A
3−Y
2−で表される基が、式:Z
1−Y
7−G
1−Y
5−A
4−Y
3−A
2−Y
1−で表される基と同一である、化合物(4’)の製造方法の一例を以下に示す。
【0206】
(式中、Y
3、Y
5、Y
7、G
1、Z
1、A
1、A
2、A
4、Q
1、及びL
1は前記と同じ意味を表す。Y
11は、Y
11−C(=O)−O−がY
1となる基を表す。Y
1は前記と同じ意味を表す。)
【0207】
上記反応においては、式(6)で表されるジヒドロキシ化合物(化合物(6))と式(7)で表される化合物(化合物(7))とを、(化合物(6):化合物(7))のモル比で、1:2〜1:4、好ましくは1:2〜1:3の割合で反応させることにより、高選択的かつ高収率で目的とする化合物(4’)を得ることができる。
【0208】
化合物(7)が、式(7)中、L
1が水酸基の化合物(カルボン酸)である場合には、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤の存在下に反応させることにより、目的物を得ることができる。
脱水縮合剤の使用量は、化合物(7)1モルに対し、通常1モル〜3モルである。
【0209】
また、化合物(7)が、式(7)中、L
1が水酸基の化合物(カルボン酸)である場合には、メタンスルホニルクロリド、p−トルエンスルホニルクロリド等のスルホニルハライド、及びトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等の塩基の存在下に反応させることによっても、目的物を得ることができる。
【0210】
スルホニルハライドの使用量は、化合物(7)1モルに対し、通常1モル〜3モルである。
塩基の使用量は、化合物(7)1モルに対し、通常1〜3モルである。
この場合、前記式(7)中、L
1がスルホニルオキシ基の化合物(混合酸無水物)を単離して次の反応を行ってもよい。
【0211】
さらに、化合物(7)が、式(7)中、L
1がハロゲン原子の化合物(酸ハライド)である場合には、塩基の存在下に反応させることにより、目的物を得ることができる。
用いる塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基が挙げられる。
塩基の使用量は、化合物(7)1モルに対し、通常1モル〜3モルである。
【0212】
上記反応に用いる溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶媒;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;及びこれらの溶媒の2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めることができるが、ヒドロキシ化合物(6)1gに対し、通常1g〜50gである。
【0213】
化合物(6)の多くは公知物質であり、公知の方法により製造することができる。
例えば、下記反応式に示す方法により製造することができる(国際公開第2009/042544号、及び、The Journal of Organic Chemistry,2011,76,8082−8087等参照。)。化合物(6)として市販されているものを、所望により精製して用いることもできる。
【0215】
(式中、A
1、Q
1は前記と同じ意味を表し、A
1aは、ホルミル化又はアシル化されることによりA
1になる2価の芳香族基を表し、R’は、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基、メトキシメチル基等の炭素数2〜6のアルコキシアルキル基等の水酸基の保護基を表す。)
すなわち、式(6a)で表されるジヒドロキシ化合物(1,4−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジヒドロキシナフタレン等)の水酸基をアルキル化して、式(6b)で表される化合物を得た後、OR’基のオルト位を、公知の方法により、ホルミル化又はアシル化することにより、式(6c)で表される化合物を得、このものを脱保護(脱アルキル化)することにより、目的とする化合物(6)を得ることができる。
また、化合物(6)として、市販されているものをそのまま、又は所望により精製して用いることもできる。
【0216】
化合物(7)の多くは公知化合物であり、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−、−O−C(=O)−)、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)及びアミド結合(−C(=O)−NH−、−NH−C(=O)−)の形成反応を任意に組み合わせて、所望の構造を有する複数の公知化合物を適宜結合又は修飾することにより製造することができる。
【0217】
例えば、化合物(7)が、下記式(7’)で表される化合物(化合物(7’))である場合には、式(9’)で表されるジカルボン酸(化合物(9’))を用いて、下記のようにして製造することができる。
【0219】
(式中、Y
5、Y
7、G
1、Z
1、A
2、A
4、Y
11は、前記と同じ意味を表す。Y
12は、−O−C(=O)−Y
12がY
3となる基を表す。Rは、メチル基、エチル基等のアルキル基;フェニル基、p−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいアリール基;を表す。)
先ず、化合物(9’)に、式(10)で表されるスルホニルクロライドを、トリエチルアミン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等の塩基存在下で反応させる。
次いで、反応混合物に、化合物(8)と、トリエチルアミン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等の塩基を加えて反応を行う。
スルホニルクロライドの使用量は、化合物(9’)1当量に対して、通常0.5当量〜0.7当量である。
化合物(8)の使用量は、化合物(9’)1当量に対して、通常0.5当量〜0.6当量である。
塩基の使用量は、化合物(3)1当量に対して、通常0.5当量〜0.7当量である。
反応温度は、20℃〜30℃であり、反応時間は反応規模等にもよるが、数分から数時間である。
【0220】
上記反応に用いる溶媒としては、前記化合物(4’)を製造する際に用いることができる溶媒として例示したものが挙げられる。なかでも、エーテル類が好ましい。
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めることができるが、化合物(9’)1gに対し、通常1g〜50gである。
【0221】
いずれの反応においても、反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作を行い、所望により、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、蒸留法等の公知の分離又は精製手段を施すことにより、目的物を単離することができる。
【0222】
目的とする化合物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトル等の測定、元素分析等により、同定することができる。
【0223】
上述した液晶性化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0224】
液晶組成物が含む溶媒としては、通常、有機溶媒を用いる。有機溶媒の例としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;及びトルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。溶媒の沸点は、取り扱い性に優れる観点から、60℃〜250℃が好ましく、60℃〜150℃がより好ましい。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
液晶組成物において、溶媒の量は、重合性化合物100重量部に対し、通常100重量部〜1000重量部である。
【0225】
液晶組成物は、任意の成分として、重合性モノマーを含みうる。「重合性モノマー」とは、重合能を有しモノマーとして働きうる化合物のうち、特に、重合性液晶性化合物以外の化合物をいう。重合性モノマーとしては、例えば、1分子当たり1以上の重合性基を有するものを用いうる。そのような重合性基を有することにより、液晶樹脂層の形成に際し重合を達成することができる。重合性モノマーが1分子当たり2以上の重合性基を有する架橋性モノマーである場合、架橋的な重合を達成することができる。かかる重合性基の例としては、化合物(I)中の基Z
1−Y
7−及びZ
2−Y
8−と同様の基を挙げることができ、より具体的には例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びエポキシ基を挙げることができる。また、重合性モノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0226】
重合性モノマーは、非液晶性の化合物である。ここで、「非液晶性」であるとは、当該重合性モノマーそのものを、室温から200℃のいずれの温度に置いた場合にも、配向処理をした基材フィルム上で配向を示さないことをいう。配向を示すかどうかは、偏光顕微鏡のクロスニコル透過観察にてラビング方向を面相で回転させた場合に、明暗のコントラストがあるかどうかで判断しうる。
【0227】
液晶組成物において、重合性モノマーの量は、液晶性化合物100重量部に対し、通常1重量部以上、好ましくは5重量部以上であり、通常100重量部以下、好ましくは50重量部以下である。重合性モノマーの量を前記の範囲に収めることにより、液晶樹脂層の光学特性の精密な制御が容易となる。
重合性モノマーは、既知の製造方法により製造することができる。または、化合物(I)と類似の構造を持つものについては、化合物(I)の製造方法に準じて製造することができる。
【0228】
液晶組成物は、任意の成分として、重合開始剤を含みうる。重合開始剤としては、液晶組成物中の重合性化合物が有する重合性基の種類に応じて適宜選択しうる。例えば、重合性基がラジカル重合性の基であればラジカル重合開始剤を、アニオン重合性の基であればアニオン重合開始剤を、カチオン重合性の基であればカチオン重合開始剤を、それぞれ使用しうる。また、重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0229】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、加熱することにより、重合性化合物の重合を開始しえる活性種を発生しうる化合物である、熱ラジカル発生剤;及び、可視光線、紫外線(i線など)、遠紫外線、電子線、X線等の露光光の露光により、重合性化合物の重合を開始しえる活性種を発生しうる化合物である、光ラジカル発生剤;のいずれも使用可能である。中でも、光ラジカル発生剤を使用するのが好適である。
【0230】
光ラジカル発生剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物、O−アシルオキシム系化合物、オニウム塩系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α−ジケトン系化合物、多核キノン系化合物、キサントン系化合物、ジアゾ系化合物、イミドスルホナート系化合物等を挙げることができる。これらの化合物は、露光によって活性ラジカルまたは活性酸、あるいは活性ラジカルと活性酸の両方を発生しうる成分である。
【0231】
アセトフェノン系化合物の具体例としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル・フェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1,2−オクタンジオン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−4’−モルフォリノブチロフェノン等を挙げることができる。
【0232】
ビイミダゾール系化合物の具体例としては、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4−ジブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(2,4,6−トリブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等を挙げることができる。
【0233】
光重合開始剤としてビイミダゾール系化合物を用いる場合、ビイミダゾール系化合物と水素供与体とを組み合わせて用いることが、感度をさらに改良することができる点で好ましい。「水素供与体」とは、露光によりビイミダゾール系化合物から発生したラジカルに対して、水素原子を供与することができる化合物を意味する。水素供与体としては、下記で例示するメルカプタン系化合物、アミン系化合物等が好ましい。また、これらの水素供与体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0234】
メルカプタン系化合物としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−2,5−ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。
アミン系化合物としては、例えば、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ジエチルアミノアセトフェノン、4−ジメチルアミノプロピオフェノン、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノベンゾニトリル等を挙げることができる。
【0235】
トリアジン系化合物の具体例としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(5−メチルフラン−2−イル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(フラン−2−イル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−エトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−n−ブトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基を有するトリアジン系化合物を挙げることができる。
【0236】
O−アシルオキシム系化合物の具体例としては、1−〔4−(フェニルチオ)フェニル〕−ヘプタン−1,2−ジオン 2−(O−ベンゾイルオキシム)、1−〔4−(フェニルチオ)フェニル〕−オクタン−1,2−ジオン 2−(O−ベンゾイルオキシム)、1−〔4−(ベンゾイル)フェニル〕−オクタン−1,2−ジオン 2−(O−ベンゾイルオキシム)、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−エタノン 1−(O−アセチルオキシム)、1−[9−エチル−6−(3−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−エタノン 1−(O−アセチルオキシム)、1−(9−エチル−6−ベンゾイル−9H−カルバゾール−3−イル)−エタノン 1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロピラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロフラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロピラニルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−{2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)ベンゾイル}−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロピラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−(2−メチル−5−テトラヒドロピラニルメトキシベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、エタノン−1−〔9−エチル−6−{2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}−9.H.−カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)等を挙げることができる。
【0237】
光ラジカル発生剤としては、市販品をそのまま用いることもできる。具体例としては、BASF社製の「Irgacure907」、「Irgacure184」、「Irgacure369」、「Irgacure651」、「Irgacure819」、「Irgacure907」、「Irgacure379」及び「Irgacure OXE02」;並びに、ADEKA社製の「アデカオプトマーN1919」等が挙げられる。
【0238】
アニオン重合開始剤としては、例えば、アルキルリチウム化合物;ビフェニル、ナフタレン、ピレン等の、モノリチウム塩又はモノナトリウム塩;ジリチウム塩及びトリリチウム塩等の多官能性開始剤;等が挙げられる。
【0239】
カチオン重合開始剤としては、例えば、硫酸、リン酸、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸;三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズのようなルイス酸;芳香族オニウム塩又は芳香族オニウム塩と、還元剤との併用系;などが挙げられる。
【0240】
液晶組成物において、重合開始剤の量は、重合性化合物100重量部に対し、通常0.1重量部以上、好ましくは0.5重量部以上であり、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0241】
液晶組成物は、任意の成分として、界面活性剤を含みうる。界面活性剤により、液晶組成物の表面張力を調整できる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましく、例えば、分子量が数千程度のオリゴマーであるノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、セイミケミカル社製「KH−40」等が挙げられる。また、界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0242】
液晶組成物において、界面活性剤の量は、重合性化合物100重量部に対し、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは2重量部以下である。
【0243】
さらに、液晶組成物は、任意の成分として、例えば、金属;金属錯体;染料及び顔料等の着色剤;蛍光材料;燐光材料;レベリング剤;チキソ剤;ゲル化剤;多糖類;紫外線吸収剤;赤外線吸収剤;抗酸化剤;イオン交換樹脂;酸化チタン等の金属酸化物;等の配合剤を含みうる。液晶組成物において、このような任意の配合剤の量は、重合性化合物100重量部に対し、通常、各々0.1重量部〜20重量部である。
【0244】
液晶組成物は、例えば、上述した成分を混合することにより、製造できる。
【0245】
[5.マスキングフィルム]
マスキングフィルムとしては、基材フィルムに着脱可能に貼り合わせうるフィルムを用いうる。このようなマスキングフィルムとしては、通常、樹脂フィルムを用いる。特に、マスキングフィルムは、透明性、機械的強度、熱安定性及び水分遮蔽性に優れる樹脂により形成することが好ましい。このような樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース等の酢酸セルロース系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;鎖状ポリオレフィン樹脂;ノルボルネン系の脂環式オレフィン樹脂;アクリル樹脂;メタクリル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0246】
配向規制力を修復する工程の意義を高める観点からは、マスキングフィルム剥離に伴う配向規制力低下の程度が少ないことが好ましく、マスキングフィルムを基材フィルムから剥離するために要する剥離力は、通常5N/25mm以下である。前記の剥離力は、下記の測定方法により測定しうる。
原反フィルムを用意し、その原反フィルムを20mm×100mmの短冊状に切り出して、サンプルを用意する。このサンプルの基材フィルムとマスキングフィルムとの間の剥離力を、引っ張り試験機(島津製作所社製「オートグラフィー」)を用いて、剥離速度0.3mm/min、剥離角度180°の条件で測定する。この時の測定条件は、JIS Z−0237に準拠する。
【0247】
マスキングフィルムの厚みは任意であるが、通常5μm以上であり、通常500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下である。
【0248】
マスキングフィルムとしては、市販品を用いてもよい。市販のマスキングフィルムの例としては、トレテガー社製の「FF1025」「FF1035」;サンエー化研社製の「SAT116T」、「SAT2038T−JSL」及び「SAT4538T−JSL」;藤森工業社製の「NBO−0424」、「TFB−K001」、「TFB−K0421」及び「TFB−K202」;日立化成社製の「DT−2200−25」及び「K−6040」;寺岡製作所社製の「6010#75」、「6010#100」、「6011#75」及び「6093#75」;などが挙げられる。
【0249】
[6.位相差フィルム]
本発明の製造方法で製造された複層フィルムの液晶樹脂層は、位相差フィルムなどの光学用途に用いることができ、特に、1/4波長板、1/2波長板等の波長板として用いうる。中でも、液晶樹脂層を備える位相差フィルムにおいては、液晶樹脂層は、1/4波長板として機能させるために、1/4波長の面内レターデーションを有することが好ましい。
【0250】
液晶樹脂層を備える位相差フィルムは、本発明の製造方法で製造された複層フィルムの液晶樹脂層のみを備えていてもよい。このような位相差フィルムは、例えば、本発明の製造方法で製造された複層フィルムの基材フィルムを液晶樹脂層から剥離する工程を経て得られる。一般に、液晶樹脂層は、延伸フィルムからなる位相差フィルムよりも厚みを薄くできる。そのため、液晶樹脂層を位相差フィルムとして用いることにより、厚みの薄い位相差フィルムを実現できる。
【0251】
また、液晶樹脂層から基材フィルムを剥離せず、本発明の製造方法で製造された複層フィルムをそのまま、複層フィルムからなる位相差フィルムとして用いてもよい。これにより、液晶樹脂層の面内レターデーションと基材フィルムの面内レターデーションとを組み合わせて、多様な面内レターデーションを有する位相差フィルムを実現できる。
さらに、基材フィルムは、当該基材フィルムを形成する材質を適切に選択することにより、延伸により付与された高い配向規制力を有しながら光学異方性が小さいものとしうる。そのため、この場合には、複層フィルムに、液晶樹脂層のみからなる位相差フィルムと同様の面内レターデーションを発現させることも可能である。
【0252】
また、液晶樹脂層を備える位相差フィルムは、液晶樹脂層及び基材フィルム以外の任意の層を備えていてもよい。任意の層の例としては、他の部材と接着するための接着層、フィルムの滑り性を良くするマット層、耐衝撃性ポリメタクリレート樹脂層などのハードコート層、反射防止層、防汚層等が挙げられる。
【0253】
[7.円偏光板]
本発明の円偏光板は、前記の位相差フィルムを備える。通常、本発明の円偏光板は、位相差フィルムに加えて、直線偏光子を備えうる。
【0254】
直線偏光子としては、液晶表示装置等の装置に用いられている公知の偏光子を用いうる。直線偏光子の例としては、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって得られるもの、及びポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着させ延伸しさらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって得られるものが挙げられる。直線偏光子の他の例としては、グリッド偏光子、多層偏光子、コレステリック液晶偏光子などの偏光を反射光と透過光に分離する機能を有する偏光子が挙げられる。これらのうちポリビニルアルコールを含有する偏光子が好ましい。
【0255】
通常、直線偏光子に自然光を入射させると、一方の偏光だけが透過する。直線偏光子の偏光度は、特に限定されないが、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。偏光子の平均厚みは好ましくは5μm〜80μmである。
【0256】
円偏光板において、位相差フィルムは、通常、1/4波長の面内レターデーションを有する。また、円偏光板において、位相差フィルムの遅相軸と直線偏光子の偏光透過軸とがなす角は、45°またはそれに近い角度が好ましく、具体的には40°〜50°であることが好ましい。これにより、液晶表示装置の構成要素などの用途に有用に用いうる円偏光板を実現できる。
【0257】
また、円偏光板は、上述した位相差フィルムが備えうるものと同様の、任意の層を有していてもよい。
【0258】
このような円偏光板は、位相差フィルムと直線偏光子とを貼り合わせることにより製造しうる。ここで、上述した実施形態のように長尺の基材フィルムを用いて複層フィルムを製造した場合、位相差フィルムは長尺のフィルムとして製造しうる。また、このような長尺の位相差フィルムを、長尺の直線偏光子とロールトゥロール法にて貼り合わせることにより、長尺の円偏光板を製造可能である。ロールトゥロール法の利用が可能であるので、本発明の円偏光板は、製造効率に優れる。
【0259】
前記の円偏光板の用途の一つとして、有機EL素子を有する表示装置の反射防止フィルムとしての用途が挙げられる。即ち、表示装置の表面に、円偏光板を、直線偏光子側の面が視認側に向くように設けることにより、装置外部から入射した光が装置内で反射して装置外部へ出射することを抑制することができ、その結果、表示装置の表示面のぎらつきなどを抑制しうる。具体的には、装置外部から入射した光は、その一部の直線偏光のみが直線偏光子を通過し、次にそれが位相差フィルムを通過することにより円偏光となる。円偏光は、表示装置内の光を反射する構成要素(有機EL素子中の反射電極等)により反射され、再び位相差フィルムを通過することにより、入射した直線偏光の偏光軸と直交する方向に偏光軸を有する直線偏光となり、直線偏光子を通過しなくなる。これにより、反射防止の機能が達成される。
【0260】
[8.有機EL表示装置]
本発明の位相差フィルム及び本発明の円偏光板は、液晶表示装置、有機EL表示装置等の表示装置の構成要素として用いうる。特に、好ましい態様として、本発明の有機EL表示装置は、前記本発明の円偏光板を備える。具体的には、本発明の有機EL表示装置は、有機EL素子を有する表示装置において、上で説明した通り、反射防止フィルムとして本発明の円偏光板を備えうる。
【実施例】
【0261】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0262】
[評価方法]
〔面内レターデーション及び遅相軸方向の測定方法〕
フィルム及び層の面内レターデーション及び遅相軸方向は、AxoScan(Axometrics社製)を用いて、測定波長550nmで測定した。
【0263】
〔配向状態の評価方法〕
液晶樹脂層をガラス板に転写したサンプルを作製し、2枚の直線偏光子(偏光子及び検光子)の間に置いた。この際、前記の直線偏光子は、厚み方向から見て、互いの偏光透過軸が垂直になるように、向きを設定した。また、液晶樹脂層の遅相軸方向は、厚み方向から見て、直線偏光子の偏光透過軸と平行又は垂直になるように設定し、このサンプルを透過する光の透過率(クロスニコル透過率)を、日本分光社製の分光光度計「V7200」及び自動偏光フィルム測定装置「VAP−7070S」を用いて測定し、下記の基準で評価した。
優:ボトムとなる波長におけるクロスニコル透過率が0.010%以下。
良:ボトムとなる波長におけるクロスニコル透過率が0.010%超0.020%以下。
可:ボトムとなる波長におけるクロスニコル透過率が0.020%超0.030%以下。
不可:ボトムとなる波長におけるクロスニコル透過率が0.030%超。
【0264】
〔配向欠陥の評価方法〕
液晶樹脂層を、偏光顕微鏡を用いて観察し、液晶樹脂層における線欠陥の有無によって下記の基準で評価した。ここで線欠陥とは、
図3に示すように、線状に延びる配向欠陥のことをいう。
良:線欠陥無し。
不良:線欠陥有り。
【0265】
〔輝点及び異物の評価方法〕
液晶樹脂層を、偏光顕微鏡を用いて観察し、液晶樹脂層における輝点及び異物の有無を目視で評価した。
良:1平方メートル当り、輝点及び異物が5個以下。
不良:1平方メートル当り、輝点及び異物が6個以上。
【0266】
[製造例1.基材フィルムAの製造]
熱可塑性ノルボルネン樹脂のペレット(日本ゼオン社製「ZEONOR1420R」、ガラス転移温度137℃)を、90℃で5時間乾燥させた。乾燥させたペレットを押し出し機に供給し、押し出し機内で溶融させた。溶融した樹脂を、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを通し、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押し出し、冷却して、長尺の透明な基材フィルムAを得た。この基材フィルムAを、保護フィルム(トレテガー社製「FF1025」)で保護しながら巻取り、ロールA1を得た。ロールA1に巻き取られたフィルムは、基材フィルムA及び保護フィルムを備えるフィルムであり、基材フィルムAの厚みは80μm、幅は1490mmであった。
【0267】
[製造例2.基材フィルムBの製造]
Tダイを変更したこと以外は製造例1と同様にして、ロールB1を得た。ロールB1に巻き取られたフィルムは、基材フィルムB及び保護フィルムを備えるフィルムであり、基材フィルムBの厚みは50μm、幅は675mmであった。
【0268】
[製造例3.液晶組成物の製造]
重合性液晶性化合物(BASF社製「LC242」)28.98重量部、界面活性剤(ネオス社製「フタージェントFTX−209F」)0.14重量部、重合開始剤(BASF社製「IRGACURE379」)0.73重量部、及び、溶媒(メチルエチルケトン)55.65重量部を混合し、液晶組成物を調製した。前記の重合性液晶性化合物の構造は、下記式の通りである。
【0269】
【化34】
【0270】
[実施例1]
以下に説明する実施例1では、フィルムを長手方向に連続的に搬送しながら、各工程の処理を行った。
【0271】
製造例1で製造したロールA1からフィルムを引き出し、保護フィルムを剥離しながら基材フィルムAをテンター延伸機に供給した。テンター延伸機により、基材フィルムAの幅方向に対して45°の角度をなす方向に遅相軸が発現するように、基材フィルムAに斜め延伸を行った(工程(VIII))。この延伸により、基材フィルムAに含まれる重合体分子は基材フィルムAの遅相軸方向と平行に配向し、基材フィルムAの面に、配向規制力が付与された。
延伸された基材フィルムAに、当該基材フィルムAの幅方向の両端を切り取るトリミング処理を行った。その後、トリミング処理を施された基材フィルムAの片面にマスキングフィルム(トレテガー社製「FF1025」)を貼り合わせて長尺の原反フィルムを得た。この原反フィルムをロール状に巻き取って、幅1350mmの原反フィルムのロールA2を得た。
ロールA2に巻き取られた原反フィルムの基材フィルムAの面内レターデーションReは70nm、厚みは75μmであった。
【0272】
ロールA2から原反フィルムを引き出し、マスキングフィルムを剥離しながら基材フィルムAを加熱炉へ向けて送り出した(工程(I)及び工程(II))。
加熱炉においては、基材フィルムAを100℃に加熱した(工程(III))。
その後、基材フィルムAを、室温25℃において冷却した(工程(VI))。
その後、冷却された基材フィルムAの、マスキングフィルムと貼り合わせられていた面に、製造例3で製造した液晶組成物をダイコーターを用いて塗布して、液晶組成物の層を形成した(工程(IV))。
【0273】
その後、60℃で2.5分間加熱することにより、液晶組成物の層から溶媒を乾燥させた(工程(VII))。このとき、液晶組成物の層に含まれていた液晶性化合物は、基材フィルムAの面に付与された配向規制力によって配向した。
【0274】
その後、液晶組成物の層に、窒素雰囲気下で100mJ/cm
2以上の紫外線を照射して、この液晶組成物の層を硬化させた(工程(V))。これにより、乾燥膜厚1.1μmの液晶樹脂層を基材フィルムA上に備える複層フィルムを得た。前記の液晶樹脂層では、硬化液晶分子が、基材フィルムAに含まれる重合体分子の配向方向に沿ったホモジニアス配向規則性を有していた。
こうして得た複層フィルムから液晶樹脂層を剥がし、剥がした液晶樹脂層を前述の方法で評価した。
【0275】
[実施例2]
ロールA1の代わりに、製造例2で製造したロールB1を用いた。これにより、基材フィルムAの代わりに基材フィルムBを用いることになった。
また、テンター延伸機での基材フィルムBの延伸条件を、延伸後の基材フィルムBの幅方向に遅相軸が発現するように変更した。延伸後の基材フィルムBの面内レターデーションReは118nm、膜厚は45μmであった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムの製造と、当該複層フィルムが備える液晶樹脂層の評価を行った。
【0276】
[実施例3]
テンター延伸機での基材フィルムAの延伸条件を、延伸後の基材フィルムAの幅方向に対して15°の角度をなす方向に遅相軸が発現するように変更した。延伸後の基材フィルムAの面内レターデーションReは300nm、膜厚は75μmであった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムの製造と、当該複層フィルムが備える液晶樹脂層の評価を行った。
【0277】
[実施例4]
テンター延伸機での基材フィルムAの延伸条件を、延伸後の基材フィルムAの幅方向に対して22.5°の角度をなす方向に遅相軸が発現するように変更した。延伸後の基材フィルムAの面内レターデーションReは325nm、膜厚は75μmであった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムの製造と、当該複層フィルムが備える液晶樹脂層の評価を行った。
【0278】
[実施例5]
以下に説明する実施例5では、フィルムを長手方向に連続的に搬送しながら、各工程の処理を行った。
【0279】
基材フィルムCのロールC1として、長尺のトリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製、厚み80μm、幅1490mm、ガラス転移温度107℃)のロールを用意した。このロールC1から基材フィルムCを引き出し、テンター延伸機に供給した。テンター延伸機により、基材フィルムCの幅方向に対して45°の角度をなす方向に遅相軸が発現するように、基材フィルムCに斜め延伸を行った(工程(VIII))。この延伸により、基材フィルムCの面に、配向規制力が付与された。
延伸された基材フィルムCに、当該基材フィルムCの幅方向の両端を切り取るトリミング処理を行った。その後、トリミング処理を施された基材フィルムCの片面にマスキングフィルム(トレテガー社製「FF1025」)を貼り合わせて長尺の原反フィルムを得た。この原反フィルムをロール状に巻き取って、幅1350mmの原反フィルムのロールC2を得た。
ロールC2に巻き取られた原反フィルムの基材フィルムCの面内レターデーションReは14nm、厚みは79μmであった。
【0280】
ロールC2から原反フィルムを引き出し、マスキングフィルムを剥離しながら基材フィルムCを加熱炉へ向けて送り出した(工程(I)及び工程(II))。
加熱炉においては、基材フィルムCを80℃に加熱した(工程(III))。
その後、基材フィルムCを、室温25℃において冷却した(工程(VI))。
その後、冷却された基材フィルムCの、マスキングフィルムと貼り合わせられていた面に、製造例3で製造した液晶組成物をダイコーターを用いて塗布して、液晶組成物の層を形成した(工程(IV))。
【0281】
その後、60℃で2.5分間加熱することにより、液晶組成物の層から溶媒を乾燥させた(工程(VII))。このとき、液晶組成物の層に含まれていた液晶性化合物は、基材フィルムCの面に付与された配向規制力によって配向した。
【0282】
その後、液晶組成物の層に、窒素雰囲気下で100mJ/cm
2以上の紫外線を照射して、この液晶組成物の層を硬化させた(工程(V))。これにより、乾燥膜厚1.1μmの液晶樹脂層を基材フィルムC上に備える複層フィルムを得た。前記の液晶樹脂層では、硬化液晶分子がホモジニアス配向規則性を有していた。
こうして得た複層フィルムから液晶樹脂層を剥がし、剥がした液晶樹脂層を前述の方法で評価した。
【0283】
[比較例1]
加熱炉において基材フィルムAを100℃に加熱する工程(III)を行わなかった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムの製造と、当該複層フィルムが備える液晶樹脂層の評価を行った。
【0284】
[比較例2]
工程(IV)において液晶組成物を塗布する面を、基材フィルムAの、マスキングフィルムと貼り合わせられていた面とは反対側の面に変更した。
さらに、工程(IV)において液晶組成物の塗布量を変更することにより、工程(V)の後で得られる液晶樹脂層の乾燥厚みを1.2μmにした。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムの製造と、当該複層フィルムが備える液晶樹脂層の評価を行った。
【0285】
[比較例3]
製造例1で製造したロールAからフィルムを引き出し、保護フィルムを剥離しながら基材フィルムAをラビング処理機に供給した。ラビング処理機によって、基材フィルムAの幅方向に対して90°の角度をなす方向にラビング処理を施した。このラビング処理により、基材フィルムAの面に、配向規制力が付与された。
ラビング処理を施された基材フィルムAに、当該基材フィルムAの幅方向の両端を切り取るトリミング処理を行った。その後、トリミング処理を施された基材フィルムAの片面にマスキングフィルム(トレテガー社製「FF1025」)を貼り合わせて長尺の原反フィルムを得た。この原反フィルムをロール状に巻き取って、幅1350mmの原反フィルムのロールA3を得た。
ロールA3に巻き取られた原反フィルムの基材フィルムAの面内レターデーションReは5nm、厚みは80μmであった。
【0286】
工程(I)及び工程(II)において、原反フィルムを引き出すロールを、ロールA2から比較例3で製造したロールA3に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、複層フィルムの製造を行った。得られた複層フィルムの液晶樹脂層を目視により調べたところ、液晶樹脂層が白濁し、液晶樹脂層中の硬化液晶分子が配向していないことが確認された。
【0287】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
基材樹脂:基材フィルムに含まれる樹脂。
COP:脂環式構造含有重合体を含む樹脂。
TAC:トリアセチルセルロースを含む樹脂。
基材Tg:基材フィルムに含まれる樹脂のガラス転移温度。
遅相軸方向:延伸後の基材フィルムの遅相軸が当該基材フィルムの幅方向に対してなす角度。
基材Re:延伸後の基材フィルムの面内レターデーション。
基材厚み:延伸後の基材フィルムの厚み。
塗布面:基材フィルムの、液晶組成物を塗布された面。
剥離面:基材フィルムの、マスキングフィルムと貼り合わせられていた面。
非剥離面:基材フィルムの、マスキングフィルムと貼り合わせられていた面とは反対側の面。
加熱温度:基材フィルムからマスキングフィルムを剥がした後、液晶組成物を塗布する前において、基材フィルムを加熱した温度。
塗布温度:液晶組成物を塗布するときの基材フィルムの温度。
乾燥温度:基材フィルム上に塗布された液晶組成物の層を乾燥させるときの温度。
液晶樹脂層Re:液晶樹脂層の面内レターデーション。
液晶樹脂層厚み:液晶樹脂層の厚み。
【0288】
【表1】
【0289】
[検討]
実施例1〜5においては、配向状態、配向欠陥、並びに輝点及び異物のいずれの評価においても、優れた結果が得られている。このことから、本発明の製造方法により、配向状態が良好で、配向欠陥の少なく、且つ異物の混入が少ない液晶樹脂層を備える複層フィルムが得られることが確認された。
【0290】
これに対し、比較例1では、配向状態、配向欠陥、並びに輝点及び異物のいずれの評価においても劣っている。これは、マスキングフィルムを剥離したことによって基材フィルムの面の分子の配向軸に乱れが生じたり、マスキングフィルムの剥離時の力によって基材フィルムの面に突起又は窪みが生じたためと考えられる。
【0291】
また、比較例2では、配向状態は良好であるが、配向欠陥並びに輝点及び異物の評価が劣っている。これは、基材フィルムのマスキングフィルムとは反対側の面に液晶樹脂層を設けたことによるものと考えられる。基材フィルムのマスキングフィルムとは反対の面は、ロールとなっていた時に接触していたマスキングフィルムの突起又は窪みが転写されたり、巻き取り時にマスキングフィルムとこすれたりすることがある。そのため、基材フィルムのマスキングフィルムとは反対の面では、配向に欠陥が生じたり、面形状が変形したりしていると考えられる。そして、これらが原因となって、比較例2では、配向欠陥、輝点及び異物が発生しているものと推察される。また、原反フィルムのロールにおいて巻き軸の近くにあった基材フィルムは、ロールの径方向外側にあった基材フィルムよりも大きな圧力を受けているのであるから、配向の欠陥及び面形状の変形の程度はより大きく、そのため製造される液晶樹脂層においてより多くの配向欠陥、輝点及び異物が生じるものと推察される。
【0292】
さらに、比較例3では、液晶樹脂層において硬化液晶分子は配向していなかった。これは、延伸処理ではなくラビング処理で基材フィルムに配向規制力を与えた場合、その配向規制力を加熱によって修復することができなかったためと推察される。