(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446866
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】焼酎カスの処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 11/02 20060101AFI20181220BHJP
C02F 1/52 20060101ALI20181220BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20181220BHJP
C02F 3/12 20060101ALI20181220BHJP
C02F 3/28 20060101ALI20181220BHJP
C02F 9/14 20060101ALI20181220BHJP
C02F 9/02 20060101ALI20181220BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20181220BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20181220BHJP
A23K 10/38 20160101ALI20181220BHJP
A61L 2/04 20060101ALN20181220BHJP
A61L 2/18 20060101ALN20181220BHJP
C12P 7/64 20060101ALN20181220BHJP
【FI】
C02F11/02ZAB
C02F1/52 C
C02F1/44 F
C02F3/12 A
C02F3/12 B
C02F3/28 A
C02F9/14
C02F9/02
C12N1/20 E
C12M1/00 H
A23K10/38
!A61L2/04
!A61L2/18
!C12P7/64
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-140595(P2014-140595)
(22)【出願日】2014年7月8日
(65)【公開番号】特開2016-16362(P2016-16362A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】加来 啓憲
(72)【発明者】
【氏名】林 雅弘
【審査官】
佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−060967(JP,A)
【文献】
特開2010−094111(JP,A)
【文献】
特開2014−054240(JP,A)
【文献】
特開2006−015331(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/176261(WO,A1)
【文献】
特開2014−030383(JP,A)
【文献】
J. Biosci. Bioeng., (2006), 102, [4], p.323-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00−11/20
C12N 1/00− 7/08
B09B 1/00− 5/00
A23K 10/00−40/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎カスを、オーランチオキトリウム属に属し、炭素数14以上の脂肪酸を生産しうる微生物(以下、「オーランチオキトリウム属微生物」と称す。)で処理した後固液分離する一次処理工程と、該一次処理工程の処理水中に残留する有機物を除去する二次処理工程と、該一次処理工程で固液分離された分離汚泥の一部を該一次処理工程の微生物処理系内に返送する工程とを有することを特徴とする焼酎カスの処理方法。
【請求項2】
前記一次処理工程の微生物処理系内の無機塩類濃度が0.2〜3重量%となるように前記焼酎カスに無機塩類を添加することを特徴とする請求項1に記載の焼酎カスの処理方法。
【請求項3】
前記一次処理工程の微生物処理系内のpHを3.5〜9.0に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の焼酎カスの処理方法。
【請求項4】
前記一次処理工程の微生物処理系内の前記オーランチオキトリウム属微生物の濃度が、菌体の乾燥重量濃度で2g/L以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理方法。
【請求項5】
前記焼酎カスを固液分離し、得られた分離液を前記一次処理工程で処理することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理方法。
【請求項6】
焼酎の製造工程で加熱蒸留されて得られた前記焼酎カスを、前記一次処理工程に送給するまでの移送工程及び/又は貯留工程の系内を除菌又は殺菌処理することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理方法。
【請求項7】
前記オーランチオキトリウム属微生物が、炭素数20以上で不飽和結合を2つ以上有する高級不飽和脂肪酸を生産する微生物であり、前記一次処理工程で増殖した菌体から該高級不飽和脂肪酸を採取する産生物回収工程を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理方法。
【請求項8】
前記二次処理工程が、生物処理、凝集沈殿処理、砂濾過処理、及び膜分離処理よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせよりなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理方法。
【請求項9】
焼酎カスを、オーランチオキトリウム属に属し、炭素数14以上の脂肪酸を生産しうる微生物(以下、「オーランチオキトリウム属微生物」と称す。)で処理した後固液分離する一次処理手段と、該一次処理手段の処理水中に残留する有機物を除去する二次処理手段と、該一次処理手段で固液分離された分離汚泥の一部を該一次処理手段の微生物処理系内に返送する手段とを有することを特徴とする焼酎カスの処理装置。
【請求項10】
前記一次処理手段の微生物処理系内の無機塩類濃度が0.2〜3重量%となるように前記焼酎カスに無機塩類を添加する無機塩類添加手段を有することを特徴とする請求項9に記載の焼酎カスの処理装置。
【請求項11】
前記一次処理手段の微生物処理系内のpHを3.5〜9.0に調整するpH調整手段を有することを特徴とする請求項9又は10に記載の焼酎カスの処理装置。
【請求項12】
前記一次処理手段の微生物処理系内の前記オーランチオキトリウム属微生物の濃度が、菌体の乾燥重量濃度で2g/L以上であることを特徴とする請求項9ないし11のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理装置。
【請求項13】
前記焼酎カスを固液分離する固液分離手段を有し、該固液分離手段で得られた分離液が前記一次処理手段に送給されることを特徴とする請求項9ないし12のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理装置。
【請求項14】
焼酎の製造工程で加熱蒸留されて得られた前記焼酎カスを、前記一次処理手段に送給する移送手段及び/又は前記一次処理手段に送給するまで貯留する貯槽を有し、該移送手段及び/又は貯槽が除菌又は殺菌処理されていることを特徴とする請求項9ないし13のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理装置。
【請求項15】
前記オーランチオキトリウム属微生物が、炭素数20以上で不飽和結合を2つ以上有する高級不飽和脂肪酸を生産する微生物であり、前記一次処理手段で増殖した菌体から該高級不飽和脂肪酸を採取する産生物回収手段を有することを特徴とする請求項9ないし14のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理装置。
【請求項16】
前記二次処理手段が、生物処理槽、凝集沈殿槽、砂濾過装置、及び膜分離装置よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせよりなることを特徴とする請求項9ないし15のいずれか1項に記載の焼酎カスの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎の製造工程で発生する蒸留残渣である焼酎カスの処理方法及び処理装置に関する。本発明の焼酎カスの処理方法及び処理装置は、焼酎カスを処理すると共に、健康食品や家畜飼料、水産餌料などに利用される不飽和脂肪酸の製造を同時に行う、有価物生産型の廃液処理技術である。
【背景技術】
【0002】
1993年に採択されたロンドン条約(廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約)により、従来行われていた海洋投棄が禁止となり、焼酎カスは陸上で処理ないしは処分されることとなった。
従来、焼酎カスは、主として焼却、埋め立てにより処分するか、メタン発酵などにより処理されている。
しかし、焼酎カスは含水率が80〜95%と非常に高いため、焼却処分するためには他の廃棄物などと混焼する必要があり効率が悪い。埋め立て処分は用地確保の問題のほか、焼酎カスから発生する悪臭が課題となっている。これらの課題を解決するためにメタン発酵処理が広く普及しているが、近年、発酵温度を維持するための化石燃料費の高騰により、処理費用が嵩んでいるという課題がある。
一部では、堆肥や家畜飼料などへの焼酎カスの有効利用も進められているが、堆肥や家畜飼料は安価に取引されるため、収益性の面で改善が求められている。
【0003】
一方で、不飽和脂肪酸の工業的生産を目的に、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)を含むラビリンチュラ類(Labyrinthula)の培養技術が確立している。この場合、糖類などが培養原料に用いられており、焼酎カスを原料に用いた例は少ない。
【0004】
非特許文献1には、グルコースなどの炭素源を添加した焼酎カスを栄養源として培養したラビリンチュラ類の微生物が、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの飽和脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの不飽和脂肪酸を蓄積することが報告されている。しかし、この非特許文献1は、単に焼酎カスにグルコースなどの炭素源を添加して培養を行うことを示すものにすぎず、非特許文献1には、焼酎カスの処理を行うという技術思想はなく、非特許文献1の培養方法を実際の排水処理に適用することは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yamasaki et.al,“Utilization of Shochu Distillery Wastewater for Production of Polyunsaturated Fatty Acid and Xanthophylls Using Thraustochytrid”,Journal of Bioscience and Bioengineering,Vol.102,No.4,p.323-327,2006.DOI:10.1263/jbb.102.323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、焼酎カスを効率的に処理すると共に、健康食品や家畜飼料、水産餌料などに利用することができる不飽和脂肪酸を同時に製造する、有価物生産型の焼酎カスの処理方法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、焼酎カスを、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)に属し、炭素数14以上の脂肪酸を生産しうる微生物(以下、「オーランチオキトリウム属微生物」と称す。)で一次処理した後、一次処理水中に残留する有機物を除去する二次処理を行うことにより、従来の焼却、埋め立てによる処分や、メタン発酵処理では、処理費用や処理効率、作業環境、用地などの面で種々問題のある焼酎カスを、これらの問題を引き起こすことなく、効率的に処理すると共に、健康食品や家畜飼料、水産餌料などとして有用な不飽和脂肪酸を製造することができることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 焼酎カスを、オーランチオキトリウム属に属し、炭素数14以上の脂肪酸を生産しうる微生物(以下、「オーランチオキトリウム属微生物」と称す。)で処理した後固液分離する一次処理工程と、該一次処理工程の処理水中に残留する有機物を除去する二次処理工程とを有することを特徴とする焼酎カスの処理方法。
【0010】
[2] 前記一次処理工程の微生物処理系内の無機塩類濃度が0.2〜3重量%となるように前記焼酎カスに無機塩類を添加することを特徴とする[1]に記載の焼酎カスの処理方法。
【0011】
[3] 前記一次処理工程の微生物処理系内のpHを3.5〜9.0に調整することを特徴とする[1]又は[2]に記載の焼酎カスの処理方法。
【0012】
[4] 前記一次処理工程の微生物処理系内の前記オーランチオキトリウム属微生物の濃度が、菌体の乾燥重量濃度で2g/L以上であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の焼酎カスの処理方法。
【0013】
[5] 前記焼酎カスを固液分離し、得られた分離液を前記一次処理工程で処理することを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の焼酎カスの処理方法。
【0014】
[6] 焼酎の製造工程で加熱蒸留されて得られた前記焼酎カスを、前記一次処理工程に送給するまでの移送工程及び/又は貯留工程の系内を除菌又は殺菌処理することを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の焼酎カスの処理方法。
【0015】
[7] 前記オーランチオキトリウム属微生物が、炭素数20以上で不飽和結合を2つ以上有する高級不飽和脂肪酸を生産する微生物であり、前記一次処理工程で増殖した菌体から該高級不飽和脂肪酸を採取する産生物回収工程を有することを特徴とする[1]ないし[6]のいずれかに記載の焼酎カスの処理方法。
【0016】
[8] 前記二次処理工程が、生物処理、凝集沈殿処理、砂濾過処理、及び膜分離処理よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせよりなることを特徴とする[1]ないし[7]のいずれかに記載の焼酎カスの処理方法。
【0017】
[9] 焼酎カスを、オーランチオキトリウム属に属し、炭素数14以上の脂肪酸を生産しうる微生物(以下、「オーランチオキトリウム属微生物」と称す。)で処理した後固液分離する一次処理手段と、該一次処理手段の処理水中に残留する有機物を除去する二次処理手段とを有することを特徴とする焼酎カスの処理装置。
【0018】
[10] 前記一次処理手段の微生物処理系内の無機塩類濃度が0.2〜3重量%となるように前記焼酎カスに無機塩類を添加する無機塩類添加手段を有することを特徴とする[9]に記載の焼酎カスの処理装置。
【0019】
[11] 前記一次処理手段の微生物処理系内のpHを3.5〜9.0に調整するpH調整手段を有することを特徴とする[9]又は[10]に記載の焼酎カスの処理装置。
【0020】
[12] 前記一次処理手段の微生物処理系内の前記オーランチオキトリウム属微生物の濃度が、菌体の乾燥重量濃度で2g/L以上であることを特徴とする[9]ないし[11]のいずれかに記載の焼酎カスの処理装置。
【0021】
[13] 前記焼酎カスを固液分離する固液分離手段を有し、該固液分離手段で得られた分離液が前記一次処理手段に送給されることを特徴とする[9]ないし[12]のいずれかに記載の焼酎カスの処理装置。
【0022】
[14] 焼酎の製造工程で加熱蒸留されて得られた前記焼酎カスを、前記一次処理手段に送給する移送手段及び/又は前記一次処理手段に送給するまで貯留する貯槽を有し、該移送手段及び/又は貯槽が除菌又は殺菌処理されていることを特徴とする[9]ないし[13]のいずれかに記載の焼酎カスの処理装置。
【0023】
[15] 前記オーランチオキトリウム属微生物が、炭素数20以上で不飽和結合を2つ以上有する高級不飽和脂肪酸を生産する微生物であり、前記一次処理手段で増殖した菌体から該高級不飽和脂肪酸を採取する産生物回収手段を有することを特徴とする[9]ないし[14]のいずれかに記載の焼酎カスの処理装置。
【0024】
[16] 前記二次処理手段が、生物処理槽、凝集沈殿槽、砂濾過装置、及び膜分離装置よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせよりなることを特徴とする[9]ないし[15]のいずれかに記載の焼酎カスの処理装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来の焼却、埋め立てによる処分や、メタン発酵処理では、処理費用や処理効率、作業環境、用地などの面で種々問題のある焼酎カスを、これらの問題を引き起こすことなく、効率的に処理すると共に、健康食品や家畜飼料、水産餌料などとして有用な不飽和脂肪酸を製造することができる。このように、焼酎カスの処理と有価物である不飽和脂肪酸の製造とを兼ねることで処理コストを削減すると共に、廃棄物の有効利用と廃棄物量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の焼酎カスの処理方法の実施の形態の一例を示す工程図である。
【
図2】本発明の焼酎カスの処理装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【
図3】本発明の焼酎カスの処理装置の実施の形態の他の例を示す系統図である。
【
図4】本発明の焼酎カスの処理装置の実施の形態の他の例を示す系統図である。
【
図5】実施例1で培養したオーランチオキトリウム属微生物の細胞内に蓄積された脂肪酸のガスクロマトグラフィー分析結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
[焼酎カスの処理方法]
本発明の焼酎カスの処理方法は、焼酎カスをオーランチオキトリウム属微生物で一次処理した後、一次処理水中に残留する有機物を除去する二次処理を行うものである。
【0029】
本発明の焼酎カスの処理方法の処理手順としては、上記一次処理と二次処理を行えるものであればよく、特に制限はないが、例えば次のような方法が挙げられる。
【0030】
(1)
図1(a)に示す如く、焼酎カスをオーランチオキトリウム属微生物で処理する微生物処理を行った後、分離水(一次処理水)と分離汚泥(培養物)に固液分離し(一次処理工程)、一次処理水中の残留有機物の処理を行った後分離水(二次処理水)と分離汚泥に固液分離(二次処理工程)する。一次処理工程の固液分離で得られた分離汚泥は培養物として回収する。
(2)
図1(b)に示す如く、焼酎カスを予め固液分離し、得られた分離液について
図1(a)と同様に一次処理及び二次処理を行う。
(3)
図1(c)に示す如く、一次処理における固液分離で得られた分離汚泥を脱水処理し、脱離液を一次処理水と共に二次処理し、濃縮スラリー又は脱水ケーキを培養物として回収する。その他は
図1(a)と同様に一次処理及び二次処理を行う。
【0031】
図1(a)〜(c)における二次処理水は、必要に応じて更にイオン交換樹脂塔、活性炭塔、逆浸透膜などにより高度処理した後放流されるか、水回収される。また、
図1(a)〜(c)における二次処理工程の固液分離で得られる分離汚泥及び
図1(b)における焼酎カスの固液分離で得られる固形物は、乾燥設備により含水率10%程度にまで乾燥させた後、飼料原料や肥料原料とされる。また、一次処理工程の固液分離で得られた培養物は、そのまま脱水乾燥して、或いは、菌体内に産生された不飽和脂肪酸等の脂肪酸を分離回収して有価物として利用される。
【0032】
<焼酎カス>
本発明で処理対象とする焼酎カスは、焼酎の製造工程における蒸留過程で発生する蒸留残渣であり、通常、その組成は下記の通りである。
含水率:90〜97重量%
糖質: 1.0〜4.0重量%
粗脂肪:0.5〜2.0重量%
粗たんぱく質:0.5〜2.0重量%
粗繊維:0.1〜0.3重量%
pH:3.5〜4.5
【0033】
焼酎カスは、そのまま一次処理に供してもよいが、処理効率の面で、予め遠心分離機などで固液分離して得られた分離液を一次処理に供することが好ましい。焼酎カスの固液分離で得られた分離固形物は、上記の通り、乾燥処理後に飼料原料や肥料原料に利用される。
なお、焼酎カスの固液分離で得られる分離液の水質は通常以下の通りであり、焼酎の原材料となる作物種や蒸留方式によって異なる。
溶解性TOC:10,000〜50,000mg/L
全窒素:300〜3,000mg/L
全リン:100〜500mg/L
【0034】
また、焼酎の製造工程で得られた焼酎カスは、蒸留直後は蒸留時の加熱によりほぼ無菌状態にあるが、一次処理の微生物処理槽に移送されるまでの移送工程や貯留工程で雑菌が混入して焼酎カスが腐敗する恐れがある。また、焼酎カスに雑菌が混入すると、混入した雑菌が微生物処理槽に持ち込まれ、更に培養物中に混入することとなるため、培養物又は培養物から分離した不飽和脂肪酸等の脂肪酸を健康食品や家畜飼料、水産餌料などとして利用する場合、好ましくない。
【0035】
従って、焼酎の製造工程の加熱蒸留工程で得られた焼酎カスを、微生物処理槽に移送する移送配管や、焼酎カスを一時的に貯留する貯槽、更には、焼酎カスを予め固液分離した後一次処理する場合は、遠心分離機等の固液分離手段は、可能な限り雑菌の混入及び腐敗を防ぐ構造とし、また、定期的に又は不定期的に殺菌剤や熱水による除菌又は殺菌処理を行うことが好ましく、従って、このような処理に対応し得る部材構成とすることが好ましい。
【0036】
なお、後述の微生物処理槽についても同様に雑菌の混入を防止する構造とし、また適宜除菌又は殺菌処理を行うことが好ましい。
【0037】
<オーランチオキトリウム属微生物>
本発明において、焼酎カスの微生物処理に用いるオーランチオキトリウム属微生物は、培養により、炭素数14以上の脂肪酸、好ましくは炭素数20以上で2つ以上の不飽和結合を有する高級不飽和脂肪酸、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、アラキドン酸(ARA)、エイコサジエン酸(EDA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの不飽和脂肪酸を産生して菌体内に蓄積するものであり、熱帯から亜熱帯域にかけてのマングローブ林や河口域など、海水と淡水の入り混じる汽水域に多く生息する微生物である。
【0038】
オーランチオキトリウム属微生物は、例えば、次のようにして採取することができる。
オーランチオキトリウム属微生物の遊走細胞は多糖類に対する走化性を有することから、水面に浮かべた松花粉の周囲にオーランチオキトリウム属微生物の遊走細胞を選択的に濃縮することができる。天然海から採取した海水に少量の松花粉を添加し、数日間放置した後に松花粉とその周辺の海水を、抗生物質を添加した寒天培地に塗布することでオーランチオキトリウム属微生物のコロニーを形成させ採取することができる。
【0039】
<一次処理>
オーランチオキトリウム属微生物による焼酎カスの処理、即ち、焼酎カスを栄養源とするオーランチオキトリウム属微生物の培養による焼酎カスの処理は、オーランチオキトリウム属微生物を保持する微生物処理槽(オーランチオキトリウム属微生物培養槽)に、焼酎カス又はその固液分離液を導入して所定時間処理(培養)することにより行われる。
【0040】
オーランチオキトリウム属微生物は海洋性の微生物であるため、若干濃度の無機塩類が存在しないと増殖できない。そこで、本発明では、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム等の無機塩類の存在下に微生物処理を行うために、必要に応じて焼酎カス又はその固液分離液に、工業用岩塩や海水、ミネラル含有水として工業用水や水道水などの新水や、それを含む廃水などを添加する。その添加量は、オーランチオキトリウム属微生物を培養するのに必要な無機塩類を供給する程度でよく、通常、微生物処理系内の液中の無機塩類濃度が0.2〜3重量%、好ましくは0.2〜1.5重量%の範囲となる量である。
なお、微生物の増殖には、有機物由来の炭素のみならず通常、窒素やリンも必要とされ、オーランチオキトリウム属微生物についてもこれらの存在が必要となるが、焼酎カスには、通常の場合、オーランチオキトリウム属微生物の増殖に十分量のリンや窒素が含まれているため、別途リン源や窒素源を添加する必要はない。
【0041】
また、オーランチオキトリウム属微生物の培養時のpH条件についても、一般の生物処理と同様に最適なpH条件が存在し、その好適pHは通常3.5〜9.0、好ましくは5.0〜8.0の範囲である。焼酎カスは有機酸の存在により酸性となっているため、通常、アルカリの添加によるpH調整が必要となる。
【0042】
また、微生物処理系内のオーランチオキトリウム属微生物の濃度は、過度に低いと焼酎カスを栄養源とする微生物処理の効率が悪いため、微生物処理系内の液中の菌体の乾燥重量濃度として2g/L以上、特に5g/L以上であることが好ましい。ただし、オーランチオキトリウム属微生物の濃度が過度に高いと処理に必要な酸素量が増大するため、酸素供給のための空気曝気動力が嵩んだり、酸素使用に伴うコスト増が生じたりするので、菌体の乾燥重量濃度として好ましくは100g/L以下とする。
【0043】
また、オーランチオキトリウム属微生物による微生物処理温度は通常5〜40℃、好ましくは20〜35℃程度で行われる。
【0044】
オーランチオキトリウム属微生物による微生物処理後は、微生物処理水を固液分離して一次処理水と分離汚泥(培養物)を得る。この固液分離に当たり、オーランチオキトリウム属微生物の微生物細胞に凝集性がある場合には、沈殿槽による沈降分離などで固液分離が可能であるが、微生物細胞に凝集性がない場合や、経時により沈降性が悪化した場合などは必要に応じてポリ塩化アルミニウム(PAC)や塩化鉄(III)等の無機凝集剤や有機凝集剤などの各種の凝集剤を添加する凝集処理を行った後固液分離を行うことが好ましい。
微生物処理水の固液分離には、その他、加圧浮上、膜分離、遠心分離など種々の固液分離方法が単独で、もしくはこれらの組み合わせで適用することができる。
【0045】
また、微生物処理槽として膜分離式バイオリアクター(MBR)を採用することもできる。この場合、膜の目詰まりが問題となる場合には、必要に応じて凝集剤を添加してもよい。
【0046】
<二次処理>
一次処理で得られた一次処理水(微生物処理水の固液分離水)は、次いで二次処理を行って、一次処理水中に残留する有機物を除去する。
この二次処理としては、一次処理水中の有機物を除去することができるものであればよく、特に制限はなく、活性汚泥法などの好気性生物処理、メタンを生成する嫌気性消化処理、凝集剤を用いた凝集分離処理、精密濾過(MF)膜や逆浸透(RO)膜を用いた膜濾過ないしは膜分離処理、砂濾過処理などの1種又はこれらの2種以上の組み合わせなどを用いることができるが、何らこれらに限定されるものではなく、一般的な水処理に用いられる方法をいずれも使用することができる。
【0047】
一次処理水を更に二次処理して有機物を除去することにより、後述の実施例に示されるように、溶解性TOC等が十分に低減された二次処理水が得られる。この二次処理水は、このまま放流することもできるが、更にイオン交換塔や活性炭塔、RO膜などにより高度処理して水回収してもよく、このような処理後に放流してもよい。
【0048】
<有価物の回収>
一次処理では焼酎カスを栄養源とする培養でオーランチオキトリウム属微生物が不飽和脂肪酸等の脂肪酸を産生し、菌体内に蓄積する。微生物処理水の固液分離で得られる分離汚泥は、このような不飽和脂肪酸等の脂肪酸を含むオーランチオキトリウム属微生物を主体とするものであり、これらは、必要に応じて更に脱水処理等を行った後、乾燥処理して、脂肪酸を含む菌体として、水産餌料や家畜飼料として利用される。或いは、この細菌から抽出法等の常法に従って不飽和脂肪酸等の脂肪酸を分離して健康食品(サプリメント)として利用される。
【0049】
[焼酎カスの処理装置]
以下に、
図2〜4を参照して本発明の焼酎カスの処理装置の実施の形態を説明する。
図2〜4において、同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0050】
図2の焼酎カスの処理装置は、焼酎カスの貯槽1、微生物処理槽(オーランチオキトリウム属微生物培養槽)2、沈殿槽3、二次処理槽としての流動担体式活性汚泥槽4、及び遠心分離機5で主として構成され、焼酎カス(焼酎カスの固液分離液であってもよい。)は、貯槽1より、ポンプP
1で配管11を経て抜き出され、微生物処理槽2に導入される。この微生物処理槽2には、無機塩類がポンプP
2により配管12を経て添加されている。また、必要に応じてpH調整剤が添加される。
【0051】
微生物処理槽2においては、ブロワ2Aによる曝気及び撹拌機2Bによる撹拌下に、焼酎カスを栄養源とするオーランチオキトリウム属微生物の培養が行われると共に焼酎カス中の有機物が分解除去される。微生物処理槽2の微生物処理水は配管13より沈殿槽3に送給されて固液分離される。沈殿槽3の分離水は一次処理水として配管14より二次処理槽である流動担体式活性汚泥槽4に送給されてブロワ4Aによる曝気下に活性汚泥処理され、一次処理水中に残留する有機物が分解除去され、処理水は担体分離用のスクリーン4Bを経て配管15より系外へ排出され、更に高度処理されるか、放流される。
【0052】
一方、沈殿槽3の分離汚泥は、培養により不飽和脂肪酸等の脂肪酸を蓄積したオーランチオキトリウム属微生物を含むものであり、配管16を経て抜き出され、一部はバルブVを備える配管17を経てスクリュウデカンタ型遠心分離機等の遠心分離機5で更に脱水処理されて菌体が分離され、配管18より系外へ排出される。この菌体は、前述の通り、そのまま、或いは菌体から不飽和脂肪酸等の脂肪酸等を分離して有効利用される。遠心分離機5の脱離液は一次処理水と共に流動担体式活性汚泥槽4に送給して処理してもよい。分離汚泥の残部は、微生物処理槽2の微生物濃度保持のためにポンプP
3を備える配管19を経て微生物処理槽2に返送される。
【0053】
図3の焼酎カスの処理装置は、沈殿槽3の代りにMF膜分離装置6を設けた点が
図2に示す装置と異なりその他は同様の構成とされている。この装置においても、
図2の装置と同様にオーランチオキトリウム属微生物による焼酎カスの処理と不飽和脂肪酸等の脂肪酸の製造が行われる。
【0054】
図4の焼酎カスの処理装置は、微生物処理槽2と沈殿槽3との間に凝集処理槽7を設けた点が
図2に示す装置と異なりその他は同様の構成とされている。この装置では、微生物処理槽2からの微生物処理水は、配管13Aより凝集処理槽7の急速撹拌槽7Aに導入され、配管20からの凝集剤が添加混合され、更に緩速撹拌槽7Bで凝集処理された後、配管13Bを経て沈殿槽3に送給される。この装置においても、微生物処理水が固液分離に先立ち凝集処理される他は、
図2の装置と同様にオーランチオキトリウム属微生物による焼酎カスの処理と不飽和脂肪酸等の脂肪酸の製造が行われる。
【0055】
なお、
図2〜4の装置は、本発明の焼酎カスの処理装置の実施の形態の一例を示すものであって、本発明の焼酎カスの処理装置は何ら図示のものに限定されない。
【0056】
例えば、
図2〜4では、二次処理槽として流動担体式活性汚泥槽4を用いており、流動担体式活性汚泥槽4の処理水出口のスクリーン4Aにより担体の分離と共に固液分離が行われるため、流動担体式活性汚泥槽2の後段の固液分離手段が省略されているが、流動担体式活性汚泥槽等の二次処理槽の後段に沈殿槽や膜分離装置等の固液分離手段が設けられてもよい。
また、二次処理槽は、メタン発酵槽等の嫌気性処理槽であってもよく、嫌気性処理と好気性処理の二段処理であってもよい。
【0057】
なお、
図2〜4に示されるような微生物処理槽2で焼酎カスの処理とオーランチオキトリウム属微生物の培養を行う場合、焼酎カス又はその分離液の滞留時間には特に制限はないが、HRT(水理学的滞留時間)15〜50hr、SRT(汚泥滞留時間)50〜100hrで処理することが好ましい。
また、沈殿槽3等の固液分離手段で微生物処理水を固液分離して得られた分離汚泥の一部から菌体を回収し、残部を微生物処理槽2に返送する場合、分離汚泥のうちの50〜90%を菌体回収に供し、その残部を返送するようにすることが処理効率の面で好ましい。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
以下の方法で、山口県沿岸の海水からオーランチオキトリウム属微生物(オーランチオキトリウム属微生物mh1602株)を採取した。
採取した海水100mLに少量の松花粉を添加し、一週間放置した後に松花粉とその周辺の海水を、後述の焼酎カスを遠心分離処理して得られた分離液を人工海水で2倍に希釈したのち、抗生物質としてペニシリンGカリウムおよびトレプトマイシン硫酸塩をそれぞれ500mg/L添加し1.5%寒天で固化した寒天培地に塗布し、微生物のコロニーを形成させた。コロニーを同じ寒天培地に3回以上、植継ぎを行い、微生物を単離した。単離した微生物を、後述の焼酎カスを遠心分離処理して得られた分離液を人工海水で2倍に希釈したのち、pHを7.0に調整した液(5mL)で試験管培養し、増殖させた細胞の顕微鏡観察結果と、細胞から抽出した脂肪酸組成の分析結果からオーランチオキトリウム属微生物と判定された微生物を選抜した。
【0060】
[実施例1]
オーランチオキトリウム属微生物mh1602株を用い、
図2に示す構成の試験装置で、芋焼酎製造工程から排出される焼酎カスの処理を行った。試験に用いた焼酎カスの組成は下記表1に示す通りである。また、試験前には貯槽1、微生物処理槽2、沈殿槽3、およびこれらに接続する配管に有効塩素濃度10〜20mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を20時間流通させ、装置内部の殺菌処理を行った。
【0061】
【表1】
【0062】
上記組成の焼酎カスを遠心分離処理して得られた分離液を、貯槽1を経て、オーランチオキトリウム属微生物mh1602株を保持する微生物処理槽(オーランチオキトリウム属微生物槽)2に送給し、この微生物処理槽2に無機塩類として、人工海水原料塩(マリンアートSF−1:大阪薬研株式会社商品)を添加し、処理水量0.5L/hrの条件で試験を実施した。この人工海水原料塩の添加で微生物処理槽2内の液中の無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウムを主体とする。)の濃度は約1.5重量%となった。微生物処理槽2内の液のpHは水酸化ナトリウムを用いて6.5〜7.5の範囲に調整した。また、微生物処理槽1内の液中のオーランチオキトリウム属微生物濃度は、菌体の乾燥重量濃度で9〜11g/Lとし、液温は28℃とした。
【0063】
微生物処理槽1の容量は15Lとし、HRTが30hr、SRTが60〜70hrとなるように運転した。
【0064】
沈殿槽3の容量は0.8L、レーキ周速1rpmで、水面積負荷が13m
3/m
2/日となるようにし、分離水(一次処理水、SS濃度20〜30mg/L)と分離汚泥(培養物、SS濃度50〜100g/L)を得、分離汚泥のうち50〜60%を微生物処理槽1に返送し、残部を遠心分離機5で遠心分離して菌体(スラリー、含水率90%前後)を回収した。遠心分離機5としては、実験用遠心分離機を使用し、スクリューデカンタ型遠心分離機と同等の遠心力(2,000〜3,000G)となるように回転数を調整した。
流動担体式活性汚泥槽4には、生物担体方式生物膜法の小型試験装置(バイオマイティSK:栗田工業株式会社商品)を用い、3mm角のポリウレタンスポンジを見掛け容量で50%となるように投入し、沈殿槽3の分離水(一次処理水)を導入して1.0kg−BOD/m
3/日の負荷量で運転を行った。
【0065】
この処理試験における原水(焼酎カスを遠心分離処理して得られた分離液)、一次処理水(沈殿槽3の分離水)、及び二次処理水(流動担体式活性汚泥槽4の流出水)の水質の分析結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示す通り、本発明により、焼酎カスを問題なく処理できることが確認された。
【0068】
遠心分離機5で回収した菌体の細胞内に蓄積された脂肪酸をジクロロメタンで抽出し、塩酸を10重量%濃度混合したメタノールを用いてメチルエステル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析し、その結果を
図5に示した。
このガスクロマトグラフィー分析結果から、回収したオーランチオキトリウム属微生物の菌体には、脂肪酸が40重量%蓄積されており、うち38重量%がDHAを主にする不飽和脂肪酸であることが確認された。
【0069】
以上の結果から、本発明によれば、焼酎カスの処理と同時に、有価物である不飽和脂肪酸を含む脂肪酸を製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1 貯槽
2 微生物処理槽
3 沈殿槽
4 流動担体式活性汚泥槽
5 遠心分離機
6 MF膜分離装置
7 凝集処理槽