(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶媒(b)が、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィドおよび1,3−ジフェニルアセトンからなる群から選ばれる1種以上の溶媒である請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の製造方法。
前記工程5前後における前記ポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の寸法変化率が、30%以下である、請求項1〜3の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の製造方法。
前記工程5前における前記ポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の結晶化度が30〜60%の範囲である請求項1〜4の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維の製造方法は、
先端にダイを取り付けた溶融混練押出機でポリアリーレンスルフィド樹脂(a)と該樹脂(a)を溶解可能な溶媒(b)とを加熱溶融させて相溶した溶解物を得る工程1、
得られた当該溶解物をダイに送り込む工程2、
ダイの樹脂吐出口からストランドを吐出し、ダイの樹脂吐出口に隣接して設置したエア吐出口から樹脂溶融温度より高い温度のエアによりストランドを延伸して微細化した繊維を得る工程3、
得られた繊維をコレクタに捕集する工程4、
得られた繊維の集合体を結晶化温度から融点の範囲内でアニール処理する工程5、
得られた繊維の集合体から前記溶媒(b)を除去する工程6、
を有することを特徴とする。
【0011】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂)
本発明に好ましく使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS樹脂)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記式(1)
【0012】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
ここで、前記式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR
1及びR
2は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(2)で表されるパラ位で結合するものが好ましいものとして挙げられる。
【0013】
【化2】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0014】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(3)〜(6)
【0015】
【化3】
で表される構造部位を、前記式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記式(3)〜(6)で表される構造部位は10モル%以下であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂中に、上記式(3)〜(6)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、その分子構造中に、下記式(7)
【0016】
【化4】
で表される3官能性の構造部位、或いは、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0017】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0018】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が1〜1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから1〜100〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、特に5〜50〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。但し、本発明において、溶融粘度(V6)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Cを用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10/1にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した値とする。
【0019】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90〜2.00の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が0.90〜1.50の範囲であることが好ましく、さらに0.95〜1.20の範囲であることがより好ましい。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
【0020】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
−1)、SSは剪断応力(dyn/cm
2)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0021】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)ジハロゲノ芳香族化合物と、更に必要ならばその他の共重合成分とを、硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、2)ジハロゲノ芳香族化合物と、更に必要ならばその他の共重合成分とを、極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下に、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールと、更に必要ならばその他の共重合成分とを自己縮合させる方法、4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄と必要に応じて重合禁止剤とを重合触媒の存在下で溶融重合する方法等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)の方法の中でも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物を含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でポリハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。
【0022】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解可能な溶媒)
次に、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)を溶解可能な溶媒(b)としては、融点が100℃以下で、かつポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解可能な溶媒であれば特に限定されるものではないが、融点が100℃以下で、ハンセン溶解パラメータ(以下、SP値ということがある)が24.0〜48.0〔MPa
1/2〕の範囲の溶媒が、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)を分子レベルで相溶させることができるため、好ましい溶媒として挙げられる。ただし、本発明で用いるハンセン溶解パラメータは、溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂の親和性を評価するために用いられるパラメータであり、溶剤の溶解パラメータを定義する方法として当業者には良く知られており、例えば「INDUSTRIAL SOLVENTSHANDBOOK」(pp.35−68、Marcel Dekker, Inc.、1996年発行)や、「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS:A USER’S HANDBOOK」(pp.1−41,CRC Press,1999)「DIRECTORYOF SOLVENTS」(pp.22−29、Blackie Academic & Professional、1996年発行)などに記載されている。本発明においてハンセン溶解度パラメータは、溶媒の化学構造に基づいてハンセン溶解度パラメータを算出してもよいし、また前記参考文献中に記載された値のものを用いてもよい。溶媒の化学構造に基づいてハンセン溶解度パラメータを算出する場合には、HSPソフトに溶媒の構造式を入力して、計算することができる。具体的には、チャールズハンセンらによって開発されたソフトフェア(ソフト名:Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP)Version 3.0.38)で求めることができる。算出は、溶媒温度を25℃として行うものとする。
【0023】
このような溶媒(b)として、具体的にはベンゾフェノン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、4,4’−ジブロモビフェニル、1−フェニルナフタレン、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジフェニルオキサゾール、トリフェニルメタノール、N,N−ジフェニルホルムアミド、ベンジル、アントラセン、4−ベンゾイルビフェニル、ジベンゾイルメタン、2−ビフェニルカルボン酸、ジベンゾチオフェン、ペンタクロロフエノール、1−ベンジル−2−ピロリジオン、9−フルオレノン、2−ベンゾイルナフタレン、1−ブロモナフタレン、1,3−ジフェノキシベンゼン、フルオレン、1−フェニル−2−ピロリジノン、1−メトキシナフタレン、1−エトキシナフタレン、1,3−ジフェニルアセトン、1,4−ジベンゾイルプタン、フェナントレン、4−ベンゾイルビフェニル、1,1−ジフェニルアセトン、0,0’−ビフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、トリフェニレン、2−フェニルフェノール、チアントレン、3−フェノキシベンジルアルコール、4−フェニルフェノール、9,10−ジクロロアントラセン、トリフェニルメタン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、9,10−ジフェニルアントラセン、フルオランテン、ジフェニルフタレート、ジフェニルカルボネート、2,6−ジメトキシナフタレン、2,7−ジメトキシナフタレン、4−ブロモジフェニルエーテル、ピレン、9,9’−ビ−フルオレン、4,4’−イソプロピルリデン−ジフェノール、イプシロン−カプロラクタム、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ジフェニルイソフタレート及びジフェニルーターフタレート、1−クロロナフタレンからなる群から選ばれる1種以上の溶媒が挙げられる。
【0024】
このうち、沸点が255℃以上と高く、SP値がポリアリーレンスルフィド樹脂(SP値42.2)に近く、相溶性が優れることから好ましい。例えば、ベンゾフェノン(SP値41.2)、ジフェニルエーテル(SP値40.0)、ジフェニルスルフィド(SP値40.2)、1,3−ジフェニルアセトン(SP値42.4)、4−ブロモジフェニルエーテル(SP値44.7)、4−ブロモビフェニル(SP値42.4)、2−ベンゾイルナフタレン(SP値45.1)、2−フェニルフェノール(SP値46.8)からなる群から選ばれる1種以上の溶媒であることが好ましい。特に、常温で固体であることからベンゾフェノン、1,3−ジフェニルアセトン、4−ブロモビフェニル、2−ベンゾイルナフタレン、2−フェニルフェノールが好ましい。
【0025】
さらに上記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)と前記溶媒(b)に加え、本発明の特性を損ねない範囲で他の添加剤、例えば、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、滑材、顔料、染料、有機ないし無機の微粒子、充填材、核剤などを配合することもできる。
【0026】
(工程1)
工程1は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)と、前記溶媒(b)とを加熱溶解させて相溶した溶解物を得る工程である。ここで、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)と前記溶媒(b)との加熱溶解は、非酸化性雰囲気下で行っても良い。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指す。また、加熱溶解の温度としては、前記溶媒(b)の融点以上の範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃〜融点+50℃の温度範囲であるが、具体的な例を挙げれば、200〜350〔℃〕の範囲であることが好ましい。
【0027】
さらに、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)と前記溶媒(b)との配合割合は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)と前記溶媒(b)の合計100質量部に対して、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)が50〜95質量部の範囲で、かつ前記溶媒(b)が、50〜5質量部の範囲であることが好ましく、さらにポリアリーレンスルフィド樹脂(a)が70〜95質量部の範囲で、かつ前記溶媒(b)が、30〜5質量部の範囲であることがより好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)が50質量部以上であれば流体粘度が均質となるため好ましく、また、生産性の観点から70質量部以上がより好ましく、一方、95質量部以下、より好ましくは90質量部以下だと、熱処理工程における熱収縮の抑制に優れる傾向となるため好ましい。
【0028】
溶融混練条件は本発明の効果を損ねない限り特に限定されるものではないが、例えば、樹脂成分の吐出量が0.6〜30(g/min)の範囲となる条件下に溶融混練することが好ましい。
【0029】
また前記樹脂(a)および溶媒(b)に、任意成分として添加剤を加える場合は、事前にタンブラー又はヘンシェルミキサーなどで均一に予備混合してから、二軸混練押出機などの溶融混練押出機に投入し、溶融混練することが好ましい。
【0030】
(工程2〜3)
溶融混練押出機で溶融された前記樹脂(a)および溶媒(b)の溶解物は、樹脂吐出口を有するダイに送り込まれ、さらに当該ダイから吐出される。
【0031】
本実施形態に係る繊維の断面形状は特に制限されるものではなく、通常の円形断面のみならず、三角形断面、四角形断面、Y字断面、十字断面、C型断面、中空断面、田型断面等の異形断面を採用することができ、所望も断面形状に合わせて吐出口の断面形状を適宜選択することができる。
【0032】
樹脂吐出口の内径(ノズル孔内径)は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、繊維の微細化と吐出安定性の観点から、0.3〜1.0mmφの範囲が好ましく、さらに0.4〜0、9mmφの範囲がより好ましい。
【0033】
ダイ温度は、溶融混練押出機において樹脂を溶融混練させた温度と同じ範囲とすることが好ましいが、具体的には、樹脂の溶融温度より+10〜100℃とすることが好ましく、さらに樹脂の融点+10〜50℃とすることがより好ましい。融点+10℃以上であれば、樹脂の固化を防ぎ、十分な延伸が進展するため好ましい。一方、融点+50℃以下であれば、樹脂のゲル化や酸化を防止することができるため好ましい。
【0034】
樹脂吐出口からの溶解物の吐出量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、0.5〜30.0g/min/孔の範囲とすることが好ましく、さらに0.7〜20.0g/min/孔の範囲とすることがより好ましい。0.5g/min/孔以上であれば、吐出の安定性が確保できるため好ましく、一方、30.0g/min/孔以下であれば、得られた繊維の微細化の観点から好ましい。
【0035】
樹脂吐出口からの溶解物の吐出速度(V1)は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、0.05〜2.80m/sの範囲とすることが好ましく、さらに0.07〜1.90m/sの範囲とすることがより好ましい。
【0036】
樹脂吐出口から溶解物を吐出すると同時に、該樹脂吐出口に隣接して設けられたエア吐出口から吐出させたダイ温度より高い温度のエアにより、ストランド状に吐出された溶融ポリマーを延伸して微細化した繊維を得る。
【0037】
エア吐出口の形状および口径は、本発明の効果を損ねない限りは特に限定されないが、例えば、一つ孔の場合は、口径が1.0〜5.0mmφの範囲とすることが好ましく、さらに2.0〜4.0mmφの範囲とすることがより好ましい。気流安定化の観点から2.0mmφ以上が好ましく、一方、エア温度およびエア速度の低下抑制の観点から4.0mmφ以下が好ましい。尚、エア吐出口の形状は、一つ孔以外にも、スリットタイプや複数孔等であっても良い。
【0038】
エア吐出口から吐出される際のエアの温度は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、樹脂溶融温度より高い温度、好ましくは樹脂溶融温度より+10〜100℃高い温度の範囲、さらに好ましくは樹脂溶融温度より+10〜50℃高い温度の範囲である。樹脂溶融温度より10℃高い温度以上の温度範囲であれば、溶融ポリマーの固化を防ぐことができ、一方、樹脂の溶融温度より50℃高い温度以下の温度範囲であれば、樹脂のゲル化や酸化を防ぐことができるため好ましい。
【0039】
エア吐出口からエアを吐出する際の速度(エア吐出速度(V2))は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、300〜1200mm/sの範囲とすることが好ましく、さらに500〜1000mm/sの範囲とすることがより好ましい。500mm/s以上であれば繊維が微細化するため好ましく、一方、1000mm/s以下であればエアにより形成される気流の安定化の観点から好ましい。
【0040】
エアの成分は、生産性の観点から大気を用いるが、本発明の効果を損ねなければ特に限定されず、酸素を遮断し、溶融ポリマーのゲル化や酸化を防止する観点から、窒素エアなどの不活性エアを用いても良い。
【0041】
樹脂吐出口から吐出するストランドの速度(V1)に対する、エア吐出口におけるエアの速度(V2)の速度比率(V2/V1)は本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、1μm以下のサブミクロン単位の繊維径の繊維を容易に製造することができる観点から1×10
2〜150×10
2の範囲であることが好ましく、さらに4×10
2〜120×10
2の範囲であることがより好ましい。
【0042】
樹脂吐出口におけるストランドの吐出方向と、エア吐出口におけるエアの吐出方向は、特に平行である必要はなく限定されないが、紡糸時における樹脂の安定吐出、繊維の微細化の観点から略並行であることが好ましい。樹脂吐出口におけるストランドの吐出方向と、エア吐出口におけるエアの吐出方向との角度は、ダイに設けられたノズルの吐出方向の中心線とエア吐出孔の吐出方向の中心線とが、設定した角度となるよう設計および製造するが好ましい。なお、略並行とは、樹脂吐出口におけるストランドの吐出方向(ノズルの吐出方向の中心線)と、エア吐出口におけるエアの吐出方向(エア吐出孔の吐出方向の中心線)とのなす角度が0°であることが好ましいが、−20°〜+20°の範囲内であってもよいことを意味する。
【0043】
エア吐出口5と、樹脂吐出口との距離は、2〜20mmの範囲、このましくは、5〜10mmの範囲である。
【0044】
(工程4)
得られたポリアリーレンスルフィド樹脂繊維は、コレクタ部において捕集され、ポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体として得られる。
【0045】
樹脂吐出口とコレクタ部との距離は本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、30〜300cmの範囲であることが好ましく、さらに100〜200cmの範囲であることがより好ましい。30cm以上であれば、溶融樹脂の高温状態維持が可能となり、エアによる延伸効果を受ける時間が長くなるため細径化にとっては好ましく、一方、300cm以下であれば、エア圧が低下しコレクタでの繊維捕集が容易であるため好ましい。
【0046】
コレクタも本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、ロールで連続的に捕集できる装置であることが好ましい。
【0047】
また、本発明の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と溶媒とが相溶化した状態から急冷するため、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)単独で急冷した場合と比べ、ラメラ構造をとりやすいという特徴を有する。そのため、アニール処理前のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体であっても、結晶化度がより高い状態で得られる。このため、50nm〜10μmの範囲と言った極細繊維であるにもかかわらず、アニール処理を施しても寸法変化(加熱収縮)率を、例えば30%以下の範囲、好ましくは15%以下の範囲にまで抑えることができる。したがって、アニール処理を行う際、繊維ないし繊維集合体自体に張力(テンション)をかけて固定する必要がなく、目付の小さい不織布や、綿状の繊維集合体を作成することができる。
【0048】
ここで、本発明の製造方法の工程4を経て得られる、アニール処理前のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の結晶化度は、特に限定されるものではないが、好ましくは30〜60%の範囲、より好ましくは40〜60%の範囲である。
【0049】
(工程5〜6)
続いて、工程4で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化温度から融点の範囲内でアニール処理する工程5と、当該繊維集合体から前記溶媒(b)を除去する工程6、とを行う。
【0050】
上記アニール処理は、例えば、繊維集合体が、用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化温度以上、融点以下の範囲となるよう、好ましくは結晶化温度と融点の中間温度範囲となるよう行う。具体的な方法としては、当該繊維集合体に対し、高温熱風を、好ましくは1〜5m/秒の風速にて20〜180秒間、当てる方法、赤外線を照射する方法、所定の温度に加熱した2対のロール間を加圧せずに沿わせて加温処理する方法、当該繊維集合体の両端をピンテンターで挟み所定温度に加温処理する方法などにより実施することができる。当該アニール処理によって結晶状態がより安定化される。
【0051】
工程5におけるアニール処理と工程6における溶媒の除去処理とは、この順で行っても良いし、同時に行うこともできる。
【0052】
また、アニール処理後のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の結晶化度は、特に限定されるものではないが、31%〜61%の範囲とすることが好ましく、さらに36%〜61%の範囲とすることがより好ましく、さらに41%〜61%の範囲とすることが特に好ましい。
【0053】
得られた繊維の集合体から前記溶媒(b)を除去する方法としては、公知の溶媒乾燥方法を採用することができ、例えば、温風乾燥、赤外線乾燥、真空乾燥などの洗浄溶媒を蒸発させる方法や、吸引乾燥、蒸気乾燥などの液きりと蒸発を併せて行う方法、エアナイフ水切り、スピン乾燥、絞りロール乾燥などの液きりを利用した乾燥方法、などが挙げられる。効率よく、溶媒を除去できることからこれらを併用することが好ましい。
【0054】
例えば、スポンジなどの吸水素材でできたローラーで繊維集合体を挟みながら送り、溶媒を吸い取って除去した後に、当該繊維集合体に高温の温風を吹き付けたり、または、赤外線を照射して、繊維集合体が沸騰点以上になるよう加熱するか、あるいは溶媒の蒸気圧よりも減圧することにより溶媒を沸騰させ、当該繊維集合体から溶媒を蒸発させて除去する方法、さらには、前記溶媒(b)を、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が溶解ないし膨潤しない溶媒で、かつ前記溶媒(b)と相溶する溶媒(c)に置き換え、その溶媒(c)を乾かす方法などが挙げられる。このような溶媒(c)の例としては、アセトン、メタノール、エタノール等の脂肪族アルコール、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。
【0055】
上記の溶媒の除去処理により、繊維集合体中に残存する前記溶媒の含有量を0.01質量%以下にすることが好ましく(乾燥後の繊維集合体質量を100質量%とする)、検出限界以下とすることがより好ましい。乾燥が不十分で繊維集合体中に前記溶媒が多量に残存していると、その後、繊維集合体に二次加工を施す際に操作性が悪化するので好ましくない。
【0056】
さらに、工程1〜6を経て得られたポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体は、さらに架橋処理や親水化処理、コロナ処理機、プラズマ処理機、オゾン処理機、火炎処理機などの公知の表面処理を施すことも可能である。
【0057】
上記の製造方法により得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体は、サブミクロン以下からミクロンオーダーの範囲まで繊維径の制御が容易であることから、得られる繊維の繊維径(直径)は、特に限定されるものではないが、好ましくは10μm以下の範囲であり、さらに好ましくは5μm以下の範囲であり、より好ましくは1μm以下の範囲である。また、繊維径の下限も特に制限されないが、好ましくは50nm以上の範囲、さらに好ましくは100nm以上の範囲である。
【0058】
当該繊維径は、走査型電子顕微鏡により測定される繊維径である。具体的には、例えば、SEM 日立製作所製S−2380N型等を用いて測定される。
【0059】
上記の製造方法により得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体の目付は特に限定されないが、例えば、10〜500g/m
2の範囲で、目的に応じた目付(JIS L1085に準じて10cm×10cmとして測定した値)とすることができる。特に、本発明の製造方法は、アニール処理で繊維ないし繊維集合体自体に張力(テンション)をかける必要がないため、紡糸プロセスの選択性に優れ、10〜100g/m
2といった目付の小さい不織布や綿状の繊維集合体を製造することができる。
【0060】
以下、本発明で使用する装置の一例を説明するが、本発明は当該装置に限定されるものではない。本発明に使用する装置は、溶融混練押出機と、該押出機にポリアリーレンスルフィド樹脂を供給するホッパーと、押出機の先端に設けられたダイと、ダイの先端に取り付けた樹脂吐出口となるノズル、当該ノズルに隣接して設けられたエア吐出口、樹脂吐出口から所定の距離の位置に設けられたコレクターローラーとを有する。ダイには、エア輸送管を通して、エア供給装置から、ヒーターで加熱されたエアが供給されている。
【0061】
ダイは、上部ダイプレートとヒーターを内部に有する下部ダイプレートとからなる。上部ダイプレートと下部ダイプレートは組み合わせることにより、ダイ内部に加熱したエアを貯めるエアチャンバーが形成されている。また、エアチャンバーには、前記エア輸送管が接続され、加熱されたエアが供給されている。一方、押出機で溶融された溶解物は、導入口を介して樹脂チャンバーに溜り、ヒーターで溶融状態を維持するよう加熱され、続いてノズルを通り、樹脂吐出口からストランド状に吐出される。
【0062】
さらに、コレクターローラーに捕集されたポリアリーレンスルフィド樹脂繊維が捕集面上に集積される。
【0063】
また、本発明の製造方法により得られる、非晶性のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体は、非晶質状態で極細繊維化されるものの、アニール処理による加熱収縮を抑えることができる。したがってアニール処理を行う際、常に繊維自体に張力(テンション)をかけて固定する必要がなく、目付の小さい不織布や、綿状の繊維集合体を作成することができる。
【0064】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂繊維集合体は、ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備していることから、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、OA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の分野で用いられる繊維として使用することができる。より具体的には、リチウムイオンバッテリー等に用いられるセパレータや、バグフィルター等に用いられるフィルター用に好適に用いることができる。これらの用途に用いる際には、本実施形態に係る繊維集合体を単独で使用してもよく、その他の繊維と適宜組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0066】
(実施例1)
図1、2に記載された装置を用い、DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂DIC.PPS(300℃におけるV6溶融粘度10Pa・s、非NT指数1.1)8000gとベンゾフェノン(DPK溶媒)2000gとを混ぜ合わせた後、押出機(温度300℃)で溶融混練し、ダイ(樹脂チャンバー設定温度300℃)に送り込み、その後、ダイに設けた径0.71mmのノズルの先端の樹脂吐出口から、樹脂吐出量1.5g/min、樹脂吐出速度(V1)0.14m/secでストランド状に溶融樹脂を吐出し、同時に、ダイに設けたエア吐出口からエア温度360℃、エア流量75リットル/min、エア流速(V2)830m/secでエアを吐出し、ストランド状に吐出した溶融樹脂を延伸した。なお、樹脂吐出口−エア吐出口5mm、樹脂吐出口−コレクタ間隔150cm、ノズル4の吐出方向の中心線(ψ4a)とエア吐出孔5の吐出方向の中心線(ψ5)のなす角度が0度(略並行)となる条件で溶融樹脂をエアで延伸し、PPS樹脂繊維集合体(α−1)を得た。
【0067】
続いて、PPS樹脂繊維集合体(α−1)を、真空乾燥機を用いて180℃まで昇温し、5分間保持した。その後、真空乾燥機からサンプルを取り出して、室温(23℃)まで冷却し、PPS樹脂繊維集合体(β−1)を得た。得られたPPS樹脂繊維集合体(α−1)および(β−1)について各種測定を行った結果を表1に記載した。
【0068】
(実施例2〜6)
表1、2に記載した組成比、製造条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PPS樹脂繊維集合体(α−2)〜(α−6)、PPS樹脂繊維集合体(β−2)〜(β−6)を得た。得られたPPS樹脂繊維集合体(α−2)〜(α−6)および(β−2)〜(β−6)について各種測定を行った結果を表1、2に記載した。
【0069】
(参考例1)
※アセトン溶剤によるDPK溶媒除去効果を調べるため、加熱工程(アニール工程)を施さずに、PPS樹脂繊維集合体を調製した。
【0070】
表1、2に記載した組成比、製造条件に変更したこと以外は、実施例1のPPS樹脂繊維集合体(α−1)を得る工程と同様にして、PPS樹脂繊維集合体(α−7)を得た。
続いて、PPS樹脂繊維集合体(α−7)を、アセトン溶剤に24時間浸漬させてDPK溶媒を除去した後、常温で24時間放置しPPS樹脂繊維集合体(β−7)を得た。得られたPPS樹脂繊維集合体(α−7)および(β−7)について各種測定を行った結果を表2に記載した。
【0071】
(比較例1)
表2に記載した組成、製造条件としたこと以外は、実施例1と同様にして、PPS樹脂繊維集合体(α−8)、PPS樹脂繊維集合体(β−8)を得た。得られたPPS樹脂繊維集合体(α−8)および(β−8)について各種測定を行った結果を表2に記載した。
【0072】
ただし、上記実施例および比較例中の各測定値は以下の方法で測定した。
【0073】
(結晶化度/結晶化温度の測定)
PPS樹脂繊維集合体(α−1)〜(α−8)について、結晶化度を以下の方法で測定した。すなわち、株式会社パーキンエルマー製示差走査熱量測定装置「DSC8500」を用いて、サンプルとしてPPS樹脂繊維集合体(α−1)〜(α−8)5mgを昇温速度20℃/minで40℃から350℃まで昇温し、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化温度付近における発熱量(ΔH
c、単位はJ/g)、および融点付近の温度における吸熱量(ΔH
f、単位はJ/g)を測定した。得られた熱量(J/g)から、下記式に基づき、結晶化度X
c(%)を算出した。ただし、
【0074】
【数2】
ただし、ΔH
0fは完全結晶体融解熱量を表し、代表的に用いられる「80J/g」として計算した(Brady,D.G. Journal of Applied Polymer Science 1976,20,pp2541-2551より)。
【0075】
(PPS樹脂繊維集合体の加熱収縮時の寸法変化率)
PPS樹脂繊維集合体(α−1)〜(α−8)について、100mm角の不織布状サンプルを作製するために、目付け100g/m
2に調整した繊維集合体を80℃で熱プレスを行った。得られたサンプルに測定区間をマーキングし、任意の3か所を測定した(
図5)。次に、前記サンプルを、オーブンにより150℃、5分間の条件下で熱処理し、室温に戻した後、前記測定区間について再び測定した。得られた測定値をもとに下記式により加熱収縮時の寸法変化率ΔL(%)から、平均値を算出した。
【0076】
【数3】
L
0:熱処理前の測定区間の長さ(mm)
L:熱処理後の測定区間の長さ(mm)
【0077】
(PPS樹脂繊維集合体中のDPK残留率の測定)
PPS樹脂繊維集合体(β−1)〜(β−8)中のDPKの残留率R(wt%)は、以下の方法で測定した。すなわち、示差熱天秤(株式会社リガク製示差熱天秤「TG−8120」)を用い、サンプルとしてPPS樹脂繊維集合体(β−1)〜(β−8)を秤量(PPS繊維集合体の初期重量)した後、昇温速度10℃/minで23℃から480℃まで昇温して、再度、秤量(PPS繊維集合体の加熱後重量)した。「PPS繊維集合体の初期重量」から「PPS繊維集合体の加熱後重量」を差し引いた値を「サンプル繊維の重量減少量」とした。実施例1〜5、比較例1の各サンプル繊維について測定し、以下の式より、DPK残留率R(wt%)を算出した。
【0078】
【数4】
ただし、
ΔW
n:実施例1〜5の各サンプル(PPS繊維集合体)の重量減少量
ΔW
0:比較例1のサンプル(PPS繊維集合体)の重量減少量
W
n :実施例1〜5の各サンプル(PPS繊維集合体)の初期重量
【0079】
(平均繊維径)
ポリフェニレンスルフィド繊維に白金−パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM 日立製作所製S−2380N型)で観察した。
【0080】
繊維径は、繊維径の確認が可能である倍率(1000倍)にて、重複しない任意の20箇所を選出し、さらに、当該20箇所において任意の5点の繊維を抽出し、所定の倍率(3000倍)にて繊維径を確認した。上記100点(20箇所×5点)の得られた繊維径の数平均を算出して、当該サンプルの平均繊維径とした。
【0081】
【表1】
※1 吐出孔における測定値
【0082】
【表2】
※1 吐出孔における測定値
※2 繊維凝集により測定不可