(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術の微細化が進行し、最先端プロセスでは線幅が20nm、さらには10nm世代が採用されてきている。また、半導体製造技術の微細化に伴って、加工技術の難度も向上しており、使用する材料、装置、加工方法等、多方面からのアプローチにより技術開発が進められている。
【0003】
このような背景から、本出願人も、最先端のプラズマエッチングプロセスに対応できるプラズマエッチング用ガスを開発し、フッ素原子数の少ない飽和フッ素化非メタン系炭化水素が、現在、窒化シリコン膜のエッチングに広く用いられているモノフルオロメタンを凌ぐ性能を有することを見出している(特許文献1)。
しかしながら、近年、半導体製造技術の微細化がますます進行しており、プラズマエッチングプロセスに用いるプラズマエッチング用ガスにも、より高性能なものが求められている。
【0004】
イソブチルフルオリド及びt−ブチルフルオリドには、いくつかの製造方法が知られている。
(a)イソブチルフルオリドの製造方法としては以下の方法が開示されている。
特許文献2においては、イソブチルアルコールをピリジン存在下に、クロロトリメチルシランを反応させて、1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロパンに変換し、これをフッ素化剤であるジエチルアミノサルファートリフルオリドと接触させることにより、イソブチルフルオリドと、t−ブチルフルオリドの混合物を得る方法が記載されている。
(b)t−ブチルフルオリドの製造方法としては、特許文献3には、六フッ化硫黄に、t−ブチルリチウムのn−ペンタン溶液を接触させて、フッ化t−ブチル(t−ブチルフルオリド)の生成を確認したことが記載されている。
また、非特許文献1には、t−ブタノールをフッ素化剤であるヘキサフルオロプロペンのジエチルアミン付加物と接触させることにより、t−ブチルフルオリドを収率78%で得たことが記載されている。
非特許文献2には、t−ブタノールを60%フッ化水素酸で処理することにより、収率60%でt−ブチルフルオリドが得られたことが記載されている。
非特許文献3には、2−メチルプロペンに、フッ化水素−ピリジン錯体をフッ素化剤に用いて、フッ化水素を付加させることにより、t−ブチルフルオリドが収率60%で得られたことが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)高純度フッ素化炭化水素
本発明の第1は、純度が99.9容量%以上、含まれるブテン類が合計で1000容量ppm以下であることを特徴とする、式(1):R−F(式中、Rは、イソブチル基又はt−ブチル基を表す。)で表されるフッ素化炭化水素である(以下、「フッ素化炭化水素(1)」ということがある。)。フッ素化炭化水素(1)は、具体的には、イソブチルフルオリド及びt−ブチルフルオリドである。
【0012】
本発明において、フッ素化炭化水素(1)の純度とブテン類の含有量は、いずれも水素炎イオン化検出器(FID)を検出器としたガスクロマトグラフィーによりピーク面積から算出される値である。また、ブテン類は、ガスクロマトグラフィー質量分析により同定することができる。
フッ素化炭化水素(1)中の窒素と酸素の量は、熱電導度検出器(TCD)を検出器としたガスクロマトグラフィーにより測定した値である。
また、フッ素化炭化水素(1)中の水分量は、FT−IRを用いて測定した値である。
【0013】
フッ素化炭化水素(1)に含まれるブテン類は、1−ブテン(沸点−6.3℃)、2−ブテン((E)−2−ブテン(沸点3.73℃)と(Z)−2−ブテン(沸点0.88℃))及びイソブテン(沸点−6.9℃)の総称である。フッ素化炭化水素(1)中に存在する1種以上のブテンは、すべて不純物である。
【0014】
フッ素化炭化水素(1)のうち、イソブチルフルオリドは、イソブタノールにフッ素化剤を用いてフッ素化する方法;イソブチルブロミド又はアルキルスルホン酸イソブチルエステルを、フッ化カリウムやフッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物で処理する方法;等の方法により製造することができる。
【0015】
また、t−ブチルフルオリドは、t−ブタノールに、フッ化水素酸又はフッ化水素のアミン錯体等で処理する方法等により製造することができる。
【0016】
上記製造方法により得られた、粗フッ素化炭化水素(1)は、蒸留精製(精留)することにより精製することができる。精留等の精製方法により、フッ素化炭化水素(1)中に含まれるブテン類の量は1000容量ppm以下、好ましくは500容量ppm以下に低減することができる。
【0017】
粗フッ素化炭化水素(1)は、蒸留精製に付されることにより、ブテン類をはじめとする有機系不純物が除去される。
蒸留精製により有機系不純物を除去する場合、適度な理論段数を持つ精留塔が用いられる。理論段数は通常10段以上、50段程度以下であり、好ましくは20段以上、50段程度以下である。
【0018】
不純物であるブテン類は沸点が5℃以下であるため、例えば常温環境下等、ブテン類の沸点以上の温度条件下では、精留塔の留分抜き出しライン内での気化現象により、目的とするイソブチルフルオリド(沸点20〜22℃)又はt−ブチルフルオリド(沸点12〜13℃)との分離が見かけ上悪くなる。よって、留分抜き出しラインや初留分を貯留する容器は良く冷却されていることが好ましい。
【0019】
精留時の圧力は、ゲージ圧で、通常常圧〜10気圧、好ましくは常圧〜5気圧程度である。還流量と抜出量の比(以下、「還流比」と言うことがある)は、ガス状態に成りやすいブテン類、とりわけイソブテンを効率良く分離するために、還流比30:1以上に設定するのが好ましい。還流比が小さすぎるとブテン類が効率良く分離されず、純度の向上幅が小さくなるばかりでなく、初留分が多くなってしまい、回収されるイソブチルフルオリド又はt−ブチルフルオリドの総量が少なくなる。逆に還流比が大きすぎると、抜き出し1回当たりの回収までに多大な時間を要すために、精留そのものに多大な時間を要し、生産性に劣る。
【0020】
精製は、回分式、連続式のいずれを採用しても良いが、回分式は製造量が少ない場合に好適に採用され、製造量が多い場合においては、精留塔を数本経由させる連続式が好適に採用される。また、抽出溶剤を加えた抽出蒸留操作を組み合わせて行っても良い。
【0021】
反応転化率が低く、原料回収を必要とする場合等には、蒸留精製においては、例えば、1回目の蒸留で原料化合物を分離し、2回目の蒸留で不純物の対象となるブテン類を分離する等段階的な蒸留を行ってもよい。その場合においても、還流比は30:1以上であることが好ましい。
【0022】
フッ素化炭化水素(1)中の窒素と酸素の含有量を低減する方法としては、前述のブテン類の除去を精留で行う場合に、周期律表第18族の不活性ガス中で精製を行う方法;フッ素化炭化水素(1)を単蒸留し、留分を抜き出す操作を行う方法;等を採用することができる。
【0023】
後者の方法による場合、単蒸留で、窒素と酸素を、フッ素化炭化水素(1)と一緒に抜き出すことにより、釜に残ったフッ素化炭化水素(1)中の窒素と酸素の量を低減することができる。
抜出すフッ素化炭化水素(1)の量は、蒸留釜に仕込まれたフッ素化炭化水素(1)に対し、重量基準で20〜50%が好ましく、30〜40%がより好ましい。抜き出されたフッ素化炭化水素(1)は貯留しておき、次のバッチに加えることで回収、再使用が可能である。
【0024】
フッ素化炭化水素(1)中の窒素の量は、好ましくは100容量ppm以下、より好ましくは80容量ppm以下であり、酸素の量は、好ましくは50容量ppm以下、より好ましくは30容量ppm以下である。
【0025】
また、フッ素化炭化水素(1)中の水分を除去する方法としては、吸着剤と接触させる等の一般的な方法を採用することができる。
吸着剤としては、合成ゼオライトである通称モレキュラーシーブやアルミナ等を用いることができる。特願2012−165797号に記載されているように、2−フルオロブタンや2,2−ジフルオロブタンのような、モノ又はジフルオロ炭化水素の乾燥については、モレキュラーシーブ3Aが好ましい。
モレキュラーシーブ4A及び5A等は細孔径が大きく、モレキュラーシーブ3A同様に水分を低減することができるが、接触時に細孔内に吸着している窒素、酸素を放出するので、フッ素化炭化水素(1)中の窒素、酸素濃度を大きくしてしまうおそれがある。
また、アルカリ性を帯びたモレキュラーシーブの使用は、フッ素化炭化水素(1)の脱HF反応を引き起こし易いので、使用に際しては注意を要する。
アルミナとしては、アルミナ水和物の加熱脱水により生成する、結晶性の低い活性アルミナの使用が好ましい。
【0026】
フッ素化炭化水素(1)と接触させる前に、モレキュラーシーブやアルミナ等の吸着剤を焼成等の操作により活性化しておくと、より多くの水分を吸着させることが可能になるので好ましい。
フッ素化炭化水素(1)と吸着剤とを接触させることにより、フッ素化炭化水素(1)中の水分量を50容量ppm以下に低減することが可能である。
フッ素化炭化水素(1)に含まれる水分量が多いと、基板をエッチング加工した後に、加工面に水分が吸着残存し、銅等の配線形成工程で積層膜の剥がれや、埋め込んだ配線の腐食を起こす恐れがあるので、水分量は可能な限り低減されていることが好ましい。
この観点から、フッ素化炭化水素(1)中の水分量は、好ましくは50容量ppm以下、より好ましくは20容量ppm以下である。
【0027】
以上に説明したように、精留することにより、反応粗生成物中に含まれる粗フッ素化炭化水素(1)を純度99.9容量%以上、且つ、ブテン類を1000容量ppm以下にする工程を経て、本発明の高純度化されたフッ素化炭化水素(1)を得ることができる。
また、さらに、得られたフッ素化炭化水素(1)を吸着剤と接触させることにより、水分を除去する工程、及び/又は、フッ素化炭化水素(1)を単蒸留することにより、フッ素化炭化水素(1)中の、窒素濃度を、好ましくは100容量ppm以下、より好ましくは50容量ppm以下、酸素濃度を、好ましくは50容量ppm以下、より好ましくは20容量ppm以下に低減する工程とを経て、さらに高純度化されたフッ素化炭化水素(1)を得ることができる。
【0028】
本発明の高純度化されたフッ素化炭化水素(1)は、半導体装置の製造分野において有用な、エッチング及び化学気相成長法(CVD)等のプラズマエッチング用ガス、含フッ素医薬中間体、あるいはハイドロフルオロカーボン系溶剤として有用である。
本発明の高純度化されたフッ素化炭化水素(1)は、特に、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマエッチング用ガスやCVD用ガス等に好適である。
【0029】
2)プラズマエッチングガス
本発明の第2は、本発明のフッ素化炭化水素(1)のプラズマエッチング用ガスとしての使用である。
本発明のフッ素化炭化水素(1)は、シリコン又はシリコン酸化膜に対して、無機窒化膜に対して、エッチング選択性を有する。
【0030】
本発明のフッ素化炭化水素(1)をプラズマエッチング用ガスとして使用する場合、プラズマ中で発生するエッチング種の濃度制御やイオンエネルギーの制御のために、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン及びクリプトンからなる群から選択される少なくとも1種の不活性ガスを添加して使用してもよい。
不活性ガスの添加量は、フッ素化炭化水素(1)に対する不活性ガスの合計量が、容量比〔不活性ガス/フッ素化炭化水素(1))〕で2〜200となることが好ましく、5〜150となることがより好ましい。
【0031】
また、エッチングストップを緩和するためにO
2及び/又はO
3を添加して使用してもよい。O
2やO
3の添加量は、フッ素化炭化水素(1)に対するO
2とO
3の合計量が、容量比〔(O
2及び/又はO
3)/フッ素化炭化水素(1)〕で0.1〜50となることが好ましく、0.5〜30となることがより好ましい。
【0032】
3)プラズマエッチング方法
本発明の第3は、本発明のフッ素化炭化水素(1)をプラズマエッチング用ガスとして用いて、シリコン又はシリコン酸化膜上に積層された無機窒化膜を選択的にプラズマエッチングするプラズマエッチング方法である。
【0033】
本発明において用いる被処理体は無機窒化膜である。
無機窒化膜としては、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化チタン膜等が挙げられる。
無機窒化膜は、通常、被処理基板に形成されてなる。被処理基板としては、例えば、ガラス基板、シリコン単結晶ウエハー、ガリウム−砒素基板等が挙げられる。また、これららの基板上に、シリコン膜や酸化ケイ素膜等が形成されたものであってもよい。
【0034】
本発明のプラズマエッチング方法は、例えば、シリコン又はシリコン酸化膜上に積層された無機窒化膜を、該無機窒化膜上に形成されたレジストパターンをマスクとして、無機窒化膜の所定領域のプラズマエッチングを行うものである。レジストパターンは、例えば、シリコン酸化膜上に感光性レジスト組成物を成膜し、マスクパターンを用いて195nm以下の放射線を照射することによってパターニングして形成することができる。
【0035】
本発明のプラズマエッチング方法においては、以上のようにして得られるレジストパターン付き無機窒化膜(被処理体)を、プラズマ発生装置を有する処理室(エッチングチャンバー)内に設置し、処理室内を脱気して真空にし、用いる処理ガスの成分であるフッ素化炭化水素(1)、並びに、所望により、酸素ガス及び18族ガスをそれぞれ所定の速度で、所定の圧力となるように処理室内に導入する。
【0036】
処理ガスの導入速度は、各成分の使用割合に比例させ、例えば、フッ素化炭化水素(1)は5〜30sccm、酸素ガスは10〜50sccm、18族ガスは100〜500sccm等とすればよい。
処理ガスが導入された処理室内の圧力は、通常0.0013〜1300Pa、好ましくは0.13〜5Paである。
【0037】
次に、プラズマ発生装置により、処理室内のフッ素化炭化水素(1)に高周波の電場を印加してグロー放電を起こさせ、プラズマを発生させる。
【0038】
プラズマ発生装置としては、ヘリコン波方式、高周波誘導方式、平行平板タイプ、マグネトロン方式及びマイクロ波方式等の装置が挙げられるが、高密度領域のプラズマ発生が容易なことから、平行平板タイプ、高周波誘導方式及びマイクロ波方式の装置が好適に使用される。
【0039】
プラズマ密度は、特に限定はないが、本発明の効果をより良好に発現させる観点から、
プラズマ密度が、好ましくは10
12イオン/cm
3以上、より好ましくは10
12〜1
0
13イオン/cm
3の高密度プラズマ雰囲気下でエッチングを行うのが望ましい。
【0040】
エッチング時における被処理基板の到達温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは−50〜+300℃、より好ましくは−20〜+200℃、さらに好ましくは−10〜+100℃の範囲である。基板の温度は冷却等により制御しても、制御しなくてもよい。
エッチング処理の時間は、一般的には5〜10分であるが、本発明に用いる処理ガスは、高速エッチングが可能なので、2〜5分として生産性を向上させることができる。
【0041】
本発明のプラズマエッチング方法によれば、ネッキングのない、微細径、高アスペクト比のコンタクトホールを、簡便かつ効率よく形成することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「%」は「重量%」を表す。
【0043】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:HP−6890(アジレント社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 Inert Cap−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm
カラム温度:40℃で10分間保持、次いで、20℃/分で昇温し、その後240℃で10分間保持
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素
スプリット比:100/1
検出器:FID
【0044】
・不純物分析(ガスクロマトグラフィー質量分析)
GC部分:HP−6890(アジレント社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 Inert Cap−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm
カラム温度:40℃で10分間保持、次いで、20℃/分で昇温し、その後、240℃で10分間保持MS部分:アジレント社製 5973 NETWORK
検出器 EI型(加速電圧:70eV)
・
1H、及び
19F−NMR測定
装置:JNM−ECA−400(日本電子社製)400MHz
・窒素・酸素(ガスクロマトグラフィー分析)
GC部分:HP−7890(アジレント社製)
カラム:アジレント社製 HP−5 長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm
カラム温度:40℃で5分間保持し、次いで、5℃/分で昇温し、その後、65℃で1分間保持
ガスサンプラー:50℃
キャリヤーガス:ヘリウム
検出器:パルス放電型
・水分測定(FT−IR)
IG−1000(大塚電子社製)
セル材質:フッ化バリウム
セル長:10m
【0045】
[製造例1]メタンスルホニルオキシイソブタンの合成
攪拌機、滴下ロート、ジムロート型コンデンサーを付した容量2Lのガラス製反応器に、イソブタノール(74g)、メタンスルホニルクロリド(130g)、乾燥ジイソプロピルエーテル(500ml)を仕込み、窒素雰囲気下に置いた。反応器を氷水で冷却し、滴下ロートからトリエチルアミン(121g)を約2時間かけて滴下した。滴下終了後、30分間0℃で撹拌し、その後、約25℃で6時間撹拌を継続した。
反応液に氷水500ml添加して、生成したトリエチルアミン塩酸塩を溶解し、2層分離した。上層の有機層を5%塩酸、飽和重層水、次いで、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、ロータリーエバポレーターでジイソプロピルエーテルを留去、真空ポンプでポンプアップし、粗メタンスルホニルオキシイソブタン118gが得られた。
【0046】
[製造例2]イソブチルフルオリドの合成
攪拌機、滴下ロート、留分補集用受器、及びジムロート型コンデンサーを付した容量1Lのガラス製反応器に、スプレードライフッ化カリウム116g(アルドリッチ社製)及びジエチレングリコール800mlを仕込み、窒素雰囲気下に置いた。反応器をオイルバスに浸して、95℃で加熱後、製造例1の反応を繰り返して得られた粗メタンスルホニルオキイソブタン152gを滴下ロートから約3.5時間かけて添加した。その後、4時間撹拌を継続し、生成する低沸点の生成物をドライアイス/エタノール浴に浸漬した留分捕集受器に捕集した。その後、オイルバスの温度を80℃まで下げ、反応器にドライアイス−エタノール浴に浸したガラス製トラップを直列に2つ繋げた。さらに、ガラス製トラップの出口には圧力コントローラー、及び真空ポンプを繋げた。真空ポンプを起動し、圧力コントローラーを使って、系内の圧力を50〜45kPa、次いで、35〜30kPa、さらに、30〜25kPaまで段階的に下げて、揮発成分をガラストラップに回収した。
留分捕集用受器、及び2つのガラス製トラップの中身を合わせて49g得られ、ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、イソブテン11.85面積%、イソブチルフルオリド79.69面積%、ジイソプロピルエーテル7.32面積%、及び、高沸点成分1.14面積%を含む混合物であった。
【0047】
[製造例3]t−ブチルフルオリドの合成
回転子、滴下ロート、及びジムロート型コンデンサーを付した容量300mlのガラス製反応器に、乾燥t−ブタノール29g及び、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン120mlを入れ、氷水で冷却した。ジムロート型コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。内容物を撹拌させながら、滴下ロートから、ヘキサフルオロプロペン−ジエチルアミン錯体(東京化成工業社製)94gを約45分間かけて滴下した。滴下終了後、氷水で冷却したまま、さらに、2時間撹拌した。 その後、内容物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、原料のt−ブタノールは消失していた。
氷水を入れた分液ロート内に反応液を注ぎ込み、有機層を洗浄後、冷却した飽和重層水、氷水でさらに洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、有機層をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、イソブテン1.44面積%、t−ブチルフルオリド23.86面積%、1,1,2−トリクロロ−トリフルオロエタン34.13面積%、N、N−ジエチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロピオンアミド39.52面積%からなる混合物であった。
【0048】
[実施例1]イソブチルフルオリドの精留
製造例1、及び2を繰り返して得られた、粗イソブチルフルオリド423gを蒸留釜に仕込み、KS型精留塔(東科精機社製、カラム長60cm、充填剤ヘリパックNo.1)を使って、蒸留を行った。コンデンサーには−20℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、45〜70℃で加温した。全還流後、還流比45:1で留分の抜き出しを行った。その結果、99.941面積(容量)%のイソブチルフルオリドが247g得られ、不純物として、イソブテンが543面積(容量)ppm含まれていた。
【0049】
イソブチルフルオリドのスぺクトルデータ
1H−NMR(CDCl
3,TMS)δ(ppm):1.03(t,3H×2)、1.97(m,1H)、4.41(m,2H)、4.45(m,2H)
19F−NMR(CDCl
3、CFCl
3)δ(ppm):−220(m,F)
【0050】
[実施例2]
モレキュラーシーブ3A(ユニオン昭和社製)100gを入れた、容量1.2LのSUS316製容器(内面:電解研磨処理)に、実施例1で蒸留精製されたイソブチルフルオリドを240g入れ、約25℃で22時間浸漬した。
その後、容量0.5LのSUS316製釜の上部に、ショートカラム及びコンデンサー、及び受器を取り付けた単蒸留装置を組み、コンデンサーには−10℃の冷却水を循環させた。釜に水分除去を行ったイソブチルフルオリド227gを仕込み、釜を40℃に加温した。この時のイソブチルフルオリド中の窒素及び酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、それぞれ534容量ppm及び130容量ppmであった。仕込んだイソブチルフルオリドに対して、約30重量%を受器に抜出したところで、単蒸留を停止し、釜を25℃まで冷却した。釜内のイソブチルフルオリドを、ダイヤフラム式バルブを付した容量0.5Lのマンガン鋼製シリンダー(内面粗度:1S)148g充填した。イソブチルフルオリドの純度は99.947面積(容量)%、イソブテンの含有量は、414面積(容量)ppmであり、窒素、酸素、及び水分の含有量は、それぞれ67容量ppm、10容量ppm、及び12容量ppmであった。
【0051】
[実施例3]
製造例1、及び2の反応を繰り返して得られた粗イソブチルフルオリド387gを蒸留釜に仕込み、KS型精留塔(東科精機社製、カラム長:60cm、充填剤:ヘリパックNo.1)を使って、蒸留を行った。コンデンサーには−20℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、45から70℃まで加温した。全還流後、還流比30:1の間で留分の抜き出しを行った。その結果、99.913面積(容量)%のイソブチルフルオリドが213g得られ、不純物として、イソブテンが834面積(容量)ppm含まれていた。
【0052】
[実施例4]
実施例3で得られたイソブチルフルオリド210gを容量0.5Lのステンレス製容器内で、アルミナ(日揮触媒化成社製、製品名「N612N」)20gに20時間、25℃下で浸漬した。ステンレス容器と容量0.5Lのマンガン鋼製シリンダーをステンレスチューブで繋ぎ、孔径0.2μmの金属製フィルターを介して、減圧下にイソブチルフルオリドをシリンダー内に充填した。シリンダーを氷水で冷却し、圧力コントローラーを介して、5〜10kPa圧力下、真空ポンプで減圧しながら、約20gのイソブチルフルオリドを抜いた。約25℃に戻し、暫く静置後、イソブチルフルオリド純度は、99.918面積(容量)%、イソブテンの含有量は、791面積(容量)ppmであり、窒素、酸素、及び水分の含有量は、それぞれ41容量ppm、13容量ppm、及び38容量ppmであった。
【0053】
[実施例5]
製造例3を繰り返して得られた、粗t−ブチルフルオリド423gを蒸留釜に仕込み、KS型精留塔(東科精機社製、カラム長60cm、充填剤ヘリパックNo.1)を使って、蒸留を行った。コンデンサーには−20℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、45〜60℃で加温した。全還流後、還流比40:1で留分の抜き出しを行った。その結果、99.931面積(容量)%のt−ブチルフルオリドが247g得られ、不純物として、イソブテンが627面積(容量)ppm含まれていた。
【0054】
t−ブチルフルオリドのスぺクトルデータ
1H−NMR(CDCl
3,TMS)δ(ppm):1.26(d,3H×3)
19F−NMR(CDCl
3、CFCl
3)δ(ppm):−130(m,F)
【0055】
[実施例6]
モレキュラーシーブ3A(ユニオン昭和社製)25gを入れた、容量0.5LのSUS316製容器(内面:電解研磨処理)に、実施例5で蒸留精製されたt−ブチルフルオリドを240g入れ、約25℃で20時間浸漬した。
その後、容量0.5LのSUS316製釜の上部に、ショートカラム及びコンデンサー、及び受器を取り付けた単蒸留装置を組み、コンデンサーには−15℃の冷却水を循環させた。釜に水分除去を行ったt−ブチルフルオリド231gを仕込み、釜を30℃に加温した。この時のt−ブチルフルオリド中の窒素及び酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、それぞれ710容量ppm及び266容量ppmであった。仕込んだt−ブチルフルオリドに対して、約35重量%を受器に抜出したところで、単蒸留を停止し、釜を約25℃まで冷却した。釜内のt−ブチルフルオリドを、ダイヤフラム式バルブを付した容量0.5Lのマンガン鋼製シリンダー(内面粗度:1S)144g充填した。t−ブチルフルオリド中のイソブテンの含有量は、596面積(容量)ppmであり、窒素、酸素、及び水分の含有量は、それぞれ72容量ppm、22容量ppm、及び16容量ppmであった。
【0056】
[実施例7]
製造例3の反応を繰り返して得られた粗t−ブチルフルオリド389gを蒸留釜に仕込み、KS型精留塔(東科精機社製、カラム長:60cm、充填剤:ヘリパックNo.1)を使って、蒸留を行った。コンデンサーには−20℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、45から60℃まで加温した。全還流後、還流比30:1の間で留分の抜き出しを行った。その結果、99.906面積(容量)%のt−ブチルフルオリドが198g得られ、不純物として、イソブテンが902面積(容量)ppm含まれていた。
【0057】
[実施例8]
実施例7で得られたt−ブチルフルオリド187gを容量0.5Lのステンレス製容器内で、モレキュラーシーブ(東ソー製、製品名「ゼオラム(登録商標)A−3」)18gに18時間、約25℃で浸漬した。ステンレス容器と容量0.5Lのマンガン鋼製シリンダーをステンレスチューブで繋ぎ、孔径0.2μmの金属製フィルターを介して、減圧下に、t−ブチルフルオリドをシリンダー内に充填した。シリンダーを氷水で冷却し、圧力コントローラーを介して、5〜10kPa圧力下、真空ポンプで減圧しながら、約20gのt−ブチルフルオリドを抜いた。25℃に戻し、暫く静置後、t−ブチルフルオリド中のイソブテンの含有量は、889面積(容量)ppmであり、窒素、酸素、及び水分の含有量は、それぞれ66容量ppm、14容量ppm、及び39容量ppmであった。
【0058】
[参考例1]
製造例1及び2の反応を繰り返して得られた粗イソブチルフルオリド406gを蒸留釜に仕込み、KS型精留塔(東科精機社製、カラム長:60cm、充填剤:ヘリパックNo.1)を使って、蒸留を行った。コンデンサーには−20℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、45〜70℃で加温した。全還流後、還流比10:1で留分の抜き出しを行った。その結果、99.872面積%のイソブチルフルオリドが235g得られ、不純物として、イソブテンが1189面積(容量)ppm含まれていた。その後、実施例4と同様の操作を行い、イソブチルフルオリド218gをシリンダーに充填した。イソブチルフルオリド中の窒素、酸素、及び水分含有量を測定したところ、それぞれ40容量ppm、13容量ppm、及び25容量ppmであった。
【0059】
[参考例2]
製造例3の反応を繰り返して得られた粗t−ブチルフルオリド393gを蒸留釜に仕込み、KS型精留塔(東科精機社製、カラム長:60cm、充填剤:ヘリパックNo.1)を使って、蒸留を行った。コンデンサーには−20℃の冷媒を循環させ、約1時間全還流を行った。蒸留釜は塔頂部の温度、及び釜内部の残量を考慮しながら、45〜70℃で加温した。全還流後、還流比10:1で留分の抜き出しを行った。その結果、99.811面積%のt−ブチルフルオリドが225g得られ、不純物として、イソブテンが1690面積(容量)ppm含まれていた。その後、実施例6と同様の操作を行い、t−ブチルフルオリド203gをシリンダーに充填した。t−ブチルフルオリド中の窒素、酸素、及び水分含有量を測定したところ、それぞれ55容量ppm、11容量ppm、及び16容量ppmであった。
【0060】
[実施例9]
プラズマエッチング評価:表面に窒化シリコン膜が形成されたウェハと表面にシリコ酸化膜が形成されたウェハを用い、それぞれのウェハを、別々にエッチングを行った。そして、窒化シリコン膜及びシリコン酸化膜それぞれのエッチング速度を測定し、これらの測定結果に基づいてシリコン酸化膜に対する窒化シリコン膜のエッチング速度比から選択比(SiN膜/SiO
2膜)を求めた。
平行平板型プラズマエッチング装置のエッチングチャンバー内に、表面に窒化シリコン膜が形成されたウェハと表面にシリコン酸化膜が形成されたウェハをそれぞれセットし、系内を真空にした後、実施例2で調製したイソブチルフルオリドを用いて、下記のエッチング条件下でエッチングを実施した。その結果、シリコン窒化膜のエッチング速度は、28nm/minであり、シリコン酸化膜はエッチングされなかった。このため、選択比(SiN膜/SiO
2膜)は無限大であった。
【0061】
エッチング条件
混合ガスの圧力:6.7Pa
上部電極の高周波電源電力:200W
下部電極の高周波電源電力:100W
上部電極と下部電極の間隔:50mm
電極温度:20℃
ガス流量
O
2ガス:60sccm
イソブチルフルオリド:45sccm
エッチング時間:180秒
[実施例10]
イソブチルフルオリドを実施例4で調製したものに変更したこと以外は実施例9と同様にしてエッチング評価を行った。その結果、シリコン窒化膜のエッチング速度は、25nm/minであり、シリコン酸化膜はエッチングされなかった。このため、選択比(SiN膜/SiO
2膜)は無限大であった。
【0062】
[実施例11]
実施例9において、イソブチルフルオリドを実施例6で調製したt−ブチルフルオリドに変更したこと以外は以下の条件でエッチング評価を行った。その結果、シリコン窒化膜のエッチング速度は、30nm/minであり、シリコン酸化膜はエッチングされなかった。このため、選択比(SiN膜/SiO
2膜)は無限大であった。
エッチング条件
混合ガスの圧力:6.7Pa
上部電極の高周波電源電力:200W
下部電極の高周波電源電力:100W
上部電極と下部電極の間隔:50mm
電極温度:20℃
ガス流量
O
2ガス:60sccm
t−ブチルフルオリド:40sccm
エッチング時間:180秒
【0063】
[実施例12]
t−ブチルフルオリドを実施例8で調製したものに代えた以外は実施例11と同様にしてエッチング評価を行った。その結果、シリコン窒化膜のエッチング速度は、24nm/minであり、シリコン酸化膜はエッチングされなかった。このため、選択比(SiN膜/SiO
2膜)は無限大であった。
【0064】
[比較例1]
イソブチルフルオリドを、参考例1で調製したものに変更したこと以外は実施例9と同様にしてエッチング評価を行ったが、シリコン窒化膜にデポジションが発生し、途中でエッチングが止まってしまった。もちろん、シリコン酸化膜はエッチングされなかった。
【0065】
[比較例2]
t−ブチルフルオリドを、参考例2で調製したものに変更したこと以外は実施例11と同様にしてエッチング評価を行ったが、シリコン窒化膜にデポジションが発生し、途中でエッチングが止まってしまった。もちろん、シリコン酸化膜はエッチングされなかった。