特許第6447711号(P6447711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6447711-ジアルキルアミノシランの製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447711
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】ジアルキルアミノシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/10 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   C07F7/10 F
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-507541(P2017-507541)
(86)(22)【出願日】2016年1月22日
(86)【国際出願番号】JP2016051787
(87)【国際公開番号】WO2016152226
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-61523(P2015-61523)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025733(JP,A)
【文献】 特開2012−136472(JP,A)
【文献】 特開昭59−184157(JP,A)
【文献】 特開2010−225663(JP,A)
【文献】 米国特許第03467686(US,A)
【文献】 国際公開第2015/146103(WO,A1)
【文献】 特開2015−208718(JP,A)
【文献】 特開2001−002682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路型反応器を除く反応器に、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、およびジオキサンから選択される少なくとも1つの非プロトン極性溶媒、および直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素の溶媒との混合溶媒中で、ジアルキルアミンまたはアルキルアリールアミンと、炭素数1から6の直鎖状のアルキル基または炭素数3から6の分岐状のアルキル基を有するクロロシランとを反応させ、ジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランを製造する方法。
【請求項2】
ジアルキルアミンまたはアルキルアリールアミンとクロロシランとの反応において、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛から選択される少なくとも1つの金属を添加する請求項1に記載のジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランの製造方法。
【請求項3】
直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素の溶媒をクロロシランに対して、重量で0.2倍から10倍で用いる、請求項1〜2のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランの製造方法。
【請求項4】
非プロトン極性溶媒を、クロロシランに対して、重量で0.2倍から10倍用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランの製造方法。
【請求項5】
ジアルキルアミンまたはアルキルアリールアミンが、


の化学式で表され、R1とR2は、独立して、炭素数1から6の直鎖状のアルキル基、炭素数3〜6の分岐状のアルキル基、またはフェニル基であり、R1とR2は、同時にフェニル基ではない、請求項1〜4のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランの製造方法。
【請求項6】
クロロシランが、


の化学式で表され、R3は、水素、炭素数1から6の直鎖状のアルキル基、または炭素数3から6の分岐状のアルキル基であり、nは、0から3の整数である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランの製造方法。
【請求項7】
非プロトン極性溶媒が、アセトニトリルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランの製造方法。
【請求項8】
直鎖状の炭化水素または分岐状の炭化水素が、炭素数5から40の直鎖状の炭化水素または炭素数5から40の分岐状の炭化水素である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランまたはアルキルアリールアミノシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のジアルキルアミノシランの製造方法に関する。より詳しくは、溶媒に直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素と非プロトン極性溶媒との混合溶媒を用いて、ジアルキルアミンとクロロシランから効率よくジアルキルアミノシランを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジアルキルアミノシランは、分子内にケイ素原子と窒素原子を有する化合物であり、特に近年、半導体絶縁膜材料やシリコンウェーハ表面の超撥水化剤など電子情報材料分野において、塩素をはじめとする腐食性の高いハロゲン含有量が低い高純度品が望まれ、それらを安価で効率よく製造する方法が求められている。
【0003】
ジアルキルアミノシランの製造方法として、クロロシランとジアルキルアミンの反応から合成する方法が知られている(非特許文献1)。しかし、目的とするジアルキルアミノシランのほかに、ジアルキルアミンの塩酸塩が多量に副生するため、ジアルキルアミノシランを得るために、多量の溶媒による容積効率の低下や、ろ過あるいはデカントなどの固液分離操作が必要となっている。
【0004】
特許文献1には、多量に副生するジアルキルアミンの塩酸塩をろ過などの固液分離を行わずに、アルカリ水溶液を添加して、ジアルキルアミン塩酸塩をアルカリ水溶液に溶解して、水層に抽出して分離する方法が示されている。
【0005】
特許文献2には、多量に副生するジアルキルアミンの塩酸塩を温度制御しながら金属(マグネシウムなど)と反応させて、ジアルキルアミン、金属の塩化物(塩化マグネシウムなど)そして水素にして、ジアルキルアミンを再生し、かつ塩の減量する方法が示されている。
【0006】
特許文献3および4には、銅触媒存在下、金属ケイ素とジアルキルアミンから直接ジアルキルアミノシランを製造し、クロロシランを使用せず、そのためジアルキルアミンの塩酸塩が生成せず、かつハロゲン含有量が少ない方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭50-5332号公報
【特許文献2】米国特許3467686号明細書
【特許文献3】特開昭56-68686号公報
【特許文献4】特開2001-2682号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Chem. Soc., 1964, 3429-3436
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の製造方法では、水と反応しやすいジアルキルアミノシランとアルカリ水溶液を接触させることにより、ジアルキルアミノシランが加水分解し、収量が大きく減少する恐れがある。
【0010】
特許文献3と4では、ジアルキルアミノシランの構造が限定され、置換基として水素基とジメチルアミノ基のみの化合物となり、汎用性にかけてしまう。
【0011】
また、特許文献2は、温度を制御しながら、反応で生成してくるジアルキルアミンの塩酸塩を金属と反応させて、金属の塩化物として減量することができ、しかもジアルキルアミンをほぼ化学量論的に等量でジアルキルアミノシランを製造することができる利便性があるが、クロロシランの塩素の置換数が多数の化合物になると、金属の塩化物でも固液分離に大きな負荷がかかる恐れがある。そのため、いろいろなジアルキルアミノシランに対応し、しかも塩の析出量を抑え、かつハロゲン含有量を抑え、効率の良いジアルキルアミノシランの製造方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ジアルキルアミンとクロロシランとから、ジアルキルアミノシランを製造するプロセスにおいて、溶媒の種類、および組み合わせにより、塩の析出量およびハロゲン含有量が大きく異なることを見出した。
【0013】
ジアルキルアミンとクロロシランとを反応させるときの溶媒に、反応で副生するジアルキルアミンの塩酸塩および金属の塩化物に対して溶解度の高い非プロトン極性溶媒と、ジアルキルアミノシランの溶解度が高く、ハロゲン化合物を溶かしにくい直鎖状あるいは分岐状炭化水素とを用いることで、容積効率が高く、ハロゲン含有量の少ないジアルキルアミノシランを得ることが可能となることが分かった。
【0014】
本発明は、下記の項[1]〜[10]で構成される。
[1] 非プロトン極性溶媒、および直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素の溶媒との混合溶媒中で、ジアルキルアミンとクロロシランとを反応させ、ジアルキルアミノシランを製造する方法。
【0015】
[2] ジアルキルアミンとクロロシランとの反応において、金属を添加する項[1]に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0016】
[3] 直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素の溶媒をクロロシランに対して、重量で0.2倍から10倍で用いる、項[1]〜[2]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0017】
[4] 非プロトン極性溶媒を、クロロシランに対して、重量で0.2倍から10倍用いる項[1]〜[3]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0018】
[5] ジアルキルアミンが、


の化学式で表され、R1とR2は、独立して、炭素数1から6の直鎖状のアルキル基、炭素数3〜6の分岐状のアルキル基、またはフェニル基である、項[1]〜[4]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0019】
[6] クロロシランが、


の化学式で表され、R3は、水素、炭素数1から6の直鎖状のアルキル基、炭素数3から6の分岐状のアルキル基、またはフェニル基であり、nは、0から3の整数である、項[1]〜[5]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0020】
[7] 非プロトン極性溶媒が、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、ジメチルアセトアミド、およびヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)から選択される少なくとも1つである、項[1]〜[6]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0021】
[8] 非プロトン極性溶媒が、アセトニトリルである、項[1]〜[7]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0022】
[9] 直鎖状の炭化水素または分岐状の炭化水素が、炭素数5から40の直鎖状の炭化水素または炭素数5から40の分岐状の炭化水素である、項[1]〜[8]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【0023】
[10] 添加する金属が、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛から選択される少なくとも1つである、項[2]〜[9]のいずれか1項に記載のジアルキルアミノシランの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ジアルキルアミンの塩酸塩、または金属の塩化物を溶解させることで、容積効率を上げ、固液分離の負荷を下げることができ、しかも比較的ハロゲン含有量の少ない高品質のジアルキルアミノシランを、クロロシランの種類に関係なく、安定的、効率的かつ安価な費用で製造することができる。また、本発明に従うジアルキルアミノシランであれば、反応液中のハロゲン含有量が少ないので、蒸留の歩留まりが良く、品質の高いジアルキルアミノシランを効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ジアルキルアミノシランの製造プロセスにおいて、溶媒を選ぶことによってジアルキルアミンの塩酸塩や金属の塩化物を溶解させ、かつジアルキルアミノシランに含まれるハロゲン含有量を下げることができる溶媒系があることが明らかになった。
ジアルキルアミンの塩酸塩および金属の塩化物を溶かす溶媒として、非プロトン性で極性の高い溶媒として、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)などが挙げられ、他に、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、クロロホルムなどのハロゲン系炭化水素、酢酸エチル、ギ酸メチルなどのエステル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどの3級アミンなどを用いることができる。
また、ジアルキルアミノシランのハロゲン含有量を下げる溶媒として、直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素、例えば、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタンなどが挙げられる。
【0026】
非プロトン極性溶媒と直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素との溶媒とは、直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素である単独溶媒を使用してもいいし、または、直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素と非プロトン極性溶媒との混合溶媒において、ジアルキルアミンとクロロシランを反応させることを含んでいる。
直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素溶媒の単独溶媒の場合は、反応後非プロトン極性溶媒を添加することにより、温度および非プロトン極性溶媒の添加量により、ジアルキルアミンの塩酸塩が完全に溶解し、液液分離で、ジアルキルアミノシランを含む直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素層と、ジアルキルアミンの塩酸塩を含む、非プロトン極性溶媒層を得ることができる。
【0027】
反応前にマグネシウムなどの金属を添加し、50℃以上、好ましくは80℃以上で反応させることで、反応途中副成するジアルキルアミン塩酸塩をマグネシウムなどの金属と反応させ、塩化マグネシウムなどの金属の塩化物に変換することができる。金属の塩化物にすることで、ジアルキルアミンの塩酸塩のときの塩の量が半減し、より溶媒を少なく、しかもジアルキルアミンの使用量を減らすことができる。また、塩化マグネシウムなどの金属の塩化物は、非プロトン極性溶媒への溶解度が高く、温度と溶媒量により、ジアルキルアミンの塩酸塩と同様に完全に溶解させることができる。
【0028】
図1は、本発明のジアルキルアミノシランの製造方法を実施するのに適した通常の実験装置の構成図である。
反応器は、5つ口を備えたガラス製のフラスコに、ジムロート冷却管と還流ヘッドおよび還流液取り出し用の二方コック、内容物サンプリング管、攪拌機、温度計、およびジアルキルアミンフィード口が配置される。
【0029】
ジアルキルアミノシランは、水分で分解するため、溶媒および装置の水分が、収率に大きく影響する。脱水の方法としては、溶媒では、モレキュラーシーブスなどによる吸着、装置では、アセトニトリルやオクタン等、水と共沸する溶媒を使い、還流させて共沸脱水で取り除いたり、さらにはマグネシウムなどの金属と水を反応させて、水分を下げることができる。
【0030】
溶媒である直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素と非プロトン極性溶媒およびマグネシウムなどの金属の組み合わせは、いくつかあるが、以下の4つの方法が好ましい。1番目は、反応開始時に直鎖状あるいは分岐状炭化水素、非プロトン極性溶媒、マグネシウムなどの金属、3つを加える場合、2番目は、反応開始時に直鎖状あるいは分岐状炭化水素とマグネシウムなどの金属を仕込み、ジアルキルアミンフィード終了後に非プロトン極性溶媒を追加する場合、3番目は、マグネシウムなどの金属は添加せずに、反応開始時に直鎖状炭化水素あるいまたは分岐状炭化水素と非プロトン極性溶媒を仕込む場合、4番目は、マグネシウムなどの金属は仕込まずに、直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素だけを反応前に仕込み、ジアルキルアミンをフィード終了後に、非プロトン極性溶媒を添加する場合がある。これらの方法については、クロロシランおよびジアルキルアミンの種類により、適宜、選ぶことができる。
【0031】
以下に、本発明の1つの形態である直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素、非プロトン極性溶媒、およびマグネシウムなどの金属を反応前に仕込む場合を示す。直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素、非プロトン極性溶媒、およびマグネシウムなどの金属を5つ口フラスコに仕込んだ後、好ましくは、加熱して、共沸脱水させ、マグネシウムと水を反応させ、またはこれらの両方を行わさせて、装置の脱水を行う。溶媒の量は、クロロシランに対して、直鎖状炭化水素は、0.2倍から10倍(重量)、非プロトン極性溶媒は0.2倍から10倍が好ましい。また、マグネシウムなどの金属は、クロロシランの塩素に対して、当量から0.5倍が好ましい。脱水後、内部温度を室温に下げ、クロロシランを5つ口フラスコに仕込む。クロロシランの沸点により、反応の初期温度を設定する。クロロシランが還流しない状態が好ましい。所定の温度になったところで、ジアルキルアミンをフィードする。特にジアルキルアミンを気相部、液相部どちらでもかまわない。装置が小さく、攪拌が強い場合は、気相で十分反応するが、装置が大きく、かつ攪拌が弱い場合は、液相部にフィードするのが好ましい。ジアルキルアミンを所定量の3分の1から半分、フィードしたところで、温度を50℃、できれば80℃以上にして、ジアルキルアミンの塩酸塩とマグネシウムなどの金属とを反応させる。この反応は、発熱反応で、水素およびジアルキルアミンが生成する。クロロシランが残っている間は、生成したジアルキルアミンがクロロシランと反応して問題ないが、クロロシランがすべて反応し終わった状態で、しかもジアルキルアミンに沸点の低いジメチルアミンなどを用いている場合は、ジムロート冷却管のガス道がジアルキルアミンの液で封じられて、内部の圧力が上昇する恐れがあるので、十分注意する必要がある。反応の終点は、ジアルキルアミンがクロロシランに対して当量以上入ると、発熱が収まることで確認できる。
【0032】
溶媒の量、および温度により、ジアルキルアミンの塩酸塩、または塩化マグネシウムなどの金属の塩化物は、完全に溶けて、ジアルキルアミノシランを含む直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素の溶媒層とジアルキルアミンの塩酸塩または塩化マグネシウムなどの金属の塩化物を多く含む非プロトン極性溶媒層の2層になり、これらを分液することができる。また、溶媒量が少ない、または温度が低いときは、ジアルキルアミンの塩酸塩または塩化マグネシウムなどの金属の塩化物が固形分として析出するが、溶解性の高い非プロトン極性溶媒を加えているので、固液分離性の良い塩が生成する。固液分離、そして分液することで、直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素を含むジアルキルアミノシランを得ることができる。
【0033】
分液により、得られた直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素を含むジアルキルアミノシランは、直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素の非極性効果により、ハロゲン含有量を低く抑えることができる。直鎖状炭化水素または分岐状炭化水素の量および、ジアルキルアミノシランの種類にもよるが、ハロゲン含有量(塩素分)が数ppmから数十ppmの反応素液が得られる。これに、脱ハロゲン(塩化)剤として、ナトリウムメトキシドのメタノール溶媒や、カリウムtert−ブトキシドなどの金属アルコキシド、ブチルリチウムやメチルグリニャールなどの有機金属化合物を添加して、精留することで、ハロゲン含有量(塩素)分の低い高品質のジアルキルアミノシランを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明のジアルキルアミノシランの製造方法を実施するのに適した装置図である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
2L5つ口フラスコにn−オクタン300g、アセトニトリル210gを仕込む。攪拌を行いながら、オイルバスを120℃に加熱して、還流状態にした後、還流ヘッドにたまっている水を多く含むアセトニトリルを64g抜き出し、冷却した。内部温度が室温まで下がったところで、トリメチルクロロシラン325gを5つ口フラスコに仕込んだ。室温、ジメチルアミンをフラスコの気相部分から1分間当たり560mLの速さで4時間フィードした。発熱反応により、徐々に反応液温が上昇し、反応液の温度が55℃まで上昇した。反応液温度の低下とガスクロマトグラフィー(GC)で、原料のトリメチルクロロシランの消失を確認したところで、ジメチルアミンのフィードを停止した。オイルバスの温度を80℃にして、1時間、還流、熟成する。冷却後、反応液1040gを得た。
反応液を加圧ろ過器でろ過し、ろ残をアセトニトリル50gで洗浄して、ろ液754gを得た。ろ液は、n−オクタン層とアセトニトリル層に分離するので、分液漏斗で、分離し、ジメチルアミノトリメチルシランを含むn−オクタン層を617g得た。GC分析したところ、ジメチルアミノトリメチルシランを280g含有しており、反応収率80%であった。さらに、加水分解性塩素を測定したところ、4ppmであった。
このn−オクタン層に脱ハロゲン(塩化)剤として、カリウムtert−ブトキシドを塩素分の2倍モル、16mg添加し、常圧で精留塔として、直径2.5cm、長さ1mのカラムにヘリパックを充填したものを用いて、純度99%以上、加水分解性塩素分1ppm未満のジメチルアミノトリメチルシランを196g、蒸留収率70%で得た。
【0036】
比較例1
2L5つ口フラスコにプソイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン)450gを仕込んだ。脱水処理は行わず、攪拌を行いながら、室温で、トリメチルクロロシラン38gを5つ口フラスコに仕込んだ。室温、ジメチルアミンをフラスコの気相部分から1分間当たり100mLの速さで2.5時間フィードした。発熱反応により、徐々に反応液温が上昇し、反応液の温度が35℃まで上昇した。反応液温度の低下とGCで、原料のトリメチルクロロシランの消失を確認したところで、ジメチルアミンのフィードを停止した。オイルバスの温度を80℃にして、1時間、熟成した。反応液510gを得た。
反応液を加圧ろ過器でろ過し、ろ残をプソイドクメン50gで洗浄して、ろ液470gを得た。GC分析したところ、ジメチルアミノトリメチルシランを16g含有しており、反応収率40%であった。さらに、加水分解性塩素を測定したところ、35ppmであった。このろ液に脱ハロゲン(塩化)剤として、カリウムtert−ブトキシドを塩素分の2倍モル、530mg添加し、常圧で精留塔として、直径2.5cm、長さ1mのカラムにヘリパックを充填したものを用いて、蒸留収率52%で純度95%、加水分解性塩素分1ppm未満のジメチルアミノトリメチルシランを8gを得た。
【0037】
比較例2
2L5つ口フラスコにプソイドクメン450gを仕込んだ。脱水処理は行わず、攪拌を行いながら、室温で、トリメチルクロロシラン325gを5つ口フラスコに仕込んだ。室温、ジメチルアミンをフラスコの気相部分から1分間当たり560mLの速さで3時間フィードしたる。発熱反応により、徐々に反応液温が上昇し、反応液の温度が51℃まで上昇した。反応途中であったが、ジメチルアミンの塩酸塩の析出が多く、液分がなくなり、攪拌ができなくなったところで、ジメチルアミンのフィードを停止した。この時点でのジメチルアミンの滴下量は、202gであった。この反応液は、フラスコからの抜き出し及びろ過ができない状態だったため、ジメチルアミノトリメチルシランは得られなかった。
【0038】
実施例2
2L5つ口フラスコにn−ヘプタン300g、アセトニトリル210gを仕込んだ。攪拌を行いながら、オイルバスを120℃に加熱して、還流状態にした後、還流ヘッドにたまっている水を多く含むアセトニトリルを60g抜き出し、冷却した。内部温度が室温まで下がったところで、トリクロロシラン135gを5つ口フラスコに仕込んだ。室温、ジメチルアミンをフラスコの気相部分から1分間当たり560mLの速さで4時間フィードした。発熱反応により、徐々に反応液温が上昇し、反応液の温度が58℃まで上昇した。反応液温度の低下とGCで、クロロビスメチルアミノシランの消失を確認したところで、ジメチルアミンのフィードを停止した。オイルバスの温度を80℃にして、1時間、還流、熟成した。冷却後、反応液851gを得た。
反応液を加圧ろ過器でろ過し、ろ残をアセトニトリル50gで洗浄して、ろ液489gを得た。ろ液は、n−ヘプタン層とアセトニトリル層に分離するので、分液漏斗で、分離し、トリスジメチルアミノシランを含むヘプタン層を349g得た。GC分析したところ、トリスジメチルアミノシランを104g含有しており、反応収率65%であった。さらに、加水分解性塩素を測定したところ、62ppmであった。
このn−ヘプタン層に脱ハロゲン(塩化)剤として、カリウムtert−ブトキシドを塩素分の2倍モル、136mg添加し、圧力26.6から6.6kPaの減圧条件の下、精留塔として、直径2.5cm、長さ1mのカラムにヘリパックを充填したものを用いて、純度99%以上、加水分解性塩素分1ppm未満のトリスジメチルアミノシランを64g、蒸留収率63%で得た。
【0039】
実施例3
2L5つ口フラスコにn−ヘプタン400gと金属マグネシウム58gを仕込んだ。攪拌を行いながら、オイルバスを120℃に加熱、1時間、還流状態にして、装置の水分をマグネシウムに反応させ、冷却した。内部温度が室温まで下がったところで、トリクロロシラン217gを5つ口フラスコに仕込んだ。室温、ジメチルアミンをフラスコの気相部分から1分間当たり560mLの速さで5時間フィードした。発熱反応により、徐々に反応液温が上昇し、反応液の温度が63℃まで上昇した。反応液の流動性が悪くなったところで、一度、ジメチルアミンのフィードを停止して、オイルバスを95℃にして、加熱を行た。ジメチルアミンの塩酸塩とマグネシウムが反応して、水素とジメチルアミン、塩化マグネシウムが生成した。反応液の流動性が良くなったところで、オイルバスの温度を50℃に下げ、再びジメチルアミンを1分間当たり560mLの速さで、5時間フィードした。もう一度、ジメチルアミンのフィードを止めて、オイルバスを95℃に加熱して、ジメチルアミンの塩酸塩とマグネシウムとを反応させた。GCで、クロロビスジメチルアミノシラン消失を確認したところで、50℃まで冷却した。ここでアセトニトリル100gを添加して、1時間、熟成した。冷却後、反応液1082gを得た。
反応液を加圧ろ過器でろ過し、ろ残をn−ヘプタン200gで洗浄して、ろ液752gを得た。GC分析したところ、反応収率75%でトリスジメチルアミノシランを195g含有していた。さらに、加水分解性塩素を測定したところ、59ppmであった。
このろ液に脱ハロゲン(塩化)剤として、カリウムtert−ブトキシドを塩素分の2倍モル、280mg添加し、圧力26.6から6.6kPaの減圧条件の下、精留塔として、直径2.5cm、長さ1mのカラムにヘリパックを充填したものを用い、純度99%以上、加水分解性塩素分1ppm未満のジメチルアミノトリメチルシランを146g、蒸留収率75%で得た。
【0040】
比較例3
2L5つ口フラスコにプソイドクメン450gを仕込んだ。脱水処理は行わず、攪拌を行いながら、室温で、トリクロロシラン135gを5つ口フラスコに仕込んだ。室温、ジメチルアミンをフラスコの気相部分から1分間当たり560mLの速さで2.5時間フィードした。発熱反応により、徐々に反応液温が上昇し、反応液の温度が48℃まで上昇した。反応途中であったが、ジメチルアミンの塩酸塩の析出が多く、液分がなくなり、攪拌ができなくなったところで、ジメチルアミンのフィードを停止した。この時点でのジメチルアミンの滴下量は、169gであった。この反応液は、フラスコからの抜き出し及びろ過ができない状態だったため、トリスジメチルアミノシランは得られなかった。
【0041】
表1

表2

表1および表2から明らかなように、実施例1、2、および3と比較例1、2、および3とを比較すると、比較例では反応が途中で行えなくなるか、反応の容積効率を著しく下げて行わないと生成物を得ることができないことが分かった。一方、実施例では、円生成量減少によるろ過の負荷の低下、またはデカントなどの固液分離操作が不要で、反応の容積効率が高くジメチルアミノトリメチルシランを製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1 5つ口フラスコ
2 還流ヘッド
3 冷却管
4 攪拌機
5 温度計
6 ガスフィード口
7 サンプリング管
8 マグネチックスターラー
9 オイルバス
10 排気
図1