特許第6447768号(P6447768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6447768異方性磁性粉末用二次粒子および異方性磁性粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447768
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】異方性磁性粉末用二次粒子および異方性磁性粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20181220BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20181220BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20181220BHJP
   B22F 9/20 20060101ALI20181220BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/059 160
   C22C38/00 303D
   B22F9/20 A
   B22F1/00 Y
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-91445(P2018-91445)
(22)【出願日】2018年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-195818(P2018-195818A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2018年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-98035(P2017-98035)
(32)【優先日】2017年5月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前原 永
【審査官】 田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−70102(JP,A)
【文献】 特開2014−236195(JP,A)
【文献】 特開2010−196170(JP,A)
【文献】 特開2008−91873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00−9/30
C22C1/04−1/05
5/00−25/00
27/00−28/00
30/00−30/06
33/02
35/00−45/10
H01F1/00−1/117
1/40−1/42
41/00−41/04
41/08
41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とチタンを含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とチタンとを含む沈殿物を得る工程、
前記沈殿物の存在下、Rと鉄を含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とを含む沈殿物を得る工程、
前記沈殿物を焼成することにより、Rと鉄とチタンとを含む酸化物を得る工程、
前記酸化物を還元性ガス雰囲気下、熱処理することにより部分酸化物を得る工程、
前記部分酸化物を還元することにより、合金粒子を得る工程、および、
前記合金粒子を窒化することにより、異方性磁性粉末を得る工程
を含む異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
Rと鉄とチタンとを含む沈殿物を得る前記工程におけるRと鉄とチタンを含む溶液、および、Rと鉄とを含む沈殿物を得る前記工程におけるRと鉄とを含む溶液が、さらにタングステンを含む請求項1に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
Rと鉄とチタンとを含む沈殿物を得る前記工程におけるRと鉄とチタンを含む溶液、および、Rと鉄とを含む沈殿物を得る前記工程におけるRと鉄とを含む溶液が、さらにランタンを含む請求項1又は2に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記異方性磁性粉末が下記一般式
v−xFe(100−v−W−t−z)TiLa
(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびLuからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v≦30、5≦w≦15、0<t≦1.0、0≦x≦1.0、0≦z≦2.5である)
で表される請求項1〜3のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
RがSmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の異方性磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびLuからなる群から選択される少なくとも1種を示すRと鉄とチタンとを含む一次粒子からなる中心部と、Rと鉄とを含む一次粒子からなる外周部で構成された、Rと鉄とチタンを含む異方性磁性粉末用二次粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性磁性粉末用二次粒子および異方性磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジルコニウムまたはチタンを含む希土類−鉄−窒素系異方性磁性粉末が開示されている。この方法では、サマリウムと鉄とチタンの硫酸溶液を用意し、アルカリ溶液を滴下して得た沈殿物から酸化物を作製した後に還元して、異方性磁性粉末を作製する。チタンを添加することで保磁力および残留磁化に優れているが、改善の余地のあるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−91873
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、磁気特性が良い、チタンを含む希土類−鉄−窒素系の異方性磁性粉末の製造方法およびチタンを含む異方性磁性粉末用二次粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、磁気特性の向上を目的に、磁性粉末の原料の投入タイミングについて種々検討したところ、沈殿物を得る工程において、初期段階でチタンを含む沈殿物を得た後に、チタンを含まない沈殿物を形成させると、磁性粉末の磁気特性が改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とチタンを含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とチタンとを含む沈殿物を得る工程、
前記沈殿物の存在下、Rと鉄を含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とを含む沈殿物を得る工程、
前記沈殿物を焼成することにより、Rと鉄とチタンとを含む酸化物を得る工程、
前記酸化物を還元性ガス雰囲気下、熱処理することにより部分酸化物を得る工程、
前記部分酸化物を還元することにより、合金粒子を得る工程、および、
前記合金粒子を窒化することにより、異方性磁性粉末を得る工程
を含む異方性磁性粉末の製造方法に関する。
【0007】
また、本発明は、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびLuからなる群から選択される少なくとも1種を示すRと鉄とチタンとを含む一次粒子からなる中心部と、Rと鉄とを含む一次粒子からなる外周部で構成された、Rと鉄とチタンを含む異方性磁性粉末用二次粒子に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁気特性に優れた希土類−鉄−窒素系の異方性磁性粉末を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
本実施形態の異方性磁性粉末の製造方法は、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とチタンを含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とチタンとを含む沈殿物を得る工程(沈殿工程1)、
前記沈殿物の存在下、Rと鉄を含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とを含む沈殿物を得る工程(沈殿工程2)、
前記沈殿物を焼成することにより、Rと鉄とチタンとを含む酸化物を得る工程(酸化工程)、
前記酸化物を還元性ガス雰囲気下、熱処理することにより部分酸化物を得る工程(前処理工程)、
前記部分酸化物を還元することにより、合金粒子を得る工程(還元工程)、および、
前記合金粒子を窒化することにより、異方性磁性粉末を得る工程(窒化工程)
とを含むことを特徴とする。
【0011】
本製造方法による得られる沈殿物は、Rと鉄とチタンとを含む一次粒子からなる中心部と、Rと鉄とを含む一次粒子からなる外周部とで構成された二次粒子と考えられ、これら沈殿物を焼成することにより得られた酸化物も同様に構成されると考えられる。チタン酸化物は、還元性ガスによる還元が起こりにくく、チタン酸化物周辺の鉄酸化物の還元を阻害するため、上述のように外周部においてチタンを含まない場合は、外周部にチタンを含む従来の方法と比べて、外周部における鉄酸化物の還元に対するチタンの影響が小さく、前処理工程における熱処理温度を下げることができると考えられる。熱処理温度が下がることにより、従来の方法と比べて、還元される鉄粒子の粗大粒子の生成を抑制することができるので、窒化工程において、磁気特性に優れた異方性磁性粉末を得ることができると考えられる。
【0012】
[沈殿工程1]
沈殿工程1は、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄とチタンを含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とチタンとを含む沈殿物を得る工程である。強酸性の溶液にR原料と鉄原料とチタン原料を、その後の沈殿工程2での沈殿物を考慮して最終物の目的の組成が得られるよう適宜溶解することで、Rと鉄とチタンを含む溶液を調整する。SmFe17を主相として得る場合、RおよびFeのモル比(R:Fe)は1.5:17〜3.0:17の範囲であることが好ましく、2.0:17〜2.5:17の範囲であることがより好ましい。
【0013】
Rと鉄とチタンを含む溶液は、R原料、鉄原料、チタン原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されない。例えば、入手のしやすさの点で、R原料としては各金属の酸化物が、Fe原料としてはFeSOが、チタン原料としては硫酸チタニアが挙げられる。Rと鉄とチタンを含む溶液の濃度は、R原料と鉄原料とチタン原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整することができる。酸性溶液としては溶解性の点で硫酸が挙げられる。
【0014】
Rと鉄とチタンを含む溶液と沈殿剤を反応させることにより、Rと鉄とチタンとを含む不溶性の沈殿物を得る。ここで、Rと鉄とチタンを含む溶液は、沈殿剤との反応時にRと鉄とチタンを含む溶液となっていればよく、たとえばRと鉄とチタンを含む原料を別々の溶液として調製し、各々の溶液を滴下して沈殿剤と反応させても良い。別々の溶液として調整する場合も各原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整する。沈殿剤としては、アルカリ性の溶液でRと鉄とチタンとを含む溶液と反応して沈殿物が得られるものであれば限定されず、アンモニア水、苛性ソーダなどが挙げられ、苛性ソーダが好ましい。
【0015】
沈殿反応は、沈殿物の粒子の性状を容易に調整できる点から、Rと鉄とチタンを含む溶液と、沈殿剤と、をそれぞれ水などの溶媒に滴下する方法が好ましい。チタンはRと鉄とともに含む溶液として滴下しても、Rと鉄を含む溶液とは別の溶液として滴下しても良い。また、チタンを含む溶液に対して、Rと鉄を含む溶液と沈殿剤を滴下しても良い。Rと鉄とチタンとを含む溶液と沈殿剤との供給速度、反応温度、反応液濃度、反応時のpH等を適宜制御することにより、構成元素の分布が均質で、粒度分布のシャープな、粉末形状の整った沈殿物が得られる。このような沈殿物を使用することによって、最終製品である磁性粉末の磁気特性が向上する。反応温度は、0〜50℃とすることができ、35〜45℃であることが好ましい。反応液濃度は、金属イオンの総濃度として0.65mol/L〜0.85mol/Lとすることが好ましく、0.7mol/L〜0.85mol/Lとすることがより好ましい。反応pHは、5〜9とすることが好ましく、6.5〜8とすることがより好ましい。
【0016】
Rと鉄とチタンを含む溶液は、磁気特性の点で、さらにタングステンおよび/またはランタンを含むことが好ましい。ランタン原料としては、強酸性の溶液に溶解できるものであれば限定されず、例えば、入手のしやすさの点で、LaClが挙げられる。R原料と鉄原料とチタン原料とランタン原料が実質的に酸性溶液に溶解する範囲で適宜調整し、酸性溶液としては溶解性の点で硫酸が挙げられる。タングステン原料としては、タングステン酸アンモニウムが挙げられ、Rと鉄とチタンとランタンを含む溶液とは別に、水に実質的に溶解する範囲で調整することが好ましい。
【0017】
Rと鉄とチタンを含む溶液が、さらにタングステンおよび/またはランタンを含む場合、Rと鉄とチタンとタングステンおよび/またはランタンを含む不溶性の沈殿物を得る。ここで、Rと鉄とチタンとタングステンおよび/またはランタンを含む溶液は、沈殿剤との反応時にRと鉄とチタンとタングステンおよび/またはランタンとなっていればよく、例えば各原料を別々の溶液として調製し、各々の溶液を滴下して沈殿剤と反応させても良いし、Rと鉄を含む溶液と一緒に調整しても良い。
【0018】
[沈殿工程2]
沈殿工程2は、沈殿工程1で形成された沈殿物の存在下、R(RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種)と鉄を含む溶液と沈殿剤を混合し、Rと鉄とを含む沈殿物を得る工程である。沈殿工程1とは、チタンを含まない溶液を使用する点が異なり、チタンを含まない点以外は、沈殿工程1と同様の原料を使用し、同様の方法で行うことができる。
【0019】
沈殿工程1および2を経ることによって、Rと鉄とチタンとを含む一次粒子からなる中心部と、Rと鉄とを含む一次粒子からなる外周部で構成された、Rと鉄とチタンを含む異方性磁性粉末用二次粒子が得られる。得られた異方性磁性粉末用二次粒子により、最終的に得られる磁性粉末の粉末粒径、粉末形状、粒度分布がおよそ決定される。得られた二次粒子の粒径をレーザー回折式湿式粒度分布計により測定した場合、全粉末が、0.05〜20μm、好ましくは0.1〜10μmの範囲にほぼ入るような大きさと分布であることが好ましい。また、平均粒径は、粒度分布における小粒径側からの体積累積50%に相当する粒径として測定され、0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
【0020】
チタンを含む溶液を使用する沈殿工程1で使用する鉄の量は、沈殿工程1および2で使用する鉄の合計量のうち、70重量%以下が好ましく、40重量%以下より好ましい。70重量%を超えると、外周部にRと鉄とチタンを含む一次粒子が含まれるようになるため、磁気特性の改善が見られ難い。また、全沈殿工程の合計時間うち沈殿工程1の時間は70%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
【0021】
沈殿物を分離した後は、続く酸化工程の熱処理において残存する溶媒に沈殿物が再溶解して、溶媒が蒸発する際に沈殿物が凝集したり、粒度分布、粉末径等が変化したりすることを抑制するために、脱溶媒しておくことが好ましい。脱溶媒する方法として具体的には、例えば溶媒として水を使用する場合、70〜200℃のオーブン中で5時間〜12時間乾燥する方法を挙げることができる。
【0022】
沈殿工程2の後に、得られる沈殿物を分離洗浄する工程を含んでもよい。洗浄する工程は上澄み溶液の導電率が5mS/m以下となるまで適宜行う。沈殿物を分離する工程としては、例えば、得られた沈殿物に溶媒(好ましくは水)を加えて混合した後、濾過法、デカンテーション法等を用いることができる。
【0023】
[酸化工程]
酸化工程とは、沈殿工程2で形成された沈殿物を焼成することにより、Rと鉄とチタンとを含む酸化物を得る工程である。例えば、熱処理により沈殿物を酸化物に変換することができる。沈殿物を熱処理する場合、酸素の存在下で行われる必要があり、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。また、酸素存在下で行われる必要があるため、沈殿物中の非金属部分に酸素原子を含むことが好ましい。
【0024】
酸化工程における熱処理温度(以下、酸化温度)は特に限定されないが、700〜1300℃が好ましく、900〜1200℃がより好ましい。700℃未満では酸化が不十分となり、1300℃を超えると、目的とする磁性粉末の形状、平均粒径および粒度分布が得られない傾向にある。熱処理時間も特に限定されないが、1〜3時間が好ましい。
【0025】
得られる酸化物は、酸化物粒子内においてR、鉄、チタンの微視的な混合が充分になされ、沈殿物の形状、粒度分布等が反映された酸化物粒子である。
【0026】
[前処理工程]
前処理工程とは、還元性ガス雰囲気下熱処理することにより、酸化工程で得られた酸化物の一部が還元された部分酸化物を得る工程である。
【0027】
還元性ガスは水素(H)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)等の炭化水素ガスなどから適宜選択されるが、コストの点で水素ガスが好ましく、ガスの流量は、酸化物が飛散しない範囲で適宜調整される。前処理工程における熱処理温度(以下、前処理温度)は、300℃以上950℃以下の範囲とし、好ましくは400℃以上、より好ましくは750℃以上であり、好ましくは900℃未満である。前処理温度が300℃以上であるとFe酸化物の還元が効率的に進行する。また950℃以下であると酸化物粒子が粒子成長、偏析することが抑制され、所望の粒径を維持することができる。また、還元性ガスとして水素を用いる場合、使用する酸化物層の厚みを20mm以下に調整し、更に反応炉内の露点を−10℃以下に調整することが好ましい。
【0028】
[還元工程]
還元工程とは、得られた部分酸化物を還元することにより、例えば、部分酸化物と、金属カルシウムとを混合し、窒素以外のアルゴンなどの不活性ガス雰囲気又は真空中で熱処理することにより、Rと鉄とチタンとを含む合金粒子を得る工程である。
【0029】
酸化物がカルシウム融体またはカルシウムの蒸気と接触することで還元が行われる。還元工程における熱処理温度(以下、還元温度)は700〜1200℃の範囲であり、800〜1100℃の範囲とすることが好ましい。ランタンを含む場合、920〜1200℃の範囲が好ましい。ランタンの融点である920℃以上に設定するとランタンの拡散は起こるが、十分に拡散させるためには950℃以上であるのが好ましい。熱処理時間は、還元反応をより均一に行う観点から、10分〜10時間の範囲の時間で行うことができ、10分〜2時間の範囲で行うことが好ましい。
【0030】
金属カルシウムは、粒状又は粉末状の形で使用されるが、その粒子径は10mm以下であることが好ましい。これにより還元反応時における凝集をより効果的に抑制することができる。また、金属カルシウムは、反応当量(希土類酸化物を還元するのに必要な化学量論量であり、Feが酸化物の形である場合には、これを還元するに必要な分を含む)の1.1〜3.0倍量の割合で添加することができ、1.5〜2.0倍量の割合で添加することが好ましい。
【0031】
還元工程では、還元剤である金属カルシウムとともに、必要に応じて崩壊促進剤を使用することができる。この崩壊促進剤は、後述する水洗工程に際して、生成物の崩壊、粒状化を促進させるために適宜使用されるものであり、例えば、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化カルシウム等のアルカリ土類酸化物などが挙げられる。これらの崩壊促進剤は、希土類源として使用される希土類酸化物当り1〜30質量%、好ましくは5〜30質量%の割合で使用される。
【0032】
[窒化工程]
窒化工程とは、還元工程で得られた合金粒子を窒化処理することにより、異方性の磁性粒子を得る工程である。金属同士を溶融させているのではなく、沈殿工程で得られる粒子状の沈殿物を用いているため、還元工程にて多孔質塊状の合金粒子が得られる。これにより、粉砕処理を行うことなく直ちに窒素雰囲気中で熱処理して窒化することができるため、窒化を均一に行うことができる。
【0033】
合金粒子の窒化処理における熱処理温度(以下、窒化温度)は、300〜600℃、特に400〜550℃の温度とし、この温度範囲で雰囲気を窒素雰囲気に置換することにより行われる。熱処理時間は、合金粒子の窒化が充分に均一に行われる程度に設定されればよく、例えば2〜30時間程度である。
【0034】
窒化工程後に得られる生成物には、磁性粒子に加えて、副生するCaO、未反応の金属カルシウム等が含まれ、これらが複合した焼結塊状態となっている場合がある。そこで、その場合は、この生成物を冷却水中に投入して、CaO及び金属カルシウムを水酸化カルシウム(Ca(OH))懸濁物として磁性粒子から分離することができる。さらに残留する水酸化カルシウムは、磁性粒子を酢酸等で洗浄して充分に除去してもよい。生成物を水中に投入した際には、金属カルシウムの水による酸化及び副生CaOの水和反応によって、複合した焼結塊状の反応生成物の崩壊、すなわち微粉化が進行する。次に表面処理のため表面処理剤としてリン酸溶液を窒化工程で得られた磁性粒子固形分に対してPOとして0.10〜10wt%の範囲で投入する。適宜溶液から分離し乾燥することで異方性の磁性粉末が得られる。
【0035】
以上のようにして得られた異方性磁性粉末は、典型的には下記一般式
v−xFe(100−v−W−t−z)TiLa(式中、RはSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびLuからなる群から選択される少なくとも1種を示し、3≦v≦30、5≦w≦15、0<t≦1.0、0≦x≦1.0、0≦z≦2.5である)
で表される。
【0036】
一般式において、vを3以上30以下と規定するのは、3未満では鉄成分の未反応部分(α−Fe相)が分離して窒化物の保磁力が低下し、実用的な磁石ではなくなり、30を越えると、Sc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種の元素が析出し、磁性粉末が大気中で不安定になり、残留磁束密度が低下するからである。また、wを5以上15以下と規定するのは、5未満では、ほとんど保磁力が発現できず、15を越えるとSc、Y、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luからなる群から選択される少なくとも1種の元素、鉄自体の窒化物が生成するからである。
【0037】
磁気特性の点より、Rとしては、Smが好ましく、tは0超〜1.0であるが、0.1〜0.5が好ましく、xは0〜1.0であるが、0.3〜0.8が好ましく、zは0〜2.5であるが、0.1〜0.5が好ましい。
【0038】
<複合材料>
以下、複合材料およびボンド磁石について説明する。
【0039】
複合材料は、先に説明した異方性磁性粉末と、樹脂より作製される。この異方性磁性粉末を含むことで、高い磁気特性を有する複合材料を構成することができる。
【0040】
複合材料に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を挙げることができる。
【0041】
複合材料を得る際の異方性磁性粉末と樹脂の混合比(樹脂/磁性粉末)は、0.10〜0.15であることが好ましく、0.11〜0.14であることがより好ましい。
【0042】
複合材料は、例えば、混練機を用いて、280〜330℃で異方性磁性粉末と樹脂とを混合することにより得ることができる。
【0043】
<ボンド磁石>
複合材料を用いることにより、ボンド磁石を製造することができる。具体的には例えば、複合材料を熱処理しながら配向磁場で磁化容易軸を揃え(配向工程)、次いで着磁磁場でパルス着磁する(着磁工程)ことにより、ボンド磁石を得ることができる。
【0044】
配向工程における熱処理温度は、例えば90〜200℃であることが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。配向工程における配向磁場の大きさは、例えば720kA/mとすることができる。また、着磁工程における着磁磁場の大きさは、例えば1500〜2500kA/mとすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例について説明する。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0046】
製造例1(Fe−Sm溶液)
純水2.0kgにFeSO・7HO 5.0kgを混合溶解した。さらにSm 0.49kgと70%硫酸0.74kgとを加えてよく攪拌し、完全に溶解する。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/l、Sm濃度が0.112mol/lとなるように調整し、Fe−Sm硫酸溶液とした。
【0047】
製造例2(Fe−Sm−La溶液)
純水20.0kgにFeSO・7HO 5.0kgを混合溶解した。さらにSm 0.48kg、31.8%のLaCl 0.071kgと70%硫酸0.72kgとを加えてよく攪拌し、完全に溶解する。次に、得られた溶液に純水を加え、最終的にFe濃度が0.726mol/l、Sm濃度が0.109mol/l、La濃度が0.0063mol/lとなるように調整し、これを沈殿工程1および2で使用するFe−Sm−La硫酸溶液とした。
【0048】
製造例3(W溶液)
純水2.0kgに6%塩酸0.59kg、パラタングステン酸アンモニウム0.313kgを混合し、沈殿物を洗浄する。その沈殿物に、純水2.0kg、17%アンモニア水494gを入れ混合溶解して、12.5wt%となるように調整し、これを沈殿工程1および2で使用するW溶液とした。
【0049】
製造例4(Ti溶液)
純水0.743kgに硫酸チタニア0.0186kgと70%硫酸0.093gを混合溶解して、0.5%となるように調整し、沈殿工程1で使用するTi溶液とした。
【0050】
実施例1(Fe−Sm−Ti)
[沈殿工程1および2]
温度が40℃に保たれた純水20kg中に、製造例4で調製したTi硫酸溶液1.70kgを全量混合した後に、製造例1で調製したFe−Sm硫酸溶液全量を反応開始から70分間で攪拌しながら滴下し、同時に15%アンモニア液を滴下させ、pHを7〜8に調整した。これにより、Fe−Sm−Ti水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーをデカンテーションにより純水で洗浄した後、水酸化物を固液分離した。分離した水酸化物を100℃のオーブン中で10時間乾燥した。
【0051】
[酸化工程]
沈殿工程で得られた水酸化物を大気中900℃で1時間、焼成処理した。冷却後、原料粉末として赤色のFe−Sm−Ti酸化物を得た。
【0052】
[前処理工程]
上記で得られたFe−Sm−Ti酸化物100gを、嵩厚10mmとなるように鋼製容器に入れた。容器を炉内に入れ、100Paまで減圧した後、水素ガスを導入しながら、表1に記載した前処理温度の850℃まで昇温し、そのまま15時間保持した。これにより、Smと結合している酸素は還元されず、Feと結合している酸素のうち、95%が還元される黒色の部分酸化物を得た。
【0053】
[還元工程]
前処理工程で得られた部分酸化物60gと平均粒径約6mmの金属カルシウム19.2gとを混合して炉内に入れた。炉内を真空排気した後、アルゴンガス(Arガス)を導入した。還元温度を1045℃まで上昇させて、そのまま2時間保持することにより、Fe−Sm−Ti合金粒子を得た。
【0054】
[窒化工程]
引き続き、炉内温度を100℃まで冷却した後、真空排気を行い、窒素ガスを導入しながら、温度を450℃まで上昇させて、そのまま23時間保持して、磁性粒子を含む塊状生成物を得た。
【0055】
[水洗−表面処理工程]
窒化工程で得られた塊状の生成物を純水3kgに投入し、30分間攪拌した。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを10回繰り返した。次いで99.9%酢酸2.5gを投入して15分間攪拌する。静置した後、デカンテーションにより上澄みを排水した。純水への投入、攪拌及びデカンテーションを2回繰り返した。
【0056】
得られたスラリーに対して、リン酸溶液を加えた。リン酸溶液を、磁性粒子固形分に対してPOとして1wt%分投入した。5分攪拌後、固液分離した後80℃で真空乾燥を3時間行い、磁性粉末を得た。得られた磁性粉末はSm8.8 Fe77.1 N13.66 Ti0.44で表された。
【0057】
[評価]
(磁気特性)
実施例の製造方法によって得られた磁性粒子を、パラフィンワックスと共に試料容器に詰め、ドライヤーにてパラフィンワックスを溶融した後、16kA/mの配向磁場にてその磁化容易軸を揃えた。この磁場配向した試料を32kA/mの着磁磁場でパルス着磁し、最大磁場16kA/mのVSM(振動試料型磁力計)を用いて残留磁束密度、保磁力、角形比を測定した。評価結果を表1に示す。
【0058】
実施例2(Fe−Sm−Ti)
実施例1の沈殿工程1および2において、温度が40℃に保たれた純水20kg中に、製造例4で調製したTi硫酸溶液1.70kgを反応開始から20分間で滴下し、製造例1で調製したFe−Sm硫酸溶液全量を反応開始から70分間で攪拌しながら滴下したこと以外は、実施例1と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm9.00 Fe76.8 N13.76 Ti0.44で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表1に示す。
【0059】
比較例1(Fe−Sm−Ti)
実施例1において、温度が40℃に保たれた純水2kg中に、製造例4で調製したTi硫酸溶液1.7kgと製造例1で調製したFe−Sm硫酸溶液全量をともに反応開始から70分間で攪拌しながら滴下したこと、前処理温度を900℃にしたこと以外は、実施例1と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm9.2 Fe77.0 N13.58 Ti0.42で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表1に示す。
【0060】
実施例3(Fe−Sm−Ti)
実施例2の沈殿工程1および2において、Ti硫酸溶液の量を0.85kgとしたこと、前処理温度を800℃にしたこと以外は、実施例2と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm9.1 Fe77.2 N13.49 Ti0.21で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表1に示す。
【0061】
比較例2(Fe−Sm−Ti)
比較例1において、Ti硫酸溶液0.85kgとしたこと、前処理温度を850℃にしたこと以外は、比較例1と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm9.0 Fe76.9 N13.9 Ti0.20で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から、Tiのモル比が0.1の場合、比較例1と比べて実施例1および2では前処理工程における還元される割合が同じ程度の部分酸化物を得るための熱処理温度を低減でき、得られた磁性粉末の残留磁束密度δr、保持力iHc、角型比Hkが向上した。またTiのモル比が0.05の場合に、比較例2と比べて実施例3では熱処理温度を低減でき、得られた磁性粉末の残留磁束密度δr、保持力iHc、角型比Hkが向上した。よって、チタンを反応初期に反応させることは、熱処理温度の低下と磁気特性の向上に効果があることが理解できる。
【0064】
実施例4(Fe−Sm−Ti−W)
実施例3において、製造例1で調製したFe−Sm硫酸溶液全量と製造例3で調整したW溶液100.9gをともに反応開始から70分間で攪拌しながら滴下したこと以外は、実施例3と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm8.9 Fe76.8 N13.89 Ti0.22 W0.19で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表2に示す。
【0065】
比較例3(Fe−Sm−Ti−W)
比較例2において、製造例1で調製したFe−Sm硫酸溶液全量と製造例3で調整したW溶液100.9gをともに反応開始から70分間で攪拌しながら滴下したこと以外は、比較例2と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm9.0Fe76.9N13.7Ti0.21W0.19で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2の結果から、Tiのモル比が0.05、Wのモル比が0.05の場合、比較例3と比べて実施例4では前処理工程における還元される割合が同じ程度の部分酸化物を得るための熱処理温度を低減でき、得られた磁性粉末の残留磁束密度δr、保持力iHc、角型比Hkが向上した。よって、タングステンを添加する場合においても、チタンを反応初期に反応させることは、熱処理温度の低下と磁気特性の向上に効果があることが理解できる。
【0068】
実施例5(Fe−Sm−Ti−W−La)
実施例4において、Fe−Sm硫酸溶液の代わりに製造例2で調整したFe−Sm−La硫酸溶液全量を使用したことと、W溶液を50.4gとしたこと以外は、実施例4と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm8.99 Fe77.3 N13.24 Ti0.22 La0.14 W0.11で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表3に示す。
【0069】
比較例4(Fe−Sm−Ti−W−La)
比較例3において、Fe−Sm硫酸溶液の代わりに製造例2で調整したFe−Sm−La硫酸溶液全量を使用したことと、W溶液を50.4gとしたこと以外は、比較例3と同様に行い、95%が還元される黒色の部分酸化物とSm9.02 Fe77.0 N13.52 Ti0.21 La0.15 W0.10で表される磁性粉末を得た。得られた磁性粉末の磁気特性を測定した結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3の結果から、Tiのモル比が0.05、Wのモル比が0.025、Laのモル比が0.15の場合、比較例4と比べて実施例5では前処理工程における還元される割合が同じ程度の部分酸化物を得るための熱処理温度を低減でき、得られた磁性粉末の残留磁束密度δr、角型比Hkが向上した。よって、タングステンおよびランタンを添加する場合においても、チタンを反応初期に反応させることは、熱処理温度の低下と磁気特性の向上に効果があることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の製造方法によって得られた異方性磁性粉末は、高い磁気特性を有することから、複合材料及ボンド磁石として、モーター等の用途に好適に適用することができる。