特許第6447783号(P6447783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447783
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物、及び、繊維積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20181220BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20181220BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20181220BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   B32B27/40
   B32B27/12
   C08L75/04
   C08K5/353
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-521668(P2018-521668)
(86)(22)【出願日】2017年10月26日
(86)【国際出願番号】JP2017038609
(87)【国際公開番号】WO2018100930
(87)【国際公開日】20180607
【審査請求日】2018年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-234112(P2016-234112)
(32)【優先日】2016年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 智博
【審査官】 大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−277636(JP,A)
【文献】 特開2008−266520(JP,A)
【文献】 特開2003−119677(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/093299(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/169244(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/14
C08K 3/00 − 13/08
B32B 27/40
B32B 5/24
C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動開始温度が50〜155℃の範囲であるウレタン樹脂(A)、水性媒体(B)、及び、オキサゾリン架橋剤(C)を含有し、感熱ゲル化剤を含有しない水性樹脂組成物により形成された層(iii)、及び、繊維基材(iv)を有し、前記層(iii)と繊維基材(iv)とが熱圧着されたものであることを特徴とする繊維積層体。
【請求項2】
前記オキサゾリン架橋剤(C)の含有量が、前記ウレタン樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜100質量部の範囲である請求項1記載の繊維積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、及び、繊維積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂が水性媒体中に分散した水性ウレタン樹脂組成物は、従来の有機溶剤系ウレタン樹脂組成物と比較して、環境への負荷を低減できることから、人工皮革、合成皮革等の皮革様シート、手袋、カーテンやシーツ等のコーティング剤、接着剤などを製造する材料として、近年好適に使用され始めている。
【0003】
前記水性ウレタン樹脂組成物としては、優れた剥離強度や耐久性を付与するため、水性ウレタン樹脂を含む主剤に対し、カルボジイミド化合物等の架橋剤を配合した、2液型の態様で使用されることが一般的である(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、2液型の場合、配合液のポットライフ(配合液の使用可能時間)が非常に短く、さらにエージングも必要であるため、製造工程の管理や、エネルギーコストが極めて大きな課題であった。一方、架橋剤を配合しない1液型では、剥離強度等の接着性や、耐湿熱性や耐熱性の耐久性の向上が長年の課題となっており、両者の性能を併せ持つ材料の開発が強く要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−195412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ポットライフ、接着強度、耐湿熱性、及び耐熱性に優れる水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、流動開始温度が50〜155℃の範囲であるウレタン樹脂(A)、水性媒体(B)、及び、オキサゾリン架橋剤(C)を含有することを特徴とする水性樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、前記水性樹脂組成物により形成された層(iii)、及び、繊維基材(iv)を有することを特徴とする繊維積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性樹脂組成物は、ポットライフ性、接着強度、耐湿熱性、及び耐熱性に優れるものである。よって、本発明の水性樹脂組成物は、手袋、皮革様シート、カーテンやシーツ等の製造に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水性樹脂組成物は、流動開始温度が50〜155℃の範囲であるウレタン樹脂(A)、水性媒体(B)、及び、オキサゾリン架橋剤(C)を含有するものである。
【0010】
前記ウレタン樹脂(A)は、流動開始温度を前記特定の範囲に設計することで優れた接着強度、及び、耐湿熱性が得られるものである。この理由としては、前記特定範囲の流動開始温度に設計することにより、前記ウレタン樹脂(A)が熱圧着工程で溶融し、前記繊維基材(iv)へ浸透するため優れた接着が可能となる。また、熱圧着工程後、流動開始温度以下の通常使用温度範囲では前記ウレタン樹脂(A)は結晶化、固化するため、耐湿熱条件下においても優れた接着力を維持することができる。前記ウレタン樹脂(A)の流動開始温度としては、より一層優れた接着強度、及び、耐湿熱性が得られる点から、70〜130℃の範囲が好ましく、80〜120℃の範囲がより好ましく、95〜115℃の範囲が更に好ましい。
【0011】
前記ウレタン樹脂(A)の流動開始温度を調整する方法としては、主に後述するウレタン樹脂(A)の原料であるポリオール(a1)の種類、鎖伸長剤(a2)の使用量、及びポリイソシアネート(a3)の種類により調整する方法が挙げられる。前記流動開始温度を高く調整する方法としては、例えば、ポリオール(a1)としてポリカーボネートポリオールのように結晶性の高いポリオールを用いること、鎖伸長剤(a2)の使用量を多くすること、ポリイソシアネート(a3)として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートやジシクロヘキシルメタンジイソシアネートのように結晶性の高いポリイソシアネートを用いることなどが挙げられる。また、前記流動開始温度を低く調整する方法としては、例えば、ポリオール(a1)としてポリオキシプロピレングリコールのように結晶性の低いポリオールを用いること、鎖伸長剤(a2)の使用量を少なくすること、ポリイソシアネート(a3)として、トルエンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートのように結晶性の低いポリイソシアネートを用いることなどが挙げられる。よって、これらの方法を適宜選択することによって、前記ウレタン樹脂(A)の流動開始温度を調整することができる。なお、前記ウレタン樹脂(A)の流動開始温度の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0012】
前記ウレタン樹脂(A)は、後述する水性媒体(B)中に分散等し得るものであり、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有するウレタン樹脂;乳化剤で強制的に水性媒体(B)中に分散したウレタン樹脂などを用いることができる。これらのウレタン樹脂(A)は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、製造安定性の点から、親水性基を有するウレタン樹脂を用いることが好ましく、より一層優れた接着強度、及び耐湿熱性が得られる点から、アニオン性基を有するウレタン樹脂、及び/又はノニオン性ウレタン樹脂を用いることがより好ましい。
【0013】
前記アニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、カルボキシル基を有するグリコール化合物及びスルホニル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を原料として用いる方法が挙げられる。
【0014】
前記カルボキシル基を有するグリコール化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−吉草酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記スルホニル基を有する化合物としては、例えば、3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,6−ジアミノベンゼンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチルスルホン酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記アニオン性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料を用いる場合の使用量としては、より一層優れた接着強度、及び、耐湿熱性が得られる点から、ポリオール(a1)、アニオン性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、及び鎖伸長剤(a2)の合計質量中0.1〜4.8質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜4質量%の範囲であることがより好ましく、1〜3質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0017】
前記カルボキシル基及びスルホニル基は、水性樹脂組成物中で、一部又は全部が塩基性化合物に中和されていてもよい。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等を含む金属塩基化合物などを用いることができる。
【0018】
前記カチオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、アミノ基を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0019】
前記アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン等の1級及び2級アミノ基を有する化合物;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等のN−アルキルジアルカノールアミン、N−メチルジアミノエチルアミン、N−エチルジアミノエチルアミン等のN−アルキルジアミノアルキルアミンなどの3級アミノ基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記ノニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、オキシエチレン構造を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0021】
前記オキシエチレン構造を有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール等のオキシエチレン構造を有するポリエーテルポリオールを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記オキシエチレン構造を有する化合物を用いる場合には、ポリオール(a1)、オキシエチレン構造を有する化合物、及び鎖伸長剤(a2)の合計質量中1〜20質量%の範囲であることが好ましく、2.5〜17.5質量%の範囲であることがより好ましく、5〜15質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0023】
前記強制的に水性媒体(B)中に分散するウレタン樹脂を得る際に用いることができる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性乳化剤などを用いることができる。これらの乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記ウレタン樹脂(A)としては、具体的には、ポリオール(a1)、前記した親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、鎖伸長剤(a2)、及びポリイソシアネート(a3)の反応物を用いることができる。
【0025】
前記ポリオール(a1)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、ウレタン樹脂(A)としてノニオン性ウレタン樹脂を採用する場合には、前記ポリオール(a1)としては、前記オキシエチレン構造を有する化合物以外のものを採用する。
【0026】
前記ポリオール(a1)の数平均分子量としては、得られる皮膜の機械的強度の点から、500〜8,000の範囲であることが好ましく、800〜4,000の範囲であることがより好ましい。なお、前記ポリオール(a1)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0027】
前記鎖伸長剤(a2)としては、数平均分子量が50〜450の範囲のものを用いることができ、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤(a2−1);エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤(a2−2)などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記鎖伸長剤(a2)の使用量としては、得られるウレタン樹脂(A)の流動開始温度を調整しやすく、より一層優れた接着性、及び、耐湿熱性が得られる点から、ポリオール(a1)、親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料及び鎖伸長剤(a2)の合計質量中0.8〜4.3質量%の範囲であることが好ましく、1〜3.5質量%の範囲であることがより好ましく、1.5〜3.2質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0029】
前記ポリイソシアネート(a3)としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート(a3−1);ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート及び/又は脂環式ポリイソシアネート(a3−2)などを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記ポリイソシアネート(a3)の使用量としては、製造安定性、及び得られる皮膜の機械物性の点から、前記ウレタン樹脂(A)の原料の合計質量中5〜40質量%の範囲であることが好ましく、10〜30質量%の範囲であることがより好ましい。
【0031】
前記ウレタン樹脂(A)としてアニオン性ウレタン樹脂を用いる場合には、流動開始温度を調整しやすく、より一層優れた接着性、及び、耐湿熱性が得られる点から、ポリオール(a1)と、カルボキシル基を有するグリコール化合物と、水酸基を有する鎖伸長剤(a2−1)を含む鎖伸長剤と、芳香族ポリイソシアネート(a3−1)との反応物であるアニオン性ウレタン樹脂(A−A−1)、又は、ポリオール(a1)と、カルボキシル基を有するグリコール化合物と、アミノ基を有する鎖伸長剤(a3−2)を含む鎖伸長剤と、脂肪族ポリイソシアネート及び/又は脂環式ポリイソシアネート(a3−2)との反応物であるアニオン性ウレタン樹脂(A−A−2)を用いることが好ましい。
【0032】
また、ウレタン樹脂(A)としてノニオン性ウレタン樹脂を用いる場合には、流動開始温度を調整しやすく、より一層優れた接着性、及び、耐湿熱性が得られる点から、ポリオール(a1)と、オキシエチレン構造を有する化合物と、水酸基を有する鎖伸長剤(a2−1)を含む鎖伸長剤と、芳香族ポリイソシアネート(a3−1)との反応物であるノニオン性ウレタン樹脂(A−N−1)、又は、ポリオール(a1)と、オキシエチレン構造を有する化合物と、アミノ基を有する鎖伸長剤(a3−2)を含む鎖伸長剤と、脂肪族ポリイソシアネート及び/又は脂環式ポリイソシアネート(a3−2)との反応物であるノニオン性ウレタン樹脂(A−N−2)を用いることが好ましい。
【0033】
前記ウレタン樹脂(A)の製造方法としては、例えば、前記ポリオール(a1)、前記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、前記鎖伸長剤(a2)、及び前記ポリイソシアネート(a3)を一括に仕込み反応させる方法が挙げられる。これらの反応は、例えば50〜100℃で3〜10時間行うことが挙げられる。
【0034】
前記ウレタン樹脂(A)を製造する際の、前記ポリオール(a1)が有する水酸基、前記親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料が有する水酸基及びアミノ基、並びに前記鎖伸長剤(a3)が有する水酸基及びアミノ基の合計と、前記ポリイソシアネート(a4)が有するイソシアネート基とのモル比[イソシアネート基/(水酸基及びアミノ基)]としては、0.8〜1.2の範囲であることが好ましく、0.9〜1.1の範囲であることがより好ましい。
【0035】
前記ウレタン樹脂(A)を製造する際には、前記ウレタン樹脂(A)に残存するイソシアネート基を失活させることが好ましい。前記イソシアネート基を失活させる場合には、メタノール等の水酸基を1個有するアルコールを用いることが好ましい。前記アルコールの使用量としては、ウレタン樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0036】
また、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際には、有機溶剤を用いてもよい。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド化合物などを用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記有機溶剤は、水性樹脂組成物を得る際には蒸留法等によって除去されることが好ましい。
【0037】
前記水性媒体(B)としては、例えば、水、水と混和する有機溶剤、これらの混合物等を用いることができる。前記水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール溶媒;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル溶媒;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム溶媒等を用いることができる。これらの水性媒体は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安全性、及び環境負荷の軽減化の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いることが好ましく、水のみ用いることがより好ましい。
【0038】
前記ウレタン樹脂(A)と前記水性媒体(B)との質量比[(A)/(B)]としては、作業性の点から、10/80〜70/30の範囲であることが好ましく、20/80〜60/40の範囲であることがより好ましい。
【0039】
前記オキサゾリン架橋剤(C)は、優れたポットライフ、及び、耐熱性を得るうえで必須の成分である。前記オキサザリン架橋剤(C)は、ポットライフが十分に長く、本発明の水性樹脂組成物の乾燥工程や、熱ラミネート工程等をする場合においても架橋が進行せず、加工を阻害することがない。一方、加工後には、時間とともに反応するため、実使用時には優れた耐熱性を実現することができる。
【0040】
前記オキサゾリン架橋剤(C)としては、例えば、2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、1,2−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)エタン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ブタン、1,8−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ブタン、1,4−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)シクロヘキサン、1,2−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、1,3−ビス(2−オキサゾリン−2−イル)ベンゼン、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基を有する化合物;オキサゾリン基を有するポリマーなどを用いることができる。これらのオキサゾリン架橋剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れたポットライフ、及び、耐熱性が得られる点から、オキサゾリン基を有するポリマーを用いることが好ましい。
【0041】
前記オキサゾリン基を有するポリマーとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等の重合性オキサゾリン化合物の重合物を用いることができる。
【0042】
前記オキサゾリン基を有するポリマーは、好ましくは、日本触媒株式会社製の「エポクロス」シリーズを市販品として入手することができ、具体的には、水溶性タイプの「エポクロスWS−500」、「エポクロスWS−700」、固形タイプの「RPS−1005」等が挙げられる。
【0043】
前記オキサゾリン架橋剤(C)の含有量としては、より一層優れたポットライフ、及び、耐熱性が得られる点から、前記ウレタン樹脂(A)(=固形分)100質量部に対して、0.01〜100質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜50質量部の範囲がより好ましく、0.5〜30質量部の範囲が更に好ましく、1〜10質量部が特に好ましい。
【0044】
本発明の水性樹脂組成物は、前記ウレタン樹脂(A)、前記水性媒体(B)、及び前記オキサゾリン架橋剤(C)を含有するものであり、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。
【0045】
前記その他の添加剤としては、例えば、乳化剤、中和剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、発泡剤、顔料、染料、撥油剤、中空発泡体、難燃剤、消泡剤、レべリング剤、ブロッキング防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記乳化剤としては、例えば、前記強制的に水性媒体(B)中に分散するウレタン樹脂を得る際に用いることができる乳化剤と同様のものを用いることができ、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ウレタン樹脂(A)の水分散安定性、及び風合いをより一層向上できる点から、ノニオン性乳化剤を用いることが好ましい。
【0047】
前記乳化剤を用いる場合の使用量としては、水分散安定性及び風合いの点から、前記ウレタン樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜30質量部の範囲であることが好ましく、1〜10質量部の範囲であることがより好ましい。
【0048】
前記中和剤は、前記ウレタン樹脂(A)のカルボキシル基を中和するものであり、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノール等の三級アミン化合物などを用いることができる。これらの中和剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記中和剤を用いる場合の使用量としては、前記ウレタン樹脂(A)に含まれるカルボキシル基のモル数に対して0.8〜1.2倍の範囲であることが好ましい。
【0050】
次に、本発明の繊維積層体について説明する。
【0051】
前記繊維積層体は、前記水性樹脂組成物により形成された層(iii)、及び、繊維基材(iv)を有するものである。
【0052】
前記繊維基材(iv)としては、例えば、不織布、織布、編み物等を使用することができる。前記繊維基材を構成するものとしては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、絹、羊毛、それらの混紡繊維等を使用することができる。
【0053】
前記繊維積層体を製造する方法としては、ドライラミネート法を用いることが好ましく、例えば、離型紙(i)上に、前記水性樹脂組成物を塗布し、乾燥させた後に、繊維基材(iv)を貼り合せ、熱圧着する方法が挙げられる。
【0054】
前記水性樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、アプリケーター等を使用する方法が挙げられる。前記水性樹脂組成物の乾燥後の塗布物の厚さとしては、例えば、5〜100μmの範囲である。
【0055】
前記水性樹脂組成物の乾燥方法としては、例えば、60〜130℃の温度で30秒〜10分間乾燥させる方法が挙げられる。
【0056】
前記水性樹脂組成物の乾燥物は、引き続き繊維基材と貼り合せ(重ね合せ)、例えば80〜140℃に加熱された圧着ロール等を使用して、例えば5〜10MPa/mの圧力で、熱圧着することが好ましい。その後、必要に応じて20〜100℃の温度下でエージングを行ってもよい。以上の方法により、優れた接着性、及び耐湿熱性を有する繊維積層体を得ることができる。
【0057】
また、前記水性樹脂組成物を用いて合成皮革を製造する方法としては、例えば、離型紙(i)上に形成された表皮層(ii)上に、前記水性樹脂組成物を塗布し、乾燥させた後に、繊維基材(iv)を貼り合せ、熱圧着する方法が挙げられる。
【0058】
前記表皮層(ii)を形成する樹脂組成物としては、公知のものを用いることができ、例えば、水性ウレタン樹脂組成物、水性アクリル樹脂組成物、溶剤系ウレタン樹脂組成物、溶剤系アクリル樹脂組成物等を用いることができる。これらの中でも、環境負荷の低減化の点から、水性ウレタン樹脂組成物、水性アクリル樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0059】
前記表皮層(ii)を形成する方法としては、例えば、前記離型紙(i)上に前記表皮層(ii)を形成する樹脂組成物を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。前記樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、アプリケーター等を使用する方法が挙げられる。前記樹脂組成物の乾燥後の塗布物の厚さとしては、例えば、5〜100μmの範囲である。引き続き、前記表皮層(ii)上に、前記水性樹脂組成物により形成された層(iii)及び繊維基材(iv)を形成するが、前述と同様の方法により、合成皮革を製造することができる。
【0060】
以上、本発明の水性樹脂組成物は、架橋剤を用いることなく、優れた接着性、及び、耐湿熱性を有するものである。また、架橋剤を用いないため、ポットライフやエージングを考慮する必要がないものである。よって、本発明の水性樹脂組成物は、手袋、皮革様シート、カーテンやシーツ等のコーティング剤などの製造に好適に使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0062】
[実施例1]水性樹脂組成物(X−1)の調製
メチルエチルケトン3,736質量部及びオクチル酸第一錫0.1質量部の存在下、ポリエーテルポリオール(三菱化学株式会社製「PTMG1000」、数平均分子量;1,000)1,000質量部と、2,2−ジメチロールプロピオン酸20質量部と、1,4−ブタンジオール77質量部と、ジフェニルメタンジイソシアネート485質量部とを溶液粘度が20,000mPa・sに達するまで70℃で反応させた後、メタノール3質量部を加えて反応を停止させてアニオン性ウレタン樹脂(A−1−1)のメチルエチルケトン溶液を得た。このウレタン樹脂溶液にポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(Hydrophile−Lipophile Balance(以下、「HLB」と略記する。);13)70質量部と、トリエチルアミン17質量部を混合させた後に、イオン交換水5,408質量部を加えて転相乳化させることで前記アニオン性ウレタン樹脂(A−A−1−1)が水に分散した乳化液を得た。
次いで、前記乳化液からメチルエチルケトンを留去することによって、不揮発分60質量%の樹脂組成物(X−1)を得た。なお、前記アニオン性ウレタン樹脂(A−A−1−1)の流動開始温度は100℃であった。
この樹脂組成物(X−1)100質量部、増粘剤(Borchers社製「Borchi Gel ALA」)2質量部、オキサゾリン架橋剤(日本触媒株式会社製「エポクロスWS−700」(固形分25質量%)、以下「WS−700」と略記する。)5質量部を容器に入れ、メカニカルミキサーにて2,000rpmで2分間撹拌し、次いで、真空脱泡器により脱泡させて水性樹脂組成物(X−1)を得た。
【0063】
[ウレタン樹脂(A)の流動開始温度の測定方法]
得られた水性樹脂組成物(X−1)を離型紙に塗布し(塗布厚さ150μm)、熱風乾燥機にて70℃、4分間、次いで120℃で2分間乾燥することで乾燥物を得た。この乾燥物を、株式会社島津製作所製フローテスター「CFT−500A」(口径1mm、長さ1mmのダイスを使用、荷重98N、昇温速度3℃/分)を使用して、流動開始温度を測定した。
【0064】
[実施例2]水性樹脂組成物(X−2)の調製
ポリエーテルポリオールをポリカーボネートポリオール(宇部興産株式会社製「ETERNACOLL UH−100」、数平均分子量;1,000)に変更した以外は、実施例1と同様にして、アニオン性ウレタン樹脂(A−A−1−2)を含む水性樹脂組成物(X−2)を得た。なお、前記アニオン性ウレタン樹脂(A−A−1−2)の流動開始温度は110℃であった。
【0065】
[実施例3]水性樹脂組成物(X−3)の調製
ポリエーテルポリオールをポリエステルポリオール(株式会社ダイセル製「プラクセ210」、数平均分子量;1,000)に変更した以外は、実施例1と同様にして、アニオン性ウレタン樹脂(A−A−1−3)を含む水性樹脂組成物(X−3)を得た。なお、前記アニオン性ウレタン樹脂(A−A−1−3)の流動開始温度は100℃であった。
【0066】
[比較例1]水性樹脂組成物(X’−1)の調製
実施例1において、オキサゾリン架橋剤(日本触媒株式会社製「エポクロスWS−700」)7質量部を0質量部に変更した以外は、同様にして、水性樹脂組成物(X’−1)を得た。
【0067】
[比較例2]水性樹脂組成物(X’−2)の調製
実施例1において、オキサゾリン架橋剤(日本触媒株式会社製「エポクロスWS−700」)5質量部を、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化合物(以下、「NCO架橋剤」と略記する。)2質量部に変更した以外は、同様にして、水性樹脂組成物(X’−2)を得た。
【0068】
[比較例3]水性樹脂組成物(X’−3)の調製
実施例1において、オキサゾリン架橋剤(日本触媒株式会社製「エポクロスWS−700」)7質量部を、カルボジイミド架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV−02」(固形分40質量%)、以下「カルボジイミド架橋剤」と略記する。)3質量部に変更した以外は、同様にして、水性樹脂組成物(X’−3)を得た。
【0069】
[比較例4]水性樹脂組成物(X’−4)の調製
メチルエチルケトン3,080質量部及びオクチル酸第一錫0.1質量部の存在下、ポリエーテルポリオール(三菱化学株式会社製「PTMG1000」、数平均分子量;1,000)1,000質量部と、2,2−ジメチロールプロピオン酸20質量部と、ジフェニルメタンジイソシアネート288質量部とを溶液粘度が20,000mPa・sに達するまで70℃で反応させた後、メタノール3質量部を加えて反応を停止させてアニオン性ウレタン樹脂(A’−3)のメチルエチルケトン溶液を得た。このウレタン樹脂溶液にポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(Hydrophile−Lipophile Balance(以下、「HLB」と略記する。);13)66質量部、トリエチルアミン17質量部を混合させた後に、イオン交換水4,474質量部を加えて転相乳化させることで前記アニオン性ウレタン樹脂(A’−1)が水に分散した乳化液を得た。
次いで、前記乳化液からメチルエチルケトンを留去することによって、不揮発分60質量%の樹脂組成物(X’−4)を得た。なお、前記アニオン性ウレタン樹脂(A’−1)の流動開始温度は40℃以下であった。
このアニオン性ウレタン樹脂(A’−1)100質量部、増粘剤(Borchers社製「Borch Gel ALA」)2質量部、オキサゾリン架橋剤(日本触媒株式会社製「エポクロスWS−700」、以下「WS−700」と略記する。)5質量部を容器に入れ、メカニカルミキサーにて2,000rpmで2分間撹拌し、次いで、真空脱泡器により脱泡させて水性樹脂組成物(X−4)を得た。
【0070】
[数平均分子量の測定方法]
実施例及び比較例にて用いたポリオール等の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定し得られた値を示す。
【0071】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0072】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0073】
[ポットライフの評価方法]
実施例及び比較例において、ウレタン樹脂(A)に架橋剤(B)を配合したときを基点として、3時間経過した後の水性樹脂組成物の粘度(B型粘度計、10Pコーン)を測定し、30,000mPa・s以下であれば「T」、30,000mPa・sを超えた場合は「F」と評価した。
【0074】
[調製例1]表皮層用配合液の調製
エーテル系ウレタンディスパージョン(DIC株式会社製「ハイドランWLS−120AR」100質量部、増粘剤(Borcher社製「Borch Gel ALA」)2質量部、レべリング剤(Evonik社製「TEGO Flow425」)0.2質量部、消泡剤(Evonik社製「TEGO Twin4000」)0.2質量部、黒色顔料(DIC株式会社製「DILAC HS−9550」)5質量部をメカニカルミキサーにて2,000rpm、2分間撹拌し、次いで真空脱泡機を使用して脱泡させて表皮層用配合液を得た。
【0075】
[合成皮革の製造方法]
離型紙(リンテック株式会社製「EK−100D」)上に、表皮層用配合液をナイフコーターにて塗布した後(塗布厚さ150μm)、熱風乾燥機を使用して70℃で2分間、次いで120℃で2分間乾燥させることにより表皮層を得た。更にこの表皮層上に、実施例及び比較例で得られた水性樹脂組成物を、ナイフコーターを使用して塗布した後(塗布厚さ150μm)、熱風乾燥機を使用して70℃で4分間、次いで120℃で2分間乾燥させた。最後に、不織布基材(目付300g/m)を前記乾燥物上に重ね、熱ロールプレス(ロール温度130℃、プレス線圧8MPa/m、送り速度1m/min)にて熱圧着させ、合成皮革を得た。
【0076】
[初期接着強度の評価方法]
前記合成皮革から離型紙を剥離し、その上に2.5cm幅のホットメルトテープ(サン化成工業株式会社製「BW−2」)を載置して150℃で30秒間加熱し、接着させた。ホットメルトテープの幅に沿って試料を切断し、この一部を剥離し、基材とホットメルトテープをチャックでつかみ、株式会社島津製作所製オートグラフ試験機「AG−X plus」を使用して、剥離強度を測定した。試験片を20cm剥離して得られたデータの平均値を求め、1cm幅に換算した。なお、表皮層が剥離し、接着強度が測定できなかったものは「−」とした。
【0077】
[耐湿熱性の評価方法]
前記合成皮革を70℃、湿度95%の環境下で5週間放置した後、同様に剥離強度を測定した。なお、耐湿性試験中に表皮層が脱落したものは「−」とした。
【0078】
[耐熱性の評価方法]
前記合成皮革を120℃の環境下で200時間、及び400時間放置した後、同様に剥離強度を測定した。なお、耐湿性試験中に表皮層が脱落したものは「−」とした。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
本発明である実施例1〜3は、優れたポットライフ、接着強度、耐湿熱性、及び耐熱性を有することが分かった。
【0082】
一方、比較例1は、架橋剤を用いない態様であるが、耐熱性が不良であった。
【0083】
比較例2は、オキサゾリン架橋剤(C)の代わりに、NCO架橋剤を用いた態様であるが、ポットライフが不良であった。
【0084】
比較例3は、オキサゾリン架橋剤(C)の代わりに、カルボジイミド架橋剤を用いた態様であるが、初期接着強度が不良であり、表皮層が剥離してしまった。
【0085】
比較例4は、流動開始温度が本発明で規定する範囲より低いウレタン樹脂(A)を用いた態様であるが、熱圧着工程後も前記接着層が溶融状態のため、初期の剥離強度が低く、合成皮革の実生産には用いることができないものであった。