【文献】
Materials science and engineering C,2016年 2月 1日,Vol.59,p.509-513
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって、該下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度が400−10000であることを特徴とする細胞培養基材。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって、該下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度が400−10000であることを特徴とする細胞培養基材を提供するものである。
【0016】
[下限臨界溶解温度を有するセグメント]
本発明における下限臨界溶解温度を有するセグメントとは、ブロックポリマーにおけるセグメントであって、該セグメントは、ある一定温度以下になると溶解する重合体で構成されたセグメントのことをいう。
【0017】
本発明における下限臨界溶解温度を有するセグメントとは、以下のようなある一定温度以下になると水に溶解する重合体である。下限臨界溶解温度を有する重合体としては、下記1)及び2)が挙げられる。
1)ホモポリマが下限臨界溶解温度を有するモノマーを重合させて得られる重合体
2)疎水化モノマーと親水性モノマーとの共重合体
【0018】
1)は、ホモポリマが下限臨界溶解温度を有するモノマーのみを重合させて得られる重合体セグメントである。ホモポリマが下限臨界溶解温度を有するモノマーとしては、例えばN−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピペリディン及びN−アクリロイルピロリディンが例示される。これらのモノマーは、単独でも複数種を同時に利用してもかまわない。
【0019】
1)であるホモポリマが下限臨界溶解温度を有するモノマーを重合させて得られるセグメントは、簡便に下限臨界溶解温度を有する重合体を製造することが可能である。しかしこれらのモノマーは、プラスチック表面との間に接着性が低く、水に触れると、塗布された重合体層が剥離しやすいと言う課題があるが、本願の細胞培養基材は、疎水性セグメントを含有することから、耐水性に優れるため、培養基材が剥離せずに使用することができる。
【0020】
2)は、疎水化モノマーと親水性モノマーとの共重合体である。疎水化モノマーと親水性モノマーとの共重合体が下限臨界溶解温度を有するためには、
2−1)親水性モノマーが、ホモポリマーが下限臨界溶解温度を有するモノマーである場合と、
2−2)下記式(1)で表されるモノマー(a)と親水性のアミド系ビニルモノマー(b)との共重合体(B1)、前記またはモノマー(a)と下記式(2)表されるモノマー(c)との共重合体(B2)、またはモノマー(a)と下記式(3)表されるポリエチレングリコール鎖含有モノマー(d)との共重合体(B3)、が挙げられる。
【0021】
【化4】
(式中、R
1は水素原子またはメチル基、R
2は炭素原子数2〜3のアルキレン基、R
3は炭素原子数1〜2のアルキル基を表す。)
【0022】
【化5】
(式中、R
4は水素原子またはメチル基、R
5は炭素原子数2〜3のアルキレン基を表す。)
【0023】
【化6】
(式中、nは2〜20の整数を表す。)
【0024】
親水性のアミド系モノマー(b)としては、ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、メチルアクリルアミド、エチルアクリルアミドなどが例示される。
【0025】
疎水化モノマーとは、モノマー時は水溶性であるが重合すると水性溶媒に不溶化するモノマーである。このようなモノマーが共重合体に含有されている場合、耐水性に優れ支持体から剥がれにくい細胞培養基材とすることができる。
疎水化モノマーとしては、前記式(1)で表される化合物や、 疎水化モノマーとしては、前記式(1)で表される化合物や、ジアセトンアクリルアアミド、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、メトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレートが挙げられる。これらは単独でも複数種を同時に使用してもかまわない。中でも、アクリル酸2メトキシエチル、アクリル酸2エトキシエチル、アクリル酸3メトキシプロピルが好ましく、アクリル酸2メトキシエチル、アクリル酸2エトキシエチルが特に好ましい。
【0026】
2−2)で開示される共重合体セグメントの場合、得られる共重合体セグメントの下限臨界溶解温度が、モノマーの種類や比率により幅広く制御でき、更に、細胞の種類に応じて、適宜モノマーの種類や比率を変え、より良好な細胞接着性と増殖性を持って細胞を培養できることから好ましい。例えば、モノマー(a)に対し、モノマー(bまたはc、またはd)の比率を増えるにつれ、得られる共重合体の下限臨界溶解温度が高温側へシフトする。この比率と下限臨界溶解温度がほぼ直線関係にある。細胞培養温度は通常37℃であるため、得られる共重合体の下限臨界溶解温度は20〜32℃付近になるように調製することが好ましい。
【0027】
本発明のブロックポリマーにおいて、前記下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度は、400−10000である。400未満である場合、細胞剥離性が不良となり、10000より大きい場合は、細胞培養基材の耐水性に劣るため基材が支持体から剥離しやすくなる。
好ましい重合としては1000−8000であり、この範囲であれば細胞剥離性と培養効率のバランスに優れる。特に好ましくは3000―6000である。
【0028】
[疎水性セグメント]
本発明のブロックポリマーは、疎水性セグメントを有することを特徴とする。なお、本明細書において、ブロックポリマーのセグメントにおける「疎水性」とは、セグメントからなる重合体について、水中における25℃での溶解度が0.5g/100mL未満であることを意味する。疎水性セグメントは、少なくとも疎水性モノマーのモノマー単位を含む。
本発明のブロックポリマーは、疎水性セグメントを有することから、耐水性に劣る下限臨界溶解温度を有するセグメントを有していても、耐水性に優れ支持体との密着性に優れる。
【0029】
疎水性モノマーとしては、重合後に疎水化するモノマーであれば特に制限はされないが、好ましくは下記式(1)〜(3)で表されるモノマーが挙げられる。なお、これらの疎水性モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(上記式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はフェニル基、アルキル炭素数1〜8のカルボキシアルキル基、アラルキル炭素数7〜8のカルボキシアラルキル基、下記式(2)で表される基、下記式(3)で表される基のうちのいずれか1つを表す。
【0033】
(上記式(2)において、nは2または3を表し、R
3は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0035】
(上記式(2)において、R
4およびR
5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、R
4およびR
5の合計炭素数が5以上であることを表す。))
【0036】
この中でも、上記式(1)で表されるモノマーであれば、得られる重合体セグメントが疎水性となり、細胞培養基材の耐水性と支持体密着性に優れるため好ましい。
その中でも好ましくは、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、スチレンであり、特に好ましくはブチルアクリレートである。
【0037】
[ブロックポリマー]
本発明のブロックポリマーは、前記下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとを有するポリマーである。下限臨界溶解温度を有するセグメントをA、疎水性セグメントをBとした時に、本発明のブロックポリマーはABのジブロックタイプでもよく、ABAまたはBABのトリブロックタイプでも、それ以上のセグメント数を有するポリマーであってもかまわない。好ましくは、ジブロックタイプまたはトリブロックタイプであり、特に好ましくはジブロックタイプである。
【0038】
[ブロックポリマーの製造方法]
ブロックポリマーの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。このうち、精密ラジカル重合であることが好ましく、可逆的付加−開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、ニトロキシド媒介重合(NMP)であることがより好ましく、RAFT重合であることがさらに好ましい。
【0039】
[その他の配合物]
本発明の細胞培養基材は、ブロックポリマーのほかに、配合物を有していても良い。例えば防腐剤や抗菌剤、着色料、香料、酵素、糖類、たんぱく質、ペプチド類、アミノ酸類、細胞、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、レベリング剤などを含んでもかまわない。
【0040】
[細胞培養基材]
本発明の細胞培養基材の形状は、細胞培養でき、低温処理により培養細胞を容易に剥離できるものであれば、特に限定されない。例えば、フィルム状のもの、皿状のもの、ボトル(ビン)状のもの、チューブ状のもの、太さ5nm〜5mmの糸状または棒状のもの、バッグ(袋)状のもの、マルチウエルプレート状のもの、マイクロ流路状のもの、多孔質膜状または網状のもの(例えばトランスウエル、セルストレイナー)、粒径が好ましくは10〜2000μm、より好ましくは100〜500μmの球状のものなどが挙げられる。
また、本発明の細胞培養基材の膜厚としては、下限臨界温度以上の温度で十分に乾燥させた状態で、1000nm以下が好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0041】
本発明の細胞培養基材は、単体で用いてもよいが、支持体上に基材を形成した細胞培養器材として用いる事が好ましい。細胞培養器材とした場合、輸送や保管等の利便性に優れるほか、そのまま培養容器や培養用担体として用いることもできるからである。
【0042】
本発明の細胞培養基材が積層される支持体の材質は、培養基材が十分接着でき、且つ接着された培養基材上で細胞培養ができ、低温処理により培養細胞を容易に剥離できるものであれば、特に限定されない。例えば、ポリスチレンのようなスチレン系樹脂、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスルホン系樹脂、フッ素系樹脂、セルロースのような多糖類天然高分子、ガラスやセラミックスのような無機材料、ステンレス、チタンのような金属類材料が好適に用いられる。
【0043】
支持体の形状には特に限定はなく、本発明の細胞培養基材の支持体となりうる形状であればよい。例えばフィルム状のもの、膜状のもの、板状のもの、球状のもの、多角形状のもの、棒状のもの、皿状のもの、ボトル(ビン)状のもの、チューブ状のもの、針・糸状のもの、繊維状のもの、バッグ(袋)状のもの、マルチウエルプレート状のもの、マイクロ流路状のもの、多孔質膜状または網状のもの(例えばトランスウエル、セルストレイナー)等が挙げられる。これらを組み合わせた形状でも良いし、特定の形状を有さない不定形状の支持体であっても良い。
【0044】
更に、本発明の細胞培養基材が、支持体と一体化して細胞培養器材として使用されるのは勿論のこと、支持体から剥がして単独に使用してもよい。
【0045】
本発明の細胞培養基材を形成させる好ましい方法として、本発明のブロックポリマーを含むコーティング剤を上述した支持体上に塗布する方法が挙げられる。
【0046】
<コーティング剤>
前記コーティング剤は、ブロックポリマーと、溶媒と、を含む。その他、必要に応じて、添加剤等を含んでいてもよい。
【0047】
[ブロックポリマー]
ブロックポリマーとしては、上述したものが用いられることからここでは説明を省略する。
なお、ブロックポリマーは1種のみを含んでいてもよいし、異なる構成を有する2種以上のブロックポリマーを含んでいてもよい。
ブロックポリマーの含有量は、コーティング剤の全質量に対して、0.01〜90質量%であることが好ましく0.1〜50質量%であることがより好ましい。ブロックポリマーの含有量が0.01質量%以上であると、得られる塗膜が表面親水性を発現しやすいことから好ましい。一方、ブロックポリマーの含有量が90質量%以下であると、粘度が低いことから塗工適性が高まることから好ましい。
【0048】
[溶媒]
コーティング剤に含有されうる溶媒としては、特に制限されず公知のものが使用されうる。
溶媒の具体例としては、水または有機溶媒が挙げられる。
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、sec−ブタノール、iso−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド;ジオキシラン;ピロリドン等が挙げられる。これらのうち、有機溶媒としてはアルコール系溶媒を用いることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、tert−ブタノールを用いることがより好ましい。
上述のうち、溶媒は、水、アルコール系溶媒であることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、tert−ブタノールであることがより好ましい。
上述の溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
コーティング剤中の溶媒の含有量は、コーティング剤の全質量に対して、10〜99.99質量%であることが好ましく、50〜99.9質量%であることがより好ましく、80〜99.5質量%であることがさらに好ましい。溶媒の含有量が10質量%以上であると、コーティング剤溶液の粘度が低くなるため、塗工適正に優れることから好ましい。一方、溶媒の含有量が99.99質量%以下であると、コーティング後の塗膜の厚さが薄くなりすぎず好ましい。
【0049】
[添加剤]
コーティング剤は、使用目的に応じて添加剤を含有してもよい。
当該添加剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。具体的には、賦形剤、
界面活性剤、可塑剤、消泡剤、顔料、抗酸化剤、抗生物質、紫外線吸収剤、結晶核剤、結晶化促進剤、安定化剤、抗菌剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
コーティング剤の塗布方法は、特に制限はなく、スプレーコート法、フローコート法、浸漬法等が挙げられる。
また、基材がチューブ状である場合には、コーティング剤を通液させる方法等が挙げられる。この際、通液後は、通常、溶媒を通液させてチューブ内部の余分なコーティング剤を除去する。
乾燥条件についても特に制限されず、自然乾燥であっても加熱乾燥であってもよい。加熱乾燥である場合の乾燥温度は、使用するコーティング剤によっても異なるが、30〜70℃であることが好ましく、40〜60℃であることがより好ましい。なお、乾燥を制御することで、一部溶媒を残存させた塗膜を得ることができる。
【0051】
〔動物細胞〕
本発明の細胞培養基材は、動物細胞を好適に培養することが可能である。動物細胞としては、由来は動物であればよく、ヒト、マウス、サル等が挙げられる。細胞種としては特に限定は無いが、上皮細胞(角膜上皮細胞など)、内皮細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞など)、線維芽細胞(ヒト皮膚線維芽細胞、マウス線維芽細胞など)、血球細胞、収縮性細胞(骨格筋細胞、心筋細胞など)、血液と免疫細胞(赤血球、マクロファージなど)、神経細胞(ニューロン、グリア細胞など)、色素細胞(網膜色素細胞など)、肝細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、幹細胞(ES細胞、iPS細胞、造血幹細胞、皮膚幹細胞、生殖幹細胞、EC細胞、EG細胞、神経幹細胞)等が挙げられる。
【0052】
本細胞培養基材で動物細胞を培養する場合、本細胞培養基材に培地と細胞を共存させ、培養に適した温度に保つことで培養を行うことができる。培地としては細胞種に適した培地を選択すればよい。培養中、培地は培養期間に応じて交換してもしなくても適宜選択すればよい。また培地は静置状態であっても潅流状態であってもかまわず、培養細胞に好適な方法を選択すればよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0054】
<合成例1>
ブロックポリマー1の合成
ブチルアクリレート(和光純薬株式会社製)0.59g、RAFT剤として2−(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロパン酸0.0065g、Dimethyl 2,2’−azobis(2−methylpropionate)0.0036g、tブタノール9.0g、水1.0gを十分に窒素バブリングして酸素を除去した後、70℃にて7時間攪拌して、第1の反応液を得た。この段階におけるブチルアクリレートのコンバージョンは81%であった。
次いで、N−イソプロピルアクリルアミド(以下NIPAM、株式会社KJケミカル製)10・53g、tブタノール49.86g、水5.54gの混合物を十分に窒素バブリングさせた後に、前述の反応液に添加し、更に70℃にて20時間攪拌した。反応終了後、反応液にメタノール66.7gを加えて、AB型の温度応答性ブロックポリマー溶液を得た。このブロックポリマーのコンバージョンをNMRで測定したところ、ブチルアクリレートのコンバージョンは100%、NIPAMのコンバージョンは99%であった。また、このブロックポリマーの分子量分布を測定したところ、Mn=220000、Mw=760000であった。後述する試験法でこのブロックポリマーの水ゲル分率を測定した結果を表1に示す。
【0055】
[実施例1]
前記合成例1で得られたブロックポリマー1をメタノールで希釈して0.5%溶液を作成し、35mmポリスチレンシャーレ(TCPS、IWAKI製)に60ul添加した。その後、80℃にて30分間乾燥させ、さらに純水に10分間浸漬させる操作を三回繰り返して洗浄し、40℃にて一晩乾燥させることで、細胞培養基材1を得た。この細胞培養基材を後述する試験法を用いて細胞培養性・剥離性の評価を行った結果を表1に示す。
【0056】
(水ゲル分率)
前記培養基材0.1gを200メッシュのステンレス金網で包み、4℃の水中で20時間放置前後のサンプルを130℃の熱風乾燥機で2時間乾燥させた重量をそれぞれ測定し、冷水中に静置した前後の重量減少率を調べた。この値が高いほど、培養基材の耐水性が高く、培養基材からの水による溶出が起こり難いと言える。
【0057】
(細胞培養性の評価)
培地はEagle’s minimal essential medium(E−MEM、GIBCO社製)500mLに50mL 牛胎児血清MEM Non−Essential Amino Acids Solution, 100X(GIBCO社製)を1mL, L−Glutamine, 200 mM Solution(GIBCO社製)を添加した。当該培地2mLと共に、細胞密度1.0×10
4 cell/cm
2 となるようマウスBalb3T3細胞(JCRB細胞バンク)を播種し、播種3日後の培養性を顕微鏡下で観察し評価した。
○:基材無しTCPSのみでの培養結果と培養性が同等。
△:基材無しTCPSのみでの培養結果よりも培養性が悪い。
×:細胞が全く育たない。
【0058】
[細胞剥離性の評価]
前記細胞培養基材1上で、Balb3T3細胞を培養し、播種3日後に細胞剥離試験を行った。培養中の培地を除去後、4℃の冷培地を1mL加え、25℃の室温で20分放置した。剥離した細胞ごと培地を除去後、培養基材をリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))で洗浄した。洗浄後の細胞培養基材に対し、HistoChoice MB Tissue Fixative (amresco製)を1mL加え、室温で30分残存細胞を固定化後、除去した。その後、10%ギムザ染色液を1mL加え室温で1時間染色し、染色液を除去した後、水道水で洗浄し乾燥させた。ギムザ染色された細胞は目視で計測した。
○:細胞が完全に剥離した。
△:細胞が一部剥離した。
×:細胞が全く剥離しなかった。
【0059】
[比較ブロックポリマー1の合成]
ブチルメタクリレート(和光純薬製)1.92g、RAFT剤として2−(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロパン酸0.06g、Dimethyl 2,2’−azobis(2−methylpropionate)0.012g、tブタノール10.8g、水1.2gを十分に窒素バブリングして酸素を除去した後、70℃にて7時間攪拌して第1の反応液を得た。この段階におけるブチルメタクリレートのコンバージョンは88%であった。
次いで、N−イソプロピルアクリルアミド(株式会社KJケミカル製)6.12g、tブタノール18g、水2.18gの混合物を十分に窒素バブリングさせた後に、前述の反応液に添加し、更に70℃にて20時間攪拌して、AB型の温度応答性ブロックポリマー溶液を得た。このブロックポリマーのコンバージョンをNMRで測定したところ、ブチルメタクリレートのコンバージョンは100%、NIPAMのコンバージョンは100%であった。また、このブロックポリマーの分子量分布を測定したところ、Mn=34000、Mw=51000であった。このポリマーの水ゲル分率の測定結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
比較ブロックポリマー1を実施例1と同様の方法に従ってTCPSに塗布し、比較細胞培養基材1を作成した。その細胞培養性・剥離性を実施例1と同様に評価したところ、表1のようになった。
【0061】
[比較例2]
細胞培養基材を塗布しない状態の35mmポリスチレンシャーレ(TCPS、IWAKI製)に対し、細胞培養性・剥離性の評価を実施例1と同様に評価したところ、表1のようになった。
【0062】
【表1】