特許第6448967号(P6448967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6448967-トマト飲料 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6448967
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】トマト飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/02 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   A23L2/02 F
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-195786(P2014-195786)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-63795(P2016-63795A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】316010388
【氏名又は名称】日本デルモンテ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立道 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】木下 恵美子
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/115026(WO,A1)
【文献】 特開2012−152173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リコペン及びトマトシドAを含むトマト飲料であって、
リコペンの含有量(y;単位はmg/100mL)と、トマトシドAの含有量(x;単位はmg/100mL)とが第1式及び第2式を満たすことを特徴とするトマト飲料。
第1式: y≧1.09375x−10.5
第2式: 8.0<x≦14.4
【請求項2】
請求項1に記載するトマト飲料において、
リコペンの含有量と、トマトシドAの含有量とが第3式及び第4式を満たすことを特徴とするトマト飲料。
第3式: y≧1.09375x−8.75
第4式: 8.0<x≦13.6
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するトマト飲料において、
トマト種子抽出物を含み、前記トマトシドAは、当該トマト種子抽出物由来である
ことを特徴とするトマト飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の食生活の欧米化の結果として、コレステロールや脂質を過剰に摂取する人が増え、生体内のコレステロールやトリグリセリドが上昇して脂質異常症及びこれに関連した各種疾病を引き起こす原因になっている。このような状況に対して、食事内容や運動を中心とする生活習慣の是正が推奨されている。
【0003】
コレステロールやトリグリセリド等の血中脂質濃度の上昇を抑制し、肝臓中のコレステロールの蓄積を抑制する作用を有するものとして、トマトシドAが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
トマトシドAは、サポニンの一種であり、トマト種子(種子を含むゼリー部)に非常に多く存在する成分である。トマトシドAは、トマトジュース、トマトピューレ、トマトペーストなどに用いるトマト果実の搾汁液を製造する際に発生する搾汁粕を分離することで得ることができる。このようなトマトシドAは、様々な飲食品に配合することが可能であり、例えばトマトジュースなどの飲料に配合することができる。
【0005】
しかしながら、トマトシドA自体は苦みを感得させるものであり、単にトマトシドAを添加した飲料は、トマトシドA由来の苦みを強く感じさせるものとなってしまう。すなわち、トマトシドAを用いて健康増進を図りながらも、程良い苦みを呈して飲みやすい飲料が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2012/115026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、トマトシドAの作用により健康増進を図るとともに程良い苦みを呈して飲みやすいトマト飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の態様は、リコペン及びトマトシドAを含むトマト飲料であって、リコペンの含有量(y;単位はmg/100mL)と、トマトシドAの含有量(x;単位はmg/100mL)とが第1式及び第2式を満たすことを特徴とするトマト飲料にある。
第1式: y≧1.09375x−10.5
第2式: x≦14.4
【0009】
かかる第1の態様では、トマトシドAによる健康増進作用を得ることができ、かつ程良い苦み若しくはほとんど苦みがなく、又は苦みがあっても許容できる呈味のよいトマト飲料が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載するトマト飲料において、リコペンの含有量と、トマトシドAの含有量とが第3式及び第4式を満たすことを特徴とするトマト飲料にある。
第3式: y≧1.09375x−8.75
第4式: x≦13.6
【0011】
かかる第2の態様では、トマトシドAによる健康増進作用を得ることができ、かつ程良い苦み又はほとんど苦みのない呈味のよいトマト飲料が提供される。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載するトマト飲料において、トマト種子抽出物を含み、前記トマトシドAは、当該トマト種子抽出物由来であることを特徴とするトマト飲料にある。
【0013】
かかる第3の態様では、トマト種子抽出物には、トマトシドAのみならず、水溶性食物繊維であるペクチンや不溶性食物繊維であるセルロース、ヘミセルロースなどの繊維質が豊富に含まれるだけでなく、ポリフェノール類やトマトシドA以外のサポニン類が含まれており、これらの成分による、さらなる健康増進作用が期待できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トマトシドAの作用により健康増進を図るとともに程良い苦みを呈して飲みやすいトマト飲料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例及び比較例に係る官能評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〈実施形態1〉
本発明は、リコペン及びトマトシドAを含むトマト搾汁液をベースとしたトマト飲料であり、リコペンの含有量及びトマトシドAの含有量が後述する第1式及び第2式、又は第3式及び第4式を満たすものである。
【0017】
トマト搾汁液とは、原料となるトマト果実を搾汁して得られたものである。原料として用いられるトマト果実は加工用トマトでも生食用トマトでもよい。
【0018】
このようなトマト搾汁液には、トマトジュースやトマト漿液が含まれる。トマトジュースとは、トマト果実を搾汁して得られた搾汁液をそのまま原料としたもの又はこれに食塩を加えたものである。トマト漿液とは、トマトジュースを膜ろ過や遠心分離等でトマトパルプ分を除去若しくは一部除去したものである。
【0019】
他にも、トマト搾汁液には、濃縮トマトを水で希釈還元して搾汁の状態に戻したもの又はこれに食塩を加えたもの、さらには、それらをブレンドしたものを含む。濃縮トマトとは、トマト果実を搾汁して得られた搾汁液の濃縮物であるトマトピューレやトマトペースト等である。
【0020】
また、トマト搾汁液には、トマトミックスジュースも含まれる。トマトミックスジュースとは、トマトジュースを主原料とし、にんじんその他の野菜類を破砕して搾汁した野菜搾汁又は野菜搾汁を濃縮還元したものを添加したものである。
【0021】
その他、本発明のベースとなるトマト搾汁液は、日本農林規格(JAS)で定めるトマトジュース、トマトミックスジュース、果実・野菜ミックスジュースが含まれる。さらに、トマト搾汁液としては、トマト搾汁液を水で希釈し、清涼飲料水としたものも含む。
【0022】
トマト搾汁液をベースとした本発明のトマト飲料は、リコペンを含む。このリコペンは、トマト搾汁液由来のものに限定されず、トマト搾汁液とは別に添加したものであってもよい。別途に添加するリコペンとしては、トマト、スイカ、メロン、パパイヤ、金時人参等の果実や野菜類から公知の抽出方法により得られたものを用いることができる。また、化学的又は生物合成的な方法により合成したリコペンを別途に添加することもできる。
【0023】
本発明に係るトマトシドA(トマトサイドAともいう。)は、以下の構造を有する化合物である。
【化1】
【0024】
トマトシドAは、サポニンの一種であり、トマト種子に多く含まれることが知られる水に難溶性の化合物である。本発明のトマトシドAは、トマトシドAの生理学的に許容される塩、例えば上記の構造を有する化合物のナトリウム塩、カリウム塩等を含む。もちろん、これらの塩に限定されず、所望の作用を有し、生理学的に許容される塩であれば特に限定されない。以下、トマトシドA及び/又はその生理学的に許容される塩を、単に「トマトシドA」ともいう。
【0025】
トマトシドAとしては、化学的に合成したものを用いてもよいが、より簡便には、トマト種子を含むトマト果実由来物から得ることができる。具体的には、トマト果実由来物を、抽出溶媒を用いて当業者に公知の手法を用いて抽出し、濾過により残渣を除去して抽出液を得て、常法により、該抽出液を減圧下で濃縮又は凍結乾燥することでトマトシドAを含むトマト種子抽出物を得ることができる。このトマト種子抽出物は必要に応じて、例えばクロマトグラフィー等によりさらに精製を行ってもよい。
【0026】
原料となるトマト果実由来物は、トマト種子を含むものであれば特に限定されないが、例えば、トマト搾汁液を得る過程において得られる搾汁粕が上げられる。トマト搾汁液は、常法により、トマト果実を洗浄し、破砕したのち予備加熱を行い、次いで、これを搾汁して得られる。この搾汁の過程において、果実の約1〜5%が搾汁粕として発生する。搾汁粕は主として果皮と種子から構成されており、この中には水溶性食物繊維であるペクチンや不溶性食物繊維であるセルロース、ヘミセルロースなどの繊維質が豊富に含まれるだけでなく、ポリフェノール類やサポニン類も残存している。
【0027】
上述したトマトシドAは、コレステロールの上昇(特に血中コレステロールの上昇)、トリグリセリドの上昇又は肝中コレステロール蓄積を抑制する作用を有する。このため、トマトシドAを摂取することで、生体内のコレステロールやトリグリセリドの上昇に関連した各種疾病の予防が期待できる。
【0028】
本発明に係るトマト飲料に添加されるトマトシドAとしては、上述したように化学的に合成したもの、又はトマト種子抽出物から精製したものであってもよい。また、トマト種子抽出物としてトマトシドAがトマト飲料に添加されていてもよい。
【0029】
トマトシドAは、苦みを呈するものであり、含有量の増加に伴い苦味が増す傾向を有する。したがって、単にトマトシドAを添加した飲料は、苦みのために飲みにくいものとなってしまう。
【0030】
しかしながら、リコペンは、トマトシドAの苦みを緩和するマスキング作用を有するため、リコペンを含むトマト飲料にトマトシドAを添加することで、トマトシドAの苦みを抑えることができる。すなわち、本発明によれば、リコペン及びトマトシドAを含むことで、トマトシドAの作用により健康増進を図るとともに、程良い苦みを呈して飲みやすいトマト飲料が提供される。
【0031】
本発明のリコペンの含有量をy(単位はmg/100mL)、トマトシドAの含有量(x;単位はmg/100mL)をxとすると、これらの含有量は、第1式及び第2式、又は第3式及び第4式を満たす。
第1式: y≧1.09375x−10.5
第2式: x≦14.4
第3式: y≧1.09375x−8.75
第4式: x≦13.6
【0032】
トマトシドAは、健康増進作用を発揮するのに一定量含ませることが好ましいが、含有量が多くなるほど苦みも増してしまう。しかしながら、リコペン及びトマトシドAの含有量が第1式及び第2式を満たすことで、トマト搾汁液にトマトシドAを添加する前後において、呈味の変化がほとんどないか、好ましい苦みが付与されるか、又は若干の苦みが付与されたトマト飲料が得られる。
【0033】
すなわち、本発明によれば、トマトシドAによる健康増進作用を得ることができ、かつ程良い苦み若しくはほとんど苦みがなく、又は苦みがあっても許容できる呈味のよいトマト飲料が提供される。なお、第1式及び第2式を満たさない場合は、トマトシドAの添加によって、好ましくない苦みが強くなり、飲みにくいトマト飲料となってしまう。
【0034】
また、リコペン及びトマトシドAの含有量が第3式及び第4式を満たすことで、トマト搾汁液にトマトシドAを添加する前後において、呈味の変化がほとんどないか、好ましい苦みが付与されたトマト飲料が得られる。すなわち、本発明によれば、トマトシドAによる健康増進作用を得ることができ、かつ程良い苦み又はほとんど苦みのない呈味のよいトマト飲料が提供される。
【0035】
本発明のトマト飲料の製造方法は、特に制限はなく常法に準ずる。例えば、トマト搾汁液中のリコペンの含有量と、トマトシドA又はトマト種子抽出物に含まれるトマトシドAの含有量とが第1式及び第2式、又は第3式及び第4式を満たすように配合量を調整した上で、トマト搾汁液にトマトシドA又はトマト種子抽出物を添加し、攪拌することで本発明のトマト飲料が得られる。
【0036】
なお、本発明のトマト飲料は、トマト搾汁液及びトマトシドAの他に、必要に応じて、塩、香辛料その他の添加物を含んでいてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
[実施例A1〜A15、B1〜B5、比較例C1〜C10]
トマト搾汁液として、80%トマトジュース(キッコーマン株式会社製;商品名「朝トマト」)を用いた。
【0038】
また、トマト搾汁液を得る過程において得られた搾汁粕(トマト果実由来物)を、抽出溶媒を用いて公知の手法を用いて抽出し、濾過により残渣を除去して抽出液を得て、常法により、該抽出液を減圧下で濃縮又は凍結乾燥することでトマトシドAを含むトマト種子抽出物を得た。
【0039】
表1に示すようなリコペン及びトマトシドAの含有量となるように配合量を調整した上で、トマト搾汁液にトマト種子抽出物を添加し、攪拌することで実施例A1〜A15、B1〜B5、比較例C1〜C10に係るトマト飲料を作製した。
【0040】
リコペンの含有量の調整は、トマト搾汁液に水を加えて希釈し、又は別途にリコペンを添加することにより行った。なお、リコペンの含有量はアセトンヘキサン抽出法により調製したリコペン抽出液を分光光度計で測定し、計算により求めた。
【0041】
トマトシドAの含有量の調整は、トマト種子抽出物の添加量を増減させることにより行った。トマト種子抽出物に含まれるトマトシドAの含有量は液体クロマトグラフィにより分離した後、蒸発光散乱検出器を用いて分析し、計算により求めた。
【0042】
【表1】
【0043】
[試験例1]
各実施例及び各比較例について、官能評価を実施した。官能評価は2人のパネリストにより行われた。この結果を表2及び図1に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示すように、各実施例及び各比較例について○、△、×の三段階評価を行った。○は、トマトシドAを添加する前のトマトジュースと比較して呈味に変化がない、又は好ましい苦みを呈する変化があったことを意味している。△は、トマトシドAを添加する前のトマトジュースと比較してやや好ましくない苦みであるが許容できたことを意味している。×は、トマトシドAを添加する前のトマトジュースと比較して苦みが強くなり、好ましくないものであったことを意味している。
【0046】
実施例A1〜A15に関する官能評価は○であり、実施例B1〜B5に関する官能評価は△であり、比較例C1〜C10に関する官能評価は×であった。
【0047】
ここで、リコペン及びトマトシドAの含有量と官能評価との関係を検討した結果、リコペンの含有量をy(単位はmg/100mL)、トマトシドAの含有量をx(x;単位はmg/100mL)としたとき、以下の第1式及び第2式を満たすものが実施例A1〜A15及び実施例B1〜B5であり、第1式及び第2式を満たさないものが比較例C1〜C10であることが分かった。
第1式: y≧1.09375x−10.5
第2式: x≦14.4
【0048】
また、第1式及び第2式を満たす実施例A1〜A15及び実施例B1〜B5のうち、さらに以下の第3式及び第4式を満たすものが実施例A1〜A15であることが分かった。
第3式: y≧1.09375x−8.75
第4式: x≦13.6
【0049】
このような試験例によれば、リコペン及びトマトシドAの含有量が第1式及び第2式を満たすことで、トマト搾汁液にトマトシドAを添加する前後において、呈味の変化がほとんどないか、好ましい苦みが付与されるか、又は若干の苦みが付与されたトマト飲料(実施例A1〜A15及び実施例B1〜B5)が得られることが分かった。
【0050】
また、リコペン及びトマトシドAの含有量が第3式及び第4式を満たすことで、トマト搾汁液にトマトシドAを添加する前後において、呈味の変化がほとんどないか、好ましい苦みが付与されたトマト飲料(実施例A1〜A15)が得られることが分かった。
図1