特許第6449166号(P6449166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6449166-薬剤溶出性ステントグラフト 図000020
  • 特許6449166-薬剤溶出性ステントグラフト 図000021
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6449166
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】薬剤溶出性ステントグラフト
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/12 20060101AFI20181220BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 31/4406 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20181220BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   A61L31/12
   A61L31/16
   A61K31/4406
   A61K9/14
   A61P9/14
【請求項の数】18
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-542543(P2015-542543)
(86)(22)【出願日】2014年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2014073875
(87)【国際公開番号】WO2015056504
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2017年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-215067(P2013-215067)
(32)【優先日】2013年10月15日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名第66回日本胸部外科学会定期学術集会抄録集発行年月日2013年9月17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度〜平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代機能代替技術の研究開発/次世代再生医療技術の研究開発/生体内で自己組織の再生を促すセルフリー型再生デバイスの開発(幹細胞ニッチ制御による自己組織再生型心血管デバイスの基盤開発)「幹細胞の誘導因子・分化促進の開発、自己組織再生型心血管デバイスの開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】戸田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】上野 高義
(72)【発明者】
【氏名】宮川 繁
(72)【発明者】
【氏名】福嶌 五月
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 充弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 芳紀
【審査官】 天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−095756(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/032965(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/047863(WO,A1)
【文献】 特表平07−500265(JP,A)
【文献】 特表2011−526163(JP,A)
【文献】 特表2008−532942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/12
A61K 9/14
A61K 31/4406
A61L 31/16
A61P 9/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤溶出性ステントグラフトであって、
(a)薬剤、
(b)薬剤保持剤、及び
(c)ステントグラフト
を含み、
前記薬剤(a)が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩を含み、
前記ステントグラフト(c)が、血管内手術に用いる人工血管であり、金属線をメッシュ状に編んでなる円筒形状物の内面及び/又は外面を樹脂で被覆した構造を有しており、
前記薬剤(a)及び前記薬剤保持剤(b)を含む混合物が前記ステントグラフト(c)の外側(動脈内壁に接する側)にコーティングされている、
ことを特徴とする、薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項2】
前記薬剤(a)が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩を含む徐放性製剤である、請求項に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項3】
前記薬剤(a)が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩と生体内分解性重合物とを含む徐放性製剤である、請求項に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項4】
前記薬剤(a)が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩を含むマイクロスフェア製剤である、請求項に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項5】
前記薬剤(a)が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩と生体内分解性重合物とを含むマイクロスフェア製剤である、請求項に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項6】
前記生体内分解性重合物が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ハイドロゲル、及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項又はに記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項7】
前記生体内分解性重合物が、重量平均分子量6,000〜50,000を有する、請求項に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項8】
前記マイクロスフェア製剤における(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩の含有率が5〜30重量%である、請求項4又は5に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項9】
前記マイクロスフェア製剤の平均粒子径が15〜50μmである、請求項4、5又は8に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項10】
前記薬剤保持剤(b)が、生体吸収性高分子である、請求項1〜のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項11】
前記生体吸収性高分子が、フィブリン、ゼラチン、コラーゲン、及びヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項12】
前記生体吸収性高分子が、フィブリン、アテロコラーゲン、及びゼラチンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項13】
(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸を含有するマイクロスフェア製剤及びゼラチンを含む混合物を、前記ステントグラフト(c)の外側に塗布してなる、請求項1〜12のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項14】
哺乳動物の動脈瘤部に装着するために使用される、請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項15】
ステントグラフト関連合併症を予防するために用いる、請求項1〜14のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項16】
前記ステントグラフト関連合併症が、マイグレーション及び/又はエンドリークである、請求項15に記載の薬剤溶出性ステントグラフト。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフトからなる、動脈瘤の治療材。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフトからなる、ステントグラフト関連合併症の予防材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈瘤に対するステントグラフト治療後のステントグラフト関連合併症を予防する新規薬剤放出性ステントグラフト、該ステントグラフトを用いるステントグラフト関連合併症の予防材又は予防方法、及び該ステントグラフトを用いる動脈瘤の治療材又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈瘤は近年増加傾向にある疾患であり、1/4が胸部に3/4が腹部に瘤を認め、人口の0.7〜4.2%で罹患すると言われている。破裂に至った際の致死率は80〜90%、緊急搬送され、手術に至ったとしても救命率は50%と非常に致死率の高い疾患である。2012年の日本国における人口動態統計においても、大動脈解離とあわせて女性の死因の第9位(7517人/1.3%)となっている。
【0003】
従来、瘤径の拡大した症例に対しては人工血管置換術を施行してきたが、近年、より低侵襲な治療法であるステントグラフト治療が人工血管置換術に代わる新しい治療として急速に広まりつつある。その原理および目的は、ステントグラフトを大動脈瘤の中枢側、末梢側の比較的正常な血管部位に留置し、大動脈瘤壁への血流を遮断し、それによりかかる圧力を除き、大動脈瘤破裂などの致死的イベントを抑制することにある。
【0004】
しかしながら、欧米の大規模臨床研究においても遠隔期にステントグラフトが留置位置からずれるマイグレーション(migration)、ステントグラフトと留置した血管の間から大動脈瘤内への血流が残存するエンドリーク(endoleak)などのステントグラフト関連合併症を認めることが大きな問題となっている。日本国におけるステントグラフト実施委員会の報告によると、2006年7月1日から2008年12月31日において、3124症例の腹部大動脈罹患症例に対し、ステントグラフト治療を実施し、endoleak (16.8%)、migration (0.1%)を認めたと報告されている。
【0005】
これらのステントグラフト関連合併症を予防することは緊急の課題である。この課題を解決するために、現在までに下記非特許文献1〜3等に示されるように、線維芽細胞増殖因子(bFGF)をステントグラフトに付加するなどの方法が研究されている。
【0006】
例えば、非特許文献1では、コラーゲンとヘパリンを浸透させておいたステントグラフトをbFGF溶液に浸透させ、bFGFが放出されるステントグラフトの作製が報告されている。
【0007】
非特許文献2では、ステントグラフト10%水溶性エラスチンと0.5%ヘパリンNa塩に浸透させた後、2μg/mL のbFGF溶液にステントグラフトを浸透させ、bFGFが放出されるステントグラフトを作成している。
【0008】
非特許文献3では、細胞の足場となり遊走を促進する、N-rich plasma-polymerised thin film(細胞の遊走、接着、増殖を促進するため、アミン、イミン、ニトリルなどの窒素分子を豊富に含む化合物を表面にプラズマ重合させた薄いエチレンフィルム)をコーティングしたステントグラフトを作成している。
【0009】
しかし、いずれの文献にも、体内再生因子産生誘導剤、および体内再生因子として、HGF、VEGF、SDF-1、EGF、IGF-1、G-CSF等の記載はない。
【0010】
一方、特許文献1及び2には、PGI2(IP)アゴニスト、EP2アゴニスト、EP4アゴニストのような内因性修復因子産生促進剤をステント等にコーティングしたコーティング剤が開示されている。しかしながら、これらは冠動脈等の再狭窄の防止を目的とするものであって、本発明の課題として示されたようなステントグラフト関連合併症(マイグレーションやエンドリーク)の予防を目的とするものではない。
【0011】
従って、本発明はこれらの先行技術からは全く新規な発明であり、かつ同先行技術から示唆されるものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/032965号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/047863号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Basic fibroblast growth factor slow release stent graft for endovascular aortic aneurysm repair: A canine model experiment (J Vasc Surg 2008;48:1306-14.)
【非特許文献2】Nitrogen-rich coatings for promoting healing around stent-grafts after endovascular aneurysm repair ( Biomaterials 28 (2007) 1209-1217)
【非特許文献3】Ingrowth of aorta wall into stent grafts impregnated with basic fibroblast growth factor: A porcine in vivo study of blood vessel prosthesis healing (J Vasc Surg 2004;39:850-8.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、マイグレーションやエンドリーク等のステントグラフトと大動脈の間の固着が不十分なことにより起こるステントグラフト関連合併症を予防又は低減し得る薬剤溶出性ステントグラフトを提供することを目的とする。具体的には、ステントグラフトの外側に大動脈壁との固着を促進させる薬剤を塗布し、長期にわたり薬剤を溶出させることで、より早期に大動脈壁との固着を完成させ、ステントグラフト関連合併症を予防又は低減できる薬剤溶出性ステントグラフトを提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、このようなステントグラフト関連合併症を防止しつつ、動脈瘤(胸部動脈瘤又は腹部動脈瘤)を治療する方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために、プロスタグランジン(PG)類の薬理作用を検討する中で、体内再生因子との作用類似性から、これらのPG類が、各種体内再生因子を産生誘導する可能性に着目して検討を行った。
【0017】
検討した結果、PG類の中で、サイクリックAMP(cAMP)を産生促進させるIP受容体、EP2受容体、およびEP4受容体の各作動薬が、正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)とヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)の共培養下で、管腔形成促進作用を有することを見出した。さらに検討した結果、これらの作動薬は、線維芽細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞、およびマクロファージ等から各種体内再生因子を誘導することを見出した。
【0018】
具体的には、例えば、体内再生因子産生誘導剤として、主に血管内皮細胞にて生合成されるPGI系を選択し、非PG骨格のオキシム(OX)誘導体でありトロンボキサン(TX)A2合成酵素阻害活性を併せ持つ選択的IP受容体作動薬である化合物(例えば、特許文献1:国際公開第2004/032965号に記載の化合物1)を選択した。この化合物1をステントグラフト外側に塗布することにより、周辺細胞からの各種体内再生因子の産生を促し、骨髄細胞から骨髄間葉系幹細胞(MSC)をステントグラフト近傍の局所に誘導して再組織化を促し、自己組織との固着を可能にできること、そしてこれによりステントグラフト関連合併症を予防又は低減できることを見出した。
【0019】
かかる知見に基づいて、さらに研究を重ねて本発明の薬剤溶出性ステントグラフトを完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、
項1 薬剤溶出性ステントグラフトであって、
(a)薬剤(但し、線維芽細胞増殖因子(FGF)を除く)、
(b)薬剤保持剤、及び
(c)ステントグラフト
を含んでなる、薬剤溶出性ステントグラフト、
項2 前記薬剤(a)及び薬剤保持剤(b)を含む混合物がステントグラフト(c)にコーティングされてなる、項1に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項3 前記薬剤(a)が、体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子を含む、項1又は2に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項4 前記薬剤(a)が、体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子を含む徐放性製剤である、項1〜3のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項5 前記薬剤(a)が、体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子と生体内分解性重合物とを含む徐放性製剤である、項1〜4のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項6 前記薬剤(a)が、体内再生因子産生誘導剤を含む徐放性製剤である、項4に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項7 前記薬剤(a)が、体内再生因子産生誘導剤を含むマイクロスフェア製剤である、項6に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項8 前記薬剤(a)が、体内再生因子産生誘導剤と生体内分解性重合物とを含むマイクロスフェア製剤である、項5〜7のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項9 前記体内再生因子産生誘導剤が、プロスタグランジンIアゴニスト、EPアゴニスト、及びEPアゴニストからなる群より選択される少なくとも1種である、項2〜8のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項10 前記体内再生因子産生誘導剤がプロスタグランジンIアゴニストである、項2〜9のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項11 前記プロスタグランジンIアゴニストが、以下の一般式(I):
【0021】
【化1】
(式中、
【0022】
【化2】
は、
【0023】
【化3】
であり、
【0024】
は、水素原子またはC1〜4アルキル基であり、
は、(i)水素原子、(ii)分岐または環を形成していてもよいC1〜8アルキル基、(iii)フェニル基またはC4〜7シクロアルキル基、(iv)窒素原子1個を含む4〜7員単環、(v)ベンゼン環またはC4〜7シクロアルキル基で置換されているC1〜4アルキル基、または(vi)窒素原子1個を含む4〜7員単環で置換されているC1〜4アルキル基であり、
は、(i)分岐または環を形成していてもよいC1〜8アルキル基、(ii)フェニル基またはC4〜7シクロアルキル基、(iii)窒素原子1個を含む4〜7員単環、(iv)ベンゼン環またはC4〜7シクロアルキル基で置換されているC1〜4アルキル基、または(v)窒素原子1個を含む4〜7員単環で置換されているC1〜4アルキル基であり、
eは3〜5の整数であり、fは1〜3の整数であり、pは1〜4の整数であり、qは1または2であり、そしてrは1〜3の整数であり、ただし、
【0025】
【化4】
【0026】
が該(iii)または(iv)で示される基である場合には、−(CH−および=CH−(CH−は、環上のaまたはbの位置に結合するものとし、RおよびR中の環は、1個から3個のC1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基またはトリハロメチル基で置換されていてもよい)で示される化合物又はその塩である、項9又は10に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項12 前記プロスタグランジンIアゴニストが、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩である、項10又は11に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項13 前記プロスタグランジンIアゴニストが、(±)−(1R,2R,3aS,8bS)−2,3,3a,8b−テトラヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(E)−(3S,4RS)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−ブタン酸又はその塩である、項10に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項14 前記薬剤(a)が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩を含む徐放性製剤である、項6に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項15 前記薬剤(a)が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩を含むマイクロスフェア製剤である、項7に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項16 前記生体内分解性重合物が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ハイドロゲル、及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、項5又は8に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項17 前記マイクロスフェア製剤が、(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸又はその塩と、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ハイドロゲル、及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種の生体内分解性重合物をと含むマイクロスフェア製剤である、項7又は8に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項18 前記生体内分解性重合物が、重量平均分子量6,000〜50,000を有する、項16又は17に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項19 前記徐放性製剤が、マイクロスフェア製剤である、項4〜6のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項20 前記マイクロスフェア製剤における体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子の含有率が5〜30重量%である、項19に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項21 前記マイクロスフェア製剤の平均粒子径が15〜50μmである、項19又は20に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項22 前記薬剤保持剤(b)が、生体吸収性高分子である、項1〜21のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項23 前記生体吸収性高分子が、フィブリン、ゼラチン、コラーゲン、及びヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、項22に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項24 前記生体吸収性高分子が、フィブリン、アテロコラーゲン、及びゼラチンからなる群より選択される少なくとも1種である、項23に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項25 (E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸を含有するマイクロスフェア製剤及びゼラチンを含む混合物を、ステントグラフト外側に塗布してなる、項1〜24のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項26 哺乳動物の動脈瘤部に装着するために使用される、項1〜25のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項27 ステントグラフト関連合併症を予防するために用いる、項1〜26のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項28 前記ステントグラフト関連合併症が、マイグレーション及び/又はエンドリークである、項27に記載の薬剤溶出性ステントグラフト、
項29 (a)薬剤(但し、線維芽細胞増殖因子(FGF)を除く)及び(b)薬剤保持剤を含む混合物を、(c)ステントグラフトにコーティングすることを特徴とする、薬剤溶出性ステントグラフトの製造方法、
項30 項1〜28のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフトを、動脈瘤部に装着することを特徴とする、動脈瘤の治療方法、
項31 項1〜28のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフトからなる、動脈瘤の治療材、
項32 項1〜28のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフトを、動脈瘤部に装着することを特徴とする、ステントグラフト関連合併症の予防方法、及び
項33 項1〜28のいずれかに記載の薬剤溶出性ステントグラフトからなる、ステントグラフト関連合併症の予防材、
に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の薬剤溶出性ステントグラフトは、ステントグラフトと大動脈の間の固着を促進する薬剤が塗布されているため、組織修復を促進し、ステントグラフト関連合併症(例えば、マイグレーションやエンドリーク)を効果的に予防又は低減することができる。さらに、本発明の薬剤溶出性ステントグラフトを使用することにより、ステントグラフト関連合併症の発生を抑えつつ、効果的に哺乳動物の動脈瘤(胸部動脈瘤および腹部動脈瘤)の治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】製剤例1で製造したマイクロスフェア製剤のリリース結果(経時的な残存率変化)を示す。
図2】製剤例1で製造したマイクロスフェア製剤の血中動態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の薬剤溶出性ステントグラフトは、(a)薬剤(但し、線維芽細胞増殖因子(FGF)を除く)、(b)薬剤保持剤、及び(c)ステントグラフトを含んでいることを特徴とする。
【0030】
(a)薬剤
本発明において、用語「薬剤(ただし、線維芽細胞増殖因子(FGF)を除く)」とは、FGFを除いた薬剤であれば特に限定はない。全身的または局所的に経口または非経口の形態で投与される薬学的材料を包含する。
【0031】
薬剤の具体的な例としては、例えば、体内再生因子蛋白、体内再生因子産生遺伝子、体内再生因子産生誘導剤、低分子化合物、タンパク質、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、アンチセンス、デコイ、抗体、細胞外マトリックス、細胞接着因子、ワクチン、組織から分離された幹細胞、iPS細胞、体細胞等が挙げられる。低分子化合物としては、例えば、抗血栓剤、循環改善剤、平滑筋拡張剤、抗炎症剤、局麻剤、鎮痛剤、代謝改善剤、およびプロスタグランジン類等が挙げられる。本発明における「薬剤」は、これらの薬学的材料を1種類用いても良いし、複数種類を組み合わせて用いても良い。
【0032】
当該「薬剤」の1つの実施態様においては、体内再生因子産生誘導剤または体内再生因子(ただし、FGFを除く)が挙げられる。さらに体内再生因子産生誘導剤または体内再生因子は徐放性製剤の形態であることが好ましい。
【0033】
体内再生因子(ただし、FGFを除く)としては、例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、形質転換増殖因子−β(TGF−β)、血小板由来増殖因子(PDGF)、アンジオポエチン、低酸素誘導因子(HIF)、インスリン様成長因子(IGF)、骨形成蛋白質(BMP)、結合組織成長因子(CTGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、幹細胞因子(SCF)、ストローマ細胞由来因子(SDF−1)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、軟骨細胞成長因子(CGF)、白血病阻止因子(LIF)、およびクルッペル様転写因子(KLF)等、またはそのファミリーの増殖因子等が挙げられる。また、細胞外マトリックス(例えば、フィブロネクチン類、ラミニン類、プロテオグリカン類等)、および細胞接着因子(例えば、カドヘリン類、インテグリン類等)等も含まれる。
【0034】
体内再生因子産生誘導剤としては、例えば、プロスタグランジン(PG)Iアゴニスト、EPアゴニスト、およびEPアゴニストから選択される1種または2種以上を含有する薬剤が挙げられる。
【0035】
PGIアゴニストとしては、例えば、PGE及びPGI、それらの誘導体(例、6−オキ−PGE、オルノプロスチル、リマプロスト、エンプロスチル、ミソプロストール等)、そのプロドラッグ、それらの持続性製剤(例、リポPGE等)が包含される。また、EPおよびEPアゴニストとしては、各種PGE誘導体、そのプロドラッグ、それらの持続性製剤(徐放性製剤)が包含される。
【0036】
その他の当該体内再生因子産生誘導剤としては、コレラ毒素(Cholera toxin)、8−ブロモ-cAMP、ジブチリル−cAMP、ホルスコリン(Forskolin)等に加えて、AT1受容体拮抗剤(ARB)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)作動薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤、IL−1、TNF−α、INF等が挙げられる。
【0037】
ARBとしては、例えば、ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタン等があり、PDE阻害剤としては、テオフィリン、ミルリノン、タダラフィル、ジピリダモール、シルデナフィル等があり、HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、アトロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン等があり、PPARγ作動薬としては、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン等のチアゾリジン誘導体が挙げられる。
【0038】
また、体内再生因子がタンパク質である場合、これらの活性部位であるペプチド類であってもよく、体内再生因子の産生誘導剤は、当該タンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0039】
PGIアゴニスト(IP受容体作動薬)としては、現在までに知られているPGIアゴニストや今後見出されるPGIアゴニストをすべて包含する。
【0040】
PGIアゴニストとして、例えば、一般式(I)で示される化合物又はその塩が好ましい。
【0041】
一般式(I):
【0042】
【化5】
【0043】
一般式(I)中、
【0044】
【化6】
【0045】
は、好ましくは、
【0046】
【化7】
【0047】
であり、より好ましくは、
【0048】
【化8】
【0049】
である。
【0050】
一般式(I)中、Rは、好ましくは、
(iii)フェニル基又はC4〜7シクロアルキル基、
(iv)窒素原子1個を含む4〜7員単環、
(v)ベンゼン環又はC4〜7シクロアルキル基で置換されているC1〜4アルキル基、又は
(vi)窒素原子1個を含む4〜7員単環で置換されているC1〜4アルキル基であり、
より好ましくは、
(iii)フェニル基又はC4〜7シクロアルキル基、又は
(iv)窒素原子1個を含む4〜7員単環
である。
【0051】
一般式(I)中、Rは、好ましくは、
(ii)フェニル基又はC4〜7シクロアルキル基、
(iii)窒素原子1個を含む4〜7員単環、
(iv)ベンゼン環又はC4〜7シクロアルキル基で置換されているC1〜4アルキル基、又は
(v)窒素原子1個を含む4〜7員単環で置換されているC1〜4アルキル基であり、
より好ましくは、
(ii)フェニル基又はC4〜7シクロアルキル基、又は
(iii)窒素原子1個を含む4〜7員単環である。
【0052】
一般式(I)中、eは3〜5の整数であり、fは1〜3の整数であり、pは1〜4の整数であり、qは1または2であり、そしてrは1〜3の整数であり、ただし、
【0053】
【化9】
【0054】
が該(iii)または(iv)で示される基である場合には、−(CH−および=CH−(CH−は、環上のaまたはbの位置に結合するものとし、RおよびR中の環は、1個から3個のC1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基またはトリハロメチル基で置換されていてもよい。
【0055】
一般式(I)で示される化合物の塩としては、薬学的に許容できる塩であれば特に限定はない。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。好ましくはナトリウム塩である。
【0056】
一般式(I)で示される化合物又はその塩のうち、より好ましくは次の化合物(オキシム誘導体)が挙げられる。
【0057】
化合物1:(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸
【0058】
【化10】
【0059】
化合物2:(Z)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸
【0060】
【化11】
【0061】
また、他のPGIアゴニストとしては、例えば、
ベラプロストナトリウム(化合物3):((±)−(1R,2R,3aS,8bS)−2,3,3a,8b−テトラヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(E)−(3S,4RS)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−ブタン酸ナトリウム塩)、
OP−2507(化合物4):(5−{(3aR,4R,6aS)−5−ヒドロキシ−4−[(1E,3S)−3−ヒドロキシ−3−(シス−4−プロピルシクロヘキシル)プロプ−1−エニル]−3,3a,4,5,6,6a−ヘキサヒドロシクロペンタ[b]ピロール−2−イル}ペンタン酸メチルエステル)、
MRE−269(化合物5):2−{4−[N−(5,6−ジフェニルピラジン―2−イル)−N−イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸、
化合物5の誘導体である、化合物6(NS−304):2−{4−[N−(5,6−ジフェニルピラジン−2−イル)―N−イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}−N−(メチルスルフォニル)アセトアミド、
PGE誘導体である、オルノプロスチル(化合物7):(17S,20−ジメチル−6−オキソ−プロスタグランジンE1メチルエステル)、および
PGE誘導体である、リマプロスト:((E)−7−{(1R,2R,3R)−3−ヒドロキシ−2−[(3S,5S)−E−3−ヒドロキシ−5−メチル−1−ノネニル]−5−オキソシクロペンチル}−2−ヘプン酸)、並びに
PGI誘導体である、カルバサイクリン誘導体等が挙げられる。
【0062】
一般式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容できる塩のなかでも、徐放性製剤の作製には、化学的に安定な化合物1が好ましい。また、化合物3又は化合物5も好ましい。
【0063】
PGIアゴニスト(IP受容体作動薬)として本発明で使用される前記一般式(I)で示されるオキシム(OX)誘導体である化合物1又はその塩は、血小板凝集抑制、血小板粘着抑制、血管拡張、胃酸分泌抑制作用を有していることから、血栓症、動脈硬化、虚血性心疾患、胃潰瘍、高血圧等の予防及び/又は治療に有用である旨が、米国特許第5480998号に開示されている。
【0064】
また、体内再生因子の産生誘導に基づく、血管新生作用、各種幹細胞の分化誘導作用、抗アポトーシス作用、抗線維化作用等による各種細胞又は臓器障害に関する記載は、国際公開第2004/032965号及び国際公開第2008/047863号に開示されている。
【0065】
本発明で用いるPGIアゴニストのうち、例えば、一般式(I)で示される化合物の製造方法は、米国特許第5480998号に開示されている。
【0066】
例えば、化合物1:(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸は、米国特許第5480998号の実施例2(g)に記載されている。
【0067】
ベラプロストナトリウム(化合物3):((±)−(1R,2R,3aS,8bS)−2,3,3a,8b−テトラヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(E)−(3S,4RS)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−ブタン酸ナトリウム塩)の製造方法は、国際公開第1996/026721号に開示されている。
【0068】
MRE−269(化合物5):2−{4−[N−(5,6−ジフェニルピラジン―2−イル)−N−イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}酢酸及びその誘導体である(NS−304;化合物6)の製造方法は、国際公開02/088084号に開示されている。
【0069】
本発明においては、上記で示した医薬化合物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
本明細書中、PGIアゴニスト(IP受容体作動薬)としては、現在までに知られているPGIアゴニストや今後見出されるPGIアゴニストをすべて包含する。
【0071】
EPアゴニストとしては、現在までに知られているEPアゴニストや今後見出されるEPアゴニストをすべて包含する。好ましいEPアゴニストとしては、欧州特許公開第0860430号、米国特許第6110969号、WO99/33794号、欧州特許公開第974580号、WO95/19964号、WO98/28264号、WO99/19300号、欧州特許公開第0911321号、WO98/58911号、米国特許第5698598号、米国特許第6376533号、米国特許第4132738号、または米国特許第3965143号に記載の化合物が挙げられ、特に好ましいEPアゴニストは、(5Z,9β,11α,13E)−17,17−プロパノ−11,16−ジヒドロキシ−9−クロロ−20−ノルプロスタ−5,13−ジエン酸およびその塩である。
【0072】
EPアゴニストとしては、現在までに知られているEPアゴニストや今後見出されるEPアゴニストをすべて包含する。好ましいEPアゴニストとしては、WO00/03980号、WO99/02164号、WO00/16760号、WO00/18744号、WO00/21542号、WO00/38663号、WO00/38690号、WO00/38667号、WO00/40248号、WO00/54808号、WO00/54809号、WO01/10426号、欧州特許公開第1110949号、欧州特許公開第1121939号、欧州特許公開第1132086号、WO200172268号、特開2002-104939号、WO02/42268号、特開2002-179595号、WO02/47669号、WO02/64564号、WO03/035064号、WO03/053923号、または米国特許第6552067号に記載の化合物が挙げられ、特に好ましいEPアゴニストは、(11α,13E,15α)−9−オキソ−11,15−ジヒドロキシ−16−(3−メトキシメチルフェニル)−17,18,19,20−テトラノル−5−チアプロスト−13−エン酸およびそのエステルである。
【0073】
本発明では、体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子をステントグラフトの外表面に含有させて、血管新生(再生)および組織修復が起こる期間に持続放出させることにより、より早期に大動脈壁との固着を完成させる方法を検討した。
【0074】
体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子の候補として、例えば、上記一般式(I)で示される化合物(特に、上記化合物1)あるいは上記化合物3又は上記化合物5が、虚血部残存血管の血管拡張作用、および血小板凝集抑制作用における血流量増加作用に加えて、損傷局所近傍で各種体内再生因子を持続的に産生誘導させる点に着目した。この化合物を、ステントグラフトの外表面に単に含有させることにより、ステントグラフトと大動脈壁との部分的固着は可能であるが、化合物が初期バーストを起こして持続放出されないためステントグラフトと大動脈壁との固着が必ずしも完全ではない。そこで、動脈瘤内に設置したステントグラフトが速やかに大動脈壁との固着できるためには、血管新生(再生)および組織修復が起こる期間の持続放出製剤化が必要であった。
【0075】
本発明では、ステントグラフトの外表面に、体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子の薬剤を単に含有させるだけでなく、当該薬剤を含む徐放性製剤の形態にすることが好ましいと結論付けた。
【0076】
各種体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子の徐放性製剤およびその製造法は、例えば、国際公開第2004/032965号および国際公開第2008/047863号に詳しく開示されている。
【0077】
本発明では、動脈瘤内に設置されたステントグラフトの外表面から持続的に有効成分が供給できる徐放性製剤であればよく、特に限定されない。例えば、徐放性注射剤(例えば、マイクロカプセル製剤、マイクロスフェア製剤、ナノスフェア製剤等)、埋め込み製剤(例えば、フィルム製剤、糸剤、布剤、網剤等)、軟膏剤、医療器具(ステント、固定ボルト、縫合糸等)に有効成分を含有またはコーティングしたコーティング剤等が挙げられる。
【0078】
本発明のマイクロカプセル製剤、マイクロスフェア製剤、ナノスフェア製剤とは、活性成分として有効成分(体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子)を含有し、生体吸収性高分子又は生体内分解性重合物からなる微粒子状の医薬組成物である。
【0079】
徐放性製剤に用いられる生体吸収性高分子としては、例えば、天然高分子又は合成高分子が挙げられる。当該製剤からの徐放速度の制御機構には、分解制御型、拡散制御型、膜透過制御型等があり、当該製剤はいずれの機構を有する製剤であってもよい。
【0080】
生体吸収性高分子である天然高分子としては、例えば、植物産生多糖(例えば、セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物産生多糖およびタンパク質(例えば、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、ゼラチンハイドロゲル、アルブミン、グルコサミノグリカン、フィブリン等)、微生物産生ポリエステルおよび多糖(例えば、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
【0081】
生体内分解性重合物としては、例えば、脂肪酸エステル重合体またはその共重合体、ポリアクリル酸エステル類、ポリヒドロキシ酪酸類、ポリアルキレンオキサレート類、ポリオルソエステル、ポリカーボネートおよびポリアミノ酸類が挙げられ、これらは1種類またはそれ以上混合して使用することができる。脂肪酸エステル重合体またはその共重合体とは、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ−ε―カプロラクトン、ポリブチレンテレフタレート・アジペートまたは乳酸−グリコール酸共重合体が挙げられ、これらは1種類またはそれ以上混合して使用することができる。その他に、ポリα−シアノアクリル酸エステル、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、ポリトリメチレンオキシド、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリγ−ベンジル−L−グルタミン酸、ポリビニルアルコール、ポリエステルカーボネート、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリホスファゼンまたはポリL−アラニンの1種類またはそれ以上混合も使用することができる。
【0082】
好ましくは、ゼラチンハイドロゲル、ポリ乳酸、ポリグコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、またはそれらの混合物であり、より好ましくは、ポリ乳酸、または乳酸−グリコール酸共重合体である。
【0083】
生体内分解性重合物の重量平均分子量は特に限定はなく、約2,000ないし約800,000のものが好ましく、より好ましくは約5,000ないし約200,000である。例えば、ポリ乳酸において、その重量平均分子量は約5,000から約100,000のものが好ましい。さらに好ましくは約6,000から約50,000である。ポリ乳酸は、自体公知の製造方法に従って合成できる。乳酸−グリコール酸共重合物においては、その乳酸とグリコール酸との組成比は約100/0から約50/50(W/W)が好ましく、特に約90/10から50/50(W/W)が好ましい。乳酸−グリコール酸共重合物の重量平均分子量は、約5,000から約100,000が好ましく、約10,000から80,000がより好ましい。乳酸−グリコール酸共重合物は、自体公知の製造方法に従って合成できる。また初期バーストを抑制するために、塩基性アミノ酸類(例えばアルギン酸等)等を添加しても良い。
【0084】
重量平均分子量は、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の分子量をいう。
【0085】
本発明の徐放性製剤としては、マイクロスフェア製剤が好ましい。マイクロスフェア製剤における薬剤(特に、体内再生因子産生誘導剤又は体内再生因子)の含有率は、通常、5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%、より好ましくは10〜20重量%である。マイクロスフェア製剤の平均粒子径は、通常、15〜50μm、好ましくは20〜50μm、より好ましくは20〜40μmである。この平均粒子径は、一般的に用いられるレーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、SALD-2100(株式会社島津製作所))や、コールターカウンター(Beckman Coulter製、Multisizer3)によって測定した値である。
【0086】
薬剤が、一般式(I)で示される化合物(特に、化合物1)を含む体内再生因子産生誘導剤、体内再生因子等の蛋白製剤およびその活性部位を含むペプタイド製剤類は、上記生体分解性高分子だけでなく、ゼラチンハイドロゲル(特開2004−115413号公報、特許第4459543号公報、特許第4685090号公報、特開2008−137975号公報等)、リポソームまたは脂質(特開平7−41432号公報、Arch. Biochem.Biophys., 212, 186, 1981年等)等を用いて、各種薬剤の徐放性マイクロスフェア(MS)製剤およびナノスフェア(NS)製剤の作製が可能である。
【0087】
ゼラチンハイドロゲルとは、ゼラチンを用いて種々の化学的架橋剤とゼラチン分子間に化学架橋を形成させて得られるハイドロゲルのことである。化学的架橋剤としては、例えばグルタルアルデヒド、例えばEDC等の水溶性カルボジイミド、例えばプロピレンオキサイド、ジエポキシ化合物、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、イミダゾール基などの間に化学結合を作る縮合剤を用いることができる。好ましいものは、グルタルアルデヒドである。また、ゼラチンは、熱処理又は紫外線照射によっても化学架橋することもできる。また、これらの架橋処理を組み合わせて用いることもできる。さらに、塩架橋、静電的相互作用、水素結合、疎水性相互作用などを利用した物理架橋によりハイドロゲルを作製することも可能である。
【0088】
得られるゼラチンハイドロゲル粒子の平均粒径は、上述の粒子作製時におけるゼラチン濃度、ゼラチン水溶液とオリーブ油との体積比、および撹拌スピードなどにより変化する。一般には平均粒径は1〜1000μmであり、目的に応じて適宜必要なサイズの粒子をふるい分けて所望の径を有する粒子を使用すればよい。
【0089】
薬剤を含む緩衝液をゼラチンハイドロゲルに加えて、ゼラチンハイドロゲルへ浸み込ませることにより、薬剤含浸ゼラチンハイドロゲルのMS製剤を得ることができる。
【0090】
本方法により、各種成長因子、サイトカイン、モノカイン、リンホカイン、その他の生理活性物質などの生体吸収性高分子ハイドロゲルを用いた徐放化製剤が作製される(Adv.Drug Deliv.Rev., 31, 287-301, 1998年、J.R.Soc.Interface,6 Suppl.3, S311-S324, 2009年、J.Biomater.Sci.Polym.Edn., 12, 77-88, 2001年)。
【0091】
例えば、ゼラチンハイドロゲルに固定化された状態では、薬剤はハイドロゲルからほとんど放出されないが、生体内でハイドロゲルが分解されるにつれて、ゼラチン分子が水可溶性となり、それに伴って、ゼラチン分子に固定化されている薬剤が放出されるようになる。すなわち、ハイドロゲルの分解によって、薬剤の徐放性を制御することができる。ハイドロゲルの分解性は、ハイドロゲル作製時における架橋程度を調節することにより変えることができる。また、薬剤がゼラチンと相互作用することによって、これらの生体内での安定性、例えば酵素分解抵抗性などが向上する。
【0092】
リポソーム製剤とは、生体膜を構成しているリン脂質や糖脂質から構成され、粒子径が100nm程度を有する人工のナノスフェアである細胞様微粒子であり、水溶性や脂溶性の薬剤を包含することにより、徐放性製剤として用いることができる。
【0093】
使用されるリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチンおよび水添大豆レシチンから選ばれるグリセロリン脂質類;スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミンおよびセラミドホスホリルグリセロールから選ばれるスフィンゴリン脂質類;およびプラスマローゲン類等が挙げられる。また、糖脂質としては、例えばジガラクトシルジグリセリドおよびガラクトシルジグリセリド硫酸エステルから選ばれるグリセロ脂質類;ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、およびガングリオシドG4から選ばれるスフィンゴ糖脂質類等が挙げられる。
【0094】
前記した生体吸収性高分子又は生体内分解性重合物の使用量は、本発明の目的が達成される限り、薬剤の薬理活性の強さと、目的とする薬物放出によって変えることができる。その使用量は、例えば、当該薬剤に対して約0.2ないし10,000倍(質量比)であり、好ましくは約1ないし1,000倍(質量比)、さらに好ましくは約1ないし100倍(質量比)が挙げられる。
【0095】
本発明のマイクロスフェア、マイクロカプセル、ナノカプセルナノスフェアは、例えば水中乾燥法(例えば、o/w法、w/o法、w/o/w法等)、相分離法、噴霧乾燥法、超臨界流体による造粒法あるいはこれらに準ずる方法で製造することができる。
【0096】
具体的には、一般式(I)で示される化合物(特に、化合物1)は、その構造的特徴から、乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)またはポリ乳酸(PLA)とのマイクロスフェア(MS)製剤(化合物1MS)とすることが好ましい。化合物1MSは、投与部位において、乳酸とグリコール酸に加水分解され、含まれている化合物1がほぼ線形的に生体へ放出される様に製剤設計されている。PLGAの分子量、乳酸/グリコール酸比、および粒子径等を変化させることにより、1週間〜6ヶ月の徐放性製剤とすることも可能である(国際公開第2008/047863号)。
【0097】
化合物1は、非PG骨格を有する低分子オキシム(OX)誘導体で、選択的IPアゴニスト作用に加えてTXA2合成酵素阻害作用を有している。さらに、化合物1は、NHDFとHUVECとの共培養下で、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF−1)、ストローマ細胞由来因子(SDF−1)、および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)等の各種体内再生因子を誘導する作用を有している。また、内因性PGIおよびPGEを産生促進することも確認されている。
【0098】
これらの各種体内再生因子の産生誘導により、抗アポトーシス作用、血管新生促進作用、幹細胞分化誘導作用、抗線維化作用等が期待できるため、化合物1は、本発明においては最も好適な薬剤である。
【0099】
(b)薬剤保持剤
本発明において、薬剤(ただし、FGFを除く))をステントグラフトに保持するために薬剤保持剤を使用する。上記のように、薬剤自体を徐放性製剤とすることで、持続的に薬剤を放出できるが、薬剤自体が血流等によりステントグラフトから脱離してしまうと所望の効果が得られない場合がある。そこで、薬剤保持剤により薬剤をステントグラフトに強固に保持させることで、上記した徐放性製剤の効果がより有効に発揮されることになる。
【0100】
薬剤保持剤としては、体内再生因子産生誘導剤または体内再生因子、および/またはそれを含む徐放性製剤(マイクロスフェア製剤、ナノスフェア製剤等)をステントグラフトに保持することができる材料であれば特に限定はない。好ましくは、生体吸収性高分子又は生体内分解性重合物であり、より好ましくは、生体吸収性高分子が挙げられる。
【0101】
生体吸収性高分子としては、例えば、天然高分子又は合成高分子が挙げられる。
【0102】
天然高分子としては、例えば、植物産生多糖(例えば、セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物産生多糖およびタンパク質(例えば、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、ゼラチンハイドロゲル、アルブミン、グルコサミノグリカン等)、微生物産生ポリエステルおよび多糖(例えば、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエート、ヒアルロン酸等)があるが、好ましくは、フィブリン、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸であり、より好ましくは、フィブリン、アテロコラーゲン、ゼラチンである。
【0103】
生体内分解性重合物としては、脂肪酸エステル重合体またはその共重合体、ポリアクリル酸エステル類、ポリヒドロキシ酪酸類、ポリアルキレンオキサレート類、ポリオルソエステル、ポリカーボネートおよびポリアミノ酸類が挙げられ、これらは1種類またはそれ以上混合して使用することができる。脂肪酸エステル重合体またはその共重合体とは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ−ε―カプロラクトン、ポリブチレンテレフタレート・アジペートまたは乳酸−グリコール酸共重合体が挙げられ、これらは1種類またはそれ以上混合して使用することができる。その他に、ポリα−シアノアクリル酸エステル、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、ポリトリメチレンオキシド、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリγ−ベンジル−L−グルタミン酸、ポリビニルアルコール、ポリエステルカーボネート、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリホスファゼンまたはポリL−アラニンの1種類またはそれ以上混合も使用することができる。好ましくは、ゼラチンハイドロゲル、ポリ乳酸、ポリグルコール酸または乳酸−グリコール酸共重合体であり、より好ましくは、乳酸−グリコール酸共重合体である。
【0104】
生体内分解性重合物の重量平均分子量は特に限定はなく、約2,000ないし約800,000のものが好ましく、より好ましくは約5,000ないし約200,000である。
【0105】
本発明の薬剤保持剤には、必要に応じ、目的に応じて他の添加剤を添加することができる。例えば、分散剤、保存剤、抗酸化剤等が挙げられる。
【0106】
本発明では、薬剤保持剤と薬剤を混合して、ステントグラフト外側にコーティング、塗布等できる形態に調製される。例えば、薬剤を薬剤保持剤に浸含させて所望の形状(フィルム状、シート状等)に成形したり、必要に応じ溶剤を用いて薬剤保持剤と薬剤を含有する懸濁液又は溶液とし、スプレー剤、糊剤等の形態にしたりすることができる。得られたフィルム剤、シート剤、スプレー剤、糊剤等の薬剤保持剤と薬剤を含む混合物を、ステントグラフトにコーティングすることにより、本発明の薬剤溶出性ステントグラフを得ることができる。これにより、ステントグラフト外側で、薬剤を持続的に放出することができる。もちろん、薬剤として持続性製剤を採用することが好ましい。
【0107】
(c)ステントグラフト
本発明に使用するステントグラフトは、動脈瘤などの血管内手術に用いる人工血管であり、金属線をメッシュ状に編んで円筒形状にし、その内面及び/又は外面を樹脂で被覆した構造を有している。
【0108】
樹脂の材質は、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル、PTFEやETFEなどフッ素樹脂などを挙げることができる。さらに好ましくは、化学的に安定で耐久性が大きく、組織反応の少ない、PTFEやETFEなどのフッ素樹脂、化学的に安定で耐久性が大きく、組織反応の少ない、引張り強度等機械的物性の優れたポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが好ましい。特に好ましくは、体温によりポリエステル樹脂の強度が低下する場合が考えられるため、ガラス転移温度60℃以上のポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが好ましい。或いは、PET/PGA、PGA/PLLA、PLGA、PDSなどの生体内で溶解しうる素材を用いることもできる。
【0109】
当該樹脂は布状であることが好ましく、布は当該樹脂を、綾織、平織、ニット織物にしたものが好ましく、ベロア構造を有してもよい。特に、綾織および平織が、壁厚の薄い引張り強度の大きな布を製造しやすく好ましい。布の厚みは、特に制限されることはないが、10〜160μmの範囲のものが好ましい。特に、布の厚みが10〜95μm、特に20〜95μmの範囲のものが好ましい。
【0110】
ステントグラフトは、患者の患部にフィットするように患者毎に設計される。
【0111】
ステントグラフトとして、例えば、胸部大動脈瘤用のGore TAG(登録商標、米国ゴア(Gore)社製), VALIANT(登録商標、米国メドトロニック(Medtronic)社製), Relay Plus(登録商標、スペイン、ボルトン(Bolton)社製), Zenith TX2(登録商標、米国クック(Cook)社製)、及び腹部大動脈瘤用のエクスクルーダー(登録商標、米国ゴア(Gore)社製), Zenith (登録商標、米国クック(Cook)社製), Endurant (登録商標、米国メドトロニック(Medtronic)社製)やパワーリンク(米国 エンドロジックス社 (Endologix, Inc.)が挙げられ、いずれも現在日本で薬事承認を得ている。
【0112】
本発明の薬剤溶出性ステントグラフトは、上記のステントグラフトの外側(動脈内壁に接する側)に、上記の薬剤(但し、FGFを除く)及び薬剤保持剤を含む混合物をコーティングして得られ、これを哺乳動物の動脈瘤の患部に装着することで、ステントグラフト関連合併症の発生を抑えつつ、効果的に動脈瘤(胸部動脈瘤および腹部動脈瘤)の治療を行うことができる。
【実施例】
【0113】
以下に、本発明の具体的な態様を示すが、これは本発明をよく理解するためのものであり、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0114】
製剤例1(持続性マイクロスフェア製剤の製造)
以下の手順に従い、持続性マイクロスフェア(MS)製剤を製造した。
【0115】
生分解性ポリマーPLA0020(組成DL-乳酸100%、重量平均分子量20,000、固有粘度0.177-0.216 dl/g、和光純薬工業(株))1g、及び(E)−[5−[2−[1−フェニル−1−(3−ピリジル)メチリデンアミノオキシ]エチル]−7,8−ジヒドロナフタレン−1−イルオキシ]酢酸(米国特許第5480998号に記載の化合物1)250 mgをCH2Cl2 10mLに懸濁させ、メタノール2mLを加えて溶解させた。
【0116】
この溶液を、ヒスコトロン(ホモジナイザーNS-60型、ジェネレーターシャフトNS-20型、(株)日音医科理科機器製作所)を用いて、5,000rpmで撹拌させた0.1%(w/v)PVA溶液(リン酸でpH7に調整)1.5L中に、ピペットを用いてシャフト羽横付近に加え乳化させ、o/wエマルションとした。このo/wエマルションを室温で約4 時間撹拌しCH2Cl2及びメタノールを揮発させ、油相を固化させた。
【0117】
遠心分離機(himac CR5B2、日立工機(株))を用いて遠心分離(3,000rpm、10分)し、上清を除去した後、精製水(50mL)で分散させ、遠心分離(3,000rpm,10分)した。その上清を除去し、0.2%(w/v)Tween80溶液(30mL)で分散させ、遠心分離(3,000rpm、10分)した。さらに上清を除去し、再度精製水(30mL)で分散させ、遠心分離(3,000rpm、10分)し、上清を除去後、ドライアイス-メタノールで凍結させ、減圧乾燥(約12時間)してMS製剤を得た。
【0118】
得られたMS製剤は、化合物1の封入効率は70%以上であり、含有率は17.9%であり、平均粒子径は25.8μmであった。
【0119】
<封入効率及び含有率の測定>
製剤例1のMS製剤(約10mg)に、適当な内部標準含有のアセトニトリル溶液を加えて、超音波処理し溶解した。この各溶液中の化合物1の含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定し、MS製剤中の化合物1の封入効率及び含有率を次式により算出した。
【0120】
封入効率(%)=(化合物1の測定含有量/化合物1の理論含有量)×100
含有率(%)=(化合物1の測定含有量/マイクロスフェア量)×100
【0121】
<粒子径測定>
MS製剤の平均粒子径を、コールターカウンター(MultisizerIII,Beckman Coulter、Inc.,USA)にて測定した。
【0122】
製剤例2(対照マイクロスフェア製剤の製造)
化合物1(250mg)を加えないこと以外は、製剤例1と同様にしてMS製剤を作製した。化合物1を含まない対照物であるMS製剤を得た。平均粒子径25.8μmであった。
【0123】
試験例1(in vitroリリース試験)
製剤例1で製造したMS製剤を、サンプリングポイント毎に3mgを秤量し(n=3)、0.2(w/v)%Tween80含有 1/15M pH7リン酸緩衝液10mLを加え、ボルテックス(10秒)及び超音波(20秒)により、均一に分散させた後、37℃恒温層で静置させた。経時的に容器ごとサンプリングし、遠心分離(2,000rpm、5分)して上清4mLと、残りの上清を除いて得られたペレットを冷凍保存した。
【0124】
このペレットにDMSO 10mLを加えて、ボルテックス(10秒)を用いて、MS製剤を十分に溶解させた。この溶液 300μLに、内部標準液(IS液)200μL及び移動相(pH3)500μLを加えて十分に混和した。また、上清も同様、300μLに、IS液200μL及び移動相(pH3)500μLを加えて十分に混和した。遠心分離(12,000rpm、3分)の後、上清を10μL、HPLCにインジェクションした。
【0125】
<HPLC条件>
装置:クロマトグラフ (Shimazu LC-10AT)、UV検出器(Shimazu SPD-10A)、データ解析機器(Shimazu C-R7A)
検出:UV-265 nm
カラム:SHISEIDO CAPCELLPACK C18 UG120(4.6 mm i.d×150 mm)
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:アセトニトリル:水:トリエチルアミン= 1000:900:3(水:トリエチルアミン=900:3の溶液をリン酸でpH 3に調整)
流速:1.0 mL/min
【0126】
<内部標準液(IS液)の調製>
内部標準物質(IS):n-プロピルパラベン 100mgを秤量し、エタノールにて100mLにメスアップした。この溶液10mLを量り、エタノールにて100mLにメスアップした。この溶液10mLを量り、エタノールにて100mLにメスアップし、これをIS液として用いた。
【0127】
製剤例1で製造したMS製剤のリリース結果を図1に示した。図1に示すように、製剤例1のマイクロスフェア製剤は約4ヶ月で90%以上の化合物1をリリースした。
【0128】
試験例2(in vivoリリース試験)
SD系雄性ラット(SPF、日本エスエルシー(株))を用いて血中動態を測定した。化合物1量として10mg(製剤例1、2)相当量/kgを23Gディスポーザル注射針(テルモ(株))及びディスポーザル注射筒2.5mL用(テルモ(株))を用いて懸濁液を背部皮下に単回投与を行った。投与量は5mL/kgとした。各群の例数は、5匹で行った。
【0129】
各採血ポイントにて、ヘパリンを通した23G注射針付ディスポシリンジを用いて0.5mLの血液を頚静脈より採取し、遠心分離(12,000rpm、10分、4℃)後、血漿を凍結保存(-30℃)した。試験終了後、LC/MS/MSにて化合物1の血中濃度を測定した。
【0130】
<LC/MS/MS測定法>
MS/MS条件;
MS/MS:API 4000
イオン化モード:ESI
イオン極性モード:ポジティブ
【0131】
【表1】
【0132】
製剤例1のMS製剤の血中動態を図2に示す。図2より、当該MS製剤は4ヶ月程度の血中動態を示した。
【0133】
実施例1(薬剤溶出性ステントグラフトの製造)
ゼラチン(製品名:メディゼラチン、種類:HMG-BP、製造販売社名:(株)ニッピ)1gを生理食塩水10mLに溶解し、その溶解液0.5mLに、製剤例1のMS製剤100mg、又は同量の製剤例2のMS製剤を懸濁させて、それぞれ懸濁液1及び懸濁液2を調製した。
【0134】
ステンレススチールZステント(製品名:Gianturco Z stent、種類:30 mm、製造販売社名:Cook)とウーブンポリエステルグラフト(製品名:J Graft Woven-Graft、種類:WST series 14、16、18mm、販売会社:ライフライン(株)、製造元:UBE Junken Medical)からなるステントグラフト(SG)(25mm長/14〜18mm径)を準備し、懸濁液1又は懸濁液2を、それぞれステントグラフトの外側に塗布し乾燥固着させて、ステントグラフト1及びステントグラフト2を調製した。
【0135】
実施例2(組織学的検討及び力学的引張試験)
20kgのメス、HBD犬(購入先:オリエンタル酵母)を対象とし、全麻下、後腹膜アプローチ腹部大動脈を経て胸部下行大動脈に、それぞれステントグラフト1又はステントグラフト2を挿入した。1、2、3ヶ月において、それぞれ解剖し(各N=4)、組織学的検討、及び力学的引張試験(製品名,種類:Tensilon RTC-1150A, 社名:Orientec Co.)を行った。
【0136】
ステントグラフト1を挿入した後の化合物1の血中濃度を表2に示した。投与直後(7.21±1.90 ng/dl)においてピークを認め、2ヶ月後においても薬剤放出(0.57±0.57 ng/dl)が維持できていることが示された。
【0137】
【表2】
【0138】
ステントグラフト1を挿入した後、ステントグラフト部における化合物1の血管組織内濃度を測定した(表3)。3ヶ月後においても、化合物1が血管組織内に残留していることが示された。ステントグラフトと大動脈壁の組織学的な接着には、グラフト内への細胞の遊走、及びそこでのコラーゲンファイバーなど、細胞外基質(ECM)の増生による大動脈壁との組織学的連続化が必要である。
【0139】
【表3】
【0140】
グラフト内の細胞数(α-SMA陽性細胞;平滑筋細胞)をHE染色した切片においてグラフト内の核の個数 (A)、およびグラフト部分の面積(B)を計測し、グラフト内細胞密度=A/B (x103個/μm2)の定義の下、計算し、グラフト内の細胞数を測定した結果を表4に示した。製剤例1は製剤例2に比し、グラフト内の細胞数を増加させていた。
【0141】
【表4】
【0142】
また、組織学的検討では新生内膜表面にはCD31陽性細胞(大動脈内皮細胞)を、その下層にα-SMA陽性細胞(大動脈平滑筋細胞)の増生を認め、時間を経るに従い良好な再組織化が認められた。また、マッソントリクローム染色した切片のグラフト−大動脈間の組織の青色の部分(線維化部分:A)、白色を除いた部分(組織全体:B)の面積をそれぞれBiorevo BZ-9000 (Keyence)を用いて計測し、線維化率=A/B(%)の定義の下、計算し、線維化率を測定した。その結果、表5に示した様に、製剤例1において有意に線維組織化の促進が認められた。
【0143】
【表5】
【0144】
また、力学的引張試験では、5 x 10mm大の短冊状に切り出した大動脈壁とグラフトおよび大動脈壁組織を、モスキート鉗子を介してTensilon RTC-1150Aのアームにとりつけ、50mm/minのスピードで張力を負荷し、グラフトと大動脈壁組織が引き剥がれる最大荷重を計測した。その結果、表6に示した様に、剥脱に必要な最大荷重は製剤例1において2ヶ月において1.17倍(P=0.025)、3ヶ月において1.17倍(P=0.014)となっており、固着力の増加を認めた。
【0145】
【表6】
【0146】
以上より、化合物1を徐放する薬剤溶出型ステントグラフトを大動脈に留置したところ、ステントグラフト−大動脈壁間の再組織化を促進し、固着力を向上させた。薬剤溶出型ステントグラフトにより、ステントグラフトと大動脈間の不十分な固着に起因する合併症を回避できることが明らかとなった。
【0147】
実施例3(in vitro正常ヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMC)培養における化合物1のcAMP産生促進作用)
細胞(製造: Lonza、購入:タカラバイオ、製品名:正常ヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMC)、製品コード:CC-2571)を、培養液(製造: Lonza、購入:タカラバイオ、製品名:平滑筋細胞培地キット-2(5% FBS)、SmGMTM-2 BulletKitTM、製品コード:CC-3182)で72時間培養後、細胞数 4.0 x 105 cellsにて Serum freeにした培養液にDMSOで溶かした化合物1を100nM, 1000nMになるように添加した。コントロールは同量のDMSOを培養液に添加した。72時間培養後、上清を回収し、培養液中のcAMPをcAMP EIA kit Code.581001にて測定した。
【0148】
その結果を表7に示した。これより、化合物1は、正常ヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMC)にてcAMP産生を増加させた。
【0149】
【表7】
図1
図2