(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の高分子弾性体は架橋構造を形成する高分子弾性体であり、前記第二の高分子弾性体は架橋構造を形成しない高分子弾性体である、請求項2に記載の立毛調人工皮革の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、本発明に係る立毛調人工皮革の一実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の立毛調人工皮革10の厚み方向の断面の模式図である。
【0011】
図1の模式断面図に示すように、立毛調人工皮革10は、例えば繊維束状に形成された、繊度1dtex以下の極細繊維1aの絡合体である不織布1を備える。不織布1の内層の内部空隙には第一の高分子弾性体2が付与されている。第一の高分子弾性体2は不織布1に充実感を与える。また、不織布1の表面には、起毛された極細繊維1aが存在する立毛面Sを有する。そして、立毛した極細繊維の根本には第二の高分子弾性体3が固着している。
【0012】
本実施形態の立毛調人工皮革を、その製造方法の一例に沿って詳しく説明する。
【0013】
本実施形態の立毛調人工皮革は、第一の高分子弾性体を含浸付与された繊度1dtex以下の極細繊維の不織布を含む繊維シートを準備する工程と、繊維シートの片面又は両面を起毛処理することにより立毛面を形成する工程と、立毛面に、所定の溶剤に対して可溶性を有する第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布する工程と、樹脂液を塗布した面に上記所定の溶剤を塗布する工程と、を備える製造方法により得ることができる。
【0014】
本実施形態の立毛調人工皮革の製造方法においては、はじめに、繊度1dtex以下の極細繊維の絡合体である不織布に第一の高分子弾性体を含浸付与することにより繊維シートを製造する。
【0015】
不織布の製造においては、はじめに、極細繊維発生型繊維の繊維ウェブを製造する。繊維ウェブの製造方法としては、例えば、極細繊維発生型繊維を溶融紡糸し、これを意図的に切断することなく長繊維のまま捕集するような方法や、ステープルに切断した後、公知の絡合処理を施すような方法が挙げられる。なお、長繊維とは、切断処理されていない繊維である。長繊維の長さとしては、例えば、100mm以上、さらには、200mm以上であることが繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。長繊維の上限は、特に限定されないが、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。これらの中では、繊維の素抜けが発生しにくく、耐ピリング性に優れた立毛調人工皮革が得られる点から、極細繊維発生型繊維の長繊維ウェブを製造することが特に好ましい。本実施形態においては、代表例として、極細繊維発生型繊維の長繊維ウェブを製造する場合について詳しく説明する。
【0016】
なお、極細繊維発生型繊維とは、紡糸後の繊維に化学的な後処理または物理的な後処理を施すことにより、繊度の小さい極細繊維を形成する繊維である。その具体例としては、例えば、繊維断面において、マトリクスとなる海成分ポリマー中に、海成分ポリマーとは異なる種類のドメインとなる島成分ポリマーが分散されており、後に海成分を除去することにより、島成分のポリマーを主体とする繊維束状の極細繊維を形成する海島型複合繊維や、繊維外周に複数の異なる樹脂成分が交互に配置されて花弁形状や重畳形状を形成しており、物理的処理により各樹脂成分が剥離することにより分割されて束状の極細繊維を形成する剥離分割型複合繊維、等が挙げられる。海島型複合繊維によれば、後述する絡合処理を行う際に、割れ、折れ、切断などの繊維損傷が抑制される。本実施形態では、代表例として海島型複合繊維を用いて極細繊維を形成する場合について詳しく説明する。
【0017】
海島型複合繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であり、海成分ポリマーからなるマトリクス中に島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型複合繊維の長繊維ウェブは、海島型複合繊維を溶融紡糸し、切断せずに長繊維のままネット上に捕集して形成される。
【0018】
島成分ポリマーは極細繊維を形成しうるポリマーであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらのイソフタル酸等による変性物;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド12,芳香族ポリアミド,半芳香族ポリアミド,ポリアミド弾性体等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらの中では、PET,PTT,PBT,これらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂が、熱処理により収縮しやすいために充実感のある立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。また、ポリアミド6,ポリアミド66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるために、膨らみ感のある柔らかな風合いを有する立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。
【0019】
海成分ポリマーとしては、島成分ポリマーよりも溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が高いポリマーが選ばれる。また、島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーよりも小さいポリマーが海島型複合繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。このような条件を満たす海成分ポリマーの具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−エチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体などが挙げられる。これらの中では水溶性PVAが有機溶剤を用いることなく水系媒体により溶解除去が可能であるために環境負荷が低い点から好ましい。
【0020】
海島型複合繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。複合紡糸用口金の口金温度は海成分ポリマー及び島成分ポリマーの両方の融点よりも高い溶融紡糸可能な温度であれば特に限定されないが、通常、180〜350℃の範囲が選ばれる。
【0021】
海島型複合繊維の繊度はとくに限定されないが、0.5〜10dtex、さらには0.7〜5dtexであることが好ましい。また、海島型複合繊維の断面における海成分ポリマーと島成分ポリマーとの平均面積比は5/95〜70/30、さらには10/90〜50/50であることが好ましい。また、海島型複合繊維の断面における島成分のドメインの数は特に限定されないが、工業的な生産性の観点からは5〜1000個、さらには、10〜300個程度であることが好ましい。
【0022】
口金から吐出された溶融状態の海島型複合繊維は、冷却装置により冷却され、さらに、エアジェットノズルなどの吸引装置により目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取速度に相当する速度の高速気流により牽引細化される。そして牽引細化された長繊維を移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより長繊維ウェブが得られる。なお、必要に応じて、形態を安定化させるために長繊維ウェブをさらにプレスすることにより部分的に圧着させてもよい。このようにして得られる長繊維ウェブの目付はとくに限定されないが、例えば、10〜1000g/m
2の範囲であることが好ましい。
【0023】
そして、得られた長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する。
【0024】
長繊維ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチするような処理が挙げられる。
【0025】
また、長繊維ウェブには海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、長繊維ウェブを70〜150℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、長繊維ウェブの絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。また、ニードルパンチの後、熱プレス処理することによりさらに繊維密度を緻密にして形態安定性を付与してもよい。このようにして得られる絡合ウェブの目付としては100〜2000g/m
2程度の範囲であることが好ましい。
【0026】
また、絡合ウェブを必要に応じて熱収縮させることにより繊維密度および絡合度合を高める処理を施してもよい。熱収縮処理の具体例としては、例えば、絡合ウェブを水蒸気に接触させる方法や、絡合ウェブに水を付与した後、絡合ウェブに付与した水を加熱エアーや赤外線などの電磁波により加熱する方法が挙げられる。また、必要に応じて、熱プレス処理を行ってもよい。熱プレス処理を行うことにより、熱収縮処理により緻密化された絡合ウェブをさらに緻密化するとともに、絡合ウェブの形態を固定化したり、表面を平滑化させることができる。
【0027】
熱収縮処理工程における絡合ウェブの目付の変化としては、収縮処理前の目付に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。
【0028】
そして、緻密化された絡合ウェブ中の海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去することにより、繊維束状の極細長繊維の絡合体である極細長繊維の不織布が得られる。海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去する方法としては、海成分ポリマーのみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理するような方法が特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が好ましく用いられる。また、海成分ポリマーとして易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が好ましく用いられる。
【0029】
海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより、水溶性PVAの除去率が95〜100質量%程度になるまで抽出除去することが好ましい。なお、ディップニップ処理を繰り返すことにより、水溶性PVAを効率的に抽出除去できる。水溶性PVAを用いた場合には、有機溶媒を用いずに海成分ポリマーを選択的に除去することができるために、環境負荷が低く、また、VOCの発生を抑制できる点から好ましい。
【0030】
このようにして形成される極細繊維の繊度は1dtex以下であり、0.001〜1dtex、さらには0.002〜0.2dtexであることが好ましい。
【0031】
このようにして得られる極細長繊維の不織布の目付は、140〜3000g/m
2、さらには200〜2000g/m
2であることが好ましい。また、極細長繊維の不織布の見かけ密度は、0.45g/cm
3以上、さらには0.55g/cm
3以上であることが、緻密な不織布が形成されることにより、充実感のある不織布が得られる点から好ましい。上限は特に限定されないが0.70g/cm
3以下であることがしなやかな風合いが得られ、また、生産性にも優れる点から好ましい。
【0032】
本実施形態の立毛調人工皮革の製造においては、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を極細繊維化する前後において、極細長繊維の不織布の内部空隙に第一の高分子弾性体を含浸付与する。第一の高分子弾性体は、不織布に形態安定性や充実感を与える。
【0033】
第一の高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン、アクリル系樹脂弾性体、アクリロニトリル系樹脂弾性体、オレフィン系樹脂弾性体、ポリエステル系樹脂弾性体等が挙げられる。第一の高分子弾性体としては好ましくは、後述する第二の高分子弾性体を溶解するための溶剤に対して溶解性が低い高分子弾性体、さらには、凝固後に架橋構造を形成することにより上記溶剤に対して溶解性が低い高分子弾性体が用いられる。このような上記溶剤に対する溶解性が低い高分子弾性体としては、凝固後に架橋構造を形成する水系ポリウレタンが好ましく用いられる。
【0034】
水系ポリウレタンとは、ポリウレタンエマルジョン、または、水系溶媒に分散されたポリウレタン分散液から凝固されるようなポリウレタンであり、通常、有機溶剤に対して未溶解性または難溶解性を有し、凝固後に架橋構造を形成するポリウレタンである。また、エマルジョンが感熱ゲル化性を有している場合には、エマルジョン粒子がマイグレーションすることなく感熱ゲル化するので、第一の高分子弾性体を繊維絡合体に均一に付与することができる。
【0035】
不織布に第一の高分子弾性体を含浸付与する方法としては、極細繊維化する前の絡合ウェブや極細繊維化した後の不織布に第一の高分子弾性体を含有するエマルジョン,分散液,または溶液を含浸した後、乾燥凝固させる乾式法、または湿式法により凝固させる方法等が挙げられる。なお、凝固後に架橋構造を形成する水系ポリウレタンのような高分子弾性体を用いた場合には、架橋を促進させるために、必要に応じて、凝固及び乾燥後に加熱処理するキュア処理を行ってもよい。
【0036】
第一の高分子弾性体のエマルジョン、分散液、または溶液等の含浸方法としては、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法や、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等が挙げられる。
【0037】
なお、第一の高分子弾性体は、本発明の効果を損なわない範囲で、染料や顔料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。
【0038】
第一の高分子弾性体の含有割合としては、極細繊維の質量に対して、0.1〜60質量%、さらには0.5〜60質量%、とくには1〜50質量%であることが、得られる立毛調人工皮革の充実感としなやかさ等のバランスに優れる点から好ましい。
【0039】
このようにして第一の高分子弾性体を含浸付与された繊度1dtex以下の極細繊維の不織布である、繊維シートが得られる。このようにして得られた繊維シートは、必要に応じて厚さ方向に垂直な方向に複数枚にスライスしたり、研削したりすることにより厚さ調節された後、少なくとも一面をサンドペーパーやエメリーペーパー等の研磨紙を用いてバフィング処理することにより起毛処理が施される。研磨紙の番手としては、好ましくは120〜800番手、さらに好ましくは320〜600番手程度であることが好ましい。このようにして、繊維シートの片面又は両面を起毛処理した立毛面が形成される。
【0040】
起毛処理された繊維シートの厚みは特に限定されないが、0.2〜4mm、さらには、0.5〜2.5mmであることが好ましい。
【0041】
次に、このようにして得られた繊維シートの立毛面に、所定の溶剤に対して可溶性を有する第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布した後、第二の高分子弾性体を凝固させる。
【0042】
所定の溶剤に溶解する第二の高分子弾性体は、後の工程で所定の溶剤で溶解された後、溶解された状態から凝固される高分子弾性体である。第二の高分子弾性体としては所定の有機溶剤に対して可溶性を有する高分子弾性体であれば特に限定されずに用いることができる。
【0043】
第二の高分子弾性体の具体例としては、例えば、所定の有機溶剤に対して可溶性を有する、ポリウレタン、アクリル系樹脂弾性体、アクリロニトリル系樹脂弾性体、オレフィン系樹脂弾性体、ポリエステル系樹脂弾性体等が挙げられる。第二の高分子弾性体としては、所定の有機溶剤に対する可溶性を有する高分子弾性体、さらには、凝固後に架橋構造を形成せず、上記所定の有機溶剤に対する可溶性を有する高分子弾性体が用いられる。このような、上記所定の有機溶剤に対する可溶性を有する高分子弾性体としては、凝固後に架橋構造を形成しない溶剤系ポリウレタンが好ましく用いられる。
【0044】
溶剤系ポリウレタンとは、有機溶剤に対して可溶性を有する、例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオ―ル、ポリカ―ボネ―トジオ―ルなどから選ばれた少なくとも1種類のポリマ―ジオ―ルと、4,4'- ジフェニルメタンジイソシアネ―ト、イソホロジイソシアネ―ト、ヘキサメチレンジイソシアネ―トなどの、芳香族系、脂環族系、脂肪族系のジイソシアネ―トなどから選ばれた少なくとも1種のジイソシアネ―トと、2個以上の活性水素原子を有する、少なくとも1種の低分子化合物とを所定のモル比で反応させて得たポリウレタンである。ポリウレタンは必要に応じて、合成ゴム、ポリエステルエラストマ―などの重合体を添加した重合体組成物として使用することができる。溶剤系ポリウレタンは、架橋構造を形成する水系ポリウレタンに比べると、高伸度のフィルムを形成しやすい。
【0045】
なお、所定の溶剤に対する可溶性は、例えば、厚み100μmの高分子弾性体のシートを所定の溶剤に常温で24時間浸漬した後に、溶剤をろ過し、得られた残渣を乾燥してその質量を測定し、下記式により求められる溶解率:溶解率(%)=(1−残渣の重量/溶剤浸漬前のシートの重量)×100、
が70%以上、さらには90%以上になるような溶解性を有することが好ましい。一方、所定の溶剤に対する非溶解性は、溶解率が30%以下、さらには10%以下であることが好ましい。
【0046】
繊維シートの立毛面に第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布する方法としては、グラビアコーティング法、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等が挙げられる。
【0047】
第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を繊維シートの立毛面に塗布し、必要に応じて乾燥凝固させることにより、繊維シートの立毛面に第二の高分子弾性体が付与される。
【0048】
第二の高分子弾性体も、本発明の効果を損なわない範囲で、染料や顔料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。
【0049】
第二の高分子弾性体の含有割合としては、繊維シートの質量に対して、0.00001〜0.01質量%、さらには0.0001〜0.001質量%であることが、得られる立毛調人工皮革の充実感としなやかさ等のバランスに優れる点、及び、起毛された繊維を適度に拘束する点から好ましい。第二の高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には、表面が硬くなったり、細かい皺が発生しやすくなる傾向がある。
【0050】
なお、第二の高分子弾性体の目付は、上述した第一の高分子弾性体の目付の0.0001〜0.1倍、さらには0.001〜0.05倍であることが立毛調人工皮革の充実感としなやかさ等のバランスに優れる点、及び、起毛された繊維を適度に拘束する点から好ましい。
【0051】
次に、第二の高分子弾性体を塗布した面に第二の高分子弾性体を溶解させる溶剤を塗布する。このような工程により、繊維シートの立毛面に付与された第二の高分子弾性体の少なくとも一部が溶解して内層方向に沈み込んで乾燥凝固する。そして、立毛面に存在する起毛された極細繊維の根本に第二の高分子弾性体が固着する。とくには、第二の高分子弾性体は立毛した極細繊維の根本を固着して、繊維シートの立毛面の表層に薄いフィルム状または層状に存在することが好ましい。そして、このように立毛面に存在する極細繊維の根本が第二の高分子弾性体で拘束されることにより、立毛面が摩擦されても、極細繊維が素抜けしにくくなったり、極細繊維が内側から外側に飛び出したりしにくくなる。その結果、表面の摩擦により、抜けた繊維や飛び出した繊維が毛玉を作るようなピリングの発生を抑制することができる。
【0052】
第二の高分子弾性体を塗布した面に第二の高分子弾性体を溶解させる溶剤を塗布する方法は特に限定されないが、例えば、グラビアコーティング法、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等が挙げられる。
【0053】
第二の高分子弾性体を溶解させる溶剤としては、塗布するだけで第二の高分子弾性体を溶解させるような溶解性を有する溶剤であれば特に限定なく用いられる。このような溶媒は第二の高分子弾性体の種類に応じて適宜選択される。その具体例としては、例えば、溶剤系ポリウレタンを溶解させる場合には、シクロヘキサノンやメチルエチルケトン(MEK)等のケトン類や、N, N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリドン、ヂメチルスルフォアミド(DMSO)等が挙げられる。また、これらを所定の割合で混合した混合溶媒を用いてもよいし、第一の高分子弾性体の貧溶剤を混合してもよい。
【0054】
第二の高分子弾性体を溶解する溶剤の塗布量は、求める風合いや特性とのバランス、厚み等に応じて適宜調整されるが、例えば、1〜50g/m
2、さらには5〜30g/m
2程度になるように塗布することが好ましい。溶剤の塗布量が多すぎる場合には、第二の高分子弾性体が溶解しすぎて内層に浸透しすぎる傾向がある。また、塗布量が少なすぎる場合には、第二の高分子弾性体が充分に溶解しないために、起毛された極細繊維の根本を充分に固着しにくくなる傾向がある。
【0055】
また、本実施形態の立毛調人工皮革においては、例えば
図2のSEM写真に示すように、第二の高分子弾性体3は繊維シートに浸透し、立毛した極細繊維1aの根本に固着して、繊維シートの立毛面1aの表層に薄いフィルム状または層状に偏在していることが好ましい。薄いフィルム状または層状に存在するときの第二の高分子弾性体が存在する部分の平均厚さとしては、5〜60μm、さらには10〜40μmであることがしなやかな立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。第二の高分子弾性体が存在する部分が厚すぎる場合には表層部が硬くなったり、表面に細かいしわが発生しやすくなる傾向がある。また、第二の高分子弾性体が存在する部分が薄すぎる場合には第二の高分子弾性体が立毛した極細繊維を固着する効果が低下してピリングを抑制する効果が低下する傾向がある。
【0056】
また、本実施形態の立毛調人工皮革においては、繊維シートの厚さに対する、第二の高分子弾性体が存在する部分の厚さの平均割合としては、1〜20%、さらには5〜10%であることが好ましい。繊維シートの厚さに対する、第二の高分子弾性体が存在する部分の厚さの割合が高すぎる場合には、繊維シートが硬い風合いになる傾向がある。
【0057】
このようにして本実施形態の立毛調人工皮革が得られる。本実施形態の立毛調人工皮革の起毛された繊維の長さは特に限定されないが、1〜500μm、さらには、30〜200μmであることが、天然のヌバック調皮革のようなきめ細かな短毛感に優れた立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。なお、起毛された繊維の長さは、例えば、立毛調人工皮革の表面の立毛を手で起こした状態で走査型電子顕微鏡(SEM)により断面写真を撮影し、任意の50本のその根本である絡合表面から立毛繊維の上端までの長さを計測し、その平均値を算出することにより得られる。
【0058】
また、本実施形態の立毛調人工皮革の見かけ密度は0.4〜0.7g/cm
3、さらには0.5〜0.6g/cm
3であることが、しなやかさと充実感のバランスに優れる点から好ましい。さらには、本実施形態の立毛調人工皮革の目付は150〜1000g/m
2、さらには200〜600g/m
2であることが、しなやかさと充実感のバランスに優れる点から好ましい。
【0059】
なお、本実施形態の立毛調人工皮革は必要に応じて染色される。染料は極細繊維の種類により適切なものが適宜選択される。例えば、極細繊維がポリエステル系樹脂から形成されている場合には分散染料で染色することが好ましい。分散染料の具体例としては、例えば、ベンゼンアゾ系染料(モノアゾ、ジスアゾなど)、複素環アゾ系染料(チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど)、アントラキノン系染料、縮合系染料(キノフタリン、スチリル、クマリンなど)等が挙げられる。これらは、例えば、「Disperse」の接頭辞を有する染料として市販されている。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、染色方法としては、高圧液流染色法、ジッガー染色法、サーモゾル連続染色機法、昇華プリント方式等による染色法が特に限定なく用いられる。
【0060】
また、本実施形態の立毛調人工皮革には、さらに風合いを調整するために揉み柔軟化処理やリラックス処理を施したり、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理を施されたりしてもよい。
【0061】
第二の高分子弾性体により、一旦起毛された立毛繊維は、繊維シートの表面に固定されるために、染色やリラックス処理しても立毛繊維が引きずり出されにくくなる。
【0062】
このようにして、根本が高分子弾性体で拘束された極細繊維が立毛面に存在するように調整された、本実施形態の立毛調人工皮革が得られる。このような立毛調人工皮革は、立毛面が摩擦されても、抜けた繊維や飛び出した繊維が毛玉を作るようなピリングの発生が抑制される。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール、島成分の熱可塑性樹脂としてイソフタル酸変性したPETを、それぞれ個別に溶融させた。なお、エチレン変性ポリビニルアルコールは、エチレン単位の含有割合8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%であった。また、イソフタル酸変性したPETは、イソフタル酸単位の含有割合6.0モル%、融点110℃であった。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成させる多数のノズル孔が並列状に配置された複合紡糸用口金に、各溶融樹脂を供給した。このとき、海成分の溶融樹脂と島成分の溶融樹脂との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整して供給した。そして、海島構造の断面を有する溶融した樹脂ストランドを口金温度260℃に設定されたノズル孔より吐出させた。
【0065】
そして、ノズル孔から吐出された溶融した樹脂ストランドを平均紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェットノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、繊度が2.1dtexの海島型複合長繊維を紡糸した。紡糸された海島型複合長繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。堆積量はネットの移動速度を調節することにより調節された。そして、表面の毛羽立ちを抑えるために、ネット上に堆積された海島型複合長繊維を42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型複合長繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、表面の繊維が格子状に仮融着された目付34g/m
2の長繊維ウェブが得られた。
【0066】
次に、得られた長繊維ウェブの表面に、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した。そして、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを10枚重ねて総目付が340g/m
2の重ね合せウェブを作成し、更に、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ねた長繊維ウェブをニードルパンチングすることにより三次元絡合処理した。具体的には、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで積層体の両面から交互に3300パンチ/cm
2のパンチ数でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は18%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は415g/m
2であった。
【0067】
得られた絡合ウェブは、湿熱収縮処理されることにより、緻密化された。具体的には、18℃の水を絡合ウェブに対して10質量%の割合になるように均一にスプレーし、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中で3分間張力が掛からない状態で放置して熱処理することにより湿熱収縮させて繊維密度を向上させた。この湿熱収縮処理による面積収縮率は45%であり、緻密化された絡合ウェブの目付は750g/m
2であり、見かけ密度は0.52g/cm
3であった。そして、絡合ウェブをさらに緻密化するために乾熱ロールプレスすることにより、見かけ密度0.60g/cm
3に調整した。
【0068】
次に、緻密化された絡合ウェブに、第一の高分子弾性体の固形分濃度30%のエマルジョンを含浸させた。なお、第一の高分子弾性体は、凝固後に架橋構造を形成し、後述する混合溶剤に対する溶解率が5%以下のポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とする水系ポリウレタンであった。そして、含浸させた第一の高分子弾性体のエマルジョンを150℃の乾燥炉で乾燥することにより、緻密化された絡合ウェブ内で水系ポリウレタンを凝固させた。
【0069】
次に、水系ポリウレタンを付与された絡合ウェブを95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型複合長繊維に含まれる海成分を抽出除去した。そして、120℃の乾燥炉で乾燥することにより、水系ポリウレタンを付与された、繊度0.08dtexの極細長繊維の不織布を含む繊維シートが得られた。繊維シート中の不織布/水系ポリウレタンの質量比は87/13であった。そして、繊維シートを厚み方向にスライスして2分割し、表面を600番手のサンドペーパーでバフィングすることにより起毛処理した。
【0070】
次に、第二の高分子弾性体を含む溶液として、DMF5%とシクロヘキサノン95%の混合溶媒に実質的に完全に溶解する、溶剤系ポリウレタンの溶液を以下のようにして調製した。
【0071】
数平均分子量2000のポリエステルジオール260質量部、数平均分子量2000のポリヘキシレンカーボネート620質量部、数平均分子量2000のポリブチレンアジペート580質量部、数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール540質量部、エチレングリコール217質量部、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート1149質量部、およびDMF10100質量部を反応器に投入し、窒素気流下で反応させて、重量平均分子量36万のポリウレタン溶液を作製した。なお、数平均分子量2000のポリエステルジオールは、ジオール成分がN−メチルジエタノールアミンと3−メチル−1,5−ペンタンジオールの等モル量の混合物であり、ジカルボン酸成分がセバシン酸であった。
【0072】
そして、ポリウレタン溶液にシクロヘキサノンを加えて固形分5%になるように調製した。そして、繊維シートの立毛面の表面に、200メッシュのグラビアコーターを用いて固形分5%のポリウレタン溶液を11g/m
2の割合で塗布した後、乾燥した。このとき、先に付与された水系ポリウレタンに対する溶剤系ポリウレタンの目付の比率(溶剤系/水系)は0.012倍であった。
【0073】
そして、不織布の立毛面の表面に溶剤系ポリウレタンを溶解するDMF5%とシクロヘキサノン95%の混合溶媒を200メッシュのグラビアコーターを用いて10g/m
2の割合で塗布した後、乾燥した。
【0074】
そして、立毛調人工皮革を、80℃の熱水中に20分間湯通しして熱水になじませてリラックスさせた後、高圧液流染色機((株)日阪製作所のサーキュラー染色機)を用いて黒色に染色した。
【0075】
このようにして、繊度0.08dtexの極細長繊維の不織布を含み、片面に立毛面を有する染色された立毛調人工皮革を得た。
図2に、実施例1で得られた立毛調人工皮革の厚み方向の断面のSEM写真を示す。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350g/m
2、見かけ密度0.58g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約80μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は繊維シートに浸透して立毛した極細繊維の根本に固着し、繊維シートの表層に層状に偏在しており、その層の平均厚さは25μmであった。
【0076】
そして、得られた立毛調人工皮革について、耐ピリング性、表面外観、及び風合いを次のようにして評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0077】
[耐ピリング性]
ISO12945−2に準じて、マーチンデール摩耗試験機を用いて試験を行い、以下の等級基準で判定した。
5:変化なし
4:僅かな表面毛羽立ち及び/又は部分的にできた毛玉が見られる。
3:中程度の表面毛羽立ち及び/又は中程度のピリング、部分的に試験片表面に出るさまざまなサイズ及び密度の毛玉が見られる。
2:明瞭な表面毛羽立ち及び/又は明瞭なピリング、さまざまなサイズ及び密度の毛玉が試験片表面の大部分に見られる。
1:密集した表面毛羽立ち及び/又は甚だしいピリング 、さまざまなサイズ及び密度の毛玉が試験片表面の全体を覆っている。
【0078】
[表面外観]
得られた立毛調人工皮革の外観を目視で観察し、以下の基準で判定した。
3:ヌバック調のきめ細かな短毛感があった。
2:スエード調のやや粗い立毛感があった、または表面にややしわが見られた。
1:立毛長に明らかな斑があった、またはしわが目立った。
【0079】
[風合い]
得られた立毛調人工皮革を折り曲げて、立毛調天然皮革と比較した、腰や柔軟性の違いを以下の基準で判定した。
3:立毛調天然皮革の風合いに近い、充実感と柔軟性とのバランスに優れた風合いであった。
2:立毛調天然皮革よりも硬い風合いであった。
1:立毛調天然皮革よりも充実感に乏しかった。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例2]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール、島成分の熱可塑性樹脂としてイソフタル酸変性したPETを用い、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように海島型複合繊維を溶融紡糸し、延伸、捲縮、カットすることにより、繊度2.1dtex、平均繊維長51mmの海島型複合繊維の短繊維(ステープル)を得た。
【0082】
そして、得られた短繊維を用いて、ウェーバーでそれぞれクロスラップウェブとし、ニードルパンチング機を用いて700パンチ/cm
2のニードルパンチングを施して目付407g/m
2の絡合ウェブを得た。
【0083】
そして実施例1で用いた目付415g/m
2の絡合ウェブの代わりに、上述したように得られた目付407g/m
2の絡合ウェブを用いた以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付340g/m
2、見かけ密度0.57g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約80μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は繊維シートに浸透して立毛した極細繊維の根本に固着し、繊維シートの表層に層状に偏在しており、その層の平均厚さは25μmであった。
【0084】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例3]
実施例1において、第一の高分子弾性体として、緻密化された絡合ウェブに水系ポリウレタンのエマルジョンを含浸させた代わりに、第一の高分子弾性体として、実施例1において第二の高分子弾性体として用いた溶剤系ポリウレタンを、変性PET/溶剤系ポリウレタンの質量比が87/13になるように含浸させた以外は、実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350g/m
2、見かけ密度0.58g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約60μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は繊維シートに浸透して立毛した極細繊維の根本に固着し、繊維シートの表層に層状に偏在しており、その層の平均厚さは22μmであった。
【0086】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0087】
[実施例4]
実施例1において、水系ポリウレタンに対する溶剤系ポリウレタンの目付の比率(溶剤系/水系)0.012倍を、0.025倍に変更した以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350g/m
2、見かけ密度0.58g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約40μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は繊維シートに浸透して立毛した極細繊維の根本に固着し、繊維シートの表層に層状に偏在しており、その層の平均厚さは35μmであった。
【0088】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例5]
実施例1において、水系ポリウレタンに対する溶剤系ポリウレタンの目付の比率(溶剤系/水系)0.012倍を、0.004倍に変更した以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350/m
2、見かけ密度0.58g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約180μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は繊維シートに浸透して立毛した極細繊維の根本に固着し、繊維シートの表層に層状に偏在しており、その層の平均厚さは15μmであった。
【0090】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[実施例6]
実施例1において、水系ポリウレタンに対する溶剤系ポリウレタンの目付の比率(溶剤系/水系)0.012倍を、0.0012倍に変更した以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350g/m
2、見かけ密度0.58g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約300μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は繊維シートに浸透して立毛した極細繊維の根本に固着し、繊維シートの表層に層状に偏在しており、その層の平均厚さは10μmであった。
【0092】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0093】
[実施例7]
実施例1において、水系ポリウレタンに対する溶剤系ポリウレタンの目付の比率(溶剤系/水系)を0.012倍を、0.05倍に変更した以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付355g/m
2、見かけ密度0.59g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約20μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は繊維シートに浸透して立毛した極細繊維の根本に固着し、繊維シートの表層に層状に偏在しており、その層の平均厚さは45μmであった。
【0094】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0095】
[比較例1]
実施例1において、混合溶媒を塗布する工程を省略した以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350g/m
2、見かけ密度0.58g/cm
3であった。また、起毛された繊維の長さは約20μm程度であったが、立毛が不均一で表面に小ジワが目立つものであった。また、第二の高分子弾性体は立毛した極細繊維の上部と根本に固着して、繊維シートの表層に層状に偏在していたが、繊維シートの厚さ方向への浸透は観察できなかった。
【0096】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0097】
[比較例2]
実施例1において、第二の高分子弾性体として溶剤系ポリウレタンを塗布した代わりに、実施例1において第一の高分子弾性体として用いたものと同じ水系ポリウレタンのエマルジョンを塗布した以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350g/m
2であった。また、起毛された繊維の長さは約300μm程度であった。また、第二の高分子弾性体は立毛した極細繊維の上部に不連続に固着しており、繊維シートの厚さ方向への浸透は観察できなかった。また、染色中に一部の脱落が見られた。
【0098】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0099】
[比較例3]
実施例1において、第二の高分子弾性体を塗布することなく、実施例1において用いたものと同じ混合溶媒を塗布した以外は実施例1と同様の方法により、片面に立毛面を有する不織布を含む立毛調人工皮革を得た。得られた立毛調人工皮革は厚み0.6mmで、目付350g/m
2であった。また、起毛された繊維の長さは約400μm程度であった。
【0100】
そして、得られた立毛調人工皮革について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0101】
実施例1〜7で得られた立毛調人工皮革はいずれも耐ピリング性の等級基準が4以上であり、耐ピリング性が高かった。なお、実施例3は第一の高分子弾性体として溶剤に溶解する溶剤系ポリウレタンを用いたために、溶剤の塗布により第一の高分子が一部溶解し、その結果、表面に細かいしわが見え、やや硬い風合いになった。また、溶剤系ポリウレタン/水系ポリウレタンの目付の比率が低かった実施例6で得られた立毛調人工皮革は立毛した極細繊維に対する拘束が弱いために耐ピリング性の等級基準が4になり、やや低かった。また、溶剤系ポリウレタン/水系ポリウレタンの目付の比率が高かった実施例7で得られた立毛調人工皮革は表面がやや硬くなり、その結果、表面に細かいしわが見えた。
【0102】
一方、立毛面の表面に溶剤系ポリウレタンを溶解する混合溶媒を塗布する工程を省略した比較例1の立毛調人工皮革は、耐ピリング性の等級基準が3であった。また、立毛面の表面に溶剤系ポリウレタンを塗布する代わりに溶剤に溶解しない水系ポリウレタンを塗布した比較例2の立毛調人工皮革は、表面外感の等級基準が2であった。実施例1と比較例1及び比較例2の結果から、耐ピリング性を向上させ、きめ細かなヌバック感を得るためには、高分子弾性体を溶剤に溶解させて内層方向に浸透させて極細繊維の根本で凝固させることが必要であることがわかる。また、高分子弾性体を省略して溶剤のみ塗布した比較例3で得られた立毛調人工皮革は、立毛が長く、立毛感の斑が大きかった。
【0103】
以上、詳細に説明した、立毛調人工皮革の製造方法は、第一の高分子弾性体を含浸付与した繊度1dtex以下の極細繊維の不織布を含む繊維シートを準備する工程と、繊維シートの片面又は両面を起毛処理することにより立毛面を形成する工程と、立毛面に、所定の溶剤に対して可溶性を有する第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布する工程と、樹脂液を塗布した面に前記溶剤を塗布する工程と、を備える。このような立毛調人工皮革の製造方法によれば、溶剤の塗布により、起毛面の表層に付与された第二の高分子弾性体が溶解されて内層に向かって浸透した後、溶剤の揮発により凝固し、起毛された極細繊維の根本付近に固着する。そして、起毛された極細繊維は、第二の高分子弾性体で拘束されることにより、立毛面が摩擦されても抜けたり、外側に飛び出したりしにくくなる。その結果、表面が摩擦されることにより極細繊維が抜けたり飛び出したりし、さらにその極細繊維が絡み合って塊を形成するような、いわゆるピリングの発生が抑制される。
【0104】
また、繊維シートに予め含浸付与された第一の高分子弾性体は、上記溶剤にに対して非溶性を有する高分子弾性体であることが好ましい。第一の高分子弾性体が溶剤に溶解する場合には、溶剤の付与により第二の高分子弾性体とともに第一の高分子弾性体も溶解してしまうために、風合いが硬くなったりする等、製品の品質の制御が難しくなる傾向がある。
【0105】
また、第一の高分子弾性体が架橋構造を形成する高分子弾性体であり、第二の高分子弾性体が架橋構造を形成しない高分子弾性体である場合には、上記溶剤に対して、第一の高分子弾性体は溶解しにくく、第二の高分子弾性体は溶解しやすくなる点から好ましい。
【0106】
第一の高分子弾性体としては、例えば水系ポリウレタンが好ましく、第二の高分子弾性体は溶剤系ポリウレタンであることが得られる立毛調人工皮革の特性のバランスがよく、また、一般的に水系ポリウレタンは架橋構造を形成するために溶解性が低く、溶剤系ポリウレタンは架橋構造を形成しないために溶解性が高い点から好ましい。
【0107】
また、極細繊維は長繊維であることが極細繊維が素抜けしにくい点から好ましい。
【0108】
また、第二の高分子弾性体の目付は、第一の高分子弾性体の目付の0.0001〜0.05倍であることが風合いを硬くしすぎずに耐ピリング性を向上させることができる点から好ましい。
【0109】
また立毛調人工皮革は、繊度1dtex以下の極細繊維の絡合体である不織布に、第一の高分子弾性体を含浸付与させた繊維シートを含み、繊維シートはその片面又は両面に、極細繊維を起毛させた立毛面を有し、起毛された極細繊維の根本を固着して、前記繊維シートの表層に偏在する第二の高分子弾性体をさらに有する。このような立毛調人工皮革は耐ピリング性に優れる。
【0110】
また、起毛された極細繊維の立毛長さが30〜200μmである場合には、天然のヌバック調皮革のようなきめ細かな短毛感に優れた立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。