特許第6450104号(P6450104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6450104
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】発振回路
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   H03B5/32 C
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-150546(P2014-150546)
(22)【出願日】2014年7月24日
(65)【公開番号】特開2016-25608(P2016-25608A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100086564
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 聖孝
(74)【代理人】
【識別番号】100108051
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 生央
(74)【代理人】
【識別番号】100126402
【弁理士】
【氏名又は名称】内島 裕
(72)【発明者】
【氏名】坂田 大輔
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−325886(JP,A)
【文献】 特開昭63−146503(JP,A)
【文献】 実開昭55−100316(JP,U)
【文献】 特開昭53−135557(JP,A)
【文献】 特開昭53−003764(JP,A)
【文献】 特開平10−260275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のノードと第2のノードとの間に接続されている電気機械振動子を有する共振回路と、
入力端子が前記第1のノードに接続され、出力端子が前記第2のノードに接続されている反転増幅器と、
前記第2のノードに得られる発振出力の周波数を分周する分周回路を有し、発振周波数が一定に保たれている時は、時間軸上で発振出力のサイクルをM/2サイクルの繰り返し周期Tで区切り、各々の繰り返し周期Tの中にN/2サイクルの励振期間TONと(M−N)/2サイクルの休止期間TOFFとが設定されるように(ただし、Nは4以上の整数、MはNより大きな整数)、前記反転増幅器の反転増幅動作を制御する励振制御部と
を有する発振回路。
【請求項2】
前記励振制御部は、発振開始から発振出力の振幅が飽和レベルまで増大するのに必要な所定時間が経過するまでは、前記共振回路を持続的に励振するように前記反転増幅器の反転増幅動作を制御する、請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
前記反転増幅器は、第1の端子が第1の電源電圧端子に接続可能であり、第2の端子が前記第2のノードに接続され、制御端子が前記第1のノードに接続されている第1導電型のMOSトランジスタと、第1の端子が第2の電源電圧端子に接続可能であり、第2の端子が前記第2のノードに接続され、制御端子が前記第1のノードに接続されている第2導電型のMOSトランジスタとを有し、
前記励振制御部は、前記第1の電源電圧端子と前記第1導電型のMOSトランジスタの第1の端子との間に接続されている第1のスイッチング素子と、前記第2の電源電圧端子と前記第2導電型のMOSトランジスタの第1の端子との間に接続されている第2のスイッチング素子と、前記第1および第2のスイッチング素子をオン・オフ駆動するスイッチング駆動回路とを有する、
請求項1または請求項2に記載の発振回路。
【請求項4】
前記励振制御部は、前記第1および第2のスイッチング素子を独立にオン・オフ制御する、請求項3に記載の発振回路。
【請求項5】
前記励振制御部は、前記励振期間をnA/2サイクル(nAはNより小さい整数)の期間と(N−nA/2サイクルの期間とに分割し、前記nA/2サイクルの期間中は前記第1のスイッチング素子をオン状態に保持するとともに前記第2のスイッチング素子をオフ状態に保持し、前記(N−nA/2サイクルの期間中は前記第1のスイッチング素子をオフ状態に保持するとともに前記第2のスイッチング素子をオン状態に保持し、前記繰り返し周期の中で前記励振期間を除いた休止期間中は前記第1および第2のスイッチング素子の双方をオフ状態に保持する、請求項4に記載の発振回路。
【請求項6】
前記励振制御部は、前記励振期間中は、各サイクルの前半の半サイクルでは前記第1のスイッチング素子をオン状態に保持するとともに前記第2のスイッチング素子をオフ状態に保持し、各サイクルの後半の半サイクルでは前記第1のスイッチング素子をオフ状態に保持するとともに前記第2のスイッチング素子をオン状態に保持し、前記繰り返し周期の中で前記励振期間を除いた休止期間中は前記第1および第2のスイッチング素子の双方をオフ状態に保持する、請求項4に記載の発振回路。
【請求項7】
前記励振制御部は、前記励振期間の少なくとも一部で前記第1および第2のスイッチング素子を同時にオン状態に保持する、請求項3または請求項4に記載の発振回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械振動子を用いる発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶やセラミック等の圧電素子からなる電気機械振動子は、固有の機械共振周波数を有している。そのような電気機械振動子を共振回路に用いる発振回路は、正帰還ループを形成するように電気機械振動子に反転増幅器を接続して、機械共振周波数を電気信号として取り出すようにしている。
【0003】
この種の発振回路では、反転増幅器にCMOSインバータを用いるものが主流になっている。一般的に、CMOSインバータ方式の発振回路は、CMOSインバータを構成するPMOSトランジスタとNMOSトランジスタとを共振回路の共振周波数つまり発振周波数の半サイクル毎に交互にオンさせて、正極側および負極側の電源電圧端子より交互に共振回路に損失補償または励振用の電力を供給し、共振周波数の発振を安定に維持するようにしている。
【0004】
しかしながら、電気機械振動子を有する共振回路を常に発振周波数の半サイクル毎に(1サイクルの中では2回)励振するのは、消費電力の面で無駄がある。すなわち、発振周波数が安定している時に励振を止めると、発振が直ちに停止するわけではなく、電気機械振動子の自然振動により図10に示すように発振周波数を一定に保ったまま発振出力の振幅が一定の時定数で漸次的に減衰していく。このような減衰振動は、発振出力の周波数をクロックに用いる場合は、特に支障にはならない。したがって、発振出力の振幅が或る低いレベルまで減衰した頃合に反転増幅器の反転増幅動作を再開して、発振出力の振幅を元に戻せばよい。このように電気機械振動子ないし共振回路を間欠的に励振することによって、発振周波数を安定に維持しつつ消費電力を低減することができる。
【0005】
この点に関して、従来技術の或るものは、CMOSインバータを構成する片側のMOSトランジスタたとえばPMOSトランジスタのゲート端子にインバータおよびコンデンサを介して発振出力の振幅電圧を与え、発振出力の振幅電圧が一定のレベルを超えている期間中のみ、つまりゲート入力電圧が当該PMOSトランジスタの負のスレッシュホールド電圧を下回っている期間中のみオンさせることにより、当該PMOSトランジスタ周りでの低消費電力化を図っている(特許文献1の図3および図4参照)。この場合、発振出力の振幅電圧が上記一定レベル以下である期間中にPMOSトランジスタをオフ状態に保持しておくように、そのゲート端子と正極側の電源電圧端子との間にプルアップ抵抗が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3543542号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術は、発振出力の振幅電圧をコンデンサやプルアップ抵抗等からなるアナログ回路を介して反転増幅器のMOSトランジスタのゲート端子に入力し、ゲート入力電圧とスレッシュホールド電圧との比較によって増幅動作のオン・オフを制御するアナログ的な励振方式であるため、コンデンサやプルアップ抵抗の製造ばらつきあるいはスレッシュホールド電圧のばらつきの影響を受けやすく、オン・オフ制御を一定のタイミングで行うことは非常に困難であり、発振周波数にゆらぎが生じる懸念もある。さらに、上記従来技術においては、略正弦波の発振波形を半波(半サイクル)の全体ではなくピーク付近の部分だけ増幅するので、波形ひずみが生じやすい。
【0008】
他の従来技術も、励振動作を間欠的に行う場合は、発振出力に同期したタイミングで複数サイクル毎に1回の割合で反転増幅器のMOSトランジスタをオンするようにしており、それによって波形ひずみが生じやすい(たとえば特許文献1の図1および図2参照)。つまり、反転増幅器のMOSトランジスタを複数サイクルの中で間欠的に1回(孤立した半サイクル)だけオン制御する励振方式においては、時間軸上で発振出力の半サイクルとオン時間との間に少しでも誤差があると、当該半サイクルにおいては半波の全部ではなくその一部だけが増幅されることにより、波形にひずみが生じる。その結果、発振出力は複数サイクル毎に1回の割合で間欠的な(孤立した)波形ひずみをもつことになる。発振出力をクロックに用いる場合でも、間欠的な波形ひずみはジッタの原因になりやすく、望ましくない。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するものであり、発振周波数のゆらぎや波形ひずみを起こさずに消費電力の低減化を効率的に達成し、さらには外付け部品として様々な種類または特性の電気機械振動子が組み込まれても、あるいは発振周波数の調整が任意に行われても広範囲に適確に対応できる発振回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発振回路は、第1のノードと第2のノードとの間に接続されている電気機械振動子を有する共振回路と、入力端子が前記第1のノードに接続され、出力端子が前記第2のノードに接続されている反転増幅器と、前記第2のノードに得られる発振出力の周波数を分周する分周回路を有し、発振周波数が一定に保たれている時は、時間軸上で発振出力のサイクルをM/2サイクルの繰り返し周期Tで区切り、各々の繰り返し周期Tの中にN/2サイクルの励振期間TONと(M−N)/2サイクルの休止期間TOFFとが設定されるように(ただし、Nは4以上の整数、MはNより大きな整数)、前記反転増幅器の反転増幅動作を制御する励振制御部とを有する。
【0011】
上記構成の発振回路においては、発振出力の周波数を分周回路により分周して、発振出力を発振出力のサイクルのM/2倍の繰り返し周期でN/2サイクルにわたり連続的に励振するので(ただし、Nは4以上の整数、MはNより大きな整数)、波形ひずみを起こさずに発振出力の振幅を無理なく飽和レベル付近まで増幅(回復)し、それによって休止期間を延ばし、ひいては繰り返し周期を十分大きくすることができる。これにより、間欠励振の安定性、効率性および低消費電力化を向上させることができる。さらに、共振回路に用いられる電気機械振動子の種類や特性が如何なるものであっても、あるいは発振周波数の調整が任意に行われても、励振制御部において分周回路の分周比または分周定数を切り替えまたは補正することで容易かつ適確に対応することが可能であり、周波数にゆらぎのない発振を低消費電力で安定に維持するための励振制御動作を設計通りに行える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発振回路によれば、上記のような構成および作用により、発振周波数のゆらぎや波形ひずみを起こさずに消費電力の低減化を効率的かつ安定確実に達成し、さらには様々な種類または特性の電気機械振動子が用いられても、あるいは発振周波数の調整が任意に行われても広範囲に適確に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における発振回路の構成を示す回路図である。
図2】実施形態における励振制御の時間軸上の基本パターンを示す図である。
図3】上記発振回路で用いる分周回路の一構成例を示す回路図である。
図4】上記分周回路の作用を示すタイミング図である。
図5】実施形態における励振制御方式の第1の実施例を説明するための波形図である。
図6】第1の実施例の一変形例を示す波形図である。
図7】実施形態における励振制御方式の第2の実施例を説明するための波形図である。
図8】第2の実施例の一変形例を示す波形図である。
図9】実施形態の発振回路に電圧監視回路を設ける一構成例を示す回路図である。
図10】電気機械振動子を用いる発振回路の発振出力が励振の停止によって漸次的に減衰する様子を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、本発明の好適な一実施形態における発振回路の回路構成を示す。
[発振回路全体の構成]
【0015】
この発振回路は、たとえば水晶振動子あるいはセラミック振動子等の電気機械振動子10を有する共振回路12と、正帰還ループを形成するように共振回路12に接続される反転増幅器としてのCMOSインバータ14と、電気機械振動子10ないし共振回路12を励振して発振周波数を安定に維持するようにCMOSインバータ14の反転増幅動作を制御する励振制御部16とを有する。
【0016】
より詳しくは、共振回路12は、等価的にはLC共振回路を構成する電気機械振動子10と、その両端とグランド電位(接地部材)との間に接続される周波数調整用の負荷コンデンサ18,20とで構成される。共振回路12の一方の端子は第1のノード22に接続され、他方の端子は第2のノード24に接続される。
【0017】
CMOSインバータ14は、正極側の電源電圧端子Vddと負極側の電源電圧端子Vss(通常はグランド電位)との間で直列に接続されるPMOSトランジスタ26およびNMOSトランジスタ28で構成されている。ここで、PMOSトランジスタ26のソース端子は、正極側の電源電圧端子Vddに第1のスイッチング素子たとえばPMOSトランジスタ30を介して接続可能となっている。一方、NMOSトランジスタ28のソース端子は、負極側の電源電圧端子Vssに第2のスイッチング素子たとえばNMOSトランジスタ32を介して接続可能となっている。そして、PMOSトランジスタ26およびNMOSトランジスタ28のそれぞれのドレイン端子は、出力側の第2のノード24に共通接続されている。また、PMOSトランジスタ26およびNMOSトランジスタ28のそれぞれのゲート端子は、入力側の第1のノード22に共通接続されている。
【0018】
この発振回路において、スイッチング用のPMOSトランジスタ30およびNMOSトランジスタ32が定常的にオンしている時は、CMOSインバータ14のPMOSトランジスタ26およびNMOSトランジスタ28の反転増幅動作が半サイクル毎に交互に行われる。この場合、共振回路12とCMOSインバータ14との間では、CMOSインバータ14の出力端子側の第2のノード24に得られる略正弦波の発振出力ASが共振回路12により位相を180°シフト(反転)して入力端子側の第1のノード22にフィードバックされる。一方で、共振回路12内で生じる損失が、CMOSインバータ14の反転増幅作用により半サイクル毎に補填される。こうして、略正弦波の波形を有する発振出力ASは、減衰することなく飽和レベルの振幅を維持するようになっている。
【0019】
発振出力ASは、その発振波形または発振周波数を任意の用途に用いる後段の回路(図示せず)に供給されるだけでなく、励振制御部16にも与えられる。
【0020】
励振制御部16は、スイッチング用のPMOSトランジスタ30およびNMOSトランジスタ32のほかに、分周回路34、設定回路36およびスイッチング駆動回路38を有している。
【0021】
分周回路34は、設定回路36より与えられるプリセット値に応じて、出力側の第2のノード24に得られる発振出力ASの周波数を所定の分周比または分周定数で分周し、後述する励振制御の繰り返し周期TMを規定するタイミングパルスPMおよび励振期間TNを規定するタイミングパルスPNを出力するように構成されている。
【0022】
スイッチング駆動回路38は、設定回路36より指示される励振制御の様式またはモードにしたがい、分周回路34より出力される上記タイミングパルスPM,PNに応動して、二値レベル(Hレベル/Lレベル)のスイッチング制御信号CP,CNを発生する。これらのスイッチング制御信号CP,CNは、スイッチング用のPMOSトランジスタ30およびNMOSトランジスタ32のゲート端子にそれぞれ独立に与えられる。ここで、PMOSトランジスタ30は、制御信号CPがHレベルのときは略完全にオフ状態になり、制御信号CPがLレベルのときは飽和領域でオン状態になる。一方、NMOSトランジスタ32は、制御信号CNがHレベルのときは飽和領域でオン状態になり、制御信号CNがLレベルのときは略完全にオフ状態になる。このように、スイッチング用のPMOSトランジスタ30およびNMOSトランジスタ32は、各々独立にオン・オフ制御されるようになっている。
【0023】
設定回路36は、励振制御用の各種条件の値または設定値を外部回路(たとえばマイクロコンピュータ)から入力し、あるいは内部で生成または保持する。さらに、設定回路36は、外部回路からの指示によって、あるいは付属の切替器(図示せず)の切替ポジションに応じて、励振制御用の設定値(特に分周回路34に与えるプリセット値)を随時切り替えることができる。分周回路34、設定回路36およびスイッチング駆動回路38はいずれもディジタル回路である。
【0024】
この発振回路において、CMOSインバータ14および励振制御部16の各部は、同一の半導体チップ上に集積回路として作り込まれ、単体のLSIパッケージに収まって提供される。一方、共振回路12は、個別のパッケージまたは外付け部品として提供または入手され、外部接続端子40を介して当該LSIパッケージ内の第1および第2のノード22,24に接続される。帰還抵抗42は、CMOSインバータ14の入力端子(ゲート端子)にほぼVdd/2に等しいバイアスを与えるための外付け抵抗であり、やはり外部接続端子40を介して第1および第2のノード22,24に接続される。
【0025】
したがって、CMOSインバータ14および励振制御部16を搭載するLSIパッケージには、電気機械振動子10として水晶振動子が接続されることもあれば、あるいはセラミック振動子が接続されることもある。また、水晶振動子が接続される場合でも、その固有の機械共振周波数やQ値は様々である。さらに、電気機械振動子10の種類や特性が同じでも、コンデンサ18,20の静電容量を変えて共振周波数または発振周波数の調整が行われることもある。この実施形態の発振回路における励振制御部16は、全てディジタル回路で構成され、アナログ回路のような製造ばらつきの影響を受けることがないうえ、後述するように電気機械振動子10の種類や特性が如何なるものであっても、あるいは発振周波数の調整が任意に行われても、設定回路36より分周回路34に与えるプリセット値の変更または補正を通じて容易かつ適確に対応することが可能であり、周波数にゆらぎのない発振を低消費電力で安定に維持するための励振制御動作を設計通りに行えるようになっている。

[実施形態における励振制御部の基本的作用]
【0026】
この発振回路に電源が入ると、励振制御部16は、速やかに発振を開始して発振周波数を安定化させるために、スイッチング用のPMOSトランジスタ30およびNMOSトランジスタ32を持続的にオン状態に保持する。これにより、共振回路12に対するCMOSインバータ14の反転増幅動作が持続的に行われ、出力側の第2のノード24には一定の周波数を有する略正弦波の発振出力ASが現れる。この発振出力ASの振幅は、電源電圧Vddに依存する飽和レベルまで増大する。励振制御部16は、発振開始から所定時間が経過すると、それまでの持続的励振から間欠励振に励振制御のモードを切り替える。
【0027】
図2に、この実施形態における間欠励振制御の時間軸上の基本パターンを示す。励振制御部16は、分周回路34に発振出力ASを取り込むことで、発振出力ASの各半サイクルおよび各サイクルを検出することができる。そのうえで、励振制御部16は、図示のように、時間軸上で発振出力ASのサイクルを一定の繰り返し周期T(M/2サイクル)で区切り、各々の繰り返し周期T(M/2サイクル)の中にN/2サイクルの励振期間TON(M−N)/2サイクルの休止期間TOFFとを設定する。ただし、Nは4以上の整数であり、MはNより大きい整数である。図2ではN=6、M=14であるが、これは一例である。
【0028】
この励振制御方式によれば、繰り返し周期TMにおいて、励振期間TON内ではCMOSインバータ14の反転増幅動作(共振回路12に対する励振)を間断なく連続的に行い、休止期間TOFF内ではCMOSインバータ14の反転増幅動作を完全に止める。このように励振期間TONを複数サイクルの中の孤立した半サイクルではなく一続きの複数サイクル(N/2サイクル)に設定することで、波形ひずみを起こさずに発振出力ASの振幅を無理なく飽和レベル付近まで増幅(回復)し、それによって休止期間TOFFを延ばし、ひいては繰り返し周期TMを十分大きくすることができる。これにより、間欠励振の安定性、効率性および低消費電力化を向上させることができる。
【0029】
図3に、この実施形態における分周回路34の一構成例を示す。この分周回路34は、プログラマブルカウンタとして構成され、波形整形回路43と、複数段の2進カウンタ(フリップフロップ)44(1),44(2),・・・,44(g)と、ロジック回路46とを有している。
【0030】
波形整形回路43は、1個または2個縦続のCMOSインバータ48からなり、第2のノード24(図1)に得られる略正弦波の発振出力ASを方形波信号または2値(H/L)の信号JSに変換(波形整形)する。波形整形回路43の後段に縦続接続された複数段の2進カウンタ44(1),44(2),・・・,44(g)は、2値信号JSの各立ち上がりエッジに応動してカウント動作する。図示の例は非同期式であるが、同期式も可能である。ロジック回路46は、2進カウンタ44(1),44(2),・・・,44(g)の各出力(Q)と入力2値信号JSの論理値を組み合わせて発振出力ASの半サイクルを計数し、計数値がプリセット値P(M/2),P(N/2)に達した時点で論理値Hの出力パルスつまりタイミングパルスPM,PNを発生するようになっている。
【0031】
図4に示すように、タイミングパルスPMは、M/2サイクルの周期で繰り返し発生される。このように、タイミングパルスPMの周期または時間間隔が、励振制御の繰り返し周期TMに対応する。一方、タイミングパルスPNは、各々のタイミングパルスPMが出力された時からN/2サイクルを経過した時に出力される。これにより、タイミングパルスPMとタイミングパルスPNとの間の時間間隔が、各繰り返し周期TM内の励振期間TONに対応する。なお、図4は、N=8、M=20の場合である。
【0032】
プリセット値P(M/2),P(N/2)は設定回路36より与えられる。分周回路34は、繰り返し周期TMのサイクル数をカウントする度に全ての2進カウンタ44(1)〜44(g)を一斉にクリアまたはリセットする。この実施形態では、2進カウンタ44(1)〜44(g)の中のいずれか(図示の例では最終段の2進カウンタ44(g))より出力される2値信号が、原発振周波数を所定の分周比で分周したクロック信号DSとして後段の回路(図示せず)にも与えられる。
【0033】
このように、この実施形態の励振制御部16においては、繰り返し周期TMおよび励振期間TONに対応するプリセット値P(M/2),P(N/2)が、設定回路36より分周回路34に与えられる。分周回路34は、時間軸上で繰り返し周期TMおよび励振期間TONをそれぞれ規定するタイミングパルスPM,PNをスイッチング駆動回路38に向けて繰り返し発生する。スイッチング駆動回路38は、分周回路34により生成されるタイミングパルスPM,PNと、波形整形回路43からの発振出力ASの各半サイクルに同期した2値信号JSとに基づいて、CMOSインバータ14の反転増幅動作を制御するためのスイッチング制御信号CP,CNを発生する。

[実施形態における励振制御部の具体的作用(実施例)]
【0034】
次に、図5図8を参照して、この実施形態における励振制御部16の具体的作用(実施例)を詳細に説明する。
【0035】
図5に、励振制御部16によって実行される間欠励振の第1の実施例を示す。この実施例では、繰り返し周期T(M/2サイクル)の中に設定する励振期間TON(N/2サイクル)を、n/2サイクル(nはNより小さい整数)の期間TONA(N−n/2サイクルの期間TONBとに分割する。図示の例は、N=10、n=5の場合である。
【0036】
この場合、前半のnA/2サイクルの期間TONA内では、第1のスイッチング制御信号CPをLレベルに保持し(それによって正極側のスイッチング用PMOSトランジスタ30をオン状態に保持し)、第2のスイッチング制御信号CNをLレベルに保持する(それによって負極側のスイッチング用NMOSトランジスタ32をオフ状態に保持する)。これにより、CMOSインバータ14の正極側のPMOSトランジスタ26による反転増幅動作が1サイクル置きに複数回(図示の例では3回)連続的に行われ、その度に発振出力ASの中心レベルVmより高い正極側の半波が振幅を段々と増大させ、終には飽和レベル付近まで回復する。一方、スイッチング用NMOSトランジスタ32のオフにより、CMOSインバータ14のNMOSトランジスタ28の反転増幅動作が止められているので、発振出力ASの中心レベルVmより低い負極側の半波は殆ど増幅されず休止期間TOFF中に減衰した振幅を維持する。なお、発振出力ASの中心レベルVmは略Vdd/2である。
【0037】
そして、後半の(N−n/2サイクルの期間TONB内では、第1のスイッチング制御信号CPをHレベルに保持し(それによって正極側のスイッチング用PMOSトランジスタ30をオフ状態に保持し)、第2のスイッチング制御信号CNをHレベルに保持する(それによって負極側のスイッチング用NMOSトランジスタ32をオン状態に保持する)。これにより、CMOSインバータ14の負極側のNMOSトランジスタ28による反転増幅動作が1サイクル置きに複数回(図示の例では3回)連続的に行われ、その度に発振出力ASの負極側の半波が振幅を段々と増大(回復)させ、終には飽和レベル付近まで回復する。一方、正極側のPMOSトランジスタ26による反転増幅動作は止められているので、発振出力ASの正極側の半波は実質的には増幅されないが、前後の半サイクルにおける励振の効果により飽和レベル付近の振幅を維持する。
【0038】
このように、この第1の実施例では、繰り返し周期TMの中に設定される励振期間TONを2つの期間TONA,TONBに分割し、第1の期間TONA内では発振出力ASの正極側の半波だけを複数回続けて励振し、第2の期間TONB内では発振出力ASの負極側の半波だけを複数回続けて励振する。この場合、第1の期間TONA中は負極側のスイッチング用NMOSトランジスタ32が略完全なオフ状態を維持し、第2の期間TONB中は正極側のスイッチング用PMOSトランジスタ30が略完全なオフ状態を維持する。このため、CMOSインバータ14内では、励振期間TONの全期間を通じて貫通電流が全く流れない。このことにより、この発振回路のLSIの中で飛び抜けてサイズの大きなトランジスタ回路であるCMOSインバータ14内の無駄な消費電力を低減することができる。
【0039】
この第1の実施例の更なる利点は、発振出力ASの正極側の半波および負極側の半波をそれぞれ択一的に複数回続けて励振する回数を異なる値に設定できることである。たとえば、CMOSインバータ14においては、トランジスタサイズ(特にゲート寸法)、スレッシュホールド電圧、移動度等の違いにより、PMOSトランジスタ26およびNMOSトランジスタ28をそれぞれ流れる飽和領域のオン電流(励振駆動能力)が相当異なる場合がある。この第1の実施例によれば、両MOSトランジスタ26,28のオン電流(励振駆動能力)の比に逆比例して、第1の期間TONAと第2の期間TONBの比を設定することができる。
【0040】
たとえば、図6に示す例は、NMOSトランジスタ28のオン電流がPMOSトランジスタ26のオン電流よりも約10%〜数10%大きい場合であり、第1の期間TONA内では発振出力ASの正極側の半波だけを4回続けて励振し、次いで第2の期間TONB内では発振出力ASの負極側の半波だけを3回続けて励振するようにしている。このように、1回の励振期間内で発振出力ASの正極側の半波を励振する回数と負極側の半波を励振する回数とを適宜異ならせることで、CMOSインバータ14におけるPMOSトランジスタ26およびNMOSトランジスタ28のオン電流(励振駆動能力)のアンバランスを補償し、発振出力ASの振幅回復を正極側と負極側とで揃えることができる。
【0041】
図7に、励振制御部16によって実行可能な間欠励振の第2の実施例を示す。この実施例では、繰り返し周期Tの中に設定される励振期間TONの少なくとも一部(通常は最初の半サイクルと最後の半サイクルを除く中間部分)で、正極側のスイッチング制御信号CPをLレベルに保持し(それによって正極側のスイッチング用PMOSトランジスタ30をオン状態に保持し)、かつ負極側のスイッチング制御信号CNをHレベルに保持する(それによって負極側のスイッチング用NMOSトランジスタ32をオン状態に保持する)。これにより、CMOSインバータ14においては、正極側のPMOSトランジスタ26による反転増幅動作と負極側のMOSトランジスタ28による反転増幅動作とが半サイクル毎に交互に行われ、発振出力ASの正極側の半波と負極側の半波が交互に振幅を一段ずつ増大(回復)させる。
【0042】
このように、この第2の実施例は、上記第1の実施例と比べて励振期間TONを約半分に短縮できる。その一方で、励振期間TON中に(特に発振出力ASの振幅が飽和レベル付近に届くまでは)CMOSインバータ14内で貫通電流が継続的に流れ、そのぶん無駄な消費電力が増大する面もある。
【0043】
しかし、この点に関しては、第2の実施例においても、励振制御部16は、スイッチング用のPMOSトランジスタ30およびNMOSトランジスタ32を各々独立にオン・オフ制御することができる。したがって、図8に示すように、励振期間TON中に両トランジスタ30,32を半サイクルの周期で各々独立にオン・オフ制御することにより、CMOSインバータ14内の貫通電流を抑制することができる。
【0044】
すなわち、図8に示すように、励振期間TON内の正極側の各半サイクルでは、第1のスイッチング制御信号CPをLレベルにして(それによって正極側のスイッチング用PMOSトランジスタ30をオンにして)、CMOSインバータ14のPMOSトランジスタ26に反転増幅動作を行わせる一方で、第2のスイッチング制御信号CNをLレベルにして、負極側のスイッチング用NMOSトランジスタ32をオフにする。これにより、CMOSインバータ14内で貫通電流が阻止される。
【0045】
また、励振期間TON内の負極側の各半サイクルでは、第2のスイッチング制御信号CNをHレベルにして(それによって負極側のスイッチング用NMOSトランジスタ32をオンにして)、CMOSインバータ14のNMOSトランジスタ28に反転増幅動作を行わせる一方で、第1のスイッチング制御信号CPをHレベルにして、正極側のスイッチング用PMOSトランジスタ30をオフにする。これによって、CMOSインバータ14内で貫通電流が阻止される。
【0046】
このように、第2の実施例においても、スイッチング用MOSトランジスタ30,32を独立にオン・オフ制御することにより、CMOSインバータ14内の貫通電流を抑制して、低消費電力化を向上させることができる。

[その他の実施形態又は変形例]
【0047】
上記した実施形態における励振制御部16は、励振制御に用いる設定値を外部回路から入力し、あるいは切替器等の外部操作に応じて設定値を切り替えるようにしている。しかし、励振制御部16が、この発振回路の中(特に共振回路12またはCMOSインバータ14の周囲)で変動または経時的に変化する所定の条件に応じて、励振制御用の設定値たとえば繰り返し周期TMおよび/または励振期間TONを自動的に可変制御または切替制御する構成も可能である。
【0048】
たとえば、電源電圧Vddが低下すると、第2のノード24に得られる発振出力ASの振幅が低下するだけでなく、CMOSインバータ14の増幅率または励振駆動能力も低下する。また、他の原因たとえば共振回路12の損失が増大して、発振出力ASの振幅電圧が低下することもある。
【0049】
この点に関しては、たとえば図9に示すように、電源電圧Vddおよび/または発振出力ASの振幅電圧を監視する電圧監視回路50を励振制御部16に備えることも可能である。励振制御部16は、電圧監視回路50からのモニタ情報に基づいて、電源電圧Vddの低下に応じて、または発振出力ASの定常時または励起期間直後の振幅電圧の低下に応じて、繰り返し周期TMおよび/または励振期間TONを自動的に短縮することができる。
【0050】
上記実施形態では、反転増幅回路にCMOSインバータを用いた。しかし、本発明は、CMOSインバータ方式に限定されず、任意の反転増幅器を電気機械振動子に接続して構成される任意の発振回路に適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 電気機械振動子
12 共振回路
14 CMOSインバータ(反転増幅器)
16 励振制御部
22 第1(入力側)のノード
24 第2(出力側)のノード
26 CMOSインバータのPMOSトランジスタ
28 CMOSインバータのNMOSトランジスタ
30 スイッチング用のPMOSトランジスタ
32 スイッチング用のNMOSトランジスタ
34 分周回路
36 設定回路
38 スイッチング駆動回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10