特許第6451119号(P6451119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

特許6451119抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法
<>
  • 特許6451119-抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法 図000010
  • 特許6451119-抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法 図000011
  • 特許6451119-抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法 図000012
  • 特許6451119-抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法 図000013
  • 特許6451119-抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法 図000014
  • 特許6451119-抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法 図000015
  • 特許6451119-抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451119
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20190107BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20190107BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20190107BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20190107BHJP
   B01J 20/26 20060101ALN20190107BHJP
   B01J 20/281 20060101ALN20190107BHJP
   B01J 20/34 20060101ALN20190107BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20190107BHJP
   C07K 14/735 20060101ALN20190107BHJP
【FI】
   C07K1/14ZNA
   C12N15/12
   G01N30/88 J
   G01N30/26 A
   !B01J20/26 H
   !B01J20/26 L
   !B01J20/34 G
   !C07K16/00
   !C07K14/735
【請求項の数】4
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2014-147207(P2014-147207)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-23152(P2016-23152A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 義晴
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山中 直紀
(72)【発明者】
【氏名】井出 輝彦
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/057078(WO,A1)
【文献】 特表平11−511649(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111393(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/085119(WO,A1)
【文献】 特開2015−086216(JP,A)
【文献】 特開2015−083558(JP,A)
【文献】 Biotechnol. Prog.,2013年,Vol.29, No.3,p.825-828
【文献】 The Journal of Immunology,2006年,Vol.177,p.3848-3856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/14
C12N 15/12
C07K 14/735
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤を用いた、抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法であって、
Fc結合性タンパク質が、配列番号37および配列番号59のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち少なくとも33番目から208番目までのアミノ酸残基を含むヒトFcγRIIIaである、方法
【請求項2】
ヒトFcγRIIIaが、配列番号37および配列番号59のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
ヒトFcγRIIIaが糖鎖を有していないヒトFcγRIIIaである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ヒトFcγRIIIaが、ヒトFcγRIIIaをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで大腸菌を形質転換して得られる組換え大腸菌で製造されたヒトFcγRIIIaである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モノクローナル抗体が有する特異性を利用した医薬(抗体医薬)の開発が進められている。抗体医薬で用いるヒトIgGのうち、Fc領域の297番目のアスパラギン残基に付加するN型糖鎖の違いにより抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性が変化することが知られており、特に糖鎖の一種であるフコースを除去した抗体でADCC活性が向上することが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
抗体医薬においては、抗体が有するADCC活性の強さに重要な意味がある。しかしながら、抗体医薬は通常、動物細胞を宿主とした遺伝子組換え技術を用いて製造しており、宿主内での糖鎖付加を制御できないことから、一定のADCC活性を有した抗体を発現させるのは困難である。また発現した抗体の中から、ADCC活性の強さに基づき抗体を分離するには多くの時間と労力が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shinkawa.T.,J.Biol.Chem.,278,3466−3473,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、Fc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤を用いることで、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性の強さに基づいて抗体を分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本願は以下の(A)から(M)に記載の態様を包含する:
(A)Fc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤を用いた、抗体依存性細胞傷害活性の強さに基づき抗体を分離する方法。
【0008】
(B)Fc結合性タンパク質がヒトFcγRIIIaである、(A)に記載の方法。
【0009】
(C)ヒトFcγRIIIaが配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したポリペプチドである、(B)に記載の分離方法。
【0010】
(D)ヒトFcγRIIIaが配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(47)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じたポリペプチドである、(C)に記載の方法。
(1)配列番号1の18番目のメチオニンがアルギニンに置換
(2)配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸、グリシン、リジン、スレオニン、アラニン、アルギニンのいずれかに置換
(3)配列番号1の29番目のフェニルアラニンがロイシン、イソロイシン、セリンのいずれかに置換
(4)配列番号1の30番目のロイシンがグルタミンに置換
(5)配列番号1の35番目のチロシンがアスパラギン酸、グリシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、セリン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、バリン、トリプトファンのいずれかに置換
(6)配列番号1の39番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(7)配列番号1の46番目のリジンがイソロイシンまたはスレオニンに置換
(8)配列番号1の48番目のグルタミンがアルギニンまたはヒスチジンまたはロイシンに置換
(9)配列番号1の50番目のアラニンがヒスチジンに置換
(10)配列番号1の51番目のチロシンがアスパラギン酸またはヒスチジンまたはセリンに置換
(11)配列番号1の54番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(12)配列番号1の56番目のアスパラギンがスレオニンに置換
(13)配列番号1の59番目のグルタミンがアルギニンに置換
(14)配列番号1の61番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(15)配列番号1の64番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(16)配列番号1の65番目のセリンがアルギニンに置換
(17)配列番号1の71番目のアラニンがアスパラギン酸に置換
(18)配列番号1の75番目のフェニルアラニンがロイシン、セリン、チロシンのいずれかに置換
(19)配列番号1の77番目のアスパラギン酸がアスパラギンまたはグリシンに置換
(20)配列番号1の78番目のアラニンがセリンに置換
(21)配列番号1の82番目のアスパラギン酸がグルタミン酸またはバリンに置換
(22)配列番号1の90番目のグルタミンがアルギニンに置換
(23)配列番号1の92番目のアスパラギンがセリンに置換
(24)配列番号1の93番目のロイシンがアルギニンまたはメチオニンに置換
(25)配列番号1の95番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(26)配列番号1の110番目のロイシンがグルタミンに置換
(27)配列番号1の112番目のグルタミンがロイシンに置換
(28)配列番号1の115番目のアルギニンがグルタミンに置換
(29)配列番号1の116番目のトリプトファンがロイシンに置換
(30)配列番号1の117番目のバリンがグルタミン酸に置換
(31)配列番号1の118番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(32)配列番号1の119番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(33)配列番号1の120番目のグルタミン酸がバリンに置換
(34)配列番号1の121番目のグルタミン酸がアスパラギン酸、グリシン、リジン、アルギニン、ヒスチジンのいずれかに置換
(35)配列番号1の140番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(36)配列番号1の142番目のロイシンがグルタミンに置換
(37)配列番号1の151番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(38)配列番号1の155番目のセリンがスレオニンに置換
(39)配列番号1の163番目のスレオニンがセリンに置換
(40)配列番号1の167番目のセリンがグリシンに置換
(41)配列番号1の169番目のセリンがグリシンに置換
(42)配列番号1の171番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(43)配列番号1の175番目のロイシンがアルギニンに置換
(44)配列番号1の180番目のアスパラギンがリジン、セリン、イソロイシンのいずれかに置換
(45)配列番号1の185番目のスレオニンがセリンに置換
(46)配列番号1の188番目のイソロイシンがバリンに置換
(47)配列番号1の192番目のグルタミンがリジンに置換
(E)ヒトFcγRIIIaが配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において少なくとも以下の(5)のアミノ酸置換が生じたポリペプチドである、(D)に記載の方法。
(5)配列番号1の35番目のチロシンがアスパラギン酸、グリシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、セリン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、バリン、トリプトファンのいずれかに置換
(F)ヒトFcγRIIIaが、配列番号27、配列番号31、配列番号33、配列番号37、配列番号41、配列番号43、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号55、配列番号59、配列番号63、配列番号67のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち少なくとも33番目から208番目までのアミノ酸残基を含むポリペプチドである、(E)に記載の方法。
【0011】
(G)ヒトFcγRIIIaが、配列番号27、配列番号31、配列番号33、配列番号37、配列番号41、配列番号43、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号55、配列番号59、配列番号63、配列番号67のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、(F)に記載の方法。
【0012】
(H)ヒトFcγRIIIaが、さらに以下の(48)から(51)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じたポリペプチドである、(D)から(G)のいずれかに記載の方法。
(48)配列番号1の66番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(49)配列番号1の147番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(50)配列番号1の158番目のチロシンがヒスチジンに置換
(51)配列番号1の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換
(I)ヒトFcγRIIIaが、以下の(48)から(51)のうちから選ばれる1つ以上のアミノ酸置換が生じたポリペプチドである、(C)に記載の方法。
(48)配列番号1の66番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(49)配列番号1の147番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(50)配列番号1の158番目のチロシンがヒスチジンに置換
(51)配列番号1の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換
(J)Fc結合性タンパク質が配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むポリペプチドである、(B)に記載の方法。
【0013】
(K)ヒトFcγRIIIaが糖鎖を有していないヒトFcγRIIIaである、(B)から(J)に記載の方法。
【0014】
(L)ヒトFcγRIIIaが、ヒトFcγRIIIaをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで大腸菌を形質転換して得られる組換え大腸菌で製造されたヒトFcγRIIIaである、(K)に記載の方法。
【0015】
(M)(A)から(L)のいずれかに記載の方法で得られる抗体。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明においてFc結合性タンパク質とは、抗体のFc領域に結合性を持つタンパク質であり、一例としてFcγレセプターである、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIa、FcγRIIIbがあげられる。Fc結合性タンパク質がヒトFcγRIIIaである場合の例として、
(i)配列番号1に記載の野生型Fc結合性タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸残基を含むポリペプチドや、
(ii)配列番号1に記載の野生型Fc結合性タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したポリペプチド
があげられる。前記(ii)の一態様としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(47)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、ポリペプチド(特願2013−202245号、特願2014−133181号)があげられる。
(1)配列番号1の18番目のメチオニンがアルギニンに置換
(2)配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸、グリシン、リジン、スレオニン、アラニン、アルギニンのいずれかに置換
(3)配列番号1の29番目のフェニルアラニンがロイシン、イソロイシン、セリンのいずれかに置換
(4)配列番号1の30番目のロイシンがグルタミンに置換
(5)配列番号1の35番目のチロシンがアスパラギン酸、グリシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、セリン、スレオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、バリン、トリプトファンのいずれかに置換
(6)配列番号1の39番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(7)配列番号1の46番目のリジンがイソロイシンまたはスレオニンに置換
(8)配列番号1の48番目のグルタミンがアルギニンまたはヒスチジンまたはロイシンに置換
(9)配列番号1の50番目のアラニンがヒスチジンに置換
(10)配列番号1の51番目のチロシンがアスパラギン酸またはヒスチジンまたはセリンに置換
(11)配列番号1の54番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(12)配列番号1の56番目のアスパラギンがスレオニンに置換
(13)配列番号1の59番目のグルタミンがアルギニンに置換
(14)配列番号1の61番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(15)配列番号1の64番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(16)配列番号1の65番目のセリンがアルギニンに置換
(17)配列番号1の71番目のアラニンがアスパラギン酸に置換
(18)配列番号1の75番目のフェニルアラニンがロイシン、セリン、チロシンのいずれかに置換
(19)配列番号1の77番目のアスパラギン酸がアスパラギンまたはグリシンに置換
(20)配列番号1の78番目のアラニンがセリンに置換
(21)配列番号1の82番目のアスパラギン酸がグルタミン酸またはバリンに置換
(22)配列番号1の90番目のグルタミンがアルギニンに置換
(23)配列番号1の92番目のアスパラギンがセリンに置換
(24)配列番号1の93番目のロイシンがアルギニンまたはメチオニンに置換
(25)配列番号1の95番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(26)配列番号1の110番目のロイシンがグルタミンに置換
(27)配列番号1の112番目のグルタミンがロイシンに置換
(28)配列番号1の115番目のアルギニンがグルタミンに置換
(29)配列番号1の116番目のトリプトファンがロイシンに置換
(30)配列番号1の117番目のバリンがグルタミン酸に置換
(31)配列番号1の118番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(32)配列番号1の119番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(33)配列番号1の120番目のグルタミン酸がバリンに置換
(34)配列番号1の121番目のグルタミン酸がアスパラギン酸、グリシン、リジン、アルギニン、ヒスチジンのいずれかに置換(35)配列番号1の140番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(36)配列番号1の142番目のロイシンがグルタミンに置換
(37)配列番号1の151番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(38)配列番号1の155番目のセリンがスレオニンに置換
(39)配列番号1の163番目のスレオニンがセリンに置換
(40)配列番号1の167番目のセリンがグリシンに置換
(41)配列番号1の169番目のセリンがグリシンに置換
(42)配列番号1の171番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(43)配列番号1の175番目のロイシンがアルギニンに置換
(44)配列番号1の180番目のアスパラギンがリジン、セリン、イソロイシンのいずれかに置換
(45)配列番号1の185番目のスレオニンがセリンに置換
(46)配列番号1の188番目のイソロイシンがバリンに置換
(47)配列番号1の192番目のグルタミンがリジンに置換
なお野生型Fc結合性タンパク質には、以下の(48)から(51)から選ばれる1つ以上のアミノ酸置換が生じた変異体が知られているが、当該変異体も前記(ii)の一態様といえる。
(48)配列番号1の66番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(49)配列番号1の147番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(50)配列番号1の158番目のチロシンがヒスチジンに置換
(51)配列番号1の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換
また前記(ii)の別の態様として、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、
前記(1)から(47)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換、および
前記(48)から(51)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換
が生じている、ポリペプチド(特願2014−133181号)があげられる。
【0018】
前記(ii)の好ましい態様としては、以下の(a)から(m)に示すヒトFcγRIIIaがあげられる。これらのFc結合性タンパク質は熱および酸に対する安定性が向上する点で好ましい。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu(この表記は、配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸に置換されていることを表す、以下同様)およびTyr35Asnのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号27に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Tyr35AsnおよびPhe75Leuのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号31に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Tyr35Asn、Phe75LeuおよびGlu121Glyのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号33に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)
(d)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Tyr35Asn、Phe75Leu、Asn92SerおよびGlu121Glyのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号37に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)
(e)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75LeuおよびGlu121Glyのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号41に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)
(f)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75Leu、Asn92SerおよびGlu121Glyのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号43に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)
(g)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75Leu、Glu120ValおよびGlu121Glyのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号47に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)
(h)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75Leu、Asn92Ser、Glu120ValおよびGlu121Glyのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号49に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Phe29Ile、Tyr35Asn、Phe75Leu、Asn92Ser、Val117GluおよびGlu121Glyのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号51に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(j)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Phe29Ile、Tyr35Asn、Phe75Leu、Asn92Ser、Val117Glu、Glu121GlyおよびPhe171Serのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号55に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(k)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Phe29Ile、Tyr35Asn、Gln48Arg、Phe75Leu、Asn92Ser、Val117Glu、Glu121GlyおよびPhe171Serのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号59に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(l)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Phe29Ile、Tyr35Asn、Gln48Arg、Tyr51Ser、Phe75Leu、Asn92Ser、Val117Glu、Glu121GlyおよびPhe171Serのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号63に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(m)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Val27Glu、Phe29Ile、Tyr35Asn、Gln48Arg、Tyr51Ser、Phe75Leu、Gln90Arg、Asn92Ser、Val117Glu、Glu121GlyおよびPhe171Serのアミノ酸置換が生じているFc結合性タンパク質(配列番号67に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
【0019】
本発明におけるFc結合性タンパク質中、特定位置のアミノ酸残基については、抗体結合活性を有する限り前述したアミノ酸以外のアミノ酸に置換してもよい。その一例として、両アミノ酸の物理的性質と化学的性質またはそのどちらかが類似したアミノ酸間で置換する保守的置換があげられる。保守的置換は、Fc結合性タンパク質に限らず一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、アスパラギン酸とグルタミン酸間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間に生じる置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。
【0020】
本発明におけるFc結合性タンパク質は、そのN末端側またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用なオリゴペプチドをさらに付加してもよい。前記オリゴペプチドとしては、ポリヒスチジン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等があげられる。また本発明のFc結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の固相に固定化する際に有用な、システインを含むオリゴペプチドを、本発明のFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側にさらに付加してもよい。Fc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加するオリゴペプチドの長さは、本発明のFc結合性タンパク質のIgG結合性や安定性を損なわない限り特に制限はない。前記オリゴペプチドを本発明のFc結合性タンパク質に付加させる際は、前記オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製後、当業者に周知の方法を用いて遺伝子工学的にFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加させてもよいし、化学的に合成した前記オリゴペプチドを本発明のFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に化学的に結合させて付加させてもよい。さらに本発明のFc結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドの例としては、PelB(配列番号75)、DsbA、MalE(UniProt No.P0AEX9に記載のアミノ酸配列のうち1番目から26番目までの領域)、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる(特開2011−097898号公報)。
【0021】
本発明におけるFc結合性タンパク質は、当該Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで宿主を形質転換して得られる組換え体から製造することができる。前記宿主に特に限定はなく、一例として、動物細胞(CHO細胞、HEK細胞、Hela細胞、COS細胞等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyces octosporus、Schizosaccharomyces pombe等)、昆虫細胞(Sf9、Sf21等)、大腸菌(JM109株、BL21(DE3)株、W3110株等)や枯草菌があげられる。なお本発明におけるFc結合性タンパク質には糖鎖を有していても有していなくても構わない。糖鎖を有するFc結合性タンパク質を得るためには、動物細胞、酵母や昆虫細胞等を宿主として用いればよい。さらに人工的に合成した糖鎖を修飾してもよい。また、糖鎖を有していないFc結合性タンパク質を得るためには、大腸菌等糖鎖付加が起こらない宿主として用いればよい。さらに糖鎖を有したFc結合性タンパク質から糖鎖を除去する操作を行なうことで、糖鎖を有していないFc結合性タンパク質を得ることもできる。
【0022】
本発明における、Fc結合性タンパク質を固定化させるための不溶性担体としては特に限定はなく、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプンといった多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタンといった合成高分子を原料とした担体や、シリカなどのセラミックスを原料とした担体が例示できる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー製)等の水酸基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(GEヘルスケア製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC製)等のセルロースゲルがあげられる。不溶性担体の形状については特に限定はなく、粒状物または非粒状物、多孔性または非多孔性、いずれであってもよい。
【0023】
本発明の分離方法は、例えば、Fc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤を充填したカラムに、抗体を含む緩衝液をポンプ等の送液手段を用いて添加することで、抗体を前記吸着剤に特異的に吸着させた後、適切な溶出液をカラムに添加することで、前記吸着した抗体をADCC活性の強さに基づき抗体を分離することができる。なお、抗体を含む緩衝液をカラムに添加する前に、適切な緩衝液を用いてカラムを平衡化すると、抗体をより高純度に分離できるため好ましい。緩衝液としてはリン酸緩衝液等、無機塩を成分とした緩衝液を例示することができる。なお緩衝液のpHは、pH3から10、好ましくはpH5から8である。前記吸着剤に吸着した抗体を、ADCC活性の強さに基づき溶出させるには、抗体とリガンド(Fc結合性タンパク質)との相互作用を弱めればよく、具体的には、緩衝液によるpH変化、カウンターペプチド、温度変化、塩濃度変化が例示できる。前記吸着剤に吸着した抗体を、ADCC活性の強さに基づき溶出させるための溶出液の具体例として、前記吸着剤に抗体を吸着させる際に用いた溶液よりも酸性側の緩衝液があげられる。緩衝液の種類としては酸性側に緩衝能を有するクエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示できる。緩衝液のpHは、抗体が有する機能を損なわない範囲で設定すればよく、好ましくはpH2.5から6.0、より好ましくはpH3.0から5.0、さらに好ましくはpH3.3から4.0である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、Fc結合性タンパク質(例えば糖鎖が付加されていないヒトFcγRIIIa)を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤を用いた抗体の分離方法に係る発明であり、本発明により抗体を抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)の強さに基づいて分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】1アミノ酸置換したFc結合性タンパク質の抗体結合活性を評価した結果を示す図である。図中の野生型はアミノ酸置換の無いFc結合性タンパク質を示している。
図2】FcR固定化ゲルを用いた抗体の溶出パターンを示した図である。図中のFrA、FrBはそれぞれフラクションA、フラクションBの位置を示している。
図3】FcR固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性を測定した結果を示した図である。
図4】FcR5a固定化ゲルを用いた抗体の溶出パターンを示した図である。図中のFrA、FrBはそれぞれフラクションA、フラクションBの位置を示している。
図5】FcR5a固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性を測定した結果を示した図である。
図6】FcR9固定化ゲルを用いた抗体の溶出パターンを示した図である。図中のFrA、FrB、FrCはそれぞれフラクションA、フラクションB、フラクションCの位置を示している。
図7】FcR9固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性を測定した結果を示した図である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1 Fc結合性タンパク質発現ベクターの作製
(1)配列番号1に記載のヒトFcγRIIIaアミノ酸配列のうち、17番目のグリシン(Gly)から192番目のグルタミン(Gln)までのアミノ酸配列を基に、DNAworks法(Nucleic Acids Res.,30,e43,2002)を用いて、コドンをヒト型から大腸菌型に変換したヌクレオチド配列を設計した。設計したヌクレオチド配列を配列番号2に示す。
(2)配列番号2に記載の配列を含むポリヌクレオチドを作製するために、配列番号3から20に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを合成し、前記オリゴヌクレオチドを用いて、下記に示す二段階PCRを行なった。
(2−1)一段階目のPCRは、表1に示す組成の反応液を調製し、当該反応液を98℃で5分熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、62℃で5秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を10サイクル繰り返すことでポリヌクレオチドを合成し、これをFcRp1とした。なお表1中のDNAミックスとは、配列番号3から20に記載の配列からなる18種類のオリゴヌクレオチドをそれぞれ一定量サンプリングし混合した溶液を意味する。
【0028】
【表1】
(2−2)二段階目のPCRは、(2−1)で合成したFcRp1を鋳型とし、配列番号21(5’−TAGCCATGGGCATGCGTACCGAAGATCTGCCGAAAGC−3’)および配列番号22(5’−CCCAAGCTTAATGATGATGATGATGATGGCCCCCTTGGGTAATGGTAATATTCACGGTCTCGCTGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして実施した。具体的には、表2に示す組成の反応液を調製し、当該反応液を98℃で5分熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、62℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1.5分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル繰り返すことで実施した。
【0029】
【表2】
(3)(2)で得られたポリヌクレオチドを精製し、制限酵素NcoIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。
(4)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて、発現ベクターpET−eFcRを抽出した。
(5)(4)で作製した発現ベクターpET−eFcRのうち、ヒトFcγRIIIaをコードするポリヌクレオチドおよびその周辺の領域について、チェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS read Reaction kit(ライフサイエンス製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(ライフサイエンス製)にてヌクレオチド配列を解析した。なお当該解析の際、配列番号23(5’−TAATACGACTCACTATAGGG−3’)または配列番号24(5’−TATGCTAGTTATTGCTCAG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
【0030】
発現ベクターpET−eFcRで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号25に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号26に、それぞれ示す。なお配列番号25において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがヒトFcγRIIIaの細胞外領域(配列番号1の17番目から192番目までの領域)であり、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
【0031】
実施例2 Fc結合性タンパク質への変異導入およびライブラリーの作製
実施例1で作製したFc結合性タンパク質発現ベクターpET−eFcRのうち、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例1で作製したpET−eFcRを用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、60℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。前記エラープローンPCRによりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入され、その平均変異導入率は1.26%であった。
【0032】
【表3】
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃で18時間)後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異体ライブラリーとした。
【0033】
実施例3 熱安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング(その1)
(1)実施例2で作製したランダム変異体ライブラリー(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、30℃で一晩振とう培養した。
(2)培養後、5μLの培養液を500μLの0.05mMのIPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)、0.3%のグリシンおよび50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地に植え継ぎ、96穴ディープウェルプレートを用いて、さらに20℃で一晩振とう培養した。
(3)培養後、遠心操作によって得られた培養上清を150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で2倍に希釈した。希釈した溶液を45℃で10分間熱処理を行なった。
(4)(3)の熱処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(3)の熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、それぞれ下記に示すELISA法にて測定し、熱処理を行なった時のFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4−1)ヒト抗体であるガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を、96穴マイクロプレートのウェルに1μg/wellで固定化し(4℃で18時間)、固定化終了後、2%(w/v)のSKIM MILK(BD製)および150mMの塩化ナトリウムを含んだ20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)によりブロッキングした。
(4−2)洗浄緩衝液(0.05%[w/v]のTween 20、150mMのNaClを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))で洗浄後、抗体結合活性を評価するFc結合性タンパク質を含む溶液を添加し、Fc結合性タンパク質と固定化ガンマグロブリンとを反応させた(30℃で1時間)。
(4−3)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、100ng/mLに希釈したAnti−6His抗体(Bethyl Laboratories製)を100μL/wellで添加した。
(4−4)30℃で1時間反応させ、前記洗浄緩衝液で洗浄した後、TMB Peroxidase Substrate(KPL製)を50μL/wellで添加した。1Mのリン酸を50μL/wellで添加することで発色を止め、マイクロプレートリーダー(テカン製)にて450nmの吸光度を測定した。
(5)(4)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中から野生型(アミノ酸置換のない)Fc結合性タンパク質と比較して熱安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。前記選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(6)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例1(5)の記載と同様の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
【0034】
(5)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、野生型(アミノ酸置換のない)Fc結合性タンパク質に対するアミノ酸置換位置および熱処理後の残存活性(%)をまとめたものを表4に示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Met18Arg(この表記は、配列番号1の18番目のメチオニンがアルギニンに置換されていることを表す、以下同様)、Val27Glu、Phe29Leu、Phe29Ser、Leu30Gln、Tyr35Asn、Tyr35Asp、Tyr35Ser、Tyr35His、Lys46Ile、Lys46Thr、Gln48His、Gln48Leu、Ala50His、Tyr51Asp、Tyr51His、Glu54Asp、Glu54Gly、Asn56Thr、Gln59Arg、Phe61Tyr、Glu64Asp、Ser65Arg、Ala71Asp、Phe75Leu、Phe75Ser、Phe75Tyr、Asp77Asn、Ala78Ser、Asp82Glu、Asp82Val、Gln90Arg、Asn92Ser、Leu93Arg、Leu93Met、Thr95Ala、Thr95Ser、Leu110Gln、Arg115Gln、Trp116Leu、Phe118Tyr、Lys119Glu、Glu120Val、Glu121Asp、Glu121Gly、Phe151Ser、Phe151Tyr、Ser155Thr、Thr163Ser、Ser167Gly、Ser169Gly、Phe171Tyr、Asn180Lys、Asn180Ser、Asn180Ile、Thr185Ser、Gln192Lysのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、野生型のFc結合性タンパク質と比較し熱安定性が向上しているといえる。
【0035】
【表4】
表4に示す、アミノ酸置換されたFc結合性タンパク質のうち、最も残存活性の高い、Val27GluおよびTyr35Asnのアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をFcR2と命名し、FcR2をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをpET−FcR2と命名した。FcR2のアミノ酸配列を配列番号27に、FcR2をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号28に示す。なお配列番号27において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR2のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号27において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目の位置にそれぞれ存在する。
【0036】
実施例4 アミノ酸置換Fc結合性タンパク質の作製(その1)
実施例3で判明した、Fc結合性タンパク質の熱安定性向上に関与するアミノ酸置換を集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(g)に示す7種類のFc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR2に対し、さらにPhe75Leuのアミノ酸置換を行なったFcR3
(b)FcR2に対し、さらにPhe75LeuおよびGlu121Glyのアミノ酸置換を行なったFcR4
(c)FcR4に対し、さらにAsn92Serのアミノ酸置換を行なったFcR5a
(d)FcR4に対し、さらにGlu54Aspのアミノ酸置換を行なったFcR5b
(e)FcR5aに対し、さらにGlu54Aspのアミノ酸置換を行なったFcR6a
(f)FcR5bに対し、さらにGlu120Valのアミノ酸置換を行なったFcR6b
(g)FcR6aに対し、さらにGlu120Valのアミノ酸置換を行なったFcR7
以下、各Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
【0037】
(a)FcR3
実施例3で明らかになった、熱安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val27Glu、Tyr35AsnおよびPhe75Leuを選択し、それらの置換を野生型のFc結合性タンパク質に集積したFcR3を作製した。具体的には、FcR2をコードするポリヌクレオチドに対してPhe75Leuを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR3を作製した。
(a−1)実施例3で取得した、pET−FcR2を鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号24および配列番号29(5’−AGCCAGGCGAGCAGCTACCTTATTGATGCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm3Fとした。
【0038】
【表5】
(a−2)実施例3で取得した、pET−FcR2を鋳型とし、配列番号23および配列番号30(5’−CCACCGTCGCCGCATCAATAAGGTAGCTGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様に行なった。精製したPCR産物をm3Rとした。
(a−3)(a−1)および(a−2)で得られた2種類のPCR産物(m3F、m3R)を混合し、表6に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m3Fとm3Rを連結したPCR産物m3pを得た。
【0039】
【表6】
(a−4)(a−3)で得られたPCR産物m3pを鋳型とし、配列番号23および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR2に1箇所アミノ酸置換を導入したFcR3をコードするポリヌクレオチドを作製した。
【0040】
【表7】
(a−5)(a−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して3箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR3をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR3を得た。
(a−7)pET−FcR3のヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0041】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR3のアミノ酸配列を配列番号31に、前記FcR3をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号32に示す。なお配列番号31において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR3のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号31において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Phe75Leuのロイシンは91番目の位置にそれぞれ存在する。
【0042】
(b)FcR4
実施例3で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val27Glu、Tyr35Asn、Phe75LeuおよびGlu121Glyを選択し、それらの置換を野生型のFc結合性タンパク質に集積したFcR4を作製した。具体的には、FcR2をコードするポリヌクレオチドに対してPhe75LeuおよびGlu121Glyを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR4を作製した。
(b−1)(a−2)と同様の方法でPCR産物m3Rを得た。また実施例3で取得した、Ala71Asp、Phe75LeuおよびGlu121Glyのアミノ酸置換を含んだFc結合性タンパク質(表4)を発現するプラスミドを鋳型とし、配列番号24および配列番号29に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(a−1)と同様の方法でPCRを行なうことでPCR産物m4Rを得た。
(b−2)(b−1)により得られた2種類のPCR産物(m3R、m4R)を混合後、(a−3)と同様の方法にてPCRを行ない、m3Rとm4Rを連結した。得られたPCR産物をm4pとした。
(b−3)(b−2)で得られたPCR産物m4pを鋳型とし、配列番号23および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR4をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−4)(b−3)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−5)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して4箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR4をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR4を得た。
(b−6)pET−FcR4のヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0043】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR4のアミノ酸配列を配列番号33に、前記FcR4をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号34に示す。なお、配列番号33において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR4のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号33において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Glu121Glyのグリシンは137番目の位置にそれぞれ存在する。
【0044】
(c)FcR5a
実施例3で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val27Glu、Tyr35Asn、Phe75Leu、Asn92SerおよびGlu121Glyを選択し、それらの置換を野生型のFc結合性タンパク質に集積したFcR5aを作製した。具体的には、(b)で作製したFcR4をコードするポリヌクレオチドに対してAsn92Serを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR5aを作製した。
(c−1)(b)で作製した、pET−FcR4を鋳型とし、配列番号22および配列番号35(5’−GAATATCGTTGCCAGACCAGCCTGAGCACC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm5aFとした。
(c−2)(b)で作製したpET−FcR4を鋳型とし、配列番号21および配列番号36(5’−GATCGCTCAGGGTGCTCAGGCTGGTCTGGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm5aRとした。
(c−3)(c−1)および(c−2)で得られた2種類のPCR産物(m5aF、m5aR)を混合後、(a−3)と同様の方法にてPCRを行ない、m5aFとm5aRを連結した。得られたPCR産物をm5apとした。
(c−4)(c−3)で得られたPCR産物m5apを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR5aをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(c−5)(c−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(c−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して5箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR5aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR5aを得た。
(c−7)pET−FcR5aのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0045】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR5aのアミノ酸配列を配列番号37に、前記FcR5aをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号38に示す。なお、配列番号37において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR5aのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号37において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Glu121Glyのグリシンは137番目の位置にそれぞれ存在する。
【0046】
(d)FcR5b
実施例3で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75LeuおよびGlu121Glyを選択し、それらの置換を野生型のFc結合性タンパク質に集積したFcR5bを作製した。具体的には、(b)で作製したFcR4をコードするポリヌクレオチドに対してGlu54Aspを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR5bを作製した。
(d−1)(b)で作製した、pET−FcR4を鋳型とし、配列番号22および配列番号39(5’−CAGGGCGCGTATAGCCCGGATGATAACAGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm5bFとした。
(d−2)(b)で作製したpET−FcR4を鋳型とし、配列番号21および配列番号40(5’−CACTGGGTGCTGTTATCATCCGGGCTATAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm5bRとした。
(d−3)(d−1)および(d−2)で得られた2種類のPCR産物(m5bF、m5bR)を混合後、(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、m5bFとm5bRを連結した。得られたPCR産物をm5bpとした。
(d−4)(d−3)で得られたPCR産物m5bpを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(a−6)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR5bをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(d−5)(d−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌E.coli BL21(DE3)株を形質転換した。
(d−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して5箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR5bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR5bを得た。
(d−7)pET−FcR5bのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0047】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR5bのアミノ酸配列を配列番号41に、前記FcR5bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号42に示す。なお、配列番号41において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR5bのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号41において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Glu121Glyのグリシンは137番目の位置にそれぞれ存在する。
(e)FcR6a
実施例3で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75Leu、Asn92SerおよびGlu121Glyを選択し、それらの置換を野生型のFc結合性タンパク質に集積したFcR6aを作製した。具体的には、(c)で作製したFcR5aをコードするポリヌクレオチドに対してGlu54Aspを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR6aを作製した。
(e−1)(c)で作製したpET−FcR5aを鋳型とし、配列番号22および配列番号39に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm6aFとした。
(e−2)(b)で作製したpET−FcR5aを鋳型とし、配列番号21および配列番号40に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm6aRとした。
(e−3)(e−1)および(e−2)で得られた2種類のPCR産物(m6aF、m6aR)を混合後、(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、m6aFとm6aRを連結した。得られたPCR産物をm6apとした。
(e−4)(e−3)で得られたPCR産物m6apを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR6aをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(e−5)(e−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(e−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して6箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR6aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR6aを得た。
(e−7)pET−FcR6aのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0048】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR6aのアミノ酸配列を配列番号43に、前記FcR6aをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号44に示す。なお、配列番号43において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR6aのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号43において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Glu121Glyのグリシンは137番目の位置にそれぞれ存在する。
【0049】
(f)FcR6b
実施例3で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75Leu、Glu120ValおよびGlu121Glyを選択し、それらの置換を野生型のFc結合性タンパク質に集積したFcR6bを作製した。具体的には、(d)で作製したFcR5bをコードするポリヌクレオチドに対してGlu120Valを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR6bを作製した。
(f−1)(d)で作製したpET−FcR5bを鋳型とし、配列番号22および配列番号45(5’−GTGTTCAAAGTGGGGGATCCGATTCATCTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm6bFとした。
(f−2)(d)で作製したpET−FcR5bを鋳型とし、配列番号21および配列番号46(5’−AATCGGATCCCCCACTTTGAACACCCACCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm6bRとした。
(f−3)(f−1)および(f−2)で得られた2種類のPCR産物(m6bF、m6bR)を混合後、(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、m6bFとm6bRを連結した。得られたPCR産物をm6bpとした。
(f−4)(f−3)で得られたPCR産物m6bpを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR6bをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(f−5)(f−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(f−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して6箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR6bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR6bを得た。
(f−7)pET−FcR6bのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0050】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR6bのアミノ酸配列を配列番号47に、前記FcR6bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号48に示す。なお、配列番号47において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR6bのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号47において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Glu120Valのバリンは136番目、Glu121Glyのグリシンは137番目の位置にそれぞれ存在する。
【0051】
(g)FcR7
実施例3で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Val27Glu、Tyr35Asn、Glu54Asp、Phe75Leu、Asn92Ser、Glu120ValおよびGlu121Glyを選択し、それらの置換を野生型のFc結合性タンパク質に集積したFcR7を作製した。具体的には、(e)で作製したFcR6aをコードするポリヌクレオチドに対してGlu120Valを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR7を作製した。
(g−1)(e)で作製したpET−FcR6aを鋳型とし、配列番号22および配列番号45に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm7Fとした。
(g−2)(e)で作製したpET−FcR6aを鋳型とし、配列番号21および配列番号46に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm7Rとした。
(g−3)(g−1)および(g−2)で得られた2種類のPCR産物(m7F、m7R)を混合後、(a−3)と同様の方法にてPCRを行ない、m7Fとm7Rを連結した。得られたPCR産物をm7pとした。
(g−4)(g−3)で得られたPCR産物m7pを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−4)と同様のPCRを行なった。これによりFcR7をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(g−5)(g−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(g−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して7箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR7をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR7を得た。
(g−7)pET−FcR7のヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0052】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR7のアミノ酸配列を配列番号49に、前記FcR7をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号50に示す。なお、配列番号49において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR7のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号49において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Glu120Valのバリンは136番目、Glu121Glyのグリシンは137番目の位置にそれぞれ存在する。
【0053】
実施例5 FcR5aへの変異導入およびライブラリーの作製
実施例4(c)で作製したFcR5aをコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例4(c)で作製した発現ベクターpET−FcR5aを用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、鋳型にpET−FcR5aを用いた以外は表3に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、60℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
【0054】
実施例6 熱安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング(その2)
(1)実施例5で作製したランダム変異ライブラリーを実施例3(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて20倍に希釈し、更に0.1Mの炭酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)で20倍に希釈した。その後、希釈した溶液を40℃で15分間熱処理を行ない、1Mのトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(3)(2)の熱処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)の熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例3(4)に記載のELISA法にて測定し、熱処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR5aと比較して熱安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例1(5)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
【0055】
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR5aに対するアミノ酸置換位置および熱処理後の残存活性(%)をまとめたものを表8に示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Phe29Ile、Phe29Leu、Glu39Gly、Gln48Arg、Tyr51Ser、Phe61Tyr、Asp77Gly、Asp82Glu、Gln90Arg、Gln112Leu、Val117Glu、Lys119Asn、Lys119Glu、Thr140Ile、Leu142Gln、Phe171Ser、Leu175Arg、Asn180SerおよびIle188Valのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR5aと比較し熱安定性が向上しているといえる。
【0056】
【表8】
表8に示した、FcR5aからアミノ酸置換されたFc結合性タンパク質のうち、Phe29IleおよびVal117Gluのアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をFcR7aと命名し、FcR7aをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをpET−FcR7aと命名した。FcR7aのアミノ酸配列を配列番号51に、FcR7aをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号52に示す。なお配列番号51において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR7aのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号51において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目の位置にそれぞれ存在する。
【0057】
実施例7 アミノ酸置換Fc結合性タンパク質の作製(その2)
実施例6で判明した、Fc結合性タンパク質の熱安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR7aに集積することで、さらなる安定性向上を行った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(i)および(iv)に示す4種類のFc結合性タンパク質を作製した。
(i)FcR7aに対し、さらにPhe171Serのアミノ酸置換を行なったFcR8
(ii)FcR8に対し、さらにGln48Argのアミノ酸置換を行ったFcR9
(iii)FcR8に対し、さらにGln48ArgおよびTyr51Serのアミノ酸置換を行ったFcR10
(iv)FcR10に対し、さらにGln90Argのアミノ酸置換を行ったFcR11
以下に各改良Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
【0058】
(i)FcR8
(i−1)実施例6で取得した、pET−FcR7aを鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号23および配列番号53(5’−ACCAGCCCACGGCAGGAATAGCTGCCGCTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm8Fとした。
(i−2)実施例6で取得した、pET−FcR7aを鋳型とし、配列番号54(5’−GACAGCGGCAGCTATTCCTGCCGTGGGCTG−3’)および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(i−1)と同様に行なった。精製したPCR産物をm8Rとした。
(i−3)(i−1)および(i−2)で得られた2種類のPCR産物(m8F、m8R)を混合し、表6に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m8Fとm8Rを連結したPCR産物m8pを得た。
(i−4)(i−3)で得られたPCR産物m8pを鋳型とし、配列番号23および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR7aに1箇所アミノ酸置換を導入したFcR8をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(i−5)(i−4)で得られたポリヌクレオチドを制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌 BL21(DE3)株を形質転換した。
(i−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して8箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR8をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR8を得た。
(i−7)pET−FcR8のヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0059】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR8のアミノ酸配列を配列番号55に、前記FcR8をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号56に示す。なお配列番号55において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR8のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号55において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Phe171Serのセリンは187番目の位置にそれぞれ存在する。
【0060】
(ii)FcR9
実施例6で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Gln48Argを選択し、このアミノ酸置換をFcR8に導入したFcR9を作製した。
(ii−1)(i)で作製した、pET−FcR8を鋳型とし、配列番号24および配列番号57(5’−GTGACCCTTAAATGCCGGGGCGCGTATAGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(i−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm9Fとした。
(ii−2)(i)で作製したpET−FcR8を鋳型とし、配列番号23および配列番号58(5’−CCGGGCTATACGCGCCCCGGCATTTAAGGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(i−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm9Rとした。
(ii−3)(ii−1)および(ii−2)で得られた2種類のPCR産物(m9F、m9R)を混合後、(i−3)と同様の方法にてPCRを行ない、m9Fとm9Rを連結した。得られたPCR産物をm9pとした。
(ii−4)(ii−3)で得られたPCR産物m9pを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(i−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR9をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(ii−5)(ii−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌 BL21(DE3)株を形質転換した。
(ii−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して9箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR9をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR9を得た。
(ii−7)pET−FcR9のヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0061】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR9のアミノ酸配列を配列番号59に、前記FcR9をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号60に示す。なお、配列番号59において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR9のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号59において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Phe171Serのセリンは187番目の位置にそれぞれ存在する。
【0062】
(iii)FcR10
実施例6で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Gln48ArgおよびTyr51Serを選択し、このアミノ酸置換をFcR8に導入したFcR10を作製した。
(iii−1)(i)で作製した、pET−FcR8を鋳型とし、配列番号22および配列番号61(5’−TGCCGGGGCGCGTCTAGCCCGGAAGATAAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(i−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm10Fとした。
(iii−2)(i)で作製したpET−FcR8を鋳型とし、配列番号21および配列番号62(5’−GCTAGACGCGCCCCGGCATTTAAGGGTCAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(i−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm10Rとした。
(iii−3)(iii−1)および(iii−2)で得られた2種類のPCR産物(m10F、m10R)を混合後、(i−3)と同様の方法にてPCRを行ない、m10Fとm10Rを連結した。得られたPCR産物をm10pとした。
(iii−4)(iii−3)で得られたPCR産物m10pを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(i−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR10をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(iii−5)(iii−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌 BL21(DE3)株を形質転換した。
(iii−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して10箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR10をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR10を得た。
(iii−7)pET−FcR10のヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0063】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR10のアミノ酸配列を配列番号63に、前記FcR10をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号64に示す。なお、配列番号63において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR10のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号63において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Serのセリンは67番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Phe171Serのセリンは187番目の位置にそれぞれ存在する。
【0064】
(iv)FcR11
実施例6で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Gln90Argを選択し、このアミノ酸置換をFcR10に導入したFcR11を作製した。
(iv−1)(iii)で作製した、pET−FcR10を鋳型とし、配列番号22および配列番号65(5’−GGCGAATATCGTTGCCGGACCAGCCTGAGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(i−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm11Fとした。
(iv−2)(iii)で作製したpET−FcR10を鋳型とし、配列番号21および配列番号66(5’−GGTGCTCAGGCTGGTCCGGCAACGATATTC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(i−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm11Rとした。
(iv−3)(iv−1)および(iv−2)で得られた2種類のPCR産物(m11F、m11R)を混合後、(i−3)と同様の方法にてPCRを行ない、m11Fとm11Rを連結した。得られたPCR産物をm11pとした。
(iv−4)(iv−3)で得られたPCR産物m11pを鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(i−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR11をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(iv−5)(iv−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌 BL21(DE3)株を形質転換した。
(iv−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、野生型Fc結合性タンパク質に対して11箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR11をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR11を得た。
(iv−7)pET−FcR11のヌクレオチド配列の解析を、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0065】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR11のアミノ酸配列を配列番号67に、前記FcR11をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号68に示す。なお、配列番号67において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR11のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号67において、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Serのセリンは67番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Gln90Argのアルギニンは106番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Phe171Serのセリンは187番目の位置にそれぞれ存在する。
【0066】
実施例8 1箇所アミノ酸置換したFc結合性タンパク質の作製
実施例3で明らかになったFc結合性タンパク質の安定性向上に関与するアミノ酸置換のうち、配列番号1の27番目のバリン(Val)、35番目のチロシン(Tyr)および121番目のグルタミン酸(Glu)について、他のアミノ酸に置換したFc結合性タンパク質を、それぞれ下記の方法で作製した。
【0067】
(A)配列番号1の27番目のバリン(Val)を他のアミノ酸に置換したFc結合性タンパク質の作製
(A−1)実施例1で作製したpET−eFcRを鋳型とし、配列番号24および配列番号69(5’−CTGCCGAAAGCGNNKGTGTTTCTGGAACCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例4(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物を27pFとした。
(A−2)実施例1で作製したpET−eFcRを鋳型とし、配列番号23および配列番号70(5’−TTCCAGAAACACMNNCGCTTTCGGCAGATC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例4(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物を27pRとした。
(A−3)(A−1)および(A−2)で得られた2種類のPCR産物(27pF、27pR)を混合後、実施例4(a−3)と同様の方法でPCRを行ない、27pFと27pRを連結した。得られたPCR産物を27pとした。
(A−4)(A−3)で得られたPCR産物27pを鋳型とし、配列番号23および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、実施例4(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これにより配列番号1の27番目のバリンを任意のアミノ酸に置換したFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(A−5)(A−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(A−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出し、実施例1(5)と同様の方法でヌクレオチド配列解析を行なった。
【0068】
結果、Val27Gly(V27G)、Val27Lys(V27K)、Val27Thr(V27T)、Val27Ala(V27A)、Val27Trp(V27W)、またはVal27Arg(V27R)のアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得た。
【0069】
(B)配列番号1の35番目のチロシン(Tyr)を他のアミノ酸に置換したFc結合性タンパク質の作製
(B−1)実施例1で作製したpET−eFcRを鋳型とし、配列番号24および配列番号71(5’−AACCGCAGTGGNNKCGCGTGCTGGAGAAAG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例4(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物を35pFとした。
(B−2)実施例1で作製したpET−eFcRを鋳型とし、配列番号23および配列番号72(5’−AGCACGCGMNNCCACTGCGGTTCCAGAAAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例4(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物を35pRとした。
(B−3)(B−1)および(B−2)で得られた2種類のPCR産物(35pF、35pR)を混合後、実施例4(a−3)と同様の方法にてPCRを行ない、35pFと35pRを連結した。得られたPCR産物を35pとした。
(B−4)(B−3)で得られたPCR産物35pを鋳型とし、配列番号23および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、実施例4(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これにより配列番号1の35番目のチロシンを任意のアミノ酸に置換したFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(B−5)(B−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(B−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出し、実施例1(5)と同様の方法でヌクレオチド配列解析を行なった。
【0070】
結果、Tyr35Cys(Y35C)、Tyr35Asp(Y35D)、Tyr35Phe(Y35F)、Tyr35Gly(Y35G)、Tyr35Lys(Y35K)、Tyr35Leu(Y35L)、Tyr35Asn(Y35N)、Tyr35Pro(Y35P)、Tyr35Arg(Y35R)、Tyr35Ser(Y35S)、Tyr35Thr(Y35T)、Tyr35Val(Y35V)、またはTyr35Trp(Y35W)のアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得た。
【0071】
(C)配列番号1の121番目のグルタミン酸(Glu)を他のアミノ酸に置換したFc結合性タンパク質の作製
(C−1)実施例1で作製したpET−eFcRを鋳型とし、配列番号24および配列番号73(5’−GTGTTCAAAGAGNNKGATCCGATTCATCTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例4(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物を121pFとした。
(C−2)実施例1で作製したpET−eFcRを鋳型とし、配列番号23および配列番号74(5’−AATCGGATCMNNCTCTTTGAACACCCACCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例4の(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物を121pRとした。
(C−3)(C−1)および(C−2)により得られた2種類のPCR産物(121pF、121pR)を混合後、実施例4(a−3)と同様の方法にてPCRを行ない、121pFと121pRを連結した。得られたPCR産物を121pとした。
(C−4)(C−3)で得られたPCR産物121pを鋳型とし、配列番号23および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして実施例4(a−4)と同様のPCRを行なった。これにより配列番号1の121番目のグルタミン酸が任意のアミノ酸に置換されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(C−5)(C−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(C−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出し、実施例1(5)と同様の方法でヌクレオチド配列解析を行なった。
【0072】
結果、Glu121Lys(E121K)、Glu121Pro(E121P)、Glu121Arg(E121R)、Glu121Gly(E121G)、Glu121His(E121H)、またはGlu121Val(E121V)のアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得た。
【0073】
実施例9 1アミノ酸置換Fc結合性タンパク質の抗体結合活性評価
(1)実施例1で作製した野生型Fc結合性タンパク質、および実施例8で作製した1箇所アミノ酸置換したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を、実施例3(1)および(2)と同様の方法でそれぞれ培養を行ない、野生型Fc結合性タンパク質および1アミノ酸置換したFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)発現した1アミノ酸置換したFc結合性タンパク質を実施例3(4)に記載のELISA法にて抗体との結合活性を調べた。
【0074】
結果を図1に示す。配列番号1の27番目のバリンをグリシン(V27G)、リジン(V27K)、スレオニン(V27T)、アラニン(V27A)、アルギニン(V27R)、に置換することで、野生型Fc結合性タンパク質と比較し抗体結合活性が向上した。一方、配列番号1の27番目のValがトリプトファン(V27W)へ置換すると、野生型Fc結合性タンパク質と比較し抗体結合活性が低下した。
【0075】
配列番号1の35番目のチロシンを、アスパラギン酸(Y35D)、フェニルアラニン(Y35F)、グリシン(Y35G)、リジン(Y35K)、ロイシン(Y35L)、アスパラギン(Y35N)、プロリン(Y35P)、セリン(Y35S)、スレオニン(Y35T)、バリン(Y35V)、トリプトファン(Y35W)に置換することで、野生型Fc結合性タンパク質と比較し抗体結合活性が向上した。中でもY35D、Y35G、Y35K、Y35L、Y35N、Y35P、Y35S、Y35T、Y35Wは、野生型Fc結合性タンパク質に比較し大幅に抗体結合活性が向上した。一方、配列番号1の35番目のチロシンを、システイン(Y35C)、アルギニン(Y35R)に置換した場合は、野生型Fc結合性タンパク質とほぼ同等の抗体結合活性であった。
【0076】
配列番号1の121番目のグルタミン酸を、リジン(E121K)、アルギニン(E121R)、グリシン(E121G)、ヒスチジン(E121H)に置換することで、野生型Fc結合性タンパク質と比較し抗体結合活性が向上した。中でもE121Gは、野生型Fc結合性タンパク質と比較し大幅に抗体結合活性が向上した。一方、配列番号1の121番目のグルタミン酸を、バリン(E121V)に置換した場合は野生型Fc結合性タンパク質とほぼ同等の抗体結合活性であり、プロリン(E121P)に置換した場合は野生型Fc結合性タンパク質と比較し抗体結合活性が低下した。
【0077】
実施例10 Fc結合性タンパク質発現ベクターの作製
発現ベクターpTrc99aに、配列番号75(MKYLLPTAAAGLLLLAAQPAMA)に記載のPelBシグナルペプチドのうち6番目のプロリン(P)がセリン(S)に置換されたシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入し、シグナルペプチドを含む発現ベクターを作製した。
(1)配列番号76(5’−CATGAAATACCTGCTGTCGACCGCTGCTGCTGGTCTGCTGCTCCTCGCTGCCCAGCCGGCGATGGC−3’)および配列番号77(5’−CATGGCCATCGCCGGCTGGGCAGCGAGGAGCAGCAGACCAGCAGCAGCGGTCGACAGCAGGTATTT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを等量混合し、95℃に5分間加熱後、1分間で1℃毎に温度を下げ、15℃に達したところで保持することで二本鎖オリゴヌクレオチドを作製した。
(2)(1)で作製した二本鎖オリゴヌクレオチドを、あらかじめ制限酵素NcoIで処理した発現ベクターpTrc99にライゲーションし、これを用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ製)を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を100μg/mLのカルベニシリンを含むLB培地により培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターpTrc−PelBV3を得た。
【0078】
実施例11 システインタグを付加したFc結合性タンパク質(FcRCys)の作製
(1)実施例1で作製したpET−eFcRを鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号21および配列番号78(5’−CCCAAGCTTATCCGCAGGTATCGTTGCGGCACCCTTGGGTAATGGTAATATTCACGGTCTCGCTGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。PCRは、表2に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル繰り返すことで実施した。
(2)(1)で得られたポリヌクレオチドを精製し、制限酵素NcoIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した実施例10で作製の発現ベクターpTrc−PelBV3にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌W3110株を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を100μg/mLのカルベニシリンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて、発現ベクターpTrc−eFcRCysを得た。
(4)pTrc−eFcRCysのヌクレオチド配列の解析を、配列番号79(5’−TGTGGTATGGCTGTGCAGG−3’)または配列番号80(5’−TCGGCATGGGGTCAGGTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをシーケンス用プライマーに使用した以外は、実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0079】
発現ベクターpTrc−eFcRCysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号81に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号82にそれぞれ示す。なお配列番号81において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが6番目のプロリンがセリンに置換されたPelBシグナルペプチドであり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがFc結合性タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。
【0080】
実施例12 システインタグを付加したFcR5a(FcR5aCys)の作製
(1)実施例4(c)で作製したpET−FcR5aを鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号21および配列番号78に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例11(1)と同様の方法でPCRを行なった。
(2)実施例11(2)と同様の方法で(1)で作製したPCR産物をpTrc−PelBV3発現ベクターにライゲーションし大腸菌W3110株を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を100μg/mLのカルベニシリンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて、発現ベクターpTrc−FcR5aCysを得た。
(4)pTrc−FcR5aCysのヌクレオチド配列の解析を、配列番号79または配列番号80に記載のオリゴヌクレオチドをシーケンス用プライマーに使用した以外は実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0081】
発現ベクターpTrc−FcR5aCysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号83に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号84にそれぞれ示す。なお配列番号83において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが6番目のプロリンがセリンに置換されたPelBシグナルペプチドであり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがFcR5aのアミノ酸配列(配列番号37の33番目から208番目までの領域に相当)、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。
【0082】
実施例13 システインタグを付加したFcR9(FcR9Cys)の作製
(1)実施例7(ii)で作製したpET−FcR9を鋳型とし、配列番号21および配列番号78に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例11(1)と同様の方法でPCRを行なった。
(2)実施例11(2)と同様な方法で(1)で作製したPCR産物をpTrc−PelBV3発現ベクターにライゲーションし大腸菌W3110株を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を100μg/mLのカルベニシリンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて、発現ベクターpTrc−FcR9Cysを得た。
(4)pTrc−FcR9Cysのヌクレオチド配列の解析を、配列番号79または配列番号80に記載のオリゴヌクレオチドをシーケンス用プライマーに使用した以外は実施例1(5)と同様の方法で行なった。
【0083】
発現ベクターpTrc−FcR9Cysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号85に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号86に、それぞれ示す。なお配列番号85において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが6番目のプロリンがセリンに置換されたPelBシグナルペプチドであり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがFcR9のアミノ酸配列(配列番号59の33番目から208番目までの領域に相当)、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。
【0084】
実施例14 FcRCysの調製
(1)実施例11で作製したFcRCysを発現する形質転換体を2Lのバッフルフラスコに入った100μg/mLのカルベニシリンを含む400mLの2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
(2)グルコース10g/L、酵母エキス20g/L、リン酸三ナトリウム十二水和物3g/L、リン酸水素二ナトリウム十二水和物9g/L、塩化アンモニウム1g/Lおよび硫酸カナマイシン50mg/Lを含む液体培地1.8Lに、(1)の培養液180mLを接種し、3L発酵槽(バイオット製)を用いて本培養を行なった。温度30℃、pH6.9から7.1、通気量1VVM、溶存酸素濃度30%飽和濃度の条件に設定し、本培養を開始した。pHの制御には酸として50%リン酸、アルカリとして14%アンモニア水をそれぞれ使用し、溶存酸素の制御は撹拌速度を変化させることで制御し、撹拌回転数は下限500rpm、上限1000rpmに設定した。培養開始後、グルコース濃度が測定できなくなった時点で、流加培地(グルコース248.9g/L、酵母エキス83.3g/L、硫酸マグネシウム七水和物7.2g/L)を溶存酸素(DO)により制御しながら加えた。
(3)菌体量の目安として600nmの吸光度(OD600nm)が約150に達したところで培養温度を25℃に下げ、設定温度に到達したことを確認した後、終濃度が0.5mMになるようIPTGを添加し、引き続き25℃で培養を継続した。
(4)培養開始から約48時間後に培養を停止し、培養液を4℃で8000rpm、20分間の遠心分離により菌体を回収した。
(5)回収した菌体を20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.0)に5mL/1g(菌体)となるように懸濁し、超音波発生装置(インソネーター201M(商品名)、久保田商事製)を用いて、4℃で約10分間、約150Wの出力で菌体を破砕した。菌体破砕液は4℃で20分間、8000rpmの遠心分離を2回行ない、上清を回収した。
(6)(5)で得られた上清を、あらかじめ20mMのリン酸緩衝液(8mMリン酸二水素ナトリウム、12mMリン酸水素二ナトリウム)(pH7.0)で平衡化した140mLのTOYOPEARL CM−650M(東ソー製)を充填したVL32×250カラム(メルクミリポア製)に流速5mL/分でアプライした。平衡化に用いた緩衝液で洗浄後、0.5Mの塩化ナトリウムを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.0)で溶出した。
(7)(6)で得られた溶出液を、あらかじめ150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で平衡化したIgGセファロース(GEヘルスケア製)90mLを充填したXK26/20カラムカラム(GEヘルスケア製)にアプライした。平衡化に用いた緩衝液で洗浄後、0.1Mのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)で溶出した。なお溶出液は、溶出液量の1/4量の1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加えることでpHを中性付近に戻した。
【0085】
前記精製により、高純度のFcRCysを約12mg得た。
【0086】
実施例15 Fc結合性タンパク質(FcR)固定化ゲルの作製と抗体分離
(1)2mLの分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー製:トヨパール)の表面の水酸基をヨードアセチル基で活性化後、実施例14で調製したFcRCysを4mg反応させることにより、FcR固定化ゲルを得た。
(2)(1)で作製したFcR固定化ゲル0.5mLをφ4.6mm×75mmのステンレスカラムに充填してFcRカラムを作製した。
(3)(2)で作製したFcRカラムを高速液体クロマトグラフィー装置(東ソー製)につなげ、20mMの酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化した。
(4)PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)で4.0mg/mLに希釈したモノクローナル抗体(リツキサン、全薬工業製)を流速0.3mL/minにて0.15mLアプライした。
(5)流速0.3mL/minのまま平衡化緩衝液で2分洗浄後、10mMのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)によるpHグラジエント(38分で10mMのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)が100%となるグラジエント)で吸着したモノクローナル抗体を溶出した。
【0087】
結果(溶出パターン)を図2に示す。モノクローナル抗体はFcRと相互作用するため、ゲルろ過クロマトグラフィーのような単一のピークではなく、複数のピークに分離された。
【0088】
実施例16 FcR固定化ゲルで分離した抗体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性測定
(1)実施例15に記載の溶出条件でモノクローナル抗体を分離し、図2に記載の溶出パターン中のフラクションA(FrA)およびフラクションB(FrB)の領域を分取した。
(2)分取したFrAおよびFrBを限外ろ過膜(メルクミリポア製)で濃縮しながらPBS(10mMリン酸水素二ナトリウム、1.76mMリン酸二水素カリウム、137mM塩化ナトリウム、2.7mM塩化カリウム)(pH7.4)に緩衝液を交換した。
(3)濃縮、緩衝液交換したFrAおよびFrBに含まれる抗体、ならびに分離前のモノクローナル抗体の濃度を280nmの吸光で測定した。
(4)以下に示す方法で、FrAおよびFrBに含まれる抗体ならびに分離前のモノクローナル抗体が有するADCC活性を測定した。
(4−1)1.4mLのLow IgG Serumと33.6mLのRPMI1640培地とを混合して調製したADCC Assay Bufferを用いてFrA、FrBに含まれるモノクローナル抗体ならびに分離前のモノクローナル抗体を3μg/mLから1/3希釈で8段階の希釈系列を調製した。
(4−2)Raji細胞をADCC Assay Bufferにて約5×10cells/mLに調製し、96ウェルプレート(3917:コーニング社)に25μL/wellで加えた。
(4−3)Raji細胞を加えたwellに(2)で調整したFrA、FrB、分離前のモノクローナル抗体、ブランクのADCC Assay Bufferのみを25μL/well加えた。
(4−4)Effector細胞(プロメガ社)をADCC Assay Bufferにて約3.0×10cells/mLに調製し、Raji細胞および抗体を加えたwellに25μL/wellで加えた。その後、COインキュベーター(5%CO、37℃)に6時間静置した。
(4−5)96穴プレートを室温で5分から30分間静置した後、Luciferase Assay Reagent(プロメガ製)を75μL/wellで加えた。室温で30分反応させたのち、GloMax Multi Detection System(プロメガ社)で発光を測定した。
【0089】
実施例15に記載の溶出条件で分取したFrAおよびFrBならびに分離前のモノクローナル抗体の発光強度を比較した結果を図3に示す。なお図3の結果は、測定した発光強度からブランクの発光強度を引いた値を示しており、発光強度が高いほど、ADCC活性が高いことを意味している。
【0090】
分離前のモノクローナル抗体と比較し、FrAの発光強度は低下している一方、FrBの発光強度は約1.4倍に向上していた。つまり、FrBは分離前のモノクローナル抗体およびFcAと比べてADCC活性が高いことがわかる。またFcR固定化ゲルからの溶出が遅い(カラムに保持される時間が長い)フラクション(FrB)にADCC活性の強い抗体が含まれていることから、FcR固定化ゲルはADCC活性の強さに基づいて分離できることがわかる。
【0091】
実施例17 FcR5a固定化ゲルによる抗体分離
(1)実施例12で作製したFcR5aCysを発現する形質転換体を用いて実施例14と同様な方法で調製することで、高純度のFcR5aCysを約20mg得た。
(2)実施例15(1)と同様な方法でFcR5aCys固定化ゲルを得た後、当該ゲル0.5mLをφ4.0mm×40mmのステンレスカラムに充填しFcR5aカラムを作製した。
(3)FcR5aカラムを用いて実施例15の(3)から(5)と同様の方法でモノクローナル抗体(リツキサン、全薬工業製)を分離した。
【0092】
結果(溶出パターン)を図4に示す。モノクローナル抗体はFcR5aと相互作用するため、ゲルろ過クロマトグラフィーのような単一のピークではなく、複数のピークに分離された。
【0093】
実施例18 FcR5a固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性測定
(1)実施例17に記載の溶出条件でモノクローナル抗体を分離し、図4に記載の溶出パターン中のフラクションA(FrA)およびフラクションB(FrB)の領域を分取した。
(2)分取したFrAおよびFrBを実施例16(2)と同様な方法で濃縮および緩衝液交換を行なった。
(3)濃縮、緩衝液交換したFrAおよびFrBに含まれる抗体、ならびに分離前のモノクローナル抗体の濃度を280nmの吸光で測定した。
(4)FrAおよびFrBに含まれる抗体ならびに分離前のモノクローナル抗体が有するADCC活性を実施例16(4)と同様の方法にて測定した。
【0094】
実施例17に記載の溶出条件で分取したFrAおよびFrBならびに分離前のモノクローナル抗体の発光強度を比較した結果を図5に示す。なお図5の結果は、測定した発光強度からブランクの発光強度を引いた値を示しており、発光強度が高いほど、ADCC活性が高いことを意味している。
【0095】
FrAは分離前のモノクローナル抗体とほぼ同程度の発光強度であることからADCC活性はほぼ同等といえる。一方、FrBは分離前のモノクローナル抗体と比べて約3.2倍、FrAに比べても2.5倍に向上していた。つまり、FrBは分離前のモノクローナル抗体およびFrAと比べてADCC活性が高いことがわかる。またFcR5a固定化ゲルからの溶出が遅い(カラムに保持される時間が長い)フラクション(FrB)にADCC活性の強い抗体が含まれていることから、FcR5a固定化ゲルはADCC活性の強さに基づいて分離できることがわかる。
【0096】
実施例19 FcR9固定化ゲルによる抗体分離
(1)実施例13で作製したFcR9Cysを発現する形質転換体を用いて実施例14と同様な方法で調製することで、高純度のFcR9Cysを約150mg得た。
(2)実施例15(1)と同様な方法でFcR9Cys固定化ゲルを得た後、当該ゲル0.5mLをφ4.0mm×40mmのステンレスカラムに充填しFcR9カラムを作製した。
(3)FcR9カラムを用いて実施例15の(3)から(5)と同様の方法でモノクローナル抗体(リツキサン、全薬工業製)を分離した。
【0097】
結果(溶出パターン)を図6に示す。モノクローナル抗体はFcR9と相互作用するため、ゲルろ過クロマトグラフィーのような単一のピークではなく、複数のピークに分離された。
【0098】
実施例20 FcR9固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性測定
(1)実施例19に記載の溶出条件でモノクローナル抗体を分離し、図6に記載の溶出パターン中のフラクションA(FrA)、フラクションB(FrB)およびフラクションC(FrC)の領域を分取した。
(2)分取したFrA、FrBおよびFrCを実施例16(2)と同様な方法で濃縮および緩衝液交換を行なった。
(3)濃縮、緩衝液交換したFrA、FrBおよびFrCに含まれる抗体、ならびに分離前のモノクローナル抗体の濃度を280nmの吸光で測定した。
(4)FrA、FrB、FrCに含まれる抗体ならびに分離前のモノクローナル抗体が有するADCC活性を実施例16(4)と同様の方法にて測定した。
【0099】
実施例19に記載の溶出条件で分取したFrA、FrBおよびFrCならびに分離前のモノクローナル抗体の発光強度を比較した結果を図7に示す。なお図7の結果は、測定した発光強度からブランクの発光強度を引いた値を示しており、発光強度が高いほど、ADCC活性が高いことを意味している。
【0100】
FrAおよびFrBは分離前のモノクローナル抗体よりADCC活性がやや低いといえる。一方、FrCは分離前のモノクローナル抗体と比べてADCC活性が約1.6倍に向上していた。つまりFrCはFrAおよびFrBならびに分離前のモノクローナル抗体と比べてADCC活性が高いことがわかる。またFcR9固定化ゲルからの溶出が遅い(カラムに保持される時間が長い)フラクション(FrC)にADCC活性の強い抗体が含まれていることから、FcR9固定化ゲルはADCC活性の強さに基づいて分離できることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]