(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
[1.実施形態]
(1.1.巻取装置の構造)
図1は、本発明の一実施形態に係る巻取装置100を模式的に示す斜視図である。また、
図2は、本発明の一実施形態に係る巻取装置100を模式的に示す正面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る巻取装置100は、長尺フィルム200を巻き取ってフィルムロール300を製造するためのフィルムロール製造装置であって、巻き芯110と、巻き芯110用の回転駆動装置としての巻き芯モーター120と、タッチロール130と、タッチロール130用の位置調整装置としてのアーム140とを備える。
【0013】
巻き芯110は、長尺フィルム200を巻き取りうるように、当該巻き芯110の周方向に回転可能に設けられた部材である。巻き芯110としては、通常、長尺フィルム200の幅W以上の長さを有する円柱状又は円筒状の部材を用いる。この巻き芯110には、巻き芯110を回転駆動しうる巻き芯モーター120が、図示しないギア機構等の動力伝達機構によって接続されている。また、巻き芯モーター120には、巻き芯モーター120の回転数を計測しうる回転数計としてのエンコーダ(図示省略)が設けられている。
【0014】
タッチロール130は、当該タッチロール130の周方向に回転可能、且つ、巻き芯110の径方向に移動可能に設けられたロールである。このタッチロール130は、巻き芯110に巻き取られる直前の長尺フィルム200を巻き掛けうるように、巻き芯110又は製造途中のフィルムロール300へ長尺フィルム200が進入する位置に、巻き芯110と平行に且つ巻き芯110に対向して設けられている。ここで、製造途中のフィルムロール300とは、巻き芯110に長尺フィルム200を巻き取って製造されるフィルムロール300であって、長尺フィルム200の巻き取りが完了していないものを指す。また、タッチロール130は、巻き芯110に巻き取られて製造途中のフィルムロール300の一部となった長尺フィルム200のうち、最も外にある長尺フィルム200に接しうるように設けられている。さらに、タッチロール130は、製造途中のフィルムロール300を巻き芯110の中心(即ち、巻き芯110の回転中心)に向かって所定の荷重で押しうるように設けられている。タッチロール130は、長尺フィルム200の幅W以上の長さを有する単一の円柱状又は円筒状の部材であり、長尺フィルム200と接しうる範囲においては一定の径を有している。
【0015】
前記のタッチロール130は、アーム140によって支持されている。アーム140は、巻き芯110の径方向におけるタッチロール130の位置を調整しうるように、巻き芯110の径方向において移動可能に設けられている。この際、アーム140の位置は、長尺フィルム200の巻取量に応じて設定されうる。具体的には、アーム140は、長尺フィルム200の巻取量が大きくなるに従ってフィルムロール300の径が大きくなった場合に、タッチロール130を巻き芯110の径方向に移動させて、タッチロール130を巻き芯110から離しうるように設けられている。また、アーム140には、当該アーム140に取り付けられたタッチロール130が製造途中のフィルムロール300を所定の力で押せるように、図示しない付勢装置としてのエアーシリンダーが設けられている。
【0016】
さらに、巻取装置100には、長尺フィルム200の搬送速度を計測しうる図示しない巻取速度計が設けられている。このような巻取速度計としては、例えば、タッチロール130よりも上流にテンションカットロールが設けられている場合、そのテンションカットロールに接続されたエンコーダを用いうるが、巻取速度計はこれに限定されない。
【0017】
(1.2.長尺フィルムの概要)
次に、上述した巻取装置100を用いて巻き取られる長尺フィルム200を説明する。
フィルムロール300の製造に用いうる長尺フィルム200は、当該フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上、好ましくは10倍以上の長さを有するフィルムであり、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムである。
【0018】
図3は、本発明の一実施形態に係る巻取装置100によって巻き取られる長尺フィルム200を、当該長尺フィルム200の長手方向に垂直な平面で切った断面を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係る巻取装置100で巻き取られる長尺フィルム200は、長尺フィルム200の幅方向の両端部に設けられたナール部210及び220と、これらのナール部210及びナール部220の間に設けられた平坦部230とを含む。
【0019】
ナール部210は、長尺フィルム200の幅方向の片方の端部に設けられた、複数の凸部211を有する部分である。また、ナール部220は、長尺フィルム200の幅方向のもう片方の端部に設けられた、複数の凸部221を有する部分である。前記の凸部211及び221は、例えばエンボス加工により形成されることがありえるので、これらの凸部211及び221の裏側には凹部212及び222が形成されていてもよい。ただし、ナール部210及び220においては、凹部212及び222は形成されていなくてもよい。
【0020】
ナール部210及び220は、
図1に示すように、通常、長尺フィルム200の長尺方向に平行に延在する帯状の部分となっている。また、これらのナール部210及び220に挟まれる平坦部230は、通常、長尺フィルム200の長尺方向に平行に延在する帯状の部分となっている。長尺フィルム200において、ナール部210及び220は、
図3に示すように、凸部211及び221を有する分だけ、厚みが平坦部230よりも厚くなっている。
【0021】
ナール部210及び220は、長尺フィルム200の端部において、長尺フィルム200の縁213及び223から所定の距離だけ離間した位置に形成してもよく、縁213及び223の直ぐ内側に形成するようにしてもよい。長尺フィルム200の縁213及び223から離間してナール部210及び220が設けられている場合、長尺フィルム200の縁213及び223からナール部210及び220までの距離は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、特に好ましくは3mm以下である。
【0022】
図1に示すように、ナール部210及び220の幅W
210及びW
220は、それぞれ、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、特に好ましくは7mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは18mm以下、特に好ましくは16mm以下である。
さらに、ナール部210及び220の幅W
210及びW
220は、それぞれ、長尺フィルム200の幅Wに対して、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上であり、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
ナール部210及び220の幅W
210及びW
220を前記範囲の下限値以上にすることによってフィルムロール300がその自重を効果的に支えることができ、また、上限値以下にすることによって製品幅を広くし低コスト化を図ることができる。ここで、ナール部210の幅W
210とナール部220の幅W
220とは、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0023】
ナール部210及び220に形成されている凸部211及び221の形状は、任意であり、例えば、円柱状、角柱状、円錐状、角錐状、円錐台状、角錐台状、球の一部を切り欠いた形状、などが挙げられる。また、各凸部211及び221の形状は、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0024】
凸部211及び221の高さH
cは、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、特に好ましくは5μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、特に好ましくは16μm以下である。凸部211及び221の高さH
cを前記範囲の下限値以上にすることによって、フィルムロール300において長尺フィルム200間に適度な空気層を形成できる。また、上限値以下にすることによってフィルムロール300において長尺フィルム200間に適度な空気層を形成できる。さらに、上限値以下にすることで、ナール部210及び220と平坦部230との段差を小さくできるので、フィルムロール300のシワを抑制できる。凸部211及び221の高さH
cは一定でなくてもよく、上記範囲において、製造途中のフィルムロール300の巻径に応じて値を任意に変化させてもよい。
【0025】
凸部211及び221の径D
cは、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、特に好ましくは300μm以上であり、好ましくは5000μm以下、より好ましくは4000μm以下、特に好ましくは3000μm以下である。凸部211及び221の径D
cを前記範囲の下限値以上にすることによってフィルムロール300がその自重を効果的に支えることができ、また、上限値以下にすることによって凸部211及び221を多く設けられるので圧力の分散ができる。
【0026】
凸部211及び221のピッチP
cは、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、特に好ましくは300μm以上であり、好ましくは5000μm以下、より好ましくは4000μm以下、特に好ましくは3000μm以下である。凸部211及び221のピッチP
cを前記範囲の下限値以上にすることによってフィルムロール300がその自重を効果的に支えることができ、また、上限値以下にすることによって凸部211及び221を多く設けられるので圧力の分散ができる。
【0027】
平坦部230は、ナール部210とナール部220との間に設けられた、凸部211及び221を有さない部分である。一般に、長尺フィルム200の平坦部230が、長尺フィルム200から製造される製品において有効部分として用いられる。
【0028】
長尺フィルム200の平坦部230の平均厚みT
eは、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは95μm以下、特に好ましくは90μm以下である。平坦部230の厚みT
eを前記範囲の下限値以上にすることによって凸部211及び221の形成を容易に行うことができ、また、上限値以下にすることによって長尺フィルム200の薄膜化による低コスト化ができる。
【0029】
長尺フィルム200の平坦部230の厚みのバラつきは、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下である。ここで、平坦部230の厚みのバラつきとは、平坦部230の厚みの最大値と最小値との差をいう。平坦部230の厚みのバラつきを前記範囲の上限値以下にすることによって均一な凸部の形成を容易に行うことができる。平坦部230の厚みのバラつきの下限は、特に好ましくは0μmであるが、工業生産性の観点から現実的には0.1μm以上である。
【0030】
長尺フィルム200の平坦部230の表側と裏側との接触面における静摩擦係数は、所定範囲に収まることが好ましい。前記の静摩擦係数は、具体的には、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.7以下である。また、前記の静摩擦係数の下限値に特に制限は無いが、好ましくは0.1以上である。長尺フィルム200の前記の静摩擦係数が前記範囲に収まることにより、フィルムロール300において長尺フィルム200間に適度な空気層を形成できる。
【0031】
長尺フィルム200の平坦部230の表側と裏側との接触面における静摩擦係数は、長尺フィルム200から切り取って得た試験片を用いて、JIS K 7125に準拠して測定しうる。この静摩擦係数を測定する際には、水平で平坦な支持面を有する支持台の前記支持面に、相手部材としての長尺フィルム200を置き、固定する。この際、長尺フィルム200の表側の面を、鉛直方向上向きにする。このように支持面に固定された長尺フィルム200上に、試験片を置く。この際、試験片は、その裏側の面を鉛直方向下向きにする。これにより、支持面に固定された長尺フィルム200の表側の面と、試験片の裏側の面とが接触する。そして、試験片上に所定の試験荷重の重りを置き、所定速度で試験片を引っ張ることで、前記のように接触した接触面における静摩擦係数を測定する。この際の測定条件は、試験速度を100mm/分、試験荷重を200g、試験方向を長尺フィルム200の長手方向、試験温度を23℃とする。同様の測定を5回行い、その算術平均値を、長尺フィルム200の平坦部230の表側と裏側との接触面における静摩擦係数の代表値とする。
【0032】
長尺フィルム200の長手方向における長尺フィルム200の平坦部230の引張弾性率は、所定範囲に収まることが好ましい。前記の引張弾性率は、具体的には、好ましくは500MPa以上、より好ましくは1000MPa以上、特に好ましくは1500MPa以上であり、好ましくは5000MPa以下、より好ましくは4500MPa以下、特に好ましくは4000MPa以下である。前記の引張弾性率を前記範囲の下限値以上にすることによって長尺フィルム200のコシを強くでき、また、上限値以下にすることによって長尺フィルム200に適用できる樹脂の範囲を広げることができる。
ここで、平坦部230の引張弾性率は、JIS K 7127に準拠して測定しうる。測定条件は、温度は23℃、引張速度は5mm/min、ロードセルは100N、試料形状はタイプ1B、初期長は50mmにしうる。
【0033】
長尺フィルム200の幅Wは、好ましくは300mm以上、より好ましくは500mm以上、特に好ましくは700mm以上であり、好ましくは3000mm以下、より好ましくは2800mm以下、特に好ましくは2600mm以下である。長尺フィルム200のフィルム幅Wを前記範囲の下限値以上にすることによって長尺フィルム200を広幅化できるので低コスト化を図ることができ、また、上限値以下にすることによって長期保管性の向上ができる。
【0034】
(1.3.フィルムロールの製造方法)
本実施形態に係る巻取装置100及び長尺フィルム200は、上述した構造を有している。このような巻取装置100を用いて長尺フィルム200を巻き取ってフィルムロール300を製造する場合、タッチロール130に長尺フィルム200を巻き掛ける工程と、タッチロール130に巻き掛けられた長尺フィルム200を巻き芯110に巻き取る工程とを含む、フィルムロール300の製造方法を行う。以下、この製造方法を説明する。
【0035】
本実施形態に係るフィルムロール300の製造方法では、
図1に示すように、長尺フィルム200を当該長尺フィルム200の長手方向に連続的に搬送して、タッチロール130に供給する。この際、長尺フィルム200の搬送速度は、通常、長尺フィルム200を巻き芯110で巻き取る際の巻取速度と等しい。したがって、長尺フィルム200の搬送速度は、所望の巻取速度が実現しうるように設定することが好ましい。長尺フィルム200の巻取速度の具体的な範囲は、好ましくは10m/min以上、より好ましくは15m/min以上、特に好ましくは20m/min以上であり、好ましくは150m/min以下、より好ましくは140m/min以下、特に好ましくは130m/min以下である。長尺フィルム200の巻取速度を前記の範囲に収めることにより、フィルムロール300の製造後における欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0036】
タッチロール130に供給された長尺フィルム200は、タッチロール130に巻き掛けられる。このとき、タッチロール130は、自由に回転可能に設けられているので、巻き掛けられた長尺フィルム200から与えられる摩擦力によって周方向に回転する。そして、このように回転するタッチロール130によって、長尺フィルム200は巻き芯110へと案内される。必要に応じて、タッチロール130には、当該タッチロール130を回転させるための駆動力が与えられていてもよい。例えば、タッチロール130と長尺フィルム200との摩擦力が小さかったり、タッチロール130が重い場合に、メカニカルロスを低減しうる程度に、タッチロール130に回転駆動力を与えてもよい。
【0037】
巻き芯110は、巻き芯モーター120から与えられる駆動力により、周方向に回転している。そのため、タッチロール130に巻き掛けられた状態で巻き芯110へ案内された長尺フィルム200は、巻き芯110に巻き取られる。そして、巻き芯110に巻き取られた長尺フィルム200により、フィルムロール300が形成される。この際、タッチロール130は、既に巻き芯110に巻き取られて製造途中のフィルムロール300の一部となった長尺フィルム200に接触するように、アーム140によって位置を調整されている。以下、既に巻き芯110に巻き取られて製造途中のフィルムロール300の一部となった長尺フィルム200にタッチロール130が接触する位置を、「巻取位置」ということがある。
図2に示すように、この巻取位置P
Wは、タッチロール130に巻き掛けられた長尺フィルム200が、巻き芯110又は製造途中のフィルムロール300に接触し始める位置である。
【0038】
巻き芯110で長尺フィルム200を巻き取る際、図示しないエアーシリンダーから与えられる付勢力により、タッチロール130は、製造途中のフィルムロール300を、巻き芯110の径方向に所定の荷重で押している。これにより、巻き芯110に巻き取られた長尺フィルム(即ち、製造途中のフィルムロール300に含まれる長尺フィルム)200は、巻き芯110の中心に向かって所定の荷重で押される。そのため、長尺フィルム200の巻き取りの際、製造途中のフィルムロール300の周面301と長尺フィルム200との間への空気の巻き込みは、抑制される。
【0039】
タッチロール130が製造途中のフィルムロール300を押す荷重の大きさは、通常5N/m以上、好ましくは10N/m以上、より好ましくは15N/m以上であり、通常150N/m以下、好ましくは130N/m以下、より好ましくは110N/m以下である。ここで、前記の荷重の単位「N/m」は、長尺フィルムの幅1m当たりに加えられる力の大きさを表す。前記の荷重の大きさを前記の範囲に収めることにより、フィルムロール300の製造後における欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0040】
タッチロール130が製造途中のフィルムロール300を押す荷重の大きさは、上記範囲において、製造途中のフィルムロール300の巻径に応じて値を任意に変化させてもよい。この場合、例えば、前記の荷重の大きさを、次第に小さくなるように変化させてもよく、次第に大きくなるように変化させてもよく、これらを組み合わせてもよい。中でも、タッチロール130が製造途中のフィルムロール300を押す荷重の大きさは、時間の経過に伴って次第に小さくなるように調整することが好ましい。このように荷重の大きさを次第に小さくすることを、荷重にテーパを設けるという。タッチロール130が製造途中のフィルムロール300を押す荷重にテーパを設けた場合、巻取開始時点の荷重に対して、巻き取り完了時点の荷重は、小さくなる。このとき、巻き取り開始時点の荷重に対する、巻き取り開始時点の荷重と巻き取り完了時点の荷重との差の比率を、荷重テーパ比率という。荷重テーパ比率は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、特に好ましくは7%以上であり、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、特に好ましくは40%以下である。このように荷重にテーパを設けることにより、品質を維持したままより長く長尺フィルム200を巻き取ることができる。また、荷重テーパ比率が上記範囲を逸脱しない範囲において、前記の荷重の変化の割合(単位時間当たりの荷重の変化量)は一定でなくてもよく、例えば、製造途中のフィルムロール300の巻径に応じて任意に変化させてもよい。
【0041】
巻き芯110で長尺フィルム200を巻き取る際、長尺フィルム200の巻取張力は、所定の範囲に収めることが好ましい。具体的な巻取張力の範囲は、好ましくは5N/m以上、より好ましくは10N/m以上、特に好ましくは15N/m以上であり、好ましくは200N/m以下、より好ましくは180N/m以下、特に好ましくは160N/m以下である。前記の巻取張力の単位「N/m」は、長尺フィルムの幅1m当たりに加えられる力の大きさを表す。長尺フィルム200の巻取張力を前記の範囲に収めることにより、フィルムロール300の製造後における欠陥の発生を効果的に抑制できる。
【0042】
長尺フィルム200の巻取張力は、上記範囲において、製造途中のフィルムロール300の巻径に応じて値を任意に変化させてもよい。この場合、例えば、前記の巻取張力を、次第に小さくなるように変化させてもよく、次第に大きくなるように変化させてもよく、これらを組み合わせてもよい。中でも、前記の巻取張力は、時間の経過に伴って次第に小さくなるように調整することが好ましい。このように巻取張力の大きさを次第に小さくすることを、巻取張力にテーパを設けるという。巻取張力にテーパを設けた場合、巻取開始時点の巻取張力に対して、巻き取り完了時点の巻取張力は、小さくなる。このとき、巻き取り開始時点の巻取張力に対する、巻き取り開始時点の巻取張力と巻き取り完了時点の巻取張力との差の比率を、張力テーパ比率という。張力テーパ比率は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、特に好ましくは7%以上であり、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、特に好ましくは40%以下である。このように巻取張力にテーパを設けることにより、品質を維持したままより長く長尺フィルム200を巻き取ることができる。また、張力テーパ比率が上記範囲を逸脱しない範囲において、巻取張力の変化の割合(単位時間当たりの巻取張力の変化量)は一定でなくてもよく、例えば、製造途中のフィルムロール300の巻径に応じて任意に変化させてもよい。
【0043】
長尺フィルム200は、時間の経過により収縮することがある。特に、長尺フィルム200として延伸処理を施された延伸フィルムを用いる場合、その収縮の程度は大きくなる傾向がある。このような収縮が生じると、長尺フィルムの長手方向の寸法が変化することがある。フィルムロール300の製造後から商業的に必要な保管期間(一般的には、3ヶ月〜6ヶ月程度)において、前記の長尺フィルム200の長手方向での寸法変化率は、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下、特に好ましくは0.5%以下である。巻き取られるときの長尺フィルム200の長手方向での寸法変化率を前記範囲の上限値以下にすることによって、巻取後の収縮による巻締りを低減でき、長期保存性の向上ができる。ここで、「巻締り」とは、長尺フィルム200の収縮によってフィルムロール300の径方向に軸中心に向かってかかる荷重が大きくなる現象をいう。
【0044】
ここで、長尺フィルム200を巻き取って得られるフィルムロール300の形状を説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール300を模式的に示す平面図である。ただし、
図4においては、フィルムロール300の軸方向の両端部310及び320と中間部330との間に生じうる径の違いを強調して示している。また、
図5は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール300の端部310又は320を、巻き芯110の軸に垂直な平面により切断した断面を模式的に示す断面図である。さらに、
図6は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール300の中間部330を、巻き芯110の軸に垂直な平面により切断した断面を模式的に示す断面図である。
図6においては、
図5に示したフィルムロール300の端部310又は320の断面を破線にて示す。
【0045】
長尺フィルム200では、長尺フィルム200の幅方向の両端部に設けられたナール部210及び220の方が、これらのナール部210及び220の間に設けられた平坦部230よりも、厚みが厚い(
図3参照)。そのため、
図4に示すように、長尺フィルム200を巻き芯110に巻き取って得たフィルムロール300においては、ナール部210及び220に対応する端部310及び320の径D
OUTが、平坦部230に対応する中間部330の径D
INよりも大きくなりうる。
【0046】
したがって、フィルムロール300の端部310及び320においては、巻き芯110から相対的に大きな力がかかり、これによって当該端部310及び320にある長尺フィルム200のナール部210及び220には、相対的に大きな張力が与えられる。よって、これらナール部210及び220の伸びは、相対的に大きくなる。また、フィルムロール300の端部310及び320は、前記のように相対的に大きな張力を有するナール部210及び220において長尺フィルム200が巻き芯110に巻き取られているので、当該端部310及び320の形状は、巻き芯110に相似した円柱形状となる。よって、
図5に示すように、フィルムロール300の端部310及び320の周形状は、円形となる。ここで周形状とは、別に断らない限り、フィルムロール300を巻き芯110の軸に垂直な平面によって切断した断面の外縁の形状をいう。この周形状は、レーザー変位計を用いて計測しうる。
【0047】
他方、フィルムロール300の中間部330においては、巻き芯110から相対的に小さい力がかかり、これによって中間部330にある長尺フィルム200の平坦部230には、相対的に小さい張力が与えられる。よって、これらの平坦部230の伸びは、相対的に小さくなる。したがって、巻き芯110に巻き取られてフィルムロール300の一部となった長尺フィルム200において、ナール部210及び220と平坦部230とで、伸びに差が生じる。長尺フィルム200の巻き取り量が少ないときは、フィルムロール300における端部310及び320と中間部330との径の差の影響が十分に小さいので、フィルムロール300の中間部330の形状は端部310及び320と同様となりうる。しかし、長尺フィルム200の巻き取り量が多くなると、前記の端部310及び320と中間部330との径の差の影響が大きくなり、ナール部210及び220と平坦部230との伸びの差が無視できなくなるので、フィルムロール300の中間部330の形状に変化が生じる。通常は、長尺フィルム200の巻き取り量が多くなると、フィルムロール300の中間部330の形状は略多角柱状となる。よって、
図6に示すように、フィルムロール300の中間部330の周形状は、略多角形状となりうる。このような略多角形状の周形状には、中間部330の半径が大きい複数の突出部位331と、中間部330の半径が隣り合う前記突出部位331よりも小さい複数の非突出部位332とが現れる。突出部位331での中間部330の半径R
331は、フィルムロール300の端部310及び320の半径R
310よりも大きくなって、中間部330は突出部位331で端部310及び320よりも径方向に張り出しうる。他方、非突出部位332での中間部330の半径R
332は、端部310及び320の半径R
310よりも小さくなって、中間部330は非突出部位332で端部310及び320よりも径方向に凹みうる。
【0048】
前記のようにフィルムロール300における端部310及び320と中間部330との径の差の影響が無視できないほど大きくなるのは、長尺フィルム200の巻き取り量が多くなった期間である。この期間は、通常、製造途中のフィルムロール300の巻径の演算値が巻き芯110の径Dの1.15倍以上になった期間である。本実施形態に係る製造方法の利点を有効に発揮させる観点から、本実施形態に係る製造方法では、製造途中のフィルムロール300の巻径の演算値が巻き芯110の径Dの1.15倍になる時点よりも長く、長尺フィルム200の巻き取りを行う。以下、製造途中のフィルムロール300の巻径の演算値が巻き芯110の径Dの1.15倍以上になった期間を、適宜「制御期間」ということがある。
【0049】
ここで、フィルムロール300の巻径の演算値とは、長尺フィルム200の巻取量に基づいて計算される演算時点でのフィルムロール300の直径を表し、通常は、軸方向の端部310及び320でのフィルムロール300の直径を表す。フィルムロール300の巻径の演算値は、長尺フィルム200の巻取速度及び巻き芯モーター120の回転数を用いて、下記の式により演算されうる。下記の式において、減速比は、巻き芯モーター120の回転駆動力を巻き芯110に伝えるギア機構に応じた値であり、巻取装置100に応じて設定される定数である。
【0051】
本実施形態では、巻き芯モーター120に接続されたエンコーダにより、巻き芯モーター120の回転数が測定されている。また、図示しない巻取速度計により、長尺フィルム200の巻取速度が測定されている。そして、これらの巻き芯モーター120の回転数及び巻取速度の値を用いて、フィルムロール300を製造している全期間において、フィルムロール300の巻径の演算値が演算されている。
ただし、実際に演算した場合に結果的に所望の条件でフィルムロール300の製造方法が実施されている限り、フィルムロール300の巻径の演算値は必ずしも演算されていなくても構わない。
【0052】
図7は、本発明の一実施形態に係る巻取装置100を模式的に示す平面図である。ただし、
図7においては、アーム140の図示は省略する。また、
図7においては、フィルムロール300の軸方向の両端部310及び320と中間部330との間に生じうる径の違いを強調して示している。
制御期間においては、製造途中のフィルムロール300の両端部(即ち、長尺フィルム200のナール部210及び220に対応する製造途中のフィルムロール300の部分)310及び320とタッチロール130とは、接触する。しかし、製造途中のフィルムロール300の中間部(即ち、長尺フィルム200の平坦部230に対応する製造途中のフィルムロール300の部分)330は、当該中間部330の形状が略多角柱状となるので、突出部位331ではタッチロール130と接触しうる一方、非突出部位332では
図7に示すようにタッチロール130との間に隙間340を生じうる。したがって、製造途中のフィルムロール300の中間部330とタッチロール130との間には、通常、巻き芯110及びフィルムロール300の回転の位相に応じて、隙間340が断続的に形成される。本実施形態に係る製造方法では、制御期間において、前記の隙間340の幅C
340を所定範囲に維持しながら、長尺フィルム200の巻き取りを行う。
【0053】
具体的には、制御期間における隙間340の幅C
340は、平均で、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常2mm以下、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。制御期間において隙間340の幅C
340を前記のように制御しながら長尺フィルム200を巻き取ることにより、フィルムロール300の製造後に長期間保存しても長尺フィルム200の平坦部230において欠陥を生じ難いフィルムロール300を得ることができる。
【0054】
前記の隙間340の幅C
340は、フィルム幅方向における中央位置での隙間340に投光器から平行光を照射し、前記投光器とは反対側から前記の隙間340をカメラで観察し、光が透過している部分のフィルムロール300とタッチロール130の距離を測定することにより測定しうる。製造途中のフィルムロール300の中間部330は略多角柱形状を有するので、前記の隙間340の幅C
340は一定にはなり難いが、制御期間において測定される隙間340の幅C
340の平均値を前記の範囲(通常0.1mm〜2mm)に収めることにより、欠陥を抑制できる。通常は、隙間340の幅C
340の変動幅が急な変化を生じないように巻き取りが行われるので、制御期間全体の平均値が前記の範囲に収まれば、欠陥の抑制が可能である。ただし、欠陥のより効果的な抑制を行うためには、0.2秒毎に測定した隙間340の幅C
340の測定値の5点移動平均が前記範囲に収まるようにすることが好ましい。
【0055】
前記の隙間340の幅C
340は、長尺フィルム200の物性及び寸法等の要素に応じて、長尺フィルム200の凸部211及び221の高さH
c、巻取張力、タッチロール130が製造途中のフィルムロール300を押す荷重、及び、これらの値を製造途中のフィルムロール300の巻径に応じて変化させる割合、等の巻取条件を調整することにより、制御しうる。
【0056】
ここで、上述した製造方法で製造されたフィルムロール300において長期間の保存後の欠陥の発生を抑制できる理由を、従来技術の例と対比しながら検討する。
図8は、従来技術の一例に係る製造方法で用いられる巻取装置400を模式的に示す斜視図である。また、
図9は、従来技術の一例に係る製造方法で用いられる巻取装置400を模式的に示す正面図である。
図8及び
図9を用いて示す従来の巻取装置400において、上述した本発明の一実施形態に係る巻取装置100と同様の部位には、巻取装置100に用いたのと同様の符号を付して示す。
【0057】
図8及び
図9に示すように、従来技術の一例に係る巻取装置400は、タッチロール130の代わりにニアロール430を備えること以外は、上述した本発明の一実施形態に係る巻取装置100と同様の構造を有する。また、ニアロール430は、巻き芯110及び製造途中のフィルムロール500に接しないようにアーム140によって位置を調整されていること以外は、タッチロール130と同様の構造を有する。このような巻取装置400を用いてフィルムロール500を製造する場合、長尺フィルム200をニアロール430に巻き掛けた後で長尺フィルム200を巻き芯110に巻き取り、フィルムロール500を得る。この際、ニアロール430に巻き掛けられた長尺フィルム200は、ニアロール430から離れた後に巻き芯110に巻き取られ、フィルムロール500を形成する。
【0058】
図10は、従来技術の一例に係る製造方法で製造されたフィルムロール500の中間部530を、巻き芯110の軸に垂直な平面により切断した断面を模式的に示す断面図である。
従来のフィルムロール500においては、通常、上述した本発明の一実施形態に係るフィルムロール300と同様に、フィルムロール500の中間部530が略多角柱状となり、その周形状は
図10に示すように略多角形状となる。したがって、従来のフィルムロール500の中間部530の周形状には、フィルムロール500の半径が大きい複数の突出部位531と、フィルムロール500の半径が隣り合う前記突出部位531よりも小さい複数の非突出部位532とが現れる。半径が大きい突出部位531では、長尺フィルム200に大きな張力がかかるので、通常、巻き重ねられた長尺フィルム200同士が密着する。他方、半径が小さい非突出部位532では、長尺フィルム200には大きい張力がかからないので、通常、巻き重ねられた長尺フィルム200同士が密着せず、長尺フィルム200同士の間に空気層(図示せず)が形成される。
【0059】
図11は、従来技術の一例に係る製造方法で製造されたフィルムロール500を模式的に示す平面図である。ただし、
図11においては、フィルムロール500の軸方向の両端部510及び520と中間部530との間に生じうる径の違いを強調して示している。また、
図11において、突出部位531は一点鎖線で示す。
図11に示すように、フィルムロール500の中間部530において、突出部位531は、巻き芯110の軸方向に平行に延在していることが多い。このように巻き芯110の軸方向に平行に延在する突出部位531は、「横段」と呼ばれることがある。ここで、突出部位531では、巻き重ねられた長尺フィルム200同士が密着しているので、長尺フィルム200の変位が拘束される。そのため、巻き取りの際に長尺フィルム200に与えられた張力は長尺フィルム200全体に分散せず、長尺フィルム200において応力の偏りが生じる。こうして生じた応力の偏りは、一般に、長尺フィルム200の座屈を招くので、フィルムロール500の非突出部位532においては多角形状(通常は、ひし形)の窪み540が形成される。そして、この窪み540の多角形状の辺に相当する位置には、シワ550が形成されることが多い。
【0060】
このようなシワ550は、その発生当初においては、長尺フィルム200を大きく折り曲げるものではない。しかし、フィルムロール500を長期間保存しておくと、長尺フィルム200の自重によって長尺フィルム200が鉛直下方に下がり、窪み540の凹み度合(深さ)が次第に大きくなる。そして、その窪み540の窪み度合が大きくなると、シワ550が生じている部分で長尺フィルム200の折れ曲がりの程度が大きくなる。長尺フィルム200が弾性限界を超えて大きく折れ曲がると、その折れ曲がった部分で長尺フィルム200が塑性変形を生じ、「ブツ」と呼ばれる欠陥が発生すると考えられる。
【0061】
他方、
図6に示すように、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されたフィルムロール300は、その中間部330において突出部位331が巻き芯110の軸方向に平行に延在していること、及び、当該突出部位331において巻き重ねられた長尺フィルム200同士が密着していることは、従来のフィルムロール500と同様である。しかし、本実施形態に係る製造方法では、タッチロール130と中間部330との間に形成されうる隙間340の幅C
340を調整しながら、長尺フィルム200の巻き取りを行っている(
図7参照)。この隙間340の幅C
340は、
図6に示すように、製造途中のフィルムロール300での端部310及び320と非突出部位332との半径の差(R
310−R
332)に相当する。また、非突出部位332での中間部330の半径R
332は、突出部位331の数(即ち、周形状としての多角形での角の数)及び突出部位331での中間部330の半径R
331に相関がある。したがって、隙間340の幅C
340を所定範囲に制御することにより、突出部位331の数を制御したり、端部310及び320からの突出部位331の張り出し量(R
331−R
310)を制御したりできるので、タッチロール130によって中間部330の突出部位331を押す力を特定の範囲に制御できる。
【0062】
これにより、製造途中のフィルムロール300の中間部330では、タッチロール130によって、非突出部位332を押すことなく、突出部位331が特定の力で選択的に押される。そうすると、中間部330において空気の巻き込みを効果的に抑制することができるので、フィルムロール300に含まれる長尺フィルム200間の空気層を減らすことができる。これにより、張力及び自重によって長尺フィルム200が変形できる空間を減らすことができるので、塑性変形を生じるほどに大きな変形の発生を抑制できる。そのため、長期間の保存後の欠陥の発生を抑制できるものと推察される。
ただし、本発明は、前記の推察によって限定されるものではない。
【0063】
また、本実施形態に係る製造方法においては、製造途中のフィルムロール300の両端部310及び320はタッチロール130に押されているので、これら両端部310及び320において長尺フィルム200同士の間の空気層を減らすことができる。そのため、長期間の保存をした場合に、フィルムロール300の自重による芯ズレを抑制できる。ここでフィルムロール300の自重による芯ズレとは、フィルムロール300を長期間保存した場合に、自重によって当該フィルムロール300に含まれる長尺フィルム200が下がり、結果として巻き芯110の位置がフィルムロール300の中心からずれる現象を言う。この芯ズレの程度は、巻き芯110の鉛直上方でのフィルムロール300の半径と、巻き芯110の鉛直下方でのフィルムロール300の半径との差によって評価できる。
【0064】
前述したように、本実施形態に係る製造方法では、製造途中のフィルムロール300の中間部330の突出部位331を特定の力で押す。よって、製造途中のフィルムロール300では、中間部330の突出部位331が端部310及び320よりも巻き芯110の径方向に張り出した状態で、長尺フィルム200を巻き取ることが好ましい。そのため、巻き取り開始から巻き取り終了までの期間において、製造途中のフィルムロール300では突出部位331での中間部330の半径R
331が端部310及び320の半径R
310以上であることが好ましく、具体的には下記の式(1)を満たすことが好ましい。
【0066】
前記式(1)において、
L
fは、長尺フィルム200の巻き取り長さを表し、
T
eは、長尺フィルム200の平坦部230の平均厚みを表し、
Dは、巻き芯110の外径を表し、
Nは、製造途中のフィルムロール300の軸方向中央での周形状における突出部位331の数を表す。
【0067】
式(1)の左辺は、製造途中のフィルムロール300の軸方向中央での周形状を正多角形に近似した場合の、突出部位331での中間部330の径に対応する値を表す。以下、前記式(1)について、説明する。以下の説明においては、別に断らない限り、断面とは巻き芯110に垂直な平面によって切断した断面を表す。
【0068】
製造途中のフィルムロール300の端部310又は320を切断した断面の断面積は、巻き取られた長尺フィルム200の全断面積と、巻き芯110の断面積との和になる。この際、フィルムロール300では長尺フィルム200の凸部211及び221が圧縮により弾性変形するので、長尺フィルム200の厚みは、長尺フィルム200の全体において平坦部230の平均厚みT
eで近似できる。よって、巻き取られた長尺フィルム200の全断面積は「L
f×T
e」で表され、巻き芯110の断面積は「π×D
2/4」で表される。
【0069】
また、製造途中のフィルムロール300の端部310又は320の断面は円形であるので、この断面の面積は、端部310又は320の直径D
OUTを用いて、「π×D
OUT2/4」で表される。
したがって、
L
f×T
e + π×D
2/4 = π×D
OUT2/4
が成立する。これを整理すると、端部310又は320の直径D
OUTは、下記のように表せる。
【0071】
そうすると、端部310又は320の周の長さL
Cは、端部310又は320の断面の円周の長さと同じであるので、下記のように表せる。
【0073】
長尺フィルム200の巻取速度は、通常、そのナール部210及び220と平坦部230とで同じである。また、長尺フィルム200のナール部210及び220と平坦部230との伸びの差は、通常0.1%以下であるので、巻き芯110が一回転する期間での巻取量よりも十分に小さく、計算上は無視できる。そのため、製造途中のフィルムロール300では、端部310又は320の周の長さL
Cを、中間部330の周の長さL
Pに近似できる。
【0074】
図12は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール300の中間部330を、フィルムロール300の軸方向中央で、巻き芯110の軸に垂直な平面により切断した断面を模式的に示す断面図である。また、
図12においては、フィルムロール300の端部310又は320の断面を破線にて示す。
図12に示すように、製造途中のフィルムロール300の軸方向中央での周形状が正多角形であると仮定する。この正多角形の全ての辺の長さの合計は、中間部330の周の長さL
Pと同じである。そうすると、この正多角形の1辺L1の長さL
L1は、下記のように表される。
【0076】
ここで、フィルムロール300の中心点P
0から、前記の正多角形の頂点P
1に線分L2を引く。また、中心点P
0から、頂点P
1を末端に有する正多角形の辺L1に垂線L3を引き、辺L1と垂線L3との交点を点P
2とする。このとき、線分P
1−P
2の長さL
P1P2は、正多角形の1辺L1の長さL
L1の半分であるので、下記のように表される。
【0078】
中心点P
0、頂点P
1及び交点P
2を頂点とする三角形は、直角三角形であり、線分L2と垂線L3とがなす角の大きさθは「360°/(2×N)」である。また、この直角三角形の斜辺である線分L2の長さは、
図12から分かるように、突出部位331での中間部330の半径R
331を表す。したがって、下記の式が成立する。
【0080】
ここで、製造途中のフィルムロール300で突出部位331での中間部330の半径R
331が端部310及び320の半径R
310以上となっている場合、突出部位331での中間部330の半径R
331と端部310及び320の半径R
310とは、
R
331 ≧ R
310
を満たす。端部310及び320の半径R
310は、「製造途中のフィルムロールの巻径の演算値」の半分の値である。よって、前記の不等式は、下記式のように表される。
【0082】
この式の両辺に2を乗ずることにより、前述の式(1)が得られる。このように、式(1)により、製造途中のフィルムロール300の突出部位331での中間部330の半径R
331が、端部310及び320の半径R
310以上となっていることが表されている。よって、式(1)を満たす場合、通常は、フィルムロール300の中間部330の突出部位331が端部310及び320よりも巻き芯110の径方向に張り出ているので、好ましい巻き取りを行うことができる。
【0083】
ただし、長尺フィルム200の巻き取り長さが長くなると、前記の式(1)が成立せず、フィルムロール300の突出部位331での中間部330の半径R
331が端部310及び320の半径R
310よりも小さくなることがありえる。したがって、長尺フィルム200の巻き取りは、前記の式(1)が成立する期間内に終了することが好ましい。
【0084】
上述した製造方法により、長尺フィルム200を巻き芯110に巻き取ったフィルムロール300が得られる。こうして得られたフィルムロール300は、前記のように、長期間の保存後において欠陥の発生を抑制できる。また、このフィルムロール300は、通常、芯ズレを抑制できる。
【0085】
さらに、このフィルムロール300によれば、通常、端部310及び320と中間部330との境界付近においてシワの発生を抑制できる。このようなシワは、フィルムロールの端部のみをタッチロールで押したり、フィルムロールの中間部のみをタッチロールで押したり、フィルムロールの端部と中間部とを異なるタッチロールで押したりする従来技術において生じることがあった。特に、前記のようなシワは、特に巻取速度が速い場合及び長尺フィルムの厚みが薄い場合に生じ易かった。しかし、上述した実施形態に係る製造方法で製造されるフィルムロール300では、速い巻取速度で巻き取りを行ったり厚みの薄い長尺フィルム200を用いたりした場合でも、通常は、前記のようなシワの発生を抑制できる。
【0086】
また、従来は、フィルムロールの端部又は中間部をタッチロールで選択的に押す場合、タッチロールの正確な位置調整が求められることがあった。これに対し、上述した実施形態に係る製造方法では、長尺フィルム200の幅方向におけるタッチロール130の位置調整が不要であるので、巻き取り時の制御をシンプルにできる。さらに、長尺フィルム200の幅方向におけるフィルムロール300の端部310及び320並びに中間部330の位置に応じたタッチロール130の位置調整が不要であるので、長尺フィルム200の幅によらず共通の巻取装置100を使用できる。したがって、フィルム幅の異なる長尺フィルム200を共通の巻取装置100で容易に巻き取ることが可能である。
さらに、上述した製造方法では、タッチロール130の数が1本であるので、巻取装置100の装置構成をシンプルにすることが可能である。
【0087】
上述したようにして製造されるフィルムロール300の巻取り長は、好ましくは2000m以上、より好ましくは2500m以上、特に好ましくは3000m以上であり、好ましくは6000m以下、より好ましくは5800m以下、特に好ましくは5600m以下である。従来は、前記範囲の下限値以上の巻取り長のフィルムロールにおいて欠陥が生じ易かったが、上述した製造方法で製造するフィルムロール300の巻取り長を前記範囲の下限値以上にすることにより、本発明の利点を特に有効に活用できる。また、フィルムロール300の巻取り長を前記範囲の上限値以下にすることにより、欠陥の発生をより安定して抑制できる。
【0088】
また、製造されたフィルムロール300の巻回数に制限は無いが、好ましくは500回以上、より好ましくは1000回以上、特に好ましくは1500回以上であり、好ましくは8000回以下、より好ましくは7000回以下、特に好ましくは6000回以下である。
【0089】
さらに、製造されたフィルムロール300の径に制限はないが、好ましくは200mm以上、より好ましくは250mm以上、特に好ましくは300mm以上であり、好ましくは1000mm以下、より好ましくは950mm以下、特に好ましくは900mm以下である。
【0090】
また、製造されたフィルムロール300の中間部330での突出部位331の数は、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、特に好ましくは9以上であり、好ましくは30以下、より好ましくは28以下、特に好ましくは26以下である。突出部位331の数を前記の範囲に収めることにより、欠陥の発生を抑制し易い。ここで、突出部位331の数は、フィルムロール300の中間部330での周形状をレーザー変位計を用いて計測し、計測された周形状において周囲よりも突出した突出部位331の数を数えることで求めうる。
【0091】
(1.4.変形例)
以上、本発明の一実施形態に係るフィルムロールの製造方法について説明したが、本発明は更に変更して実施してもよい。
例えば、上述した実施形態では、巻き芯モーター120の回転数を計測するための回転数計として巻き芯モーター120に設けられたエンコーダを用いたが、エンコーダ以外の回転数計を用いてもよい。
さらに、例えば、上述した巻取装置100は、前記実施形態において説明した要素に組み合わせて更に任意の要素を備えていてもよい。
【0092】
[2.長尺フィルムの製造方法]
上述したフィルムロールの製造方法に適用しうる長尺フィルムとしては、通常、樹脂からなる基材フィルム層を備えるフィルムを用いる。基材フィルム層を構成する樹脂としては、任意の重合体を含む樹脂を用いうる。中でも、基材フィルム層を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、脂環式構造含有重合体樹脂が特に好ましい。脂環式構造含有重合体樹脂は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂であり、透明性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などの特性に優れる。
【0093】
脂環式構造含有重合体は、重合体の構造単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖に脂環式構造を有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を有する重合体のいずれを用いてもよい。また、脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0094】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0095】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲である。これにより、基材フィルム層の機械強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0096】
脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、基材フィルム層の透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0097】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、ノルボルネン重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及び、これらの水素添加物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適である。
【0098】
ノルボルネン重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素添加物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素添加物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0099】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって、複数個が環に結合していてもよい。また、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0101】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合が可能な任意の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状共役ジエン及びその誘導体;などが挙げられる。ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合が可能な任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0102】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0103】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合が可能な任意の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素原子数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合が可能な任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0104】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0105】
上述した開環重合体及び付加重合体の水素添加物は、例えば、これらの開環重合体及び付加重合体の溶液において、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む水素添加触媒の存在下で、炭素−炭素不飽和結合を、好ましくは90%以上水素添加することによって製造しうる。
【0106】
ノルボルネン重合体の中でも、構造単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの構造単位の量が、ノルボルネン重合体の構造単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの割合とYの割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような重合体を用いることにより、基材フィルム層を、長期的に寸法変化がなく、特性の安定性に優れるものにできる。
【0107】
基材フィルム層を構成する樹脂に含まれる重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。ここで、前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサンを用いて(但し、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、長尺フィルムの機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ、好適である。
【0108】
基材フィルム層を構成する樹脂に含まれる重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。分子量分布を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高め、コストを抑制することができる。また、上限値以下にすることにより、低分子量成分を減らすことができるので、緩和時間を長くできる。そのため、高温曝露時の緩和を抑制でき、基材フィルム層の安定性を高めることができる。
【0109】
基材フィルム層を構成する樹脂における重合体の割合は、好ましくは50重量%〜100重量%であり、より好ましくは70重量%〜100重量%である。特に、基材フィルム層を構成する樹脂として脂環式構造含有重合体樹脂を用いる場合、脂環式構造含有重合体樹脂に含まれる脂環式構造含有重合体の割合は、好ましくは80重量%〜100重量%、より好ましくは90重量%〜100重量%である。
【0110】
基材フィルム層を構成する樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、重合体以外に任意の成分を含んでいてもよい。その任意の成分の例を挙げると、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;耐電防止剤;酸化防止剤;滑剤;界面活性剤などの添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0111】
基材フィルム層を構成する樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、10×10
−12Pa
−1以下であることが好ましく、7×10
−12Pa
−1以下であることがより好ましく、4×10
−12Pa
−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、「C=Δn/σ」で表される値である。樹脂の光弾性係数を前記範囲に納めることにより、基材フィルム層でのレターデーションのバラツキを小さくできる。
【0112】
基材フィルム層を構成する樹脂の飽和吸水率は、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が前記範囲であると、基材フィルム層のレターデーション等の特性の経時変化を小さくすることができる。
【0113】
飽和吸水率は、試験片を一定温度の水中に一定時間浸漬して増加した質量を、浸漬前の試験片の質量に対する百分率で表した値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。樹脂の飽和吸水率は、例えば、当該樹脂に含まれる重合体中の極性基の量を減少させることにより、前記の範囲に調節することができる。したがって、飽和吸水率をより低くする観点から、基材フィルム層を構成する樹脂に含まれる重合体は、極性基を有さないことが好ましい。
【0114】
基材フィルム層が含む揮発性成分の量は、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。揮発性成分の量を前記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、基材フィルム層の特性の経時変化を小さくすることができる。ここで、揮発性成分とは、分子量200以下の物質である。揮発性成分としては、例えば、残留単量体及び溶媒などが挙げられる。揮発性成分の量は、分子量200以下の物質の合計として、ガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0115】
基材フィルム層は、樹脂を任意のフィルム成形法で成形することによって製造しうる。フィルム成形法としては、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。中でも、溶媒を使用しない溶融押出法は、揮発性成分の量を効率よく低減させることができ、地球環境の観点、作業環境の観点、及び、製造効率の観点から好ましい。溶融押出法としては、例えばダイスを用いるインフレーション法などが挙げられ、生産性及び厚み精度に優れる点で、Tダイを用いる方法が好ましい。
【0116】
長尺フィルムは、1層のみ備える単層構造のフィルムであってもよく、2層を以上備える複層構造のフィルムであってもよい。長尺フィルムが複層構造を有する場合、長尺フィルムは、前記の基材フィルム層に組み合わせて、任意の層を備えていてもよい。
【0117】
任意の層としては、例えば、傷付防止性、反射防止性、帯電防止性、防眩性、防汚性、易滑性、易接着性等の特性の付与しうる機能層が挙げられる。これらの機能層は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂、反応型樹脂及びこれらの混合物等によって形成しうる。
【0118】
中でも、任意の層としては、易接着層が好ましい。易接着層を備える長尺フィルムは、別の部材に貼り付ける際の接着性が良好である。また、このような易接着層を備える長尺フィルムを巻き取ったフィルムロールは欠陥を生じやすい傾向があるが、上述した製造方法によって製造されたフィルムロールにおいては欠陥を抑制できるので、本発明の効果を有効に活用できる。
【0119】
易接着層は、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等によって形成でき、中でもポリウレタン樹脂が好ましい。ポリウレタン樹脂が含むポリウレタンとしては、例えば、(i)1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分と(ii)多価イソシアネート成分とを反応させて得られるポリウレタン;または、上記(i)成分及び(ii)成分をイソシアネート基過剰の条件下で、反応に不活性で水との親和性の大きい有機溶媒中でウレタン化反応させてイソシアネート基含有プレポリマーとし、次いで、該プレポリマーを中和し、鎖延長剤を用いて鎖延長し、水を加えて分散体とすることによって製造されるポリウレタン;などが挙げられる。これらのポリウレタン中には酸構造(酸残基)を含有させてもよい。また、ポリウレタンの数平均分子量は、1,000以上が好ましく、より好ましくは20,000以上であり、1,000,000以下が好ましく、より好ましくは200,000以下である。
【0120】
また、前記のポリウレタン樹脂は、ポリウレタンに組み合わせて、耐熱安定剤、耐候安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、粒子等の任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、任意の成分としては粒子が好ましい。易接着層に粒子を含ませることにより、易接着層の表面の表面粗さを調整できる。
【0121】
易接着層の厚みは、0.01μm以上が好ましく、0.02μm以上がより好ましく、0.03μm以上が特に好ましく、また、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が特に好ましい。前記範囲内にあると、十分な接着強度が得られ、かつ、長尺フィルムの反りを抑制できる。
【0122】
任意の層の製造方法に、制限は無い。例えば、熱可塑性樹脂によって任意の層を形成する場合、共押出法及び共流延法等の樹脂成型方法によって、基材フィルム層及び任意の層を同時に製造してもよい。中でも、共押出法が好ましい。共押出法は、溶融状態にした複数の樹脂を押し出して成形することによりフィルムを得る方法である。共押出法は、製造効率の点、並びに、製造される長尺フィルムに溶媒などの揮発性成分を残留させないという点で、優れている。共押出方法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられる。これらの中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式がある。その中でも層の厚みのばらつきを少なくできる点で、マルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0123】
また、任意の層は、例えば塗布法によって製造してもよい。塗布法では、任意の層に含まれうる成分、又は、任意の層に含まれうる成分を生成しうる成分(例えば、重合体を生成しうる単量体等)を含む塗布液を用意する。そして、この塗布液を基材フィルム層に塗布して塗布液の膜を形成し、必要に応じてこの膜を硬化させることにより、任意の層を製造しうる。
【0124】
例えば、任意の層としてポリウレタン樹脂によって易接着層を形成する場合には、この易接着層は、ポリウレタンと、溶媒と、必要に応じて任意の成分とを含む塗布液を用いて製造しうる。前記のようにポリウレタンを含む塗布液としては、溶媒として水を含む塗布液を用いることが好ましい。このように溶媒として水を含む塗布液では、通常、ポリウレタンは水中に分散している。前記のポリウレタン及び水を含む塗布液は、「水系ウレタン樹脂」と呼ばれることがある。
【0125】
水系ウレタン樹脂として、市販されている水系ウレタン樹脂を使用してもよい。水系ウレタン樹脂としては、例えば、旭電化工業社製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学社製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業社製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル社製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン社製の「ソフラネート」シリーズ、花王社製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業社製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業社製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ社製の「ネオレッツ」シリーズなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0126】
易接着層の機械強度を向上させる目的で、塗布液には、架橋剤を含ませてもよい。架橋剤としては、例えば、水系エポキシ化合物、水系アミノ化合物、水系イソシアネート化合物、水系カルボジイミド化合物、水系オキサゾリン化合物等を使用しうる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。架橋剤の量は、ポリウレタン100重量部に対して、固形分で、好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上であり、好ましくは70重量部以下、より好ましくは65重量部以下である。
【0127】
塗布液の塗布方法は、特に限定されず、例えば、グラビアコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、スプレーコーター等のコーターを用いて塗布しうる。
【0128】
基材フィルム層に塗布液を塗布することにより、基材フィルム層の表面に塗布液の膜が形成される。この塗布液の膜は、必要に応じて乾燥及び架橋等の硬化処理を施してもよい。乾燥方法としては、例えば、オーブンを用いた加熱乾燥が挙げられる。また、架橋方法としては、例えば、加熱処理、紫外線等の活性エネルギー線の照射処理、などの方法が挙げられる。
【0129】
また、塗布法によって任意の層を形成する場合、塗布液を塗布される基材フィルム層の面には、塗布液を塗布する前に表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、エネルギー線照射処理及び薬品処理等が挙げられる。エネルギー線照射処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理等が挙げられ、処理効率の点等から、コロナ放電処理、プラズマ処理が好ましく、コロナ放電処理が特に好ましい。また、薬品処理としては、例えば、ケン化処理、重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸等の酸化剤水溶液中に浸漬し、その後、水で洗浄する方法が挙げられる。
【0130】
長尺フィルムは、延伸処理を施されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸処理を施された延伸フィルムであってもよい。延伸処理を行う時期は任意である。例えば、長尺フィルムが基材フィルム層に組み合わせて任意の層を備える場合、延伸処理は、基材フィルム層上に任意の層を形成する前に行ってもよく、基材フィルム層上に任意の層を形成した後で行ってもよい。
【0131】
延伸方法は特に限定はされず、例えば、一軸延伸法及び二軸延伸法が挙げられる。一軸延伸法の例としては、フィルム搬送用のロールの周速の差を利用して長手方向に一軸延伸する方法;テンター延伸機を用いて幅方向に一軸延伸する方法;等が挙げられる。また、二軸延伸法の例としては、フィルムを把持するクリップの間隔を開いて長手方向の延伸を行うと同時に、クリップを案内するガイドレールの広がり角度により幅方向に延伸する同時二軸延伸法;フィルム搬送用のロール間の周速の差を利用して長手方向に延伸した後、その両端部をクリップで把持してテンター延伸機を用いて幅方向に延伸する逐次二軸延伸法;などが挙げられる。さらに、例えば、長手方向又は幅方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機を用いて、フィルムの幅方向に対して任意の角度φ(0°<φ<90°)をなす斜め方向に連続的に延伸する斜め延伸法を用いてもよい。
【0132】
延伸温度は、例えば、基材フィルム層に含まれる樹脂のガラス転移温度Tgを基準として、Tg〜Tg+20℃としうる。
延伸倍率は、長手方向の延伸では1.1倍〜3.0倍の範囲に設定してもよく、また、幅方向の延伸では1.3倍〜3.0倍の範囲に設定してもよい。
【0133】
上述した長尺フィルムの両端部には、当該長尺フィルムの少なくとも一方の面に凸部を形成することにより、ナール部を設ける。
凸部の形成方法に制限は無い。凸部は、例えば、エンボス加工処理によって形成してもよい。エンボス加工処理によって凸部を形成する場合、例えば、ナール部の形状に対応した凹凸パターンを側面に有するロール状又はリング状の型(例えば、ローレット等)を用意し、必要に応じて長尺フィルム又は前記の型を加熱しながら、長尺フィルムを前記の型で押圧する。この際、単一の型により押圧を行ってもよく、対向する2個の型の間に長尺フィルムを挟みこんで押圧を行ってもよい。これにより、型の凹凸パターンが長尺フィルムに転写され、凸部が形成される。
【0134】
また、例えば、レーザー光の照射により凸部を形成してもよい。長尺フィルムにレーザー光を照射すると、レーザー光が照射された地点において長尺フィルムが局所的に熱溶融又はアブレーションを生じる。このとき、レーザー光の照射により熱溶融した長尺フィルムの材料の一部又は全部が流動化することにより、レーザー光を照射した地点の周囲には突出部が形成され、この突出部は凸部となる。このようにレーザー光により凸部を形成すれば、厚みの薄い長尺フィルムにおいても、凸部の形成時の長尺フィルムの破断を防止することができる。また、長尺フィルムを屈曲させても、凸部で破断が生じ難い。これは、例えばエンボス加工処理と比べ、レーザー光で凸部を形成する場合には、長尺フィルムに対し不要な押圧が加わらず、長尺フィルムに残留応力が残りにくいことに起因すると推察される。また、レーザー光の照射によって凸部を形成した場合、通常は、レーザー光が照射された地点では窪みが形成される。
【0135】
長尺フィルムが任意の層として易接着層を備える場合、レーザー光の照射は、長尺フィルムの易接着層側の面へ行うことが好ましい。これにより、長尺フィルムをロール状に巻き取る際に、長尺フィルム同士の密着を抑制でき、長尺フィルムの取り扱い性を向上させることができる。
【0136】
[3.フィルムロールの用途]
上述した製造方法で製造されるフィルムロールは、例えば光学フィルム、防湿フィルム、包装用フィルム、導電フィルム、絶縁フィルム、帯電防止フィルム、バリアフィルム、配線基板用フィルム等の任意の用途のフィルムに適用しうる。中でも、欠陥を抑制できるという利点を有効に活用する観点から光学フィルムに用いることが好ましい。光学フィルムとしては、例えば、位相差フィルム、偏光板の保護フィルム、偏光フィルム、輝度向上フィルム、光拡散フィルム、集光フィルム、反射フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
【0138】
[評価方法の説明]
〔長尺フィルムの静摩擦係数の測定方法〕
長尺フィルムの平坦部の表側と裏側との接触面における静摩擦係数は、長尺フィルムから切り取って得た試験片を用いて、JIS K 7125に準拠して、東洋精機製作所社製「摩擦測定機TR−2」を用いて、下記の手順で測定した。
水平で平坦な支持面を有する支持台を用意し、この支持面に、相手部材としての長尺フィルムを置き、固定した。この際、前記の長尺フィルムは、表側(脂環式構造含有重合体樹脂からなるフィルム層側)の面が鉛直方向上向きになるように置いた。このように支持面に固定した長尺フィルム上に、試験片の裏側(易接着層側)の面が鉛直方向下向きになるように、試験片を置いた。これにより、支持面に固定された長尺フィルムの表側の面と、試験片の裏側の面とが接触した状態となった。試験片上に重さ200gの重りを置き、長尺フィルムの長手方向に試験片を速度100mm/分で引っ張ることで、前記のように接触した接触面における静摩擦係数を測定した。この際の試験温度は23℃であった。同様の測定を5回行い、その算術平均値を長尺フィルムの平坦部の表側と裏側との接触面における静摩擦係数の代表値とした。
【0139】
[長尺フィルムの平坦部の平均厚みの計測方法]
搬送している長尺フィルムの幅方向に3m/minの速度で赤外線膜厚計〔クラボウ社製 RX−100〕を走査して、50mm間隔で長尺フィルムの平坦部の厚さを測定した。この測定を長尺フィルムの全長で行い、全測定結果を平均して、長尺フィルムの平坦部の平均厚みとした。
【0140】
〔製造途中のフィルムロールの平坦部とタッチロールとの隙間の幅の測定方法〕
フィルム幅方向における中央位置において、製造途中のフィルムロールの平坦部とタッチロールとの隙間に、投光器から平行光を照射した。前記投光器とは反対側から前記の隙間をカメラで観察し、光が透過している部分のフィルムロール300とタッチロール130の距離を測定して、この距離を隙間の幅とした。隙間の幅の測定は、サンプリングレート0.2秒で行った。また、隙間の幅の測定は、製造途中のフィルムロールの巻径の演算値が巻き芯の外径の1.15倍以上になった期間において行った。隙間の幅の測定結果を、1ロール中で平均して、隙間の幅の平均値を求めた。
【0141】
〔長尺フィルムの巻径の演算方法〕
長尺フィルムの搬送速度を測定し、この搬送速度を長尺フィルムの巻取速度(m/min)とした。
また、巻き芯モーターに設けられたエンコーダにより、巻き芯モーターの回転数(rpm)を測定した。
【0142】
前記の巻取速度及び巻き芯モーターの回転数を用いて、下記の式により、長尺フィルムの巻径を演算した。下記の式において、減速比は、巻き芯に接続された巻き芯モーターの回転駆動力を巻き芯に伝えるギア機構に応じた値であり、使用した巻取装置に応じた定数である。
【0143】
【数10】
【0144】
〔周形状における突出部位の数の測定方法〕
フィルムロールの幅方向中央での周形状をレーザー変位計(キーエンス社製「LK−G155」)を用いて計測した。計測された周形状において、周囲よりも突出した突出部分の数を数えた。
【0145】
〔式(1)が成立する最大巻取り長の測定〕
各実施例及び比較例とは別に、各実施例及び比較例と同様の条件で長尺フィルムを巻き取って、式(1)が成立する最大巻取り長を測定した。
【0146】
〔保存後のフィルムロールの芯ズレの量の測定方法〕
巻き取り完了後のフィルムロールを、温度20℃〜25℃、湿度50%RH〜70%RHの環境において、30日間保管した。その後、巻き芯の鉛直上方でのフィルムロールの半径と、巻き芯の鉛直下方でのフィルムロールの半径とを測定し、両者の差(上下径差)を計算して芯ズレの量とした。芯ズレの量が1mm以下であれば、重力によるフィルムロールの落下が小さく、フィルムロールの外観が良好であると判断できる。
【0147】
〔保存後のフィルムロールに含まれる長尺フィルムの欠陥の評価方法〕
巻き取り完了後のフィルムロールを、温度20℃〜25℃、湿度50%RH〜70%RHの環境において、30日間保管した。その後、フィルムロールの軸方向端部に高輝度ランプで光を照射し、フィルムロールの周面を観察した。観察の結果、周囲よりも局所的に暗く観察される部分が無ければ光学欠陥が無いと判定し、周囲よりも局所的に暗く観察される部分があれば光学欠陥があると判定した。
【0148】
〔保存後のフィルムロールのシワの評価方法〕
巻き取り完了後のフィルムロールを、温度20℃〜25℃、湿度50%RH〜70%RHの環境において、30日間保管した。その後、フィルムロールの周面を観察し、シワの有無を評価した。
【0149】
[実施例1]
(未延伸フィルムの製造)
脂環式構造含有重合体樹脂(日本ゼオン社製「ZEONOR1420」)のペレットを100℃で5時間乾燥した。このペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にフィルム状に押出し、冷却して、長尺の未延伸フィルム(厚み80μm、幅1600mm)を得た。
【0150】
(易接着層の形成)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び冷却管を備えた反応器に、ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製「マキシモールFSK−2000」;水酸基価56mgKOH/g)840部、トリレンジイソシアネート119部、及びメチルエチルケトン200部を入れ、窒素を導入しながら75℃で1時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却し、ジメチロールプロピオン酸35.6部を加え、75℃で反応させて、酸構造を含有するポリウレタンの溶液を得た。前記のポリウレタンのイソシアネート基(−NCO基)の含有量は0.5%であった。
【0151】
次いで、このポリウレタンの溶液を40℃にまで冷却し、水1,500部、イソフタル酸ジヒドラジド(沸点224℃以上)120部(ポリウレタン100部に対し7部)を加え、ホモミキサーで高速撹拌することにより乳化を行った。この乳化液から加熱減圧下でメチルエチルケトンを留去し、中和されたポリウレタンを含む水分散体を得た。この水分散体の固形分濃度は40%であった。
【0152】
さらに、この水分散体を、含まれるポリウレタンが100部となる量だけ取り分けた。取り分けた前記の水分散体に、エポキシ化合物であるグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−313」;エポキシ当量141g/eq)15部と、平均粒子径80nmのシリカ微粒子(日産化学工業社製「スノーテックスZL」)10部と、非イオン系界面活性剤として4,7−ジヒドロキシ−2,4,7,9−テトラメチル−5−デシンのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業社製「サーフィノール465」)と、水とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂として固形分濃度5%の液状の水系樹脂を塗布液として得た。ここで、非イオン系界面活性剤の添加量は、得られる水系樹脂に対し100ppmとなる量とした。
【0153】
コロナ処理装置を用いて、前記の未延伸フィルムの片面に、放電処理を施した。この放電処理を施した面に、前記の塗布液を、乾燥厚みが0.2μmになるように塗布した。その後、加熱により塗布液の層を乾燥して、未延伸フィルム上に易接着層を形成した。これにより、未延伸フィルム及び易接着層を備える複層フィルムを得た。
【0154】
(複層フィルムの延伸)
前記の複層フィルムを、延伸温度135℃で、長手方向及び幅方向に同時二軸延伸して、長尺の延伸フィルムを得た。この際、長手方向の延伸倍率は1.15倍、幅方向の延伸倍率は1.40倍であった。こうして得られた延伸フィルムの物性及び寸法を測定したところ、引張弾性率2150MPa、平坦部の表側と裏側との接触面における静摩擦係数は0.41、平坦部の平均厚みは52μm、幅は1490mmであった。
【0155】
(ナール部の形成)
前記の延伸フィルムの幅方向の両端部に、レーザーマーカーを用いてレーザー光を照射することにより高さ7μm、径500μm、ピッチ1000μmの複数の凸部を形成して、ナール部を設けた。延伸フィルムにおいてナール部は、延伸フィルムの幅方向の縁からの距離が1mm〜11mmの範囲に幅10mmで形成した。以上のようにして、幅方向の両端部に設けられたナール部と、ナール部の間に設けられた凸部を有さない平坦部とを含む長尺フィルムを用意した。
【0156】
(長尺フィルムの巻き取り)
上述した実施形態で説明した構造を有する巻取装置100(
図1及び
図2参照)に、長尺フィルム200を供給した。そして、表1に示す巻取条件にて、タッチロール130に長尺フィルム200を巻き掛ける工程と、タッチロール130に巻き掛けられた長尺フィルム200を巻き芯110に巻き取る工程とを行って、フィルムロール300を製造した。この際、タッチロール130と製造途中のフィルムロール300の中間部330との間に形成される隙間340の幅の大きさは、長尺フィルム200のナール部210及び220に形成された凸部211及び221の高さに応じて、巻取張力、及び、タッチロール130が製造途中のフィルムロール300を押す荷重の大きさ等の巻取条件を調整することにより、制御した。その後、製造したフィルムロールを、上述した方法で評価した。
【0157】
[実施例2〜6及び比較例1〜9]
長尺フィルムの平坦部の平均厚み、長尺フィルムの平坦部の表側と裏側との接触面における静摩擦係数、長尺フィルムのナール部にある凸部の高さ、及び、巻取条件を、表1及び表2に示すように変更した。
この際、長尺フィルムの平坦部の平均厚みは、未延伸フィルムを製造する際の脂環式構造含有重合体樹脂の押出量、未延伸フィルムの搬送速度、未延伸フィルムを延伸する際の延伸倍率などにより変更した。
また、長尺フィルムの平坦部の表側と裏側との接触面における静摩擦係数は、易接着層の厚み、並びに、易接着層でのシリカ微粒子の粒径及び添加量により変更した。
さらに、長尺フィルムのナール部にある凸部の高さは、レーザー光の出力を調整することにより変更した。
また、比較例1〜3では、タッチロールの代わりに、
図8及び
図9に示したニアロール430を用いて、長尺フィルム200を巻き取った。したがって、比較例1〜3では、両端部510及び520並びに中間部530のいずれにおいてもフィルムロール500はニアロール430に接していなかった。
さらに、比較例9では、
図13に示す巻取装置600ように、1本のニアロール430を用いて長尺フィルム200を巻き取った後、製造途中のフィルムロール500の幅方向の両端部510及び520だけを2本の別のタッチロール610及び620で押しながら、長尺フィルム200の巻き取りを行った。したがって、2本のタッチロール610及び620は、長尺フィルム200のナール部210及び220だけに接触し、長尺フィルム200の平坦部230には接触しなかった。また、比較例9では、ニアロール430は、長尺フィルム200の全幅を巻き芯110へ案内し、且つ、フィルムロール500には接触しないように設けた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、フィルムロールの製造及び評価を行った。
【0158】
[結果]
上述した実施例及び比較例の結果を、下記の表1及び表2に示す。下記の表の巻取方式の欄において「ギャップ」とは、ニアロールを用いた巻き取りを行ったことを示す。また、下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
静摩擦係数:長尺フィルムの平坦部の表側と裏側との接触面における静摩擦係数。
巻取張力:巻き取り開始時点での巻取張力。
張力テーパ比率:巻き取り開始時点の巻取張力に対する、巻き取り開始時点の巻取張力と巻き取り完了時点の巻取張力との差の比率。
タッチ荷重:巻き取り開始時点でタッチロールが製造途中のフィルムロールを押すときの荷重。
荷重テーパ比率:巻き取り開始時点のタッチ荷重に対する、巻き取り開始時点のタッチ荷重と巻き取り完了時点のタッチ荷重との差の比率。
巻取り長:各実施例及び比較例で製造したフィルムロールを製造するために巻き取った長尺フィルムの長さ。
隙間の幅:タッチロール又はニアロールと、製造途中のフィルムロールの中間部との間に形成される隙間の幅の平均値。
突出部位の数:巻き取りが終了したフィルムロールの中間部での突出部位の数。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
[検討]
表1及び表2から、実施例で製造したフィルムロールでは長期間保存しても当該フィルムロールに含まれる長尺フィルムに欠陥が生じない一方で、比較例で製造したフィルムロールでは長期間保存すると当該フィルムロールに含まれる長尺フィルムに欠陥が生じることが分かる。この結果から、本発明の製造方法によって、製造後に長期間保存しても欠陥を生じ難いフィルムロールを容易に製造できることが確認された。