(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451431
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】N−モノ置換ピペラジン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 295/023 20060101AFI20190107BHJP
C07D 295/03 20060101ALI20190107BHJP
C07D 295/088 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
C07D295/023
C07D295/03
C07D295/088
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-55270(P2015-55270)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-175846(P2016-175846A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝生
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 学
【審査官】
吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−5267(JP,A)
【文献】
特開2013−23489(JP,A)
【文献】
特開2012−149225(JP,A)
【文献】
特開2010−37325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 295/023
C07D 295/03−295/155
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
[式中、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表す。]
で示されるピペラジン類に対する、下記一般式(2)
【化2】
[式中、R
5はメチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、2−ヒドロキシエチル基、炭素数3〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数3〜6のジヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、炭素数5〜8のアルコキシエチル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表し、Xはハロゲン原子、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、又はパラトルエンスルホニル基を表す。]
で示される求電子試薬の添加割合が0.2〜0.7モルの範囲であり、かつ求電子試薬の添加量率がアルカリ源の添加量率を上回るように、該求電子試薬と該アルカリ源を70〜90℃の範囲に加熱した該ピペラジン類を含む溶液に添加して反応させることを特徴とするN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【請求項2】
求電子試薬とアルカリ源の添加速度を変化させることを特徴とする請求項1に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【請求項3】
求電子試薬の添加開始後にアルカリ源の添加を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【請求項4】
求電子試薬とアルカリ源を交互に添加することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【請求項5】
アルカリ源を、求電子試薬1モルに対し1.0〜1.2モルの範囲で使用することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【請求項6】
求電子試薬を、その添加量率が70%まではアルカリ源より速く添加し、70%を超えてからはアルカリ源より遅く添加することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【請求項7】
求電子試薬の添加終了時(添加量率100%)におけるアルカリ源の添加量率が95〜100%の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【請求項8】
アルカリ源が水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−モノ置換ピペラジン類をピペラジン類から製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピペラジン類は、有機合成用触媒、化学吸着剤、抗菌剤、医農薬中間体等として有用な化合物である。ピペラジン類は、アミノ基を2個有しているが、その一方だけに置換基を導入したN−モノ置換ピペラジン類も極めて重要かつ有用な化合物である。
【0003】
N−モノ置換ピペラジン類の合成法としては、ピペラジン類に求電子試薬等を置換反応させる方法が一般的に知られている。
【0004】
しかしながら、ピペラジン類の一方のアミノ基だけを選択的に反応させることは難しく、ピペラジン類と求電子試薬を当量付近で反応させると、ピペラジン類の両方のアミノ基が共に置換されたN,N’−ジ置換ピペラジン類が大量に副生するといった問題があった。
【0005】
そこで、N−モノ置換ピペラジン類の選択的合成について多くの研究がなされている。例えば、ジエタノールアミンとエチルアミンをヘテロポリ酸の存在下にオートクレーブ中、高温・高圧下で反応させ、N−エチルピペラジンを得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、このような方法では、高温・高圧条件が必須であるため危険であり、かつコスト的にも不利な高圧反応容器を用いる必要があり、工業的な実施には適していなかった。
【0007】
また、他の方法としては、例えば、ピペラジンとアルコールとを、活性アルミナ及びゼオライトからなる群から選択される少なくとも一種の存在下に反応させることを特徴とするN−アルキルピペラジン類の製造法(例えば、特許文献2参照)や、銅を含有する酸化物触媒系を用い、アルキレンアミンと炭素数2以上のアルキルアルコールとを反応させることにより、高い転化率及びN−モノアルキル化選択率でN−モノアルキル置換アルキレンアミンを製造する方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0008】
しかしながら、例えば、特許文献2に記載の方法は気相反応であるため、複雑な装置が必要となる。また、反応を300〜350℃といった高温で行うため、エネルギーを大量に消費する点でも工業的に不利である。
【0009】
また、例えば、特許文献3の方法においても、高温・高圧条件が必須であり、さらに水素ガスの使用が必要という問題がある。
【0010】
このため、本件出願人は、過度な高温・高圧条件が不要、かつ高い選択率と収率でN−モノ置換ピペラジン類を製造する方法として、下記式
【0011】
【化1】
[式中、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表す。]
で示されるピペラジン類と、下記式
【0012】
【化2】
[式中、R
5はメチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、2−ヒドロキシエチル基、炭素数3〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数3〜6のジヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、炭素数5〜8のアルコキシエチル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表し、Xはハロゲン原子、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、又はパラトルエンスルホニル基を表す。]
で示されるアルキル化剤を酸存在下で反応させて、N−アルキルピペラジン類を製造する方法について既に特許出願している(特許文献4参照)。
【0013】
特許文献4に記載の方法は、副生するN,N’−ジ置換体を抑制するために、予め原料ピペラジン類の一方のアミノ基をブロックすることにより、アルキル化剤をもう一方のアミノ基に選択的に反応させるものであり、高選択的にN−モノ置換体を製造することができる優れた方法である。
【0014】
しかしながら、ピペラジン類への酸添加は発熱を伴うため、冷却や逐次添加が必要であり、工程に時間を要することが課題である。また、N−モノ置換体製造後の中和も含め、副生する塩が倍増するため、溶剤の選択次第では、ろ過や蒸留工程、さらには副生塩の処理工程の負荷が大きくなるといった工業的に生産する上で未だ改善すべき問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭58−35179号公報
【特許文献2】特開平6−172334号公報
【特許文献3】特開2005−41806公報
【特許文献4】特開2013−23489公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い生産性でN−モノ置換ピペラジン類を選択的かつ高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ピペラジン類と求電子試薬との反応において、副生した酸が未反応のピペラジンと塩を形成し、反応性を低下させている点、また反応後半に従いN,N’−ジ置換体の生成が増加するという事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明は以下に示すとおりのN−モノ置換ピペラジン類の製造方法である。
【0019】
[1]下記一般式(1)
【0020】
【化3】
[式中、R
1〜R
4は各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表す。]
で示されるピペラジン類に対する、下記一般式(2)
【0021】
【化4】
[式中、R
5はメチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、2−ヒドロキシエチル基、炭素数3〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数3〜6のジヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、炭素数5〜8のアルコキシエチル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表し、Xはハロゲン原子、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、又はパラトルエンスルホニル基を表す。]
で示される求電子試薬の添加割合が0.2〜0.7モルの範囲であり、かつ求電子試薬の添加量率がアルカリ源の添加量率を上回るように、該求電子試薬と該アルカリ源を70〜90℃の範囲に加熱した該ピペラジン類を含む溶液に添加して反応させることを特徴とするN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0022】
[2]求電子試薬とアルカリ源の添加速度を変化させることを特徴とする上記[1]に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0023】
[3]求電子試薬の添加開始後にアルカリ源の添加を行うことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0024】
[4]求電子試薬とアルカリ源を交互に添加することを特徴とする上記[1]乃至[3]に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0025】
[5]アルカリ源を、求電子試薬1モルに対し1.0〜1.2モルの範囲で使用することを特徴とする上記[1]乃至[4]に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0026】
[6]求電子試薬を、その添加量率が70%まではアルカリ源より速く添加し、70%を超えてからはアルカリ源より遅く添加することを特徴とする上記[1]乃至[5]に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0027】
[7]求電子試薬の添加終了時(添加量率100%)におけるアルカリ源の添加量率が95〜100%の範囲にあることを特徴とする上記[1]乃至[6]に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0028】
[8]アルカリ源が水酸化ナトリウムであることを特徴とする上記[1]乃至[7]に記載のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法。
【0029】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明のN−モノ置換ピペラジン類の製造方法は、上記一般式(1)で示されるピペラジン類に対する、上記一般式(2)で示される求電子試薬の添加割合が0.2〜0.7モルの範囲であり、かつ求電子試薬の添加量率がアルカリ源の添加量率を上回るように、該求電子試薬と該アルカリ源を70〜90℃の範囲に加熱した該ピペラジン類を含む溶液に添加して反応させることを特徴とする。
【0031】
本発明の製造方法において、原料となるピペラジン類は、上記一般式(1)で示されるピペラジン類であれば、特に限定されない。
【0032】
上記一般式(1)における置換基R
1〜R
4は、各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表す。
【0033】
ここで、炭素数3〜8の直鎖状アルキル基としては、例えば、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。炭素数3〜8の分岐状アルキル基としては、例えば、i−プロピル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、i−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数3〜8の環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。ヒドロキシエチル基としては、例えば、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。ヒドロキシプロピル基としては、例えば、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。ジヒドロキシプロピル基としては、例えば、1,2−ジヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、1,3−ジヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(1)で示される化合物としては、上記の定義に該当すれば特に限定されるものではないが、具体的には、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,3−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,3,5−トリメチルピペラジン、2,3,5,6−テトラメチルピペラジン、2−エチルピペラジン、2−n−プロピルピペラジン、2−n−ブチルピペラジン、2−n−ペンチルピペラジン、2−n−ヘキシルピペラジン、2−n−ヘプチルピペラジン、2−n−オクチルピペラジン、2−i−プロピルピペラジン、2−i−ブチルピペラジン、2−sec−ブチルピペラジン、2−t−ブチルピペラジン、2−i−ペンチルピペラジン、2−sec−ペンチルピペラジン、2−t−ペンチルピペラジン、2−neo−ペンチルピペラジン、2−i−ヘキシルピペラジン、2−(2−エチルヘキシル)ピペラジン、2−シクロプロピルピペラジン、2−シクロブチルピペラジン、2−シクロペンチルピペラジン、2−シクロヘキシルピペラジン、2−ヒドロキシメチルピペラジン、2−(1−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−(3−ヒドロキシ−n−プロピル)ピペラジン、2−(2−ヒドロキシ−n−プロピル)ピペラジン、2−(1−ヒドロキシ−n−プロピル)ピペラジン、2−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)ピペラジン、2−(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)ピペラジン、2−(1,2−ジヒドロキシ−n−プロピル)ピペラジン、2−メトキシピペラジン、2−エトキシピペラジン、2−フェニルピペラジン、2−ベンジルピペラジン、及び2−(2−フェニルエチル)ピペラジン類等が例示される。
【0035】
本発明の製造方法において、本発明の趣旨に反しない程度であれば、上記一般式(1)で示されるピペラジン類に加えて、それ以外のピペラジン類を併用しても差し支えない。
【0036】
本発明の製造方法において、ピペラジン類は市販のものでも良いし、公知の方法により合成したものでも良く、特に限定されない。また、ピペラジン類の純度としても特に限定されないが、精製工程での精製のしやすさを考慮すると、95%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0037】
本発明の製造方法において、求電子試薬としては、特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(2)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0038】
一般式(2)におけるR
5は、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、2−ヒドロキシエチル基、炭素数3〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数3〜6のジヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、炭素数5〜8のアルコキシエチル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表し、Xはハロゲン原子、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、又はパラトルエンスルホニル基を表す。
【0039】
ここで、炭素数3〜8の直鎖状アルキル基としては、例えば、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。炭素数3〜8の分岐状アルキル基としては、例えば、i−プロピル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、i−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数3〜8の環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数3〜6のヒドロキシアルキル基としては、例えば、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシ−n−プロピル基、3−ヒドロキシ−n−プロピル基、4−ヒドロキシ−n−ブチル基、5−ヒドロキシ−n−ペンチル基、6−ヒドロキシ−n−ヘキシル基、7−ヒドロキシ−n−ヘプチル基、8−ヒドロキシ−n−オクチル基、2−ヒドロキシ−n−ブチル基、2−ヒドロキシ−n−ペンチル基、2−ヒドロキシ−n−ヘキシル基、2−ヒドロキシ−n−ヘプチル基、2−ヒドロキシ−n−オクチル基等が挙げられる。炭素数3〜6のジヒドロキシアルキル基としては、例えば、2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、1,3−ジヒドロキシ−n−プロピル基、1,2−ジヒドロキシ−n−プロピル基、2,4−ジヒドロキシ−n−ブチル基、3,4−ジヒドロキシ−n−ブチル基、2,5−ジヒドロキシ−n−ペンチル基、4,5−ジヒドロキシ−n−ペンチル基、2,6−ジヒドロキシ−n−ヘキシル基、5,6−ジヒドロキシ−n−ヘキシル基等が挙げられる。炭素数5〜8のアルコキシエチル基としては、例えば、n−プロポキシエチル基、i−プロポキシエチル基、n−ブトキシエチル基、n−ペンタノキシエチル基、n−ヘキサノキシエチル基等が挙げられ、また、ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0040】
本発明の製造方法において、求電子試薬としては、特に限定するものではないが、具体的には、ブロモメタン、ヨードメタン、クロロエタン、ブロモエタン、ヨードエタン、1−クロロプロパン、1−ブロモプロパン、1−ヨードプロパン、2−クロロプロパン、2−ブロモプロパン、2−ヨードプロパン、1−クロロブタン、1−ブロモブタン、1−ヨードブタン、2−クロロブタン、2−ブロモブタン、2−ヨードブタン、2−クロロ−2−メチルプロパン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、2−ヨード−2−メチルプロパン、1−クロロペンタン、1−ブロモペンタン、1−ヨードペンタン、1−クロロヘキサン、1−ブロモヘキサン、1−ヨードヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン、ヨードシクロヘキサン、1−クロロオクタン、1−ブロモオクタン、1−ヨードオクタン、1−クロロ−2−エチルヘキサン、1−ブロモ−2−エチルヘキサン、1−ヨード−2−エチルヘキサン、2−クロロエタノール、2−ブロモエタノール、2−ヨードエタノール、1−クロロ−2−プロパノール、1−ブロモ−2−プロパノール、1−ヨード−2−プロパノール、3−クロロ−1−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ヨード−1−プロパノール、4−クロロ−1−ブタノール、4−ブロモ−1−ブタノール、4−ヨード−1−ブタノール、5−クロロ−1−ペンタノール、5−ブロモ−1−ペンタノール、5−ヨード−1−ペンタノール、6−クロロ−1−ヘキサノール、6−ブロモ−1−ヘキサノール、6−ヨード−1−ヘキサノール、1−クロロ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−ブタノール、1−ヨード−2−ブタノール、1−クロロ−2−ペンタノール、1−ブロモ−2−ペンタノール、1−ヨード−2−ペンタノール、1−クロロ−2−ヘキサノール、1−ブロモ−2−ヘキサノール、1−ヨード−2−ヘキサノール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、3−ヨード−1,2−プロパンジオール、4−クロロ−1,2−ブタンジオール、4−ブロモ−1,2−ブタンジオール、4−ヨード−1,2−ブタンジオール、5−クロロ−1,2−ペンタンジオール、5−ブロモ−1,2−ペンタンジオール、5−ヨード−1,2−ペンタンジオール、6−クロロ−1,2−ヘキサンジオール、6−ブロモ−1,2−ヘキサンジオール、6−ヨード−1,2−ヘキサンジオール、メトキシエチルクロライド、メトキシエチルブロマイド、メトキシエチルヨーダイド、エトキシエチルクロライド、エトキシエチルブロマイド、エトキシエチルヨーダイド、n−プロポキシエチルクロライド、n−プロポキシエチルブロマイド、n−プロポキシエチルヨーダイド、i−プロポキシエチルクロライド、i−プロポキシエチルブロマイド、i−プロポキシエチルヨーダイド、n−ブトキシエチルクロライド、n−ブトキシエチルブロマイド、n−ブトキシエチルヨーダイド、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、ベンジルヨーダイド、(2−クロロエチル)ベンゼン、(2−ブロモエチル)ベンゼン、(2−ヨードエチル)ベンゼンが例示される。
【0041】
本発明の製造方法において、本発明の趣旨に反しない程度であれば、上記した以外の求電子試薬を使用しても差し支えない。
【0042】
求電子試薬は市販のものでも良いし、公知の方法により合成したものでも良く、特に限定されない。また、求電子試薬の純度としても特に限定されないが、精製工程での精製のしやすさを考慮すると、95%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0043】
本発明の製造方法において、求電子試薬の使用量は、N−モノ置換ピペラジン類の選択性からピペラジン類1モルに対し、0.2〜0.7モルの範囲で使用することが好ましい。バッチあたりの生産効率及び釜効率の観点から、さらに好ましくは0.3〜0.5モルの範囲である。
【0044】
求電子試薬と一緒に添加するアルカリ源の使用量は、副生するハロゲン化水素の残留を抑制するため、求電子試薬1モルに対し、1.0〜1.2モルの範囲で使用することが好ましい。一方、アルカリ源の過剰添加は、求電子試薬の加水分解による収率低下を招くため、さらに好ましくは1.01〜1.03の範囲である。
【0045】
本発明の製造方法において、求電子試薬とアルカリ源の添加は、アルカリ源による求電子試薬の加水分解を抑制するため、添加位置を反応器の離れた場所に設置することが好ましい。また、求電子試薬とアルカリ源の添加は、滴下により行っても良く、滴下ノズルを使用したり、滴下ノズルを液面より下に設置することで、求電子試薬とアルカリ源が直接接触しないように添加することも好ましい。
【0046】
ピペラジン類への求電子試薬の添加において、添加の初期段階では、反応系内には求電子試薬に対してピペラジン類が大過剰に存在している。従って、求電子試薬の添加量率(加えるべき試薬の全量に対する添加した量の割合)が低い段階では、求電子試薬の加水分解を抑制するために、求電子試薬とアルカリ源の添加速度を変化させることが好ましい。具体的には、求電子試薬の添加量率が低い段階では、アルカリ源の添加量率は、低く抑えることが好ましい。
【0047】
また、本発明では、求電子試薬の添加量率が常にアルカリ源の添加量率を上回るように、該求電子試薬と該アルカリ源を添加して反応させることを必須とする。
【0048】
より具体的には、アルカリ源をある一定速度で添加すると仮定した場合、求電子試薬の添加量率が70%に達するまではアルカリ源より速く添加し、70%を超えてからはアルカリ源より遅く添加することが好ましい。
【0049】
また、アルカリ源の添加は、求電子試薬の添加終了時(添加量率100%)に、添加量率が95〜100%の範囲にあることが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法において、ピペラジン類に求電子試薬及びアルカリ源を添加することにより反応させる際の反応温度としては、ピペラジンと求電子試薬との反応は高温ほど反応性が向上するため、70〜90℃の範囲で実施することが好ましい。また、求電子試薬とアルカリ源を添加する方法上、添加前に予めピペラジン類と溶媒を70〜90℃の範囲まで加熱しておくことが好ましい。70℃未満でも反応は進行するが、その進行速度が遅くなるため、求電子試薬の加水分解も進行し、N−モノ置換ピペラジン類の選択率を低下させるおそれがある。90℃を超える温度で反応させた場合においても、N−モノ置換ピペラジン類の選択率を低下させるおそれがある。
【0051】
本発明の製造方法において、N−モノ置換ピペラジン類の製造にかかる反応時間は、求電子試薬の脱離基や構造、反応温度等の条件により異なるため、特に限定するものではないが、生産性の観点から求電子試薬及びアルカリ源の添加を1〜10時間の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは3〜8時間の範囲である。
【0052】
本発明の製造方法において、ピペラジンと求電子試薬との反応は、ピペラジン類を溶媒に溶かし、これに求電子試薬とアルカリ源を添加する方法で行うことが一般的である。
【0053】
溶媒としては、ピペラジン類、求電子試薬、及びアルカリ源を溶解しうるものであれば特に制限はない。具体的には、例えば、水、アルコール類、グリコール類、及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。ここで、アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピネオール等が挙げられる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。これらの中でも、経済性から、水、アルコール類を使用することが好ましい。精製工程において副生する塩を除去することを考慮するとアルコール類を使用することがさらに好ましく、中でもメタノール、エタノール、プロパノールが特に好ましい。
【0054】
本発明の製造方法において、用いられるアルカリ源としては、強アルカリ、弱アルカリのいずれを使用しても良く、特に限定するものではないが、強アルカリを用いた方が副生するハロゲン化水素の中和を促進するため好ましい。アルカリ源としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム(生石灰)、水酸化カルシウム(消石灰)、石灰石、水酸化マグネシウム等が挙げられる。中和速度の観点から水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0055】
本発明の製造方法において、N−モノ置換ピペラジン類への反応後は、一般に知られている方法で、N−モノ置換ピペラジン類を精製することができ、未反応の原料、溶媒は回収して再度使用しても良い。N−モノ置換ピペラジン類の精製方法を例示すると、反応を終了させ、室温まで冷却した後、N−モノ置換ピペラジン類を多く含む層とそれ以外のものを多く含む層とに分離し、N−モノ置換ピペラジン類を蒸留又は貧溶媒を添加した後、結晶化、再結晶して得る方法、フリーのN−モノ置換ピペラジン類を蒸留して分離精製する方法等があるが、どの方法を使用しても一向に差し支えない。
【0056】
以上のように、本発明の方法によりピペラジン類からN−モノ置換ピペラジン類を製造することができる。このため、用いる目的に応じて反応原料のピペラジン類の構造を設定し、本発明の方法を用いることで、一方のアミノ基を選択的にN−モノ置換化した、対応するN−モノ置換ピペラジン類を得ることができる。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、以下に示す効果が得られる。
【0058】
(1)本発明の製造方法は、ピペラジン類から選択的かつ高収率でN−モノ置換ピペラジン類を製造することができ、工業的に有用な方法である。
【0059】
(2)本発明の製造方法は、N−モノ置換ピペラジン類の生成と副生ピペラジン塩の中和処理を同時に行うことで、系内で生成する反応性の低いピペラジン塩酸塩を低減できる。そのため、原料に使用するピペラジン類の使用量の削減が図れるため、製造時の釜効率に優れる。また、添加終了時には反応が殆ど終了しており、その後の熟成時間を大幅に短縮でき、生産性に優れる。
【0060】
(3)本発明の製造方法は、高温、高圧、低温、減圧等の特別な条件での操作が不要であり、また、水素を含む還元雰囲気を必要とせず、安全性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】求電子試薬とアルカリ源の具体的な添加時間と添加量率の関係を示す。
【実施例】
【0062】
本発明を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0063】
なお、本実施例における生成物の収率、選択率は、ガスクロマトグラフィーで確認した。ガスクロマトグラフィーには、ガスクロマトグラフ(島津製作所製 GC−2025)、キャピラリーカラム(Agilent Technologies社製 DB−5)、及び検出器(FID)を使用した。
【0064】
実施例1 N−n−ブチルピペラジンの合成(1−クロロブタン/ピペラジン仕込み比=0.3モル)
窒素雰囲気下、500mlの三口丸底フラスコに、ピペラジン143.6g(1.7モル)とメタノール144gを仕込んだ後、液温を80℃まで昇温した。そこに、液温を80℃に保ちながら、1−クロロブタン46.3g(0.5モル)及び48%水酸化ナトリウム水溶液41.7g(0.5モル)を添加した。1−クロロブタンは全量の2/3を3時間かけて添加し、残りを2時間で添加した。48%水酸化ナトリウムは5時間一定速度で添加した。添加終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析した結果、原料の1−クロロブタンは消失していた。そこで、反応液を室温まで冷却した後、副生塩をろ過し、無色透明の反応液を得た。この生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は93.5%、N,N’−ジブチルピペラジンが2.6%、不明分が1.3%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は67gであった。他の例と共に実施例1の結果を表1に示す。
【0065】
実施例2 N−n−ブチルピペラジンの合成(1−クロロブタン/ピペラジン仕込み比=0.4モル)
実施例1において、ピペラジンを136.7g(1.6モル)、メタノールを137g、1−クロロブタンを58.8g(0.64モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液を52.9g(0.64モル)とした以外は実施例1と同様の方法で反応を行い、無色透明の反応液を得た。ガスクロマトグラフィー分析の結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は87.5%、N,N’−ジブチルピペラジンが6.1%、不明分が0.3%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は79gであった。
【0066】
実施例3 N−n−ブチルピペラジンの合成(実施例2に対し、添加速度変更1)
実施例2において、1−クロロブタンの全量の8割を3時間かけて添加後、残りの2割を2時間かけて添加した以外は実施例2と同様の方法で反応を行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は79.4%、N,N’−ジブチルピペラジンが9.2%、不明分が2.2%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は72gであった。
【0067】
実施例4 N−n−ブチルピペラジンの合成(NaOH/1−クロロブタン仕込み比=1.2モル)
実施例1において、ピペラジンを134.5g(1.6モル)、メタノールを134.5g、1−クロロブタンを57.8g(0.62モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液を62.4g(0.75モル)とした以外は実施例1と同様の方法で反応を行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は79.3%、N,N’−ジブチルピペラジンが5.3%、不明分が10.1%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は70gであった。
【0068】
実施例5 N−n−ブチルピペラジンの合成(1−クロロブタン/ピペラジン仕込み比=0.5モル)
実施例1において、ピペラジンを130.1g(1.5モル)、メタノールを130g、1−クロロブタンを69.9g(0.76モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液を62.9g(0.76モル)とした以外は実施例1と同様の方法で反応を行い、無色透明の反応液を得た。ガスクロマトグラフィー分析の結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は82.0%、N,N’−ジブチルピペラジンが8.3%、不明分が1.4%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は88gであった。
【0069】
実施例6 N−n−ブチルピペラジンの合成(後半添加時間延長)
実施例2において、1−クロロブタンは全量の2/3を3時間、残りを5時間かけて添加し、48%水酸化ナトリウムは8時間一定速度で添加した以外は実施例2と同様の方法で反応を行い、無色透明の反応液を得た。N−n−ブチルピペラジンの選択率は91.2%、N,N’−ジブチルピペラジン4.2%、不明分が0.4%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は82gであった。
【0070】
比較例1 N−n−ブチルピペラジンの合成(1−クロロブタンを添加し、熟成後、48%水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和処理)
窒素雰囲気下、500mlの三口丸底フラスコに、ピペラジン143.6g(1.7モル)とメタノール144gを仕込んだ後、液温を80℃まで昇温した。そこに、液温を80℃に保ちながら、1−クロロブタン46.3g(0.5モル)を3時間かけて添加した。添加終了後、さらに8時間熟成し、ガスクロマトグラフィー分析にて1−クロロブタンのピーク消失を確認した後、反応液を室温まで冷却した。放冷後、48%水酸化ナトリウム水溶液41.7g(0.5モル)を1時間かけて添加し、副生する塩酸を中和処理した。約1時間攪拌後、副生塩をろ過し、無色透明の反応液を得た。この生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は90.4%、N,N’−ジブチルピペラジンが4.4%、不明分が0.4%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は64gであった。
【0071】
比較例2 N−n−ブチルピペラジンの合成(1−クロロブタン/ピペラジン仕込み比=0.1モル)
実施例1において、ピペラジンを161.0g(1.9モル)、メタノールを161g、1−クロロブタンを17.3g(0.19モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液を15.6g(0.19モル)とした以外は実施例1と同様の方法で反応を行い、無色透明の反応液を得た。ガスクロマトグラフィー分析の結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は96.9%、N,N’−ジブチルピペラジンが1.3%、不明分が0.5%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は26gであった。
【0072】
比較例3 N−n−ブチルピペラジンの合成(1−クロロブタン/ピペラジン仕込み比=0.8モル)
実施例1において、ピペラジンを113.4g(1.3モル)、メタノールを113g、1−クロロブタンを97.5g(1.05モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液を87.7g(1.05モル)とした以外は実施例1と同様の方法で反応を行い、無色透明の反応液を得た。ガスクロマトグラフィー分析の結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は60.3%、N,N’−ジブチルピペラジンが18.3%、不明分が4.1%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は90gであった。
【0073】
比較例4 N−n−ブチルピペラジンの合成(実施例2に対し、添加速度変更2)
実施例2において、1−クロロブタンを5時間一定速度で添加した以外は実施例2と同様の方法で反応を行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は76.3%、N,N’−ジブチルピペラジンが11.2%、不明分が2.3%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は69gであった。
【0074】
比較例5 N−n−ブチルピペラジンの合成(実施例2に対し、添加時の液温の影響)
実施例2において、ピペラジンとメタノールを仕込んだ後に液温を50℃まで昇温し、1−クロロブタンと48%水酸化ナトリウム水溶液の添加を終了した後、80℃まで昇温した以外は実施例2と同様の方法で反応を行い、無色透明の反応液を得た。この生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−n−ブチルピペラジンの選択率は81.6%、N,N’−ジブチルピペラジンが8.9%、不明分が0.6%であった(1−クロロブタン換算)。バッチあたりのN−n−ブチルピペラジンの収量は74gであった。
【0075】
【表1】
表1の結果から、実施例1と比較例1とを比較すると、アルカリ源(水酸化ナトリウム)に対し、求電子試薬(1−クロロブタン)を優先的に添加した場合、選択性が向上するだけでなく、反応時間も短縮した。また、比較例2のように1−クロロブタンとピペラジンの仕込み比が低い場合、選択率は高いが釜効率は悪化し、収量は低下した。過剰ピペラジンの除去に要する時間も長くなり採算性が悪化する。一方、実施例5と比較例3とを比較すると、1−クロロブタンとピペラジンの仕込み比が高すぎても、1−クロロブタンの仕込み量は増加するが、選択率が低下するため、収量に差がない結果となった。
【0076】
実施例2,3と比較例5とを比較すると、1−クロロブタンと水酸化ナトリウムの添加速度を前後半で変化させた方が、選択性が向上した。また、1−クロロブタンの添加速度が速過ぎても、選択率が低下する傾向がみられた。比較例5から、1−クロロブタンと水酸化ナトリウムの添加時の温度が高い方が、反応選択性が向上した。工業化スケールの場合、昇温に時間を要することからも生産性の点で、初期温度が高いほうが好ましい。
【0077】
実施例7 N−(3−ヒドロキシプロピル)ピペラジンの合成
実施例4において、1−クロロブタン58.8g(0.64モル)の代わりに3−クロロプロパノール60.1g(0.64モル)を使用した以外は、実施例4に記載の方法で反応を行い、無色の反応液を得た。この生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−(3−ヒドロキシプロピル)ピペラジンの選択率は90.6%、N,N’−ビス(3−ヒドロキシプロピル)ピペラジンが3.6%、不明分が2.2%であった(3−クロロプロパノール換算)。バッチあたりのN−(3−ヒドロキシプロピル)ピペラジンの収量は83gであった。
【0078】
実施例8 N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)ピペラジンの合成
実施例4において、1−クロロブタン58.8g(0.64モル)の代わりに3−クロロ−1,2−プロパンジオール70.2g(0.64モル)を使用した以外は、実施例4に記載の方法で反応を行い、無色の反応液を得た。この生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)ピペラジンの選択率は90.6%、N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)ピペラジンが3.6%、不明分が2.2%であった(3−クロロ−1,2−プロパンジオール換算)。バッチあたりのN−(2,3−ジヒドロキシプロピル)ピペラジンの収量は83gであった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、有機合成用触媒、化学吸着剤、抗菌剤、医農薬中間体等に有用なN−モノ置換ピペラジン類を簡便かつ高選択的に合成することができる。生産性に優れるため、工業的にも有用な方法である。