特許第6454805号(P6454805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6454805アルコール製剤及びそれを用いた消毒方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6454805
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】アルコール製剤及びそれを用いた消毒方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/752 20060101AFI20190107BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20190107BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20190107BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20190107BHJP
   A23L 3/349 20060101ALI20190107BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20190107BHJP
   A23L 3/3517 20060101ALI20190107BHJP
   A23L 3/3472 20060101ALI20190107BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20190107BHJP
   A01N 31/02 20060101ALI20190107BHJP
   A01N 37/04 20060101ALI20190107BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20190107BHJP
   A01N 65/36 20090101ALI20190107BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20190107BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20190107BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   A61K36/752
   A61P31/02
   A61P31/12
   A61K31/045
   A61K31/194
   A61K9/70
   A61K47/14
   A61K9/08
   A23L3/349 501
   A23L3/3508
   A23L3/3517
   A23L3/3472
   A01N25/02
   A01N31/02
   A01N37/04
   A01N37/36
   A01N65/36
   A01P1/00
   A01P3/00
   A01N25/34 A
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-58509(P2018-58509)
(22)【出願日】2018年3月26日
【審査請求日】2018年8月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(73)【特許権者】
【識別番号】593085808
【氏名又は名称】ADEKAクリーンエイド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】塩見 朋子
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 祐樹
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103250743(CN,A)
【文献】 特開2016−216430(JP,A)
【文献】 特開2014−076974(JP,A)
【文献】 特開2011−042579(JP,A)
【文献】 特開2014−129372(JP,A)
【文献】 特開2007−320924(JP,A)
【文献】 特開平03−090008(JP,A)
【文献】 特開2007−314737(JP,A)
【文献】 特開2014−019659(JP,A)
【文献】 特開2007−186505(JP,A)
【文献】 特開2008−137919(JP,A)
【文献】 特開2010−126488(JP,A)
【文献】 特表2015−501330(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/087528(WO,A1)
【文献】 飯尾圭三、山下泰治、小谷博秀、西淵光昭,グレープフルーツ種子抽出物とグリセリン脂肪酸エステルの殺菌力の相乗効果,日本防菌防黴学会第26回年次大会要旨集,1999年,Vol. 26,27頁
【文献】 赤坂隆志、佐藤隆、年光良介、定森耕平、佐藤真実、進藤智弘,ネコカリシウイルスに対するエタノール・グレープフルーツ種子抽出物混合液の不活化効果について,日本防菌防黴学会第44回年次大会要旨集,2017年,Vol. 44,144頁
【文献】 田村宗明、山田潔、菊池邦好、勝田公雄、落合邦康,アルコール系殺菌剤の改良とその抗菌効果について,日大歯学,2010年,Vol. 84, No. 3,pp. 75-79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分として、30質量%以上、95質量%以下のエタノール、
(B)成分として、クエン酸からなる有機酸及びクエン酸塩からなる有機酸塩、
(C)成分としてグリセリン脂肪酸エステル、
(D)グレープフルーツ種子抽出物、及び
(E)水
を含有するアルコール製剤であって、
該(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸がカプリル酸であり、
該アルコール製剤のpHが25℃で2.5以上、6.0以下である、アルコール製剤。
【請求項2】
前記(C)成分と前記(D)成分の質量比(C)/(D)の値が0.1以上、100以下である、請求項1に記載のアルコール製剤。
【請求項3】
前記(C)成分と前記(D)成分の質量比(C)/(D)の値が1以上、20以下である、請求項1又は2に記載のアルコール製剤
【請求項4】
前記(B)成分の配合量が、0.03質量%以上、7質量%以下であり、(B−a)クエン酸と(B−b)クエン酸塩の質量比(B−a)/(B−b)の値が5以上、20以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルコール製剤。
【請求項5】
さらに、(F)成分としてグリセリンを含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルコール製剤。
【請求項6】
前記(C)成分と前記(F)成分の質量比(C)/(F)の値が、0.1以上、100以下である、請求項5に記載のアルコール製剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルコール製剤を含む、抗ウイルス用消毒剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルコール製剤を含浸させた不織布を含む、消毒用シート。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のアルコール製剤を、食品加工設備、調理設備、食品及び器から選ばれる1種以上の表面に適用することを含む、前記表面の消毒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌に対する除菌性、ウイルスの不活化効果だけでなく、抗菌効果の持続性、抗ウイルス効果の持続性、材質への腐食防止性に優れたアルコール製剤、及びこのアルコール製剤を用いた消毒方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコールを主剤とするアルコール製剤は、安全性の高い製剤として利用されており、食品工場の製造現場や厨房スペースの衛生用途、消毒用途、食品保存の用途、環境衛生の用途等、使用性が極めて高い点から、除菌剤として広く使用されている。一方、感染性胃腸炎や食中毒を引き起こすヒトノロウイルスは、少量で感染し、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状を伴い、近年猛威をふるっている。ヒトノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベローブを持たないRNAウイルスであり、アルコール製剤、酸等に対して強い抵抗性を有する。さらに、アルコール製剤は主成分であるアルコールが揮発すると除菌性が低下する課題があった。
そのため、汎用性の高いアルコール製剤で、かつ、ノロウイルスを不活化できるだけでなく、アルコールが揮発しても菌やウイルスの残留を抑制できるアルコール製剤が望まれていた。
【0003】
特許文献1には、グレープフルーツ種子抽出液、フィチン酸、及び醸造用アルコールが配合されたpH5.8ないし6.4の除菌液が開示されている。
【0004】
特許文献2には、エタノール、有機酸、有機酸塩及びエタノールアミン類からなる群から選ばれた少なくとも1種、グリセリン脂肪酸エステルを含むpH6から12の消毒液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−320924号公報
【特許文献2】特開2014−019659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されている除菌液や消毒液では、ノロウイルスの代替ウイルスであるネコカリシウイルスでの不活化効果が確認されている。しかし、実際に使用することを想定した、汚れが混入した場合や水で薄まった場合の不活化効果は確認されていない。また、これらの文献では、抗菌効果の持続性や抗ウイルス効果の持続性については記載がされていない。
抗菌性効果を有し、ノロウイルスを含む病原性ウイルスを不活性化する効果を有する、実用性に優れた除菌液や消毒液はまだ存在していない。
【0007】
したがって、本発明は、細菌に対する除菌効果、ウイルスの不活化効果だけでなく、抗菌効果の持続性、抗ウイルス効果の持続性、材質への腐食防止性に優れたアルコール製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討した結果、エタノール、有機酸及び/又は有機酸塩、グリセリン脂肪酸エステル、グレープフルーツ種子抽出物、水を含有し、25℃でpHが2.5以上、6.0以下であるアルコール製剤が、従来のアルコール製剤の問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
(1)(A)成分として、30質量%以上、95質量%以下のエタノール、(B)成分として、クエン酸からなる有機酸及びクエン酸塩からなる有機酸塩、(C)成分としてグリセリン脂肪酸エステル、(D)グレープフルーツ種子抽出物、及び
(E)水を含有するアルコール製剤であって、該(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸がカプリル酸であり、該アルコール製剤のpHが25℃で2.5以上、6.0以下である、アルコール製剤、
(2)前記(C)成分と前記(D)成分の質量比(C)/(D)の値が0.1以上、100以下である、(1)のアルコール製剤、
(3)前記(C)成分と前記(D)成分の質量比(C)/(D)の値が1以上、20以下である、(1)又は(2)のアルコール製剤
(4)前記(B)成分の配合量が、0.03質量%以上、7質量%以下であり、(B−a)クエン酸と(B−b)クエン酸塩の質量比(B−a)/(B−b)の値が5以上、20以下である、(1)〜(3)のいずれかのアルコール製剤
(5)さらに、(F)成分としてグリセリンを含有する、(1)〜(4)のいずれかのアルコール製剤、
(6)前記(C)成分と前記(F)成分の質量比(C)/(F)の値が、0.1以上、100以下である、(5)のアルコール製剤、
(7)(1)〜(6)のいずれかのアルコール製剤を含む、抗ウイルス用消毒剤、
(8)(1)〜(6)のいずれか一項に記載のアルコール製剤を含浸させた不織布を含む、消毒用シート、及び
(9)(1)〜(6)のいずれかのアルコール製剤を、食品加工設備、調理設備、食品及び器から選ばれる1種以上の表面に適用することを含む、前記表面の消毒方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルコール製剤は、細菌に対して優れた除菌性を有し、ウイルスへの不活化効果を有し、抗菌効果の持続性、抗ウイルス効果の持続性、材質への腐食防止性等の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアルコール製剤において、(A)成分のエタノールは除菌性を得るために配合される。(A)成分の配合量としては、30質量%以上、95質量%以下であることが好ましく、35質量%以上、75質量%以下であることがより好ましく、38質量%以上、65質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以上、60質量%以下であることが最も好ましい。(A)成分の含有量が30質量%未満であると貯蔵安定性や除菌性が低下する場合があり、95質量%を超えても配合量に見合った効果は得られない場合がある。
【0012】
本発明のアルコール製剤において、(B)成分の有機酸及び/又は有機酸塩は水で希釈される場所や汚れがある場所での除菌性、材質への腐食防止性、pH緩衝性を得るために配合される。有機酸としては、例えば、アジピン酸、L−アスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、ソルビン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられ、中でもクエン酸が好ましい。有機酸塩としては、前記有機酸の塩を使用することができ、クエン酸塩を使用することが好ましい。有機酸の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、又はカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられ、中でもナトリウム塩が好ましい。これらを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
(B)成分の配合量としては、0.03質量%以上、7質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、3質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上、1質量%以下であることがさらに好ましい。7質量%を超えると、材質への腐食防止性が低下する場合がある。(B)成分として、(B−a)クエン酸と、(B−b)クエン酸塩との組み合わせを用いる場合、除菌性、ウイルス不活化効果、緩衝性を高めることから、(B−a)成分と(B−b)成分の質量比(B−a)/(B−b)が0.3以上、20以下が好ましく、0.5以上、15以下がより好ましく、1以上、10以下が特に好ましく、3以上、8以下が最も好ましい。
【0014】
本発明のアルコール製剤において、(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルである。グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、例えば、炭素数8以上、24以下の直鎖の飽和脂肪酸が好ましく、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸がより好ましく、アルコール製剤をスプレーで噴霧した際の展延性や貯蔵安定性の点から、カプリル酸であることが特に好ましい。これらは単独で用いても、二種以上を組み合わせてもよい。
【0015】
(C)成分の配合量としては、0.01質量%以上、3質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。(C)成分が0.01質量%未満では、アルコール製剤をスプレーで噴霧した際の展延性や除菌性が低下する場合があり、3質量%を超えても、配合量に見合った効果は得られない場合がある。
【0016】
本発明のアルコール製剤において、(D)成分のグレープフルーツ種子抽出物を使用する。ここで使用するグレープフルーツ種子抽出物としては特に限定されないが、グレープフルーツ(学名:Citrus paradisi Macfadyen(Rutaceae))の種子から水、エタノールなどのアルコール類などによって抽出されたものをいう。本発明においては、一般に食品添加物として認められたものを使用することが好ましい。
【0017】
既存添加物名簿収載品目リスト(日本添加物協会(最終改正平成26年1月30日)では、グレープフルーツ種子抽出物は、品名(名称)「グレープフルーツ種子抽出物(グレープフルーツの種子から得られた、脂肪酸及びフラボノイドを主成分とするものをいう。)」、起原・製法・本質「ミカン科グレープフルーツ(Citrus paradisi MACF.)の種子より、水又はエタノールで抽出して得られたものである。主成分は脂肪酸及びフラボノイドである。」と収載されている。
【0018】
上記のグレープフルーツ種子抽出物は市販されており、例えば、アデプト社より入手可能な「グレープフルーツ種子抽出物 Desfan−10」、「グレープフルーツ種子抽出物 D−100」等が挙げられる。なお、Desfan−100にはグリセリンが約60重量%、水が約5重量%含まれるので、グレープフルーツ種子抽出物は約35%含まれる。Desfan−10にはグリセリンが約6.2重量%、水が約90.5%含まれるので、グレープフルーツ種子抽出物は約3.3%含まれる。
【0019】
グレープフルーツ種子抽出物は、一般的には以下のように製造されるが、この方法に限定されるものではない。
まず、グレープフルーツの種子(好ましくは未成熟の種子。グレープフルーツはいずれの産地のものでも用いることができる)を粉砕し、粉砕した種子を、水、アルコール類、炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類またはハロゲン化炭化水素類、およびこれらの混合溶媒に浸漬して抽出するか、あるいは浸漬し加熱還流して抽出し、適宜濃縮または濃縮還元して得られる。水およびアルコールが抽出溶媒として好ましく使用されうる。アルコールとしては、一価アルコールおよび多価アルコールのいずれもが用いられ得、好ましくは、水、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、およびこれらの混合溶媒が挙げられ、さらに好ましくは水、エタノールおよびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0020】
(D)成分の配合量としては、溶媒を含む抽出物としての質量がアルコール製剤に対して、0.001質量%以上、5質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上、1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。(D)成分が0.001質量%未満では、抗菌効果の持続性や抗ウイルス効果の持続性が低下する場合があり、5質量%を超えても、配合量に見合った効果は得られない場合がある。
【0021】
本発明のアルコール製剤において、(C)成分と(D)成分の質量比(C)/(D)の値が、抗菌性、抗ウイルス効果の持続性の相乗効果の観点から、0.1以上、100以下であることが好ましく、0.2以上、40以下であることが更に好ましく、0.5以上、30以下であることがなお更に好ましく、1以上、20以下であることが最も好ましい。(C)/(D)が0.1未満であると、展延性や貯蔵安定性が低下する場合があり、100を超えると、抗菌性、抗ウイルス効果の持続性、貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0022】
本発明のアルコール製剤において、(E)成分の水としては、特に限定はなく、水道水、井水、イオン交換水、軟水、蒸留水などが挙げられる。(E)成分は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、除菌性、ウイルス不活化効果の点から、イオン交換水又は蒸留水が好ましい。
【0023】
本発明のアルコール製剤は、抗菌効果の持続性、抗ウイルス効果の持続性、材質への腐食防止性、及び食品への変色や風味低下防止性が発揮できるため、pHが2.5以上、6.0以下であることが必要であるが、好ましくはpHが3.2以上、5.0以下であり、より好ましくはpHが3.4以上、4.2以下であり、特に好ましくはpHが3.6以上、3.9以下である。アルコール製剤のpHが2.5未満であると、材質への腐食防止性、及び食品への変色や風味低下防止性が低下する場合があり、6.0を超えると、抗ウイルス持続性が低下する場合がある。
【0024】
本発明のアルコール製剤には、更に(F)成分としてグリセリンを含有してもよい。グリセリンを含有すると、除菌性、ウイルスの不活化効果、貯蔵安定性を向上することができる。(F)成分は、アルコール製剤中、0.005質量%以上、5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上、1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。(F)成分のアルコール製剤中の割合が0.005質量%未満では、除菌性、ウイルス不活化の相乗効果が十分に得られない場合があり、5質量%を超えても、配合量に見合った効果は得られない場合がある。アルコール製剤は、除菌性、ウイルス不活化効果、展延性の点で、(C)成分と(F)成分の質量比(C)/(F)の値が、0.1以上、100以下であることが好ましく、0.3以上、40以下であることがより好ましく、1以上、20以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明のアルコール製剤は、(A)成分から(F)成分の他に、本発明の効果を妨げない範囲で、当該技術分野で通常使用される成分を含有していてもよい。このような成分としては、例えば、(F)成分以外の多価アルコール、香料、色素等が挙げられる。これらのアルコール製剤中の割合は0.001質量%以上、10質量%以下が好ましいが、0.01質量%以上、2質量%以下がより好ましい。
【0026】
上記(F)成分以外の多価アルコールとしては、2個以上のヒドロキシ基−OHをもった脂肪族化合物であればよく、例えば、キシリトール、ソルビトール、プロピレングリコール、マンニトール等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
本発明のアルコール製剤は、強力な除菌性、ウイルス不活化効果を有し、アルコール製剤を適用後も抗菌性や抗ウイルス性を持続することができるため、細菌やウイルスの汚染・混入が問題となる幅広い用途、食品工場の製造現場や厨房スペースの衛生用途、消毒用途、食品保存の用途、環境衛生の用途等での除菌・ウイルス不活化に有用である。
【0028】
その他の利用方法としては、例えば本発明のアルコール製剤を食品自体に適用する場合、被処理対象とする食品に噴霧、塗布する方法、食品を本発明製剤中に浸漬する方法、食品又はその原料中に本発明のアルコール製剤を混合する方法等が挙げられる。また、本発明のアルコール製剤は、食品自体に限らず、該食品やその原料等が接触する食品製造用機械、器具等や食品容器、包装物等を取扱う作業者等にも適用し、手指等の消毒を行なうことができる。不織布を用いて、本発明のアルコール製剤を含浸させると、ウェットシートなどの消毒用シートを得ることができる。硬質表面を拭き取る場合等で好適に用いられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例と比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。実施例、比較例において配合に用いた各成分を下記に示す。尚、表中における実施例及び比較例における各成分の配合の数値は純分の質量%を表す。
【0030】
(A)成分
A−1:エタノール
【0031】
(B)成分
B−1:クエン酸
B−2:クエン酸ナトリウム
B−3:グルコン酸
B−4:グルコン酸ナトリウム
B−5:乳酸
B−6:乳酸ナトリウム
B−7:ソルビン酸
B−8:ソルビン酸ナトリウム
【0032】
(C)成分
C−1:グリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸が、カプリル酸)
C−2:グリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸が、カプリン酸)
C−3:グリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸が、ラウリル酸)
【0033】
(D)成分
D−1:グレープフルーツ種子抽出物(アデプト社製:グレープフルーツ種子抽出物 Desfan−10をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにてグリセリンを分離したものを使用)
なお、実施例においてグリセリンの配合量を明確にするため、またグリセリンの効果を確認するために、グレープフルーツ種子抽出物に含まれるグリセリンを除いた。
【0034】
(E)成分
E−1:イオン交換水
【0035】
(F)成分
F−1:グリセリン
【0036】
実施例1から40、比較例1から6
表1から表5に示す配合に基づきアルコール製剤を調製した。アルコール製剤中のpH、細菌に対する除菌性、ウイルス不活化、抗菌持続性、抗ウイルス持続性、材質への腐食防止性、貯蔵安定性試験を行った。結果を表1から表5にあわせて示す。なお、貯蔵安定性が×の場合、他の試験をおこなわず、−とした。
また、実施例6〜8、23〜27は参考例である。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
pHの測定方法
<pHメーターの校正>
pHメーター(HORIBA製;pH/イオンメーター F−23)にpH測定用複合電極(HORIBA製;ガラス摺り合わせスリーブ型)を接続し、電源を入れる。pH電極内部液としては、飽和塩化カリウム水溶液(3.33mol/L)を使用した。次に、pH4.01標準液(フタル酸塩標準液)、pH6.86標準液(中性リン酸塩標準液)、pH9.18標準液(ホウ酸塩標準液)をそれぞれ100mLビーカーに充填し、25℃の恒温槽に30分間浸漬した。恒温に調整された標準液にpH測定用電極を3分間浸し、pH6.86、pH9.18、pH4.01の順に校正操作を行った。
<pH測定>
恒温槽内にて25℃の恒温に調整された本発明のアルコール製剤100mLにpH測定用電極を3分間浸し、pHを測定した。
【0043】
※1:除菌性試験(汚れ添加)
試験方法:
供試菌株をSCDブイヨン培地にて37℃で培養して、2.0×10〜9.0×10CFU/mL程度になるように菌数を調製して菌液とした。表1から表5に示す各アルコール製剤9mLに、酵母エキス液1mL(乾燥酵母エキスを滅菌イオン交換水で10質量%に調製し、pHを7.0±0.2に調整後、オートクレーブで滅菌)、供試菌液0.1mLを添加し、25℃にて5分間接触させた後、滅菌中和溶液(SCDLP培地)を加えよく攪拌した。
細菌としてStaphylococcus aureus NBRC12732(10CFU/mLレベル)、Escherichia coli NBRC3972(10CFU/mLレベル)を用いた。
この1mLをSCD寒天培地で混釈培養し生菌数を確認し、下記の基準で評価した。
評価基準:
1点:供試菌のlog reductionが5以上の菌数減少
2点:供試菌のlog reductionが4以上、5未満の菌数減少
3点:供試菌のlog reductionが3以上、4未満の菌数減少
4点:供試菌のlog reductionが3未満の菌数減少
として上記各菌種について、菌数減少の点数の平均値を求め、以下の基準で除菌性を評価した。
◎:平均値が1.0点以上、1.5点未満。
○:平均値が1.5点以上、2.5点未満。
△:平均値が2.5点以上、3.5点未満。
×:平均値が3.5点以上。
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0044】
※1:除菌性試験(水添加)
試験方法:
供試菌株をSCDブイヨン培地にて37℃で培養して、2.0×10〜9.0×10CFU/mL程度になるように菌数を調製して菌液とした。表1から表5に示す各アルコール製剤2.5mLに、滅菌イオン交換水7.5mL、供試菌液0.1mLを添加し、25℃にて5分間接触させた後、滅菌中和溶液(SCDLP培地)を加えよく攪拌した。
細菌としてStaphylococcus aureus NBRC12732(10CFU/mLレベル)、Escherichia coli NBRC3972(10CFU/mLレベル)を用いた。
この1mLをSCD寒天培地で混釈培養し生菌数を確認し、下記の基準で評価した。
評価基準:
1点:供試菌のlog reductionが5以上の菌数減少
2点:供試菌のlog reductionが4以上、5未満の菌数減少
3点:供試菌のlog reductionが3以上、4未満の菌数減少
4点:供試菌のlog reductionが3未満の菌数減少
として上記各菌種について、菌数減少の点数の平均値を求め、以下の基準で除菌性を評価した。
◎:平均値が1.0点以上、1.5点未満。
○:平均値が1.5点以上、2.5点未満。
△:平均値が2.5点以上、3.5点未満。
×:平均値が3.5点以上。
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0045】
※2:ウイルス不活化試験
試験方法:
試験管に0.9mLの表1から表5に示す各アルコール製剤と、10TCID50/mLとなるように調整したネコカリシウイルス液(FCV F9株)0.1mLを加え、ミキサーで混合し、25℃で30秒間作用させた。作用後、2%牛胎児血清(FBS)を添加したDulbecco‘s modified Eagle’s Medium(DEME)で7倍希釈し、反応を停止した。停止液をDEME培地で7倍段階希釈し、各希釈液をネコ腎臓細胞(CRFK)に接種し、1%FBS加DEME培地において、37℃、COインキュベーター内で4日間培養した。培養後、細胞変性効果を観察し、ウイルス感染価(TCID50/mL)を求めた。対照の初期感染価と試験品作用後の感染価から、Log reduction(ウイルス感染価対数減少値)を算出し、以下の基準にて評価した。
【0046】
評価基準:
◎:ウイルス感染価のLog reductionが4以上の減少
○:ウイルス感染価のLog reductionが3以上、4未満の減少
△:ウイルス感染価のLog reductionが2以上、3未満の減少
×:ウイルス感染価のLog reductionが2未満の減少
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0047】
※3:抗菌持続性試験
除菌性試験で調整した菌液(細菌:Staphylococcus aureus NBRC12732(10CFU/mLレベル))を0.1mL接種して、SCD寒天培地(日水製薬(株)製)に塗布する。滅菌済みの抗生物質ペーパーディスク(直径8mm)に表1から表5に示す各アルコール製剤を50μL投与し、25℃で2日間乾燥後、培地表面に静置した。この寒天培地を恒温槽(温度37℃)内で24時間培養した。ペーパーディスク周辺に発生する発育阻止帯の大きさに基づき、以下の基準で各アルコール製剤の抗菌持続性効果を評価した。
【0048】
評価基準:
◎:ペーパーディスクの周辺に大きな発育阻止帯が認められる。
〇:ペーパーディスクの周辺に発育阻止帯が認められる。
△:ペーパーディスクの周辺にわずかに発育阻止帯が認められる。
×:ペーパーディスクの周辺に発育阻止帯が認められない。
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0049】
※4:抗ウイルス持続性試験
表1から表5に示す各アルコール製剤を滅菌済みガーゼに含浸させ、室温で完全に乾燥させ、これを試験片とした。また、薬剤を含浸していない滅菌済みガーゼを対照試験片とした。この試験片を滅菌済み容器に入れ、ネコカリシウイルス液(FCV F9株)を0.2mL接種後、25℃で24時間静置した。その後、容器にSCDLPブイヨン培地を加えて、ウイルスを洗い出し、これを停止液とした。停止液をリン酸緩衝生理食塩水で10倍段階希釈した。CRFK細胞に各希釈液を接種し、37℃、COインキュベーター内で培養した。培養後、ウイルスの増殖により形成されたプラーク数を計測して試験片あたりの感染価を算出した。
【0050】
評価基準:
◎:対照試験片と比較してウイルス感染価の常用対数値が4以上の減少
〇:対照試験片と比較してウイルス感染価の常用対数値が3以上、4未満の減少
△:対照試験片と比較してウイルス感染価の常用対数値が2以上、3未満の減少
×:対照試験片と比較してウイルス感染価の常用対数値が2未満の減少
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0051】
※5:材質への腐食防止性試験
試験方法:
表1から表5に示す各アルコール製剤に対して、3cm×5cmの大きさにカットされたゴムパッキン(NBR)1枚を浸漬し、25℃で48時間保管後、各ゴムパッキンをイオン交換水ですすぎ24時間室温で乾燥した後、腐食度合いを目視で評価した。
評価基準:
◎:変色・膨張などが全く見られない。
○:ほぼ変色・膨張などが見られない。
△:一部に変色・膨張などが見られるが、問題ないレベル。
×:全体に変色・膨張などが見られる。とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0052】
※6:貯蔵安定性試験
試験方法:
250mL透明ポリプロピレン製容器に表1から表5に示す各アルコール製剤を250mLとり、蓋をして−5℃、25℃、40℃の恒温槽中で静置保管した。1カ月後、各アルコール製剤の状態を以下の基準で評価した。
評価基準:
○:析出物・分離・濁りが見られず安定である。
△:析出物が若干見られるが、問題ないレベル。
×:析出物や分離が見られる。
とし、○、△を実用性のあるものとして判定した。
【0053】
※7:展延性試験
試験方法:
表3から表5に示す各アルコール製剤をBPB指示薬(ブロモフェノールブルー0.1gをエタノール50mLに溶かし、イオン交換水で100mLにする)で染色させ、サンプル溶液とした。ステンレスSUS304パネル(2cm×5cm)の面にサンプル溶液を150μL滴下させ、25℃で20分後の経時変化を観察した。パネル面の染色された面積の大きさに基づき、以下の基準で展延性の効果を評価した。
<評価基準>
○:パネル面が、液滴の2倍以上の染色(広がり)があった。
△:パネル面が、液滴より染色(広がり)があった。
×:パネル面が、液滴以上の染色(広がり)はなかった。
とし、○、△を実用性のあるものとして判定した。
【要約】
【課題】本発明は、細菌に対する除菌効果、ウイルスの不活化効果だけでなく、抗菌効果の持続性、抗ウイルス効果の持続性、材質への腐食防止性に優れたアルコール製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するために、(A)成分としてエタノール、(B)成分として有機酸及び/又は有機酸塩、(C)成分としてグリセリン脂肪酸エステル、(D)グレープフルーツ種子抽出物、及び(E)水を含有し、pHが25℃で2.5以上、6.0以下である、アルコール製剤を提供する。
【選択図】なし