特許第6455067号(P6455067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6455067電線用被覆材料、電線および電線用被覆材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6455067
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】電線用被覆材料、電線および電線用被覆材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/30 20060101AFI20190110BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20190110BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20190110BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20190110BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   H01B3/30 M
   H01B3/44 P
   H01B3/44 C
   H01B7/18 Z
   C08L27/12
   C08K7/06
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-213560(P2014-213560)
(22)【出願日】2014年10月20日
(65)【公開番号】特開2016-81804(P2016-81804A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】西 栄一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/000792(WO,A1)
【文献】 特開2006−137937(JP,A)
【文献】 特開昭62−190244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/30
C08K 7/06
C08L 27/12
H01B 3/44
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)成分と(B)成分とからなり、または以下の(A)成分と(B)成分と(C)成分とからなり、
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計(前記(C)成分の含有量が0である場合も含む。)に対して、0.01〜5.0質量%であり、
メルトフローレートが、0.5g/10分以上であり、
以下の方法で求めた体積固有抵抗が、10Ω・cm超である、電線用被覆材料。
(A):溶融成形可能なフッ素樹脂。
(B):アスペクト比100以上のカーボンナノチューブであるフィラー。
(C):非溶融樹脂成分および前記(B)成分以外の非樹脂成分からなる群から選択される少なくとも1種。
(体積固有抵抗):電線用被覆材料からなる幅10mm、長さ70mm、厚さ1mmの試験片を作製し、絶縁抵抗計にて抵抗値を測定し、下式(1)から体積固有抵抗を求める。
ρ=R×W×t/L ・・・(1)
ただし、ρは体積固有抵抗であり、Rは抵抗値であり、Wは試験片の幅であり、tは試験片の厚さであり、Lは電極間距離である。
【請求項2】
前記カーボンノナノチューブが、多層カーボンナノチューブである、請求項に記載の電線用被覆材料。
【請求項3】
芯線と、該芯線の表面に形成された、請求項1または2に記載の電線用被覆材料からなる被覆と、を有する電線。
【請求項4】
航空機用電線である、請求項に記載の電線。
【請求項5】
請求項1または2に記載の電線用被覆材料を製造する方法であって、
前記(A)成分と前記(B)成分とを、または前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分とを、スクリューを備えた装置を用いて溶融混練して、混練物からなる電線用被覆材料を製造する工程を含み、
前記溶融混練が、前記スクリューの先端側から前記混練物を連続的または断続的に吐出しながら行われ、
前記溶融混練における、前記混練物の平均吐出量が1.0kg/時間以上で、前記スクリューの回転数が50〜700rpmで、せん断速度が0.5〜2000秒−1である、電線用被覆材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線用被覆材料、電線および電線用被覆材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン重合体に代表されるように、耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐候性、非粘着性、低摩擦性、低誘電特性等に優れ、ケミカルプラント耐食配管材料、農業用ビニールハウス材料、厨房器用離型コート材料、耐熱難燃電線用被覆材料等として、幅広い分野に用いられている。特に、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体およびエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「ETFE」ともいう。)は、前述のフッ素樹脂特有の特性に優れ、溶融成形が可能であるため、その用途や成形方法は多岐にわたる。
中でもETFEは、カットスルー抵抗性が優れるため、現在、航空機や自動車等の分野における電線用被覆材料として好適に使用されている。しかし、ETFEは、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等のペルフルオロ重合体に比べて耐熱性が劣る。
【0003】
耐熱性、耐ストレスクラック性、カットスルー抵抗性に優れる耐熱電線の被覆材料として、下記のものが提案されている。
(1)テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)に基づく繰り返し単位を97.5/2.5〜85/15のモル比で含有し、380℃における容量流速が0.1〜20mm/秒であり、MIT折り曲げ寿命が300万回以上である含フッ素共重合体と絶縁性の充填剤(マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛等)とを含有する被覆材料(特許文献1)。
【0004】
電線被覆材等に要求される電気絶縁性および強度を有し、耐摩耗性に優れた含フッ素共重合体組成物として、下記のものが提案されている。
(2)テトラフルオロエチレンに基づく構成単位、フッ素モノマーに基づく構成単位、酸無水物残基を有しフッ素原子を有しないモノマーの基づく構成単位を特定の割合で有する含フッ素共重合体と、ロックウェル硬度がM60以上、かつASTM D−257で規定した絶縁性が1015Ω・cm以上の熱可塑性樹脂とを特定の体積比で含有する含フッ素共重合体組成物(特許文献2)。
該含フッ素共重合体組成物における熱可塑性樹脂としては、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等のいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−66329号公報
【特許文献2】国際公開第2013/125468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)の被覆材料は、使用するフッ素樹脂が限定されている。また、本発明者らの検討によれば、(1)の被覆材料における充填剤をフッ素樹脂に配合した場合、特にフッ素樹脂がETFEである場合、耐熱性が低下することがある。たとえば熱分解温度が低下することがある。
(2)の含フッ素共重合体組成物は、電線成形を行うと、形成される被覆がウエルドラインから裂けて外観不良になることがある。
【0007】
本発明は、耐熱性および外観に優れた被覆を形成できる電線用被覆材料およびその製造方法、該電線用被覆材料を用いた電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]以下の(A)成分と(B)成分とからなり、または以下の(A)成分と(B)成分と(C)成分とからなり、
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計(前記(C)成分の含有量が0である場合も含む。)に対して、0.01〜5.0質量%であり、
メルトフローレートが、0.5g/10分以上であり、
以下の方法で求めた体積固有抵抗が、10Ω・cm超である、電線用被覆材料。
(A):溶融成形可能なフッ素樹脂。
(B):アスペクト比100以上のフィラー。
(C):非溶融樹脂成分および前記(B)成分以外の非樹脂成分からなる群から選択される少なくとも1種。
(体積固有抵抗):電線用被覆材料からなる幅10mm、長さ70mm、厚さ1mmの試験片を作製し、絶縁抵抗計にて抵抗値を測定し、下式(1)から体積固有抵抗を求める。
ρ=R×W×t/L ・・・(1)
ただし、ρは体積固有抵抗であり、Rは抵抗値であり、Wは試験片の幅であり、tは試験片の厚さであり、Lは電極間距離である。
[2]前記(B)成分が、カーボンナノチューブである、[1]に記載の電線用被覆材料。
[3]前記カーボンノナノチューブが、多層カーボンナノチューブである、[2]に記載の電線用被覆材料。
[4]芯線と、該芯線の表面に形成された、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の電線用被覆材料からなる被覆と、を有する電線。
[5]航空機用電線である、[4]に記載の電線。
[6][1]〜[3]のいずれか一項に記載の電線用被覆材料を製造する方法であって、
前記(A)成分と前記(B)成分とを、または前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分とを、スクリューを備えた装置を用いて溶融混練して、混練物からなる電線用被覆材料を製造する工程を含み、
前記溶融混練が、前記スクリューの先端側から前記混練物を連続的または断続的に吐出しながら行われ、
前記溶融混練における、前記混練物の平均吐出量が1.0kg/時間以上で、前記スクリューの回転数が50〜700rpmで、せん断速度が0.5〜2000秒−1である、電線用被覆材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性および外観に優れた被覆を形成できる電線用被覆材料およびその製造方法、該電線用被覆材料を用いた電線を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「溶融成形可能」とは、溶融流動性を示すことを意味する。
「構成単位」とは、単量体が重合することによって形成された該単量体に由来する単位を意味する。構成単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「単量体」とは、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「非樹脂成分」とは、樹脂(重合体)以外の物質を意味する。
フィラーの「アスペクト比」とは、フィラーの直径をフィラーの厚さで割った値を意味する。
フィラーの直径および厚みはそれぞれ以下の手順で求められる値である。
走査型電子顕微鏡(FE−SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)等の顕微鏡によりフィラーを観察し、顕微鏡像内に存在するn個(n=100以上)の構造体(フィラー粒子)の直径を測定し、得られたn個の測定値のうち、小さい方から10%を除いた測定値の範囲(大きい方から90%の測定値の範囲)を求め、該範囲内の測定値の平均値を求め、該平均値をフィラーの直径とする。構造体の直径の代わりに構造体の厚みを測定する以外は上記と同じ手順で求めた平均値をフィラーの厚みとする。
このようにして求めた直径(平均値)を厚み(平均値)で割った値をフィラーのアスペクト比とする。
「非溶融樹脂成分」とは、溶融成形可能ではない樹脂成分、つまり溶融流動性を示さない樹脂成分を意味する。具体的には、ASTM D3307に準拠し、測定温度372℃、荷重49Nで測定されるメルトフローレートが0.5g/10分未満の樹脂成分である。
【0011】
<電線用被覆材料>
本発明の電線用被覆材料は、以下の(α)または(β)である。
(α):以下の(A)成分と(B)成分とからなる電線用被覆材料。
(β):以下の(A)成分と(B)成分と(C)成分とからなる電線用被覆材料。
【0012】
((A)成分)
(A)成分は、溶融成形可能なフッ素樹脂である。
「溶融成形可能なフッ素樹脂」は、溶融流動性を示すフッ素樹脂である。具体的には、融点より20℃以上高い温度でのメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう。)が0.5g/10分以上であるフッ素樹脂を意味する。
【0013】
(A)成分としては、溶融成形可能なフッ素樹脂として公知のものが挙げられ、たとえば、ETFE、テトラフルオロエチレン/フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、「PFA」ともいう。)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、「FEP」ともいう。)、ポリビニリデンフルオライド(以下、「PVDF」ともいう。)、ポリクロロトリフルオロエチレン(以下、「PCTFE」ともいう。)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(以下、「ECTFE」ともいう。)、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。また、これらのフッ素樹脂に接着性を持たせた接着性フッ素樹脂でもよい。
電線用被覆材料に含まれる(A)成分は1種でも2種以上でもよい。
【0014】
(A)成分としては、電線用被覆材料から形成される被覆の耐屈曲性等がさらに優れる点から、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位を有する共重合体が好ましい。たとえば、ETFE、PFA、FEP、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体等からなる群より選ばれる1つを単独で、または2つ以上をブレンドして好ましく用いることができる。上記の中でも、電線用被覆材料の成形性、耐熱性、電線用被覆材料から形成される被覆の耐熱性、摺動性等の点から、ETFE、PFA、FEPがより好ましい。
【0015】
ETFEは、エチレンに基づく構成単位およびテトラフルオロエチレンに基づく構成単位を有する。
ETFEにおけるテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とエチレンに基づく構成単位とのモル比(テトラフルオロエチレンに基づく構成単位/エチレンに基づく構成単位)は、50/50〜90/10が好ましい。各構成単位のモル比が前記範囲内にあれば、耐屈曲性、耐熱性、流動性がより優れる。
ETFEにおける全構成単位の合計に対するテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とエチレンに基づく構成単位との合計の割合は、50モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。
【0016】
PFAは、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位とフルオロアルキルビニルエーテルに基づく構成単位とを有する。
フルオロアルキルビニルエーテルとしては、たとえば、下式で表される化合物が挙げられる。
CF=CF−O−R
ただし、Rは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基である。
フルオロアルキルビニルエーテルとしては、耐熱性の点から、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)が好ましい。ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、前記式におけるRが炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基である化合物が挙げられる。
【0017】
PFAにおけるテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とフルオロアルキルビニルエーテルに基づく構成単位とのモル比(テトラフルオロエチレンに基づく構成単位/フルオロアルキルビニルエーテルに基づく構成単位)は、92/8〜99/1が好ましい。各構成単位のモル比が前記範囲内にあれば、耐熱性、流動性がより優れる。
PFAにおける全構成単位の合計に対するテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とフルオロアルキルビニルエーテルに基づく構成単位との合計の割合は、50モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。
【0018】
FEPは、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位およびヘキサフルオロプロピレンに基づく構成単位を有する。
FEPにおけるテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく構成単位とのモル比(テトラフルオロエチレンに基づく構成単位/ヘキサフルオロプロピレンに基づく構成単位)は、80/20〜99/1が好ましい。各構成単位のモル比が前記範囲内にあれば、耐熱性、流動性がより優れる。
FEPにおける全構成単位の合計に対するテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく構成単位との合計の割合は、50モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。
【0019】
ETFE、PFA、FEP、PVDF、PCTFE、ECTFE、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体はそれぞれ、該フッ素樹脂の本質的な性質を損なわない範囲で、他の単量体に基づく構成単位を有していてもよい。たとえば、ETFEの場合は、エチレンおよびテトラフルオロエチレン以外の単量体に基づく構成単位を有していていもよい。PFAの場合は、テトラフルオロエチレンおよびフルオロ(アルキルビニルエーテル)以外の単量体に基づく構成単位を有していていもよい。FEPの場合は、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレン以外の単量体に基づく構成単位を有していていもよい。
【0020】
他の単量体としては、テトラフルオロエチレン(ただし、フッ素樹脂がPFA、FEPおよびETFEである場合を除く。)、ヘキサフルオロプロピレン(ただし、フッ素樹脂がFEPである場合を除く。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(ただし、フッ素樹脂がPFAである場合を除く。)、ペルフルオロアルキルエチレン(アルキル基の炭素数1〜10)、ペルフルオロアルキルアリルエーテル(アルキル基の炭素数1〜10)、下式で表される化合物等が挙げられる。
CF=CF[OCFCF(CF)]OCF(CF
ただし、Xは、ハロゲン原子であり、nは、0〜5の整数であり、pは、0〜2の整数である。
他の単量体に基づく構成単位の割合は、ETFE、PFA、FEP、PVDF、PCTFEまたはECTFEにおける全構成単位の合計(100モル%)に対し、50モル%以下が好ましく、0.01〜45モル%がより好ましい。
【0021】
接着性フッ素樹脂としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基(以下、官能基(I)と記す。)を有するフッ素樹脂が挙げられる。
接着性フッ素樹脂は、官能基(I)を有することによって、官能基(I)を有しないフッ素樹脂に比べて、他基材(電線の芯線等)との間の密着性に優れる。
官能基(I)は、接着性フッ素樹脂の主鎖末端および側鎖のいずれか一方または両方に存在する。
官能基(I)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0022】
官能基(I)としては、他基材との間の密着性の点から、カルボニル基含有基が好ましい。
カルボニル基含有基とは、構造中にカルボニル基(−C(=O)−)を含む基である。カルボニル基含有基としては、たとえば、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有してなる基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物残基等が挙げられる。
【0023】
前記炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有してなる基における炭化水素基としては、例えば炭素数2〜8のアルキレン基等が挙げられる。なお、該アルキレン基の炭素数は、カルボニル基を含まない状態での炭素数である。該アルキレン基は直鎖状でも分岐状でもよい。
ハロホルミル基は、−C(=O)−X(ただし、Xはハロゲン原子である。)で表される。ハロホルミル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられ、他基材との反応性の点から、フッ素原子が好ましい。すなわちハロホルミル基としてはフルオロホルミル基(カルボニルフルオリド基ともいう。)が好ましい。
アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、他基材との反応性の点から、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
【0024】
接着性フッ素樹脂中の官能基(I)の含有量は、接着性フッ素樹脂の主鎖の炭素数1×10個に対して、10〜60000個が好ましく、100〜50000個がより好ましく、100〜10000個がさらに好ましく、300〜5000個が特に好ましい。官能基(I)の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、接着性フッ素樹脂と他基材との間の密着性がより優れたものとなる。官能基(I)の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、低い加工温度で他基材に対する高度の密着性が得られる。
【0025】
官能基(I)の含有量は、核磁気共鳴(NMR)分析、赤外吸収スペクトル分析等の方法によって測定できる。たとえば、特開2007−314720号公報に記載のように赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いて、接着性フッ素樹脂を構成する全構成単位中の官能基(I)を有する構成単位の割合(モル%)を求め、該割合から官能基(I)の含有量を算出できる。
【0026】
接着性フッ素樹脂としては、たとえば、所定の単量体を重合してフッ素樹脂を製造する際に、官能基(I)を有する単量体をともに重合する方法、ラジカル重合開始剤および連鎖移動剤の少なくとも一方として官能基(I)を有する化合物を用いる方法、熱により分解して官能基(I)を生成する官能基を有するフッ素樹脂を加熱して官能基(I)を生成させる方法、フッ素樹脂に官能基(I)を有する単量体をグラフト重合する方法等のいずれか1以上の方法を組合わせて得られるフッ素樹脂が挙げられる。
【0027】
(A)成分の質量平均分子量は、5万〜500万が好ましい。(A)成分の質量平均分子量が5万以上であれば、機械的強度および耐熱性がより優れる。(A)成分の質量平均分子量が500万以下であれば、溶融流動性がより優れる。
【0028】
(A)成分のMFRは、電線用被覆材料のMFRを0.5g/10分以上とする観点から、1g/10分以上が好ましく、3g/10分以上がより好ましく、5g/10分以上がさらに好ましい。また、電線用被覆材料のハンドリング上の点から、1000g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましい。
(A)成分のMFRの測定方法は、後述する電線用被覆材料のMFRの測定方法と同様である。
(A)成分のMFRは、(A)成分の分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が小さく、MFRが小さいと分子量が大きい。(A)成分のMFRは、(A)成分の製造条件によって調整できる。たとえば、単量体の重合時間を短縮すると、MFRが大きくなる傾向がある。
【0029】
((B)成分)
(B)成分は、アスペクト比100以上のフィラーである。
アスペクト比が100以上のフィラーを用いれば、電線用被覆材料や形成される被覆の耐熱性(耐熱分解性、高温での耐ストレスクラック性等)が優れる。
(B)成分のアスペクト比は、100〜30000が好ましく、110〜25000がより好ましい。
【0030】
(B)成分としては、樹脂用の充填材として公知のもののなかから所望のアスペクト比を有するものを適宜選択できる。たとえば、カーボンナノ繊維(気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等)等が挙げられる。
電線用被覆材料に含まれる(B)成分は1種でも2種以上でもよい。
【0031】
(B)成分としては、耐熱性の点から、カーボンナノチューブが好ましい。
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が挙げられる。
カーボンナノチューブとしては、工業的に入手しやすい点、および(A)成分に分散しやすい点から、多層カーボンナノチューブが好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブの直径は、1〜50nmが好ましい。カーボンナノチューブの直径が1nm以上であれば、電線用被覆材料の耐熱性に優れる。カーボンナノチューブの直径が50nm以下であれば、(A)成分との混練の際にカーボンナノチューブが切断されにくい。
【0033】
カーボンナノチューブの市販品としては、ナノシル社製のNC7000、昭和電工社製のVGCF−H、エムディーナノテック社製のMDCNFが挙げられる。気相成長炭素繊維の市販品としては、昭和電工社製のVGCFが挙げられる。
【0034】
電線用被覆材料中の(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計((C)成分の含有量が0である場合も含む。)(100質量%)に対して、つまり電線用被覆材料の全量に対して、0.01〜5.0質量%であり、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましい。(B)成分の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、電線用被覆材料や形成される被覆が耐熱性に優れる。(B)成分の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、電線用被覆材料から形成される被覆が伸度や耐屈曲性に優れる。
【0035】
(B)成分が導電性を有するもの(カーボンナノ繊維等)である場合には、(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計に対して0.01〜5.0質量%であり、かつ電線用被覆材料の体積固有抵抗が10Ω・cm超になる量とする。電線用被覆材料の体積固有抵抗は、(B)成分の含有量のほか、(B)成分の種類、混練条件等が影響する。そのため、電線用被覆材料の体積固有抵抗が10Ω・cm超になる(B)成分の含有量は、一概には規定できないが、典型的には、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計に対して3.0質量%以下であり、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.6質量%以下が特に好ましい。
したがって、(B)成分が導電性を有する場合の(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計に対して0.01〜1.0質量%が好ましく、0.01〜0.8質量%がより好ましく、0.1〜0.6質量%が特に好ましい。
【0036】
((C)成分)
(C)成分は、(B)成分以外の非樹脂成分および非溶融樹脂成分からなる群から選択される少なくとも1種である。本発明において(C)成分は、必須ではないが、電線用被覆材料の用途等に応じて、必要に応じて配合される。
(C)成分としては、公知の樹脂用添加剤等が挙げられる。樹脂用添加剤としては、たとえば繊維状フィラー類(ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ステンレス鋼マイクロファイバー等)、粉末状フィラー類(タルク、マイカ、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、炭酸カルシウム、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、二酸化チタン等)、カーボンブラック(黒色顔料)、酸化鉄(赤色顔料)、アルミコバルト酸化物(青色顔料)、銅フタロシアニン(青色顔料、緑色顔料)、ペリレン(赤顔料)、バナジン酸ビスマス(黄顔料)等が挙げられる。
電線用被覆材料に含まれる(C)成分は1種でも2種以上でもよい。
電線用被覆材料中の(C)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計(100質量%)に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0037】
(MFR)
本発明の電線用被覆材料のMFRは、0.5g/10分以上であり、1.0g/10分以上が好ましく、1.5g/10分以上がより好ましい。電線用被覆材料のMFRが0.5g/10分以上であれば、電線用被覆材料の溶融粘度が充分に低く、電線成形を容易に行うことができる。
電線用被覆材料のMFRの上限は、特に限定されないが、ハンドリング上の点では、200g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましい。
【0038】
本発明の電線用被覆材料のMFRは、(A)成分の融点(電線用被覆材料中に融点の異なる複数の(A)成分を含む場合は、それらの融点のうち最も高い融点)よりも20℃以上高い温度での値である。
電線用被覆材料のMFRは、所定の測定条件下における内径2.1mm、長さ8mmのオリフィスからの押出速度、すなわち前記オリフィスから10分間で流出する電線用被覆材料の質量(g/10分)として求められる。(A)成分のMFRも同様である。
MFRの測定方法はASTMで定められており、たとえば以下のようにフッ素樹脂の種類により測定温度と荷重が規定されている。電線用被覆材料のMFRの測定条件は、典型的には、含有する(A)成分に対応した測定条件が採用される。
ETFE:ASTM D3159、測定温度297℃、荷重49N。
PFA:ASTM D3307、測定温度372℃、荷重49N。
FEP:ASTM D2116、測定温度372℃、荷重49N。
PVDF:ASTM D1238、測定温度232℃、荷重98N。
【0039】
電線用被覆材料のMFRは、(A)成分のMFR、電線用被覆材料中の(A)成分の含有量、電線用被覆材料を製造する際の混練条件(混練物の平均吐出量等)等によって調整できる。
【0040】
(体積固有抵抗)
本発明の電線用被覆材料の体積固有抵抗は、10Ω・cm超である。体積固有抵抗が10Ω・cm超であれば、形成される被覆が充分な電気絶縁性を有する。
電線用被覆材料の体積固有抵抗は、下記の方法で求めた値である。
【0041】
電線用被覆材料からなる幅10mm、長さ70mm、厚さ1mmの試験片を作製し、絶縁抵抗計にて抵抗値を測定し、下式(1)から体積固有抵抗を求める。
ρ=R×W×t/L ・・・(1)
ただし、ρは体積固有抵抗であり、Rは抵抗値であり、Wは試験片の幅であり、tは試験片の厚さであり、Lは電極間距離である。
【0042】
電線用被覆材料の体積固有抵抗は、前述のとおり、(B)成分の種類および含有量、電線用被覆材料を製造する際の混練条件等によって調整できる。(B)成分が導電性である場合、(B)成分の含有量は、0.01〜5.0質量%の範囲内で、体積固有抵抗が10Ω・cm超となる上限値が定められる。
【0043】
(電線用被覆材料の製造方法)
本発明の電線用被覆材料は、(A)成分と、(B)成分と、必要に応じて(C)成分とを溶融混練することにより製造できる。
本発明の電線用被覆材料の製造方法としては、下記製造方法(α)が好ましい。
製造方法(α):(A)成分と(B)成分とを、または(A)成分と(B)成分と(C)成分とを、スクリューを備えた装置を用いて溶融混練して、混練物からなる電線用被覆材料を製造する工程を含み、
前記溶融混練が、前記スクリューの先端側から前記混練物を連続的または断続的に吐出しながら行われ、
前記溶融混練における、前記混練物の平均吐出量が1.0kg/時間以上で、前記スクリューの回転数が50〜700rpmで、せん断速度が0.5〜2000秒−1である、電線用被覆材料の製造方法。
【0044】
(A)成分、(B)成分、(C)成分、および製造する電線用被覆材料については、上述したとおりであり、説明は省略する。
【0045】
スクリューを備えた装置としては、吐出量およびスクリュー回転数を調整可能な装置を用いる。スクリューを備えた装置としては、二軸押出機、単軸押出機、ニーダー、ミキサー等が挙げられる。
スクリューを備えた装置としては、生産性の点から、二軸押出機が好ましく、(A)成分と(B)成分とを効率的に溶融混練できる点から、スクリューのL/Dが20以上の二軸押出機がより好ましく、L/Dが30〜100の二軸押出機がさらに好ましい。
「L/D」において、Lはスクリュー長であり、Dはスクリュー径である。すなわち「L/D」とは、スクリュー長Lをスクリュー径Dで割った値を意味する。
【0046】
製造方法(α)は、(A)成分および(B)成分を、スクリューの基端に投入し、特定のスクリューの回転数で溶融混練しながらスクリューの先端に送り、混練物をスクリューの基端に移行させて循環させることなく、スクリューの先端側から混練物を特定の平均吐出量で連続的または断続的に吐出することに特徴がある。
スクリューの先端側から混練物を連続的または断続的に吐出しながら溶融混練することによって、混練物が装置内に滞留せず、混練物に必要以上のせん断力がかかることがない。そのため、(B)成分が切断されにくく((B)成分のアスペクト比が小さくならず)、その結果、電線用被覆材料や形成される被覆の耐熱性(耐熱分解性、高温での耐ストレスクラック性等)を充分に確保できる。
【0047】
混練物の平均吐出量は、1.0kg/時間以上であり、1〜400kg/時間が好ましく、2〜300kg/時間がより好ましい。混練物の平均吐出量が1.0kg/時間以上であれば、(B)成分が切断されにくく、電線用被覆材料から形成される被覆の耐熱性や耐屈曲性を充分に確保できる。混練物の平均吐出量が400kg/時間以下であれば、(A)成分に(B)成分が高分散する。
「平均吐出量」とは、溶融混練を行った時間Tの間に吐出された混練物の量を該時間Tで割った値を意味する。
【0048】
スクリュー回転数は、50〜700rpmであり、80〜500rpmが好ましく、100〜400rpmがより好ましい。スクリュー回転数が50rpm以上であれば、(A)成分に(B)成分が高分散する。スクリュー回転数が700rpm以下であれば、(B)成分が切断されにくく、電線用被覆材料や形成される被覆の耐熱性を充分に確保できる。
【0049】
溶融混練の際のせん断速度は、0.5〜2000秒−1が好ましく、100〜1900秒−1がより好ましい。せん断速度が0.5秒−1以上であれば、(A)成分に(B)成分が高分散する。せん断速度が2000秒−1以下であれば、(B)成分がさらに切断されにくく、形成される被覆の伸度や耐屈曲性をさらに充分に確保できる。
【0050】
溶融混練の際の温度は、(A)成分が溶融する温度であり、(A)成分の種類によって適宜設定される。ETFEを用いる場合、200〜380℃が好ましく、210〜360℃がより好ましく、240〜340℃がさらに好ましい。PFAを用いる場合、295〜420℃が好ましく、300〜400℃がより好ましく、310〜360℃がさらに好ましい。
【0051】
スクリューの先端側から吐出された混練物は、通常、装置の先端に設けられたダイからストランド状に押し出された後、ペレタイザで切断されてペレット状の電線用被覆材料とされる。
【0052】
(作用効果)
本発明の電線用被覆材料は、(A)成分単独の場合に比べて優れた耐熱性を有する。たとえば本発明の電線用被覆材料は、(A)成分の熱分解温度に比べて20℃以上高い熱分解温度を示し得る。そのため、本発明の電線用被覆材料から形成される被覆は、高温での耐ストレスクラック性等の耐熱性に優れる。該被覆は、耐スクレープ摩耗性およびカットスルー抵抗にも優れる。
また、本発明の電線用被覆材料は、(A)成分と(B)成分とからなる、または(A)成分と(B)成分と(C)成分とからなるものであり、(A)成分以外に溶融成形可能な樹脂成分を含まない。そのため、芯線を被覆して電線を製造する際に、ウエルドラインから被覆が裂ける問題が生じにくく、ウエルド部の目立たない良好な外観の被覆を形成できる。
また、本発明の電線用被覆材料は、溶融成形可能な樹脂成分が(A)成分のみであることから、(A)成分の本来の特性を充分に保持している。たとえば(A)成分から形成される被覆は優れた耐屈曲性を有しており、本発明の電線用被覆材料から形成される被覆も、充分に良好な耐屈曲性を有する。
したがって、本発明の電線用被覆材料は、高い耐熱性が要求される電線(航空機用電線、高電圧電線、通信電線、電気ヒータ電線等)における被覆の形成に好適に使用できる。特に高温での耐ストレスクラック性に優れるため、航空機用電線への使用が好適である。
【0053】
<電線>
本発明の電線は、芯線と、該芯線の表面に形成された、本発明の電線用被覆材料からなる被覆と、を有する。
【0054】
芯線(導体)としては、特に限定されず、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、スズメッキ、銀メッキ、ニッケルメッキ等の各種メッキ線、より線、超電導体、半導体素子リード用メッキ線などが挙げられる。
【0055】
本発明の電線用被覆材料からなる被覆の厚さは、1mm以下が好ましく、0.005〜0.8mmがより好ましく、0.010〜0.5mmがさらに好ましい。被覆の厚さが1mm以下であれば、被覆の耐屈曲性がさらに優れる。被覆の厚さが0.005mm以上であれば、電気絶縁性、取扱い性に優れる。
【0056】
本発明の電線は、芯線の表面を、本発明の電線用被覆材料により被覆することにより製造できる。
電線用被覆材料による芯線の被覆は、押出成形法等の公知の成形方法により行うことができる。たとえば、押出機を用いて、芯線上に、溶融させた電線用被覆材料を被覆させるように押し出す成形方法(電線押出成形)が挙げられる。
【0057】
以上説明した本発明の電線にあっては、本発明の電線用被覆材料からなる被覆を備えているため、被覆の耐熱性および外観が優れる。そのため信頼性にも優れる。
したがって、本発明の電線は、高い耐熱性が要求される用途(航空機用電線、高電圧電線、通信電線、電気ヒータ電線等)に好適に使用できる。特に高温での耐ストレスクラック性に優れるため、航空機用電線として好適である。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下の各例で用いた測定方法および材料を以下に示す。
【0059】
(フッ素樹脂の融点)
セイコー電子社製示差走査熱量計(DSC装置)を用い、フッ素樹脂を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度(℃)を融点(Tm)とした。
【0060】
(せん断速度)
溶融混練の際のせん断速度は、下式(2)から求めた。
γ=π(D−2Ct)N/Ct ・・・(2)
ただし、γはのせん断速度であり、Dは押出機のバレルの径であり、Ctはバレルとスクリューの隙間であり、Nは1秒あたりのスクリュー回転数である。
【0061】
(MFR)
電線用被覆材料(またはフッ素樹脂)のMFRは、メルトインデクサー(タカラサーミスタ社製)を用い、実施例1〜6および比較例1〜5についてはASTM D3159に準拠して、比較例6についてはASTM D3307に準拠して測定した。
具体的には、実施例1〜6および比較例1〜5においては、電線用被覆材料(またはフッ素樹脂)を内径9.5mmのシリンダーに装填し、297℃で5分間保持した後、該温度で49Nのピストン荷重下に内径2.1mm、長さ8mmのオリフィスを通して押出し、押出速度(g/10分)をMFRとした。比較例6においては、測定温度を372℃に変更した以外は前記と同じ方法でMFRを求めた。
【0062】
(体積固有抵抗)
メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用いて電線用被覆材料をプレス成形して厚さ1mm、各辺80mmのシートを作製し、該シートから幅10mm、長さ70mm、厚さ1mmの試験片を切り出し、絶縁抵抗計にて抵抗値を測定し、下式(1)から体積固有抵抗を求めた。
ρ=R×W×t/L ・・・(1)
ただし、ρは体積固有抵抗であり、Rは抵抗値であり、Wは試験片の幅であり、tは試験片の厚さであり、Lは電極間距離である。
本測定により体積固有抵抗が、10Ω・cm超である場合は本装置ではオーバーロードであり、「>10Ω・cm」と表記した。
【0063】
(MIT屈曲試験(MIT折り曲げ寿命))
ASTM D2176に準拠し、電線用被覆材料をプレス成形して厚さ0.23mmのシートを作製し、該シートから幅12.5mm、長さ130mm、厚さ0.23mmの試験片を切り出した。MIT折り曲げ試験装置(東洋精機製作所社製)を用いて、荷重が12.25N、折り曲げ角度が左右それぞれ135度、1分間の折り曲げ回数が175回の条件下で、試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT折り曲げ寿命)を求めた。該回数が多いほど耐屈曲性に優れる。
【0064】
(耐スクレープ摩耗試験(スクレープ摩耗抵抗))
被覆電線を長さ2mに切り出し、安田精機社製「マグネットワイヤー摩耗試験機(往復式)(製品名)」を用い、ISO6722−1に準拠した試験方法によって、下記条件にてスクレープ摩耗抵抗を測定した。
ニードル直径:0.45±0.01mm、
ニードル材質:SUS316(JIS G 7602準拠)、
摩耗距離:15.5±1mm、
摩耗速度:55±5回/分、
荷重:7N、
試験環境:23±1℃。
スクレープ摩耗抵抗は、ニードルの往復運動によって、芯線が被覆から露出するまでに要したニードルの往復回数で表される。スクレープ摩耗抵抗(回数)が多ければ、耐スクレープ摩耗特性に優れる。
【0065】
(カットスルー抵抗)
被覆電線を平板上に置き、その上に軟鋼製角柱のエッジが当たるようにセットする。温度100℃で軟鋼製角柱のエッジに1mm/分の圧縮速度で荷重を与え被覆が切断したときの荷重値(N)をカットスルー抵抗とした。
【0066】
(ストレスクラック温度)
作製した被覆電線を、1mごとの長さに切断した。切断した被覆電線は、所定の加熱温度毎に各々5本ずつ準備した。
上記切断した被覆電線を、5℃刻みの所定温度で96時間アニール処理し、その後室温で一晩安置した。アニール処理した被覆電線を電線自体に10巻き以上巻き付け(自己径巻きつけ)、電線サンプルを作製した。
電線サンプルをギヤオーブンで225℃、1時間熱処理し、クラックの有無を確認した。サンプル数は5個とした。
5個すべての電線サンプルにクラックが発生する最低アニール温度(T1)と、5個すべての電線サンプルにクラックが発生しない最高アニール温度(T2)から、下式(2)に基づいて、ストレスクラック温度(Tb)を算出した。
Tb=T1−ΔT(S/100−1/2) ・・・(2)
Tb:ストレスクラック温度。
T1:5個すべての電線サンプルにクラックが発生する最低アニール温度。
ΔT:アニール温度の間隔(5℃)。
S:5個すべての電線サンプルにクラックが発生しない最高アニール温度(T2)から、5個すべての電線サンプルにクラックが発生する最低アニール温度(T1)までの各温度におけるクラックの発生確率(50%発生の時は、0.5)の総和。
ストレスクラック温度とは、上記の実験で求めた、電線サンプルの50%が割れるアニール温度である。ストレスクラック温度が高いほど、耐ストレスクラック性が高いことを意味する。
【0067】
(熱分解温度(3%分解温度))
電線用被覆材料について、セイコー電子社製TG/DTA装置(品番7200)を用い、10℃/分の速度で昇温したときの分解曲線を記録し、分解量3%に対応する温度(℃)を3%分解温度とした。
【0068】
(外観)
被覆電線の製造時に、ウエルドラインから被覆が裂けるかどうかを目視で確認し、以下の基準で評価した。
○(良好):ウエルドラインから被覆が裂けることはなかった。
×(不良):ウエルドラインから被覆が裂けた。
【0069】
(材料)
ETFE(A):テトラフルオロエチレンに基づく構成単位/エチレンに基づく構成単位/(ペルフルオロブチル)エチレンに基づく構成単位=54/46/1.4(モル比)、融点:259℃、MFR:10g/10分、質量平均分子量:約300000。
CNT(B):ナノシル社製、製品名「NC7000」、多層カーボンナノチューブ、直径:9.5nm、アスペクト比:160。
マイカ:コープケミカル社製、製品名「MK−200」、アスペクト比:13 。
ベントナイト:ホージュン社製、製品名「ヘンゲルA」、アスペクト比:10。
PFA:旭硝子社製、製品名「Fluon PFA 73PT」)。
TPI:熱可塑性ポリイミド、三井化学社製、製品名「AURUM PD−500」。
【0070】
<実施例1>
二軸押出機(テクノベル社製)のスクリューの基端に、ETFE(A)とCNT(B)とを質量比(A)/(B)=99/1、かつ(A)と(B)との合計の平均投入量が2.0kg/時間となるように連続的に投入し、スクリューの先端側から混練物を2.0kg/時間で連続的に吐出しながら、スクリュー回転数200rpm、温度300℃、せん断速度445秒−1の条件下で溶融混練し、混練物である電線用被覆材料を得た。
【0071】
ついで、得られた電線用被覆材料を用いて、芯線に被覆を設ける電線成形(電線押出成形)を実施した。成形条件は、シリンダー温度:350〜390℃、ダイス温度:390℃、引き取り速度:10〜30m/minとし、芯線の径が1.8mm、被覆厚さが0.5mm、仕上がり径が2.8mmの被覆電線を得た。
【0072】
<実施例2〜6、比較例1〜5>
(A)/(B)、平均吐出量、スクリュー回転数、せん断速度を表1、表2に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして電線用被覆材料および被覆電線を得た。
【0073】
<比較例6>
二軸押出機(テクノベル社製)のスクリューの基端に、PFAとTPIとを、PFA/TPI=86/14の質量比で、合計の平均投入量が2.0kg/時間となるように連続的に投入し、スクリューの先端側から混練物を2.0kg/時間で連続的に吐出しながら、スクリュー回転数200rpm、温度380℃、せん断速度445秒−1の条件下で溶融混練し、混練物である電線用被覆材料を得た。
得られた電線用被覆材料を用いて、実施例1と同様にして被覆電線を得ようとしたとしたが、ウエルドが生じ、ウエルドラインを起点に被覆が剥離し、芯線に対しての被覆自体ができなかった。
【0074】
各例で得た電線用被覆材料および被覆電線についてのMFR、体積固有抵抗、MIT折り曲げ寿命、スクレープ摩耗抵抗、カットスルー抵抗、ストレスクラック温度、3%分解温度、外観の評価結果を表1〜2に示す。
なお、外観の評価結果が不良であった比較例6については、他の評価は行わなかった。また、3%分解温度が比較例1よりも低かった比較例2〜5については、MIT折り曲げ寿命、スクレープ摩耗抵抗、カットスルー抵抗、ストレスクラック温度の評価は行わなかった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
上記結果に示すとおり、実施例1〜6の電線用被覆材料においては、電線製造時にウエルドラインからの被覆の裂けが見られず、外観が良好な電線が得られた。
また、実施例1〜6の電線用被覆材料は、(A)成分を単独で用いた比較例1の電線用被覆材料に比べて、3%分解温度が高く、耐熱性が優れていた。また、実施例1、3、5の電線用被覆材料を用いた電線は、比較例1の電線用被覆材料を用いた電線に比べて、ストレスクラック温度が高く、高温での耐ストレスクラック性に優れていた。
さらに、実施例1〜6の電線用被覆材料から形成された被覆は、比較例1の電線用被覆材料を用いた電線に比べて、耐スクレープ摩耗性およびカットスルー抵抗に優れていた。また、MIT折り曲げ寿命が17000回以上であり、充分な耐屈曲性を有していた。
これに対し、(B)成分の代わりにマイカやベントナイトを用いた比較例2〜5の電線用被覆材料は、比較例1の電線用被覆材料に比べて、3%分解温度が低くなっていた。
PFAとTPIとを混練して得た比較例6の電線用被覆材料は、電線製造時にウエルドラインから被覆が裂けてしまった。