(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記共重合体は、前記芳香族ビニル単量体単位を80質量%以上含む重合体ブロック[A]を少なくとも2つ含有し、前記鎖状共役ジエン単量体単位を60質量%以上含む重合体ブロック[B]を少なくとも1つ含有し、そして前記重合体ブロック[B]の両端に前記重合体ブロック[A]が結合した構造を少なくとも1箇所に有するブロック共重合体である、請求項1に記載の電気化学素子用包材。
前記共重合体は、前記重合体ブロック[B]の含有割合に対する前記重合体ブロック[A]の含有割合の比が、質量基準で、3/7以上7/3以下である、請求項2に記載の電気化学素子用包材。
前記共重合体水素化物のシラン変性体は、前記共重合体水素化物にアルコキシシリル基が導入されてなるシラン変性体である、請求項1〜3の何れかに記載の電気化学素子用包材。
電極アッセンブリーと、電解液と、前記電極アッセンブリーおよび前記電解液を収容する外装体とを備え、前記外装体が請求項6に記載の電気化学素子用外装体である、電気化学素子。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子用包材は、本発明の電気化学素子用外装体の作製に用いられる。また、本発明の電気化学素子用外装体は、本発明の電気化学素子用包材を成形して得られる。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用外装体内に電極アッセンブリーおよび電解液が収容されてなる。
【0018】
(電気化学素子用包材)
本発明の電気化学素子用包材は、金属層と、金属層に隣接して配置された熱接着樹脂層とを備え、この熱接着樹脂層に、芳香族ビニル単量体単位と鎖状共役ジエン単量体単位を含む共重合体中に存在する全不飽和結合の90モル%以上を水素化してなる共重合体水素化物を、更にシラン変性した重合体(シラン変性体)を含むことを特徴とする。
そして、本発明の電気化学素子用包材は、熱接着樹脂層が上述したシラン変性体を含んでいるため、高温耐久性に優れ、また当該熱接着樹脂層は、接着層とシーラント層の双方の機能を有しているため異なる2つの樹脂層を個別に形成する必要がなく、本発明の電気化学素子用包材は生産性に優れる。
【0019】
((熱接着樹脂層))
熱接着樹脂層は、金属層に良好に接着する金属接着性を備えつつ、電気化学素子用包材が成形されてなる電気化学素子用外装体を密封する際に、シーラント層としても機能しうる樹脂層である。
【0020】
<シラン変性体>
そして、本発明の電気化学素子用包材の熱接着樹脂層には、所定のシラン変性体、具体的には、
(1)まず、芳香族ビニル単量体単位と鎖状共役ジエン単量体単位を含む共重合体(以下、「共重合体(1)」と称する場合がある。)を調製し、
(2)次いで、共重合体(1)を90モル%以上の水素化率で水素化して共重合体水素化物(以下、「共重合体水素化物(2)」と称する場合がある。)を調製し、
(3)更に、共重合体水素化物(2)をシラン変性することにより調製しうるシラン変性体(以下、「シラン変性体(3)」と称する場合がある。)、
が含まれることが必要である。
【0021】
[共重合体(1)]
共重合体(1)は、芳香族ビニル単量体単位および鎖状共役ジエン単量体単位を含む重合体であればその構造は特に限定されず、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体などの何れであってもよい。芳香族ビニル単量体単位および鎖状共役ジエン単量体単位の双方を含む共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)は、柔軟性および耐熱性に優れ、熱接着樹脂層に優れた高温耐久性を付与することができる。そして、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の柔軟性および耐熱性を更に高めて、熱接着樹脂層の高温耐久性を一層向上させる観点からは、共重合体(1)は、芳香族ビニル単量体単位を含む重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン単量体単位を含む重合体ブロック[B]とを含有するブロック共重合体であることが好ましい。
以下、共重合体(1)が上述したブロック共重合体である場合の組成および構造について詳述するが、シラン変性体(3)の原料である共重合体(1)の構造は、この記載に限定されるものではない。
【0022】
[[ブロック共重合体である共重合体(1)]]
−重合体ブロック[A]−
重合体ブロック[A]に好適に含まれる芳香族ビニル単量体単位を形成しうる芳香族ビニル単量体としては、スチレンおよびその誘導体が挙げられ、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、4−モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、4−モノフルオロスチレン、および4−フェニルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、熱接着樹脂層の吸湿性を低減すべく、極性基を含有しないもの、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、および4−フェニルスチレンが好ましく、工業的な入手の容易さからスチレンが特に好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0023】
そして、重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、重合体ブロック[A]中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合が80質量%以上であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の耐熱性を高めて、熱接着樹脂層の高温耐久性を更に向上させることができる。
【0024】
なお、重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよく、そのようなその他の単量体単位は、鎖状共役ジエン単量体単位であってもよい。また、その他の単量体単位を形成しうる単量体としては、熱接着樹脂層の吸湿性を低減すべく、極性基を含有しないものが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、4,6−ジメチル−1−ヘプテンなどの鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサンなどの環状オレフィンが挙げられる。
【0025】
ここで、ブロック共重合体である共重合体(1)中の重合体ブロック[A]の数は、通常5つ以下、好ましくは4つ以下、より好ましくは3つ以下であり、また2つ以上が好ましい。
なお、ブロック共重合体である共重合体(1)が重合体ブロック[A]を複数有する場合は、複数の重合体ブロック[A]の単量体組成は同一あってもよく、異なっていてもよい。
【0026】
そして、1つの重合体ブロック[A]が共重合体(1)中に占める割合は、共重合体(1)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。1つの重合体ブロック[A]が共重合体(1)中に占める割合が10質量%以上であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の耐熱性を高めて、熱接着樹脂層の高温耐久性を更に向上させることができる。一方、1つの重合体ブロック[A]が共重合体(1)中に占める割合が60質量%以下であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の柔軟性が高まることで熱接着樹脂層の加工性が確保され、例えばエンボス加工時のクラック発生を十分に抑制することができる。
【0027】
−重合体ブロック[B]−
重合体ブロック[B]に好適に含まれる鎖状共役ジエン単量体単位を形成しうる鎖状共役ジエン単量体としては、特に限定されないが、熱接着樹脂層の吸湿性を低減すべく極性基を含有しないものが好ましく、具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが好ましく挙げられる。これらの中でも、工業的な入手の容易さから1,3−ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0028】
そして、重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン単量体単位の含有割合は、重合体ブロック[B]中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン単量体単位の含有割合が60質量%以上であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の柔軟性が高まることで熱接着樹脂層の加工性が確保され、例えばエンボス加工時のクラック発生を十分に抑制することができる。
【0029】
なお、重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよく、そのようなその他の単量体単位は、芳香族ビニル単量体単位であってもよいし、その他の単量体単位は「重合体ブロック[A]」の項で上述した鎖状オレフィン、環状オレフィンから形成されてもよい。
【0030】
ここで、ブロック共重合体である共重合体(1)中の重合体ブロック[B]の数は、通常4つ以下、好ましくは3つ以下、より好ましくは2つ以下、更に好ましくは1つである。
なお、ブロック共重合体である共重合体(1)が重合体ブロック[B]を複数有する場合は、複数の重合体ブロック[B]の単量体組成は同一あっても異なっていてもよい。
【0031】
そして、1つの重合体ブロック[B]が共重合体(1)中に占める割合は、共重合体(1)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。1つの重合体ブロック[B]が共重合体(1)中に占める割合が15質量%以上であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の柔軟性が高まることで熱接着樹脂層の加工性が確保され、例えばエンボス加工時のクラック発生を十分に抑制することができる。一方、1つの重合体ブロック[B]が共重合体(1)中に占める割合が70質量%以下であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の耐熱性を高めて、熱接着樹脂層の高温耐久性を更に向上させることができる。
【0032】
−A/B比−
ここで、共重合体(1)中における重合体ブロック[B]の含有割合に対する重合体ブロック[A]の含有割合の比(A/B比)は、3/7以上であることが好ましく、2/3以上であることがより好ましく、7/3以下であることが好ましく、3/2以下であることがより好ましい。A/B比が3/7以上であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の耐熱性を高めて、熱接着樹脂層の高温耐久性を更に向上させることができる。一方、A/B比が7/3以下であれば、共重合体(1)から得られるシラン変性体(3)の柔軟性が高まることで熱接着樹脂層の加工性が確保され、例えばエンボス加工時のクラック発生を十分に抑制することができる。また、熱接着樹脂層の金属接着性を一層高め、高温サイクル特性を更に向上することができる。
【0033】
−ブロック構造−
そして、ブロック共重合体である共重合体(1)のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもラジアル型ブロックでも良いが、鎖状型ブロックであるものが、機械的強度に優れ好ましい。また、ブロック共重合体である共重合体(1)は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合した構造(すなわち、A−B−Aの順に並んだ構造)を少なくとも1箇所有することが好ましい。
そしてブロック共重合体である共重合体(1)の特に好ましい形態としては、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合してなるトリブロック共重合体(A−B−A)、および、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に、該2つの重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合してなるペンタブロック共重合体(A−B−A−B−A)が挙げられ、トリブロック共重合体(A−B−A)が最も好ましい。
【0034】
−分子量−
ここで、ブロック共重合体である共重合体(1)の重量平均分子量(Mw)は、40,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、60,000以上であることが更に好ましく、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが更に好ましい。共重合体(1)の重合平均分子量が40,000以上であれば、得られる熱接着樹脂層の機械的強度を高めることができ、200,000以下であれば、熱接着樹脂層の加工性が確保され、例えばエンボス加工時のクラック発生を十分に抑制することができる。
また、共重合体(1)の分子量分布(Mw/Mn)は、3以下であることが好ましく、2以下であることが好ましく、1.5以下であることが更に好ましい。分子量分布が3以下であれば、熱接着樹脂層の高温耐久性や機械的強度を高めることができる。
なお、本発明において、重合体の「重量平均分子量」および「分子量分布」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0035】
[[共重合体(1)の調製方法]]
共重合体(1)の調製方法は特に限定されず、芳香族ビニル単量体と鎖状共役ジエン単量体を含む単量体組成物を、既知の方法で重合することにより、共重合体(1)を調製することができる。例えば、ブロック共重合体である共重合体(1)は、リビングアニオン重合を用いて、芳香族ビニル単量体を含有する単量体組成物と鎖状共役ジエン系化合物を含有する単量体組成物を交互に重合させることで調製することができる。
【0036】
[共重合体水素化物(2)]
上述した共重合体(1)中の不飽和結合(例えば、主鎖および側鎖の炭素−炭素不飽和結合、並びに芳香環の炭素−炭素不飽和結合などを含む)を水素化することで、共重合体水素化物(2)を得ることができる。
【0037】
[[水素化方法]]
共重合体(1)中の不飽和結合を水素化する方法(水素化方法)としては特に限定されず、既知の方法を採用することができるが、水素化率を高くしつつ、重合体鎖切断反応を抑制しうる水素化方法が好ましい。このような水素化方法としては、例えば、国際公開第2011/096389号、国際公開第2012/043708号などに記載された方法を挙げることができる。
なお、上述した方法で得られる共重合体水素化物(2)は、通常、水素化触媒および/または重合触媒などを除去した後、共重合体水素化物(2)を含む反応溶液から回収して得られる。回収された共重合体水素化物(2)の形態は限定されるものではないが、例えばペレット形状として、その後のシラン変性に供することができる。
【0038】
[[水素化率]]
そして、水素化による得られる共重合体水素化物(2)の水素化率は、90モル%以上であることが必要であり、97モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましい。水素化率が90モル%以上であれば、共重合体水素化物(2)から得られるシラン変性体(3)の耐熱性を高めて、熱接着樹脂層の高温耐久性を向上させることができる。
【0039】
[[分子量]]
ここで、共重合体水素化物(2)の重量平均分子量(Mw)は、40,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、60,000以上であることが更に好ましく、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが更に好ましい。共重合体水素化物(2)の重合平均分子量が40,000以上であれば、得られる熱接着樹脂層の機械的強度を高めることができ、200,000以下であれば、熱接着樹脂層の加工性が確保され、例えばエンボス加工時のクラック発生を十分に抑制することができる。
また、共重合体水素化物(2)の分子量分布(Mw/Mn)は、3以下であることが好ましく、2以下であることが好ましく、1.5以下であることが更に好ましい。分子量分布が3以下であれば、熱接着樹脂層の高温耐久性や機械的強度を高めることができる。
【0040】
[シラン変性体(3)]
そして、本発明の電気化学素子用包材の熱接着樹脂層に含まれるシラン変性体(3)は、上記共重合体水素化物(2)と、エチレン性不飽和シラン化合物とを、過酸化物の存在下で反応(シラン変性)させることにより、共重合体水素化物(2)にアルコキシシリル基が導入されたものである。
なお、導入されるアルコキシシリル基は、シラン変性に用いられる後述のエチレン性不飽和シラン化合物に対応するが、金属層と熱接着樹脂層を強固に接着させる観点からは、メトキシシリル基、エトキシシリル基が好ましく、メトキシシリル基がより好ましい。ここで、アルコキシシリル基は、共重合体水素化物(2)に直接結合されてもよく、アルキレン基やアルキレンオキシカルボニルアルキレン基などの2価の有機基を介して結合されてもよい。
【0041】
[[シラン変性]]
−エチレン性不飽和シラン化合物−
シラン変性に用いるエチレン性不飽和シラン化合物としては、共重合体水素化物(2)と反応(例えばグラフト重合)して、共重合体水素化物(2)にアルコキシシリル基を導入しうるものであれば特に限定されない。このようなエチレン性不飽和シラン化合物としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でもビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましく、ビニルトリメトキシシランがより好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
エチレン性不飽和シラン化合物の使用量は、共重合体水素化物(2)100質量当たり、通常0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜5質量部、より好ましくは0.3〜3質量部である。
【0042】
−過酸化物−
シラン変性に用いる過酸化物としては、1分間半減期温度が170〜190℃のものが好ましく使用され、例えば、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどの有機過酸化物が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
過酸化物の使用量は、共重合体水素化物(2)100質量部当たり、通常0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部、より好ましくは0.2〜0.5質量である。
【0043】
−反応方法−
共重合体水素化物(2)とエチレン性不飽和シラン化合物とを過酸化物の存在下で反応させる方法は特に限定されないが、例えば、これらの成分を二軸押出機にて混練することにより、共重合体水素化物(2)にアルコキシシリル基を導入することができる。混練温度は、通常180〜220℃、好ましくは185〜210℃、より好ましくは190〜200℃である。混練時間は、通常0.1〜10分、好ましくは0.2〜5分、より好ましくは0.3〜2分程度である。このような混練温度、混練時間となるように適宜設定して、連続的に混練、押出しをすればよい。
【0044】
[アルコキシシリル基の導入量]
上述のようにしてシラン変性を行うことにより共重合体水素化物(2)に導入されるアルコキシシリル基の量は、共重合体水素化物(2)100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。アルコキシシリル基の導入量が、共重合体水素化物(2)100質量部当たり0.1質量部以上であれば、シラン変性体(3)を含む熱接着樹脂層と金属層とをより強固に接着させることができ、また熱接着樹脂層の高温耐久性および電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。一方、アルコキシシリル基の導入量が、共重合体水素化物(2)100質量部当たり10質量部以下であれば、アルコキシシリル基同士の架橋を抑制して、熱接着樹脂層の高温耐久性および電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。
【0045】
[分子量]
ここで、シラン変性体(3)の重量平均分子量(Mw)は、通常、導入されるアルコキシシリル基の量が少ないため、原料として用いた共重合体水素化物(2)のそれと大きくは変わらず、40,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、60,000以上であることが更に好ましく、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることが更に好ましい。シラン変性体(3)の重合平均分子量が40,000以上であれば、得られる熱接着樹脂層の機械的強度を高めることができ、200,000以下であれば、熱接着樹脂層の加工性が確保され、例えばエンボス加工時のクラック発生を十分に抑制することができる。
また、シラン変性体(3)の分子量分布(Mw/Mn)は、過酸化物の存在下でシラン変性を行うため、重合体の架橋反応、切断反応が併発することにより、原料として用いた共重合体水素化物(2)のそれよりも大きくなる傾向がある。そして、シラン変性体(3)の分子量分布は、3.5以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.0以下であることが更に好ましい。分子量分布が3.5以下であれば、熱接着樹脂層の高温耐久性や機械的強度を高めることができる。
【0046】
<その他の成分>
熱接着樹脂層は、本発明の効果を阻害しない範囲で、シラン変性体(3)以外の重合体や添加剤等を含有していてもよい。このようなその他の成分の含有量は、熱接着樹脂層中、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0047】
<熱接着樹脂層の厚み>
熱接着樹脂層の厚みは、特に限定されないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更に好ましく、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。熱接着樹脂層の厚みが10μm以上であれば、ピンホールの発生を十分に抑制することができ、また、熱接着樹脂層の高温耐久性および電気化学素子の高温サイクル特性を一層向上させることができる。一方、熱接着樹脂層の厚みが100μm以下であれば、優れたエンボス加工性を確保することができる。
【0048】
((金属層))
本発明の電気化学素子用包材が備える金属層は、電気化学素子用包材の金属層として使用されうるものであればその材質は特に限定されないが、アルミニウム箔であることが好ましい。なお、金属層の厚みは、既知のものと同様とすることができるが、通常20μm〜80μmである。
【0049】
((その他の層))
なお、本発明の電気化学素子用包材は、熱接着樹脂層および金属層以外の層を備えていてもよい。具体的には、熱接着樹脂層を設けていない側の金属層表面に、突き刺し等の外力に対する耐性を向上させることを目的として、保護層を設けることができる。このような保護層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート等からなる二軸延伸ポリエステルフィルムや、ナイロン6、ナイロン66等からなる二軸延伸ポリアミドフィルムを採用することができる。保護層の厚みは、既知のものと同様とすることができ、金属層表面への設置方法も既知の方法を採用することができる。
【0050】
((電気化学素子用包材の製造方法))
電気化学素子用包材の製造方法は特に限定されないが、例えば、ペレット状で得られるシラン変性体を、任意にその他の成分を添加して既知の方法で熱接着樹脂層形成用フィルムとし、得られた熱接着樹脂層形成用フィルムと金属層をサーマルラミネーション法などで熱接着させることで、金属層上に熱接着樹脂層を備える電気化学素子用包材を作製することができる。
熱接着の際の温度は、特に限定されないが、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることが更に好ましく、220℃以下であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましく、190℃以下であることが更に好ましい。熱接着の際の温度が120℃以上であれば、熱接着樹脂層と金属層を十分に接着させることができ、220℃以下であれば、熱接着樹脂層が過度に潰れるのを抑制することができる。
【0051】
(電気化学素子用外装体)
本発明の電気化学素子用外装体は、上述した本発明の電気化学素子用包材を成形してなる。そして本発明の電気化学素子用外装体は、本発明の電気化学素子用包材を用いて形成されるため、高温耐久性に優れる。なお、電気化学素子用外装体は、熱接着樹脂層が内側となるように成形され、且つその中に電極アッセンブリーおよび電解液を収容可能であれば、その形状は特に限定されず、所望の電気化学素子の形状に応じて適宜設定することができる。
【0052】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、電極アッセンブリーと、電解液と、電極アッセンブリーおよび電解液を収容する外装体とを備え、外装体として本発明の電気化学素子用外装体を用いる。本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用外装体を用いているので、高温サイクル特性などの電気的特性に優れる。
【0053】
電極アッセンブリーは、複数の電極およびセパレータなどの構成部材を備える構造体であり、必要に応じて電極およびセパレータ以外の構成部材(例えば、電極およびセパレータを補強する多孔膜層や電極とセパレータを接着させる接着層など)を更に備えていてもよい。なお、電極、セパレータ、および多孔膜層や接着層などのその他の構成部材としては、特に限定されることなく、電気化学素子の製造に用いられている既知のものを用いることができる。
【0054】
また電解液としても、特に限定されることなく、電気化学素子の製造に用いられている既知の電解液を用いることができる。
【0055】
そして、電気化学素子は例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて巻く、折るなどして電気化学素子用外装体に入れ、電気化学素子用外装体に電解液を注入して封口することにより製造することができる。電気化学素子の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。電気化学素子の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される構造単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、重合体の重量平均分子量および分子量分布、水素化率、アルコキシシリル基の導入の有無および導入量、熱接着樹脂層の金属接着性および高温耐久性、並びにリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性は、下記の方法で評価した。
【0057】
<重量平均分子量および分子量分布>
テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算値として、38℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8020GPCを用いた。
<水素化率>
共重合体水素化物の水素化率(モル%)は、
1H−NMR測定(測定溶媒:CDCl
3)を実施し、共重合体中に存在した全不飽和結合のうち消失した不飽和結合の割合を算出することで導出した。
<アルコキシシリル基の導入の有無および導入量>
シラン変性体のFT−IR測定を実施し、シラン変性により、Si−OR(Rは炭化水素基)およびSi−CH
2−に由来する吸収帯が、エチレン性不飽和シラン化合物に由来する吸収帯とは異なる位置に生じたことを確認することで、アルコキシシリル基の導入の有無を確認した。
そして、シラン変性体の
1H−NMR測定(測定溶媒:CDCl
3)を実施し、アルコキシシリル基のプロトンに由来するピークの面積強度から、共重合体水素化物100部当たりのアルコキシシリル基の導入量を算出した。
<熱接着樹脂層の金属接着性>
作製した電気化学素子用包材を幅25mm×長さ200mmの短冊形に切り出し、試験片とした。この試験片を用いて、金属層と熱接着樹脂層との界面の初期はく離強度S
0を、はく離速度100m/分の条件にてT型はく離試験で測定し、下記の評価基準に従って評価した。この値が大きいほど、熱接着樹脂層が金属接着性に優れることを示す。
A:初期はく離強度S
0が20N/cm以上
B:初期はく離強度S
0が10N/cm以上20N/cm未満
C:初期はく離強度S
0が5N/cm以上10N/cm未満
D:初期はく離強度S
0が5N/cm未満
<熱接着樹脂層の高温耐久性>
作製した電気化学素子用包材を幅25mm×長さ200mmの短冊形に切り出し、電解液(濃度1.0MのLiPF
6溶液。溶媒はエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7(体積比)))に浸漬し、85℃環境下で30日間保存し、試験片とした。この試験片を用いて、金属層と熱融着樹脂層との界面のはく離強度S
1を、はく離速度100m/分の条件にてT型はく離試験で測定した。このはく離強度S
1の、初期はく離強度S
0に対する維持率(はく離強度維持率)ΔSをΔS=S
1/S
0×100(%)で求め、下記の評価基準に従って評価した。この値が大きいほど、熱接着樹脂層が高温耐久性に優れることを示す。
A:はく離強度維持率ΔSが90%以上
B:はく離強度維持率ΔSが70%以上90%未満
C:はく離強度維持率ΔSが40%以上70%未満
D:はく離強度維持率ΔSが40%未満
<リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性>
作製したリチウムイオン二次電池を24時間静置させた後に、0.1Cの充放電レートにて4.2Vまで充電し3.0Vまで放電する操作を行い、初期容量C
0を測定した。さらに、60℃の環境下で充放電を繰り返し、300サイクル後の容量C
1を測定し、ΔC=C
1/C
0×100(%)で示す容量維持率ΔCを下記の基準に従って評価した。この値が大きいほど、リチウムイオン二次電池が高温サイクル特性に優れることを示す。
A:容量維持率ΔCが80%以上
B:容量維持率ΔCが60%以上80%未満
C:容量維持率ΔCが40%以上60%未満
D:容量維持率ΔCが40%未満
【0058】
(実施例1)
<共重合体(1)の調製>
攪拌装置を備えた反応器を十分に窒素置換し、脱水シクロヘキサン550部、芳香族ビニル単量体としての脱水スチレン25.0部、n−ジブチルエーテル0.475部を入れ、60℃で攪拌しながら重合開始剤としてのn−ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)0.68部を加えてアニオン重合を開始し、攪拌しながら60℃で60分反応させた(ブロック[A]調製工程1、重合転化率:99.5%、重合転化率はガスクロマトグラフィーにより確認。以下同じ)。次に、鎖状共役ジエン単量体としての脱水イソプレン50.0部を加え、そのまま30分攪拌を続けた(ブロック[B]調製工程、重合転化率は99.5%)。そして更に、芳香族ビニル単量体としての脱水スチレンを25.0部加え、60分攪拌した(ブロック[A]調製工程2、重合転化率:ほぼ100%)。その後重合停止剤としてのイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させ、重合体ブロック[A]と重合体ブロック[B]とが、A−B−Aの順に並んでなるトリブロック共重合体を得た。この共重合体の重量平均分子量(Mw)は69,200、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0059】
<共重合体水素化物(2)の調製>
上記のトリブロック共重合体を含む溶液を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、この耐圧反応器に水素化触媒としてのシリカ−アルミナ担持型ニッケル触媒(製品名「E22U」、ニッケル担持量60%、日揮触媒化成社製)8.0部および脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。耐圧反応器内部を水素ガスで置換し、更に溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度190℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行った。
水素化反応後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去し、次いでフェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](製品名「Songnox1010」、コーヨ化学研究所社製)0.1部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加した。得られた溶液を、金属ファイバー製フィルター(孔径0.4μm、ニチダイ社製)を用いてろ過して微小な固形分を除去し、円筒型濃縮乾燥器(製品名「コントロ」、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下の条件で、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去した。濃縮乾燥器に連結した孔径5μmのステンレス製焼結フィルターを備えたポリマーフィルター(富士フィルター社製)により、温度260℃でろ過しながら重合体成分をストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーでカットして、共重合体水素化物のペレット96部を得た。得られた共重合体水素化物のペレットを用いて、重量平均分子量、分子量分布、および水素化率を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
<シラン変性体(3)の調製>
上記の共重合体水素化物のペレット100部に対して、エチレン性不飽和シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン2.0部及び過酸化物としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(製品名「パーヘキサ(登録商標) 25B」、日油社製)0.2部を添加した。得られた混合物を、二軸押出機を用いて、樹脂温度200℃、滞留時間60〜70秒の条件で混練し、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、シラン変性体のペレット95部を得た。
上記シラン変性体のペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解し、脱水したメタノール400部中に注いで、シラン変性体を凝固させ、濾別した後、25℃で真空乾燥して、シラン変性体9.0部を単離し、FT−IR測定および
1H−NMRを実施した。
FT−IRスペクトルでは、1090cm
-1にSi−OCH
3に由来する新たな吸収帯、並びに825cm
-1および739cm
-1にSi−CH
2−に由来する新たな吸収帯が、何れもビニルトリメトキシシランとは異なる位置に観察され、共重合体水素化物にメトキシシリル基が導入されてシラン変性体が得られていることを確認した。(なお、ビニルトリメトキシシランでは、上述した吸収帯はそれぞれ1075cm
-1、808cm
-1、766cm
-1に観察される。)
また、
1H−NMRスペクトルでは、3.6ppmにメトキシシリル基のプロトンに基づくピークが観察され、当該ピークの面積強度からメトキシシリル基の導入量を算出した。結果を表1に示す。
【0061】
<電気化学素子用包材の製造>
シラン変性体のペレットを、Tダイ式フィルム溶融押出機並びにキャストロール及びシート引取り装置を備える押出シート成形機を使用して、シリンダ温度210℃、Tダイ温度210℃、キャストロール温度80℃の成形条件にて押出成形し、厚み42μmの熱接着樹脂層形成用フィルムを得た。なお、当該フィルムは、ロールに巻き取り回収した。
上記のようにして得られた熱接着樹脂層形成用フィルムとアルミニウム箔(厚み40μm、8079−O材)とを、190℃の条件で、サーマルラミネーション法で貼り合せ、アルミニウム箔からなる金属層と熱接着樹脂層とで構成される電気化学素子用包材を得た。この電気化学素子用包材を用いて、熱接着樹脂層の金属接着性および高温耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
<電気化学素子用外装体の製造>
電気化学素子用包材を、10cm×20cmの長方形に切り出し、熱接着樹脂層を内側にして長辺方向に二つ折りにし、2辺を170℃でヒートシールすることにより、開口部を有する電気化学素子用外装体を得た。
【0063】
<正極の製造>
正極活物質としてのスピネル構造を有するマンガン酸リチウム95部に、正極用バインダーとしてのPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分換算量で3部となるように加え、さらに、導電材としてのアセチレンブラック2部、及びN−メチルピロリドン20部を加えて、これらをプラネタリーミキサーで混合して、正極合材層用スラリー組成物を得た。この正極合材層用スラリー組成物を、集電体としての厚み18μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、120℃で3時間乾燥し、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスして、集電体上に正極合材層を有する正極(厚み:100μm)を得た。
【0064】
<負極の製造>
負極活物質としてのグラファイト(粒径20μm、BET比表面積4.2m
2/g)98部と、負極用バインダーとしてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)の固形分換算量1部とを混合し、この混合物にさらに増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1部および水を加えて、これらをプラネタリーミキサーで混合し、負極合材層用スラリー組成物を得た。この負極合材層用スラリー組成物を、集電体としての厚み18μmの銅箔の片面に塗布し、120℃で3時間乾燥し、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスして、集電体上に負極合材層を有する負極(厚み:60μm)を得た。
【0065】
<セパレータの用意>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚み25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。
【0066】
<電気化学素子(リチウムイオン二次電池)の製造>
上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面が電気化学素子用外装体にその内部から接するように配置した。次いで、正極の正極合材層の面上に、上記で得られた正方形のセパレータを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。さらに、電解液(ビニレンカーボネート(VC)を2.0%含有する、濃度1.0MのLiPF
6溶液。溶媒はエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7(体積比)))を充填した。そして、電気化学素子用外装体の開口部を密封するために、170℃でヒートシールをして、ラミネート型のリチウムイオン二次電池を得た。このリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2)
共重合体(1)の調製の際に、ブロック[A]調製工程1および2それぞれで添加する芳香族ビニル単量体としての脱水スチレンの添加量を何れも17.5部に変更し、ブロック[B]調製工程で添加する鎖状共役ジエン単量体としての脱水イソプレンの添加量を65部に変更した以外は、実施例1と同様にして、共重合体(1)、共重合体水素化物(2)、シラン変性体(3)、電気化学素子用包材、電気化学素子用外装体、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
共重合体(1)の調製の際に、ブロック[A]調製工程1および2それぞれで添加する芳香族ビニル単量体としての脱水スチレンの添加量を何れも32.5部に変更し、ブロック[B]調製工程で添加する鎖状共役ジエン単量体としての脱水イソプレンの添加量を35部に変更した以外は、実施例1と同様にして、共重合体(1)、共重合体水素化物(2)、シラン変性体(3)、電気化学素子用包材、電気化学素子用外装体、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例4〜6)
シラン変性体(3)の調製の際に、エチレン性不飽和シラン化合物としてのビニルトリメトキシシランの添加量をそれぞれ2.8部、5.6部、および0.6に変更した以外は、実施例1と同様にして、共重合体(1)、共重合体水素化物(2)、シラン変性体(3)、電気化学素子用包材、電気化学素子用外装体、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例7)
電気化学素子用包材の製造に、熱接着樹脂層形成用フィルムの厚みを26μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、共重合体(1)、共重合体水素化物(2)、シラン変性体(3)、電気化学素子用包材、電気化学素子用外装体、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
なお、実施例1〜7の電気化学素子用包材は何れもシール性に優れており、電気化学素子用外装体を良好に密封することができた。
【0072】
(比較例1)
ランダムポリプロピレンからなるフィルム(厚み:40μm)とアルミニウム箔(厚み40μm、8079−O材)とを、ウレタン系ドライラミネート接着剤を介してドライラミネーション法で貼り合わせ、アルミニウム箔からなる金属層と、ランダムポリプロピレンからなるシーラント層が、ウレタン系ドライラミネート接着剤からなる接着層を介して接着された電気化学素子用包材(ポリプロピレンラミネートフィルム)を得た。なお、電機化学素子用包材におけるシーラント層の厚みは40μm、接着層の厚みは3μmであった。
この電気化学素子用包材を使用した以外は、実施例1と同様にして、電気化学素子用外装体、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
電気化学素子用包材の製造の際に、シラン変性体(3)のペレットに替えて、シラン変性を行っていない共重合体水素化物(2)のペレットを使用した以外は、実施例1と同様にして、共重合体(1)、共重合体水素化物(2)、電気化学素子用包材、電気化学素子用外装体、正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
なお、以下に示す表1中、
「ST」はスチレンを、
「IP」はイソプレンを、
「PP」はランダムポリプロプレンを、
「VTMS」はビニルトリメトキシシランを示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1の実施例1〜7および比較例1〜2より、実施例1〜7では、金属接着性および高温耐久性に優れる熱接着樹脂層を備えた電気化学素子用包材、並びに高温サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池(電気化学素子)が得られることがわかる。
また、表1の実施例1〜3より、共重合体の組成を変更することで、熱接着樹脂層の金属接着性および高温耐久性、並びにリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性を一層向上させうることがわかる。
更に、表1の実施例1、4〜6より、共重合体水素化物へのアルコキシシリル基の導入量を変更することで、熱接着樹脂層の金属接着性および高温耐久性、並びにリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性を一層向上させうることがわかる。
そして、表1の実施例1、7より、熱接着樹脂層の厚みを変更することで、熱接着樹脂層の高温耐久性およびリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性を一層向上させうることがわかる。