(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボニル基含有基が、カルボキシ基、酸無水物残基、カーボネート基、カルボニルジオキシ基およびハロホルミル基、アルコキシカルボニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の含フッ素樹脂組成物。
前記無機フィラー(B)がSi原子、C原子、B原子および金属原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子(M)を含んでおり、前記無機フィラー(B)の表面において前記反応性官能基が前記原子(M)に他の原子を介することなく共有結合してなる、請求項1または2に記載の含フッ素樹脂組成物。
前記無機フィラー(B)は、前記反応性官能基が化学修飾により表面に結合されたナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、フェロセン、酸化銅、アルミナ、シリカ、マイカおよび窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の含フッ素樹脂組成物。
前記含フッ素共重合体(A)が、テトラフルオロエチレンまたはクロロトリフルオロエチレンに基づく構成単位(a11)と、カルボニル基含有基を有するモノマーに基づく構成単位(a12)と、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびカルボニル基含有基を有するモノマー以外のモノマーに基づく構成単位(a13)とを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の含フッ素樹脂組成物。
前記含フッ素共重合体(A)が、テトラフルオロエチレンに基づく構成単位(a21)と、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーに基づく構成単位(a22)と、フッ素モノマー(ただし、テトラフルオロエチレンを除く。)に基づく構成単位(a23)とを有し、
前記構成単位(a21)と、前記構成単位(a22)と、前記構成単位(a23)の合計モル量に対して、構成単位(a21)が50〜99.89モル%であり、構成単位(a22)が0.01〜5モル%であり、構成単位(a23)が0.1〜49.99モル%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の含フッ素樹脂組成物。
前記含フッ素共重合体(A)が有する前記カルボニル基含有基の少なくとも一部と、前記無機フィラー(B)の表面に結合された前記反応性官能基の少なくとも一部とが結合を形成している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の含フッ素樹脂組成物。
前記無機フィラー(B)の含有量が、前記含フッ素共重合体(A)100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の含フッ素樹脂組成物。
芯線と、前記芯線を被覆する絶縁層とを有する電線であって、前記絶縁層が請求項1〜8のいずれか一項に記載の含フッ素樹脂組成物を含有することを特徴とする、電線。
前記含フッ素共重合体(A)と前記無機フィラー(B)とを、前記含フッ素共重合体(A)の融点以上420℃未満で溶融混練する工程を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の含フッ素樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「カルボニル基含有基」とは、構造中にカルボニル基含有基(−C(=O)−)を有する基を意味する。
「モノマー」とは、重合性不飽和結合、すなわち重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。「フッ素モノマー」とは、分子内にフッ素原子を有するモノマーを意味する。「非フッ素モノマー」とは、フッ素モノマー以外のモノマーを意味する。
「構成単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに基づく単位を意味する。構成単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「含フッ素重合体」とは、1種のフッ素モノマーに基づく構成単位のみからなる重合体である。「含フッ素共重合体」とは、2種以上の構成単位を含有し、そのうち少なくとも1種がフッ素モノマーに基づく構成単位である共重合体である。
「フッ素樹脂組成物」とは、含フッ素重合体または含フッ素共重合体を含む組成物である。
【0012】
[含フッ素樹脂組成物]
本発明の含フッ素樹脂組成は、カルボニル基含有基を有する溶融成形加工可能な含フッ素共重合体(A)と、一次粒子径が500nm以下の無機フィラー(B)とを含む。また、前記無機フィラー(B)の表面には、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基およびヒドロキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性官能基が化学修飾により結合されている。また、前記無機フィラー(B)の含有量は、前記含フッ素共重合体(A)100質量部に対して0.001質量部以上30質量部未満である。
以下、各構成について説明する。
【0013】
(含フッ素共重合体(A))
含フッ素樹脂組成物は、含フッ素共重合体(A)を含む。該含フッ素共重合体(A)は、カルボニル基含有基を有し、溶融成形加工可能である。このような含フッ素共重合体(A)を用いることにより無機フィラー(B)が含フッ素樹脂組成物中で凝集しにくく分散しやすくなるため、含フッ素樹脂組成物から得られた成形品が表面平滑性と耐摩耗性に優れたものになる。
【0014】
<カルボニル基含有基>
含フッ素共重合体(A)が有するカルボニル基含有基は、含フッ素共重合体(A)の主鎖末端および側鎖の少なくとも一方に位置する。該カルボニル基含有基は、例えば、含フッ素共重合体(A)の主鎖の製造に用いられたモノマー、主鎖の製造に用いられた連鎖移動剤、主鎖の製造に用いられた重合開始剤からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する。
カルボニル基含有基は、構造中にカルボニル基含有基(−C(=O)−)を含む基である。カルボニル基含有基としては、カルボキシ基、酸無水物残基、カーボネート基、カルボニルジオキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。中でも、無機フィラー(B)との相容性に優れ、無機フィラー(B)が分散しやすくなる点から、酸無水物残基が好ましい。
【0015】
カルボニル基含有基の含有量は、含フッ素共重合体(A)の主鎖炭素数1×10
6個に対し10〜60000個が好ましい。カルボニル基含有基の含有量は、含フッ素共重合体(A)の主鎖炭素数1×10
6個に対し100〜10000個がより好ましく、300〜5000個が最も好ましい。
【0016】
含フッ素共重合体(A)の主鎖炭素数1×10
6個に対するカルボニル基含有基の含有量(個数)は、NMR、赤外吸収スペクトル分析等の方法により、測定できる。例えば、特開2007−314720号公報に記載のように赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いてカルボニル基含有基の割合を求め、該割合から、カルボニル基含有基の含有量を算出することができる。
【0017】
カルボニル基含有基の導入方法としては、例えば、以下の方法(1)および方法(2)が挙げられる。
方法(1):重合反応で含フッ素共重合体(A)を製造する際に、カルボニル基含有基を有するモノマーを使用する方法。
方法(2):カルボニル基含有基を有するラジカル重合開始剤や連鎖移動剤を用いて、重合反応で含フッ素共重合体(A)を製造する方法。
中でも、カルボニル基含有基の導入量をコントロールしやすい点から、方法(1)が好ましい。
【0018】
方法(1)により得られる含フッ素共重合体(A):
方法(1)により得られる含フッ素共重合体(A)としては、例えば、以下の含フッ素共重合体(A1)が挙げられる。
【0019】
含フッ素共重合体(A1)は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)またはクロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」ともいう。)に基づく構成単位(a11)と、カルボニル基含有基を有するモノマーに基づく構成単位(a12)と、TFE、CTFEおよびカルボニル基含有基を有するモノマー以外のモノマーに基づく構成単位(a13)とを有する。
含フッ素樹脂組成物に含ませる含フッ素共重合体(A1)は、熱安定性、加工性の点から、含フッ素共重合体(A1)が好ましい。
【0020】
構成単位(a11)は、含フッ素共重合体(A1)中にTFEまたはCTFEを単独で有していてもよく、これら2種を組合せて有していてもよい。
【0021】
構成単位(a12)としては、例えば、カルボニル基含有基と重合性不飽和結合とを有するモノマーに基づく構成単位が挙げられ、具体的には、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーが挙げられる。
構成単位(a12)は、含フッ素共重合体(A1)中に1種のみ有していてもよく、2種以上を組合せて有していてもよい。
【0022】
構成単位(a13)を形成するモノマーは、TFE、CTFEおよびカルボニル基含有基を有するモノマー以外のモノマーであれば特に限定されない。このような構成単位(a13)を形成するモノマーは、フッ素モノマーと非フッ素モノマーに分けられる。
含フッ素共重合体(A1)は、熱安定性、耐薬品性の点から、構成単位(a13)として、フッ素モノマー(TFE、CTFEおよびカルボニル基含有基を有するモノマーを除く。)に基づく構成単位を有していることが好ましい。
【0023】
構成単位(a13)を形成するフッ素モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」ともいう。)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)等のフルオロオレフィン、CF
2=CFOR
f1(ただし、R
f1は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいパーフルオロアルキル基。)、CF
2=CFOR
f2SO
2X
1(R
f2は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいパーフルオロアルキレン基、X
1はハロゲン原子または水酸基。)、CF
2=CFOR
f3CO
2X
2(ここで、R
f3は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいパーフルオロアルキレン基、X
2は水素原子または炭素数3以下のアルキル基。)、CF
2=CF(CF
2)
pOCF=CF
2(ここで、pは1または2。)、CH
2=CX
3(CF
2)
qX
4(ここで、X
3は水素原子またはフッ素原子、qは2から10の整数、X
4は水素原子またはフッ素原子。)およびパーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1、3−ジオキソラン)等が挙げられる。
【0024】
構成単位(a13)を形成する非フッ素モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン等の炭素数3以下のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられる。
構成単位(a13)は、含フッ素共重合体(A1)中に1種のみ含有していてもよく、2種以上を組合せて含有していてもよい。
【0025】
含フッ素共重合体(A1)は、構成単位(a11)と構成単位(a12)と構成単位(a13)との合計モル量に対して、構成単位(a11)が50〜99.89モル%で、構成単位(a12)が0.01〜5モル%で、構成単位(a13)が0.1〜49.99モル%であることが好ましく、構成単位(a11)が50〜99.4モル%で、構成単位(a12)が0.1〜3モル%で、構成単位(a13)が0.5〜49.9モル%であることがより好ましく、構成単位(a11)が50〜98.9モル%で、構成単位(a12)が0.1〜2モル%で、構成単位(a13)が1〜49.9モル%であることが特に好ましい。
各構成単位の含有量が上記範囲内であると、含フッ素共重合体(A1)は、熱安定性、加工性に優れる。
【0026】
含フッ素共重合体(A1)の中でも、耐熱性、他材との反応性の点から、以下の含フッ素共重合体(A2)が好ましい。
含フッ素共重合体(A2)は、TFEに基づく構成単位(a21)と、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーに基づく構成単位(a22)と、フッ素モノマー(ただし、TFEを除く。)に基づく構成単位(a23)とを有する。
ここで、構成単位(a22)が有する酸無水物残基が、構成単位(a12)が有するカルボニル基含有基に相当する。
【0027】
構成単位(a22)を形成する、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーとしては、無水イタコン酸(以下、「IAH」ともいう。)、無水シトラコン酸(以下、「CAH」ともいう。)、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」ともいう。)、無水マレイン酸等が挙げられる。中でも、IAH、CAH、およびNAHからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。IAH、CAH、およびNAHからなる群から選ばれる1種以上を用いれば、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11−193312号公報参照。)を用いることなく、酸無水物残基を含有する含フッ素共重合体(A2)を容易に製造できる。
IAH、CAH、およびNAHの中でも、含フッ素共重合体(A2)と無機フィラー(B)との相容性が優れ、無機フィラー(B)が含フッ素共重合体(A2)に分散しやすくなる点から、NAHがより好ましい。
これらのモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上で用いてもよい。
【0028】
構成単位(a23)を形成するフッ素モノマーとしては、フッ化ビニル、VdF、トリフルオロエチレン、CTFE、HFP等のフルオロオレフィン、CF
2=CFOR
f1(ただし、R
f1は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいパーフルオロアルキル基。)、CF
2=CFOR
f2SO
2X
1(R
f2は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいパーフルオロアルキレン基、X
1はハロゲン原子または水酸基。)、CF
2=CFOR
f3CO
2X
2(ここで、R
f3は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいパーフルオロアルキレン基、X
2は水素原子または炭素数3以下のアルキル基。)、CF
2=CF(CF
2)
pOCF=CF
2(ここで、pは1または2。)、CH
2=CX
3(CF
2)
qX
4(ここで、X
3は水素原子またはフッ素原子、qは2から10の整数、X
4は水素原子またはフッ素原子。)およびパーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1、3−ジオキソラン)等が挙げられる。
【0029】
これらのフッ素モノマーの中でも、VdF、CTFE、HFP、CF
2=CFOR
f1およびCH
2=CX
3(CF
2)
qX
4からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、CF
2=CFOR
f1、またはHFPがより好ましい。
CF
2=CFOR
f1としては、CF
2=CFOCF
3(以下、「PMVE」ともいう。)、CF
2=CFOCF
2CF
3(以下、「PEVE」ともいう。)、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
3(以下、「PPVE」ともいう。)、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2CF
3、CF
2=CFO(CF
2)
8F等が挙げられ、中でも、PPVEが好ましい。
CH
2=CX
3(CF
2)
qX
4としては、CH
2=CH(CF
2)
2F、CH
2=CH(CF
2)
3F、CH
2=CH(CF
2)
4F、CH
2=CF(CF
2)
3H、CH
2=CF(CF
2)
4H等が挙げられ、CH
2=CH(CF
2)
4FまたはCH
2=CH(CF
2)
2Fが好ましい。
【0030】
含フッ素共重合体(A2)は、構成単位(a21)と構成単位(a22)と構成単位(a23)との合計モル量に対して、構成単位(a21)が50〜99.89モル%で、構成単位(a22)が0.01〜5モル%で、構成単位(a23)が0.1〜49.99モル%であることが好ましく、構成単位(a21)が50〜99.4モル%で、構成単位(a22)が0.1〜3モル%で、構成単位(a23)が0.5〜49.9モル%であることがより好ましく、構成単位(a21)が50〜98.9モル%で、構成単位(a22)が0.1〜2モル%で、構成単位(a23)が1〜49.9モル%であることが特に好ましい。
【0031】
各構成単位の含有量が上記範囲内であると、含フッ素共重合体(A2)は、耐熱性、耐薬品性、弾性率に優れる。
特に、構成単位(a22)の含有量が上記範囲内であると、含フッ素共重合体(A2)と無機フィラー(B)とが相容性に優れ、含フッ素樹脂組成物中で無機フィラー(B)が分散しやすくなる。
構成単位(a23)の含有量が上記範囲内であると、含フッ素共重合体(A2)は成形性に優れ、含フッ素樹脂組成物から成形される電線の絶縁層等の成形品は、耐ストレスクラック性等の機械物性により優れる。
【0032】
なお、構成単位(a22)の含有量が、構成単位(a21)と構成単位(a22)と構成単位(a23)との合計モル量に対して0.01モル%とは、例えば、該含フッ素共重合体(A2)のカルボニル基含有基の含有量が含フッ素共重合体(A2)の主鎖炭素数1×10
6個に対して100個であることである。また、構成単位(a22)の含有量が、構成単位(a21)と構成単位(a22)と構成単位(a23)との合計モル量に対して5モル%とは、該含フッ素共重合体(A2)のカルボニル基含有基の含有量が含フッ素共重合体(A2)の主鎖炭素数1×10
6個に対して50000個であることに相当する。
【0033】
構成単位(a22)を含有する含フッ素共重合体(A2)には、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーが一部加水分解し、その結果、酸無水物残基に対応するジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、マレイン酸等。)に基づく構成単位が含まれる場合がある。該ジカルボン酸に基づく構成単位が含まれる場合、該構成単位の含有量は、構成単位(a22)に含まれるものとする。
また、各構成単位の含有量は、含フッ素共重合体(A2)の溶融NMR分析、フッ素含有量分析および赤外吸収スペクトル分析等により、算出できる。
【0034】
含フッ素共重合体(A2)は、上述の構成単位(a21)〜(a23)に加えて、フッ素原子を有しないモノマーである、非フッ素モノマー(ただし、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーを除く。)に基づく構成単位(a24)を有していてもよい。
非フッ素モノマーとしては、エチレン、プロピレン等の炭素数3以下のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられ、1種以上を使用できる。中でも、エチレン、プロピレン、または酢酸ビニルが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0035】
含フッ素共重合体(A2)が構成単位(a24)を含有する場合、構成単位(a24)の含有量は、構成単位(a21)と構成単位(a22)と構成単位(a23)との合計モル量を100モルとした場合に、5〜90モルが好ましく、5〜80モルがより好ましく、10〜65モルが最も好ましい。
また、含フッ素共重合体(A2)の全構成単位の合計モル量を100モル%とした場合に、構成単位(a21)〜(a23)の合計モル量は60モル%以上が好ましく、65モル%以上がより好ましく、68モル%以上が最も好ましい。好ましい上限値は、100モル%である。
【0036】
含フッ素共重合体(A2)の中でも、TFE/PPVE/NAH共重合体、TFE/PPVE/IAH共重合体、TFE/PPVE/CAH共重合体、TFE/HFP/IAH共重合体、TFE/HFP/CAH共重合体、TFE/VdF/IAH共重合体、TFE/VdF/CAH共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/IAH/E共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/CAH/エチレン共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
2F/IAH/エチレン共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
2F/CAH/エチレン共重合体、CTFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/IAH/エチレン共重合体、CTFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/CAH/エチレン共重合体、CTFE/CH
2=CH(CF
2)
2F/IAH/エチレン共重合体、CTFE/CH
2=CH(CF
2)
2F/CAH/エチレン共重合体が好ましい。
【0037】
<MFR>
含フッ素共重合体(A)は、溶融成形加工可能である。ここで「溶融成形可能」とは、溶融流動性を示すことを意味する。溶融流動性を示す指標として溶融流れ速度(Melt Flow Rate)(以下、「MFR」と言う。)がある。MFRは含フッ素共重合体(A)の分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が低く、小さいと分子量が大きいことを示す。本明細書においてMFRは、含フッ素共重合体(A)の融点よりも20〜100℃高い温度において、49N荷重下の条件で測定された値である。通常、含フッ素共重合体(A)は、該含フッ素共重合体(A)の融点よりも3〜100℃高い温度のいずれかにおいて、49N荷重下の条件で測定されたMFRが0.5g/10分以上であれば、溶融成形可能である。
【0038】
含フッ素共重合体(A)のMFRは、0.1〜1000g/10分が好ましく、0.5〜100g/10分がより好ましく、1〜30g/10分がさらに好ましく、5〜20g/10分が最も好ましい。MFRが前記下限値以上であれば、含フッ素樹脂組成物の成形加工性がより良好になり、また、含フッ素樹脂組成物から形成された成形品が表面平滑性、外観性により優れたものになる。一方、前記上限値以下であれば、該成形品が機械強度により優れたものになる。
【0039】
含フッ素樹脂組成物から形成された成形品の耐スクレープ摩耗特性がより優れたものになる点から、含フッ素共重合体(A)のMFRは、372℃、49N荷重の条件下で、0.5〜15g/10分であることが好ましく、1〜15g/10分がより好ましく、5〜13g/10分が特に好ましい。
含フッ素共重合体(A)のMFRは、上述のとおり分子量の目安である。MFRを小さくするためには、含フッ素共重合体(A)を熱処理して架橋構造を形成し、分子量を上げる方法;含フッ素共重合体(A)を製造する際のラジカル重合開始剤の使用量を減らす方法;等が挙げられる。
【0040】
方法(1)における重合方法としては、特に制限はないが、例えば、ラジカル重合開始剤を用いる重合方法が好ましい。該重合方法としては、塊状重合、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合、水性媒体と必要に応じて適当な有機溶剤とを使用する懸濁重合、水性媒体と乳化剤とを使用する乳化重合が挙げられ、中でも溶液重合が好ましい。
【0041】
ラジカル重合開始剤としては、その半減期が10時間である温度が、0〜100℃である開始剤が好ましく、20〜90℃である開始剤がより好ましい。
具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、イソブチリルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の非フッ素系ジアシルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカ−ボネート等のパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル、(Z(CF
2)
rCOO)
2(ここで、Zは水素原子、フッ素原子または塩素原子であり、rは1〜10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルパーオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0042】
重合時には、含フッ素共重合体(A)の溶融粘度を制御するために、連鎖移動剤を使用することも好ましい。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボンが挙げられる。
【0043】
溶液重合で使用される溶媒としては、パーフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、クロロヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテル等が用いられる。炭素数は、4〜12が好ましい。
パーフルオロカーボンの具体例としては、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロシクロペンタン、パーフルオロシクロヘキサン等が挙げられる。
ヒドロフルオロカーボンの具体例としては、1−ヒドロパーフルオロヘキサン等が挙げられる。
クロロヒドロフルオロカーボンの具体例としては、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
ヒドロフルオロエーテルの具体例としては、メチルパーフルオロブチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチル2,2,1,1−テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられる。
【0044】
重合条件は特に限定されず、重合温度は0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は1〜30時間が好ましい。
【0045】
含フッ素共重合体(A2)を製造する場合、構成単位(a22)を形成する酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーの重合中の濃度は、全モノマーに対して0.01〜5モル%が好ましく、0.1〜3モル%がより好ましく、0.1〜2モル%が最も好ましい。該モノマーの濃度が高すぎると、重合速度が低下する傾向があり、上記範囲にあると、製造時の重合速度が適度で、かつ、得られる含フッ素共重合体(A2)は、無機フィラー(B)との相容性に優れ、含フッ素共重合体(A2)に無機フィラー(B)が分散しやすくなる。重合中、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーが重合で消費されるに従って、消費された量を連続的または断続的に重合槽内に供給し、該モノマーの濃度を上記範囲内に維持することが好ましい。
【0046】
方法(2)により得られる含フッ素共重合体(A):
方法(2)により得られる含フッ素共重合体(A)は、該含フッ素共重合体(A)の主鎖末端にカルボニル基含有基を有する。
方法(2)における重合方法は、上述の方法(1)と同様でよい。ただし、方法(2)においては、重合の際に使用するラジカル重合開始剤および連鎖移動剤の少なくとも一方に、カルボニル基含有基を有する化合物を用いる。これにより、製造される含フッ素共重合体(A)に、カルボニル基含有基を導入することができる。
このようなラジカル重合開始剤としては、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が挙げられ、連鎖移動剤としては、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0047】
(無機フィラー(B))
含フッ素樹脂組成物は、無機フィラー(B)を含む。
無機フィラー(B)の材料としては、金属酸化物、窒化ホウ素、シリカ、マイカ、タルク、クレー、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイト、ワラストナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ガラス繊維、カーボンファイバー、カーボンブラック、フェロセン、カーボンナノチューブ、ナノダイヤモンド等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化銅、酸化銀、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられ、好ましくは酸化銅、アルミナである。中でも、耐摩耗性、分散性の点から、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、フェロセン、酸化銅、アルミナ、シリカ、マイカおよび窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ナノダイヤモンドが特に好ましい。
【0048】
無機フィラー(B)の表面には、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基およびヒドロキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性官能基が化学修飾により結合されている。反応性官能基は、カルボニル基含有基と反応する基である。
製造で溶融混練する際に、無機フィラー(B)に結合された反応性官能基のうち少なくとも一部は、含フッ素共重合体(A)が有するカルボニル基含有基と反応して結合を形成することができる。これにより、無機フィラー(B)は、含フッ素樹脂組成物中で良好に分散することができる。
【0049】
例えば、含フッ素共重合体(A)がカルボキシ基または酸無水物基を有し、無機フィラー(B)がアミノ基を有する場合、溶融混練下で、該カルボキシ基または酸無水物基と該アミノ基とが反応することによって、アミド結合またはイミド結合が形成されると考えられる。
他に、含フッ素共重合体(A)の酸無水物基と無機フィラー(B)のエポキシ基と、含フッ素共重合体(A)のカルボキシ基と無機フィラー(B)のオキサゾリン基と、含フッ素共重合体(A)のカルボキシ基と無機フィラー(B)のヒドロキシ基との間で、種々の化学結合が形成されると考えられる。
【0050】
無機フィラー(B)に結合される反応性官能基は、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基が好ましく、アミノ基がより好ましい。
また、無機フィラー(B)は、反応性官能基が化学修飾により表面に結合されたナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、フェロセン、酸化銅、アルミナ、シリカ、マイカおよび窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましく、アミノ基、エポキシ基またはオキサゾリン基が化学修飾により表面に結合されたナノダイヤモンド、カーボンナノチューブおよび窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種からなることがより好ましく、アミノ基が化学修飾により表面に結合されたナノダイヤモンドからなることが特に好ましい。
なお、無機フィラー(B)に結合される反応性官能基は、赤外線吸収スペクトル(IR)測定等によって各官能基のピーク強度から確認することができる。
【0051】
無機フィラー(B)は、Si原子、C原子、B原子および金属原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子(M)を含み、無機フィラー(B)の表面において反応性官能基が原子(M)に他の原子を介することなく共有結合していることが好ましい。例えば、シランカップリング剤を用いると、原子(M)に他の原子を介在させた状態で反応性官能基を結合させることができる。しかし、この場合、シランカップリング剤自身が不純物となり、絶縁性または熱安定性の低下をもたらすおそれがある。反応性官能基が原子(M)に他の原子を介することなく共有結合していることにより、本発明の含フッ素樹脂組成物の絶縁特性等が損なわれない。
含フッ素樹脂組成物中の無機フィラー(B)は、1種であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0052】
反応性官能基を化学修飾により無機フィラー(B)の表面に結合する方法としては、無機フィラー表面にプラズマ、コロナ、UV処理をする方法、または、モンモリロナイト等の層状化合物に官能基を有するカチオンをインターカレーションする方法等が挙げられる。
【0053】
無機フィラー(B)の一次粒子径は、500nm以下である。無機フィラー(B)の一次粒子径が前記上限値よりも大きいと、含フッ素共重合体(A)との相溶性が悪くなり、含フッ素共重合体(A)における無機フィラー(B)の分散性が悪くなる。さらに、成形品の表面平滑性が悪くなり、耐摩耗性が下がる。
無機フィラー(B)の一次粒子径は、100nm未満が好ましく、50nm未満がより好ましく、20nm未満が最も好ましい。無機フィラー(B)の一次粒子径が前記上限値未満であれば、含フッ素共重合体(A)との相溶性がより良好になり、含フッ素共重合体(A)における無機フィラー(B)の分散性がより良好になる。さらに、成形品の表面平滑性がより良好になり、耐摩耗性がより良好になる。
一方、無機フィラー(B)の一次粒子径は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nm以上が最も好ましい。無機フィラー(B)の一次粒子径が前記下限値以上であれば、含フッ素共重合体(A)における無機フィラー(B)の分散性がより優れる。
無機フィラー(B)の一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)等により撮影した画像を用いて算出することができる。
【0054】
無機フィラー(B)の含有量は、含フッ素共重合体(A)100質量部に対して0.001質量部以上30質量部未満である。
無機フィラー(B)の含有量が含フッ素共重合体(A)100質量部に対して0.001質量部以上30質量部未満であると、含フッ素樹脂組成物中で無機フィラー(B)が分散しやすくなる。そのため、該含フッ素樹脂組成物を含む成形品は表面平滑性に優れる。例えば、電線被覆材として電線の芯線に被覆し絶縁層とした場合、該絶縁層表面の平滑性が優れる。また、無機フィラー(B)の含有量が前記上限値以上になると、該絶縁層表面の平滑性が損なわれ、一方、前記下限値より低いと、充分な耐摩耗性が得られない。
【0055】
無機フィラー(B)の含有量は、含フッ素共重合体(A)100質量部に対して、0.005質量部以上20質量部未満が好ましく、0.01質量部以上15質量部未満がより好ましく、0.01質量部以上10質量部未満がさらに好ましく、0.01質量部以上3質量部未満が特に好ましく、0.01質量部以上1質量部以下が一層好ましく、0.01質量部以上1質量部未満がより一層好ましく、0.01質量部以上0.5質量部以下が最も好ましい。
無機フィラー(B)の含有量が前記下限値以上であれば、耐摩耗性に優れ、一方、前記上限値未満であれば、加工性に優れる。
【0056】
(添加剤)
含フッ素樹脂組成物は、その特性を大きく損なわない限り、顔料や含フッ素共重合体(A)以外の含フッ素共重合体等の添加剤を含んでいてもよい。
顔料としては、有機顔料、無機顔料等の着色顔料が挙げられる。具体的には、カーボンブラック(黒色顔料)、酸化鉄(赤色顔料)、アルミコバルト酸化物(青色顔料)、銅フタロシアニン(青色顔料、緑色顔料)、ペリレン(赤顔料)、バナジン酸ビスマス(黄顔料)等が挙げられる。
顔料の含有量としては、含フッ素樹脂組成物中、20質量%以下が好ましく、10質量%以下が特に好ましい。顔料の含有量が20質量%超となると、フッ素樹脂に基づく非粘着性や耐摩耗性が損なわれるおそれがある。
【0057】
含フッ素樹脂組成物は、含フッ素共重合体(A)と無機フィラー(B)のほかに、含フッ素共重合体(A)以外の含フッ素共重合体(C)を含んでいてもよい。
含フッ素共重合体(C)としては、TFE/PPVE共重合体、TFE/PMVE共重合体、TFE/HFP共重合体、TFE/HFP/PEVE共重合体、TFE/VdF共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/エチレン共重合体、CTFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/エチレン共重合体、CTFE/CH
2=CH(CF
2)
2F/エチレン共重合体等が挙げられる。好ましくは、TFE/PPVE共重合体、TFE/PMVE共重合体、TFE/HFP共重合体、TFE/HFP/PEVE共重合体であり、より好ましくはTFE/PPVE共重合体、TFE/PMVE共重合体であり、最も好ましくはTFE/PPVE共重合体である。
このとき、含フッ素共重合体(A)と含フッ素共重合体(C)の配合比(A/C)は、0.1/99.9〜99/1質量%が好ましく、0.5/99.5〜70/30質量%がより好ましく、1/99〜50/50質量%が最も好ましい。前記A/Cが前記下限値よりも小さいと、耐摩耗性が得にくくなる。
【0058】
[含フッ素樹脂組成物の製造方法]
含フッ素樹脂組成物は、含フッ素共重合体(A)と、無機フィラー(B)と、必要に応じて添加剤とを、溶融混練して製造することができる。溶融混練には、種々の混練機を用いることできるが、中でも、混練押し出し機を用いることが好ましい。混練機に用いるスクリューは種々のタイプを用いることができるが、中でも、2軸スクリュータイプが好ましい。
【0059】
溶融混練温度は、含フッ素共重合体(A)の融点以上かつ420℃未満である。溶融混練温度は、(含フッ素共重合体(A)の融点+20℃)以上400℃未満が好ましい。溶融混練温度が前記上限値以上であると、含フッ素共重合体(A)が部分的に熱分解することにより、耐摩耗性が低下する。一方、前記下限値より低いと、含フッ素共重合体(A)の流動性が高くなりすぎることによって、無機フィラー(B)との相溶性が低下し、含フッ素共重合体(A)における無機フィラー(B)の分散性が悪くなる。
混練押し出し機内における含フッ素共重合体(A)の滞留時間は、10秒以上30分以下が好ましい。
スクリュー回転数は、5rpm以上1500rpm以下が好ましく、10rpm以上500rpm以下がより好ましい。
【0060】
[成形品]
本発明の成形品としては、射出成形、ブロー成形、押し出し成形、トランスファ成形、プレス成形等、熱可塑性プラスチック成形加工における種々の成形方法により得られる。成形品は、その形状または用途等に応じた成形法により成形される。
【0061】
(表面粗度(Ra))
成形品の表面粗度(Ra)は、4.00μm以下が好ましく、3.00μm以下がより好ましく、2.00μmが最も好ましい。成形品の表面粗度(Ra)が前記上限値以下であれば、成形品が表面外観性及び耐摩耗性に優れる。
なお、本明細書において、成形品の表面粗度(Ra)は、表面粗さ測定器(小坂研究所社製、サーフコーダ SE−30H)を用いて、下記条件にて表面粗度(Ra)(μm)を3回測定した平均値である。
カットオフ値(λc):0.25mm
駆動速度:0.1mm/秒
サンプル長さ:8mm
【0062】
(用途)
本発明の成形品は、例えば、医療製品、機械部品、自動車部品、電気・電子部品等の様々な用途に用いられる。
医療製品としては、例えば、内視鏡チューブ、内視鏡操作部等の内視鏡用部材が挙げられる。
機械部品としては、分離爪、ヒータホルダー等の複写機、印刷機関連部品、産業分野におけるコンプレッサ部品、大量輸送システムのケーブル、コンベアベルトチェーン、油田開発機械用コネクタ、水圧駆動システムのポンプ部品が挙げられる。
自動車部品としては、例えば、スプール弁、スラストワッシャー、オイルフィルター、各種ギア、ABSパーツ、ATシールリング、MTシフトフォークパッド、ベアリング、シール、クラッチリングが挙げられる。
電気・電子部品としては、例えば、電線、プリント基板、コネクタ、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、半導体パッケージ、コンピューター関連部品、ハードディスク関連部品、カメラ鏡筒、光学センサー筐体、コンパクトカメラモジュール筐体(パッケージや鏡筒)、プロジェクター光学エンジン構成部材、ICトレー、ウエハーキャリヤー等の半導体製造プロセス関連部品が挙げられる。
中でも、本発明の含フッ素樹脂組成物を用いて得られた成形品は、表面平滑性と耐摩耗性に優れている点から、耐熱性と耐摩耗性が特に求められる電線が特に好ましい。
【0063】
[電線]
本発明の電線は、芯線と、前記芯線を被覆する絶縁層とを有する電線である。
(芯線)
芯線の材質は、特に限定されず、例えば、銅、錫、銀等を含むものが挙げられる。中でも、銅が好ましい。
芯線の直径は、10μm〜3mmが好ましい。
【0064】
(絶縁層)
絶縁層は、上述の含フッ素樹脂組成物を含有する。
【0065】
(製造方法)
芯線(導体)に含フッ素樹脂組成物を被覆して電線とする方法は、特に限定されないが、押し出し機を用いて、芯線上に、溶融混練した含フッ素樹脂組成物を被覆させるようにして押し出しする成形方法(電線成形法)が好ましい。
【0066】
[作用効果]
本発明の含フッ素樹脂組成物を用いて得られた成形品は、表面平滑性と耐摩耗性に優れている。特に、本発明の含フッ素樹脂組成物を用いて電線を得た場合、絶縁層を形成する際に、得られた電線の表面平滑性が高い。また、得られた電線は耐スクレープ摩耗特性に優れる。
これらの特性は、含フッ素樹脂組成物中の含フッ素共重合体(A)がカルボニル基含有基を有し、無機フィラー(B)に反応性官能基が結合されていることによるものと推定される。具体的には、含フッ素樹脂組成物の製造において溶融混練する際に、含フッ素共重合体(A)が有するカルボニル基含有基と、無機フィラー(B)に結合された反応性官能基とが結合を形成することにより、無機フィラー(B)が含フッ素樹脂組成物中で凝集しにくく分散しやすくなる。そのため、含フッ素樹脂組成物から得られた成形品が表面平滑性と耐摩耗性に優れたものになると考えられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0068】
[評価方法]
後述する実施例1〜5及び比較例1〜3における原料である含フッ素共重合体及び得られた絶縁電線について、以下の手順で各評価を行った。
【0069】
(共重合体の組成)
各含フッ素共重合体の組成は、溶融NMR分析、フッ素含有量分析および赤外吸収スペクトル分析により測定したデータから算出した。
【0070】
(融点)
各含フッ素共重合体の結晶融点(Tm)は、セイコー電子社製示差走査熱量計(DSC装置)を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、そのトップピークである極大値に対応する温度(℃)を融点とすることにより求めた。
【0071】
(MFR(g/10分))
テクノセブン社製メルトインデクサーを用い、49N荷重下で、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間で流出する含フッ素共重合体の質量(g)を測定した。測定温度は372℃とした。
【0072】
(スクレープ摩耗抵抗(耐スクレープ摩耗特性))
得られた絶縁電線を長さ2mに切り出してサンプル試験片とし、安田精機社製、製品名「マグネットワイヤー摩耗試験機(往復式)」を用い、ISO6722−1に準拠した試験方法によって、スクレープ摩耗試験を行った。具体的には、ニードル直径:0.45±0.01mm、ニードル材質:SUS316(JISK−G7602準拠)、摩耗距離:15.5±1mm、摩耗速度:55±5回/分、荷重:7N、試験環境:23±1℃の条件下で行った。摩耗抵抗はニードルの往復運動によって、導体が絶縁被覆から露出するまでに要したニードルの往復回数で表される。摩耗抵抗(回数)が多い程、絶縁層は耐摩耗性に優れることを意味する。
【0073】
(表面粗度(Ra))
絶縁電線の表面について、表面粗さ測定器(小坂研究所社製、サーフコーダ SE−30H)を用いて、下記条件にて表面粗度(Ra)(μm)を測定した。なお、Raの算出は、測定点数はn=3で行い、その平均値をRaとして算出した。
カットオフ値(λc):0.25mm
駆動速度:0.1mm/秒
サンプル長さ:8mm
【0074】
[材料]
(含フッ素共重合体(A))
構成単位(a21)を形成するTFEと、構成単位(a22)を形成するNAH(「無水ハイミック酸」、日立化成社製)と、構成単位(a23)を形成するPPVE(旭硝子社製)を用いて、含フッ素共重合体(A2−1)を次のようにして製造した。
【0075】
まず、369kgの1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(AK225cb、旭硝子社製)(以下、「AK225cb」という。)と、30kgのPPVEとを、予め脱気された内容積が430Lの撹拌機付き重合槽に仕込んだ。次いで、この重合槽内を加熟して50℃に昇温し、さらに50kgのTFEを仕込んだ後、該重合槽内の圧力を0.89MPa/Gまで昇圧した。なお、「0.89MPa/G」とは、ゲージ圧が0.89MPaであることを示す。以下、同様である。
【0076】
さらに、(パーフルオロブチリル)パーオキシドを0.36質量%の濃度でAK225cbに溶解した重合開始剤溶液を調製し、重合槽中に当該重合開始剤溶液の3Lを1分間に6.25mLの速度にて連続的に添加しながら重合を行った。また、重合反応中における重合槽内の圧力が0.89MPa/Gを保持するようにTFEを連続的に仕込んだ。また、NAHを0.3質量%の濃度でAK225cbに溶解した溶液を、重合中に仕込むTFEのモル数に対して0.1モル%に相当する量ずつ、連続的に仕込んだ。
【0077】
重合開始8時間後、32kgのTFEを仕込んだ時点で、重合槽内の温度を室温まで降温するとともに、圧力を常圧までパージした。得られたスラリをAK225cbと固液分離した後、固体分を150℃で15時間乾燥することにより、33kgの含フッ素共重合体(A2−1)を得た。含フッ素共重合体(A2−1)の比重は2.15であった。
【0078】
溶融NMR分析、フッ素含有量分析および赤外吸収スペクトル分析の結果から、この含フッ素共重合体(A2−1)の共重合組成は、TFEに基づく構成単位(a21)/NAHに基づく構成単位(a22)/PPVEに基づく構成単位(a23)=97.9/0.1/2.0(モル%)であった。
含フッ素共重合体(A2−1)の融点は300℃であり、372℃、49N荷重下でのMFRは、16.8g/10分であった。
【0079】
(無機フィラー(B))
無機フィラー(B)は以下の市販品を使用した。
無機フィラー(B−1):カーボデオン社製u Diamond(登録商標)「Molt Amine(製品名)」、一次粒子径4nm、表面がアミノ基により化学修飾されたナノダイヤモンド。
無機フィラー(B−2):カーボデオン社製u Diamond(登録商標)「Molt(製品名)」、一次粒子径4nm、表面が−NH
2、−OH、−COOHの官能基によって化学修飾されたナノダイヤモンド。
【0080】
[実施例1〜5]
含フッ素共重合体(A2−1)に無機フィラー(B−1)または無機フィラー(B−2)を表1に示す量で加え、これをテクノベル社製 φ15mm 二軸押し出し機(スクリュー径:15mm)を用いて溶融混練して、含フッ素樹脂組成物を得た。溶融混練は、シリンダー温度を320〜350℃、ダイスヘッド温度を360℃、スクリュー回転数を200rpm、原料のフィード流量を2.5kg/時間の条件で行った。
【0081】
押し出し機(アイ・ケー・ジー社製、MS30−25)、スクリュー(IKG社製、フルフライト、L/D=24、φ30mm)、電線ダイスクロスヘッド(ユニテック社製、最大導体径3mm、最大ダイス穴径20mm)、電線引き取り機(聖製作所社製)、巻き取り機(聖製作所社製)を用いて、含フッ素樹脂組成物と芯線(安田工業社製、スズめっき銅練り線、直径:1.8mm、構成:37/0.26mm(1層:右撚7本、2層:左撚12本、3層:右撚18本))から、被覆厚み0.5mm、電線径φ2.8mmの電線を製造した。上記電線を5℃刻みの所定温度で96時間アニール処理し、その後室温で一晩安置した。次いで、電線を電線自体に8巻き以上巻き付け(自己径巻きつけ)、電線サンプルを得た。
得られた電線サンプルを用いてスクレープ摩耗試験を行い、表面粗度Raを測定した。
【0082】
[比較例1]
含フッ素共重合体(A2−1)に替えて、カルボニル基含有基を有しない含フッ素共重合体(旭硝子社製Fluon(登録商標)「P73PT(製品名)」(PFA、結晶融点303℃、MFR15.2g/10分)(表1では「P73PT」と略称する。)を用いた以外は、実施例2と同様にして電線サンプルを得、スクレープ摩耗試験を行い、表面粗度Raを測定した。
【0083】
[比較例2]
無機フィラー(B−1)を加えない以外は、実施例1と同様にして電線サンプルを得、スクレープ摩耗試験を行い、表面粗度Raを測定した。
【0084】
[比較例3]
無機フィラー(B−1)を加えない以外は、比較例1と同様にして電線サンプルを得、スクレープ摩耗試験を行い、表面粗度Raを測定した。
表1に、実施例1〜3および比較例1〜3の配合割合、混練温度、評価結果を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すとおり、無機フィラー(B−1)または無機フィラー(B−2)を含ませた場合、カルボニル基含有基を有する溶融成形加工可能な含フッ素共重合体を用いた実施例1〜5の電線は、カルボニル基含有基を有しない含フッ素共重合体を用いた比較例1に比べて、表面粗度Raが低く、スクレープ摩耗抵抗が高かった。
一方、実施例1〜3と同様にカルボニル基含有基を有する溶融成形加工可能な含フッ素共重合体を用いても、無機フィラー(B−1)を含ませない比較例2の電線は、実施例1〜5に比べて、スクレープ摩耗抵抗が低かった。無機フィラー(B−1)を含ませなかっただけでなく、カルボニル基含有基を有しない含フッ素共重合体を用いた比較例3の電線も、実施例1〜5に比べて、スクレープ摩耗抵抗が低かった。