特許第6456204号(P6456204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6456204芳香族炭化水素の水素化触媒及びそれを用いた水素化処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6456204
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】芳香族炭化水素の水素化触媒及びそれを用いた水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/755 20060101AFI20190110BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20190110BHJP
   C07C 5/10 20060101ALI20190110BHJP
   C07C 13/18 20060101ALI20190110BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190110BHJP
【FI】
   B01J23/755 Z
   B01J37/18
   C07C5/10
   C07C13/18
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-60801(P2015-60801)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-179440(P2016-179440A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
(72)【発明者】
【氏名】小林 治人
(72)【発明者】
【氏名】武藤 昭博
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎一
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−524273(JP,A)
【文献】 特開2005−103411(JP,A)
【文献】 特開2010−189332(JP,A)
【文献】 特開2001−300328(JP,A)
【文献】 特開昭57−190080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 5/10
C07C 13/18
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素化合物を脂肪族環状炭化水素化合物に水素化する触媒であって、少なくともアルミナとチタニアとからなる複合担体に周期律表第10族金属が担持されており、前記複合担体がアルミナからなる基材にチタニアが被覆されたものを少なくとも含むことを特徴とする水素化触媒。
【請求項2】
前記周期律表第10族金属が予備水素還元処理されていることを特徴とする、請求項1に記載の水素化触媒。
【請求項3】
前記周期律表第10族金属がニッケルであり、該ニッケルが触媒全体に対して酸化ニッケル換算で5〜35質量%含まれていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水素化触媒。
【請求項4】
前記基材が複数の針状体又は柱状体が三次元的にからみ合って構成される多孔質構造体からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素化触媒。
【請求項5】
少なくともアルミナとチタニアとからなる複合担体に周期律表第10族金属を担持させた後、該周期律表第10族金属を予備水素還元処理し、得られた水素化触媒に芳香族炭化水素及び水素を含んだ原料ガスを接触させることで脂肪族環状炭化水素化合物を生成し、前記複合担体がアルミナからなる基材にチタニアが被覆されたものを少なくとも含むことを特徴とする芳香族炭化水素の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素化合物を脂肪族環状炭化水素化合物に水素化する水素化触媒及びそれを用いた水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー媒体として水素エネルギーが注目されている。水素はクリーンであることに加えて化石燃料、原子力、再生可能エネルギーなどあらゆる一次エネルギーから製造可能であるという利点を有しているが、そのエネルギーを大規模に利用するには、大量の水素を貯蔵したり長距離輸送したりできることが必要であり、その技術の一つとして有機ケミカルハイドライド法が提案されている(非特許文献1、2)。
【0003】
この方法は、最も軽い気体である水素を水素化反応でトルエン等の芳香族炭化水素に固定することによって、常温・常圧で液体のメチルシクロヘキサン等の有機ケミカルハイドライドに転換し、この有機ケミカルハライドの形で水素の使用場所へ輸送すると共に使用場所で貯蔵した後、この使用場所で脱水素反応を行って製品としての水素を生成させると共に脱水素反応で生成したトルエン等の芳香族を回収・再利用する方法である。この方法は、ガソリンの成分であるトルエンやメチルシクロヘキサンを利用するので、水素の貯蔵や輸送をガソリンと同様に取り扱うことができ、既存のガソリン流通のインフラを転用できるという利点を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「水素貯蔵材料 有機ハイドライドを利用する水素貯蔵・供給システムの特徴と将来性」、梅沢順子、ペトロテック、vol.29、No.4、253−257(2006)
【非特許文献2】「グローバルな水素サプライチェーン構想と有機ケミカルハイドライド法水素貯蔵・輸送システムの開発」、岡田佳巳、斉藤政志、恩田信博、坂口順一、水素エネルギーシステムvol.33、No.4、p.8(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した芳香族炭化水素の水素化触媒には、シリカ、珪藻土、アルミナ等の多孔性無機酸化物からなる担体に、第10族金属や第6族金属を担持させた触媒が従来から用いられてきた。かかる水素化触媒は、上記金属を比較的多く担持させることによりある程度の触媒活性及び選択性が得られるものの、副反応の抑制及び安定性の点において必ずしも満足のいくものではなかった。
【0006】
本発明は上記した従来の問題に鑑みてなされたものであり、比較的少ない担持金属量で安定性と副反応の抑制の点において優れた、芳香族炭化水素化合物を脂肪族環状炭化水素化合物に水素化する水素化触媒及びそれを用いた水素化処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明が提供する水素化触媒は、芳香族炭化水素化合物を脂肪族環状炭化水素化合物に水素化する触媒であって、少なくともアルミナとチタニアとからなる複合担体に周期律表第10族金属が担持されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比較的少ない担持金属量であるにもかかわらず副反応の抑制及び安定性の点において優れた芳香族炭化水素化合物の水素化触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例の水素化触媒が有する複合担体及び比較としての混合担体のX線回折分析結果を示すグラフである。
図2】本発明の実施例の水素化触媒に用いられる複合担体の骨格に相当するアルミナ担体の細孔分布を示すグラフである。
図3】実施例で作製した各試料の水素化触媒のトルエン転化率の経時変化を示すグラフである。
図4】実施例で作製した各試料の水素化触媒の不純物選択率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.水素化触媒
以下、本発明の一具体例の水素化触媒について説明する。この本発明の一具体例の水素化触媒は、少なくともアルミナとチタニアとからなる複合担体に周期律表の第10族金属が担持されていることを特徴としている。具体的に説明すると、本発明の一具体例の水素化触媒の担体は、アルミナ(酸化アルミニウム)及びチタニア(酸化チタン)の少なくとも2種類の金属からなり、例えばアルミナからなる基材の表面にチタニアが被覆された形態を有している。アルミナは、それ自身大きな比表面積を有する多孔質体を形成しやすく、この多孔質体に酸化チタンを被覆してなる多孔質複合担体(以降、単に複合担体とも称する)においても極めて大きな比表面積を確保することができる。
【0011】
上記したアルミナからなる基材の形状としては特に制約はなく、各種の形状を採用することができるが、比表面積を大きく確保でき、広範な細孔構造の制御が可能であり、機械的強度が高いことから、複数の針状体あるいは柱状体が三次元的に複雑にからみ合って多孔部を構成する骨格構造がより好ましい。かかる針状体あるいは柱状体の好適なサイズは、アスペクト比(長手方向の長さ/該長手方向に垂直な断面での相当直径)において2.5以上であるのが好ましく、5以上がより好ましい。
【0012】
このアルミナからなる基材は、後述するpHスイング法で合成したものであることが好ましい。pHスイング法で形成することによって、前述した複数の略同サイズの針状体が三次元的に複雑にからみ合った略均質な多孔質体構造を形成することができる。なお、pHスイング法では、合成条件を適宜調整することにより、所望の細孔構造を有する無機酸化物からなる基材を得ることができる。
【0013】
ここでpHスイング法とは、アルミナの原料となる無機酸化物合成液のpHを酸性側とアルカリ性側との間で変化させることにより、無機酸化物を溶解領域と沈殿領域にスイングさせ、目的の大きさまで略均質に成長させる合成方法のことである。pHスイング法では、スイング回数、合成温度、酸性側やアルカリ性側のpH及び保持時間、原料濃度、粒子成長調整剤等の添加物の有無など、各種条件を適宜制御することにより、所望の細孔構造(均一で且つ任意の細孔径を有する)の無機酸化物の粒子を得ることができる。したがって、触媒の用途に応じてpHスイング法による上記無機酸化物の合成時の各種条件を適宜選択すればよい。
【0014】
pHスイング法によるアルミナの合成については、例えば特公平1−16773号公報、特公平2−56283号公報、特公昭56−120508号公報、特公昭57−44605号公報、特願2002−97010号、特開昭56−115638号公報、「セラミックス」1998年No.4等の文献に詳細に記載されている。本発明はこれらの開示内容を含むものとする。
【0015】
上記したアルミナからなる多孔質の基材の表面に被覆させる酸化チタンは、一般に略球形形状を有しており、これをそのまま基材の表面に付着させてもよいが、アルミナからなる基材と化学的及び/又は微視的に一体となった状態にすることで酸化チタンの形状が確認できないようにするのが好ましい。本発明者らはこれについて鋭意研究を行った結果、酸化チタンをアルミナと化学的及び/又は微視的に一体になった状態でアルミナの基材の表面に被覆させることにより、X線回折を行っても酸化チタンの結晶構造を示さない状態の担体を、本発明の分野の水素化触媒の担体として用いる場合、例えばトルエンからメチルシクロヘキサンを生成する目的反応に対して、高い反応選択性を引き出すと同時に、触媒活性の維持に対しても顕著な効果を発現することを見出した。
【0016】
ここで、「化学的及び/又は微視的に一体」とは、アルミナからなる多孔質の基材表面を被覆する酸化チタンが、例えば凝集や混合のように単に物理的に該基材表面に接触しているのではなく、化学的に強固に結合しているかあるいは極めて微細な結晶の状態で基材表面を覆うように結合してアルミナと酸化チタンとが一体化している状態を指す。この一体化状態の複合担体は、核となるアルミナの化学的特性に左右されずに酸化チタン自身の高い触媒活性を示すものとなる。
【0017】
その結果、アルミナと酸化チタンとの単なる中間的な性能はほとんど発現しなくなる上、アルミナの複合効果による副反応が助長されなくなって、反応物の選択性が低下したり触媒劣化が進んだりといった不具合が生じにくくなる。すなわち、従来の酸化チタンと異種酸化物との複合物(異種酸化物をバインダーとするもの、異種酸化物との共沈法による混合物等)では、担体表面に異種酸化物がまだらに現れるので、酸化チタンと異種酸化物の双方の性質に由来する触媒反応特性が発現する。それに対して、上記した本発明の一具体例の水素化触媒では、ヒドロゲルの状態において、基材となるアルミナ結晶の一次粒子表面にチタンの水酸化物が薄層で被覆するので、焼成により細孔構造の定まった基材への蒸着等によるコーティングとは異なり、細孔のサイズの大小に関係なく担体のほぼ全ての露出面を酸化チタンとすることができるので、酸化チタンに由来する性質のみを発現させることができる。
【0018】
更に、上記した複合担体によれば、アルミナの基材由来の物理的特性が反映されるので、基材自身の優れた特徴をも備えることになる。すなわち、アルミナ基材の表面に酸化チタンを被覆させた複合担体は、比表面積が大きくて細孔容積が大きく、反応物質に適した細孔分布を有し、機械的強度の高いアルミナ基材の特徴と、高い表面活性を有する酸化チタンの優れた化学的特性との両方を兼ね備えた担持体を実現することができる。しかも、高価で高密度のチタンは基材の表面にのみ被覆させるだけであるので、高純度な酸化チタン担体と比較して軽量化できるうえコストを大幅に抑えることも可能になる。なお、本発明の一具体例の水素化触媒には、複合担体に加えて、化学的及び/又は微視的に一体とならずに例えば複数のアルミナ粒子と複数のチタニア粒子とが混在した状態で結合した担体が部分的に含まれていても構わない。
【0019】
この場合のアルミナ粒子と混在するチタニア粒子とは、アルミナ基材と化学的及び/又は微視的に一体化していない酸化チタンの粒子であると考えることができる。本発明の一具体例の水素化触媒に用いる担体にこの種のチタニア粒子が存在する場合、X線回折分析において、当該チタニア粒子の含有割合に応じて、チタニアの存在を示すアナタース結晶の(101)面に相当するメインピーク(X線源にCuKα線を用いる一般な装置では回折角2θ=25.3±0.2°に出現)が検出されることがある。
【0020】
ただし、本発明の一具体例の水素化触媒で用いる担体では、たとえX線回折分析でアナタース結晶の(101)面に相当するピークが検出される場合であっても、そのピーク強度は、アナタース結晶を有するチタニアがアルミナに単に物理的に混合した担体に比べて極めて小さなものとなる。これは本発明の一具体例の水素化触媒に用いる担体にこの種のチタニア粒子が存在する場合であっても、担体として含有される全酸化チタンに対してマイナーな存在量に過ぎないためである。なお、ここで想定するチタニア粒子は本発明の一具体例の水素化触媒に用いる担体と同じチタン原料から合成及び洗浄され、最終的に本発明の一具体例の水素化触媒に用いる担体と同温度で焼成処理されたアナタース結晶を有するものと考えることができる。
【0021】
上記した「化学的及び/又は微視的に一体」となっている状態の一例としては、アルミナ基材の表面における酸化チタンの結晶格子面の繰り返し長さが、好ましくは50Å以下、より好ましくは40Å以下、最も好ましくは20Å以下となっている状態を挙げることができる。一般的には、このように結晶格子面の繰り返しが微細な物質は、X線回折装置で測定すると他の回折線との重なり等が生じてしまい、測定限界をオーバーしてしまう。その結果、一般的なX線回折装置により複合担体の表面を測定しようとしても、酸化チタンのアナタース結晶のメインピーク2θ=25.3゜近傍が検出されない場合がある。逆に言うと、アルミナの表面に、確実に酸化チタンが存在しているにもかかわらず、一般的なX線回折装置により酸化チタンのメインピーク2θ=25.3゜近傍が検出されない場合には、上記した複合担体であると判断することができる。勿論、上記した通り、本発明の一具体例の水素化触媒で用いる担体の全てが、X線回折装置により酸化チタンのメインピーク2θ=25.3゜近傍が検出されないわけではない。
【0022】
また、「化学的及び/又は微視的に一体」となっている状態の他の一例としては、透過型電子顕微鏡(TEM)による高倍率(例えば200万倍)像(以下、単に「TEM像」という。)において、アルミナと酸化チタンの粒子とが明確に区別できない状態が挙げられる。アルミナと酸化チタンとが、化学的にも微視的にも別個のものとなっていれば、それぞれ結晶系の異なる一次粒子を形成するため、TEM像で結晶格子面間隔から別個に認識できるはずであるが、アルミナと酸化チタンが化学的に一体となっていたり、酸化チタンが極微細な結晶としてアルミナ基材の表面を被覆していたりすれば、両者を確認することはできない。
【0023】
したがって、アルミナ基材の表面に確実に酸化チタンが存在しているにもかかわらず、一般的なTEM装置によるTEM像でアルミナと酸化チタンの粒子とが結晶格子面間隔から明確に区別できない場合には、上記した複合担体であると判断することができる。勿論、上記した複合担体の全てが、TEM像でアルミナと酸化チタンの粒子とが明確に区別できないわけではない。
【0024】
上記した複合担体においては、その多孔質を構成しているのは、アルミナ自身が元々有している細孔構造に由来するものが主で、加えて、その表面を薄層の酸化チタンが被覆していることから、その酸化チタンの外表面状態に由来するものもあり、上記した複合担体の細孔構造はこの両者で決まるものである。略均一な球状の粒子である酸化チタンのみで構成される担体の場合は、その粒子サイズでほぼ比表面積が定まるが、酸化チタン自身の熱安定性の悪さにより加熱に伴って酸化チタン粒子同志の凝集が生じ、大粒子となることから比表面積の低下が起こる。上記した複合担体においては、熱安定性に優れる、アルミナの表面状態がほぼそのまま反映されることから、多孔質のアルミナ基材の段階で比表面積がほぼ定まり、加熱されてもこの比表面積がほぼ維持される複合担体を得ることが出来る。
【0025】
上記したように、本発明の一具体例の水素化触媒の担体に使用する複合担体では極めて大きな比表面積を適宜制御して得ることができる。その比表面積は、触媒の担体として優れた適性を備えるためには、100m/g以上であることが好ましく、130m/g以上であることがより好ましく、150m/g以上であることが特に好ましい。この場合の比表面積は、例えば水銀圧入法や窒素吸着法等により測定することができる。
【0026】
本発明の一具体例の水素化触媒は、上記した複合担体に触媒金属化合物として周期律表第10族金属化合物が担持されている。第10族金属としてはニッケル化合物を挙げることができ、特に硝酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル等が好ましい。かかる周期律表第10族金属化合物の担持量(含有量)は、触媒全体(すなわち、上記した複合担体と、周期律表第10族金属化合物との酸化物基準の合計量であり、以下においても同様とする)に対して5〜35質量%の範囲内が好ましく、6〜20質量%の範囲内がより好ましい。この金属化合物の担持量が5質量%より少ない場合は、充分な触媒活性が得られなくなるおそれがある。一方、金属化合物の担持量が35質量%を超えて担持することも可能であるが、水素化反応は発熱反応であることから、金属担持量を過剰に増加させると触媒層内が高温化し、その結果、不純物の生成が加速する可能性があるので好ましくない。
【0027】
2.水素化触媒の製造方法
次に、上記した本発明の一具体例の水素化触媒の製造方法について説明する。この本発明の一具体例の水素化触媒の製造方法は、基材作製工程、コーティング工程、洗浄工程、成形工程、焼成工程、含浸工程及び乾燥工程からなる。以下、工程順に説明する。
【0028】
[基材作製工程]
本発明の一具体例の水素化触媒の担体の基材となるアルミナは、その原料にアルミナ水和物粒子を含んだヒドロゾル、ヒドロゲル、キセロゲル等を使用することができる。このアルミナ水和物粒子の結晶系としては、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナゲルなど、またこれらを混合したものを用いることができる。アルミナ水和物粒子の調製方法については特に制限はないが、前述したようにpHスイング法で合成するのが好ましい。pHスイング法で合成することで、均質な形状を有し、細孔シャープネス度が60%以上のアルミナを得ることができる。なお、このpHスイング法で製造したアルミナ水和物粒子のヒドロゾル中には、原料のアルミナ化合物に由来する夾雑イオンが存在するため、必要に応じて後段のチタン水酸化物のコーティング工程の前に、当該夾雑イオンを洗浄除去する処理を行ってもよい。
【0029】
このようにして作製したアルミナ水和物粒子は、後述する焼成工程において500℃にて3時間焼成した後の細孔容積が0.36〜1.10mL/gの範囲内であることが好ましい。細孔容積が0.36mL/g未満であると、触媒金属を担持した際の充填密度が高く(例えば1.1g/mL超)なってしまい、既存の水素化反応装置の耐荷重を超過するおそれがある。一方、細孔容積が1.10mL/gを超えると、触媒金属を担持した場合に触媒粒子圧壊強度(SCS、Side Crushing Strength)が低く(例えば、直径1mm基準で0.6kg/mm未満)なってしまい、実用強度を保つことができなくなるおそれがある。
【0030】
また、アルミナ水和物粒子を500℃にて3時間焼成した後の細孔シャープネス度は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。ここで「細孔シャープネス度」とは、細孔径の均一性の指標となる数値であり、細孔シャープネス度が100%に近づくほど触媒や担体の細孔径が均一に揃っていることを意味する。細孔シャープネス度は、水銀圧入法により測定された累積細孔分布曲線から計算することができる。具体的には、細孔容積の50%における細孔径(メディアン径)を求め、次にメディアン径の対数値の±5%の細孔径範囲内に存在する部分細孔容積(PVM)を求め、その部分細孔容積(PVM)と細孔容積(PVT)から、下記の式1により細孔シャープネス度を求めることができる。
【0031】
[式1]
細孔シャープネス度(%)=(PVM/PVT)×100
【0032】
[コーティング工程]
コーティング工程は、例えば前述したpHスイング法で形成したアルミナ水和物粒子を含むヒドロゾルに対して、チタンを含む酸性化合物水溶液及びアルカリ性化合物を含む水溶液を、所定の温度とpHの範囲内で添加し、pHを一定に保持しながらアルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングして水酸化チタンで被覆されたアルミナ水和物粒子を得る工程である。ここで「チタンを含む酸性化合物」(以下、単に「チタン化合物」とも称する)としては、硫酸チタン、硫酸チタニル、塩化チタン、過酸化チタン、シュウ酸チタン、酢酸チタンなどが好ましい。
【0033】
具体的に説明すると、アルミナ水和物粒子へのチタン化合物水溶液の添加方法としては、後述する温度及びpHの条件下において、アルミナ水和物粒子が分散したヒドロゾル中に、チタン化合物水溶液とアルカリ性化合物を含む水溶液とを好適には同時且つ連続的に添加することで行う。この時の温度条件としては、10〜100℃の範囲内とするのが好ましく、15〜80℃の範囲内であることがより好ましい。例えば、上記したpHスイング法でアルミナ水和物粒子を製造し、そのまま続けてチタン化合物水溶液を添加する場合には、アルミナ水和物粒子の製造温度条件によるが、概略50〜100℃の範囲内になり、アルミナ水和物粒子を製造し、貯蔵して、温度が下がった場合は概略室温〜50℃の範囲内になる。
【0034】
また、この時のpH条件としてはpH4.5〜6.5の範囲内が好ましく、できるだけpHを一定に保持しながらチタン化合物水溶液とアルカリ性化合物を含む水溶液とを好適には同時且つ連続的に添加する。なお、大容量のコーティング反応器を用いる場合、pHを完全に一定に保持することは困難であるため、ここでいう「一定に保持」とは、目標のpH値になるべく近付けるように制御する場合を含むものとし、例えば目標のpH値に対して±0.5の範囲内に収まるように制御するのが好ましい。このようにpH条件を制御することでアルミナ水和物粒子の表面にチタン水酸化物粒子が良好にコーティングされる。その際、そのコーティング量に応じてチタン水酸化物がコーティングされたアルミナ水和物粒子の等電点が変化する。下記表1には、チタン水酸化物のコーティング量別の等電点測定結果が示されている。
【0035】
【表1】
【0036】
上記表1において、チタン水酸化物粒子の被覆量は、アルミナ水和物粒子とチタン水酸化物粒子との酸化物基準の合計に対するチタン水酸化物粒子の酸化物基準の質量割合(質量%)で示されており、チタン水酸化物粒子の被覆量0質量%及び100質量%は、それぞれアルミナ水和物粒子のみの場合及びチタン水酸化物粒子のみの場合を示すものである。以下の説明において「チタン水酸化物粒子の被覆量(又はコーティング量)」といった場合には、同様に、チタン水酸化物粒子及びアルミナ水和物粒子の酸化物基準の合計に対するチタン水酸化物粒子の酸化物基準の質量割合(質量%)を意味する。なお、等電点は、測定装置として大塚電子製のHLS−8000型装置を用いて電気泳動光散乱法により測定した。等電点の求め方は、測定したpHとゼーター電位の関係から、ゼーター電位が0となるpHを求めて、これを等電点とした。
【0037】
アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングする場合のpHの範囲は、上記表1に示すように原理的には100%チタン水酸化物粒子の等電点であるpH4.2を超え、それぞれのチタン水酸化物粒子の濃度(チタン水酸化物のコーティング量)に相当する等電点未満の値でよい。例えばチタン水酸化物粒子の濃度が10質量%の場合はpH9.2未満になる。
【0038】
しかし、アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物を均一且つ強固にコーティングする場合のpHの範囲は、前述したようにpH4.5〜6.5の範囲内が好ましい。これは、pHを4.5以上にすることで、チタン水酸化物粒子のゼーター電位が−5.0mV以下(絶対値が5.0mV以上)にあり、pHを6.5以下にすることで、アルミナ水和物粒子のゼーター電位が20mV以上(絶対値が20mV以上)になり、常にチタン水酸化物はマイナス、アルミナ水和物粒子はプラスに帯電して、互いに強固に結合することができるからである。すなわち、上記したpHの範囲にすることで、アルミナ水和物粒子表面にチタン水酸化物がプラス・マイナスの関係で互いに強く引き合うので効率的且つ強固にコーティングすることができる。
【0039】
コーティング工程の操作においては、下記式2に示すpHを中心にpH変動幅が±0.5以内において、コーティング時間5分〜5時間の範囲内の条件で行うことが更に好ましい。なお、Tは複合担体におけるチタン水酸化物のコーティング量(質量%)である。
【0040】
[式2]
pH=6.0−0.03×T
【0041】
上記pH条件でコーティング工程の操作を行うことで、チタン水酸化物粒子及びアルミナ水和物粒子のゼーター電位の絶対値の合計がほぼ最大値に有効に保持されることになり、アルミナ水和物粒子表面にチタン水酸化物をより強固にコーティングすることができる。上記式2は、チタン水酸化物粒子及びアルミナ水和物粒子のゼーター電位とpHの関係を実測し、両ゼーター電位が有効に正負に隔たる条件を、チタン水酸化物のコーティング量を変数として導き出した関係式である。
【0042】
上記したチタン水酸化物のコーティング時間が5分未満であると、大容量のコーティング反応器を用いる場合に所望のpH値に完全に一定に保持することが困難となり、結果としてチタン水酸化物をアルミナ水和物粒子に均一且つ強固にコーティングすることが困難になる。一方、5時間を超えるとアルミナ水和物にコーティングする効率が大幅に低下する。上記した条件でアルミナ水和物粒子表面にコーティングされたチタン水酸化物は、X線回折による分析結果でチタン水和物であるアナタースの結晶構造を示さないところに特徴がある。これについては、後述する焼成工程において詳細に説明する。
【0043】
アルミナ水和物粒子の表面にコーティングされるチタンの水酸化物粒子のコーティング量としては、複合担体全体に対して5〜40質量%の範囲内であるのが好ましく、10〜35質量%の範囲内にすることがより好ましい。コーティング量が5質量%未満では、チタン水酸化物添加の効果が十分発揮されない場合があり、コーティング量が40質量%を超えるとチタン水酸化物同士の凝集が生じ、アルミナ水和物粒子表面に均一にコーティングされない場合がある。
【0044】
[洗浄工程]
アルミナ水和物粒子の表面にチタンの水酸化物の粒子をコーティングした後の反応液には、例えば陽イオンとしてナトリウムイオンやアンモニアイオン、あるいは陰イオンとして硫酸イオンや塩素イオンなどの夾雑イオンが一般に含まれる。したがって、本洗浄工程では、上記コーティング工程で得られた水酸化チタンで被覆されたアルミナ水和物粒子を洗浄する。この洗浄処理により、これら夾雑イオンを除去または低減することができる。洗浄方法としては、吸引ろ過器、オリバーフィルター、加圧ろ過器等を用いて水で洗い流す洗浄・ろ過操作により行うのが好ましい。
【0045】
[成形工程]
次に、上記洗浄工程で得られた水酸化チタンで被覆されたアルミナ水和物粒子に対して成形可能な水分量になるまで脱水処理を行う。この脱水処理は、加圧ろ過、吸引ろ過、遠心ろ過等の機械的な固液分離操作により行うことが一般的であるが、例えば余剰熱を利用して乾燥してもよいし、脱水と乾燥とを組み合わせてもよい。この脱水処理後、例えば成形機を用いて円柱状、クローバー状、円筒状、球状など使用目的に適した形状に成形して、水酸化チタンで被覆されたアルミナ水和物粒子成形体を得る。
【0046】
[焼成工程]
この焼成工程は、上記成形工程で得られた水酸化チタンで被覆されたアルミナ水和物粒子成形体を焼成して水酸化チタンを酸化チタンに変化させてチタニアで被覆された担体を作製する工程である。焼成する際の雰囲気温度は100〜600℃の範囲内が好ましく、120〜500℃の範囲内がより好ましい。この雰囲気温度が100℃未満では、焼成に時間がかかり過ぎるので実用的でなくなる。また、600℃を超えるとアナタースの結晶形が観測されるようになり、チタニアのコーティングが不均一になる。なお、上記の方法でアルミナにチタニアを被覆して得た担体の特徴として、基材であるアルミナ水和物粒子の比表面積よりもチタニアで被覆させた担体の比表面積の方が大きくなる傾向がある。
【0047】
既述の通り、上記の方法でアルミナ水和物の表面にコーティングされたチタン水酸化物は、X線回折による分析結果で、アナタースの結晶構造を示さないところに特徴がある。一般のX線回折装置によりアナタースのメインピーク2θ=25.3゜近傍が検出される場合には、チタニアの凝集体が存在していることを示しており、コーティングが最適に行われたとはいえない。しかしながら、このピークが検出されない場合には、アルミナ水和物粒子の表面にチタン水酸化物が強固且つ均一にコーティングされていると考えられ、更に、チタン水酸化物の結晶格子面の繰り返し長さが、50Å以下になっていることが示唆される。
【0048】
一方、上記した条件から外れてコーティングされた場合のチタン水酸化物については、X線回折による分析結果で、チタン水和物であるアナタースの結晶構造を示す蓋然性が高く、また強固なコーティングにならない蓋然性も高くなる。例えば、pHを8.0に保持して、チタン水酸化物を酸化物基準で30質量%コーティングした場合、チタン水酸化物及びチタニアコーティングアルミナ水和物粒子の電荷が共にマイナスになるので、互いに反発し合い強固なコーティングが行われにくくなる。
【0049】
[含浸工程]
含浸工程においては、上記の焼成工程で得たチタニアで被覆されたアルミナ担体(以下、チタニア被覆アルミナ担体とも称する)に、触媒金属化合物として周期律表第10族金属化合物を含む水溶液を含浸させる工程である。上記した触媒成分を含有する水溶液の含浸により担持された周期律表第10族金属化合物は、活性金属としてチタニア被覆アルミナ担体に均一且つ安定的に担持されるようにするため、熟成させるのが好ましい。ここで「熟成」とは、触媒成分を含有する水溶液を含浸させた後、その状態で静置しておくことをいう。該熟成の時間としては、10分〜24時間の範囲内が好ましい。
【0050】
[乾燥工程]
次に、触媒成分及び糖類をチタニア被覆アルミナ担体に安定化させるために、上記の含浸工程で触媒成分を含有する水溶液を含浸させたチタニア被覆アルミナ担体を乾燥させる。この場合の乾燥温度としては、100〜500℃の範囲内が好ましい。乾燥後はそのまま加熱を続けて焼成してもよい。乾燥時間としては、0.5〜24時間の範囲内が好ましい。以上の一連の工程からなる操作を行うことにより、高い触媒活性を示す水素化触媒が得られる。
【0051】
3.水素化処理方法
次に、上記した水素化触媒を用いて水素化処理を行う方法について説明する。水素化処理装置は固定床方式が好ましく、その場合の反応条件としては、反応器の構造等による制約をふまえた上で様々な条件に設定することが可能であるが、一般的には液空間速度(LHSV)1〜10hr−1の範囲内、圧力0.3〜15MPaGの範囲内、温度100〜350℃程度の範囲内にすることが好ましい。
【0052】
また、触媒の充填密度(CBD:Compact Bulk Density)としては、0.5〜1.1g/mLの範囲内であることが好ましく、0.5〜1.0g/mLの範囲内であることがより好ましい。充填密度(CBD)が0.5g/mL未満であると触媒の粒子圧壊強度(SCS)が低く(例えば、0.6kg/mm以下)なり、触媒の実用強度以下になる恐れがある。また、1.1g/mLを超えると既存の水素化設備に充填することが難しくなるので、それぞれ好ましくない。
【0053】
ここで充填密度(CBD)は、以下のようにして測定した。まず、篩を用いて30〜80(mesh)の間で分取した触媒を120℃にて3時間乾燥後、約30g採取し、化学天秤で精秤して、内径21mm、容量50mLのガラス製メスシリンダーに充填する。そして、バイブレーターを用いて良くタッピングして、嵩が最小になった時の容積を測定する。充填密度(CBD)は、触媒を精秤して求めた質量を、嵩が最小になった時の容積値で除して求める。
【0054】
上記した本発明の水素化触媒を用いて水素化処理を行う場合、触媒金属の活性化のための前処理として水素還元処理を行うのが好ましい。具体的には、水素化触媒が充填された水素化反応装置に窒素ガスを導入して系内の酸素をパージした後、窒素ガスを水素ガスに切り替えて水素還元処理を行う。これにより、比較的早い段階で水素化触媒の活性を効果的に発現させることが可能になる。
【0055】
このようにして前処理された触媒は、有機ケミカルハイドライド法における芳香族化合物の水素化工程の水素化触媒として機能し、例えば石炭ガス化プロセスのシフト反応装置で製造された水素濃度30〜70vol%程度の合成ガスを芳香族炭化水素と共に導入することで、この芳香族炭化水素を脂肪族環状炭化水素に変換することができる。
【0056】
水素化工程で用いる芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン等を用いることができるが、溶媒を使用せずに液相を維持できる沸点と融点を有するトルエンが好ましい。芳香族化合物の水素化工程で得られた反応生成物は、冷却された後に気液分離されて未反応の水素と副生軽質ガスが分離除去されて貯蔵及び輸送用水素としての水素化芳香族化合物となる。
【実施例】
【0057】
アルミナ基材の表面に酸化チタンがコーティングされた複合担体にニッケルが担持された水素化触媒を用いてトルエンをメチルシクロヘキサンに水素化する実験を行った。具体的には、先ず、80℃に加温された温水を有する容器内に、Al換算で8質量%となる硫酸アルミニウム水溶液を添加し、溶液のpHを2.5とし、次いでその5分後にAl換算で19質量%となるアルミン酸ソーダ水溶液を添加し合成溶液のpHを9とした。次いで、同じ硫酸アルミニウム水溶液を添加して合成溶液のpHを3としてから同じアルミン酸ソーダ水溶液を添加して合成溶液のpHを9とする操作を更に2回繰り返すことにより、Al換算で1.8質量%となるアルミナ水和物粒子のヒドロゾルを得た。
【0058】
次に、上記にて得たヒドロゾルを吸引ろ過し、回収されたゲルに再度水を加えて吸引ろ過を繰り返す洗浄操作により該ヒドロゾルに含まれる夾雑イオンを除去した。得られた洗浄後のアルミナ水和物粒子のヒドロゾルHをAl換算で1.8質量%に調整した後、60℃に保持して、これにまずTi換算濃度が1.7質量%となる硫酸チタン水溶液を連続的に添加して溶液のpHを5.6まで下げ、その時点から、硫酸チタン水溶液の連続添加と同時に8質量%の水酸化ナトリウム水溶液を該ヒドロゾルのpHが5.6±0.1内に保持されるように連続的に添加した。このようにして1時間かけて連続的に該ヒドロゾルに両原料を添加した。これによりアルミナ水和物粒子の表面にチタン水酸化物の粒子がコーティングされた複合ヒドロゾルを得た。
【0059】
次に、上記にて得たチタン水酸化物でコーティングされた複合ヒロドゾルを前述したアルミナ水和物粒子のヒドロゾルHを得たのと同様の方法により洗浄し、夾雑イオンを除去した後、更に吸引ろ過によって押出し成形可能なヒドロゲルの状態まで脱水・調湿した。次いで押出し成形機を用いて、ヒロドゲルを円柱状に成形した。この成形体を120℃の空気雰囲気で3時間乾燥し、更に500℃の空気雰囲気で3時間焼成を行った。以上の操作を経て、直径が1.3mmとなる円柱状の複合担体Aを得た。この複合担体Aに含まれるチタニアの量をICP発光分光分析により測定したところ、酸化物換算でチタニアの含有率は15質量%であった。
【0060】
比較のため、上記した洗浄後のアルミナ水和物粒子のヒドロゾルHに対して、チタン水酸化物で被覆するコーティングを行わないこと以外は上記と同様にして脱水・調湿、成形、乾燥、及び焼成を行ってアルミナ担体Bを得た。更に、比較のため、60℃に加温された温水を有する容器内に、上記したチタン水酸化物のコーティングの際に用いた硫酸チタン水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を、溶液のpHが5.6±0.1内に保持されるようにすべく上記した複合担体Aを作製する場合と同様にして連続添加し、これによりチタン水酸化物のヒドロゾルを得た。以降は上記した複合ヒドロゾルの処理の場合と同様に洗浄から焼成までを行ってチタニア担体Cを得た。上記で得たアルミナ担体Bとチタニア担体Cを粉化した後、チタニアの含有量が15質量%となるようにアルミナ担体Bにチタニア担体Cを均一に混合して混合担体Dを得た。
【0061】
(アスペクト比)
複合担体Aの基材に相当するアルミナ担体Bについて、日立ハイテクノロジーズ製H−9000NARを用いてTEM分析を実施した。TEM分析では100万倍の画像により、アルミナ担体Bが針状体の一次粒子で構成されていることを確認した。形状認識の可能なそれらの針状体50個において、長辺方向と短辺方向の長さを測定した結果、針状体のアスペクト比は約5であった。
【0062】
(X線回折)
複合担体Aと混合担体Dについて、リガク製のX線回折分析装置SmartLab用いて、X線出力40kV、40mA、CuKαをX線源としてX線回折分析を実施した。図1に複合担体Aと混合担体DのX線回折チャートを示す。混合担体Dでは2θ=25.3°にチタニアのアナタース結晶の(101)面に相当するピークが特に高強度で観測されるのに対し、複合担体Aでは、チタニアの含有率が混合担体Dと同等であるにも拘らず、チタニアの該当ピークが全く観測されなかった。
【0063】
(細孔容積とシャープネス度)
複合担体Aの基材に相当するアルミナ担体Bについて、島津製作所製オートポアIV9520形を使用して、測定圧力414MPaまで加圧する水銀圧入法により、細孔容積及び細孔分布を測定した。図2に細孔分布のチャートを示す。アルミナ担体Bの細孔容積は0.64mL/gであった。また、本データから[式1]に従って算出したアルミナ担体Bの細孔径シャープネス度は70%であった。
【0064】
(比表面積)
複合担体Aについて、BET法により分析した比表面積は408m/gであった。
【0065】
次に、上記方法で得た複合担体Aを小分けし、それらの内の1つに対して53.5質量%の硝酸ニッケル水溶液に浸漬させて含浸させた後、そのままの状態で3時間静置させることで熟成させた。その後、120℃の空気雰囲気で3時間乾燥し、更に450℃の空気雰囲気で、3時間焼成を行った。これにより、複合担体Aにニッケルが担持された試料1の水素化触媒を作製した。この試料1の触媒のニッケル担持量をICP発光分光分析により測定したところ、NiO換算で22質量%であった。
【0066】
更に、上記の小分けした複合担体Aの残りに対してそれぞれ硝酸ニッケル水溶液の濃度を様々に変えた以外は上記試料1の場合と同様にしてニッケル担持量がそれぞれ異なる試料2〜4の水素化触媒(NiO換算でのNi担持量10.0質量%(試料2)、7.5質量%(試料3)、5.0質量%(試料4))を作製した。更に比較のため、上記した複合担体Aに代えて、担体としての珪藻土にニッケルがNiO換算で20質量%担持された市販の水素化触媒を試料5として用意した。
【0067】
これら試料1〜4の水素化触媒に対して、水素雰囲気の下、常圧、450℃の条件で15時間保持することで前処理としての水素還元処理を行った。なお、試料5の水素化触媒は予備還元済みであるので上記の水素還元処理は行わなかった。次に、試料1〜5の水素化触媒の各々7.5g(10.7mL)に対して、21.3mLのα−アルミナ(チップトン製、型番1mmφ品)を混合し、それぞれ内径21.2mm、高さ880mmの円筒形状の反応管に充填した。
【0068】
そして、各試料の水素化触媒に対して、設定温度180℃の加圧条件下で100vol%Hの水素雰囲気で15時間水素還元処理を行った。続けて、設定温度140℃の加圧条件下でトルエン/H/N=7.1/14.0/9.0[NL/hr](LHSV(トルエン)として3.2)のガス流量で各水素化触媒に供給してトルエンの水素化を行った。その結果を下記表2に示す。また、トルエン転化率の経時変化を図3に、不純物選択率の比較を図4に示す。なお、試料4の200hr後の欄に記載のデータは、170hr後のデータである。
【0069】
【表2】
【0070】
ここでトルエン転化率は、反応前後の溶液中のトルエン濃度[質量%]から算出し、MCH選択率は、MCH生成量[質量%]/反応したトルエン量[質量%]、不純物選択率は、生成した不純物量(全体)[質量%]/反応したトルエン量[質量%]とした。MCH選択率と不純物選択率の和が100%とならないのは、反応中間体であるメチルシクロヘキセン(MCHのシクロ環のうち一ヶ所が二重結合となったもの)が存在しているためである。
【0071】
上記表2及び図4の結果から、アルミナ基材にチタニアが被覆された複合担体AにニッケルがNiO換算で5.0質量%以上担持された試料1〜4の水素化触媒は、比較例としての試料5の水素化触媒と比較して不純物選択率が約1/3以下に抑えられており、副反応の抑制に優れていることが分かる。
【0072】
また、上記表2及び図3の結果から、アルミナ基材にチタニアが被覆された複合担体AにニッケルがNiO換算で7.5質量%以上担持された試料1〜3の水素化触媒は、トルエン転化率が高くかつトルエン転化率がほとんど変化しておらず、よって活性と安定性が極めて高いことが分かる。一方、珪藻土にニッケルが担持された比較例としての試料5の水素化触媒は、20hr後のトルエン転化率は66.6%とある程度良好な結果が得られたが、200hr後には61.9%まで低下しており、触媒活性が低下していることが分かる。


図1
図2
図3
図4