特許第6458691号(P6458691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許6458691溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法
<>
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000002
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000003
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000004
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000005
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000006
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000007
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000008
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000009
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000010
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000011
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000012
  • 特許6458691-溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6458691
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】溶融ガラス攪拌装置、板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/187 20060101AFI20190121BHJP
【FI】
   C03B5/187
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-181926(P2015-181926)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2016-79087(P2016-79087A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2018年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-209922(P2014-209922)
(32)【優先日】2014年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】民▲辻▼ 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】村上 敏英
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 元之
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6304245(JP,B2)
【文献】 特開2010−100462(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/060372(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/098328(WO,A1)
【文献】 米国特許第2831664(US,A)
【文献】 特表2011−516381(JP,A)
【文献】 特開2016−69217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/18 − 5/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管が垂直方向に配向しており、該主管の上流側と下流側にそれぞれ、枝管として、水平管が接続され、上流側の枝管が主管の下方に接続され、下流側の枝管が主管の上方に接続される構造の溶融ガラス搬送管の主管内で溶融ガラスを撹拌する溶融ガラス撹拌装置であって、
前記溶融ガラス攪拌装置は、回転可能な中心軸と、該中心軸に設けられた攪拌部と、で構成され、
前記攪拌部は、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの上昇流を発生させる第1の攪拌翼と、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの下降流を発生させる第2の攪拌翼と、前記中心軸と同軸をなす、円環形状をしたリング翼と、を含み、
前記撹拌部には、前記中心軸の軸方向に前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼が、それぞれ1つ以上設けられており、かつ、前記中心軸の軸方向における同位置には、前記中心軸の周方向に2つ以上の前記第1の撹拌翼または前記第2の撹拌翼が設けられており、
前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の最大径をD1(mm)とし、前記攪拌部が設置されている部位における前記溶融ガラス搬送管の直径をD2(mm)とし、前記リング翼の外直径をDr(mm)として、下記式(1)および下記式(2)を満たし、
前記上流側の枝管の上端に対し、上方の距離を正とし、下方の距離を負として、
前記リング翼の下端と、前記上流側の枝管の上端と、の距離が、−25mm〜+75mmであり、
前記リング翼の上端と、前記上流側の枝管の上端と、の距離が、0mm超、+100mm以下であり、
前記リング翼は、前記中心軸の軸方向における位置が、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼のうち、いずれか1つと一致しており、前記中心軸の軸方向における位置がリング翼と一致する前記第1の撹拌翼、または、前記第2の撹拌翼を、位置基準として、
前記位置基準が前記第1の撹拌翼の場合、該位置基準の直上には前記第2の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より下方には前記第2の撹拌翼が存在せず、
前記位置基準が前記第2の撹拌翼の場合、該位置基準の直下に前記第1の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より下方には前記第2の撹拌翼が存在せず、
前記中心軸の軸方向において、前記位置基準より上方には、互いに前記位置基準の直近にある前記第1の撹拌翼と、前記第2の撹拌翼と、の中間位置を、撹拌翼の切り替え位置として、該切り替え位置と、前記上流側の枝管の上端と、の距離が、0mm超、+250mm以下であることを特徴とする溶融ガラス撹拌装置。
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.98×D2 (1)
≦ D (2)
【請求項2】
前記切り替え位置と、前記上流側の枝管の上端と、の距離が、0mm超、+150mm以下である、請求項1に記載の溶融ガラス撹拌装置。
【請求項3】
前記位置基準となる撹拌翼を中心として、上下方向にそれぞれ2組以内の第1の撹拌翼および第2の撹拌翼を、撹拌翼の第1群とし、前記第1群に含まれる第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力をF1とし、前記第1群に含まれる第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力をF2として、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の回転速度が5〜100rpmの条件で下記式(3)を満たす、請求項1または2に記載の溶融ガラス撹拌装置。
1.05 ≦ F1/F2 ≦ 1.5 (3)
【請求項4】
前記撹拌翼の第1群よりも上方に位置する第1の撹拌翼および第2の撹拌翼を、撹拌翼の第2群として、前記第2群に含まれる第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力をF3とし、前記第2群に含まれる第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力をF4として、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の回転速度が5〜100rpmの際、F3=F4となる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融ガラス撹拌装置。
【請求項5】
主管が垂直方向に配向しており、該主管の上流側と下流側にそれぞれ、枝管として、水平管が接続され、上流側の枝管が主管の上方に接続され、下流側の枝管が主管の下方に接続される構造の溶融ガラス搬送管の主管内で溶融ガラスを撹拌する溶融ガラス撹拌装置であって、
前記溶融ガラス攪拌装置は、回転可能な中心軸と、該中心軸に設けられた攪拌部と、で構成され、
前記攪拌部は、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの上昇流を発生させる第1の攪拌翼と、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの下降流を発生させる第2の攪拌翼と、前記中心軸と同軸をなす、円環形状をしたリング翼と、を含み、
前記撹拌部には、前記中心軸の軸方向に前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼が、それぞれ1つ以上設けられており、かつ、前記中心軸の軸方向における同位置には、前記中心軸の周方向に2つ以上の前記第1の撹拌翼または前記第2の撹拌翼が設けられており、
前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の最大径をD1(mm)とし、前記攪拌部が設置されている部位における前記溶融ガラス搬送管の直径をD2(mm)とし、前記リング翼の外直径をDr(mm)として、下記式(4)および下記式(5)を満たし、
前記上流側の枝管の下端に対し、上方の距離を正とし、下方の距離を負として、
前記リング翼の上端と、前記上流側の枝管の下端と、の距離が、−75mm〜+25mmであり、
前記リング翼の下端と、前記上流側の枝管の下端と、の距離が、−100mm以上、0mm未満であり、
前記リング翼は、前記中心軸の軸方向における位置が、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼のうち、いずれか1つと一致しており、前記中心軸の軸方向における位置がリング翼と一致する前記第1の撹拌翼、または、前記第2の撹拌翼を、位置基準として、
前記位置基準が前記第1の撹拌翼の場合、該位置基準の直上には前記第2の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より上方には前記第1の撹拌翼が存在せず、
前記位置基準が前記第2の撹拌翼の場合、該位置基準の直下に前記第1の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より上方には前記第1の撹拌翼が存在せず、
前記中心軸の軸方向において、前記位置基準より下方には、互いに前記位置基準の直近にある前記第1の撹拌翼と、前記第2の撹拌翼と、の中間位置を、撹拌翼の切り替え位置として、該切り替え位置と、前記上流側の枝管の下端と、の距離が、−250mm以上、0mm未満であることを特徴とする溶融ガラス撹拌装置。
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.98×D2 (4)
≦ D (5)
【請求項6】
前記切り替え位置と、前記上流側の枝管の下端と、の距離が、−150mm以上、0mm未満である、請求項5に記載の溶融ガラス撹拌装置。
【請求項7】
前記位置基準となる撹拌翼を中心として、上下方向にそれぞれ2組以内の第1の撹拌翼および第2の撹拌翼を、撹拌翼の第1群とし、前記第1群に含まれる第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力をF1とし、前記第1群に含まれる第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力をF2として、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の回転速度が5〜100rpmの条件で下記式(6)を満たす、請求項5または6に記載の溶融ガラス撹拌装置。
1.05 ≦ F2/F1 ≦ 1.5 (6)
【請求項8】
前記撹拌翼の第1群よりも下方に位置する第1の撹拌翼および第2の撹拌翼を、撹拌翼の第2群として、前記第2群に含まれる第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力をF3とし、前記第2群に含まれる第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力をF4として、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の回転速度が5〜100rpmの際、F3=F4となる、請求項5〜7のいずれか一項に記載の溶融ガラス撹拌装置。
【請求項9】
前記リング翼の厚みをtr(mm)として、該trと、前記リング翼の外直径Drと、が下記式(7)を満たす、請求項1〜8のいずれか一項に記載の溶融ガラス撹拌装置。
0.001×Dr ≦ tr ≦ 0.5×Dr (7)
【請求項10】
板ガラス成形装置、ガラス溶解装置、および、前記ガラス溶解装置と前記板ガラス成形装置との間に設けられた溶融ガラス搬送管を有する板ガラス製造装置であって、
前記溶融ガラス搬送管に、請求項1〜9のいずれか一項に記載の溶融ガラス攪拌装置が少なくとも1つ設けられた板ガラス製造装置。
【請求項11】
前記ガラス溶解装置と、前記板ガラス成形装置と、の間に設けられた清澄装置をさらに有し、前記溶融ガラス搬送管が、前記ガラス溶解装置と前記清澄装置との間に設けられた第1の溶融ガラス搬送管と、前記清澄装置と前記板ガラス成形装置との間に設けられた第2の溶融ガラス搬送管と、を有し、少なくとも、前記第1の溶融ガラス搬送管に、前記溶融ガラス攪拌装置が設けられている、請求項10に記載の板ガラス製造装置。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の溶融ガラス攪拌装置を用いた溶融ガラス攪拌方法。
【請求項13】
請求項10または11に記載の板ガラス製造装置を用いた板ガラス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスを搬送する溶融ガラス搬送管内、特に、大型のフラットパネルディスプレイ(FPD)用のような、溶融ガラスの搬送量が多い溶融ガラス搬送管内で溶融ガラスを攪拌する溶融ガラス攪拌装置、該溶融ガラス攪拌装置を用いた板ガラス製造装置、溶融ガラス攪拌方法、および板ガラス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶融ガラスの均質性を向上させる目的で、溶融ガラスを搬送する溶融ガラス搬送管内に攪拌装置を取り付け、溶融ガラスを攪拌することが行われている。溶融ガラスの均質性は、生産されるガラスの透明性、厚さ等に大きく影響する。
攪拌装置は、一般的に回転中心となる中心軸とその周囲に取り付けられた攪拌翼を有する攪拌部から構成される。
【0003】
搬送される溶融ガラスを充分に均質化するためには、溶融ガラス搬送管内を通過する溶融ガラスを攪拌装置により攪拌する際に、攪拌装置内を溶融ガラスがすり抜ける現象、いわゆる「すり抜け」を防止する必要がある。撹拌装置で撹拌される前の溶融ガラスには、溶解装置で溶融される際にガラスの成分が充分に均質化されていない、いわゆる「不均質ガラス」が多く含まれていたり、溶解装置もしくは溶融ガラス搬送管を構成する煉瓦や気相との反応などにより溶融ガラスの成分とは異なった成分となったいわゆる「異質成分」が多く含まれている。これら「不均質ガラス」や「異質成分」は撹拌装置内ですり抜けて充分に均質化されず製品となって溶融ガラスが固化しガラス製品となった場合、いわゆるリームという不透明な筋状の欠点となる。つまり、溶融ガラスを均質化するためには、すり抜けを抑制し、溶融ガラスを充分に攪拌することにより、溶融ガラス中に異質成分を拡散させる必要がある。
【0004】
特許文献1には、流路の壁面に沿って攪拌されずにすり抜ける溶融ガラスを減ずる目的で、該壁面と攪拌翼との間隔を狭めるための攪拌翼の最外側に複数の凸部を配した攪拌装置が提案されている。しかし、この攪拌装置は流路の壁面付近でのすり抜けの抑制はまだ乏しい。
【0005】
特許文献2に開示の攪拌装置は、溶融ガラスの均質性を向上する目的で、中心軸の周囲に取り付けられる攪拌翼を、回転半径が各々異なる長攪拌翼および短攪拌翼とし、該長攪拌翼および該短攪拌翼を各々2枚以上交互に取り付けることが記載されている。しかし、この攪拌装置であっても、流路の壁面付近でのすり抜け抑制効果はまだ充分とは言えない。
【0006】
特許文献1,2に開示の攪拌装置のように、回転中心となる中心軸の周囲に撹拌翼が設けられた構造の撹拌装置は、撹拌装置の構造上、垂直方向に配向する溶融ガラス搬送管内に設置される。該溶融ガラス搬送管の上流側と下流側には、それぞれ、水平方向に配向する枝管が接続されている。しかしながら、このような構造の溶融ガラス搬送管に設置された撹拌装置では、溶融ガラス搬送管の壁面近傍で溶融ガラスのすり抜けが起こりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2001−72426号公報
【特許文献2】日本国特開2003−63829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、特に大型のFPD用のガラス基板には、未融解原料の混在がなく、透明性が高く、平坦度の高いガラスが要求され、欠点の少ない均質性の高いガラスが求められるようになった。
また、光学用レンズ、光通信用ファイバ、光学フィルタ、太陽電池用基板、蛍光管といった高い透明性が要求される用途のガラスにおいても高い均質性が要求される。
これらのようなきわめて高い均質性が要求される場合、従来の攪拌装置では溶融ガラスの充分な均質性を得ることが難しくなってきた。
【0009】
上記した問題点を解決するため、本発明は、攪拌装置内での溶融ガラスのすり抜け、より具体的には、溶融ガラス搬送管の壁面近傍での溶融ガラスのすり抜けを抑制することができ、かつ、溶融ガラス搬送管内での溶融ガラスの攪拌作用に優れたガラス攪拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の目的を達成するため、主管が垂直方向に配向しており、該主管の上流側と下流側にそれぞれ、枝管として、水平管が接続され、上流側の枝管が主管の下方に接続され、下流側の枝管が主管の上方に接続される構造の溶融ガラス搬送管の主管内で溶融ガラスを撹拌する溶融ガラス撹拌装置であって、
前記溶融ガラス攪拌装置は、回転可能な中心軸と、該中心軸に設けられた攪拌部と、で構成され、
前記攪拌部は、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの上昇流を発生させる第1の攪拌翼と、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの下降流を発生させる第2の攪拌翼と、前記中心軸と同軸をなす、円環形状をしたリング翼と、を含み、
前記撹拌部には、前記中心軸の軸方向に前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼が、それぞれ1つ以上設けられており、かつ、前記中心軸の軸方向における同位置には、前記中心軸の周方向に2つ以上の前記第1の撹拌翼または前記第2の撹拌翼が設けられており、
前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の最大径をD1(mm)とし、前記攪拌部が設置されている部位における前記溶融ガラス搬送管の直径をD2(mm)とし、前記リング翼の外直径をDr(mm)として、下記式(1)および下記式(2)を満たし、
前記上流側の枝管の上端に対し、上方の距離を正とし、下方の距離を負として、
前記リング翼の下端と、前記上流側の枝管の上端と、の距離が、−25mm〜+75mmであり、
前記リング翼の上端と、前記上流側の枝管の上端と、の距離が、0mm超、+100mm以下であり、
前記リング翼は、前記中心軸の軸方向における位置が、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼のうち、いずれか1つと一致しており、前記中心軸の軸方向における位置がリング翼と一致する前記第1の撹拌翼、または、前記第2の撹拌翼を、位置基準として、
前記位置基準が前記第1の撹拌翼の場合、該位置基準の直上には前記第2の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より下方には前記第2の撹拌翼が存在せず、
前記位置基準が前記第2の撹拌翼の場合、該位置基準の直下に前記第1の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より下方には前記第2の撹拌翼が存在せず、
前記中心軸の軸方向において、前記位置基準より上方には、互いに前記位置基準の直近にある前記第1の撹拌翼と、前記第2の撹拌翼と、の中間位置を、撹拌翼の切り替え位置として、該切り替え位置と、前記上流側の枝管の上端と、の距離が、0mm超、+250mm以下であることを特徴とする溶融ガラス撹拌装置[1]、を提供する。
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.98×D2 (1)
r ≦ D1 (2)
【0011】
また、本発明は、主管が垂直方向に配向しており、該主管の上流側と下流側にそれぞれ、枝管として、水平管が接続され、上流側の枝管が主管の上方に接続され、下流側の枝管が主管の下方に接続される構造の溶融ガラス搬送管の主管内で溶融ガラスを撹拌する溶融ガラス撹拌装置であって、
前記溶融ガラス攪拌装置は、回転可能な中心軸と、該中心軸に設けられた攪拌部と、で構成され、
前記攪拌部は、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの上昇流を発生させる第1の攪拌翼と、長軸が前記中心軸と直交する板状体からなり、前記主管内の溶融ガラスの下降流を発生させる第2の攪拌翼と、前記中心軸と同軸をなす、円環形状をしたリング翼と、を含み、
前記撹拌部には、前記中心軸の軸方向に前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼が、それぞれ1つ以上設けられており、かつ、前記中心軸の軸方向における同位置には、前記中心軸の周方向に2つ以上の前記第1の撹拌翼または前記第2の撹拌翼が設けられており、
前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼の最大径をD1(mm)とし、前記攪拌部が設置されている部位における前記溶融ガラス搬送管の直径をD2(mm)とし、前記リング翼の外直径をDr(mm)として、下記式(4)および下記式(5)を満たし、
前記上流側の枝管の下端に対し、上方の距離を正とし、下方の距離を負として、
前記リング翼の上端と、前記上流側の枝管の下端と、の距離が、−75mm〜+25mmであり、
前記リング翼の下端と、前記上流側の枝管の下端と、の距離が、−100mm以上、0mm未満であり、
前記リング翼は、前記中心軸の軸方向における位置が、前記第1の撹拌翼および前記第2の撹拌翼のうち、いずれか1つと一致しており、該前記中心軸の軸方向における位置がリング翼と一致する前記第1の撹拌翼、または、前記第2の撹拌翼を、位置基準として、
前記位置基準が前記第1の撹拌翼の場合、該位置基準の直上には前記第2の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より上方には前記第1の撹拌翼が存在せず、
前記位置基準が前記第2の撹拌翼の場合、該位置基準の直下に前記第1の撹拌翼が位置しており、かつ、前記位置基準より上方には前記第1の撹拌翼が存在せず、
前記中心軸の軸方向において、前記位置基準より下方には、互いに前記位置基準の直近にある前記第1の撹拌翼と、前記第2の撹拌翼と、の中間位置を、撹拌翼の切り替え位置として、該切り替え位置と、前記上流側の枝管の下端と、の距離が、−250mm以上、0mm未満以上であることを特徴とする溶融ガラス撹拌装置[2]、を提供する。
0.7×D21 ≦ 0.98×D2 (4)
r ≦ D1 (5)
【0012】
また、本発明は、板ガラス成形装置、ガラス溶解装置、および、前記ガラス溶解装置と前記板ガラス成形装置との間に設けられた溶融ガラス搬送管を有する板ガラス製造装置であって、
前記溶融ガラス搬送管に、本発明の溶融ガラス攪拌装置[1]または[2]が少なくとも1つ設けられた板ガラス製造装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、本発明の溶融ガラス攪拌装置を用いた溶融ガラス攪拌方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、本発明の板ガラス製造装置を用いた板ガラス製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶融ガラス攪拌装置は、攪拌装置内での溶融ガラスのすり抜け、より具体的には、溶融ガラス搬送管壁面近傍での溶融ガラスのすり抜けを抑制することができ、溶融ガラス搬送管内での溶融ガラスの攪拌作用に優れており、攪拌後の溶融ガラスの均質性に優れていることから、特に大型(例えば、一辺が2m以上)のFPD用ガラス基板等に適した均質性の高いガラスを得ることができる。その結果、未融解原料の混在がなく、透明性が高く、平坦度の高いガラスが得られる。
また、本発明の溶融ガラス攪拌装置は、攪拌後の溶融ガラスの均質性に優れていることから、光学用レンズ、光通信用ファイバ、光学フィルタ、太陽電池用基板、蛍光管といった高い透明性もしくは高い光学的均質性が要求される用途のガラス製造装置の溶融ガラス攪拌装置としても好適である。また、高い色調均質性が要求される装飾用色ガラス用のガラス製造装置の溶融ガラス撹拌装置としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の溶融ガラス攪拌装置の一構成例を示した側面図である。
図2図2は、本発明の溶融ガラス攪拌装置の別の一構成例を示した側面図である。
図3図3は、本発明の溶融ガラス攪拌装置10aを、溶融ガラス搬送管内に配置した状態で示した図である。
図4図4は、図3と同様の図である。但し、本発明の溶融ガラス攪拌装置の構成が図3とは異なっている。
図5図5は、撹拌翼の第1群16に含まれる第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力をF1と、撹拌翼の第1群16に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力をF2と、比(F1/F2)を求める際に使用するモデル試験装置の一構成例を示した図である。
図6図6は、図3と同様の図である。但し、溶融ガラス搬送管内には従来技術の溶融ガラス撹拌装置が配置されている。
図7図7は、図3と同様の図である。但し、溶融ガラス搬送管内にはリング翼を持たない溶融ガラス撹拌装置が配置されている。
図8図8は、図3と同様の図である。但し、本発明の溶融ガラス攪拌装置の構成が図3とは異なっている。
図9図9は、図3と同様の図である。但し、リング翼の配置が本発明の溶融ガラス攪拌装置の構成要件を満たしていない。
図10図10は、図3と同様の図である。但し、本発明の溶融ガラス攪拌装置の構成が図3とは異なっている。
図11図11は、図3と同様の図である。但し、本発明の溶融ガラス攪拌装置の構成が図3とは異なっている。
図12図12は、図3と同様の図である。但し、本発明の溶融ガラス攪拌装置の構成が図3とは異なっている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の溶融ガラス攪拌装置について説明する。
【0018】
図1は、本発明の溶融ガラス攪拌装置の一構成例を示した側面図である。
図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aは、回転可能な中心軸11を有し、該中心軸11の下端部に攪拌部12が設けられている。
攪拌部12は、第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14、および、リング翼15で構成されている。
【0019】
攪拌部12のうち、溶融ガラスを攪拌する機能を担うのが第1の攪拌翼13、および、第2の撹拌翼14である。溶融ガラスを攪拌する機能を向上させるため、撹拌部12には、第1の撹拌翼13、および、第2の撹拌翼14が複数設けられている。具体的には、中心軸11の軸方向には、第1の撹拌翼13、および、第2の撹拌翼14が、それぞれ1つ以上設けられており、かつ、中心軸11の軸方向における同位置には、中心軸11の周方向に第1の撹拌翼13、または、第2の撹拌翼14が2つ以上設けられる。図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aの場合、中心軸11の軸方向において、上下方向に間隔を空けて3組の第1の撹拌翼13が設けられており、第1の撹拌翼13より上方には、上下方向に間隔を空けて3組の第2の撹拌翼14が設けられている。なお、図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aでは、第2の撹拌翼14が、第1の撹拌翼13より上側に全て設けられているが、後述する条件を満たす限り、第1の撹拌翼13より下方に第2の撹拌翼14が設けられていてもよい。
図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aでは、中心軸11の軸方向における同位置には、中心軸11の周方向に間隔を空けて、第1の撹拌翼13、および、第2の撹拌翼14がそれぞれ4つずつ設けられている。
中心軸11の軸方向における位置が互いに異なる第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14は、中心軸11の周方向における向きが異なっていてもよい。図2は、本発明の溶融ガラス攪拌装置の別の一構成例を示した側面図である。図2に示す溶融ガラス攪拌装置10bでは、中心軸11の軸方向における位置が互いに異なる第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14は、中心軸11の周方向における向きが異なっている。
なお、撹拌部12における第1の撹拌翼13、および、第2の撹拌翼14の数はこれに限定されず、中心軸11の軸方向における第1の撹拌翼13、および、第2の撹拌翼14の数は、それぞれ2組以下であってよく、4組以上であってもよい。また、中心軸11の周方向における第1の撹拌翼13、および、第2の撹拌翼14の数は3以下であってもよく、5以上であってもよい。但し、中心軸11の軸方向における第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の数が増加すると、撹拌部12を回転させるのに必要なトルクが増加するため、中心軸11の軸方向における第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の合計数は、8組以下であることが好ましい。中心軸11の周方向における第1の撹拌翼13または第2の撹拌翼14の数についても、同様の理由から8以下が好ましい。
【0020】
中心軸11の軸方向における同位置において、中心軸11の周方向に2以上の配置する第1の撹拌翼13または第2の撹拌翼14は、互いに等間隔に配置することが好ましい。第1の撹拌翼13または第2の撹拌翼14同士の間隔が等間隔でないと、溶融ガラスを均一に撹拌できないおそれがある。一方、中心軸11の軸方向については、各撹拌翼(第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14)は互いに等間隔に配置してもよいし、互いの間隔が等間隔ではなくてもよい。但し、中心軸11の軸方向において、各撹拌翼(第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14)間の距離が小さいと、溶融ガラスの撹拌作用が低下するおそれがある。このため、中心軸11の軸方向における各撹拌翼(第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14)間の距離は、40mm以上であることが好ましく、50mm以上であることがより好ましく、60mm以上であることがさらに好ましい。
一方、中心軸11の軸方向における各撹拌翼(第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14)間の距離が大きい場合も、溶融ガラスの撹拌作用が低下する。このため、中心軸11の軸方向における各撹拌翼(第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14)間の距離は、200mm以下であることが好ましく、150mm以下であることがより好ましく、120mm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
第1の攪拌翼13、および、第2の撹拌翼14は、長軸が中心軸11と直交する板状体からなる。第1の攪拌翼13、および、第2の撹拌翼14をなす板状体は、その短軸が中心軸11に対し傾斜しており、撹拌部12を回転させた際に、溶融ガラスの上昇流、または、下降流を発生させる。詳しくは後述するが、第1の撹拌翼13をなす板状体は、撹拌部12を所定の方向に回転させた際に、溶融ガラスの上昇流を発生させるように、その短軸が傾斜している。第2の撹拌翼14をなす板状体は、撹拌部12を所定の方向に回転させた際に、溶融ガラスの下降流を発生させるように、その短軸が傾斜している。このため、第1の撹拌翼13をなす板状体、および、第2の撹拌翼14をなす板状体は、その短軸が、中心軸11に対して、互いに逆向きに傾斜している。そして、撹拌部12を構成する全ての第1の撹拌翼13は、第1の撹拌翼13をなす板状体の短軸が全て、中心軸11に対して同一方向に傾斜している。撹拌部12を構成する全ての第2の撹拌翼14は、第2の撹拌翼14をなす板状体の短軸が全て、中心軸11に対して同一方向に傾斜している。
第1の撹拌翼13をなす板状体の短軸と、中心軸11と、がなす角度αは、0°超、90°未満であり、30°〜60°であることが好ましい。第2の撹拌翼14がなす板状体の短軸と、中心軸11と、がなす角度βは、0°超、90°未満であり、30°〜60°であることが好ましい。
撹拌部12を構成する全ての第1の撹拌翼13は、第1の撹拌翼13をなす板状体の短軸と、中心軸11と、がなす角度αがほぼ同一であることが好ましい。具体的には、撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13における、第1の撹拌翼13をなす板状体の短軸と、中心軸11と、がなす角度αの最大値と最小値との差が20°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。
撹拌部12を構成する全ての第2の撹拌翼14は、第2の撹拌翼14をなす板状体の短軸と、中心軸11と、がなす角度βがほぼ同一であることが好ましい。具体的には、撹拌部12を構成する第2の撹拌翼14における、第2の撹拌翼14をなす板状体の短軸と、中心軸11と、がなす角度βの最大値と最小値との差が20°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。
【0022】
撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14のうち、中心軸11の軸方向における位置が同位置の撹拌翼、すなわち、中心軸11の軸方向における位置が同位置の第1の撹拌翼13または第2の撹拌翼14は、第1の撹拌翼13または第2の撹拌翼14をなす板状体の寸法、すなわち、板状体の長軸方向の長さ、短軸方向の長さ、および、厚みが同一であることが求められる。中心軸11の軸方向における位置が同位置の撹拌翼をなす板状体の寸法(長軸方向の長さ、短軸方向の長さ、および、厚み)が互いに異なっていると、溶融ガラスを均一に撹拌できないおそれがあるからである。一方、中心軸11の軸方向における位置が互いに異なる第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14については、撹拌翼をなす板状体の寸法(長軸方向の長さ、短軸方向の長さ、および、厚み)が互いに異なっていてもよい。
【0023】
撹拌部12のうち、リング翼15は、溶融ガラス攪拌装置10a内での溶融ガラスのすり抜けを抑制する機能、より具体的には、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管壁面近傍での溶融ガラスのすり抜けを抑制する機能を担う。
【0024】
リング翼15は、円環形状であり、中心軸11と同軸をなしている。
溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管におけるリング翼15の位置が、後述する条件を満たす場合、撹拌部12を所定の方向に回転させた際に、リング翼15、溶融ガラス搬送管の壁面との間に下流に向かう流れをせき止める効果が生じる。そのため、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管壁面近傍の溶融ガラスが、リング翼15の内側に誘導されることにより、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管壁面近傍での溶融ガラスのすり抜けが抑制される。
なお、円環形状をしたリング翼15の外面および内面のうち、少なくとも一方には、撹拌作用を高めるために、周方向に伸びる凹状の溝が形成されていてもよい。
【0025】
本発明の溶融ガラス攪拌装置10aでは、撹拌部12に設けられたリング翼15の中心軸11の軸方向における位置が、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14のうち、いずれか1つと一致している。図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aでは、リング翼15の中心軸11の軸方向における位置が、撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13のうち、もっとも上方にある第1の撹拌翼13と一致している。但し、撹拌部における第1の撹拌翼および第2の撹拌翼の構成によっては、リング翼の中心軸の軸方向における位置は、第2の撹拌翼と一致していてもよい。
本発明では、中心軸の軸方向における位置が、リング翼と一致する第1の撹拌翼または第2の撹拌翼を位置基準とする。図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aの場合、リング翼15の中心軸11の軸方向における位置が一致している第1の撹拌翼13を位置基準とする。
【0026】
図3は、図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aを、溶融ガラス搬送管内に配置した状態で示した図である。図3において、溶融ガラス搬送管の主管100内に溶融ガラス撹拌装置10aが配置されている。垂直方向に配向する主管100の上流側および下流側には、それぞれ、枝管として水平管110,120が接続される。上流側の枝管110は、主管100の下方に接続され、下流側の枝管120は、主管100の上方に接続される。そのため、溶融ガラス撹拌装置10aが配置された主管100内では、溶融ガラスGが上向きに流れる。
図3において、下端部に撹拌部12が設けられた中心軸11を矢印方向に回転させた際に、第1の攪拌翼13が溶融ガラスの上昇流を発生させ、第2の撹拌翼14が溶融ガラスの下降流を発生させる。
【0027】
図3において、溶融ガラス攪拌装置10aは、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径をD1(mm)とし、溶融ガラス攪拌装置10aの攪拌部12が設置されている部位における溶融ガラス搬送管(主管100)の直径(内径)をD2(mm)とし、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12を構成するリング翼15の外直径をDr(mm)とするとき、下記式(1)および下記式(2)を満たす。
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.98×D2 (1)
r ≦ D1 (2)
ここで、撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13の最大径と、第2の撹拌翼14の最大径と、が異なる場合、いずれか最大径が大きい方をD1とする。また、撹拌部12を構成する、個々の第1の撹拌翼13の最大径が異なる場合(もしくは、個々の第2の撹拌翼14の最大径が異なる場合)、いずれか最大径が大きいものをD1とする。
【0028】
1が0.98×D2より大きい場合、溶融ガラスの撹拌時において、溶融ガラス攪拌装置10aが配置された溶融ガラス搬送管、すなわち、主管100の壁面に接触し、白金材料製の溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面を損傷するおそれがある。
一方、D1が0.7×D2より小さい場合、溶融ガラス攪拌装置10aが配置された溶融ガラス搬送管、すなわち、主管100の壁面との間で生じる流れのせき止めが少なく、主管100の壁面近傍を通過する溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。
上記D1および上記D2は、下記式(1a)を満たすことがより好ましく、下記式(1b)を満たすことがさらに好ましい。
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.96×D2 (1a)
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.94×D2 (1b)
なお、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径をD1(mm)としたが、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14のいずれの径もが、式(1)、式(1a)、または式(1b)を満たすことがより好ましい。
【0029】
図1、3に示す溶融ガラス攪拌装置10aでは、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径D1と、リング翼15の外直径Drと、が一致している。ここで、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14のうち、上記で定義した位置基準となる第1の撹拌翼13以外は、その最大径がリング翼15の外直径Drと一致している。なお、上記で定義した位置基準となる第1の撹拌翼13は、その構成上、リング翼15の厚みの分だけ、リング翼15の外直径Drよりも最大径が小さくなる。
図1、3に示す溶融ガラス攪拌装置10aにおいて、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14のうち、上記で定義した位置基準となる第1の撹拌翼13以外の最大径を、リング翼15の外直径Drより大きくしてもよい。この場合、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径D1は、リング翼15の外直径Drよりも大きくなる。
一方、リング翼15の外直径Drを、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12を構成する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径D1よりも大きくするのは不可である。その理由は、溶融ガラスの撹拌時において、溶融ガラス攪拌装置10aが配置された溶融ガラス搬送管の壁面に与える作用は、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14よりも、リング翼15のほうが大きく、局所的に大きな力がかかることになるため、白金材料製の溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面を損傷するおそれがあるからである。
リング翼15の外直径Drは、溶融ガラス攪拌装置10aの攪拌部12が設置されている部位における溶融ガラス搬送管(主管100)の直径(内径)D2(mm)と、の関係で下記式を満たすことが好ましい。
0.7×D2 ≦ Dr
【0030】
円環形状をしたリング翼15は、撹拌部12で溶融ガラスを撹拌する際に、破損することがないだけの強度が必要である。これを満たすため、リング翼15には、最低限必要な厚みがある。但し、リング翼15の厚みが大きくなると、撹拌部12を所定の方向に回転させた際に、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が低下するうえ、撹拌部12が設置された部位における溶融ガラスの流速が大きくなり、溶融ガラスの撹拌作用が低下する。
そのため、リング翼15の厚みをtr(mm)とするとき、該trと、前記リング翼15の外直径Drと、が下記式(7)を満たすことが好ましい。
0.001×Dr ≦ tr ≦ 0.5×Dr (7)
リング翼15の厚みtrが0.5×Drより大きくなると、撹拌部12を所定の方向に回転させた際に、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が低下するうえ、撹拌部12が設置された部位における溶融ガラスの流速が大きくなり、溶融ガラスの撹拌作用が低下する。リング翼15の厚みtrが0.001×Drより小さいと、撹拌部12で溶融ガラスを撹拌する際に、リング翼15が破損するおそれがある。
なお、リング翼15の厚みtrとは、円環形状の径方向における厚み、すなわち、リング翼15の(外直径−内直径)/2である。
リング翼15の厚みtrと、リング翼15の外直径Drと、が下記式(7b)を満たすことがより好ましい。
0.01×Dr ≦ tr ≦ 0.1×Dr (7b)
【0031】
上述したように、本発明の溶融ガラス攪拌装置10aでは、撹拌部12に設けられたリング翼15の中心軸11の軸方向における位置が、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14のうち、いずれか1つ(位置基準)と一致している。このため、リング翼15の高さは、位置基準となる第1の撹拌翼13または第2の撹拌翼14(図1に示す溶融ガラス攪拌装置10aの場合、第1の撹拌翼13)の高さと実質同一である。
【0032】
本発明の溶融ガラス攪拌装置10aは、図3における上流側の枝管110の上端に対し、上方の距離を正とし、下方の距離を負とするとき、リング翼15の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離が、−25mm〜+75mmである。以下、本明細書において、図3における上流側の枝管110の上端と、本発明の溶融ガラス攪拌装置10aの構成要素と、の距離を示す場合、上記と同じ正・負の関係となる。
リング翼15の下端と、上流側の枝管110の上端との距離が−25mmより小さい値である場合、すなわち、リング翼15の下端が、上流側の枝管110の上端より25mm以上下方にある場合、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。また、リング翼15の下端と、上流側の枝管110の上端との距離が+75mmより大きい場合、すなわち、リング翼15の下端が、上流側の枝管110の上端より75mm以上上方にある場合、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。
本発明の溶融ガラス攪拌装置10aは、リング翼15の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離が、0mm〜+50mmであることが好ましい。
【0033】
また、本発明の溶融ガラス攪拌装置10aは、リング翼15の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離が、0mm超、+100mm以下である。
リング翼15の上端と、上流側の枝管110の上端との距離が0mm以下の場合、すなわち、リング翼15の上端が、上流側の枝管110の上端と同一の高さであるか、または、上流側の枝管110の上端より下方にある場合、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。また、リング翼15の上端と、上流側の枝管110の上端との距離が+100mmより大きい場合、すなわち、リング翼15の上端が、上流側の枝管110の上端より100mm以上上方にある場合、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。
本発明の溶融ガラス攪拌装置10aにおいて、リング翼15の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離が、0mm超、+50mm以下であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の溶融ガラス攪拌装置では、位置基準が第1の撹拌翼13の場合と、位置基準が第2の撹拌翼の場合と、で、撹拌部12を構成する他の撹拌翼の配置が異なる。図1、3に示す溶融ガラス撹拌装置10aは、位置基準が第1の撹拌翼13であるが、この場合、図1、3に示すように、位置基準の直上には第2の撹拌翼14が位置しており、かつ、位置基準より下方には第2の撹拌翼14が存在しない。位置基準の直上に第1の撹拌翼13が位置している場合や、位置基準より下方に第2の撹拌翼14が存在している場合は、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。なお、位置基準の直上に第2の撹拌翼14が位置しており、かつ、位置基準より下方に第2の撹拌翼14が存在しなければよく、位置基準よりさらに上側には、第1の撹拌翼13が位置してもよい。
【0035】
図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cは、撹拌部12における第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の配置が、図1、3に示す溶融ガラス撹拌装置10aとは異なっている。図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cは、中心軸11の軸方向において、下側から順に、上下方向に間隔を空けて、2組の第1の撹拌翼13、2組の第2の撹拌翼14、2組の第1の撹拌翼13、および、2組の第2の撹拌翼14が設けられている。リング翼15の中心軸の軸方向における位置は、もっとも下側にある第2の撹拌翼14と一致している。
図4に示す溶融ガラス攪拌装置10cの場合、リング翼15の中心軸11の軸方向における位置が一致している第2の撹拌翼14を位置基準とする。
なお、図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cの場合も、中心軸11の軸方向における同位置には、中心軸11の周方向に間隔を空けて、第1の撹拌翼13、および、第2の撹拌翼14がそれぞれ4つずつ設けられている。
図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cのように、位置基準が第2の撹拌翼14の場合、該位置基準の直下に第1の撹拌翼13が位置しており、かつ、位置基準より下方には第2の撹拌翼14が存在しない。位置基準の直下に第2の撹拌翼14が位置している場合や、位置基準より下方に第2の撹拌翼14が存在している場合は、溶融ガラス攪拌装置10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。なお、位置基準の直下に第1の撹拌翼13が位置しており、かつ、位置基準より下方に第2の撹拌翼14が存在しなければよく、位置基準より上側に第2の撹拌翼14が位置してもよい。
【0036】
したがって、図1,3に示す溶融ガラス撹拌装置10aのように、位置基準が第1の撹拌翼13の場合と、図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cのように、位置基準が第2の撹拌翼14の場合のいずれの場合も、位置基準となる撹拌翼の直近には、撹拌翼をなす板状体の短軸の向きが位置基準とは逆向きの撹拌翼が位置している。すなわち、図1,3に示す溶融ガラス撹拌装置10aのように、位置基準が第1の撹拌翼13の場合、該第1の撹拌翼13の直上に第2の撹拌翼14が位置している。また、図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cのように、位置基準が第2の撹拌翼14の場合、該第2の撹拌翼14の直下に第1の撹拌翼13が位置している。このような配置とすることにより、リング翼15の下方と上方では、互いに逆向きの溶融ガラスの流れが形成される。すなわち、リング翼15の下方では溶融ガラスの上昇流が形成され、リング翼15の上方では溶融ガラスの下降流が形成される。これにより、溶融ガラス攪拌装置10aまたは10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が促進される。その結果、溶融ガラス攪拌装置10aまたは10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けが抑制される。
位置基準が第1の撹拌翼13であって、位置基準の直上に第1の撹拌翼13が位置している場合は、リング翼15の上方で溶融ガラスの下降流が形成されないため、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が促進されない。そのため、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けが抑制できない。位置基準が第2の撹拌翼14であって、位置基準の直下に第2の撹拌翼14が位置している場合は、リング翼15の下方で溶融ガラスの上昇流が形成されないため、溶融ガラス攪拌装置10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が促進されない。そのため、溶融ガラス攪拌装置10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けが抑制できない。位置基準が第1の撹拌翼13、第2の撹拌翼14のいずれかであっても、位置基準より下方に第2の撹拌翼14が存在している場合は、リング翼15の下方での溶融ガラスの上昇流の形成が不充分になる。そのため、溶融ガラス攪拌装置10aまたは10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。
【0037】
本発明の溶融ガラス攪拌装置は、中心軸11の軸方向において、位置基準より上方には、互いに位置基準の直近にある第1の撹拌翼13と、第2の撹拌翼14と、の中間位置を、撹拌翼の切り替え位置とするとき、該切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離が、0mm超、+250mm以下である。
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端との距離が0mm以下の場合、すなわち、撹拌翼の切り替え位置が、上流側の枝管110の上端と同一の高さであるか、または、上流側の枝管110の上端より下方にある場合、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。また、撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端との+250mmより大きい場合、すなわち、撹拌翼の切り替え位置が、上流側の枝管110の上端より250mm以上上方にある場合、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。
本発明の溶融ガラス攪拌装置において、撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離が、+50mm〜+200mmであることが好ましく、+50mm〜+150mmであることがより好ましい。
【0038】
本発明の溶融ガラス攪拌装置において、位置基準となる撹拌翼を中心として、上下方向にそれぞれ2組以内の第1の撹拌翼および第2の撹拌翼を、撹拌翼の第1群とする。図1〜3に示す溶融ガラス撹拌装置10aおよび10bの場合、位置基準となる第1の撹拌翼13を中心にして、下側2組の第1の撹拌翼13、および、上側2組の第2の撹拌翼14が撹拌翼の第1群16である。図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cの場合、位置基準となる第2の撹拌翼14を中心にして、下側2組の第1の撹拌翼13、上側1組の第2の撹拌翼14、および、上側1組の第1の撹拌翼13が撹拌翼の第1群16である。
本発明の溶融ガラス攪拌装置において、上記で定義した撹拌翼の第1群16よりも上方に位置する第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14を撹拌翼の第2群17とする。図1〜3に示す溶融ガラス撹拌装置10aおよび10bの場合、撹拌翼の第1群16よりも上方に位置する1組の第2の撹拌翼14が撹拌翼の第2群17である。図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cの場合、撹拌翼の第1群16よりも上方に位置する1組の第1の撹拌翼13および2組の第2の撹拌翼14が撹拌翼の第2群17である。
本発明の溶融ガラス攪拌装置では、撹拌翼の第1群16に含まれる第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力をF1とし、撹拌翼の第1群16に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力をF2とするとき、該F1およびF2が、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度が5〜100rpmの条件で下記式(3)を満たすことが好ましい。
1.05 ≦ F1/F2 ≦ 1.5 (3)
1およびF2が上記式(3)を満たしていれば、第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力F1が、第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2より若干強くなるため、リング翼15が設けられた位置において、適度な強さの溶融ガラスの上昇流が形成される。これにより、溶融ガラス攪拌装置10a、10b、または10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が促進される。その結果、溶融ガラス攪拌装置10a、10b、または10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けがさらに抑制される。
1/F2<1.05の場合、第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力F1と、第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2と、に有意な差が無いか、または、第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2のほうが強くなる。そのため、リング翼15が設けられた位置で溶融ガラスの上昇流が形成されず、溶融ガラス攪拌装置10a、10b、または10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が低下するおそれがある。そのため、溶融ガラス攪拌装置10a、10b、または10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が低下するおそれがある。
一方、F1/F2>1.5の場合、第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力F1が、第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2より強すぎるため、リング翼15が設けられた位置で形成される溶融ガラスの上昇流が強くなり過ぎ、溶融ガラス攪拌装置10a、10b、または10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼15の内側に誘導する作用が促進されない。そのため、溶融ガラス攪拌装置10a、10b、または10cが設置された溶融ガラス搬送管(主管100)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が低下するおそれがある。また、溶融ガラスの上昇流と下降流とが合流することによる撹拌作用が低下するために第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14による撹拌作用が低下するおそれがある。
なお、F1は、溶融ガラスが上昇方向に流れていく場において第1の撹拌翼13の前後での圧力損失とみなすことができる。第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力F1が大きいほど、第1の撹拌翼13の前後での圧力損失が減少する。F2は、第2の撹拌翼14の前後での圧力損失とみなすことができる。第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2が大きいほど、第2の撹拌翼14の前後での圧力損失が増加する。
1およびF2が、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度が5〜100rpmの条件で下記式(3b)を満たすことがより好ましい。
1.2 ≦ F1/F2 ≦ 1.5 (3b)
1/F2はたとえば以下のようにしてモデル試験装置を用いて求めることができる。図5はF1/F2を求める際に使用するモデル試験装置の一構成例を示した図である。図5は、基本的に図3と同じ構成である。但し、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12は、撹拌翼の第1群16のみで構成されている。また、上流側の枝管110、および、下流側の枝管120には、枝管110、120内での溶融ガラスGの圧力(静圧)を液面の高さにより観察するための分岐管130、140がそれぞれ設けられている。溶融ガラスGを模擬した流体が図5に示すモデル試験装置を矢印方向に流れる場合に、主管100内に設置した溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12(第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14)が停止している時の主管100前後のA地点(分岐管130)とB地点(分岐管140)の液面差(LA-B)0を基準とし、撹拌部12(第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14)を回転した際のA地点(分岐管130)とB地点(分岐管140)の液面差(LA-B)から、F1/F2は下記式(3c)により求められる。
1/F2 = 1−(LA-B −(LA-B0)/(LA-B0 (3c)
【0039】
本発明の溶融ガラス攪拌装置では、撹拌翼の第2群17に含まれる第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力をF3とし、撹拌翼の第2群17に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力をF4とするとき、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度が5〜100rpmの際、F3=F4となることが好ましい。撹拌翼の第2群17による混合領域を通過する際、溶融ガラス流が上方または下方のいずれか一方に流れることなく、溶融ガラス流の上昇流と下降流とが合流することによる撹拌作用を多く受け、溶融ガラスの撹拌が進行するためである。
3/F4は、F1/F2と同様の手順で求めることができる。但し、F3/F4を求める際に使用するモデル試験装置は、溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12が撹拌翼の第2群17のみで構成されたものとする。溶融ガラスGを模擬した流体がモデル試験装置を図5の矢印方向に流れる場合に、主管100内に設置した溶融ガラス攪拌装置10aの撹拌部12(第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14)が停止している時の主管100前後のA地点(分岐管130)とB地点(分岐管140)の液面差(LA-B)0を基準とし、撹拌部12(第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14)を回転した際のA地点(分岐管130)とB地点(分岐管140)の液面差(LA-B)から、F3/F4は下記式(3d)により求められる。
3/F4 = 1−(LA-B −(LA-B0)/(LA-B0 (3d)
式(3d)より、撹拌部12の停止時の液面差(LA-B0と、回転時の液面差(LA-B)が等しくなるとき、F3=F4であることが実験的に求められる。
【0040】
以上、図3、4に示す構造の溶融ガラス搬送管、すなわち、垂直方向に配向する主管100の上流側および下流側には、それぞれ、枝管として水平管110,120が接続され、上流側の枝管110が主管100の下方に接続され、下流側の枝管120が主管100の上方に接続される構造の溶融ガラス搬送管の主管内で溶融ガラスを撹拌する溶融ガラス撹拌装置について説明した。本発明の溶融ガラス撹拌装置の別の態様(以下、「本発明の溶融ガラス撹拌装置(2)」とする。)は、図3、4に示す溶融ガラス搬送管とは異なる構造の溶融ガラス搬送管(以下、「溶融ガラス搬送管(2)」とする。)の主管内で溶融ガラスを撹拌する。溶融ガラス搬送管(2)は、垂直方向に配向する主管の上流側および下流側には、それぞれ、枝管として水平管が接続され、上流側の枝管が主管の上方に接続され、下流側の枝管が主管の下方に接続される。したがって、溶融ガラス搬送管(2)は、図3、4に示す溶融ガラス搬送管において、上流側の枝管110が主管100の上方に接続され、下流側の枝管120が主管100の下方に接続された構造であり、溶融ガラス撹拌装置(2)が配置された主管内では溶融ガラスが下向きに流れる。本発明の溶融ガラス撹拌装置(2)は、以下に述べる点が上述した本発明の溶融ガラス撹拌装置とは異なる。
溶融ガラス攪拌装置(2)は、溶融ガラス攪拌装置(2)の撹拌部を構成する第1の撹拌翼および第2の撹拌翼の最大径をD1(mm)とし、溶融ガラス攪拌装置(2)の攪拌部が設置されている部位における溶融ガラス搬送管(2)(主管)の直径(内径)をD2(mm)とし、溶融ガラス攪拌装置(2)の撹拌部を構成するリング翼の外直径をDr(mm)とするとき、下記式(4)および下記式(5)を満たす。
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.98×D2 (4)
r ≦ D1 (5)
ここで、撹拌部を構成する第1の撹拌翼の最大径と、第2の撹拌翼の最大径と、が異なる場合、いずれか最大径が大きい方をD1とする。また、撹拌部を構成する、個々の第1の撹拌翼の最大径が異なる場合(もしくは、個々の第2の撹拌翼の最大径が異なる場合)、いずれか最大径が大きいものをD1とする。
1が0.98×D2より大きい場合、溶融ガラスの撹拌時において、溶融ガラス攪拌装置(2)が配置された溶融ガラス搬送管(2)、すなわち、主管の壁面に接触し、白金材料製の溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面を損傷するおそれがある。
一方、D1が0.7×D2より小さい場合、溶融ガラス攪拌装置(2)が配置された溶融ガラス搬送管(2)、すなわち、主管の壁面との間で生じる流れのせき止めが少なく、主管の壁面近傍を通過する溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。
上記D1および上記D2は、下記式(4a)を満たすことがより好ましく、下記式(4b)を満たすことがさらに好ましい。
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.96×D2 (4a)
0.7×D2 ≦ D1 ≦ 0.94×D2 (4b)
なお、第1の撹拌翼および第2の撹拌翼の最大径をD1(mm)としたが、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14のいずれの径もが、式(4)、式(4a)、または式(4b)を満たすことがより好ましい。
【0041】
本発明の溶融ガラス撹拌装置(2)では、上流側の枝管の下端に対して、上方の距離を正とし、下方の距離を負とするとき、溶融ガラス撹拌装置(2)の各構成要素を、以下に述べる所定の位置関係とする。
本発明の溶融ガラス撹拌装置(2)では、リング翼の上端と、上流側の枝管の下端と、の距離が、−75mm〜+25mmである。
リング翼の上端と、上流側の枝管の下端との距離が+25mmより大きい場合、すなわち、リング翼の上端が、上流側の枝管の下端より25mm以上上方にある場合、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。また、リング翼の上端と、上流側の枝管の下端との距離が−75mmより小さい値である場合、すなわち、リング翼の上端が、上流側の枝管110の下端より75mm以上下方にある場合、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。
本発明の溶融ガラス攪拌装置(2)では、リング翼の上端と、上流側の枝管の下端と、の距離が、−50mm以上、0mm以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の溶融ガラス撹拌装置(2)では、リング翼の下端と、上流側の枝管の下端と、の距離が、−100mm以上、0mm未満である。
リング翼の下端と、上流側の枝管の下端との距離が0mm以上の場合、すなわち、リング翼の下端が、上流側の枝管の下端と同一の高さであるか、または、上流側の枝管の下端より上方にある場合、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。また、リング翼の下端と、上流側の枝管の下端との距離が−100mmより小さい値である場合、すなわち、リング翼の下端が、上流側の枝管の下端より100mm以上下方にある場合、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。
本発明の溶融ガラス攪拌装置(2)では、リング翼の下端と、上流側の枝管の下端と、の距離が、−50mm以上、0mm未満であることが好ましい。
【0043】
本発明の溶融ガラス攪拌装置(2)では、位置基準が第1の撹拌翼の場合、該位置基準の直上には第2の撹拌翼が位置しており、かつ、位置基準より上方には第1の撹拌翼が存在しない。位置基準の直上に第1の撹拌翼が位置している場合や、位置基準より上方に第1の撹拌翼が存在している場合は、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制できない。なお、位置基準の直上に第2の撹拌翼が位置しており、かつ、位置基準より上方に第1の撹拌翼が存在しなければよく、位置基準より下側には、第1の撹拌翼が位置してもよい。
位置基準が第2の撹拌翼の場合、該位置基準の直下に第1の撹拌翼が位置しており、かつ、位置基準より上方には第1の撹拌翼が存在しない。位置基準の直下に第2の撹拌翼が位置している場合や、位置基準より上方に第1の撹拌翼が存在している場合は、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。なお、位置基準の直下に第1の撹拌翼が位置しており、かつ、位置基準より上方に第1の撹拌翼が存在しなければよく、位置基準より下側に第1の撹拌翼が位置してもよい。
【0044】
本発明の溶融ガラス攪拌装置(2)は、撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管の下端と、の距離が、−250mm以上、0mm未満である。
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管の下端との距離が0mm以上の場合、すなわち、撹拌翼の切り替え位置が、上流側の枝管の下端と同一の高さであるか、または、上流側の枝管の下端より上方にある場合、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。また、撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管の下端との距離が−250mmより小さい値である場合、すなわち、撹拌翼の切り替え位置が、上流側の枝管の下端より250mm以上下方にある場合、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導することができず、溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が大幅に減少する。
本発明の溶融ガラス攪拌装置において、撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管の下端と、の距離が、−200mm〜−50mmであることが好ましく、−150mm〜−50mmであることがより好ましい。
【0045】
本発明の溶融ガラス攪拌装置(2)は、位置基準となる撹拌翼を中心として、上下方向にそれぞれ2組以内の第1の撹拌翼および第2の撹拌翼を、撹拌翼の第1群とする点は、上述した本発明の溶融ガラス攪拌装置と同じである。但し、撹拌翼の第1群よりも下方に位置する第1の撹拌翼および第2の撹拌翼を撹拌翼の第2群とする。
本発明の溶融ガラス攪拌装置(2)では、撹拌翼の第1群に含まれる第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力をF1とし、撹拌翼の第1群に含まれる第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力をF2とするとき、該F1およびF2が、第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度が5〜100rpmの条件で下記式(6)を満たすことが好ましい。
1.05 ≦ F2/F1 ≦ 1.5 (6)
1およびF2が上記式(6)を満たしていれば、第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力F2が、第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力F1より若干強くなるため、リング翼が設けられた位置において、適度な強さの溶融ガラスの上昇流が形成される。これにより、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導する作用が促進される。その結果、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けがさらに抑制される。
2/F1<1.05の場合、第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力F2と、第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力F1と、に有意な差が無いか、または、第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力F1のほうが強くなるため、リング翼が設けられた位置で溶融ガラスの下降流が形成されず、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導する作用が低下するおそれがある。そのため、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が低下するおそれがある。
一方、F2/F1>1.5の場合、第2の撹拌翼による溶融ガラス流の下降力F2が、第1の撹拌翼による溶融ガラス流の上昇力F1より強すぎるため、リング翼が設けられた位置で形成される溶融ガラスの下降流が強くなり過ぎ、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスを、リング翼の内側に誘導する作用が低下するおそれがある。そのため、溶融ガラス攪拌装置(2)が設置された溶融ガラス搬送管(2)(主管)の壁面近傍の溶融ガラスのすり抜けを抑制する効果が低下するおそれがある。また、溶融ガラスの上昇流と下降流とが合流することによる撹拌作用が低下するために第1の撹拌翼および第2の撹拌翼による撹拌作用も低下するおそれがある。
1およびF2が、第1の撹拌翼および第2の撹拌翼の回転速度が5〜100rpmの条件で下記式(6b)を満たすことがより好ましい。
1.2 ≦ F2/F1 ≦ 1.5 (6b)
【0046】
なお、本発明の溶融ガラス攪拌装置の各構成要素、すなわち、中心軸、第1の撹拌翼、第2の撹拌翼、および、リング翼の構成材料は、溶融ガラスに対して耐熱性、耐侵食性のある材料であれば、特に限定されず、耐熱性に優れた白金または白金ロジウム合金を使用することが好ましい。また、強度を向上させるために、融点の高いモリブデンを芯材として用い、このモリブデン芯材にアルミナをコーティングし、その上に白金または白金ロジウム合金を被覆した材料なども使用できる。
【0047】
次に、本発明の溶融ガラス攪拌方法について説明する。本発明の溶融ガラスの攪拌方法では、上述した構造の溶融ガラス搬送管または溶融ガラス搬送管(2)の主管内に、本発明の溶融ガラス撹拌装置または本発明の溶融ガラス撹拌装置(2)を設置し、該溶融ガラス搬送管の主管内の溶融ガラスを攪拌する。
本発明の適用対象は特に限定されないが、粘度100〜7000dPa・s、より好ましくは粘度200〜6000dPa・sの溶融ガラスを搬送量1〜50m3/(時間・S)(Sは搬送管の断面積)、より好ましくは搬送量2〜50m3/(時間・S)で搬送する溶融ガラス搬送管に対して適用することが好ましい。
また、本発明の溶融ガラスの攪拌方法は、攪拌後の溶融ガラスが均質性に優れることから、FPD用のガラス基板、光学用レンズ、光通信用ファイバ、光学フィルタ、太陽電池用基板、蛍光管のように、均質性についての要求がきわめて厳しい用途のガラスを製造する過程で実施される溶融ガラスの攪拌に適用することが好ましい。
【0048】
次に、本発明の板ガラス製造装置について説明する。板ガラス製造装置は、最小限の構成として、ガラス原料を溶解させて溶融ガラスとするガラス溶解装置、溶融ガラスを成形して板ガラスとする板ガラス成形装置(例えば、フロート法やダウンドロー法による成形装置)、および、該ガラス溶解装置で得られた溶融ガラスを板ガラス成形装置に搬送する目的で、該ガラス溶解装置と該板ガラス成形装置との間に設けられた溶融ガラス搬送管を有する。板ガラス製造装置は、ガラス溶解装置、および、板ガラス成形装置以外の構成要素を通常有している。このような他の構成要素の一例を挙げると、溶融ガラスの清澄を行うための清澄装置(例えば、減圧脱泡装置)がある。そして、これらの構成要素間で溶融ガラスを搬送するため、板ガラス製造装置は通常複数の溶融ガラス搬送管を有している。本発明の板ガラス製造装置では、これら複数存在する溶融ガラス搬送管のいずれか1つ、あるいは、複数に上述した本発明の溶融ガラス攪拌装置、または、本発明の溶融ガラス攪拌装置(2)が設置されている。本発明の板ガラス製造装置において、本発明の溶融ガラス攪拌装置を設置する位置は特に限定されない。したがって、板ガラス製造装置を構成するいずれの溶融ガラス搬送管に、本発明の溶融ガラス攪拌装置を設置してもよい。また、設置する溶融ガラス攪拌装置の数も特に限定されない。但し、板ガラス製造装置は、構成要素として清澄装置(例えば、減圧脱泡装置)を含む場合、清澄装置の上流側の溶融ガラス搬送管(以下、第1の溶融ガラス搬送管という)および清澄装置の下流側の溶融ガラス搬送管(以下、第2の溶融ガラス搬送管という)のうち、少なくとも一方に本発明の溶融ガラス攪拌装置を設置することが均質性の高い板ガラスを製造するうえで好ましい。より好ましくは、第1の溶融ガラス搬送管に、本発明の溶融ガラス攪拌装置を設置する。さらに好ましくは、第1の溶融ガラス搬送管および第2の溶融ガラス搬送管の両方に、本発明の溶融ガラス攪拌装置を設置する。
本発明の板ガラス製造装置は、様々な用途の板ガラスの製造に適用可能であるが、FPD用のガラス基板のように、均質性についての要求がきわめて厳しい用途の板ガラス(特に板厚0.05〜0.7mm、好ましくは0.1mm以上、0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下)の製造に適用することが特に好ましい。
本発明の板ガラス製造装置を用いて板ガラスを製造することにより、未融解原料の混在がなく、透明性が高く、平坦度が高い板ガラスが得られる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例および比較例では、溶融ガラス搬送管内を搬送される溶融ガラスの攪拌作用についてモデル試験(溶融ガラスを模擬した流体を使用しての実験)を実施した。モデル試験で使用した溶融ガラス搬送管は、図3に示すように、垂直方向に配向する主管100の上流側および下流側には、それぞれ、枝管として水平管110,120が接続され、上流側の枝管110が主管100の下方に接続され、下流側の枝管120が主管100の上方に接続される構造である。モデル試験において、流体は、枝管110、主管100、枝管120の順に移動する。図3に示す溶融ガラス搬送管は、溶融ガラス撹拌装置が設置される主管の直径D2が100mmである。
また、溶融ガラス搬送管内を搬送される流体に関する条件は以下の通りであり、該流体中にトレーサーを流し、流体の混合状態を、可視化により確認した。
粘度:400dPa・s
搬送量:30m3/(時間・S)
【0050】
(実施例1)
図3に示す本発明の溶融ガラス撹拌装置10aを溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。溶融ガラス撹拌装置の各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径D1:80mm
リング翼15の外直径Dr:80mm
リング翼15の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+10mm
リング翼15の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+30mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+45mm
撹拌翼の第1群16に含まれる第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力F1と、撹拌翼の第1群16に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2と、の比F1/F2(第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度は21rpm):1.2
なお、上記した溶融ガラス搬送管の寸法、および、溶融ガラス撹拌装置の各部の寸法は、実際の溶融ガラス搬送管および該搬送管内に配置される溶融ガラス撹拌装置(以下、本明細書において、「実機」という)の寸法ではなく、これらの縮小モデルの寸法である。
図3に示すように、撹拌部12が設けられた中心軸11を時計廻りに回転させた。第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度は、縮小モデルと実機との流体力学上の相似条件で見た場合に、実機の回転速度で21rpmとなる回転速度とした。
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置10aが設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制されていた。
【0051】
(実施例2)
図4に示す本発明の溶融ガラス撹拌装置10cを溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。溶融ガラス撹拌装置10bの各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径D1:80mm
リング翼15の外直径Dr:80mm
リング翼15の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+10mm
リング翼15の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+30mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+80mm
撹拌翼の第1群16に含まれる第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力F1と、撹拌翼の第1群16に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2と、の比F1/F2(第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度は21rpm):1.1
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置10cが設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制されていた。
【0052】
(比較例1)
図6に示す従来の溶融ガラス撹拌装置20を溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。溶融ガラス撹拌装置20は、中心軸21のうち、撹拌翼24およびリング翼25が設けられた撹拌部22の部分が、拡径した拡径部23となっている。該拡径部23の周囲に、中心軸21の軸方向において、上下方向に間隔を空けて7組の撹拌翼24が設けられており、中心軸21の軸方向における同位置には、中心軸の周方向に、間隔を空けて6つの撹拌翼24が設けられている。撹拌翼24が板状体からなり、その長軸は中心軸21と直交しており、その短軸は中心軸21と平行である。
溶融ガラス撹拌装置20の各部の寸法は以下の通り。
撹拌部22の最大径D1:80mm
リング翼25の外直径Dr:80mm
リング翼25の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:0mm
リング翼25の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+20mm
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置20が設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制できなかった。
【0053】
(比較例2)
図7に示す溶融ガラス撹拌装置30を溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。溶融ガラス撹拌装置30は、リング翼が設けられていない以外は、図4に示す溶融ガラス撹拌装置10cと同様の構成である。
溶融ガラス撹拌装置30の各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼33および第2の撹拌翼34の最大径D1:80mm
一番下にある第2の撹拌翼34の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+10mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+80mm
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置30が設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制できなかった。
【0054】
(実施例3)
図8に示す溶融ガラス撹拌装置40を溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。
溶融ガラス撹拌装置40の各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼43および第2の撹拌翼44の最大径D1:80mm
リング翼45の外直径Dr:80mm
リング翼45の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+10mm
リング翼45の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+30mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+45mm
撹拌翼の第1群46に含まれる第1の撹拌翼43による溶融ガラス流の上昇力F1と、撹拌翼の第1群46に含まれる第2の撹拌翼44による溶融ガラス流の下降力F2と、の比F1/F2(第1の撹拌翼43および第2の撹拌翼44の回転速度は21rpm):1.0
撹拌翼の第2群47に含まれる第1の撹拌翼43による溶融ガラス流の上昇力F3と、撹拌翼の第2群47に含まれる第2の撹拌翼44による溶融ガラス流の下降力F4と、の関係:F3=F4
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置40が設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制されたが、その効果は実施例1の約1/3であった。
【0055】
(比較例3)
図9に示す溶融ガラス撹拌装置50を溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。
溶融ガラス撹拌装置50の各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼53および第2の撹拌翼54の最大径D1:80mm
リング翼55の外直径Dr:80mm
リング翼55の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+45mm
リング翼55の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+65mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+80mm
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置50が設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制できなかった。
【0056】
(実施例4)
図10に示す溶融ガラス撹拌装置10dを溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。溶融ガラス撹拌装置10dは、リング翼15bの厚みが溶融ガラス撹拌装置10aのリング翼15の厚みの1/4であること以外は、溶融ガラス撹拌装置10aと同様である。
溶融ガラス撹拌装置10dの各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の最大径D1:80mm
リング翼15bの外直径Dr:80mm
リング翼15bの下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+10mm
リング翼15bの上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+30mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+45mm
撹拌翼の第1群16に含まれる第1の撹拌翼13による溶融ガラス流の上昇力F1と、撹拌翼の第1群16に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2と、の比F1/F2(第1の撹拌翼13および第2の撹拌翼14の回転速度は21rpm):1.2
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置10dが設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制されていた。
【0057】
(実施例5)
図11に示す溶融ガラス撹拌装置10eを溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。溶融ガラス撹拌装置10eは、リング翼15より下方の第1の撹拌翼13bの短軸の長さ(撹拌翼13bの板状体の短辺の長さ)を、他の第1の撹拌翼13の短軸の長さの1.4倍とした以外は、溶融ガラス撹拌装置10aと同様である。
溶融ガラス撹拌装置10eの各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼13,13b、および第2の撹拌翼14の最大径D1:80mm
リング翼15の外直径Dr:80mm
リング翼15の下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+10mm
リング翼15の上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+30mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+45mm
撹拌翼の第1群16に含まれる第1の撹拌翼13,13bによる溶融ガラス流の上昇力F1と、撹拌翼の第1群16に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2と、の比F1/F2(第1の撹拌翼13,13bおよび第2の撹拌翼14の回転速度は21rpm):1.5
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置10eが設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制されていた。
【0058】
(実施例6)
図12に示す溶融ガラス撹拌装置10fを溶融ガラス搬送管の主管100内に設置して、攪拌した際の流体の挙動を評価した。溶融ガラス撹拌装置10fは、リング翼15bの厚みが溶融ガラス撹拌装置10aのリング翼15の厚みの1/4であること、およびリング翼15より下方の第1の撹拌翼13bの短軸の長さ(撹拌翼13bの板状体の短辺の長さ)を、他の第1の撹拌翼13の短軸の長さの1.4倍としたこと以外は、溶融ガラス撹拌装置10aと同様である。
溶融ガラス撹拌装置10fの各部の寸法は以下の通り。
第1の撹拌翼13,13b、および第2の撹拌翼14の最大径D1:80mm
リング翼15bの外直径Dr:80mm
リング翼15bの下端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+10mm
リング翼15bの上端と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+30mm
撹拌翼の切り替え位置と、上流側の枝管110の上端と、の距離:+45mm
撹拌翼の第1群16に含まれる第1の撹拌翼13,13bによる溶融ガラス流の上昇力F1と、撹拌翼の第1群16に含まれる第2の撹拌翼14による溶融ガラス流の下降力F2と、の比F1/F2(第1の撹拌翼13,13bおよび第2の撹拌翼14の回転速度は21rpm):1.5
溶融ガラスを模擬した流体では、溶融ガラス攪拌装置10fが設置された主管100の壁面近傍の流体のすり抜けが抑制されていた。
【0059】
本出願は、2014年10月14日出願の日本特許出願2014−209922に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0060】
10a,10b,10c,10d,10e,10f,20,30,40,50:溶融ガラス撹拌装置
11,21,31,41,51:中心軸
12,22,32,42,52:撹拌部
13,13b,33,43,53:第1の撹拌翼
14,34,44,54:第2の撹拌翼
15,15b,25,45,55:リング翼
16,46:撹拌翼の第1群
17,47:撹拌翼の第2群
23:拡径部
100:溶融ガラス搬送管(主管)
110,120:溶融ガラス搬送管(枝管)
130,140:分岐管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12