特許第6459718号(P6459718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6459718セメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6459718
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】セメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/44 20060101AFI20190121BHJP
   C04B 7/44 20060101ALI20190121BHJP
   C10L 5/46 20060101ALI20190121BHJP
   C10L 5/48 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C10L5/44
   C04B7/44
   C10L5/46
   C10L5/48
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-71732(P2015-71732)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-190951(P2016-190951A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
(72)【発明者】
【氏名】古屋 一寿
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−241523(JP,A)
【文献】 特開2006−035189(JP,A)
【文献】 特開2005−013900(JP,A)
【文献】 特開2000−008056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00
B09B 3/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物を、当該処理対象可燃物の引火点より低い温度であって且つ当該処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下の乾燥温度(t1)に調整した乾燥用流体で乾燥させ、前記乾燥用流体の温度を調整するにあたり、引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物の含水率(質量%)と、変化させる温度t2における乾燥質量基準での処理対象可燃物中の引火性揮発性物質の発生量(mg/kg)とを予め測定し、次の式:
C2(容量%)=[W×(1−H/100)×V2×10−6/M]×(22.4/Q)×100
(上記式中、Wは処理対象可燃物の処理対象量(kg/時)、Hは処理対象可燃物の含水率(質量%)、V2は乾燥質量基準での処理対象可燃物の乾燥温度(t2)における引火性揮発性物質の発生量(mg/kg)、Mは引火性揮発性物質の分子量(kg/kmol)、Qは乾燥用流体の流量(mN/時)を示す)
により乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)を演算し、前記演算した引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)と引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度(C:容量%)とを比較して、C2<Cとなるように乾燥温度(t1)を温度t2と一致させる温度とするように設定することを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント焼成用固体燃料の製造方法において、処理対象可燃物中に引火性揮発性物質が複数含まれる場合には、各引火性揮発性物質についてC2<Cを満たすように乾燥温度(t1)を設定することを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメント焼成用固体燃料の製造方法において、乾燥用流体はセメント製造設備から排出される排ガスを利用し、乾燥後の固体燃料はセメント製造設備の燃料として利用され、処理対象可燃物を乾燥後の乾燥用流体は、セメント焼成設備中の800℃以上の温度の装置に導入されるか又は乾燥排気処理装置にて処理されることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造方法。
【請求項4】
セメント製造設備からの乾燥用流体の温度を、処理対象可燃物の引火点より低い温度であって且つ当該処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下の乾燥温度(t1)となるように、引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物の含水率(質量%)と、変化させる温度t2における乾燥質量基準での処理対象可燃物中の引火性揮発性物質の発生量(mg/kg)とを予め測定し、次の式:
C2(容量%)=[W×(1−H/100)×V2×10−6/M]×(22.4/Q)×100
(上記式中、Wは処理対象可燃物の処理対象量(kg/時)、Hは処理対象可燃物の含水率(質量%)、V2は乾燥質量基準での処理対象可燃物の乾燥温度(t2)における引火性揮発性物質の発生量(mg/kg)、Mは引火性揮発性物質の分子量(kg/kmol)、Qは乾燥用流体の流量(mN/時)を示す)
により乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)を演算し、前記演算した引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)と引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度(C:容量%)とを比較して、C2<Cとなるように乾燥温度(t1)を温度t2と一致させる温度とするように調整する温度調整装置と、乾燥温度(t1)に調整された乾燥用流体を導入して処理対象可燃物を乾燥させる乾燥装置とを備えることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造装置。
【請求項5】
請求項に記載のセメント焼成用固体燃料の製造装置において、更に、乾燥用流体の温度を乾燥温度(t1)とするために、セメント製造設備から排出される排ガスに空気を流入させて乾燥用流体とするための空気流量調整装置を備えることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のセメント焼成用固体燃料の製造装置において、更に、乾燥処理された処理対象可燃物の含水率を測定する含水率測定装置を備えることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のセメント焼成用固体燃料の製造装置において、乾燥装置から排出された乾燥用流体を処理するための乾燥排気処理装置を備えることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置に関し、特に詳細には引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物を乾燥し、セメント焼成用固体燃料を製造するにあたり、発生する引火性の揮発性物質への引火防止対策と処理対象可燃物の火災発生のリスクを低減しながら乾燥させ、セメント焼成設備の燃費を低下させないセメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント焼成設備において、建設廃材、間伐材、廃白土、含油汚泥等の含油物質、下水汚泥、製紙スラッジなどの高含水率の有機系汚泥等を石炭や重油の代替燃料として利用することが行われている。
【0003】
特開2004−50077号公報(特許文献1)には、木材由来燃料の製造方法が開示され、特開2006−175355号公報(特許文献2)には、有機系汚泥の処理方法が開示されている。両者は共に、クリンカクーラーの排ガスなどのセメント焼成設備の余剰熱を利用して、廃棄物などの処理対象可燃物を乾燥させ、セメント焼成用の燃料とするものであるが、従来のこのようなセメント焼成用の燃料の製造方法においては、乾燥により発生する引火性の揮発性物質への引火防止対策や、含水率の下げ過ぎ、静電気、及び自己発熱による火災発生リスクの低減対策については、全く考慮されていなかった。
【0004】
このため、上述した様々な代替燃料は、火災等のリスクを回避するため乾燥せず、直接セメント焼成設備へ投入されており、代替燃料が含有する水分が原因で、セメント焼成において燃費低下を引き起こしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−50077号公報
【特許文献2】特開2004−371226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決し、引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物を、引火性の揮発性物質への引火防止と火災発生のリスクを低減しながら乾燥させると共に、製造された固体燃料がセメント焼成設備の燃費を低下させないセメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のセメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置は以下のような技術的特徴を備えている。
(1) 引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物を、当該処理対象可燃物の引火点より低い温度であって且つ当該処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下の乾燥温度(t1)に調整した乾燥用流体で乾燥させることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造方法である。
【0008】
(2) 上記(1)に記載のセメント焼成用固体燃料の製造方法において、乾燥用流体の温度を調整するにあたり、引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物の含水率(質量%)と、変化させる温度t2における乾燥質量基準での処理対象可燃物中の引火性揮発性物質の発生量(mg/kg)とを予め測定し、次の式:
C2(容量%)=[W×(1−H/100)×V2×10−6/M]×(22.4/Q)×100
(上記式中、Wは処理対象可燃物の処理対象量(kg/時)、Hは処理対象可燃物の含水率(質量%)、V2は乾燥質量基準での処理対象可燃物の乾燥温度(t2)における引火性揮発性物質の発生量(mg/kg)、Mは引火性揮発性物質の分子量(kg/kmol)、Qは乾燥用流体の流量(mN/時)を示す)
により乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)を演算し、前記演算した引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)と引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度(C:容量%)とを比較して、C2<Cとなるように乾燥温度(t1)を温度t2と一致させる温度とするように設定することを特徴とする。
【0009】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のセメント焼成用固体燃料の製造方法において、処理対象可燃物中に引火性揮発性物質が複数含まれる場合には、各引火性揮発性物質についてC2<Cを満たすように乾燥温度(t1)を設定することを特徴とする。
【0010】
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかに記載のセメント焼成用固体燃料の製造方法において、乾燥用流体はセメント製造設備から排出される排ガスを利用し、乾燥後の固体燃料はセメント製造設備の燃料として利用され、処理対象可燃物を乾燥後の乾燥用流体は、セメント焼成設備中の800℃以上の温度の装置に導入されるか又は乾燥排気処理装置にて処理されることを特徴とする。
【0011】
(5) セメント製造設備からの乾燥用流体の温度を、処理対象可燃物の引火点より低い温度であって且つ当該処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下の乾燥温度(t1)に調整する温度調整装置と、乾燥温度(t1)に調整された乾燥用流体を導入して処理対象可燃物を乾燥させる乾燥装置とを備えることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造装置である。
【0012】
(6) 上記(5)に記載のセメント焼成用固体燃料の製造装置において、更に、乾燥用流体の温度を乾燥温度(t1)とするために、セメント製造設備から排出される排ガスに空気を流入させて乾燥用流体とするための空気流量調整装置を備えることを特徴とする。
【0013】
(7) 上記(5)又は(6)に記載のセメント焼成用固体燃料の製造装置において、更に、乾燥処理された処理対象可燃物の含水率を測定する含水率測定装置を備えることを特徴とする。
【0014】
(8) 上記(5)〜(7)のいずれかに記載のセメント焼成用固体燃料の製造装置において、乾燥装置から排出された乾燥用流体を処理するための乾燥排気処理装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置では、引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物を、処理対象可燃物の引火点より低い温度であって且つ当該処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下の乾燥温度(t1)に調整した乾燥用流体で乾燥させるため、発生する引火性の揮発性物質への引火防止と火災発生のリスクを低減しながら処理対象可燃物を乾燥でき、さらには、製造された固体燃料は限界含水率に近い状態まで乾燥されているため、セメント焼成設備の燃費低下を抑制できる。
【0016】
さらに、乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度(C2)<引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度(C)を満たすように乾燥用流体の温度を設定することで、発生する引火性の揮発性物質への引火をより確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】処理対象可燃物を乾燥させる乾燥用流体の設定温度の決定方法を説明する図である。
図2】本発明のセメント焼成用固体燃料の製造装置の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、以下の実施形態により説明する。
本発明のセメント焼成用固体燃料の製造方法は、引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物を、当該処理対象可燃物の引火点より低い温度であって且つ、乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度(C2)<引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度(C)を満たす温度で、加えて当該処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下の乾燥温度(t1)に調整した乾燥用流体で乾燥させることを特徴とする、セメント焼成用固体燃料の製造方法である。
【0019】
処理対象可燃物とは、本発明のセメント焼成用固体燃料を製造するための処理が行われる対象物のことであり、具体的には、建設廃材、及び間伐材、並びに剪定枝等の破砕物、燃料用木質チップ、畳、布、紙類、食品残渣、農業残渣、廃プラスチック、廃白土、含油汚泥等の含油物質、下水汚泥、製紙スラッジなどの高含水率の有機系汚泥、前記の2つ以上を含む混合物などの各種の可燃物が該当する。そのような可燃物の中でも、特に、含水率が高く、そのままセメント焼成設備に投入すると設備の燃費低下の原因となるようなものであり、かつ、有機溶剤など乾燥処理工程で引火性揮発物質の発生を伴うものは、本発明を適用することが好ましい。
【0020】
引火性揮発物質としては、処理対象可燃物の種類によって様々であり、例えば、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素、有機酸、アルコール、エーテル、ケトン、アルデヒドなどが例示される。特に、本発明では、クリンカクーラーなどのセメント焼成設備の余剰熱を利用して乾燥するため、100〜400℃程度の排ガスを温度調整して80〜200℃の乾燥用流体(気体)にして乾燥に使用する。このため、このような温度範囲で揮発性のある物質を含有する場合は、本発明を適用することが好ましい。
【0021】
次に、処理対象可燃物を乾燥させる乾燥用流体の温度の設定方法について説明する。
本発明では、以下の2つの条件を満足するよう温度設定している。
(1)処理対象可燃物の引火点より低い温度であること
(2)処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下であること
さらに、本発明では、次の条件を備えることで、より安全に乾燥処理を行うことができる。
(3)乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度を、当該引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度未満とすること
【0022】
このような条件を判断するためには、乾燥装置に投入する処理対象可燃物の受入れロット毎に、以下の数値を予め測定する。
(a)処理する前の処理対象可燃物の含水率
(b)処理対象可燃物を乾燥させた際の限界含水率
(c)乾燥質量基準の処理対象可燃物中の引火性揮発性物質の発生量
(d)処理対象可燃物の引火点(乾燥処理を行う前の処理対象可燃物に関する引火点)
(e)引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度(C)
【0023】
図1は、処理対象可燃物を乾燥させる乾燥用流体の設定温度の決定方法を説明するフロー図である。ステップAでは、乾燥用流体(気体)の温度を、処理対象可燃物の引火点以下に設定する。これにより、乾燥中に処理対象可燃物に引火するリスクを避けることができる。
【0024】
次に、ステップBでは、乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度を、当該引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度未満に設定する。これにより、乾燥中に発生する引火性揮発性物質に引火するリスクを避けることができる。そして、ステップAで設定した温度が、ステップBの条件を満足する場合には、温度設定を変更せず、次のステップCに移る。ステップBの条件を満足しない場合は、ステップBの条件を満足する温度に再設定が行われる。
【0025】
設定温度(t2)における引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)は、次式により算出することができる。これは、設定温度における引火性揮発性物質の濃度の最大値でもある。
C2(容量%)=[W×(1−H/100)×V2×10−6/M]×(22.4/Q)×100
上記式中、Wは処理対象可燃物の処理対象量(kg/時)、Hは処理対象可燃物の含水率(質量%)、V2は乾燥質量基準での処理対象可燃物の乾燥温度(t2)における引火性揮発性物質の発生量(mg/kg)、Mは引火性揮発性物質の分子量(kg/kmol)、Qは乾燥用流体の流量(m3N/時)を示す。
【0026】
処理対象可燃物の処理対象量(W:kg/時)は、処理対象可燃物をどの程度のスピードで処理するかによって決まり、Qは乾燥用流体の流量(Q:mN/時)は、使用するセメント焼成設備において、乾燥装置に供給可能な乾燥用流体の流量の範囲から、設定される。
【0027】
処理対象可燃物の含水率(H:質量%)、乾燥質量基準での処理対象可燃物の乾燥温度(t2)における引火性揮発性物質の発生量(V2:mg/kg)、引火性揮発性物質の分子量(M:kg/kmol)は、処理対象可燃物の性状を調べることにより、特定される。
【0028】
ステップBでは、上記式により演算した、乾燥用流体中の引火性揮発性物質の濃度(C2:容量%)と、引火性揮発性物質の燃焼範囲の下限濃度(C:容量%)とを比較して、C2<Cとなるように乾燥温度(t1)を温度t2と一致させる温度とするように設定する。
【0029】
ステップCでは、乾燥装置の出口から排出される、乾燥処理された処理対象可燃物(「固体燃料」ともいう。)の含水率を適時測定し、固体燃料の含水率が、上記(b)で測定した処理対象可燃物の限界含水率となる温度以下となるように設定される。つまり、固体燃料の含水率が、上記(b)で測定した処理対象可燃物の限界含水率より高い場合は、乾燥用流体の温度調整は行わず、上記(b)で測定した処理対象可燃物の限界含水率より低い場合には、乾燥用流体の温度を下げ、製造される固体燃料の含水率を前記限界含水率よりも高くなるように調整する。これにより、乾燥装置から排出される固体燃料の含水率が前記限界含水率より大きくなるため、含水率の下げ過ぎ、静電気、及び自己発熱による火災の発生を抑制することが可能となる。
【0030】
ステップCにもあるように、本発明の固体燃料の製造方法は、乾燥処理された処理対象可燃物の性状(含水率)を適時測定し、乾燥用流体の設定温度を調整することが、より好ましい。乾燥処理された処理対象可燃物の含水率は、乾燥装置の出口で、処理対象可燃物の含水率を測定し、上記(b)で測定した処理対象可燃物の限界含水率と比較される。
【0031】
また、処理対象可燃物中に引火性揮発性物質が複数含まれる場合には、各引火性揮発性物質毎について濃度(C2)を演算し、各引火性揮発物質の燃焼範囲の下限濃度(C)と比較し、C2<Cの条件を満足するように乾燥温度(t1)を設定する。ただし、異なる引火性揮発性物質であっても引火性においては発生する濃度を足し合わせて考慮する必要がある種類については、それらの総和の濃度を基に判断する。
【0032】
乾燥に使用される乾燥用流体(気体)は、セメント焼成設備の余剰熱を利用したものであるなら、特に限定されないが、例えば、クリンカクーラーの排ガス、仮焼成炉出口から煙突にいた排ガス経路の排ガスなどを利用することが可能である。
【0033】
また、乾燥で使用された乾燥用流体は、専用の乾燥排気処理装置で粉塵、臭気成分等を除去した後外部に放出させることも可能であるが、セメント焼成設備に再度戻し、処理することも可能である。特に、キルンから仮焼成炉の出口までの間のように温度が800℃以上ある場所に戻すことで、乾燥工程で発生した揮発性物質を燃料として利活用できるとともに、臭気成分等を分解処理することが可能となる。
【0034】
次に、セメント焼成用固体燃料の製造装置について図2を参考に説明する。
セメント焼成設備としては、セメント原料を、予熱器、仮焼成炉、キルンに順次投入し焼成される。焼成されたセメントクリンカは、クリンカクーラーで冷却される。キルンで発生した排ガスは、仮焼成炉、予熱器、排ガス処理設備、煙突を経て外部に放出される。クリンカクーラーでは、空気により冷却が行われ、クリンカクーラーから排出される排ガスは、200〜400℃の温度を有している。通常であれば、クリンカクーラーの排ガスは、仮焼成炉などに導入される。
【0035】
処理対象可燃物は、不図示の貯蔵設備から定量供給設備に供給され、当該定量供給設備により、予め設定された処理対象可燃物の処理量(所定時間当たりの処理量)に応じて、所定速度で所定量の処理対象可燃物を乾燥装置に供給される。
【0036】
乾燥装置には、乾燥用流体が導入されている。図2では、乾燥用流体として、クリンカクーラーの排ガスの一部を利用しているが、仮焼成炉出口から煙突に至る排ガス経路の排ガスを利用することも可能である。乾燥装置で使用できる乾燥用流体に必要な温度、例えば、80℃以上が維持できる排ガスを利用することが好ましい。
【0037】
本発明では、乾燥装置に導入される乾燥用流体の温度を、処理対象可燃物の引火点より低い温度であって且つ当該処理対象可燃物の含水率が限界含水率となる温度以下の乾燥温度(t1)に調整する温度調整装置を備えている。
【0038】
温度調整装置により、セメント焼成設備の排ガスの温度を、乾燥装置で必要な温度「乾燥温度(t1)」に設定するには、セメント製造設備から排出される排ガスに空気を混入して、温度を調整する。図2のダンパ(1)のような空気流量調整装置が、この機能を有している。さらに、ダンパ(2)は、乾燥装置に導入する乾燥用流体の流量を調整している。ファンは、乾燥用流体を乾燥装置に送風する送風機である。乾燥用流体の流路に沿って(乾燥装置の入り口付近)に流体の温度を測定する温度計(TIC)を設け、温度の測定結果に基づき、所定の温度になるように、前記空気の流量を調節する。
【0039】
乾燥装置から排出される排ガスは、乾燥排気処理装置で粉塵、臭気成分等が除去され、外部に排気される。また、キルンから仮焼成炉出口までの間で800℃以上の高温雰囲気に、乾燥装置の排ガスを導入することも可能である。
【0040】
乾燥装置で乾燥された処理対象可燃物(固体燃料)は、固体燃料貯蔵設備で蓄積され、定量供給装置により、仮焼成炉に燃料として導入したり、キルン出口から仮焼成炉の入り口に至る窯尻部で燃料として燃焼させる方法もある。
【0041】
本発明のセメント焼成用固体燃料の製造装置では、更に、乾燥処理された処理対象可燃物の含水率を測定する含水率測定装置(XIC)を備えている。当該測定装置は、乾燥装置の出口に備え付けることで、固体燃料の含水率を処理対象可燃物の限界含水率以上に調整する際の生情報として有用となる。
【実施例】
【0042】
以下では、図1の温度設定に係るフロー図に沿って、具体的事例を基に設定方法を説明する。
まず、処理対象可燃物を固体燃料A(引火性揮発性物質を含む。)とする。処理対象可燃物の処理量(W)は、1000kg/時とする。
処理対象可燃物の性状として、処理前の含水率(H)は40質量%、引火点は160℃、温度(t2)における引火性揮発性物質の発生量(V2)は、表1の通りである。
【0043】
【表1】
【0044】
固体燃料Aに含まれる引火性揮発性物質を、揮発性物質Bとする。揮発性物質の分子量(M)は、106kg/kmolであり、燃焼範囲の下限濃度(C)は、0.90容量%である。
【0045】
乾燥用流体は、クリンカクーラーの排ガスに空気を混合させたものであり、流量(Q)は、3400mN/時とする。
【0046】
図1のステップAで、乾燥用流体の温度(t1)は、処理対象可燃物の引火点(160℃)より低く設定する必要があるため、温度t1は、160℃未満となる。
【0047】
ステップBで、処理対象可燃物の処理量(W)、処理前の処理対象可燃物の含水率(H)、引火性揮発性物質の分子量(M)、乾燥用流量(Q)及び表1の引火性揮発性物質の発生量(V2)を基に、各温度(t2)における引火性揮発性物質の濃度(C2)を算出する。当該濃度を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2の結果より、引火性揮発性物質Bの燃焼範囲の下限濃度0.90容量%より低い濃度となる温度t2を選択すると、120℃の条件が選択される。これにより、設定温度t1は、t1=t2(120℃)となる。
【0050】
ステップCでは、乾燥装置出口での固体燃料の含水率を測定し、限界含水率と比較する。仮に、測定された当該含水率が10質量%であり、また、120℃の乾燥用流体で処理した際の固体燃料の限界含水率が5質量%であった場合には、ステップBで設定された温度t1=120℃は変更されない。また、限界含水率の方より製造された固体燃料の含水率が低い場合には、限界含水率を実現する温度に温度t1を再設定する。
【0051】
図1のフロー図に示された各ステップA〜Cにより、乾燥用流体の温度(t1)を設定することにより、処理対象可燃物の乾燥中に処理対象可燃物に引火したり、乾燥工程中に発生する引火性揮発性物質に引火したり、さらには、製造された固体燃料の火災発生を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、引火性揮発性物質を含有する処理対象可燃物を、引火性の揮発性物質への引火防止と火災発生のリスクを低減しながら乾燥させると共に、製造された固体燃料がセメント焼成設備の燃費を低下させないセメント焼成用固体燃料の製造方法及び製造装置を提供することができる。
図1
図2