特許第6459903号(P6459903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6459903不純物分析方法及びシリコン単結晶製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6459903
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】不純物分析方法及びシリコン単結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20190121BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C30B29/06 502H
   G01N33/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-214888(P2015-214888)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-81806(P2017-81806A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
(72)【発明者】
【氏名】岡井 篤志
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−232104(JP,A)
【文献】 特開2013−129577(JP,A)
【文献】 特開2002−068886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
G01N 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZシリコン単結晶の不純物分析方法であって、
CZ法を用いて、ルツボにチャージしたシリコン原料を溶融した溶融液からシリコン単結晶を育成したあとに、等方性黒鉛材製のサンプリング容器を用いて、前記ルツボ内の溶融液が固化する前の液体状態の残湯をサンプリングし、該サンプリングされた溶融液中の不純物を分析し、
前記等方性黒鉛材製のサンプリング容器として、表面を熱分解炭素でコートされたものを用いることを特徴とする不純物分析方法。
【請求項2】
前記等方性黒鉛材製のサンプリング容器として、各不純物金属含有量が30ppbw以下のものを用いることを特徴とする請求項1に記載の不純物分析方法。
【請求項3】
前記等方性黒鉛材製のサンプリング容器で、残湯サンプルを採取した後、固化した残湯サンプルの入った前記等方性黒鉛材製サンプリング容器全体を、フッ化水素酸及び硝酸を含む混酸に接触させることにより、前記残湯サンプルを全量溶解して不純物を抽出し、その後、前記等方性黒鉛材製サンプリング容器を純水で酸を洗い流した後、クリーンルーム内で風乾し、再利用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の不純物分析方法。
【請求項4】
CZ法を用いて、ルツボにチャージしたシリコン原料を溶融した溶融液からシリコン単結晶を育成する工程と、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の不純物分析方法を用いて、育成したシリコン単結晶の不純物濃度を管理する工程と
を含むことを特徴とするシリコン単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物分析方法及びシリコン単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法(チョクラルスキー法)によるシリコン単結晶の製造方法では、石英ルツボに原料を仕込みこれを溶融したメルト(シリコン溶融液)からシリコン単結晶を育成する。従来、CZ法で育成された結晶は主にメモリーやロジックなどに用いられることが多かった。これらの微細化により要求される不純物のレベルがより低濃度化している。更には近年CZ結晶が用いられるようになってきたパワー用や撮像素子用などでは、問題となる不純物の種類や濃度が変化してきている。従って結晶中に含まれている不純物濃度を把握することが、以前にも増して重要になっている。
【0003】
シリコン結晶中に含まれる、微量の金属不純物を検出する手法として、例えば特許文献1に記載されている全溶解法が知られている。この方法ではフッ化水素酸および硝酸を用いて、試料となるシリコンを溶解し、対象となる金属不純物を抽出し、濃縮してICP−MS(結合誘導プラズマ質量分析計)により、不純物を計測する方法である。この方法であれば、育成した結晶からサンプルを切り出して測定するので、サンプルの準備が比較的簡便である。また、特許文献1にあるような高感度測定ができるようになっている。
【0004】
しかし、今後は含有不純物に関する要求は更に高度になることが予想され、高感度で簡便な評価方法が望まれてくると考えられる。より高感度の測定が可能な方法としては、特許文献2にある残湯分析方法が考えられる。この方法では、結晶を固化率(=結晶重量/原料重量)95%以上引上げた残りの溶融液(残湯)を分析する。結晶中に含まれる不純物は偏析現象により一般的に溶融液中の濃度より低くなる。
【0005】
ここで、偏析現象と固化率に関して簡単に説明する。Siが固化(結晶化)する際には融液中の不純物は結晶中に取り込まれにくい。この時の融液中の不純物濃度に対して結晶中に取り込まれる不純物濃度比を偏析係数kという。従ってある瞬間の結晶中の不純物濃度Cはその時の融液中の不純物濃度CとC=k×Cという関係にある。kは一般に1より小さい値であり、従って結晶中に取り込まれる不純物濃度は、溶融液中の不純物濃度よりも低い。結晶成長は連続的に行なわれるので不純物は融液中に多く残されることとなり、融液中の不純物濃度は徐々に高くなる。これに伴い結晶中の不純物濃度も高くなり、その濃度を初期の原料の重量に対する結晶化した重量を比率で表した固化率x、初期の融液中不純物濃度CL0を用いるとC(x)=CL0・k・(1−x)(k−1)と表される。
【0006】
従って、結晶育成後の溶融液中の不純物濃度は、最後に結晶化した結晶部分の濃度の1/k倍高濃度である。例えば鉄の場合偏析係数が8×10−6であるので、残湯中のFe濃度は結晶中濃度より約5桁多いことになる。また固化率が高ければ高いほど、溶融液重量に対して結晶中に取り込まれずに取り残される不純物の割合が高くなる。このような偏析現象を利用して結晶中の不純物を直接測るのではなく、溶融液中の不純物濃度を測定することで結晶中の不純物濃度を推定するのが残湯分析である。特許文献2に開示されたこれらの方法が開発された当時は、特許文献1に示した最新の全溶解法ほどの分析技術がなかったため、このような残湯分析が重要な技術であった。
【0007】
その後、分析技術の進歩により、溶融液中の濃度測定でなく、直接結晶中の濃度を測定することが行なわれてきた。しかし、近年では、より高度な要求に対応するため、改めて残湯分析方法による高感度分析が必要と考えられる。
【0008】
しかし、近年は結晶の大型化により残湯分析が難しいという問題がある。すなわち、ルツボの大型化とそこにチャージされる原料の高重量化のために固化率0.95以上を達成することは簡単ではない。たとえ固化率0.95以上を達成したとしても残湯量が多いという問題がある。例えばチャージ量100kgから結晶を育成した場合、固化率0.95の結晶育成後の残湯は5kgである。この5kgが固まって行く過程においても、偏析現象があるため、固化した後の塊中の不純物濃度は不均一である。
【0009】
シリコンは溶融液よりも固体の比重が軽いため一般には表面から固化していく。従って内部がどの様に固化していくかは把握することができない。そこで特許文献2の方法では固まった残湯全量を分析することが好ましいと記載されている。しかし一般に分析では多くて数百g程度しか分析できないので、5kgもの分析を行なうことは困難である。
【0010】
そこで、特許文献2中にも記載されているように、残湯の塊を細かく粉砕し、これを混ぜ合わせて平均化したものを測定する方法がある。しかし5kgを細かく砕くのはかなり困難であるし、粉砕に用いる道具によっては不純物を加えてしまうという問題もある。更には最近の直径約300mmの結晶を育成するためのチャージ量は300kgを超える量であり、固化率0.95での残湯量は15kgとなり、特許文献2に記載の残湯分析は実質不可能である。
【0011】
これを回避可能な方法として、特許文献3には、ルツボ内の残湯が固まる前の溶融液の状態で分析用のシリコンを回収することが記載されている。この方法を用いれば、ルツボ内に残った残湯が固まっておらず不純物濃度が均一であるので、固化した後に採取するよりは不純物濃度が適正なサンプル採取が可能である。ただ溶融液からサンプルを採取する際に、採取容器が割れてしまうという問題が発生しやすい。
【0012】
これに関しては特許文献4〜8で各種採取方法が開示されており、この問題の回避が図られてきた。しかしながら、これらの特許文献で使用するサンプリング治具は高純度の合成石英材や石英材から構成され、サンプリング時に容器内でメルトが固化する際の体積膨張によって破損してもサンプリングを可能とするものであり、容器破損は免れない。また、サンプリング後に、合成石英治具がサンプルに付着するため、これを剥離するためフッ化水素酸処理による合成石英層の除去工程が必要で、処理工数が増加するという問題もある。
【0013】
このような石英製サンプリング容器の問題に対して、特許文献9では、不活性ガスを含有したSi塊を残湯に落下させ、飛散した液を凝固回収する技術が開示されているが、このような方法では、高感度な分析をするのに十分な量のサンプルを採取するのが困難となる上、採取装置からの凝固回収サンプルの分離の手間、不活性ガス含有Si塊自体の純度の影響などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−236084号公報
【特許文献2】特開平02−259563号公報
【特許文献3】特開平05−232104号公報
【特許文献4】特開平08−193926号公報
【特許文献5】特開平06−298590号公報
【特許文献6】特開平06−341982号公報
【特許文献7】特開2001−021463号公報
【特許文献8】特開2006−266813号公報
【特許文献9】特開平06−281643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、不純物の分析感度を維持しながら、残湯サンプリング時にサンプリング容器が破損することを防止できる不純物分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、CZシリコン単結晶の不純物分析方法であって、CZ法を用いて、ルツボにチャージしたシリコン原料を溶融した溶融液からシリコン単結晶を育成したあとに、等方性黒鉛材製のサンプリング容器を用いて、前記ルツボ内の溶融液が固化する前の液体状態の残湯をサンプリングし、該サンプリングされた溶融液中の不純物を分析することを特徴とする不純物分析方法を提供する。
【0017】
このように、サンプリング容器として等方性黒鉛材製のものを用いることで、不純物の分析感度を維持しながら、残湯サンプリング時にサンプリング容器が破損することを防止することできる。また、これにより、サンプリング容器を複数回再生して使用することができるので、不純物分析のコストを低減することができる。
【0018】
このとき、前記等方性黒鉛材製のサンプリング容器として、各不純物金属含有量が30ppbw以下のものを用いることが好ましい。
【0019】
このような高純度のサンプリング容器を用いれば、より高感度の不純物分析を行うことができる。
【0020】
このとき、前記等方性黒鉛材製のサンプリング容器として、表面を熱分解炭素でコートされたものを用いることが好ましい。
【0021】
このように、等方性黒鉛製のサンプリング容器を、酸に安定で緻密な熱分解炭素でコートすることで、サンプル容器を繰り返し再生して使用した場合であっても、より効果的にサンプリング容器が破損することを防止できる。
【0022】
このとき、本発明の不純物分析方法では、前記等方性黒鉛材製のサンプリング容器で、残湯サンプルを採取した後、固化した残湯サンプルの入った前記等方性黒鉛材製サンプリング容器全体を、フッ化水素酸及び硝酸を含む混酸に接触させることにより、前記残湯サンプルを全量溶解して不純物を抽出し、その後、前記等方性黒鉛材製サンプリング容器を純水で酸を洗い流した後、クリーンルーム内で風乾し、再利用することができる。
【0023】
このようにして不純物を抽出すること、及び、サンプリング容器を再生することを本発明の不純物分析方法に好適に適用することができる。
【0024】
本発明はまた、CZ法を用いて、ルツボにチャージしたシリコン原料を溶融した溶融液からシリコン単結晶を育成する工程と、上記の不純物分析方法を用いて、育成したシリコン単結晶の不純物濃度を管理する工程とを含むことを特徴とするシリコン単結晶製造方法を提供する。
【0025】
このようなシリコン単結晶製造方法であれば、育成したシリコン単結晶の不純物濃度を高精度で管理できるとともに、不純物分析のコストを含めたシリコン単結晶の製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明の不純物分析方法であれば、不純物の分析感度を維持しながら、残湯サンプリング時にサンプリング容器が破損することを防止することできる。また、これにより、サンプリング容器を複数回再生して使用することができるので、不純物分析のコストを低減することができる。さらに、本発明のシリコン単結晶製造方法であれば、育成したシリコン単結晶の不純物濃度を高精度で管理できるとともに、不純物分析のコストを含めたシリコン単結晶の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の不純物分析方法の実施形態の一例を示すフロー図である。
図2】実施例1及び比較例における、各不純物金属濃度の分析結果を示す図である。
図3】実施例2及び実施例3における、サンプリング容器の繰り返し使用回数の増加に伴う不純物金属(鉄)の濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
上述したように、液体状態の残湯の各種採取方法が特許文献4〜8で開示されているが、これらの特許文献で使用するサンプリング治具は高純度の合成石英材や石英材から構成され、サンプリング時に容器内でメルトが固化する際の体積膨張によって破損してもサンプリングを可能とするものであり、容器破損は免れない。また、サンプリング後に、合成石英治具がサンプルに付着するため、これを剥離するためフッ化水素酸処理による合成石英層の除去工程が必要で、処理工数が増加するという問題もある。
【0030】
そこで、本発明者らは、不純物の分析感度を維持しながら、残湯サンプリング時にサンプリング容器が破損することを防止できる不純物分析方法について鋭意検討を重ねた。その結果、サンプリング容器として等方性黒鉛材製のものを用いることで、不純物の分析感度を維持しながら、残湯サンプリング時にサンプリング容器が破損することを防止することできることを見出し、本発明をなすに至った。
【0031】
まず、図1を参照しながら本発明の不純物分析方法について説明する。
【0032】
まず、CZ法を用いて、ルツボにチャージしたシリコン原料を溶融した溶融液からシリコン単結晶を育成したあとに、等方性黒鉛材製のサンプリング容器を用いて、ルツボ内の溶融液が固化する前の液体状態の残湯をサンプリングする(図1のS11参照)。
【0033】
より具体的には、シリコン単結晶を育成したあとに、ルツボ内に残った溶融液が固化する前の液体状態の残湯のうち、不純物分析を行うのに適した量(例えば、数百g程度)の残湯を、等方性黒鉛材(CIP材)製のサンプリング容器の中に採取する。
【0034】
このとき、等方性黒鉛材製のサンプリング容器として、各不純物金属含有量が30ppbw以下のものを用いることが好ましい。このような高純度のサンプリング容器を用いれば、サンプリング容器に含まれる不純物金属に起因する分析結果への影響を小さくできるので、より高感度の不純物分析を行うことができる。
【0035】
このとき、等方性黒鉛材製のサンプリング容器として、表面を熱分解炭素でコートされたものを用いることが好ましい。このように等方性黒鉛製のサンプリング容器を酸に安定で緻密な熱分解炭素でコートすることで、サンプル容器を繰り返し再生して使用した場合であっても、より効果的にサンプリング容器が破損することを防止できる。また、このようなサンプリング容器を用いることで、サンプリング容器の表面が緻密な熱分解炭素でコートされているために、残湯中のシリコンの等方性黒鉛材への含浸、及び、これによる表層のSiC化を防ぐことができるため、酸溶解後の洗浄のみで十分な清浄度を確保でき、洗浄後の純化処理を行うことなく再使用が可能であるため、従来の合成石英製のサンプリング容器と比較して分析コストを大幅に低減可能である。また、等方性黒鉛材製のサンプリング容器の表面コートは、SiCやTaCを用いることができる。その場合でも熱分解炭素コート時と同様に残湯中のシリコンの等方性黒鉛材への含浸を防ぐことができ、熱分解炭素よりも化学的安定性に優れるため、表層のSiC化の抑制はより一層の効果が出る。
【0036】
このようにサンプリングを行った後、サンプリングされた融液中の不純物を分析する(図1のS12参照)。
【0037】
具体的には、残湯サンプルを採取した後、残湯サンプルを冷却により固化させて、固化した残湯サンプルの入った等方性黒鉛材製サンプリング容器全体を、フッ化水素酸及び硝酸を含む混酸に接触させることにより、残湯サンプルを全量溶解して不純物を抽出する。混酸との接触は、サンプリング容器ごと残湯サンプルを混酸に浸漬することにより行うことができる。不純物の酸抽出後、微量の炭素粉は高純度ポリテトラフルオロエチレン製のフィルターでろ過除去し、ろ過除去後の抽出液を濃縮し、その後、例えば、ICP−MSまたはICP−OES(誘導結合プラズマ発光分光分析計)を用いて、各不純物金属濃度を分析する。その後、等方性黒鉛材製サンプリング容器を純水で酸を洗い流した後、クリーンルーム内で風乾し、等方性黒鉛材製サンプリング容器を再利用することができる。
【0038】
このように、固化した残湯サンプルの入った等方性黒鉛材製サンプリング容器全体を、フッ化水素酸及び硝酸を含む混酸に接触させることにより、残湯サンプルを全量溶解して不純物を抽出すれば、サンプリング容器として合成石英を用いた従来の不純物分析方法と比較して、合成石英層の除去工程が不要となるため、合成石英製容器を用いた際に問題となる、合成石英層除去時に固化した残湯表層の不純物が除去されることもなく、より厳密な不純物分析が可能となる。
【0039】
上記で説明した本発明の不純物分析方法であれば、サンプリング容器として等方性黒鉛材製のものを用いることで、不純物の分析感度を維持しながら、残湯サンプリング時にサンプリング容器が破損することを防止することできる。また、これにより、サンプリング容器を複数回再生して使用することができるので、不純物分析のコストを低減することができる。
【0040】
次に、本発明のシリコン単結晶製造方法について説明する。
【0041】
本発明のシリコン単結晶製造方法は、CZ法を用いて、ルツボにチャージしたシリコン原料を溶融した溶融液からシリコン単結晶を育成する工程と、上記で説明した不純物分析方法を用いて、育成したシリコン単結晶の不純物濃度を管理する工程とを含むものである。
【0042】
このようなシリコン単結晶製造方法であれば、育成したシリコン単結晶の不純物濃度を高精度で管理できるとともに、不純物分析のコストを含めたシリコン単結晶の製造コストを低減することができる。また、高いレベルで定常的な純度管理が可能となり、シリコンインゴットの高純度化、高品質化に繋がる。
【実験例】
【0043】
容器肉厚10mmの合成石英製および容器肉厚6mmの等方性黒鉛材製のサンプリング容器をルツボ内の溶融液に着液させて残湯サンプルを回収した後、サンプリング容器内の残湯が固化するまでの冷却時間を2時間、1時間、30分、10分、5分、2分とした際のサンプリング容器破損状況を調査した。調査結果を表1に示す。
【0044】
表1からわかるように、合成石英製のサンプリング容器では10分以下の冷却時間では容器がサンプル回収できない程破損し、冷却時間を2時間としても微少クラックによる破損がみられ、サンプリング時の破損は避けられなかった。それに対して、等方性黒鉛材製のサンプリング容器では冷却時間2分でも破損なく残湯を回収することができた。
【0045】
【表1】
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
内面に合成石英層を有する直径660mm(26インチ)の石英ルツボを用い、この石英ルツボに200kgの原料をチャージして、直径約200mmで重量が約150kgのシリコン結晶を育成した。シリコン結晶育成時には中心磁場強度4000Gの水平磁場を印加した。結晶引上げ後、引上げた結晶と同じ重量の原料をリチャージして、溶融し、再度直径約200mmで重量が約150kgの結晶を育成した。これを繰り返すことで7本のシリコン結晶を育成した。このときの総合固化率は約(7×150)/(200+150×6)=0.954であった。
【0048】
このシリコン結晶引上げ後に、側面に溶融液採取孔を有した、表面を熱分解炭素でコートした容器肉厚6mmの等方性黒鉛材製のサンプリング容器を用いて115gの分析用サンプルを採取した。
【0049】
残湯サンプリングの後、残湯固化までの時間は10min程度とした。得られたサンプルは、等方性黒鉛材製容器ごとフッ化水素酸及び硝酸を含む混酸に浸漬し、残湯サンプルを全量溶解して不純物を抽出した。その後、微量の黒鉛粉を高純度ポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、濃縮し、ICP−OESを用いて各不純物金属濃度を分析した。
【0050】
なお、サンプリング容器には、Ca、Vの含有量30ppbw以下で他の各金属不純物含有量は10ppbw以下の高純度等方性黒鉛材を用いた。
【0051】
(比較例)
実施例1で高純度等方性黒鉛材製サンプリング容器でサンプリングを実施した後、同じ残湯から、側面に溶融液採取孔を有した容器肉厚10mmの合成石英製のサンプリング容器を用いて110gの分析用サンプルを採取した。残湯サンプリングの後、容器破損を防止するため、1時間かけて残湯を固化させ、固化した残湯サンプルをサンプリング容器から分離して、サンプルを得た。得られたサンプルは、表面に付着した合成石英層をフッ化水素酸で除去した後、フッ化水素酸及び硝酸を含む混酸に全量溶解して不純物を抽出した後、濃縮し、ICP−OESを用いて各不純物金属濃度を分析した。
【0052】
なお、サンプリング容器には、各金属不純物含有量が10ppbw以下の合成石英を用いた。
【0053】
実施例1及び比較例で得られた分析結果を図2に示す。図2からわかるように、同じ融液からサンプル採取した実施例1及び比較例における分析結果は、サンプリング容器の材質によらず同等の不純物濃度が検出されており、高純度等方性黒鉛材製のサンプリング容器を用いても合成石英製と遜色ない高感度分析ができている。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様の引上げを実施した後の残湯より、表面をコートしない高純度等方性黒鉛材製のサンプリング容器を用いて、分析用サンプルを採取し、実施例1と同様の方法でFe濃度を分析した。また、分析時に残湯サンプルを全量溶解した後のサンプリング容器を超純水で酸を洗い流した後、クリーンルーム内で風乾し、同様のサンプリング、分析を繰り返し実施した。なお、種々の不純物元素を測定可能であるが、ここでは説明を簡便にするため、Feについてのみ記載する。
【0055】
(実施例3)
実施例2と同様にして、サンプリング、分析を繰り返し実施した。ただし、サンプリング容器として、表面を熱分解炭素でコートした高純度等方性黒鉛材製のサンプリング容器を用いた。
【0056】
実施例2及び3で得られた分析結果を図3に示す。図3からわかるように、熱分解炭素コート有無に関わらず繰り返し再生使用による不純物分析結果への影響はみられず、繰り返し再生使用しても同等の高感度分析が可能であることが確認された。ただし、熱分解炭素コートなし(実施例2)の場合には、繰り返し使用回数が6回目のサンプリング時にクラックが入って使用できなくなったのに対し、熱分解炭素コートあり(実施例3)の場合には、繰り返し使用回数が10回目でも問題なく使用することができた。これは、熱分解炭素コートなしの場合、高純度等方性黒鉛材表面が残湯中のシリコンの等方性黒鉛材への含浸およびSiOガスと反応によって表層がSiC化していくことで、昇温/冷却時の母材(等方性黒鉛)部と表層SiCの熱膨張率差によって破損するのに対し、緻密な熱分解炭素コートがある場合には、短時間のサンプリング中の残湯中のシリコンの等方性黒鉛材への含浸およびSiOガスによるSiC化は極僅かに抑制されるためである。なお、熱分解炭素コート部は母材(等方性黒鉛)部と熱膨張率差が小さいため、これによる破損は生じない。
【0057】
このように、等方性黒鉛材表面を熱分解炭素で被覆することで、より多くの回数再生使用が可能となり、不純物サンプリング分析のコストを大幅に低減することができる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3