(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記テトラアルコキシシランおよび/またはその重合体が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、平均重合度が2〜10のメチルシリケートおよび平均重合度が2〜10のエチルシリケートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の防曇性物品。
前記第1の硬化樹脂が硬化エポキシ樹脂であり、前記(A)成分が第1のポリエポキシド成分と、第1の重付加型硬化剤および/または第1の触媒型硬化剤とを含有し、前記(B)成分が有する官能基が、エポキシ基および/またはエポキシ基に対して反応性を有する基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の防曇性物品。
前記吸水材料は、第2の硬化エポキシ樹脂、第2のウレタン樹脂および第2の架橋アクリル樹脂から選ばれる第2の硬化樹脂の原料成分を含有する吸水層形成用組成物を用いて得られる請求項1〜8のいずれか1項に記載の防曇性物品。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
<防曇性物品>
本発明の防曇性物品は、基体と、前記基体の少なくとも一部の表面に配設された防曇膜とを有する防曇性物品であって、
前記防曇膜は、前記基体側から順に、低吸水性の下地材料からなる下地層および該下地材料より高い吸水性を有する吸水材料からなる吸水層を有し、
前記下地材料は、下記(A)〜(C)成分を含有する下地層形成用組成物を用いて得られることを特徴とする。
(A)第1の硬化樹脂の原料成分を100質量部、
(B)前記(A)成分に対して反応性を有する官能基(ただし、アミノ基を除く)と加水分解性基を有するシラン系カップリング剤を60〜200質量部、
(C)テトラアルコキシシランおよび/またはその重合体を酸化物換算で15〜50質量部。
【0013】
ここで、本明細書において硬化樹脂は、硬化性の原料成分が硬化して得られる硬化物をいう。硬化樹脂の原料成分は、少なくとも硬化性成分を含み、さらに硬化剤を含むことが好ましい。硬化剤としては、硬化樹脂の種類によるが、通常、重付加型硬化剤、縮合型硬化剤、触媒型硬化剤等が用いられる。また、硬化樹脂の原料成分が硬化する際には、該原料成分同士の架橋反応が起こり、得られる硬化樹脂は3次元網目構造を有する。
【0014】
本発明の、基体上に順に積層された下地層と吸水層を有する防曇膜を備えた防曇性物品においては、吸水層を構成する吸水材料が下地層を構成する下地材料よりも高い吸水性を有することで防曇性に優れるとともに、下地層を構成する下地材料の吸水性が相対的に低いことで下地層と基体との密着性の確保を可能としている。具体的には、吸水層は飽和吸水量が50mg/cm
3以上の吸水材料で構成することが好ましく、下地層は飽和吸水量が10mg/cm
3以下の下地材料で構成することが好ましい。なお、吸水層や下地層の吸水性は、各層の構成材料の飽和吸水量とともに、後述の吸水防曇性を指標として評価できる。
【0015】
さらに、下地層を構成する下地材料を、上記(A)〜(C)成分を含有する下地層形成用組成物を用いて得る、すなわち下地層を、該下地層形成用組成物を用いて形成することにより、下地層は耐湿性が良好であり、かつ酸性の水分による膨張が抑制された耐薬品性が良好な層となり、防曇膜としての耐久性を高めている。以下、テトラアルコキシシランおよび/またはその重合体を「テトラアルコキシシラン等」ということもある。
【0016】
上記下地層形成用組成物を用いて下地層が形成される際には、第1の硬化樹脂の原料成分の架橋反応により第1の硬化樹脂の3次元網目構造が形成されるとともに、テトラアルコキシシラン等の加水分解縮合反応による酸化ケイ素マトリックスが形成される。その際に、シラン系カップリング剤が有する官能基と硬化樹脂の原料成分が有する反応性基が結合するとともに、シラン系カップリング剤が有する加水分解性基とテトラアルコキシシラン等が有するアルコキシ基とが加水分解縮合反応して結合する。これらの反応により、得られる下地材料は全体として膨張に対して耐性のある構造となると考えられる。
【0017】
なお、下地層を形成するための下地層形成用組成物においては、得られる下地層の特性を改善するために上記構成とすることで、生産上不利となるポットライフの低減は認められず、防曇性物品の生産性に影響を及ぼすことはない。従来、後述する硬化樹脂の原料成分である硬化性成分と硬化剤と、シラン系カップリング剤と、テトラアルコキシシラン等とを含む下地層形成用組成物において、テトラアルコキシシラン等が一定量以上存在すると硬化樹脂の原料成分やシラン系カップリング剤が作用してテトラアルコキシシラン等のゲル化が促進されるため、これを一定量以上配合するとポットライフに問題が生じることがあった。また、ゲル化は、特に下地層形成用組成物中にアミン活性水素を有する成分が存在することで促進される。
【0018】
本発明においては、下地層形成用組成物中に存在させるシラン系カップリング剤の量を密着性の改善等に必要とされる量以上に配合して、シラン系カップリング剤をテトラアルコキシシラン等から形成される酸化ケイ素マトリックスと硬化樹脂とのカップリング剤として機能させるとともに、用いるシラン系カップリング剤についてはゲル化を促進するとされるアミン活性水素を含まないものとすることで、得られる下地層の特性の改善が可能でありかつポットライフの低減のない組成物とすることを実現したものである。
以下、防曇性物品を構成する要素を順に説明する。
【0019】
[1]基体
本発明の防曇性物品に用いられる基体としては、一般に防曇性の付与が求められている材質からなる基体であれば特に制限されない。好適には、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、またはこれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基体が挙げられる。より好適にはガラスもしくはプラスチックからなる透明基体、および鏡等が挙げられる。ガラスとしては、通常のソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられ、これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。また、プラスチックとしては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂やポリフェニレンカーボネート等の芳香族ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられ、これらのうちでもポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンカーボネート等が好ましい。
上記各種基体のうちでも、本発明においては、ガラスからなる基体が好ましく、ソーダライムガラスからなる基体が特に好ましい。
【0020】
基体の形状は特に制限されない。基体の形状としては、例えば、板状が挙げられる。板状としては、平板でもよく、全面または一部が曲率を有する形状であってもよい。基体が板状の場合その厚さは防曇性物品の用途により適宜選択できるが、一般的には1〜10mmであることが好ましい。
【0021】
また、基体は、表面に反応性基を有することが好ましい。反応性基としては、親水性基が好ましく、親水性基としては水酸基が好ましい。また、基体に酸素プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理等を施し、表面に付着した有機物を分解除去したり、表面に微細な凹凸構造を形成させたりすることにより、基体表面を親水性としてもよい。なお、ガラスや金属酸化物は通常、表面に水酸基を有している。
【0022】
また、基体は、本発明の防曇性物品においてその表面に形成される下地層との密着性を高める目的で、ガラス等の基体の表面にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物薄膜や有機基含有金属酸化物薄膜が設けられたものでもよい。
【0023】
上記金属酸化物薄膜は、加水分解性基を有する金属化合物を用い、ゾルゲル法等公知の方法で形成することができる。金属化合物としては、テトラアルコキシシラン、テトライソシアネートシラン、またそのオリゴマー(すなわち、その部分加水分解縮合物)等が好ましい。
【0024】
また、有機基含有金属酸化物薄膜は、有機金属系カップリング剤で基体表面を処理することにより得られる。有機金属系カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が使用でき、シラン系カップリング剤を用いるのが好ましい。
【0025】
[2]防曇膜
本発明の防曇性物品において、上記基体の少なくとも一部の表面に形成される防曇膜は、基体側から下地層、吸水層の順に構成される。
【0026】
[2−1]下地層
上記防曇膜が有する下地層は、上記基体上、かつ後述の吸水層の基体側に形成される、すなわち基体と吸水層の間に形成される低吸水性の下地材料からなる層である。ここで、吸水性が低いとは吸水層を構成する吸水材料との比較において吸水性が低いことを意味する。
【0027】
下地層を構成する下地材料は、飽和吸水量が10mg/cm
3以下であることが好ましく、8mg/cm
3以下がより好ましく、7mg/cm
3以下が特に好ましい。なお、飽和吸水量は、具体的には以下の方法で測定される材料の吸水性能を測る物性値である。上に説明したとおり、基体と防曇膜、実際には基体と下地層との接着界面において膨張・収縮の程度差を小さくし、基体から防曇膜が剥離するのを防止する観点から、下地層を構成する下地材料の飽和吸水量を上記の値に設定することが好ましい。一方、防曇膜内で下地層と吸水層との膨張・収縮の程度差を小さくする観点から、下地層を構成する下地材料の飽和吸水量は、1mg/cm
3以上が好ましく、3mg/cm
3以上がより好ましい。
【0028】
(飽和吸水量の測定方法)
3cm×4cm×厚さ2mmのソーダライムガラス基体に検体となる材料の層(以下「材料層」)を設け、これを10℃、95〜99%RHの環境の恒温恒湿槽に2時間放置し、取り出した後、微量水分計を用いて材料層付き基体全体の水分量(I)を測定する。さらに、上記基体のみについて同様の手順で水分量(II)を測定する。上記水分量(I)から水分量(II)を引いた値を材料層の体積で除した値を飽和吸水量とする。なお、水分量の測定は、微量水分計FM−300(商品名、ケット科学研究所社製)によって次のようにして行う。測定サンプルを120℃で加熱し、サンプルから放出された水分を微量水分計内のモレキュラーシーブスに吸着させ、モレキュラーシーブスの質量変化を水分量として測定する。また、測定の終点は、25秒間当たりの質量変化が0.05mg以下となった時点とする。
【0029】
なお、飽和吸水量は下地層を構成する下地材料の吸水性を示す指標であるが、下地層を構成する下地材料と層の厚さによる下地層自体の吸水性を示す指標として、本明細書においては、必要に応じて、以下に定義する「吸水防曇性」を用いるものである。
吸水防曇性は、上記と同様に準備された材料層付き基体を、20℃、50%RHの環境下に1時間放置した後、該材料層の表面を35℃の温水浴上に翳した際の、目視において曇りが認められるまでの防曇時間(秒)で示される。
【0030】
本発明の防曇性物品に設けられる下地層の吸水性について、上記吸水防曇性を指標として示せば、該下地層の吸水防曇性は10秒以下が好ましく、7秒以下がより好ましく、3秒以下が特に好ましい。なお、上記飽和吸水量と同様、防曇膜内で下地層と吸水層との膨張・収縮の程度差を小さくする観点から、下地層の吸水防曇性は1秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。
【0031】
上記下地層を構成する下地材料の飽和吸水量と下地層の吸水防曇性との関係から、本発明の防曇性物品に係る下地層の膜厚は、1μm以上が好ましく、より好ましくは1.5μm以上である。下地層の膜厚が1μm以上であれば、基体から防曇膜が剥離するのを防ぐことが可能となり、結果として、耐酸性および耐湿性に優れる防曇性物品が得られる。また、吸水層の膨張・収縮に起因して界面に発生する応力を緩和するという理由から、下地層の膜厚は、より好ましくは1.5μm以上である。また、下地層の膜厚は、材料コスト低減と良品率向上の観点から、8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。
ここで、防曇性物品において下地層に求められる耐剥離性は用途により異なるため、求められる性能に即して適宜下地層の設計を変更すればよい。
【0032】
下地層を構成する下地材料は、下記(A)〜(C)成分を含有する下地層形成用組成物から得られる。言い換えれば、下地層は、該下地層形成用組成物を用いて形成される。
(A)第1の硬化樹脂の原料成分を100質量部、
(B)前記(A)成分に対して反応性を有する官能基(ただし、アミノ基を除く)と加水分解性基を有するシラン系カップリング剤(以下、単に「(B)シラン系カップリング剤」と示すこともある。)を60〜200質量部、
(C)テトラアルコキシシランおよび/またはその重合体(以下、「(C)テトラアルコキシシラン等」とも示す。)を酸化物換算で15〜50質量部。
【0033】
下地層形成用組成物が上記(A)〜(C)成分を含有することで、得られる下地材料は全体として膨張に対して耐性のある構造となり、防曇膜の耐薬品性および耐湿性に寄与できる。また、基体に対する防曇膜の密着性も良好となり防曇膜全体としての耐久性を高めている。
【0034】
また、下地層を形成するための下地層形成用組成物においては、得られる下地層の特性を改善するために上記構成とすることで、生産上不利となるポットライフの低減は認められず、防曇性物品の生産性に影響を及ぼすことはない。
【0035】
なお、下地層形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記(A)〜(C)成分以外の固形成分を含んでいてもよい。固形成分とは、下地層形成用組成物が含有する成分のうち下地材料自体となる成分、すなわち下地層を形成する成分を指し、溶剤等の揮発成分を除去して残った成分をいう。
【0036】
上記のとおり、このような下地層形成用組成物を用いて下地材料を得る際には、以下の3つの反応が並行して行われる。
(i)(A)成分の架橋反応により第1の硬化樹脂の3次元網目構造が形成される。
(ii)(C)成分の加水分解縮合反応により酸化ケイ素マトリックスが形成される。
(iii)(B)成分が一方の末端で第1の硬化樹脂に結合し、他方の末端で酸化ケイ素マトリックスに結合する。
したがって、(A)〜(C)成分による上記(i)〜(iii)の反応により得られる下地材料は、(A)〜(C)成分が互いに結合した3次元網目構造を有する材料といえる。
【0037】
なお、下地層形成用組成物がさらに別の反応性成分を含有する場合には、下地材料として(A)〜(C)成分および該反応性成分が互いに結合した3次元網目構造を有する材料が得られる。また、非反応性の成分を含有する場合には、(A)〜(C)成分が互いに結合した3次元網目構造の間に該非反応性の成分が取り込まれた材料が得られる。
【0038】
(A)第1の硬化樹脂の原料成分
下地層形成用組成物は第1の硬化樹脂の原料成分を含有する。
第1の硬化樹脂としては、第1の硬化エポキシ樹脂、第1のウレタン樹脂または第1の架橋アクリル樹脂等が挙げられる。なお、以下の説明において、第1の硬化樹脂に係る硬化性成分および硬化剤を言う場合は全て「第1の…」という。
【0039】
第1の硬化エポキシ樹脂は、例えば、第1のポリエポキシド成分と第1の硬化剤を含む組成物の反応により得られる。第1のウレタン樹脂は、例えば、第1のポリイソシアネートと第1のポリオールを含む組成物の反応により得られる。第1の架橋アクリル樹脂は、例えば、第1の架橋性(メタ)アクリルポリマーと第1のアクリル樹脂用硬化剤とを含む組成物の反応により得られる。
【0040】
本明細書において、ポリエポキシドとは、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物をいう。ポリエポキシドは低分子化合物、オリゴマー、ポリマーを含む。ポリエポキシド成分は少なくとも1種のポリエポキシドから構成される硬化性成分である。
【0041】
また、硬化エポキシ樹脂の硬化剤は、ポリエポキシドの有するエポキシ基と反応する反応性基を1分子中に2個以上有する化合物であって、反応によりポリエポキシドに重付加するタイプの重付加型硬化剤、反応によりポリエポキシドと重縮合するタイプの縮合型硬化剤、および、ルイス酸等の反応触媒であって、ポリエポキシド同士の重合反応を触媒する触媒型硬化剤を包含する用語として用いる。なお、触媒型硬化剤には熱硬化型と光硬化型があるがこれを合わせて触媒型硬化剤という。
【0042】
上記硬化エポキシ樹脂は、ポリエポキシドが重付加型硬化剤等により架橋し3次元化した構造、および/またはポリエポキシド同士が3次元的に重合した構造を有する。
【0043】
本明細書において、ポリイソシアネートとは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物をいう。ポリイソシアネートは低分子化合物、オリゴマー、ポリマーを含む。また、ポリオールは、1分子中に2個以上のアルコール性水酸基等の活性水素基を有する概ね分子量が200以上の高分子化合物をいう。ウレタン樹脂とは、上記ポリイソシアネートとポリオールが架橋反応して得られる硬化物をいう。ウレタン樹脂においては通常、ポリオールが硬化性成分とされ、ポリイソシアネートが硬化剤とされる。ウレタン樹脂は、ポリオールがポリイソシアネートにより架橋し3次元化した構造を有する。
【0044】
本明細書において、架橋性(メタ)アクリルポリマーとは、アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル等から選ばれる(メタ)アクリル酸化合物を(共)重合して得られる(共)重合体であって、1分子中に2個以上の架橋性基を有する化合物である。なお、架橋性(メタ)アクリルポリマーは、全重合単位に対して10モル%未満の(メタ)アクリル酸化合物以外のモノマー由来の重合単位を含んでいてもよい。アクリル樹脂用硬化剤とは、架橋性(メタ)アクリルポリマーが有する架橋性基と反応性を有する官能基を1分子中に2個以上有する化合物をいう。架橋アクリル樹脂とは、上記架橋性(メタ)アクリルポリマーとアクリル樹脂用硬化剤が架橋反応して得られる硬化物をいう。ここで、「重合単位」とは、重合性の反応基を有する化合物であるモノマーの重合反応により形成される最少の繰り返し単位をいう。
【0045】
架橋アクリル樹脂は、架橋性(メタ)アクリルポリマーがアクリル樹脂用硬化剤により架橋し3次元化した構造を有する。本明細書における「(メタ)アクリル…」とは、「メタクリル…」と「アクリル…」の総称である。(メタ)アクリロキシ…もこれと同様である。
【0046】
本発明において、上記の第1の硬化樹脂の種類は、後述する吸水層を構成する吸水材料の作製に用いる第2の硬化樹脂と同種となるように選択されることが、吸水層および下地層の層間の密着性の観点から好ましい。以下、各硬化樹脂について説明する際には、吸水層を構成する吸水材料の作製に用いる第2の硬化樹脂が第1の硬化樹脂と同種であるとして説明する。ただし、必要に応じて、第2の硬化樹脂と第1の硬化樹脂が異なる種類の硬化樹脂同士の組合せであってもよい。
【0047】
(第1の硬化エポキシ樹脂)
第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分としては、第1の硬化性成分である第1のポリエポキシド成分と第1の硬化剤の組合せが好ましい。第1の硬化剤としては、第1の触媒型硬化剤および/または第1の重付加型硬化剤が好ましい。すなわち、第1の硬化エポキシ樹脂は、第1のポリエポキシド成分と、第1の触媒型硬化剤または第1の重付加型硬化剤もしくはその両方を反応させて得られるポリエポキシド同士またはポリエポキシドと重付加型硬化剤が3次元的に重合した構造を有する樹脂であることが好ましい。
【0048】
<第1のポリエポキシド成分>
第1の硬化エポキシ樹脂に用いる第1のポリエポキシド成分としては、得られる下地材料の吸水性が上記好ましい範囲となるように、通常、硬化エポキシ樹脂の原料成分として用いられるグリシジルエーテル系ポリエポキシド、グリシジルエステル系ポリエポキシド、グリシジルアミン系ポリエポキシド、環式脂肪族ポリエポキシド等から適宜選択したポリエポキシドを用いることが可能である。
【0049】
第1のポリエポキシド成分として用いるポリエポキシドについて、その分子量は特に制限されないが、下地層形成用組成物として基体上に塗布する際の濡れ広がりの不足、塗膜の凹凸化などの外観不良回避の観点から、概ね200〜2000程度の分子量のポリエポキシドが好ましい。また、第1のポリエポキシド成分におけるポリエポキシドの1分子当たりのエポキシ基の数は、平均して2個以上であれば特に制限されないが、2〜10個であることが好ましく、2〜8個がより好ましく、2〜6個がさらに好ましい。
【0050】
なお、本明細書において分子量は、特に断りのある場合を除いて、質量平均分子量(Mw)をいう。また、本明細書における質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレンを標準とする質量平均分子量をいう。
【0051】
第1のポリエポキシド成分としては、脂肪族ポリエポキシド、脂環族ポリエポキシド、芳香族ポリエポキシドのいずれであってもよいが、例えば、芳香族ポリエポキシドを選択することにより、得られる下地材料の3次元網目構造を硬く、また空間を小さくすることで吸水性を低くすることが可能である。脂肪族または脂環族(以下、「脂肪族/脂環族」と示す)ポリエポキシドであっても架橋点(3次元網目構造の分岐点)の数を多くすれば、得られる下地材料が緻密な3次元網目構造となり、保水のための空間が小さくなるため吸水性が低くなると考えられる。
【0052】
第1のポリエポキシド成分として用いる脂肪族/脂環族ポリエポキシドとして、具体的には、脂肪族/脂環族ポリオール類由来の脂肪族/脂環族グリシジルエーテル系ポリエポキシド、脂肪族/脂環族グリシジルエステル系ポリエポキシド等が挙げられる。脂肪族/脂環族ポリオール類由来の脂肪族/脂環族グリシジルエーテル系ポリエポキシドが好ましい。
【0053】
上記本発明に好ましく用いられる脂肪族/脂環族グリシジルエーテル系ポリエポキシドとして、具体的には、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリソルビトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0054】
脂環族ポリエポキシドは、環の隣接した炭素原子間に酸素原子が結合した脂環族炭化水素基(2,3−エポキシシクロヘキシル基等)を有するポリエポキシドであり、具体的には、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等が挙げられる。
【0055】
上記第1のポリエポキシド成分として用いる芳香族ポリエポキシドとして、好ましくは、フェノール性水酸基がグリシジルオキシ基に置換した構造のポリエポキシドが挙げられる。具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビス(4−グリシジルオキシフェニル)等のビスフェノール型ジグリシジルエーテル類、フェノールノボラック型ジグリシジルエーテル類、クレゾールノボラック型ジグリシジルエーテル類、フタル酸ジグリシジルエステル等の芳香族ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル類等が挙げられる。これらの芳香族ポリエポキシドのうちでは、第1のポリエポキシド成分として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテルが好ましく用いられる。
【0056】
第1のポリエポキシド成分において、得られる下地材料の架橋点の数を多くして吸水性を低く制御するためには、例えば、第1のポリエポキシド成分が脂肪族ポリオール類由来の脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシドである場合には、そのエポキシ当量(1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数[g/eq]、以下、単位は省略する。)は、100〜250であることが好ましく、150〜200であることがより好ましい。
第1のポリエポキシド成分はこれらのポリエポキシドの1種から構成されてもよく、2種以上から構成されてもよい。
【0057】
なお、上記第1のポリエポキシド成分を構成しうるポリエポキシドとしては、市販品を用いることが可能である。このような市販品として、具体的には、ナガセケムテックス社製のいずれも商品名で、グリセロールポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−313(分子量(Mw):383、エポキシ当量:141)、デナコールEX−314(分子量(Mw):454、エポキシ当量:144)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−512(分子量(Mw):630、エポキシ当量:168)等が挙げられる。
【0058】
また、脂肪族ポリグリシジルエーテルである、デナコールEX−1410(分子量(Mw):988、エポキシ当量:160)、デナコールEX−1610(分子量(Mw):1130、エポキシ当量:165)、デナコールEX−610U(分子量(Mw):1408、エポキシ当量:210)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルであるデナコールEX−521(分子量(Mw):1294、エポキシ当量:179)、ソルビトールポリグリシジルエーテルとして、デナコールEX−614B(分子量(Mw):949、エポキシ当量:171)等が挙げられる。
【0059】
芳香族ポリエポキシドの市販品として具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとして、jER828(商品名、三菱化学社製、分子量(Mw):340、エポキシ当量:190)、ビスフェノールFジグリシジルエーテルとして、アデカレジンEP4901(商品名、アデカ社製)等が挙げられる。
【0060】
<第1の触媒型硬化剤>
上記第1のポリエポキシド成分とともに用いられる第1の触媒型硬化剤としては、ルイス酸等の反応触媒であって、ポリエポキシド同士の重合反応を触媒する触媒型硬化剤であれば特に制限なく使用できる。
【0061】
第1の触媒型硬化剤を用いることにより、第1のポリエポキシド成分同士の重合反応による架橋の速度を加速する効果や、架橋部位に発生する不具合を低減する効果が得られる。架橋部位の不具合の一例としては、熱負荷による架橋部位の変質による、硬化エポキシ樹脂の発色が挙げられる。
【0062】
第1の触媒型硬化剤として、具体的には、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ルイス酸類、オニウム塩類、ホスフィン類等の硬化触媒が挙げられる。より具体的には、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、三フッ化ホウ素−アミン錯体、p−トルエンスルホン酸メチル、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。第1の触媒型硬化剤としては、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
なお、上に例示した、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等のオニウム塩は、紫外線等の光により分解してルイス酸触媒を発生する触媒型硬化剤であり、通常、光硬化性の硬化エポキシ樹脂を与える触媒型硬化剤として用いられる。
【0064】
本発明に用いる、第1の触媒型硬化剤としては、これらのうちでも、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物が好ましい。
【0065】
第1の触媒型硬化剤は市販品を用いることも可能である。このような市販品として、例えば、光硬化型の触媒型硬化剤であるトリアリールスルホニウム塩として、アデカオプトマーSP152(商品名、ADEKA社製)等が挙げられる。
【0066】
第1の触媒型硬化剤の使用量は、第1のポリエポキシド成分100質量%に対して1.0〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。第1のポリエポキシド成分100質量%に対する第1の触媒型硬化剤の使用量を1.0質量%以上とすれば、反応が十分に進行し、得られる下地材料において、耐湿性や耐薬品性等の十分な耐久性が実現できる。また、第1のポリエポキシド成分100質量%に対する第1の触媒型硬化剤の使用量が20質量%以下であれば、得られる第1の硬化エポキシ樹脂中に第1の触媒型硬化剤の残渣が存在して硬化エポキシ樹脂が黄変する等の外観上の問題の発生を抑制しやすい。
【0067】
<第1の重付加型硬化剤>
第1の重付加型硬化剤は、上記第1のポリエポキシド成分を構成するポリエポキシドが有するエポキシ基と反応する反応性基を有する化合物であって、反応によりポリエポキシドに重付加するタイプの硬化剤であれば特に制限されない。
【0068】
第1の重付加型硬化剤における、上記エポキシ基と反応する反応性基としては、活性水素を有するフェノール基や酸無水物が挙げられる。本発明においては、このような反応基を有する化合物として、酸無水物が好ましく用いられる。第1の重付加型硬化剤としては、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0070】
第1の重付加型硬化剤は市販品を用いることも可能である。このような市販品として、具体的には、メチルテトラヒドロ無水フタル酸として、HN−2200(商品名、日立化成株式会社製)等が挙げられる。なお、メチルテトラヒドロ無水フタル酸には異性体が存在するが、異性体間で重付加型硬化剤としての作用に差はない。したがって、メチルテトラヒドロ無水フタル酸の使用に際しては、異性体混合物を使用してもよい。
【0071】
第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分における上記第1のポリエポキシド成分と上記第1の重付加型硬化剤の含有割合は、第1のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第1の重付加型硬化剤の反応性基の当量比が0.01〜1.2になる割合であることが好ましく、0.01〜1.0がより好ましい。
【0072】
本発明に用いる第1の硬化エポキシ樹脂を得る際に、上記第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤を組み合わせて用いる場合には、これらに加えて第1の触媒型硬化剤をともに用いることが好ましい。第1の重付加型硬化剤と第1の触媒型硬化剤を組み合わせて用いる場合、第1の重付加型硬化剤が酸無水物を含み、第1の触媒型硬化剤がイミダゾール化合物を含むことが好ましい。第1の触媒型硬化剤を用いることにより、第1のポリエポキシド成分と第1の重付加型硬化剤の重付加反応による架橋の速度を加速する効果が得られるためである。
【0073】
第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分における第1の硬化剤は、第1の触媒型硬化剤または第1の重付加型硬化剤またはその両方からなることが好ましい。ただし、ポリアミン等のアミン系重付加型硬化剤は、(C)テトラアルコキシシラン等のゲル化を促進するため含有しないことが好ましい。
【0074】
第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分においては、例えば、第1の触媒型硬化剤として用いるイミダゾール化合物のようにアミン活性水素を分子内に1個有する化合物を含んでいてもよい。ただし、第1の触媒型硬化剤がアミン活性水素を有する化合物を含有する場合には、(C)テトラアルコキシシラン等のゲル化を抑制する観点から、該アミン活性水素を先にエポキシ基と反応させて3級アミン化しておくことが好ましい。
【0075】
以上、第1の硬化樹脂として第1の硬化エポキシ樹脂を用いる場合について説明した。第1の硬化エポキシ樹脂以外の第1の硬化樹脂、例えば、第1のウレタン樹脂および第1の架橋アクリル樹脂についても、その原料成分として、防曇膜における吸水層の下地層として用いられる従来公知の硬化樹脂における硬化性成分と硬化剤の組合せを挙げることができる。
【0076】
下地層形成用組成物における(A)第1の硬化樹脂の原料成分の含有量は、固形分全量に対して20〜50質量%が好ましく、24〜48質量%がより好ましい。含有量の範囲を上記範囲とすることで、耐薬品性及び耐湿性に優れた膜となる。
【0077】
(B)シラン系カップリング剤
下地層形成用組成物は、(B)シラン系カップリング剤を上記(A)成分の100質量部に対して60〜200質量部の割合で含有する。下地層形成用組成物について、他の要件と合わせて、(B)シラン系カップリング剤の含有量の範囲を上記範囲とすることで、得られる下地材料は全体として膨張に対して耐性のある構造となり、耐湿性および耐薬品性が良好かつ上記のような適度な吸水性を有する下地層が形成可能となる。
【0078】
(B)シラン系カップリング剤は、上記(A)成分に対して反応性を有する官能基(ただし、アミノ基を除く)と加水分解性基を有するシラン化合物である。(B)シラン系カップリング剤が有する官能基は、(A)の第1の硬化樹脂の原料成分の種類による。第1の硬化樹脂が第1の硬化エポキシ樹脂であって、原料成分として第1のポリエポキシド成分と第1の触媒型硬化剤および/または第1の重付加型硬化剤の組合せを用いる場合には、上記(A)成分に対して反応性を有する官能基(ただし、アミノ基を除く)は、第1のポリエポキシド成分に対して反応性を有する基、具体的にはエポキシ基および/またはエポキシ基に対して反応性を有する基が好ましい。
【0079】
また、第1の硬化樹脂が第1のウレタン樹脂の場合、その原料成分が有する反応性基はアルコール性水酸基等の活性水素基およびイソシアネート基であり、(B)シラン系カップリング剤が有する官能基は、該活性水素基および/またはイソシアネート基に反応性を有する基となる。第1の架橋アクリル樹脂の場合、その原料成分が有する反応基は架橋性(メタ)アクリルポリマーが有する架橋性基、およびアクリル樹脂用硬化剤が有する上記架橋性基に対して反応性を有する官能基あり、(B)シラン系カップリング剤が有する官能基は、該架橋性基および/または該官能基に反応性を有する基となる。
【0080】
なお、(B)シラン系カップリング剤が有する(A)成分に対して反応性を有する官能基とは、(A)成分が有する反応性基自体を含む。例えば、第1の硬化エポキシ樹脂において、ポリエポキシド同士の重合反応により硬化エポキシ樹脂を得る場合には、エポキシ基に対してエポキシ基が反応するためである。
【0081】
(B)シラン系カップリング剤としては、具体的には、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。以下、式(1)で表される化合物を化合物(1)ということもある。
【0082】
R
1SiR
2nX
13−n ……(1)
(式(1)中、R
1は、末端にエポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基または塩素原子を有する炭素数1〜10の1価の有機基を、R
2は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を、nは0または1の整数を、X
1は互いに同一であっても異なってもよい加水分解性基を、それぞれ示す。)
式(1)中、R
2は、メチル基またはエチル基であることがより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0083】
X
1は、加水分解性基であり、具体的には、塩素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、が挙げられる。これらのなかでも、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。ケイ素原子に結合する加水分解性基は2個または3個であり、2個または3個の加水分解性基は同一であっても異なってもよい。
【0084】
式(1)中、R
1の炭素数は末端基の炭素数を含む炭素数であり、好ましい炭素数は末端基により異なる。末端がビニル基の場合、好ましい炭素数は2〜8であり、2がより好ましい。末端がエポキシ基の場合は、エポキシ基を含む末端基としてグリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基が好ましく、これらとケイ素原子を結合する連結基として、炭素数2〜5アルキレン基を有する構造(ただし、R
1全体としての炭素数は10以下である。)が好ましく、連結基はエチレン基、プロピレン基が特に好ましい。
【0085】
R
1が、ビニル基、エポキシ基以外の末端基を有する場合は、末端基とケイ素原子を結合する連結基として、炭素数2〜5のアルキレン基を有する構造(ただし、R
1全体としての炭素数は10以下である。)が好ましく、連結基はエチレン基、プロピレン基が特に好ましい。R
1が末端に塩素原子を有する場合、塩素原子数は1が好ましく、R
1としては2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基が好ましい。
【0086】
化合物(1)において、R
1が末端に有する基(以下、「R
T1基」ともいう。)が、上記(A)成分に対して反応性を有する官能基(ただし、アミノ基を除く)に相当する。したがって、R
1は(A)成分の種類により適宜選択される。
【0087】
(A)成分が第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分、例えば第1のポリエポキシド成分と第1の触媒型硬化剤および/または第1の重付加型硬化剤からなる場合に、(B)シラン系カップリング剤として用いるのが好ましいエポキシ基および/またはエポキシ基に対して反応性を有する基を有する化合物(1)を化合物(1a)として以下に説明する。
【0088】
化合物(1a)のR
T1基は、第1のポリエポキシド成分が有するエポキシ基に対して反応性を有する官能基、またはエポキシ基に対して(自己)重合反応する官能基、またはエポキシ基または開環したエポキシ基に対して相互作用を発現する官能基であり、具体的には、エポキシ基またはエポキシ基に対して反応性の基(ただし、アミノ基を除く)である。この場合、R
T1基としては、エポキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、カルボキシル基、フェノール基が好ましく、エポキシ基が特に好ましい。
【0089】
下地層形成用組成物において(B)シラン系カップリング剤として用いる化合物(1a)は1種を単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。化合物(1a)を1種で使用する場合は、R
T1基としてエポキシ基を有する化合物(1a)が好ましい。2種以上の化合物(1a)を用いる場合には、少なくとも1種はR
T1基がエポキシ基である化合物(1a)が好ましい。
【0090】
化合物(1a)として、具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が好ましい。
【0091】
(A)成分が第1のウレタン樹脂の原料成分の場合には、化合物(1)が有するR
T1基として、イソシアネート基、等が好ましい。(A)成分が第1の架橋アクリル樹脂の原料成分の場合には、化合物(1)が有するR
T1基として、該原料成分が有する架橋基、官能基等と同じ基が好ましい。
【0092】
下地層形成用組成物における、(B)シラン系カップリング剤の含有量は、(A)成分の100質量部に対して60〜200質量部であり、60〜150質量部が好ましく、65〜100質量部がより好ましい。
【0093】
(C)テトラアルコキシシランおよび/またはその重合体
下地層形成用組成物は、(C)テトラアルコキシシラン等を上記(A)成分の100質量部に対して15〜50質量部の割合で含有する。下地層形成用組成物における、(C)テトラアルコキシシラン等の含有量は、(A)成分の100質量部に対して酸化物換算で15〜40質量部が好ましく、15〜25質量部がより好ましい。
【0094】
下地層形成用組成物において、上記(B)成分の含有量を上記範囲とした上で、(C)テトラアルコキシシラン等の含有量の範囲を上記範囲とすることで、得られる下地材料は全体として膨張に対して耐性のある構造となり、耐湿性および耐薬品性が良好かつ上記のような適度な吸水性を有する下地層が形成可能となる。また、それにより、防曇膜としての耐久性を高めることが可能となる。
【0095】
さらに、下地層形成用組成物が(C)テトラアルコキシシラン等を含有することにより、下地層と、基体および吸水層との反応点が増えて、密着性が一層向上し、得られる下地層の耐候性を高めることができる。さらに、(C)テトラアルコキシシラン等を含有すると、下地層形成用組成物の粘度が低下し、(A)第1の硬化樹脂の原料成分による架橋反応がより均一に実行可能となる。
【0096】
ここで、一般に下地層形成用組成物のような硬化樹脂の原料成分やその他の反応性成分を含む組成物にテトラアルコキシシラン等を上記の量で配合すると、硬化樹脂の原料成分やその他の反応性成分が有する反応性基の作用によりテトラアルコキシシラン等のゲル化が促進される場合がある。
【0097】
本発明においては、下地層形成用組成物が含有する(B)シラン系カップリング剤について、(C)テトラアルコキシシラン等のゲル化を促進する反応性基を有しない構成とするとともに、好ましくは(A)第1の硬化樹脂の原料成分についても、(C)テトラアルコキシシラン等のゲル化を促進する反応性基の含有量を制限することで、(C)テトラアルコキシシラン等のゲル化を抑制している。これにより、下地層形成用組成物におけるポットライフは十分に長く、防曇性物品の生産性に影響を及ぼすことはない。
【0098】
本発明に用いるテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランがより好ましい。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種が併用されてもよい。
【0099】
テトラアルコキシシランの重合体としては、テトラメトキシシランの重合体であるメチルシリケート、テトラエトキシシランの重合体であるエチルシリケートが好ましく、平均重合度が2〜10のメチルシリケートおよび平均重合度が2〜10のエチルシリケートがより好ましい。
これらは、テトラアルコキシシランとその重合体の混合物として下地層形成用組成物に配合してもよい。
【0100】
(下地層形成用組成物)
本発明の防曇性物品の防曇膜における下地層は、上記(A)〜(C)の反応性成分を含有する下地層形成用組成物を用い、これを反応させて得られる下地材料からなる層である。下地層形成用組成物は上記(A)〜(C)成分の他に、通常、(D)溶剤を含有する。さらに、(C)テトラアルコキシシラン等の反応を促進させるために、酸やアルカリ等の触媒を含有することが好ましい。
【0101】
通常、下地材料を得るための下地層形成用組成物を用いた反応は、下地層形成用組成物を塗布面(基体上)に塗布後行われる。ここで、上記のように下地層形成用組成物が(D)溶剤を含む場合には、塗布面に塗布する前の組成物中で下地層形成用組成物が含有する上記(A)〜(C)の反応性成分を予めある程度反応(以下、「予備反応」ともいう。)させ、その後塗布面に塗布し、乾燥後、さらに反応させてもよい。
【0102】
このように下地層形成用組成物として(D)溶剤中で、上記(A)〜(C)の反応性成分を予備反応させる場合には、その反応温度は、25℃以上とすれば硬化反応が確実に進行するため好ましい。予備反応の程度は、反応生成物が(D)溶剤に溶解する程度とする。
【0103】
また、予備反応を2段階に分けて行ってもよい。具体的には、(A)第1の硬化樹脂の原料成分と(B)シラン系カップリング剤と(D)溶剤を含む組成物を加熱、撹拌して反応させる第1段階の予備反応を行い、その後、これに(C)テトラアルコキシシラン等と好ましくは酸触媒またはアルカリ触媒を加えて、主として(C)テトラアルコキシシラン等の部分加水分解縮合反応としての第2段階の予備反応を行う。
【0104】
第1段階の予備反応は第1の硬化樹脂の硬化条件による。(A)成分として第1のポリエポキシド成分と第1の触媒型硬化剤および/または第1の重付加型硬化剤を用いる場合には、70〜150℃で0.5〜6時間程度が好ましい。第2段階の予備反応は、20〜60℃で0.5〜6時間が好ましい。
【0105】
(C)テトラアルコキシシラン等の部分加水分解縮合反応のために用いる酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。下地層形成用組成物における触媒の含有量としては(C)テトラアルコキシシラン等の100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましい。
【0106】
なお、上記部分加水分解縮合反応には水が必要とされることから、下地層形成用組成物は水を含んでいてもよい。下地層形成用組成物における水の含有量としては(C)テトラアルコキシシラン等の100質量部に対して1〜500質量部が好ましい。ただし、水を含有しなくとも、雰囲気中の水分を利用して部分加水分解縮合反応を行わせることもできる。
【0107】
(D)溶剤
上記下地層形成用組成物に用いる溶剤としては、該組成物が含有する固形分についての溶解性が良好な溶剤であり、かつこれらの配合成分に対して不活性な溶剤であれば特に限定されず、具体的には、アルコール類、酢酸エステル類、エーテル類、ケトン類、水等が挙げられる。エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、アセトン、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を使用することが好ましい。
【0108】
これら溶剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、下地層形成用組成物が含有する各種成分は、それぞれの成分を製造する際に用いた溶剤との混合物として用意される場合がある。このような場合には、該混合物中に含まれる溶剤をそのまま、下地層形成用組成物における溶剤として用いてもよく、さらに下地層形成用組成物にはそれ以外に同種のあるいは他の溶剤を加えてもよい。
【0109】
また、下地層形成用組成物における溶剤の量は、該組成物中の全固形分の合計質量100質量部に対して200〜950質量部であることが好ましく、400〜950質量部がより好ましい。
【0110】
ここで、第1の硬化樹脂として第1の硬化エポキシ樹脂を用いた場合、下地層形成用組成物における(A)第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分としての第1のポリエポキシド成分と第1の触媒型硬化剤および/または第1の重付加型硬化剤の含有量は、第1のポリエポキシド成分については組成物全量に対して1〜15質量%であることが好ましく、第1の触媒型硬化剤については組成物全量に対して0.01〜1質量%であることが好ましく、第1の重付加型硬化剤については組成物全量に対して0.1〜15質量%であることが好ましい。なお、第1の触媒型硬化剤と第1の重付加型硬化剤を共に用いる場合においても、両硬化剤の含有量は上記と同様とできる。
【0111】
また、(B)、(C)成分の組成物全量に対する含有量(質量%)は、(A)成分との上記含有割合を確保した上で、(B)シラン系カップリング剤については、0.1〜15質量%が好ましく、(C)テトラアルコキシシラン等については酸化物換算で0.01〜5質量%が好ましい。さらに、溶剤の組成物全量に対する含有量は50〜95質量%が好ましい。
【0112】
(その他成分)
また、下地層形成用組成物は、上記各成分と溶剤以外に、必要に応じて、フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤等の機能性添加剤を含有してもよい。さらに、下地層形成用組成物の成膜性を向上させるためにレベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等を添加することができる。
【0113】
<フィラー>
下地層形成用組成物は、さらに任意成分としてフィラーを含有してもよい。フィラーを含むことによって、形成される下地層の機械的強度、耐熱性、ブリードアウト耐性を高めることができ、また硬化反応時の樹脂の硬化収縮を低減できる。このようなフィラーとしては、金属酸化物からなるフィラーが好ましい。金属酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが挙げられ、なかでもシリカが好ましい。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0114】
下地層形成用組成物が含有するこれらフィラーは粒子状であることが好ましい。その平均一次粒子径は300nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下が特に好ましい。平均一次粒子径を300nm以下とすれば、これを含む組成物中で粒子同士の凝集傾向が強まらず、粒子の沈降を回避できる。また、これを含む組成物により下地層を形成した際に、散乱による曇り(曇価、ヘイズ)の発生を抑制でき、透明性維持の点で上記粒子径とすることが好ましい。なお、平均一次粒子径の下限については特に限定されないが、現在の技術において製造可能な2nm程度の粒子も使用可能である。ここで、粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察像から測定されるものをいう。
【0115】
また、フィラーの含有量は、(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対して0.5〜25質量部であることが好ましく、1〜20質量部がより好ましい。(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対するフィラーの含有量を0.5質量部以上とすれば、下地材料における硬化収縮の低減効果の低下を抑え易い。また、(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対するフィラーの含有量を25質量部以下とすれば、吸水するための空間を適度に調整できる。
【0116】
上記フィラーとして好ましく用いられるシリカ、より好ましくは、シリカ粒子は、水またはメタノール、エタノール、2−プロパノール、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ブチル等の有機溶剤中に分散されたコロイダルシリカとして下地層形成用組成物に含有させることができる。コロイダルシリカとしては、水に分散されたシリカヒドロゾル、水が有機溶剤に置換されたオルガノシリカゾルがある。これらを、下地層形成用組成物に含有させる場合には、この組成物に好ましく用いられる有機溶剤と同様の有機溶剤を分散媒として用いたオルガノシリカゾルを用いることが好ましい。
【0117】
このようなオルガノシリカゾルとしては、市販品を用いることが可能である。市販品としては、例えば、粒子径10〜20nmのシリカ粒子が2−プロパノールに、オルガノシリカゾル全体量に対するSiO
2含有量として30質量%の割合で分散したオルガノシリカゾルIPA−ST(商品名、日産化学工業社製)、オルガノシリカゾルIPA−STの有機溶剤を2−プロパノールから酢酸ブチルにかえたオルガノシリカゾルNBAC−ST(商品名、日産化学工業社製)、オルガノシリカゾルIPA−STの有機溶剤を2−プロパノールからメチルエチルケトンにかえたオルガノシリカゾルMEK−ST(商品名、日産化学工業社製)等を挙げることができる。なお、シリカ粒子としてコロイダルシリカを用いる場合には、下地層形成用組成物が含有する溶剤の量は、コロイダルシリカに含まれる溶剤を含む量として、適宜調整される。
【0118】
<酸化防止剤>
下地層形成用組成物は、得られる下地層の耐候性を高めるために、任意成分として、酸化防止剤を含むことが好ましい。熱や光に晒されて下地層を構成する下地材料が酸化し変質がおこれば下地層に応力蓄積が発生しやすくなり、それにより容易に防曇膜の剥離がおこる。酸化防止剤を添加することにより、このような現象を抑制することが可能となる。
酸化防止剤としては、ペルオキシラジカルを捕捉、分解することで樹脂の酸化を抑制するタイプのフェノール系酸化防止剤、過酸化物を分解することで樹脂の酸化を抑制するタイプのリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられるが、本発明においてはフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。
【0119】
フェノール系酸化防止剤としては、通常、硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、架橋アクリル樹脂等の硬化樹脂が含有する以下のフェノール系酸化防止剤が特に制限なく使用可能である。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0120】
上記フェノール系酸化防止剤の市販品としては、IRGANOX1010、IRGANOX1035、IRGANOX1076、IRGANOX1135(商品名、チバ・ジャパン社製)、アデカスタブAO−30、アデカスタブAO−40、アデカスタブAO−50、アデカスタブAO−60、アデカスタブAO−70、アデカスタブAO−80、アデカスタブAO−90、アデカスタブA−611(商品名、ADEKA社製)、SumilizerGA−80、SumilizerMDP−S、SumilizerBBM−S、SumilizerGM、SumilizerGS(F)、SumilizerGP(商品名、住友化学工業社製)等が挙げられる。
【0121】
また、下地層形成用組成物が含有する酸化防止剤の量については、(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対して、0.1〜1.0質量部が好ましく、0.2〜0.8質量部がより好ましい。
【0122】
<紫外線吸収剤>
下地層形成用組成物は、得られる下地層の耐候性、特に紫外線に対する耐性を高めるために、任意成分として、紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤としては、従来公知の紫外線吸収剤、具体的には、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0123】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール等が用いられる。
トリアジン系紫外線吸収剤として、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン、TINUVIN400(商品名、BASF社製)等が用いられる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、好ましくは、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等が用いられる。
【0124】
本発明において、これら紫外線吸収剤は1種を単独で用いることも、2種以上を併用することも可能である。また、これら紫外線吸収剤のうちでも本発明に用いる下地層形成用組成物においては、溶剤への溶解度および吸収波長帯が望ましいことから上記例示したような水酸基含有ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、水酸基含有トリアジン系紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0125】
下地層形成用組成物における紫外線吸収剤の含有量は、これを用いて形成される下地層が本発明の効果を損なわずにかつ十分な紫外線耐性を有する点から、(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対して、0.1〜1.0質量部が好ましく、0.2〜0.8質量部がより好ましい。
【0126】
<赤外線吸収剤>
下地層形成用組成物は、得られる下地層に赤外線遮蔽による断熱効果を持たせるために、任意成分として、赤外線吸収剤を含有してもよい。赤外線吸収剤としては、無機化合物粒子からなる赤外線吸収剤や有機色素からなる赤外吸収剤等が挙げられる。
【0127】
赤外線吸収剤として用いられる無機化合物粒子のうちでも、本発明においては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)粒子、アンチモンドープ酸化錫(ATO)粒子、複合タングステン酸化物、六ホウ化ランタン(LaB
6)等が好ましい。本発明においては、透過率損失および環境安全性の点からITO粒子が好ましく用いられる。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0128】
下地層形成用組成物における赤外線吸収剤の含有量は、これを用いて形成される下地層が本発明の効果を損なわずにかつ十分な赤外線遮蔽による断熱効果を有する点から、(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.2〜15質量部がより好ましい。
【0129】
なお、下地層形成用組成物が赤外線吸収剤として無機化合物粒子を含有する場合は、無機化合物粒子は上記フィラーとしての機能も合わせて果たすものである。したがって、その場合、該無機化合物粒子の含有量分だけフィラーの含有量を減ずることが可能である。
【0130】
<光安定剤>
下地層形成用組成物は、得られる下地層に光安定性を持たせるために、任意成分として、光安定剤を含有してもよい。光安定剤としては、ヒンダードアミン類;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体等が挙げられる。本発明において、これら光安定剤は1種を単独で用いることも、2種以上を併用することも可能である。
【0131】
これらのうちでも、本発明に用いる光安定剤としては、ヒンダードアミン類が好ましく、アミン部位がアルキル基あるいはアルコキシ基でキャップされたヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。市販品の例としては、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート(市販品として、アデカスタブLA−72(商品名、ADEKA社製)を例示することができる。
【0132】
下地層形成用組成物における光安定剤の含有量は、これを用いて形成される下地層が本発明の効果を損なわずにかつ十分な光安定性を有する点から、(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対して、0.1〜1.0質量部が好ましく、0.2〜0.8質量部がより好ましい。
【0133】
下地層形成用組成物が、必要に応じて含有する、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等の添加剤は、通常、硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、架橋アクリル樹脂等の硬化樹脂が含有する各添加剤がそれぞれ特に制限なく使用可能である。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0134】
下地層形成用組成物中の各添加剤の含有量は、それぞれの成分について、(A)第1の硬化樹脂の原料成分の100質量部に対して、0.001〜10質量部とすることができる。
【0135】
(下地層)
本発明の防曇性物品における下地層は、上記下地層形成用組成物を用いて形成される層である。下地層は、下地層形成用組成物が含有する(A)〜(C)の反応性成分、さらに別の反応性成分が含まれる場合には、(A)〜(C)の反応性成分および別の反応成分が反応して、該組成物が含有する非反応成分を取りこむようにして得られる下地材料により構成される。このような下地材料で構成されることにより下地層は、吸水層よりも低い吸水性を有するとともに基体との密着性および吸水層との密着性が十分確保され、さらに、酸性の水分による膨張が抑制されるという耐薬品性を備えることで耐剥離性に優れる層である。なお、下地層形成用組成物を用いた下地層の形成条件については、後述の製造方法において説明する。
【0136】
[2−2]吸水層
本発明の実施形態に係る防曇膜を構成する吸水層は、上記下地層の上、すなわち下地層の基体側とは反対側に形成される層であって、上記下地層を構成する下地材料より高い吸水性を有する吸水材料からなり、それにより該防曇膜の優れた吸水性を確保する層である。
【0137】
吸水層を構成する吸水材料は、上記下地層で説明した方法で測定される飽和吸水量が50mg/cm
3以上であることが好ましく、70mg/cm
3以上がより好ましく、100mg/cm
3以上が特に好ましい。防曇膜における防曇性を十分に確保する観点から、吸水層を構成する吸水材料の飽和吸水量を上記の値に設定することが好ましい。一方、防曇膜の耐久性が低くなるのを防ぐ観点から、吸水層を構成する吸水材料の飽和吸水量は、900mg/cm
3以下が好ましく、500mg/cm
3以下がより好ましい。
【0138】
本発明の防曇性物品に設けられる防曇膜を構成する吸水層の吸水性について、上記下地層で説明した吸水防曇性を指標として示せば、該吸水層の吸水防曇性は50秒以上が好ましく、60秒以上がより好ましく、70秒以上が特に好ましい。
【0139】
上記吸水層を構成する吸水材料の飽和吸水量と吸水層の吸水防曇性との関係から、本発明の防曇性物品に係る吸水層の膜厚は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。これにより、防曇膜全体として高い吸水性が確保し易くなる。一方、防曇膜の耐久性が低くなるのを防ぐ観点から、吸水層の膜厚は、30μm以下であるのが好ましく、25μm以下であるのがより好ましい。
ここで、防曇性物品の求められる防曇性能は用途により異なるため、求められる性能に即して、下地層に合わせて適宜吸水層の設計を変更すればよい。
【0140】
吸水層を構成する吸水材料は、第2の硬化エポキシ樹脂、第2のウレタン樹脂および第2の架橋アクリル樹脂から選ばれる第2の硬化樹脂の原料成分を含有する吸水層形成用組成物を用いて得られる。言い換えれば、吸水層は、該吸水層形成用組成物を用いて形成される。
【0141】
吸水材料は第2の硬化樹脂のみで構成されてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で第2の硬化樹脂以外の成分を含んでいてもよい。吸水層形成用組成物は、固形成分として第2の硬化樹脂の原料成分を含有し、任意にそれ以外の固形成分を含有する。第2の硬化樹脂の原料成分以外の固形成分は、反応性成分、例えば、第2の硬化樹脂の原料成分に反応性の成分であってもよく、非反応性の成分であってもよい。
【0142】
(第2の硬化樹脂の原料成分)
吸水層形成用組成物は第2の硬化樹脂の原料成分を含有する。
第2の硬化樹脂としては、第2の硬化エポキシ樹脂、第2のウレタン樹脂および第2の架橋アクリル樹脂等が挙げられる。なお、以下の説明において、第2の硬化樹脂に係る硬化性成分および硬化剤を言う場合は全て「第2の…」という。
【0143】
第2の硬化エポキシ樹脂は、例えば、第2のポリエポキシド成分と第2の硬化剤を含む組成物の反応により得られる。第2のウレタン樹脂は、例えば、第2のポリイソシアネートと第2のポリオールを含む組成物の反応により得られる。第2の架橋アクリル樹脂は、例えば、第2の架橋性(メタ)アクリルポリマーと第2のアクリル樹脂用硬化剤とを含む組成物の反応により得られる。第2の硬化樹脂としては、第2の硬化エポキシ樹脂が好ましい。
【0144】
(第2の硬化エポキシ樹脂)
第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分としては、第2の硬化性成分である第2のポリエポキシド成分と第2の硬化剤の組合せが好ましい。第2の硬化剤としては、第2の重付加型硬化剤を用いることが好ましく、さらに第2の重付加型硬化剤と第2の触媒型硬化剤を組合せて用いることがより好ましい。すなわち、第2の硬化エポキシ樹脂は、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤を反応させて得られる、第2のポリエポキシドが第2の重付加型硬化剤により架橋し3次元化した構造を有する樹脂であることが好ましい。さらに、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤および第2の触媒型硬化剤を反応させて得られる第2の硬化エポキシ樹脂がより好ましい。
【0145】
<第2のポリエポキシド成分>
第2のポリエポキシド成分を構成するポリエポキシドとしては、芳香環を有しないポリエポキシド、すなわち脂肪族/脂環族ポリエポキシドが、得られる硬化エポキシ樹脂において高い吸水性が得られる点から好ましい。
【0146】
第2のポリエポキシド成分としては特に脂肪族ポリエポキシドが好ましい。脂肪族ポリエポキシドとして、具体的には、脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシド、脂肪族グリシジルエステル系ポリエポキシド、脂肪族グリシジルアミン系ポリエポキシド等が挙げられる。これらのうちでも、脂肪族ポリオール類由来の脂肪族グリシジルエーテル系ポリエポキシドが第2のポリエポキシド成分として好ましい。なお、第2のポリエポキシド成分を構成するポリエポキシドについても、上記第1のポリエポキシド成分を構成するポリエポキシドと同様に市販品を用いることが可能である。
【0147】
第2のポリエポキシド成分を構成するポリエポキシドの分子量としては、耐久性、外観、等の観点から200〜3000が好ましく、300〜2000がより好ましく、300〜1800が特に好ましい。また、第2のポリエポキシド成分における1分子当たりのエポキシ基の数は、平均して2個以上であれば特に制限されないが、2〜10個であることが好ましく、3〜8個がより好ましく、3〜7個がさらに好ましい。さらに、ポリエポキシドのエポキシ当量としては、120〜200であることが好ましく、130〜190がより好ましい。
【0148】
第2のポリエポキシド成分としては、上記ポリエポキシドの1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、第2のポリエポキシド成分を分子量が800〜3000の脂肪族ポリエポキシドの少なくとも2種のみからなる構成とすることが好ましい。
【0149】
環構造、特に芳香環を有する芳香族ポリエポキシド、例えば、ポリフェノール類由来のグリシジルエーテル系ポリエポキシドを用いて得られる硬化エポキシ樹脂では、吸水層を構成する吸水材料において十分な吸水性が得られないことがある。これは、芳香環等が硬質であることに起因して、3次元網目構造中に水分が取り込まれにくくなっているための現象と考えられる。一方、脂肪族/脂環族ポリエポキシドを用いると、得られる硬化エポキシ樹脂が有する3次元網目構造は、適度な柔軟性をもち、また、分子量を調整することで3次元網目構造の空間の大きさを適度なものに調整できるため、適度に調整された吸水性と耐久性の両立が可能になると考えられる。
【0150】
上記第2のポリエポキシド成分と反応させる第2の硬化剤としては、第2の重付加型硬化剤を用いることが好ましい。また、この第2の重付加型硬化剤に第2の触媒型硬化剤を併用することがより好ましい。
【0151】
<第2の重付加型硬化剤>
第2の重付加型硬化剤は、上記ポリエポキシドが有するエポキシ基と反応する反応性基を2個以上有する化合物であって、反応によりポリエポキシドに重付加するタイプの硬化剤であれば特に制限されない。
【0152】
第2の重付加型硬化剤における、上記エポキシ基と反応する反応性基としては、活性水素を有するアミノ基、カルボキシ基、チオール基等が挙げられる。すなわち、第2の重付加型硬化剤としては、好ましくは上記活性水素を有するアミノ化合物が用いられる。本発明においては、このような反応基を2個以上有する化合物として、ポリアミン類やポリカルボン酸無水物が好ましく用いられる。第2の重付加型硬化剤としては、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0153】
第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分のひとつである第2の重付加型硬化剤もまた高い吸水性が得られる観点から、芳香環を有しない化合物であることが好ましい。
したがって、第2の重付加型硬化剤は、芳香環を有しないポリアミン類やポリカルボン酸無水物が好ましく、特に芳香環を有しないポリアミン類が好ましい。
【0154】
芳香環を有しないポリアミン類としては、脂肪族ポリアミン化合物や脂環式ポリアミン化合物が挙げられる。これらのポリアミン類として、具体的には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0155】
芳香環を有しないポリカルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0156】
第2の重付加型硬化剤は市販品を用いることも可能である。このような市販品として、具体的には、ポリオキシアルキレントリアミンとして、ジェファーミンT403(商品名、ハンツマン社製、分子量(Mw):390)等が、ポリエーテルポリチオールとして、ポリチオールQE340M(商品名、東レファインケミカル社製)等が挙げられる。
【0157】
第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分における上記第2のポリエポキシド成分と上記第2の重付加型硬化剤の含有割合は、第2のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第2の重付加型硬化剤の反応性基の当量比が0.6〜1.2になる割合であることが好ましく、0.7〜1.0がより好ましい。第2のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対する第2の重付加型硬化剤の反応性基の当量比が上記範囲であれば、耐摩耗性などの耐久性が低下することなしに上記吸水性を有するように適度に架橋した3次元網目構造を有する硬化エポキシ樹脂が得られる。
【0158】
本発明において第2の重付加型硬化剤として活性水素を有するアミノ化合物を用いる場合には、第2のポリエポキシド成分由来のエポキシ基に対するアミン活性水素の当量比が0.6〜0.8になる割合となるように用いることが好ましい。上記同様、エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比が上記範囲であれば、著しく黄変することなしに上記吸水性を有するように適度に架橋した3次元網目構造を有する硬化エポキシ樹脂が得られる。
【0159】
本発明に用いる第2の硬化エポキシ樹脂を得る際に、上記第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤を組み合わせて用いる場合には、これらに加えて第2の触媒型硬化剤をともに用いることが好ましい。第2の触媒型硬化剤を用いることにより、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤の重付加反応による架橋の速度を加速する効果や、第2のポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤により形成される架橋部位に発生する不具合を低減する効果が得られるためである。架橋部位の不具合の一例としては、熱負荷による架橋部位の変質による、硬化エポキシ樹脂の発色が挙げられる。
【0160】
<第2の触媒型硬化剤>
また、本発明に用いる第2の硬化エポキシ樹脂は、上記第2のポリエポキシド成分を第2の触媒型硬化剤の存在下、架橋反応させて得られる硬化エポキシ樹脂であってもよい。第2の触媒型硬化剤としては、上記第1の触媒型硬化剤と同様の触媒型硬化剤が特に制限なく使用可能である。第2の触媒型硬化剤の好ましい態様および市販品の使用についても上記第1の触媒型硬化剤と同様にできる。
【0161】
第2の重付加型硬化剤に加えて第2の触媒型硬化剤を用いる場合の第2の触媒型硬化剤の使用量は、第2のポリエポキシド成分100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましく、1〜7質量部が特に好ましい。第2のポリエポキシド成分100質量部に対する第2の触媒型硬化剤の使用量を1質量部以上とすれば、反応が十分に進行し、得られる第2の硬化エポキシ樹脂において十分な吸水性や耐久性が実現できる。また、第2のポリエポキシド成分100質量部に対する第2の触媒型硬化剤の使用量が20質量部以下であれば、得られる第2の硬化エポキシ樹脂中に第2の触媒型硬化剤の残渣が存在して硬化エポキシ樹脂が黄変する等の外観上の問題の発生を抑制しやすい。
【0162】
なお、第2の重付加型硬化剤に加えて第2の触媒型硬化剤を用いる場合には、第2の重付加型硬化剤の第2のポリエポキシド成分に対する使用割合は、第2の触媒型硬化剤を上記の割合で用いた場合に、エポキシ基に対する第2の重付加型硬化剤の反応性基の当量比を上記0.6〜1.2よりも10〜50%程度少なくしてよい。
【0163】
また、必要に応じて、第2の硬化エポキシ樹脂は、第2のポリエポキシド成分と第2の触媒型硬化剤を反応させて得られるポリエポキシド同士が3次元的に重合した構造を有する樹脂であってもよい。その場合、第2の硬化剤としては、通常、第2の触媒型硬化剤が単独で用いられる。このように第2の触媒型硬化剤を単独で用いる場合、その使用量は、第2のポリエポキシド成分100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、1〜7質量部がより好ましい。
【0164】
以上、第2の硬化樹脂として第2の硬化エポキシ樹脂を用いる場合について説明した。第2の硬化エポキシ樹脂以外の第2の硬化樹脂、例えば、第2のウレタン樹脂および第2の架橋アクリル樹脂についても、その原料成分として、防曇膜における吸水層として用いられる従来公知の硬化樹脂における硬化性成分と硬化剤の組合せを挙げることができる。
【0165】
吸水層形成用組成物における第2の硬化樹脂の原料成分の含有量は、固形分全量に対して50〜95質量%が好ましく、60〜90質量%がより好ましい。含有量の範囲を上記範囲とすることで、吸水性能と耐摩耗性の両立が可能である。
【0166】
(吸水層形成用組成物)
本発明の防曇性物品の防曇膜における吸水層は、上記第2の硬化樹脂の原料成分を含有する吸水層形成用組成物を用い、これを反応させて得られる吸水材料からなる層である。吸水層形成用組成物は上記第2の硬化樹脂の原料成分の他に、通常、溶剤を含有する。
【0167】
通常、吸水材料を得るための吸水層形成用組成物を用いた反応は、吸水層形成用組成物を塗布面(下地層上)に塗布後行われる。ここで、上記のように吸水層形成用組成物が溶剤を含む場合には、塗布面に塗布する前の組成物中で吸水層形成用組成物が含有する第2の硬化樹脂の原料成分等の反応性成分を予めある程度反応させ、その後塗布面に塗布し、乾燥後、さらに反応させてもよい。
【0168】
このように吸水層形成用組成物として溶剤中で、第2の硬化樹脂の原料成分等の反応性成分を予めある程度反応させる場合には、予め反応させるときの反応温度は、25℃以上とすれば硬化反応が確実に進行するため好ましい。
【0169】
(溶剤)
上記吸水層形成用組成物に用いる溶剤としては、上記下地層形成用組成物に用いる溶剤と同様の溶剤が使用可能である。エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、アセトン、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を使用することが好ましい。
【0170】
これら溶剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、吸水層形成用組成物が含有する各種成分は、それぞれの成分を製造する際に用いた溶剤との混合物として用意される場合がある。このような場合には、該混合物中に含まれる溶剤をそのまま、吸水層形成用組成物における溶剤として用いてもよく、さらに吸水層形成用組成物にはそれ以外に同種のあるいは他の溶剤を加えてもよい。
【0171】
また、吸水層形成用組成物における溶剤の量は、該組成物中の全固形分の合計質量100質量部に対して100〜500質量部であることが好ましく、200〜350質量部がより好ましい。
【0172】
ここで、上記第2の硬化樹脂が第2の硬化エポキシ樹脂の場合には、吸水層形成用組成物における第2のポリエポキシド成分および第2の硬化剤の含有量は、第2のポリエポキシド成分については組成物全量に対して10〜40質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。吸水層形成用組成物における第2の硬化剤の含有量は、例えば、第2の重付加型硬化剤および第2の触媒型硬化剤の含有量について、それぞれ第2のポリエポキシド成分に対する含有量として上に説明した通りである。なお、第2の重付加型硬化剤と第2の触媒型硬化剤を組み合わせて用いる場合の、これらの含有量の合計量については、組成物全量に対して3〜20質量%であることが好ましく、3〜16質量%がより好ましい。
【0173】
第2の硬化エポキシ樹脂において、第2の重付加型硬化剤と第2の触媒型硬化剤を組み合わせて用いる場合のこれらの含有割合は、用いる硬化剤の種類による。例えば、上記第2の重付加型硬化剤として、活性水素を有するアミン化合物を、第2の触媒型硬化剤としてイミダゾール化合物を組合せて用いる場合には、吸水層形成用組成物は組成物全量に対して、活性水素を有するアミン化合物を3〜15質量%の割合で、イミダゾール化合物を0.1〜1.0質量%の割合で含有することが好ましい。このような含有割合とすることで、上記第2の重付加型硬化剤と第2の触媒型硬化剤のもつ利点がともに効果的に発揮されうる。
【0174】
(その他成分)
吸水層形成用組成物は、上記各成分と溶剤以外に、必要に応じて、カップリング剤、フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤等の反応性または非反応性の機能性添加剤を含有してもよい。さらに、吸水層形成用組成物は成膜性を向上させるためにレベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等を含有することができる。
【0175】
<カップリング剤>
吸水層形成用組成物が任意に含有する添加剤のうち反応性添加剤としては、第2の硬化樹脂の原料成分が有する反応性の基に反応性を有する官能基を有するカップリング剤等が挙げられる。吸水層形成用組成物においてカップリング剤は、吸水層と下地層との密着性、あるいは、吸水層とその上に必要に応じて機能層が積層される場合にはその機能層との密着性を向上させる目的で配合される成分であり、配合することが好ましい成分のひとつである。
【0176】
用いるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤が好ましい。
吸水層形成用組成物が含有するシラン系カップリング剤としては、第2の硬化エポキシ樹脂を用いた場合には、アミノ基を有するシラン系カップリング剤、例えば、上記化合物(1)におけるR
T1基がアミノ基である化合物が好ましい。具体的には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0177】
吸水層形成用組成物におけるカップリング剤の配合量は、必須の成分でないことから下限はない。しかし、カップリング剤配合の効果を十分に発揮させるためには、吸水層形成用組成物における第2の硬化樹脂の原料成分である硬化性成分と硬化剤の合計質量100質量部に対して、カップリング剤の質量割合が5〜40質量部であることが好ましく、10〜30質量部がより好ましい。カップリング剤の含有量の上限は、カップリング剤の物性や機能によって制限される。上記吸水層形成用組成物を用いて得られる吸水材料からなる吸水層の密着性を向上する目的で使用する場合は、第2の硬化樹脂の原料成分である硬化性成分と硬化剤の合計質量100質量部に対するカップリング剤の質量割合が、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下がより好ましい。カップリング剤の使用量が過剰にならないようにすれば、高温に曝されたときに酸化等により第2の硬化樹脂を含む吸水材料が着色するのを防ぐことができる。
【0178】
なお、吸水層形成用組成物全量に対するカップリング剤の含有量としては、例えば、シラン系カップリング剤を用いた場合には、2〜10質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。
【0179】
ここで、第2の硬化樹脂として第2の硬化エポキシ樹脂を用いる場合のシラン系カップリング剤を含有する上記吸水層形成用組成物における、特に好ましい組成について言えば、組成物全量に対して、第2のポリエポキシド成分を15〜40質量%、活性水素を有するアミン化合物を3〜15質量%、イミダゾール化合物を0.1〜1.0質量%、シラン系カップリング剤を2〜10質量%、および溶剤を50〜75質量%含む組成が挙げられる。
【0180】
この場合、吸水層形成用組成物がカップリング剤として、アミノ基を有するカップリング剤を含有する場合には、上記エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比は、上記第2の硬化剤におけるアミン活性水素とカップリング剤が有するアミン活性水素を合わせて、上記第2のポリエポキシド成分の有するエポキシ基との当量比を算出し、上記好ましい範囲となるようにする。
【0181】
同様に、吸水層形成用組成物がカップリング剤として、エポキシ基を有するカップリング剤を含有する場合には、上記エポキシ基に対するアミン活性水素の当量比は、上記第2のポリエポキシド成分が有するエポキシ基とカップリング剤が有するエポキシ基を合わせて、上記第2の硬化剤におけるアミン活性水素との当量比を算出し、上記好ましい範囲となるようにする。
【0182】
吸水層形成用組成物が任意に含有するその他成分のうち、フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等については、上記下地層形成用組成物が任意に含有する各成分と好ましい態様、含有量等を含めて同様とできる。
【0183】
(吸水層)
本発明の防曇性物品における吸水層は、上記吸水層形成用組成物が含有する、上記第2の硬化樹脂、例えば、第2のポリエポキシド成分と第2の硬化剤を含む組成物が、上記第2のポリオールと第2のポリイソシアネートを含む組成物が、または、上記第2の架橋性(メタ)アクリルポリマーと第2のアクリル樹脂用硬化剤を含む組成物が、反応して得られる、3次元網目構造を有する第2の硬化エポキシ樹脂、第2のウレタン樹脂、または第2の架橋アクリル樹脂を含む吸水材料で構成され、上記説明した第2の硬化樹脂の性質により、高吸水性を有するとともに耐摩耗性等の耐久性を併せ持つ吸水層である。なお、上記反応の条件については、後述の製造方法において説明する。
【0184】
また、任意に添加されるシラン系カップリング剤等の反応性添加剤は、この第2の硬化樹脂の3次元網目構造の一部に結合する形で吸水材料(吸水層)に存在し、さらに、それ以外に任意に添加される非反応性の添加剤は、上記第2の硬化樹脂の3次元網目構造中に均一に分散・包含されて吸水材料(吸水層)に存在するものである。
【0185】
(防曇膜)
本発明の防曇性物品における防曇膜は、基体の少なくとも一部の表面に形成される。防曇膜が形成される表面は、用途に応じて適宜選択される。通常、基体の主面のいずれか一方に形成される。防曇膜は、基体側から順に上記下地層と吸水層を積層した構成を有する。このような構成とすることで本発明の防曇性物品は、優れた防曇性と有するとともに、耐摩耗性、耐薬品性、耐湿性等の耐久性に優れる。
【0186】
本発明の防曇性物品における防曇膜の吸水性を具体的に示せば、上記吸水層で説明した方法で測定される飽和吸水量については、50mg/cm
3以上が好ましく、70mg/cm
3以上がより好ましく、100mg/cm
3以上が特に好ましい。
【0187】
さらに、本発明の防曇性物品における防曇膜の吸水性については、上記吸水層で説明した方法で測定される吸水防曇性として、50秒以上とすることができ、さらに好ましい態様では60秒以上とすることができ、特に好ましい態様では、70秒以上とすることができる。ここで、防曇性物品の求められる防曇性能は用途により異なるため、求められる性能に即して防曇膜の設計を適宜変更すればよい。
なお、防曇加工を行っていないソーダライムガラスは、通常、上記試験で概ね1〜3秒で曇りを生じる。
【0188】
また、本発明の防曇性物品における防曇膜は、基体上に形成された下地層と吸水層の間または吸水層の上にさらに、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、各種機能膜を有してもよい。このような機能膜として、具体的には、防曇膜に耐汚染性を付与する防汚層、紫外線遮蔽層、赤外線吸収層等が挙げられる。
【0189】
<防曇性物品の製造方法>
本発明の防曇性物品の防曇膜は、基体上にその順に積層された下地層および吸水層を有する構成である。このような防曇膜は、具体的には、基体表面に下地層形成用組成物を塗布、反応させて下地層を形成し、ついで、下地層表面に吸水層形成用組成物を塗布、反応させて吸水層を形成させる方法により得られる。
【0190】
以下、上に説明した下地層形成用組成物において第1の硬化樹脂が第1の硬化エポキシ樹脂であり、吸水層形成用組成物が第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分を含有する場合を例として、本発明の防曇性物品の製造方法について説明する。
【0191】
本発明の防曇性物品の製造方法は、(a)上記(A)〜(C)成分(ただし、(A)成分は、第1の硬化エポキシ樹脂の原料成分である)と(D)溶剤を含む下地層形成用組成物を基体表面に塗布し反応させ下地材料を得ることで該下地材料からなる下地層を形成する工程と、(b)前記下地層の表面に、第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分と溶剤を含む吸水層形成用組成物を塗布し反応させることにより第2の硬化エポキシ樹脂を含む吸水材料からなる吸水層を形成する工程と、を有する。
【0192】
下地層形成用組成物および吸水層形成用組成物がそれぞれ含有する成分については上述のとおりであり、これら成分を通常の方法でそれぞれ混合することで上記2種の組成物が得られる。なお、下地層形成用組成物および吸水層形成用組成物は、それぞれ上に説明したとおり、組成物の段階で予めある程度反応を進行させておいてもよい。
【0193】
上記工程(a)において、基体上に下地層を形成するために、上記で得られた下地層形成用組成物を基体の塗布面に塗布する方法としては、特に限定されないが、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法、ダイコート法、ワイプ法等の公知の方法が挙げられる。下地層形成用組成物の塗布厚は、該組成物中の反応成分が反応して最終的に得られる下地層の厚さが上記範囲となるような厚さとする。
【0194】
基体上に下地層形成用組成物を塗布した後は、必要に応じて乾燥により溶剤を除去し、用いる反応成分に合わせた条件で硬化処理を行い下地材料を得、該下地材料からなる下地層とする。乾燥により溶剤を除去する条件として、具体的には、50〜90℃、5〜15分間が挙げられる。また、下地層形成用組成物における反応成分、すなわち、上記(A)〜(C)成分の反応条件として、具体的には、70〜150℃、1〜60分間程度の熱処理が挙げられる。なお、予め乾燥が行われない場合であっても、通常、この反応の際に同時に乾燥が行われる。また、UV硬化性の光硬化性樹脂を用いた場合には、UV硬化装置等で100〜500mJ/cm
2のUV照射を1〜5秒間行う等の処理が挙げられる。
【0195】
ここで、本発明の製造方法においては、上記下地層形成用組成物の反応を、一定の加湿条件下で行うことが好ましい。上記反応を加湿条件下で行うことにより、同じ温度条件下で行う反応では、加湿しない場合に比べて反応時間を短縮させることができる。また同じ反応時間であれば、加湿することにより反応温度を低く設定しても反応を十分に実行することが可能となる。いずれの場合も、加湿条件下で上記反応を行うことは経済的に有利である。さらに、加湿条件下で上記反応を行うことで反応を層全体で均一に行うことが可能となり、下地層内における品質のばらつきが抑えられる。
【0196】
加湿条件として、具体的には40〜80%RHが挙げられるが、50〜80%RHの条件がより好ましい。温度条件と合わせてより好ましい反応条件を示せば、50〜80%RH、70〜100℃、5〜30分間程度の反応条件が挙げられる。さらに好ましい条件として、50〜80%RH、80〜100℃、10〜30分間程度の反応条件が挙げられる。
【0197】
上記工程(a)により基体上に形成された下地層の表面に、工程(b)において吸水層形成用組成物を塗布する方法としては、上記下地層形成用組成物の塗布方法と同様とできる。吸水層形成用組成物の塗布厚は、該組成物中の反応成分が反応して最終的に得られる吸水層の厚さが上記範囲となるような厚さとする。
【0198】
下地層上に吸水層形成用組成物を塗布した後は、必要に応じて乾燥により溶剤を除去し、用いる反応成分に合わせた条件で硬化処理を行い第2の硬化エポキシ樹脂を含む吸水材料からなる吸水層とする。乾燥により溶剤を除去する条件として、具体的には、50〜90℃、5〜15分間が挙げられる。また、吸水層形成用組成物における反応成分、すなわち、上記第2の硬化エポキシ樹脂の原料成分、特には、ポリエポキシド成分と第2の重付加型硬化剤との、第2の触媒型硬化剤存在下での反応条件として、具体的には、50〜120℃、10〜60分間程度の熱処理が挙げられる。なお、予め乾燥が行われない場合であっても、通常、この反応の際に同時に乾燥が行われる。また、UV硬化性の光硬化性樹脂を用いた場合には、UV硬化装置等で50〜1000mJ/cm
2のUV照射を5〜10秒間行う等の処理が挙げられる。
【0199】
ここで、本発明の製造方法においては、上記吸水層形成用組成物の反応を、上記下地層形成用組成物の場合と同様に一定の加湿条件下で行うことが、上記理由により好ましい。加湿条件として、具体的には40〜80%RHが挙げられるが、50〜80%RHの条件がより好ましい。温度条件と合わせてより好ましい反応条件を示せば、50〜80%RH、70〜100℃、5〜30分間程度の反応条件が挙げられる。さらに好ましい条件として、50〜80%RH、80〜100℃、10〜30分間程度の反応条件が挙げられる。
このようにして上記工程(a)、工程(b)を経ることで、基体上に上記防曇膜が形成された本発明の防曇性物品が得られる。
【0200】
<輸送機器用物品>
本発明の防曇性物品は、輸送機器用物品としての用途に好適に用いられる。輸送機器用物品としては、電車、自動車、船舶、航空機等におけるボディー、窓ガラス(フロントガラス、サイドガラス、リアガラス)、ミラー等が好ましく挙げられる。
【0201】
本発明の防曇膜を有する防曇性物品を具備する輸送機器用物品は、その防曇膜が優れた防曇性を有するため、水分が誘発する曇り等による悪影響を排除できる。また、上記防曇膜は、耐久性にも優れるため、例えば、輸送機器用物品としての屋外での使用を含む各種使用条件下での長期使用においてもこの防曇性を維持することができる。
【実施例】
【0202】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、例1〜4および例9〜12が実施例であり、例5〜8および例13〜16が比較例である。
【0203】
実施例、比較例に用いた化合物の略号と物性について以下にまとめた。なお、デナコールはナガセケムテックス社の商品名である。
(A)硬化エポキシ樹脂の原料成分
(1)ポリエポキシド
(1−1)ソルビトールポリグリシジルエーテル
EX614B:デナコールEX−614B(Mw:949、エポキシ当量:171)
(1−2)ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
EX521:デナコールEX−521(Mw:1294、エポキシ当量:179)
(1−3)脂肪族ポリグリシジルエーテル
EX1610:デナコールEX−1610(Mw:1130、エポキシ当量:165)
(1−4)ビスフェノールAジグリシジルエーテル
jER828(商品名、三菱化学社製、Mw:340、エポキシ当量:190)
【0204】
(2)重付加型硬化剤
T403:ジェファーミンT403(商品名、ハンツマン社製、Mw:390、アミン活性水素当量:78)、ポリオキシアルキレントリアミン
(3)触媒型硬化剤
2MZ:2−メチルイミダゾール
【0205】
(B)シラン系カップリング剤(以下のシラン系カップリング剤の記号は信越化学工業社製の商品名である。)
KBM403:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
KBM903:3−アミノプロピルトリメトキシシラン
(C)テトラアルコキシシラン等
TMOS:テトラメトキシシラン(東京化成工業社製)
【0206】
(非反応性成分)
A−611:アデカスタブA−611(商品名、ADEKA社製)、フェノール系酸化防止剤
MEKST:MEK−ST(商品名、日産化学工業社製)、粒子径10〜20nmのシリカ粒子がメチルエチルケトンに分散したオルガノシリカゾル、SiO
2含有量30質量%
(その他)
BYK307:BYK307(商品名、ビックケミー社製)、レベリング剤
【0207】
各例における防曇性物品の評価は以下のように行った。
[膜厚の測定]
防曇性物品の断面像を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S4300)で撮影し、下地層および吸水層の各層膜厚を測定した。
[防曇性の評価]
防曇膜における吸水防曇性を上記の方法で測定した。防曇膜に求められる防曇性能は用途により異なる。本実施例では、実用上50秒以上の吸水防曇性が必要であり、60秒以上が好ましく、70秒以上がより好ましいものとする。
【0208】
[耐酸性の評価]
防曇性物品の防曇膜表面に、酢酸(純正化学社製)10wt%水溶液を、マイクロピペットで200μL滴下し、23℃で24時間放置した後、防曇膜の剥離の有無を評価した。
なお、剥離の有無の確認は目視により行った。以下、剥離の有無の確認方法は、これと同様にした。
【0209】
[耐湿性の評価(i)]
防曇性物品を、50℃、95%RHの恒温恒湿槽内に500時間投入し、500時間後の防曇膜の剥離の有無を評価した。
【0210】
[耐湿性の評価(ii)]
防曇性物品を、80℃95%RHの恒温恒湿槽内に500時間投入し、防曇膜の剥離の有無を以下の基準により評価した。
(耐湿性の剥離評価基準)
◎:500時間以上剥離しなかった。
○:100時間〜500時間で剥離した。
×:100時間以内で剥離した。
【0211】
[耐熱黄変性の評価]
防曇性物品を、100℃の恒温槽内に500時間投入し、その前後における黄変度の変化(ΔYI)を色差計(SD6000、日本電色工業社製)により測定した。
【0212】
[ポットライフの評価]
ガラス容器に入れた下地層形成用組成物を、25℃、70%RHの環境下に保管し、以下の評価基準に基づき目視で評価した。
○:14日間以上外観に変化が見られなかった。
×:14日間未満で、白濁、沈降、ゲル化などの変化が見られた。
【0213】
<1>下地層形成用組成物の調製
[例1]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の58.43g、2−プロパノール(純正化学社製)の2.99g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)の6.16g、エポキシシラン(KBM403)の5.20g、テトラメトキシシラン(純正化学社製)の3.35g、0.1N硝酸(純正化学社製)の11.88g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを入れ、25℃にて60分間撹拌し、下地層形成用組成物(U−1)を得た。表1に組成等を示す。
【0214】
[例2]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の44.58g、2−プロパノール(純正化学社製)の4.98g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)の4.40g、エポキシシラン(KBM403)の8.66g、テトラメトキシシラン(純正化学社製)の5.58g、0.1N硝酸(純正化学社製)の19.80g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを入れ、25℃にて60分間撹拌し、下地層形成用組成物(U−2)を得た。表1に組成等を示す。
【0215】
[例3]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の61.89g、2−プロパノール(純正化学社製)の2.49g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)の6.60g、エポキシシラン(KBM403)の4.33g、テトラメトキシシラン(純正化学社製)の2.79g、0.1N硝酸(純正化学社製)の9.90g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを入れ、25℃にて60分間撹拌し、下地層形成用組成物(U−3)を得た。表1に組成等を示す。
【0216】
[例4]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、酢酸ブチル(純正化学社製)の4.50g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)の6.16g、エポキシシラン(KBM403)の5.20g、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物(異性体混合物)(和光純薬工業社製)の0.62g(第1のポリエポキシド成分中のエポキシ基に対する反応性基の当量比として0.1)、2−メチルイミダゾール(四国化成社製)の0.08gを撹拌しながら添加し、105℃にて4時間撹拌した。次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の56.80g、テトラメトキシシラン(純正化学社製)の3.35g、0.1N硝酸(純正化学社製)の11.88g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを入れ、25℃にて60分間撹拌し、下地層形成用組成物(U−4)を得た。表1に組成等を示す。
【0217】
[例5]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の37.65g、2−プロパノール(純正化学社製)の5.97g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)の3.52g、エポキシシラン(KBM403)の10.40g、テトラメトキシシラン(純正化学社製)の6.70g、0.1N硝酸(純正化学社製)の23.76g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを入れ、25℃にて60分間撹拌し、下地層形成用組成物(U−5)を得た。表1に組成等を示す。
【0218】
[例6]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の65.35g、2−プロパノール(純正化学社製)の1.99g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)の7.04g、エポキシシラン(KBM403)の3.47g、テトラメトキシシラン(純正化学社製)の2.23g、0.1N硝酸(純正化学社製)の7.92g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを入れ、25℃にて60分間撹拌し、下地層形成用組成物(U−6)を得た。表1に組成等を示す。
【0219】
[例7]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の72.28g、2−プロパノール(純正化学社製)の0.99g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B)の7.92g、エポキシシラン(KBM403)の1.73g、テトラメトキシシラン(純正化学社製)の1.12g、0.1N硝酸(純正化学社製)の3.96g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを入れ、25℃にて60分間撹拌し、下地層形成用組成物(U−7)を得た。表1に組成等を示す。
【0220】
[例8]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の6.00g、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER828)の5.51g、ポリオキシアルキレントリアミン(T403)の1.59g、アミノシラン(KBM903)の0.78gを入れ、35℃にて60分間撹拌した。次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学社製)の66.14g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを添加して、下地層形成用組成物(U−8)を得た。表1に組成等を示す。
【0221】
【表1】
【0222】
[吸水層形成用組成物の製造]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、混合アルコール(エタノール:2−プロパノール:1−プロパノール=88:4:8(質量比)、ネオエタノールPIP(商品名)、大伸化学製)の12.24g、脂肪族ポリグリシジルエーテル(EX1610)の9.80g、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(EX521)の8.14g、オルガノシリカゾル(MEKST)の6.44g、2−メチルイミダゾール(四国化成社製)の0.42g、アミノシラン(KBM903)の3.29g、ポリオキシアルキレントリアミン(T403)の3.20g、および酸化防止剤(A−611)の0.14gを撹拌しながら添加し、25℃にて1時間撹拌した。
【0223】
次いで、メチルエチルケトン(大伸化学製)の28.57g、オルガノシリカゾル(MEKST)の2.76g、およびレベリング剤(BYK307)の0.04gを撹拌しながら添加し、吸水層形成用組成物T−1を得た。表2に組成等を示す。なお、表2におけるアミン活性水素/エポキシ基の欄には、アミノシランが有するアミン活性水素とエポキシ基の当量比(アミン活性水素/エポキシ基)を示した。
【0224】
【表2】
【0225】
<3>防曇性物品の製造および評価
上記製造例で得られた各種組成物を用いて、以下のように各種基体に防曇膜を形成し、上記の評価方法により評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0226】
[例9〜16]
基体として、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(水接触角3度、200mm×200mm×厚さ2mm)を用い、該ガラス基板の表面に、表3で示す通り、上記で得られた下地層形成用組成物U−1〜U−8をフローコートによって塗布して、100℃の電気炉で30分間保持し、下地層を形成した。次いで、形成した下地層表面に、表3で示す通り、上記で得られた吸水層形成用組成物T−1をフローコートによって塗布して、100℃の電気炉で30分間保持して吸水層を形成し、下地層および吸水層からなる防曇膜を有する防曇性物品を得た。
【0227】
【表3】