(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記受酸剤として、マグネシウム、カルシウム、およびバリウムから選択される少なくとも一種の酸化物、水酸化物、および/または、炭酸塩を用いる請求項1〜5のいずれかに記載のポリエーテルゴムの製造方法。
前記エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴム100重量部に対する、前記受酸剤の使用量が、0.1〜30重量部である請求項1〜9のいずれかに記載のポリエーテルゴムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ポリエーテルゴムの製造方法>
本発明のポリエーテルゴムの製造方法は、下記一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴムを製造する方法であり、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを、受酸剤の存在下で、押出混練機を用いて混練して反応させることにより、前記エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換することを特徴とするものである。
【化2】
(上記一般式(1)中、A
+は、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。前記カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基は、該カチオン性含窒素芳香族複素環を構成する窒素原子の1つを介して、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。X
−は任意の対アニオンである。)
なお、以下において、「カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基」を、「オニウムイオン含有基」と記す場合がある。なお、オニウムイオン含有基とは、オニウムイオン構造を含有する基、あるいは、オニウムイオン構造を形成する基を意味する。
【0014】
本発明で用いるエピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムは、溶液重合法または溶媒スラリー重合法などにより、エピハロヒドリン単量体を開環重合することにより得ることができる。なお、後述するように、本発明で用いるエピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムは、エピハロヒドリン単量体以外に、エチレンオキサイド単量体、不飽和オキサイド単量体を開環重合した共重合体であることが好ましい。但し、エピハロヒドリン単量体が0.1モル%以上共重合に供されることが必要である。
【0015】
エピハロヒドリン単量体単位を構成するエピハロヒドリン単量体としては、特に限定されないが、たとえば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、エピフルオロヒドリンなどが挙げられ、これらのなかでも、エピクロロヒドリンが好ましい。エピハロヒドリン単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
エピハロヒドリン単量体を開環重合する際に用いる重合触媒としては、一般のポリエーテル重合用触媒であれば、特に限定されない。重合触媒としては、たとえば、有機アルミニウムに水とアセチルアセトンを反応させた触媒(特公昭35−15797号公報);トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒(特公昭46−27534号公報);トリイソブチルアルミニウムにジアザビアシクロウンデセンの有機酸塩とリン酸とを反応させた触媒(特公昭56−51171号公報);アルミニウムアルコキサイドの部分加水分解物と有機亜鉛化合物とからなる触媒(特公昭43−2945号公報);有機亜鉛化合物と多価アルコールとからなる触媒(特公昭45−7751号公報);ジアルキル亜鉛と水とからなる触媒(特公昭36−3394号公報);トリブチル錫クロライドとトリブチルホスフェートとからなる触媒(特許第3223978号公報);などが挙げられる。
【0017】
重合溶媒としては、不活性溶媒であれば、特に限定されないが、たとえば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの直鎖状飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状飽和炭化水素類;などが用いられる。これらのなかでも、溶液重合法により開環重合する場合は、ポリエーテルゴムの溶解性の観点から、芳香族炭化水素を用いることが好ましく、トルエンがより好ましい。
【0018】
重合反応温度は、20〜150℃が好ましく、40〜130℃がより好ましい。重合様式は、回分式、半回分式、連続式などの任意の方法で行うことができる。
【0019】
エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムは、ブロック共重合、ランダム共重合のいずれの共重合タイプでも構わないが、ランダム共重合体が好ましい。
【0020】
エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムを溶媒から回収する方法は、特に限定されないが、たとえば、凝固・ろ別・乾燥方法を適宜組合わせることにより行う。ポリエーテルゴムが溶解している溶媒から、ポリエーテルゴムを凝固させる方法としては、たとえば、常法であるスチームストリッピングや貧溶媒を用いた析出方法などを用いることができる。また、ポリエーテルゴムを含むスラリーから、ポリエーテルゴムをろ別する方法としては、必要に応じて、たとえば、回転式スクリーン、振動スクリーンなどの篩;遠心脱水機;などを用いる方法などを挙げることができる。さらに、ポリエーテルゴムの乾燥方法としては、たとえば、ロール、バンバリー式脱水機、スクリュー押出機式脱水機などの圧縮水絞機を用いて脱水する方法;スクリュー型押出乾燥機、ニーダー型乾燥機、エキスパンダー乾燥機、熱風乾燥機、減圧乾燥機などの乾燥機を用いる方法;などを挙げることができる。これらの圧縮水絞機および乾燥機は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0021】
そして、本発明の製造方法では、このようなエピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを、受酸剤の存在下で、押出混練機を用いて混練して反応させることにより、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換することで、ポリエーテルゴムに、上記一般式(1)で表される構造単位を導入するものである。
【0022】
本発明においては、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを反応させる際に、押出混練機にて混練することで、これらを反応させるものであり、これにより、これらの反応を比較的短い反応時間にて、しかも連続工程にて行うことができるため、高い生産効率にて製造することが可能となる。加えて、本発明においては、これらの反応を、受酸剤の存在下で行うことにより、押出混練機の腐食(特に、押出混練機のスクリューの腐食)を有効に防止することができ、これにより押出混練機の腐食による生産効率の低下を有効に防止することができるものである。なお、たとえば、押出混練機を用いる方法に代えて、たとえば、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、窒素原子含有芳香族複素環式化合物とをオープンロールで混練し、次いで、得られた混練物を熱プレスすることにより、これらを反応させる方法も考えられるが、このような方法では、バッチ工程での生産となること、反応に要する時間が長いこと、などから生産効率が必ずしも十分なものとはならない。これに対し、本発明によれば、押出混練機を用いて混練することで、オニウム化反応(オニウムイオン含有基を導入する反応)させる方法を採用することにより、生産効率を適切に高めることができるものである。
【0023】
本発明で用いる窒素原子含有芳香族複素環式化合物(以下、「オニウム化剤」と記す場合がある。)は、窒素原子を含有する芳香族複素環式化合物であれば、特に限定されず、たとえば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、ピロール、1−メチルピロール、チアゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソオキサゾールなどの五員複素環式化合物;ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、2,6−ルチジンなどの六員複素環式化合物;キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プリン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾールなどの縮合複素環式化合物;などを挙げることができる。これらのなかでも、五員複素環式化合物および六員複素環式化合物が好ましく、反応後の物質安定性の観点から、1−メチルイミダゾールがより好ましい。
【0024】
オニウム化剤の使用量は、特に限定されないが、用いるオニウム化剤やポリエーテルゴムの構造、目的とするポリエーテルゴム中のオニウムイオン含有基の置換率などに応じ、上記一般式(1)で表される単位の含有割合が0.1モル%以上30モル%未満となるような範囲で決定すればよい。具体的には、オニウム化剤の使用量は、用いるポリエーテルゴムのエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01〜100モル、好ましくは0.02〜50モル、より好ましくは0.03〜10モル、さらに好ましくは0.05〜2モルの範囲である。オニウム化剤の量が少なすぎると、置換反応が遅く、所望の組成のオニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴム(以下、「カチオン化ポリエーテルゴム」とも記す。)が得られなくなるおそれがあり、一方、オニウム化剤の量が多すぎると、得られたカチオン化ポリエーテルゴムから未反応のオニウム化剤を除去することが困難になるおそれがある。
【0025】
本発明で用いる受酸剤としては、特に限定されないが、たとえば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、硼酸カルシウム、フタル酸カルシウム、亜燐酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、メタホウ酸カルシウム、メタホウ酸バリウムなどの周期律表第2族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、亜燐酸塩、メタホウ酸塩など;ステアリン酸亜鉛、酸化亜鉛などの周期律表第12族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、亜燐酸塩、メタホウ酸塩など;酸化錫、塩基性炭酸錫、ステアリン酸錫、塩基性亜燐酸錫、塩基性亜硫酸錫、酸化ケイ素、ステアリン酸ケイ素などの周期律表第14族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜燐酸塩、塩基性亜硫酸塩など;ハイドロタルサイト類;水酸化アルミニウムゲル化合物;などが挙げられる。そして、受酸剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、受酸剤は、オニウム化反応の際に副生する塩化水素などのハロゲン化水素を捕捉し、これにより、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを押出混練機にて混練して反応させる際における、押出混練機の腐食を防止することができる。これら受酸剤のなかでも、少量の添加でも、腐食防止効果が大きいことから、マグネシウム、カルシウム、バリウムの酸化物、水酸化物および炭酸塩が好ましく、マグネシウム、カルシウムの酸化物および炭酸塩がより好ましく、酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムが特に好ましい。また、受酸剤としては、その添加効果がより大きくなるという点より、2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、なかでも、酸化物と炭酸塩との組み合わせ、または、マグネシウム化合物とカルシウム化合物との組み合わせがより好ましく、酸化マグネシウムと炭酸カルシウムとの組み合わせが特に好ましい。
【0026】
受酸剤の使用量は、特に限定されないが、用いるポリエーテルゴム100重量部に対して、好ましくは0.1〜30重量部であり、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。受酸剤の使用量が少なすぎると、その添加効果、すなわち、押出混練機の腐食防止効果が低下してしまうおそれがあり、一方、多すぎると、ゴムが硬くなりすぎるおそれがある。
【0027】
エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、オニウム化剤とを反応させる際に、これらの混練に用いる押出混練機としては、単軸押出混練機、二軸押出混練機、二軸以上の多軸押出混練機などのいずれでもよく、特に限定されないが、生産効率をより高めることができるという点より、二軸押出混練機を用いることが好ましい。二軸押出混練機としては、スクリュー回転軸方向が同方向のもの、異方向のものいずれであってもよく、特に限定されない。また、本発明で用いる押出混練機は、L/D(スクリュー長/スクリュー径)=1〜100のものが好ましく、L/D=20〜80のものがより好ましい。
【0028】
また、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴム、オニウム化剤、および受酸剤の押出混練機への投入方法は特に限定されず、これらを別々に連続的に投入するような態様としてもよいし、あるいは、これらを予め混合し、得られた混合物を連続的に投入するような態様としてもよい。
【0029】
押出混練機で混練する際の混練温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは162℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。そして、混練温度の上限は、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。また、混練時間(すなわち、混練時における、混練物の押出混練機内における滞留時間)は、好ましくは1〜30分、より好ましくは1〜15分である。本発明においては、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、オニウム化剤との反応を、受酸剤の存在下、押出混練機を用いて行う。そして、上記のように比較的高い温度にて、かつ、短時間で反応を行った場合でも、押出混練機を腐食させることなく、所望の組成のオニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムを得ることができるため、混練温度、混練時間は上記範囲とすることが好ましい。混練温度が低すぎると、置換反応が遅く、所望の組成のカチオン化ポリエーテルゴムが得られなくなるおそれがあり、一方、混練温度が高すぎると、用いるポリエーテルゴムの分解やオニウム化剤の揮発が起こるおそれがある。また、混練時間が短すぎると、反応が不完全となり、所望の組成のカチオン化ポリエーテルゴムが得られなくなるおそれがあり、一方、混練時間が長すぎると、生産効率が低下してしまうおそれがある他、ポリエーテルゴムの分解が起こるおそれもある。
【0030】
なお、本発明において、押出混練機で混練を行う際には、混練により混練物自体の発熱も発生するため、このような発熱を考慮して、押出混練機の加熱温度を調整し、これにより、混練温度を所望の温度とすることが望ましい。押出混練機で混練を行う際における混練温度は、たとえば、押出混練機から排出される排出直後のカチオン化ポリエーテルゴムの温度を測定することにより求めることができる。また、本発明において、押出混練機で混練を行う際における混練時間(混練時における、混練物の押出混練機内における滞留時間)は、たとえば、押出混練機に投入するエピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴム、オニウム化剤、および受酸剤の投入速度、押出混練機のスクリュー回転速度などを調整することにより制御することができる。
【0031】
さらに、本発明の製造方法においては、オニウム化剤として、ピロールのような環状第2級アミン類(本発明において、環状第2級アミン類とは、窒素原子含有芳香族複素環式化合物であって、環中の窒素原子に水素原子が1つ結合しているものを言う。以下、同様。)を用いた場合には、必要に応じて、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している環中の窒素原子と結合している水素原子を、所望の基に置換することもできる。具体的には、ポリエーテルゴムと環状第2級アミン類との反応後、次に、塩基を混合し、窒素原子と結合しているプロトンを脱離させ、さらに、たとえば、ハロゲン化アルキルを混合し付加させることにより、下記一般式(2)のように、所望の置換基を導入することができる。
【化3】
(上記一般式(2)中、R’は炭素数1〜10のアルキル基を示し、X’はハロゲン原子を表す。)
【0032】
以上のようにして、本発明によれば、上記一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴム(カチオン化ポリエーテルゴム)を得ることができる。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、上記一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するものであるため、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムを用いて得られるゴム架橋物は、電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制できるものである。
【0033】
上記一般式(1)で表される単位中、A
+は、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。このカチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基は、該カチオン性含窒素芳香族複素環を構成する窒素原子の1つを介して、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基中のカチオン性含窒素芳香族複素環における含窒素芳香族複素環は、環中に窒素原子を有し、芳香族性を有するものならば、特に限定されない。たとえば、複素環中に、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合する窒素原子以外に、別の窒素原子を有していてもよいし、酸素原子、硫黄原子など、窒素原子以外のヘテロ原子を有していてもよいし、また、複素環を構成する原子のうち一部は置換基により置換されていてもよい。また、二環以上が縮合した多環構造をとっていてもよい。このような含窒素芳香族複素環の構造としては、たとえば、イミダゾール環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環などの五員複素環;ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環などの六員複素環;キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、プリン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環などの縮合複素環;などが挙げられる。これらのなかでも、五員複素環および六員複素環が好ましく、イミダゾール環がより好ましい。ポリエーテルゴムにおいて、上記一般式(1)で表される単位中のA
+は、それぞれ独立しており、ポリエーテルゴム中に、2種以上の、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基が存在していてもよい。
【0034】
上記含窒素芳香族複素環の置換基としては、特に限定されないが、たとえば、アルキル基;シクロアルキル基;アルケニル基;アリール基;アリールアルキル基;アルキルアリール基;アルコキシル基;アルコキシアルキル基;アリールオキシ基;アルカノール基;水酸基;カルボニル基;アルコキシカルボニル基;アミノ基;イミノ基;ニトリル基;アルキルシリル基;ハロゲン原子;などが挙げられる。
【0035】
本発明において、上記一般式(1)中のA
+で表されるカチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基としては、下記一般式(3)で表される基であることが好ましい。
【化4】
(上記一般式(3)中に表されているN−は、上記一般式(1)において、上記一般式(1)に示す「2」の位置の炭素原子と結合している。また、上記一般式(3)中に表されているRは、水素原子、または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0036】
上記一般式(3)中に表されているRは、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0037】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、上記一般式(1)で表される単位の含有割合は、全単量体単位中、0.1モル%以上30モル%未満であり、0.5〜25モル%であることが好ましく、0.7〜12モル%であることがが特に好ましい。上記一般式(1)で表される単位の含有割合が前記範囲内にあると、圧縮永久歪率が小さく、電気抵抗値が低く、かつ、体積固有抵抗値の通電上昇を抑制可能なゴム架橋物を与えることができるポリエーテルゴムが得られる。一方、上記一般式(1)で表される単位の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が高くなり、連続して電圧を印加した場合に電気抵抗値が上昇する場合がある。また、上記一般式(1)で表される単位の含有割合が多すぎると、ポリエーテルゴムが硬くなり、ゴム弾性体としての特質が失われる場合がある。
【0038】
上記一般式(1)のX
−で表される任意の対アニオンとは、イオン結合にて、A
+と結合している負の電荷を有する化合物または原子であり、負の電荷を持つこと以外は特に限定されない。対アニオンは、電離性のイオン結合を形成するものであるため、公知のイオン交換反応により、少なくとも一部を、任意の対アニオンにアニオン交換することができる。上記オニウム化剤と、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有しているポリエーテルゴムとを、受酸剤の存在下、押出混練機にて混練し反応が終了した段階においては、上記一般式(1)のXはハロゲン原子であるが、A
+の対アニオンであるハロゲン化物イオンに対し、公知のアニオン交換反応を行ってもよい。アニオン交換反応は、オニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムに対し、電離性を有するイオン性化合物を混合することで行うことができる。アニオン交換反応を行う条件は、特に限定されないが、用いるイオン性化合物やポリエーテルゴムの構造、目的とするA
+の対アニオンの置換率などに応じて決定すればよい。反応は、イオン性化合物と、オニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムのみで行っても構わないし、有機溶媒などのその他の化合物を含んでいても構わない。イオン性化合物の使用量は、特に限定されないが、用いるエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01〜100モル、好ましくは0.02〜50モル、より好ましくは0.03〜10モルの範囲である。イオン性化合物の量が少なすぎると、置換反応が進行しにくくなるおそれがあり、一方、多すぎると、イオン性化合物の除去が困難になるおそれがある。
【0039】
アニオン交換反応時の圧力は、通常、0.1〜50MPaであり、好ましくは0.1〜10MPaであり、より好ましくは0.1〜5MPaである。反応時の温度は、通常、−30〜200℃、好ましくは−15〜180℃、より好ましくは0〜150℃である。反応時間は、通常、1分〜1000時間であり、好ましくは3分〜100時間であり、より好ましくは5分〜10時間であり、さらに好ましくは5分〜3時間である。
【0040】
対アニオンのアニオン種は、特に限定されないが、たとえば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硫酸イオン;亜硫酸イオン;水酸化物イオン;炭酸イオン;炭酸水素イオン;硝酸イオン;酢酸イオン;過塩素酸イオン;リン酸イオン;アルキルオキシイオン;トリフルオロメタンスルホン酸イオン;ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオン;ヘキサフルオロリン酸イオン;テトラフルオロホウ酸イオン;などが挙げられる。
【0041】
上記一般式(1)で表される単位の、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中の含有割合(以下、「オニウムイオン単位含有率」とも記す。)を調べる方法としては、公知の方法を用いればよい。オニウムイオン単位含有率を簡便かつ定量的に求めるためには、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムについて
1H−NMR測定を行うことにより、オニウムイオン含有基の含有量を定量することができる。具体的には、まず、カチオン化ポリエーテルゴムの主鎖であるポリエーテル鎖に由来するプロトンの積分値から、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1を算出する。次に、オニウムイオン含有基に由来するプロトンの積分値から、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を算出する。導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1で除することにより、オニウムイオン単位含有率を、下記式により算出することができる。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×B2/B1
【0042】
また、用いるオニウム化剤が、上述した反応条件において、オニウムイオン含有基の置換反応以外の反応で消費されない場合には、オニウム化剤の消費モル量は、ハロゲン原子のオニウムイオン含有基の置換モル量と等しくなる。そのため、オニウム化剤の消費モル量を、反応開始前の添加モル量A1から反応終了後の残留モル量A2を減じることにより算出し、これをオニウム化剤と反応させる前のポリエーテルゴム(以下、「ベースポリエーテルゴム」とも記す。)の全単量体単位のモル量Pにて除することにより、オニウムイオン単位含有率を、下記式により算出することもできる。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×(A1−A2)/P
消費モル量の測定に関しては、公知の測定方法を用いて構わないが、たとえば、その反応率をキャピラリーカラムと水素炎イオン化型検出器(FID)とを装備したガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定することができる。
【0043】
また、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、上記一般式(1)で表される単位を必須とし、上記一般式(1)で表される単位、ならびに、[エピハロヒドリン単量体単位、および/または不飽和オキサイド単量体単位]を含有する共重合体であることが好ましく、上記一般式(1)で表される単位、エチレンオキサイド単量体単位、ならびに、[エピハロヒドリン単量体単位および/または不飽和オキサイド単量体単位]を含有する共重合体であることがより好ましく、上記一般式(1)で表される単位、エチレンオキサイド単量体単位、エピハロヒドリン単量体単位、および不飽和オキサイド単量体単位を含有する共重合体であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、架橋性単量体単位を含有することが好ましい。架橋性単量体単位としては、エピハロヒドリン単量体単位および/または不飽和オキサイド単量体単位が好ましい。
【0045】
エピハロヒドリン単量体としては、上述した、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムに使用することができるエピハロヒドリン単量体を用いることができる。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、エピハロヒドリン単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、99.9〜0モル%であることが好ましく、78.5〜10モル%であることがより好ましく、57.3〜15モル%であることが特に好ましい。エピハロヒドリン単量体単位の含有割合が前記範囲内にあると、体積固有抵抗値の通電上昇を抑制可能なゴム架橋物を与えることができるポリエーテルゴムが得られる。一方、エピハロヒドリン単量体単位の含有割合が多すぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が上昇する場合があり、少なすぎると、得られるゴム架橋物の架橋が不十分となり、ゴム架橋物の形状維持が困難になる場合がある。
【0046】
不飽和オキサイド単量体単位を形成する不飽和オキサイド単量体としては、分子内に少なくとも一つの炭素−炭素不飽和結合(芳香環の炭素−炭素不飽和結合は除く)と、少なくとも一つのエポキシ基とを含有する化合物であれば、特に限定されないが、たとえば、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテルなどのアルケニルグリシジルエーテル類;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド類;などが挙げられる。これらのなかでも、アルケニルグリシジルエーテル類が好ましく、アリルグリシジルエーテルがより好ましい。不飽和オキサイド単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、15〜0モル%であることが好ましく、12〜1モル%であることがより好ましく、10〜2モル%であることが特に好ましい。ポリエーテルゴム中における、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が前記範囲内にあると、架橋性に優れたポリエーテルゴムが得られる。一方、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の圧縮永久歪が悪化する場合がある。また、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、重合反応中に、ポリマー分子中あるいはポリマー分子間のゲル化反応(3次元架橋反応)などを起こし易くなって、成形加工性が低下するおそれがある。
【0047】
また、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムを導電性部材、特に導電性ロールの材料として用いる場合、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、低電気抵抗性の観点から、エチレンオキサイド単量体単位を含有していることが好ましい。
【0048】
エキレンオキサイド単量体単位は、エチレンオキサイド単量体により形成される単位である。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、90〜0モル%であることが好ましく、80〜20モル%であることがより好ましく、75〜40モル%であることが特に好ましい。ポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合が前記範囲内にあると、低電気抵抗性に優れたポリエーテルゴムが得られる。一方、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の電気抵抗値の低減効果が得難くなる。また、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、ポリエーテルゴムの製造が困難になるおそれがある。
【0049】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、上記一般式(1)で表される単位、エピハロヒドリン単量体単位、不飽和オキサイド単量体単位、エチレンオキサイド単量体単位に加えて、必要に応じて、上記一般式(1)で表される単位および前記単量体単位と共重合可能なその他の単量体単位を含有する共重合体であってもよい。その他の単量体単位のなかでも、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位が好ましい。エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位を形成するアルキレンオキサイド単量体としては、特に限定されないが、例えば、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシ−4−クロロペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシエイコサン、1,2−エポキシイソブタン、2,3−エポキシイソブタンなどの直鎖状または分岐鎖状アルキレンオキサイド;1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロドデカンなどの環状アルキレンオキサイド;ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテルなどのアルキル直鎖または分岐鎖を有するグリシジルエーテル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのオキシエチレン側鎖を有するグリシジルエーテル;などが挙げられる。これらのなかでも、直鎖状アルキレンオキサイドが好ましく、プロピレンオキサイドがより好ましい。これらアルキレンオキサイド単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。ポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が上昇するおそれがある。
【0050】
また、アルキレンオキサイド単量体を除く、その他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、たとえば、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテルなどのアリールエポキシド類;などが挙げられる。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、アルキレンオキサイド単量体を除く、その他の共重合可能な単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。
【0051】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムの重量平均分子量は、20万〜200万であることが好ましく、40万〜150万であることがより好ましい。重量平均分子量が高すぎると、ムーニー粘度が高くなり、成形加工が難しくなるおそれがある。一方、重量平均分子量が低すぎると、得られるゴム架橋物の圧縮永久歪が悪化するおそれがある。
【0052】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー粘度・ML
1+4,100℃)は、10〜120であることが好ましく、20〜90であることがより好ましい。ムーニー粘度が高すぎると、成形加工性に劣り、導電性部材用途への成形がし難くなる。さらに、スウェル(押し出し成形時にダイの径より押出物の径が大きくなること)が発生し、寸法安定性が低下するおそれがある。一方、ムーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0053】
<架橋性ゴム組成物>
また、本発明においては、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムに、架橋剤を配合することで、架橋性ゴム組成物とすることができる。
【0054】
本発明で用いる架橋剤としては、上述した架橋性単量体単位の有無、およびその種類などにより適宜選択すればよいが、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムを架橋可能なものであれば、特に限定されない。このような架橋剤としては、たとえば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;s−トリアジン−2,4,6−トリチオールなどのトリアジン系化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;などが挙げられる。これらのなかでも、硫黄、含硫黄化合物、トリアジン系化合物が好ましく、架橋性単量体として、不飽和オキサイド単量体を用いる場合は、硫黄、含硫黄化合物がより好ましい。これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋剤の配合割合は、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対し、好ましくは0.1〜10重量部であり、0.2〜7重量部がより好ましく、0.3〜5重量部がさらに好ましい。架橋剤の配合量が少なすぎると、架橋速度が遅くなり、得られるゴム架橋物の生産性が低下したり、ゴム架橋物を研磨して使用する場合に研磨性が低下したりするおそれがある。一方、架橋剤の配合量が多すぎると、得られるゴム架橋物の硬度が高くなったり、架橋剤がブルームしたりする可能性がある。
【0055】
架橋剤として、硫黄または含硫黄化合物を用いる場合には、架橋促進助剤、および架橋促進剤を併用することが好ましい。架橋促進助剤としては、特に限定されないが、たとえば、亜鉛華、ステアリン酸などが挙げられる。架橋促進剤としては、特に限定されないが、たとえば、グアニジン系;アルデヒド−アミン系;アルデヒド−アンモニア系;チアゾール系;スルフェンアミド系;チオ尿素系;チウラム系;ジチオカルバミン酸塩系;などの各架橋促進剤を用いることができる。架橋促進助剤および架橋促進剤は、それぞれ1種を単独で使用してもよく、2種以上併用して用いてもよい。
【0056】
架橋促進助剤および架橋促進剤の各使用量は、特に限定されないが、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対して、それぞれ0.01〜15重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。架橋促進助剤および架橋促進剤の使用量が多すぎると、架橋速度が早くなりすぎたり、得られるゴム架橋物の表面にブルームしたりするおそれがある。一方、少なすぎる場合は、架橋速度が遅くて生産性に劣ったり、架橋が十分に進行せず、得られるゴム架橋物の機械的特性が劣るおそれがある。
【0057】
架橋性ゴム組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、およびこれらゴムの部分水素添加物(たとえば、水素化ニトリルゴム)などのジエン系ゴム;エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ポリエーテル系ゴム(本発明の製造方法で得られるポリエーテルゴムを除く)、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどのジエン系ゴム以外のゴム;オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリ塩化ビニル、クマロン樹脂、フェノール樹脂などの樹脂;を含有していてもよい。これらのゴム、熱可塑性エラストマー、および樹脂は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、これらの合計含有量は、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対して、100重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましく、20重量部以下が特に好ましい。
【0058】
さらに、架橋性ゴム組成物は、上述した添加剤以外に、公知のゴムに通常配合されるその他の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、たとえば、充填剤;受酸剤;補強剤;老化防止剤;紫外線吸収剤;耐光安定剤;粘着付与剤;界面活性剤;導電性付与剤;電解質物質;着色剤(染料・顔料);難燃剤;帯電防止剤;などが挙げられる。
【0059】
架橋性ゴム組成物は、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムに、架橋剤、および必要に応じて用いられる各添加剤を、所望の方法により調合、混練することにより調製することができる。たとえば、架橋剤および架橋促進剤を除く添加剤と、ポリエーテルゴムとを混練後、その混合物に架橋剤および架橋促進剤を混合して、架橋性ゴム組成物を得ることができる。調合、混練に際しては、たとえば、ニーダー、バンバリー、オープンロール、カレンダーロール、押出機など任意の混練成形機を一つあるいは複数組み合わせて用いて混練成形してもよい。架橋剤および架橋促進剤を除く添加剤と、ポリエーテルゴムとの混練温度は、20〜200℃が好ましく、20〜150℃がより好ましく、その混練時間は、30秒〜30分が好ましく、混練物と、架橋剤および架橋促進剤との混合温度は、100℃以下が好ましく、0〜80℃がより好ましい。
【0060】
<ゴム架橋物>
また、本発明においては、上記のようにして得られる架橋性ゴム組成物を架橋することで、ゴム架橋物とすることができる。
【0061】
架橋性ゴム組成物を架橋する方法は、特に限定されないが、成形と架橋を同時に行っても、成形後に架橋してもよい。成形時の温度は、20〜200℃が好ましく、40〜180℃がより好ましい。架橋時の加熱温度は、130〜200℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。架橋時の温度が低すぎると、架橋時間が長時間必要となったり、得られるゴム架橋物の架橋密度が低くなったりするおそれがある。一方、架橋時の温度が高すぎると、成形不良となるおそれがある。架橋時間は、架橋方法、架橋温度、形状などにより異なるが、1分以上、5時間以下の範囲が架橋密度と生産効率の面から好ましい。加熱方法としては、プレス加熱、オーブン加熱、蒸気加熱、熱風加熱、およびマイクロ波加熱などの方法を適宜選択すればよい。
【0062】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋を行う際における、加熱温度は、100〜220℃が好ましく、130〜210℃がより好ましい。加熱時間は、30分〜5時間が好ましい。
【0063】
このようにして得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値は、温度23℃、湿度50%とした測定環境にて、印加電圧を1000Vとし、電圧印加開始から30秒後の値において、通常、1×10
4.0〜1×10
9.5Ω・cmであり、好ましくは1×10
4.5〜1×10
8.0Ω・cmであり、より好ましくは1×10
5.0〜1×10
7.2Ω・cmである。ゴム架橋物の体積固有抵抗値が前記範囲内にあると、低電気抵抗性に優れた導電性部材が得られる。一方、ゴム架橋物の体積固有抵抗値が高すぎると、同じ電流を流すためにより高い電圧を印加しなければならず、消費電力量が多くなることから導電性部材には不向きである。また、ゴム架橋物の体積固有抵抗値が低すぎると、電圧印加方向以外の意図しない方向に電流が流れてしまい、導電性部材としての機能を損ねるおそれがある。
【0064】
また、このようにして得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値の通電上昇値は、前記体積固有抵抗値の測定条件において、電圧印加開始から10分後のlog
10(体積固有抵抗値)から、電圧印加開始から30秒後のlog
10(体積固有抵抗値)を減じたものにおいて、0〜0.5の範囲にあることが好ましい。
【0065】
このようにして得られるゴム架橋物は、電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制するものであるため、複写機や印刷機などに使用される導電性部材、特に、導電性ロールに好適に用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0067】
[オニウムイオン単位含有率]
オニウムイオン単位含有率の測定は、核磁気共鳴装置(
1H−NMR)を用いて、以下のように行った。オニウム化反応後、凝固乾燥して得られたカチオン化ポリエーテルゴム30mgを、1.0mlのジメチルスルホキシドに加え、1時間振とうすることにより均一に溶解させた。この溶液を、
1H−NMR測定することによりオニウムイオン単位含有率を算出した。まず、カチオン化ポリエーテルゴムの主鎖であるポリエーテル鎖に由来するプロトンの積分値から、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1を算出した。次に、オニウムイオン含有基に由来するプロトンの積分値から、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を算出した。そして、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1で除することにより、オニウムイオン単位含有率を、下記式により算出した。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×B2/B1
【0068】
[ムーニー粘度]
ムーニー粘度(ML
1+4,100℃)は、JIS K6300に従って、100℃で測定した。
【0069】
[金属腐食性]
ポリエーテルゴムに、1−メチルイミダゾールおよびその他の配合剤を、オープンロールを用いて25℃で5分間混練することにより配合してなるゴム組成物(表1に配合組成を示す。)を、炭素鋼SKD11上に少量載置し、ハンドプレス機において170℃、10MPaの条件にてプレスした。そして、3時間静置した後、脱圧し、炭素鋼SKD11上からゴム組成物を除去して、アセトンをしみこませた布で炭素鋼SKD11の表面を拭きとった後に、目視にて、炭素鋼SKD11の表面を観察することで、金属腐食性の評価を行った。なお、金属腐食性は以下の基準に従って評価した。
1:金属上に腐食は見られず、金属光沢を保っていた。
2:金属上に白い曇りが確認された。
3:金属上に茶色い腐食が確認された。
なお、実施例1〜3においては、反応後にスクリューを二軸押出混練機から取り出して、金属腐食性の評価を行っているが、その評価基準は上記1〜3と同様とする。
【0070】
(製造例1、重合触媒の製造)
密閉した耐圧ガラス容器を窒素置換して、トルエン200部およびトリイソブチルアルミニウム60部を供給した。このガラス容器を氷水に浸漬して冷却後、ジエチルエーテル230部を添加し、攪拌した。次に、氷水で冷却しながら、リン酸13.6部を添加し、さらに攪拌した。この時、トリイソブチルアルミニウムとリン酸との反応により、容器内圧が上昇するので適時脱圧を実施した。次いで、得られた反応混合物を60℃の温水浴内で1時間熟成反応させて触媒溶液を得た。
【0071】
(製造例2、ポリエーテルゴムAの製造)
オートクレーブにエピクロロヒドリン223.5部、アリルグリシジルエーテル27.5部、エチレンオキサイド19.7部、トルエン2585部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら内溶液を50℃に昇温し、上記で得た触媒溶液11.6部を添加して反応を開始した。次に、反応開始からエチレンオキサイド129.3部をトルエン302部に溶解した溶液を5時間かけて等速度で連続添加した。また、反応開始後30分毎に触媒溶液6.2部ずつを5時間にわたり添加した。次いで、水15部を添加して攪拌し、反応を終了させた。ここにさらに、老化防止剤として4,4’−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の5%トルエン溶液45部を添加し、攪拌した。その後、スチームストリッピングを実施してトルエンを除去し、上澄み水を除去後、60℃にて真空乾燥し、ポリエーテルゴムA 400部を得た。得られたポリエーテルゴムAの単量体組成比は、
1H−NMRにより測定した結果、エピクロロヒドリン単量体単位40モル%、エチレンオキサイド単量体単位56モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であった。また、得られたポリエーテルゴムAのムーニー粘度は60であった。
【0072】
〔参考例1〕
25℃のオープンロールに、製造例1で得られたポリエーテルゴムA 100部、1−メチルイミダゾール3.22部、酸化マグネシウム2.4部、および炭酸カルシウム4.0部を投入し、5分間混練し、シート状のゴム組成物を得た。そして、得られたゴム組成物のうち一部を用いて、上記方法に従い、金属腐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
〔参考例2〕
25℃のオープンロールに、製造例1で得られたポリエーテルゴムA 100部、1−メチルイミダゾール3.22部、酸化マグネシウム1.8部、および炭酸カルシウム3.0部を投入し、5分間混練し、シート状のゴム組成物を得た。そして、得られたゴム組成物のうち一部を用いて、上記方法に従い、金属腐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
〔参考例3〕
25℃のオープンロールに、製造例1で得られたポリエーテルゴムA 100部、1−メチルイミダゾール3.22部、酸化マグネシウム0.9部、および炭酸カルシウム1.5部を投入し、5分間混練し、シート状のゴム組成物を得た。そして、得られたゴム組成物のうち一部を用いて、上記方法に従い、金属腐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例1〕
25℃のオープンロールに、製造例1で得られたポリエーテルゴムA 100部、および1−メチルイミダゾール3.22部を投入し、5分間混練し、シート状のゴム組成物を得た。すなわち、比較例1では、受酸剤である酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムを配合しなかった。そして、得られたゴム組成物のうち一部を用いて、上記方法に従い、金属腐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
(参考例1〜3、比較例1の評価)
表1に示すように、エピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴム、および窒素原子含有芳香族複素環式化合物に、受酸剤としての酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムを配合してなるゴム組成物は、いずれも金属腐食が抑えられており、そのため、このようなゴム組成物を用いて二軸押出混練機にて混練を行った場合でも、二軸押出混練機の腐食を防止できるといえる(参考例1〜3)。
一方、受酸剤としての酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムを配合しなかった場合には、金属腐食性に著しく劣る結果となった。そのため、受酸剤としての酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムを配合しないゴム組成物を用いて二軸押出混練機にて混練を行うと、二軸押出混練機の腐食が激しくなり、生産性に極めて劣るものとなることが予想される(比較例1)。
【0078】
〔実施例1〕
(カチオン化ポリエーテルゴム1の製造)
25℃のオープンロールに、製造例1で得られたポリエーテルゴムA 100部と、1−メチルイミダゾール3.22部とを投入し、5分間混練し、シート状のゴム組成物を得た。次いで、得られたシート状のゴム組成物を、酸化マグネシウム2.4部および炭酸カルシウム4.0部と共に、粉砕機(商品名「SM 300」、Retsch社製)に投入し、室温下、回転数1500rpmにて破砕を行い、ペレット状のゴム組成物を得た。
【0079】
次いで、上記にて得られたペレット状のゴム組成物を、二軸押出混練機(パーカーコーポレーション社製、L/D=61、スクリュー材質:炭素鋼SKD11)に、投入レート:1kg/hにて投入し、二軸押出混練機にて、加熱条件下で混練することで、ポリエーテルゴムAと1−メチルイミダゾールとを反応させ、カチオン化ポリエーテルゴム1を得た。この際、二軸押出混練機中における、ゴム組成物の滞留時間(混練時間)は9分であり、二軸押出混練機から排出された排出直後のカチオン化ポリエーテルゴムの温度(混練温度)は160℃であった。
【0080】
そして、得られたカチオン化ポリエーテルゴム1について、上述した方法に従って、
1H−NMR測定することにより、オニウムイオン単位含有率を算出した。
また、反応後の二軸押出混練機からスクリューを取り出して観察したところ、腐食は見られず、金属光沢を保っていた。
結果を表2に示す。
【0081】
〔実施例2〕
(カチオン化ポリエーテルゴム2の製造)
二軸押出混練機の中のゴム組成物の滞留時間(混練時間)を11.5分とするとともに、二軸押出混練機の加熱条件を変更することで、二軸押出混練機から排出される排出直後のカチオン化ポリエーテルゴムの温度(混練温度)を164℃に調整した以外は、実施例1と同様の方法によって、カチオン化ポリエーテルゴム2を得た。そして、得られたカチオン化ポリエーテルゴム2について、上述した方法に従って、
1H−NMR測定することにより、オニウムイオン単位含有率を算出した。
また、反応後の二軸押出混練機からスクリューを取り出して観察したところ、腐食は見られず、金属光沢を保っていた。
結果を表2に示す。
【0082】
〔実施例3〕
(カチオン化ポリエーテルゴム3の製造)
二軸押出混練機の中のゴム組成物の滞留時間(混練時間)を8分とするとともに、二軸押出混練機の加熱条件を変更することで、二軸押出混練機から排出される排出直後のカチオン化ポリエーテルゴムの温度(混練温度)を182℃に調整した以外は、実施例1と同様の方法によって、カチオン化ポリエーテルゴム3を得た。そして、得られたカチオン化ポリエーテルゴム3について、上述した方法に従って、
1H−NMR測定することにより、オニウムイオン単位含有率を算出した。
また、反応後の二軸押出混練機からスクリューを取り出して観察したところ、腐食は見られず、金属光沢を保っていた。
結果を表2に示す。
【0083】
〔比較例2〕
(カチオン化ポリエーテルゴム4の製造)
比較例1で得られたゴム組成物200gを、プレス成型機を用いて、160℃で、10分間プレスと同時に加熱することによって、ポリエーテルゴムAと1−メチルイミダゾールを反応させ、カチオン化ポリエーテルゴム4を得た。そして、得られたカチオン化ポリエーテルゴム4について、上述した方法に従って、
1H−NMR測定することにより、オニウムイオン単位含有率を算出した。
結果を表2に示す。
なお、比較例2は、比較例1と同じゴム組成物を用いているため、「金属腐食性」の結果は、比較例1と同じ値になる。
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例1〜3、比較例1〜2の評価)
表2に示すようにエピハロヒドリン単量体単位を0.1モル%以上含有するポリエーテルゴムと、窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを、受酸剤としての酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムとの存在下で、二軸押出混練機を用いて混練することでオニウム化反応を進行させた場合には、1kg/hの生産性で、カチオン化ポリエーテルゴムを得ることができた(実施例1〜3)。また、実施例1〜3においては、二軸押出混練機のスクリューの腐食も発生しなかった。なお、この結果は、上述した参考例1における金属腐食性の結果とも一致するものであった。
【0086】
一方、受酸剤としての酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムを配合しないゴム組成物を得て、プレス成型機を用いて、プレスと同時に加熱を行うことでオニウム化反応を進行させた場合においては、二軸押出混練機を用いた場合と比べて、反応速度が遅いだけでなく、バッチ式のため生産性に劣るものであり、金属腐食の問題も発生するものであった。