(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6459987
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20190121BHJP
C30B 13/28 20060101ALI20190121BHJP
C30B 13/12 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
C30B29/06 501A
C30B29/06 A
C30B13/28
C30B13/12
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-2766(P2016-2766)
(22)【出願日】2016年1月8日
(65)【公開番号】特開2017-122033(P2017-122033A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
(72)【発明者】
【氏名】児玉 義博
(72)【発明者】
【氏名】中澤 慶一
【審査官】
▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−105650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00 − 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン原料結晶を回転させながら、該シリコン原料結晶を誘導加熱コイルにより部分的に加熱溶融して溶融帯を形成し、該溶融帯を前記シリコン原料結晶の一端部から他端部へ移動させてシリコン単結晶を成長させるFZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
窒素を含む雰囲気下で、前記シリコン単結晶を所望の直径まで拡げながら成長させるコーン工程と、
前記シリコン単結晶が前記所望の直径に達した後に、前記窒素を含む雰囲気中の窒素濃度を減少させて、前記直径を前記所望の直径に維持しつつ前記シリコン単結晶を成長させる直胴工程と
を有し、
前記シリコン単結晶の直径を150mm以上とすることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記直胴工程開始時点に形成される前記シリコン単結晶の直胴部の結晶中窒素濃度を2×1014atoms/cm3以上とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記直胴工程において、前記シリコン単結晶の直胴部のテール側の結晶中窒素濃度が2×1015atoms/cm3以下となるように前記窒素を含む雰囲気中の窒素濃度を減少させて、前記シリコン単結晶を成長させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FZ法(フローティングゾーン法又は浮遊帯溶融法)による半導体単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FZ法は、例えば、現在半導体素子として最も多く使用されているシリコン単結晶等の半導体単結晶の製造方法の一つとして使用される。通常、シリコン単結晶に所望の抵抗率を与えるためにはN型或いはP型の不純物ドーピングが必要である。FZ法においては、ドーパントガスを溶融帯に吹き付けるガスドーピング法が知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
ドーパントガスとして、例えばN型ドーパントであるP(リン)のドーピングにはPH
3等が、P型ドーパントであるB(ホウ素)のドーピングにはB
2H
6等が用いられる。シリコン単結晶の抵抗率は、これらN型ドーパントとP型ドーパントの結晶中の濃度差により変化するが、通常の結晶製造においてN型ドーパントのみ、或いはP型ドーパントのみをドーピングする場合には、抵抗率はドーパント添加量が増加するにつれて低くなる。
【0004】
所望の抵抗率のシリコン単結晶を得るためには、原料の抵抗率と所望の抵抗率を基に算出されたドーパント添加量が適正に保たれる必要がある。供給されるドーパントガスの濃度や流量等を調整することによりドーパント添加量を適正に保ちつつFZ法により単結晶を成長させることで、所望の抵抗率を持つシリコン単結晶を得ることができる。
【0005】
半導体デバイスの生産性等の観点から、使用されるシリコンウェーハの直径は段々と拡大してきた経緯があり、ウェーハの原料とするシリコン単結晶の直径も拡大してきた。製造するシリコン単結晶の直径が拡大することにより必要とする供給電力も増大し、シリコン単結晶製造中に高周波誘導加熱コイルにかかる電圧も高電圧となる。しかしこのように供給電力増大、高周波誘導加熱コイルへの印加電圧増加の状況下では、コイルスリット部、或いはコイルと原料や付帯設備の間等、炉内で放電が発生してシリコン単結晶製造を妨げることになる。
【0006】
FZ装置内でのシリコン単結晶製造中の放電防止対策として、製造中の雰囲気に窒素ガスを混合する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。雰囲気中に窒素ガスを加えることによって放電開始電圧を高め、高周波誘導加熱コイルの放電現象を制御する。
【0007】
また、高周波誘導加熱コイルの放電を防止する方法としては、コイルのスリット部での放電を防止する目的でスリット空隙部に絶縁部材を挿入する方法(例えば、特許文献2参照)、スリット空隙部に窒素ガスを吹き付ける方法(例えば、特許文献3参照)、高周波誘導加熱コイルの外巻き部と内巻き部の間で発生する放電を防止するために外巻き部を絶縁性部材で被覆する方法(例えば、特許文献4参照)、高周波誘導加熱コイルとその周囲の部材或いは原料棒や単結晶の間に絶縁部材を配置する方法(例えば、特許文献5参照)、高周波誘導加熱コイルの表面に絶縁性材料を被覆する方法(例えば、特許文献6参照)、などが開示されている。
【0008】
一方、FZ法によって製造されるシリコン単結晶及びシリコン単結晶を材料とするシリコンウェーハの品質の観点からは、シリコンウェーハの強度増強や結晶欠陥発生抑制の効果を得るために、シリコン単結晶へ窒素を導入することが好ましい。
【0009】
結晶欠陥については、例えば特許文献1に記述されるように結晶中へ窒素添加することで、エッチングデプレッションを防止することができる。また、特にシリコン単結晶の直胴部初期において過剰な格子間シリコンが生じることに起因する積層欠陥の発生も、結晶中窒素濃度を高めることで抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−176195号公報
【特許文献2】特公昭63−10556号公報
【特許文献3】特開2007−112640号公報
【特許文献4】特開昭50−37346号公報
【特許文献5】特開2006−169059号公報
【特許文献6】特開2006−169060号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】WOLFGANG KELLER、ALFRED MUHLBAUER著「Floating−Zone Silicon」p.82−92、MARCEL DEKKER, INC.発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、FZ法によるシリコン単結晶製造中の放電発生防止のためには様々な方法が提案されているが、特許文献3や特許文献5のような方法を取る場合付帯設備の追加などで装置は複雑になりがちで、シリコン単結晶取得率の低下やメンテナンス頻度増加のデメリットが生ずる。特許文献3の方法で窒素ガスを吹き付ける部分は必然的に溶融メルト近傍になるが、前述のようにドーパントガスも同様の部分に吹き付けるため、FZ単結晶の抵抗率制御に支障をきたす恐れがある。
【0013】
また特許文献4や特許文献6のように絶縁性素材被覆の方法では、新たな素材をシリコン単結晶製造中の炉内に投入することになるのでシリコン単結晶中への不純物導入の危険性が高まる。
【0014】
更に放電防止をより確実にするためには、FZ単結晶製造雰囲気中への窒素ガス添加を行うことが望ましく、結晶欠陥発生防止も考慮すると必須と考えられる。このため、他の対策を行ったとしても、併用してシリコン単結晶製造雰囲気中への窒素ガス添加も行うことが望ましい。
【0015】
シリコン単結晶に導入される窒素濃度は偏析の影響で、結晶成長方向で一定ではなく成長とともに増加する。製造したシリコン単結晶中の窒素濃度が過剰に高い場合は、当該結晶から作製した半導体基板でデバイス製造する時に、デバイス製造プロセスによっては窒素析出物の発生などで所望の特性が得られない場合がある。すなわち、製造結晶内で品質不適合部分が発生することとなり歩留が下がってしまうため、結晶内での窒素濃度の差を低減することが望ましい。
【0016】
ただし、単純に単結晶の製造の初期から炉内雰囲気中の窒素濃度を減らすだけでは放電トラブルのリスクが伴う。また、特にシリコン単結晶の直胴初期では、逆に一定以上の窒素濃度としなければ積層欠陥の発生リスクが生ずる。
【0017】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、炉内での放電の発生を防止し、結晶欠陥の発生を抑制し、かつ、直胴後半部の窒素濃度の過剰な増大も抑制できるFZ法によるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン原料結晶を回転させながら、該シリコン原料結晶を誘導加熱コイルにより部分的に加熱溶融して溶融帯を形成し、該溶融帯を前記シリコン原料結晶の一端部から他端部へ移動させてシリコン単結晶を成長させるFZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、窒素を含む雰囲気下で、前記シリコン単結晶を所望の直径まで拡げながら成長させるコーン工程と、前記シリコン単結晶が前記所望の直径に達した後に、前記窒素を含む雰囲気中の窒素濃度を減少させて、前記直径を前記所望の直径に維持しつつ前記シリコン単結晶を成長させる直胴工程とを有することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0019】
コーン工程では窒素濃度を高く維持し、直胴工程で雰囲気中の窒素濃度を下げることで、誘導加熱コイルからの放電を確実に防止でき、さらに、直胴部における結晶欠陥の発生を確実に抑制できる。また、直胴工程において、雰囲気中の窒素濃度を減少させて、直胴部を成長させることで、直胴後半部の窒素濃度が大きくなり過ぎず、適切な範囲内となり、デバイス製造プロセス等における窒素析出物の発生を抑制することができる。また、このような方法であれば、雰囲気以外のシリコン単結晶の製造条件を大幅に変更する必要もない。
【0020】
このとき、前記直胴工程開始時点に形成される前記シリコン単結晶の直胴部の結晶中窒素濃度を2×10
14atoms/cm
3以上とすることが好ましい。
【0021】
直胴工程開始時点での結晶中窒素濃度を、2×10
14atoms/cm
3以上とすることで直胴前半部における結晶欠陥の発生をより確実に防止することができる。
【0022】
またこのとき、前記直胴工程において、前記シリコン単結晶の直胴部のテール側の結晶中窒素濃度が2×10
15atoms/cm
3以下となるように前記窒素を含む雰囲気中の窒素濃度を減少させて、前記シリコン単結晶を成長させることができる。
【0023】
直胴部のテール側の窒素濃度が2×10
15atoms/cm
3以下となるように、雰囲気中の窒素濃度を減少させることで、直胴後半部の窒素濃度を適切な範囲内により確実に抑えることができ、窒素析出物の発生をより確実に防止することができる。
【0024】
このとき、前記シリコン単結晶の直径を150mm以上とすることができる。
【0025】
直径が150mm以上の大直径のシリコン単結晶の製造に本発明は好適に適応できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のFZ法によるシリコン単結晶の製造方法であれば、炉内での放電の発生を防止し、結晶欠陥の発生を抑制し、かつ、直胴後半部の窒素濃度の過剰な増大も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のシリコン単結晶の製造方法で使用できるFZ単結晶製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明のシリコン単結晶の製造方法の一例を示したフロー図である。
【
図3】実施例におけるシリコン単結晶の直胴部の長さに対する炉内の窒素濃度の推移を示す図である。
【
図4】実施例において得られたシリコン単結晶の直胴部の結晶中窒素濃度を示す図である。
【
図5】比較例1におけるシリコン単結晶の直胴部の長さに対する炉内の窒素濃度の推移を示す図である。
【
図6】比較例1において得られたシリコン単結晶の直胴部の結晶中窒素濃度を示す図である。
【
図7】比較例2におけるシリコン単結晶の直胴部の長さに対する炉内の窒素濃度の推移を示す図である。
【
図8】比較例2において得られたシリコン単結晶の直胴部の結晶中窒素濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
本発明者等は、FZ法によるシリコン単結晶の製造において、単結晶製造条件を大幅に変更せず、かつ、従来と比べてシリコン単結晶の後半部まで結晶中窒素濃度の値が適切な範囲内となるシリコン単結晶を取得するために鋭意検討を重ねた。
【0030】
シリコン単結晶へ導入される窒素はまず溶融メルトに溶け込み、メルト中の窒素の一部が凝固の際に単結晶に導入されるものであるが、シリコン単結晶へ導入されなかった分の窒素は溶融メルト中に残留する偏析現象が生じる。シリコン単結晶の成長は放電発生防止のため依然として窒素を含む炉内雰囲気中で継続されるため、シリコン単結晶の成長中の溶融帯のメルトへの窒素の溶け込みも継続される。このため、結晶成長の後半になるにつれて、シリコン単結晶の窒素濃度は直線的に増加してしまう。
【0031】
この状態への対策として、窒素を含む炉内雰囲気中下でシリコン単結晶の直径を徐々に拡大させるコーン部の形成を行い、所望の直径になってから炉内雰囲気中の窒素濃度を減少させつつ直胴部を成長させることで、直胴前半部における結晶欠陥の発生を抑制し、かつ、直胴後半部の結晶中窒素濃度の過剰な増大も抑制することができることを知見し、本発明を完成させた。
【0032】
まず、本発明のシリコン単結晶の製造方法で用いることができるFZ法による単結晶製造装置(FZ単結晶製造装置)について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、FZ単結晶製造装置1は、チャンバー11を有しており、該チャンバー11内には、回転可能な上軸12および下軸13が設けられている。上軸12にはシリコン原料結晶14として所定の直径のシリコン棒が取り付けられ、また下軸13には種結晶15が取り付けられる。またチャンバー11内には、シリコン原料結晶14を溶融するための誘導加熱コイル16や、ガスドーピングの際に、シリコン原料結晶14が溶融された溶融帯18にドーパントガスを噴出するためのドープノズル20が配置されている。
【0033】
さらに、チャンバー11はガス供給装置21を備えており、その炉内雰囲気中にベースとなる不活性ガス(窒素ガス以外)、及び窒素ガスを供給することができる。ガス供給装置はシリコン単結晶の成長中のベースの不活性ガス及び窒素ガスの供給量を調整する機能を有するものとできる。
【0034】
次に、本発明のシリコン単結晶の製造方法について、
図1のようなFZ単結晶製造装置1を用いる場合を例にして説明する。
図2に示すように、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、種付け工程、絞り工程、コーン工程、直胴工程、テール工程、切り離し工程を有する。
【0035】
(種付け工程)
まず、
図1のFZ単結晶製造装置1の炉内雰囲気を、ガス供給装置21により窒素を含む雰囲気とし、シリコン原料結晶14の先端を誘導加熱コイル16で溶融した後、種結晶15に融着させる。
【0036】
(絞り工程)
次に、絞り17を形成することにより無転位化し、上軸12及び下軸13を回転させながら下降させ、溶融帯18をシリコン原料結晶14に対して相対的に移動させながらシリコン単結晶19を成長させる。
【0037】
(コーン工程)
次に、窒素を含む雰囲気下で、シリコン単結晶19を所望の直径まで徐々に拡げながら成長させる(コーン部22の形成)。
【0038】
(直胴工程)
シリコン単結晶19が所望の直径に達した後に、窒素を含む雰囲気中の窒素濃度を減少させて、直径を所望の直径に維持しつつシリコン単結晶19の直胴部23を成長させる(直胴部23の形成)。本発明において、雰囲気中の窒素濃度を減少させるとは、コーン工程における雰囲気中の窒素濃度より、直胴工程における雰囲気中の窒素濃度が低くなる時間が有ればよいことを意味している。例えば、直胴工程の開始時から雰囲気中の窒素濃度は徐々に減少させても良いし、段階的に減少させても良い。なお、炉内雰囲気の窒素濃度を下げる方法としては、窒素ガス流量を減らす方法やベースガスとなる不活性ガスの流量を上げる方法がある。
【0039】
コーン工程では窒素濃度を高く維持し、直胴工程で雰囲気中の窒素濃度を下げることで、誘導加熱コイルからの放電を確実に防止でき、かつ、直胴部における結晶欠陥の発生を確実に抑制できる窒素濃度で直胴部の形成を始めることができる。また、直胴工程における雰囲気中の窒素濃度を、コーン工程における雰囲気中の窒素濃度よりも小さくして、直胴部を成長させることで、直胴後半部の結晶中窒素濃度が大きくなり過ぎず、適切な範囲内となる。これにより、デバイス製造プロセス等におけるウェーハの窒素析出物の発生を抑制することができる。また、このような方法であれば、雰囲気以外のシリコン単結晶の製造条件を大幅に変更する必要もない。
【0040】
また、シリコン単結晶19の直胴部の初期の結晶欠陥顕在化を確実に防止するために、直胴工程を開始する際に結晶中窒素濃度を一定値以上とすることが好ましい。特に、直胴工程開始時点に形成されるシリコン単結晶19の直胴部の結晶中窒素濃度を2×10
14atoms/cm
3以上とすることが好ましい。このようにすれば、直径200mm以上の大直径FZ単結晶を成長させる場合等にも、直胴部の初期の結晶欠陥の発生をより確実に抑制できる。
【0041】
また、直胴工程において、シリコン単結晶の直胴部のテール側の結晶中窒素濃度が2×10
15atoms/cm
3以下となるように窒素を含む雰囲気中の窒素濃度を減少させて、シリコン単結晶を成長させることが好ましい。これにより、直胴部の後半部の結晶中窒素濃度が高くなり過ぎることが無く、デバイス製造プロセスにおいては窒素析出物の発生などが起きにくく、所望の特性のウェーハが得られる。また、不具合の発生する窒素濃度はデバイス製造プロセスの内容で変わるものであるため、適用されるデバイス製造プロセスによって結晶中窒素濃度の目標を、例えば上記のように2×10
15atoms/cm
3以下等と定めても良いし、他の結晶中窒素濃度を目標に定めても良い。
【0042】
このとき、ドープノズル20からリン又はホウ素等を含むドーパントガスを溶融帯18に噴射してドーパントを供給し、所望の抵抗率を持つシリコン単結晶19としても良い。
【0043】
(テール工程)
所望の長さの直胴部を形成した後、溶融帯18をシリコン原料結晶14の上端まで移動させて原料の供給を止めてシリコン単結晶19の直径を縮小させる(テールの形成)。
【0044】
(切り離し工程)
次に、シリコン単結晶19をシリコン原料結晶14から切り離す。以上のようにして、FZ法によりシリコン単結晶を製造できる。
【0045】
上記のような本発明のシリコン単結晶の製造方法は、直径150mm以上のシリコン単結晶の製造に好適に使用することができる。
【0046】
ここで、シリコン単結晶への窒素の導入プロセスについて詳細に考える。シリコン単結晶へは、主に溶融帯のメルトに溶け込んだ窒素が、更にメルトからシリコン単結晶に導入されるが、この時、溶融帯のメルトへ溶け込む窒素は雰囲気中に含まれる窒素ガスが由来となる。溶け込みの際、窒素はメルトとの反応性が乏しいため、窒素ガスから直接メルトに溶け込むのではなく、高温となったシリコン原料結晶と窒素ガスが反応してシリコン原料結晶の表面に窒化物を形成した後、シリコン原料結晶の溶解とともにメルト内へ窒素が溶解するものと考えられる。この時、結晶成長条件が同一であれば、炉内雰囲気の窒素濃度が高い方が窒化物の形成量も高くなり、即ち、結晶中窒素濃度も高くなる。
【0047】
シリコンに対する窒素の偏析係数は7×10
−4と小さいため、シリコン単結晶成長の際に導入される窒素はメルト中のごく一部で、大部分はメルトに残留する。更に、放電防止目的で炉内雰囲気中に窒素ガスを添加し、窒素含有雰囲気中でシリコン単結晶製造を行うため、単結晶成長中は継続して窒素がメルトへと供給される。この結果、メルト中の窒素濃度は結晶成長が進むにつれて増加し、即ち、結晶中窒素濃度も結晶成長後半に向けて増加し続ける。
【0048】
また、単結晶直径を拡大していくコーン工程で単結晶直径を所望の値まで拡大した後に、結晶直径を所定値に維持したまま結晶成長を続ける直胴工程に移行していく中で、シリコン単結晶製造中の発振器回路への投入電力は、単結晶直径の拡大とともに急激に増大し直胴工程後はほぼ一定で推移する。
【0049】
このため、放電発生防止の観点からは、直胴工程に入って以降は炉内窒素濃度を増加させ続ける必要はなく、むしろ放電が発生しない範囲である限り炉内窒素濃度を減少させることができる。
【0050】
よって、シリコン単結晶成長中に窒素ガス流量を徐々に又は段階的に減少させる等して、炉内窒素濃度を低減させて結晶製造することで、結晶後半で窒素濃度を低減させたシリコン単結晶を取得することが可能となる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例)
図2に示すような本発明のシリコン単結晶の製造方法に従って、FZ法による直径8インチ(約200mm)のシリコン単結晶の製造を行った。このとき、炉内条件を炉内圧0.2MPa、炉内への雰囲気ガスの導入量をアルゴンガス流量55L/min、窒素ガス流量170cc/minとして、シリコン単結晶の製造を開始した。そして、コーン工程から直胴工程への移行直後から、アルゴンガス流量及び窒素ガス流量を徐々に変更し、最終的にアルゴンガス流量110L/min、窒素ガス流量90cc/minまで変更して長さ70cmのシリコン単結晶を取得した。即ち、直胴工程において、
図3に示すように、徐々に雰囲気中の窒素濃度を減少させながら、シリコン単結晶を成長させた。なお、
図3はシリコン単結晶の直胴部の長さに対する炉内の窒素濃度の変化を示している。
【0053】
その結果、
図4に示すように、取得結晶の窒素濃度は直胴部の全ての部分で2×10
15atoms/cm
3未満であり、直胴後半部においても窒素濃度が高くなり過ぎることは無かった。また、結晶欠陥の発生も見られず、炉内放電も発生しなかった。
【0054】
このように、本発明のシリコン単結晶の製造方法であれば、炉内での放電の発生を防止し、結晶欠陥の発生を抑制し、かつ、直胴後半部の結晶中窒素濃度の過剰な増大も抑制できることが確認できた。
【0055】
(比較例1)
直胴工程において、炉内雰囲気の窒素濃度を減少させなかったこと以外、実施例と同様な条件でシリコン単結晶を製造した。即ち、炉内条件を終始、炉内圧0.2MPa、アルゴンガス流量55L/min、窒素ガス流量170cc/minとし、長さ70cmのシリコン単結晶を取得した。この時の直胴部の長さに対する炉内窒素濃度を
図5に示す。
【0056】
その結果、
図6に示すように、この時の結晶中窒素濃度は直胴部のテール側で2.5×10
15atoms/cm
3を超えてしまった。このように、比較例1では、実施例に比べて、特に直胴後半部における結晶中窒素濃度が大幅に増加する結果となった。
【0057】
(比較例2)
窒素ガス流量のみ80cc/minとしたこと以外、比較例1と同じ炉内条件でFZ法による8インチ(約200mm)のシリコン単結晶製造を行った。1回目は直胴15cm程度で放電が起こってしまったので、シリコン単結晶の製造を中止した。このように、シリコン単結晶を所望の長さで製造できなかった。
【0058】
また、再度同条件で結晶製造を行ったところ、長さ70cmの結晶を取得できた。この時の直胴部の長さに対する炉内窒素濃度を
図7に示す。
【0059】
その結果、
図8に示すように、この時の取得結晶の窒素濃度は1.3×10
15atoms/cm
3以下であったが、直胴5cmまで結晶欠陥が発生し、この部分が製品に使用できなかった。
【0060】
このように、比較例2では、雰囲気中の窒素濃度を直胴工程から減少させず、最初から小さくしため、放電及び結晶欠陥が発生してしまった。これにより、雰囲気中の窒素濃度は、本発明のように、直胴工程で減少させることで放電を防止でき、かつ、結晶欠陥の発生も抑制できることが分かった。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0062】
1…FZ単結晶製造装置、 11…チャンバー、 12…上軸、 13…下軸、
14…シリコン原料結晶、 15…種結晶、 16…誘導加熱コイル、 17…絞り、
18…溶融帯、 19…シリコン単結晶、 20…ドープノズル、
21…ガス供給装置、 22…コーン部、 23…直胴部。