(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機系蓄熱層中の塩化ビニル樹脂の含有量が10〜80質量%、可塑剤の含有量が5〜75質量%、蓄熱材の含有量が10〜80質量%であり、塩化ビニル樹脂100質量部に対する可塑剤の含有量が30〜150質量部である請求項1又は2に記載の蓄熱積層体。
前記無機系基材のJIS A1324カップ法に準じて測定される透湿率(単位厚さ当たりの透湿係数)が100ng/m・s・Pa以下である請求項1〜3のいずれかに記載の蓄熱積層体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の蓄熱積層体は、無機系基材と有機系蓄熱層とが積層された蓄熱積層体であり、前記無機系基材の厚み8mm以上であり、かつ、当該無機系基材が、温度105℃下で恒量とした際の質量減少率が4質量%以上である蓄熱積層体である。
【0012】
[無機系基材]
本発明の蓄熱積層体に使用する無機系基材は、温度105℃下で恒量とした際の質量減少率が4質量%以上の無機系基材である。当該質量減少率は、無機系基材の含水率(結晶水含む)に相当する指標である。当該質量減少率は、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。当該質量減少率を上記範囲とすることで、接炎時に高い即応性で水分が解離し、積層体の温度上昇を抑制して好適な耐燃焼性を実現できる。当該質量減少率の上限は無機系基材の強度や剛性を担保できる範囲であれば特に制限されるものではないが、30質量%以下程度であることが好ましい。なお、使用する無機系基材は、含水させて使用することも好ましく、温度23℃、湿度50%の環境下で恒量とすることで好適に含水させることができる。
【0013】
当該質量減少率は、JIS K−0068の乾燥減量法に準じて測定でき、乾燥前の試料の質量をw
1、温度105℃下で加熱乾燥して恒量とした際の試料の質量をw
2とした際に、[(w
1−w
2)/w
1]×100(%)で表される数値である。
【0014】
本発明においては、無機系基材の厚みを8mm以上とすることで、好適な耐燃焼性を実現できる。当該厚みは9.5mm以上であることがより好ましく、12mm以上であることが特に好ましい。厚みを上記範囲とすることで、無機系基材の含水量を確保しやすく、接炎時の熱伝導を抑制しやすいことから、優れた耐燃焼性を実現できる。厚みの上限は特に制限されるものではないが、重量や加工等の取扱い性の観点から、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることが特に好ましい。
【0015】
無機系基材の透湿率(単位厚さ当たりの透湿係数)は100ng/m・s・Pa以下であることが好ましく、60ng/m・s・Pa以下であることがより好ましく、50ng/m・s・Pa以下であることがさらに好ましい。透気度を当該範囲とすることで、燃焼性ガスの透過を抑制しやすくなり、接炎時の好適な耐燃焼性を実現しやすくなる。
【0016】
当該透湿率(μ)は、JIS A1324カップ法に準じて測定でき、吸湿剤を入れ試料を取り付けた透湿カップの23℃50%環境下での単位時間当たりの増減を試料の透湿量(G)とした際に、次の式から求めることができる。
Zp=[(P1−P2)×A]/G
Wp=1/Zp
μ=Wp×d
Wp:透湿係数、Zp:透湿抵抗、A:透湿面積、P1:恒温恒湿装置内の空気の水蒸気圧、P2:透湿カップ内の空気の水蒸気圧、μ:透湿率、d:試料の厚さ
【0017】
無機系基材の熱伝導率は、3W/m・K以下であることが好ましく、1W/m・K以下であることがより好ましく、0.3W/m・K以下であることがさらに好ましい。熱伝導率を当該範囲とすることで、接炎時の熱伝導を抑制しやすく、好適な耐燃焼性を実現しやすくなる。
【0018】
当該熱伝導率(λ)は、JIS A1412−2に準じて測定でき、試験体と熱流計、加熱板及び冷却熱板を重ね、所定の温度差を与えた際に次の式から求めることができる。
λ=[(f×e)×d/ΔT]
λ:熱伝導率、f:熱流計の感度係数、e:熱流計の出力、d:試験体の厚さ、ΔT:試験体の温度差
【0019】
無機系基材の種類としては、上記の含水率を有するものであれば特に制限されず、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板、フレキ板、セメント板、および、これらの繊維補強版等が例示できる。なかでも、分解温度が200℃以下の結晶水を含有するものを好ましく使用でき、上記範囲の含水率を結晶水として保持しやすいことから、石膏ボードを特に好ましく使用できる。当該石膏ボードとしては、二水石膏の石膏ボードが好ましい。
【0020】
これら無機系基材の透湿率や熱伝導率としては、石膏ボードが透湿率40ng/m・s・Pa、熱伝導率0.22W/m・K程度、珪酸カルシウム板が透湿率52ng/m・s・Pa、熱伝導率0.18W/m・K程度である。また、後述する実施例にて使用した繊維強化セメント板では、透湿率3.4ng/m・s・Pa、熱伝導率0.18W/m・K程度である。
【0021】
[有機系蓄熱層]
本発明に使用する有機系蓄熱層は、有機材料を主成分とする蓄熱層である。当該蓄熱層としては、蓄熱材が樹脂マトリクス中に分散した蓄熱層を好ましく使用できる。当該有機系蓄熱層は、配合調整により所望の特性を得やすく、層の形成や他の材料との積層も比較的容易であるため好ましいが、有機材料を主成分とするため耐燃焼性に乏しい傾向がある。本発明においては、上記無機系基材を使用することで、このような有機系蓄熱層の優れた特性と共に、好適な耐燃焼性を実現できる。
【0022】
(マトリクス樹脂)
樹脂マトリクスに使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の各種樹脂を使用できる。なかでも、塗膜形成が容易であることから熱可塑性樹脂を好ましく使用できる。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合、スチレン・ブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、1,2−ポリブタジエン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂等を例示できる。なかでも、低温下での成形性や蓄熱材の分散性を得やすいことから塩化ビニル系樹脂を使用することが好ましい。
【0023】
塩化ビニル系樹脂を使用する場合には、塩化ビニル樹脂粒子を使用したビニルゾル塗工液を用いて、ゾルキャスト膜を形成することで、低温下での蓄熱成形体の形成が可能となるため好ましい。ビニルゾル塗工液は、塩化ビニル樹脂粒子及び可塑剤を含有する樹脂組成物中に蓄熱材が分散、懸濁されたペースト状の塗工液である。
【0024】
塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、0.01〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることが好ましい。塗工液中では、当該粒子が直接分散した状態でも、当該粒子を一次粒子として、球状の二次粒子に凝集した状態で分散した状態であってもよい。また、粒子径の異なる粒子が混合されて、粒度分布のピークが二以上あるものであってもよい。粒子径はレーザー法等により測定できる。
【0025】
ビニルゾル塗工液に使用する塩化ビニル樹脂粒子の形状は、好適な流動性を得やすく、熟成粘度変化が小さいことから、略球形形状であることが好ましい。塩化ビニル樹脂粒子は、乳化重合、懸濁重合により製造されたものが、球形形状を得やすく、また、粒度分布を制御しやすいため好ましい。
【0026】
使用する塩化ビニル樹脂の重合度としては、500〜4000であることが好ましく、600〜2000であることがより好ましい。
【0027】
本発明に使用する塩化ビニル樹脂粒子は、市販されている塩化ビニル樹脂粒子を適宜使用でき、例えば、新第一塩ビ株式会社製ZEST PQ83,PWLT,PQ92,P24Z等や、株式会社カネカ製PSL−675,685等が挙げられる。
【0028】
有機系蓄熱層の樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合には、当該熱可塑性樹脂の含有量は、10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。当該範囲とすることで、柔軟性を有するシート形成しやすくなる。
【0029】
(可塑剤)
有機系蓄熱層に使用する樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合には、良好な塗工性や成膜性を確保しやすいことから、可塑剤を併用することが好ましい。当該可塑剤としては、エポキシ系可塑剤、メタクリレート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤、脂肪族ジエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、安息香酸系可塑剤、フタル酸系可塑剤等を適宜使用できる。また、2種類以上の可塑剤を適宜混合して使用しても良い。住宅等の建築材料用途や自動車用途等へ使用する場合には、人体への悪影響が懸念されるフタル酸系可塑剤以外の非フタル酸系可塑剤を使用することが好ましい。
【0030】
これら可塑剤としては、各種市販されている可塑剤を適宜使用でき、例えば、エポキシ系可塑剤としては、DIC社製 モノサイザーW−150;新日本理化社製 サンソサイザー E−PS、E−PO、E−4030、E−6000、E−2000H、E−9000H;ADEKA社製 アデカサイザー O−130P、O−180A、D−32、D−55、花王社製 カポックス S−6等、ポリエステル系可塑剤としては、DIC社製 ポリサイザーW−2050、W−2310、W−230H;ADEKA社製 アデカサイザー PN−7160、PN−160、PN−9302、PN−150、PN−170、PN−230、PN−7230、PN−1010、三菱化学社製 D620、D621、D623、D643、D645、D620N;花王社製 HA−5等、トリメリット酸系可塑剤としては、DIC社製 モノサイザーW−705、ADEKA社製 アデカサイザーC−9N、三菱化学社製 TOTM、TOTM−NB等、安息香酸系可塑剤としては、DIC社製 モノサイザーPB−3A、三菱化学社製 JP120等を例示できる。
【0031】
本発明においては、蓄熱材や可塑剤の染み出しを抑制しやすいことから、上記のなかでも特に低温でゲル化できる可塑剤を好ましく使用できる。当該可塑剤としては、ゲル化終了温度が150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、110℃以下であることが特に好ましい。ゲル化終了温度は、ゲル化膜の光透過性が一定となる温度をゲル化終了温度とできる。当該低温成形性の良好な可塑剤としては、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、安息香酸系可塑剤を好ましく使用でき、上記耐熱性と低温成形性の観点からは、エポキシ系可塑剤及びポリエステル系可塑剤を特に好ましく使用できる。
【0032】
ゲル化終点温度は具体的には、ペースト用塩化ビニル樹脂(重合度1700)と上記可塑剤と熱安定剤(Ca−Zn系)を質量比100/80/1.5で混合した組成物をガラスプレートとプレパラート間に挟み込み、5℃/minの昇温速度で昇温し、光透過性の変化を顕微観察用ホットステージ(Metter 800)を用いて観察し、光透過性が一定となる温度をゲル化終点温度とする。
【0033】
本発明に使用する可塑剤は、25℃における粘度が1500mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以下であることがより好ましく、500mPa・s以下であることがさらに好ましく、300mPa・s以下であることが特に好ましい。当該範囲とすることで、ビニルゾル塗工液の粘度を低く抑えることができるため、蓄熱材の充填率が高めることができる。なお、可塑剤粘度測定の条件は後述実施例における条件にて測定できる。
【0034】
本発明に使用する可塑剤は、その重量平均分子量が200〜3000であることが好ましく、300〜1000であることがより好ましい。当該範囲とすることで、可塑剤自身が染み出しにくく、且つビニルゾル塗工液の粘度を低く抑えることができるため、蓄熱材の充填率を高めることができる。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。なお、GPC測定は以下の条件にて測定できる。
【0035】
<重量平均分子量の測定条件>
測定装置:東ソー株式会社製ガードカラム「HLC−8330」
カラム:東ソー株式会社製「TSK SuperH−H」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0036】
<標準試料:単分散ポリスチレン>
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0037】
また、本発明に使用する蓄熱材が、樹脂外殻中に蓄熱材料を含有するマイクロカプセル状の蓄熱材である場合には、これら可塑剤の中でも、使用する蓄熱材とのHSP距離が6以上の可塑剤を使用することが好ましい。当該可塑剤を使用することで、高温下での蓄熱成形体からの脱離成分の脱離を抑制でき、高温下でも体積収縮が生じにくい好適な耐熱性を実現しやすくなる。蓄熱材を含有しない、一般的な熱可塑性樹脂と可塑剤とを含有する樹脂組成物からなる成形品においては、高温下でも大きな体積収縮は生じにくい。しかし、蓄熱材を含有する蓄熱成形体においては、高温下で大きく体積収縮を生じる場合がある。本発明においては、蓄熱材と可塑剤とのHSP距離を上記範囲とすることで、高温下で多量の脱離成分を生じる要因となる可塑剤の蓄熱材への取り込みを抑制し、高温下での体積収縮を抑制しやすくなり、好適な耐熱性を実現しやすくなる。当該HSP距離は好適な耐熱性を得やすいことから、7以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。また、一般的に可塑剤として使用されるものであれば特に上限は制限されないが、好適な相溶性や成形性を得やすいことから40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが更に好ましい。
【0038】
HSP距離とは、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を用いた物質間の溶解性を表す指標である。ハンセン溶解度パラメータは、溶解性を多次元(典型的には三次元)のベクトルで表すものであり、当該ベクトルは、分散項、極性項、水素結合項で表すことができる。そして、当該ベクトルの類似度を、ハンセン溶解度パラメータの距離(HSP距離)として表すものである。
【0039】
ハンセン溶解度パラメータは、各種文献において参考となる数値が提示されており、例えば、Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook(Charles Hansen等、2007、第2版)等が挙げられる。また、市販のソフトウェア、例えば、Hansen Solubility Parameter in Practice (HSPiP)を用いて、物質の化学構造に基づいてハンセン溶解度パラメータを算出することもできる。算出は、溶媒温度を25℃として行う。
【0040】
可塑剤と蓄熱材の好ましい組み合わせとしては、例えば、アクリル系の外殻を有する蓄熱材を使用する場合には、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤等を好ましく使用できる。また、メラミン系の外殻を有する蓄熱材を使用する場合には、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、安息香酸系可塑剤等を好ましく使用できる。特にエポキシ系可塑剤は、耐熱性等の各種特性を好適に得やすいため好ましい。
【0041】
また、本発明においては、成形体の樹脂マトリクスを好適に構成しやすいことから、使用する熱可塑性樹脂と可塑剤とのHSP距離が15以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。また下限は特に制限されないが1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。
【0042】
また、樹脂外殻中に蓄熱材料を含有するマイクロカプセル状の蓄熱材を使用する場合には、使用する蓄熱材に対して可塑剤を混合した際のJIS K5101−13−1に準じて測定される蓄熱材100質量部に対する可塑剤の吸収量が150質量部以下の可塑剤を好ましく使用できる。当該可塑剤を使用することで、高温下での蓄熱成形体からの脱離成分の脱離を抑制でき、高温下でも体積収縮が生じにくい好適な耐熱性を実現できる。当該吸収量は好適な耐熱性を得やすいことから、140質量部以下であることが好ましく、135質量部以下であることがより好ましく、130質量部以下であることがさらに好ましい。また、一般的に可塑剤として使用されるものであれば特に下限は制限されないが、好適な相溶性や成形性を得やすいことから5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
【0043】
可塑剤の吸収量は、JIS K5101−13−1の吸油量の測定方法に準じて測定される。具体的には、予想される吸収量に応じて1〜20gを秤量した蓄熱材を試料としてガラス板上に設置し、可塑剤をビュレットから一回に4〜5滴ずつ徐々に加える。その都度、鋼製のパレットナイフで試料に練り込む。これを繰り返し、可塑剤及び試料の塊ができるまで滴下を続ける。以後、1滴ずつ滴下し完全に混練するようにして繰り返し、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、当該吸収量を可塑剤の吸収量とする。なお、ペーストは割れたりぼろぼろになったりせず広げることができ、かつ、測定板に軽く付着する程度のものとする。
【0044】
有機系蓄熱層中の可塑剤の含有量は、5〜75質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましく、20〜60質量%であることがさらに好ましい。当該範囲とすることで、良好な塗工適性や成形性を得やすくなる。また、熱可塑性樹脂に対する可塑剤の含有比率は、熱可塑性樹脂100質量部に対して可塑剤が30〜150質量部であることが好ましく、30〜120質量部であることがより好ましく、40〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0045】
(蓄熱材)
蓄熱材としては、蓄熱性を有するものであれば特に制限されず、潜熱型の蓄熱性材料、顕熱型の蓄熱性材料、化学反応にともなう吸熱や発熱を利用した化学反応型の蓄熱性材料を使用できる。なかでも、潜熱型の蓄熱性材料は、小さい体積で多くのエネルギーを確保しやすく、吸放熱温度を調整しやすいため好ましい。
【0046】
潜熱型の蓄熱性材料(潜熱蓄熱材)としては、相変化による溶融時の染み出し等の問題や、混入時の分散性を考慮して、有機材料等からなる外殻中にパラフィンなどの潜熱蓄熱材料を内包した、カプセル化された蓄熱粒子が好ましい。本発明においてこのような外殻を有する蓄熱粒子を使用する場合には、当該蓄熱粒子の外殻に使用する材料のHSPに基づき、上記HSP距離を算出する。本発明の蓄熱成形体は、有機材料からなる外殻中にパラフィン等の潜熱蓄熱材料を含有する蓄熱材を使用した場合にも可塑剤による外殻の脆化が生じにくく、蓄熱材の破損が生じにくい。
【0047】
このような蓄熱粒子としては、例えば、メラミン樹脂からなる外殻を用いたものとして、三菱製紙社製サーモメモリーFP−16,FP−25,FP−27,FP−31,FP−39、三木理研工業社製リケンレジンPMCD−15SP,25SP,32SP等が例示できる。また、シリカからなる外殻を用いたものとして、三木理研工業社製リケンレジンLA−15,LA−25,LA−32等、ポリメチルメタクリレート樹脂からなる外殻を用いたものとして、BASF社製MicronalDS5001X,5040X等が例示できる。
【0048】
蓄熱粒子の粒径は、特に限定されないが、10〜1000μm程度であることが好ましく、50〜500μmであることがより好ましい。蓄熱粒子の粒子径は、その一次粒子の粒子径が上記範囲であることも好ましいが、一次粒子径が1〜50μm、好ましくは2〜10μmの粒子が凝集して二次粒子を形成し、当該二次粒子の粒径が上記範囲となった蓄熱粒子であることも好ましい。このような蓄熱粒子は、圧力やシェアにより破損しやすいが、本発明の構成によれば、当該蓄熱粒子の破損を好適に抑制でき、蓄熱材料の染み出しや漏れが生じにくくなる。特に、外殻が有機材料から形成される場合には温度による破損のおそれも生じるが、本発明の蓄熱成形体は、このような潜熱蓄熱材を使用した場合にも蓄熱材料の染み出しや漏れを好適に抑制しやすい。なお、蓄熱成形体中に使用する全蓄熱粒子の粒子径が上記範囲でなくともよく、蓄熱成形体中の蓄熱粒子の80質量%以上が上記範囲の蓄熱粒子であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0049】
潜熱蓄熱材は、特定の温度の融点において相変化する。すなわち、室温が融点を超えた場合は、固体から液体へ相変化し、室温が融点より下がった場合は、液体から固体へ相変化する。潜熱蓄熱材の融点は、その使用態様に応じて調整すればよく、−20℃〜120℃程度の温度範囲にて固/液相転移を示すものを適宜使用できる。例えば、住宅等の居住空間や、自動車、電車、航空機、農業ハウス等の室内等の適温を維持し、省エネルギー化を図る場合には、この融点を日常生活に適した温度、具体的には10〜35℃、好ましくは15〜30℃に設計した潜熱蓄熱材を混入する事により、適温維持性能を発揮する事ができる。より詳細に冬季又は夏季の適温維持性能を調整する場合には、冬場の暖房効果を持続させる事を目的とすれば18〜28℃程度を融点とした潜熱蓄熱材を混入することが好ましく、より好ましくは18〜23℃程度である。もしくは、夏場の温度上昇を抑制させる事を目的とすれば20〜30℃程度を融点とした潜熱蓄熱材を混入する事が好ましく、より好ましくは25〜30℃程度である。両方の効果を発現するには融点設計の異なる2種類以上の潜熱蓄熱材を混入すればよい。また、冷蔵設備等の庫内の省エネルギー化を図る場合には、−10℃〜5℃程度の融点の潜熱蓄熱材を使用すればよい。
【0050】
有機系蓄熱層中の蓄熱材の含有量は10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。当該範囲とすることで、良好な蓄熱効果を得やすく、良好な成形性が得られやすくなる。
【0051】
(塗工液)
有機系蓄熱層を形成する塗工液は、使用する樹脂成分及び蓄熱材に応じて適宜混合して調整すればよい。例えば、熱可塑性樹脂として塩化ビニル樹脂を使用する場合には、塩化ビニル樹脂粒子を使用したビニルゾル塗工液を用いて、ゾルキャストにより蓄熱層を形成する方法が好ましい。当該製造方法とすることで、ミキサー等による混練や押出成形等を経ることなく成形が可能となり、蓄熱材の破壊が生じにくく、得られる蓄熱成形体からの蓄熱材の染み出し等が生じにくい。また、当該方法によれば、低温下での成形が容易となることから、熱による蓄熱材の破壊を抑制しやすいため当該方法が特に好ましく使用できる。
【0052】
塩化ビニル樹脂を使用して、ビニルゾル塗工液とする場合には、塩化ビニル樹脂の含有量が、塗工液に含まれる固形分(溶媒以外の成分)中の10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。また、可塑剤の含有量は、樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂100質量部に対して、30〜150質量部であることが好ましく、30〜120質量部であることがより好ましく、40〜100質量部であることがさらに好ましい。さらに、当該塗工液中に混合する蓄熱材の含有量は、塗工液に含まれる固形分中の10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
ビニルゾル塗工液中には、適宜溶媒を使用することもできる。当該溶媒としては、塩化ビニル樹脂のゾルキャスト法にて使用される溶媒を適宜使用でき、なかでも、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸ブチルなどのエステル類、グリコールエーテル類等を好ましく例示できる。これら溶媒は、常温で樹脂をわずかに膨潤して分散を助長しやすく、また、加熱工程で溶融ゲル化を促進しやすいため好ましい。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
また、上記溶媒と共に希釈溶媒を使用してもよい。希釈溶媒としては、樹脂を溶解せず、分散溶媒の膨潤性を抑制する溶媒を好ましく使用できる。このような希釈溶媒としては、例えば、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素、テルペン系炭化水素などを使用できる。
【0055】
ビニルゾル塗工液には、塩化ビニル樹脂の脱塩化水素反応を主とする分解劣化、着色を抑制するために熱安定剤を使用することも好ましい。熱安定剤としては、例えば、カルシウム/亜鉛系安定剤、オクチル錫系安定剤、バリウム/亜鉛系安定剤等を使用できる。熱安定剤の含有量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましい。
【0056】
ビニルゾル塗工液には、上記以外の成分として、減粘剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を、必要に応じて適宜含有してもよい。これら添加剤の含有量は、各々、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましい。
【0057】
ビニルゾル塗工液の塗工時の粘度は、所望のシートの厚みや、塗工条件等により適宜調整すればよいが、良好な塗工適正を得やすいことから、1000mPa・s以上が好ましく、3000mPa・s以上がより好ましく、5000mPa・s以上がさらに好ましい。また、当該粘度の上限は70000mPa・s以下が好ましく、50000mPa・s以下がより好ましく、30000mPa・s以下がさらに好ましく、25000mPa・s以下が特に好ましい。なお、塗工液粘度はB型粘度計にて測定できる。
【0058】
上記塩化ビニル樹脂粒子及び蓄熱材を含有するビニルゾル塗工液のゾルキャスト膜からなる蓄熱成形体は、製造時に蓄熱材にシェアや圧力がかからないため蓄熱材の破壊が生じにくいことから、樹脂系の材料を使用しながらも蓄熱材の染み出しが生じにくい。また、容易に他の層との積層や加工も可能である。
【0059】
[蓄熱積層体]
本発明の蓄熱積層体は、上記無機系基材と有機系蓄熱層とが積層された蓄熱積層体であり、当該構成により、蓄熱層として有機系材料を主体とする蓄熱層を使用しながらも、優れた耐燃焼性を実現できる。
【0060】
本発明の蓄熱積層体は、JIS A5430付属書JA発熱性試験(コーンカロリーメーター法)によって測定される発熱量が10分間で8MJ/m
2以下であることが好ましく、20分間で8MJ/m
2以下であることがより好ましい。
【0061】
本発明の蓄熱積層体は、有機系蓄熱層単独で上記発熱性試験を行った際に5分未満で8MJ/m
2を超えるような有機系蓄熱層を使用した際にも、上記好適な耐燃焼性を実現できる。
【0062】
有機系蓄熱層の厚みは、使用態様に応じて適宜調整すればよい。例えば、閉空間の壁面等へ適用する場合には、好適な蓄熱効果を得やすいことから100μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましく、3mm以上が特に好ましい。厚みの上限は特に制限されるものではないが、シート状の有機系蓄熱層を形成した後に、上記無機系基材に貼り合わせる場合等、有機系蓄熱層を単独で取扱う場合には、好適な柔軟性や取扱い性を得やすいことから20mm以下で成形することが好ましく、10mm以下がより好ましく、6mm以下がさらに好ましい。
【0063】
本発明の蓄熱積層体は、無機系基材上に、有機系蓄熱層を形成する塗布液を直接塗布して積層する方法や、支持体上に有機系蓄熱層を形成する塗布液を塗布してシート状の有機系蓄熱層を形成した後、当該有機系蓄熱層を無機系基材に貼り合わせる方法等により製造できる。
【0064】
基材や支持体への塗工液の塗布方法としては、ロールナイフコーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどの塗工機を使用できる。なかでも、ビニルゾル塗工液を使用する場合には、塗工液を送り出し、ドクターナイフ等により、一定の厚みの塗工膜を形成する方法を好ましく使用できる。
【0065】
塗布液の塗布、あるいは任意の形状の型枠へ投入して得られた塗工膜は、加熱や乾燥によるゲル化や硬化により、有機系蓄熱層を形成できる。本発明においては、塗工膜を加熱する場合の加熱温度としては、塗工膜温度が150℃以下となる温度とすることが好ましく、140℃以下となる温度とすることがより好ましく、130℃以下となる温度とすることがさらに好ましく、120℃以下となる温度とすることがさらに好ましい。塗工膜温度を当該温度とすることにより、蓄熱材の熱による破壊を好適に抑制できる。加熱時間は、ゲル化速度等に応じて適宜調整すればよいが、10秒〜10分程度で調整すればよい。また、当該加熱と共に、適宜風乾等の乾燥を併用してもよい。
【0066】
塗工液に溶媒を使用する場合には、上記加熱工程において溶媒の除去を同時に行ってもよいが、上記加熱の前に、予備乾燥を行うことも好ましい。
【0067】
支持体上に有機系蓄熱層を形成する場合に使用する支持体としては、例えば、各種の工程フィルムとして使用される樹脂フィルムを好ましく使用できる。当該樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム等のポリエステル樹脂フィルムなどが挙げられる。樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、25〜100μm程度のものが取扱いや入手が容易である。
【0068】
支持体として使用する樹脂フィルムは、表面が剥離処理されているものを好ましく使用できる。剥離処理に用いられる剥離処理剤としては、例えば、アルキッド系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0069】
上記支持体は、剥離して無機系基材に貼り合わせても、貼り合わせた後に剥離してもよい。積層前に各種加工を行うにあたり、支持体上に積層した状態で加工することもできる。
【0070】
また、本発明の蓄熱積層体は、上記の無機系基材や有機系蓄熱層以外にも各種の機能層を設けることも好ましく、当該各種機能層を支持体として使用してもよい。
【0071】
本発明の蓄熱積層体に設けられる機能層としては、例えば、不燃紙や金属フィルム等の不燃性層と積層することで難燃性を向上させることができ、居住空間への適用に特に好適である。また、例えば、熱拡散層や断熱層と積層することで、蓄熱性をより効果的に発現することもできる。また、居住空間の内壁等へ適用するために、化粧層や装飾層を設けることもできる。
【0072】
不燃紙を積層した構成としては、有機系蓄熱層の片面又は両面に不燃紙を積層した構成を例示できる。当該不燃紙としては、不燃性を有するものであれば特に限定しないが、例えば、紙に難燃剤を塗布、含浸、内添しているものを使用できる。難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、リン酸塩、ホウ酸塩、ステファミン酸塩等の塩基性化合物、ガラス繊維等が例示できる。
【0073】
熱拡散層を積層した構成として室内等の閉空間に適用した場合には、熱拡散層で室内の熱を均一化する効果を持たせるとともに、室内(住宅等の居住空間や、自動車、電車、航空機等の室内、冷蔵車の冷蔵庫内、航空機の庫内等の閉空間等)からの熱を分散して熱抵抗が少なく蓄熱層へ伝える事ができる。蓄熱層では蓄熱粒子により室内の熱吸収及び室内への熱放出がなされ、室内の温度環境下を適温に制御できる。
【0074】
熱拡散層としては、熱伝導率が5〜400W/m・Kの高い熱伝導率を有する層を好ましく使用できる。高い熱伝導率により、局所に集中した熱を拡散して蓄熱層へ伝えて熱効率を向上し、かつ室温を均一化できる。
【0075】
熱拡散層の材料としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、グラファイトなどが挙げられる。本発明では、特にアルミニウムを好適に用いることができる。アルミニウムが好適な理由として、放射熱の反射による断熱効果も発現することが挙げられる。特に、放射熱による暖房器具では、断熱効果により暖房効率を向上する事ができる。放射熱を主とした暖房器具としては、例えば、電気式床暖房、温水式床暖房、赤外線ヒーターなどが挙げられる。また、防災の視点からも難燃性能を向上させる事ができる。
【0076】
熱拡散層の形態としては、上記材料のシートからなる層や、上記材料の蒸着層等の適宜な形態を使用できる。材料としてアルミニウムを使用する場合には、たとえば、アルミ箔、アルミ蒸着層などの湾曲性があるものを好ましく使用できる。
【0077】
熱拡散層の層厚は、特に限定されないが、3〜500μm程度とすることで、好適な熱拡散性や取扱い性を確保しやすくなるため好ましい。
【0078】
また、蓄熱層に断熱層を積層した構成とした場合には、蓄熱層の熱吸収及び熱放出が室内側と効果的になされ、室内の適温維持効果を特に好適に発揮することができる。また、室内の熱の流出を防ぐ、もしくは、外気からの熱の影響の軽減にも有効である。本発明の蓄熱積層体は、これら複合作用により、室内の温度変化を抑制し、室内を適温に保つ事ができる。また、エアコンや冷蔵設備等の空調機器を使用した場合に、その消費エネルギーを低減することもできる。これにより、好適に室内の省エネルギー化に貢献できる。
【0079】
断熱層としては、熱伝導率が0.1W/m・K未満の層を好ましく使用できる。当該断熱層は、蓄熱層から外気への熱の流出を防ぎ、かつ、外気の温度影響を低減させる効果を発揮するものである。断熱層は、熱伝導率が0.1W/m・K未満の層を形成できるものであれば特に限定されず、例えば、発泡樹脂シート、断熱材料を含有する樹脂シート等の断熱シートや、押出し法ポリスチレン、ビーズ法ポリスチレン、ポリエチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム等の断熱ボード等を適宜使用できる。なかでも、断熱シートは施工性を確保しやすいため好ましく、断熱材料を含有した樹脂シートである事が熱伝導率を低減できるためより好ましい。また、発泡シートは入手が容易であり、安価であるため好ましい。
【0080】
断熱層はシート状とすることで施工性を確保しやすくなるが、なかでも、円筒形マンドレル屈曲試験機(JIS K 5600)による測定値が、マンドレル直径で2〜32mmであることが好ましい。
【0081】
断熱層に使用する断熱材料は、蓄熱積層体の断熱性を高めるものであり、例えば、多孔質シリカ、多孔質アクリル、中空ガラスビーズ、真空ビーズ、中空ファイバーなどが挙げられる。この断熱材料5は、公知のものを用いればよい。本発明では、特に、多孔質アクリルを好適として用いる事ができる。断熱材料の粒径は、限定される事はないが、1〜300μm程度である事が好ましい。
【0082】
断熱層として断熱材料を含有する樹脂シートを使用する場合には、断熱材料を、ベースとなる樹脂材料に混入してシート成形を行う。樹脂材料としては、前述と同様に、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、又はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂などが挙げられる。ポリエステルとしては、A−PET、PET−G等を使用できる。なかでも、火災時の低燃焼性の面から、自己消化性である塩化ビニル樹脂を好適に用いる事ができる。
【0083】
シートの成形方法としては、例えば、塩化ビニル樹脂と可塑剤と断熱材料を、押出し成形、カレンダー成形などの成形機を用いてシートの成形を行う。
【0084】
断熱層中の断熱材料の含有量は、断熱層中の20質量%以上であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜80質量%であることが更に好ましく、40〜80質量%であることが特に好ましい。断熱材の含有量を当該範囲とすることで、好適に断熱効果を発揮でき、また、断熱層を形成しやすくなる。
【0085】
断熱層中には、必要に応じて、可塑剤、難燃材等の添加剤を配合してもよい。
【0086】
断熱層の層厚は、特に限定されないが、厚みが増す程室内の保温性が上がる。シートとしての湾曲性や施工性を保有する為には、50〜3000μm程度である事が好ましい。
【0087】
本発明の蓄熱積層体は、主に建築物の内壁、天井、床などにおける内装材用途として好適に用いられるが、窓のサッシ枠の被服材や、車両等の内装材としても適用可能である。また、建築物の壁、床、天井に限らず、自動車、電車、飛行機などの室内に使用する事も可能である。また、冷蔵設備の低温保持材料などに使用することも可能である。
【実施例】
【0088】
(調製例1)
重合度900のポリ塩化ビニル樹脂粒子(新第一塩ビ社製 ZEST PQ92)100質量部、エポキシ系可塑剤(DIC社製 モノサイザーW−150:粘度85mPa・s、ゲル化終点温度121℃)60質量部、熱安定剤(昭和ワニス社製 グレックML−538)3質量部、その他添加剤として減粘剤(BYK社製 減粘剤VISCOBYK−5125)6質量部及び分散剤(BYK社製 Disperplast−1150)3質量部と、パラフィンをポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂からなる外殻を用いてマイクロカプセル化した潜熱蓄熱材(BASF社製 Micronal DS5001X:粒子径100〜300μm、融点26℃)60質量部を配合し、プラスチゾル塗工液を作成した。使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は8.88、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は4.6、配合して均質に混合した直後の塗工液の粘度は7000mPa・sであった。また、潜熱蓄熱材100質量部に対する可塑剤の吸収量は129質量部であった。これをPETフィルム上に5mmアプリケーターにて塗布した後、150℃のドライヤー温度で8分間加熱してゲル化させ、厚さ3mmの有機系蓄熱シート(A)を形成した。
【0089】
(調製例2)
調製例1にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、ポリエステル系可塑剤(DIC社製 ポリサイザーW−230H:粘度220mPa・s、ゲル化終点温度136℃)を使用した以外は調製例1と同様にして有機系蓄熱シート(B)を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は11.04、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は6.4、使用した潜熱蓄熱材100質量部に対する可塑剤の吸収量は117質量部、塗工液の粘度は8500mPa・sであった。
【0090】
(調製例3)
調製例1にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、トリメリット酸系可塑剤(DIC社製 モノサイザーW−705:粘度220mPa・s、ゲル化終点温度143℃)を使用した以外は調製例1と同様にして有機系蓄熱シート(C)を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は9.07、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は4.1、潜熱蓄熱材100質量部に対する可塑剤の吸収量は137質量部、塗工液の粘度は8500mPa・sであった。
【0091】
(調製例4)
調製例1にて使用した潜熱蓄熱材60質量部に代えて、パラフィンをメラミン樹脂からなる外殻を用いてマイクロカプセル化した潜熱蓄熱材(三菱製紙社製 サーモメモリー FP−25:平均粒子径50μm、融点25℃)を80質量部使用した以外は調製例1と同様にして、有機系蓄熱シート(D)を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は22.30、使用した潜熱蓄熱材100質量部に対する可塑剤の吸収量は81質量部、塗工液の粘度は8000mPa・sであった。
【0092】
(調製例5)
調製例4にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、ポリエステル系可塑剤(DIC社製 ポリサイザーW−230H:粘度220mPa・s、ゲル化終点温度136℃)を使用した以外は調製例4と同様にして有機系蓄熱シート(E)を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は23.20、使用した潜熱蓄熱材100質量部に対する可塑剤の吸収量は72質量部、塗工液の粘度は12000mPa・sであった。
【0093】
(調製例6)
調製例4にて使用したエポキシ系可塑剤に代えて、安息香酸系可塑剤(DIC社製 モノサイザーPB−10:粘度80mPa・s、ゲル化終点温度100℃以下)を使用した以外は調製例4と同様にして有機系蓄熱シート(F)を形成した。なお、使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離の計算値は17.10、可塑剤と塩化ビニル樹脂とのHSP距離の計算値は1.4、使用した潜熱蓄熱材100質量部に対する可塑剤の吸収量は96質量部、塗工液の粘度は8500mPa・sであった。
【0094】
調製例1〜6にて調整した塗工液及び有機系蓄熱シート等につき、以下の評価を行った。得られた結果は下表のとおりである。
【0095】
<可塑剤粘度の測定条件>
測定装置:B型粘度計(東京計器株式会社製「DVM−B型」)
測定条件:温度25℃、No.2ロータ、30rpm
【0096】
<塗工液粘度の測定条件>
測定装置:B型粘度計(トキメック株式会社製「BM型」)
測定条件:温度25℃、No.4ロータ、12rpm
【0097】
<HSP距離>
実施例及び比較例にて使用した可塑剤と潜熱蓄熱材とのHSP距離、可塑剤と塩化ビニルとのHSP距離を下記にて算出した。
HSPiPにより算出された溶解度パラメータの成分分散項dD、極性項dP、水素結合項dHを用いて、成分Aと成分BとのHSP距離を以下の式にて算出した。
HSP距離=[4(dDA−dDB)
2+(dPA−dPB)
2+(dHA−dHB)
2]
0.5【0098】
<可塑剤吸収量>
蓄熱材への可塑剤の吸収量を、JIS K5101−13−1に準じて以下の方法にて測定した。蓄熱材1gを秤量した試料をガラス板上に設置し、可塑剤をビュレットから一回に4〜5滴ずつ徐々に加え、鋼製のパレットナイフで試料に練り込んだ。これを繰り返し、可塑剤及び試料の塊ができるまで滴下を続けた。以後、1滴ずつ滴下して完全に混練するようにして繰り返し、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、当該吸収量を可塑剤の吸収量とした。表中の数値は、蓄熱材100質量部に対する吸収量として示した。
【0099】
<蓄熱性評価試験>
実施例及び比較例にて作成したシートを幅50mm×長さ50mmのサイズにした試験体を2枚重ねに積層し、熱伝対をシート中央に挟んで設置した。環境試験機内で外気温を35℃で2時間保持した後、50分間で5℃まで下降させ、さらに1時間5℃を保持した。この際、シート内の温度が28℃〜20℃の温度を保持した時間を測定し、外気温の28℃〜20℃保持時間(800秒)からどのくらい適温維持時間が延びたかを計算して、適温維持性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎:保持時間が+200秒以上
○:保持時間が+50秒以上200秒未満
×:保持時間が+50秒未満
【0100】
<染み出し評価試験>
実施例及び比較例にて作成したシートを幅50mm×長さ50mmのサイズにし、同サイズの油取り紙を挟んで積層した試験体を、荷重50g/cm
2、40℃50%RH環境下で15時間圧着し、シートから染み出した蓄熱材成分について、油取り紙への染みで目視評価した。評価基準は以下の通りである。
○:染みなし
△:部分的に染みあり
×:全面に染みあり
【0101】
<耐熱性試験(加熱減量)>
実施例及び比較例にて作成したシートを幅50mm×長さ50mmのサイズにし、80℃環境下に1週間静置した際の質量変化を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:質量変化が10%未満
○:質量変化が10%以上15%未満
×:質量変化が15%以上
【0102】
【表1】
【0103】
(実施例1)
有機系蓄熱層として調製例1にて調製した有機系蓄熱シート(A)を、無機系基材として石膏ボード(1)(厚み9.5mm、105℃恒量時の質量減少率17.5質量%)を使用して、石膏ボード(1)上に、ウレタン系接着剤(セメダイン社製 セメダインUM−700)を100g/m
2塗布し、有機系蓄熱シート(A)を積層して0.1kgf/m
2の圧をかけて24時間静置した後、PETフィルムを剥離して蓄熱積層体を得た。
【0104】
(実施例2)
無機系基材として石膏ボード(2)(厚み12.5mm、105℃恒量時の質量減少率17.9質量%)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0105】
(実施例3)
無機系基材としてケイ酸カルシウム板(1)(厚み12.0mm、105℃恒量時の質量減少率4.4質量%)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0106】
(実施例4)
無機系基材として、繊維強化セメント板(1)(厚み9.0mm、105℃恒量時の質量減少率4.7質量%)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0107】
(実施例5)
有機系蓄熱層として調製例2にて調製した有機系蓄熱シート(B)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0108】
(実施例6)
有機系蓄熱層として調製例3にて調製した有機系蓄熱シート(C)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0109】
(実施例7)
有機系蓄熱層として調製例4にて調製した有機系蓄熱シート(D)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0110】
(実施例8)
有機系蓄熱層として調製例5にて調製した有機系蓄熱シート(E)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0111】
(実施例9)
有機系蓄熱層として調製例6にて調製した有機系蓄熱シート(F)を使用した以外は実施例1と同様にして、蓄熱積層体を得た。
【0112】
(比較例1)
無機系基材として石膏ボード(3)(厚み9.5mm、105℃恒量時の質量減少率0質量%)を使用した以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0113】
(比較例2)
無機系基材としてケイ酸カルシウム板(2)(厚み6.0mm、105℃恒量時の質量減少率2.9質量%)を使用した以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0114】
(比較例3)
無機系基材としてガラス繊維ネット入酸化マグネシウム板(1)(厚み6.0mm、105℃恒量時の質量減少率11.5質量%)を使用した以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0115】
上記実施例及び比較例にて得られた積層体等につき、以下の評価を行った。得られた結果は下表のとおりである。
【0116】
<無機系基材の質量減少率の測定>
無機系基材を99mm×99mmのサイズに調整し、JIS K−0068の乾燥減量法の基準に準じて、無機系基材の乾燥前の質量(w
1)、温度105℃下で加熱乾燥して恒量とした際の試料の質量(w
2)を測定し、下式より質量減少率を算出した。なお、石膏ボード(3)以外の無機系基材は、乾燥前に温度23℃、湿度50%の環境下で恒量とし、当該質量を乾燥前の質量とした。
質量減少率(質量%)=[(w
1−w
2)/w
1]×100
【0117】
<発熱性試験>
実施例及び比較例で得られた積層体を99mm×99mmのサイズに切断し、試料を調整した。当該試料を用いて、JIS A5430付属書JA発熱性試験(コーンカロリーメーター法)に準じて発熱性試験を行った。評価基準は以下のとおりである。
(総発熱量)
◎:20分間の総発熱量が8.0MJ/m
2を超えない。
○〜◎:総発熱量が8.0MJ/m
2を超えない時間が、15分超過20分以下。
○:総発熱量が8.0MJ/m
2を超えない時間が、10分超過15分以下。
×:10分以下で8.0MJ/m
2を超える。
【0118】
また、総発熱量が8.0MJ/m
2を超えない時間が、10分を超える試料については、10分経過時点での外観を下記基準にて評価した。
(外観評価)
○:裏面まで貫通する亀裂および穴がない。
×:裏面まで貫通する亀裂および穴が発生。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
上記表から明らかなとおり、実施例1〜9の本発明の蓄熱積層体は、良好な蓄熱性能を有する有機系蓄熱層を使用しながらも、好適な耐燃焼性を実現できるものであった。一方、比較例1〜3の積層体は耐燃焼性に乏しいものであった。なお、無機系基材を積層しなかった参考例1の試料は14秒で着火した。