(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462244
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/155 20060101AFI20190121BHJP
C03C 3/23 20060101ALI20190121BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
C03C3/155
C03C3/23
G02B1/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-129875(P2014-129875)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-147719(P2015-147719A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2017年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-773(P2014-773)
(32)【優先日】2014年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 博之
(72)【発明者】
【氏名】増野 敦信
【審査官】
吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/137276(WO,A1)
【文献】
特開平07−118033(JP,A)
【文献】
特開2006−016295(JP,A)
【文献】
特開2007−091576(JP,A)
【文献】
特開2009−001439(JP,A)
【文献】
特開2010−013292(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/054937(WO,A1)
【文献】
特開昭52−015510(JP,A)
【文献】
特開昭57−034044(JP,A)
【文献】
特開昭58−069741(JP,A)
【文献】
特開昭59−169952(JP,A)
【文献】
特開昭60−046948(JP,A)
【文献】
特開昭60−131845(JP,A)
【文献】
特開平06−056462(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/090014(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/071202(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0256531(US,A1)
【文献】
増野敦信,"無容器浮遊法による超高屈折率ガラスの開発",粉体および粉末冶金,日本,一般社団法人粉体粉末冶金協会,2014年 1月15日,Vol.61, No.1,Page.11-17,DOI:10.2497/jjspm.61.11,URL,https://doi.org/10.2497/jjspm.61.11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/062 − 3/068
C03C 3/12 − 3/155
C03C 3/23
C03B 19/10
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン%で、Nb5++Ta5+ 34.0〜40%(ただし、40%は含まない)、及び、希土類元素イオン 60〜66.0%を含有し、アニオンとしてF−を含有し、屈折率(nd)が1.80〜2.3、アッベ数(νd)が40.1〜75であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
Nb5+、Ta5+及び希土類元素イオンの合量が95カチオン%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
希土類元素イオンがLa3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びCe4+から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
アニオン%で、F−を0.1%以上含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラや一般のカメラ、携帯電話に付帯のカメラ等の撮影用レンズに対して、高性能化の要求がますます高まっている。具体的には、レンズ光学系の小型化や、光の色収差を抑えて高画質化及び高倍率化を図るため、光学ガラスに対して高屈折率及び低分散(高アッベ数)の光学特性が求められることが多くなっている。
【0003】
上記光学特性を達成するため、B
2O
3−ZnO−La
2O
3系ガラスやBi系ガラスが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−362938号公報
【特許文献2】特開2007−106625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のB
2O
3−ZnO−La
2O
3系ガラスは低分散特性を有するものの、高屈折率特性は不十分である。B
2O
3−ZnO−La
2O
3系ガラスでさらなる高屈折率化を図ろうとすると、失透が生じる傾向がある。一方、特許文献2に記載のBi系ガラスは、2を超える高屈折率特性を有するものの、高分散であり、色収差の低減を達成することは困難である。Bi系ガラスで低分散化を図ろうとすると、屈折率が低下する傾向があり、高屈折率特性を維持することは困難である。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、高屈折率かつ低分散な光学特性を有する新規な光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学ガラスは、カチオン%で、Nb
5++Ta
5+ 0.1〜40%(ただし、40%は含まない)、及び、希土類元素イオン 60〜99.9%を含有し、アニオンとしてF
−を含有することを特徴とする。
【0008】
本発明の光学ガラスにおいて、Nb
5+、Ta
5+及び希土類元素イオンの合量が80カチオン%以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の光学ガラスにおいて、希土類元素イオンがLa
3+、Gd
3+、Y
3+、Yb
3+及びCe
4+から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
本発明の光学ガラスにおいて、アニオン%で、F
−を0.1%以上含有することが好ましい。
【0011】
本発明の光学ガラスにおいて、屈折率(nd)が1.80〜2.3、アッベ数(νd)が36〜75であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高屈折率かつ低分散な光学特性を有する新規な光学ガラスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の光学ガラスを製造するための装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光学ガラスは、カチオン%で、Nb
5++Ta
5+ 0.1〜40%(ただし、40%は含まない)、及び、希土類元素イオン 60〜99.9%を含有し、アニオンとしてF
−を含有することを特徴とする。各成分の含有量をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0015】
Nb
5+及びTa
5+は、化学的耐久性及び耐失透性を向上させる成分である。また、屈折率を高める効果もある。Nb
5++Ta
5+の含有量は、カチオン%で、0.1〜40%(ただし、40%は含まない)であり、1〜39%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましい。Nb
5++Ta
5+の含有量を上記範囲に規制することにより、化学的耐久性及び耐失透性に優れたガラスが得られやすくなる。なお、原料コスト低減の観点からは、Nb
5+を用いることが好ましい。
【0016】
希土類元素イオンは、屈折率を高める成分である。希土類元素イオンの含有量は、カチオン%で、60〜99.9%であり、61〜90%であることが好ましく、70〜85%であることがより好ましく、75〜80%であることがさらに好ましい。希土類元素イオンの含有量を上記範囲に規制することにより、高屈折率特性が得られやすくなる。
【0017】
希土類元素イオンとしては、La
3+、Gd
3+、Y
3+、Yb
3+、Ce
4+、Sc
3+、Pr
3+、Nd
3+、Pm
3+、Sm
3+、Eu
3+、Tb
3+、Dy
3+、Ho
3+、Er
3+、Tm
3+、Lu
3+等が挙げられる。なかでも、ガラスの安定化が得られやすい理由から、La
3+、Gd
3+、Y
3+、Yb
3+またはCe
4+が好ましく、La
3+を用いることがより好ましい。
【0018】
なお、高屈折率かつ低分散の光学特性を得る観点からは、Nb
5+、Ta
5+及び希土類元素イオンの合量は、カチオン%で、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい、95%以上であることが特に好ましい。
【0019】
F
−は低分散化(高アッベ数化)を図るための成分である。また、紫外域の透過率を向上させたり、ガラス転移点を低下させる効果もある。当該効果を得るために、F
−の含有量は、アニオン%で、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されないが、F
−の含有量が多すぎると溶融中に蒸発しやすくなり、安定してガラスを得ることが困難になる傾向があるため、アニオン%で、99.9%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、80%以下であることがさらに好ましく、70%以下であることが特に好ましい。
【0020】
なお、本発明の光学ガラスは希土類元素イオンを多く含有するため、希土類元素のフッ化物を原料に用いることにより、F
−をガラス中に多量に含有させることが可能となる。例えば、比較的取扱いが容易なLaF
3を原料として用いることにより、アッベ数を高める効果があるF
−をガラス中に多量に含有させること可能となる。また、本発明のガラスは、アッベ数を低下させやすいNb
5+及びTa
5+の含有量を上記の通り、比較的少なくなるよう規制している。以上の理由から、本発明の光学ガラスは、低分散特性を達成しやすいガラスであると言える。
【0021】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で種々の成分を含有させることが可能である。例えば、ガラス化を容易にするための成分として、Si
4+、B
3+、Al
3+、P
5+、Zn
2+、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+またはBa
2+を含有させることができる。なお、Si
4+、B
3+、Al
3+は屈折率を低下させる傾向があるため、所望の光学特性が得られるように、その含有量を調整する必要がある。屈折率を高める成分として、Ti
4+またはSn
4+を含有させることができる。屈折率を高めたり、ガラス化を容易にするための成分として、Zr
4+、W
6+またはGe
4+を含有させることができる。溶融温度を低下させる成分として、Li
+、Na
+、K
+またはCs
+を含有させることができる。清澄剤としてSb
3+を含有させることができる。これらの成分の含有量は、合量で、0〜20カチオン%であることが好ましく、0〜15カチオン%であることがより好ましく、0〜10カチオン%であることがさらに好ましい。
【0022】
なお、Pb
2+は環境面から含有させないことが好ましい。
【0023】
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、1.80以上であることが好ましく、1.85以上であることがより好ましく、1.9以上であることがさらに好ましく、2以上であることが特に好ましい。光学ガラスをレンズとして使用する場合、高屈折率であるほどレンズを薄くすることが可能となり、光学デバイスを小型化する上で有利となる。ただし、屈折率が高すぎるとガラスが不安定になりやすい。よって、ガラスの安定性を考慮して、屈折率の上限は2.3以下であることが好ましく、2.2以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は36以上であることが好ましく、38以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましく、50以上であることが特に好ましい。アッベ数が高いほど屈折率の波長分散が小さくなるため好ましい。ただし、アッベ数が高すぎると、屈折率が低下したり、ガラスが不安定になりやすい。よって、高屈折率特性の維持とガラスの安定性を考慮して、アッベ数の上限は75以下であることが、好ましく、70以下であることがより好ましく、65以下であることがさらに好ましい。
【0025】
なお、本発明の光学ガラスは、Nb
5+、Ta
5+及び希土類元素イオンを多量に含有しているため、坩堝等の溶融容器を用いた一般的な溶融法ではガラス化が困難である。これは、溶融容器との接触界面を起点として、溶融ガラスの結晶化が進行しやすくなるからである。この傾向は、特にSi
4+、B
3+、Al
3+等のガラス骨格形成成分の含有量が少ない場合に顕著となる。
【0026】
ガラス化しにくい組成であっても、溶融容器との界面での接触をなくすことによりガラス化が可能となる。このような方法として、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器浮遊法(無容器凝固法)が知られている。当該方法を用いると、溶融ガラスが溶融容器にほとんど接触することがないため、溶融容器との界面を起点とする結晶化を防止することができ、ガラス化が可能となる。よって、本発明の光学ガラスは無容器浮遊法により作製することが好ましい。
【0027】
図1に、無容器浮遊法によりガラス材を作製するための製造装置の模式的断面図を示す。以下に、
図1を参照しながら、ガラス材の製造装置について説明する。ガラス材の製造装置1は、成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aを有する。成形型10は、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は、特に限定されない。ガスは、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであってもよい。
【0028】
製造装置1を用いてガラス材を製造するに際しては、まず、ガラス原料塊12を成形面10a上に配置する。ガラス原料塊12としては、例えば、原料粉末をプレス成形等により一体化したものや、原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0029】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、ガラス原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、ガラス原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射する。これによりガラス原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得ることができる。ガラス原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらにはガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガスの噴出を継続し、ガラス原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
表1〜5は本発明の実施例(試料No.1〜27、29〜49)及び比較例(試料No.28)をそれぞれ示している。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
各試料は次のようにして作製した。まず、各ガラス組成となるように原料粉末を秤量、混合した後、1000℃前後の温度で仮焼きすることで原料粉末を焼結させた。焼結体から所望の体積の原料塊を切り出した。得られた原料塊を用いて、
図1に準じた装置を用いた無容器浮遊法によってガラス材を作製した。なお、熱源としては、出力100WのCO
2レーザーを用い、原料塊を1000〜2500℃に加熱して溶解させた。
【0038】
得られた試料について、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0039】
なお屈折率(nd)は、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0040】
アッベ数(νd)はd線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd−1)/(nF−nC)}式から算出した。
【0041】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜27、29〜49の各試料は、屈折率(nd)が1.804〜2.145、アッベ数(νd)が37.5〜77.3と高屈折率かつ低分散の光学特性を有していた。一方、比較例であるNo.28の試料は、2.126という高い屈折率を有していたが、アッベ数が35.5と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の光学ガラスは、ビデオカメラや一般のカメラの撮影用レンズ等の光学レンズに使用される光学ガラスとして好適である。
【符号の説明】
【0043】
1:ガラス材の製造装置
10:成形型
10a:成形面
10b:ガス噴出孔
11:ガス供給機構
12:ガラス原料塊
13:レーザー光照射装置