(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅箔の少なくとも片方の面に、粗化処理層、防錆処理層及びシランカップリング層が前記銅箔を基準にしてこの順で積層されている表面処理銅箔であり、前記シランカップリング層の表面から測定された三次元表面性状の複合パラメータである、界面の展開面積率Sdrの値が8〜140%の範囲であり、二乗平均平方根表面勾配Sdqの値が25〜70°の範囲であり、且つ、前記シランカップリング層の表面から測定された三次元表面性状の空間パラメータである、表面性状のアスペクト比Strの値が0.25〜0.79であることを特徴とする表面処理銅箔。
【背景技術】
【0002】
クラウドサービスの増加や通信機器の発達によってデータの通信量は増加している。これに伴い、通信速度を向上させるべく、ルーターやサーバー、携帯電話の基地局のアンテナといった機器として、近年では20GHzを超えるような高周波対応のものが開発されてきている。これらの高周波対応機器のプリント配線板には、高周波伝送の観点から、低誘電率及び低誘電正接の材料特性を有する、変性ポリフェニレンエーテル樹脂や液晶ポリマー等の樹脂基材が用いられており、また、信号を流す回路配線を形成する材料として伝送損失の少ない銅箔が求められている。
【0003】
数GHzを超える高周波帯域では、表皮効果により回路配線を流れる電流が導体表面に集中するため、樹脂との密着性を高める観点から単純に表面粗さを大きくした銅箔を用いた場合、銅箔表面における伝送損失が大きくなるという問題がある。伝送損失を少なくするには、通常は、表面粗さを小さくした銅箔を用いることが望ましいと考えられている。
【0004】
高周波プリント配線板においては高機能化に伴い多層化が進んでおり、層数が30層以上の高多層プリント配線板が使用されることも多い。多層プリント配線板においては、熱負荷の際に層間での剥離現象が発生しやすい。特に、プリント配線板の表面に電子部品を実装する際に行うリフローはんだ付け工程では、プリント配線板が短時間で急激な温度上昇を伴うような高温の熱負荷を受けるため、樹脂中の水分や有機物が一気にガス化して体積膨張することによって膨れが生じやすくなる結果、層間剥離の不良が発生するリスクが高くなる傾向がある。このため、リフローはんだ付けの際の密着性(以下、「リフロー耐熱性」という。)が良好であることが信頼性の観点から重要視されている。
【0005】
樹脂基材に対する銅箔の引き剥がし強さを高めるとともに高周波帯域の伝送損失を低減させるための手段としては、例えば特許文献1には、銅箔の少なくとも一方の面に直径が0.05〜1.0μmである球状の微細な粗化粒子からなる粗化処理層を有し、且つ前記粗化処理層上にモリブデン、ニッケル、タングステン、リン、コバルト、ゲルマニウムの内の少なくとも一種類以上からなる耐熱・防錆層を有し、且つ前記耐熱・防錆層上にクロメート皮膜層を有し、且つ前記クロメート皮膜層上にシランカップリング剤層を有することを特徴とする高周波プリント配線板用銅箔が開示されている。また、特許文献1には、この銅箔に形成される粗化粒子を小さくすることにより、樹脂基材に対する銅箔の引き剥がし強さが強く、かつ銅箔のエッチングによる回路パターン形成後の回路ボトムラインの直線性が高く伝送損失の低減が可能になることが開示されている。しかしながら、特許文献1は、リフローはんだ付けの際の密着性であるリフロー耐熱性に関しては着目しておらず、また、具体的な表面粗化形状と表皮効果による伝送特性低減の効果についても検討がなされていない。
【0006】
また、特許文献2には、絶縁樹脂基材と張り合わせる接着表面は、表面粗さ(Rzjis)が2.5μm以下で、且つ、2次元表面積が6550μm
2の領域をレーザー法で測定したときの3次元表面積(A)μm
2と当該2次元表面積との比[(A)/(6550)]の値である表面積比(B)が1.2〜2.5であることを特徴とする表面処理銅箔が開示されている。また、特許文献2には、この表面処理銅箔を用いれば、プリント配線板に形成した配線回路のエッジに良好な直線性が得られ、絶縁樹脂基材との密着性はもとより、耐薬品性や耐吸湿性も良好で、GHz帯の高周波信号の伝送損失や特性インピーダンスなどについて、設計値に近い電気特性の作り込みが可能になることが開示されている。しかしながら特許文献2は、表面粗さ(Rzjis)と表面積比(B)とをそれぞれ適正範囲に限定する構成を採用しているが、表面粗さと表面積比を限定するだけでは、正確な表面性状を特定することが出来ない。例えば、
図4(a)及び
図4(b)には、幾何学的に見ると表面積が同一であるが異なる表面粗さをもつ2つの表面状態が概念的に示されているものの、両表面状態の比較からも明らかなように、山の高さや幅のサイズが両者で大きく異なり、伝送特性や樹脂との密着性が同様であると見なすことは困難である。また、特許文献2は、リフロー耐熱性に関しては着目しておらず、加えて、具体的な表面粗化形状と表皮効果による伝送特性低減の効果についても検討されていない。
【0007】
特許文献3には、銅箔の表面に微細銅粒子を析出形成した粗化処理面を備える粗化処理銅箔において、当該粗化処理面は、頭頂部角度が85°以下の突起形状の微細銅粒子を含むことを特徴とする粗化処理銅箔が開示されている。また、特許文献3には、この粗化処理銅箔は、液晶ポリマー、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の高耐熱性及び高周波特性に優れる樹脂に対して十分な密着性を有し、尚且つ伝送特性を低減できることが開示されている。しかしながら、特許文献3は、粗化処理面を構成する微細銅粒子の頭頂部角度のみを規定し、頭頂部以外の形状については何ら限定していない。また、特許文献3は、L*a*b*表色系のL*値、a*値およびb*値を用いて付属的に粗化の形状を間接的に定量しているが、L*、a*、b*は色度のパラメータである。そのため、銅箔表面にNiやCo、Crなどによって有色めっき皮膜が形成されている場合、もしくは銅箔の表面が酸化変色している場合はこれらの値に大きく影響を及ぼすことから、粗化処理の表面形状を正確に把握し管理することは技術的に非常に困難である。
【0008】
また、特許文献4は、少なくとも一方の表面に表面処理層が形成された表面処理銅箔であって、前記表面処理層が粗化処理層を含み、前記表面処理層におけるCo、Ni、Feの合計付着量が300μg/dm
2以下であり、前記表面処理層がZn金属層又はZnを含む合金処理層を有し、前記表面処理層表面におけるレーザー顕微鏡で測定された二次元表面積に対する三次元表面積の比が1.0〜1.9であり、少なくとも一方の表面の表面粗さRzjisが2.2μm以下である表面処理銅箔が開示されている。また、特許文献4には、この表面処理銅箔は、表面処理層における常温で強磁性を示す金属(Co、Ni、Fe)の合計付着量を所定量以下に制御し、常温で強磁性を示さないZnを含有させることで高周波伝送損失を低減するとともに、表面粗さRz及び樹脂(誘電体)との接触面積をより正確に表す三次元表面積の二次元表面積に対する比を適正範囲に制御することで伝送特性が改善できることが開示されている。しかしながら、特許文献4では、上述した様に表面積比とRzとにより表面処理銅箔の表面形状や特性を特定することは非常に困難であり、伝送特性に顕著な影響を与える表面を明確に定義できない。また、通常、プリント配線板を作る工程では、回路を形成するためのエッチング工程やリフローはんだ付けの工程が必須であり耐薬品性やリフロー耐熱性が要求される。一方、特許文献4に記載の表面処理銅箔のように表面処理層における強磁性金属を低減することで伝送特性を改善する構成を採用した場合、Znを含有する表面処理層は、エッチングに使用される塩化銅、塩化鉄、硫酸−過酸化水素水などのエッチング液に対して容易に溶解する。そのため、エッチング時にオーバーエッチングが生じやすく、回路の直進性が悪く、最悪の場合は回路パターン作成後に樹脂から剥離するおそれがある。また、加熱を行うことで、ZnはCu層中を容易に拡散するため、後述するようなリフロー耐熱試験で銅−樹脂間で剥離不良が発生し易いと言う欠点がある。即ち伝送特性に優れる反面、プリント配線板の製造工程での不具合が発生し易く、工業的に安定して製造が出来ないという問題もあった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について以下で詳細に説明する。本発明に係る表面処理銅箔は、銅箔の少なくとも片方の面に、粗化処理層、防錆処理層及びシランカップリング層が銅箔を基準にしてこの順で積層されている。すなわち、銅箔の少なくとも片方の面に粗化処理層が形成され、該粗化処理層上に防錆処理層が形成され、該防錆処理層上にシランカップリング層が形成されている。また、このような積層構造の最外層に相当するシランカップリング層の表面性状として、シランカップリング層の表面から測定された三次元表面性状の複合パラメータである、界面の展開面積率Sdrの値が8〜140%の範囲に制御されている。
【0019】
本発明に係る表面処理銅箔の表面性状の解析には、3次元光干渉型顕微鏡を用いることができる。光の干渉は、対象物表面からある点までの光の距離(光路)に差が生じると発生する現象である。この現象を利用して、対象物表面の凹凸を計測しているのが、光干渉計である。3次元光干渉型顕微鏡の特徴としては、Z方向(高さ方向)の分解能が0.1nm程度と非常に感度良く測定することが可能であり、測定倍率を変えてもZ方向の分解能が変わらないことが挙げられる。一方で、例えば、従来から広く使われているコンフォーカル(共焦点)方式のレーザー顕微鏡は、X、Y方向の二軸スキャンを実施しているため、Z方向の分解能は10nm〜300nmと大きく、表面処理銅箔の非常に微細な表面性状を識別するには適さない。また、このコンフォーカル方式は、測定する倍率によってZ方向の分解能が大きく変わるため、粗化形状を定量的に表現するには適さない。
【0020】
そこで、本発明者らは、伝送損失が少なく、リフロー耐熱性が良好な銅箔を得るため、3次元光干渉型顕微鏡を用いて検討を行った。その結果、シランカップリング層の表面から測定された三次元表面性状の複合パラメータである、界面の展開面積率Sdrの値を厳密に制御することによって、伝送損失が少なく、リフロー耐熱性も良好な表面処理銅箔が得られた。
【0021】
Sdrは、粗化処理層の界面(表面)の展開面積率を表す。なお、本発明では、Sdrの値を、表面処理銅箔の最表層であるシランカップリング層の表面から測定しているが、表面処理銅箔を構成する粗化処理層の表面形状は、その粗化処理層上にさらに防錆処理層及びシランカップリング層を積層形成した後のシランカップリング層の表面形状とほとんど変わらないことが確認されている。そのため、本発明では、シランカップリング層の表面から測定されたSdrの値を、粗化処理層の表面から測定されたSdrの値と同じであるとして規定することとする。
【0022】
ここで、Sdrは界面の展開面積率を示し、次式で表される。
【数1】
【0023】
Sdrの特徴は、類似した算術平均高さSaを持つ表面の形状を区別することが可能なことである。算術平均高さSaは、表面の平均面に対して各点の高さの差の絶対値の平均を表していることから、凹凸の平均的な高さの情報を判断するには適しているが、表面形状における凹凸の複雑性を判断することはできない。
【0024】
これに対して、Sdrの値は表面形状の凹凸の振幅と間隔の両方の影響を受け、振幅が大きく間隔が狭いほど高い値を示す。一般的には、Sdrが低い場合はSaが低い場合が多く、Sdrが大きい場合はSaが大きくなる傾向はあるものの、Saは高さを表すパラメータであることから、凹凸の振幅や間隔には依存しない。つまりSdrは、Saでは表すことが出来ない表面形状における凹凸の複雑性を識別することが可能である。Sdrの値が小さい場合は平坦に近い表面形状を有するのに対し、Sdrの値が大きくなると凹凸の多い表面形状を有するようになる。
【0025】
本発明者らがSdrの値が異なる複数の表面処理銅箔を試作し、伝送特性及びリフロー耐熱性との関係について鋭意検討を行ったところ、Sdrの値を8〜140%の範囲に限定することによって、粗化処理層の表面に存在する粗化粒子の凹凸の複雑性が適切に制御され、その結果、伝送特性及びリフロー耐熱性が共に優れる結果となった。Sdrの値が8%未満だと、リフロー耐熱性が低下する傾向が見られた。これは粗化粒子の間隔が広い若しくは不均一に成長していることにより樹脂との密着が不十分であるためと推定される。一方、Sdrの値が140%よりも大きいと、伝送特性が低下する傾向が見られた。Sdrが大きくなることにより粗化粒子の凹凸が大きくなり、伝送損失が大きくなったためと推定される。なお、Sdrの値は20〜120%の範囲であることが好ましく、40〜100%の範囲であることが更に好ましい。
【0026】
なお、粗化処理層の表面の展開面積率の制御によって伝送特性及びリフロー耐熱性が共に良好となる理由は定かではないが、特に表皮効果により電流が導体表面に集中するようになる高周波帯域では、粗化処理層の表面全体を流れる電流が多くなるため、展開面積率が高くなることで伝送損失が増加する傾向があるものと考えられる。加えて、粗化粒子がある程度微細な表面形状となると、表面処理銅箔の粗化処理面の粗化粒子と樹脂基材の表面における物理的な密着力(アンカー効果)は低下する傾向があるが、粗化粒子同士の隙間を狭めることや粗化粒子の高さを不均一にすることによって、粗化粒子と樹脂基材との界面における密着性が高まる。その結果、リフローはんだ付けの際の加熱時に膨れが発生しにくくなってリフロー耐熱性が向上するものと考えられる。
【0027】
次に、粗化処理層の表面の展開面積率がリフロー耐熱性に与える影響について説明する。
表面処理銅箔と樹脂基材を熱プレスなどの方法によって張り付けた銅張積層板では、表面処理銅箔の粗化処理層と樹脂基材との界面に、熱プレス時に出来た欠陥などが元で微細な空隙が存在する(以後、この様な空隙を「亀裂」と称する)。銅張積層板がリフローはんだ付けの際に加熱されると、樹脂基材中の低分子量の成分がガスとして揮発し、亀裂に溜って膨張力を生じさせる。この時、展開面積率が低い場合には、隣接する粗化粒子の間で亀裂が連結されて広がりやすく、亀裂が伝播していくことによって界面における連続的な剥離が生じて膨れが発生すると考えられる。一方で、展開面積率がある程度高くなると、粗化粒子と樹脂基材との接触面積が大きくなり、粗化処理層と樹脂基材との間に作用する摩擦力が大きくなる。そのため、樹脂基材中の低分子量の成分がガスとして揮発した際に亀裂に溜まって生じる膨張力よりも粗化処理層と樹脂基材との間に働く摩擦力が大きくなることで、亀裂の伝播を抑制する効果を奏すると考えられる。この結果、亀裂の伝播が進行しにくくなって、粗化処理層と樹脂基材との界面における連続的な剥離が抑制され、膨れが発生しにくくなると推察される。
【0028】
また、本発明では、シランカップリング層の表面から測定された三次元表面性状の複合パラメータである、二乗平均平方根表面勾配Sdqの値が25〜70°の範囲であることが好ましい。尚、本発明において、Sdqの値もSdrの値と同様、表面処理銅箔を構成する粗化処理層の表面形状は、その粗化処理層上にさらに防錆処理層及びシランカップリング層を積層形成した後のシランカップリング層の表面形状とほとんど変わらないことが確認されている。そのため、Sdqにおいても、シランカップリング層の表面から測定されたSdqの値を、粗化処理層の表面から測定されたSdqの値と同じであるとして規定することとする。
【0029】
Sdqとは、粗化処理層の表面勾配(傾き)を意味し、具体的には、全ての方向で評価した表面で構成される二乗平均平方根(rms)表面勾配であり次式で表される値である。
【数2】
なお、式中のx、yは、平面座標であり、Zは高さ方向の座標である。Z(x,y)は、ある点の座標を示し、これを微分することでその座標における傾きとなる。上式は、全ての点(A個)のx方向の傾きとy方向の傾きの2乗を足して平方根としたものである。
【0030】
Sdqの特徴は、類似した算術平均高さSaを持つ表面の形状を区別することが可能なことである。算術平均高さSaは、表面の平均面に対して各点の高さの差の絶対値の平均を表していることから、凹凸の平均的な高さの情報を判断するには適しているが、表面形状の尖り具合(傾斜)を判断することはできない。
【0031】
これに対して、Sdqの値は表面形状の振幅と間隔の両方の影響を受ける。Sdqの値が小さい場合は、なだらかな表面形状を有するのに対し、Sdqが大きくなると尖った表面形状を有するようになる。本発明者らがSdqの値が異なる複数の表面処理銅箔を試作し、伝送特性及びリフロー耐熱性との関係について鋭意検討を行なったところ、Sdqの値を25〜70°の範囲に限定することによって、粗化処理層の表面に存在する粗化粒子の尖り具合がより適切に制御され、その結果、伝送特性及びリフロー耐熱性が共に良好である表面処理銅箔を得ることができる。Sdqの値が25°未満だと、伝送特性が低下する傾向にあり、Sdqの値が70°を超えると、リフロー耐熱性が低下する傾向にあるため、Sdqの値は25〜70°の範囲に制御することが好ましく、30〜65°の範囲であることがより好ましく、40〜60°の範囲であることが更に好ましい。
【0032】
なお、粗化処理層の表面に存在する粗化粒子の尖り具合の制御によって、伝送特性及びリフロー耐熱性が共に良好となる理由は定かではないが、特に表皮効果により電流が導体表面に集中するようになる高周波帯域では、粗化粒子がある程度尖った表面形状になると電流が粗化粒子の先端には到達せず、この先端を通る経路では流れにくくなることが考えられる。一方、粗化粒子の尖りが小さい表面形状の場合には、高周波帯域にて流れる電流は、粗化粒子の先端を含めて表面全体を流れるため、伝送損失は増加するものと考えられる。加えて、粗化粒子の尖りが大きくなりすぎると、粗化粒子同士の隙間が狭くなり、表面処理銅箔と樹脂との積層時に、樹脂が表面処理銅箔の表面凹凸の根元(凹部)位置まで充填されにくくなる。その結果、リフローはんだ付けの際の加熱時に膨れが発生し易くなってリフロー耐熱性が悪化する傾向にあるものと考えられる。
【0033】
次に、粗化処理層の表面を構成する粗化粒子の尖り具合が伝送特性に与える影響について説明する。
図1は、国際公開第2016/035876号において開示されたものであって、粗化粒子の高さをhとし、粗化粒子のh/2の高さ位置における幅をwとするとき、粗化粒子の高さhと幅wを表皮深さdで規格化し、それぞれの表面粗化形状における等価導電率の算出結果を示したものである。具体的には、
図1は、表皮深さdで規格化されたh/dを縦軸、w/dを横軸にそれぞれとり、等価導電率の分布を計算した結果を示している。
図1では、左下の領域(等価導電率:(5.5〜6.0)×10
7S/m)から右上の領域(等価導電率:(0〜2.0)×10
7S/m)に向かうにつれて、等価導電率が低くなっていくことがわかる。
【0034】
ここで等価導電率の定義について説明する。銅箔上に高周波電流が流れると、銅箔表面から表皮深さdの領域に電流分布が集中し、その集中箇所では導体抵抗により電流損失が発生する。特に表面に粗化処理層を形成しない平滑導体ではなく、表面に粗化処理層として突起(粗化粒子)が形成された粗化導体に電流が流れると、電流損失が増大する。表面に存在する粗化粒子による電流損失の増大は、導電率の低下による損失の増大と等価であるとして置き換えることが可能である。すなわち、表面粗化状態における高周波特性の良否を、見かけの導電率として評価することができる。この様な見かけの導電率を等価導電率と定義する。
【0035】
図1の縦軸であるh/dによって等価導電率が変化することは、一般に知られていた。すなわち、粗化粒子の高さhが小さければ、等価導電率の大幅な低下はなく、銅箔としての伝送特性として許容できるものと考えられる。従来から表面粗さが小さいほど伝送特性が向上することが知られている。そのため、密着力を確保するため粗化粒子の高さを表皮深さ程度以上に大きくしていくことは伝送特性の低下につながるため望ましくないとする従来の考え方に鑑みれば、表皮深さと同じかあるいはそれよりも高い粗化粒子高さ、即ちh/d≧1領域では伝送特性が劣化し始めることから、特に良好な伝送特性を得るために、粗化粒子高さが高い表面形状を採用することは一般に難しいとされていた。
【0036】
これに対して、本発明では、w/dが1以下では、h/d≧1であっても、見かけの導電率(等価導電率)が低下せずにh/dの範囲(領域)が広がる傾向、すなわち非線形的な変化で等価導電率の改善効果が認められ、さらにw/dを0.5以下とすることで、等価導電率が高いままほとんど低下せず、等価導電率の改善効果が見られる。この等価導電率の改善効果は、特にh/d≧1のように、粗化粒子高さhが高い(表面粗さが粗い)場合において顕著である。この知見は、樹脂基材との密着力を確保するため粗化粒子高さhを大きくせざるを得ない場合に、特に有効である。
【0037】
このような、表皮深さdで規格化された粗化粒子の幅wの変化によって、等価導電率が非線形的に急激に変化するという現象は、以下のような原理に基づくものと考えられる。
【0038】
(粗化粒子の幅wと電流密度)
図2(a)及び(b)は、電磁界解析上において紙面水平方向に高周波電界を印加し、その際に流れた高周波伝導電流密度を銅箔断面上に示した概念図であり、図中の点線は、等電流密度線である。
図2(a)は、規格化された幅w/dの値が相対的に大きい粗化粒子の場合を示し、
図2(b)は、規格化された粗化粒子の幅w/dの値が相対的に小さい場合を示している。なお、
図2(a)において、A点は、電流密度が小さい点であり、B点は電流密度が高い点である。また、
図2(b)において、E点は、電流密度が小さい点であり、F点は電流密度が高い点である。
【0039】
通常、伝導電流の高周波化に伴い表皮効果は顕著となり、電流は銅箔表面により集中して流れると解釈される。このような現象は、銅箔が表面平滑構造であることを前提としたものであり、本発明のように表面に粗化形状をもった場合の電流の疎密の状況は、その表面が平滑な場合と比較して非常に特殊なものとなる。具体的には、
図2(a)、
図2(b)共に、より表面側といえる粗化粒子の先端側では電流が流れにくい状況が確認される(A点、E点)。このとき、粗化粒子の先端部分で起こっているのは、伝導電流の相殺であると考えられる。
【0040】
このような現象は以下の理由によるものと考えられる。銅箔表面の表皮深さd以内に電流の大部分が集中し、その集中する部分同士を流れる電流がなんら干渉しない場合には伝導電流となる。一方、粗化粒子(突起)の先端部のように表皮深さd以下となる部分において異なる方向へ向かう電流が互いに干渉する(重なる)場合には、干渉部分で電流が反対方向に流れると相殺され、伝導電流が流れなくなる。例えば、粗化粒子の先端方向へ向かう電流と、粗化粒子の先端から基部側へ流れる電流が干渉すると、干渉した部分で電流が相殺されて伝導電流が流れなくなる現象が生じるが、この現象自体は電流損失を生じさせる原因とはならないと考えられる。
【0041】
より詳細に、
図2(a)と
図2(b)にそれぞれ示されている表面形状の差異について述べる。
図2(b)の場合には、
図2(a)よりも粗化粒子の幅wが狭く、粗化粒子内での電流密度が相対的に小さい。例えば、
図2(a)の場合、粗化粒子の両側基部を結ぶ内部中央点(C点)の電流密度と等価な電流密度となる粗化粒子の表面位置(D点)は、粗化粒子の高さhの1/2の高さ位置よりも先端側にある。すなわち、粗化粒子の高さhの1/2の高さ位置の表面における電流密度は、粗化粒子の内部中央点(C点)の電流密度と等価である。このことから、
図2(a)では粗化粒子の先端に近い高さまで電流が流れやすい状態であるために先端側を流れる電流が多く、粗化粒子の基部側を流れる電流が少なくなる傾向があるものと考えられる。
【0042】
これに対し、
図2(b)の場合、粗化粒子の両側基部を結ぶ内部中央点(G点)の電流密度と等価な電流密度となる粗化粒子の表面位置(I点)は、粗化粒子の高さhの1/2の高さ位置よりも基部側にある。すなわち、粗化粒子の高さhの1/2の高さ位置の表面における電流密度は、粗化粒子の内部中央点(G点)の電流密度よりも低い。このことから、
図2(b)では、粗化粒子の先端側を流れる電流が少なく、粗化粒子の基部側を流れる電流が多くなる傾向にあるものと考えられる。このように、粗化粒子の基部近傍に流れる電流に対して、粗化粒子の先端側(特に突起高さh/2よりも先端側)に流れる電流量を低減するような表面粗化構造を選択することで電流損失を低減することが可能になると考えられる。
【0043】
本発明では、このような作用に基づいて、Sdrの値を8〜140%の範囲とし、銅箔表面に適正な粗化形状を有する粗化を施すことにより、伝送損失を低減することを可能とした。
【0044】
以上のことから、本発明では、シランカップリング層の表面から測定された三次元表面性状の複合パラメータである、界面の展開面積率Sdrの値を8〜140%の範囲とし、好ましくは更に二乗平均平方根表面勾配Sdqの値を25〜70°の範囲とした。
【0045】
加えて、シランカップリング層の表面から測定された三次元表面性状の空間パラメータである、表面性状のアスペクト比Strの値が0.25〜1であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましい。Strは、表面形状の縦横方向の等方性を示すパラメータである。Strの値は1が最大で1の場合は完全な等方性を示す。Strの値は一般に0.5以上であれば強い等方性を示し、逆に0.30未満であれば異方性を示す。一般にプリント配線板の回路は縦方向、横方向、斜め方向と随意形成される。よって銅箔面内で粗化の形状が等方性を示すことにより銅箔面内で測定位置や測定方向での伝送損失のバラツキは小さくなる。Strは1に近いほうが好ましく、逆にStrの値が小さくなるほど、銅箔面内での測定位置や測定方向により伝送損失のバラツキは大きくなるため好ましくない。
【0046】
さらに、シランカップリング層の表面から測定された十点平均粗さRzjisが0.9〜1.5μmの範囲であることが好ましい。前記十点平均粗さRzjisが0.9μm未満だと、密着性やリフロー耐熱性が不十分となるおそれがあり、また、Rzjisが1.5μmを超えると、伝送損失の増加のおそれがあるからである。尚、本発明において、Str及びRzjisの値もSdrの値と同様、表面処理銅箔を構成する粗化処理層の表面形状は、その粗化処理層上にさらに防錆処理層及びシランカップリング層を積層形成した後のシランカップリング層の表面形状とほとんど変わらないことが確認されている。そのため、Str及びRzjisにおいても、シランカップリング層の表面から測定されたStr及びRzjisの値を、粗化処理層の表面から測定されたStr及びRzjisの値と同じであるとして規定することとする。
【0047】
また、本発明では、粗化処理層及び防錆処理層中の銅以外の金属及び該金属の酸化物の合計含有量が、金属元素に換算して0.15〜0.50mg/dm
2であることが好ましい。粗化処理層を形成する粗化めっき液中に、銅以外の金属、例えばMo、Fe、Ni、Co、Wなどの金属イオンを添加することによって、粗化処理層の表面形状が制御できることは広く知られている。一方、これらの金属は、銅に比べて電気抵抗が大きく、また酸化物を形成しやすいため、上記金属が粗化処理層中や防錆処理層中に過剰に含まれると、伝送特性に悪影響を及ぼすおそれがある。このため、粗化処理層及び防錆処理層中の銅以外の金属及び該金属の酸化物の合計含有量が、金属元素に換算して0.15mg/dm
2未満だと、粗化処理層の表面形状の制御が効きにくくなるおそれがあり、また、0.50mg/dm
2を超えると、電気抵抗が大きくなって伝送特性が悪化する傾向がある。よって、粗化処理層及び防錆処理層中の銅以外の金属及び該金属の酸化物の合計含有量は、金属元素に換算して0.15〜0.50mg/dm
2であることが好ましい。
【0048】
さらに、前記粗化処理層及び前記防錆処理層中のNi及びZnの含有量が、それぞれ0.05〜0.30mg/dm
2であることが好ましい。前記粗化処理層及び前記防錆処理層中のNi及びZnの含有量が、それぞれ0.05mg/dm
2未満だと、リフロー耐熱性が不十分となるおそれがあり、また、それぞれ0.30mg/dm
2を超えると、Ni含有量の増大は伝送損失の増加につながり、Zn含有量の増大はオーバーエッチングにつながり、その結果、銅箔と樹脂基材との界面における密着性が低下してリフロー耐熱性が低下するおそれがあるからである。
【0049】
さらにまた、本発明の表面処理銅箔を構成する銅箔は、圧延銅箔や電解銅箔が含まれる。一般的に、電解銅箔では製箔用の金属製ドラム表面に銅を電解めっきにより析出させており、このドラム表面側をS面と呼称し、その反対面側をM面と呼称する。銅箔が電解銅箔である場合には、該電解銅箔のM面のみに前記粗化処理層を有することが伝送損失の増加を抑制する点で好ましい。
【0050】
さらに、本発明は、上述した表面処理銅箔と、該表面処理銅箔の前記シランカップリング層上に積層された樹脂とを有し、該樹脂の周波数10GHzにおける誘電率が3.5以下でかつ誘電正接が0.006以下である銅張積層板を製造することにより、高周波電気信号の伝送損失が少なく、かつ優れたリフロー耐熱性を有するプリント配線板の製造を可能にすることができる。なお、前記銅張積層板を構成する樹脂を、周波数10GHzにおける誘電率が3.5以下でかつ誘電正接が0.006以下である樹脂に限定する理由は、伝送損失を低減する効果が大きいためである。
【0051】
(表面処理銅箔の製造条件)
本発明の表面処理銅箔を構成する銅箔(元箔)としては、表面の平滑な銅箔、および表面に微小凹凸のある銅箔のいずれを用いてもよい。元箔AのM面(製箔時に電解液に接していた面)の表面形状を
図3(a)に、また、元箔BのM面およびS面(製箔時に電解ドラムに接していた面)の表面性状をそれぞれ
図3(b)および
図3(c)に示す。
【0052】
<元箔Aの電解条件>
Cu :60〜120g/L
H
2SO
4 :70〜150g/L
浴温 :50〜70℃
3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム :1〜10ppm
ヒドロキシエチルセルロース(HEC:分子量400)濃度 :5〜30ppm
膠濃度 :20〜50ppm
塩素濃度 :10〜40ppm
電流密度 :30〜60A/dm
2
【0053】
<元箔Bの電解条件>
Cu :60〜120g/L
H
2SO
4 :70〜150g/L
浴温 :50〜70℃
HEC(分子量400)濃度 :1〜20ppm
塩素濃度 :10〜40ppm
電流密度 :30〜60A/dm
2
【0054】
(粗化処理層の形成条件)
銅箔表面に形成される粗化処理層は、微細な銅粒子を形成するための粗化めっき工程と、この微細粒子の脱落を防止するためのカプセルめっき工程の2段階の粗化処理で実施する。粗化めっき工程では、銅−硫酸水溶液に金属イオンを添加したものを粗化めっき液として用いる。好ましいめっき条件は、一例として以下の通りである。
【0055】
<粗化めっき条件>
Cu :10〜30g/L
H
2SO
4 :100〜200g/L
Mo濃度 :0.2〜0.5g/L
Fe濃度 :1.0〜10g/L
浴温 :20〜30℃
電流密度 :20〜40A/dm
2
処理時間 :3.0〜10.0秒
【0056】
カプセルめっき工程では、銅−硫酸水溶液をカプセルめっき液として用いる。好ましいめっき条件は、一例として以下の通りである。
【0057】
<カプセルめっき条件>
Cu :40〜60g/L
H
2SO
4 :80〜120g/L
浴温 :45〜60℃
電流密度 :0.5〜10A/dm
2
処理時間 :3.0〜10秒
【0058】
また、上記の粗化めっき液及びカプセルめっき液中の塩化物イオン濃度は、0.3質量ppm以下であることが好ましい。電解銅箔の原料としては、一般に粉砕された電線屑が使用される。この電線屑には油分が含まれており、そのまま使用するとピンホールなどのめっき不良が生じる。よって、めっき液(電解液)から油分を除去する為に活性炭を使用する技術が広く知られているが、活性炭は再生工程で塩酸による処理を行うため塩化物イオンを吸着している。よって電解液には不可避的に塩化物イオンが混入し、数ppm程度含有されてしまう。
【0059】
塩化物イオン濃度が0.3質量ppmよりも多く含まれると、Mo、Fe、Ni、Co、Wなどの金属イオンによる作用が十分に発揮できなくなり、均一で微細な表面形状が得られなくなる。塩化物イオン濃度を0.3質量ppm以下にするためには、塩化物イオンをトラップし、かつ最終的にはめっき液から除去されるような物質をめっき液に添加すること、例えばめっき液中にAgイオンを0.01〜0.2質量ppm程度添加することが好ましい。めっき液中にAgイオンを添加することにより、Agイオンが塩化物イオンと反応し塩化銀となって沈殿することから、塩化物イオンをめっき液から除去することが可能である。沈殿した塩化銀はフィルターにてめっき液から除去されるため粗化の形状には影響を与えない。尚、塩化物イオンの分析にはイオンクロマトグラフ法を用いた。
【0060】
また、粗化めっき液及びカプセルめっき液中に有機添加剤を積極的に添加しないことが好ましい。有機添加剤を使用すると、有機添加剤の銅箔への取り込み及びアノードでの酸化反応によって生じる副生成物の管理が難しく、工業的に安定した製造がしづらくなる傾向があるからである。
【0061】
さらに、本発明の表面処理銅箔を構成する粗化処理層の形成は、粗化めっき条件とカプセルめっき条件の双方を相互に条件のバランスをとって行なうことが好ましく、例えば電流密度と処理時間を、粗化めっき条件とカプセルめっき条件で相互に適正に設定する場合が挙げられる。また電流密度と処理時間以外にも、粗化めっき液中に添加する金属イオンの種類および添加量の選択は、粗化粒子を微細かつ均一にする効果を発揮する上で適正に行うことが好ましい。具体的に例示すると、電流密度を高くする場合は添加する金属イオンの濃度を高くすればよい。すなわち、電流密度を高くすることにより、粗化粒子は不均一に成長し易くなるが、金属イオンを多く添加することで微細で均一な粗化粒子を得ることが可能になるからである。
【0062】
次に銅箔の粗化処理層上に積層形成される防錆処理層について、めっき液組成およびめっき条件の好ましい範囲を以下で説明する。
【0063】
防錆処理層としては、種々の金属又は合金含有層の1層または2層以上で構成する場合が挙げられ、具体例としては、Niめっき層、Znめっき層およびクロメート処理層の3層を順次積層して形成した場合が挙げられる。また、Niめっき層、Znめっき層およびクロメート処理層に加えて、または、これらの層の少なくとも1層に代えて、Ni−Zn、Zn−Cr、Ni−Crなどの合金めっき層を用いてもよい。Niめっき層、Znめっき層、Ni−Zn合金めっき層およびクロメート処理層を形成するための、めっき浴組成およびめっき条件の代表例を以下に示す。
【0064】
<Niめっき浴組成及びめっき条件>
Ni :10〜100g/L
H
3BO
3 :10〜40g/L
PO
2 :0〜10g/L
浴温 :10〜40℃
電流密度 :0.2〜10A/dm
2
処理時間 :1秒〜20秒
pH :2.0〜4.0
【0065】
<Znめっき浴組成及びめっき条件>
Zn :1〜30g/L
NaOH :10〜100g/L
浴温 :5〜60℃
電流密度 :0.1〜10A/dm
2
処理時間 :1秒〜20秒
【0066】
<Ni−Zn合金めっき浴組成及びめっき条件>
Ni :1〜4.0g/L
Zn :0.1〜2.0g/L
ピロリン酸カリウム:70〜280g/L
浴温 :15〜50℃
電流密度 :0.2〜10A/dm
2
処理時間 :1秒〜20秒
【0067】
<クロメート処理浴組成および処理条件)
Cr :0.5〜20g/L
NaOH :10〜100g/L
浴温 :20〜70℃
電流密度 :0.1〜10A/dm
2
処理時間 :1秒〜20秒
pH :13.0以上
【0068】
次に、上述した防錆処理層上に、樹脂との密着性を向上させるためにシランカップリング層を積層形成する。使用するシランカップリング剤の種類は、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、アクリル基、メタクリル基などを有するシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、樹脂中の反応性を有する官能基との作用により効果が異なるため、樹脂との相性により使用するシランカップリング剤を適宜選定することが必要である。
【0069】
上記シランカップリング剤の具体例として、アミノアルキルトリメトキシシラン(例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、アミノアルキルトリエトキシシラン(例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、スチリルトリエトキシシラン、スチリルプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、これ以外のシランカップリング剤であっても、適宜選択して使用することができる。
【0070】
上記シランカップリング剤を金属処理層表面に塗布する際の上記シランカップリング剤の溶液濃度は、防錆処理層の(最外)表面に、十分な量のシランカップリング剤を塗布し、かつ、より高い密着性を実現するために、0.01〜15体積%とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜10体積%とする。当該溶液の溶媒としては水を用いるのが好ましい。
【0071】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0072】
次に、本発明に従う表面処理銅箔を試作し、性能を評価したので以下に説明する。
(実施例1〜42並びに比較例1〜4)
銅箔(元箔)は、上述した2つの元箔の製造(電解)条件により、それぞれ厚さ18μmの元箔A及び元箔Bを得た。元箔Aの表面粗さRzjisは、S面(製箔時に電解ドラムに接していた面)が1.5μm、M面(製箔時に電解液に接していた面)が0.8μmであった。元箔Bの表面粗さRzjisは、S面が1.5μm、M面が3.3μmであった。
【0073】
次に、元箔A又は元箔Bに対して、表1に示す粗化処理I又はIIを施し、粗化めっき及びカプセルめっきを施した。表2に銅箔(元箔)の種類及び処理面、並びに粗化処理タイプ、粗化めっき条件及びカプセルめっき条件を示す。なお、粗化処理の条件は、めっき液(浴)の組成や濃度、金属イオン添加物によって限界電流密度や臨界電流密度が大きく変わるため、表2に示す粗化処理条件は、先に示しためっき浴組成での一例として示している。
【0074】
その後、粗化処理した銅箔の上に、以下に示すめっき液を用いて、ニッケルめっき層、亜鉛めっき層及びクロメート層を順に積層して構成される防錆処理層を形成した。防錆処理層を構成する各層の付着量を表2に示す。
<ニッケルめっき浴組成及びめっき条件>
Ni :40g/L
H
3BO
3 :25g/L
浴温 :20℃
電流密度 :0.2〜10A/dm
2
処理時間 :1秒〜20秒
pH :3.5
【0075】
<Znめっき浴組成及びめっき条件>
Zn :3g/L
NaOH :40g/L
浴温 :20℃
電流密度 :0.1〜10A/dm
2
処理時間 :1秒〜20秒
【0076】
<クロメート処理浴組成および処理条件)
Cr :2.5g/L
NaOH :20g/L
浴温 :40℃
電流密度 :0.1〜10A/dm
2
処理時間 :1秒〜20秒
pH :13.0以上
【0077】
そして、銅箔の防錆処理層上に、アミノ基を有する3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いて、表2に示すケイ素(Si)の付着量のシランカップリング層が形成されるようにシランカップリング処理を施し、表面処理銅箔を製造した。
【0078】
(比較例5及び6)
比較例5及び6は、粗化処理層の形成を、表1に示す粗化処理IIで行ったこと以外は、それぞれ実施例1及び12と同様な条件で行い、表面処理銅箔を製造した。なお、表1に示す粗化処理IIで用いた粗化めっき液及びカプセルめっき液中の塩化物イオンの濃度が高いのは、活性炭のみを加え、塩化物イオンを塩化銀として沈殿させて除去するためのAgイオンを添加しなかったものであり、表1に示す粗化処理Iで用いた粗化めっき液及びカプセルめっき液中の塩化物イオンの濃度が低いのは、活性炭とともにAgイオンを添加して、塩化物イオンを塩化銀として沈殿させて除去したためである。
【0079】
(比較例7)
比較例7は、元箔AのM面に、特許文献1の実施例9と同様の方法で、Cu 20g/L(硫酸銅五水和物50g/L)、3−メルカプト−1−プロパン−スルホン酸ナトリウム0.25g/L、コバルトイオン5.2g/L、ニッケルイオン2.2g/L、浴温40℃、電流密度10A/dm
2、電解時間10秒の条件で粗化処理層を形成した後、硫酸ニッケル(II)六水和物30g/L、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物60g/L、クエン酸三ナトリウム二水和物50g/L、pH10.5の液組成で電流密度4A/dm
2、電解時間6秒で処理を行った後に、特許文献1に開示されている方法でクロメート処理層を積層して防錆処理層を形成したものである。その後、アミノプロピルトリエトキシシランを用いてシランカップリング処理を行い、表面処理銅箔を製造した。
【0080】
(銅張積層板の製造)
高周波伝送特性および特にリフロー耐熱性の評価をするため、上記で得られた各表面処理銅箔を粗化処理面側が樹脂基材に対向するようにして、厚さ250μmの市販の高周波対応絶縁樹脂基材(パナソニック株式会社製メグトロン6)と重ね合わせ、一例としてプレス温度:200℃、プレス圧力:3MPa、プレス時間:120分の一般的なプレス条件で積層して銅張積層板を作製し、必要に応じて回路配線の加工などを実施して測定基板を準備した。
【0081】
<試験片の特性評価>
(1)金属付着量の測定
粗化処理層及び防錆処理層中の金属付着量の測定は、試料の粗化処理を行っていない面を塗料でマスキングした後、10cm角に切り出し、80℃に加温した混合酸(硝酸1:塩酸1(体積比))で銅箔の粗化処理を施した面の表面を3〜5μm程度を溶解した後、得られた溶液中の金属質量を原子吸光光度計(日立ハイテクサイエンス株式会社製Z−2300)を用いて原子吸光分析法により定量分析を行って求めた。
【0082】
(2)表面粗さの測定
接触式表面粗さ測定機(株式会社小坂研究所製SE1700型)を用い、JIS B0601:2001に準拠して十点平均粗さRzjisを測定した。表面粗さを接触式の表面粗さ測定機で測定するのは、今回の実験で得られた銅箔のマクロな表面粗さを評価するためであり、ミクロな領域を観察することを目的とした3次元白色干渉型顕微鏡ではマクロな表面粗さの違いを正確に測定出来なかったためである。
【0083】
(3)3次元表面性状のパラメータ(Sパラメータ)の測定
Sdr、Sdq及びStrの値は、Bruker社製の3次元白色干渉型顕微鏡Wyko(Contour GT−KハイレゾCCD仕様:1280×960画素)を用いて垂直走査型白色干渉方式(VSI)で10倍の倍率にて、表面処理銅箔を構成するシランカップリング層の表面から異なる3カ所において477μm×357μmの面積に対して測定し、それらの平均値を算出した。なお、測定に際してフィルターはかけていない。
【0084】
(4)リフロー耐熱性の評価
リフロー耐熱性の評価は、IPC TM−650 2.4.24.1「TMAを用いたデラミネーションの時間測定」に準拠して、上記銅張積層板から得たリフロー耐熱性測定用基板を用い、288℃での膨れが発生するまでの時間(膨れ時間)にて評価した。リフロー耐熱性は、膨れ時間が、60分以上である場合を「◎」、45分以上60分未満である場合を「○」、30分以上45分未満である場合を「△」、30分未満である場合を「×」として評価し、本発明では、「◎」、「○」および「△」を合格レベルとした。
【0085】
(5)伝送特性の評価
伝送特性は、上記銅張積層板にレジスト幅300μmのパターンフィルムを用いてUV露光によってパターンを形成し、さらにエッチングを施し、ストリップライン長200mmのマイクロストリップラインを形成し伝送特性測定用基板(サイズ:長さ210mm、幅30mm)を得た。この伝送特性測定用基板をネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジN5247A)を用いて50Ωの特性インピーダンスで40GHzの周波数での通過特性S21の測定を行った。伝送特性は、通過特性S21が、−28dB以上の場合を「◎」、通過特性S21が−30dB以上−28dB未満の場合を「○」、−33dB以上−30dB未満の場合を「△」、−33dB未満の場合を「×」として評価し、本発明では、「◎」、「○」および「△」を合格レベルとした。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示す性能評価結果から、実施例1〜42はいずれも、Sdrの値が本発明の適正範囲内であるため、リフロー耐熱性及び伝送特性の双方が合格レベルにあるのがわかる。
これに対し、比較例1〜7はいずれも、Sdrの値が本発明の適正範囲外であるため、リフロー耐熱性及び伝送特性の少なくとも一方が合格レベルにはなく劣っていた。