特許第6463875号(P6463875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6463875非水電解質二次電池の負極活物質用の炭素質材料、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池ならびに炭素質材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463875
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の負極活物質用の炭素質材料、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池ならびに炭素質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20190128BHJP
   C01B 32/318 20170101ALI20190128BHJP
   C01B 32/336 20170101ALI20190128BHJP
【FI】
   H01M4/587
   C01B32/318
   C01B32/336
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-534332(P2018-534332)
(86)(22)【出願日】2017年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2017028099
(87)【国際公開番号】WO2018034155
(87)【国際公開日】20180222
【審査請求日】2018年9月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-159707(P2016-159707)
(32)【優先日】2016年8月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-159708(P2016-159708)
(32)【優先日】2016年8月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 隆文
(72)【発明者】
【氏名】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】奥野 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−21919(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/034858(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/034857(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/038492(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/129200(WO,A1)
【文献】 特開2014−192150(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/038491(WO,A1)
【文献】 特開2015−230915(JP,A)
【文献】 特開2016−152222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
C01B 32/00−32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の負極活物質用の炭素質材料であって、該炭素質材料は植物に由来し、レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm−1付近のピークの半値幅の値が190〜240cm−1であり、窒素吸着BET多点法により求めた比表面積が10〜100m/gである、炭素質材料。
【請求項2】
前記炭素質材料に満充電状態となるまでリチウムをドープし、Li核−固体NMR分析を行ったとき、基準物質であるLiClの共鳴ピークに対して低磁場側に115〜145ppmシフトした主共鳴ピークが観測される、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
カルシウム元素含量が50ppm以下である、請求項1または2に記載の炭素質材料。
【請求項4】
ブタノール法により求めた真密度が1.35〜1.70g/cmである、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項5】
DFT法によりそれぞれ算出されるマイクロ孔容積に対するメソ孔容積の比が1.0以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の炭素質材料を含む非水電解質二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池用負極を有する非水電解質二次電池。
【請求項8】
植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガス気流下、1100〜1300℃で熱処理する工程を含み、該ハロゲン化合物を含む不活性ガスの供給量は植物由来のチャー50gあたり14L/分以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の負極活物質に適した炭素質材料、該炭素質材料を含む非水電解質二次電池用負極、該負極を有する非水電解質二次電池ならびに該炭素質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高く、出力特性に優れるため、携帯電話やノートパソコンのような小型携帯機器に広く用いられている。近年では、ハイブリッド自動車や電気自動車などの車載用途への適用も進められている。リチウムイオン二次電池の負極材としては、黒鉛の理論容量372mAh/gを超える量のリチウムのドープ(充電)および脱ドープ(放電)が可能な難黒鉛化性炭素が開発され(例えば特許文献1)、使用されてきた。
【0003】
難黒鉛化性炭素は、例えば石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂または植物等を炭素源として得ることができる。これらの炭素源の中でも、植物は栽培することによって持続して安定的に供給可能な原料であり、安価に入手できるため、非常に有用である。また、植物由来の炭素原料を焼成して得られる炭素質材料には細孔が多く存在するため、良好な充放電容量が期待される。
【0004】
植物由来の炭素原料を用いて炭素質材料を得る場合、焼成前に植物に由来するカリウムの量を低減する試みがなされている。例えば特許文献2には、植物由来の炭素前駆体を塩酸等の酸類や水に浸漬処理後、炭素化させて得た炭素質材料が記載されている。特許文献3には、植物由来の有機物をハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中で熱処理後、本焼成させて得た炭素質材料が記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、リチウムイオン二次電池の充放電特性の向上を目的とし、乾留炭に、ハロゲン化処理、予備細孔調整処理、脱ハロゲン化処理および細孔調整処理を施して得た、リチウム二次電池用炭素材が開示されている。
【特許文献1】特開平9−161801号公報
【特許文献2】特開平10−21919号公報
【特許文献3】国際公開第2014/034858号パンフレット
【特許文献4】特開平11−135108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、リチウムイオン二次電池の車載用途などへの適用が検討され、リチウムイオン二次電池のさらなる高容量化が求められている。また、非水電解質二次電池の入出力特性をさらに高めるために、高い充放電効率を有し、低い内部抵抗を有する電池を与える炭素質材料が必要とされている。
【0007】
したがって、本発明は、高い充放電容量および充放電効率と、低い抵抗を有する非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)の負極活物質に適した炭素質材料、該炭素質材料を含む負極、該負極を有する非水電解質二次電池ならびに該炭素質材料の製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明の別の目的は、高い充放電容量および充放電効率と、繰返しの充放電後においても維持される低い抵抗を有する非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)の負極活物質に適した炭素質材料、該炭素質材料を含む負極、該負極を有する非水電解質二次電池ならびに該炭素質材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に説明する本発明の炭素質材料により上記目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
〔1〕非水電解質二次電池の負極活物質用の炭素質材料であって、該炭素質材料は植物に由来し、レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm−1付近のピークの半値幅の値が190〜240cm−1であり、窒素吸着BET多点法により求めた比表面積が10〜100m/gである、炭素質材料。
〔2〕前記炭素質材料に満充電状態となるまでリチウムをドープし、Li核−固体NMR分析を行ったとき、基準物質であるLiClの共鳴ピークに対して低磁場側に115〜145ppmシフトした主共鳴ピークが観測される、〔1〕に記載の炭素質材料。
〔3〕カルシウム元素含量が50ppm以下である、〔1〕または〔2〕に記載の炭素質材料。
〔4〕ブタノール法により求めた真密度が1.35〜1.70g/cmである、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔5〕DFT法によりそれぞれ算出されるマイクロ孔容積に対するメソ孔容積の比が1.0以上である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の炭素質材料を含む非水電解質二次電池用負極。
〔7〕〔6〕に記載の非水電解質二次電池用負極を有する非水電解質二次電池。
〔8〕植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガス気流下、1100〜1300℃で熱処理する工程を含み、該ハロゲン化合物を含む不活性ガスの供給量は植物由来のチャー50gあたり14L/分以上である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炭素質材料を含む負極を用いる非水電解質二次電池は、高い充放電容量および充放電効率と、低い抵抗を有する。本発明の好ましい実施態様においては、炭素質材料を含む負極を用いる非水電解質二次電池は、高い充放電容量および充放電効率と、特に繰返しの充放電後においても維持される低い抵抗を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の炭素質材料のラマンスペクトルを示す図である。
図2】比較例1の炭素質材料のラマンスペクトルを示す図である。
図3】実施例1の炭素質材料のLi核−固体NMRスペクトルを示す図である。
図4】比較例1の炭素質材料のLi核−固体NMRスペクトルを示す図である。
図5】実施例6の炭素質材料のラマンスペクトルを示す図である。
図6】比較例5の炭素質材料のラマンスペクトルを示す図である。
図7】実施例6の炭素質材料のLi核−固体NMRスペクトルを示す図である。
図8】比較例5の炭素質材料のLi核−固体NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0012】
本発明の炭素質材料は、植物に由来し、例えば植物由来のチャーをハロゲン化合物を含む不活性ガス気流下で熱処理して製造することができる。なお、チャーとは、一般的には、石炭を加熱した際に得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体を示すが、本明細書では有機物を加熱して得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体も示す。
【0013】
植物由来のチャーの原料となる植物(以下、「植物原料」ともいう)は、特に限定されない。例えば、椰子殻、珈琲豆、茶葉、サトウキビ、果実(例えば、みかん、バナナ)、藁、籾殻、広葉樹、針葉樹、竹を例示できる。この例示は、本来の用途に供した後の廃棄物(例えば、使用済みの茶葉)、あるいは植物原料の一部(例えば、バナナやみかんの皮)を包含する。これらの植物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの植物の中で、大量入手が容易であるため椰子殻が好ましい。
【0014】
椰子殻としては、特に限定されず、例えばパームヤシ(アブラヤシ)、ココヤシ、サラク、オオミヤシの椰子殻を挙げることができる。これらの椰子殻は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。食品、洗剤原料、バイオディーゼル油原料等として利用され、大量に発生するバイオマス廃棄物である、ココヤシおよびパームヤシの椰子殻が特に好ましい。
【0015】
植物原料からチャーを製造する方法は特に限定されず、例えば植物原料を、300℃以上の不活性ガス雰囲気下で熱処理(乾留)することによって製造することができる。チャー(例えば、椰子殻チャー)の形態で入手することも可能である。
【0016】
本発明の炭素質材料において、レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm−1付近のピークの半値幅の値は190〜240cm−1である。ここで、1360cm−1付近のピークとは、一般にDバンドと称されるラマンピークであり、グラファイト構造の乱れ・欠陥に起因するピークである。1360cm−1付近のピークは、通常、1345cm−1〜1375cm−1、好ましくは1350cm−1〜1370cm−1の範囲に観測される。
【0017】
このピークの半値幅は、炭素質材料中に含まれるグラファイト構造の乱れ・欠陥の量に関係する。半値幅が上記の下限より小さいと、炭素質材料中に含まれるグラファイト構造の乱れ・欠陥が少なすぎて、グラファイト構造の発達により結晶間の微細孔が減少し、リチウムイオンが吸蔵されるサイトが少なくなる。そのため、充放電容量が低下するなどの問題が生じる。このような観点から、1360cm−1付近のピークの半値幅は、195cm−1以上であることが好ましく、200cm−1以上であることがより好ましい。また、半値幅が上記の上限より大きいと、炭素質材料中に含まれるグラファイト構造の乱れ・欠陥が多く、非晶質が多くなり、炭素エッジが多くなり、リチウムと反応する炭素末端の反応基が多くなる。そのためリチウムイオンの利用効率が低下し、充放電効率が低下する。このような観点から、1360cm−1付近のピークの半値幅は、235cm−1以下であることが好ましく、230cm−1以下であることがより好ましい。
【0018】
ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光器(例えば、堀場製作所製ラマン分光器「LabRAM ARAMIS(VIS)」)を用いて行う。具体的には、例えば、測定対象粒子を観測台ステージ上にセットし、対物レンズの倍率を100倍とし、ピントを合わせ、測定セル内に532nmのアルゴンイオンレーザ光を照射しながら、露光時間1秒、積算回数100回、測定範囲を50−2000cm−1として測定する。
【0019】
1360cm−1付近のピークの半値幅を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、植物由来のチャーを、1100〜1300℃の温度で、ハロゲン化合物を含む不活性ガスをチャー50gあたり14L/分以上の量で供給しながら熱処理する方法、アルカリ金属を添着した植物由来チャーを1100〜1300℃の温度で、ハロゲン化合物を含む不活性ガスを供給しながら熱処理する方法を用いることができる。
【0020】
本発明の炭素質材料において、窒素吸着BET多点法により求めた比表面積は10〜100m/gである。比表面積が上記の下限より小さいと、炭素質材料へのリチウムイオンの吸着量が少なくなり、非水電解質二次電池の充電容量が小さくなる。また、炭素質材料と電解液との接触面積が小さくなり、リチウムイオンが移動しにくいために、十分な入出力特性が得られない。このような観点から、窒素吸着BET多点法により求めた比表面積は、10m/g以上であることが好ましく、15m/g以上であることがより好ましい。比表面積が上記の上限より大きいと、リチウムイオンが炭素質材料の表面で反応して消費されるので、リチウムイオンの利用効率が低くなる。また、炭素質材料の吸湿性が低下しにくくなり、炭素質材料中に存在する水分によって、電解液の加水分解に伴う酸の発生や水の電気分解によるガスの発生などの問題が生じやすくなる。さらに、空気雰囲気下で炭素質材料の酸化が進み、電池性能が大きく変化することもある。このような観点から、窒素吸着BET多点法により求めた比表面積は、100m/g以下であることが好ましく、90m/g以下であることがより好ましい。窒素吸着BET多点法による比表面積は、後述する方法により測定することができる。
【0021】
比表面積を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、気相脱灰工程における熱処理温度を制御することによって調整することが可能である。気相脱灰工程における熱処理温度を高くしたり、時間を長くすると比表面積は小さくなる傾向があるので、上記の範囲の比表面積が得られるように、温度や時間を調整すればよい。
【0022】
本発明の炭素質材料において、該炭素質材料に満充電状態となるまでリチウムをドープし、Li核−固体NMR分析を行ったとき、基準物質であるLiClの共鳴ピークに対して低磁場側に115〜145ppmシフトした主共鳴ピークが観測されることが好ましい。主共鳴ピークの低磁場側へのシフト値が大きいことは、クラスター化して存在するリチウムの量が多いことを示している。本発明の炭素質材料において、クラスターを迅速に解離させ、早い充放電を達成しやすい観点からは、上記の低磁場側へのシフト値は、142ppm以下であることがより好ましく、138ppm以下であることがさらにより好ましい。主共鳴ピークの低磁場側へのシフト値が小さいことは、炭素層間に存在するリチウムの量が多いことを示している。充放電容量を高めやすい観点からは、上記の低磁場側へのシフト値は、120ppm以上であることがより好ましい。
【0023】
ここで、本発明において、「主共鳴ピークが観測される」とは、主共鳴ピークを与えるリチウム種が後述するLi核−固体NMR分析法の検出限界である3%以上存在することを意味する。
【0024】
また、本発明において、「満充電状態となるまでリチウムをドープし」とは、炭素質材料を含む電極を正極とし、金属リチウムを含む電極を負極とする非水電解質二次電池を組み立て、終了電圧を、通常0.1〜0mV、好ましくは0.05〜0mV、より好ましくは0.01〜0mVの範囲として充電を行うことを意味する。本発明において、満充電状態の炭素質材料は、通常300〜600mAh/g、好ましくは350〜580mAh/gの容量を有する。
【0025】
Li核−固体NMRスペクトルの測定方法の詳細は後述するとおりであり、核磁気共鳴装置(例えばBRUKER製「AVANCE300」)を用いて測定することができる。
【0026】
主共鳴ピークの低磁場側への化学シフト値を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば植物由来のチャーを、1100〜1300℃の温度で、ハロゲン化合物を含む不活性ガスをチャー50gあたり14L/分以上の量で供給しながら熱処理する方法を用いることができる。
【0027】
本発明の炭素質材料において、カルシウム元素含量は50ppm以下であることが好ましく、40ppm以下であることがより好ましく、35ppm以下であることがさらにより好ましい。カルシウム元素含量が上記の上限以下であると、カルシウム元素が電解液中に溶出し再析出することにより生じ得る、電池の短絡などの問題を抑制しやすい。また、炭素質材料の細孔が閉塞されにくいため、電池の充放電容量を維持しやすい。炭素質材料におけるカルシウム元素含量は、少ないほどよく、カルシウム元素を実質的に含有しないことが特に好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述の元素分析法(不活性ガス融解−熱伝導法)の検出限界である10−6質量%以下であることを意味する。
カルシウム元素含量を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガスを供給しながら熱処理する方法を用いることができる。
【0028】
カルシウム元素含量の測定の詳細は実施例に記載するとおりであり、蛍光X線分析装置(例えば株式会社リガク製「ZSX Primus−μ」)を用いて測定することができる。
【0029】
本発明の炭素質材料において、カリウム元素含量は50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることがさらにより好ましい。カリウム元素含量が上記の上限以下であると、カリウム元素が電解液中に溶出し再析出することにより生じ得る、電池の短絡などの問題を抑制しやすい。また、炭素質材料の細孔が閉塞されにくいため、電池の充放電容量を維持しやすい。炭素質材料におけるカリウム元素含量は、少ないほどよく、カリウム元素を実質的に含有しないことが特に好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、後述の元素分析法(不活性ガス融解−熱伝導法)の検出限界である10−6質量%以下であることを意味する。カリウム元素含量を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガスを供給しながら熱処理する方法を用いることができる。カリウム元素含量は、上記カルシウム元素含量の測定と同様にして測定することができる。
【0030】
本発明の炭素質材料は、電池における質量あたりの容量を高くする観点から、ブタノール法による真密度ρBtが1.35〜1.70g/cmであることが好ましく、1.40〜1.65/cmであることがより好ましく、1.44〜1.60/cmであることがさらにより好ましい。真密度ρBtの測定の詳細は実施例に記載する通りであり、JIS R 7212に定められた方法に従い、ブタノール法により測定することができる。このような真密度を有する炭素質材料は、例えば植物由来のチャーを1100〜1300℃で焼成することによって製造することができる。
【0031】
本発明の炭素質材料において、DFT法により算出されるメソ孔容積は、好ましくは0.005〜0.1mL/g、より好ましくは0.01〜0.085mL/g、さらにより好ましくは0.01〜0.07mL/gである。メソ孔容積が上記の下限以上であると、電解液が浸透しやすく、低抵抗化が可能であることや、繰り返しの充放電時に生成する分解物による細孔閉塞が抑制でき、抵抗の上昇を避けやすいため好ましい。また、メソ孔容積が上記の上限以下であると、嵩密度低下が抑制でき、電極密度を高めやすいため好ましい。なお、本明細書において、メソ孔は、DFT法において2nm以上50nm以下の孔径(細孔直径)を有する孔である。
【0032】
本発明の炭素質材料において、DFT法により算出されるマイクロ孔容積は、好ましくは0.001〜0.1mL/g、より好ましくは0.003〜0.05mL/g、さらにより好ましくは0.005〜0.04mL/gである。マイクロ孔容積が上記の下限以上であると、Liイオンの吸脱着を容易に生じさせやすいため好ましい。また、マイクロ孔容積が上記の上限以下であると、水分の吸着などにより充放電時に生じる炭素質材料と水分との反応を抑制しやすいため好ましい。なお、本明細書において、マイクロ孔は、DFT法において2nm未満の孔径(細孔直径)を有する孔である。
【0033】
ここで、DFT法とは、分子動力学及びコンピュータシミュレーション方法を利用して、被吸着体の表面及び細孔に吸着した気体の平衡密度プロファイルを計算し、それにより、吸脱着等温線、吸着熱などが算出できる解析手法である。この解析法は、マイクロ孔及びメソ孔の全領域に適用可能となるため、マイクロ孔容積、メソ孔容積、および、マイクロ孔・メソ孔分布を同時に測定することができる。本発明において、窒素吸着法によって測定した窒素吸脱着等温線に対し、DFT法を適用することによって、マイクロ孔容積・メソ孔容積を算出することができる。
【0034】
本発明の炭素質材料において、上記の方法によりそれぞれ算出される、マイクロ孔容積に対するメソ孔容積の比(メソ孔容積/マイクロ孔容積の式で算出され、以下において「メソ孔容積/マイクロ孔容積」とも称する)は好ましくは1.0以上である。メソ孔容積/マイクロ孔容積が1.0未満であると、低い内部抵抗を有する電池を作製するに適した炭素質材料を得にくい傾向があり、特に、充放電を繰り返した場合に低い抵抗値を維持できない傾向がある。このような観点から、メソ孔容積/マイクロ孔容積は、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.5以上である。上記の効果が得られる理由は明らかではないが、一部のマイクロ孔は、繰返しの充放電において閉塞し、抵抗が高くなったり、リチウムイオンをもはや吸蔵できなくなる。より大きな細孔直径を有するメソ孔ではこのような閉塞が生じにくい。そのため、メソ孔容積が一定以上存在することにより、低い抵抗値が維持されると考えられる。なお、上記のメソ孔容積/マイクロ孔容積の上限は、例えば3.0以下であってよい。
【0035】
メソ孔容積およびマイクロ孔容積、ならびに、メソ孔容積/マイクロ孔容積を上記の範囲に調整する方法は何ら限定されないが、例えば植物由来のチャーを、1100〜1300℃の温度で、ハロゲン化合物を含む不活性ガスをチャー50gあたり14L/分以上の量で供給しながら、熱処理する方法を用いることができる。例えば上記の熱処理の温度や時間を調整することにより、所望のメソ孔容積およびマイクロ孔容積、ならびに、メソ孔容積/マイクロ孔容積を有する炭素質材料を得ることができる。
【0036】
本発明の炭素質材料の平均粒子径(D50)は、電極作製時の塗工性の観点から、好ましくは2〜30μmである。平均粒子径が上記の下限以上であることが、炭素質材料中の微粉による比表面積の増加および電解液との反応性の増加を抑制し、不可逆容量の増加を抑制しやすいため好ましい。また、得られた炭素質材料を用いて負極を製造する場合に、炭素質材料の間に形成される空隙を確保でき、電解液中のリチウムイオンの移動が抑制されにくい。このような観点から、本発明の炭素質材料の平均粒子径(D50)は、より好ましくは3μm以上、さらにより好ましくは4μm以上、特に好ましくは5μm以上、最も好ましくは7μm以上である。一方、平均粒子径が上記の上限以下であることが、粒子内でのリチウムイオンの拡散自由行程が少なく、急速な充放電が得やすいため好ましい。さらに、リチウムイオン二次電池では、入出力特性を向上させるために電極面積を大きくすることが重要であり、そのためには、電極調製時に集電板への活物質の塗工厚みを薄くする必要がある。塗工厚みを薄くするには、活物質の粒子径を小さくする必要がある。このような観点から、平均粒子径は、より好ましくは20μm以下、さらにより好ましくは18μm以下、特に好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。D50は、累積体積が50%となる粒子径であり、例えば粒子径・粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いたレーザー散乱法により粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0037】
本発明の炭素質材料は、例えば、植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む不活性ガス気流下、1100〜1300℃で熱処理する工程を含み、該ハロゲン化合物を含む不活性ガスの供給量は植物由来のチャー50gあたり14L/分以上である製造方法によって得ることができる。本発明は、上記製造方法も提供する。植物由来のチャーをハロゲン化合物を含む不活性ガス気流下で熱処理する工程において、ハロゲン化合物による脱灰と賦活が行われると同時に、炭素質材料の焼成が行われる。この工程を以下において、「気相脱灰工程」とも称する。
【0038】
本発明の炭素質材料は上記の通り、植物に由来する。植物由来のチャーから製造された炭素質材料は、多量のLiイオンをドープ可能であることから、非水電解質二次電池の負極材料として基本的には適している。一方で、植物由来のチャーには、植物に含まれていた金属元素が多く含有されている。例えば、椰子殻チャーでは、カリウム元素を0.3%程度、カルシウム元素を0.03%程度含んでいる。このような金属元素を多く含んだ炭素質材料を負極として用いると、非水電解質二次電池の電気化学的な特性や安全性に好ましくない影響を与えることがある。
【0039】
また、植物由来のチャーは、カリウム以外のアルカリ金属(例えば、ナトリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、遷移金属(例えば、鉄、銅)およびその他の金属類も含んでいる。炭素質材料がこれらの金属類を含むと、非水電解質二次電池の負極からの脱ドープ時に不純物が電解液中に溶出し、電池性能に好ましくない影響を与え、安全性を害する可能性がある。さらに、灰分により炭素質材料の細孔が閉塞され、電池の充放電容量に悪影響を及ぼすことがある。
【0040】
気相脱灰工程を行うことにより、非水電解質二次電池の電気化学的な特性や安全性に好ましくない影響を与え得るカリウム元素、カルシウム元素および鉄元素等を効率よく除去することができる。また、他のアルカリ金属、アルカリ土類金属、さらには銅やニッケルなどの遷移金属を除去することが可能である。
【0041】
気相脱灰工程において使用するハロゲン化合物は、特に限定されず、例えばフッ素、塩素およびヨウ素からなる群から選択される元素を含む少なくとも1種の化合物が挙げられ、具体的にはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、臭化ヨウ素、フッ化塩素(ClF)、塩化ヨウ素(ICl)、臭化ヨウ素(IBr)、塩化臭素(BrCl)等が挙げられる。熱分解によりこれらのハロゲン化合物を発生する化合物、またはこれらの混合物を用いることもできる。供給安定性および使用するハロゲン化合物の安定性の観点から、ハロゲン化合物は、好ましくは塩化水素または臭化水素であり、より好ましくは塩化水素である。
【0042】
気相脱灰工程において使用する不活性ガスは、上記熱処理の温度において植物由来のチャーを構成する炭素成分と反応しないガスであれば特に限定されず、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、またはそれらの混合ガスが挙げられる。供給安定性および経済性の観点から、不活性ガスは、好ましくは窒素である。不活性ガスに含まれる不純物ガス(特に酸素)の濃度は、低ければ低いほど好ましいが、通常許容される酸素濃度は、好ましくは0〜2000ppm、より好ましくは0〜1000ppmである。
【0043】
ハロゲン化合物と不活性ガスとの混合比は、十分な脱灰が達成される限り、特に限定されない。例えば、安全性、経済性および炭素中への残留性の観点から、不活性ガスに対するハロゲン化合物の量は、好ましくは0.01〜10体積%であり、より好ましくは0.05〜8体積%であり、さらにより好ましくは0.1〜5体積%である。本発明の製造方法によれば、ハロゲン化合物を含む不活性ガス雰囲気中で気相脱灰工程を行うため、乾燥処理を行う必要がなく、工業的に有利である。また、本発明の製造方法によれば、ハロゲン化合物を含む不活性ガス気流下で気相脱灰工程を行うため、金属元素の削減だけでなく、炭素構造末端の水素元素および酸素元素を削減することができ、炭素質材料における活性部位を削減することができる。
【0044】
気相脱灰工程における熱処理温度は、原料である植物由来のチャーの種類等により変えてよいが、所望の炭素構造と脱灰効果を得る観点から、好ましくは1100〜1300℃、より好ましくは1120〜1250℃、さらにより好ましくは1150〜1200℃である。熱処理温度が低すぎると、脱灰効率が低下し十分に脱灰できないことがある。また、ハロゲン化合物による賦活が十分に行われないことがある。一方、熱処理温度が高くなりすぎると、ハロゲン化合物による賦活効果よりも、熱収縮の効果が勝り、BET比表面積が過剰に小さくなるため好ましくない場合がある。
【0045】
気相脱灰工程における熱処理時間は、特に限定されないが、反応設備の経済効率、炭素分の構造保持性の観点から、例えば5〜300分であり、好ましくは10〜200分であり、より好ましくは20〜150分、さらに好ましくは30〜150分である。
【0046】
熱処理におけるハロゲン化合物を含む不活性ガス気流の供給量は、植物由来のチャー50gあたり好ましくは14L/分以上、より好ましくは15L/分以上、さらにより好ましくは16L/分以上である。上記の下限以上の供給量で熱処理を行うと、熱処理においてチャー自体から生じるガスを十分に除去し、上記の範囲の半値幅を有する炭素質材料を得やすいため好ましい。供給量の上限は、好ましくは25L/分以下であり、より好ましくは20L/分以下である。上記の上限以下の供給量で熱処理を行うと、ハロゲン化合物を植物由来のチャーに吸着させて金属元素と反応させやすく、十分な脱灰効果を得やすいため好ましい。
【0047】
ここで、植物由来のチャーを高温で熱処理する際、チャー自体から一酸化炭素、水素等のガスが生じる。これらのガスは高い反応性を有するために、熱処理中に生じるガスとチャーとの反応を制御することは困難であった。例えば上記のように不活性ガスの供給量を多く(供給速度を早く)して熱処理を行うことにより、チャー自体から生じる反応性のガスを、チャーと反応する前に除去することが可能となる。そのため、より制御された炭素構造を有する炭素質材料を製造することができる。
【0048】
なお、気相脱灰工程によって、カリウム、カルシウム、他のアルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属などを効率よく除去できるメカニズムは明らかではないが、以下のように考えられる。植物由来のチャーに含まれているカリウムなどの金属が、チャー中に拡散したハロゲン化合物と反応し、金属ハロゲン化物(例えば、塩化物または臭化物)となる。そして生成された金属ハロゲン化物が、加熱により揮発(散逸)することにより、カリウムおよびカルシウムなどを脱灰できると考えられる。このような、チャー中へのハロゲン化物の拡散、反応による金属ハロゲン化物の生成メカニズムでは、気相でのハロゲン化物の高拡散により、効率よくカリウムおよびカルシウムなどを除去できると考えられるが、本発明は、前記の説明に限定されるものではない。
【0049】
本発明において、前記気相脱灰工程の後に、さらにハロゲン化合物非存在下、不活性ガス雰囲気中で炭素質材料を加熱する工程(以下において「脱酸処理」ともいう)を行うことが好ましい。前記気相脱灰工程におけるハロゲン化合物との接触により、カルシウム元素等の金属元素を効率よく除去することができる。しかし、ハロゲン化合物との接触により、ハロゲンが炭素質材料中に含まれることになる。そのため、ハロゲン化合物非存在下で炭素質材料を加熱する脱酸処理を行うことが好ましく、かかる処理により炭素質材料に含まれているハロゲンを除去することができる。具体的には、脱酸処理は、ハロゲン化合物を含まない不活性ガス雰囲気中で通常800℃〜1300℃で加熱することによって行うが、脱酸処理の温度は、気相脱灰工程における温度と同じか、またはそれよりも高い温度で行うことが好ましい。脱酸処理の温度は、好ましくは850〜1300℃、より好ましくは900〜1250℃、さらにより好ましくは1000〜1200℃である。例えば、前記気相脱灰工程の後で、ハロゲン化合物の供給を遮断して熱処理を連続して行うことにより、脱酸処理を行うことができ、これにより、炭素質材料中のハロゲンを除去することができる。脱酸処理の時間は特に限定されず、好ましくは5分〜300分であり、より好ましくは10分〜200分であり、さらにより好ましくは20分〜150分であり、最も好ましくは30分〜100分である。
【0050】
脱酸処理において使用される不活性ガスとしては、例えば、気相脱灰工程で使用されるガスが挙げられる。製造工程を簡素化する観点から、気相脱灰工程における不活性ガスと脱酸処理における不活性ガスは同一であることが好ましい。不活性ガスの供給量(流通量)は、限定されるものではないが、気相脱灰工程における不活性ガスの供給量と同一であることが、製造上の観点から好ましい。
【0051】
気相脱灰工程において熱処理に用いる装置は、植物由来のチャーとハロゲン化合物を含む不活性ガスとを混合しながら加熱できる装置であれば、特に限定されない。例えば、流動炉を用い、流動床等による連続式またはバッチ式の層内流通方式を用いることができる。
【0052】
本発明の製造方法においては、上記気相脱灰工程において脱灰と焼成が同時に行われるため、さらなる熱処理は不要である。しかし、例えば850℃〜1280℃程度の温度でさらに熱処理を行ってもよい。処理時間は、例えば5分〜300分であり、より好ましくは10分〜200分であり、さらにより好ましくは10分〜150分であり、最も好ましくは10分〜100分である。本発明の製造方法は、過剰な細孔形成を回避し、抵抗の増加を抑制しやすい観点からは、脱酸処理を行わない場合には気相脱灰工程後に、脱酸処理を行う場合には脱酸処理工程後に、上記処理温度におけるさらなる熱処理工程を含まないことが好ましい。
【0053】
炭素質材料の平均粒子径は、必要に応じて粉砕工程、分級工程を経て調整される。粉砕工程および分級工程は、気相脱灰工程前に行ってもよいし、気相脱灰工程後に行ってもよい。気相脱灰の均一性を高めやすい観点からは、気相脱灰工程の前に植物由来のチャーを粉砕することが好ましい。また、後述するアルカリ添着工程を行う場合には、アルカリ添着工程および気相脱灰工程の前に植物由来のチャーを粉砕する。
【0054】
粉砕工程後に得られるチャーの比表面積は、好ましくは100〜800m/gであり、より好ましくは200〜700m/gであり、例えば200〜600m/gである。上記範囲の比表面積を有するチャーが得られるように粉砕工程を行うことが好ましい。粉砕工程後のチャーの比表面積が上記の下限以上であることが、炭素質材料の微細孔を低減し、炭素質材料の吸湿性を低下させやすいため好ましい。炭素質材料に水分が存在すると、電解液の加水分解に伴う酸の発生や水の電気分解によるガスの発生の問題を引き起こすことがあり、また、空気雰囲気下で炭素質材料の酸化が進み、電池性能が大きく変化することもある。粉砕工程後のチャーの比表面積が上記の上限以下であると、得られる炭素質材料の比表面積が上記の範囲内となり易く、非水電解質二次電池のリチウムイオンの利用効率を向上させることが容易となる。なお、本明細書において、チャーおよび粉砕工程後のチャーの比表面積は窒素吸着BET多点法により定まる比表面積(BET比表面積)を意味する。具体的には後述する方法を用いて測定することができる。
【0055】
粉砕工程後に得られるチャーの平均粒子径(D50)は、上記に述べた平均粒子径(D50)を有する炭素質材料が最終的に得られるように調整される。なお、気相脱灰工程の前に粉砕を行う場合、植物由来のチャーは、気相脱灰工程により0〜20%程度収縮する。そのため、気相脱灰工程後の平均粒子径が2〜30μmとなるようにするためには、粉砕工程後のチャーの平均粒子径を、所望する気相脱灰工程後の平均粒子径よりも0〜20%程度大きい粒子径となるように調整することが好ましい。
【0056】
気相脱灰工程の前に粉砕を行う本発明の製造方法の一態様において、気相脱灰の均一性を高めやすい観点からは、粉砕工程後のチャーの平均粒子径(D50)が2〜100μmの範囲になるように粉砕を行うことが好ましい。平均粒子径が2μm以上であると、気相脱灰時に微粉が炉内に飛散しにくく、生成する炭素質材料の回収率に優れ、さらに装置負荷を抑えることができる。同様の観点から、粉砕工程後のチャーの平均粒子径(D50)は、より好ましくは3μm以上、さらにより好ましくは4μm以上、特に好ましくは5以上、最も好ましくは6μm以上である。また、粉砕工程後のチャーの平均粒子径は100μm以下であることが、ハロゲン化合物との接触が容易になり、脱灰効率上昇や賦活効果向上につながり、熱処理時に植物由来チャーから発生する気体を除去しやすいため好ましい。同様の観点から、粉砕チャーの平均粒子径は、より好ましくは80μm以下、さらにより好ましくは60μm以下、特に好ましくは40μm以下、きわめて好ましくは30μm以下、最も好ましくは20μm以下である。粉砕工程後のチャーの平均粒子径(D50)は、炭素質材料の平均粒子径(D50)について記載した方法と同様にして測定できる。
【0057】
粉砕工程に用いる粉砕機は特に限定されるものではなく、例えばジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミルなどを使用することができる。粉砕効率の観点から、ボールミル、ビーズミルのような粉砕メディア共存下に粉砕する方式が好ましく、設備的負荷の観点からは、ボールミルの使用が好ましい。
【0058】
植物由来のチャーを粉砕した後、必要に応じてチャーの分級を行ってもよい。分級を行うことにより、上記した比表面積および平均粒子径を有するチャーを得ることが容易となり、得られる炭素質材料の平均粒子径および平均粒子径をより正確に調整することが可能となる。植物由来のチャーを粉砕および分級した後の比表面積および平均粒子径が上記範囲内となることが好ましい。
【0059】
また、分級工程によって、炭素質材料の平均粒子径をより正確に調整することも可能である。例えば、粒子径が1μm以下の粒子を除くことが可能となる。
【0060】
分級によって粒子径1μm以下の粒子を除く場合、本発明の炭素質材料において、粒子径1μm以下の粒子を含量が3体積%以下となるようにすることが好ましい。粒子径1μm以下の粒子の除去は、粉砕後であれば特に限定されないが、粉砕において分級と同時に行うことが好ましい。本発明の炭素質材料において、粒子径1μm以下の粒子の含量は、比表面積を低下させ、不可逆容量を低下させる観点から、3体積%以下であることが好ましく、2.5体積%以下であることがより好ましく、2体積%以下であることがさらにより好ましい。
【0061】
分級方法は、特に限定されないが、例えば篩を用いた分級、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。
【0062】
粉砕工程と分級工程は、1つの装置を用いて実施することもできる。例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミルを用いて、粉砕工程と分級工程を実施することができる。更に、粉砕機と分級機とが独立した装置を用いることもできる。この場合、粉砕と分級とを連続して行うこともできるが、粉砕と分級とを不連続に行うこともできる。
【0063】
植物由来のチャーを熱処理する気相脱灰工程の前に、アルカリ金属元素を含む化合物を添加するアルカリ添着工程を行ってもよい。アルカリ添着工程を行うことにより、気相脱灰工程に至るまでの昇温過程において、アルカリ金属元素による炭素浸食が促進され、微細孔形成がもたらされる。具体的には、後述するメカニズムには限定されないが、アルカリ金属元素を含む化合物の融点付近の温度において添着させたアルカリ金属の植物由来のチャー内への拡散が開始され、500℃付近の温度でアルカリ金属元素を含む化合物における脱水反応や、アルカリ金属元素を含む化合物によるチャー炭素の浸食反応が開始され、さらにアルカリ金属元素の沸点付近の温度でアルカリ金属元素の揮発が起こると考えられる。アルカリ添着工程を行う場合、アルカリ添着前に植物由来のチャーを粉砕する上記粉砕工程を行うことが好ましい。この態様における粉砕工程後のチャーを、以下において、「粉砕チャー」とも称する。
【0064】
アルカリ添着工程において、上記粉砕工程で得た粉砕チャーにアルカリ金属元素を含む化合物を添加し、アルカリ金属元素が添着されたチャー(以下において、「アルカリ添着チャー」とも称する)を得る。アルカリ金属元素を含む化合物とは、アルカリ金属元素(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)を含む化合物であり、例えば、アルカリ金属元素のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物等)、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩が挙げられる。具体的には、アルカリ金属元素を含む化合物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。なかでも、微細孔形成能および安全性の観点から、アルカリ金属元素を含む化合物はナトリウムまたはカリウムを含む化合物であることが好ましい。また、粉砕チャーとの親和性に優れる観点から、アルカリ金属元素を含む化合物はアルカリ金属元素の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩であることが好ましい。上記の観点から、アルカリ金属元素を含む化合物は、より好ましくはナトリウムまたはナトリウムの水酸化物または炭酸塩であり、さらにより好ましくは水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムである。
【0065】
アルカリ金属元素を含む化合物を粉砕チャーに添加する方法は特に限定されない。例えば、粉砕チャーにアルカリ金属元素を含む化合物を乾式または湿式で添加してよい。粉砕チャーにアルカリ金属元素を含む化合物を均一に付着させやすい観点からは、湿式添加が好ましい。
【0066】
乾式添加の場合、固体状のアルカリ金属元素を含む化合物を粉砕チャーに添加し、混合することによって、アルカリ添着チャーを得ることができる。この場合、粉砕チャーに対してアルカリ金属元素を含む化合物を均一に付着させやすい観点から、該化合物を粉末状で添加し、混合することが好ましい。
【0067】
湿式添加の場合、溶媒にアルカリ金属元素を含む化合物を溶解させて溶液を調製し、次に、この溶液を粉砕チャーに担持させる。担持に関して、溶液中に粉砕チャーを浸漬させる、溶液を粉砕チャーに散布(スプレー散布等)する、または溶液を粉砕チャーに添加混合することによって、溶液を粉砕チャーに担持させることができる。溶媒と粉砕チャーの混合物に、固体状のアルカリ金属元素を添加して担持を行ってもよい。担持後、必要に応じて溶媒を蒸発させてもよい。かかる処理により、アルカリ添着チャーを得ることができる。溶媒は特に限定されないが、例えば水、アルコール溶媒(エタノール、メタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール等)、エステル溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等)、エーテル溶媒(テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等)、ケトン溶媒(アセトン、2−ブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等)、脂肪族炭化水素溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等)、芳香族炭化水素溶媒(トルエン、キシレン、メシチレン等)、ニトリル溶媒(アセトニトリル等)、および塩素化炭化水素溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、ならびにこれらの混合物が挙げられる。粉砕チャーにアルカリ金属元素を含む化合物を均一に付着させるためには、溶媒と粉砕チャーとの親和性を高めることが有効であるため、水、アルコール溶媒ならびにこれらの混合物が溶媒として好ましい。溶媒を蒸発させる方法は特に限定されないが、例えば、熱処理および減圧処理、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。熱処理の温度は、粉砕チャーの酸化が生じ難い温度であればよく、溶媒の種類によって異なるが、例えば40〜200℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜100℃である。
【0068】
粉砕チャーに添着させるアルカリ金属元素を含む化合物の量(添着量)は、得られるアルカリ添着チャーの質量に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上、例えば10質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは17質量%以下、特に好ましくは16質量%以下、例えば15質量%以下である。粉砕チャーに添着させるアルカリ金属元素を含む化合物の量が上記の下限以上であると、続く気相脱灰工程において微細孔形成を促進しやすい。粉砕チャーに添着させるアルカリ金属元素を含む化合物の量が上記の上限以下であると、過剰な微細孔形成を抑制することができ、高い充放電容量と共に低い抵抗を有する非水電解質二次電池を与える炭素質材料を得やすい。
【0069】
アルカリ添着工程において得られるアルカリ添着チャーの平均粒子径(D50)は、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜80μm、さらにより好ましくは4〜60μm、特に好ましくは4〜40μm、極めて好ましくは5〜30μm、最も好ましくは6〜20μmである。アルカリ添着チャーの平均粒子径が上記の下限以上であると、高い気流量で焼成を行っても粉体飛散を軽減できるため好ましい。アルカリ添着チャーの平均粒子径が上記の上限以下であると、添着したアルカリ化合物が気相脱灰工程にて除去されやすいため好ましい。
【0070】
アルカリ添着工程において得られるアルカリ添着チャーの比表面積は、好ましくは100〜800m/g、より好ましくは200〜700m/g、さらに好ましくは200〜600m/gである。アルカリ添着チャーの比表面積が上記の下限以上であると、炭素質材料の微細孔が低減し、炭素質材料の吸湿性を低下させやすいため好ましい。アルカリ添着チャーの比表面積が上記の上限以下であると、得られる炭素質材料の比表面積が上記の範囲内となり易く、非水電解質二次電池のリチウムイオンの利用効率を向上させることが容易となる。なお、本明細書において、アルカリ添着チャーの比表面積はBET法(窒素吸着BET多点法)により測定することができる。
【0071】
なお、アルカリ添着チャーの平均粒子径を粉砕および/または分級により調整してもよい。粉砕方法および分級方法としては、上記と同様の方法が挙げられる。
【0072】
アルカリ金属元素が炭素質材料に残存すると、非水二次電池の放電時にアルカリ金属元素が対極側に移動する結果、電池性能が劣化することがある。本発明の製造方法はアルカリ金属元素を含む化合物を除去する除去工程を含んでもよいが、本発明の製造方法が該除去工程を含まない場合であっても、得られる炭素質材料中のアルカリ金属元素の含有量を低く抑えることが可能である。この理由は明らかでないが、気相脱灰工程において導入されたハロゲン化合物とアルカリ金属元素とが反応することによって、比較的低い融点を有する反応物が生成し、気相脱灰工程における熱処理により揮発除去されたことが考えられる。本発明は、前記の説明に限定されるものではない。
【0073】
気相脱灰工程に加えてアルカリ添着工程を行う場合、後述するメカニズムに何ら限定されないが、−OH基や−COOH基などのチャー表面の官能基が添着されたアルカリ金属元素を含む化合物と反応し、これらの官能基は、その後の熱処理・気相脱灰工程によって除去されると考えられる。その結果、炭素質材料における酸素元素含量および水素元素含量が低減され、充放電時の不可逆的な反応が抑制され、充放電効率と放電容量を高めやすいと考えられる。この場合、炭素質材料における酸素元素の含量は、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、さらにより好ましくは0.65質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。また、炭素質材料における水素元素の含量は、好ましくは0.16質量%以下、より好ましくは0.14質量%以下、さらにより好ましくは0.12質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。炭素質材料における酸素元素および水素元素の含量は、例えば不活性ガス溶解法により測定することができる。
【0074】
本発明の非水電解質二次電池用負極は、本発明の炭素質材料を含む。
【0075】
以下において、本発明の非水電解質二次電池用の負極の製造方法を具体的に述べる。本発明の負極は、本発明の炭素質材料に結合剤(バインダー)を添加し、適当な溶媒を適量添加、混練し、電極合剤とした後に、金属板等からなる集電板に塗布・乾燥後、加圧成形することにより製造することができる。
【0076】
本発明の炭素質材料を用いることにより、導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができる。さらに高い導電性を賦与することを目的として、必要に応じて電極合剤の調製時に、導電助剤を添加することができる。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノチューブ等を用いることができる。導電助剤の添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性が得られないことがあり、多すぎると電極合剤中の分散が悪くなることがある。このような観点から、添加する導電助剤の好ましい割合は0.5〜10質量%(ここで、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100質量%とする)であり、さらにより好ましくは0.5〜7質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%である。結合剤としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等の電解液と反応しないものであれば特に限定されない。中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性が得られるため好ましい。PVDFを溶解し、スラリーを形成するために、N−メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒が好ましく用いられるが、SBR等の水性エマルジョンやCMCを水に溶解して用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させることがある。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料の粒子相互間および集電材との結合が不十分になることがある。結合剤の好ましい添加量は、使用するバインダーの種類によっても異なるが、例えばPVDF系のバインダーでは好ましくは3〜13質量%であり、より好ましくは3〜10質量%である。一方、溶媒に水を使用するバインダーでは、SBRとCMCとの混合物など、複数のバインダーを混合して使用することが多く、使用する全バインダーの総量として0.5〜5質量%が好ましく、1〜4質量%がより好ましい。
【0077】
電極活物質層は、基本的には集電板の両面に形成されるが、必要に応じて片面に形成されてもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板やセパレータ等が少なくて済むため、高容量化には好ましい。しかし、対極と対向する電極面積が広いほど入出力特性の向上に有利なため、電極活物質層が厚すぎると入出力特性が低下することがある。活物質層(片面当たり)の厚みは、電池放電時の出力の観点から、好ましくは10〜80μm、より好ましくは20〜75μm、さらにより好ましくは30〜75μmである。
【0078】
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の非水電解質二次電池用負極を含む。本発明の炭素質材料を含む非水電解質二次電池用負極を有する非水電解質二次電池は、高い充放電容量および充放電効率と、低い抵抗を有する。本発明の好ましい実施態様では、炭素質材料を含む非水電解質二次電池用負極を有する非水電解質二次電池は、高い充放電容量および充放電効率と、繰返しの充放電後においても維持される低い抵抗とを有する。
【0079】
本発明の炭素質材料を用いて非水電解質二次電池用の負極を形成した場合、正極材料、セパレータ、および電解液などの電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水溶媒二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
【0080】
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMOと表されるもので、Mは金属:例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、またはLiNiCoMo(ここでx、y、zは組成比を表わす))、オリビン系(LiMPOで表され、Mは金属:例えばLiFePOなど)、スピネル系(LiMで表され、Mは金属:例えばLiMnなど)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合して使用してもよい。これらの正極材料を適当なバインダーと電極に導電性を付与するための炭素材料とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより正極が形成される。
【0081】
これらの正極および負極と組み合わせて用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、または1,3−ジオキソラン等の有機溶媒を、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiAsF、LiCl、LiBr、LiB(C、またはLiN(SOCF等が用いられる。
【0082】
非水電解質二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極と負極とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料等からなる透液性セパレータを介して対向させ、電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【0083】
本発明の炭素質材料は、例えば自動車などの車両に搭載される電池(典型的には車両駆動用非水電解質二次電池)用炭素質材料として好適である。本発明において車両とは、通常、電動車両としてしられるものや、燃料電池や内燃機関とのハイブリッド車など、特に限定されることなく対象とすることができるが、少なくとも上記電池を備えた電源装置と、該電源装置からの電源供給により駆動する電動駆動機構と、これを制御する制御装置とを備える。車両は、さらに、発電ブレーキや回生ブレーキを備え、制動によるエネルギーを電気に変換して、前記非水電解質二次電池に充電する機構を備えていてもよい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に本発明の炭素質材料の物性値の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0085】
(ラマンスペクトル)
ラマン分光器(堀場製作所製「LabRAM ARAMIS(VIS)」)を用い、炭素質材料である測定対象粒子を観測台ステージ上にセットし、対物レンズの倍率を100倍とし、ピントを合わせ、アルゴンイオンレーザ光を照射しながら測定した。測定条件の詳細は以下のとおりである。実施例1と比較例1の炭素質材料を用いて作製した炭素電極のラマンスペクトルを、それぞれ図1および図2に示す。
アルゴンイオンレーザ光の波長:532nm
試料上のレーザーパワー:15mW
分解能:5−7cm−1
測定範囲:50−2000cm−1
露光時間:1秒
積算回数:100回
ピーク強度測定:ベースライン補正 Polynom−3次で自動補正
ピークサーチ&フィッテイング処理 GaussLoren
【0086】
(窒素吸着BET多点法による比表面積)
以下にBETの式から誘導された近似式を記す。
【数1】
【0087】
上記の近似式を用いて、液体窒素温度における、窒素吸着による多点法により所定の相体圧(p/p)における実測される吸着量(v)を代入してvmを求め、次式により試料の比表面積を計算した。
【0088】
【数2】
【0089】
上記の式中、vmは試料表面に単分子層を形成するに必要な吸着量(cm/g)、vは実測される吸着量(cm/g)、pは飽和蒸気圧、pは絶対圧、cは定数(吸着熱を反映)、Nはアボガドロ数6.022×1023、a(nm)は吸着質分子が試料表面で占める面積(分子占有断面積)である。
【0090】
具体的には、カンタクローム社製「Autosorb−iQ−MP」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における植物由来のチャーまたは炭素質材料への窒素の吸着量を測定した。測定試料である植物由来のチャーまたは炭素質材料を試料管に充填し、試料管を−196℃に冷却した状態で、一旦減圧し、その後所望の相対圧にて測定試料に窒素(純度99.999%)を吸着させる。各所望の相対圧にて平衡圧に達した時の試料に吸着した窒素量を吸着ガス量vとした。
【0091】
Li核−固体NMR)
後述する実施例および比較例で調製した炭素質材料94質量部、ポリフッ化ビニリデン6質量部に、N−メチル−2−ピロリドンを加えてペースト状物を得た。該ペースト状物を、フィルム上に均一な厚みで塗布し、乾燥、プレスした。得られたプレス物をフィルムから剥離させて、直径14mmの円板状に打ち抜き炭素電極を得、これを正極として用いた。負極として、厚さ0.2mmの金属リチウム薄膜を直径14mmの円板状に打ち抜いたものを用いた。電解液として、エチレングリコールジメチルエーテルとプロピレンカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒に1モル/リットルの割合でLiClOを加えたものを用いた。セパレータとして、ポリプロピレン製微細孔膜を用いた。炭素電極と負極との間にセパレータを挟み、電解液を注入してコインセルを作製した。
【0092】
作製したコインセルを用いて、電流密度0.2mA/cmの電気量で0mVに到達するまでドーピングし、その後、比容量が1000mAh/gになるまで充電することで、リチウムイオンが満充電状態となるまでドープされた炭素電極を得た。ドープ終了後にドープを2時間休止し、アルゴン雰囲気下で炭素電極を取り出し、電解液を拭き取り、得られた炭素電極を全てNMR用のサンプル管に充填した。
【0093】
NMR分析は、核磁気共鳴装置(BRUKER製「AVANCE300」)を用い、MAS−Li−NMRの測定を行った。測定に際して、塩化リチウムを基準物質として用い、塩化リチウムのピークを0ppmに設定した。実施例1および比較例1の炭素質材料を用いて作製した炭素電極のNMRスペクトルを、それぞれ図3および図4に示す。
【0094】
(金属含量)
カルシウム元素含量およびカリウム元素含量の測定方法は、例えば以下の方法により測定した。予め所定のカルシウム元素およびカリウム元素を含有する炭素試料を調製し、蛍光X線分析装置を用いて、カルシウムKα線の強度とカルシウム元素含量との関係およびカリウムKα線の強度とカリウム元素含量との関係に関する検量線を作成した。ついで試料について蛍光X線分析におけるカルシウムKα線およびカリウムKα線の強度を測定し、先に作成した検量線よりカルシウム元素含量およびカリウム元素含量を求めた。蛍光X線分析は、株式会社リガク製「ZSX Primus−μ」を用いて、以下の条件で行った。上部照射方式用ホルダーを用い、試料測定面積を直径30mmの円周内とした。被測定試料2.0gとポリマーバインダ2.0g(Chemplex社製 Spectro Blend 44μ Powder)を乳鉢で混合し、成形機に入れた。成形機に15tonの荷重を1分間かけて、直径40mmのペレットを作製した。作製したペレットをポリプロピレン製のフィルムで包み、試料ホルダーに設置して測定を行った。X線源は40kV、75mAに設定した。カルシウム元素については、分光結晶にLiF(200)、検出器にガスフロー型比例係数管を使用し、2θが110〜116°の範囲を、走査速度30°/分で測定した。カリウム元素については、分光結晶にLiF(200)、検出器にガスフロー型比例係数管を使用し、2θが133〜140°の範囲を、走査速度4°/分で測定した。
【0095】
(ブタノール法による真密度)
真密度ρBtは、JIS R 7212に定められた方法に従い、ブタノール法により測定した。内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m)を正確に量った。次に、その底部に試料を約10mmの厚さになるように平らに入れた後、その質量(m)を正確に量った。これに1−ブタノールを静かに加えて、底から20mm 程度の深さにした。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して2.0〜2.7kPaとした。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後に、比重びんを取り出し、さらに1−ブタノールを満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1−ブタノールの液面を標線に合わせた。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後、質量(m)を正確に量った。次に、同じ比重びんに1−ブタノールだけを満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後、質量(m)を量った。また使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重びんにとり、前記と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後、質量(m)を量った。真密度ρBtは次の式により計算した。このとき、dは水の30℃における比重(0.9946)である。
【数3】
【0096】
(DFT法によるマイクロ孔容積・メソ孔容積)
カンタクローム社製「Autosorb−iQ−MP」を使用し、炭素質材料を減圧下、300℃で12時間加熱した後、77Kにおける炭素質材料の窒素吸脱着等温線を測定した。得られた脱着等温線に対し、DFT法を適用し、マイクロ孔容積およびメソ孔容積を算出した。
【0097】
(レーザー散乱法による平均粒子径)
植物由来のチャーおよび炭素質材料の平均粒子径(粒度分布)は、以下の方法により測定した。試料を界面活性剤(和光純薬工業株式会社製「ToritonX100」)が5質量%含まれた水溶液に投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒子径であり、この値を平均粒子径として用いた。
【0098】
(製造例1)
椰子殻を粉砕し、窒素ガス雰囲気下、500℃で乾留して、0.5〜2.0mmの粒子径を有する椰子殻チャーを得た。その後、ボールミルを用いて椰子殻チャーを粉砕し、10μmの平均粒子径(D50)を有する椰子殻粉砕チャーを得た。BET多点法により求められる比表面積は389m/gであった。
【0099】
(実施例1)
製造例1で得た椰子殻チャーを、塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガス気流下、1200℃で60分間熱処理した。塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり18L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、1200℃で60分間熱処理することにより脱酸処理を行い、炭素質材料を得た。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり18L/分であった。その後、ボールミルで粉砕することで、平均粒径D50が9μmの炭素質材料を得た。
【0100】
(実施例2)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスに代えて塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスを使用したこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。
【0101】
(実施例3)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量および脱酸処理における窒素ガスの供給量を、椰子殻チャー50gあたり16L/分としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。
【0102】
(実施例4)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスに代えて塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスを使用したこと以外は実施例3と同様にして、炭素質材料を得た。
【0103】
(実施例5)
製造例1で得た椰子殻チャーを、椰子殻チャーの質量に基づき10質量%のNaOHを溶解した水溶液と混合した。30分間超音波照射をして溶液をチャーに浸透させた後に、1Torrの減圧下で80℃、8時間減圧乾燥した。得られた混合物を、塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガス気流下、1200℃で60分間熱処理した。塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスの供給量は、50.0gの椰子殻チャーと5.55gのNaOHの混合物50gあたり16.2L/分であり、椰子殻チャー50gあたりでは18L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、1200℃で60分間熱処理することにより脱酸処理を行い、炭素質材料を得た。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、50.0gの椰子殻チャーと5.55gのNaOHの混合物50gあたり16.2L/分であり、椰子殻チャー50gあたりでは18L/分であった。
【0104】
(比較例1)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量および脱酸処理における窒素ガスの供給量を、椰子殻チャー50gあたり10L/分としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素質材料を得た。
【0105】
(比較例2)
熱処理の温度を900℃としたこと以外は比較例1と同様にして、炭素質材料を得た。
【0106】
(比較例3)
製造例1で得た椰子殻チャーを、塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガス気流下、900℃で60分間熱処理した。塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、900℃で60分間熱処理することにより脱酸処理を行った。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。得られた炭素質材料を、窒素ガス気流下、1200℃で60分間さらに熱処理した。さらなる熱処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり1.0L/分であった。
【0107】
(比較例4)
製造例1で得た椰子殻チャーを、塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガス気流下、975℃で70分間熱処理した。塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、975℃で40分間熱処理することにより脱酸処理を行った。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。得られた炭素質材料を、窒素ガス気流下、1000℃で360分間さらに熱処理した。さらなる熱処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり1.5L/分であった。
【0108】
実施例1〜5および比較例1〜4で得た炭素質材料の物性を表1に示す。
【表1】
【0109】
(電極の作製方法)
実施例1〜5、比較例1〜4で得た炭素質材料をそれぞれ用いて、以下の手順に従って負極の作製を行った。
炭素質材料96質量部、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)4質量部およびNMP(N−メチルピロリドン)90質量部を混合し、スラリーを得た。厚さ14μmの銅箔に、得られたスラリーを塗布し、乾燥後プレスして、厚さ75μmの電極を得た。得られた電極の密度は、0.8〜1.0g/cmであった。
【0110】
(インピーダンス)
上記で作成した電極を用いて、電気化学測定装置(ソーラトロン社製「1255WB型高性能電気化学測定システム」)を用い、25℃で、0Vを中心に10mVの振幅を与え、周波数10mHz〜1MHzの周波数で定電圧交流インピーダンスを測定し、周波数1k、1、0.1Hzにおける実部抵抗をインピーダンス抵抗として測定した。
【0111】
(直流抵抗値、電池初期容量および充放電効率)
上記で作製した電極を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極として使用した。溶媒として、プロピレンカーボネートとエチレングリコールジメチルエーテルとを、体積比で1:1となるように混合して用いた。この溶媒に、LiClOを1mol/L溶解し、電解質として用いた。セパレータにはポリプロピレン膜を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルを作製した。
上記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置(東洋システム株式会社製、「TOSCAT」)を用いて、初期充電前に直流抵抗値を測定後、充放電試験を行った。リチウムのドーピングは、活物質質量に対し70mA/gの速度で行い、リチウム電位に対して1mVになるまでドーピングした。さらにリチウム電位に対して1mVの定電圧を8時間印加して、ドーピングを終了した。このときの容量(mAh/g)を充電容量とした。次いで、活物質質量に対し70mA/gの速度で、リチウム電位に対して2.5Vになるまで脱ドーピングを行い、このとき放電した容量を放電容量とした。放電容量/充電容量の百分率を充放電効率(初期の充放電効率)とし、電池内におけるリチウムイオンの利用効率の指標とした。得られた結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
実施例1〜5の炭素質材料を用いて作製した電池は、低い抵抗値を有すると共に、高い放電容量と良好な充放電効率を示した。一方で、所定の範囲の半値幅を有さないか、所定の範囲の比表面積を有さない比較例1〜4の炭素質材料を用いて作製した電池では、十分に低い抵抗値が達成されないか、放電容量や充放電効率が十分であるとはいえなかった。
【0114】
(製造例2)
椰子殻を破砕し、窒素ガス雰囲気下、500℃で乾留して、0.5〜2.0mmの粒子径を有する椰子殻チャーを得た。その後、ボールミルを用いて椰子殻チャーを粉砕し、10μmの平均粒子径(D50)を有する椰子殻粉砕チャーを得た。BET多点法により求められる比表面積は391m/gであった。
【0115】
(実施例6)
製造例2で得た椰子殻チャーを、塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガス気流下、1200℃で70分間熱処理した。塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり18L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、1200℃で70分間熱処理することにより脱酸処理を行い、炭素質材料を得た。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり18L/分であった。その後、ボールミルで粉砕することで、平均粒径D50が10μmの炭素質材料を得た。
【0116】
(実施例7)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスに代えて塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスを使用したこと以外は実施例6と同様にして、炭素質材料を得た。
【0117】
(実施例8)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量および脱酸処理における窒素ガスの供給量を、椰子殻チャー50gあたり16L/分としたこと以外は実施例6と同様にして、炭素質材料を得た。
【0118】
(実施例9)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスに代えて塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスを使用したこと以外は実施例8と同様にして、炭素質材料を得た。
【0119】
(実施例10)
製造例2で得た椰子殻チャーを、椰子殻チャーの質量に基づき10質量%のNaOHを溶解した水溶液と混合した。30分間超音波照射をして溶液をチャーに浸透させた後に、1Torrの減圧下で80℃、8時間減圧乾燥した。得られた混合物を、塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガス気流下、1200℃で70分間熱処理した。塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスの供給量は、50gの椰子殻チャーと5.55gのNaOHの混合物50gあたり16.2L/分であり、椰子殻チャー50gあたりでは18L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、1200℃で70分間熱処理することにより脱酸処理を行い、炭素質材料を得た。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、50gの椰子殻チャーと5.55gのNaOHの混合物50gあたり16.2L/分であり、椰子殻チャー50gあたりでは18L/分であった。
【0120】
(比較例5)
塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量および脱酸処理における窒素ガスの供給量を、椰子殻チャー50gあたり10L/分としたこと以外は実施例6と同様にして、炭素質材料を得た。
【0121】
(比較例6)
熱処理の温度を900℃としたこと以外は比較例5と同様にして、炭素質材料を得た。
【0122】
(比較例7)
製造例2で得た椰子殻チャーを、塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガス気流下、900℃で60分間熱処理した。塩化水素ガスを2体積%含む窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、900℃で60分間熱処理することにより脱酸処理を行った。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。得られた炭素質材料を、窒素ガス気流下、1200℃で60分間さらに熱処理した。さらなる熱処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり1.0L/分であった。
【0123】
(比較例8)
製造例2で得た椰子殻チャーを、塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガス気流下、975℃で70分間熱処理した。塩化水素ガスを1体積%含む窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、975℃で40分間熱処理することにより脱酸処理を行った。脱酸処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり10L/分であった。得られた炭素質材料を、窒素ガス気流下、1000℃で360分間さらに熱処理した。さらなる熱処理における窒素ガスの供給量は、椰子殻チャー50gあたり1.5L/分であった。
【0124】
実施例6〜10および比較例5〜8で得た炭素質材料の物性を表3および表4に示す。
【表3】
【0125】
(電極の作製方法)
実施例6〜10、比較例5〜8で得た炭素質材料をそれぞれ用いて、以下の手順に従って負極の作製を行った。
炭素質材料96質量部、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)4質量部およびNMP(N−メチルピロリドン)90質量部を混合し、スラリーを得た。厚さ14μmの銅箔に、得られたスラリーを塗布し、乾燥後プレスして、厚さ75μmの電極を得た。得られた電極の密度は、0.8〜1.0g/cmであった。
【0126】
(インピーダンス)
上記で作成した電極を用いて、電気化学測定装置(ソーラトロン社製「1255WB型高性能電気化学測定システム」)を用い、25℃で、0Vを中心に10mVの振幅を与え、周波数10mHz〜1MHzの周波数で定電圧交流インピーダンスを測定し、周波数1k、1、0.1Hzにおける実部抵抗をインピーダンス抵抗として測定した。
【0127】
(直流抵抗値、電池初期容量および充放電効率)
上記で作製した電極を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極として使用した。溶媒として、プロピレンカーボネートとエチレングリコールジメチルエーテルとを、体積比で1:1となるように混合して用いた。この溶媒に、LiClOを1mol/L溶解し、電解質として用いた。セパレータにはポリプロピレン膜を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルを作製した。
上記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置(東洋システム株式会社製、「TOSCAT」)を用いて、初期充電前に直流抵抗値を測定後、充放電試験を行った。リチウムのドーピングは、活物質質量に対し70mA/gの速度で行い、リチウム電位に対して1mVになるまでドーピングした。さらにリチウム電位に対して1mVの定電圧を8時間印加して、ドーピングを終了した。このときの容量(mAh/g)を充電容量とした。次いで、活物質質量に対し70mA/gの速度で、リチウム電位に対して2.5Vになるまで脱ドーピングを行い、このとき放電した容量を放電容量とした。放電容量/充電容量の百分率を充放電効率(初期の充放電効率)とし、電池内におけるリチウムイオンの利用効率の指標とした。また、上記の充放電を3回繰り返した後で、インピーダンスの測定を行った。得られた結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
実施例6〜10の炭素質材料を用いて作製した電池は、初回充電前および3回の充放電後においても、低い抵抗値を有すると共に、高い放電容量と良好な充放電効率を示した。一方で、所定の範囲の半値幅を有さないか、所定の範囲のメソ孔容積/マイクロ孔容積の比を有さない比較例5〜8の炭素質材料を用いて作製した電池では、初回充電前および3回の充放電後において十分に低い抵抗値が達成されないか、放電容量や充放電効率が十分であるとはいえなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8