特許第6463878号(P6463878)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6463878油脂組成物及び該油脂組成物を含む油性食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6463878
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】油脂組成物及び該油脂組成物を含む油性食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20190128BHJP
   A23G 1/38 20060101ALI20190128BHJP
   A23G 1/32 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   A23D9/00 500
   A23G1/38
   A23G1/32
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-557154(P2018-557154)
(86)(22)【出願日】2018年7月23日
(86)【国際出願番号】JP2018027515
【審査請求日】2018年10月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-149008(P2017-149008)
(32)【優先日】2017年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-126893(P2018-126893)
(32)【優先日】2018年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千恵
(72)【発明者】
【氏名】村上 祥子
(72)【発明者】
【氏名】粟飯原 知洋
(72)【発明者】
【氏名】寺井 悠晃
(72)【発明者】
【氏名】築山 宗央
(72)【発明者】
【氏名】大西 清美
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/073480(WO,A1)
【文献】 特開2008−161106(JP,A)
【文献】 特開平1−252251(JP,A)
【文献】 特許第3635679(JP,B2)
【文献】 特開2013−215176(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/094818(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/034601(WO,A1)
【文献】 特開2015−37434(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/029642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00
A23D 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(a2)〜(c2)を満たし、さらに、以下の条件(d2)および/または(e2)を満たす、油脂組成物。
(a2)C24〜30の含有量が0.5〜10質量%である。
(b2)HMM、HLMおよびHLLの含有量の合計が17〜40質量%である。
(c2)HHMおよびHHLの含有量の合計が17〜40質量%である。
(d2)HUMおよびHULの含有量の合計が2〜16質量%である。
(e2)UMM、ULMおよびULLの含有量の合計が1〜8質量%である。
ただし、C24〜30、M、L、H、U、HMM、HLM、HLL、HHMHHL、HUM、HUL、UMM、ULMおよびULLは、以下を意味する。
C24〜30:グリセロールに結合する3分子の脂肪酸の炭素数の合計が24〜30であるトリアシルグリセロール
M:炭素数が8〜10の飽和脂肪酸
L:ラウリン酸
H:炭素数が14以上の飽和脂肪酸
U:炭素数が16以上の不飽和脂肪酸
HMM:グリセロールに、1分子のHと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HLM:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
HLL:グリセロールに、1分子のHと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHM:グリセロールに、2分子のHと1分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHL:グリセロールに、2分子のHと1分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
HUM:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、UおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
HUL:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、UおよびLが、エステル結合したトリアシルグリセロール
UMM:グリセロールに、1分子のUと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
ULM:グリセロールに、それぞれ1分子の、U、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
ULL:グリセロールに、1分子のUと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
【請求項2】
前記HLMの含有量が、前記HMMの含有量よりも大きい(HLM>HMM)、請求項に記載の油脂組成物。
【請求項3】
2〜26質量%の中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール、30〜85質量%のラウリン系油脂および10〜60質量%の非ラウリン系油脂、を原料油脂とするエステル交換油脂を含む、請求項1または2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜の何れか1項に記載の油脂組成物を有効成分とする、油性食品のブルームおよびグレイン抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜の何れか1項に記載の油脂組成物、および/または、請求項に記載のブルームおよびグレイン抑制剤を含む、油性食品。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の油脂組成物、および/または、請求項に記載のブルームおよびグレイン抑制剤を、油性食品に使用する、油性食品のブルームおよびグレインの抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物及び該油脂組成物を含む油性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂が連続相をなす油性食品としては、例えば、チョコレートやファットクリーム、バタークリーム、マーガリン、スプレッドなどが挙げられる。一般的に、油性食品の保形性の大部分は、油脂により維持される。すなわち、連続相を形成する油脂の結晶構造が、油性食品の物性および品質に大きく影響する。
【0003】
例えば、テンパー型チョコレートの油脂は、対称型トリアシルグリセロールの構造を有する、カカオ脂もしくはカカオ脂の類似脂から構成される。テンパー型チョコレートの製造においては、テンパリングと呼ばれる非常に複雑な調温操作が行われる。テンパリングにより、油脂を構成する対称型トリアシルグリセロールの結晶は、安定形であるV型に調整される。油脂の結晶形がV型に調整されることにより、良好な型離れと光沢を有するチョコレートが得られる。
【0004】
しかしながら、不十分なテンパリングにより不安定形の油脂結晶が生成したり、気温の変化などよりチョコレートの一部が融解後再度固まったりすると、場合により、チョコレートの油脂の結晶形がV型からVI型へと移行する。チョコレートの油脂の結晶形がV型からVI型へと移行すると、チョコレートは白い粉を吹いたような状態(いわゆるブルーム)になることがある。したがって、チョコレートの品質保持のためには、油脂の結晶形をV型に維持することが重要である。
【0005】
チョコレートのブルームを防止するために、特開昭62−6635号公報には、1分子中に炭素数20〜24の飽和脂肪酸残基および炭素数16〜22の不飽和脂肪酸残基を少なくとも各1個以上有する混酸基トリグリセリドを含有するファットブルーム防止剤が記載されている。当該ファットブルーム防止剤は、チョコレートの一部が融解後再度固まることで発生するブルームに対しては、ある程度有効ではある。しかし、その効果はなお不十分であった。
【0006】
また、マーガリン、スプレッドなどの可塑性油脂組成物は、相対的に液体油の含有量が多い油性食品である。可塑性油脂組成物においては、製造直後の油脂結晶は微細な状態にある。しかし、温度変化などにより、油脂結晶の多形変化が起こる。油脂結晶は、場合により、多形変化とともに粗大化してグレインを発生する。したがって、可塑性油脂組成物の品質保持には、油脂結晶を微細な状態で維持することが重要である。
【0007】
可塑性油脂組成物のグレインを防止するために、特開平5−311190号公報には、構成脂肪酸の1つが炭素数12以下の飽和脂肪酸(B)であり、残る2つの脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸(A)であるトリグリセリドからなる油脂のグレイニング防止剤(A2B)が記載されている。当該グレイニング防止剤は、グレインの発生防止に対してある程度有効ではある。しかし、その効果はなお不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−6635号公報
【特許文献2】特開平5−311190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、油性食品に含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生を効果的に抑制する、ブルームおよびグレインの抑制剤の開発が待たれていた。
【0010】
本発明の課題は、油性食品に含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生を効果的に抑制する、ブルームおよびグレインの抑制効果を有する組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った。その結果、特定のトリアシルグリセロールを構成成分とする油脂組成物が、極めて有効な油性食品のブルームおよびグレイン抑制効果を有することを見いだした。これにより本発明は完成された。すなわち、本発明は、以下の態様を含み得る。
【0012】
[1]以下の条件(a)〜(c)を満たす、油脂組成物。
(a)C24〜30の含有量が0.5〜12質量%である。
(b)HMM、HLMおよびHLLの含有量の合計が17〜50質量%である。
(c)HHMおよびHHLの含有量の合計が17〜40質量%である。
ただし、C24〜30、M、L、H、HMM、HLM、HLL、HHMおよびHHLは、以下を意味する。
C24〜30:グリセロールに結合する3分子の脂肪酸の炭素数の合計が24〜30であるトリアシルグリセロール
M:炭素数が8〜10の飽和脂肪酸
L:ラウリン酸
H:炭素数が14以上の飽和脂肪酸
HMM:グリセロールに、1分子のHと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HLM:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
HLL:グリセロールに、1分子のHと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHM:グリセロールに、2分子のHと1分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHL:グリセロールに、2分子のHと1分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
[2]以下の条件(a1)〜(c1)を満たす、油脂組成物。
(a1)C24〜30の含有量が2〜12質量%である。
(b1)HMM、HLMおよびHLLの含有量の合計が30〜50質量%である。
(c1)HHMおよびHHLの含有量の合計が20〜40質量%である。
ただし、C24〜30、M、L、H、HMM、HLM、HLL、HHMおよびHHLは、以下を意味する。
C24〜30:グリセロールに結合する3分子の脂肪酸の炭素数の合計が24〜30であるトリアシルグリセロール
M:炭素数が8〜10の飽和脂肪酸
L:ラウリン酸
H:炭素数が14以上の飽和脂肪酸
HMM:グリセロールに、1分子のHと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HLM:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
HLL:グリセロールに、1分子のHと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHM:グリセロールに、2分子のHと1分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHL:グリセロールに、2分子のHと1分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
[3]以下の条件(a2)〜(c2)を満たす、油脂組成物。
(a2)C24〜30の含有量が0.5〜10質量%である。
(b2)HMM、HLMおよびHLLの含有量の合計が17〜40質量%である。
(c2)HHMおよびHHLの含有量の合計が17〜40質量%である。
ただし、C24〜30、M、L、H、HMM、HLM、HLL、HHMおよびHHLは、以下を意味する。
C24〜30:グリセロールに結合する3分子の脂肪酸の炭素数の合計が24〜30であるトリアシルグリセロール
M:炭素数が8〜10の飽和脂肪酸
L:ラウリン酸
H:炭素数が14以上の飽和脂肪酸
HMM:グリセロールに、1分子のHと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HLM:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
HLL:グリセロールに、1分子のHと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHM:グリセロールに、2分子のHと1分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
HHL:グリセロールに、2分子のHと1分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
[4]さらに、以下の条件(d2)を満たす、[3]の油脂組成物。
(d2)HUMおよびHULの含有量の合計が2〜16質量%である。
ただし、U、HUMおよびHULは、以下を意味する。
U:炭素数が16以上の不飽和脂肪酸
HUM:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、UおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
HUL:グリセロールに、それぞれ1分子の、H、UおよびLが、エステル結合したトリアシルグリセロール
[5]さらに、以下の条件(e2)を満たす、[3]または[4]の油脂組成物。
(e2)UMM、ULMおよびULLの含有量の合計が1〜8質量%である。
ただし、UMM、ULMおよびULLは、以下を意味する。
UMM:グリセロールに、1分子のUと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロール
ULM:グリセロールに、それぞれ1分子の、U、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロール
ULL:グリセロールに、1分子のUと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロール
[6]前記HLMの含有量が、前記HMMの含有量よりも大きい(HLM>HMM)、[1]〜[5]の何れか1つの油脂組成物。
[7]前記HLMの含有量が、前記HLLの含有量よりも大きい(HLM>HLL)、[2]の油脂組成物。
[8]2〜30質量%の中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール、30〜95質量%のラウリン系油脂および0〜60質量%の非ラウリン系油脂、を原料油脂とするエステル交換油脂を含む、[1]または[6]の油脂組成物。
[9]5〜30質量%の中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール、30〜95質量%のラウリン系油脂および0〜45質量%の非ラウリン系油脂、を原料油脂とするエステル交換油脂を含む、[1]、[2]、[6]、[7]の何れか1つの油脂組成物。
[10]2〜26質量%の中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール、30〜85質量%のラウリン系油脂および10〜60質量%の非ラウリン系油脂、を原料油脂とするエステル交換油脂を含む、[3]〜[6]の何れか1つの油脂組成物。
[11][1]〜[10]何れか1つの油脂組成物を有効成分とする、油性食品のブルームおよびグレイン抑制剤。
[12][1]〜[10]の何れか1つの油脂組成物、および/または、[11]のブルームおよびグレイン抑制剤を含む、油性食品。
[13]油脂が連続相である油性食品であって、前記油脂に占める、C24〜30の含有量が0.02〜5質量%であり、HMM、HLMおよびHLLの合計含有量が0.3〜18質量%であり、HHMおよびHHLの合計含有量が0.2〜14質量%である、油性食品。
[14]油脂が連続相である油性食品の製造方法であって、[1]〜[10]の何れか1つの油脂組成物、および/または、[11]のブルームおよびグレイン抑制剤を配合することにより、前記油脂に占める、C24〜30の含有量を0.02〜5質量%、HMM、HLMおよびHLLの合計含有量を0.3〜18質量%、HHMおよびHHLの合計含有量を0.2〜14質量%、に調整する、前記油性食品の製造方法。
[15][1]〜[10]の何れか1つの油脂組成物、および/または、[11]のブルームおよびグレイン抑制剤を、油性食品に使用する、油性食品のブルームおよびグレインの抑制方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、油性食品に含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生を効果的に抑制する、油脂組成物を提供できる。また、当該油脂組成物を含むブルームおよびグレインの抑制剤を提供できる。また、ブルームおよびグレインの発生が抑制された油性食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の油脂組成物は、以下の条件(a)〜(c)を満たす。
(a)C24〜30の含有量が0.5〜12質量%である。
(b)HMM、HLMおよびHLLの含有量の合計が17〜50質量%である。
(c)HHMおよびHHLの含有量の合計が17〜40質量%である。
【0015】
本発明の油脂組成物は、C24〜30を0.5〜12質量%含有する(条件(a))。ここで、C24〜30は、グリセロールに結合する3分子の脂肪酸の炭素数の合計が24〜30であるトリアシルグリセロールである。例えば、トリカプリリンは、グリセロールに3分子のカプリン酸がエステル結合したトリアシルグリセロールであり、脂肪酸の炭素数の合計は24である。同様に、トリカプリンは、脂肪酸の炭素数の合計は30である。例えば、油脂組成物に2質量%のトリカプリリンと3質量%のトリカプリンが含まれる場合、油脂組成物のC24〜30は5質量%である。C24〜30の構成脂肪酸は、好ましくは炭素数8〜12の飽和脂肪酸の組合せである。
【0016】
本発明の油脂組成物は、HMM、HLMおよびHLLを合計で17〜50質量%含有する(条件(b))。本発明において、Mは、炭素数が8〜10の飽和脂肪酸を意味する。Lは、ラウリン酸を意味する。Hは、炭素数が14以上の飽和脂肪酸を意味する。HMMは、グリセロールに、1分子のHと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。HLMは、グリセロールに、それぞれ1分子の、H、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。HLLは、グリセロールに、1分子のHと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。HMM、HLMおよびHLLとも、構成脂肪酸のグリセロール上の結合位置は任意である。そして、Hは、好ましくは炭素数14〜22の飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数14〜18の飽和脂肪酸である。MおよびHは、好ましくは直鎖である。
【0017】
本発明の油脂組成物は、HHMおよびHHLを合計で17〜40質量%含有する(条件(c))。本発明において、HHMは、グリセロールに、2分子のHと1分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。HHLは、グリセロールに、2分子のHと1分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。HHMおよびHHLとも、構成脂肪酸のグリセロール上の結合位置は任意である。
【0018】
本発明の油脂組成物は、上記の、C24〜30、HMM、HLM、HLL、HHMおよびHHL、を合計で、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは45〜85質量%含有する。また、本発明の油脂組成物は、好ましくは、HLMの含有量がHMMの含有量よりも大きい(HLM>HMM)。本発明の油脂組成物に含まれるトリアシルグリセロールが、上記条件(a)〜(c)を満たすと、本発明の油脂組成物を使用することにより得られた油性食品は、油性食品に含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生が、効果的に抑制される。当該効果は、特に、液体油を豊富に含む油性食品において顕著である。
なお、油脂組成物に含まれるトリアシルグリセロールの含有量は、例えば、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じて測定できる。必要に応じて、当技術分野で公知の計算方法を適用してもよい。
【0019】
本発明の油脂組成物は、次の第1の態様の油脂組成物であってもよい。本発明の第1の態様の油脂組成物に含まれるC24〜30の含有量(条件(a1))は、2〜12質量%であり、好ましくは3〜11質量%であり、より好ましくは4〜10質量%であり、さらに好ましくは4〜9質量%であり、ことさらに好ましくは4〜7質量%である。また、本発明の第1の態様の油脂組成物に含まれるHMM、HLMおよびHLLの含有量の合計(条件(b1))は、30〜50質量%であり、好ましくは33〜47質量%であり、より好ましくは35〜45質量%である。また、本発明の第1の態様の油脂組成物に含まれるHHMおよびHHLの含有量の合計(条件(c1))は、20〜40質量%であり、好ましくは25〜40質量%であり、より好ましくは28〜38質量%である。
【0020】
本発明の第1の態様の油脂組成物は、好ましくは、HLMの含有量が、HMMの含有量よりも大きく(HLM>HMM)、また、HLLの含有量よりも大きい(HLM>HLL)。また、本発明の第1の態様の油脂組成物に含まれるHLMの含有量は、好ましくは12質量%以上であり、より好ましくは14〜26質量%であり、さらに好ましくは16〜23質量%である。また、本発明の第1の態様の油脂組成物は、好ましくは、HHLの含有量がHHMの含有量よりも大きい(HHL>HHM)。また、本発明の第1の態様の油脂組成物は、C24〜30、HMM、HLM、HLL、HHMおよびHHL、を合計で、好ましくは65〜90質量%、より好ましくは70〜85質量%含有する。
【0021】
本発明の油脂組成物は、次の第2の態様の油脂組成物であってもよい。本発明の第2の態様の油脂組成物に含まれるC24〜30の含有量(条件(a2))は、0.5〜10質量%であり、好ましくは0.5〜8質量%であり、より好ましくは0.5〜6質量%であり、さらに好ましくは0.5〜4質量%である。また、本発明の第2の態様の油脂組成物に含まれるHMM、HLMおよびHLLの含有量の合計(条件(b2))は、17〜40質量%であり、好ましくは19〜37質量%であり、より好ましくは20〜36質量%である。また、本発明の第2の態様の油脂組成物に含まれるHHMおよびHHLの含有量の合計(条件(c2))は、17〜40質量%であり、好ましくは19〜36質量%であり、より好ましくは21〜34質量%である。
【0022】
本発明の第2の態様の油脂組成物は、好ましくは、HLMの含有量がHMMの含有量よりも大きい(HLM>HMM)。また、本発明の第2の態様の油脂組成物に含まれるHLMの含有量は、好ましくは6〜20質量%であり、より好ましくは7〜20質量%であり、さらに好ましくは7〜18質量%である。また、本発明の第2の態様の油脂組成物は、好ましくは、HHLの含有量がHHMの含有量よりも大きい(HHL>HHM)。また、本発明の第2の態様の油脂組成物は、C24〜30、HMM、HLM、HLL、HHMおよびHHL、を合計で、好ましくは40〜80質量%、より好ましくは45〜75質量%含有する。
【0023】
本発明の第2の態様の油脂組成物は、好ましくは、HUMおよびHULを合計で2〜16質量%含有する(条件(d2))。本発明において、Uは、炭素数が16以上の不飽和脂肪酸を意味する。HUMは、グリセロールに、それぞれ1分子の、H、UおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。HULは、グリセロールに、それぞれ1分子の、H、UおよびLが、エステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。HUMおよびHULとも、構成脂肪酸のグリセロール上の結合位置は任意である。そして、Uは、好ましくは炭素数16〜22の不飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数16〜18の不飽和脂肪酸である。Uは、好ましくは直鎖である。本発明の油脂組成物に含まれる、上記の、HUMおよびHULの含有量の合計は、好ましくは3〜16質量%であり、より好ましくは4〜15質量%である。また、本発明の第2の態様の油脂組成物は、好ましくは、前記HULの含有量が、前記HUMの含有量よりも大きい(HUL>HUM)。
【0024】
本発明の第2の態様の油脂組成物は、好ましくは、UMM、ULMおよびULLを合計で1〜8質量%含有する(条件(e2))。本発明において、UMMは、グリセロールに、1分子のUと2分子のMがエステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。ULMは、グリセロールに、それぞれ1分子の、U、LおよびMが、エステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。ULLは、グリセロールに、1分子のUと2分子のLがエステル結合したトリアシルグリセロールを意味する。UMM、ULMおよびULLとも、構成脂肪酸のグリセロール上の結合位置は任意である。
【0025】
本発明の第2の態様の油脂組成物は、上記の、C24〜30、HMM、HLM、HLL、HHM、HHL、HUM、HUL、UMM、ULMおよびULLを合計で、好ましくは60〜90質量%、より好ましくは65〜85質量%含有する。本発明の第2の態様の油脂組成物に含まれるトリアシルグリセロールが、上記条件(a2)〜(e2)を満たすと、本発明の第2の態様の油脂組成物を使用することにより得られた油性食品は、油性食品に含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生が、さらに効果的に抑制される。
【0026】
本発明の油脂組成物は、油脂組成物を構成する脂肪酸の全量に占めるミリスチン酸の含有量が、好ましくは15質量%以下である。前記ミリスチン酸の含有量は、より好ましくは12質量%以下であり、さらに好ましくは0〜10質量%である。
【0027】
また、本発明の油脂組成物は、油脂組成物を構成する脂肪酸の全量に占める不飽和脂肪酸(U)の含有量が、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下であり、さらに好ましくは0〜16質量%である。本発明の第1の態様の油脂組成物は、油脂組成物を構成する脂肪酸の全量に占める不飽和脂肪酸(U)の含有量が、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは0〜5質量%である。本発明の第2の態様の油脂組成物は、油脂組成物を構成する脂肪酸の全量に占める不飽和脂肪酸(U)の含有量が、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは2〜18質量%であり、さらに好ましくは3〜16質量%である。Uは、好ましくは炭素数16〜22の不飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数16〜18の不飽和脂肪酸である。Uは、好ましくは直鎖である。
【0028】
また、本発明の油脂組成物は、油脂組成物を構成する脂肪酸の全量に占める炭素数20以上の脂肪酸の含有量が、好ましくは20質量%以下である。前記炭素数20以上の脂肪酸の含有量は、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、ことさら好ましくは0〜1質量%である。
なお、油脂組成物の構成脂肪酸は、AOCS Ce1f−96に準じて、ガスクロマトグラフィー法により、測定できる。
【0029】
本発明の油脂組成物には、上記条件(a)〜(c)が満たされる限り、原料油脂として、どのような食用油脂が使用されてもよい。原料油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、胡麻油、カカオ脂、シア脂、サル脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、および鯨油などの、各種の植物油脂および動物油脂が挙げられる。原料油脂としては、また、これら植物油脂および動物油脂の1種または2種以上の混合油脂に、水素添加、分別、およびエステル交換から選択される一または二以上の処理を適用して得られる加工油脂が挙げられる。本発明の油脂組成物の原料油脂には、上記食用油脂の一種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の油脂組成物は、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール、ラウリン系油脂および非ラウリン系油脂を原料油脂とするエステル交換油脂であってもよい。ここで、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、MCTとも表す)は、炭素数6〜10の脂肪酸で構成される。すなわち、MCTは、グリセロール1分子に3分子の炭素数6〜10の脂肪酸がエステル結合しているトリアシルグリセロールである。MCTが有する構成脂肪酸の全量に占める炭素数6の脂肪酸の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは0〜5質量%である。さらに、MCTが有する構成脂肪酸の全量に占める炭素数10の脂肪酸の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20〜100質量%、さらに好ましくは40〜80質量%である。MCTは、好ましくはカプリル酸およびカプリン酸を構成脂肪酸とする。
【0031】
また、ここで、ラウリン系油脂は、構成脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の含有量が30質量%以上(好ましくは40質量%以上)の油脂である。ラウリン系油脂として、例えば、ヤシ油、パーム核油、これらを分別して得られるパーム核オレインおよびパーム核ステアリンなどの分別油が挙げられる。また、これらを用いたエステル交換により得られる油脂、および、これらの硬化油(例えば、パーム核極度硬化油、パーム核ステアリン極度硬化油)が挙げられる。ラウリン系油脂は2種以上を併用してもよい。
【0032】
また、ここで、非ラウリン系油脂は、構成脂肪酸の全量に占める炭素数16以上の脂肪酸の含有量が90質量%以上の油脂である。非ラウリン系油脂として、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、紅花油、綿実油、ヒマワリ油、カカオ脂、シア脂、サル脂、およびパーム油などが挙げられる。また、これらに水素添加、分別、およびエステル交換のうちから選択された一または二以上の処理を適用することにより得られる加工油脂が挙げられる。非ラウリン系油脂は2種以上を併用してもよい。非ラウリン系油脂は、極度硬化油および/またはパームステアリンを使用することが好ましい。また、非ラウリン系油脂は、極度硬化油および/またはパームステアリンと構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を70質量%以上(好ましくは80質量%以上)含有する油脂とを併用することが好ましい。
【0033】
上記エステル交換油脂は、原料油脂として、MCT、ラウリン系油脂および非ラウリン系油脂を、それぞれ、好ましくは、2〜30質量%、30〜95質量%および00〜60質量%含み、より好ましくは、3〜25質量%、40〜80質量%および10〜50質量%含み、さらに好ましくは、4〜22質量%、45〜70質量%および20〜45質量%含む。また、本発明の第1の態様の油脂組成物によれば、上記エステル交換油脂は、原料油脂として、MCT、ラウリン系油脂および非ラウリン系油脂を、それぞれ、好ましくは、5〜30質量%、30〜95質量%および0〜45質量%含み、より好ましくは、7〜25質量%、40〜80質量%および10〜40質量%含み、さらに好ましくは、9〜22質量%、50〜70質量%および20〜35質量%含む。また、また、本発明の第2の態様の油脂組成物によれば、上記エステル交換油脂は、原料油脂として、MCT、ラウリン系油脂および非ラウリン系油脂を、それぞれ、好ましくは、2〜26質量%、30〜85質量%および10〜60質量%含み、より好ましくは、3〜21質量%、40〜75質量%および20〜50質量%含み、さらに好ましくは、4〜18質量%、45〜65質量%および25〜45質量%含む。また、本発明の第2の態様の油脂組成物によれば、上記エステル交換油脂の原料油脂の1つである非ラウリン系油脂に占める、不飽和脂肪酸を70質量%以上含有する油脂の含有量が、好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜45質量%であり、さらに好ましくは15〜40質量%である。
【0034】
また、上記エステル交換油脂は、以下の条件(i)〜(iii)が満たされるように原料油脂が混合されてもよい。
(i)油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素数8〜10の飽和脂肪酸の含有量が4〜26質量%である。
(ii)油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素数12〜14の飽和脂肪酸の含有量が20〜60質量%である。
(iii)油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素数16〜22の飽和脂肪酸の含有量が25〜55質量%である。
【0035】
また、上記エステル交換油脂は、油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素数20以上の飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは2質量%未満であり、より好ましくは0〜1質量%である。エステル交換油脂は、構成脂肪酸に占める炭素数20以上の飽和脂肪酸の含有量が0質量%もしくは非常に少ない量であっても、優れた抗ブルームおよび抗グレインの効果を有する。
【0036】
また、本発明の第1の態様の油脂組成物によれば、上記エステル交換油脂の原料油脂が満たす、上記の炭素数8〜10の飽和脂肪酸の含有量(条件(i))は、より好ましくは12〜26であり、さらに好ましくは13〜25質量%であり、ことさらに好ましくは14〜24質量%である。炭素数8〜10の飽和脂肪酸は、好ましくはカプリル酸およびカプリン酸である。また、上記の炭素数12〜14の飽和脂肪酸の含有量(条件(ii))は、より好ましくは30〜50質量%であり、さらに好ましくは35〜45質量%である。炭素数12〜14の飽和脂肪酸は、好ましくはラウリン酸およびミリスチン酸である。また、上記の炭素数16〜22の飽和脂肪酸の含有量(条件(iii))は、より好ましくは30〜53質量%であり、さらに好ましくは35〜48質量%である。炭素数16〜22の飽和脂肪酸は、好ましくは直鎖である。炭素数16〜22の飽和脂肪酸は、好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸およびベヘン酸であり、より好ましくは、パルミチン酸およびステアリン酸である。
【0037】
また、本発明の第2の態様の油脂組成物によれば、上記エステル交換油脂の原料油脂が満たす、上記の炭素数8〜10の飽和脂肪酸の含有量(条件(i))は、より好ましくは、4〜22質量%であり、さらに好ましくは5〜20質量%であり、ことさらに好ましくは6〜19質量%である。炭素数8〜10の飽和脂肪酸は、好ましくはカプリル酸およびカプリン酸である。また、上記の炭素数12〜14の飽和脂肪酸の含有量(条件(ii))は、より好ましくは20〜50質量%であり、さらに好ましくは25〜45質量%であり、ことさらに好ましくは30〜40質量%である。炭素数12〜14の飽和脂肪酸は、好ましくはラウリン酸およびミリスチン酸である。また、上記の炭素数16〜22の飽和脂肪酸の含有量(条件(iii))は、より好ましくは30〜53質量%であり、さらに好ましくは33〜48質量%である。炭素数16〜22の飽和脂肪酸は、好ましくは直鎖である。炭素数16〜22の飽和脂肪酸は、好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸およびベヘン酸であり、より好ましくは、パルミチン酸およびステアリン酸である。
【0038】
また、本発明の第2の態様の油脂組成物によれば、上記エステル交換油脂は、さらに、以下の条件(iv)が満たされるように原料油脂が混合されてもよい。
(iv)油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素数16〜22の不飽和脂肪酸の含有量が2〜18質量%である。
上記の炭素数16〜22の不飽和脂肪酸の含有量(条件(iv))は、好ましくは3〜16質量%であり、より好ましくは4〜15質量%である。炭素数16〜22の不飽和脂肪酸は、好ましくは直鎖である。炭素数16〜22の不飽和脂肪酸は、好ましくは、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸である。
【0039】
上記エステル交換油脂の製造に用いられるエステル交換の方法は、特に制限はない。通常のエステル交換方法を用いることができる。ナトリウムメトキシドなどの合成触媒を使用した化学的エステル交換、および、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のうちのどちらの方法を用いても本発明のエステル交換油脂を製造することができる。エステル交換は、好ましくは位置特異性のないランダムエステル換が適用される。
【0040】
酵素的エステル交換は、1,3位特異性の高いエステル交換反応、および、位置特異性の乏しいエステル交換反応のうちのどちらでも行うことができる。1,3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼ製剤として、リゾプスオリザエ由来および/またはリゾプスデルマ由来(例えば、国際公開第2009/031679号に記載)、および、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIMおよびリポザイムRMIMなど)などが挙げられる。位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼ製剤として、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPLなど)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOFなど)などが挙げられる。
【0041】
化学的エステル交換では、例えば、十分に乾燥させた原料油脂に、当該原料油脂に対して0.1〜1質量%のナトリウムメトキシドが添加される。その後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながらエステル交換反応を行うことができる。エステル交換反応終了後は、水洗などにより触媒を除去した後、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色および脱臭処理を適用することができる。
【0042】
酵素的エステル交換では、例えば、原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%のリパーゼ粉末または固定化リパーゼが当該原料油脂に添加される。その後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながらエステル交換反応を行うことができる。エステル交換反応終了後、濾過などにより反応生成物から触媒を除去する。その後、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色および脱臭処理を適用することができる。
【0043】
本発明の油脂組成物は、油性食品に含まれる油脂の一部として配合されることにより、油性食品に含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生を抑制する。本発明の油脂組成物は、油脂組成物をそのままブルームおよびグレインの抑制剤として油性食品に配合してもよいし、油脂組成物とその他の油脂および/または粉体などを混合した態様のブルームおよびグレインの抑制剤として配合してもよい。油性食品に含まれる油脂に占める本発明の油脂組成物の含有量は、好ましくは0.1〜35質量%であり、より好ましくは0.1〜16質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%であり、さらに好ましくは1〜8質量%である。なお、本発明において油性食品に含まれる油脂は、含油原料由来の油脂を含む。例えば、油性食品が、油脂(ココアバター)の含有量が55質量%のカカオマスを30質量%含む場合、油性食品はカカオマス由来分として16.5質量%(=30×0.55)の油脂を含む。
【0044】
本発明の油脂組成物がブルームおよびグレインの発生を抑制する程度は、例えば、結晶がV型に調整されたココアバターの結晶多形が、一定時間にVI型に転移する程度により、評価できる。ココアバターの結晶多形は、X線回折(粉末法)の測定により得られる回折ピークから判断できる。すなわち、油脂結晶について、その短面問隔を2θが17〜26度の範囲でX線回折を測定し、4.5〜4.7Åの面間隔に対応する強い回折ピークを検出し、4.1〜4.3Åおよび3.8〜3.9Åの面間隔に対応する回折ピークを検出しない場合、油脂結晶はβ型(V型またはVI型)であると判断できる。さらに、3.75Åに検出される回折ピークに対する3.69Åに検出される回折ピークの強度比が0.5以下である場合、油脂結晶はV型であり、この強度比が0.5を超えると、VI型の結晶が形成され始めたと判断できる。そして強度比が3.0を超えるとVI型結晶が優勢になった(ブルームが生じやすい状態になった)と判断できる。
【0045】
本発明は、また、油脂が連続相である油性食品であって、前記油脂に占める、C24〜30の含有量が0.02〜5質量%であり、HMM、HLMおよびHLLの合計含有量が0.3〜18質量%であり、HHMおよびHHLの合計含有量が0.2〜14質量%である、油性食品を提供する。本発明の油性食品に含まれる油脂に占める、C24〜30の含有量は、好ましくは0.02〜2質量%であり、より好ましくは0.08〜1.2質量%であり、さらに好ましくは0.12〜0.8質量%である。また、本発明の油性食品に含まれる油脂に占める、HMM、HLMおよびHLLの合計含有量は、好ましくは0.3〜10質量%であり、より好ましくは0.9〜6質量%であり、さらに好ましくは1.5〜4質量%である。また、本発明の油性食品に含まれる油脂に占める、HHMおよびHHLの合計含有量は、好ましくは0.2〜8質量%であり、より好ましくは0.5〜5質量%であり、さらに好ましくは1〜3質量である。また、本発明の油性食品に含まれる油脂は、HLMの含有量が、好ましくは0.2〜9質量%であり、より好ましくは0.2〜5質量%であり、さらに好ましくは0.4〜4質量%であり、ことさらに好ましくは0.6〜3質量%である。
【0046】
上記本発明の油性食品に含まれる油脂は、さらに、0.02〜6質量%のHUMおよびHULの合計含有量を含有してもよい。本発明の油性食品に含まれる油脂に占める、HUMおよびHULの合計含有量は、より好ましくは0.04〜3質量%であり、さらに好ましくは0.08〜1.5質量%であり、ことさらに好ましくは0.12〜1質量%である。また、本発明の油性食品に含まれる油脂は、さらに、0.01〜3質量%のUMM、ULMおよびULLの合計含有量を含有してもよい。本発明の油性食品に含まれる油脂に占める、UMM、ULMおよびULLの合計含有量は、より好ましくは0.01〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.04〜0.8質量%であり、ことさらに好ましくは0.06〜0.5質量%である。
【0047】
本発明の油性食品は、油脂が連続相をなす食品である。油性食品としては、例えば、チョコレートやファットクリーム、バタークリーム、マーガリン、スプレッドなどが挙げられる。本発明の油性食品は、好ましくは、本発明の油脂組成物がそのままブルームおよびグレインの抑制剤として配合されることにより、または、油脂組成物とその他の油脂および/または粉体などを混合した態様のブルームおよびグレインの抑制剤として配合されることにより、油性食品に含まれる油脂に占める、上記の各種トリアシルグリセロールの含有量が調整される。例えば、油性食品がチョコレートの場合、本発明の油脂組成物がチョコレートに含まれる油脂に占める割合は、好ましくは0.1〜35質量%であり、より好ましくは0.1〜20質量%であり、さらに好ましくは1〜10質量%であり、ことさらに好ましくは2〜6質量%である。
【0048】
本発明の油性食品には、油性食品に通常用いられる原材料および添加物が使用できる。また、本発明の油性食品の製造には、油性食品の製造に通常用いられる方法を適用できる。例えば、油性食品がチョコレートの場合、チョコレートは、カカオマス、ココアパウダー、砂糖、粉乳などを原材料として、混合、微粒化、精練、テンパリング、型への充填および冷却などの工程を適用することにより、製造される。本発明の油性食品は、含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生が抑制される。
【実施例】
【0049】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔油脂の脂肪酸分析方法〕
油脂の脂肪酸の分析は、AOCS Ce1f−96に準じて、ガスクロマトグラフ法を用いた測定により、実施した。
〔油脂のトリアシルグリセロール分析方法〕
油脂のトリアシルグリセロールの分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)を用いた測定により、実施した。複数のトリアシルグリセロールが重なるピークについては、確率計算により、各トリアシルグリセロールの含有量を割り当てた。
〔油脂結晶のX線回折像の測定〕
X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク社製)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力1.6kW、操作角0.96〜30.0°、測定速度2°/分の条件で、油脂結晶のX線回折像を測定した。
【0050】
〔油脂組成物の調製1〕
以下の油脂組成物A〜Jが調製された。油脂組成物の脂肪酸およびトリアシルグリセロール(TAG)の構成が表1〜2の例1〜10に示される。油脂組成物C〜Hは、本発明の第1の態様に相当する油脂組成物である。
(油脂組成物A)
49質量部のMCT1および51質量部の極度硬化菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Aとされた。
(油脂組成物B)
45質量部のMCT2および55質量部の極度硬化パーム核油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Bとされた。
(油脂組成物C)
20質量部のMCT1、55質量部の極度硬化パーム核油および25質量部の極度硬化菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Cとされた。
(油脂組成物D)
10質量部のMCT2、65質量部の極度硬化パーム核油および25質量部の極度硬化菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Dとされた。
(油脂組成物E)
20質量部のMCT1、55質量部の極度硬化パーム核油および25質量部の極度硬化高エルシン酸菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Eとされた。
(油脂組成物F)
10質量部のMCT1、65質量部の極度硬化パーム核油および25質量部の極度硬化菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Fとされた。
(油脂組成物G)
10質量部のMCT1、65質量部の極度硬化パーム核油および25質量部の極度硬化パーム油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Gとされた。
(油脂組成物H)
10質量部のMCT1および90質量部の極度硬化パーム核油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Hとされた。
(油脂組成物I)
50質量部のトリラウリンおよび50質量部の極度硬化菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Iとされた。
(油脂組成物J)
10質量部のMCT1、65質量部の極度硬化パーム核油および25質量部の極度硬化菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および薄膜蒸留された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Jとされた。

なお、MCT1は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がカプリル酸(炭素数8)とカプリン酸(炭素数10)であり、その質量比が30:70であるMCT(日清オイリオグループ株式会社製)が使用された。MCT2は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がカプリル酸(炭素数8)とカプリン酸(炭素数10)であり、その質量比が60:40であるMCT(日清オイリオグループ株式会社製)が使用された。
【0051】
〔ブルーム耐性評価〕
100質量部のココアバターに対して、5質量部の油脂組成物A〜Jが、それぞれ添加混合された。得られた混合油脂は、80℃に加熱されることにより、完全に融解された。融解された混合油脂は、60℃に維持された後、0℃で1時間冷却されることにより、固化された。固化された混合油脂に対して、20℃で2時間保持後30℃で1時間保持のサイクルが、224サイクル繰り替えされた。8、56、112、168および224サイクル後に、X線回折像の測定が行われた。X線回折像の、3.75Åに検出される回折ピークに対する3.69Åに検出される回折ピークの強度比が、表1〜2に示される。当該強度比が3.0を超えると、VI型結晶が優勢になった(ブルームが生じやすい状態になった)と判断できる。なお、ココアバターのみの場合、224サイクル後の当該強度比は、8.0であった。
【0052】
〔グレイン耐性評価〕
50質量部のカカオマスおよび50質量部のソフトチョコレート用油脂(菜種油を60質量%含有)が混合された。当該混合物は、60℃に加熱されることにより、融液状にされた。当該混合物の融液100質量部に対して、7.5質量部の完全に融解された油脂組成物A〜Jが、それぞれ添加混合された。40グラムの得られた混合物は、カップに注入された後、冷却され、10℃で保持された。21日間10℃で保持された混合物の、内部の状態が観察された。観察結果は、以下の基準に従って評点された。評点は表1〜2に示される。なお、油脂組成物を混合しない場合、評点は0であった。

評点
なめらかでグレインがない 5
小さい粒が数個確認できる 4
小さい粒が十個程度確認できる 3
小さい粒が全体に確認できる 2
小さい粒が全体に密集して確認できる 1
粗大な粒が全体に確認できる 0
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
〔油脂組成物の調製2〕
以下の油脂組成物K〜Nが調製された。油脂組成物の脂肪酸およびトリアシルグリセロール(TAG)の構成が表3の例11〜14に示される。油脂組成物K〜Nは、本発明の第2の態様に相当する油脂組成物である。
(油脂組成物K)
5質量部のMCT1、55質量部の極度硬化パーム核油、25質量部の極度硬化菜種油および15質量部の菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Kとされた。
(油脂組成物L)
10質量部のMCT1、55質量部の極度硬化パーム核油、25質量部の極度硬化菜種油および10質量部の菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Lとされた。
(油脂組成物M)
15質量部のMCT1、55質量部の極度硬化パーム核油、25質量部の極度硬化菜種油および5質量部の菜種油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Mとされた。
(油脂組成物N)
15質量部のMCT1、60質量部のパーム核油および25質量部の極度硬化パーム油の混合油脂が、触媒としてナトリウムメトキシドを使用することにより、エステル交換された。得られたエステル交換油脂は、脱色および脱臭された。当該エステル交換油脂が油脂組成物Nとされた。

なお、MCT1は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がカプリル酸(炭素数8)とカプリン酸(炭素数10)であり、その質量比が30:70であるMCT(日清オイリオグループ株式会社製)が使用された。
【0056】
【表3】
【0057】
〔チョコレートの製造および評価〕
表4〜5の配合にしたがって、常法(混合、微粒化、精練、テンパリング、型への充填および冷却)により、例15〜21のチョコレートが製造された。チョコレートに対して、20℃で12時間保持後32℃で12時間保持のサイクルが、12サイクル繰り替えされた。0、4、5、6、7、8、11および12サイクル後に、チョコレートの状態(ブルーム耐性)が観察された。観察結果は、以下の基準に従って評点された。評点は表4〜5に示される。

評点
艶やかであり、ブルームの発生はない 3
艶は乏しいが、ブルームの発生はない 2
わずかにブルームの発生が認められる 1
ブルームの発生が認められる 0
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【要約】
本発明の課題は、油性食品に含まれる油脂に由来するブルームおよびグレインの発生を効果的に抑制する、ブルームおよびグレインの抑制剤を提供することである。
本発明は、以下の条件(a)〜(c)を満たす、油脂組成物である。
(a)C24〜30の含有量が0.5〜12質量%である。
(b)HMM、HLMおよびHLLの含有量の合計が17〜50質量%である。
(c)HHMおよびHHLの含有量の合計が17〜40質量%である。